説明

台湾ツルドクダミ(PolygonummultiflorumThunb.exMurrayvar.hypoleucum)の抽出物とメタボリック症候群を改善するための組成物

【課題】メタボリック症候群を改善する組成物を提供すること。
【解決手段】台湾ツルドクダミの抽出物が次の方法で調製される。その方法は、(a)生の又は乾燥させた台湾ツルドクダミを部分体又は完全体の形態で提供することと、(b)その部分体又は完全体から溶媒を用いて原抽出物を抽出することと、(c)該原抽出物を濃縮し乾燥させて抽出生成物を得ることと、(d)該抽出生成物を収集することとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台湾ツルドクダミ(タデ属;学名Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi))の抽出物、特に台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi))のメタボリック症候群を改善する抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタボリック症候群は、心臓血管疾患及び糖尿病のリスクを増加させる内科的疾患の組み合わせである。多数の人々が一団となってメタボリック症候群にかかっている。最近、食生活及び生活様式の変化に伴い、ますます多くの人々が、高血糖値、高血圧値、又は高血中脂質値を含む症状のメタボリック症候群にかかっていると診断されている。
メタボリック症候群は、具体的には抗インシュリン症候群を指す場合がある。
台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))は台湾に固有の変種である。
ツルドクダミ(Polygonum multiflorum)の典型的な変種と異なり、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi))は特徴的な肥大した根を持たず、風邪、咳、又は関節炎の治療に民間療法において広く使用されている。
【0003】
特許文献1は、中国薬草ツルドクダミ(Polygonum multiflorum)の抽出物を利用する高血糖症の治療のための組成物と方法を開示している。この薬草は0.1N NH4OHを用いて抽出され、遠心分離機にかけられる。その上澄み液をSephadex G-25カラムに供し、3つの画分を収集する。1つの画分は脂肪細胞アッセイにおいて高いインシュリン相乗活性を示し、血糖値を下げることが示された。
【0004】
特許文献2は、インシュリン相乗剤を含む組成物を提供しインシュリン活性を増加させる組成物と方法を開示している。この組成物は、ツルドクダミ(Polygonum multiflorum)、ハラタケ科(Agaricaceae)、又は川桂皮(ニッケイ属;Cinnamomum mairei)の水抽出物から得た1つ以上の物質を含む。この発明もまた患者の高血糖症の治療のための方法としてインシュリン相乗剤を提供する。この方法は血糖値、グリコシル化血色素値、又はブドウ糖値を減少させるのに使用できる。
これらの先行技術は、インシュリンを活性化することでブドウ糖値を抑えるためにツルドクダミ(Polygonum multiflorum)抽出物を使用することに専ら関係している。しかし、これらの先行技術は、血中脂質を下げるのにも、メタボリック症候群を改善するのにも使用できない。
【0005】
また、特許文献3は、ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb)、サンザシ(Fructus Crataegi)、タンジン(Salvia miltiorrhiza Bunge)、及びサンシチニンジン(Radix Notoginseng)を含む薬剤組成物を開示している。この組成物は血中脂質を下げる効果がり、従って高脂質血症の治療と予防のための薬の調合において使用できる。また、この発明は高脂質血症の治療と予防の方法を開示している。しかし、この組成物は一体で使用されなければならない。また、この特許は血糖値を下げる方法も、メタボリック症候群を改善する方法も開示していない。
【0006】
上述のように、薬剤組成物と食品添加剤は、血糖または血中脂質を減少させる単一の効果を提供するのみである。いずれの先行技術も、メタボリック症候群の治療用に台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))を使用することを開示していない。また、いずれの先行技術も、ツルドクダミ(Polygonum multiflorum)の典型的な変種を使用している。
メタボリック症候群の患者の人口が増加してきている。インシュリン抵抗を予防しメタボリック症候群を改善する医療効果がある化合物又は組成物、特に自然植物組成物を発見することは、当該分野において重要である。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,531,991号明細書
【特許文献2】米国特許第6,200,569号明細書
【特許文献3】欧州特許第EP1829519A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主たる目的は、メタボリック症候群を改善するための台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物を調製することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係るメタボリック症候群を改善するための台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物は、次の方法で調製される。その方法は、
(a)生の又は乾燥させた台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))を部分体又は完全体の形態で提供することと、
(b)台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))から溶媒を用いて原抽出物を抽出することと、
(c)該原抽出物を濃縮し乾燥させて台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))抽出生成物を得ることと、
(d)台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の該抽出生成物を収集することと
を備える。
【0010】
好適な実施形態では、部分体の形態の前記生の又は乾燥させた台湾ツルドクダミは、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の茎または根である。
【0011】
別の好適な実施形態では、前記溶媒は、水、アルコール、アルコール水溶液、又は酢酸エチルである。
【0012】
好ましくは、前記溶媒は、25〜100重量%のエタノールと、75〜0重量%の水とを含む。より好ましくは、前記溶媒は、70〜100重量%のエタノールと、30〜0重量%の水とを含む。
【0013】
好適な実施形態では、前記溶媒は、酸性アルコールである。好ましくは、該酸性アルコールは、0.1%の塩化水素酸を含む。
【0014】
好ましくは、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))と前記溶媒との重量体積比は、1:5から1:20の間である。
好適な実施形態では、前記ステップ(b)は、室温で実行される。
また、本発明は、メタボリック症候群を改善するための方法にも関する。その方法は、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の治療上効果的な量の抽出物を罹患した対象者に投与することを含む。
【0015】
好適な実施形態では、メタボリック症候群を改善するため台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の前記抽出物は、グルコシド酵素またはアセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)を抑制し、アシル−CoAオキシダーゼ(ACO)を活性化し、血糖値及び血中脂質値を下げる。
【0016】
好ましくは、前記メタボリック症候群は抗インシュリン症候群である。より好ましくは、該抗インシュリン症候群は高血糖又は高血中脂質である。
【0017】
また、本発明は、次の方法で調製されるメタボリック症候群を改善するための台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物にも関する。その方法は、
(a)台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の生の又は乾燥させた茎と根を提供することと、
(b)台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))からアルコール溶媒を用いて原抽出物を抽出することと、
(c)該原抽出物を濃縮し乾燥させて台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))抽出生成物とすることと、
(d)台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の該抽出生成物を収集することと
を備える。
【0018】
好適な実施形態では、前記溶媒は、25〜100重量%のエタノールと、75〜0重量%の水とを含む。好ましくは、前記溶媒は、70〜100重量%のエタノールと、30〜0重量%の水とを含む。
【0019】
別の好適な実施形態では、前記溶媒は、酸性アルコールである。
【0020】
好ましくは、前記溶媒は、0.1%の塩化水素酸を含む。
【0021】
好適な実施形態では、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))と前記溶媒との重量体積比は、1:5から1:20の間である。
【0022】
別の好適な実施形態では、前記ステップ(b)は、室温で実行される。
【0023】
また、本発明は、上記の方法によって得られた台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物と、1つ以上の薬剤受容キャリアまたは賦形剤とを含む薬剤組成物にも関する。
好適な実施形態では、該薬剤組成物は錠剤、粉末、懸濁液、乳び液、カプセル、粒子、丸薬、流体、アルコール溶液、又は医療シロップの形態に形成される。
【0024】
また、本発明は、上記の方法によって得られた台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物を含む食品組成物にも関する。
本発明の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物は容易に調製され、グルコシド酵素またはアセチル−CoAカルボキシラーゼの活性を抑制し、アシル−CoAオキシダーゼを活性化することで、血糖値及び血中脂質値を下げることができる。本発明の他の目的、利点、及び新規な特徴が、添付の図面を参照する以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi) Liu, Ying & Lai(英名Taiwan tuber fleeceflower)は、Polygonum hypoleucum (Ohwi)又はPleuropterus hypoleucus (Nakai)の学名でも知られている。ツルドクダミ(Polygonum multiflorum)の肥大した塊根は、中国及び日本において最も有名な強壮薬の1つである。ツルドクダミ(Polygonum multiflorum)の固有の変種である台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi))は肥大した塊根という特徴を持たず、台湾の低地から中高地によく見られる。この植物の全体は、風邪、咳、及び関節炎の治療に民間療法において使用され、その葉は切り傷治療のために患部に貼るのにも使用される。
【0026】
本明細書において、部分体の形態の生の又は乾燥させた台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi))は、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi))の葉、茎、又は根である。
【0027】
本明細書において、溶媒は極性溶媒であり、水、アルコール、アルコール水溶液、又は酢酸エチルであってもよい。
【0028】
本明細書において、メタボリック症候群は、具体的には高血糖、脂質異常、及び高血圧を含む症状の抗インシュリン症候群を指す場合がある。
【0029】
本明細書において、薬剤受容キャリアまたは薬剤キャリアは、薬剤投与に適した物質を指し、患者に1つ以上の活性薬剤を届けるための不活性剤又は賦形剤である。
その賦形剤はほぼ無毒であり、医薬組成物が安定で効能を保つのを可能にする。
【0030】
本明細書において、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物は、腸内グルコシド酵素と肝酵素を含む酵素と反応することで血糖濃度及び血中脂質濃度を下げるために使用できる台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の活性な成分である。より具体的には、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))は、α−グルコシダーゼとACCの両方を抑制しACOを活性化する生化学的な効能を示す。より具体的には、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物は、メタボリック症候群を改善するための薬剤組成物又は食品組成物に使用できる。
【0031】
本明細書において、用語「罹患した対象者」はメタボリック症候群を患う任意の患者である。用語「対象者」は当該分野において知られており、本明細書において、温血動物、好ましくは、ラット、マウス、猫、犬、羊、馬、牛等の人間以外の動物と人間とを含む哺乳動物を指す。1つの好適な実施形態では、対象者は人間である。
【0032】
図1を参照すると、本発明に係るメタボリック症候群を改善するための台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物は、次の方法によって調製される。
その方法は、(a)生の又は乾燥させた台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))を部分体又は完全体の形態で提供するステップ;(b)台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))から溶媒を用いて原抽出物を抽出するステップ;(c)該原抽出物を濃縮し乾燥させて台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))抽出生成物を得るステップ;(d)台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の該抽出生成物を収集するステップを備える。
【0033】
更に、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の該抽出生成物は、メタボリック症候群を改善するための薬剤組成物を生成するために、薬剤受容キャリア又は賦形剤に加えられてもよい。また、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の該抽出生成物は、メタボリック症候群を改善するための食品組成物を生成するために、添加されてもよい。
【0034】
本発明に係る濃縮乾燥方法は、冷凍乾燥法、減圧濃縮法、又は他の当該分野において知られた濃縮乾燥法を含む。
【0035】
本発明に係る薬剤組成物は、経口投与によって投薬されてもよい。投薬の形態は、丸薬、錠剤、粉末、懸濁液、乳び液、カプセル、粒子、流体、アルコールと水とを含む溶液、又は医療シロップであってよい。
【0036】
実施例1:台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物の調製
【0037】
i) 酸性アルコール抽出
台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))を機械ですりつぶし、0.1%HClを含む酸性アルコールを用いて抽出を行った。すりつぶされた台湾ツルドクダミと酸性アルコールの重量体積比は、1:8であった。その混合物をシェーキング有又は無で室温で72時間放置し、2層のチーズクロスを通して濾過し、6000rpmで15分間遠心分離機にかけた。その溶液を集め、濃縮した。抽出率は約6.9%であった。
水で希釈して50mg/ml原液を作成した。
【0038】
ii) 温水抽出
台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))を温水中で2時間加熱した。台湾ツルドクダミと水の重量体積比は、1:20であった。その抽出物を2層のチーズクロスを通して濾過し、冷凍乾燥させた。抽出率は約9.2%であった。水に溶かして50mg/ml原液を作成した。
【0039】
実施例2:台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物のα−グルコシダーゼ抑制効果
抽出物♯1と♯2は、実施例1で調製した異なるバッチの酸性アルコール抽出物であり、抽出物♯3は温水抽出物である。
【0040】
3つの抽出物のα−グルコシダーゼ抑制効果を次のようにして測定・分析した。
【0041】
1. 酵素α−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.20, G5003, Sigma-Aldrich社、米国)溶液と基質p−ニトロフェニルα−D−グルコピラノシド(pNP−G)(Sigma-Aldrich社、米国)溶液とを100mM、pH7.0リン酸緩衝液を用いて作成した。濃度はそれぞれ1U/mlと5×10-3Mであった。
【0042】
2. 40μlの0.4M、pH7.0リン酸緩衝液と、10μlのα−グルコシダーゼと、50μlの台湾ツルドクダミ抽出物の段階希釈液と、170μlの純水とを96ウェルプレートの各ウェルに順に添加した。
【0043】
3. 等量30μlの予熱された基質溶液を各ウェルに添加し、完全に混合し、37℃で10分間定温放置した。
【0044】
4. 定温放置前後において405nmの波長における吸光度を測定した(Power Wave XS, Bio Tek社、米国)。IC50はα−グルコシダーゼの活性を50%抑制するために必要な濃度を表す。表1は抽出物♯1〜3のIC50の結果を示す。
表1 抽出物♯1〜3のIC50
【0045】
【表1】

【0046】
酸性アルコール抽出物と温水抽出物は両方ともα−グルコシダーゼの活性を抑制する効果を示した。本発明の好適な実施形態は酸性アルコール抽出物である。
実施例3:台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物のグリコシド酵素抑制効果
ラット腸管アセトン粉末(Sigma Chemical社、米国)をグリコシド酵素の供給源として使用し、様々なグリコシド基質(マルトース、でんぷん、スクロース)を用いて酸性アルコール抽出物の抑制効果を調べた(表2)。
表2 様々なグリコシド酵素に対する台湾ツルドクダミの酸性アルコール抽出物のIC50の値
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、酸性アルコール抽出物はマルターゼ、α−アミラーゼ、及びスクラーゼの活性を抑制することができ、マルターゼに対する効果が最大である。
【0049】
実施例4:台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の脂質可溶抽出物の調製
台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))を機械ですりつぶし、50重量%のメタノールを約1:10の重量体積比で加えた。その混合物をシェーキング有で室温で24時間放置し、濾過した。同じ体積の水・酢酸エチル(体積比1:1)を液−液抽出のために濾過液に加えた。上の層を取出し、同じ体積の5重量%の重炭酸ナトリウム(NaHCO3)を加え遊離した脂肪酸を取除いた。酢酸エチル層を集め、濃縮し、乾燥させた。抽出率は約0.91%であった。得られた脂質可溶抽出物をジメチルスルホキシド(DMSO)に10mg/mlの濃度で溶解させた。
【0050】
実施例5:台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物のアセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)抑制効果
アセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)は脂肪酸合成に係る重要な酵素の1つである。ACC反応生成物であるマロニル−CoAは、脂肪酸シンターゼ(FAS)の基質であり、カルニチンパルミトイルCoA転移酵素(CPT)の抑制物質でもある。従って、ACCの抑制は、内生の脂質の合成を低減するだけでなく、ミトコンドリア脂肪酸の酸化を増加させる。
【0051】
ACCはラットの肝臓から分離精製され、前述のように測定・分析された(Tanabe T., Nakanishi, S., Hashimoto T., Ogiwara, H., Nikawa J., Numa S. 1981. Acetyl-CoA carboxylase from rat liver「ラット肝臓由来のアセチル−CoAカルボキシラーゼ」, Meth. Enzymol. 71(pt C): 5-16)。
表3 台湾ツルドクダミの抽出物のACC抑制効果
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示すように、台湾ツルドクダミの酸性アルコール抽出物と脂質可溶抽出物は、ACC抑制効果を示した。
【0054】
図2は異なる濃度の酸性アルコール抽出物のACC抑制効果を示す。IC50は0.04mg/mlであった。
【0055】
実施例6:台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の酸性アルコール抽出物のアシル−CoAオキシダーゼ(ACO)を活性化する効果
【0056】
ACOは脂肪酸のβ酸化に係る重要な酵素の1つである。PPARαの下流遺伝子でもあり、脂肪酸酸化のマーカーとして使用できる。
適当な数の肝細胞H4IIEC3を12ウェルプレートに種として入れた。細胞がコンフルエントに達した後、培養基をクロフィブレート又は100μl/mlの台湾ツルドクダミの酸性アルコール抽出物に取り替えた。その混合溶液を適当な期間定温放置した。次に培養液を取出して、細胞をACO分析のために収集した。
【0057】
ACO分析の方法は、Smallらによって記述されている(Small, G.M., Burdett, K., and ConNock, M.J. 1985. A sensitive spectrophotometric assay for peroxisomal acyl-CoA oxidase「ペルオキシソームアシル−CoAオキシダーゼの高感度分光光度測定」. Biochemical Journal. 227: 205-210)。図3Aは時間(48と72時間)に対するクロフィブレートの濃度に依るACO活性化効果を示す。
台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の酸性アルコール抽出物によるACO活性の増倍率を図3Bに示す。
【0058】
実施例7:高脂肪食で飼育されたC57BL/6Jマウスへの台湾ツルドクダミの酸性アルコール抽出物の効果
C57BL/6Jマウスを30%(g/g)のバターを含む高脂肪食で8週間飼育し、肥満、高トリグリセリド血症及び高インスリン血症の症状を起こさせた。それらの症状を持ったマウスを2つのグループに分け、一方のグループには1500mg/kg体重の台湾ツルドクダミの酸性アルコール抽出物を与えた(HF+No.11)。もう一方のグループである対照群(HF)には同じ体積の水を与えた。同じ高脂肪食で両方のグループの飼育を続けた。通常の餌(LF)で飼育された別のグループのマウスも調べた。5週間飼育後、経口的ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行った(表4)。次にマウスを屠殺し、血液と組織を分析のために収集した(表5)。
表4 5週間飼育後の経口的ブドウ糖負荷試験(OGTT)の結果
【0059】
【表4】

【0060】
データは平均±標準偏差として表わされている。同じ行内で同じ上付き文字を持っていない値は大きく異なる(P<0.05)。
台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の酸性アルコール抽出物を5週間投与することは、高脂肪食で飼育されたC57BL/6Jマウスの絶食時血糖値(0分)をかなり減少させた。(HF+No.11)グループの血糖値(90分及び120分)と120分の濃度曲線下面積(AUC)とは両方ともHFグループのよりかなり低かった。これらの結果は、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の酸性アルコール抽出物は、絶食時血糖値を下げるだけでなく、耐糖能異常も改善することを示す。
【0061】
表5は、台湾ツルドクダミの酸性アルコール抽出物は高脂肪食で飼育されたC57BL/6Jマウスの体重、及び全コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、インスリン、及びレプチンの各血中濃度を減少させることを示す。
【0062】
【表5】

【0063】
データは平均±標準偏差として表わされている。同じ行内で同じ上付き文字を持っていない値は大きく異なる(P<0.05)。
【0064】
本発明の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物は、特別な溶媒も複雑な手順も必要とせず、簡単な方法で調製される。また、上記実施例は、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物は、血糖濃度と脂質濃度を下げ、グルコシド酵素とACCの両方の活性を抑制し、ACOの活性を増加させることができることを示す。従って、上記のように、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物は、メタボリック症候群を改善することができる。
上記において本発明の多数の特徴と利点を本発明の構造と構成要素の詳細とともに説明したが、本開示は例を示したにすぎない。添付の請求項における用語の広義の意味によって定義される本発明の範囲内において、細部、特に構成要素の形、サイズ、及び配置の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物を調製する方法を示すフローチャートである。
【図2】台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物のアセチル−CoAカルボキシラーゼ(ACC)活性を抑制する効果を示すグラフである。
【図3A】クロフィブレートのアシル−CoAオキシダーゼ(ACO)を活性化する効果を示す。
【図3B】100μg/mlの台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物のアシル−CoAオキシダーゼ(ACO)を活性化する効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の方法で調製されるメタボリック症候群を改善するための台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物であって、その方法は、
(a)生の又は乾燥させた台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))を部分体又は完全体の形態で提供するステップと、
(b)台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))から溶媒を用いて原抽出物を抽出するステップと、
(c)該原抽出物を濃縮し乾燥させて台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))抽出生成物を得るステップと、
(d)台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の該抽出生成物を収集するステップと
を備える台湾ツルドクダミの抽出物。
【請求項2】
部分体の形態の前記生の又は乾燥させた台湾ツルドクダミは、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の茎または根である請求項1に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物。
【請求項3】
前記溶媒は、水、アルコール、アルコール水溶液、又は酢酸エチルである請求項2に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物。
【請求項4】
前記溶媒は、25〜100重量%のエタノールと、75〜0重量%の水とを含む請求項3に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物。
【請求項5】
前記溶媒は、70〜100重量%のエタノールと、30〜0重量%の水とを含む請求項4に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物。
【請求項6】
前記溶媒は、酸性アルコールである請求項5に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物。
【請求項7】
前記酸性アルコールは、0.1%の塩化水素酸を含む請求項6に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物。
【請求項8】
台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))と前記溶媒との重量体積比は、1:5から1:20の間である請求項7に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物。
【請求項9】
台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))から溶媒を用いて原抽出物を抽出する前記ステップ(b)は、室温で実行される請求項8に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物。
【請求項10】
メタボリック症候群を改善するための方法であって、台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の治療上効果的な量の抽出物を罹患した対象者に投与することを含む方法。
【請求項11】
メタボリック症候群を改善するため台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の前記抽出物は、解糖酵素またはアセチル−CoAカルボキシラーゼを抑制し、アシル−CoAオキシダーゼを活性化し、血糖値及び血中脂質値を下げる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記メタボリック症候群は抗インシュリン症候群である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物と、1つ以上の薬剤受容キャリアまたは賦形剤とを含む薬剤組成物。
【請求項14】
該薬剤組成物は錠剤、粉末、懸濁液、乳び液、カプセル、粒子、丸薬、流体、アルコール溶液、又は医療シロップの形態に形成される請求項13に記載の薬剤組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の台湾ツルドクダミ(Polygonum multiflorum Thunb. ex Murray var. hypoleucum (Ohwi)又はPolygonum hypoleucum (Ohwi))の抽出物を含む食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2009−35548(P2009−35548A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183769(P2008−183769)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(596032694)財団法人食品工業発展研究所 (9)
【Fターム(参考)】