説明

同期検波回路、受信装置及び検波方法

【課題】変調信号を適切に取得できる同期検波回路、受信装置及び検波方法を提供すること。
【解決手段】同期検波回路は、受信電波の搬送波と同じ周波数の信号を発振する発振器31と、発振器31により生成された信号から、搬送波と同じ周波数の第1同期信号、及び、第1同期信号と同じ周波数で、当該第1同期信号から位相がπ/2シフトした第2同期信号を生成する同期信号生成回路35と、第1及び第2同期信号の位相差を維持したまま第1及び第2同期信号の位相を所定角度それぞれシフトさせた第1及び第2位相シフト信号を生成する位相シフト回路36と、受信電波に応じた受信信号に第1位相シフト信号を乗算する乗算器37と、受信信号に第2位相シフト信号を乗算する乗算器38と、各乗算器37,38により生成された信号を平滑化する平滑化回路(LPF39,40)と、平滑化された信号に基づいて変調信号を取得する取得回路43とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期検波回路、受信装置及び検波方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パッシブ型のRFID(Radio Frequency Identification)タグと、当該RFIDタグと電波を介して通信して、情報の送受信を行う通信装置(リーダーライター)とを備えた通信システムが知られている。
このうち、RFIDタグは、受信された電波から電磁誘導等により起動電力を発生させて起動し、例えば、当該RFIDタグが有するアンテナの負荷インピーダンスを変化させ、当該タグに担持された情報に基づいて変調(負荷変調)した応答波を送信することにより、当該情報を通信装置に送信する。
一方、通信装置は、電波をRFIDタグに送信する他、当該RFIDタグからの応答波を受信及び検波して、当該応答波に含まれる変調信号を抽出し、当該変調信号により示される情報を取得する。
【0003】
このような通信装置として、受信された電波に応じた受信信号から、同期検波により変調信号を復調する通信装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の通信装置(リーダーライター)では、同期信号(ローカル信号)と、当該同期信号の位相をπ/2シフトさせた同期信号とを生成し、これら各同期信号と受信信号とを混合したI信号及びQ信号に基づいて、タグからの応答波に乗ったタグ情報を取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−223627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の特許文献1に記載の通信装置では、搬送波に乗った振幅ノイズの影響や、同期信号を生成する際に利用される同期検波クロックのぶれによるノイズの影響により、受信信号から変調信号を適切に復調できない場合がある。例えば、変調信号に、当該変調信号の振幅より大きな振幅を有するノイズが重なる場合、当該ノイズの振幅に変調信号の振幅が埋もれてしまうため、当該変調信号を適切に復調できない場合がある。
特に、RFIDタグと通信装置との距離が大きい場合には、当該通信装置により受信される受信信号が微弱となるため、ノイズの影響を受け易くなり、変調信号の復調を適切に行えない可能性が高まる。
このような場合、適切に変調信号を取得するために、通信装置とRFIDタグとの通信を何度も行う必要があるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、変調信号を適切に取得できる同期検波回路、受信装置及び検波方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するために、本発明の同期検波回路は、受信された受信電波に応じた受信信号から変調信号を取得する同期検波回路であって、前記受信電波に含まれる搬送波と同じ周波数の信号を発振する発振器と、前記発振器により生成された信号から、前記搬送波と同じ周波数の第1同期信号、及び、前記第1同期信号と同じ周波数で、かつ、前記第1同期信号から位相がπ/2シフトした第2同期信号をそれぞれ生成する同期信号生成回路と、前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相差を維持したまま、前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相を所定角度それぞれシフトさせた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号をそれぞれ生成する位相シフト回路と、前記受信信号に前記第1位相シフト信号を乗算する第1乗算器と、前記受信信号に前記第2位相シフト信号を乗算する第2乗算器と、前記第1乗算器及び前記第2乗算器によりそれぞれ生成された信号を平滑化する平滑化回路と、前記平滑化回路から出力される信号に基づいて、前記変調信号を取得する取得回路と、を有することを特徴とする。
【0008】
なお、位相シフト回路が第1同期信号及び第2同期信号をシフトさせる角度は、適宜設定可能であり、例えば、π/2を等分割可能な角度とすることができる。
ここで、搬送波に乗った振幅ノイズの影響等で、受信信号の位相に対して、発振器により生成された信号(搬送波と同じ周波数の信号)の位相、ひいては、第1同期信号及び第2同期信号のいずれかの位相がずれて、このずれが変調信号を取得可能な範囲内に入らない場合がある。
これに対し、本発明では、位相シフト回路が、第1同期信号及び第2同期信号の各位相を所定角度シフトさせた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号を生成することで、受信信号の位相に対して、当該第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号のいずれかの位相を、変調信号が取得可能な範囲に合わせることができる。従って、位相がシフトされた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号により、受信信号の同期検波を適切に行うことができ、変調信号を適切に取得できる。
【0009】
本発明では、前記取得回路は、取得された前記変調信号の読取可否の判定結果に基づいて、前記位相シフト回路に、前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相を更にシフトさせた前記第1位相シフト信号及び前記第2位相シフト信号を生成させることが好ましい。
なお、変調信号の読取可否は、取得された変調信号の振幅の大きさを所定値と比較することで行ってもよく、当該変調信号をデコードした結果に対するエラー判定の結果に基づいて判定してもよい。更には、当該読取可否は、変調信号のSN比を、十分に精度よく受信信号の検波を行うことが可能な値と比較することで判定してもよい。
本発明によれば、変調信号の読取可否の判定結果に基づいて、取得回路が、位相シフト回路に第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号の位相を更にシフトさせる。これによれば、十分に読取可能な変調信号を取得できる。従って、取得された変調信号の信頼性を一層向上できる。
【0010】
また、本発明の受信装置は、前述の同期検波回路と、前記受信電波を受信して、前記受信信号を前記同期検波回路に出力するアンテナと、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、前述の同期検波回路と同様の効果を奏することができる。
【0011】
また、本発明の検波方法は、受信された受信電波に応じた受信信号から変調信号を取得する検波方法であって、前記受信電波に含まれる搬送波と同じ周波数の信号を発振する発振手順と、前記発振手順にて生成された信号から、前記搬送波と同じ周波数の第1同期信号、及び、前記第1同期信号と同じ周波数で、かつ、前記第1同期信号から位相がπ/2シフトした第2同期信号をそれぞれ生成する同期信号生成手順と、前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相差を維持したまま、前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相を所定角度それぞれシフトさせた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号をそれぞれ生成する位相シフト手順と、前記受信信号に前記第1位相シフト信号を乗算する第1乗算手順と、前記受信信号に前記第2位相シフト信号を乗算する第2乗算手順と、前記第1乗算手順及び前記第2乗算手順のそれぞれにて生成された信号を平滑化する平滑化手順と、前記平滑化手順にて平滑化された信号に基づいて、前記変調信号を取得する取得手順と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、前述の同期検波回路と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、位相シフト回路により、検波におけるノイズの影響が小さくなるように、第1同期信号及び第2同期信号を所定角度シフトさせることができるので、受信信号の同期検波を適切に行うことができ、変調信号を適切に取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る通信システムの構成を示すブロック図。
【図2】前記実施形態における第1同期信号及び第2同期信号の位相角を示す図。
【図3】(A)前記実施形態における受信信号の波形を示す図。(B)前記実施形態における受信信号に含まれる搬送波と同じ位相の位相シフト信号の波形を示す図。(C)前記実施形態における混合信号の波形を示す図。(D)前記実施形態における平滑化された変調信号を示す図。
【図4】(A)前記実施形態における受信信号の波形を示す図。(B)前記実施形態における受信信号に含まれる搬送波との位相差が45度である位相シフト信号の波形を示す図。(C)前記実施形態における混合信号の波形を示す図。(D)前記実施形態における平滑化された変調信号を示す図。
【図5】(A)前記実施形態における受信信号の波形を示す図。(B)前記実施形態における受信信号に含まれる搬送波との位相差が90度である位相シフト信号の波形を示す図。(C)前記実施形態における混合信号の波形を示す図。(D)前記実施形態における平滑化された変調信号を示す図。
【図6】前記実施形態における検波処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔通信システムの構成〕
図1は、本実施形態に係る通信システム1の構成を示すブロック図である。
本実施形態に係る通信システム1は、図1に示すように、パッシブ型のRFIDタグ(以下「タグ」と略す場合がある)2と、当該タグ2と無線通信する通信装置3とを備えて構成される。
このうち、タグ2は、詳しい図示を省略するが、アンテナと、各種情報を記憶したチップとを有し、当該タグ2は、通信装置3から送信される電波から電磁誘導等により駆動電力を生成させて起動する。そして、タグ2は、当該電波に含まれるコマンドに応じた処理を実行し、応答信号を通信装置3に返信する。この際、タグ2は、受信された電波に含まれる搬送波(周波数13.56MHz)を負荷変調し、反射波として当該搬送波を通信装置3に送信する。
【0015】
〔通信装置の構成〕
通信装置3は、タグ2に電波を送信するとともに、当該タグ2から受信された受信電波から変調信号(応答信号)を抽出して、当該変調信号を処理する。すなわち、通信装置3は、本発明の受信装置に相当する。
この通信装置3は、発振器31、変調回路32、マッチング回路33、アンテナ34、同期信号生成回路35、位相シフト回路36、乗算器37,38、ローパスフィルター(Low-pass filter。以下、「LPF」と略す)39,40、バッファー41,42及びCPU43を有する。
これらのうち、構成31,35〜40,43により、本発明の同期検波回路は構成され、これらに加えてアンテナ34により、本発明の受信装置は構成される。なお、当該通信装置3としては、変調回路32、マッチング回路33及びバッファー41,42を備えることがより好ましいが、バッファー41,42は無くてもよい。
【0016】
発振器31は、所定周波数の信号を生成する。この信号は、搬送波信号であり、本実施形態では、13.56MHzの信号を生成するが、当該周波数に限らず、他の周波数でもよい。
変調回路32は、発振器31から入力される信号を変調(例えば、位相変調)して、アンテナ34を介してRFIDタグに出力する信号の波形を生成する。
マッチング回路33は、給電線とアンテナ34とをエネルギーの伝達損失がないように接続するための回路である。
【0017】
アンテナ34は、マッチング回路33を介して変調回路32から入力される信号に応じた電波をタグ2に送信する他、当該タグ2から受信された電波に応じた受信信号を乗算器37,38にそれぞれ出力する。このようなアンテナ34として、ループアンテナ、ダイポールアンテナ、バイコニカルアンテナ、ホイップアンテナ及び逆L字アンテナを例示できるが、他の構成のアンテナであってもよい。
同期信号生成回路35は、発振器31から入力される信号(第1同期信号)から、当該信号の位相をπ/2シフトした信号(第2同期信号)を生成する。そして、当該同期信号生成回路35は、第1同期信号及び第2同期信号を、位相シフト回路36に出力する。
【0018】
ここで、マッチング回路33は、コンデンサーを有し、アンテナ34は、コイルを有する。このため、これらコンデンサー及びコイルに変調信号を含む搬送波信号(前述の13.56MHzの信号)を通すと、当該搬送波信号の位相と、発振器31で生成された搬送波信号の位相とにずれが生じる。また、アンテナ34を介して通信するRFIDタグ2との距離に応じたコイルの電磁結合の影響により、アンテナの成分(インダクタンス)が変化するため、受信信号に含まれる搬送波信号の位相と、発振器31で生成された搬送波信号の位相とにずれが生じる。このような場合、搬送波信号の位相が互いにずれた受信信号及び同期信号を乗算して得られる信号(RFIDタグ2による変調信号)は、後述する図3(D)に対する図4(D)に示すように信号レベルが低いため、ノイズ等の影響により、当該信号をデコードして得られるデータの正確性及び信頼性が低くなってしまう。しかしながら、ずれた位相の角度を予想することは困難である。
これに対し、本実施形態では、当該ずれに応じた位相の同期信号を生成するために、以下に示す位相シフト回路36が設けられている。
なお、本実施形態では、マッチング回路33はコンデンサーを有し、アンテナ34はコイルを有するとしたが、これに限らず、当該マッチング回路33又はアンテナ34は、コンデンサー機能又はコイル機能を有するものを利用できる。
【0019】
図2は、位相シフト回路36によりシフトされる第1同期信号及び第2同期信号の位相角を示す図である。
位相シフト回路36は、CPU43による制御の下、入力される第1同期信号及び第2同期信号の位相をそれぞれ同じ所定角度シフトさせた位相シフト信号を生成する。そして、当該位相シフト回路36は、第1同期信号の位相がシフトされた位相シフト信号である第1位相シフト信号を乗算器37に出力し、また、第2同期信号の位相がシフトされた位相シフト信号である第2位相シフト信号を乗算器38に出力する。なお、本実施形態では、位相シフト回路36は、図2に示すように、CPU43の制御により、第1同期信号及び第2同期信号の各位相をそれぞれ22.5度ずつシフトさせる。このため、位相シフト回路36により、第1同期信号の位相は、22.5度、45度、67.5度、…、360度(0度)シフトされ、第2同期信号の位相は、第1同期信号を基準として112.5度、135度、157.5度、…、450度(90度)シフトされる。
【0020】
図3(A)、図4(A)及び図5(A)は、受信信号の波形を示し、図3(B)は、当該受信信号に含まれる搬送波信号と同じ位相の位相シフト信号の波形を、図4(B)は、当該搬送波信号との位相差が45度である位相シフト信号の波形を、図5(B)は、当該搬送波信号との位相差が90度である位相シフト信号の波形をそれぞれ示している。また、図3(C)、図4(C)及び図5(C)は、受信信号とそれぞれの位相シフト信号との混合信号の波形を示し、図3(D)、図4(D)及び図5(D)は、当該混合信号を平滑化した信号(I信号又はQ信号)の波形を示している。
このため、図3(B)に示す位相シフト信号が、第1位相シフト信号である場合には、図5(B)に示す位相シフト信号は、第2位相シフト信号となる。
【0021】
一対の乗算器37,38は、それぞれ入力される信号を混合(乗算)した信号を生成するミキサーである。これらのうち、乗算器37は、本発明の第1乗算器に相当し、アンテナ34から入力される受信信号(例えば、図3(A)、図4(A)及び図5(A))と、位相シフト回路36から入力される第1位相シフト信号(例えば、図3(B)、図4(B)及び図5(B))とを混合し、これにより、第1混合信号(例えば、図3(C)、図4(C)及び図5(C))を生成する。そして、乗算器37は、生成された第1混合信号を、LPF39に出力する。
同様に、乗算器38は、本発明の第2乗算器に相当し、アンテナ34から入力される受信信号と、位相シフト回路36から入力される第2位相シフト信号とを混合し、これにより、第2混合信号を生成する。そして、当該乗算器38は、生成された第2混合信号を、LPF40に出力する。
【0022】
LPF39,40は、本発明の平滑化回路に相当する。
これらのうち、LPF39は、乗算器37から入力される第1混合信号から高周波成分である搬送波成分を除去し、当該信号を平滑化して得たI信号をバッファー41に出力する。例えば、LPF39は、図3(D)、図4(D)及び図5(D)に示すような信号を出力する。
また、LPF40は、LPF39と同様に、乗算器38から入力される第2混合信号から搬送波成分を除去し、当該信号を平滑化して得たQ信号をバッファー42に出力する。
【0023】
なお、図3(D)、図4(D)及び図5(D)のうち、一方のLPFから出力される信号のレベルが最も高いのは、図3(D)に示す信号である。これは、受信信号に含まれる搬送波信号の位相と、当該受信信号に乗算される位相シフト信号の位相との差が0度であるためである。また、当該位相差が大きくなるに従って、図4(D)に示すように、当該一方のLPFから出力される信号のレベルは下がり、当該位相差が90度である場合には、図5(D)に示すように、当該一方のLPFから出力される信号のレベルは最も低くなる(0になる)。このように、RFIDタグ2による変調信号の正確性及び信頼性の向上のためには、位相が揃った位相シフト信号を受信信号に乗算することが重要である。
【0024】
バッファー41,42は、それぞれ、LPF39,40から入力されるI信号及びQ信号の電流の逆流防止を図る他、当該各信号の整形等を行う。そして、これらバッファー41,42は、当該各信号をCPU43に出力する。このようなバッファー41,42は、抵抗、半導体及びコンデンサー等の回路素子を備えて構成される。
【0025】
CPU43は、通信装置3全体を制御する制御回路であり、本発明の取得回路に相当する。このCPU43は、例えば、バッファー41,42を介して入力されるI信号及びQ信号に基づいて、RFIDタグ2により変調された変調信号を取得する。
この際、CPU43は、これらI信号及びQ信号に対して巡回冗長検査(Cyclic Redundancy Check:CRC)を実施し、当該検査の結果に基づいて、取得された変調信号の読取可否を判定する。なお、当該変調信号の読取可否については、各信号の振幅を検出し、当該振幅が大きい方の信号に対する検査結果から判定してもよく、変調信号のSN比と所定値とを比較することで行ってもよい。
【0026】
そして、CPU43は、当該判定結果に基づいて、位相シフト回路36等の通信装置3の各構成を制御するフィードバック制御を実施する。例えば、変調信号の読取が十分にできないと判定された場合には、位相シフト回路36に、第1同期信号及び第2同期信号の各位相を、当該第1同期信号及び第2同期信号の各位相角に前述の所定角度を加算した角度に更にシフトさせ、アンテナ34により再度、タグ2からの電波を受信させて、I信号及びQ信号を再度取得する。すなわち、ノイズの影響により検波が適切に行われないと判定されると、CPU43は、前述の構成31〜42により、変調成分の取得(検波)を再度実行させる。
【0027】
〔検波方法〕
図5は、通信装置3により実施される検波方法を示すフローチャートである。
以下、通信装置3により実施される検波方法について説明する。
当該検波方法では、まず、発振器31が所定周波数の搬送波信号を発振する(ステップS1)。
そして、変調回路32が、発振器31により生成された搬送波信号を変調して、RFIDタグ2に送信する送信信号を生成する(ステップS2)。
この送信信号は、マッチング回路33を介してアンテナ34に入力され、アンテナ34が、当該送信信号に応じた電波を送信する(ステップS3)。
また、アンテナ34は、RFIDタグ2から返信される電波(反射波)を受信し、受信信号を乗算器37,38のそれぞれに出力する(ステップS4)。
【0028】
一方、同期信号生成回路35が、発振器31から入力される搬送波信号と同じ位相の第1同期信号と、当該第1同期信号とは位相が90度ずれた第2同期信号とを生成し、これら各同期信号を位相シフト回路36に出力する(ステップS5)。
また、CPU43が、位相シフト回路36により生成する第1同期信号及び第2同期信号の位相の角度を設定する(ステップS6)。なお、最初の時点では、CPU43は、位相シフト回路36によるシフト角(第1同期信号及び第2同期信号と、第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号との位相差)を0度とする。
そして、位相シフト回路36が、当該位相の角度に応じた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号を生成し、これら各位相シフト信号を乗算器37,38にそれぞれ出力する(ステップS7)。
【0029】
次に、乗算器37による受信信号と第1位相シフト信号との乗算(混合)、及び、乗算器38による受信信号と第2位相シフト信号との乗算(混合)が行われる(ステップS8)。このステップS8により生じた第1混合信号は、LPF39及びバッファー41を経て、CPU43により、I信号として取得され、当該ステップS8により生じた第2混合信号は、LPF40及びバッファー42を経て、CPU43により、Q信号として取得される(ステップS9)。
【0030】
この後、CPU43が、前述の巡回冗長検査の結果等に基づいて、RFIDタグ2により変調された変調信号の読取可否を判定する(ステップS10)。
ここで、CPU43は、当該変調信号を読み取れないと判定すると、処理をステップS1に戻し、再度、I信号及びQ信号を取得する。この際、CPU43は、位相シフト回路36に制御信号を出力して、当該位相シフト回路36により、それぞれの位相差を維持したまま、第1同期信号及び第2同期信号の各位相を22.5度シフトさせた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号を乗算器37,38に出力させる。このため、変調信号が十分に読取可能となるまで、ステップS1〜S9の処理は繰り返され、これに伴って、位相シフト回路36により、第1同期信号及び第2同期信号の各位相が22.5度ずつシフトされた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号が生成及び出力される。
一方、CPU43は、変調信号を十分に読み取れると判定すると、検波が適切に行われ、十分に精度の高い変調信号が取得できたと判定して、検波処理を終了する。
【0031】
なお、上記検波処理は、RFIDタグ2から電波を受信するごとに行わなくてもよく、直近の電波の受信時から所定時間が経過した場合に、当該検波処理を実行するように構成してもよい。この場合、当該所定時間が経過するまでは、位相シフト回路36によりシフトされる位相の角度を、変調信号を十分に読み取れると判定された際の角度で固定してもよい。
更に、発振器31から常に信号が発振され、アンテナ34により常に信号を受信しているような場合には、CPU43で変調信号を読み取れないと判定した際に、図6において点線の矢印で示すように、ステップS10からステップS6に戻して処理を行うことができる。この場合には、検波処理に要する時間の短縮を実現できる。
【0032】
〔実施形態の効果〕
以上説明した本実施形態の同期検波回路としての通信装置3によれば、以下の効果がある。
位相シフト回路36は、第1同期信号及び第2同期信号の位相差を維持したまま、第1同期信号及び第2同期信号を所定角度シフトさせた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号を生成及び出力する。これによれば、搬送波に乗った振幅ノイズの影響や、信号が通過するマッチング回路33のコンデンサー及びアンテナ34のコイルの影響、更には、アンテナの成分の変動により、発振器31により生成された搬送波信号の位相と、受信信号に含まれる搬送波信号の位相とがずれる場合に、受信信号に乗算される第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号の位相を、当該受信信号に含まれる変調信号を取得及び読取可能な範囲に合わせることができる。従って、受信信号の同期検波を適切に行うことができ、変調信号を適切に取得できる。
【0033】
CPU43が、変調信号の読取可否の判定結果に基づいて、位相シフト回路36に第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号の位相を更にシフトさせるように、当該位相シフト回路36による位相のシフト角を設定する。これによれば、十分に読取可能な変調信号を取得できる。従って、取得された変調信号の信頼性を一層向上できる。
【0034】
〔実施形態の変形〕
本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、位相シフト回路36は、第1同期信号及び第2同期信号の各位相を、それぞれ22.5度ずつシフトさせて第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号を出力するとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、シフトされる位相の角度は、0度を超え360度未満の間で適宜設定してよい。なお、1以上90度以下が好ましく、更には、周期が一周したことを確認できるため、当該角度により90度が割り切れる角度であることがより好ましい。
【0035】
また、前述の検波処理にて、第1同期信号及び第2同期信号の各位相が360度シフトされた後でも、取得された変調信号が適切でないと判定される場合には、当該第1同期信号及び第2同期信号の各位相をより小さい角度(例えば、11.25度)ずつシフトさせた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号を出力する構成としてもよい。この場合、既に変調信号が取得されているシフト角では、当該シフト角に設定する処理を省略してもよい。
【0036】
前記実施形態では、通信装置3は、受信された受信電波に基づく受信信号からI信号及びQ信号を取得し、これら各信号に基づいて、RFIDタグ2による変調信号を取得する構成としたが、本発明はこれに限らない。例えば、LPF39,40(或いは、バッファー41,42)の後段に、加算器及び減算器が配置される構成としてもよい。このような構成である場合、LPF39(或いはバッファー41)から出力されるI信号である「USB(Upper Side Band)+LSB(Lower Side Band)」の信号を加算器に入力させ、LPF40(或いはバッファー42)から出力されるQ信号である「USB−LSB」の信号を減算器に入力させ、これら加算器及び減算器から出力されるUSB及びLSBをデジタル変換した信号をデコードすることで、RFIDタグ2から送信された変調信号を取得できる。なお、このような構成においても、必ずしもUSB及びLSBのそれぞれを取得する必要はなく、USB及びLSBの少なくともいずれかを抽出できれば、変調信号を取得できる。
【0037】
前記実施形態では、CPU43が、取得されたI信号及びQ信号に対する巡回冗長検査の結果に基づいて、位相シフト回路36により第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号が生成される際の第1同期信号及び第2同期信号の各位相のシフト角を調整するフィードバック制御を実施するとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、第1同期信号及び第2同期信号の各位相をシフトさせた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号に基づいて、受信信号から変調信号を適切に復調できれば、巡回冗長検査の検査結果に基づく位相シフト回路36のフィードバック制御を実施しなくてもよい。例えば、第1同期信号及び第2同期信号の位相がシフトされていない第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号を用いて取得された変調信号と、第1同期信号及び第2同期信号の位相がシフトされた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号を用いて取得された変調信号とを比較して、十分に精度の高い変調信号が取得されたと判定されれば、前述の検波処理を終了するように、通信装置を構成してもよい。
【0038】
また、フィードバック制御として、CPU43によるI信号及びQ信号に対する巡回冗長検査の結果が良好であれば、RFIDタグ2からの変調信号を含む電波の取得処理(検波処理)を終了し、良好でなければ、第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号の位相角の再設定を行った上で、RFIDタグ2からの信号受信を繰り返す構成としてもよい。更に、エラー判別の手法としては、巡回冗長検査に限らず、他の判別法を用いてもよい。
【0039】
前記実施形態では、本発明の受信装置を、RFIDタグ2との間で電波により情報を送受信する通信装置3として構成したが、本発明はこれに限らない。すなわち、電波を送信する機能がない受信装置として、本発明の受信装置を構成してもよい。この場合、受信される電波に含まれる搬送波の周波数が予め分かっていれば、当該周波数に応じた第1同期信号及び第2同期信号を生成すればよい。
【0040】
前記実施形態では、アンテナ34は、RFIDタグ2への電波の送信、及び、当該RFIDタグ2からの電波の受信のそれぞれで利用されるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、電波送信用のアンテナと、電波受信用のアンテナとをそれぞれ設けてもよい。
【0041】
前記実施形態では、本発明の同期検波回路を、RFIDタグ2との間で電波により情報を送受信する通信装置3に組み込んだ例を挙げたが、本発明はこれに限らない。例えば、ラジオやテレビの電波等、他の電波を受信する受信装置として構成してもよい。
前記実施形態では、本発明の受信装置としての通信装置3の機能に必要とされる構成について例示したが、本発明は、当該通信装置3の構成に限定されるものではない。すなわち、構成の一部が無くてもよく、また、他の構成が追加されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、受信された電波に応じた受信信号から変調信号を取得する同期検波回路に利用でき、特に、RFIDタグからの電波を受信する受信装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0043】
3…通信装置(受信装置)、31…発振器、34…アンテナ、35…同期信号生成回路、36…位相シフト回路、37…乗算器(第1乗算器)、38…乗算器(第2乗算器)、39,40…LPF(平滑化回路)、43…CPU(取得回路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信された受信電波に応じた受信信号から変調信号を取得する同期検波回路であって、
前記受信電波に含まれる搬送波と同じ周波数の信号を発振する発振器と、
前記発振器により生成された信号から、前記搬送波と同じ周波数の第1同期信号、及び、前記第1同期信号と同じ周波数で、かつ、前記第1同期信号から位相がπ/2シフトした第2同期信号をそれぞれ生成する同期信号生成回路と、
前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相差を維持したまま、前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相を所定角度それぞれシフトさせた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号をそれぞれ生成する位相シフト回路と、
前記受信信号に前記第1位相シフト信号を乗算する第1乗算器と、
前記受信信号に前記第2位相シフト信号を乗算する第2乗算器と、
前記第1乗算器及び前記第2乗算器によりそれぞれ生成された信号を平滑化する平滑化回路と、
前記平滑化回路から出力される信号に基づいて、前記変調信号を取得する取得回路と、を有する
ことを特徴とする同期検波回路。
【請求項2】
請求項1に記載の同期検波回路において、
前記取得回路は、取得された前記変調信号の読取可否の判定結果に基づいて、前記位相シフト回路に、前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相を更にシフトさせた前記第1位相シフト信号及び前記第2位相シフト信号を生成させる
ことを特徴とする同期検波回路。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の同期検波回路と、
前記受信電波を受信して、前記受信信号を前記同期検波回路に出力するアンテナと、を備える
ことを特徴とする受信装置。
【請求項4】
受信された受信電波に応じた受信信号から変調信号を取得する検波方法であって、
前記受信電波に含まれる搬送波と同じ周波数の信号を発振する発振手順と、
前記発振手順にて生成された信号から、前記搬送波と同じ周波数の第1同期信号、及び、前記第1同期信号と同じ周波数で、かつ、前記第1同期信号から位相がπ/2シフトした第2同期信号をそれぞれ生成する同期信号生成手順と、
前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相差を維持したまま、前記第1同期信号及び前記第2同期信号の位相を所定角度それぞれシフトさせた第1位相シフト信号及び第2位相シフト信号をそれぞれ生成する位相シフト手順と、
前記受信信号に前記第1位相シフト信号を乗算する第1乗算手順と、
前記受信信号に前記第2位相シフト信号を乗算する第2乗算手順と、
前記第1乗算手順及び前記第2乗算手順のそれぞれにて生成された信号を平滑化する平滑化手順と、
前記平滑化手順にて平滑化された信号に基づいて、前記変調信号を取得する取得手順と、を有する
ことを特徴とする検波方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−16909(P2013−16909A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146407(P2011−146407)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(597019609)株式会社 シーディエヌ (22)
【Fターム(参考)】