説明

可視光及び遠赤外光用撮像装置、撮像装置付車両撮像装置及び画像形成方法

【課題】簡素な構成でありながら、被写体の輝度に関わらず被写体を撮影することが出来る撮像装置、撮像装置付車両及び画像形成方法を提供する。
【解決手段】レンズ11を用いることで、被写体から反射した可視光と遠赤外光の双方を透過させることができるので、同じ位置に撮像素子12Aと撮像素子12Bとを設置することが出来、画像処理にて重ね合わせる際に、画角の違いなどを考慮する必要がなく、簡易的に処理が行え、装置全体も小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体情報を取得して被写体画像を形成する撮像装置、撮像装置を取り付けた撮像装置付車両及び画像形成方法に関し、特に夜間などにおいても適切な被写体画像を形成できる撮像装置、撮像装置付車両及び画像形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車事故件数、死傷者数ともに減少傾向にあるが、依然高い水準にある。また、今後高齢者ドライバーが増加することが見込まれるため、加齢による身体機能低下を補い、安全運転を支援するための技術がより一層求められている。特に最近では、自動車の安全走行を確保するために、進行方向前方にある人、車などの障害物を検出、認識することで、ドライバーの集中力低下、ヒューマンエラーによる事故を未然に防ぐプリクラッシュセーフティ技術が開発され、一部市販されている。
【0003】
ところで、前方の障害物を認識するための手段として、電波やレーザーを利用したレーダー装置、可視光や赤外光を利用したカメラ装置などが一般的に利用されているが、各方式とも一長一短あり、信頼性を上げるためには別の方式を組み合わせて利用することが望ましいといえる。例えば、可視光カメラと遠赤外光カメラの組合せを考えた場合、昼間であれば被写体光量が十分なので、可視光カメラを利用することで、障害物の認識が可能であるのに対し、夜間においてヘッドライトが届かない遠方の被写体は、可視光カメラでは撮影が難しい。そこで、かかる場合には、遠赤外光カメラを組み合わせて利用することで、肉眼では見えなくても、ヘッドライトの照射範囲外にいる人物などを早期に認識することができる。
【0004】
そこで、特許文献1に示すように、可視光カメラと遠赤外光カメラで撮影した画像、あるいは画像から得られた障害物の情報を運転者に知らしめて、視認性を高めるべく、これらの画像情報を一つにして表示することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−19259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、例えば可視光カメラと遠赤外光カメラでは、検出する光の波長域が異なるため可視光カメラと遠赤外光カメラを共通とすることはできていなかった。つまり、特許文献1のカメラは、実際には成立しないものである。これに対し、可視光カメラと遠赤外光カメラとを別々に設置して、得られた画像を合成することも考えられるが、画像処理に手間がかかる。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、簡素な構成でありながら、被写体の輝度に関わらず被写体を撮影することが出来る撮像装置及び画像取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の撮像装置は、
電磁波が入射する光学素子と、
前記光学素子を透過した電磁波の内、可視光域に対応する波長域である第1電磁波に基づく可視光画像成分の電気信号と、遠赤外域に対応する波長域である第2電磁波に基づく遠赤外画像成分の電気信号とに変換する撮像素子と、
前記可視光画像成分の電気信号と前記遠赤外画像成分の電気信号とに基づいて可視画像及び遠赤外画像を生成する画像処理手段とを有する撮像装置であって、
前記光学素子は、メチルペンテンを80重量%以上配合した素材を用いて形成されている事を特徴とする。
【0009】
本発明によれば、電磁波が入射する光学素子に、日中撮影に適した可視光と夜間撮影に適した遠赤外光を共に良好に透過させる素材を用いて形成される構成であるため、後段の撮像素子や当該撮像素子を含む後段の画像処理部での処理により同じ被写体について異なる波長成分の画像を容易に形成することができ、これにより装置全体を小型化しながら、夜間撮影であっても良好なカラー画像を得る事が可能となる。
【0010】
尚、可視光の波長域とは、例えば波長400nm〜700nmの範囲をいう。又、遠赤外光の波長域とは、少なくとも可視光の波長域より長波長の範囲であって、例えば波長8μm程度以上の遠赤外光、テラヘルツ波、ミリ波、マイクロ波などをいい、近赤外光はこの「可視光」と「遠赤外光」との間の波長の範囲をいう。
【0011】
ここで、4−メチルペンテン重合体とは、以下の化学式(化1)で表されるポリマー樹脂をいう。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明の一態様によれば、前記光学素子は、前記撮像素子に入射するように前記第1電磁波と前記第2電磁波とを透過する撮影レンズである事を特徴とする。これにより、撮像素子のカバー部材と兼用できる。
【0014】
本発明の一態様によれば、前記撮像素子は、入射した前記第1電磁波と前記第2電磁波とを、前記可視光画像成分の電気信号と前記遠赤外画像成分の電気信号とにそれぞれ変換する単一の撮像素子である事を特徴とする。これにより撮像装置が小型化・簡素化される。
【0015】
本発明の一態様によれば、前記撮像素子は、入射した前記第1電磁波を前記可視光画像成分の電気信号に変換する第1撮像素子と、入射した前記第2電磁波を前記遠赤外画像成分の電気信号に変換する第2撮像素子とを有する事を特徴とする。可視光画像と遠赤外光画像に特化した撮像素子を用いることで、コストを抑えながらも高画質な画像を形成できる。
【0016】
本発明の一態様によれば、前記光学素子を透過した前記第1電磁波を反射させる一方、前記第2電磁波を透過する分離光学素子を備え、前記分離光学素子で反射した前記第1電磁波を前記第1撮像素子に入射させる一方、前記分離光学素子で透過した第2電磁波を前記第2撮像素子に入射させる構成であって前記分離光学素子は、メチルペンテンを80重量%以上配合した素材を用いて形成されている事を特徴とする。これにより、可視光と遠赤外光とを切り分けることで、迷光等が発生しにくくなる。
【0017】
本発明の一態様によれば、前記光学素子は、メチルペンテンを80重量%以上配合し、且つ飽和吸水率0.3%以下の素材を用いて形成されている事を特徴とする。これにより、車両に搭載した場合に外部から飛散する雨水等に対処できる。
【0018】
本発明の一態様によれば、前記撮像素子は、複数の画素がマトリックス状に配列されたイメージセンサ部を備え、前記画素単位で、入射する電磁波から可視光波長領域に対応する複数種類の色要素の内1種類の色要素に対応する波長領域の光と、遠赤外領域に対応する波長領域の光とを分離して各前記色要素に対応した光と遠赤外波長領域の光とを各画素に入射させるカラーフィルタ部を少なくとも含む事を特徴とする。これによりカラー画像を形成できる。
【0019】
本発明の一態様によれば、前記撮像素子は、複数の画素がマトリックス状に配列された前記第1電磁波を受光する第1イメージセンサ部と、前記画素単位で、入射する電磁波から可視光波長領域に対応する複数種類の色要素の内1種類の色要素に対応する波長領域の光を分離して各前記色要素に対応した光を透過させる第1カラーフィルタ部とを有する第1撮像素子と、前記第1撮像素子から透過する前記第2電磁波が入射する位置に配置され、複数の画素がマトリックス状に配列された前記第2電磁波を受光する第2イメージセンサ部と、前記画素単位で、前記第1撮像素子を透過した前記第2電磁波から遠赤外領域に対応する波長領域の光を各画素に入射させる第2フィルタ部とを有する第2撮像素子と、を有する事を特徴とする。
【0020】
本発明の一態様によれば、前記撮像素子のカラーフィルタ部は、前記画素単位で、入射する電磁波から近赤外領域に対応する波長領域の光を各画素に入射させる部位を更に含む事を特徴とする。
【0021】
本発明の一態様によれば、前記画像処理手段は、前記撮像素子で得られる前記可視光画像成分の電気信号として可視画像に対応する色差信号と第1輝度信号を算出する一方、前記遠赤外画像成分の電気信号として第2輝度信号を算出し、前記色差信号と前記第1輝度信号、前記第2輝度信号とを各画素位置に対応させて合成する事を特徴とする。
【0022】
本発明の撮像装置は、
可視光域の第1電磁波を透過する第1撮影レンズと、前記第1撮影レンズとは異なる光軸上に配置され、遠赤外領域の第2電磁波を透過する第2撮影レンズと、
前記第1及び第2撮影レンズに対して物体側に配置されたカバー部材と、
前記第1撮影レンズを透過した前記第1電磁波に基づいて可視光画像成分の電気信号に変換する第1撮像素子と、
前記第2撮影レンズを透過した前記第2電磁波に基づいて遠赤外画像成分の電気信号に変換する前記第1撮像素子とは異なる第2撮像素子と、
前記可視光画像成分の電気信号と前記遠赤外画像成分の電気信号とに基づいて可視画像及び遠赤外画像を生成する画像処理手段とを有する撮像装置であって、
前記カバー部材は、メチルペンテンを80重量%以上配合した素材を少なくとも含む事を特徴とする。
【0023】
本発明によれば、電磁波が入射するカバー部材に、日中撮影に適した可視光と夜間撮影に適した遠赤外光を共に良好に透過させる素材を用いて形成される構成であるため、後段の第1,第2撮像素子や当該撮像素子を含む後段の画像処理部での処理により同じ被写体について異なる波長成分の画像を容易に形成することができ、これにより装置全体を小型化しながら、夜間撮影であっても良好なカラー画像を得る事が可能となる。
【0024】
本発明の一態様によれば、前記カバー部材は、メチルペンテンを80重量%以上配合し、且つ飽和吸水率0.3%以下の素材を用いて形成されている事を特徴とする。
【0025】
本発明の一態様によれば、前記画像処理手段は、前記撮像素子で得られる前記可視光画像成分の電気信号として可視画像に対応する色差信号と第1輝度信号を算出する一方、前記遠赤外画像成分の電気信号として第2輝度信号を算出し、前記色差信号と前記第1輝度信号、前記第2輝度信号とを各画素位置に対応させて合成する事を特徴とする。
【0026】
以上の撮像装置を車両に取り付けることにより撮像装置付車両が構成される。
【0027】
本発明の画像取得方法は、
メチルペンテンを80重量%以上配合した素材を用いて形成した光学素子に電磁波を入射させ、当該光学素子を透過した電磁波を撮像素子で可視光域に対応する波長域である第1電磁波に基づく可視光画像成分の電気信号と、遠赤外域に対応する波長域である第2電磁波に基づく遠赤外画像成分の電気信号とに変換し、
変換された前記可視光画像成分の電気信号と前記遠赤外画像成分の電気信号とに基づいて可視画像及び遠赤外画像を生成することを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、電磁波が入射する光学素子が、日中撮影に適した可視光と夜間撮影に適した遠赤外光を共に良好に透過させる素材を用いて形成されているので、撮像素子からの信号に基づく後段の画像処理により同じ被写体について異なる波長成分の画像を容易に形成することができ、これにより撮像装置全体を小型化しながら、夜間撮影であっても良好なカラー画像を得る事が可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電磁波が入射する光学部材に、日中撮影に適した可視光と夜間撮影に適した遠赤外光を共に良好に透過させる素材を用いて形成される構成であるため、後段の撮像素子や当該撮像素子を含む後段の画像処理部での処理により同じ被写体について異なる波長成分の画像を容易に形成することができ、これにより装置全体を小型化しながら、夜間撮影であっても良好なカラー画像を得る事が可能な撮像装置、撮像装置付車両及び画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施の形態にかかる撮像装置を搭載した車両の概略図である。
【図2】第1の実施の形態にかかる撮像装置10を示すブロック図である。
【図3】フィルタの一例を示す図である。
【図4】遠赤外光画像と、可視光画像とをそれぞれ示す図である。
【図5】可視光画像に遠赤外光画像を重ね合わせた合成画像の例を示す図である。
【図6】本実施の形態の変形例による撮像素子のフィルタを示す図である。
【図7】別な変形例にかかる撮像素子12’の概略図である。
【図8】第2の実施の形態にかかる撮像装置10’を示すブロック図である。
【図9】本実施の形態の撮像装置を用いた画像形成方法を示すフローチャート図である。
【図10】本実施の形態の変形例にかかる概略図である。
【図11】本実施形態に係る光学素材の分光透過率を示すグラフ。
【図12】比較例である素材の分光透過率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態にかかる撮像装置について説明する。図1は、本実施の形態にかかる撮像装置を搭載した車両の概略図である。図1において、車両VHのフロントグリル付近に撮像装置10が取り付けられており、制御部CONTに画像信号を出力して、モニタMTに表示するようにしている。
【0032】
図2は、第1の実施の形態にかかる撮像装置10を示すブロック図である。撮像装置10は、可視光及び遠赤外光を透過する光学素子としての撮影レンズ11と、撮影レンズ11を透過した被写体光を受光し、電気信号に変換する撮像素子12と、撮像素子12からの信号を受光する画像処理部13と、撮像装置外部から制御信号を入力し、撮像素子12及び画像処理部13を制御する制御部14とを有している。
【0033】
撮影レンズ11は、4−メチルペンテン重合体が80重量%以上配合された素材、具体的には85重量%配合され、飽和吸水率が0.3%以下の素材を用いて形成されている。かかる素材は、4−メチルペンテン重合体の数平均分子量(化式1のn)を5万以上に増加させて、水分を入り込みにくくすることで撥水性を維持することで製造できる。またこの素材を撮像レンズ11に対して被写体側に配置され、る、光学素子としてのカバー素子にも同様に用いることで、被写体から反射した可視光と遠赤外光の双方を撮影レンズに対して良好に透過させることができる。
【0034】
なお可視光カメラと遠赤外光カメラを、それぞれ異なる光軸上に配置された別の撮影レンズを持つような構成を、上記のようなカバー素子を各撮影レンズに対して被写体側に配置した筐体に組み込んで撮像装置として構成する場合には、カバー素子のみを上記素材で構成すれば良い事は言うまでもない。
【0035】
このような素材を用いる事により可視光及び遠赤外光の双方を撮像素子12に受光させることが出来、可視光画像と遠赤外光画像とを画像処理にて重ね合わせる際に、画角の違いなどを考慮する必要がなく、短時間で処理を行える。又、撮影レンズ11の飽和吸水率が0.3%以下であるから、雨水が飛散する車両の前方などに設置しても、長期間にわたって安定した透過率を維持できる。
【0036】
可視光撮影用の撮像素子12は、複数の画素がマトリックス状に配列されたフォトダイオード及びCMOS素子で構成されるイメージセンサ部(図示せず)と、このイメージセンサ部の各画素に、撮影レンズを透過した入射光を所定の1種類の色要素に対応する波長光と、近赤外光と、遠赤外波長とを分離し、分離した光を入射させるフィルター部を有し、イメージセンサ部で出力された画像信号データに基づいて画像データを生成、出力するものである。なおここでのフィルター部の構成としては、図3に示すようにYeフィルタ,Rフィルタ,Wフィルタにて光の三原色(赤色、緑色、青色)R・G・Bの補色フィルタ及び遠赤外光に対応するFIrのいずれかの複数帯域に感度を持つ,FIrフィルタを同一層に配置した一つの単位フィルタ群で構成されたフィルター部で構成されている。
【0037】
より具体的には、図3の例では、単位フィルタ群において、第1行第1列にRフィルタが配列され、第2行第1列にWフィルタが配列され、第1行第2列にYeフィルタが配列され、第2行第2列にFIrフィルタが配列されている。これらのフィルタにそれぞれ対応した画素を、それぞれR画素、W画素,Ye画素及びFIr画素と呼ぶ。つまり、撮像素子は、複数の画素がマトリックス状に配列されたイメージセンサ部を備え、画素単位で、入射する電磁波から可視光波長領域に対応する複数種類の色要素の内1種類の色要素に対応する波長領域の光と、遠赤外領域に対応する波長領域の光とを分離して各前記色要素に対応した光と遠赤外波長領域の光とを各画素に入射させるカラーフィルタ部を少なくとも含むものである。但し、以上は一例であり、他のパターンでR画素、FIr画素、W画素、及びYe画素を千鳥状に配列してもよい。
【0038】
Yeフィルタは、可視波長領域の青色領域を除く前記有感度波長帯域の光を透過する特性を有する。よって、Yeフィルタは主にイエローの光と赤外光とを透過する。Rフィルタは、可視波長領域の青色領域及び緑色領域を除く有感度波長帯域の光を透過する特性を有する。よって、Rフィルタは主に赤の光と赤外光とを透過する。FIrフィルタは、可視波長領域を超えた遠赤外波長帯域の光を透過する特性を有する。Wはフィルタを備えていない場合を示し、画素の有感度波長帯域の光が全て透過される。
【0039】
Ye画素はYeフィルタを備えているため、Yeの可視カラー画像成分である画像成分Ye(原画像成分)および赤外画像成分を撮像する。R画素はRフィルタを備えているため、Rの可視カラー画像成分である画像成分R(原画像成分)および赤外画像成分を撮像する。FIr画素はFIrフィルタを備えているため、遠赤外画像成分である画像成分FIr(原画像成分)を撮像する。W画素はフィルタを備えていないため、可視輝度画像成分と画像成分FIrとを含む輝度画像成分である画像成分W(原画像成分)を撮像する。このように、4つのフィルタは分光透過特性が互いに異なる。
【0040】
本実施の形態によれば、単一の撮像素子12のフィルター部の各色要素を透過してYe画素、R画素、W画素、FIr画素により、可視光画像成分Ye、R、Wの信号と、遠赤外光成分FIrの電気信号が得られる。次に画像処理部13が、画像成分Ye,R,FIr,Wに色補間処理を施す。更に、dR=R−FIr、dG=Ye−R、dB=W−Yeの演算を行い、色信号dR、dG、dBを算出することができるから、これにより色空間Y、Cr、Cb(又はR、G、B)を求めて出力し、カラー画像を形成できる。一方、画像成分FIrにより、モノクロの遠赤外画像を形成できる。
【0041】
図4(a)は、遠赤外光撮影用の撮像素子2bで夕暮れ時を撮影した画像であり、人物としての被写体HM1,HM2は発熱するので白っぽく写るが、道路や壁面、近年増加している発熱量が少ないLED信号機などは明瞭に写らない。一方、図4(b)は、可視光撮影用の撮像素子2bで同じ被写体を同じタイミングで撮影した画像である。夕暮れ時であるので全体的に被写体輝度が低く、自発光の信号機SGのランプなどは明瞭に写るが、人物HM1,HM2などは明瞭に写らない。
【0042】
図5は、可視光画像に遠赤外光画像を重ね合わせた場合の合成画像の例を示す図である。図6では、薄暗い夕暮れ時の風景に、白っぽい人物HM1,HM2が浮き上がるように表示されるので、運転者は注意すべき被写体を迅速且つ明瞭に識別できる。
【0043】
図6は、本実施の形態の変形例による撮像素子のフィルタを示す図である。図6の例では、単位フィルタ群において、第1行第1列にRフィルタが配列され、第2行第1列にWフィルタが配列され、第1行第2列にYeフィルタが配列され、第2行第2列にIrフィルタ又はFIrフィルタが配列されている。Irフィルタは、近赤外帯域を有感度帯域とするものであり、FIrフィルタと交互に配列されている。これらフィルター部のそれぞれ対応した画素を、それぞれR画素、W画素,Ye画素及びIr画素又はFIr画素と呼ぶ。
【0044】
本変形例では、dR=R−Ir、dG=Ye−R、dB=W−Yeの演算を行い、色信号dR、dG、dBを算出することができる。それ以外は、上述した実施の形態と同様である。
【0045】
図7(a)は、別な変形例にかかる撮像素子12’の概略図である。本変形例では、撮像素子12’が、第1のの撮像素子12a’と第2の撮像素子12b’を光軸方向に重ねて配置している。より具体的には、1つ目のイメージセンサ部のセンサ面12a’は、可視光を受光するセンサ面であり、その前面(物体側面)には図7(b)に示すように、R・G・B・Irいずれかの複数帯域に感度を持つ,フィルタを採用している。一方、2つ目のイメージセンサ部のセンサ面12b’は、第1の撮像素子12a’を透過した遠赤外光を受光するセンサ面であり、図7(c)に示すように、その前面には遠赤外帯域に感度を持つFIrフィルタを採用している。上述したように、センサ面12a’からカラー画像用の信号を取得でき、センサ面12b’から遠赤外光画像用の信号を取得できる。
【0046】
このように複数の撮像素子を重ねて配置する構成は、図3や図6のように撮像素子構成がフィルター部で分離した可視光の各色要素の光及び遠赤外光が共通のイメージセンサ部で受光するように構成であるため各画素に対応する受光部で精度良く光を受光するよう製造するのにやや困難を伴うのに比べて、可視光と遠赤外光のセンサ面を別々に構成するため、前述したような製造上の負荷を軽減し、精度良い撮像素子を構成できる、というメリットがある。
【0047】
図8は、第2の実施の形態にかかる撮像装置10’を示すブロック図である。撮像装置10’は、可視光を透過するレンズ11と、レンズ11を透過した可視光を受光する第1カラーフィルタ部及びセンサ面(第1イメージセンサ部)を有する第1撮像素子12Aと、撮像素子12Aと併設され(双方のセンサ面がレンズ11の結像位置にあり)、レンズ12を透過した遠赤外光を受光する第2フィルタ及びセンサ面(第2イメージセンサ部)を有する第2撮像素子12Bと、撮像素子12A、12Bからの信号を受光する画像処理部12と、外部から制御信号を入力し、撮像素子12及び画像処理部13を制御する制御部14とを有している。尚、一点鎖線で示すように、レンズ11の物体側に、4−メチルペンテン重合体が85重量%配合され、飽和吸水率が0.3%以下の素材を用いて形成されたカバー部材CVを設けることもできる。この場合、カバー部材CVと第1撮像素子12Aとの間には、可視光を透過する第1撮影レンズを設け、カバー部材CVと第2撮像素子12Bとの間には、遠赤外光を透過する第2撮影レンズを設けることが望ましい。
【0048】
第1撮像素子12Aの第1カラーフィルタ部は、図7(b)に示すものと同様に、その単位フィルタ群において、第1行第1列にRフィルタが配列され、第2行第1列にWフィルタが配列され、第1行第2列にYeフィルタが配列され、第2行第2列にIrフィルタが配列されている。第2撮像素子12Bの第2フィルタ部は、図7(c)に示すものと同様にFIrフィルタのみである。
【0049】
レンズ11は、4−メチルペンテン重合体が85重量%配合され、飽和吸水率が0.3%以下の素材を用いて形成されている。
【0050】
次に、本実施の形態の撮像装置を用いた画像取得方法を、図9を参照して説明する。まず、レンズ11を通過した被写体光を、補色フィルタを用いた撮像素子12Aのセンサ面に結像させて、1フレームの原画像データを撮像させる。これにより、画像成分Ye、R、Ir、Wが得られる(ステップS1)。
【0051】
ここで、撮像素子12Aは、Ye画素により画像成分Yeを撮像し、R画素により画像成分Rを撮像し、Ir画素により画像成分Irを撮像し、W画素により画像成分Wを撮像し、色補間処理を行う。
【0052】
次に、画像成分Ye,R,Ir,Wに色補間処理を施す。更に、dR=R−Ir、dG=Ye−R、dB=W−Yeの演算を行い色信号dR、dG、dBを算出する(色分離処理:ステップS2)。
【0053】
次に、レンズ11の可視光吸収率による低下分を補うべく、補間ゲイン処理を行う(ステップS3)。更に、Y=0.3dR+0.59dG+0.11dB、Cb=dB−Y、Cr=dR−Yの演算を行い、輝度信号(第1輝度信号)Y、色差信号Cr,Cbを算出し、可視光画像成分の電気信号を得る(ステップS4)。このとき、色差信号Cr、Cbにスムージング処理を行っても良い。ここで,スムージング処理としては、例えば、5×5等の比較的小サイズのローパスフィルタを用いて繰り返し処理し、色差信号Cb、Crを多重解像度化するフィルタ処理であるカスケードフィルタ処理を採用してもよい。また、比較的サイズの大きな所定サイズのローパスフィルタを用いたフィルタ処理を採用してもよい。
【0054】
また、発光する被写体に対してはぼけることなく、エッジ以外の領域を平滑化するエッジ保存フィルタ(画素間の信号レベル差がある基準値より小さい場合いに平滑化し、基準値より大きい部分は平滑化しないフィルタ)処理を採用してもよい。なお、発光していることを検出するのは、赤外成分と可視光成分とを比較することにより推測できる。
【0055】
このように、色差信号Cb,Crにスムージング処理を行うことで、色差信号Cb、Crに含まれるノイズ成分がぼかされ、色差信号Cb、CrのS/N比を向上させることができる。
【0056】
一方、撮像素子12Aと同期して、レンズ11を通過した被写体光を、撮像素子12Bのセンサ面に結像させて、1フレームの原画像データを撮像させる(ステップS5)。これにより、遠赤外成分のみを含む画像成分FIrの電気信号が得られる。
【0057】
その後、以下の式に基づいてゲイン設定値を求め、ゲイン設定値を上記画像成分FIrに掛け合わせて遠赤外光の輝度信号(第2輝度信号)Y’を算出する(ステップS6)。本発明者らの検討結果によれば、波長帯域が8〜14μmの範囲で、2〜10%の遠赤外光の減衰が確認されたので、これを補うべくゲイン設定値を、例えば1.1とする。尚、昼間時はゲイン設定値を0とするのが好ましい。
ゲイン設定値=1/(撮像素子が所定の感度を持つ波長域における透過率T×撮像素子の分光感度)S
【0058】
次に、撮像素子12Aの画像情報から求めた可視光の輝度信号Yと、撮像素子12Bの画像情報から求めた遠赤外光の輝度信号Y’とを足し合わせて、合成輝度信号Yc(=Y+Y’)を得る(ステップS7)。
【0059】
次に、Crm=Crs×Yc、Cbm=Cbs×Ycとして、色差信号Crm、Cbmを算出し、更にステップS2の逆変換を実行することで、輝度信号Yc、色差信号Crm、Cbmから色信号dR´、dG´、dB´を算出できるので、これを可視画像として外部の制御装置CONTに出力する。これと並行して、遠赤外光の輝度信号Y’を遠赤外画像として外部の制御装置CONTに出力する(ステップS8)。制御装置CONTは、2つの画像を重ね合わせて、1つの画像情報を形成する。このとき、同じ画素座標の信号値を単純に平均化すればよい。得られた画像情報は、モニタMTに出力されて画像が表示される。以上で、フローが終了する。尚、以上の画像処理は上述の実施の形態にも適用できる。
【0060】
本実施の形態によれば、可視光用の撮像素子12Aと、遠赤外光用の撮像素子12Bとを略同じ位置に配置することで、各々が撮影した被写体の位置が画面上で重なるので、得られた画像情報を単純に重ね合わせることができる。これにより、夜間撮影でありながら遠赤外情報にカラー情報を盛り込んだ画像を得ることもできる。
【0061】
図10は、本実施の形態の変形例にかかる概略図である。本変形例では、上述と同様のレンズ11と、撮像素子12A及び撮像素子12Bの間に、分離光学素子であるダイクロイックミラー16を配置している。ダイクロイックミラー16は、4−メチルペンテン重合体が85重量%配合され、飽和吸水率が0.3%以下の素材を用いて形成されており、可視光については反射し、遠赤外光については透過する選択性反射膜16aを設けている。よって、レンズ11を透過した光のうち、可視光については、ダイクロイックミラー16の選択性反射膜16aで反射されて、撮像素子12Aに向かい、遠赤外光については、ダイクロイックミラー16の選択性反射膜16aを透過して、撮像素子12Bに向かうようになっている。それ以外の構成は、上述した実施の形態と同様である。尚、ダイクロイックミラー16は、上述の素材を用いる代わりに、遠赤外光を透過する素材を用いても良い。
【0062】
尚、以上の実施の形態において、フィルタ構成は例示であって任意であり、例えば可視光撮影用にRGBのフィルタを用いることもできる。
【0063】
図11は、4−メチルペンテン重合体が85重量%配合され、飽和吸水率が0.3%以下の素材の実施例にかかる、分光透過率を示すグラフである。図12は、比較例として従来の素材の一例にかかる、分光透過率を示すグラフである。なお、比較例はポリカーボネートであり、赤外透過の測定は、日本分光社製 FTIR フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR-6200を用いて測定した。
【0064】
図11に示すように、本実施例は、赤外領域(700nm〜)において、800〜2500nm、好ましくは900-1400nmにおいて、ほぼ90%以上の透過率を実現している事がわかる。本材料が可視光域で90%以上の高い透過率を有する事は既に公知であるから、本発明のような可視光域から遠赤外領域の広い波長域に亘って高い透過率を持つ事が望まれる撮像装置に本素材を用いる事により前述したような小型で良好な画像を持つ撮像装置を提供する事ができる。
なおこれに対して比較例として挙げている図12に示すように、ポリカーボネートでは、800nm以上で透過率が減少していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、例えば車載カメラやロボット搭載カメラ等に特に有効であるが、用途はそれに限られない。
【符号の説明】
【0066】
10、10’ 撮像装置
11 レンズ
12、12’ 撮像素子
12A 撮像素子
12B 撮像素子
12a’ センサ面
12b’ センサ面
13 画像処理部
14 制御部
16 ダイクロイックミラー
16a 選択性反射膜
MT モニタ
CONT 制御部
VH 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波が入射する光学素子と、
前記光学素子を透過した電磁波の内、可視光域に対応する波長域である第1電磁波に基づく可視光画像成分の電気信号と、遠赤外域に対応する波長域である第2電磁波に基づく遠赤外画像成分の電気信号とに変換する撮像素子と、
前記可視光画像成分の電気信号と前記遠赤外画像成分の電気信号とに基づいて可視画像及び遠赤外画像を生成する画像処理手段とを有する撮像装置であって、
前記光学素子は、メチルペンテンを80重量%以上配合した素材を用いて形成されている事を特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記光学素子は、前記撮像素子に入射するように前記第1電磁波と前記第2電磁波とを透過する撮影レンズである事を特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
前記撮像素子は、入射した前記第1電磁波と前記第2電磁波とを、前記可視光画像成分の電気信号と前記遠赤外画像成分の電気信号とにそれぞれ変換する単一の撮像素子である事を特徴とする請求項1又は2記載の撮像装置。
【請求項4】
前記撮像素子は、入射した前記第1電磁波を前記可視光画像成分の電気信号に変換する第1撮像素子と、入射した前記第2電磁波を前記遠赤外画像成分の電気信号に変換する第2撮像素子とを有する事を特徴とする請求項1又は2記載の撮像装置。
【請求項5】
前記光学素子を透過した前記第1電磁波を反射させる一方、前記第2電磁波を透過する分離光学素子を備え、前記分離光学素子で反射した前記第1電磁波を前記第1撮像素子に入射させる一方、前記分離光学素子で透過した第2電磁波を前記第2撮像素子に入射させる構成であって
前記分離光学素子は、メチルペンテンを80重量%以上配合した素材を用いて形成されている事を特徴とする請求項4記載の撮像装置。
【請求項6】
前記光学素子は、メチルペンテンを80重量%以上配合し、且つ飽和吸水率0.3%以下の素材を用いて形成されている事を特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の撮像装置。
【請求項7】
前記撮像素子は、複数の画素がマトリックス状に配列されたイメージセンサ部を備え、前記画素単位で、入射する電磁波から可視光波長領域に対応する複数種類の色要素の内1種類の色要素に対応する波長領域の光と、遠赤外領域に対応する波長領域の光とを分離して各前記色要素に対応した光と遠赤外波長領域の光とを各画素に入射させるカラーフィルタ部を少なくとも含む事を特徴とする請求項3記載の撮像装置。
【請求項8】
前記撮像素子は、複数の画素がマトリックス状に配列された前記第1電磁波を受光する第1イメージセンサ部と、前記画素単位で、入射する電磁波から可視光波長領域に対応する複数種類の色要素の内1種類の色要素に対応する波長領域の光を分離して各前記色要素に対応した光を透過させる第1カラーフィルタ部とを有する第1撮像素子と、
前記第1撮像素子から透過する前記第2電磁波が入射する位置に配置され、複数の画素がマトリックス状に配列された前記第2電磁波を受光する第2イメージセンサ部と、前記画素単位で、前記第1撮像素子を透過した前記第2電磁波から遠赤外領域に対応する波長領域の光を各画素に入射させる第2フィルタ部とを有する第2撮像素子と、
を有する事を特徴とする請求項3記載の撮像装置。
【請求項9】
前記撮像素子のカラーフィルタ部は、前記画素単位で、入射する電磁波から近赤外領域に対応する波長領域の光を各画素に入射させる部位を更に含む事を特徴とする請求項7記載の撮像装置。
【請求項10】
前記画像処理手段は、前記撮像素子で得られる前記可視光画像成分の電気信号として可視画像に対応する色差信号と第1輝度信号を算出する一方、前記遠赤外画像成分の電気信号として第2輝度信号を算出し、前記色差信号と前記第1輝度信号、前記第2輝度信号とを各画素位置に対応させて合成する事を特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の撮像装置。
【請求項11】
可視光域の第1電磁波を透過する第1撮影レンズと、前記第1撮影レンズとは異なる光軸上に配置され、遠赤外領域の第2電磁波を透過する第2撮影レンズと、
前記第1及び第2撮影レンズに対して物体側に配置されたカバー部材と、
前記第1撮影レンズを透過した前記第1電磁波に基づいて可視光画像成分の電気信号に変換する第1撮像素子と、
前記第2撮影レンズを透過した前記第2電磁波に基づいて遠赤外画像成分の電気信号に変換する前記第1撮像素子とは異なる第2撮像素子と、
前記可視光画像成分の電気信号と前記遠赤外画像成分の電気信号とに基づいて可視画像及び遠赤外画像を生成する画像処理手段とを有する撮像装置であって、
前記カバー部材は、メチルペンテンを80重量%以上配合した素材を少なくとも含む事を特徴とする撮像装置。
【請求項12】
前記カバー部材は、メチルペンテンを80重量%以上配合し、且つ飽和吸水率0.3%以下の素材を用いて形成されている事を特徴とする請求項11記載の撮像装置。
【請求項13】
前記画像処理手段は、前記撮像素子で得られる前記可視光画像成分の電気信号として可視画像に対応する色差信号と第1輝度信号を算出する一方、前記遠赤外画像成分の電気信号として第2輝度信号を算出し、前記色差信号と前記第1輝度信号、前記第2輝度信号とを各画素位置に対応させて合成する事を特徴とする請求項11又は12に記載の撮像装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の撮像装置を車両に取り付けたことを特徴とする撮像装置付車両。
【請求項15】
メチルペンテンを80重量%以上配合した素材を用いて形成した光学素子に電磁波を入射させ、当該光学素子を透過した電磁波を撮像素子で可視光域に対応する波長域である第1電磁波に基づく可視光画像成分の電気信号と、遠赤外域に対応する波長域である第2電磁波に基づく遠赤外画像成分の電気信号とに変換し、
変換された前記可視光画像成分の電気信号と前記遠赤外画像成分の電気信号とに基づいて可視画像及び遠赤外画像を生成することを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−3482(P2013−3482A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136955(P2011−136955)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】