説明

可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体およびその製造方法と装置

【課題】 可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体を簡便かつ低コストに製造すること。
【解決手段】加熱手段としてマイクロ波加熱を利用する製造方法であって、反応炉中において無水雰囲気中で主原料であるチタニウム化合物と吸着性還元補材である活性炭の所定量を均一に混合する混合工程、空気中で水を加えて加水分解する工程、混合物を撹拌しながら所定温度まで昇温させ、有酸素雰囲気下で加熱分解して二酸化チタンを生成させる分解工程、および炭素燃焼工程、を順次に経て残存炭素含量が0.5%以下である粉末状二酸化チタンを生成させることを特徴とする可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。撹拌機とマイクロ波導波管を備えた反応炉、導波管を通して炉の内部に導入するマイクロ波を発生する装置、反応炉を外部から加熱する装置、炉内雰囲気を置換できる装置、および生成物を炉内から自動的に排出できる装置、を具備する可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答型二酸化チタン光触媒の製造方法に関するものであって、具体的には、高表面積活性炭を吸着性還元補材として用い、チタニウム化合物原料と均一に混合した後、マイクロ波加熱または外部加熱との併用加熱を利用して高効率、かつ、均一な加熱により熱分解・炭素燃焼して得られる可視光活性を有する二酸化チタン光触媒粉体、その製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒とは、光が照射されることにより、自身が変化しないが化学反応を促進する物質である。二酸化チタンは、半導体光触媒の一種であり、現在、光触媒活性の優位性や安全性に最も優れた光触媒として、空気浄化(脱臭、排ガス浄化)、汚れ防止、曇り止め、抗菌・防カビ、水処理など様々な分野に応用されている。しかし、従来から利用されている二酸化チタン光触媒の励起光として、400nm以下の紫外線を必要としているため、太陽光の3〜5%の光しか利用できない。また、室内では通常の白熱球や蛍光灯では効率が劣り、水銀ランプやブラックライトなどの特殊光源が必要である。
【0003】
太陽光や室内の光源には紫外線より長波長の可視光(400〜800nm)が多く含まれているため、可視光領域で使える光触媒の開発が望まれ、盛んに研究されており、可視光応答型光触媒およびその製造法が多く提案されている。例えば、特許文献1には二酸化チタンにバナジウム、クロム、マンガン等の遷移金属をドーピングする方法が、特許文献2には同様の遷移金属をイオン注入する方法が提案されている。また、特許文献3では酸化チタン表面を銀、銅、亜鉛などの金属あるいは金属酸化物で被覆する方法、特許文献4ではタングステン含有酸化チタン、特許文献5にはV,Fe,Ni,Cu,Cr,Mg,Ag,Mn,Pd,Ptから選ばれた金属をドープさせる方法が提案されている。
【0004】
遷移金属や貴金属類をドープする方法の煩雑さおよび紫外領域での性能低下を改善するために、酸素欠損型の二酸化チタン光触媒が開発されており、特許文献6にはプラズマの発生下に酸素欠損型酸化チタンを作る方法が、特許文献7、特許文献8などでは種々の酸化チタンを還元処理して酸素欠損型の二酸化チタン光触媒を製造する方法が提案されている。その他、特許文献9、特許文献10などには窒素原子をドープする方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−262496号公報
【特許文献2】特開平9−262482号公報
【特許文献3】特開平11−276905号公報
【特許文献4】特開2001−286755号公報
【特許文献5】特開2002−177785号公報
【特許文献6】特開2002−248356号公報
【特許文献7】特開2002−361097号公報
【特許文献8】特開2000−157841号公報
【特許文献9】特開平06−182205号公報
【特許文献10】再表01/010552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1〜5の製造方法では、高価な原料を用いて二酸化チタンに遷移金属をドープあるいは打ち込んだりする方法がとられており、煩雑な工程や特殊な装置も必要となる。また、ドープした重金属などの溶出が懸念される。さらに、これらの光触媒は可視光活性が増すが、従来の紫外領域での活性が低下するなどの問題点がある。
【0007】
また、特許文献6〜10の製造方法はいずれも、煩雑な工程を経、特殊な装置を必要とするものであり、大規模な製造装置や厳密な製造工程管理を必要とし、生産性およびコストの両面から、実用化が困難である。したがって、高性能の可視光応答型光触媒を簡便に製造する技術の開発が必要である。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものである。すなわち、紫外線領域および可視光領域において優れた光触媒活性を有する二酸化チタン光触媒粉体を簡便にかつ低コストに製造できる方法およびその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(8)に記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法を要旨とする。
(1)加熱手段としてマイクロ波加熱を利用する製造方法であって、反応炉中において無水雰囲気中で主原料であるチタニウム化合物と吸着性還元補材である活性炭の所定量を均一に混合する混合工程、空気中で水を加えて加水分解する工程、混合物を撹拌しながら所定温度まで昇温させ、有酸素雰囲気下で加熱分解して二酸化チタンを生成させる分解工程、および炭素燃焼工程、を順次に経て残存炭素含量が0.5%以下である粉末状二酸化チタンを生成させることを特徴とする可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
(2)前記反応炉は、マイクロ波加熱とそれ以外の加熱を併用したハイブリッド反応炉である上記(1)記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
(3)前記混合工程において、チタニウム化合物と活性炭の重量比は1:0.01〜2である上記(1)または(2)記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
(4)前記主原料であるチタニウム化合物は、一種または一種以上のチタニウムのアルコキシド化合物、硝酸塩あるいは塩化物である上記(1)、(2)または(3)記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
(5)前記吸着性補助原料である活性炭は、その比表面積が500〜4,000m2/g、平均粒径が200μm以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
(6)前記加水分解する工程において、混合物を攪拌しながら所定量の水を一回で全部に混合物に混入する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
(7)前記分解工程および炭素燃焼工程は、マイクロ波加熱またはマイクロ波併用加熱である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
(8)前記分解工程および炭素燃焼工程における加熱温度は、400〜1,000℃である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
【0010】
本発明は、以下の(9)および(10)に記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造装置を要旨とする。
(9)撹拌機とマイクロ波導波管を備えた反応炉、導波管を通して炉の内部に導入するマイクロ波を発生する装置、反応炉を外部から加熱する装置、炉内雰囲気を置換できる装置、および生成物を炉内から自動的に排出できる装置、を具備する可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造装置。
(10)反応炉内部は金属チタン材料を使用する上記(9)記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造装置。
【0011】
本発明は、以下の(11)に記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体を要旨とする。
(11)上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の方法により製造された、アナターゼ型とルチル型結晶相の両方を持ち、粉体の平均粒径は5μm以下であり、0.5%以下の残存炭素を含み、紫外線および可視光源の照射において高い光触媒活性を有する可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、マイクロ波併用加熱を利用し、吸着還元助剤として高比表面積活性炭を混合し、燃焼する高性能可視光応答型光触媒の製造方法、ならびにそれに適する工業的製造用反応炉に関するものである。本発明によれば、活性炭の燃焼によって作られた還元雰囲気中で生成した二酸化チタンは酸素欠損型である。特に、本法では前駆体のチタニウム化合物が高比表面積活性炭の表面に吸着しており、炭素の酸化燃焼時に、接触した酸化チタンから酸素を奪うことで、酸素欠損型が生成しやすいと考えられる。すなわち、炭素材料は鉄鉱石にコークスを混合加熱して鉄化合物を還元して製鉄を行うのと同様な機能を発揮するものである。本法で調製した酸化チタンは光触媒活性、特に可視光領域での活性が高い。高い比表面積を持つ活性炭と液体チタニウム化合物原料を混合する際に、チタニウム化合物が活性炭の発達した細孔の表面に吸着され、均一に活性炭の表面に分布することができ、かつ、炭素が活性なために、炭素燃焼過程における活性炭が低温で燃焼・ガス化され、還元雰囲気を作ると同時に、接触しているチタンから酸素を奪い、酸素欠損型の酸化チタンを生成する。また、鋳型のような機能を果たし、微細な二酸化チタンが生成する。マイクロ波加熱は物質の内部からの加熱であるため、マイクロ波を吸収する活性炭を迅速に加熱し、局所的に還元反応が促進することも考えられる。加熱分解過程が迅速に進行するため、生成物であるに酸化チタンの結晶成長を抑えることができ、粒子の小さな生成物が得られる。加熱時間の短縮による生産効率が高くなるほか、エネルギーが節約できる。
【0013】
また、マイクロ波加熱と電気やガスバーナーなどの外部加熱を併用することで、被加熱物を均一に加熱でき、品質むらの少ない製品が得られる。工業的製造用反応炉は攪拌装置が装備され、被加熱物をより均一に加熱する効果をもたらすほか、マイクロ波を乱反射する機能を果たして効率よくマイクロ波を照射することができる。また、反応炉の底部に排出装置、その下に水冷式冷却槽が配備され、生成物を高温状態のままに排出しながら冷却することで、製品の品質および生産効率を向上することができる。この点について、工業的に大量製造する場合において特に重要である。
【0014】
本発明による粉末状可視光応答型光触媒の製造方法およびその反応炉では、次の効果がある。
(あ)本発明では、高表面積活性炭を使用するため、原料であるチタニウム化合物が発達した活性炭細孔の表面に吸着され、均一に活性炭の表面に分布する。活性炭とチタニウム前駆体との接触面積が大きく、接触還元による酸素欠損型が生成しやすく、また、炭素材料が鋳型の機能を果たすことにより、高温での焼成にもかかわらず微細な二酸化チタン粉末が生成する。
(い)高表面積活性炭は400℃以下の低温から燃焼し、広い温度範囲で還元雰囲気を作るため、低温でも酸素欠損型が生成しやすく、かつ、アナターゼ型とルチル型両結晶相を持つ酸素欠損型二酸化チタンを製造することができ、高性能可視光応答型光触媒が得られる。
(う)工業的製造反応炉は、攪拌する装備、マイクロ波を炉の内部に導入できる装置、外部から加熱する装置、炉内に雰囲気を置換できる装置および生成物を自動的に排出できる装置を備えているため、二酸化チタン光触媒の製造に適した反応炉を提供することができる。攪拌装置の装備によって、被加熱物をより均一に加熱できるほか、マイクロ波を乱反射して効率よくマイクロ波を照射することができる。また、反応炉の底部に排出装置、その下に水冷式冷却槽が配備され、生成物を高温状態のままに排出しながら冷却することで、製品の品質および生産効率を向上することができる。
(え)マイクロ波加熱は物質の内部からの加熱であるため、マイクロ波を吸収する活性炭を迅速に加熱することができる。加熱分解が迅速に進行するとともに、局所的に還元反応が進行することも考えられ、酸素欠損量の大きな、かつ、結晶成長が抑制された酸化チタンが得られるものと考えられる。それゆえ、可視光活性が大きく、かつ、粒子径の小さな生成物が得られる。加熱時間の短縮による生産効率が高くなるほか、エネルギーが節約できる。また、マイクロは加熱と電気やガスバーナーなどの外部加熱を併用することで、被加熱物をより均一に加熱でき、品質むらの少ない製品が得られる。
【0015】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は、本発明に含まれるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の、マイクロ波加熱を利用した可視光活性を有する二酸化チタン光触媒粉体の製造方法は、(1)反応炉内に原料を装填し、無水雰囲気中でチタニウム化合物溶液と吸着性還元補材として所定量の活性炭と均一に混合し、(2)次いで、空気中で水を加えて加水分解する。(3)この混合物を撹拌しながら所定温度まで加熱し有酸素雰囲気下で加熱分解して二酸化チタンを生成させる。(4)さらに、加熱して炭素燃焼させる。これらの各工程を順次に経て、炭素含量が0.5%以下の粉末状二酸化チタンを生成させる。
上記(1)において、チタニウム化合物溶液と活性炭と混合することで、チタニウム化合物が活性炭の細孔表面に吸着され、均一に分布する。上記(2)において、これに水を加えてチタニウム化合物が水と反応し水酸化チタンとなる。上記(3)において、加熱することで活性炭の表面で水酸化チタンが分解して二酸化チタンとなって、酸素雰囲気中にさらに400℃以上に加熱すると、吸着体である活性炭が燃焼しガス化しながら還元雰囲気となり、還元雰囲気中に二酸化チタンが温度の上昇とともに結晶化していく。上記(4)において、さらに温度が高くなると、相転移が起きてアナターゼ型結晶からルチル型結晶に転換していく。活性炭は還元剤であり、活性炭の燃焼過程において、炭素に接触する酸化チタンから酸素を奪い酸素欠損型二酸化チタンが生成される。
【0017】
本発明に用いる反応炉は、図1に示すようにマイクロ波加熱とそれ以外の加熱を併用したハイブリッド反応炉を採用している。
このハイブリッド反応炉は二重の構造をとっており、外部は炉外壁1、その間はLPGなどの燃料ガスの燃焼空間として使用する外部加熱炉と内部に分解反応を行う内部反応炉2からなる。生成物の純度を保つため、内部反応炉2は金属チタン材料を使用する。加熱方式は、ガスバーナー3より内部反応炉の外壁からの外部加熱と、内部反応炉の内部にマイクロ波を導入して直接に反応物に照射する内部加熱を併用する形になる。マイクロ波発生装置4からマイクロ波を導波管5により上部から内部反応炉内2に導入される。被加熱物を均一加熱するため、または、マイクロ波を均一に照射させるため、内部反応炉底部に撹拌翼6が装備される。また、製品の品質および生産効率を向上するため、製品を高温状態のままに排出口12から冷却槽15に排出して冷却する機能を有することと反応炉内の雰囲気を入れ替える機能を有することを特徴としている。
【0018】
上記(1)の混合工程において、チタニウム化合物と活性炭との重量比は1:0.01〜2、好ましくは1:0.05〜1である。高表面積活性炭の使用量を減少するため、また、炭素燃焼時間を短縮するため、できるだけ活性炭の配合を低減することが望ましい。
【0019】
本発明の方法で使用する主原料であるチタニウム化合物は、一種または一種以上のチタニウムのアルコキシド化合物、硝酸塩あるいは塩化物である。チタニウム化合物としてアルコキサイドの他に、塩化物や硝酸塩などを用いることも可能であるが、腐食性のガスを発生するために炉の傷みが大きく、別途、排ガス処理対策などが必要となるため、アルコキシド化合物が望ましい。
【0020】
本発明の方法で使用する吸着補助原料である活性炭は、その比表面積が500〜4,000m2/g、好ましくは1,000〜3,000m2/g、平均粒径が200μm以下、好ましくは100μm以下である。ここでの活性炭は炭素物を賦活して得られた活性炭を指すが、アルカリ賦活でできた高比表面積の活性炭が望ましい。高い表面積を持つ活性炭と液体チタニウム化合物原料とを混合する際に、チタニウム化合物原料が活性炭の発達した細孔の表面に吸着され、均一に活性炭の表面に分布することができる。そのため、炭素燃焼過程において活性炭が燃焼・ガス化され、還元雰囲気を作りながら、鋳型のような機能を果たすため、微細な二酸化チタンが生成できる。
なお、本発明の方法で使用する活性炭は比表面積が大きいものが望ましいが、高比表面積にとらわれるものでなく、性能が劣るものの低比表面積炭素材料でも可視光活性を持つ光触媒の製造は可能である。
【0021】
上記(2)の水分解工程において、原料混合物を攪拌しながら所定量の水を一度に投入する。攪拌によってチタニウム原料と活性炭を均一に混合するためであり、一度に水を添加するのは、加水分解で得られる生成物の前駆体である水酸化チタンの粒子成長を抑えるためである。
【0022】
上記(3)の加熱分解工程および上記(4)の炭素燃焼工程は、マイクロ波加熱またはマイクロ波併用加熱である。マイクロ波加熱は物質の内部からの加熱であるため、マイクロ波を吸収する材料を迅速に加熱することができる。活性炭などの炭素微粉末はマイクロ波吸収性が優れ、瞬時に加熱される。このため、加熱分解過程が迅速に完成し、生成物である酸化チタンの結晶成長を抑えることができ、粒子の小さな生成物が得られる。また加熱時間の短縮による生産効率が高くなるほか、エネルギーが節約できる。さらにマイクロ波加熱と電気やガスバーナーなどの外部加熱を併用することで、被加熱物をより均一に加熱でき、品質むらの少ない製品が得られる。
【0023】
上記(4)の炭素燃焼過程の加熱温度は、400〜1,000℃である。アルカリ賦活の高比表面積活性炭は400℃以下の低温でも燃焼するため、低温から高温まで還元雰囲気を作ることができる。また、アナターゼ型とルチル型両方の結晶相を持つ酸素欠損型二酸化チタンを製造するための、炭素燃焼過程の加熱温度は400〜1,000℃、好ましくは500〜900℃である。
【0024】
また、本発明は、本発明の方法により製造された、アナターゼ型とルチル型結晶相の両方を持った二酸化チタン光触媒であって、粉体の平均粒径は5μm以下、0.5%以下の残存炭素を含み、紫外線および紫外線を可視光源の照射において高い光触媒活性を有する可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体である。
【0025】
以下、実施例および比較例を挙げて、本願発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例並びに比較例によって何ら限定される物ではない。
【実施例1】
【0026】
N2ガスを充満した反応炉内に、比表面積3,000m2/gの活性炭1.8kgを入れ、チタニウムイソプロポキシド30kgを添加して、30分間攪拌してよく混合する。攪拌しながらこの混合物に水8kgを添加して加水分解を進行させる。混合物が乾いてからマイクロ波4〜5kWを炉内に導入しながら外部からバーナー加熱して、炉内温度が700℃になったら、2時間定温保持して排出口より冷却槽に排出する。室温まで冷却してから、製品を取り出す。得られた二酸化チタンは微粉末であり、色は薄黄色であった。また、製品のXRDパターンを図2に示す。このような方法で作った二酸化チタンの結晶相はアナターゼ型とルチル型の両方を持つことが分かった。
【実施例2】
【0027】
実施例1において製造した二酸化チタン粉末0.10gを50mlの5ppmメチレンブルー水溶液に入れて、攪拌しながら白熱光(紫外線成分が少ないもの)を照射した。このときのメチレンブルーの退色効果によって二酸化チタンの可視光領域の光触媒活性を測定することとし、メチレンブルーの青色吸光度を分光法で測定し濃度の変化に換算した。メチレンブルー濃度の反応時間変化を図3に示す。6時間の光照射反応でメチレンブルーの濃度は元の15%以下になることが分かった。
【実施例3】
【0028】
実施例1において製造した二酸化チタン粉末0.10gを50mlの5ppmメチレンブルー水溶液に入れて、攪拌しながらブラックライトを照射した。実施例2と同様の方法で紫外線領域の光触媒活性を測定した。メチレンブルー濃度の反応時間変化を図4に示す。5時間の光照射反応でメチレンブルーの濃度は元の10%以下になることが分かった。
【実施例4】
【0029】
実施例1において製造した二酸化チタンのチタニウムと酸素の比を測定した。サンプルをマイクロ波溶解法で液化処理を行い、ICP-AESでの絶対検量線法によるチタニウムの定量測定を行った。また、酸素はEMGAによって酸素濃度を測定した。3回ずつ測定の平均値とそれによって計算したチタニウムと酸素の原子比の結果を表1に示す。分子式により酸素/Ti比は理論値2.0に対して測定値は1.96となるので、本発明で製造した二酸化チタンが酸素欠損型であることが分かった。
【0030】
【表1】

【比較例1】
【0031】
本発明の二酸化チタンとの比較のため、市販の光触媒ST-01とTKP102を用いて、実施例2と同様の方法で光触媒活性の測定を行った。メチレンブルー濃度の反応時間変化を図3に示す。結果から、可視光領域において、本発明の二酸化チタン光触媒は市販の光触媒より遥かに高い触媒活性を有することが認められた。
【比較例2】
【0032】
本発明の二酸化チタンとの比較のため、市販のTKP102を用いて、実施例3と同様の方法で光触媒活性の測定を行った。メチレンブルー濃度の反応時間変化を図4に示す。結果から、紫外線領域において、本発明の二酸化チタン光触媒は市販の光触媒以上の触媒活性を有することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の製造方法および装置は、工業的に簡便かつ低コストに高性能な可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体が得られるため、空気浄化(脱臭、排ガス浄化)、汚れ防止、曇り止め、抗菌・防カビ、水処理など様々な分野に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る二酸化チタン光触媒の製造に適したマイクロ波併用加熱型ハイブリッド反応炉の構成図である。
【図2】実施例1で得られた二酸化チタンのX線解析パターンである。
【図3】実施例1で得られた二酸化チタンおよび市販の光触媒(ST-01、TKP102)の可視光領域においての光触媒活性である。
【図4】実施例1で得られた二酸化チタンおよび市販の光触媒(TKP102)の紫外線領域においての光触媒活性である。
【符号の説明】
【0035】
1 ステンレス製炉外壁
2 金属チタン製内部反応炉
3 ガスバーナー
4 マイクロ波発生装置
5 マイクロ波導波管
6 撹拌翼
7 反応炉攪拌モーター
8 断熱材
9 熱電対温度計
10 炉内雰囲気ガス導入口
11 導波管部雰囲気ガス導入口
12 生成物排出口
13 自動排出装置
14 冷却槽攪拌装置
15 冷却槽
16 エアシャッター
17 原料装入口翼上の溝
18 炉内ガス排気管
19 ガスバーナー加熱室排気管
20 不活性ガス発生装置
21 活性ガス発生装置















【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段としてマイクロ波加熱を利用する製造方法であって、反応炉中において無水雰囲気中で主原料であるチタニウム化合物と吸着性還元補材である活性炭の所定量を均一に混合する混合工程、空気中で水を加えて加水分解する工程、混合物を撹拌しながら所定温度まで昇温させ、有酸素雰囲気下で加熱分解して二酸化チタンを生成させる分解工程、および炭素燃焼工程、を順次に経て残存炭素含量が0.5%以下である粉末状二酸化チタンを生成させることを特徴とする可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
【請求項2】
前記反応炉は、マイクロ波加熱とそれ以外の加熱を併用したハイブリッド反応炉である請求項1記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において、チタニウム化合物と活性炭の重量比は1:0.01〜2である請求項1または2記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
【請求項4】
前記主原料であるチタニウム化合物は、一種または一種以上のチタニウムのアルコキシド化合物、硝酸塩あるいは塩化物である請求項1、2または3記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
【請求項5】
前記吸着性補助原料である活性炭は、その比表面積が500〜4,000m2/g、平均粒径が200μm以下である請求項1ないし4のいずれかに記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
【請求項6】
前記加水分解する工程において、混合物を攪拌しながら所定量の水を一回で全部に混合物に混入する請求項1ないし5のいずれかに記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
【請求項7】
前記分解工程および炭素燃焼工程は、マイクロ波加熱またはマイクロ波併用加熱である請求項1ないし6のいずれかに記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
【請求項8】
前記分解工程および炭素燃焼工程における加熱温度は、400〜1,000℃である請求項1ないし7のいずれかに記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造方法。
【請求項9】
撹拌機とマイクロ波導波管を備えた反応炉、導波管を通して炉の内部に導入するマイクロ波を発生する装置、反応炉を外部から加熱する装置、炉内雰囲気を置換できる装置、および生成物を炉内から自動的に排出できる装置、を具備する可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造装置。
【請求項10】
反応炉内部は金属チタン材料を使用する請求項9記載の可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体の製造装置。
【請求項11】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法により製造された、アナターゼ型とルチル型結晶相の両方を持ち、粉体の平均粒径は5μm以下であり、0.5%以下の残存炭素を含み、紫外線および可視光源の照射において高い光触媒活性を有する可視光応答型二酸化チタン光触媒粉体。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−279407(P2008−279407A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127957(P2007−127957)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(503196592)株式会社カナック (4)
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【Fターム(参考)】