説明

合成樹脂製押出成形品の表面加飾方法

【課題】 押出成形の生産性を損なうことなく外層の層厚を多様に変化させることを技術的な課題とするものであり、もって外表面に着色濃度に係る多様な模様を現出させた押出成形品を提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも、内層を形成する内層樹脂通路と薄肉の外層を形成する外層樹脂通路を有する多層共押出し成形用ダイスを用い、外層を形成する外層用樹脂の供給速度を周期状に変化させる共に、引取機により伸張状態で押出成形し、供給速度の平均値、供給速度の変動周期、外層樹脂通路の合流点直前におけるスリットクリアランス、および引取速度の組み合わせにより、外層の層厚を多様に変化させて、成形品の外表面に着色濃度に係る模様を現出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製押出成形品の表面加飾方法に関するものであり、少なくとも外層と内層を有する多層成形品において、外層の層厚を多様に変化させて、成形品の外表面に着色濃度に係る模様を現出することを特徴としたものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1には、木目模様を有する多層ブロー成形品を連続的に安定して安価に生産するためのダイス及びブロー成形方法に係る記載があり、外層樹脂通路の内層樹脂通路に合流する箇所に、外層樹脂通路を流れる溶融樹脂の流入を制限する櫛歯状遮断リング、あるいはダム状遮断リングを配設した多層ブロー成形用ダイスを用いた成形方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−48321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した特許文献1の成形方法によれば、櫛歯状遮断リングやダム状遮断リング等の外層樹脂通路を流れる溶融樹脂の流入を制限するための特殊な部品を配設する必要があり、このような部分では溶融樹脂が滞留する等、生産性で大きな問題がある点、また模様が、挿入した櫛歯状遮断リング等の形状により限定されてしまい模様の多様性という点では不満がある。
【0004】
そこで、本発明はこの種の押出成形品の加飾に係る従来技術における問題点を解消すべく創案されたもので、押出成形の生産性を損なうことなく外層の層厚を多様に変化させることを技術的な課題とするものであり、もって外表面に着色濃度に係る模様を多様に現出させた押出成形品を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0005】
上記技術的課題を解決する本発明の内、請求項1記載の発明の方法は、
少なくとも、内層を形成する内層樹脂通路と薄肉の外層を形成する外層樹脂通路を有する多層共押出し成形用ダイスを用いること、
外層を形成する外層用樹脂の供給速度を周期状に変動させると共に、引取機により伸張状態で押出成形すること、
外層用樹脂の供給速度の平均値、変動周期、外層樹脂通路の合流点直前におけるスリットクリアランス、および引取速度の組み合わせにより、外層の層厚を多様に変化させて、成形品の外表面に着色濃度に係る模様を現出すること、
にある。
【0006】
本願発明者らは、さまざまな成形条件で外層の層厚を変化させる検討をする中で、特に引取機により伸張状態で押出成形することにより、薄肉に積層される外層が内層に合流状に積層される際に、外層の押出速度の平均値、変動周期、外層樹脂通路の合流点におけるスリットクリアランス、および引取速度の組み合わせにより、積層界面で外層の流動状態の乱れが発生し、外層の層厚が引取方向だけでなく押出成形品の幅方向(引取方向に垂直な方向)にも様々な態様で変動することを見出し、上記請求項1記載の発明に至った。
【0007】
そして、この請求項1の方法は上記した共押出成形における合流点での界面での流動に係る乱れを利用したものであり、外層樹脂通路に櫛歯状遮断リングやダム状遮断リング等の特殊な部品を配設することなく、生産性を損なうことなく、様々に外層の層厚を変動させて、この変動に伴なう模様を外表面に現出させて加飾することができる。
【0008】
たとえば、内層用樹脂に白色に着色したものを、外層用樹脂に赤、青、緑等の有色に着色したものを用いることにより、外層の層厚の変化に応じて押出成形品の外表面に着色濃度に係る模様を現出させることができる。
【0009】
ここで、外層用樹脂の供給速度とスリットクリアランスにより、外層樹脂通路の合流点直前での剪断速度が決まり、この剪断速度の大小により、また引取機による伸張効果も相俟って特に押出成形品の幅方向への流動の乱れの態様と大きさが決まると推察される。そしてこのような流動の変動を外層用樹脂の供給速度を周期状に変動させると共に、引取機による伸張効果により、引取方向に拡大して全体として外層の層厚の変化を多様に現出させることができる。
なお、押出成形品の伸張の度合いは共押出物のダイスからの吐出線速度と、引取機による引取速度の比により決められる。
【0010】
外層用と内層用の合成樹脂は同種の樹脂とすることにより、接着層を設ける必要もなく、生産性、成形性の点で有利であるが、用途、性能、外観等を考慮して異種の樹脂を組み合わせて使用することもできる。
また、外層と内層の間に必要に応じて中間層を形成することもでき、この場合には薄肉の外層が中間層に合流状に積層される際における流動の乱れを利用することになる。
【0011】
請求項2記載の発明の方法は、請求項1記載の発明において、外層の層厚さの平均値を0.2mm以下とすること、にある。
【0012】
外層の層厚の平均値は、主として外層樹脂通路の合流点におけるスリットクリアランスと引取機による押出成形品の伸張の度合いにより決まるものであるが、請求項2記載の上記方法により外層の層厚の平均値を0.2mm以下とすることにより、外層の合流点における流動乱れを十分に発達させて今までにない模様を現出させることができる。
また、この層厚が厚すぎると着色濃度の変化を十分に現出することができなくなるが、平均値を0.2mm以下とすることにより内層が透けて見えるようにして、着色濃度の変化を十分に現出させることができる。
【0013】
請求項3記載の発明の方法は、請求項1または2の発明において、押出成形品をチューブ体としたこと、にある。
【0014】
請求項3記載の上記方法により、押出成形品をチューブ体とすることにより、成形品の全周に亘って外表面に着色濃度に係る独特で多様な模様を現出することができ、歯磨き剤、化粧用のクリーム等を含むさまざまな製品分野で、今までにない加飾性を有するチューブ容器を提供することができる。
【0015】
請求項4記載の発明の方法は、請求項1、2または3の発明において、木目状の模様を現出させたこと、にある。
【0016】
請求項4記載の上記方法により、外層用樹脂の供給速度とその変動周期、外層樹脂通路のスリットクリアランス、引取速度の組み合わせにより、様々な態様の木目状の模様を現出することができる。
【0017】
請求項5記載の発明の方法は、請求項1、2または3の発明において、グラデーション状の模様を現出させたこと、にある。
【0018】
請求項5記載の上記方法により、外層用樹脂の供給速度とその変動周期、外層樹脂通路のスリットクリアランス、引取速度の組み合わせにより、引取方向に着色濃度が徐々に変化するグラデーション状の模様を現出させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、上記した加飾方法に係るものであり、以下に示す効果を奏する。
請求項1記載の発明にあっては、共押出成形における合流点での界面での流動に係る乱れを利用したものであり、外層樹脂通路に櫛歯状遮断リングやダム状遮断リング等の特殊な部品を配設することなく、生産性を損なうことなく、様々に外層の層厚を変動させて、この変動に伴なう多様な模様を外表面に現出させて加飾することができる。
【0020】
請求項2記載の発明にあっては、外層の層厚の平均値を0.2mm以下とすることにより、外層の合流点における流動乱れを十分に発達させて今までにない模様を現出させることができる。また、この層厚が厚すぎると着色濃度の変化を十分に現出することができなくなるが、平均値を0.2mm以下とすることにより着色濃度の変化を十分に現出させることができる。
【0021】
請求項3記載の発明にあっては、成形品の全周に亘って外表面に着色濃度に係る独特で多様な模様を現出することができ、歯磨き剤、化粧用のクリーム等を含むさまざまな製品分野で、今までにない加飾性を有するチューブ容器を提供することができる。
【0022】
請求項4記載の発明にあっては、外層用樹脂の供給速度とその変動周期、外層樹脂通路のスリットクリアランス、引取速度の組み合わせにより、様々な態様の木目状の模様を現出することができる。
【0023】
請求項5記載の発明にあっては、外層用樹脂の供給速度とその変動周期、外層樹脂通路のスリットクリアランス、引取速度の組み合わせにより、引取方向に着色濃度が徐々に変化するグラデーション状の模様を現出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1(a)は本願の加飾方法によって加飾されたチューブ体1の一端にヘッド部4を取り付けたチューブ容器の正面図である。なお、このチューブ容器の底部はまだシールをしない開放状態である。
【0025】
チューブ体1は共に低密度ポリエチレン樹脂製の外層2と内層3の積層体であり、内層3は白色に着色され、その層厚さの平均値は0.45mmである。
また、外層2は赤、青、緑等の有色に着色され、その層厚さの平均値は0.1mm程度であるが、引取方向、および周方向に層厚さが変動したものであり、この層厚さの変動に対応して着色濃度が変化して、その結果、全体としてこの図1(a)に示されるように木目状の模様が全周に亘って現出している。なお、図中で黒い部分は着色濃度の高い部分、白い部分は着色濃度が低く白色の内層3が透けて見える部分である。
【0026】
図1(b)は、図1(a)中のA−A線に沿って示す縦断面の様子を説明するためのものであり、このようにある周位置でみると、比較的厚い部分2Sとグラデーション状に徐々に減少する部分2NSが周期状に現出している。
【0027】
図2は上記したチューブ体1の押出成形装置に係る概略説明図であり、図3は図2においてダイス近傍の要部を拡大して示すものである。
図2に示される成形装置は外層2と内層3を共押出成形するためのダイス11と、冷却賦形部21と、引取り機22とから構成されている。
【0028】
ダイス11には、円環状の外層樹脂通路12と内層樹脂通路13が配設されており、押出機、アクチュエータ、ギアポンプ等の樹脂供給装置(図示省略)から供給される外層用樹脂と内層用樹脂は各供給口12a、13aを経て、外層樹脂通路12と内層樹脂通路13を流動し、合流点14aで合流、積層し、さらに下流に形成される円環状の合流通路14を経て円筒状積層体としてダイス11から押出される。
【0029】
そして、この円筒状積層体は引取り機22により伸張された状態で、縮径及び層厚を減少させながら、フォーマー21aを介して冷却賦形部21に進入し、水冷等の手段により軸心15の径にサイジングされチューブ体1が成形される。
【0030】
ここで、外層用樹脂の押出速度の平均値、この押出速度の変動周期、合流点14a直前における外層樹脂通路のスリットクリアランス、および引取機22の引取り速度Vを組み合わせることにより、合流点14aにおける外層用樹脂の流動の乱れ、特に周方向での吐出速度の変動を利用して、さらにこの変動を引取方向への伸張により引取方向に拡大させると共に、引取方向へ周期的に現出させることにより図1(a)のチューブ体1に見られるような木目状の模様を現出させることができた。
【0031】
図4はアクチュエータにより、供給口12aへの外層用樹脂の供給と停止を周期的に繰り返して実施した際の、一つの周位置における外層2の層厚の変動の例を表した概略説明図であり、区間Sは樹脂の供給時、区間NSは停止時に相当する区間であるが、樹脂の粘弾性的な性質や曳糸的な性質により、供給を停止しても樹脂の流動が続きその結果、区間NSで層厚は全体として、緩やかにグラデーション状に減少している。
もちろん、外層用樹脂通路にボール弁等の通路遮断のための部品を配設することにより外層樹脂の流動を完全に遮断するようにすることもできる。
【0032】
以上、実施例に沿って本発明の実施の形態を説明したが、本発明の作用効果はこれら実施例に限定されものではない。
たとえば、押出成形品の一例としてチューブ体の外表面の加飾方法について説明したが、例えば板状の成形品にも適用でき、さらには多層パリソンを引取機により伸張状態で押出成形することによりダイレクトブロー成形にも適用することができる。
【0033】
また、周方向での乱れの少ない成形条件を選択することにより、周方向での層厚の変動を小さくし、引取方向にグラデーション状の模様を周期的に現出させるようにすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の押出成形品の加飾方法は上記説明したようなものであり、今までにない多様な加飾効果を有する押出成形品を提供することができ、チューブ容器等の分野で幅広い用途展開ができる。

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の加飾方法の一例により加飾されたチューブ容器の(a)正面図と(b)縦断面図である。
【図2】本発明の加飾方法に係る押出成形装置の一例を示す概略説明図である。
【図3】図1の装置の要部を拡大して示す概略説明図である。
【図4】外層の積層態様の一例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ;チューブ体
2 ;外層
2S、2NS;部分
3 ;内層
4 ;ヘッド部
11;ダイス
12;外層樹脂通路
12a;供給口
13;内層樹脂通路
13a;供給口
14;合流通路
14a;合流点
15;軸心
21;冷却賦形部
21a;フォーマー
22;引取機
V ;引取り速度
S、NS;区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、内層(3)を形成する内層樹脂通路(13)と薄肉の外層(2)を形成する外層樹脂通路(13)を有する多層共押出し成形用ダイス(11)を用い、
前記外層(2)を形成する外層用樹脂の供給速度を周期状に変動させると共に、引取機(22)により伸張状態で押出成形し、前記外層用樹脂の供給速度の平均値、該供給速度の変動周期、内層樹脂通路(13)の合流点(14a)直前における該外層樹脂通路(12)のスリットクリアランス、および引取速度(V)の組み合わせにより、前記外層(2)の層厚を多様に変化させて、成形品の外表面に着色濃度に係る模様を現出することを特徴とした合成樹脂製押出成形品の表面加飾方法。
【請求項2】
外層(2)の層厚さの平均値を0.2mm以下とした請求項1記載の表面加飾方法。
【請求項3】
押出成形品をチューブ体(1)とした請求項1または2記載の表面加飾方法。
【請求項4】
木目状の模様を現出させた請求項1、2または3記載の表面加飾方法。
【請求項5】
グラデーション状の模様を現出させた請求項1、2または3記載の表面加飾方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−87313(P2008−87313A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270038(P2006−270038)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】