説明

合成樹脂部材のリサイクル方法及びそのリサイクル方法により成型された合成樹脂成型品

【課題】グリスの洗浄工程を省略可能な合成樹脂部材のリサイクル方法及びそのリサイクル方法により成型された合成樹脂成型品を提供する。
【解決手段】使用済みの事務機器は、回収され(S14)、部品毎に分解する(S15)。部品に付着したグリスの分子量が5000未満の場合には(S16:NO)、グリスの洗浄を行う(S18)。また、使用されているグリスの分子量が5000以上の場合に(S16:YES)、グリスの付着量が2重量%以上の場合は(S17:YES)、グリスの洗浄を行う(S18)。具体的には、カバー等の各部品の重さは、設計時に分かっているので、分解した部品毎に重量を測定して、その重さが、設計時の2重量%以上の場合は(S17:YES)、グリスの洗浄を行う(S18)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂部材のリサイクル方法及びそのリサイクル方法により成型された合成樹脂成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非結晶性(スチレン系/ハイインパクトポリスチレン(以下、「HIPS」という。)樹脂にαオレフィン系グリスを塗布すると、その化学的な影響により、その樹脂の分子結合を切断し、機械的強度の低下をひきおこすことが知られている。このため、一般的に事務機器においてギア等の部品にαオレフィン系グリスを使用する場合、特に製品機能的に重要になる部位に使用される際は、機能に応じた機能評価や、αオレフィン以外の高価なシリコン系グリスを用いる必要があった。製品の使用状態における機能評価の他、試験片を用いて、実際に塗布を行い、一定の時間放置したのちに強度試験を行い、劣化度合の影響を評価する方法がある。しかしながら、いずれにおいても、手間と時間がかかる作業であった。例えば促進試験も行われているが、一例として、2日程度の放置期間の後、破壊試験を行うといった、非常に時間と手間が必要とされていた。
【0003】
一方、事務機器のHIPS樹脂成形部品を粉砕し部品として再利用する際、周りの部品にαオレフィン系のグリスが使用されていたりして、HIPS樹脂と接触する可能性がある場合、αオレフィン系のグリスの影響により機械強度の低下が引き起こされないように、グリスを水などで洗浄・脱水することが行われていた(例えば、特許文献1乃至3参照。)。また、グリスを布などで拭きとったりして、樹脂を再利用することも行われていた。
【特許文献1】特開2002−340887号公報
【特許文献2】特開2003−89116号公報
【特許文献3】特開2004−313851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂成形部品からグリスを洗浄したり、布などで拭きとったりする洗浄工程を行うと、工数が増えて、樹脂部品の再利用にかかる費用が高騰するという問題点があった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、使用するグリスに応じて、グリスの洗浄工程を省略可能な合成樹脂部材のリサイクル方法及びそのリサイクル方法により成型された合成樹脂成型品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の合成樹脂部材のリサイクル方法は、スチレン系合成樹脂を主成分として含有する合成樹脂部材を粉砕する粉砕工程後に、その粉砕工程で粉砕された合成樹脂部材を原材料として合成樹脂部材の成型工程を行う合成樹脂のリサイクル方法であって、当該合成樹脂部材に付着したグリスの重量が当該合成樹脂部材の2重量%以上の場合には、前記粉砕工程の前に当該グリスの除去を行うグリス除去工程を行い、当該合成樹脂部材に付着したグリスの重量が当該合成樹脂部材の2重量%未満の場合には、前記グリス除去工程を行わないことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明の合成樹脂部材のリサイクル方法は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記グリスの分子量が5000未満の場合には、前記グリスの付着量にかかわらず前記グリス除去工程を行うことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る発明の合成樹脂部材のリサイクル方法は、請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記構成合成樹脂は、ハイインパクトポリスチレンであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明の合成樹脂成型品は、請求項1乃至3の何れかに記載の合成樹脂部材のリサイクル方法により成型されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明の合成樹脂部材のリサイクル方法では、当該合成樹脂部材に付着したグリスの重量が当該合成樹脂部材の2重量%未満の場合には、前記グリス除去工程を行わないので、使用するグリスの量に応じて、グリス除去工程を省略して、合成樹脂部材のリサイクル方法での工数を減らすことができる。
【0011】
また、請求項2に係る発明の合成樹脂部材のリサイクル方法によれば、グリスの分子量が5000未満の場合には、グリスの付着量にかかわらずグリス除去工程を行うので、付着したグリスの量の計測が不要になり、合成樹脂部材のリサイクル方法での工数を減らすことができる。
【0012】
また、請求項3に係る発明の合成樹脂部材のリサイクル方法によれば、請求項1又は2に記載の効果に加えて、合成樹脂がハイインパクトポリスチレンである場合には、αオレフィン系グリスを塗布すると、その化学的な影響により、その樹脂の分子結合を切断し、機械的強度の低下をひきおこすことが知られているが、使用するグリスの量が少なく化学的な影響を受けない場合には、グリス除去工程を省略して、合成樹脂部材のリサイクル方法での工数を減らすことができる。また、グリスの分子量が5000未満の場合には、化学的な影響を受けるおそれがあるので、グリス除去工程を行うことができる。
【0013】
また、請求項4に係る発明の合成樹脂部材によれば、請求項1乃至3の何れかに記載の合成樹脂部材のリサイクル方法により成型されるので、請求項1乃至3の何れかに記載の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態である合成樹脂部材のリサイクル方法及びそのリサイクル方法により成型された合成樹脂成型品について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態である合成樹脂部材のリサイクル方法のフローチャートである。
【0015】
本実施の形態の合成樹脂部材のリサイクル方法及びそのリサイクル方法により成型された合成樹脂成型品では、リサイクルに使用する樹脂部品としては、一例として、プリンタやファクシミリ等の事務機器の合成樹脂製のカバーがあげられる。このカバーは、一例として、ハイインパクトポリスチレン樹脂(以下、「HIPS樹脂」という。)から形成されている。このHIPS樹脂は、αオレフィン系グリスを塗布すると、高分子を膨潤させて、分子間の結合を弱める影響により、機械的強度の低下をひきおこすことが知られている。従って、製品設計・製造の段階では、使用する部品毎に材料と使用するグリスの種類等が決められる。そして、事務機器の製造が行われる(S11)。
【0016】
製造された事務機器は、市場に販売される(S12)。その後、ユーザにより事務機器が使用される(S13)。次いで、故障等で製品寿命が尽きたり、新しい機種への買い換え等が行われると、前記事務機器は、回収される(S14)。次いで、回収した事務機器を部品毎に分解する(S15)。ここで、まず、部品に付着したグリスの分子量が5000以上か否かを判断する(S16)。各部品に使用されているグリスは、設計段階で決まっているので、対象とする部品により使用されているグリスの種類は判断できる。これは、コンピュータを用いて、事務機器の品番、部品番号を入力すると予め記憶されているデータベースから使用されているグリスの名称と分子量をディスプレイに表示するようにしておけばよい。
【0017】
使用されているグリスの分子量が5000未満の場合には(S16:NO)、グリスの洗浄を行う(S18)。また、使用されているグリスの分子量が5000以上の場合に(S16:YES)、グリスの付着量が2重量%以上の場合は(S17:YES)、グリスの洗浄を行う(S18)。具体的には、カバー等の各部品の重さは、設計時に分かっているので、分解した部品毎に重量を測定して、その重さが、設計時の2重量%以上の場合は(S17:YES)、グリスの洗浄を行う(S18)。
【0018】
グリスの洗浄後に、洗浄した部品を粉砕する(S19)。尚、分解した部品の重さが設計時の2重量%未満の場合は(S17:NO)、グリスの洗浄をせずに部品を粉砕する(S19)。その後、再度、部品として成形する(S20)。
【0019】
次に、ケミカルストレスクラック試験の方法について、図2乃至図7を参照して説明する。図2乃至図7は、定歪み法によるケミカルストレスクラック試験の様子を示す斜視図である。図2に示す例では、蒲鉾形状の治具10の表面の曲率の歪み率が0.4%であり、その表面に試験片20を挟み込んだ状態を示している。また、図3に示す例では、治具11の表面の曲率の歪み率が0.6%であり、その表面に試験片20を挟み込んだ状態を示している。また、図4に示す例では、治具12の表面の曲率の歪み率が0.8%であり、その表面に試験片20を挟み込んだ状態を示している。そして、このケミカルストレスクラック試験では、上記の図2乃至図4に示す状態で48時間放置し、その後グリスを拭き取り各試験片20の表面を目視で観察して、細かいひび割れ(クレーズ)が生じてないかを判断する。
【0020】
次いで、上記の試験で割れ(クラック)が生じなかった試験片20を治具10〜12から取り外し、劣化度判定治具に沿わせて曲げて目視で変化を確認する。図5に示す例では、劣化度判定治具15に試験片20を沿わせて3%曲げた状態を示しており、図6に示す例では、劣化度判定治具16に試験片20を沿わせて4%曲げた状態を示しており、図7に示す例では、劣化度判定治具17に試験片20を沿わせて8%曲げた状態を示している。各試験片20の表面を目視で観察して、細かいひび割れ(クレーズ)が生じてないかを判断する。
【0021】
次に、図8に示す表を参照して、前記ケミカルストレスクラック試験を行った結果について説明する。図8はケミカルストレスクラック試験の結果示す表である。図8に示す表のケミカルストレスクラック試験では、PSジャパン株式会社製ポリスチレンHT50(商品名)の試験片に、分子量8500のグリスEM−D110(商品名)、分子量7400のグリスSK−623(商品名)、分子量5000のグリス5000、分子量2500のグリス2500、分子量1500のグリスYM−103(商品名)、分子量1500のグリス1500、分子量690のグリスEM−60L(商品名)を各々付着してケミカルストレスクラック試験を行った結果と、BASF社製ポリスチレン495F(商品名)の試験片に、分子量8500のグリスEM−D110(商品名)、分子量7400のグリスSK−623(商品名)、分子量5000のグリス5000、分子量2500のグリス2500、分子量1500のグリスYM−103(商品名)、分子量1500のグリス1500、分子量690のグリスEM−60L(商品名)を各々付着してケミカルストレスクラック試験を行った結果とを示している。この図8に示すように、HT50(商品名)及び495F(商品名)に対して、分子量5000以上のグリス(EM−D110、SK−623、5000)を用いた場合には、異常は生じなかった。
【0022】
また、分子量2500のグリス2500、分子量1500のグリスYM−103(商品名)を用いた場合には、細かいひび(クレーズ)が生じた。また、分子量1500のグリス1500及び分子量690のグリスEM−60L(商品名)を用いた場合には、試験片に折れが生じた。
【0023】
従って、図1に示すフローチャートでは、S16において、部品に付着したグリスの分子量が5000以上か否かで判断しているのである。即ち、グリスの分子量が5000未満の場合には、クレーズや折れが生じるので、グリスの洗浄を行っているのである。
【0024】
次に、S17で、グリスが部品の設計時の重量の2重量%以上か否かで判断している根拠について、図9及び図10を参照して説明する。図9は、EM−D110〜5000(分子量:8500〜5000)を用いた場合のグリスの含有量と強度を示すグラフである。図10は、2500〜EM−60L(分子量:2500〜690)を用いた場合のグリスの含有量と強度を示すグラフである。
【0025】
図9に示す例では、ケミカルストレスクラックの影響はない。そして、分子量が大きいので、グリスが2.0重量%以上HIPS樹脂に混ざると、混練機で混ぜ合わせることができない混錬不可能となり、グリスが2.0%未満の場合には、混錬可能である。従って、付着したグリスが2.0重量%以上の場合には、グリスの洗浄が必要になる。また、グリスの付着が2.0重量%未満の場合には、強度は10%ダウンの範囲内に収まっていた。
【0026】
図10に示す例では、ケミカルストレスクラックの影響がある。2500〜EM−60L(分子量:2500〜690)のグリスが2.0%重量以上HIPS樹脂に混ざると、強度の10%以上の低下が見られる。従って、部品に付着したグリスの分子量が5000以上の場合(S16:YES)でも、グリスの付着量が部品の重量の2重量%以上の場合には(S17:YES)、グリスの洗浄を行っているのである。
【0027】
次に、図11を参照して、PSジャパン株式会社製ポリスチレンHT50(商品名)の試験片に、分子量8500のグリスEM−D110(商品名)、分子量7400のグリスSK−623(商品名)、分子量5000のグリス5000、分子量2500のグリス2500、分子量1500のグリスYM−103(商品名)、分子量690のグリスEM−60L(商品名)を各々混合して行った曲げ弾性率(MPa)の試験結果について説明する。図11は、曲げ弾性率の試験結果を示すグラフである。図11に示すグラフでは、ハッチングの丸が二軸混合の場合であり、黒丸が一軸混練を行った場合である。また、NG領域は、強度が10%以上ダウンする領域である。図11に示すように、グリスの混合率が2重量%未満であれば、曲げ弾性率が10%以上ダウンすることがない。従って、図1に示すフローチャートのS17の処理では、グリスの付着量が2重量%以上の場合には(S17:YES)、グリスの洗浄を行うようにしている(S18)。
【0028】
次に、図12を参照して、PSジャパン(株)製ポリスチレンHT50(商品名)の試験片に、分子量8500のグリスEM−D110(商品名)、分子量7400のグリスSK−623(商品名)、分子量5000のグリス5000、分子量2500のグリス2500、分子量1500のグリスYM−103(商品名)、分子量690のグリスEM−60L(商品名)を各々混合して行った曲げ強度(MPa)の試験結果について説明する。図12は、曲げ強度の試験結果を示すグラフである。
【0029】
図12に示すグラフでは、ハッチングの丸が二軸混合の場合であり、黒丸が一軸混練を行った場合である。また、NG領域は、強度が10%以上ダウンする領域である。図12に示すように、グリスの混合率が2重量%未満であれば、曲げ強度が10%以上ダウンすることがない。
【0030】
従って、図1に示すフローチャートのS17の処理では、グリスの分子量が5000以上の場合でも(S16:YES)、グリスの付着量が部品の重量の2重量%以上の場合には(S17:YES)、グリスの洗浄を行うようにしている(S18)。
【0031】
以上説明したように、本実施の形態の合成樹脂部材のリサイクル方法及びそのリサイクル方法により成型された合成樹脂成型品によれば、合成樹脂部材に付着したグリスの重量が当該合成樹脂部材の2重量%未満の場合には、前記グリス除去工程を行わないので、使用するグリスの量に応じて、グリス除去工程を省略して、合成樹脂部材のリサイクル方法での工数を減らすことができる。
【0032】
また、グリスの分子量が5000未満の場合には、グリスの付着量にかかわらずグリス除去工程を行うので、付着したグリスの量の計測が不要になり、合成樹脂部材のリサイクル方法での工数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】合成樹脂部材のリサイクル方法のフローチャートである。
【図2】定歪み法によるケミカルストレスクラック試験の様子を示す斜視図である。
【図3】定歪み法によるケミカルストレスクラック試験の様子を示す斜視図である。
【図4】定歪み法によるケミカルストレスクラック試験の様子を示す斜視図である。
【図5】定歪み法によるケミカルストレスクラック試験の様子を示す斜視図である。
【図6】定歪み法によるケミカルストレスクラック試験の様子を示す斜視図である。
【図7】定歪み法によるケミカルストレスクラック試験の様子を示す斜視図である。
【図8】ケミカルストレスクラック試験の結果示す表である。
【図9】EM−D110〜5000(分子量:8500〜5000)を用いた場合のグリスの含有量と強度を示すグラフである。
【図10】2500〜EM−60L(分子量:2500〜690)を用いた場合のグリスの含有量と強度を示すグラフである。
【図11】曲げ弾性率の試験結果を示すグラフである。
【図12】曲げ強度の試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
10 治具
11 治具
12 治具
15 劣化度判定治具
16 劣化度判定治具
17 劣化度判定治具
20 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系合成樹脂を主成分として含有する合成樹脂部材を粉砕する粉砕工程後に、その粉砕工程で粉砕された合成樹脂部材を原材料として合成樹脂部材の成型工程を行う合成樹脂のリサイクル方法であって、
当該合成樹脂部材に付着したグリスの重量が当該合成樹脂部材の2重量%以上の場合には、前記粉砕工程の前に当該グリスの除去を行うグリス除去工程を行い、
当該合成樹脂部材に付着したグリスの重量が当該合成樹脂部材の2重量%未満の場合には、前記グリス除去工程を行わないことを特徴とする合成樹脂部材のリサイクル方法。
【請求項2】
前記グリスの分子量が5000未満の場合には、前記グリスの付着量にかかわらず前記グリス除去工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂部材のリサイクル方法。
【請求項3】
前記構成合成樹脂は、ハイインパクトポリスチレンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の合成樹脂部材のリサイクル方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の合成樹脂部材のリサイクル方法により成型された合成樹脂成型品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−17950(P2010−17950A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181063(P2008−181063)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】