説明

合成炭化水素鎖の製造において発生する二酸化炭素の使用

本発明は、カルシウムイオンを含有する液体からのカルシウムを炭酸塩化するための、有機物質の酸素ガス化中に発生する二酸化炭素流の使用に関する。本発明は、紙またはボードの製造方法にも関し、その中では、カルシウムを炭酸塩化するために有機物質を酸素でガス化し、生成する二酸化炭素流を、カルシウムイオンを含有する液体と反応させ、炭酸塩化されたカルシウムを、製紙プロセス中に、フィラーとしてパルプに添加するか、またはコーティングとして完成紙に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、酸素ガス化中に発生する二酸化炭素流の使用に関する。より具体的には、本発明は、カルシウムが豊富な液体からのカルシウムを炭酸塩化するための、有機物質の酸素ガス化中に発生する二酸化炭素流の使用に関し;および酸素ガス化中に発生する二酸化炭素流を使用することによって沈降した炭酸カルシウムを紙に添加する製紙プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
(技術の背景)
化石燃料の限られた供給、およびその使用から生ずる排出は、より環境フレンドリーな燃料の製造方法の開発に対する圧力増加につながる。エネルギー源としての、および特に燃料製造におけるバイオマスの使用は、未来への環境負荷を削減する一つの試みである。
【0003】
エネルギー生産に関してバイオマスは、主として、様々な種類の有機廃棄物(即ち、生物起源である廃棄物、例えば木材、農業廃棄物、都市廃棄物、荒れた土地または植物)に関する。バイオマスの燃焼プロセスは、エネルギー(バイオエネルギーと呼ばれる)を放出するが、バイオマスは、向上した効率およびより小さな排出を達成するために、他の方法によって処理することもできる。
【0004】
近ごろ、液体燃料の製造にもバイオマスを使用する試みがなされており、この場合においてバイオマスがまずガス化され、得られたガスがバイオ燃料に変換される。この多工程プロセスは、バイオマス・トゥー・リキッド(Biomass to Liquid、BLT)と呼ばれる。
【0005】
ガス化は発熱プロセスであり、この中で炭素含有物質(例えばバイオマス)は、一酸化炭素および水素に転化される。三つの反応(即ち、揮発物が放出され、チャコールが製造さる熱分解;揮発物質および一部のチャコールが酸素と反応し、二酸化炭素および一酸化炭素を形成する燃焼プロセス;およびチャコールが二酸化炭素および蒸気と反応し、一酸化炭素および水素を形成する実際のガス化反応)は、ガス化装置中で行われる。熱分解および燃焼の両方は極めて速い反応である。蒸気および酸素の存在下で、合成ガス混合物は以下の反応に従ってガス化装置中で形成される:
C+H2O → CO+H2 (1)
C+2H2O → CO2+2H2 (2)
C+CO2 → 2CO (3)
C+1/2O2 → CO (4)
C+O2 → CO2 (5)
CO+H2O → CO2+H2 (6)
CO+3H2 → CH4+H2O (7)
【0006】
最も一般的なガス化技術は、並流ガス化(この中では燃料および空気が主として同じ方向に流れる)、向流ガス化(この中では空気が反応器の下部から供給され、燃料が上部から供給される)、流動床反応器、および噴流式ガス化装置を含む。
【0007】
産業目的で開発されたガス化複合発電(Integrated Gasification Combined Cycles、IGCC)は、これらの異なるガス化法(酸素または空気ガス化、噴流、流動床または固定床反応器)および異なるガス精製法(化学的または物理的精製、例えば湿式洗浄または熱的精製)に基づく。
【0008】
ガス化の結果として形成される生成物または合成ガス混合物の主成分は、一酸化炭素および水素である。これらに加えて混合物は、不純物として、例えばCO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、H2O(水)、N2(窒素)、H2S(硫化水素)、NH3(アンモニア)、HCl(塩化水素)、タール、および小粒子(例えば灰分およびカーボンブラック)を含有し得る。この合成ガスは、供給されるバイオマスが木材である場合、木ガスとも呼ばれ得る。
【0009】
合成ガスを、それ自体、燃料として使用することができ、またはガスを、異なる方法(例えばフィッシャー−トロプシュ燃料合成、メタノール合成)を使用することによって、ガス状または液状の燃料または化学品を調製するためにさらに処理することができ、またはそれを、水−ガス交換による水素製造に使用することができる。燃焼プロセスにおいて、煙道ガスは精製によって取り出される必要があり、一方、ガス化において除去され得る物質は、製品ガス粒子、アルカリ金属、窒素、タール、硫黄および塩素を含む。フィッシャー−トロプシュ法にとって適した水素−一酸化炭素比にするために、ガス精製は、水素を合成ガスに添加することを含んでもよい。
【0010】
様々な物理的精製法{例えば Selexol(登録商標)(UOP LLC)、Rectisol(登録商標)(Lurgi AG)または Purisol(登録商標)(Lurgi AG)}および/または化学的精製法(例えばアミン洗浄)を、合成ガス混合物の精製に使用することができる。
【0011】
Rectisol(登録商標)は物理的ガス精製法であり、この中でメタノールが、氷点下の温度で有機溶媒として典型的に使用される。Rectisol(登録商標)法は、通常30barを超える高圧で、好ましくは行われる。
【0012】
合成ガスを、フィッシャー−トロプシュ合成(FT−合成)によって合成燃料に転換することができる。FT−合成は、一酸化炭素および水素を異なる液体炭化水素に転換する触媒化学反応である。実際のFT−合成の前に、合成ガスは精製される必要がある。FT−反応器に供給される合成ガスのH2/COモル比は、使用する触媒に応じて、好ましくは2.5:1および0.5:1の間、より好ましくは2.1:1および1.8:1の間、最も好ましくは約2:1または1:1である。
【0013】
FT−合成における合成ガスCOおよびH2は発熱反応し、主として脂肪族炭化水素を形成する。パラフィンに加えて、少量のオレフィン、第1級アルコールおよび水が形成される。炭化水素合成は、以下の反応に従い生ずる:
CO+2H2 → −(CH2)−+H2O (8)
CO+H2O → CO2+H2 (9)
2CO+H2 → −(CH2)−+CO2 (10)
【0014】
コバルトまた鉄が反応触媒として使用される。これら二つの中でコバルトがより良好な転化率をもたらし、コバルト触媒がより長い寿命も示す。FT−反応から、異なる長さの炭化水素化合物の混合物が得られ、これは、適切な反応器および触媒を選択することによって、並びに温度、圧力および保持時間を調節することによって、望ましい方向に導くことができる。典型的な反応条件は、200℃〜350℃および15bar〜40barの範囲にわたる。より高い温度では、主として短鎖の化合物が合成され、一方、より低い温度では、より長鎖の炭化水素が形成される。最終生成物から蒸留によって分離された副生成物は、化学産業に供給され、原料として使用され得る。FT−法の最終生成物は、硫黄または芳香族化合物を含有しない。この技術を使用することによって製造される燃料は、低硫黄の化石燃料と混合することができる。
【0015】
米国特許出願公開第2007/0100003号(US 2007/0100003 Al)はバイオマスガス化法を開示し、この中では、炭素が豊富な物質を熱分解し、その後に得られたバイオオイルおよびチャコールを、回転噴流式ガス化装置中でさらに処理する。
【0016】
パルプは、主として2つの異なる様式で機械的または化学的処理によって木材から製造される。化学的処理中に木材チップまたは非木材物質が、熱および化学品(例えばアルカリ液)で処理され、木材物質中の繊維を相互に分離し、繊維を維持する結合物質であるリグニンを溶かす。代わりに木材を機械的に混練することができる。摩擦が力学的な仕事を熱に転換し、これが、木材繊維を互いに結合するリグニンを軟化させ、繊維間の結合を開ける。この処理の結果として、木材が塊(化学的または機械的な塊)にされ、これが洗浄され、ほとんどの場合に漂白される。塊の調製は製紙ミル(paper mill)に統合され、その塊を、洗浄/漂白から、抄紙機における塊処理に直接導入することができる。これが可能ではない場合、後の使用のために、塊は乾燥および梱包される。それ自体の塊製造を行わない製紙ミルに、塊を供給することもできる。
【0017】
製紙ミルでは塊をヘッドボックスに供給する前に、塊は、いくつかの工程で処理される。大きな粒子(例えば破片)が塊から除去され、水を添加することによってそれが希釈され、様々な追加物質(例えば保持剤およびフィラー)がそこに添加される。添加フィラーの主な利点は、乳白度の向上、つや消しおよび光沢仕上げの調節、並びに原料コストの削減を含む。ヘッドボックスに供給される繊維の塊は、90%を超える水を含有する。
【0018】
ヘッドボックスから移動式で水透過性のワイヤ上に繊維の塊が供給され、水が除去されるにつれ、連続するペーパーウェブがワイヤ上で形成される。まずワイヤを通して水を吸引することによって、次いでウエットプレスを使用することによって、水がペーパーウェブから除去され、その後にワイヤが最終的に乾燥機区画に移され、乾燥機区画で準備された熱シリンダーを使用することによって、そこで最終乾燥が行われる。乾燥ペーパーウェブは切断され、最終製品の状態に巻かれる。
【0019】
様々なコーティングおよび表面処理剤を完成紙に添加することができ、これらは、紙の特性を向上させ、紙をその意図する用途に対してより適したものにする。
【0020】
製紙に使用されるフィラー剤は、例えば岩石物質に由来する顔料を含み得る。高品質紙の3分の1の組成まで、鉱物を含み得る。フィラーとして以外に、鉱物は、特別なコーティング剤として最高品質の紙またはボードで使用される。鉱物使用の目的は、インクの紙への吸収を防ぐことであり、これによってより正確な文字が得られる。鉱物の別の目的は光を反射することであり、そうして印刷が紙を通してギラギラ光らない。これによって、明確なコントラストがインクおよび白紙の間で形成され得る。鉱物は紙の破れを遅らせ、従ってその寿命を延長させる。最も一般的に使用される鉱物は、カオリナイト粘土、炭酸カルシウムおよびタルクを含む。
【0021】
製紙ミルと連結したいわゆる遊星ミル中において、ミル統合体中で生じた煙道ガスを二酸化炭素源として使用することによって、合成および沈降炭酸カルシウム(PPC)は一般に製紙産業の目的で調製され、製紙での使用に適した沈降炭酸カルシウムをそのプロセスに直接供給する。
【0022】
炭酸カルシウムは、採石した石灰石(CaCO3)を石灰がま中で約1,000℃の温度で加熱することによって得られる酸化カルシウム(CaO)(即ち焼石灰または生石灰)から製造される。酸化カルシウムは水と混合され、これによって消石灰{即ち水酸化カルシウム(Ca(OH)2)}を含有する懸濁水が形成される(石灰乳と呼ばれる)。純粋な二酸化炭素、または例えば煙道ガス若しくは石灰がまの排ガスから得られる二酸化炭素を使用することによって、得られた水酸化カルシウムを炭酸塩化し、これによって炭酸カルシウムおよび水が得られる。消石灰の二酸化炭素による中和が不完全である場合、過剰の水酸化カルシウムが、過度に高いアルカリ度につながり得る。
【0023】
所望により、カルシウムイオン(例えば水酸化カルシウムの形態)および二酸化炭素を製紙プロセスに直接添加することによっても、沈降炭酸カルシウムを調製することができる(インサイチュー)。沈降炭酸カルシウムは、典型的にバッチ式プロセスによって製造される。
【0024】
上述した特許出願(米国特許出願公開第2007/0100003号)の内容は、これによってその全部が、本願に含められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0100003号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
(発明の簡単な説明)
本発明の目的は、有機物質の酸素ガス化中で発生する二酸化炭素流を利用することである。より具体的には、本発明の目的は、紙およびボードの製造に使用されるカルシウムを炭酸塩化するための前記二酸化炭素流の使用である。特に前記二酸化炭素流は、合成炭化水素鎖の製造中に生じる純粋および加圧二酸化炭素を含む。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、独立クレームに提示した要点によって特徴付けられ、本発明の好ましい実施形態は、従属クレームで提示される。
【0028】
それゆえ本発明は、カルシウムイオンを含有する液体からのカルシウムを炭酸塩化するための、有機物質の酸素ガス化中に発生する二酸化炭素流の使用に関する。
【0029】
本発明のさらなる目的は、カルシウムを炭酸塩化するために有機物質を酸素でガス化し、生成する二酸化炭素流を、カルシウムイオンを含有する液体と反応させ、炭酸塩化されたカルシウムを、製紙プロセス中に、フィラーとしてパルプに添加するか、またはコーティングとして完成紙に添加する製紙プロセスである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、炭酸カルシウムの連続式製造プロセスおよび製紙に統合された有機物質の酸素ガス化プロセスを提示する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、驚くべきことに、バイオマスのガス化および合成炭化水素の製造中に副生成物として生じる過剰の二酸化炭素を、カルシウムの炭酸塩化に有利に使用し得ることを見出した。
【0032】
酸素ガス化によって処理されたバイオマス、および例えばバイオ燃料の製造に関連してこのバイオマスから発生する二酸化炭素流を、全体的または部分的に、ガス化または製造プロセスに使用されない部分のみを使用して、カルシウムを炭酸塩化するために使用することができる。適切な量の沈降炭酸カルシウムを調製するために、製紙プロセスでカルシウムの炭酸塩化のために二酸化炭素流を利用することができる。
【0033】
本願では他の特定が無い限り、明細書および特許請求の範囲で使用する用語は以下の意味を有する:
【0034】
用語「有機物質」は、バイオマス、言い換えれば生物起源である有機物質、例えば木材または木質供給物(例えば森林および伐採の木質副生成物、例えば間伐で除去した木、切り株、台木、枝、そだ、および樹皮)、農業廃棄物、都市廃棄物、林業の副生成物(例えばトール油石鹸、トール油、黒液、およびテレビン)、林業の排水スラリー(例えば製紙において排水に運ばれる繊維含有物質)、荒地および植物を指す。使用原料は、様々な産業プロセスの廃棄物または副生成物、海洋原料(例えば藻類)、または上記全ての組合せを含んでいてもよい。好ましくは、使用原料は、木材加工産業の廃棄物または生産物(例えば木材の残り、都会の木屑、製材廃棄物、木片、おが屑、わら、薪、木材物質、紙、製紙および木材製造の副生成物、短期輪作の作物{例えばヤナギ、ポプラ、ニセアカシア、ユーカリ}、およびリグノセルロース穀類の作物{例えばクサヨシ、ススキ、アメリカクサキビ})を含む。使用原料は、植物油、獣脂、魚油、天然ワックスおよび脂肪酸を含んでもよい。
【0035】
用語「合成炭化水素鎖」は、合成的に作り出された短鎖および長鎖の炭化水素を指す。
【0036】
用語「酸素ガス化」は、純酸素(空気ではない)および水蒸気の存在下で行われるガス化を指す。
【0037】
本発明は、カルシウムイオンを含有する液体からのカルシウムを炭酸塩化するための、有機物質の酸素ガス化中に生成する二酸化炭素流の使用に関する。好ましくは、前記炭化水素流は、例えばバイオ燃料の製造に関連する合成炭化水素鎖の製造の副生成物として形成されたものである。好ましくは少なくとも一つの、高圧合成ガス混合物を必要とする物理的精製およびフィッシャー−トロプシュ合成が、合成炭化水素鎖の製造に使用される。
【0038】
好ましい実施形態において前記有機物質は、バイオマス(例えば木質供給物、農業廃棄物、林業の副生成物、林業の排水スラリー、または都市廃棄物)を含む。木質供給物は、森林および伐採の木質副生成物(例えば間伐で除去した木、切り株、台木、枝(braches)、そだ、および樹皮)を含む。
【0039】
好ましくは、ガス化は流動床反応器を備えたガス化装置で行われ、その中では固体バイオマスが少なくとも部分的に燃焼する。流動床は、循環流動床またはバブリング流動床のいずれでもよく、その中では純酸素および蒸気が流動化ガスとして使用される。純酸素および蒸気が流動床反応器に導入される前に、これらは、好ましくは(但し必須ではない)、相互に組み合わせられる。バイオマスは、好ましくはロックホッパを使用することによってガス化装置に供給される。ガス化装置中で固体バイオマスが、蒸気と吸熱反応して一酸化炭素および水素を形成し、酸素と発熱反応して一酸化炭素、二酸化炭素および追加の蒸気を形成する。ガス化の結果として、このように不純な合成ガスが得られ、これは、一酸化炭素および水素に加えて、CO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、H2O(水)、N2(窒素)、H2S(硫化水素)、NH3(アンモニア)、HCl(塩化水素)、タール、および小粒子(例えば灰分およびカーボンブラック)を含有する。不純な合成ガスは、いくつかの工程で精製および処理される。例えばタール、メタンおよび固形粒子が、そこから除去される。さらに合成ガスの水素/一酸化炭素比が適切なレベルに調節され、その後に合成ガスが、物理的精製法{例えば Rectisol(登録商標)}および/または化学的精製法(例えばアミン洗浄)を使用することによって精製され、これによって例えば、精製合成ガス、並びに純粋および加圧二酸化炭素が得られる。純粋合成ガスは、例えば、合成炭化水素鎖を製造するためにフィッシャー・トロプシュ反応器に導入される。
【0040】
合成炭化水素鎖の製造における副生成物として形成される純粋および加圧二酸化炭素流は、連続式反応器中でカルシウムを炭酸塩化するために特に好適である。純粋および加圧二酸化炭素は、煙道ガスから得られる二酸化炭素と比べて、カルシウムの炭酸塩化反応を加速し、そうして連続式反応器の使用を可能にし、必要な反応器サイズを減少させる。
【0041】
工場地域で発生し、カルシウムの炭酸塩化に従来使用されている通常の二酸化炭素は、かなりの量の窒素を含有する。そのような二酸化炭素を含有するガスが加圧状態で使用される場合、窒素が炭酸塩化溶液に溶解しないので、窒素の存在は厄介なバブリングおよび泡立ちにつながり得る。二酸化炭素は該液体に溶解し、カルシウム原子と反応する炭酸を形成するので、純粋な加圧二酸化炭素はバブリングまたは泡立ちをしない。
【0042】
合成炭化水素鎖の製造で得られる二酸化炭素は、そもそも純粋で高圧化されており、それを連続式の炭酸塩化反応器に直接供給することさえ可能であり、その反応時間は、バッチ式反応機に比べて充分に短い。連続式反応器において、炭酸塩化反応はほんの数秒で進行し得るが、これに対してバッチ式反応では、同じプロセスが数時間まで続き得る。
【0043】
好ましい実施形態において、二酸化炭素流の純度は、90重量%超、好ましくは95重量%超、より好ましくは97重量%超、最も好ましくは99重量%超である。二酸化炭素流の圧力は、5bar超でもよく、好ましくは20bar超、最も好ましくは30bar超である。圧力が高いほど、炭酸塩化反応が速まる。二酸化炭素流の圧力が充分に高くない場合、その圧力を、別の圧縮機を使用することによって、10bar、好ましくは20bar超、最も好ましくは30bar超の圧力に増加させてもよい。
【0044】
本発明によるガス化は、空気の代わりに酸素を使用することによって行われ、このプロセスにおける合成ガス混合物の窒素含有量は低い。これは、本発明による二酸化炭素流が連続式反応器中でカルシウムを炭酸塩化するために特に好適であるもう一つの理由を構成する。連続式プロセスは、バッチ式プロセスよりも不純物に対して敏感だからである。いくつかの実施形態において、本発明による二酸化炭素流は、1ppm未満の硫黄含有量、および10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、最も好ましくは1重量%未満の窒素含有量を有する。好ましくは、連続式反応器の圧力は、5bar超、好ましくは10bar超、より好ましくは20bar超、最も好ましくは20barおよび30barの間である。二酸化炭素流の低い窒素および硫黄含有量は、沈降炭酸カルシウムの製造において特に有利なカルシウムの炭酸塩化を可能にする。
【0045】
本発明によれば、バッチ式プロセスのバッチ式反応器中、または半連続式プロセス中、またはインサイチュー製紙プロセス中でカルシウムを炭酸塩化するために、二酸化炭素流を使用することができる。純粋および加圧二酸化炭素流を、炭酸カルシウムの炭酸塩化反応に、特に連続式の炭酸カルシウムの沈降反応器に直接導入すると、特に好ましい複合効率が得られる。
【0046】
バイオマスがその寿命中に大気から結合した二酸化炭素のみを、バイオマスから製造される燃料が排出するため、理論的にその燃料が大気の二酸化炭素含有量を増加させないとしても、製造プロセス中に作り出される排出も考慮する必要がある。本発明によれば、副生成物として形成される二酸化炭素は化学反応によってカルシウムに結合し、それゆえ二酸化炭素は大気中に排出されず、そのさらなる処理は不要である。排出権に関する限り、本発明による方法における二酸化炭素の結合は、いくつかの他のプロセスでの排出を可能にする。当然、二酸化炭素の削減量は商業的に利用できる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、有機物質のガス化および/または燃料製造は、カルシウムを炭酸塩化するための設備に統合され、こうして輸送および省エネルギーの必要性が減少する。有機物質のガス化および/またはそれからの燃料製造、並びにカルシウムの炭酸塩化は、好ましくは同じ工場地域内で行われ、この場合には、二酸化炭素の圧力を炭酸塩化プロセスに直接利用することができ、二酸化炭素の圧縮および輸送が不要になる。好ましくは、工場地域内に少なくとも一つの製紙プロセスが存在する。
【0048】
本発明の方法で製造された沈降炭酸カルシウムを、同じ工場地域内で、紙および/またはボードの製造におけるフィラーおよび/またはコーティング剤として使用すると、優れた複合効果が得られる。
【0049】
本発明は、紙またはボードの製造方法にも関し、その中では、カルシウムを炭酸塩化するために有機物質を酸素でガス化し、発生する二酸化炭素流を、カルシウムイオンを含有する液体と反応させ、炭酸塩化されたカルシウムを、製紙プロセス中に、フィラーとしてパルプに添加するか、またはコーティングとして完成紙に添加する。
【0050】
好ましくは、前記二酸化炭素流は、例えば燃料製造に関連する合成炭化水素の製造での副生成物として形成され、前記二酸化炭素流の純度は、好ましくは90重量%超、好ましくは95重量%超、より好ましくは97重量%超、最も好ましくは99重量%超であり、圧力は、5bar超、好ましくは10bar超、より好ましくは20bar超、最も好ましくは30bar超である。好ましくは、本発明による二酸化炭素流は、5ppm未満、好ましくは3ppm未満、より好ましくは1ppm未満の硫化水素含有量、および10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、最も好ましくは1重量%未満の窒素含有量を有する。好ましい実施形態において合成炭化水素鎖の製造は、物理的精製(例えば Rectisol)を使用することによって行われ、これは、高圧(好ましくは10bar超、より好ましくは20bar超、最も好ましくは30bar超)の合成ガス混合物を必要とし、そのためこの理由で混合ガス混合物は、精製および/またはフィッシャー−トロプシュ合成の前に加圧される。
【0051】
本発明の対象である方法においてカルシウムの炭酸塩化を、好ましくは5bar超、好ましくは10bar超、より好ましくは20bar超、最も好ましくは20barおよび30barの間である圧力を使用することによって連続式反応器中で行うことができ、バッチ式反応器のバッチ式プロセス中または半連続式反応器中で行うことができる。好ましくは、炭酸塩化は製紙プロセスに直接統合される。カルシウム含有液からのカルシウムの炭酸塩化を、カルシウムイオンおよび二酸化炭素をカルシウム含有プロセス液に直接添加することによって、製紙プロセスにおいてインサイチューでも行うこともできる。
【0052】
製紙プロセスにおいて、紙の塊は、抄紙機のヘッドボックスの前に水を添加することによって希釈され、本発明によって炭酸塩化された炭酸カルシウムを塊に添加するか、またはその代わりに、カルシウムイオンを炭酸塩化するために本発明による二酸化炭素流を抄紙機に直接添加する。
【0053】
好ましい実施形態において前記有機物質は、バイオマス(例えば木質供給物、農業廃棄物、林業の副生成物、林業の排水スラリー、または都市廃棄物)を含み、その中で木質供給物は、森林および伐採の木質副生成物(例えば間伐で除去した木、切り株、台木、枝、そだ、および樹皮)を含み得る。
【0054】
一つの実施形態で該方法は、沈降炭酸カルシウムの製造を含み、この製造は製紙プロセスの要求に従って調節され、前記二酸化炭素流の供給は炭酸カルシウムの要求に従って調節される。好ましくは、有機物質のガス化および/またはガスの処理は、形成される二酸化炭素流を効率的に利用し、そうして排出を削減するために、カルシウムの炭酸塩化および製紙に統合される。代わりに、有機物質のガス化および/または処理、カルシウムの炭酸塩化、および製紙は、輸送を短縮化するために、同じ工場地域内で行われる。
【0055】
図1は、本発明の一つの好ましい実施形態を示し、この中で供給物1がガス化2に導入され、この中で供給物が酸素および蒸気を使用することによってガス化され、合成ガス混合物3を形成する。合成ガス混合物3は化学的および/または物理的精製4に供され、これによって三つのガス流:硫黄含有ガス流5、合成ガス流6および二酸化炭素流7が得られる。合成ガス流6はフィッシャー−トロプシュ合成8に移され、これによってバイオ燃料9が得られる。二酸化炭素流7は、カルシウムのインサイチュー炭酸塩化のために抄紙機13に直接導入されるか、および/または連続式反応器10中での沈降炭酸カルシウムの連続式製造に導入される。沈降炭酸カルシウムを、代わりにバッチ式プロセスによって調製してもよい。炭酸カルシウム11、12は、一方で抄紙機13に導入されて紙のフィラーとして使用され、他方でペーパーコーティングプロセス15に導入され、その中で紙がペーパーウェブ14として移動する。
【0056】
より好ましい場合では、紙またはボードを製造するために購入される木材物質の木質副生成物はバイオ燃料の調製に利用され、副生成物として得られる純粋および加圧二酸化炭素は炭酸カルシウムの沈降に直接使用され、この炭酸カルシウムは紙またはボードの製造に直接使用される。
【0057】
以下の実施例の目的は、本発明をさらに説明することだけである。上記説明から得られる手引きを使用することによって、当業者は、多くの他の様式で有機物質の酸素ガス化中で発生する二酸化炭素流を利用するために、本発明の保護範囲に従って本発明を使用することができる。
【実施例】
【0058】
実施例1
バイオマスのガス化
伐採の際に形成される木質副生成物(例えば間伐で除去した木、切り株、台木、枝(braches)、そだ、および樹皮)を粉砕および乾燥する。バイオマスを、酸素および蒸気を使用することによってガス化し、この中でバイオマスを、噴流式ガス化装置中で高圧および高温度で処理し、これによって一酸化炭素、窒素および二酸化炭素を含む合成ガス混合物が生成物として得られ、これを、精製前に冷却する。その後に合成ガスを、必要な化学的および物理的処理を使用することによって精製し、その Rectisol(登録商標)処理では、合成ガス混合物を30barに加圧することが必要である。精製ガスを、FT燃料を形成するためにフィッシャー−トロプシュ反応器に導入する。フィッシャー−トロプシュ合成の条件は、所望の炭化水素鎖長が得られるように選択される。カルシウムを炭酸塩化するために、合成ガス混合物の精製での副生成物として形成される二酸化炭素流を使用する。二酸化炭素の窒素含有量は1重量%未満であり、それは30barの圧力を有する。
【0059】
実施例2
沈降炭酸カルシウムの連続式調製
水酸化カルシウム含有懸濁水および実施例1による二酸化炭素(99重量%、圧力20bar)を、バイオ燃料および炭酸カルシウムの統合された製造プロセスで反応器に導入する。連続式反応器の圧力は20barであり、生成物として得られる炭酸カルシウムを、同じ工場地域内における紙およびボード製造プロセスでフィラーおよびコーティング剤として使用する。フィラーとしての使用のために、炭酸カルシウムを抄紙機の短い回路に添加し、そこで所望の製紙用パルプを得るために、炭酸カルシウムを水および繊維と混合する。炭酸カルシウムを、コーティングとして完成紙上にも添加する。
【0060】
実施例3
沈降炭酸カルシウムのバッチ式製造
炭酸カルシウムを、酸化カルシウムからバッチ式プロセスによって製造する。酸化カルシウムを水と混合し、これによって水酸化カルシウム含有懸濁水が得られる。こうして得られる水酸化カルシウムを、同じ工場地域内に位置するバイオ燃料工場から得られる実施例1による二酸化炭素(99重量%)で炭酸塩化する。炭酸カルシウムおよび水が該反応から得られる。沈降炭酸カルシウムを、同じ工場地域内で行われる製紙プロセスにおいて、フィラーおよびコーティング剤として直接使用する。いくらかの沈降炭酸カルシウムを貯蔵し、紙およびボードの別の製造プロセスに使用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオンを含有する液体からのカルシウムを炭酸塩化するための、有機物質の酸素ガス化中に発生する二酸化炭素流の使用。
【請求項2】
前記二酸化炭素流が、合成炭化水素鎖の製造の副生成物として形成されることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項3】
前記の合成炭化水素鎖の製造が、バイオ燃料の製造を含むことを特徴とする請求項2に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項4】
合成炭化水素鎖の製造が、加圧合成ガス混合物を必要とする物理的精製および/またはフィッシャー−トロプシュ合成の使用を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項5】
前記有機物質が、バイオマス、例えば木質供給物、農業廃棄物、林業の副生成物、林業の排水スラリー、または都市廃棄物を含むことを特徴とする上記請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項6】
前記木質供給物が、森林および伐採の木質副生成物、例えば間伐で除去した木、切り株、台木、枝、そだ、および樹皮を含む請求項5に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項7】
二酸化炭素流の純度が、90重量%超、好ましくは95重量%超、より好ましくは97重量%超、最も好ましくは99重量%超であることを特徴とする上記請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項8】
二酸化炭素流の圧力が、5bar超、好ましくは10bar超、より好ましくは20bar超、最も好ましくは30bar超であることを特徴とする上記請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項9】
二酸化炭素流の硫黄含有量が、1ppm未満であることを特徴とする上記請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項10】
前記二酸化炭素流が、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、最も好ましくは1重量%未満の窒素を含有することを特徴とする上記請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項11】
カルシウムが、連続式反応器中で炭酸塩化されることを特徴とする上記請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項12】
連続式反応器の圧力が、5bar超、好ましくは10bar超、より好ましくは20bar超、最も好ましくは20および30barの間であることを特徴とする請求項11に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項13】
カルシウムが、バッチ式反応器または半連続式反応器中で炭酸塩化されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項14】
カルシウムが、製紙プロセスにおいてインサイチューで炭酸塩化されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項15】
発生する二酸化炭素流の利用を可能にするために、有機物質のガス化が、カルシウムの炭酸塩化に組み込まれることを特徴とする上記請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項16】
二酸化炭素の圧力の利用を可能にするために、有機物質のガス化およびカルシウムの炭酸塩化が、同じ工場地域内で行われることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の二酸化炭素流の使用。
【請求項17】
カルシウムを炭酸塩化するために有機物質を酸素でガス化し、発生する二酸化炭素流を、カルシウムイオンを含有する液体と反応させ、炭酸塩化されたカルシウムを、紙またはボードの製造中に、フィラーとしてパルプに添加するか、および/またはコーティングとして完成紙に添加することを特徴とする、紙またはボードの製造方法。
【請求項18】
前記二酸化炭素流が、合成炭化水素鎖の製造の副生成物として発生することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記の合成炭化水素鎖の製造が、バイオ燃料の製造を含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記酸素ガス化によって得られる合成ガス混合物が、合成ガス混合物の加圧を必要とする物理的精製によって精製されるか、および/または前記の合成炭化水素鎖が、フィッシャー−トロプシュ合成によって形成されることを特徴とする請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記有機物質が、バイオマス、例えば木質供給物、農業廃棄物、林業の副生成物、林業の排水スラリー、または都市廃棄物であることを特徴とする請求項17〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記木質供給物が、森林および伐採の木質副生成物、例えば間伐で除去した木、切り株、台木、枝、そだ、および樹皮を含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記二酸化炭素流の純度が、90重量%超、好ましくは95重量%超、より好ましくは97重量%超、最も好ましくは99重量%超であることを特徴とする請求項17〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記二酸化炭素流の圧力が、5bar超、好ましくは10bar超、より好ましくは20bar超、最も好ましくは30bar超であることを特徴とする請求項17〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記二酸化炭素流が、1ppm未満の硫黄を含有することを特徴とする請求項17〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記二酸化炭素流が、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、最も好ましくは1重量%未満の窒素を含有することを特徴とする請求項17〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
カルシウムの炭酸塩化が製紙プロセスの要求に従って調節され、前記二酸化炭素流の使用が炭酸カルシウムの要求に従って調節されることを特徴とする請求項17〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
カルシウムが、連続式反応器中で炭酸塩化されることを特徴とする請求項17〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記連続式反応器の圧力が、5bar超、好ましくは10bar超、より好ましくは20bar超、最も好ましくは20および30barの間であることを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記連続式反応器が、製紙プロセスに組み込まれることを特徴とする請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
カルシウムが、バッチ式反応器または半連続式反応器中で炭酸塩化されることを特徴とする請求項17〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
カルシウムが、製紙プロセスにおいてインサイチューで炭酸塩化されることを特徴とする請求項17〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
発生する二酸化炭素流の利用を可能にするために、有機物質のガス化が、カルシウムの炭酸塩化および紙またはボードの製造に組み込まれることを特徴とする請求項17〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
有機物質のガス化、カルシウムの炭酸塩化、および紙またはボードの製造が、同じ工場地域内で行われることを特徴とする請求項17〜32のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−534184(P2010−534184A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517429(P2010−517429)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050438
【国際公開番号】WO2009/013392
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(509129015)
【氏名又は名称原語表記】UPM−KYMMENE OYJ
【Fターム(参考)】