説明

同期マルチクラスタネットワークアーキテクチャ

【課題】データフレームでデータを伝送する複数のサブネットワークから成るデータ伝送ネットワークを提供する。
【解決手段】サブネットワークは、異なる伝送速度を有し、少なくとも一つのゲートウェイを介して互いに接続されている。データフレームの伝送は、サブネットワーク間の所定のタイミング関係により行われる。データを伝送するためのネットワークは、更に、データフレームの形でデータを伝送する複数のサブネットワークから構成される。サブネットワークは、少なくとも二人の、しかし、有利には、それより多い数の加入者を有する。個々のネットワークでのデータフレームは、様々な形で構成することができる。即ち、特に、データフレームのサイズを変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々なサブネットワーク内での選択アドレス指定方式による同期データ伝送を可能にするネットワークに関し、また、そのような形式のデータ伝送用ネットワークの構成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な用途に対して、多くの異なるネットワーク形式が存在する。それに応じて、信頼性、伝送の確実性及びリアルタイム能力の要件は変化する。従って、例えば、電子メールやファイルなどのパケットデータを伝送する場合、帯域幅及び伝送の確実性に関してネットワークに課される要求は比較的低い。これに反して、自動車などの制御及び安全と関連するデータを伝送する際、この場合比較的狭い帯域幅を許容することもできるが、リアルタイム能力及び信頼性に関しては高い要求が課される。そのような時間基準が固定された、即ち、予測可能な伝送特性を要求されるデータは、制御データと呼ばれている。マルチメディアの用途では、同期データを伝送する場合、リアルタイム能力と中程度から広い帯域幅が必要である。可能な限り低いコストと同時に、これらの要求条件を満たすに、各々の場合に、その目的のために最適化されたネットワークが使用される。
【0003】
従って、例えば、自動車では、通常シャーシ及びエンジンの機能を制御するとともに、センサ及びアクチュエータを制御ユニットと接続するための少なくとも一つの制御データネットワークが存在する。更に、多くの場合、照明、空調、ウィンドリフターなどの車体機能及びその他の同様の機能のための別の制御データネットワークが存在する。同期かつ等時式制御データ伝送のための別のネットワークが、マルチメディア伝送のための情報・娯楽分野に見出される。それは、電話、ナビゲーション装置、オーディオシステム及びビデオシステムなどの一つ以上の機能を相互に接続している。安全分野でも、エアバッグ及び事故センサを制御するための専用のネットワークが存在する。多くの場合、ネットワークは、それらによって制御される機能の必要性に応じて、互いに独立して開発されており、それらは異なる伝送帯域幅を有する。それらの各々は、ネットワーク管理、データ保護、ハンドシェーク及びデータパケットの分割のための異なるメカニズムを実行するために使用されている。これらの異なるネットワーク領域及びネットワーク方式の間を接続する部分は、データ及び方式を相互変換する、所謂、ゲートウェイを構成している。
【0004】
そのような複数のネットワークを跨がる機能の間の論理的結合が強くなるほど、並びにネットワークが異なるほど、それらの変換器、即ち、ゲートウェイは複雑になる。しかしネットワークの方式自体の違いも問題になってくる。即ち、例えば、それぞれ異なるスタートアップメカニズムを実装した複数のネットワークから成るシステムのスタートアップは、極めて複雑なプロセスであり、確実に制御することは難しい。そのようなシステムのリアルタイム能力も実現されていない。CANなどの個々のネットワークでも固定された時間基準を保証することが極めて複雑なプロセスである場合、そのようなことは、複数のネットワークを跨がる場合及びゲートウェイを越える場合殆ど不可能である。異なるネットワーク上の二人の加入者間でのメッセージの遅延は、個々のネットワークでの遅延だけでなく、中間に有る一つ又は複数のゲートウェイのその時々の負荷、並びにその時々に変換を待っているメッセージ全体の状況にも依存する。それを制御及び調整する手段を殆ど適用することができない。既知のプライオリティ制御手段は、確かに全体的な遅延を低減してくれるが、固定された時間基準を実現してくれない。
【0005】
従来技術による別のネットワークは、MOST(メディア・オリエンテッド・システムズ・伝送)である。MOSTは、MOST仕様改訂2.2版(MOSTコーポレーション、2002年11月)及びMOST仕様フレームワーク改訂1.1版(MOSTコーポレーション、1999年)によって規定されており、それらは、本明細書の一部と看做される。
【0006】
このMOSTネットワーク自体は、通常のパケットデータに加えて、制御データ及び同期データの固定された時間基準での伝送を可能にする。しかし、別のネットワークと組み合せた場合、ゲートウェイによって、不確定な遅延時間が生じるので、固定された時間基準での伝送は、もはや殆ど可能である。
【0007】
広範な異なるネットワークを介してデータを伝送する方法が特許文献1に開示されている。その中では、ネットワークによって決まるパケットサイズへの所定のデータの適合が、好適なアルゴリズムによって実行されている。しかし、その方法でも、固定された時間基準での伝送は不可能である。
【0008】
ISDNでは、純粋に固定された時間基準での伝送が可能である(非特許文献1を参照)。グローバルISDNネットワークは、多数の相互接続されたサブネットワークから構成される。それらのサブネットワークでは、データは所定のクロック周波数で同期したタイミングで伝送される。低データレートを有する低い階層レベルの複数のネットワークが結合されて、より高いデータレートを有するより高い階層レベルのネットワークを形成している。この場合、より高い階層レベルのデータフレームにおける固定位置が、低い階層レベルのネットワークのデータに割り当てられている。ISDNネットワークは、専らポイントツーポイント接続として実現される。従って、通信の開始時に、想定される多数の加入者の中の所望の二人の加入者の間でポイントツーポイント接続が確立される。ここで、これらの接続は、一定の通信時間の間維持される。そのような時間の間、伝送すべきデータは、接続を確立している間、規定された物理的及び論理的経路に沿って同期したタイミングで伝送される。接続中は、論理的及び物理的な接続経路とそのためデータフレーム内のデータ位置の割り当てが、通常維持される。ISDNは、本来電気通信技術のために、特に、二人の加入者間のオーディオ及びパケットデータ伝送のために構想されたものなので、専らポイントツーポイント接続のために最適化されている。現代のデータバスシステムにおいて必要である、複数の異なる加入者間の接続(マルチキャスト)は、ISDNでは不可能である。基本的に、ISDNでは、伝送時間が数百ミリ秒のオーダの限られたリアルタイム伝送が可能である。しかし、それは、接続が既に確立されている場合にのみ当てはまる。最初に新しく接続を確立しなければならない場合、数秒の範囲の遅延時間が見込まれる。ここで、ISDNを用いて、任意の加入者の間で選択自由な通信が可能である、遅延時間が固定された、リアルタイム能力を持つネットワークを構成するためには、互いに通信したいと希望する加入者の全ての組合せに関して、通信の開始時に接続を確立するとともに、それに続くデータ伝送のために必要な最大帯域幅を確保する必要がある。従って、例えば、10メガビット/秒の最大伝送速度で10人の加入者を互いに接続するバスシステムでは、最大データレートが、例えば、1秒当り一度しか使用されないとしても、10メガビット/秒の伝送速度を有する45個のポイントツーポイント接続を維持しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,522,651号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Peter Bocker,“ISDN − Das dienstintegrierende digitale Nachrichtennetz, Konzepte, Verfahren, Systeme” Springer Verlag, Berlin 1987(“ISDN − The Service Integrating Digital Information Network, Concepts, Methods, Systems”, published by Springer Verlag, Berlin, 1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、個々の加入者による所定のデータフレーム又は任意のデータフレーム、或いはデータフレームの一部に関する選択アドレス指定方式が可能であり、加入者間のパケットデータの伝送に加えて、制御データ又は同期データの固定された時間基準での伝送が可能である、複数のサブネットワークを互いに接続するためのネットワークアーキテクチャを実現することである。更に、有利には、ゲートウェイの負担を軽減するとともに、複数のネットワーククラスタを跨がっても、ゲートウェイを越えても、固定された時間基準での伝送を保証することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本課題の本発明に基づく解決策は、独立請求項に記載されている。本発明の改善形態は、従属請求項に記載されている。
【0013】
データを伝送するためのネットワークは、更に、データフレーム(以下では、フレームとも称する)の形でデータを伝送する複数のサブネットワーク(ここでは、クラスタとも称する)から構成される。サブネットワークは、少なくとも二人の、しかし、有利には、それより多い数の加入者を有する。個々のネットワークでのデータフレームは、様々な形で構成することができる。即ち、特に、データフレームのサイズを変更することができる。従って、一つのデータフレームは、僅か数ビットで構成するか、さもなければ、多数のキロビットから成る長いシーケンスから構成することもできる。
【0014】
任意選択により、パケットデータ、制御データ又は同期データは、データフレームで伝送しなければならず、幾つかの種類のデータを一つの単一データフレームに統合することもできる。本発明では、第一のサブネットワークは、複数の加入者に対するデータの同時アドレス指定方式(ブロードキャスト又はマルチキャスト)か、異なる加入者に対する個々のデータパケット、或いはデータフレーム又はデータフレームの一部の選択アドレス指定方式か、或いはその両方のアドレス指定方式のために構成されている。更に、この第一のサブネットワークは、パケットデータ、制御データ又は同期データなどの複数の種類のデータを交互に伝送するために構成されている。この場合、ネットワークの構成に応じて、異なる種類のデータを単一データフレーム又は連続するデータフレームで伝送することができる。
【0015】
本発明に基づくネットワークは、第一のサブネットワークと同じ伝送速度又はそれと異なる伝送速度のために構成された少なくとも一つの別のサブネットワークを有する。ここで「伝送速度」という用語は、ネットワーク又はサブネットワークを介して情報を伝送することができる速度を表す。この用語は、伝送クロックのクロック周波数と混同してはならない。従って、例えば、複数の線を有する並列バスシステムでは、一つの線しか持たない直列バスシステムと異なり、異なる情報が同時に伝送されるので、同じクロックレートでも、より高い伝送速度を達成することができる。
【0016】
更に、本発明に基づくネットワークでは、少なくとも一つのサブネットワークが、サブネットワーク間のデータ伝送のためのゲートウェイを介して、少なくとも一つの第一のサブネットワークと接続されている。
【0017】
本発明では、異なる伝送速度を有するサブネットワークは、それらのサブネットワークにおいて、個々のデータフレームの伝送がサブネットワーク間で規定されたタイミング関係で行われるように構成されている。そうすることによって、バスシステム全体の所定のタイミング動作が得られる。タイミングの同期のために、データレート又はデータレートと同期した信号の信号方式を規定する。即ち、この場合、例えば、ビットクロックに加えて、フレームクロックも適している。
【0018】
本発明は、例えば、MOST式光リングバスの既知のフレーム構造を一般化することによって説明することができる。このバスでは、ネットワークの加入者は、一定の周波数(例えば、22.5Mbps)のパーマネントデータストリームを生成して、少なくとも論理リング構造内で、そのデータストリームを加入者から加入者に中継している。データストリームでは、フレームが、固定フレームレート(例えば、44.1kHz)で周期的に変調されている。そのようなフレームで、データ伝送が行われている。各フレームは、一定数(例えば、64個)のバイトで構成される。フレームの各バイトは、所定のデータ伝送アプリケーションに(個別的に、かつ動的に)割り当てることができる。従って、例えば、各フレームの5番目と6番目のバイトは、オーディオモノラルチャネルをディジタル形式で伝送するために予約しておくことができる。それに代わって、9番目のバイトは、CANと同様の制御パケットを伝送するために予約しておくことができる。各加入者のネットワークインタフェース内には、ネットワークプロトコルエンジンが有り、それは、例えば、9番目のバイトのバイトチャネル上で、CRC検査、ACK/NAKメカニズム、或いはエラー発生時のメッセージの自動再送を実行する。一般化して言うと、様々なバス又はデータ伝送プロトコルが、シリアルデータストリームに多重化されている。
【0019】
本発明では、異なる速度の様々なネットワーククラスタのためのフレームが、固定したタイミング関係を維持しつつ形成される。そうすることによって、これらのクラスタ間のタイミング関係が固定される。これら全てのクラスタは、専用のクロック及びフレームマスタに関して同期したクロック及びフレームスレーブとして動作する。如何なる加入者がクロック及びフレームマスタとして機能するのかが重要ではなく、システムアーキテクチャの観点に基づき固定的に規定するか、或いはそれに代わって、アービトレーションメカニズムにより規定することができる。自動車では、例えば、中央ゲートウェイに、そのような役割を割り振るのが有効である。冗長構成も可能である。
【0020】
自動車では、安全性及びリアルタイム能力に対する要件が極めて高いと同時に、特に多様な異なるネットワークを互いに接続しなければならないので、本発明に基づくネットワークは、特に有利には、自動車に採用することができる。同様に、本発明に基づくネットワークは、航空及び宇宙航空技術、例えば、工作機械又はビルネットワークにおける自動化技術及び設備技術などの固定した応用分野、並びに家庭用娯楽分野にも採用することができる。
【0021】
複数のクラスタを跨がるシステム内の全てのプロセスは、クロック及びフレームマスタと厳密に同期して行われるので、それらのマスターに依存する全てのプロセスは、時間基準が完全に固定される。MOSTの場合、各加入者でのフレームの処理には、短いが固定した正確な時間基準を必要とすることが、今日既に知られている。即ち、MOSTの場合、今日既に、全てのプロセスは、厳密に同期しており、かつ時間基準が固定している。しかし、その場合、更に重要な工程を続けて、異なる速度の複数のクラスタを跨がったシステム全体における同期特性と固定された時間基準を実現している。
【0022】
本発明は、異なるデータレート、伝送メカニズム及び物理層を有するクラスタの実現を諦めることなく、等質な分散システムを実現することができることを特徴とする。そのようにして、ネットワークインタフェースのコストは、要求条件に応じて、そのため可能な限り低くすることができる。ゲートウェイでの通信を変換する負担は、純粋なスイッチングにまで縮減される。それによって、システムは、著しく単純になるとともに、調査し易くなり、そのため管理し易くなる。
【0023】
別の利点は、システム全体が厳密に同期し、かつ固定された時間基準で動作することである。従って、複数のクラスタを跨がる制御及び調整タスク、並びにリアルタイムオーディオ/ビデオ伝送自体を実現することができる。
【0024】
本発明の特に有利な実施形態では、第一のサブネットワークに対する少なくとも一つの別のサブネットワークの伝送クロック周波数の比率は、n:mであり、この場合、nとmは、0より大きい整数である。そのようなデータクロック周波数の間の比率が整数である場合、同期は、単純な周波数分割器によって実現することができる。
【0025】
本発明の別の実施形態では、少なくとも一つのサブネットワーク、有利には、第一のサブネットワークは、上述のMOST仕様に基づき構成される。
【0026】
別の実施形態では、個々のデータフレームをタイミングを合わせずに伝送するように構成された少なくとも一つの別の追加的なサブネットワークが更に配備される。この種のサブネットワークは、リアルタイム能力の喪失した形でしか、或いは高い追加負担でしか、本発明に基づくネットワークと接続することができない。しかし、時間に関して重要でない単純な制御情報だけを交換する場合、そのような接続は有効である。
【0027】
本発明の別の有利な実施形態では、少なくとも一つの別のサブネットワークが配備され、そのサブネットワークは、それと接続された本発明に基づくネットワークの第一のサブネットワークと同じ伝送速度を有する。この場合、同期は、特に簡単な手法で実現することができる。
【0028】
本発明の別の実施形態は、少なくとも一つのサブネットワークが光バスをベースとするものと規定する。光バスは、特に、極めて堅牢であり、かつ電磁妨害に強いことを特徴とし、従って、特に、自動車に益々使用されて来ている。本発明に基づく装置は、バスの物理的構造とは関係無く動作し、その結果、光バスも電気方式のバスも個々のサブネットワークの媒体として使用することができる。そのため、光方式と電気又は無線方式のクラスタから成る不均質な構造を構成することもできる。
【0029】
本発明の別の実施形態は、少なくとも一つのサブネットワークがリングバスをベースとすることである。リングバスによって、固定された時間基準での、特に、リアルタイムの伝送が、比較的少ない負担で可能となる。従って、そのことは、有利には、信号のリアルタイム伝送のために使用されるバスシステムにおいて規定される。当然のことながら、本発明では、それ以外のバスシステムをサブネットワークで使用することもできる。
【0030】
本発明の別の実施形態では、様々なフレームレートが実現されるが、それらの比率は、所定の通り互いに固定されている。従って、例えば、一方のサブネットワークで、二つのフレームの伝送が行われる一方、別のサブネットワークでは、一つのフレームだけが伝送される。
【0031】
本発明の別の実施形態では、一つのシステムにおける全てのフレームの時間長が同じである。そこで、クラスタの所望の速度に応じて、そのフレームには、一定の数のバイトが有る。例えば、マルチメディアクラスタでは128バイト有り、高速バックボーンでは256バイト有り、そして低速クラスタでは、8バイトしかない。その結果、44.1kHzのフレームレートの場合、マルチメディアクラスタでは約45Mbpsとなり、バックボーンでは90Mbpsとなり、そして低速クラスタでは0.7Mbpsとなる。クラスタの速度に応じて、異なる物理層をデータ伝送に使用することができる。
【0032】
本発明の別の実施形態は、ネットワーク内において、データフレームのタイミング関係に関する情報が別のネットワークノード又はサブネットワークに伝送されるものと規定する。そのような異なるサブネットワーク内でのデータフレーム間の時間シフトを示す情報を中継することによって、より一層正確な同期を実現することができる。従って、データを伝送する場合、サブネットワーク間の比較的単純かつ不正確な同期を実現するとともに、正確な同期のために、正確な時間シフトを伝送することができる。同期は、個々のノード又は全てのサブネットワークに渡って実現される。タイミング関係に関する情報は、各データフレームで動的に伝達するか、さもなければ、長い時間間隔で伝達することができる。
【0033】
本発明の別の実施形態では、全てのサブネットワークは、共通のクロックによって互いに同期している。当然のことながら、そのようなクロックは、データフレーム又はデータビットを送信する周波数の倍数又は分数によって表すことができる。しかし、有利には、そのようなクロックは、データフレームの送信がクロック信号の所定の側端で始まるように構成される。
【0034】
本発明の別の実施形態では、クラスタの間の少なくとも一つのゲートウェイは、一方のクラスタの着信フレームの全バイト又は数バイトだけが他方のクラスタの発信フレームにコピーされ、その逆方向でも同様にコピーされるように構成される。そのようにして、ゲートウェイは単なるスイッチとなる。それらは、もはや着信データを解析、フィルター処理、或いは変換する必要はない。着信バイトは、単純に他方のクラスタの発信データフレームに同期して移動される。本発明に基づく方法では、コピー(完全に予測可能な一定の負担による単純なプロセス)の固定された時間基準を厳格に維持することによって、固定された時間基準は、ゲートウェイ(この場合、スイッチ)を跨がっても維持することができる。更に、各ゲートウェイにおいて、それ自体ネットワークトラフィックに関与し、ネットワークインタフェースをスイッチと共有するアプリケーションを実現することもできる。
【0035】
例えば、MOSTにより周知の通り、複数のバイトチャネルを論理的に結合して、一つのユニットにしたり、データ伝送プロトコル又は伝送メカニズムを構成することができる。例えば、低速クラスタでは、フレームは4バイトである。その上で、伝送プロトコルを動作させて、CRC、ハンドシェーク、エラー発生時のパケット再送等のアドレス指定方式によるパケットデータ伝送が行われる。第一のゲートウェイでは、これらの4バイトが、バックボーンクラスタのフレームの8〜11番目のバイト位置にコピーされ、「ピギーバック」方式で転送される。第二のゲートウェイでは、それらの4バイトは、マルチメディアクラスタのフレームの0〜3番目のバイト位置にコピーされる。ここで、マルチメディアクラスタの加入者は、チャネルの0〜3番目のバイトを介して低速クラスタ内の通信相手と直接通信したり、例えば、16〜23番目のバイトでマルチメディアクラスタの専用パケットチャネルを提供する一方、8〜15番目のバイトでソースとしてのステレオオーディオチャネルを提供することができる。
【0036】
本発明の別の実施形態は、特に、追加の信号線によって、コピープロセスの形式を信号で伝えるための手段を規定する。基本的に、任意の別個のデータチャネルにデータを配分するための規則を伝えることができる。そのために、チャネル分配(チャネルアロケーション)を目的として、現在MOSTでも既に使用されている周知の方法を使用することができる。信号の伝送は、例えば、別の制御線を介して行うことができ、その制御線は、正にネットワークを介して伝送しようとしているデータを所定の隣接するサブネットワークに伝送すべき時点を論理レベルによって信号伝送するものである。複数の隣接するサブネットワークを選択するために、それに応じて、例えば、二進コード化した形で複数の制御線を使用することもできる。
【0037】
本発明の別の有利な実施形態では、一つのクラスタは、異なる場所で空間的に互いに離れて動作する複数の単一クラスタに分割することができる。それらのクラスタは、その通信(フレームのバイト)をバックボーンのフレームによってトンネリングすることによって、高速バックボーンを介して接続されて、一つのクラスタを形成する。そのようにして、例えば、階層構造のネットワークを実現することができる。基本的に、本発明の技術思想は、如何なる任意のネットワークトポロジーにも適用することができる。
【0038】
本発明の別の実施形態は、少なくとも一つのサブネットワークが、少なくとも一つのサブネットワーク内のアドレス又はサブアドレス、並びに少なくとも一つのグローバルアドレス又はサブアドレスを含むネットワークアドレス指定方式を有するものと規定する。従って、グローバルな接続ネットワークにおけるグローバルアドレス指定方式が可能である。
【0039】
本発明の別の有利な実施形態では、個々のデータフレーム又はデータフレームのグループの送信を同期させる手段を有するネットワークノードが配備される。この場合、同期は、別のネットワークのデータフレーム又は共通の同期クロックによって実現することができる。
【0040】
本発明では、伝送速度が異なるサブネットワークから成るネットワークのサブネットワークの少なくとも一つのネットワークノードは、それが、異なる伝送速度を有するサブネットワークの別のネットワークノードに対してデータフレームの送信を同期させる手段又は異なる伝送速度を有する複数のサブネットワークを同期させる同期クロックを有するように構成される。
【0041】
本発明に基づくネットワークのゲートウェイは、異なるサブネットワークと接続された少なくとも二つのネットワークノードを有する。有利には、ゲートウェイ内において、ノード間の伝送は、データフレームが互いに規定されたタイミング関係を有するように行われる。同期した伝送が特に有利である。そのようなゲートウェイは、有利には、回路基板上に構成され、更に有利には、単一チップ内に構成される。ここで、任意選択により、スイッチングのために、個々のネットワークノードを一つのスイッチに組み込んで、そのスイッチが、データを個々のデータフレームにコピーするようにすることができる。しかし、同様に、複数のネットワークノードを接続するために、中央スイッチを配備することもできる。
【0042】
有利には、ゲートウェイによって、第二のサブネットワークのクロックレート及び/又はフレームレートを第一のサブネットワークのクロックレート及び/又はフレームレートと同期させる。
【0043】
本発明に基づく異なる伝送速度を有する複数のサブネットワークから成るネットワークの動作方法は、サブネットワークを接続して、一つのネットワークを形成する工程と、個々のサブネットワークのデータフレームを規定されたタイミング関係で伝送する工程と、有利には、個々のサブネットワークのデータレート及び/又はフレームレートを同期させる工程とを有する。
【0044】
以下において、図面を参照して実施例に基づき、本発明の例を説明するが、それによって、本発明の一般的な技術思想を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に基づく装置の一般的な構成の模式図
【図2】異なるサブネットワークのデータフレームの時間的な推移の模式図
【図3】サブネットワーク間で転送する時のデータ変換図
【図4】サブネットワーク間での非同期転送図
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、複数のサブネットワークから成る典型的なネットワークを模式図で図示している。第一のサブネットワーク1は、ネットワークノード101,102,103,104を有する。そのサブネットワークは、例えば、リングバスとして構成されている。各ネットワークノードは、二つの隣接ノードと接続されている。信号を伝送する方向は、矢印で示されている。第二のサブネットワーク2は、ネットワークノード201,202,203を有する。そこでは、全てのネットワークノードが、共通のバス配線システムによって互いに接続されている。第3のサブネットワーク3は、ネットワークノード301,302,303,304,305を有する。最後に、ネットワークノード401,402,403,404を有する第4のサブネットワーク4が、更に配備されている。このサブネットワークも、前述した二つのサブネットワークと同様に、直線的な構造を有する。サブネットワークを接続するために、ゲートウェイが配備されている。第一のゲートウェイは、ネットワークノード104,201を有する。第二のゲートウェイは、ネットワークノード202,301を有する。最後に、第3のゲートウェイは、ネットワークノード302,401を有する。これらのサブネットワークは、主にそれらに課されたタスクに適合しており、従って、基本的に異なる物理的及び論理的特性を有する。そのため、例えば、サブネットワーク1は、MOST式バスなどの光リングバスをベースとすることができる。サブネットワーク2は、回路基板又はチップ上に配置されたローカルなパラレルバスシステムとすることができる。最後に、二つのサブネットワーク3と4は、例えば、CANなどの低速シリアルバスとして構成することができる。ここで、本発明では、データフレームは、互いに予め規定された所定のタイミング関係により伝送される。
【0047】
図2は、異なるデータフレームの時間的な推移を模式的に図示している。第一の曲線10は、例えば、第一のサブネットワークでのデータフレームの伝送を示している。曲線20は、第二のサブネットワークのデータフレームを示し、最後に、曲線30は、第3と第4のサブネットワークのデータフレームを示している。データフレームは、異なる長さとすることができ、時間スロット内で、短時間しか持続しないか、或いは連続したデータストリームに対応する形で時間スロットを完全に満たすことができる。しかし、この例では、これらのフレームは、それぞれ離散的な時点11,12,13で同時に始まっている。従って、サブネットワーク2が最も高い伝送速度を有するので、曲線20が最も短いデータフレームを示している。同様に、当然のことながら、これらのデータフレームは、正確に規定された時間シフトを持つ形で伝送することもできる。そのようなシフトは、電子部品の通過時間が常に有限であるため、通常技術的な実現形態において生じる。そのようなシフトが無視できる程小さいか、或いは少なくとも決まっており、有利には、一定であることが、本発明では重要である。そのようなシフトが大きく変動する場合、それを動的に計測することができる。ここで、そのようなシフトを相応に補正するか、或いはそれに対応する値を各データフレームと共に信号で伝えることができる。通常のパケットデータなどの別の非同期データは、同期データ間の間隙中に伝送することができる。
【0048】
図3では、例えば、サブネットワーク2と3を接続するためのネットワークノード202と301を有する形で配備されたゲートウェイによるサブネットワーク間のデータ変換が図示されている。例えば、サブネットワーク2からの比較的高いデータレートを有する第一のデータストリーム50の第一のデータフレームは、例えば、三つのデータワード51,52,53を有し、それらのデータワードは、例えば、サブネットワーク3からのそれより低いデータレートを有する第二のデータストリーム60に引き継がれる。この場合、ゲートウェイは、それらのデータを位置61,62,63に挿入する。データフレームと固定した所定の位置の間の固定した所定のタイミング関係のために、ゲートウェイは、データストリームを解析する必要がなく、単純に固定した所定の位置内への変換を実行すればよいこととなる。従って、低速なネットワークで伝送するデータを高速データストリームから簡単に選定したり、その逆方向も簡単に選定することができる。同期システムにおいて時間基準が決まっているために、第一のデータストリーム50の中の一つのデータフレームのデータをデータストリーム60の一つのデータフレームに容易に組み入れながら、そのフレームを送信することができる。時間基準が決まっていない形の非同期式バスシステムでは、送信時点において、データストリーム50から如何なるデータを受信するかが未だ分かっていないので、そのようなことは不可能である。
【0049】
図4では、サブネットワーク間の非同期転送が図示されている。データフレームを送信するためには、その内容が既に分かっていなければならず、従って、それは送信前に内容を既に受信していなければならないので、データストリーム80の非同期データは、早くてもデータストリーム70の直ぐ次に送信されるデータフレーム(フレーム)でゲートウェイを介して送信される。このような問題は、例えば、図3に図示されている通りの、本発明に基づく互いに同期したバスシステムでは起こらない。
【0050】
従って、第一のデータストリーム80の個々のフレーム90,91,92,93は、より高いデータレートの第二のデータストリーム70のより大きいフレーム95,96,97,98に変換されている。この場合、付加情報も追加されている。フレーム90が、フレーム95の送信開始前に間に合って、即ち、時点71には受信されている場合、このフレーム90の内容は、フレーム95によって正しく中継することもできる。フレーム91は、もはやフレーム96の送信開始前の時点72では受信することができないので、従って、フレーム91の情報は、フレーム96で転送することができない。そのため、そのフレームは、短くなるか、或いは充填文字で満たされている。フレーム91の情報は、早くて時点73から始まるフレーム97で転送することができる。そのため、それ以降のフレーム92,93の情報は、その後のフレーム98(時点74)で初めて転送することができる。ここで、第一のデータストリーム80の平均フレームレートは、データストリーム70の平均フレームレートと一致するにも関わらず、短い時間シフトのために、一つのデータブロックがスキップされてしまい、それは、もはや挽回することができないか、或いは時間基準が決まっていない形の遅延を伝送に生じさせることとなる。
【符号の説明】
【0051】
1,2,3,4 サブネットワーク
10,20,30 曲線
11,12,13 時点
50,60,70,80 データストリーム
51,52,53 データワード
61,62,63 位置
71,72,73,74 時点
90,91,92,93 フレーム
95,96,97,98 フレーム
101,102,103,104 ネットワークノード
201,202,203 ネットワークノード
301,302,303,304,305 ネットワークノード
401,402,403,404 ネットワークノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データフレームでデータを伝送する複数のサブネットワーク(1,2,3,4)から成るデータ伝送ネットワークであって、各サブネットワークは、少なくとも二つの加入者(101,102,103,104)を有し、少なくとも二つのサブネットワーク(1,2,3,4)は、有利には、異なる伝送速度で構成されており、各サブネットワーク(1,2,3,4)は、サブネットワークの間でデータを伝送するための少なくとも一つのゲートウェイ(104,201)を介して少なくとも一つの別のサブネットワーク(1,2,3,4)と接続されており、少なくとも一つの第一のサブネットワークは、複数の加入者に対するデータフレームの同時アドレス指定方式(ブロードキャスト又はマルチキャスト)と個々のデータフレーム又はデータフレームの一部の選択アドレス指定方式の中の一つ以上で構成されており、サブネットワークは、更に、同期データ又は制御データと通常のパケットデータとを同期して伝送するように構成されているデータ伝送ネットワークにおいて、
有利には、異なる伝送速度を有するサブネットワーク間での固定した伝送タイミングによるリアルタイム伝送を行うために、少なくとも一つの第一のサブネットワークと少なくとも一つの別のサブネットワークの間の時間同期信号の交換及びその時間同期信号への同期によって、各サブネットワーク内での個々のデータフレームの伝送が、サブネットワーク間の所定のタイミング関係に基づき行われることを特徴とするネットワーク。
【請求項2】
第一のサブネットワークに対する少なくとも一つの別のサブネットワークの伝送クロック周波数の比率が、n:mであり、ここで、nとmが自然数であることを特徴とする請求項1に記載のネットワーク。
【請求項3】
少なくとも一つのサブネットワークが、MOST仕様に基づき構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のネットワーク。
【請求項4】
少なくとも一つの別のサブネットワークが更に配備されており、そのサブネットワークは、そのサブネットワーク内で個々のデータフレームの伝送が別のサブネットワークとタイミングを合わせずに行われるように構成されていることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項5】
第一のサブネットワークと同じ伝送速度を有する少なくとも一つの別のサブネットワークが更に配備されていることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項6】
少なくとも一つのサブネットワークが光バスをベースとしていることを特徴とする請求項1から5までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項7】
少なくとも一つのサブネットワークがリングバスをベースとしていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項8】
異なるサブネットワークで所定の時間間隔内に伝送されるデータフレームの数の互いの比率が、予め明確に規定されていることを特徴とする請求項1から7までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項9】
異なるサブネットワークで伝送されるデータフレームの時間長が等しいことを特徴とする請求項1から8までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項10】
少なくとも一つのサブネットワークにおいて、別のサブネットワークとのタイミング関係に関する情報が伝送されることを特徴とする請求項1から9までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項11】
複数のサブネットワークが、共通のクロックによって互いに同期していることを特徴とする請求項1から10までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項12】
複数のサブネットワークを接続するための少なくとも一つのゲートウェイは、一方のサブネットワークのデータフレームの所定の位置の個々のビット又はデータワードを他方のサブネットワークのデータフレームの所定の位置にコピーするように構成されていることを特徴とする請求項1から11までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項13】
特に、追加の信号線によって、当該のコピープロセスの形式を信号伝送するための手段が配備されていることを特徴とする請求項12記載のネットワーク。
【請求項14】
少なくとも一つのサブネットワーク自体が、別のサブネットワークに分割されており、更に、それらの別のサブネットワークが、有利には、高速バックボーンを介して接続されて、単一のサブネットワークを構成することを特徴とする請求項1から13までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項15】
少なくとも一つのサブネットワークは、少なくとも一つのサブネットワーク内のアドレス又はサブアドレスと少なくとも一つのグローバルアドレス又はサブアドレスとを含むネットワークアドレス指定方式を有することを特徴とする請求項1から14までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項16】
異なる伝送速度を有する別のサブネットワークに対して個々のデータフレーム又はデータフレームのグループの送信を同期させる手段又は複数のサブネットワークを同期させる同期クロックを有する少なくとも一つのネットワークノードが配備されていることを特徴とする請求項1から15までのいずれか一つに記載のネットワーク。
【請求項17】
請求項1の上位概念に基づくネットワークのためのネットワークノードであって、別のネットワークノードに対してデータの送信を同期させる手段又は同期クロックが配備されていることを特徴とするネットワークノード。
【請求項18】
請求項1に記載のネットワークのためのゲートウェイであって、このゲートウェイが、少なくとも二つのネットワークノードを有し、少なくとも二つのネットワークノードが、異なるサブネットワークに接続されており、有利には、少なくとも二つのネットワークノードの間で同期伝送が実現されていることを特徴とするゲートウェイ。
【請求項19】
請求項1に記載のネットワークのためのゲートウェイであって、このゲートウェイが、異なるサブネットワークの少なくとも二つのネットワークノードを有し、更に、第二のサブネットワークのクロックレートが、第一のサブネットワークのクロックレートと同期しているか、第二のサブネットワークのフレームレートが、第一のサブネットワークのフレームレートと同期しているか、その両方であることを特徴とするゲートウェイ。
【請求項20】
異なる伝送速度を有する複数のサブネットワークから成るネットワークの動作方法において、
サブネットワークを接続して、ネットワークを構成することと、
有利には、個々のサブネットワークのデータレートとフレームレートの中の一つ以上を同期させることによって、個々のサブネットワーク内において所定のタイミング関係でデータフレームを伝送することと、
を特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−24205(P2011−24205A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−143620(P2010−143620)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【分割の表示】特願2006−501961(P2006−501961)の分割
【原出願日】平成16年2月26日(2004.2.26)
【出願人】(508246814)エスエムエスシー・ヨーロッパ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (8)
【Fターム(参考)】