説明

合成ガスからの低級オレフィンの生成

フィッシャー−トロプシュ法等の、一酸化炭素と水素とを含む供給原料流の変換による低級オレフィンの生成プロセス、およびその際に使用される触媒が開示される。本発明により、低級オレフィンが高い選択性および低いメタン生成で、合成ガスから形成されうる。本明細書において用いられる触媒は、α−アルミナ担持体と、少なくとも1wt%で担持体上に分散された鉄含有粒子を含む触媒活性成分とを含む。鉄含有粒子の大多数はα−アルミナと直接接触しており、その上に良く分布している。鉄含有粒子の平均粒度は、30nm未満であるのが好ましく、10nm未満であるのが最も好ましい。担持触媒は、高い選択性だけでなく、高い触媒活性ならびに化学的および機械的安定性も示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄系担持触媒を用いたフィッシャー−トロプシュ法による、一酸化炭素と水素とを含む供給原料流からの低級オレフィンの生成に関する。特に本発明は、それに用いられる或る触媒の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、合成ガスの変換に一般的に当てはまる。本発明の文脈における合成ガス(または「シンガス」)とは、一酸化炭素と水素とを含む混合物をいう。合成ガスは一般に、COも含む。フィッシャー−トロプシュ法によるオレフィン生成の用途では、後述の望ましいH:CO比を提供するために、COが除去、減少、または他の方法により調節されるのが好ましい。
【0003】
合成ガスは一般に、天然ガスもしくは重質炭化水素の水蒸気改質による水素の生成、または石炭、バイオマスのガス化等の方法により、ある種の廃棄物熱源転換ガス化施設において、生成される。合成ガスは、特にその起源が有望なバイオマスおよび廃棄物であるものに関しては、炭素系化学物質の環境にやさしい持続可能な資源として注目が高まっている。
【0004】
合成ガスの有用な応用には一般に、例えばフィッシャー−トロプシュ合成による、COおよびHガス成分の、燃料またはモノマー等の炭化水素への化学変換が必要となる。
【0005】
フィッシャー−トロプシュ法は、合成ガスが様々な形の多様な炭化水素に変換される、触媒された化学反応である。最も一般的な触媒は、鉄系およびコバルト系であるが、ニッケルおよびルテニウムも使用されている。この過程の主目的は、合成潤滑油としてまたは合成燃料として使用される、典型的には石炭、天然ガスまたはバイオマスから合成石油代用品を生成することである。
【0006】
フィッシャー−トロプシュ法は、種々の競争化学反応を伴い、これにより一連の望ましい生成物および望ましくない副産物が生じる。コバルト触媒を使用するとき、最も重要な反応はアルカンの形成をもたらす反応である。これらは:
(2n+1)H+nCO→C(2n+2)+nH
という形の化学反応式により表すことができ、『n』は正の整数である。メタン(n=1)はほとんどが不要な副産物と見なされるため、プロセス条件および触媒組成は通常、より高分子量の生成物(n>1)が生じやすくなるように、したがってメタン形成が最小限になるように選択される。アルカンの形成に加えて、競争反応からは、アルケンならびにアルコールおよび他の含酸素炭化水素の形成がもたされる。これらの生成物を一部生じやすい鉄系触媒が開発されているが、通常は、これらの非アルカン生成物は比較的少量形成されるにとどまる。アルケンの形成は一般に以下の極限化学反応式:
2nH+nCO→C2n+nH
または
nH+2nCO→C2n+nCO
の範囲内である(一方の極限では水が形成され、他方の極限では二酸化炭素が形成される)。
【0007】
一般に、フィッシャー−トロプシュ法は、150〜300℃の温度範囲で行われる。より高い温度では、より速い反応およびより高い変換率がもたらされるが、メタンが生成されやすい傾向もある。この結果、コバルト触媒の場合には温度は通常、範囲の低温〜中温部に維持される。鉄は通常、温度範囲の上限で使用される。圧力の増加により、長鎖アルカンが形成されやすくなり、これは燃料の生成には通常好都合であるが、化学物質の生成には一般に望ましくない。
【0008】
フィッシャー−トロプシュ法が記載されている範囲では、その多くが燃料の生成、すなわち、所望の燃料特性を提供するなどを目的としてパラフィンを適切に分布させるための選択性に集中している。これは、低級オレフィンは言うまでもなく、オレフィンの生成とは全く異なる分野である。
【0009】
化学物質の持続可能な資源の使用ならびにバイオマスおよび廃棄物流の使用に対して現在関心が高まっていることから、これまでの燃料重視よりも応用自在に合成ガスを使用できることが望ましい。したがって、合成ガスを化学物質の炭素源としても使用することが望ましい。
【0010】
低級オレフィンは、化学工業において広く使用されている。主にナフサおよびガスオイルのクラッキングにより、パラフィン脱水素により、またはFCC(fluid catalytic cracking:流動接触分解)により生成される。環境的、経済的、および戦略的な考えが後押しとなって、低級オレフィン生成のための代替原料が探し求められている。天然ガス、石炭およびバイオマス等の様々な選択肢が検討されている。これに鑑み、合成ガスを低級オレフィンに変換するための技術的に実行可能で商業的に魅力的なプロセスを提供することが望まれる。
【0011】
本発明は、好ましくは、特定のフィッシャー−トロプシュ法、すなわち低級オレフィンを生産するように修正されたものに関する。低級オレフィンは、本発明の文脈においては、2〜8個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルケンであり、最も好ましくはC〜Cアルケンをさす。本プロセスは、鉄系担持触媒の使用、および270℃より高い、好ましくは300℃より高い反応温度を伴う。
【0012】
担持触媒は、触媒活性部分と触媒不活性部分とを含む触媒として、不均一触媒反応の当業者に知られており、触媒不活性部分(担持体)が通常は触媒の大部分を形成する。担持触媒はこの点で、一般的に触媒不活性部分のほうが少ないバルク触媒と区別される。
【0013】
アルミナ担持鉄触媒を用いて一酸化炭素の軽質オレフィンへの選択的水素化縮合の参考文献は、J.Barrault等,React.Kinet.Catal.Lett.,Vol.15,No.2,153−158(1980)である。この文書は、担持体を変更することにより触媒活性を増強し、軽質オレフィンの選択性を高めうると述べる。しかし、Barraultにより得られた結果は、中程度の軽質オレフィンの選択性しか表さず、メタン生成の抑制はあまりにも不十分である。実際に、Barraultは活性が最大である触媒が最も選択性が低いという特定の問題も記している。
【0014】
別の参考文献は国際公開第84/00702号である。ここでは、硝酸鉄がプラセオジム助触媒と共に改質(熱処理)γ−アルミナ担持体に使用される。この触媒がフィッシャー−トロプシュ法において使用され、C2〜8炭化水素がメタンに対して優先的に生成されると主張される。さらに、形成される炭化水素のかなりの部分が1−アルケンであると述べられる。しかし、このプロセスは、飽和炭化水素に対して低級オレフィンを選択的に生成し、なおかつメタン生成および高級オレフィン生成を低く維持することには適さない。熱処理担持体は、α−アルミナ部分およびγ−アルミナ部分を有する。鉄含有粒子は、α−アルミナ部分上に検出可能に存在しない。
【0015】
合成ガスから低級オレフィンを生成することを目指す別の参考文献は、独国特許第2536488号(1976)である。ここでは鉄系バルク触媒が提供される(鉄、ならびにチタンの酸化物、酸化亜鉛、および酸化カリウム)。主張によれば、これにより、メタン生成がわずか10%であり低級オレフィンが約80%の、選択性の高いプロセスがもたらされるが、この明細書中の結果は再現不可能であり、実際にはいかなる適切な選択性も反応性も生じない。
【0016】
以上の参考文献は、いずれもおよそ20〜30年前にさかのぼる不適切なプロセスであるが、より最近の開発も、選択的低級オレフィン生成、メタン生成の有効な抑制、および魅力的な触媒活性または安定性に関して何らかの成功には結びついていない。
【0017】
後者に関しては、触媒の化学的安定性は、フィッシャー−トロプシュ法において重要な問題である。化学的に安定な触媒は、失活が生じにくくなる。フィッシャー−トロプシュ法においては、特に鉄系触媒を用いた場合、アルケンが形成されやすい温度および圧力条件下では、触媒失活が深刻な問題である。これは主にコークス形成、すなわち触媒上に望ましくない炭素が蓄積されることに起因する。
【0018】
したがって、例えばSommen等,Applied Catalysis 14(277−288),1985は、活性炭上に担持された酸化鉄からなるフィッシャー−トロプシュ触媒を記載する。これらの触媒には、メタンに対して低級オレフィンへの選択性バランスの改善が見られるが、試験された触媒には速やかな失活が見られる、すなわち安定性が低いという欠点がある。活性炭に伴う別の欠点は、特により高圧およびより長い反応時間になるとガス化しやすいことである。
【0019】
国際公開第2009/013174号では、促進バルク鉄触媒を高温フィッシャー−トロプシュ(340℃)で用いて、低級オレフィンを生成することが企図される。クレームされている触媒のメタン選択性は低いが、軽質オレフィンへの選択性は不十分である。さらに、本発明はバルク触媒を賢明に回避しようとしており、特に担持触媒を対象とする。
【0020】
フィッシャー−トロプシュ触媒性能の別の問題は、機械的安定性、例えば広範な炭素堆積に関係する触媒粒子の破砕に対する脆弱性である。この機械的不安定性は一般に、工業で典型的に使用される高圧力等、特に触媒活性増加の条件下でバルク触媒に伴う問題である。この点に関しての参考文献は、Shroff等.Journal of Catalysis 156(185−207),1995である。本発明が特に担持触媒の分野としているのは、とりわけこの理由のためである。
【0021】
本発明は、低級オレフィンに以下の利点の一つ以上を有するフィッシャー−トロプシュ経路を提供することを目指す:
− 飽和炭化水素(パラフィン)、および高級オレフィンを犠牲にした、低級オレフィンへの高い選択性;
− メタン生成の有効な抑制(すなわちメタンへの低い選択性);
− 特に選択性についての結果を損なうことなく高められた触媒活性。
− 良好な化学的および機械的安定性と、特にこの安定性が工業で用いられる高圧力で保たれること
− 少量のコークス形成
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
以上の一つ以上の要求により良く対処するために、本発明は、一態様において、鉄系担持触媒を用いた、好ましくは270℃を上回る、好ましくは500℃以下の温度での一酸化炭素と水素とを含む供給原料流の変換による、低級オレフィンの生成プロセスを提示し、該プロセスでは、α−アルミナ(α−Al)を含む担持体上に分散された鉄含有粒子を含む触媒組成物が提供され、該担持体が、(担持体の重量に基づいて計算して)少なくとも1wt%の鉄含有粒子を負荷され、鉄含有粒子の大多数がα−アルミナと直接接触している。
【0023】
別の態様では、本発明は、鉄系担持触媒を用いた、好ましくは270℃を上回る、好ましくは500℃以下の温度での一酸化炭素と水素とを含む供給原料流の変換による低級オレフィンの生成プロセスを提供し、該プロセスでは、α−アルミナ(α−Al)を含む担持体上に分散された鉄含有粒子を含む触媒組成物が提供され、該担持体が、(担持体の重量に基づいて計算して)少なくとも1wt%の鉄含有粒子を負荷され、鉄含有粒子の大多数が、Transmission Electron Microscopyで測定して30nmまたは以下の粒度を有する。
【0024】
別の態様では、本発明は、合成ガスからの低級オレフィンの選択的フィッシャー−トロプシュ生成における触媒を提供するための、上述の触媒組成物の使用である。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、担持体と鉄成分とを含む鉄系触媒組成物の調製のためのプロセスに関し、当該プロセスは、有機鉄錯体を熱の影響下で分解させ、これにより酸化鉄ナノ粒子を形成するステップを含み、当該分解が担持体物質の存在下で実行される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】α−アルミナ上に担持され良く分布したFe(本発明による;サンプルA−1)の電子顕微鏡写真である。
【図2】α−アルミナ上に担持されたFe(サンプルA−1)の粒度の相対数(頻度)を示す棒グラフである。
【図3】α−アルミナ上に担持された密集したFe(本発明によらない;サンプルC−4)の電子顕微鏡写真である。
【図4】α−アルミナ上に担持されたFe(サンプルC−4)の粒度の相対数(頻度)を示す棒グラフである。
【図5】熱処理されたγアルミナ上に担持されたFe(本発明によらない;サンプルC−8)の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
フィッシャー−トロプシュ法の鉄系触媒反応においては、鉄触媒の活性相は、究極的にはインサイチュで形成される鉄または炭化鉄である。本発明は、プロセスに提供される触媒組成物に関する。その中の鉄含有粒子は炭化鉄そのものでありうるが、異なる形で、例えば酸化鉄として鉄含有粒子を提供することがより便利であると一般に考えられる。提供される触媒中の鉄含有粒子は、これを担持体と区別するために以下では「触媒活性」であるものとして示す。
【0028】
本発明は、担持触媒組成物を提供することに基づく。理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明者らは、本発明で使用する触媒により達成される好ましい結果において重要な要因が、(バルク触媒ではなく)担持タイプの触媒と、十分な負荷の鉄含有粒子がα−アルミナ担持体上に分散され、鉄含有粒子の大多数がα−アルミナと直接接触しているという要件とを賢明に組み合わせることであると考える。
【0029】
担持タイプの触媒であって、鉄に対して不活性なα−アルミナ担持体を含み、担持体が、十分に高いレベルの、すなわち上述の少なくとも最低限1wt%の鉄含有粒子を負荷されている触媒を教示する従来技術文書はない。例えば国際公開第84/00702号では、TEM分析(図5)から分かるように、鉄は触媒の不活性でない(γ−アルミナ)部分に優先的に結合するように見える。
【0030】
特に、低いメタン生成(11%の低い選択性はもちろん)、低級オレフィンに対する高い選択性(もちろん55%の高さ)等の本発明により示される結果の組み合わせを達成する従来技術参考文献はなく、さらに、そのようないずれかの結果を触媒活性の増加とあわせて達成するものもない。
【0031】
提供される触媒組成物中の鉄含有粒子は、最大50nmの粒度を有するのが好ましい。より好ましい実施形態では、鉄含有粒子は、粒度が30nm未満、より好ましくは20nm未満、最も好ましくは10nm未満である、比較的小さな活性粒子として提供される。
【0032】
一態様では、鉄含有粒子の大多数は、透過電子顕微鏡法で測定して30nm以下、好ましくは20nm以下の粒度(particles size)を有する。(触媒活性粒子が担持体上に良く分布していることを反映する)粒度の要件、および必要な担持体との直接接触は、相互に関係する。すなわち、粒子が大きすぎると、それらは密集した形になり、そのほんの一部だけが担持体と直接接触する。触媒を定めるこれらの選択肢の両方が、鉄含有粒子の数(numbr)の大多数(50%超、好ましくは70%超、より好ましくは80%超)に、ともに当てはまるのが好ましい。
【0033】
従来技術においては、触媒粒子が小さくなりすぎると、フィッシャー−トロプシュ触媒活性が低下すると一般に教示される。例えばBarkhuizen等,Pure Appl.Chem.,Vol.78,No.9,pp1759−1769,2006は、9nm未満のサイズの小さな結晶子は、より大きな結晶子よりはるかに活性が低いことを示す。コバルト粒子についても類似の教示が存在しており、Bezemer等,J.Am.Chem.Soc.2006,128,3956を参照。本発明では、より小さな粒子(平均粒度15nm未満、好ましくは10nm未満)に選択性、活性および安定性の増加が見られる。
【0034】
理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明者らは、好ましいより小さな粒子を賢明に使用することにより、活性粒子の間に空隙が提供されると考える。これらの空隙は、触媒活性粒子の焼結および凝集を防ぐ機械的空間として働く。さらに、α−アルミナ担持体の賢明な選択により、触媒の使用中これらの空隙が良く保たれる。この点で、鉄含有粒子の粒度が10nm未満であることがさらに好ましい。
【0035】
上記のように、担持触媒は、触媒活性部分(すなわち活性であるものまたはインサイチュで活性相に変換されるものとして提供される粒子)と、触媒不活性部分とを含む触媒組成物であって、触媒不活性部分(担持体)が一般に触媒の大部分を形成する触媒組成物に関するものとして理解される。担持触媒はこの点で、一般的に触媒不活性部分のほうが少ないバルク触媒と区別される。したがって担持触媒では、触媒不活性部分が通常は触媒組成物の50重量%より多い。担持体が好ましくは全触媒組成物の60重量%超、より好ましくは80重量%超を形成する。
【0036】
触媒組成物の触媒活性部分は、鉄含有粒子を含む。本発明において提供される触媒組成物は、α−アルミナ担持体上に分散された少なくとも1wt%、通常最大50wt%の量のこれらの鉄含有粒子を含む。α−アルミナ担持体上に分散された鉄含有粒子の量が、少なくとも10wt%であるのが好ましい。
【0037】
α−アルミナ担持体への十分な量の鉄含有粒子の負荷により、本発明の触媒が、例えば上述の国際公開第84/00702号に記載される触媒と区別される。後述の実施例および比較例に関連して示される本発明の触媒は、国際公開第84/00702号の触媒と比較して明らかに性能の改善が見られる。したがってメタンへの選択性は半分未満に減少し、C〜Cオレフィンへの選択性はほぼ二倍になる。
【0038】
理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明者らは、この触媒では、α−アルミナのような担持体物質が存在するものの、鉄含有粒子は同じく存在する非不活性のγ−アルミナ担持体と優先的に化学相互作用を開始すると考える。実際に、熱処理されたγ−アルミナ担持体のα−アルミナ部分には鉄含有粒子がほとんど存在しない。本発明においては、鉄含有粒子は、α−アルミナ担持体上、α−アルミナ担持体中、またはα−アルミナ担持体の箇所に上述の量で存在する。
【0039】
この存在は、鉄含有粒子とα−アルミナ担持体との間の物理的接触を伴うのが好ましい。本発明の好ましい触媒組成物においては、α−アルミナ担持体と物理的に接触して保たれる鉄含有粒子が、その触媒活性を及ぼすために利用可能である。
【0040】
本発明においてこれは、鉄含有粒子の大多数(すなわち粒子数の少なくとも50%)がα−アルミナ担持体と直接接触しているという要件に反映される。本発明で使用する触媒はこの点で、鉄含有粒子が実質的に密集した形で存在する触媒と区別される。後者の場合には、粒子の相当量が他の鉄含有粒子の上に、あるいはこれに隣接して存在するために担持体と直接接触しないことから、鉄含有粒子の少数だけが担持体と直接接触できる。
【0041】
好ましくは鉄含有粒子の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%が、α−アルミナ担持体と物理的に接触している。これは、鉄含有粒子の好ましいより低い粒度とあわせると特に好ましい。その結果、比較的小さな粒子(粒度30nm未満、好ましくは20nm未満、最も好ましくは10nm未満)が、十分な量(担持体の重量に対して計算して通常1〜50wt%、好ましくは少なくとも10wt%)で、α−アルミナ担持体上へ良好に分散され、大部分が独立して(すなわち間に空隙を残して)低い密集度で存在する。
【0042】
鉄系触媒は、いくつかの鉄含有前駆体を用いて様々な調製方法により合成できる。鉄含有前駆体の例は、無機および有機鉄塩、鉄キレート、鉄クラスター、水酸化鉄および鉄オキシ水酸化物(oxi−hydroxides)、および鉄有機金属錯体である。これらの化合物の代表は、鉄テトラカルボニル、鉄ペンタカルボニル、鉄ノナカルボニル、硝酸鉄、臭化鉄、塩化鉄、フッ化鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、鉄アセチルアセトネート、酢酸鉄、フマル酸鉄、グルコン酸鉄、クエン酸鉄、安息香酸鉄、マレイン酸鉄、シュウ酸鉄、オレイン酸鉄、ステアリン酸鉄などである。鉄前駆体は、第一鉄形、第二鉄形、またはそれらの組み合わせにおいて鉄を提供しうる。
【0043】
触媒前駆体はFe(II)またはFe(III)を、酢酸塩、クエン酸塩、EDTA(ethylene diamine tetra acetate:エチレンジアミン四酢酸)またはNTA(nitrilo triacetate:ニトリロ三酢酸)等の有機リガンドまたは陰イオンと組み合わせて含むのが好ましく、特にカルボン酸鉄(II)化合物、特にアンモニウムナトリウムまたはカリウム塩として使用されうるヒドロキシカルボン酸鉄化合物およびクエン酸鉄アンモニウムを含む。最も好ましい鉄含有粒子は、クエン酸鉄アンモニウム(III)から調製される。
【0044】
上述の鉄前駆体を用いて、担持触媒の活性相として(一般に炭化鉄へのインサイチュ変換後に)作用する鉄含有粒子が調製される。触媒調製技術の例は、従来技術において周知の技術である含浸、沈着沈殿、イオン交換、電気化学析出、静電吸着、共沈である(SYNTHESIS OF SOLID CATALYSTS.K.P.de Jong(編).Wiley−VCH Verlag GmbH & Co.Weinheim,2009)。その結果生じる、提供される触媒組成物に存在する鉄含有粒子は、好ましくは酸化鉄、最も好ましくはFeを含む。
【0045】
鉄含有粒子は、賢明に粒度が低いのが好ましい。これは、30nmより小さい平均粒度をいう。粒子がより小さいサイズであること、すなわち平均粒度が20nm未満であるのが好ましい。平均粒度が10nm未満であるのが最も好ましい。
【0046】
担持金属触媒の平均粒度は、様々な技術を用いて測定できる。粒度を測定する好ましい技術は、透過電子顕微鏡法(transmission electronmicroscopy:TEM)、X線回折(X−ray diffraction:XRD)の線幅および定量的X線光電子分光法(X−ray photoelectron spectroscopy:XPS)である。これらの技術は、当業者に周知である。
【0047】
TEMは、透過モードの電子顕微鏡により担持触媒中の金属粒子の直接観察を可能にする解析手法である。この技術は、触媒の粒度分布および構造特性を決定するために有用である。この方法についての追加情報は、STRUCTURE OF METALLIC CATALYSTS.J.R.Anderson.Academic Press Inc.London,1975.P.363に見られる。
【0048】
XRD:触媒中に100nmより小さな結晶子が存在するならば、X線回折パターンにかなりの線幅が生じる。応力下でない材料の場合には、単一の回折ピークからサイズが推定される。幅の程度はピークの最大強度の半分のところの全幅として表され、シェラー式により平均結晶子直径を計算するために用いられるが、これは当業者に周知である。この技術についての参考文献は、STRUCTURE OF METALLIC CATALYSTS.J.R.Anderson.Academic Press Inc.London,1975.P.365である。
【0049】
定量的XPS:XPSピークは、ナノメートル深さスケールの表面構造に依存する。測定されたスペクトルのピーク形の分析から、担持体の表面の定量的組成および表面被覆率についての情報が提供される。定量的XPS分析から得られたデータを数理モデルとともに用いて、表面種の分布および相厚みを測定しうる。平均粒度を測定するための定量的XPSの使用例は、Bezemer等によりコバルト触媒の特性評価において示されている(COBALT PARTICLE SIZE EFFECTS IN THE FISCHER−TROPSCH REACTION STUDIED WITH CARBON NANOFIBER SUPPORTED CATALYSTS.G.L.Bezemer等.Journal of the American Chemistry Society 128(2006):3956−3964)。
【0050】
触媒は、従来技術において慣例のように、助触媒を任意に含む。一般に助触媒は、選択性、安定性、活性、またはその組み合わせのいずれかに関して触媒の性能を高める物質である。文献においては基本的に全ての固体元素が、時に濃度または他の使用条件によって、可能な助触媒として認められている。好ましい助触媒は、カルシウム、セシウム、クロム、コバルト、銅、金、リチウム、マンガン、ニッケル、パラジウム、白金、カリウム、ルテニウム、銀、ナトリウム、硫黄、チタン、亜鉛、ジルコニウム、バナジウムおよび希土類金属からなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む。これらの元素のいずれも、元素形またはイオン形でありうる。
【0051】
本発明は、フィッシャー−トロプシュ法における上述の触媒の使用に関する。これは一般に、合成ガスが有用な炭化水素に変換されるプロセスをいう。
【0052】
合成ガス(または「シンガス」)とは一般に、水素(H)および一酸化炭素(CO)の両方を含む任意のガス供給原料流をいう。シンガスは、例えば、天然ガスもしくは液状炭化水素の水蒸気改質による水素の生成、または石炭、バイオマスのガス化により、ある種の廃棄物熱源転換ガス化施設において、得られる。本質的にシンガスは、広範囲の多様な量の一酸化炭素および水素をさす。一般にH:COのモル比は、0.1〜10である。本発明での使用に好ましい合成ガス供給原料は、H:COのモル比が3未満であり、2未満であるのがより好ましい。H:COのモル比が、0.5〜1の範囲内であるのが最も好ましい。好ましい一実施形態では、シンガスの好ましいソースは石炭である。別の好ましい実施形態では、好ましい水素対一酸化炭素比を考慮して、本発明で使用するシンガスの供給原料はバイオマスから、最も好ましくは非食品系バイオマスから生じ、これは一般にリグノセルロース系バイオマスである。
【0053】
本発明では、(古典的フィッシャー−トロプシュ合成のように)C:H比が[n]:[2n+2]でnが正の整数であるアルカンではなく、(C:H比が2であるアルケンを生成したいので、これに関連して、水素が比較的低い範囲が好ましい。
【0054】
フィッシャー−トロプシュ合成においては、アルケンの形成に向けられたフィッシャー−トロプシュの場合もそうだが、ある炭素鎖長分布が一般に生じる。生じる可能性のある鎖長分布は、選択性を鎖の成長確率と結び付けるアンダーソン−シュルツ−フローリー分布として当業者に知られている。但し、例えば一つの鎖長の形成における選択性が高い触媒でも、他の鎖長も必然的に形成される点に留意する必要がある。
【0055】
本発明においては、アルケンの形成を促進するようにフィッシャー−トロプシュ合成が行われることは明らかであろう。本発明は、特に低級オレフィンの形成に関する。低級オレフィンへの選択性は、特にこれに、増加した触媒活性および衰えない触媒安定性が伴った場合には、思いもよらない成果となる。
【0056】
低級オレフィンは一般にアルケンであり、好ましくは最大8個の炭素原子の鎖長を有する1−アルケン(α−オレフィン)(C2〜8オレフィン)である。例えば、非常に有用な生成物には、C5〜8α−オレフィンが含まれる。本発明は、最大6個の炭素原子のオレフィン(C2〜6オレフィン)に関するのが好ましい。本発明は、最も好ましくはC2〜4オレフィンの生成に、さらに好ましくはエテンおよび/またはプロペンの生成に関する。
【0057】
当業者であれば通常、フィッシャー−トロプシュ法をアルケンの生成に向ける方法を認識している。本発明による触媒選択の利点を享受する際に、最も重要なプロセスパラメータは温度および圧力である。
【0058】
特にこれは、本発明によれば、好ましくは270℃を上回る、好ましくは290℃を上回る、より好ましくは300℃を上回る、最も好ましくは310℃を上回る反応温度を伴う。反応温度は、好ましくは500℃以下、より好ましくは450℃以下、最も好ましくは400℃以下である。
【0059】
反応圧力に関しては、これは好ましくは1〜700バール、好ましくは5〜100バール、最も好ましくは10〜50バールである。
【0060】
340〜360℃の温度が、15〜25バールの圧力と組み合わせられるのが特に好ましい。
【0061】
本発明のフィッシャー−トロプシュ合成は、任意の適切な反応器において実施されうる。フィッシャー−トロプシュ法を行うための反応器は当業者に周知であり、ここで説明する必要はない。同様に、触媒が反応器内に提供される方法も公知である。流動床または多管固定床式反応器が用いられるのが好ましい。さらなる情報は、FISCHER−TROPSCH TECHNOLOGY.A.SteynbergおよびM.Dry(編集).Studies in Surface Science and Catalysis 152.Chapter 2:Fischer−Tropsch Reactors,Elsevier B.V.アムステルダム2004に見られる。
【0062】
本発明はさらに、本発明で用いられる触媒の新規な調製プロセスに関する。このプロセスには、有機鉄錯体の熱分解により鉄含有ナノ粒子を作る技術の使用が含まれる。この技術の実現可能性は、量子ドットおよび磁性流体の調製において確立されており、本発明者らは、これが担持鉄触媒の調製に適することを予想外に発見している。Guczi等.Journal of Catalysis 244(24−32),2006を参照。この文献では、前駆体としてオレイン酸鉄を用いて酸化鉄ナノ粒子が調製される。しかし、この目的は、カーボンナノチューブに触媒を提供することである。この目的で、粒子が調製および精製された後、エタノールに再分散され、多層カーボンナノチューブに堆積される。本発明のプロセスでは、特に担持体物質の存在下で熱分解が行われる。
【0063】
適切な鉄錯体には、オレイン酸鉄および有機酸の鉄塩が含まれるがこれに限られない。
【0064】
本発明はこれより、以下の非限定的な実施例に関連して示される。
【実施例】
【0065】
実施例1
触媒調製。α−Al担持鉄触媒(クエン酸鉄アンモニウム前駆体13wt%Fe)
順次の初期湿潤含浸ステップを、2gのα−Al球体(篩分級物:212〜425μm、BET表面積=10m/g、全細孔容積=0.5cm/g)に3.1mlの1.8Mクエン酸鉄アンモニウム(III)(C5+4yFe、15%wtFe)水溶液を用いて周囲圧力で行い、13wt%Fe/α−Alを準備した。各含浸の後、触媒を周囲温度および60ミリバールで2時間乾燥させた。全ての溶液が担持体上に取り込まれた後、サンプルを90℃で、空気流下で1時間乾燥させた。その後、サンプルを500℃で、空気流下で2時間か焼した。
【0066】
X線粉末回折(XRD)および透過電子顕微鏡法(TEM)により、特性評価を行った。室温で、Co−Kα12(λ=1.79026Å)照射を用いたBruker−Nonius D8 Advance X線回折計セットアップで30°〜85°の2θのXRDパターンを得た。38.9°の最強回折線を用いて、シェラー式に従って平均酸化鉄粒度を計算した。XRDから計算された平均結晶子サイズは21nmであり、TEMから計算された平均サイズは17nmだった。TEM(図1)は、アルミナ表面上に均一に分布した酸化鉄粒子(およそ17nm)を担持する大きなα−Al粒子(およそ200nm)を示す。このサンプルを、サンプルA−1と指定した。
【0067】
実施例2
触媒調製。α−Al担持鉄触媒(クエン酸鉄アンモニウム前駆体。様々な鉄負荷)
順次の初期湿潤含浸ステップを、4gのα−Al球体(篩分級物:212〜425μm、BET表面積=10m/g、全細孔容積=0.5cm/g)にクエン酸鉄アンモニウム(III)(C5+4yFe、15%wtFe)水溶液を用いて周囲圧力で行い、鉄負荷の異なる4つのFe/α−Al触媒を準備達成した。実施例1からの調製手順に従ってサンプルを調製した。
【0068】
クエン酸鉄アンモニウム溶液の量および組成ならびに得られた負荷が、表1にまとめられている。
【0069】
【表1】

【0070】
サンプルを、表1に示すようにA−2〜A−5と指定した。
【0071】
実施例3
触媒調製。Mn促進およびα−Al担持触媒
初期湿潤含浸ステップを、2gのα−Al球体(BET表面積=10m/g、全細孔容積=0.5cm/g)にクエン酸鉄アンモニウム(III)(C5+4yFe、15wt%Fe)および酢酸マンガン(II)(Mn(CHCOO)・4HO)の水溶液を用いて周囲圧力で行った。0.24gの鉄塩および0.035gまたはマンガン塩を1mlの脱塩水に溶解することにより、溶液を調製した。含浸の後、触媒を35℃および60ミリバールで2時間乾燥させた。その後、サンプルを500℃で、空気流下で2時間か焼した。
【0072】
このサンプルを、サンプルA−6と指定した。
【0073】
比較例1
触媒調製。α−Al担持鉄触媒(硝酸鉄前駆体。様々な鉄負荷)
順次の初期湿潤含浸ステップを、4gのα−Al球体(篩分級物:212〜425μm、BET表面積=10m/g、全細孔容積=0.5cm/g)に硝酸鉄(III)水溶液(Fe(NO・9HO)を用いて周囲圧力で行って、鉄負荷の異なる4つのFe/α−Al触媒を準備達成した。各含浸の後、触媒を周囲温度および60ミリバールで2時間乾燥させた。全ての溶液が担持体上に取り込まれた後、サンプルを90℃で、空気流下で1時間乾燥させた。その後、サンプルを500℃で、空気流下で2時間か焼した。
【0074】
クエン酸鉄アンモニウム溶液の量および組成ならびに得られた負荷が、表2にまとめられている。
【0075】
【表2】

【0076】
サンプルを、表2に示すようにC−1〜C−4と指定した。
【0077】
X線粉末回折(XRD)および透過電子顕微鏡法(TEM)により、特性評価を行った。室温で、Co−Kα12(λ=1.79026Å)照射を用いたBruker−Nonius D8 Advance X線回折計セットアップで30°〜85°の2θのXRDパターンを得た。38.9°の最強回折線を用いて、シェラー式に従って平均酸化鉄粒度を計算した。XRDから計算された平均結晶子サイズは21nmであり、TEMから計算された平均サイズは28nmだった。TEM(図2)は、凝集して大きなFeクラスター(>30nm)を形成する酸化鉄粒子を担持する大きなα−Al粒子(およそ200nm)を示す。
【0078】
比較例2
触媒調製。バルク鉄触媒
25gの硝酸鉄(III)(Fe(NO・9HOを、100mlの脱塩水に溶解した。溶液を沸点に加熱した後、100mlの脱塩水に溶かした25gの炭酸ナトリウム(NaCO)の沸騰に近い溶液を、激しく攪拌しながらゆっくり加えた。生じた沈殿物を濾過し、1lの沸騰に近い脱塩水に再スラリー化して、一切の残留ナトリウムを除去した。中性のpHに到達するまで、精製プロセスを四回行った。精製した沈殿物を静的空気下で、60℃で6時間乾燥させた後、120℃で24時間乾燥させた。触媒を、5℃/分の加熱勾配を用いて、空気流下で、300℃で5時間か焼した。
【0079】
X線粉末回折(XRD)により、特性評価を行った。室温で、Co−Kα12(λ=1.79026Å)照射を用いたBruker−Nonius D8 Advance X線回折計セットアップで30°〜85°の2θのXRDパターンを得た。38.8°の最強回折線を用いて、シェラー式に従って平均酸化鉄サイズを計算した。XRDから計算された平均結晶子サイズは27nmだった。このサンプルを、サンプルC−5と指定した。
【0080】
比較例3
触媒調製。促進バルク鉄触媒(沈殿)
25gの硝酸鉄(III)(Fe(NO・9HOおよび1.2gの硝酸銅(II)(Cu(NO・3HO)を、100mlの脱塩水に溶解した。溶液を沸点に加熱した後、100mlの脱塩水に溶かした25gの炭酸ナトリウム(NaCO)の沸騰に近い溶液を、激しく攪拌しながらゆっくりと。生じた沈殿物を濾過し、1lの沸騰に近い脱塩水に再スラリー化して、一切の残留ナトリウムを除去した。中性のpHに到達するまで、精製プロセスを四回行った。精製した沈殿物を、200mlの脱塩水に再スラリー化し、8gのカリウム水ガラス溶液(KO:SiO(1:2.15),Akzo−PQ)を、激しく攪拌しながらスラリーに加えた。1.5mlの濃HNOを加えてSiOを沈殿させ、全カリウム含量を低下させた。
【0081】
得られた沈殿物を静的空気下で、60℃で6時間乾燥させた後、120℃で24時間乾燥させた。触媒を、5℃/分の加熱勾配を用いて、空気流下で、300℃で5時間か焼した。
【0082】
X線粉末回折および蛍光X線法(XRF:X−ray fluorescence)により、特性評価を行った。XRF分析から、触媒含有量が6wt%のSiOおよび1.8wt%のCuO、カリウム含有量がごくわずかであることが測定された。室温で、Co−Kα12(λ=1.79026Å)照射を用いたBruker−Nonius D8 Advance X線回折計セットアップで30°〜85°の2θのXRDパターンを得た。38.9°の最強回折線を用いて、シェラー式に従って平均酸化鉄サイズを計算した。XRDから計算された平均結晶子サイズは28nmだった。このサンプルを、サンプルC−6と指定した。
【0083】
比較例4
触媒調製。促進バルク鉄触媒(焼結)
9.94gの酸化鉄(II,III)(Fe)、3gの酸化チタン(TiO)、0.72gの酸化亜鉛(ZnO)、および0.42gの炭酸カリウム(KCO)を混合することにより、10グラムの触媒を調製した。酸化物混合物を、1050℃で4時間焼結した。
【0084】
X線粉末回折(XRD)により、特性評価を行った。室温で、Co−Kα12(λ=1.79026Å)照射を用いたBruker−Nonius D8 Advance X線回折計セットアップで30°〜85°の2θのXRDパターンを得た。38.8°の最強回折線を用いて、シェラー式に従って平均酸化鉄サイズを計算した。XRDから計算された平均結晶子サイズは50nmだった。このサンプルを、サンプルC−7と指定した。
【0085】
比較例5
触媒調製。促進および熱処理γ−Al担持鉄触媒
γ−Al(表面積約250m/g)を静的空気下で、200℃で3時間乾燥させた。乾燥後、担持体を750℃に加熱した。最終ステップでは、温度を1250℃に上げ、担持体を10分間のその温度で保った。得られた担持体は、αおよびγアルミナの混合物であることがXRD分析により確認された。4gのHT(heat treated:熱処理)γ−Alに、以下のように調製した2.6mlの硝酸プラセオジム溶液を含浸させた:3.1gの酸化プラセオジム(III,IV)(Pr11)を、2.5mlの濃HNOに溶解した。水が蒸発するまで溶液を加熱し、残った固体を静的空気下で、100℃で一晩乾燥させた。得られた硝酸プラセオジムを水に溶解し、25mlにした。含浸後、サンプルを真空下で20時間乾燥させた後、空気流下で、90℃で1時間乾燥させた。含浸した担持体を500℃で、空気流下で1.5時間か焼した。
【0086】
第一か焼後、1.3mlの脱塩水に0.286gの鉄塩を溶解することにより調製した硝酸鉄(III)(Fe(NO・9HO)溶液をサンプルに含浸させた。その後サンプルを真空下で20時間乾燥させた後、90℃で1時間乾燥工程を行った。最終か焼ステップを、450℃で2時間、空気流下で実行した。TEMからは、担持体のα−アルミナ相(150〜200nmのα−Al結晶)の表面には主にFe粒子がないことが示される(図3)。このサンプルを、サンプルC−8と指定した。
【0087】
比較例6
触媒調製。γ−Al担持鉄触媒
順次の初期湿潤含浸ステップを、2gのγ−Al球体(BET表面積=250m/g)に3.1mlの1.8Mのクエン酸鉄アンモニウム(III)(C5+4yFe、15wt%Fe)水溶液を用いて周囲圧力で行って、13wt%Fe/γ−Alを準備した。実施例1からの調製手順に従ってサンプルを調製した。このサンプルを、サンプルC−9と指定した。
【0088】
実施例4
低圧での触媒試験(H/CO=1)
触媒試験のため、実施例1〜6および比較例1〜3に記載の触媒のいずれかの20mgを、触媒床希釈剤として200mgのSiCと混合した。試験するサンプルを、プラグ流反応器(5mm直径)に置き、1バールおよび350℃で、時間当たりのガス空間速度が42000h−1の水素(33v/v%)とアルゴン(67v/v%)との混合物下で、2時間(5℃/分)還元した。還元後、供給原料を50v/v%水素と50v/v%一酸化炭素との混合物(GHSV=4200h−1)に切り替えた。フィッシャー−トロプシュ反応を、1バールおよび350℃で20時間実施した。
【0089】
反応の15時間後の触媒試験の結果が、下表3にまとめられている。これらの結果から観察することができるのは、サンプルA−1、A−4およびA−6が、低圧(1バール)で低いメタン選択性(≦22%)および低級オレフィンに対する高い選択性(≧58%)を示すことである。比較例C−3およびC−5〜C−9からのサンプルは、高いメタン選択性(≧43%)および軽質オレフィンに対する中程度の選択性(≦46%)を示す。サンプルA−4が、最も高い触媒活性を示す。
【0090】
【表3】

炭化水素のみ
【0091】
実施例5
中圧での触媒試験(H/CO=1)
触媒試験のため、実施例1および2に記載の触媒のいずれかの2mlを、触媒床希釈剤としての10mlのSiCと混合した。試験するサンプルを、プラグ流反応器(7mm直径)に置き、2.5バールおよび350℃で、時間当たりのガス空間速度が660h−1の水素とアルゴンとの混合物下で、2時間還元した。
【0092】
還元後、温度を280℃に低下させ、供給原料を時間当たりのガス空間速度が1500h−1の水素(50v/v%)と一酸化炭素(50v/v%)との混合物に切り替えた。合成ガス(P=20バール)の導入後、100℃/時間の勾配で反応温度を340℃に高めた。6時間後に温度を33時間280°に低下させた後、高温で測定を再開するために温度を340℃に高めた。20バールで行った実験の間、出口のCO、CO、およびC〜C10の炭化水素の濃度をGCで測定した。反応中に形成された少量の液体生成物は、データ分析では無視した。
【0093】
反応の65時間後の触媒試験の結果が、表4にまとめられている。
【0094】
【表4】

炭化水素のみ
【0095】
これらの結果から観察することができるのは、高温フィッシャー−トロプシュ反応を高圧(20バール)で実施すると、サンプルA−1からA−6が、メタンに対する低い選択性(≦24%)およびC〜Cオレフィンへの高い選択性(≧38%)を示すことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持鉄系触媒を用いた、一酸化炭素と水素とを含む供給原料流の変換による低級オレフィンの生成のためのプロセスであって、α−アルミナ(α−Al)を含む担持体上に分散された鉄含有粒子を含む触媒組成物が提供され、前記担持体が、(前記担持体の重量にもとづいて計算して)少なくとも1wt%の前記鉄含有粒子を負荷され、前記鉄含有粒子の大多数が、前記α−アルミナと直接接触している、プロセス。
【請求項2】
担持鉄系触媒を用いた、一酸化炭素と水素とを含む供給原料流の変換による低級オレフィンの生成のためのプロセスであり、α−アルミナ(α−Al)を含む担持体上に分散された鉄含有粒子を含む触媒組成物が提供され、前記担持体が、(前記担持体の重量にもとづいて計算して)少なくとも1wt%の前記鉄含有粒子を負荷され、前記鉄含有粒子の大多数が、透過電子顕微鏡法で測定して30nmまたは以下の粒度を有する、プロセス。
【請求項3】
270℃を上回る、好ましくは500℃以下の温度で実行される、請求項1および2のいずれかまたは両方に記載のプロセス。
【請求項4】
前記触媒組成物上に提供される前記鉄含有粒子が、30nm未満、好ましくは10nm未満の平均粒度を有する、請求項1〜3のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項5】
前記鉄含有粒子の数の少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%が、前記α−アルミナ担持体と物理的に接触している、請求項1〜4のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項6】
前記触媒組成物上に提供される前記鉄含有粒子が、鉄テトラカルボニル、鉄ペンタカルボニル、鉄ノナカルボニル、硝酸鉄、臭化鉄、塩化鉄、フッ化鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、鉄アセチルアセトネート、酢酸鉄、フマル酸鉄、グルコン酸鉄、クエン酸鉄、安息香酸鉄、マレイン酸鉄、シュウ酸鉄、オレイン酸鉄、およびステアリン酸鉄、ならびに好ましくはクエン酸鉄アンモニウム(III)からなる群より選択される前駆体から得られる、請求項1〜5のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項7】
前記触媒組成物上に提供される前記得られた鉄含有粒子が、酸化鉄、好ましくはFeを含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記供給原料流が、モル比H:COが0.1:1〜10:1、好ましくは0.5〜1の範囲内の水素と一酸化炭素とを含む、請求項1〜7のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項9】
前記反応温度が、290℃を上回り、好ましくは310℃を上回り、450℃以下であり、好ましくは400℃以下である、請求項1〜8のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項10】
前記反応圧力が、1〜700バール、好ましくは5〜100バール、最も好ましくは10〜50バールである、請求項1〜9のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項11】
最大6個の炭素原子、好ましくは最大4個の炭素原子の鎖長を有する低級オレフィンが生成される、請求項1〜10のいずれか一つに記載のプロセス。
【請求項12】
α−アルミナを含む担持体と鉄成分とを含む鉄系触媒組成物の調製のためのプロセスであって、前記プロセスが、酸化鉄ナノ粒子を形成するために、有機鉄錯体を前記熱の影響下で分解させるステップを含み、前記分解が、前記担持体物質の存在下で実行される、プロセス。
【請求項13】
前記鉄成分が、30nmより小さい、好ましくは20nmより小さい平均粒度を有する鉄含有粒子を含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記鉄含有粒子が、鉄テトラカルボニル、鉄ペンタカルボニル、鉄ノナカルボニル、硝酸鉄、臭化鉄、塩化鉄、フッ化鉄、リン酸鉄、硫酸鉄、鉄アセチルアセトネート、酢酸鉄、フマル酸鉄、グルコン酸鉄、クエン酸鉄、安息香酸鉄、マレイン酸鉄、シュウ酸鉄、オレイン酸鉄、およびステアリン酸鉄、ならびに好ましくはクエン酸鉄アンモニウム(III)からなる群より選択される前駆体から、好ましくは酸化鉄粒子として得られる、請求項12または13に記載のプロセス。
【請求項15】
合成ガスからのオレフィンの前記選択的生成のための、請求項12〜14のいずれか一つにより調製される触媒の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2013−509353(P2013−509353A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535153(P2012−535153)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【国際出願番号】PCT/NL2010/050711
【国際公開番号】WO2011/049456
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(512106506)ネザーランズ オーガニゼーション フォー サイエンティフィック リサーチ (アドバンスト ケミカル テクノロジーズ フォー サステイナビリティー) (1)
【Fターム(参考)】