説明

可視域又は近赤外域の光を放出する発光材料

発光材料、並びに偽造防止用途、在庫品用途、発電用途及び他の用途におけるこのような材料の使用について本明細書中に記載されている。一実施形態において、この発光材料は式[AX’x’X’’x’’][ドーパント]を有する。式中、Aが、第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択され、Bが、第VA族の元素、第IB族の元素、第IIB族の元素、第IIIB族の元素、第IVB族の元素、及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され、X、X’及びX’’が独立に、第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され、ドーパントが電子受容体及び電子供与体を含み、aが1〜9の範囲内にあり、bが1〜5の範囲内にあり、x、x’及びx’’の合計が1〜9の範囲内にある。この発光材料は、(a)量子効率が少なくとも20パーセントで、(b)スペクトル幅が半値全幅で100nmを超えず、(c)ピーク発光波長が近赤外域にあるフォトルミネセンスを示す。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[0001]本願は、その開示全体が参照により本明細書中に援用される2006年3月21日に出願された米国仮特許出願第60/784,863号の利益を主張する。
【0002】
[発明の分野]
[0002]本発明は一般に、発光材料に関する。より詳細には、本発明は、可視域又は近赤外域の光を放出する発光材料に、また偽造防止用途、在庫品用途、発電用途及び他の用途におけるこのような材料の使用に関する。
【0003】
[発明の背景]
[0003]認証又は識別しようとする物体に、物体自体の一部であっても、又は物体に結合していてもよい特定のマーキングを設けることがある。例えば、一般的に使用されるマーキングはバーコードであり、このバーコードは、物体に直接又は物体と結合しているラベルに印刷されたエレメントの線状アレイを備える。これらのエレメントは通常、バー及びスペースを備え、様々な幅のバーは二進法の1の文字列を示し、様々な幅のスペースは二進法の0の文字列を示す。バーコードは物体の場所又は身元を追跡するために有用ではあるが、これらのマーキングは容易に複製することができ、したがって、偽造防止の点では有効性が限られている。
【0004】
[0004]こうした背景の下、本明細書中に記載されている発光材料を開発する必要性が生じた。
【0005】
[発明の概要]
[0005]一態様において、本発明は発光材料に関する。一実施形態において、この発光材料は式[AX’x’X’’x’’][ドーパント]を有する。式中、Aが、第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択され、Bが、第VA族の元素、第IB族の元素、第IIB族の元素、第IIIB族の元素、第IVB族の元素、及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され、X、X’及びX’’が独立に、第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され、ドーパントが電子受容体及び電子供与体を含み、aが1〜9の範囲内にあり、bが1〜5の範囲内にあり、x、x’及びx’’の合計が1〜9の範囲内にある。この発光材料は、(a)量子効率が少なくとも20パーセントで、(b)スペクトル幅が半値全幅で100nmを超えず、(c)ピーク発光波長が近赤外域にあるフォトルミネセンスを示す。
【0006】
[0006]これとは別の態様において、本発明は、発光材料を形成する方法に関する。一実施形態において、この方法は、第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるAと、第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるXとの原料(source)を設けることを含む。この方法はまた、第IIIB族の元素、第IVB族の元素及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるBの原料を設けることも含む。この方法はさらに、前記A及びXの原料と前記Bの原料とを反応させて、aが1〜9の範囲内にあり、bが1〜5の範囲内にあり、xが1〜9の範囲内ある式[A]の発光材料を形成することを含む。
【0007】
[0007]本発明の様々な実施形態による発光材料は、多くの所望の特性を示すことができる。一部の諸実施形態において、これらの発光材料は、量子効率が高く、スペクトル幅が狭く、ピーク発光波長が可視域や近赤外域など所望の波長域内にあるフォトルミネセンスを示すことができる。また、これらのフォトルミネセンス特性は、広範な励起波長域にわたって比較的非感受性であることがある。これらの発光材料は、それらのバンドギャップエネルギーや電気伝導率に関してなど、他の望ましい特性を有することができる。有利には、偽造防止用途、在庫品用途、発電用途及び他の用途で使用するために、これらの発光材料を容易に加工することができる。例えば、これらの発光材料を使用して、複製が困難なセキュリティマーキングを形成することができ、したがって、これらの発光材料を偽造防止用途において有利に使用することができる。別の例として、これらの発光材料を使用して、識別マーキングを形成することができ、したがって、これらの発光材料を在庫品用途において有利に使用することができる。
【0008】
[0008]本発明の他の態様及び実施形態も考えられる。上記概要及び以下の詳細な説明は、本発明を特定の実施形態に限定するためのものではなく、単に本発明の様々な実施形態を説明するためのものである。
【0009】
[0009]本発明の一部の実施形態の本質及び目的のさらなる理解のために、添付の図面と併せて以下の詳細な説明について言及することにする。
【0010】
[詳細な説明]
定義
[0025]以下の定義は、本発明の一部の実施形態に関して説明する要素の一部に適用する。これらの定義は、本明細書中で同様に拡張することができる。
【0011】
[0026]本明細書中で使用する単数の用語「a」、「an」及び「the」には、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数形が含まれる。したがって、例えば、ある1つの発光材料についての言及には、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数の発光材料を含めることができる。
【0012】
[0027]本明細書中で使用する用語「組(set)」とは、1つ又は複数の要素の集まりを指す。したがって、例えば、一組の粒子には、単一の粒子又は複数の粒子を含めることができる。ある組の要素は、その組の一員と称することもできる。ある組の要素は、同一であっても異なっていてもよい。一部の例においては、ある組の要素が、1つ又は複数の共通の特性を共有することができる。
【0013】
[0028]本明細書中で使用する用語「任意選択の(optional)」及び「任意選択で(optionally)」は、その後に記載される事象又は状況が生じても生じなくてもよいことを意味し、またこの記述によりその事象又は状況が生じる場合も生じない場合も含まれることを意味する。
【0014】
[0029]本明細書中で使用する用語「紫外域」とは、約5ナノメートル(「nm」)〜約400nmの波長域を指す。
【0015】
[0030]本明細書中で使用する用語「可視域」とは、約400nm〜約700nmの波長域を指す。
【0016】
[0031]本明細書中で使用する用語「赤外域」とは、約700nm〜約2ミリメートル(「mm」)の波長域を指す。この赤外域には、約700nm〜約5マイクロメートル(「μm」)の波長域を指す「近赤外域」、約5μm〜約30μmの波長域を指す中赤外域、約30μm〜約2mmの波長域を指す「遠赤外域」が含まれる。
【0017】
[0032]本明細書中で使用する用語「反射」、「反射する」及び「反射の」は、光の曲がり又は偏向を指す。光の曲がり又は偏向は、正反射の場合においてなど、実質的に単一方向であっても、或いは拡散反射又は散乱の場合においてなど、複数の方向であってもよい。一般に、ある材料への入射光及びその材料からの反射光は、同一又は異なる波長を有することができる。
【0018】
[0033]本明細書中で使用する用語「ルミネセンス」、「ルミネセンスを示す」及び「ルミネセンスの」は、エネルギー励起に応じた光の放出を指す。ルミネセンスは、原子又は分子の励起電子状態からの緩和に基づいて発生させることができ、ルミネセンスには、例えば、化学ルミネセンス、エレクトロルミネセンス、フォトルミネセンス、熱ルミネセンス、摩擦ルミネセンス及びこれらの組合せが含まれる。例えば、エレクトロルミネセンスの場合には、電気的励起に基づいて励起電子状態をもたらすことができる。蛍光及び燐光を含むことができるフォトルミネセンスの場合には、光の吸収などの光励起に基づいて励起電子状態をもたらすことができる。一般に、ある材料へ入射する光及びその材料によって放出される光は、同一又は異なる波長を有することができる。
【0019】
[0034]フォトルミネセンスに関して本明細書中で使用する用語「量子効率」とは、ある材料によって吸収されるフォトンの数に対する、その材料によって放出されるフォトンの数の比率を指す。
【0020】
[0035]本明細書中で使用する用語「吸収スペクトル」とは、ある波長域にわたる光の吸収を示したものを指す。一部の例では、吸収スペクトルが、材料へ入射する光の波長の関数としての材料の吸光度(又は透過率)のプロットを指すことがある。
【0021】
[0036]本明細書中で使用する用語「発光スペクトル」とは、ある波長域にわたる光の放出を示したものを指す。一部の例では、発光スペクトルが、放出される光の波長の関数としての、材料によって放出される光の強度のプロットを指すことがある。
【0022】
[0037]本明細書中で使用する用語「励起スペクトル」とは、ある波長域にわたる光の放出を示した別のものを指す。一部の例では、励起スペクトルが、材料へ入射する光の波長の関数としての、材料によって放出される光の強度のプロットを指すことがある。
【0023】
[0038]本明細書中で使用する用語「半値全幅」又は「FWHM」とは、スペクトル幅の尺度を指す。発光スペクトルの場合には、FWHMが、ピーク強度値の半値における発光スペクトルの幅を指すことがある。
【0024】
[0039]励起スペクトルに関して本明細書中で使用する用語「実質的に平坦な」とは、波長の変化に対して実質的に不変であることを指す。一部の例では、ある波長域内にある強度値が、10パーセント未満又は5パーセント未満など、平均強度値に対して20パーセント未満の標準偏差を示す場合には、励起スペクトルがその波長域にわたって実質的に平坦であると見なすことができる。
【0025】
[0040]本明細書中で使用する用語「サブナノメートル範囲」又は「サブnm範囲」とは、約0.1nm〜約1nmをわずかに下回る範囲など、約1nm未満の寸法範囲を指す。
【0026】
[0041]本明細書中で使用する用語「ナノメートル範囲」又は「nm範囲」とは、約1nm〜約1μmの寸法範囲を指す。このnm範囲には、約1nm〜約10nmの寸法範囲を指す「下位nm範囲」、約10nm〜約100nmの寸法範囲を指す「中間nm範囲」、及び約100nm〜約1μmの寸法範囲を指す「上位nm範囲」が含まれる。
【0027】
[0042]本明細書中で使用する用語「マイクロメートル範囲」又は「μm範囲」とは、約1μm〜約1mmの寸法範囲を指す。このμm範囲には、約1μm〜約10μmの寸法範囲を指す「下位μm範囲」、約10μm〜約100μmの寸法範囲を指す「中間μm範囲」、及び約100μm〜約1mmの寸法範囲を指す「上位μm範囲」が含まれる。
【0028】
[0043]本明細書中で使用する用語「サイズ」とは、物体の特徴的寸法を指す。球形の粒子の場合には、粒子のサイズが粒子の直径を指すことがある。非球形の粒子の場合には、粒子のサイズが粒子の様々な直交寸法の平均を指すことがある。したがって、例えば、回転楕円体状の粒子のサイズが、粒子の長軸及び短軸の平均値を指すことがある。一組の粒子が特定のサイズを有するものと見なされる場合、これらの粒子はそのサイズ前後のサイズ分布を有することがあると考えられる。したがって、本明細書中で使用する一組の粒子のサイズが、平均サイズ、メジアンサイズ、ピークサイズなど、サイズ分布の典型的なサイズを指すことがある。
【0029】
[0044]本明細書中で使用する用語「単分散」とは、一組の特性に関して実質的に均一であることを指す。したがって、例えば、一組の単分散粒子とは、サイズ分布の典型的なサイズ前後のサイズ分布が狭くなるような粒子を指すことがある。一部の例では、一組の単分散粒子が、10パーセント未満又は5パーセント未満など、平均サイズに対して20パーセント未満の標準偏差を示すサイズを有することがある。
【0030】
[0045]本明細書中で使用する用語「単層」とは、ある材料の単一の完全コーティングを指し、この完全コーティングにさらに追加される追加の材料はない。
【0031】
[0046]本明細書中で使用する用語「ドーパント」とは、添加剤又は不純物として材料中に存在する化学物質を指す。一部の例では、材料中のドーパントの存在により、その化学的、磁気的、電気的又は光学的特性など、材料の一組の特性を変えることができる。
【0032】
[0047]本明細書中で使用する用語「電子受容体」とは、別の化学物質から電子を求引する傾向にある化学物質を指し、用語「電子供与体」とは、別の化学物質へ電子を提供する傾向にある化学物質を指す。一部の例では、電子受容体が電子供与体から電子を求引する傾向にある。化学物質の電子求引性及び電子供与性は相対的なものであることを理解されたい。特に、ある例において電子受容体として働く化学物質が、別の例では電子供与体として働くことができる。電子受容体の例には、正に帯電した化学物質及び電気陰性度が相対的に高い原子を含む化学物質が含まれる。電子供与体の例には、負に帯電した化学物質及び電気陰性度が相対的に低い原子を含む化学物質が含まれる。
【0033】
[0048]本明細書中で使用する用語「ナノ粒子」とは、nm範囲のサイズを有する粒子を指す。ナノ粒子は、ボックス状、立方形状、円筒形状、ディスク形状、球形、回転楕円体状、四面体形状、三脚形状、チューブ形状、ピラミッド形状、或いは他の任意の規則的又は不規則な形状など、様々な形状のいずれかを有することができ、様々な材料のうちいずれかで形成することができる。一部の例では、ナノ粒子が、第1の材料で形成されるコアを含むことができ、このコアを任意選択で第2の材料で形成される外層によって取り囲むことができる。これら第1の材料及び第2の材料は、同一であっても異なっていてもよい。ナノ粒子の構成に応じて、ナノ粒子は、量子閉じ込め(quantum confinement)に関連するサイズ依存特性を示すことができる。しかしながら、量子閉じ込めに関連するサイズ依存特性がナノ粒子に実質的に欠けていることがある、又はこのようなサイズ依存特性をナノ粒子が低度にしか示すことができないことも考えられる。
【0034】
[0049]本明細書中で使用する用語「表面配位子」とは、ナノ粒子などの粒子の外層を形成するために使用することができる化学物質を指す。表面配位子は、ナノ粒子のコアに対して親和力を有することも、或いはナノ粒子のコアと共有結合的に又は非共有結合的に化学結合させることもできる。一部の例では、表面配位子を、表面配位子に沿った複数の箇所でコアと化学結合させる。表面配位子は任意選択で、コアと具体的には相互作用しない一組の活性部分を含むことができる。表面配位子は実質的に親水性であっても、実質的に疎水性であっても、又は実質的に両親媒性であってもよい。表面配位子の例には、ヒドロキノン、アスコルビン酸、シラン類、シロキサン類などの有機分子、ポリビニルフェノールなどのポリマー類(又は重合反応用のモノマー類)、並びに無機錯体が含まれる。表面配位子の追加の例には、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、イミニル基、水素化物基、ハロ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルケノキシ基、アルキノキシ基、アリールオキシ基、カルボキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、チオ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アルキニルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、N置換アミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、N置換アルキルカルボニルアミノ基、アルケニルカルボニルアミノ基、N置換アルケニルカルボニルアミノ基、アルキニルカルボニルアミノ基、N置換アルキニルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、N置換アリールカルボニルアミノ基、シリル基、シロキシ基などの化学基が含まれる。
【0035】
発光材料
[0050]本発明の諸実施形態は、多くの所望の特性を有する発光材料に関する。特に、本発明の一部の実施形態による発光材料は、量子効率が高く、スペクトル幅が狭く、ピーク発光波長が所望の波長域内に位置するフォトルミネセンスを示すことができる。また、これらのフォトルミネセンス特性は、広範な励起波長域にわたって比較的非感受性であることがある。特定の理論に束縛されるわけではないが、これら異例で所望の特性は、少なくとも部分的には発光材料の特定の微細構造及びその微細構造内のドーパントの存在に由来することがある。有利には、これらの発光材料は、様々な製品を形成するために容易に加工することができ、さらにこれらの製品を、偽造防止用途、在庫品用途及び他の用途において使用することができる。
【0036】
[0051]特に、本発明の一部の実施形態による発光材料は、量子効率が高いフォトルミネセンスを示すことができ、それにより照射すると発光材料の検出又はイメージングが容易になる。一部の例では、量子効率が、少なくとも約10パーセント、少なくとも約20パーセント、少なくとも約30パーセント、少なくとも約40パーセント、少なくとも約50パーセントなど、約6パーセントを超えることがあり、最大約90パーセント以上となることがある。しかしながら、約1パーセント未満など、量子効率が約6パーセント未満となることがあることも考えられる。理解されるように、高い量子効率により、入射光又は他の暗騒音に対して、放出光の相対強度をより高くし、また信号対雑音比を改善することができる。
【0037】
[0052]また、これらの発光材料は、スペクトル幅が狭いフォトルミネセンスを示すことができ、それにより照射すると発光材料の検出又はイメージングが容易になる。一部の例では、スペクトル幅は、FWHMで約100nmを超えない又は約80nmを超えないなど、FWHMで約120nmを超えないことがある。したがって、例えば、スペクトル幅は、FWHMで約50nm〜約120nm、約50nm〜約100nm、約50nm〜約80nmなど、FWHMで約20nm〜約120nmの範囲内にあることがある。理解されるように、狭いスペクトル幅により、入射光又は他の暗騒音に対して、放出光の解像度を向上させることができる。
【0038】
[0053]加えて、これらの発光材料は、可視域や赤外域など所望の波長域内にピーク発光波長が位置するフォトルミネセンスを示すことができる。一部の例では、ピーク発光波長は、約900nm〜約1μm、約910nm〜約1μm、約910nm〜約980nm、約930nm〜約980nmなど、近赤外域に位置することがある。他の例では、ピーク発光波長は、約700nm〜約750nm又は約700nm〜約715nmなど、約700nm〜約800nmの範囲内に位置することがある。しかしながら、ピーク発光波長が中赤外域、遠赤外域、紫外域又は可視域に位置することがあることも考えられる。理解されるように、比較的長い波長の光の放出が、照射時のフォトルミネセンス特性と散乱特性とを区別することが望ましい用途にとって特に有用であることがある。したがって、例えば、散乱光からの寄与を実質的に低減する、取り除く又はフィルタで除去しながらフォトルミネセンス画像を得ることが望ましいことがある。より長い波長については光の散乱が低減されるため、可視域又は赤外域におけるフォトルミネセンスにより、散乱光又は他の暗騒音に対して、放出光の相対強度をより高くし、信号対雑音比を改善することができる。また、赤外域における放出光は可視光ではないため、偽造防止用途向けに目立たないマーキング(convert marking)形成するために、これらの発光材料を有利に使用することができる。
【0039】
[0054]さらに、上述のフォトルミネセンス特性は、広範な励起波長域にわたって比較的非感受性であることがある。実際に、この異例の特性は、発光材料の励起スペクトルに関して評価することができ、この励起スペクトルは、紫外域の一部、可視域及び赤外域を包含する励起波長域にわたって実質的に平坦であることがある。一部の例では、励起スペクトルが、約200nm〜約980nm又は約200nm〜約950nmなど、約200nm〜約1μmの励起波長域にわたって実質的に平坦であることがある。しかしながら、励起スペクトルは、その励起波長域内に一組の帯域を含むことができることも考えられる。理解されるように、励起波長域に対する非感受性により、発光材料に照射するための光源の選択における柔軟性を高めることが可能となる。さらに、このように柔軟性が高まることにより、安価で広く利用されている光源の使用が可能となることがある。或いは、又は加えて、このように柔軟性が高まることにより、可視域又は赤外域など、所望の波長域内の光を放出する光源の使用が可能となることがある。より長い波長については光の散乱が低減されるため、可視域又は赤外域の光を放出する光源の使用は、照射時のフォトルミネセンス特性と散乱特性とを区別することが望ましい用途にとって特に有用であることがある。
【0040】
[0055]本発明の一部の実施形態によると、発光材料を形成するための一方法は、一組の成分を高収率で、また適度な温度及び圧力で発光材料に変換することを含む。この方法は、下記式により表すことができる。
【0041】
原料(B) + 原料(A、X) → 発光材料 (I)
【0042】
[0056]式(I)において、原料(B)はBの原料として働き、一部の例においては、原料(B)がドーパントの原料として働くこともできる。適切な酸化状態を有する元素から、それら元素の基底電子状態が満たされたs軌道を含み、また基底電子状態を(ns)と表すことができるように、Bを選択することができる。Bの例には、バナジウム(例えば、V(III)又はV+3のような)など第VA族の元素、銅(例えば、Cu(I)又はCu+1のような)、銀(例えば、Ag(I)又はAg+1のような)、金(例えば、Au(I)又はAu+1のような)など第IB族の元素、亜鉛(例えば、Zn(II)又はZn+2のような)、カドミウム(例えば、Cd(II)又はCd+2のような)、水銀(例えば、Hg(II)又はHg+2のような)など第IIB族の元素、ガリウム(例えば、Ga(I)又はGa+1のような)、インジウム(例えば、In(I)又はIn+1のような)、タリウム(例えば、TI(I)又はTI+1のような)など第IIIB族の元素、ゲルマニウム(例えば、Ge(II)又はGe+2或いはGe(IV)又はGe+4)、スズ(例えば、Sn(II)又はSn+2或いはSn(IV)又はSn+4)、鉛(例えば、Pb(II)又はPb+2或いはPb(IV)又はPb+4)など第IVB族の元素、並びにビスマス(例えば、Bi(III)又はBi+3)など第VB族の元素が含まれる。
【0043】
[0057]例えば、Bがスズである場合、原料(B)は、BY、BY、B及びBY型のスズ(II)化合物並びにBY型のスズ(IV)化合物から選択される1種又は複数種のスズ含有化合物を含むことができる。ここで、Yは、酸素(例えば、O−2のような)など第VIB族の元素、フッ素(例えば、F−1のような)、塩素(例えば、Cl−1のような)、臭素(例えば、Br−1のような)、ヨウ素(例えば、I−1のような)など第VIIB族の元素、硝酸塩(すなわち、NO−1)、チオシアン酸塩(すなわち、SCN−1)、次亜塩素酸塩(すなわち、OCl−1)、硫酸塩(すなわち、SO−2)、オルトリン酸塩(すなわち、PO−3)、メタリン酸塩(すなわち、PO−1)、シュウ酸塩(すなわち、C−2)、メタンスルホン酸塩(すなわち、CHSO−1)、トリフルオロメタンスルホン酸塩(すなわち、CFSO−1)、ピロリン酸塩(すなわち、P−4)などの多元素化学物質から選択することができる。スズ(II)化合物の例には、フッ化スズ(II)(すなわち、SnF)、塩化スズ(II)(すなわち、SnCl)、塩化スズ(II)二水和物(すなわち、SnCl・2HO)、臭化スズ(II)(すなわち、SnBr)、ヨウ化スズ(II)(すなわち、SnI)、酸化スズ(II)(すなわち、SnO)、硫酸スズ(II)(すなわち、SnSO)、オルトリン酸スズ(II)(すなわち、Sn(PO)、メタリン酸スズ(II)(すなわち、Sn(PO)、シュウ酸スズ(II)(すなわち、Sn(C))、メタンスルホン酸スズ(II)(すなわち、Sn(CHSO)、ピロリン酸スズ(II)(すなわち、Sn)及びトリフルオロメタンスルホン酸スズ(II)(すなわち、Sn(CFSO)が含まれる。スズ(IV)化合物の例には、塩化スズ(IV)(すなわち、SnCl)及び塩化スズ(IV)五水和物(すなわち、SnCl・5HO)が含まれる。
【0044】
[0058]式(I)において、原料(A、X)はA及びXの原料として働くが、一部の例においては、原料(A、X)がドーパントの原料として働くこともできる。Aは、ナトリウム(例えば、Na(I)又はNa1+のような)、カリウム(例えば、K(I)又はK1+のような)、ルビジウム(例えば、Rb(I)又はRb1+のような)、セシウム(例えば、Cs(I)又はCs1+のような)など、第IA族の元素から選択することができる金属である。一方Xは、フッ素(例えば、F−1のような)、塩素(例えば、Cl−1のような)、臭素(例えば、Br−1のような)、ヨウ素(例えば、I−1のような)など、第VIIB族の元素から選択することができる。原料(A、X)の例には、AX型のハロゲン化アルカリが含まれる。Aがセシウムである場合、例えば、原料(A、X)は、フッ化セシウム(I)(すなわち、CsF)、塩化セシウム(I)(すなわち、CsCl)、臭化セシウム(I)(すなわち、CsBr)、ヨウ化セシウム(I)(すなわち、CsI)など、1種又は複数種のハロゲン化セシウム(I)を含むことができる。混合ハロゲン化物を有する発光材料を結果として形成するために、異なる種類の原料(A、X)を使用する(例えば、X、X’及びX’’が独立に第VIIB族の元素から選択される原料(A、X)、原料(A、X’)及び原料(A、X’’))ことが考えられる。
【0045】
[0059]式(I)によって表される方法は、乾燥した形で、溶液中で、又は他の任意の適切な混合技法に従って、原料(B)と原料(A、X)とを混合することによって実施することができる。例えば、原料(B)及び原料(A、X)を粉末状で提供し、乳鉢及び乳棒を用いて混合することができる。別の例としては、原料(B)及び原料(A、X)を反応媒質中に分散させて、反応混合物を形成することができる。この反応媒質は、溶媒又は溶媒の混合物を含むことができ、これらの溶媒は、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール及びエチレングリコール)、アルカン類(例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカン、ドコサン及びオクタデカン)、アレーン類(例えば、ベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ナフタレン、テトラリン、トルエン、キシレン及びメシチレン)、アミン類(例えば、トリエチルアミン)、エーテル類(例えば、グリム、ジグリム、トリグリム及びテトラヒドロフラン)、アミド類(例えば、ジメチルホルムアミド)、ケトン類(例えば、アセトン及びN−メチルピロリドン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)、水など、様々な標準的な溶媒から選択することができる。この反応媒質は、以下の成分、分散剤(例えば、カップリング剤)、湿潤剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、高分子界面活性剤、他の任意の適切なイオン性又は非イオン性界面活性剤などの界面活性剤)、ポリマー結合剤(又は他のビヒクル)、消泡剤、防腐剤、安定剤及びpH調整剤のうちの1つ又は複数を含むこともできる。混合技法の代わりに、又は混合技法と併せて、適切な蒸着技法を使用することができることも考えられる。例えば、原料(B)及び原料(A、X)の電子ビーム蒸着、スパッタ蒸着、パルスレーザ蒸着、真空蒸着又は気相成長を行って被膜を形成することができ、この被膜をアニールして発光材料を形成することができる。特に、原料(B)及び原料(A、X)を共に蒸発させ(例えば、共に気化させ)、基板上に共に蒸着させて被膜を形成することも、或いは順に蒸発させ(例えば、気化させ)、蒸着させて隣接する被膜を形成することもできる。
【0046】
[0060]一部の例においては、原料(B)及び原料(A、X)の発光材料への変換を、音響エネルギー又は振動エネルギー、電気エネルギー、磁気エネルギー、力学的エネルギー、光エネルギー、熱エネルギーなど、エネルギーの一形態を加えることによって容易にすることができる。エネルギーの複数の形態を同時に又は順に加えることができることも考えられる。例えば、原料(B)及び原料(A、X)を乾燥した形で混合することができ、得られた混合物を、標準的なペレットプレス又は標準的な鋼ダイスを用いることなどにより、約1×10パスカル〜約7×10パスカルの範囲内の圧力までプレスして、ペレット状の発光材料を形成することができる。別の例としては、原料(B)及び原料(A、X)を乾燥した形で混合することができ、得られた混合物を、約80℃〜約350℃又は約80℃〜約300℃など、約50℃〜約650℃の範囲内の温度にまで加熱して発光材料を形成することができる。必要に応じて、不活性雰囲気(例えば、窒素雰囲気)又は還元性雰囲気内で、約0.5時間〜約9時間の範囲内の期間加熱を行うことができる。
【0047】
[0061]得られる発光材料は、主要な元素成分としてA、B及びXを、またYに由来する又はYに対応する元素成分を含むことができる。特に、Bは、元素組成の点で少なくとも約1パーセント又は少なくとも約5パーセントなど、典型的なドーピングレベルを上回る量で存在することができる。また、この発光材料は、元素組成の点で約5パーセント未満の量で存在することができる、炭素、塩素、水素、酸素など追加の元素成分を含むことができ、また元素組成の点で約0.1パーセント未満の微量で存在することができる、ナトリウム、硫黄、リン、カリウムなどさらなる元素成分を含むことができる。
【0048】
[0062]特定の理論に束縛されるわけではないが、得られる発光材料を下記式により表すことができる。
[A][ドーパント] (II)
【0049】
[0063]式(II)において、aは、1〜5など、1〜9の範囲内であってよい整数であり、bは、1〜3など、1〜5の範囲内であってよい整数であり、xは、1〜5など、1〜9の範囲内であってよい整数である。一部の例においては、aは1に等しくてもよく、xは1+2bに等しくてもよい。a、b及びxのうちの1つ又は複数は、それらそれぞれの範囲内で小数値を有することができることも考えられる。式(II)中のXはより一般的にXX’x’X’’x’’と表すことができることもさらに考えられ、X、X’及びX’’は独立に、第VIIB族の元素から選択することができ、x、x’及びx’’の合計は、1〜5など、1〜9の範囲内であってよい。式(II)の一般化されたバージョンを参照すると、aは1に等しくてもよく、x、x’及びx’’の合計は1+2bに等しくてもよい。この場合もやはり、特定の理論に束縛されるわけではないが、発光材料が、使用する成分及び加工条件を調節することによって所望のレベルにまで調整することができる抵抗率及びバンドギャップエネルギーを有する半導体であってもよい。例えば、バンドギャップエネルギーはAと相関関係にあることがあり、バンドギャップエネルギーが増大する順に、例えば、セシウム、ルビジウム、カリウム及びナトリウムに対応する。別の例としては、バンドギャップエネルギーはXと相関関係にあることがあり、バンドギャップエネルギーが増大する順に、例えば、ヨウ素、臭素、塩素及びフッ素に対応する。このバンドギャップエネルギーが増加する順は、ピーク発光波長が減少する順となることがある。したがって、例えば、ヨウ素を含む発光材料は、約900nm〜約1μmの範囲内でピーク発光波長を示すことがある一方、臭素又は塩素を含む発光材料は、約700nm〜約800nmの範囲内でピーク発光波長を示すことがある。
【0050】
[0064]例えば、Aがセシウム、Bがスズ、Xがヨウ素である場合、発光材料を下記式のうちの1つにより表すことができることがある。
[CsSnI][ドーパント] (III)
[CsSn][ドーパント] (IV)
[CsSn][ドーパント] (V)
【0051】
式IIIの場合、例えば、得られる発光材料は、特定の層に沿った化学結合は比較的強いが異なる層間の化学結合は比較的弱い層状のペロフスカイトをベースとする微細構造を有することができる。このペロフスカイトをベースとする微細構造は、異なる色を有する様々な相の間で遷移することができる。式IIIの発光材料は、使用する成分及び加工条件を調節することによって所望のレベルにまで調整することができる抵抗率及びバンドギャップエネルギーを有する半導体であってもよい。例えば、抵抗率は、約100μΩcmの典型的な値に対して100倍以上に変えることができる。同様に、バンドギャップエネルギーは、約1.2eVから約2.3eVに変えることができ、また発光材料の色と相関関係にあることがあり、バンドギャップエネルギーが増大する順に、例えば、ブラック、オレンジ及びイエローに対応する。
【0052】
[0065]例えば、Aがセシウム、Bがインジウム、Xがヨウ素である場合、発光材料を下記式により表すことができることがある。
[CsInI][ドーパント] (VI)
【0053】
[0066]例えば、Aがセシウム、Bがゲルマニウム、Xがヨウ素である場合、発光材料を下記式により表すことができることがある。
[CsGeI][ドーパント] (VII)
【0054】
[0067]例えば、Aがルビジウム、Bがスズ、Xがヨウ素である場合、発光材料を下記式により表すことができることがある。
[RbSnI][ドーパント] (VIII)
【0055】
[0068]例えば、Aがカリウム、Bがスズ、Xがヨウ素である場合、発光材料を下記式により表すことができることがある。
[KSnI][ドーパント] (IX)
【0056】
[0069]例えば、Aがセシウム、Bがインジウム、Xが臭素である場合、発光材料を下記式により表すことができることがある。
[CsInBr][ドーパント] (X)
【0057】
[0070]例えば、Aがセシウム、Bがスズ、Xが臭素である場合、発光材料を下記式により表すことができることがある。
[CsSnBr][ドーパント] (XI)
【0058】
[0071]例えば、Aがセシウム、Bがスズ、Xが塩素、X’がヨウ素である場合、発光材料を下記式のうちの1つにより表すことができることがある。
[CsSnClI][ドーパント] (XII)
[CsSnCl][ドーパント] (XIII)
【0059】
[0072]例えば、Aがセシウム、Bがスズ、Xが臭素、X’がヨウ素である場合、発光材料を下記式により表すことができることがある。
[CsSnBrI][ドーパント] (XIV)
【0060】
[0073]発光材料に含まれるドーパントは、元素組成の点で、約1パーセント未満など、約5パーセント未満の量で存在することができ、原料(A)、又は発光材料を形成するために使用する他の成分に由来することがある。例えば、Aがセシウムであり、Bがスズであり、Xがヨウ素である場合、ドーパントは、スズ(例えば、Sn(IV)又はスズの酸化に由来するSn+4カチオン)に由来する又は対応するカチオンを、またY(例えば、F−1、Cl−1、Br−1、I−1又はCHSO−1のような)に由来する又は対応するアニオンを含むことができる。これらのカチオン及びアニオンは、発光材料の微細構造内に分散する電子受容体/電子供与体対を形成することができる。この場合もやはり、特定の理論に束縛されるわけではないが、発光材料のフォトルミネセンス特性は、少なくとも部分的には、その微細構造内のこれらの電子受容体/電子供与体対の存在に由来することがある。
【0061】
発光材料で形成されるナノ粒子
[0074]本発明の一部の実施形態による発光材料を、様々な製品を形成するために容易に加工することができ、さらにこれらの製品を、偽造防止用途、在庫品用途及び他の用途において使用することができる。例えば、これらの発光材料を、サブnm範囲、nm範囲、μm範囲など、ある範囲のサイズを有する粒子を形成するために容易に加工することができる。粒子を形成するための方法には、ボールミル粉砕、ジャー粉砕(jar milling)、超音波処理、或いは他の任意の適切な磨砕(grinding)又は粉化(powdering)技法が含まれる。以下にさらに説明するように、粒子はそれぞれ、任意の適切なコーティング又はカプセル化技法を用いて形成することができる外層を備えることができる。得られた粒子は、それらの形状及びサイズに関して単分散であっても多分散であってもよい。
【0062】
[0075]一部の偽装防止及び在庫品用途向けに、発光材料を加工して、下位nm範囲、中間nm範囲、上位nm範囲など、nm範囲のサイズを有する粒子を形成することができる。得られた粒子は、それらの形状及びサイズのいずれか又は両方に関して単分散であってもよい。ナノ粒子のこのような特性は、インク組成物へのナノ粒子の取り込みを容易にするために望ましく、さらに、このインク組成物を使用して物体用のマーキングを形成することができる。特に、このような特性により、組成物内でナノ粒子の十分な分散が可能となることがあり、また標準的なコーティング又は印刷技法を用いてこの組成物を容易に塗布することが可能となることがある。加えて、得られたマーキング内の粒子の存在は、マーキングが偽造防止用途向けに目立たないマーキングとして働くことができるように、比較的目立たなくてもよい。
【0063】
[0076]一部の例において、ナノ粒子は、近赤外域でフォトルミネセンスを示す発光材料などの発光材料で形成されるコアを含むことができ、またこのコアを任意選択で外層によって取り囲むことができる。具体的な用途に応じて、単一の発光材料又は異なる発光材料でコアを形成することができる。コアは、円筒形状、ディスク形状、球形、回転楕円体状、或いは他の任意の規則的又は不規則な形状など、様々な形状のいずれかを有することができ、下位nm範囲又は中間nm範囲など、ある範囲のサイズを有することができる。
【0064】
[0077]外層は環境から保護し、またコアを分離することができ、それによりコアに対する安定性が向上し、所望のフォトルミネセンス特性を長時間維持することができる。外層はまた、インク組成物を形成する際には溶媒又はポリマー結合剤との化学的適合性をもたらすことができ、それにより得られた組成物中におけるナノ粒子の分散が改善される。外層は、真性半導体、真性絶縁体、酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン及び酸化ジルコニウム)、金属、金属合金、表面配位子など、様々な無機及び有機材料のいずれかで形成することができる。したがって、例えば、コアを取り囲む酸化物シェルとして外層を形成することができる。別の例として、コアを取り囲む配位子層として外層を形成することができる。具体的な用途に応じて、外層を単一の材料で形成することも、又は異なる材料で形成することもできる。
【0065】
[0078]一部の例においては、外層がコアの表面を完全に覆ってコアの表面原子のすべてを覆うように、外層が「完全」であってもよい。或いは、外層がコアの表面を部分的に覆ってコアの表面原子を部分的に覆うように、外層が「不完全」であってもよい。外層は、サブnm範囲、下位nm範囲、中間nm範囲など、ある範囲の厚さを有することができる。外層の厚さを、外層を形成する材料の単一層の数に関して表現することもできる。したがって、例えば、外層の厚さは、約1〜約10単一層など、約0〜約20単一層の範囲内であってもよい。非整数の数の単一層は、外層が不完全な単一層を含む場合に対応することができる。不完全な単一層は、均一であっても不均一であってもよく、コアの表面にアイランド又はクランプを形成することができる。特定の用途に応じて、外層は、タマネギ状の構成内の同じ材料又は異なる材料で形成される複数の副層を含むことができる。
【0066】
偽造防止用途及び在庫品用途向けのマーキング
[0079]本発明の一部の実施形態は、偽造防止用途及び在庫品用途への発光材料の使用に関する。特に、発光材料で形成されたナノ粒子を使用して、物体用のマーキングを形成することができる。これらのマーキングは、複製が困難なセキュリティマーキングとして働くことができ、したがって、偽造防止用途において有利に使用することができる。例えば、これらのマーキングを使用して、それらのマーキングを有する物体が本物又は正本であるかどうか検証することができる。或いは、又は加えて、これらのマーキングは識別マーキングとして働くことができ、したがって、在庫品用途において有利に使用することができる。例えば、これらのマーキングを使用して、在庫品管理の一環としてそれらのマーキングを有する物体の身元又は場所を追跡することができる。
【0067】
[0080]本発明の一部の実施形態では、マーキングは、(1)空間的パターンと、(2)ナノ粒子のルミネセンス特性或いは他の光学又は非光学特性に基づき一組の署名を符号化するためのナノ粒子アレイとを含めた複数の要素を含むことができる。例えば、インク組成物を、その中に分散しているナノ粒子を含むように形成することができ、このインク組成物を関心のある物体上に印刷して、その上にマーキングを形成することができる。このマーキングは、バーコードなどの空間的パターン内に形成することができる。この空間的パターンは複製することができるが、マーキング内のナノ粒子のランダムな位置は、複製が困難又は事実上不可能である。図1は、本発明の一実施形態に従って形成したナノ粒子の3つの異なるランダムなアレイに照射することによって得ることができる3つの異なる画像100、102及び104を示す。図1に示すように、各アレイ内のナノ粒子のランダムな位置は、実質的に固有のフォトルミネセンスパターンを提供することができる。
【0068】
[0081]登録プロセスの一環として、マーキングの参照画像を、マーキングに照射することによって得ることができ、この参照画像を後の比較のために保存することができる。認証の目的のために、マーキングの認証画像を得ることができ、この認証画像を参照画像と比較することができる。これらの画像間に十分な一致がある場合には、マーキングを有する物体は本物又は正本であると見なすことができる。有利には、マーキングに含まれる空間的パターンを使用して、保存されている参照画像に関しての指標を導き出すことができ、この指標を使用して、後に続く画像の比較のために参照画像を選択する又は標的にすることができる。このようにして、この指標により、時間をかけて複数の参照画像を検索する必要性を回避しながら画像を素早く適合させることが可能となる。
【0069】
[0082]一部の例においては、フォトルミネセンス特性或いは他の光学又は非光学特性が異なるナノ粒子の混合物を含むようにマーキングを形成することができる。特に、異なる元素組成を提供することによって、或いは異なる濃度又は種類のドーパントを提供することによってなど、いくらか異なる発光材料でナノ粒子を形成することができる。図2は、異なる発光スペクトルを有するナノ粒子の相対的比率を調節することによって得ることができるスペクトル符号化を示す。図2に示すように、これらの異なる発光スペクトルは、所望のレベルまで調整することができるそれぞれの強度を有する複数の色を提供することができる。
【0070】
マーキングの形成
[0083]様々な方法を使用して、本明細書中に記載されているマーキングを形成することができる。一部の例においては、コーティング、インク又はワニス組成物を、その中に分散している一組のナノ粒子を含むように形成することができる。この組成物は、以下の成分、溶媒、分散剤(例えば、カップリング剤)、湿潤剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、高分子界面活性剤、他の任意の適切なイオン性又は非イオン性界面活性剤などの界面活性剤)、ポリマー結合剤(又は他のビヒクル)、消泡剤、防腐剤、安定剤及びpH調整剤のうちの1つ又は複数と共に、顔料(pigment)としてナノ粒子を含むことができる。次に、コーティング又は印刷技法を使用して、基板として働く関心のある物体(或いは、この関心のある物体と結合している又はこの関心のある物体を取り囲む別の物体)上にこの組成物を塗布した。したがって、例えば、ローラコーティング又はスプレーコーティングなど、標準的なコーティング技法を用いて、或いはインクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、凹版印刷、スクリーン印刷など、標準的な印刷技法を用いてマーキングを形成することができる。標準的なコーティング又は印刷技法を用いると、空間的パターン内にランダムなアレイとしてナノ粒子を堆積させることができ、これにより画像を素早く適合させることが可能となる。
【0071】
[0084]より高いセキュリティレベルを実現するために、インク組成物が、化学分析技法を使用する場合に組成に関する混合組成シグネチャ(signature)を提供する一組の不活性なマスキング剤を含むことができる。また、この組成物は、比較的低い濃度のナノ粒子(例えば、マーキング当たり数マイクログラム)を含むことができ、したがって化学分析が困難となる。
【0072】
[0085]関心のある物体(或いは、この関心のある物体と結合している又はこの関心のある物体を取り囲む別の物体)内にナノ粒子を組み込むことによって、マーキングを形成することができることも考えられる。したがって、例えば、後に堆積させるのではなく、関心のある物体の形成時にナノ粒子を組み込むことができる。特に、ナノ粒子を含むマトリックス材料を、フィルム、スラブ又は他の任意の形状に成形することができる。マトリックス材料は、ナノ粒子によって発生する放出光を得られた画像内で区別することができるように、望ましくは実質的に透明である。例えば、マトリックス材料は、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのポリマー、又はケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラスなどの無機ガラスを含むことができる。マトリックス材料が実質的に透明である必要はなく、例えば、紙を含むことができることが考えられる。厚さ約10μm以下の薄膜などの薄膜の場合には、ナノ粒子を、単一光学平面内の2次元アレイとして効果的に見ることができる。より厚い被膜又は自立スラブの場合には、ナノ粒子を3次元アレイとして見ることができる。この場合、ナノ粒子の結果として得られる画像は、視野角に依存する。必要に応じて、複数の方向及び角度からナノ粒子を見ることができ、その結果異なる画像がもたらされる。
【0073】
セキュリティシステム
[0086]図3は、本発明の一実施形態に従って実施することができるシステム300を示す。以下でさらに説明するように、消費者製品、クレジットカード、IDカード、パスポート、通貨などの物体の偽造を防止する又は低減するために、システム300をセキュリティシステムとして作動させることができる。
【0074】
[0087]図3に示すように、システム300は、サイトA302、サイトB304及びサイトC306を含む複数のサイトを備える。サイトA302、サイトB304及びサイトC306は、任意の有線又は無線の通信チャネルを介してコンピュータネットワーク308に接続されている。図示した実施形態においては、サイトA302は、物体310についての製造サイト、流通サイト又は小売りサイトであり、サイトB304は、物体310についての認証及び登録サイトであり、サイトC306は、顧客が位置するサイトである。図3は、物体310をサイトC306に位置するものとして示しているが、物体301は、サイトC306に搬送される前に最初はサイトA302に位置することができることが考えられる。
【0075】
[0088]システム300を用いて実行することができる一連の動作を参照して、図示した実施形態をさらに理解することができる。第1に、サイトA302では、マーキング312を物体310(或いは、物体310と結合している又は物体310を取り囲む別の物体)に適用する。マーキング312は、バーコードなどの空間的パターン内に形成され、フォトルミネセンスを示すナノ粒子のランダムなアレイを備える。登録プロセスの一環として、光学検出器314を用いてマーキング312の参照画像を得ると共に、登録依頼に伴ってこの参照画像をサイトB304に送信する。この参照画像は、空間的パターンを示すものと共に、ナノ粒子のランダムなアレイによって発生するフォトルミネセンスパターンを含む。一部の例においては、光学検出器314についての様々な設定を用いてマーキング312の複数の参照画像を得ることができる。
【0076】
[0089]第2に、サイトB304がこの参照画像を受信し、後の比較のために参照画像を保存する。画像を素早く適合させることを可能とするために、空間的パターンを使用して、保存されている参照画像に関しての指標を導き出す。図3に示すように、サイトB304はコンピュータ316を含み、このコンピュータ316は、ウェブサーバなどのサーバコンピュータであってもよい。コンピュータ316は、メモリ320に接続されている中央演算処理装置(「CPU」)318を含めた、標準的なコンピュータ構成部品を備える。メモリ320は、参照画像が保存されているデータベースを備えることができる。メモリ320は、様々な画像処理作業を行うためのコンピュータコードを備えることもできる。
【0077】
[0090]第3に、サイトC306では、顧客が、物体310が本物又は正本であるかどうかを検証することを望んでいることがある。認証プロセスの一環として、光学検出器322を用いてマーキング312の認証画像を得ると共に、認証依頼に伴ってこの認証画像をサイトB304に送信する。参照画像と同様に、認証画像は、空間的パターンを示すものと共に、ナノ粒子のランダムなアレイによって発生するフォトルミネセンスパターンを含む。光学検出器322は、参照画像を得る際に光学検出器314に使用する同様の設定を用いて動作させることができる。必要に応じて、認証画像は、参照画像よりも低い解像度にあっても、また参照画像よりも高い圧縮レベルにあってもよい。一部の例においては、顧客又は物体310の位置を決定することができるように、グローバルポジショニングの座標を認証依頼に含めることができる。
【0078】
[0091]次に、サイトB304がこの認証画像を受信し、この場合もやはり空間的パターンに基づく指標を導き出す。この指標をメモリ320へのルックアップ(look−up)として使用して、認証画像との比較用の参照画像を選択する。このようにして、この指標により、時間をかけて複数の参照画像を検索する必要性を回避しながら画像を素早く適合させることが可能となる。認証画像が参照画像と十分に適合する(例えば、特定の確率の範囲内にある)場合、サイトB304は、物体310が本物であることを確認するメッセージを、サイトC306にいる顧客に送信する。このような確認に加えて、サイトB304は、製造日、製造場所、有効期限など、物体に関連する他の情報を送信することができる。一方、認証画像が参照画像と(又は他の参照画像とも)十分に適合しない場合、サイトB304は、物体310が本物であることを確認することができない旨(又は物体310が複製物である可能性が高い旨)を示すメッセージを送信する。サイトB304は、偽造のレベルを監視することができるように、認証情報をサイトA302に送信することもできる。
【0079】
[0092]一部の構成部品及び動作を特定の場所に関して説明してきたが、これらの構成部品及び動作を他の様々な場所で同様に実施することができることが考えられる。したがって、例えば、サイトA302、サイトB304及びサイトC306に関して説明した一部の構成部品及び動作を、同じ場所で、又は図3に示されていない別の場所で実施することができる。また、システム300をセキュリティシステムに関して説明してきたが、在庫品管理の一環として様々な物体の身元又は場所を追跡するために、システム300を在庫品システムとして作動させることもできることが考えられる。
【実施例】
【0080】
[0093]下記実施例では、当業者に図示し説明するために、本発明の一部の実施形態の具体的な態様を説明する。これらの実施例は、単に本発明の一部の実施形態を理解し実施する際に有用な具体的な方法を提供するためのものであるため、本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【0081】
実施例1
発光材料の形成
[0094]無水SnCl(又はSnCl・HO)を粉末状のCsIと混合し、その後標準的なペレットプレス(直径5cm、厚さ5mm、圧力8トン)でプレスした。CsIに対するSnCl(又はSnCl・HO)の比率は、0.1〜99.5重量パーセントの範囲内であった。その後、得られた材料(ペレット状又は粉末状)を、フォトルミネセンスについて試験した。
【0082】
実施例2
発光材料の形成
[0095]SnBr(又はSnI)を粉末状のCsIと混合した。CsIに対するSnBr(又はSnI)の比率は、10〜90重量パーセントの範囲内であった。その後、得られた粉末状の材料を、近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。
【0083】
実施例3
発光材料の形成
[0096]Snを粉末状のCsIと混合し、その後標準的なペレットプレス(直径5cm、厚さ5mm、圧力8トン)でプレスした。CsIに対するSnの比率は、0.1〜99.5重量パーセントの範囲内であった。その後、得られた材料(ペレット状又は粉末状)を、フォトルミネセンスについて試験した。
【0084】
実施例4
発光材料の形成
[0097] 無水SnIをCsIと標準的なジャーミル内で混合し、その後1時間〜24時間粉砕した。CsIに対するSnIの比率は1〜99重量パーセントの範囲内であった。その後、得られた材料を、近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。
【0085】
実施例5
発光材料の形成
[0098]無水SnClをCsIと混合し、CsIに対するSnClの比率を1〜20重量パーセントの範囲内とした。得られた混合物を、80℃〜350℃の範囲内の温度まで、酸素がない状態で1/4時間〜3時間加熱した。その後、得られた材料を、近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。
【0086】
実施例6
発光材料の形成
[0099]無水Snlを固体状のCsIと混合し、CsIに対するSnIの比率を1〜50重量パーセントの範囲内とした。得られた混合物を、80℃〜300℃の範囲内の温度まで加熱した。その後、得られた材料を、近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。
【0087】
実施例7
発光材料の形成
[00100]無水SnBrを固体状のCsIと混合し、CsIに対するSnBrの比率を1〜50重量パーセントの範囲内とした。得られた混合物を、80℃〜300℃の範囲内の温度まで加熱した。その後、得られた材料を、近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。
【0088】
実施例8
発光材料の形成
[00101]様々なスズ(II)化合物を乾燥混合によってCsIと混合して着色材料を形成し、その後これらの着色材料を近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。スズ(II)化合物には、SnF、SnO、SnSO、Sn(PO、Sn(PO、Sn(C)及びSn(CFSOが含まれ、CsIに対する各スズ(II)化合物の比率は、1〜99重量パーセントの範囲内であった。
【0089】
実施例9
発光材料の形成
[00102]絶え間なく撹拌しながら溶媒(エタノール)にSnCl・5HOを溶解させ、その後SnClの第1の分量(aliquot)を添加し、第1の分量が溶解した後SnClの第2の分量を添加することによって、SnCl・5HOとSnClとの混合溶液を調製した。SnCl・5HOの量は、0.5〜2.5重量パーセントの範囲内であった。各分量についてのSnClの量は、0.5〜3.5重量パーセントの範囲内であった。溶解後、得られた溶液を1時間〜1,000時間撹拌した。その後、この溶液に、SnClに対して0.2〜12重量パーセントの比率で固体状のCsIを絶え間なく撹拌しながら添加した。40℃で作動する標準的な真空蒸発器(Rotovap)を用いて、乾燥するまで溶媒を蒸発させた。その後、得られた材料を、近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。
【0090】
実施例10
発光材料の形成
[00103]1〜5重量パーセントの量の無水SnCl(又はSnCl・HO)を、絶え間なく撹拌しながら溶媒(イソプロパノール)に溶解させた。溶解後、SnCl(又はSnCl・HO)に対して1〜10重量パーセントの比率のCsIを、絶え間なく撹拌しながら添加した。得られた溶液を1時間よりも長く撹拌し、標準的な真空蒸発器(Rotovap)を用いて、乾燥するまで溶媒を蒸発させた。30℃〜130℃の範囲内の温度で作動する真空オーブン又は窒素を充填したオーブン内で得られた固体を乾燥させた。その後、得られた材料を、近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。
【0091】
実施例11
発光材料の形成
[00104]Sn(CHSOの50パーセント溶液10mlをフラスコに加えた。その後、このフラスコにHOを20ml加え、旋回混合した。CsIをHO5mlに飽和するまで溶解させ、その後フラスコに素早く添加した。黒い沈殿物が形成された。フラスコを旋回混合し、中型フリット漏斗を通して40秒未満で溶液をろ過した。沈殿物をイソプロパノールで4回洗浄し、その後ヘキサンで4回洗浄した。洗浄した沈殿物を2分間でろ過し、その後減圧デシケータ内で4時間よりも長く乾燥させた。その後、得られた黒い材料を、近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。
【0092】
実施例12
発光材料の形成
[00105]実施例11のろ液を遠心分離機にかけて、黄色い沈殿物を形成した。この黄色い沈殿物をヘキサンで二度洗浄し、その後40℃で作動する真空オーブンを用いて3時間乾燥させた。その後、得られた黄色い材料を近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。
【0093】
実施例13
発光材料の形成
[00106]様々なスズ(II)化合物を溶液中のCsIと混合して着色材料を形成し、これらの着色材料を近赤外域におけるフォトルミネセンスについて試験した。スズ(II)化合物には、SnF、SnBr、SnI、SnO、SnSO、Sn(PO、Sn(PO、Sn(C)、Sn及びSn(CFSOが含まれ、CsIに対する各スズ(II)化合物の比率は、1〜99重量パーセントの範囲内であった。使用した溶媒には、水、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、n−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド及びブタノールが含まれていた。ろ過、遠心分離又は蒸発によって、得られた着色材料を分離した。
【0094】
実施例14
発光材料の形成及び特性決定
[00107]様々なスズ含有化合物をCsIと、それらだけを、又は安定剤、界面活性剤、ポリマー結合剤など他の材料と混合した。混合は、乾燥混合によって、又は溶液中で行った。その後、得られた材料を、532nmの励起波長を用いてフォトルミネセンスについて試験した。以下の表1は、得られた材料のフォトルミネセンス特性と共に、使用した成分及び加工条件を示す。表1を参照すると、スズ含有化合物の量は、使用したスズ含有化合物及びCsIの総重量に対する重量分率として表される。表1を参照すると理解されるように、フォトルミネセンス特性が、異なる成分及び加工条件を使用した結果として変動することが観測された。例えば、ピーク発光波長が、異なるスズ(II)化合物を使用した結果として約910nm〜約980nmの範囲内で変動すること観測された。特に、ピーク発光波長は、スズ(II)化合物に由来するアニオン種と相関関係にあることが観測され、発光波長が増大する順にF−1、Cl−1、Br−1、I−1及びCHSO−1に対応していた。
【0095】
【表1−1】


【表1−2】


【表1−3】


【表1−4】


【表1−5】


【表1−6】


【表1−7】


【表1−8】


【表1−9】


【表1−10】


【表1−11】


【表1−12】


【表1−13】


【表1−14】

【0096】
実施例15
発光材料の形成
[00108]様々なハロゲン化インジウムをハロゲン化セシウム(I)と混合して着色材料を形成し、その後これらの着色材料をフォトルミネセンスについて試験した。ハロゲン化インジウムには、InI、InBr、InCl、InClが含まれ、ハロゲン化セシウム(I)にはCsI、CsBr及びCsClが含まれていた。
【0097】
実施例16
発光材料の形成及び特性決定
[00109]様々なハロゲン化インジウムをCsIと混合して着色材料を形成し、その後これらの着色材料をフォトルミネセンスについて試験した。ハロゲン化インジウムにはInIが含まれ、総重量に対する各ハロゲン化インジウムの重量分率は、0.01〜0.8の範囲内にあった。得られた材料は、約700nm〜約715nmの範囲内の光を放出することが観測された。得られた材料の形成時の加熱は、放出光の強度を増大させることが観測された。一部の例においては、温度約225℃の窒素雰囲気中で約2時間加熱を行った。
【0098】
実施例17
発光材料の形成及び特性決定
[00110]様々な銀含有化合物、ビスマス含有化合物、銅含有化合物、ゲルマニウム含有化合物、インジウム含有化合物、スズ含有化合物及びバナジウム含有化合物を、ハロゲン化アルカリと混合した。その後、得られた材料を、532nmの励起波長又は紫外域の励起波長を用いてフォトルミネセンスについて試験した。以下の表2は、得られた材料のフォトルミネセンス特性と共に、使用した成分及び加工条件を示す。表2を参照すると理解されるように、フォトルミネセンス特性が、異なる成分及び加工条件を使用した結果として変動することが観測された。例えば、スズ(II)化合物の場合、ピーク発光波長がハロゲン化アルカリに含まれる金属種と相関関係にあることが観測され、発光波長が増大する順にカリウム、ルビジウム及びセシウムに対応していた。
【0099】
【表2−1】


【表2−2】

【0100】
実施例18
発光材料の特性決定
[00111]スズ(II)化合物をCsIと混合することによって発光材料を調製し、この発光材料の光学特性を標準的な技法に従って測定した。
【0101】
[00112]特に、光源及び一対の分光計を備える実験装置を用いてフォトルミネセンス特性を測定した。分光計のうち第1の分光計を使用して発光材料に入射する光を特徴付け、一方分光計のうち第2の分光計を使用して発光材料によって放出される光を特徴付ける。図4は、ある励起波長域について得られた発光スペクトルを示す。図4を参照すると理解されるように、この発光材料は、強度が高く、スペクトル幅がFWHMで約100nm未満と狭く、ピーク発光波長が約930nm〜約980nmの範囲内にある光を放出した。また、これらのフォトルミネセンス特性は、約200nm〜約950nmの範囲内の励起波長の変化に対して比較的非感受性であった。この非感受性は、図5を参照するとさらに評価することができる。図5は、この発光材料の励起波長を示す。図5を参照すると、励起スペクトルは、約200nm〜約980nmの範囲内の励起波長について実質的に平坦である。
【0102】
[00113]標準的な技法に従って発光材料の吸収特性も測定した。特に、発光材料の吸収スペクトルを得ると共に、図4及び図5に示すスペクトルに重ね合わせた。
【0103】
実施例19
発光材料の特性決定
[00114]様々な成分及び混合技法を用いて発光材料を形成し、実施例15について上で説明したのと同様にしてそれらの材料のフォトルミネセンス特性を測定した。図6は、それら材料の一部について得られた発光スペクトルを示す。図6を参照すると理解されるように、使用する成分及び混合技法を調節することによって、フォトルミネセンス特性を所望のレベルまで容易に調整した。特に、ピーク発光波長を、約910nm〜約980nmの範囲内となるように容易に調整した。図7は、それらの材料の別の一部について得られた発光スペクトルを示す。図7を参照すると理解されるように、ピーク発光波長を、約701nm〜約713nmの範囲内となるように容易に調整した。
【0104】
実施例20
インク組成物の形成
[00115]ポリエチレンとドコサンとの溶融混合物を調製し、ポリエチレン対ドコサンの重量比を2対1とした。この溶融混合物に、発光材料で形成されたナノ粒子を添加し、溶融混合物に対するナノ粒子の比率を、溶融混合物2重量部当たりナノ粒子1重量部など、1,000重量部当たり1重量部から最大等重量部の範囲内とした。次いで、得られたインク組成物を、標準的なコーティング又は印刷技法を用いて1枚の紙に塗布した。
【0105】
実施例21
発光材料の形成及び特性決定
[00116]真空蒸着システムを用いて発光材料を調製した。これらの発光材料は、25mm平方のホウケイ酸塩ガラススライドなどの基板上の被膜として形成した。特に、試薬用SnClを第1のベルジャー熱蒸発器ボートに設置し、試薬用CsIを第2の熱蒸発器ボートに設置した。蒸発器ボートは共に、タングステンで形成されていた。この系を、1×10−5torr未満の圧力まで排気した。SnClを含む熱蒸発器ボートを電気的に加熱して、1nm/秒など、0.1nm/秒〜10nm/秒の範囲内にあるSnClの蒸着速度を得た。SnCl含有層の蒸着は、300nmなど、100nm〜1,500nmの範囲内の厚さまで継続した。所望の厚さを得た後、SnClを含む熱蒸発器ボートへの電流を停止し、CsIを含む熱蒸発器ボートに電流を流した。CsIの蒸気圧はSnClよりも低く、したがって、より多くの電流を流して、1nm/秒など、0.1nm/秒〜10nm/秒の範囲内にあるCsIの蒸着速度を得た。CsI含有層の厚さは、300nmなど、100nm〜1,500nmの範囲内であった。CsIに対するSnClの厚さの比率は、0.1〜10の範囲内で変化させた。SnCl層及びCsI層の蒸着が完了した後、系を大気条件に開放した。得られた材料は、約930nm又は約950nmのピーク発光波長を有するなど、900nm〜1μmの範囲内の光を放出することが観測された。一部の場合には、120℃〜350℃の範囲内の温度で2分〜1時間窒素でパージしたオーブン内で加熱することによってなど、アニーリングによって放出光の強度を高めた。典型的なアニーリングプロセスは、210℃まで10分間の30℃/分のランプ速度、及び20℃/分のランプ速度での冷却を含んでいた。
【0106】
実施例22
発光材料の形成及び特性決定
[00117]真空蒸着システムを用いて発光材料を調製した。試薬用SnBrを第1のベルジャー熱蒸発器ボートに設置し、試薬用CsIを第2の熱蒸発器ボートに設置した。加工条件は、実施例21で説明した加工条件と同様である。得られた材料は、約700nmのピーク発光波長を有するなど、700nm〜800nmの範囲内の光を放出することが観測された。
【0107】
実施例23
発光材料の形成及び特性決定
[00118]真空蒸着システムを用いて発光材料を調製した。試薬用SnBrを第1のベルジャー熱蒸発器ボートに設置し、試薬用CsIを第2の熱蒸発器ボートに設置した。その後、SnBr及びCsIを順に蒸発させ、基板上に蒸着させた。SnBr蒸着層及びCsI蒸着層に、200℃未満の温度で20分未満のアニーリングを施した。得られた材料は、約700nmのピーク発光波長を有する光を放出することが観測された。アニーリング温度がより高く、アニーリング時間がより長くなると、約930nmのピーク発光波長を有する材料がもたらされることが観測された。
【0108】
実施例24
発光材料の形成
[00119]真空蒸着システムを用いて発光材料を調製した。試薬用SnCl及び試薬用CsIを混合し、その後、単一のベルジャー熱蒸発器ボートに設置した。SnClとCsIとの混合物を基板上に共蒸発及び共蒸着させて、発光材料を得た。
【0109】
実施例25
発光材料の形成
[00120]真空蒸着システムを用いて発光材料を調製した。試薬用SnCl及び試薬用CsIを混合し、その後、210℃を超える温度で事前に溶融させた。この事前に溶融させた混合物を基板上に蒸発及び蒸着させて、発光材料を得た。
【0110】
実施例26
発光材料の形成及び特性決定
[00121]SnCl及びCsIを蒸発及び蒸着させることによって発光材料を調製した。SnCl及びCsIの蒸着は、Oガス流を用いて行った。このOガス流を、10立方センチメートル毎分(「sccm」)から200sccmまで変動させた。蒸着時のOガスの使用は、結果として得られるフォトルミネセンスの強度及び安定性を高めることが観測された。
【0111】
実施例27
発光材料の形成及び特性決定
[00122]SnCl及びCsIを蒸発及び蒸着させることによって発光材料を調製した。SnCl及びCsIの蒸着は、Oガス流を用いて行い、その後、Oガス流を継続した状態でスズ金属の層を蒸着させた。スズ金属含有層の厚さは、10nm〜250nmの範囲内であった。その後、150°〜300°の範囲内の温度の窒素雰囲気中で、2分〜1時間蒸着層をアニールした。最初は金属であった被膜が透明又は半透明となり、金色から、青色、銀色へと様々な色に及んだ。スズ金属の蒸着は、結果として得られるフォトルミネセンスの強度及び安定性を高めることが観測された。TiO、SnO、Ta、BaTiO、Pd、Ag、Au、Cu、Sn、SiN、SiO、MgO、BaSi、半導体、ポリマー類、コーティング及びカプセル化に使用する材料など他の材料を、スズ金属の代わりに、又はスズ金属と併せて蒸着することができる。
【0112】
実施例28
発光材料の形成
[00123]SnCl及びCsIを蒸発及び蒸着させることによって発光材料を調製した。SnCl及びCsIの蒸着は、Oガス流を用いずに行い、その後、Oガス流を用いてスズ金属の層を蒸着させた。
【0113】
実施例29
発光材料の形成
[00124]熱蒸発器ボート(Alオーバーコート有り又は無しのタングステン)と、電子ビーム蒸発器ボート(黒鉛るつぼ)とを備える真空蒸着システムを用いて発光材料を調製した。試薬用SnCl(0.25g〜2.5g)を熱蒸発器ボートに設置し、試薬用CsI(0.25g〜2.5g)を電子ビーム蒸着用の黒鉛るつぼに設置した。SnClとCsIとの質量比を0.1〜10の範囲内で変化させた。SnClは粉末として、又は事前溶融物(pre−melt)として使用した。この事前溶融物は、窒素雰囲気中で10分間、240℃〜260℃の範囲内の温度でSnCl粉末を加工することによって調製した。CsIは粉末として、又は1cmのペレットとして使用した。ペレットは、液圧プレスを用いて2×10Pa〜3×10Paの範囲内の圧力で調製した。この系を、2×10−5torr未満など、5×10−6torr〜5×10−4torrの圧力まで排気した。5.5Aなど、5A〜6Aの範囲内の電流を用いて、まず熱蒸発を行った。次に、1mAなど、0.5mA〜10mAの範囲内の電流を用いて、電子ビーム蒸着を行った。電子ビーム蒸着用の高圧設定は、5.25kVなど、4.5kV〜5.5kVの範囲内であった。電子ビーム掃引制御も使用した。得られた蒸着速度は、SnClについては0.2nm/秒〜2nm/秒、CsIについては0.5nm/秒〜3nm/秒であった。蒸着が完了したら、系を空気又は窒素で開放し、得られた材料はシステム内にさらに10分〜15分間放置した。プロファイリングシステムを用いると、500nm〜2,000nmの全厚さが測定された。
【0114】
実施例30
発光材料の形成
[00125]真空蒸着システムを用いて発光材料を調製した。SnCl含有層の厚さは20nm〜1,000nmの範囲内、CsI含有層の厚さは50nm〜1,000nmの範囲内であった。CsIに対するSnClの厚さの比率を、0.02〜20の範囲内で変動させた。加工条件は、実施例29に記載されている加工条件と同様であった。
【0115】
実施例31
発光材料の形成
[00126]実施例29に記載されている加工条件と同様の加工条件を使用して、SnCl層及びCsI層を形成した。次に、Al粉末を黒鉛るつぼ内に設置し、その後、35mA〜45mAの範囲内の電流による電子ビーム掃引を用いて事前に溶融させた。このプロセスを10分〜15分間行った。その後、電子ビーム蒸着を用いてSnCl層及びCsI層上にAlオーバーコートを蒸着させた。この電子ビーム蒸着は、30mA〜40mAの範囲内の電流及び5.25kVの高圧設定で行い、これにより0.05nm/秒〜0.15nm/秒の蒸着速度が生じた。50nm〜200nmの全厚が得られた。Alオーバーコートは、結果として得られるフォトルミネセンスの強度及び安定性を高めるように働く。
【0116】
実施例32
発光材料の形成
[00127]実施例29に記載されている加工条件と同様の加工条件を使用して、SnCl層及びCsI層を形成した。次に、SiO結晶性チャンク(chunk)を黒鉛るつぼ内に設置し、その後、電子ビーム蒸着を用いてSiOを蒸発させた。この電子ビーム蒸着は、8mA〜12mAの範囲内の電流及び5.25kVの高圧設定で行い、これにより0.5nm/秒〜0.8nm/秒の蒸着速度が生じた。50nm〜200nmの全厚が得られた。SiOオーバーコートは、結果として得られるフォトルミネセンスの強度及び安定性を高めるように働く。TiO、SnO、Ta、BaTiO、Pd、Ag、Au、Cu、Sn、SiN、SiO、MgO、BaSi、半導体、ポリマー類、コーティング及びカプセル化に使用する材料など他の材料を、SiOの代わりに、又はSiOと併せて蒸着することができる。
【0117】
実施例33
発光材料の形成
[00128]実施例29に記載されている加工条件と同様の加工条件を使用するが、SnCl及びCsIの蒸着順序を逆にする。
【0118】
実施例34
発光材料の形成
[00129]実施例29に記載されている加工条件と同様の加工条件を使用するが、複数のSnCl蒸着層、複数のCsI蒸着層、又は両方を用いる。各層を蒸着する間の典型的な時間は、1分〜2分である。
【0119】
実施例35
発光材料の形成
[00130]実施例29に記載されている加工条件と同様の加工条件を使用するが、SnClとCsIとを同時に蒸着させる。各層を蒸着する間の典型的な時間は、1分〜2分である。
【0120】
実施例36
発光材料の形成
[00131]実施例29に記載されている加工条件と同様の加工条件を使用する。SnCl及びCsIの蒸着が完了した後、150℃〜350℃の範囲内の温度で5分〜2時間、窒素でパージしたオーブン内で加熱することによって、得られた材料にアニーリングを施す。典型的なアニーリングプロセスは、5℃/分〜50℃/分のランプ速度を含む。
【0121】
実施例37
発光材料の形成
[00132]実施例29に記載されている加工条件と同様の加工条件を用いて、様々な基板上に発光材料を形成する。基板の例には、シリコンウエハ、ゲルマニウムウエハ、GaAsウエハ、並びにホウケイ酸塩ガラス、ミクロに粗い(micro−roughened)ガラス、シリカ、多結晶Al、MgO、SrTiO、酸化インジウムスズ(「ITO」)、サファイア及びLiFで形成された基板が含まれる。これらの基板は、25mm×25mm又は25mm×75mmの寸法を有する。
【0122】
実施例38
発光材料の形成
[00133]実施例31に記載されている加工条件と同様の加工条件を使用するが、複数のAlオーバーコート層を使用する。各オーバーコート層を蒸着する間の典型的な時間は、1分〜2分である。
【0123】
実施例39
発光材料の形成
[00134]実施例32に記載されている加工条件と同様の加工条件を使用するが、複数のSiOオーバーコート層を使用する。各オーバーコート層を蒸着する間の典型的な時間は、1分〜2分である。
【0124】
実施例40
発光材料の特性決定
[00135]セシウム、スズ及びヨウ素を含む発光材料を調製し、標準的な技法に従ってこの発光材料の光学特性を測定した。図8は、電子ボルト(「eV」)で表されるある光子エネルギー範囲について得られた発光スペクトル及び励起スペクトルを示す。図8を参照するとわかるように、この発光材料は、高強度で、スペクトル幅がFWHMで約50meVと狭く、ピーク発光波長が約930nmである光を放出した。また、これらのフォトルミネセンス特性は、紫外域から発光バンドまでの励起波長の変化に対して比較的非感受性であった。これらのフォトルミネセンス特性は、青色領域又は紫外線領域など、より短波長の光を通常放出するスズをドープした標準的なCsIのフォトルミネセンス特性とは異なっている。この発光材料の吸収特性も、標準的な技法に従って測定した。特に、この発光材料の吸収スペクトルを得たら、図8に示すスペクトル上に重ね合わせる。図8を参照すると理解されるように、この発光材料の発光バンドは吸収バンド端に、又は吸収バンド端近くに位置している。
【0125】
実施例41
発光材料の特性決定
[00136]セシウム、スズ及び臭素を含む発光材料を調製し、標準的な技法に従ってこの発光材料の光学特性を測定した。図9は、ある光子エネルギー範囲について得られた発光スペクトルを示す。図9を参照するとわかるように、この発光材料は、高強度で、スペクトル幅が狭く、ピーク発光波長が約700nmである光を放出した。これらのフォトルミネセンス特性は、青色領域又は紫外線領域など、より短波長の光を通常放出するスズをドープした標準的なCsBrのフォトルミネセンス特性とは異なっている。この発光材料の吸収特性も、標準的な技法に従って測定した。特に、この発光材料の吸収スペクトルを得たら、図9に示すスペクトル上に重ね合わせる。図9を参照すると理解されるように、この発光材料の発光バンドは吸収バンド端に、又は吸収バンド端近くに位置している。
【0126】
実施例42
発光材料の特性決定
[00137]セシウム、スズ及びヨウ素を含む発光材料を調製し、この発光材料の光学特性を異なる温度で測定した。図10は、ある温度範囲について得られた発光スペクトルを示す。図10を参照するとわかるように、この発光材料のピーク発光波長は、温度が上昇するにつれて減少した。温度によるピーク発光波長のこの変化は、温度が上昇するにつれて増大するピーク発光波長を通常有する多くの標準的な材料の変化とは異なる。
【0127】
実施例43
発光材料の特性決定
[00138]セシウム、鉛(II)及びヨウ素を含む発光材料(CsPbI)を調製し、標準的な技法に従ってこの発光材料の光学特性を測定した。図11は、ある波長域について得られた発光スペクトルを示す。図11を参照するとわかるように、この発光材料は、高強度で、スペクトル幅が狭く、ピーク発光波長が約700nmである光を放出した。
【0128】
実施例44
発光材料の特性決定
[00139]セシウム、ゲルマニウム(II)及びヨウ素を含む発光材料を調製し、標準的な技法に従ってこの発光材料の光学特性を測定した。図12は、ある波長域について得られた発光スペクトルを示す。図12を参照するとわかるように、この発光材料は、高強度で、スペクトル幅が狭く、ピーク発光波長が約700nmである光を放出した。
【0129】
実施例45
発光材料の特性決定
[00140]Bが第IVB族の元素ではない発光材料が、より大きいスペクトル幅を有することが観測されることがあった。特に、セシウム、インジウム(I)及びヨウ素を含む発光材料を調製し、標準的な技法に従ってこの発光材料の光学特性を測定した。図13は、ある波長域について得られた発光スペクトルを示す。図13を参照するとわかるように、この発光材料は、100meVを超えるスペクトル幅を有する光を放出した。励起スペクトル(図13には示さず)が、ある励起波長域内に一組の狭帯域を含むことが観測された。
【0130】
実施例46
発光材料の形成特性決定
[00141]実施例21に記載されている加工条件と同様の加工条件を使用して、セシウム、スズ及びヨウ素を含む発光材料を調製し、標準的なX線回折(「XRD」)技法に従ってこの発光材料を特徴付けた。図14は、この発光材料について得られたXRDパターンを示す。この発光材料のXRDパターンを、標準的なCsSnI(図15Aに示す)、標準的なCsSnCl(図15Bに示す)及び、標準的なCsSnBr(図15Cに示す)を含めた様々な標準的な材料のXRDパターンと比較したが、適合しなかった。XRDパターンの差異は、この発光材料が標準的な材料に対して異なる微細構造を有することを示している。
【0131】
[00142]また、この発光材料を、顕微鏡も用いて特徴付けた。この発光材料は、近赤外域の光を放出することが観測され、顕微鏡下では結晶性であるように見えた。633nmのレーザ光を照射すると、この発光材料は、850nm〜1,000nmの範囲内の波長に対して感度が高い赤外線カメラで見ると、明るく見えた。
【0132】
[00143]上述の本発明の諸実施形態は例として提供されるもので、他の様々な諸実施形態が本発明に包含されることを理解されたい。例えば、本発明の一部の実施形態を偽造防止用途及び在庫品用途について説明してきたが、本明細書中に記載されている発光材料を様々な他の用途に使用することができることが考えられる。特に、光起電デバイス、光導電体、光検出器、発光ダイオード、レーザ、それらの作動時にフォトン及び電荷キャリアが関与する他のデバイスに関連する用途など、様々な光電子用途にとって発光材料を望ましいものにするバンドギャップエネルギー、電気伝導率及び他の特性を発光材料が有することがあることが考えられる。
【0133】
[00144]例えば、本明細書中に記載されている発光材料を、太陽光変換材料として光起電デバイスにおいて有利に使用することができる。特に、これらの発光材料は、広範囲の太陽光波長を吸収することができ、また吸収した太陽放射をピーク発光波長に変換することができる。このピーク発光波長は、光起電デバイス内のシリコンなどの半導体材料のバンドギャップと適合する(例えば、バンドギャップの、又はバンドギャップ近くの)エネルギーを有することがある。この太陽光変換プロセスにより、シリコン光起電デバイスの理論効率を31パーセントから41パーセントに上昇させることができる。効率のさらなる向上は、太陽光変換集光器を用いてもたらすことができ、広い面積から吸収した太陽放射を半導体材料の狭い面積へと集光する。
【0134】
[00145]当業者は、本明細書中に記載されている諸実施形態を展開する際に追加の説明を必要としないが、それでもなお、参照によりその開示全体が本明細書中に援用される、「Authenticating and Identifying Objects Using Nanoparticles」という名称の、2005年9月12日に出願されたMidgleyらの特許出願、米国仮特許出願第60/716,656号を調べることによっていくらか役に立つ指針を見出すことができる。
【0135】
[00146]本発明をその特定の諸実施形態について説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を加えることも、均等物に置き換えることもできることを当業者には理解されたい。加えて、特定の状況、材料、組成物、方法又はプロセスを本発明の目的、精神及び範囲に適合させるために、多くの変更を加えることができる。このような変更はすべて、本明細書に添付されている特許請求の範囲の範囲内にあるものとする。特に、本明細書中に開示されている方法を、特定の順序で行われる特定の操作を参照して本明細書中で記載してきたが、これらの操作を組み合わせて、さらに分割して、又は並べ替えて、本発明の教示から逸脱することなく均等な方法を形成することができることが理解されよう。したがって、本明細書において特に指示がない限り、これらの操作の順序及びグループ化は本発明の限定にはならない。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の一実施形態による、ナノ粒子のランダムなアレイに照射することによって得ることができる画像を複製することを示す線画図面である。
【図2】本発明の一実施形態による、異なる発光スペクトルを有するナノ粒子の相対的比率を調節することによって得ることができるスペクトル符号化を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に従って実施することができるセキュリティシステムを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態による発光材料の、ある励起波長域についての発光スペクトルを示す図である。
【図5】本発明の一実施形態による発光材料の励起スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の一実施形態による一組の発光材料の発光スペクトルを示す図である。
【図7】本発明の一実施形態による別の組の発光材料の発光スペクトルを示す図である。
【図8】本発明の一実施形態による発光材料のスペクトルを示す図である。
【図9】本発明の一実施形態による別の発光材料のスペクトルを示す図である。
【図10】本発明の一実施形態による発光材料の、ある温度範囲についての発光スペクトルを示す図である。
【図11】本発明の一実施形態による、セシウム、鉛(II)及びヨウ素を含む発光材料の発光スペクトルを示す図である。
【図12】本発明の一実施形態による、セシウム、ゲルマニウム(II)及びヨウ素を含む発光材料の発光スペクトルを示す図である。
【図13】本発明の一実施形態による、セシウム、インジウム(I)及びヨウ素を含む発光材料の発光スペクトルを示す図である。
【図14】本発明の一実施形態による発光材料のX線回折(「XRD」)パターンを示す図である。
【図15】様々な標準的材料のXRDパターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式を有する発光材料であって、
[AX’x’X’’x’’][ドーパント]
式中、
Aが、第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択され、
Bが、第VA族の元素、第IB族の元素、第IIB族の元素、第IIIB族の元素、第IVB族の元素、及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され、
X、X’及びX’’が独立に、第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され、
前記ドーパントが電子受容体及び電子供与体を含み、
aが1〜9の範囲内にあり、
bが1〜5の範囲内にあり、
x、x’及びx’’の合計が1〜9の範囲内にあり、
(a)量子効率が少なくとも20パーセントで、(b)スペクトル幅が半値全幅で100nmを超えず、(c)ピーク発光波長が近赤外域にあるフォトルミネセンスを示す発光材料。
【請求項2】
Bが、第IIIB族の元素、第IVB族の元素、及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の発光材料。
【請求項3】
Bが、第IVB族の元素のうちの少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の発光材料。
【請求項4】
Aがセシウムであり、Bがスズであり、X、X’及びX’’が独立に塩素、臭素及びヨウ素のうちの少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の発光材料。
【請求項5】
前記電子受容体がスズに対応するカチオンを含む、請求項4に記載の発光材料。
【請求項6】
前記電子受容体がYに対応するアニオンを含み、Yが、第VIB族の元素、第VIIB族の元素、硝酸塩、チオシアン酸塩、次亜塩素酸塩、硫酸塩、オルトリン酸塩、メタリン酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩及びピロリン酸塩のうちの少なくとも1つから選択される、請求項4に記載の発光材料。
【請求項7】
aが1〜5の範囲内にあり、bが1〜3の範囲内にあり、x、x’及びx’’の合計が1〜5の範囲内にある、請求項1に記載の発光材料。
【請求項8】
aが1であり、x、x’及びx’’の合計が1+2bである、請求項1に記載の発光材料。
【請求項9】
量子効率が少なくとも30パーセントである、請求項1に記載の発光材料。
【請求項10】
前記スペクトル幅が半値全幅で80nmを超えない、請求項1に記載の発光材料。
【請求項11】
前記ピーク発光波長が700nm〜800nmの範囲内にある、請求項1に記載の発光材料。
【請求項12】
前記ピーク発光波長が900nm〜1μmの範囲内にある、請求項1に記載の発光材料。
【請求項13】
その中にドーパントが分散しているペロフスカイトを基礎とする微細構造を有する、請求項1に記載の発光材料。
【請求項14】
発光材料を形成する方法であって、
第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるAと、第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるXとの原料を設けること、
第IIIB族の元素、第IVB族の元素及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるBの原料を設けること、
前記A及びXの原料と前記Bの原料とを反応させて、aが1〜9の範囲内にあり、bが1〜5の範囲内にあり、xが1〜9の範囲内ある式[A]を有する発光材料を形成すること
を含む方法。
【請求項15】
前記A及びXの原料が、式AXを有する化合物である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
Aがセシウムであり、Xが塩素、臭素及びヨウ素のうちの少なくとも1つから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記Bの原料が、式BY、BY、B、BY及びBYを有する化合物の少なくとも1つから選択され、Yが、第VIB族の元素、第VIIB族の元素、硝酸塩、チオシアン酸塩、次亜塩素酸塩、硫酸塩、オルトリン酸塩、メタリン酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩及びピロリン酸塩の少なくとも1つから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
Bがスズである、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記A及びXの原料と前記Bの原料とを反応させることが、
前記A及びXの原料と前記Bの原料とを混合して混合物を形成すること、並びに
前記混合物に1×10パスカル〜7×10パスカルの範囲の圧力を加えること
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記A及びXの原料と前記Bの原料とを反応させることが、
前記A及びXの原料と前記Bの原料とを混合して混合物を形成すること、並びに
80℃〜350℃の範囲内の温度まで前記混合物を加熱すること
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記A及びXの原料と前記Bの原料とを反応させることが、
前記A及びXの原料と前記Bの原料とを蒸気に変換すること、
基板上に前記蒸気を堆積させること
を含む、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2009−530488(P2009−530488A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501717(P2009−501717)
【出願日】平成19年3月21日(2007.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/064534
【国際公開番号】WO2007/109734
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(505041911)ウルトラドッツ・インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】UltraDots, Inc.
【Fターム(参考)】