同位体組成および質量分析システムおよび方法
1つまたは複数の関心対象があるかどうかを判定するために同位体間の質量強度値、同位体比、および厳密な質量差が得られ、分析され得る。1つの実装では、この方法は質量強度値のなかから関心対象のピークを探す。どの質量が関心対象であるかを判定するために、同位体の組成を表す質量強度値が基準と比較される。本発明はそれに限定されるものではないが、このような基準の例には、特定の閾値以上の質量強度値、別の質量強度値の一定比率内の質量強度値、および/または質量自体の間の分離が含まれる。オプションとして、基準に許容差を付与してもよい。質量が関心対象であることが判明すると、LC−MS−MS、GC−MS−MSおよびMALDI−MS−MSシステムのような分析システムが使用される場合、関心対象である質量の1つまたは全てについてMS/MSが自動的に起動される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2003年7月3日出願の米国特許仮出願第60/485、278号「同位体組成(signature)および質量分析のシステムおよび方法」の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明の実施形態は一般に同位体の組成分析、および同位体の組成分析と組み合わせた質量分析の利用に関する。
【背景技術】
【0003】
クロマトグラフィーはサンプル内に含まれる個別成分を分離して、これらを特定できるようにする。例えば、液体クロマトグラフィーには2つの相、すなわち移動相と固定相とが含まれる。構成成分の分離を行うために、液体サンプルの混合物(移動相)は粒子(固相)が充填されたコラムを通される。コラム中の粒子には移動相に反応するようにされた液体をコーティングしてもよく、しなくてもよい。移動相、すなわちサンプル中の構成成分はいくつかの要因に基づいて異なる速度で、充填されたコラムを通過する。次に、コラムの遠端を出る際のサンプルを観察することによって、サンプルの構成成分への分離が分析される。
【0004】
異なる構成成分がコラムを通過する速度は移動相と固相との相互作用に依存する。サンプル中の成分は粒子または粒子を被覆する物質と物理的に相互作用して、コラム内の成分の動きが抑制されることがある。分析されるサンプル中の異なる成分は、成分の化学構造に応じて異なる強度で特定の粒子および/またはコーティングと相互作用することで特定の粒子および/またはコーティングに異なる反応をする。粒子および/またはコーティングとより強く結合する傾向があるような成分は、粒子および/またはコーティングとの結合が弱いか、全く結合しないような成分よりもゆっくりとコラムを通過する。化学反応に加えて、サンプル中の成分のサイズもコラムを通過する速度に影響することがある。例えば、ゲル浸透クロマトグラフィーでは、分析される溶液中の異なる分子は孔を含むマトリクスを異なる速度で通過することによって、サンプル中の異なる分子が分離される。ゲル濾過クロマトグラフィーの場合は、粒子のサイズおよびコラム内への充填方法とサンプル中の成分のサイズとを組み合わせて、サンプルがコラムを通過する速度が判定される(何故ならば、あるサイズの成分だけが粒子間の空隙/間隙空間を容易に横切るからである)。
【0005】
分離されたサンプルはコラムの遠端の検出器内に進み、そこでサンプル中の様々な成分の滞留時間が計算される。滞留時間とは、サンプルが(サンプルがコラム内に誘導される)注入口からコラムを通って検出器まで移動するのに要する時間である。固相を出る成分の量と滞留時間とをグラフにして、クロマトグラフピークとして知られるピークを有するチャートを作成してもよい。これらのピークが異なる成分を特定する。
【0006】
分離された成分の化学構造を判定するために更に分析するため、成分を質量分析計に送ってもよい。2つの質量分析計段を有するシステムはLC−MS−MSシステムと呼ばれる。質量分析計はサンプルを入力として取り込み、サンプルをイオン化させて正イオンを生成する。電子ビームの利用を含めた多くの異なるイオン化方法を使用できる。次に正イオンは一般にMS1と呼ばれる第1段階の分離で質量によって分離される。質量分離は、イオンの重さに基づいて異なる程度まで正イオンを逸らす磁石の利用を含む多くの手段によって達成できる。分離されたイオンは次に衝突セル内に移動し、そこでイオンはイオンと相互作用する衝突ガスまたはその他の物質と接触状態になる。反応したイオンは次に、一般にMS2と呼ばれる第2段階の質量分離にかけられる。
【0007】
分離されたイオンは質量分析段(単数または複数)の終端で分析される。この分析により、質量スペクトルと呼ばれるグラフでイオンの信号強度対イオン質量が示される。質量スペクトルの分析によって検出器に達したイオンの質量と相対的な存在量の双方が得られる。存在量は信号の強度から得られる。例えば代謝物質のような化学物質を特定するために液体クロマトグラフィーと質量分析との組み合わせを利用してもよい。分子が電子を失うと、共有結合が破壊されることが多く、その結果、正の電荷を持つフラグメントの配列が生ずる。質量分析計はフラグメントの質量を計測し、これらのフラグメントは次に、元の分子の構造および/または成分を判定するために分析されてもよい。サンプル中の特定の物質を分離するためにその情報を利用してもよい。
【0008】
新陳代謝は有糸分裂のような、生命過程に必要なエネルギーと基本物質を生成するために必要な細胞又は組織内で生ずる化学変化であると定義できる。化学反応の副生物を代謝物質と呼んでもよい。サンプル中に存在する代謝物質を分析し、特定することによって、新陳代謝の経路を判定することが可能である。例えば、尿を作る個体がどの物質を摂取したかを判定するために、尿中の代謝物質の分析を利用してもよい。代謝物質の特定と分析は、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィーを利用して行われることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来は、代謝物質の分析には3つの別個のサンプルランが含まれる。第1のサンプルランは対照である。対照サンプルランの後、第1の被分析物質ランが行われる。被分析サンプルの結果からのクロマトグラフピークが対照のクロマトグラフピークと比較され、比較結果を利用して双方のサンプル内に生ずる成分が除去される。次に、被分析物質には現れるが対照サンプルには現れない予期せぬ代謝物質を特定するために、被分析物質に特有の成分に照準を合わせた第2の被分析物質サンプルランが実施される。残念ながら、対照サンプルと第1の被分析物質サンプルとの比較は、ほとんどの場合は直接人間の関与を必要とし、時間がかかる手順である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態は関心対象である同位体組成の検出および分析のための自動化された機構を提供する。1つの実装では、この方法は質量強度値のなかから関心対象のピークを探す。どの質量が関心対象であるかを判定するために、同位体の組成を表す質量強度値が基準と比較される。1つの実装では、基準には同じ化合物に対応する同位体間の同位体比および質量差が含まれる。質量が関心対象であることが判明すると、関心対象である質量の1つまたは全てについてMS/MSが自動的に起動される。
【0011】
1つの実施形態では、質量による同位体組成分析のための分析システムと共に利用される方法が提供される。この方法は複数の質量に対応する質量強度値を得る工程を含む。複数の質量のいずれかが関心対象であるか否かを判断するために、その質量強度値は基準と比較される。いずれかの質量が関心対象である場合は、関心対象である質量に質量分析を行うように指示される。本発明の別の実施形態は、この方法のためのコンピュータにより実行可能な工程を保持する媒体を提供する。
【0012】
本発明の他の実施形態は、質量により同位体組成を分析するシステムを提供する。このシステムは、質量に対応する質量強度値を得る電子デバイスを含んでいる。電子デバイスは、複数の質量強度のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、複数の質量強度値を基準と比較することが可能である。関心対象である質量のいずれかに質量分析を行うための第2段の質量分離デバイスも備えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は本明細書の説明および、異なる図面全体を通して同様の参照符号は同一の部品を示す添付図面から明らかにされる。
【0014】
本発明は関心対象である1つ以上の質量を判定するための複数の質量強度値の分析に向けられている。本発明の実施形態によれば、方法は質量分析(MS)モード中に質量強度値のなかから関心対象の1走査ごとのピークを探し出す。どの質量が関心対象であるかを判定するために、同位体組成を表す質量強度値が基準と比較される。その質量が関心対象であることが判明すると、MS/MSは関心対象の1つまたは全てについて自動的に起動されることができる。本発明はそれに限定されるものではないが、このような基準の例には、特定の閾値以上の質量強度値、別の質量強度値の一定比率内の質量強度値、および/または質量自体の間の分離が含まれる。オプションとして、基準に許容差を付与してもよい。
【0015】
本発明は図1の実施例に示されているようにLC−MS−MSシステムのような分析システムで実施してもよい。このアプローチはGC−MS−MSおよびMALDI−MS−MS(マトリクス援用レーザー離脱イオン化−質量分析−質量分析)のようなその他のクロマトグラフィー技術にも利用できることが当業者には理解されよう。この実施形態によれば、分析システム2は液体クロマトグラフィーモジュールのようなクロマトグラフィーモジュール4を含んでいる。さらにイオン化モジュール10も含まれている。イオン化モジュール10は入力サンプルとしてクロマトグラフィーモジュール4からの出力を受ける。このイオン化モジュールはサンプルのイオン化を実行する。サンプルをイオン化するには、サンプルを高エネルギー電子の流れで照射することのような多くの異なる方法があることが当業者には理解されよう。
【0016】
イオン化モジュール10によって生成されたイオンはMS1第1段質量分離モジュール12に送られる。質量分離はよく知られている多くの技術のどれを利用して行ってもよい。例えば、イオンの質量に基づいてイオンの経路を変更する磁力をイオンに加えてもよい。分離されたイオンは次に衝突セルモジュール14へと送られ、そこで分離されたイオンに反応するようにされたガスにイオンを曝すような付加的な反応を受ける。検出器モジュール18に達する前に、サンプルはMS2第2段質量分離モジュール16でさらに分離されてもよい。検出器モジュール18は、出射イオンによって発生する検出信号に基づいて質量スペクトルを生成するために使用される。異なる多くの質量分離方法を利用してもよく、特定の関心対象であるイオンに反応するように異なる物質を衝突セル14へと誘導してもよいことが当業者には理解されよう。同様に、本発明の実施形態を異なる多くの代謝物質分析システムで実施してもよい。
【0017】
この実施例によれば、プロセッサ6を有する電子デバイスが検出器モジュール18およびクロマトグラフィーモジュール4とインターフェースされる。電子デバイス6はサーバー、デスクトップコンピュータシステム、ラップトップ、メインフレーム、ネットワークを介したデバイス、またはプロセッサを有するその他の同様のデバイスでよい。電子デバイスはさらに、本発明の範囲から離れることなく、代謝物質分析システム2内のモジュールの1つへと統合してもよい。電子デバイス6はサンプルランの結果を記録するために使用される記憶装置8を含んでいる。記憶装置8は代謝物質分析システムにアクセス可能などの領域に配置してもよいことが当業者には理解されよう。
【0018】
単一のLC−MS−MSランを行うために実施される工程の手順は図2のフローチャートに示されている。手順はサンプル内の成分の液体クロマトグラフィー分離、工程30から開始される。液体クロマトグラフィーシステムから出たサンプル成分はイオン化モジュール10へと送られ、そこで工程32でイオン化が行われる。工程34で第1段の質量分離が行われ、分離されたイオンは衝突セルへと送られ、そこで工程36で衝突セル被反応物質に反応する。次の工程38で衝突セルから出た被反応イオンに第2段の質量分離が行われる。分離されたイオンは検出器モジュール18へと送られ、そこで工程40で、収集されたデータから質量スペクトルが生成されることによって、サンプル内に含まれる代謝物質の特定が可能になる。
【0019】
本発明の実施形態は特有な同位体組成を処理するLC−MS/MSでのデータ依存収集によって生体異物およびバイオマーカーのさらに具体的な探索を可能にする。例えば、塩素または臭素を含む自然発生成分の場合、特定のタグを有する誘導体化された成分は、カルボン酸または炭水化物および放射標識成分が存在するか否かを示すことが可能である。
【0020】
本発明は誤検知を解明するために必要な試験の数を減少させることが可能である。例えば、明確な同位体組成を有することで、関心対象ではない他の成分に関する情報を選択的に破棄しつつ、関心対象である成分を認識することが可能になる。本発明の実装の例は、薬品の発見および開発プロセス、およびメタボノミクスやメタボロミクスのようなその他の用途での代謝構造の検出および解明を含んでいる。
【0021】
本発明の実施形態の1つの実装例によれば、マサチューセッツ州のミルフォード所在のWaters Corporationから市販されているQtof系列の計器の1つであるMICROMASS(登録商標)Q−Tof micro(商標)質量分析計によって、精密質量差のような質量差を利用して同位体比と共に同位体標識成分を判定することが可能である。本発明はそれに限定されるものではないが、本発明のこのような実装は、非生体物質および内因性バイオマーカーの検出と特定にとって極めて有用であることが可能である。
【0022】
多様な質量分析計を使用してもよいことが理解されよう。例えば、四重極型や飛行時間型質量分析計を使用してもよい。1つの実装によれば、本発明は飛行時間型質量分析計によって得られる精密質量値を利用してもよい。本明細書で用いられる精密質量とは、少なくとも小数第4位の精度を有する質量値を意味する。本発明はそれに限定されるものではないが、飛行時間型質量分析計はマサチューセッツ州のミルフォード所在のWaters Corporationから市販されているQtof系列の計器を含んでいる。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、図3に例示されるような方法100が提供される。工程110で、複数の質量に対応する複数の質量強度値が得られる。工程120で質量のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、複数の質量強度値が基準と比較される。工程130で、関心対象であるいずれかの質量で第2の質量分析工程を実施してもよい。
【0024】
実施形態によれば、多様な基準が本発明の範囲に含まれる。本発明はそれに限定されるものではないが、図4から図9は単独で、または組み合わせて使用してもよい様々な基準を示している。図4から図9は各々がサンプルのグラフ形式で複数の質量強度値を示している。縦軸に沿って強度が毎秒あたりのカウントで示されている。横軸に沿って質量値がドルトン(Da)で示されている。図4のグラフ200に示されるように、基準の一例は第1の質量差である。この基準に基づいて、関心対象である質量を質量値の差によって特定できる。例えば、グラフ200では、501.2Daの第1の質量値210は503.2Daの第2の質量値230とは2Daの質量差220を有している。2Daの質量差220が第1の質量差基準として指定された場合は、503.2Daの第2の質量値230と、501.2Daの第1の質量値210とが関心対象の質量であるものと判定される。
【0025】
質量強度値の第1の比率である基準の第2の例が図5のグラフ200に示されている。第1の質量値210の強度が第2の質量値230の強度と比較される。例えば、第1の比率を2:1と指定することができる。そして第1の質量値210と第2の質量値230の強度とが比較される。強度比が、この場合は2:1である指定された第1の比率と一致すれば、501.2Daの第1の質量値210と503.2Daの第2の質量値230とが関心対象の質量であると判定される。検知された質量強度値が指定された第1の比率と一致しない場合は、その質量は関心対象であるものとは見なされない。第1の比率の第2の例が図6のグラフ201に示されている。グラフ201は501.2Daの第1の質量値211と503.2Daの第2の質量値231とを示している。この場合は、第1の比率が1:2と指定されていれば、質量値211、231は関心対象であるものと判定される。
【0026】
様々な基準は2つ以上の質量値の比較をも含んでもよい。図7および図8は図4から図6に関連して記載されている質量差と第1の比率の基準のバリエーションを示している。図7のグラフ202は第1の質量値212、第2の質量値232、および第3の質量値242を示している。第1の質量差220はD1として示され、一方、第2の質量差222はD2として示されている。第2の質量差222が第1の質量差220に加えて基準として用いられる場合は、関心対象である質量と見なすためには第1の質量値220と第2の質量値222の双方がそれらの所定の基準値と一致しなければならない。
【0027】
図8は第1の比率に加えて基準として用いられる第2の比率の利用を示している。グラフ203は第1の質量値213、第2の質量値233、および第3の質量値243を示している。この実施形態では、第1の比率は第1の質量値213と第2の質量値233との強度差として定められてもよい。第2の比率は第1の質量値213と第3の質量値243との強度差として定められてもよい。この例では、第1の比率の基準と第2の比率の基準がそれぞれ2:1であれば、第1の質量値213の強度は第2の質量値233と第3の質量値243の値のそれぞれ2倍であるので、3つの質量値の全てが関心対象であると見なされるであろう。第1の比率または第2の比率のいずれかが基準に合致しない場合は、どの質量値も関心対象であるとは見なされない。
【0028】
データ範囲を基準に適合するものと見なし、また関心対象の質量値であると見なすことができるように、許容差を比率と質量差の双方に付与してもよいものと考えられる。例えば、質量の許容差を指定できるようにすることによって、異なる2つの質量値を関心対象である質量と見なすことができるように、質量許容差ウインドウを備えてもよい。これと同様に、あるいはこれに代わって、質量強度値の僅かな不一致があってもなお関心対象であると見なすことができるように、比率の許容差を指定してもよい。許容差の値は、2つの質量強度値だけが比較される場合、または複数の質量強度値が比較される場合の双方の場合に付与することができる。
【0029】
本発明によって使用可能な基準の別の変形例が図9に示されている。グラフ204はピーク閾値250を示している。第1の質量値215と第2質量値235とが示されている。この例では、第1の質量値215と第2質量値235とは各々がピーク閾値250を超えているので、第1の質量値215と第2質量値235の双方とも関心対象である質量と見なされる。ピーク閾値250を超えないその他の質量強度値は関心対象の質量を表すものとは見なされない。
【0030】
図10は本発明の実施形態と共に使用してもよいユーザーインターフェース300の例を示している。図11は本発明の実施形態により使用してもよいデフォルト値を示す表400を図示している。ユーザーインターフェース300は関心対象である質量強度値を発見するための質量強度値の分析を始動する能力を有している。この工程を始動するため、同位体パターン同定310の利用がチェックされる。図11は同位体パターン同定310のデフォルト値が偽値であるものと指定していることに留意されたい。このデフォルト値は、ユーザーに対して分析活動を開始するように要求することが望ましい場合に用いてもよい。第1の質量差320の基準が望ましい場合は、第1の質量差を指定してもよい。第1の比率330が望ましい場合は、これを指定してもよい。第2の質量差340の利用が指定される場合は、第2の質量差350および/または第2の比率360が指定されてもよい。第1の比率330または第2の比率360の使用を開始するためには、強度比400の利用が指定されなければならない。必要に応じて質量の許容差370または比率の許容差380も指定されてもよい。これに代わって、またはこれに加えて、ピーク閾値390が指定されてもよい。
【0031】
図10のユーザーインターフェース300は一例であり、多様な代替例が本発明の範囲に含まれるものと理解される。図11の表400に記入されているデフォルト値は限定的ではない例として示されたに過ぎず、多様なデフォルト値、範囲、ユニット、およびフィールドが本発明の範囲内であるものと理解される。
【0032】
図12は本発明の実施形態の1つの実装例によるユーザーインターフェース301の別の例を示している。図12の実施例によれば、同位体パターン同定の利用が指定される。1Daである第1の質量差320の利用が指定され、第1の比率330の利用により400が開始される。さらに、100mDaである質量許容差370が30%の比率許容差380と共に指定されている。この実施例によれば、関心対象である質量強度値が適合しなければならない別の基準は毎秒10カウントの強度閾値390である。
【0033】
本発明の様々な実施形態を、単独の注入、およびMICROMASS(登録商標)Q−Tof micro(商標)質量分析計のようなQtof型質量分析計の調査、前駆イオン走査、および非イオン化体離脱走査機能のような他のMSからMS/MS機能の双方に使用可能である。本発明の実施形態は単独のフィルタで、またはMSからMS/MSへの切り換えのために他のフィルタと組み合わせたフィルタとして使用可能である。本発明は後処理またはリアルタイム処理で使用してもよい。このような処理の例は、MICROMASS(登録商標)Q−Tof micro(商標)質量分析計のようなQtof型質量分析計の重心収集モード(リアルタイム)における連続体収集モード(後処理)を含んでいる。
【0034】
図13はグラフ500に表示された複数の質量強度値の例を示している。この例では、基準の設定は2Daである第1の質量差、+/−25mDaである質量許容差、1:1である第1の比率、および+/−10%である比率許容差として定められている。この例では、460.9954Daである第1の質量210と462.9922Daである第2の質量230とが関心対象の質量と見なされる。
【0035】
質量強度値をデータベースに保存し、分析の精度を確認するために後の検索が可能であることが当業者には理解されよう。
【0036】
本発明の実施形態は薬品サンプル中の不純物の特定のような多様な用途に使用してもよい。同様に、化学的な侵害者の可能性を究明するために、化学反応の副生物を分析することによって特許権を強化するために利用してもよい。加えて、天然物を分析し、それらの純度レベルを判定するために、本発明の様々な実施形態を利用してもよい。本明細書で開示された分析システムは、被分析物サンプルを分析するために質量分析計以外の分析システムコンポーネントを使用してもよく、また本発明の範囲から逸れることなく液体クロマトグラフィーの代わりにガスクロマトグラフィーを使用してもよいことが当業者は理解されよう。
【0037】
これまで本発明を例示してきたが、この分野の当業者には本発明の趣旨から逸れることなく実施例の修正および変化形が自明であろう。上記の実施形態の機能と特徴を組み合わせて利用してもよい。好適な実施形態は実例であるに過ぎず、いかなる意味でも限定的なものと見なされるべきではない。本発明の範囲は上記の説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲内に含まれる全ての変化形および同等物が包含される。
【0038】
本発明を記載してきたが、新規性が特許請求され、かつ特許証で保護される内容は特許請求の範囲に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態を実施するのに適した環境を示す図面である。
【図2】液体クロマトグラフィーおよび質量分析を行うために使用される工程の手順のフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態による方法を示す図面である。
【図4】本発明の実施形態による第1の質量差基準を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態による第1の比率基準を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態による第1の比率基準を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態による第2の質量差基準を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態による第2の比率基準を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態によるピーク閾値基準を示す図面である。
【図10】本発明の実施形態によるユーザーインターフェースを示す図面である。
【図11】本発明の実施形態によるサンプルデフォルト値を記載した表である。
【図12】本発明の実施形態の実装によるユーザーインターフェースの別の表である。
【図13】本発明の実施形態の例による複数の質量強度値を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本出願は2003年7月3日出願の米国特許仮出願第60/485、278号「同位体組成(signature)および質量分析のシステムおよび方法」の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明の実施形態は一般に同位体の組成分析、および同位体の組成分析と組み合わせた質量分析の利用に関する。
【背景技術】
【0003】
クロマトグラフィーはサンプル内に含まれる個別成分を分離して、これらを特定できるようにする。例えば、液体クロマトグラフィーには2つの相、すなわち移動相と固定相とが含まれる。構成成分の分離を行うために、液体サンプルの混合物(移動相)は粒子(固相)が充填されたコラムを通される。コラム中の粒子には移動相に反応するようにされた液体をコーティングしてもよく、しなくてもよい。移動相、すなわちサンプル中の構成成分はいくつかの要因に基づいて異なる速度で、充填されたコラムを通過する。次に、コラムの遠端を出る際のサンプルを観察することによって、サンプルの構成成分への分離が分析される。
【0004】
異なる構成成分がコラムを通過する速度は移動相と固相との相互作用に依存する。サンプル中の成分は粒子または粒子を被覆する物質と物理的に相互作用して、コラム内の成分の動きが抑制されることがある。分析されるサンプル中の異なる成分は、成分の化学構造に応じて異なる強度で特定の粒子および/またはコーティングと相互作用することで特定の粒子および/またはコーティングに異なる反応をする。粒子および/またはコーティングとより強く結合する傾向があるような成分は、粒子および/またはコーティングとの結合が弱いか、全く結合しないような成分よりもゆっくりとコラムを通過する。化学反応に加えて、サンプル中の成分のサイズもコラムを通過する速度に影響することがある。例えば、ゲル浸透クロマトグラフィーでは、分析される溶液中の異なる分子は孔を含むマトリクスを異なる速度で通過することによって、サンプル中の異なる分子が分離される。ゲル濾過クロマトグラフィーの場合は、粒子のサイズおよびコラム内への充填方法とサンプル中の成分のサイズとを組み合わせて、サンプルがコラムを通過する速度が判定される(何故ならば、あるサイズの成分だけが粒子間の空隙/間隙空間を容易に横切るからである)。
【0005】
分離されたサンプルはコラムの遠端の検出器内に進み、そこでサンプル中の様々な成分の滞留時間が計算される。滞留時間とは、サンプルが(サンプルがコラム内に誘導される)注入口からコラムを通って検出器まで移動するのに要する時間である。固相を出る成分の量と滞留時間とをグラフにして、クロマトグラフピークとして知られるピークを有するチャートを作成してもよい。これらのピークが異なる成分を特定する。
【0006】
分離された成分の化学構造を判定するために更に分析するため、成分を質量分析計に送ってもよい。2つの質量分析計段を有するシステムはLC−MS−MSシステムと呼ばれる。質量分析計はサンプルを入力として取り込み、サンプルをイオン化させて正イオンを生成する。電子ビームの利用を含めた多くの異なるイオン化方法を使用できる。次に正イオンは一般にMS1と呼ばれる第1段階の分離で質量によって分離される。質量分離は、イオンの重さに基づいて異なる程度まで正イオンを逸らす磁石の利用を含む多くの手段によって達成できる。分離されたイオンは次に衝突セル内に移動し、そこでイオンはイオンと相互作用する衝突ガスまたはその他の物質と接触状態になる。反応したイオンは次に、一般にMS2と呼ばれる第2段階の質量分離にかけられる。
【0007】
分離されたイオンは質量分析段(単数または複数)の終端で分析される。この分析により、質量スペクトルと呼ばれるグラフでイオンの信号強度対イオン質量が示される。質量スペクトルの分析によって検出器に達したイオンの質量と相対的な存在量の双方が得られる。存在量は信号の強度から得られる。例えば代謝物質のような化学物質を特定するために液体クロマトグラフィーと質量分析との組み合わせを利用してもよい。分子が電子を失うと、共有結合が破壊されることが多く、その結果、正の電荷を持つフラグメントの配列が生ずる。質量分析計はフラグメントの質量を計測し、これらのフラグメントは次に、元の分子の構造および/または成分を判定するために分析されてもよい。サンプル中の特定の物質を分離するためにその情報を利用してもよい。
【0008】
新陳代謝は有糸分裂のような、生命過程に必要なエネルギーと基本物質を生成するために必要な細胞又は組織内で生ずる化学変化であると定義できる。化学反応の副生物を代謝物質と呼んでもよい。サンプル中に存在する代謝物質を分析し、特定することによって、新陳代謝の経路を判定することが可能である。例えば、尿を作る個体がどの物質を摂取したかを判定するために、尿中の代謝物質の分析を利用してもよい。代謝物質の特定と分析は、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィーを利用して行われることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来は、代謝物質の分析には3つの別個のサンプルランが含まれる。第1のサンプルランは対照である。対照サンプルランの後、第1の被分析物質ランが行われる。被分析サンプルの結果からのクロマトグラフピークが対照のクロマトグラフピークと比較され、比較結果を利用して双方のサンプル内に生ずる成分が除去される。次に、被分析物質には現れるが対照サンプルには現れない予期せぬ代謝物質を特定するために、被分析物質に特有の成分に照準を合わせた第2の被分析物質サンプルランが実施される。残念ながら、対照サンプルと第1の被分析物質サンプルとの比較は、ほとんどの場合は直接人間の関与を必要とし、時間がかかる手順である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態は関心対象である同位体組成の検出および分析のための自動化された機構を提供する。1つの実装では、この方法は質量強度値のなかから関心対象のピークを探す。どの質量が関心対象であるかを判定するために、同位体の組成を表す質量強度値が基準と比較される。1つの実装では、基準には同じ化合物に対応する同位体間の同位体比および質量差が含まれる。質量が関心対象であることが判明すると、関心対象である質量の1つまたは全てについてMS/MSが自動的に起動される。
【0011】
1つの実施形態では、質量による同位体組成分析のための分析システムと共に利用される方法が提供される。この方法は複数の質量に対応する質量強度値を得る工程を含む。複数の質量のいずれかが関心対象であるか否かを判断するために、その質量強度値は基準と比較される。いずれかの質量が関心対象である場合は、関心対象である質量に質量分析を行うように指示される。本発明の別の実施形態は、この方法のためのコンピュータにより実行可能な工程を保持する媒体を提供する。
【0012】
本発明の他の実施形態は、質量により同位体組成を分析するシステムを提供する。このシステムは、質量に対応する質量強度値を得る電子デバイスを含んでいる。電子デバイスは、複数の質量強度のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、複数の質量強度値を基準と比較することが可能である。関心対象である質量のいずれかに質量分析を行うための第2段の質量分離デバイスも備えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は本明細書の説明および、異なる図面全体を通して同様の参照符号は同一の部品を示す添付図面から明らかにされる。
【0014】
本発明は関心対象である1つ以上の質量を判定するための複数の質量強度値の分析に向けられている。本発明の実施形態によれば、方法は質量分析(MS)モード中に質量強度値のなかから関心対象の1走査ごとのピークを探し出す。どの質量が関心対象であるかを判定するために、同位体組成を表す質量強度値が基準と比較される。その質量が関心対象であることが判明すると、MS/MSは関心対象の1つまたは全てについて自動的に起動されることができる。本発明はそれに限定されるものではないが、このような基準の例には、特定の閾値以上の質量強度値、別の質量強度値の一定比率内の質量強度値、および/または質量自体の間の分離が含まれる。オプションとして、基準に許容差を付与してもよい。
【0015】
本発明は図1の実施例に示されているようにLC−MS−MSシステムのような分析システムで実施してもよい。このアプローチはGC−MS−MSおよびMALDI−MS−MS(マトリクス援用レーザー離脱イオン化−質量分析−質量分析)のようなその他のクロマトグラフィー技術にも利用できることが当業者には理解されよう。この実施形態によれば、分析システム2は液体クロマトグラフィーモジュールのようなクロマトグラフィーモジュール4を含んでいる。さらにイオン化モジュール10も含まれている。イオン化モジュール10は入力サンプルとしてクロマトグラフィーモジュール4からの出力を受ける。このイオン化モジュールはサンプルのイオン化を実行する。サンプルをイオン化するには、サンプルを高エネルギー電子の流れで照射することのような多くの異なる方法があることが当業者には理解されよう。
【0016】
イオン化モジュール10によって生成されたイオンはMS1第1段質量分離モジュール12に送られる。質量分離はよく知られている多くの技術のどれを利用して行ってもよい。例えば、イオンの質量に基づいてイオンの経路を変更する磁力をイオンに加えてもよい。分離されたイオンは次に衝突セルモジュール14へと送られ、そこで分離されたイオンに反応するようにされたガスにイオンを曝すような付加的な反応を受ける。検出器モジュール18に達する前に、サンプルはMS2第2段質量分離モジュール16でさらに分離されてもよい。検出器モジュール18は、出射イオンによって発生する検出信号に基づいて質量スペクトルを生成するために使用される。異なる多くの質量分離方法を利用してもよく、特定の関心対象であるイオンに反応するように異なる物質を衝突セル14へと誘導してもよいことが当業者には理解されよう。同様に、本発明の実施形態を異なる多くの代謝物質分析システムで実施してもよい。
【0017】
この実施例によれば、プロセッサ6を有する電子デバイスが検出器モジュール18およびクロマトグラフィーモジュール4とインターフェースされる。電子デバイス6はサーバー、デスクトップコンピュータシステム、ラップトップ、メインフレーム、ネットワークを介したデバイス、またはプロセッサを有するその他の同様のデバイスでよい。電子デバイスはさらに、本発明の範囲から離れることなく、代謝物質分析システム2内のモジュールの1つへと統合してもよい。電子デバイス6はサンプルランの結果を記録するために使用される記憶装置8を含んでいる。記憶装置8は代謝物質分析システムにアクセス可能などの領域に配置してもよいことが当業者には理解されよう。
【0018】
単一のLC−MS−MSランを行うために実施される工程の手順は図2のフローチャートに示されている。手順はサンプル内の成分の液体クロマトグラフィー分離、工程30から開始される。液体クロマトグラフィーシステムから出たサンプル成分はイオン化モジュール10へと送られ、そこで工程32でイオン化が行われる。工程34で第1段の質量分離が行われ、分離されたイオンは衝突セルへと送られ、そこで工程36で衝突セル被反応物質に反応する。次の工程38で衝突セルから出た被反応イオンに第2段の質量分離が行われる。分離されたイオンは検出器モジュール18へと送られ、そこで工程40で、収集されたデータから質量スペクトルが生成されることによって、サンプル内に含まれる代謝物質の特定が可能になる。
【0019】
本発明の実施形態は特有な同位体組成を処理するLC−MS/MSでのデータ依存収集によって生体異物およびバイオマーカーのさらに具体的な探索を可能にする。例えば、塩素または臭素を含む自然発生成分の場合、特定のタグを有する誘導体化された成分は、カルボン酸または炭水化物および放射標識成分が存在するか否かを示すことが可能である。
【0020】
本発明は誤検知を解明するために必要な試験の数を減少させることが可能である。例えば、明確な同位体組成を有することで、関心対象ではない他の成分に関する情報を選択的に破棄しつつ、関心対象である成分を認識することが可能になる。本発明の実装の例は、薬品の発見および開発プロセス、およびメタボノミクスやメタボロミクスのようなその他の用途での代謝構造の検出および解明を含んでいる。
【0021】
本発明の実施形態の1つの実装例によれば、マサチューセッツ州のミルフォード所在のWaters Corporationから市販されているQtof系列の計器の1つであるMICROMASS(登録商標)Q−Tof micro(商標)質量分析計によって、精密質量差のような質量差を利用して同位体比と共に同位体標識成分を判定することが可能である。本発明はそれに限定されるものではないが、本発明のこのような実装は、非生体物質および内因性バイオマーカーの検出と特定にとって極めて有用であることが可能である。
【0022】
多様な質量分析計を使用してもよいことが理解されよう。例えば、四重極型や飛行時間型質量分析計を使用してもよい。1つの実装によれば、本発明は飛行時間型質量分析計によって得られる精密質量値を利用してもよい。本明細書で用いられる精密質量とは、少なくとも小数第4位の精度を有する質量値を意味する。本発明はそれに限定されるものではないが、飛行時間型質量分析計はマサチューセッツ州のミルフォード所在のWaters Corporationから市販されているQtof系列の計器を含んでいる。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、図3に例示されるような方法100が提供される。工程110で、複数の質量に対応する複数の質量強度値が得られる。工程120で質量のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、複数の質量強度値が基準と比較される。工程130で、関心対象であるいずれかの質量で第2の質量分析工程を実施してもよい。
【0024】
実施形態によれば、多様な基準が本発明の範囲に含まれる。本発明はそれに限定されるものではないが、図4から図9は単独で、または組み合わせて使用してもよい様々な基準を示している。図4から図9は各々がサンプルのグラフ形式で複数の質量強度値を示している。縦軸に沿って強度が毎秒あたりのカウントで示されている。横軸に沿って質量値がドルトン(Da)で示されている。図4のグラフ200に示されるように、基準の一例は第1の質量差である。この基準に基づいて、関心対象である質量を質量値の差によって特定できる。例えば、グラフ200では、501.2Daの第1の質量値210は503.2Daの第2の質量値230とは2Daの質量差220を有している。2Daの質量差220が第1の質量差基準として指定された場合は、503.2Daの第2の質量値230と、501.2Daの第1の質量値210とが関心対象の質量であるものと判定される。
【0025】
質量強度値の第1の比率である基準の第2の例が図5のグラフ200に示されている。第1の質量値210の強度が第2の質量値230の強度と比較される。例えば、第1の比率を2:1と指定することができる。そして第1の質量値210と第2の質量値230の強度とが比較される。強度比が、この場合は2:1である指定された第1の比率と一致すれば、501.2Daの第1の質量値210と503.2Daの第2の質量値230とが関心対象の質量であると判定される。検知された質量強度値が指定された第1の比率と一致しない場合は、その質量は関心対象であるものとは見なされない。第1の比率の第2の例が図6のグラフ201に示されている。グラフ201は501.2Daの第1の質量値211と503.2Daの第2の質量値231とを示している。この場合は、第1の比率が1:2と指定されていれば、質量値211、231は関心対象であるものと判定される。
【0026】
様々な基準は2つ以上の質量値の比較をも含んでもよい。図7および図8は図4から図6に関連して記載されている質量差と第1の比率の基準のバリエーションを示している。図7のグラフ202は第1の質量値212、第2の質量値232、および第3の質量値242を示している。第1の質量差220はD1として示され、一方、第2の質量差222はD2として示されている。第2の質量差222が第1の質量差220に加えて基準として用いられる場合は、関心対象である質量と見なすためには第1の質量値220と第2の質量値222の双方がそれらの所定の基準値と一致しなければならない。
【0027】
図8は第1の比率に加えて基準として用いられる第2の比率の利用を示している。グラフ203は第1の質量値213、第2の質量値233、および第3の質量値243を示している。この実施形態では、第1の比率は第1の質量値213と第2の質量値233との強度差として定められてもよい。第2の比率は第1の質量値213と第3の質量値243との強度差として定められてもよい。この例では、第1の比率の基準と第2の比率の基準がそれぞれ2:1であれば、第1の質量値213の強度は第2の質量値233と第3の質量値243の値のそれぞれ2倍であるので、3つの質量値の全てが関心対象であると見なされるであろう。第1の比率または第2の比率のいずれかが基準に合致しない場合は、どの質量値も関心対象であるとは見なされない。
【0028】
データ範囲を基準に適合するものと見なし、また関心対象の質量値であると見なすことができるように、許容差を比率と質量差の双方に付与してもよいものと考えられる。例えば、質量の許容差を指定できるようにすることによって、異なる2つの質量値を関心対象である質量と見なすことができるように、質量許容差ウインドウを備えてもよい。これと同様に、あるいはこれに代わって、質量強度値の僅かな不一致があってもなお関心対象であると見なすことができるように、比率の許容差を指定してもよい。許容差の値は、2つの質量強度値だけが比較される場合、または複数の質量強度値が比較される場合の双方の場合に付与することができる。
【0029】
本発明によって使用可能な基準の別の変形例が図9に示されている。グラフ204はピーク閾値250を示している。第1の質量値215と第2質量値235とが示されている。この例では、第1の質量値215と第2質量値235とは各々がピーク閾値250を超えているので、第1の質量値215と第2質量値235の双方とも関心対象である質量と見なされる。ピーク閾値250を超えないその他の質量強度値は関心対象の質量を表すものとは見なされない。
【0030】
図10は本発明の実施形態と共に使用してもよいユーザーインターフェース300の例を示している。図11は本発明の実施形態により使用してもよいデフォルト値を示す表400を図示している。ユーザーインターフェース300は関心対象である質量強度値を発見するための質量強度値の分析を始動する能力を有している。この工程を始動するため、同位体パターン同定310の利用がチェックされる。図11は同位体パターン同定310のデフォルト値が偽値であるものと指定していることに留意されたい。このデフォルト値は、ユーザーに対して分析活動を開始するように要求することが望ましい場合に用いてもよい。第1の質量差320の基準が望ましい場合は、第1の質量差を指定してもよい。第1の比率330が望ましい場合は、これを指定してもよい。第2の質量差340の利用が指定される場合は、第2の質量差350および/または第2の比率360が指定されてもよい。第1の比率330または第2の比率360の使用を開始するためには、強度比400の利用が指定されなければならない。必要に応じて質量の許容差370または比率の許容差380も指定されてもよい。これに代わって、またはこれに加えて、ピーク閾値390が指定されてもよい。
【0031】
図10のユーザーインターフェース300は一例であり、多様な代替例が本発明の範囲に含まれるものと理解される。図11の表400に記入されているデフォルト値は限定的ではない例として示されたに過ぎず、多様なデフォルト値、範囲、ユニット、およびフィールドが本発明の範囲内であるものと理解される。
【0032】
図12は本発明の実施形態の1つの実装例によるユーザーインターフェース301の別の例を示している。図12の実施例によれば、同位体パターン同定の利用が指定される。1Daである第1の質量差320の利用が指定され、第1の比率330の利用により400が開始される。さらに、100mDaである質量許容差370が30%の比率許容差380と共に指定されている。この実施例によれば、関心対象である質量強度値が適合しなければならない別の基準は毎秒10カウントの強度閾値390である。
【0033】
本発明の様々な実施形態を、単独の注入、およびMICROMASS(登録商標)Q−Tof micro(商標)質量分析計のようなQtof型質量分析計の調査、前駆イオン走査、および非イオン化体離脱走査機能のような他のMSからMS/MS機能の双方に使用可能である。本発明の実施形態は単独のフィルタで、またはMSからMS/MSへの切り換えのために他のフィルタと組み合わせたフィルタとして使用可能である。本発明は後処理またはリアルタイム処理で使用してもよい。このような処理の例は、MICROMASS(登録商標)Q−Tof micro(商標)質量分析計のようなQtof型質量分析計の重心収集モード(リアルタイム)における連続体収集モード(後処理)を含んでいる。
【0034】
図13はグラフ500に表示された複数の質量強度値の例を示している。この例では、基準の設定は2Daである第1の質量差、+/−25mDaである質量許容差、1:1である第1の比率、および+/−10%である比率許容差として定められている。この例では、460.9954Daである第1の質量210と462.9922Daである第2の質量230とが関心対象の質量と見なされる。
【0035】
質量強度値をデータベースに保存し、分析の精度を確認するために後の検索が可能であることが当業者には理解されよう。
【0036】
本発明の実施形態は薬品サンプル中の不純物の特定のような多様な用途に使用してもよい。同様に、化学的な侵害者の可能性を究明するために、化学反応の副生物を分析することによって特許権を強化するために利用してもよい。加えて、天然物を分析し、それらの純度レベルを判定するために、本発明の様々な実施形態を利用してもよい。本明細書で開示された分析システムは、被分析物サンプルを分析するために質量分析計以外の分析システムコンポーネントを使用してもよく、また本発明の範囲から逸れることなく液体クロマトグラフィーの代わりにガスクロマトグラフィーを使用してもよいことが当業者は理解されよう。
【0037】
これまで本発明を例示してきたが、この分野の当業者には本発明の趣旨から逸れることなく実施例の修正および変化形が自明であろう。上記の実施形態の機能と特徴を組み合わせて利用してもよい。好適な実施形態は実例であるに過ぎず、いかなる意味でも限定的なものと見なされるべきではない。本発明の範囲は上記の説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲内に含まれる全ての変化形および同等物が包含される。
【0038】
本発明を記載してきたが、新規性が特許請求され、かつ特許証で保護される内容は特許請求の範囲に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態を実施するのに適した環境を示す図面である。
【図2】液体クロマトグラフィーおよび質量分析を行うために使用される工程の手順のフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態による方法を示す図面である。
【図4】本発明の実施形態による第1の質量差基準を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態による第1の比率基準を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態による第1の比率基準を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態による第2の質量差基準を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態による第2の比率基準を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態によるピーク閾値基準を示す図面である。
【図10】本発明の実施形態によるユーザーインターフェースを示す図面である。
【図11】本発明の実施形態によるサンプルデフォルト値を記載した表である。
【図12】本発明の実施形態の実装によるユーザーインターフェースの別の表である。
【図13】本発明の実施形態の例による複数の質量強度値を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析システムによる同位体組成分析方法であって
複数の質量に対応する複数の質量強度値を得る工程と、
前記複数の質量のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、前記複数の質量強度値を基準と比較する工程と、
関心対象である前記複数の質量のいずれかに質量分析を行うように指示する工程とを含む方法。
【請求項2】
前記比較工程の前に、ユーザーインターフェースを利用して前記基準の少なくとも一部を得る工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記同位体組成分析システムは液体クロマトグラフィー−質量分析−質量分析システムである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基準は第1の質量と第2の質量との第1の質量差を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基準はさらに前記第1の質量と第3の質量との第2の質量差を含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基準はさらにピーク閾値を含む請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記基準はさらに第1の前記質量強度値と第2の前記質量強度値との第1の比率を含む請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記基準はさらに第1の質量強度値と第2の質量強度値との第1の比率を含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記基準はさらに前記第1の質量強度値と第3の質量強度値との第2の比率を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基準はさらにピーク閾値を含む請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記基準はピーク閾値を含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記得る工程の前記複数の質量は正確な質量である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
コンピュータにより実行可能な方法のための工程を保持する媒体であって、前記方法は、
複数の質量に対応する複数の質量強度値を得る工程と、
前記複数の質量のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、前記複数の質量強度値を基準と比較する工程と、
関心対象である前記複数の質量のいずれかに質量分析を行うように指示する工程とを含む媒体。
【請求項14】
前記比較工程の前に、ユーザーインターフェースを利用して前記基準の少なくとも一部を得る工程を含む請求項13に記載の媒体。
【請求項15】
前記基準は第1の質量と第2の質量との第1の質量差を含む請求項13に記載の媒体。
【請求項16】
前記基準は第1の質量強度値と第2の質量強度値との第1の比率を含む請求項13に記載の媒体。
【請求項17】
前記基準はピーク閾値を含む請求項13に記載の媒体。
【請求項18】
前記得る工程の前記複数の質量は正確な質量である請求項13に記載の媒体。
【請求項19】
精密質量により同位体組成を分析するシステムであって、
複数の質量に対応する複数の質量強度値を得て、前記複数の質量のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、前記複数の質量強度値を基準と比較するように構成された電子デバイスと、
関心対象である前記複数の質量のいずれかに質量分析を行うための第2段の質量分離デバイスとを備えるシステム。
【請求項20】
前記基準は第1の質量と第2の質量との第1の質量差を含む請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記基準は第1の質量強度値と第2の質量強度値との第1の比率を含む請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
前記基準はピーク閾値を含む請求項19に記載のシステム。
【請求項23】
前記複数の質量は正確な質量である請求項19に記載のシステム。
【請求項1】
質量分析システムによる同位体組成分析方法であって
複数の質量に対応する複数の質量強度値を得る工程と、
前記複数の質量のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、前記複数の質量強度値を基準と比較する工程と、
関心対象である前記複数の質量のいずれかに質量分析を行うように指示する工程とを含む方法。
【請求項2】
前記比較工程の前に、ユーザーインターフェースを利用して前記基準の少なくとも一部を得る工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記同位体組成分析システムは液体クロマトグラフィー−質量分析−質量分析システムである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基準は第1の質量と第2の質量との第1の質量差を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基準はさらに前記第1の質量と第3の質量との第2の質量差を含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基準はさらにピーク閾値を含む請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記基準はさらに第1の前記質量強度値と第2の前記質量強度値との第1の比率を含む請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記基準はさらに第1の質量強度値と第2の質量強度値との第1の比率を含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記基準はさらに前記第1の質量強度値と第3の質量強度値との第2の比率を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基準はさらにピーク閾値を含む請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記基準はピーク閾値を含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記得る工程の前記複数の質量は正確な質量である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
コンピュータにより実行可能な方法のための工程を保持する媒体であって、前記方法は、
複数の質量に対応する複数の質量強度値を得る工程と、
前記複数の質量のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、前記複数の質量強度値を基準と比較する工程と、
関心対象である前記複数の質量のいずれかに質量分析を行うように指示する工程とを含む媒体。
【請求項14】
前記比較工程の前に、ユーザーインターフェースを利用して前記基準の少なくとも一部を得る工程を含む請求項13に記載の媒体。
【請求項15】
前記基準は第1の質量と第2の質量との第1の質量差を含む請求項13に記載の媒体。
【請求項16】
前記基準は第1の質量強度値と第2の質量強度値との第1の比率を含む請求項13に記載の媒体。
【請求項17】
前記基準はピーク閾値を含む請求項13に記載の媒体。
【請求項18】
前記得る工程の前記複数の質量は正確な質量である請求項13に記載の媒体。
【請求項19】
精密質量により同位体組成を分析するシステムであって、
複数の質量に対応する複数の質量強度値を得て、前記複数の質量のいずれかが関心対象であるか否かを判定するために、前記複数の質量強度値を基準と比較するように構成された電子デバイスと、
関心対象である前記複数の質量のいずれかに質量分析を行うための第2段の質量分離デバイスとを備えるシステム。
【請求項20】
前記基準は第1の質量と第2の質量との第1の質量差を含む請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記基準は第1の質量強度値と第2の質量強度値との第1の比率を含む請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
前記基準はピーク閾値を含む請求項19に記載のシステム。
【請求項23】
前記複数の質量は正確な質量である請求項19に記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2007−527521(P2007−527521A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518777(P2006−518777)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/021248
【国際公開番号】WO2005/009039
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504438255)ウオーターズ・インベストメンツ・リミテツド (80)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/021248
【国際公開番号】WO2005/009039
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504438255)ウオーターズ・インベストメンツ・リミテツド (80)
【Fターム(参考)】
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