説明

合成樹脂粉末

【課題】再分散して得られた水性エマルジョンを乾燥皮膜とした際の耐水性に優れた合成樹脂粉末を提供することである。
【解決手段】エチレン性不飽和単量体の重合体を分散質とする水性エマルジョンに、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂を配合した組成物であって、架橋剤を含有しない組成物を乾燥して得られる合成樹脂粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂粉末に関し、更に詳しくは、エチレン性不飽和単量体の重合体を分散質とする水性エマルジョンを乾燥して得られる合成樹脂粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂の水性エマルジョンを噴霧乾燥して得られる合成樹脂粉末は、粉末であることから取り扱いおよび輸送の点で優れており、使用時に、水を添加して攪拌することによって水中に再分散し、水性エマルジョンに戻すことができるため、セメントまたはセメントモルタルへの混和剤、接着剤、塗料用バインダーなどの広範囲な用途に使用されている。
【0003】
かかる合成樹脂粉末の製造において、従来の合成樹脂の水性エマルジョンをそのまま噴霧乾燥すると、分散質が融着し、水に再分散しにくくなるため、乾燥前に融着防止剤および再分散助剤として、多量の部分ケン化ポリビニルアルコール(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記する。)を配合する必要があった。
【0004】
しかしながら、このようにして得られた合成樹脂粉末は、水溶性樹脂であるPVAを多量に含有するため、これを再分散した水性エマルジョンの乾燥物は耐水性に乏しいと言う問題点を有していた。
PVAに耐水性を付与する方法としては、架橋剤の併用が効果的であるが、水性エマルジョン中にPVAとその架橋剤が共存すると、保存条件や使用環境によって架橋反応が進行し、増粘、ゲル化する場合がある。
【0005】
一方、乾燥前に配合するPVAの構造によって再分散エマルジョンの乾燥物の耐水性を改善する方法も広く検討されており、例えば、主鎖中の1,2−グリコール結合が1.9モル%以上であるPVAを用いる方法が提案されている(たとえば特許文献1参照。)。これは、PVAの主鎖の異種結合である1,2−グリコール結合の量を通常よりも増やすことで、部分ケン化PVAであることが必要であった同用途に高ケン化度のPVAを用いることが可能となり、その結果、PVAの結晶性が上がり、エマルジョン乾燥物の耐水性が向上したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−211059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者が、かかる特許文献に記載の技術による合成樹脂粉末について詳細に検討したところ、再分散エマルジョンの乾燥物の耐水性はかなり向上されているものの、さらなる改善の余地があることが判明した。
すなわち、本発明の目的は、再分散して得られた水性エマルジョンを乾燥させた場合に、耐水性に優れた乾燥物が得られる合成樹脂粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の事情に鑑み、鋭意検討した結果、エチレン性不飽和単量体の重合体を分散質とする水性エマルジョンに、アセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂を配合した組成物であって、架橋剤を含有しない組成物を乾燥して得られる合成樹脂粉末が、上記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
かかるアセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂は、分散質に対する保護コロイド力に優れるため、水性エマルジョンを乾燥して合成樹脂粉末とする際の分散質の融着防止、および得られた合成樹脂粉末の水への再分散性向上に効果的である。
また、本発明の合成樹脂粉末を再分散して得られる水性エマルジョンは、その乾燥時にPVA中のアセト酢酸エステル基同士が反応し、PVAの架橋構造体を形成することによって、耐水性に優れた乾燥物が得られたものと推測される。
【0010】
なお、本発明の合成樹脂粉末は架橋剤を含有しないため、水性エマルジョンとした時の粘度安定性に優れるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の合成樹脂粉末は、これを水に再分散させて得られた水性エマルジョンによって、耐水性に優れた乾燥皮膜が得られることから、セメント・モルタル混和剤、セメント・モルタル塗布剤、土木用原料、塗料、接着剤、粘着剤(感圧接着剤)、繊維加工剤、紙加工剤、無機物バインダー、塩ビ等の樹脂の改質剤、汚泥や産業廃棄物等の粘性土の固化安定剤、表面保護用再剥離性被覆材、化粧品用途等に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の合成樹脂粉末は、エチレン性不飽和単量体の重合体を分散質とする水性エマルジョンに、アセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂を配合した組成物を乾燥して得られたものである。
【0014】
<水性エマルジョン>
まず、本発明において用いられる水性エマルジョンについて説明する。
水性エマルジョンとは、水中に、小さな滴となった分散質が分散したもので、通常、良好で安定な分散状態を保つために、界面活性剤などの分散剤が用いられる。
重合体を分散質とする水性エマルジョンを得る方法としては、単量体から乳化重合する方法や、重合体を後乳化する方法があるが、一工程で水性エマルジョンが得られることから、乳化重合法が好ましく用いられる。
かかる乳化重合は、通常、分散剤、および重合開始剤を含有する水溶液に、単量体、あるいは単量体の分散液(プレエマルジョン)を一括又は分割して添加し、撹拌しながら加熱して行われる。
以下、乳化重合法による水性エマルジョンについて説明する。
【0015】
本発明の水性エマルジョンにおける分散質は、エチレン性不飽和単量体の重合体からなる。
かかるエチレン性不飽和単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル、1−メトキシビニルアセテート、酢酸イソプロペニル等のビニルエステル系単量体、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、などのハロゲン化オレフィン類、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸およびそのエステル類、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸およびそのエステル類、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物、さらには、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、などのアクリルアミド系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびそのナトリウム塩、カリウム塩などのスチレン系単量体、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体が挙げられる。通常、これらの単量体は単独もしくは二種以上を組み合わせて使用される。
これらの中でもアクリル酸およびそのエステル類とメタクリル酸およびそのエステル類が好適に用いられる。
【0016】
本発明の水性エマルジョンを製造する際の乳化重合時の分散剤としては、公知のものを用いることができるが、中でもPVA系樹脂が好ましく用いられる。
【0017】
乳化重合時の分散剤として用いられるPVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は通常は50〜4000であり、特に100〜2000、さらに200〜800のものが好ましく用いられる。かかる平均重合度が低すぎると、保護コロイド力が得られず、逆に高すぎると得られたエマルジョンの粘度が高くなりすぎ、重合中に攪拌できず、重合困難となる場合がある。
【0018】
また、PVA系樹脂のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、80〜100モル%であることが好ましく、特に90〜100モル%、さらに98〜100モル%のものがより好ましい。かかるケン化度が低すぎると曇点現象によって重合中にPVA系樹脂の不溶物が析出し、重合を阻害する場合があり、逆に高すぎると乳化力が不足し、安定な水性エマルジョンが得られなく傾向がある。
【0019】
かかるPVA系樹脂としては、未変性PVAや、各種変性PVA系樹脂が用いられ、中でも、主鎖にエチレン由来の構造単位を有するもの、側鎖にアセト酢酸エステル基や、1,2−ジオール構造を有するものが好適に用いられる。特に、重合安定性、および得られた水性エマルジョンの安定性の点で、側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂が好ましい。
かかる側鎖の1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂は、下記一般式(1)で表すことができる。
【化1】


式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。
中でもR〜R、R〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合であるものが最も好ましく用いられる。
かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂は、例えば、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体と、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンやビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化することによって得ることができる。
【0020】
また、かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂に含まれる1,2−ジオール構造単位の含有量は、通常は2〜15モル%であり、特に3〜12モル%、さらに5〜10モル%が好ましい。かかる含有量が少なすぎても多すぎでも、エマルジョンが不安定となる傾向がある。
【0021】
なお、側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂中の1,2−ジオール構造単位の含有率は、PVA系樹脂を完全にケン化したもののH−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0022】
乳化重合時に分散剤として用いるPVA系樹脂の使用量としては、その種類や所望する水性エマルジョンの濃度等によって多少異なるが、通常乳化重合反応系の全体に対して0.1〜30重量%であり、さらには1〜20重量%、特には2〜10重量%の範囲である。また、分散質100重量部に対して0.1〜100重量部であり、特に1〜50重量部、さらには3〜10重量部の範囲が好ましく用いられる。かかるPVA系樹脂の使用量が多すぎると水性エマルジョンから得られた被膜の耐水性が低下する傾向があり、逆に少なすぎると単量体の分散安定性が低下し、良好な水性エマルジョンが得られなくなる傾向があるため好ましくない。
【0023】
また、乳化重合時に用いられる重合開始剤としては、通常、普通過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、臭素酸カリウム等が挙げられ、それぞれ単独で又は酸性亜硫酸ナトリウムと併用して用いられる。更には過酸化水素−酒石酸、過酸化水素−鉄塩、過酸化水素、アスコルビン酸−鉄塩、過酸化水素−ロンガリット、過酸化水素−ロンガリット−鉄塩等の水溶性のレドックス系の重合開始剤も好適に用いられ、具体的には化薬アクゾ社製『カヤブチルB』や同社製『カヤブチルA−50C』等の有機過酸化物とレドックス系からなる開始剤が挙げられる。
【0024】
重合開始剤の使用量は、通常エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.01〜10重量部であり、特に0.05〜5重量部、さらに0.1〜3重量部の範囲が好ましく用いられる。かかる重合開始剤の使用量が少なすぎると重合速度が遅くなる傾向があり、逆に多すぎると重合安定性が低下する傾向がある。
なお、重合開始剤の添加方法としては、特に制限はなく、初期に一括して反応液中に添加しておく方法や重合の経過に伴って連続的に添加する方法等を採用することができる。中でも、重合の経過に伴って連続的に滴下する方法が好ましい。
【0025】
通常、上述のPVA系樹脂と重合開始剤、および水を含む反応液が投入された攪拌装置、還流冷却器を備えた反応容器中に、エチレン性不飽和単量体が滴下され、乳化重合される。乳化重合反応の温度は、通常30〜90℃であり、特に40〜80℃の範囲が好ましく用いられる。
【0026】
反応液への単量体の滴下速度は、用いる単量体の反応性や重合開始剤の使用量、反応温度などによって一概に言えず、重合熱による反応液の温度の状況等を観察しながら適宜決定すればよい。
なお、単量体の一部、例えば全量の5〜30%を予め反応液中に投入しておき、重合の進行に応じて残りの単量体を滴下していくことも可能である。また、単量体を全量滴下した後、一定時間の熟成期間を設けることも好ましい実施態様である。
【0027】
水性エマルジョンのpHは、特に調整する必要はないが、通常得られる水性エマルジョンのpHは7〜2であり、目的に応じて13〜2の範囲で調整しても良い。
【0028】
本発明で用いられる水性エマルジョンの分散質の平均粒子径は通常0.3〜10μmであり、さらに0.5〜5μm、特に0.6〜3μmである。かかる平均粒子径が小さすぎると高濃度のエマルジョンを得ようとしたときに、重合安定性が低下したり、エマルジョンの各種安定性、特に機械的安定性が低下する傾向があり。逆に大きすぎると造膜性が悪くなったり、接着性、透明性が低下する傾向がある。
なお、かかる水性エマルジョンの平均粒子径は、ダイナミック光散乱光度計(大塚電子株式会社製「DLS−700」)を用いて測定したものである。
【0029】
また、本発明で用いられる水性エマルジョンの固形分濃度は、通常30〜70%であり、特に40〜60%である。かかる濃度が低すぎるとエマルジョン粒子が沈降しやすくなり、粘度安定性が低下したり、凍結安定性が低下する傾向にあり、逆に高すぎると作業性が阻害される傾向がある。なお、かかる水性エマルジョンの固形分濃度は、水性エマルジョンを105℃で3時間乾燥させた際の残分である。
【0030】
<アセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂>
次に、本発明の合成樹脂を製造するにあたり、上述の水性エマルジョンを乾燥する前に添加されるアセト酢酸エステル基含有PVA系樹脂(以下AA化PVA系樹脂という)について説明する。なお、AA化PVA系樹脂は、PVA系樹脂の水酸基の一部をアセト酢酸エステル基などで置換させることにより変性させたものであって、下記一般式(2)で表される構造を有している。
【化2】

【0031】
原料となるPVA系樹脂としては未変性のPVAや、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体とともに各種単量体を共重合して得られた共重合体をケン化して得られた変性PVA系樹脂が用いられる。
【0032】
かかる単量体としては例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、ビニレンカーボネート類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン等が挙げられる。
【0033】
これらのPVA系樹脂の水酸基をアセト酢酸エステル基と置換する方法としては、アセト酢酸エステル類とのエステル交換反応や、PVA系樹脂にジケテンを反応させる方法などを挙げることができるが、分離作業を必要とせず、工業的に優れた後者の方法が好適に用いられる。
【0034】
かかるPVA系樹脂とジケテンの反応は、PVA系樹脂にガス状或いは液状のジケテンを直接反応させても良いし、有機酸をPVA系樹脂に予め吸着吸蔵せしめた後、不活性ガス雰囲気下でガス状または液状のジケテンを噴霧、反応させるか、またはPVA系樹脂に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応させる等の方法が用いられる。
上記の反応を実施する際の反応装置としては加温可能で撹拌機の付いた装置であれば充分である。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダー、撹拌乾燥装置を用いることができる。
【0035】
本発明で用いられるAA化PVA系樹脂のアセト酢酸エステル基の含有率は、通常、0.01〜10モル%であり、より好ましくは0.1〜8モル%、更に好ましくは1〜6モル%である。かかるアセト酢酸エステル基への変性率が小さすぎると耐温水性、耐煮沸性やフィラー類などとの混和性が低下する傾向となり、大きすぎると乳化重合時の重合安定性が不良となる傾向がある。
【0036】
更に、PVA系樹脂分子上に存在するアセトアセチル基は分子内の一定領域にブロック状に固まって配置しているものよりも、分子内において相対的にランダムに配置されているものの方が好ましい。
【0037】
また、AA化PVA系樹脂の平均ケン化度は、通常、90モル%以上であり、より好ましくは92〜99.8モル%、さらに好ましくは94〜98モル%である。ケン化度が小さすぎると、安定に重合が進行しにくくなる傾向があり、重合が完結したとしても水性合成樹脂エマルジョンの保存安定性が良好でなくなる傾向がある。なお、AA化PVA系樹脂の平均ケン化度が大きすぎると、重合安定性が悪くなり、重合途中でゲル化する傾向がある。
【0038】
AA化PVA系樹脂の平均重合度は、通常、50〜2000であり、より好ましくは200〜1800、さらに好ましくは800〜1200である。PVAの平均重合度が小さすぎると、乳化重合時の保護コロイド能力が十分でなくなることがあり、重合が安定に進行しないことがあり、大きすぎると、重合時に増粘して反応系が不安定になったりする傾向がある。
【0039】
本発明の合成樹脂粉末の製造において、水性エマルジョンの乾燥前に配合されるAA化PVA系樹脂の使用量は、水性合成樹脂エマルジョンの固形分に対して、通常、2〜30重量%であり、4〜20重量%であることがより好ましく、更には6〜12重量%であることが好ましい。使用量が少なすぎると再分散性向上が充分でない傾向があり、多すぎると再分散性粉末の耐水性が充分でなくなる傾向がある。
【0040】
AA化PVA系樹脂の配合方法としては、AA化PVA系樹脂の水溶液を、水性エマルジョンに添加する方法が好適に用いられるが、AA化PVA系樹脂の粉末を水性エマルジョンに添加し、溶解する方法も用いることができる。
【0041】
本発明の合成樹脂粉末の製造に用いられる水性エマルジョンには、上述のAA化PVA系樹脂以外にも、再分散性合成樹脂粉末に用いられる公知の成分を添加することが可能である。
かかる抗粘結剤としては、公知の不活性な無機または有機粉末、例えば、無機粉末としては炭酸カルシウム、タルク、クレー、ドロマイト、無水珪酸、ホワイトカーボン、アルミナホワイト等を使用することができる。これらの中でも、無水珪酸、炭酸カルシウム、クレー等が好ましい。有機粉末としては合成樹脂のガラス転移温度が70℃以上の水性エマルジョンを噴霧乾燥してなる樹脂粉末も抗粘結剤として使用可能である。抗粘結剤の使用量は、得られる合成樹脂粉末に対して、5〜30重量%程度であることが好ましい。また、有機粉末と無機粉末の併用も可能である。
【0042】
なお、かかる抗粘結剤は、水性エマルジョンに配合する他、後述する噴霧乾燥後の合成樹脂粉末に混合したり、噴霧乾燥時に水性合成樹脂エマルジョン別のノズルから噴霧するなどの方法で添加することもかのうである。
抗粘結剤を添加することにより、抗粘結剤で樹脂粉末をまぶすような状態にして貯蔵中などにおいて粒子同士が粘結して凝集しブロッキングするのを防止することができる。
【0043】
<合成樹脂粉末>
次いで、本発明の合成樹脂粉末について説明する。本発明の合成樹脂粉末はエチレン性不飽和単量体の重合体を分散質とする水性エマルジョンに、AA化PVA系樹脂を配合した後、乾燥して得られるものであるが、乾燥方法は、特に制限はなく、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、凝析後の温風乾燥等があげられる。これらの中でも、生産コスト、省エネルギーの観点から噴霧乾燥が好ましい。
【0044】
噴霧乾燥の場合、その噴霧形式は、特に制限はなく、例えばディスク式、ノズル式などの形式により実施することができる。噴霧乾燥の熱源としては、例えば、熱風、加熱水蒸気などがあげられる。噴霧乾燥の条件としては、噴霧乾燥機の大きさ、種類、水性エマルジョンの固形分、粘度、流量等に応じて適宜選択することができる。噴霧乾燥の温度は、通常は、80〜150℃程度である。
【0045】
噴霧乾燥処理をさらに具体例をあげて説明すると、まず合成樹脂エマルジョン中の固形分を調整し、これを噴霧乾燥機のノズルより連続的に供給し、霧状にしたものを温風により乾燥させて粉末化させる。場合により、調整した噴霧液を噴霧に際して予め加温してノズルより連続的に供給し、霧状にしたものを温風により乾燥させて粉末化させることも可能である。加温することで乾燥スピードが速くなり、かつ噴霧液の粘度低下に伴い噴霧液の高不揮発分化が可能で、生産コストの低減にも寄与する。
【実施例】
【0046】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
以下の通り各評価を行った。
【0047】
製造例1
[乳化重合分散剤として用いるPVA系樹脂の製造]
まず、酢酸ビニル1400部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン224部(8モル%対仕込み酢酸ビニル)、メタノール426部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.255モル%(対仕込み酢酸ビニル)を準備した。
次いで、還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、メタノールとAIBNの全量、および酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの10%を投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。さらに酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの残部(90%)を9時間かけて滴下し、酢酸ビニルの重合率が90%となった時点でm−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0048】
次いで、上記メタノール溶液を濃度50%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して8ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。粘度上昇を確認後に水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して4ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、中和用の酢酸を水酸化ナトリウムの5当量添加し、濾別、メタノールで充分洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を得た。
【0049】
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ99モル%であり、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ300であった。また、1,2−ジオール構造単位の含有量は1H−NMR(内部標準物質;テトラメチルシラン)で測定して算出したところ8モル%であった。
【0050】
製造例2
[水性エマルジョンの乾燥前に添加するAA化PVAの製造]
酢酸ナトリウムを0.5%含有するPVA粉末(ケン化度96モル%、重合度1100)400部に予め無水酢酸100部を添加してスラリー状態とした。次いで、スラリー状のPVAをニーダーに仕込んで撹拌しながら55℃に昇温後、更に55℃で1時間撹拌を行ってから、ジケテン55部を3時間にわたって添加して、更に55℃で1時間反応させて、アセト酢酸基を4.4モル%含有するAA化PVAを得た。
【0051】
実施例1
攪拌機と還流冷却器とを備えた2Lサイズのステンレス製反応缶に、製造例1のPVA系樹脂の6.7%水溶液104部を仕込み、反応缶を80℃に加熱して、ここに、予め混合しておいたメタクリル酸メチル4.5部、アクリル酸n−ブチル5.5部を添加して、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを用いて、初期重合反応を1時間行った。次いで、予め混合しておいたメタクリル酸メチル 40.5部、アクリル酸n−ブチル49.5部を反応缶に4時間に渡って滴下して、重合開始剤として過硫酸アンモニウムをさらに加えながら滴下重合を進行させた。滴下終了後に同温度で1時間熟成させ、その後冷却した後、製造例2のAA化PVA(平均重合度1100、平均ケン化度96モル%、アセトアセチル基変性4.4モル%)の20%水溶液20部をここに添加して、充分撹拌した。これにより、不揮発分46%の水性合成樹脂エマルジョンを得た。この時の水性合成樹脂エマルジョンはpH3であった。
【0052】
得られた水性エマルジョンに、抗粘結剤として平均粒径0.02μmの珪酸粉末を水性エマルジョンの固形分に対して10重量%加え、ノズル式の噴霧乾燥機を用い、140℃の温風とともに噴霧し、合成樹脂粉末を得た。
かかる合成樹脂粉末は、水に再分散させることで良好な水性エマルジョンとすることができた。
【0053】
実施例2
実施例1において、AA化PVAの20%水溶液の配合量を50部とした以外は実施例1と同様にして合成樹脂エマルジョンを得た。
【0054】
[水性エマルジョンの乾燥皮膜の耐水性評価]
上記で得られた水性合成樹脂エマルジョンを1mmアプリケータで流延し、23℃にて、1週間乾燥させ、製膜した。
得られた皮膜を40℃で24時間エージングした後、23℃水中に浸漬した。浸漬開始から1時間後および24時間後に、水と皮膜の入っている試験管を振り、皮膜の状態を観察し、以下の基準により判定した結果を表1に示した。
○:崩壊しなかった
×:崩壊した
【0055】
実施例3
水性合成樹脂エマルジョンのpHを8に調整した以外は実施例2と同様にして合成樹脂粉末を製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0056】
実施例4
水性合成樹脂エマルジョンのpHを10に調整した以外は実施例2と同様にして合成樹脂粉末を製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0057】
比較例1
冷却した後に添加するPVAを平均重合度1100、平均ケン化度96モル%の部分ケン化PVAに変更した以外は実施例2と同様にして水性合成樹脂エマルジョンを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0058】
比較例2
冷却した後に添加するPVAを平均重合度500、平均ケン化度88モル%の部分ケン化PVAに変更した以外は実施2と同様にして水性合成樹脂エマルジョンを製造し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】


※AA化度はAA化PVAにおけるアセト酢酸エステル基の含有割合である。

【0060】
水性エマルジョンの後添加PVAとしてAA化PVAを用いて得られた実施例2〜4の水性エマルジョンからは、耐水性に優れた乾燥皮膜が得られた。一方、後添加PVAとして未変性の部分ケン化PVAを用いて得られた比較例1、および比較例2の水性エマルジョンの乾燥皮膜は、耐水性に乏しいものであった。
これらの評価結果は、合成樹脂粉末とする前の水性エマルジョンに対するものであるが、かかる水性エマルジョンを乾燥して得られる合成樹脂粉末を再分散させて得られる水性エマルジョンにおいても、同様の結果が得られることが容易に推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の合成樹脂粉末は、セメント・モルタル混和剤、セメント・モルタル塗布剤、土木用原料、塗料、接着剤、粘着剤(感圧接着剤)、繊維加工剤、紙加工剤、無機物バインダー、塩ビ等の樹脂の改質剤、汚泥や産業廃棄物等の粘性土の固化安定剤、表面保護用再剥離性被覆材、化粧品用途等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体の重合体を分散質とする水性エマルジョンに、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂を配合した組成物であって、架橋剤を含有しない組成物を乾燥して得られる合成樹脂粉末。
【請求項2】
水性エマルジョンの固形分100重量部に対するアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の配合量が2〜30重量部である請求項1記載の合成樹脂粉末。
【請求項3】
エチレン性不飽和単量体の重合体が(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を1種以上含有する重合体である請求項1又は2記載の合成樹脂粉末。
【請求項4】
水性エマルジョンが、ポリビニルアルコール系樹脂を分散剤とする乳化重合によって得られた水生エマルジョンである請求項1〜3いずれか記載の合成樹脂粉末。
【請求項5】
乾燥が噴霧乾燥である請求項1〜4いずれか記載の合成樹脂粉末。

【公開番号】特開2012−136639(P2012−136639A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289995(P2010−289995)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】