説明

吊下げ搬送装置

【課題】 吊下げ搬送装置において、地震による揺れに対して、ワークの落下を確実に防止する。
【解決手段】 ガイドレール2に、ガイドローラ7を係合させて走行部材5を案内し、走行部材5に一対のハンガアーム6を回動可能に取付ける。一対のハンガアーム6によって車体Wを保持し、吊下げた状態でガイドレール2に沿って搬送する。一対のハンガアーム6の両側に、ガイドレール2に沿って延びる拡開防止バー15を配置し、天井吊下げ部材3に固定する。地震による揺れに対して、拡開防止バー15が一対のハンガアーム6に当接して、これらが拡開するのを防止して、車体Wの落下を確実に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の製造ライン等において、ワークを吊下げて搬送する吊下げ搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車の製造ラインにおいて、塗装、組立等の工程間の車体の搬送、足回りの組付ライン等では、吊下げ搬送装置を用いて、車体を上方から吊下げて搬送する。従来の吊下げ搬送装置の一例について、図5乃至図7を参照して説明する。
【0003】
図5及び図6に示すように、吊下げ搬送装置1は、搬送ラインに沿って互いに平行に延びる一対のガイドレール2が天井吊下げ部材3によって上方から支持され、このガイドレール2に、車体Wを保持するボディハンガ4が吊下げられている。ボディハンガ4は、ガイドレール2に沿って移動する走行部材5に、車体Wを保持する略L字形のハンガアーム6が開閉可能に取付けた構造となっている。
【0004】
走行部材5は、その前後左右に配置された4つのガイドローラ7を一対のガイドレール2に係合させて吊下げられており、駆動装置(図示せず)によって、ガイドレール2に沿って移動可能となっている。走行部材5には、その前後に、それぞれ、一対のハンガアーム6が軸受ユニット8によって回動可能に取付けられている。ハンガアーム6は、その下端部を車体Wの下部に挿入し、ハンガピン9を車体Wのピン穴に挿入することによって車体Wを保持する。前後のハンガアーム6は、連結部材10によって互いに連結されており、連結部材10には、ハンガアーム6を回動させるための開閉アーム11が取付けられている、
【0005】
また、走行部材5には、ストッパ12が設けられており、ハンガアーム6をストッパ12に当接させることによって、ハンガアーム6が図5に示す車体保持位置よりも内側に回動しないように、その回動範囲を制限している。
【0006】
そして、図7に示すように、開閉アーム11によって一対のハンガアーム6を回動させて、リフタ13によって持上げられた車体Wの下部にハンガアーム6の下端部を挿入し、車体Wを下降させて、ハンガピン9を車体Wのピン穴に挿入することによって、車体Wを保持する。このとき、ハンガアーム6は、ストッパ12によって回動範囲が制限されて、図5に示す車体保持位置よりも内側へ回動することがないので、ハンガピン9を車体Wのピン穴に容易に挿入することができる。また、車体Wを保持した状態では、ストッパ12によって、左右のハンガアーム6の車体Wの内側への回動を制限することにより、ハンガアーム6の左右方向の揺れを防止することができる。そして、駆動装置によって走行部材5をガイドレール2に沿って移動させることにより、車体Wを吊下げた状態で搬送することができる。
【0007】
このように、ワークを上方から吊下げた状態で搬送する吊下げ搬送装置としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【特許文献1】特開平9−156499号公報
【0008】
しかしながら、上記従来の吊下げ搬送装置1では、次のような問題がある。地震等によって、天井吊下げ部材3が揺すられた場合、搬送方向、すなわち、ガイドレール2に沿った方向の揺れに対しては、ガイドレール2に沿って走行部材5が移動することにより、免振機能が働いて揺れが吸収されるので、振幅が大きくなりにくいが、搬送方向の左右の揺れに対しては、このような免振機能が期待できないため、揺れが大きくなりやすい。天井吊下げ部材3が搬送方向の左右に大きく揺れた場合、図8に示すように、ハンガアーム6は、車体Wの外側へは自由に回動することができるが、車体Wの内側へはストッパ12に当接して回動が制限されるため、一方のハンガアーム6が外側へ回動して、車体Wが落下する虞がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、地震等による揺れに対して、ワークの落下を確実に防止することができる吊下げ搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、ガイドレールに沿って移動する走行部材に回動可能に取付けられた一対のハンガアームによってワークを保持して搬送する吊下げ搬送装置において、前記一対のハンガアームに当接して、これらが拡開するのを防止する拡開防止部材を前記ガイドレールに沿って設けたことを特徴とする。
請求項2の発明に係る吊下げ搬送装置は、上記請求項1の構成において、前記拡開防止部材は、前記一対のハンガアームの左右両側に設けられていることを特徴とする。
請求項3の発明に係る吊下げ搬送装置は、上記請求項1の構成において、前記拡開防止部材は、前記一対のハンガアームの上方に設けられ、前記ハンガアームから突出された突出部に当接することを特徴とする。
請求項4の発明に係る吊下げ搬送装置は、上記請求項1乃至3のいずれかの構成において、前記一対のハンガアームは、後方へ延ばされて前記ワークの後部を支持する下部を有しており、該下部には、前記ワークの左右を支持するずれ止め部材が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る吊下げ搬送装置によれば、地震等による揺れに対して、拡開防止部材によって、一対のハンガアームが拡開するのを防止して、ワークの落下を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、図5乃至図8に示す従来例に対して、同様の部分には同一の符号付して、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0013】
本発明の第1実施形態について、図1及び図3を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る吊下げ搬送装置14では、車体W(ワーク)を保持するボディハンガ4の両側には、一対のハンガアーム6に当接して、これらが拡開するのを防止する拡開防止バー15(拡開防止部材)が設けられている。拡開防止バー15は、車体Wを保持するハンガアーム6との間に所定の隙間(20mm程度)をもって、搬送方向に沿って延ばされており、天井吊下げ部材3に連結されて固定されている。なお、拡開防止バー15は、床面に柱を立設し、この柱に固定することもでき、また、この柱によって吊下げ部材3と共に固定するようにしてもよい。
【0014】
図5乃至図7に示す従来例と同様、ボディハンガ4を支持する走行部材5は、ガイドローラ7によって搬送方向の前後に移動可能に支持されることによって免振動機能を有しており、搬送方向、すなわち、ガイドレール2に沿った方向の揺れを吸収できるようになっている。
【0015】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
ハンガアーム6と拡開防止バー15との間に所定の隙間が設けられているので、通常は、ボディハンガ4は、ハンガアーム6を拡開防止バー15に接触させることなく、車体Wを保持してガイドレール2に沿って搬送することができる。
【0016】
地震等によって天井吊下げ部材3が搬送方向の左右に揺れた場合、左右のハンガアーム6は、拡開防止バー15に当接することによって、その移動が制限されて、拡開することがないので、車体Wが落下するのを確実に防止することができる。
【0017】
このとき、車体Wを保持する左右のハンガアーム6と車体Wとの隙間を充分小さく設定しておくことにより、図3に示すように、車体Wのピン穴からハンガピン9が外れて、車体Wがボディハンガ4の中で左右に移動した場合でも、車体Wが落下するのを確実に防止することができる。この場合、ハンガアーム6及び車体Wの変形を考慮し、車体Wがボディハンガ4の中で左右に移動した場合でも、車体Wを支持する一対のハンガアーム6の下部と車体WとのラップL(重なり)が100mm以上となるように各部の寸法を設定することが望ましい。
【0018】
次に、本発明の第2実施形態について、図2を参照して説明する。
図2に示しように、第2実施形態に係る吊下げ搬送装置16では、上記第1実施形態の拡開防止バー15の代りに、一対のハンガアーム6から突出された開閉アーム11(突出部)の上方に拡開防止バー17(拡開防止部材)が設けられている。拡開防止バー17は、開閉アーム11との間に所定の隙間(20mm程度)をもって配置され、搬送方向に沿って延ばされており、天井吊下げ部材3に連結されて固定されている。
【0019】
これにより、地震等よって天井吊下げ部材3が搬送方向の左右に揺れた場合、開閉アーム11が拡開防止バー17に当接することによって、一対のハンガアーム6の回動が制限されて、これらが拡開することがないので、上記第1実施形態と同様、車体Wが落下するのを確実に防止することができる。なお、上記実施形態では、開閉アーム11を突出部として、拡開防止バー17に当接させるようにしているが、このほか、開閉アーム11とは別に、一対のハンガアーム6の上部の適宜の位置に突出部を設け、これを拡開防止バー17に当接させることによって、一対のハンガアーム6の拡開を防止するようにすることもできる。
【0020】
また、上記第1及び第2実施形態において、図4に示すように、前部のハンガアーム6の下部6Aを後部へ延ばし、この下部6Aの前後にハンガピン9を配置することにより、後部のハンガアームを省略することができる。このような構造のボディハンガ18とした場合、車体Wを保持する左右のハンガアーム6の下部6Aの後端部付近に、ずれ止め部材19を立設し、車体Wをずれ止め部材19に当接させることにより、車体Wの後部がボディハンガ18からはみ出すの防止することができ、車体Wの落下を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る吊下げ搬送装置を示す正面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る吊下げ搬送装置を示す正面図である。
【図3】図1に示す吊下げ搬送装置において、車体が左右方向に移動した状態を示す正面図である。
【図4】図1及び図2に示す吊下げ搬送装置において、後部のボディハンガを省略して、ずれ止め部材を設けた場合の構造を示す側面図である。
【図5】従来の吊下げ搬送装置を示す正面の縦断面図である。
【図6】図5に示す装置の側面図である。
【図7】図5に示す装置において、ハンガアームを開いた状態を示す正面の縦断面図である。
【図8】図5示す装置において、一方のハンガアームが開いて、車体が脱落した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
2 ガイドレール、6 ハンガアーム、14 吊下げ搬送装置、15 拡開防止バー(拡開防止部材)、W 車体(ワーク)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレールに沿って移動する走行部材に回動可能に取付けられた一対のハンガアームによってワークを保持して搬送する吊下げ搬送装置において、前記一対のハンガアームに当接して、これらが拡開するのを防止する拡開防止部材を前記ガイドレールに沿って設けたことを特徴とする吊下げ搬送装置。
【請求項2】
前記拡開防止部材は、前記一対のハンガアームの左右両側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の吊下げ搬送装置。
【請求項3】
前記拡開防止部材は、前記一対のハンガアームの上方に設けられ、前記ハンガアームから突出された突出部に当接することを特徴とする請求項1に記載の吊下げ搬送装置。
【請求項4】
前記一対のハンガアームは、後方へ延ばされて前記ワークの後部を支持する下部を有しており、該下部には、前記ワークの左右を支持するずれ止め部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の吊下げ搬送装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−232140(P2006−232140A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50993(P2005−50993)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】