説明

吐出口部材の製造方法および液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】本発明は、凹部を有し、形状精度よい吐出口部材が歩留まりよく得られる吐出口部材の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、吐出口を形成するための絶縁性の第1のレジストと、流路壁の凹部を形成するための絶縁性の第2のレジストと、を表面に備えた、少なくとも前記表面が導電性の基体を用意する工程と、前記第1のレジストと前記第2のレジストとをマスクとして利用してめっきを行い、吐出口部材の一部分となるめっき層を形成する工程と、前記第2のレジストを除去する工程と、前記第1のレジストをマスクとしてめっきを行い、前記壁の凹部となるめっき層を形成する工程と、前記第1のレジスト及び前記基体を除去する工程と、をこの順に有する吐出口部材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の吐出口を備えた吐出口部材の製造方法と、液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドは、吐出口部材に設けられた微細な吐出口と、それに連通する流路と、を有し、流路から供給された液体を被記録媒体に向かって吐出することにより記録を行う。
【0003】
特許文献1には、吐出口部材の流路の天井部を構成する部分に凹部を設ける吐出口部材の製造方法が開示されている。この方法は、吐出口に対応する第1のレジストが設けられた導電性の基板にメッキにより1層目のメッキ層を形成し、そのメッキ層の上に新たに第2のレジストを形成し、再度メッキを行って2層目のメッキ層の形成を行うものである。第2のレジストをそれぞれ除去すると、第2のレジストが除去された部分が吐出口に対応した部分が凹部となる。この凹部を形成しない場合と比較して、凹部が形成されることにより、流路の容積が大きくなり、液体のリフィルには有利であると考えられる。
【0004】
しかしながら、第2のレジストを形成するために露光してパターニングする際、1層目のメッキ表面で第2のレジストを透過した光が反射する場合がある。その反射光により露光しない第2のレジスト部分が露光される場合がある。レジスト形状が所望の通りとならないことで、メッキ層により所望の流路形状を形成することができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−103613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は上述の問題を解決することを目的とし、凹部を有し、形状精度よい吐出口部材が歩留まりよく得られる吐出口部材の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
液体を吐出する液体吐出ヘッドに使用され、液体を吐出する吐出口と、凹部を有し、前記吐出口と連通する液体の流路の壁の一部と、を有する吐出口部材の製造方法であって、
(1)前記吐出口を形成するための絶縁性の第1のレジストと、前記流路の壁の前記凹部を形成するための絶縁性の第2のレジストと、を表面に備えた、少なくとも前記表面が導電性の基体を用意する工程と、
(2)前記第1のレジストと前記第2のレジストとをマスクとして利用してめっきを行うことにより、前記吐出口部材の一部分となるめっき層を前記表面に形成する第1のめっき工程と、
(3)前記第2のレジストを除去する工程と、
(4)前記第1のレジストをマスクとしてめっきを行うことにより、前記基体の前記第2のレジストが除去されたことで露出した部分に前記壁の凹部となるめっき層を形成する第2のめっき工程と、
(5)前記第1のレジストを除去して前記吐出口を形成することと、前記基体を除去することと、を行うことにより前記吐出口部材を形成する工程と、
をこの順に有する吐出口部材の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、
前記吐出口部材の製造方法により製造された吐出口部材を用意する工程と、
前記吐出口部材の前記凹部を内側にして、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた基板と、前記吐出口部材と、を接合する工程と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、凹部を有し、形状精度が高く形成された吐出口部材が歩留まりよく得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態により製造される液体吐出ヘッドの吐出口部材周辺を示す模式的上面図である。
【図2】図1に示した液体吐出ヘッドにおける吐出口周辺を示す模式的断面図である。
【図3】本実施形態の吐出口部材の形成工程を説明するための概略工程断面図である。
【図4】本実施形態の吐出口部材の形成工程を説明するための概略工程断面図である。
【図5】吐出口部材の撥水処理工程を説明するための概略工程断面図である。
【図6】本実施形態の吐出口部材の形成工程を説明するための概略工程断面図である。
【図7】本実施形態により製造される液体吐出ヘッドの吐出口部材周辺を示す模式的上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。また、以下の説明では、本発明の適用例として、インクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、バイオチップ作製や電子回路印刷用途の液体吐出ヘッドの製造にも適用できる。液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他にも、例えばカラーフィルター製造用ヘッド等も挙げられる。
【0012】
なお、以下の各実施形態で示される数値は一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、各実施形態に限らず、これらをさらに組み合わせるものであってもよく、この明細書の特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるべき他の技術にも応用することができる。
【0013】
(実施形態1)
図1及び2に、本実施形態により製造される液体吐出ヘッドの構成例を示す。
【0014】
図1(A)は液体吐出ヘッドの模式的上面図を、図1(B)はそのA部の拡大図を示す。また、図2(A)は、図1(B)のBB’断面の模式的断面図を、図2(B)はそのCC’断面の模式的断面図を示す。
【0015】
図1において、シリコン(Si)の基板1には、1つ以上のインク供給口10が形成されている。インク供給口10が複数形成される場合は、それぞれが並列して形成されている。また、図1においては、吐出口が千鳥形状に配列されている。
【0016】
図1及び2において、インク供給口10を挟んでその両側の基板1上に、複数のエネルギー発生素子2が列をなして配置されている。また、基板1上には樹脂などからなる流路壁3が配置され、さらに流路壁3上には接着剤6を用いて吐出口部材5が接合されている。吐出口部材5は、液室7及び吐出口4がエネルギー発生素子2の上に位置するように、流路壁3上に接合されている。また、液室7とインク供給口10を連通するように吐出口部材5、流路壁3及び素子基板1により流路9が形成されている。吐出口部材5は、流路9の上壁を形成するが、その流路9に対応する一部分に凹部8が設けられている。この凹部8により、インク充填時等に気泡が滞留することを抑制し、安定したインク吐出性能を確保することができる。
【0017】
また、液室7は、流路壁3、素子基板1及び吐出口部材5で囲まれた領域であってエネルギー発生素子の上側の領域である。この液室7には、流路9およびインク供給口10とともにインクが充填される。また、エネルギー発生素子2が発するエネルギーによって液室7内のインクはインク滴となり、吐出口部材5の吐出口4から飛翔して印字用紙に付着する(不図示)。
【0018】
なお、本実施形態においては、吐出口部材5に形成する凹部は1段で形成したが、2段以上で凹部を形成してもよい。また、流路形状に応じて凹部の形状を適宜選択することもでき、例えば、凹部の深さや幅を変えることができる。また、インクを吐出する際に効率が良い形状を考慮した凹部形状とすることもできる。
【0019】
以下、図1及び図2に示した構成の液体吐出ヘッドにおいて、図1(B)のCC’断面図における製造工程について図3を参照して詳細に説明する。
【0020】
まず、図3(A)に示すように、少なくとも表面が導電性の基板11上に吐出口に相当する部分(吐出口を形成しようとする部分)第1のレジスト層16を形成する。この第1のレジスト層16は、吐出口の先端部の型材となる。また、図3(B)に示すように、凹部に相当する部分(凹部を形成しようとする部分)の基板11上に第2のレジスト層17を形成する。基板11の表面は、めっき形成のシード層として機能するように導電性となっている。基板11が全体として導電性であってもよいし、シリコンなどの母材と、表面をシード層として機能させるための導電体と、で基板11が構成されていてもよい。
【0021】
ここで、第1のレジスト層16の材料としては、絶縁性を有する材料であり、例えば、レジスト材料やケイ素含有化合物等を用いることができる。ケイ素含有化合物としては、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO)、酸窒化ケイ素(SiON)等が挙げられる。レジスト材料としては、例えばポジ型レジスト又はネガ型レジスト等が挙げられる。
【0022】
第2のレジスト層17としては、例えばポジ型レジスト又はネガ型レジスト等が挙げられる。
【0023】
また、第1のレジスト層16として、レジスト材料を用いる場合、絶縁層及び第2のレジスト層のうち、先に形成する方をネガ型レジストとし、後に形成する方をポジ型レジストとすることが好ましい。特に、第1のレジスト層16をネガ型レジスト、第2のレジスト層17をポジ型レジストとすることが好ましい。
【0024】
また、第1のレジスト層16の膜厚は、例えば、0.01〜10μmとすることができ、0.01〜3μmとすることが好ましく、0.1〜2μmとすることがより好ましい。
【0025】
また、第2のレジスト層17の膜厚は、例えば、1.5〜3000μmとすることができ、6〜250μmとすることが好ましく、6〜150μmとすることがより好ましい。
【0026】
また、第2のレジスト層17の幅は、形成する流路幅に応じて適宜選択される。
【0027】
導電性基板の材料としては、導電性を有するものであればよく、例えば、金属基板、また、樹脂、セラミック、ガラス等の材料上に導電層を形成したものを用いることができる。導電層は、例えば、銅、ニッケル、クロム、鉄等の導電性金属を素材にして、スパッタリング法、蒸着法、メッキ、イオンプレーティング法等の薄膜形成法によって形成することができる。
【0028】
次に、図3(C)に示すように、第1のレジスト層16および第2のレジスト層17を形成した基板11の露出面に電鋳法を用いてニッケル(Ni)等の金属材料を析出させ、第1のメッキ層18を形成する。第1のレジスト層16は第1のメッキ層18の開口から露出している。また、第2のレジスト層17の表面は露出している。その際、第1のメッキ層は、その上面高さが第2のレジスト層17の上面以下となるようにする。また、第1のレジスト層16の上面以上とすることが好ましく、第2のレジスト層17の1/3以上の高さとなるように形成することがより好ましい。また、第1のメッキ層は、第1のレジスト層16の上にオーバーハングし、第1のレジスト層16の上に開口を有するように形成される。
【0029】
吐出口部材の材料としては、ニッケルの他に、パラジウム、銅、金若しくはロジウム又はそれらの複合材料等を用いても構わない。
【0030】
ここで、第1のメッキ層の膜厚は、例えば、1〜1000μmとすることができ、5〜750μmとすることが好ましく、5〜400μmとすることがより好ましい。
【0031】
次に、図3(D)に示すように、第2のレジスト層17を除去する。第2のレジスト層17が除去されたことにより導電性基板の一部が露出面21として露出する。
【0032】
次に、図3(E)に示すように、導電性基板の露出面と第1のメッキ層18の周りに、電鋳法を用いて第2のメッキ層19を形成し、吐出口部材5を形成する。第2のメッキ層は、第1のレジスト層16の上に開口を有するように形成される。
【0033】
第2のメッキ層の膜厚は、例えば、1〜200μmとすることができ、2〜100μmとすることが好ましく、2〜50μmとすることがより好ましい。
【0034】
第2のレジスト層17は例えば現像処理することで除去できる。
【0035】
次に、図3(F)に示すように、吐出口部材5を基板11から外し、吐出口部材5を得る。
【0036】
この吐出口部材5を、吐出口4とエネルギー発生素子2とが対応するように、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2を備えた基板1に接合することで図2に示すような液体吐出ヘッドが得られる。
【0037】
本発明は従来方法のようにメッキ層の上に第2のレジストを形成することはないため、1層目と2層目のメッキ界面部分や吐出口近傍などの場所においてパターン変形がなく、所望の形状で電鋳法を用いて容易に形成することができる。
【0038】
(実施形態2)
本実施形態では、図7(A)及び(B)に記載の液体吐出ヘッドの製造工程について説明する。図7(A)には、液体吐出ヘッドの一構成例における吐出口部材の模式的上面図を、図7(B)はそのA部の拡大図を示す。
【0039】
以下、図7(A)および(B)に示した構成の液体吐出ヘッドにおいて、図7(B)のDD’断面図における製造工程について図4を参照して詳細に説明する。
【0040】
まず、図4(A)に示すように、吐出口に相当する部分(吐出口を形成しようとする部分)の基板11上に第1のレジスト層16を形成する。この第1のレジスト層16は吐出口の先端部の型材となる。また、図4(B)に示すように、凹部に相当する部分(凹部を形成しようとする部分)の基板11上に第2のレジスト層17を形成する。図4(B)において、第2のレジスト層17は逆テーパ状となるように形成されている。つまり、第2のレジスト層17は、その液体流路方向に沿った垂直断面が逆テーパ状に形成されている。このような形状とすることにより、形成される液体流路の流抵抗を少なくすることができる。
【0041】
次に、図4(C)に示すように、第1のレジスト層16および第2のレジスト層17を形成した基板11の露出面に電鋳法を用いてニッケル(Ni)を析出させ、第1のメッキ層18を形成する。その際、第1のメッキ層は、その上面高さが第2のレジスト層17の上面以下となるように形成する。また、その上面高さが第1のレジスト層16の上面以上となるように形成することが好ましく、第2のレジスト層17の1/3以上の高さとなるように形成することが好ましい。また、第1のメッキ層は、第1のレジスト層16の上にオーバーハングし、開口を有するように形成される。
【0042】
次に、第2のレジスト層17を除去し、図4(D)に示すように、基板11の露出面と第1のメッキ層18の周りに、電鋳法を用いて第2のメッキ層19を形成し、吐出口部材5を形成する。第2のメッキ層は、第1のレジスト層16の上に開口を有するように形成される。
【0043】
次に、図4(E)に示すように、吐出口部材5を基板11から外し、吐出口部材5を得る。
【0044】
このようにして得られる吐出口部材5の凹部はテーパ形状であり、凹部の側壁がほぼ垂直な場合に比べ、インクの流抵抗が小さく、さらに気泡などもたまりにくい構造となる。このように本実施形態で製造される吐出口部材5を流路壁に貼り合わせて得られる液体吐出ヘッドは、連続吐出させても、インクのリフィル不足による不吐などの印字不良がなく、良好な印字性能を有する。
【0045】
(実施形態3)
本実施形態では、図7(A)及び(C)に記載の液体吐出ヘッドの製造工程について説明する。図7(A)には、液体吐出ヘッドの一構成例における吐出口部材の模式的上面図を、図7(C)はそのA部の拡大図を示す。
【0046】
以下、図7(A)及び(C)に示した構成の液体吐出ヘッドにおいて、図7(C)のEE’断面図における製造工程について詳細に説明する。
【0047】
まず、図6(A)に示すように、吐出口に相当する部分(吐出口を形成しようとする部分)の基板11上に絶縁材料からなる第1のレジスト層16を形成する。また、図6(B)に示すように、第1のレジスト層16の上に第3のレジスト層20と、凹部に相当する部分(凹部を形成しようとする部分)の基板11上に、第2のレジスト層17を形成する。また、図6(B)に示すように、第1のレジスト層16の上には、第3のレジスト層20が第1のレジスト層16を覆うように形成されている。つまり、面方向において第1のレジスト層16の形状よりも第3のレジスト層20の形状の方が大きく、レジスト層が第1のレジスト層16を覆うような構造となっている。ここで、面方向とは、基板の面方向のことを指し、例えば基板が水平に設置されている場合は水平方向のことをいう。
【0048】
第1のレジスト層16が設けられた基体上に、第1のレジスト層16を被覆するようにレジスト材料層を設けた後に、このレジスト材料から一部が除去されるようにパターニングを行って、第2のレジスト層17と第3のレジスト層20とを一つのレジスト材料から一括に形成することができる。
【0049】
ここで、第1のレジスト層16にレジストを用いる場合、第1のレジスト層16としてネガ型レジストを用い、第2のレジスト層17としてはポジ型レジストを用いることが好ましい。
【0050】
また、第1のレジスト層16の膜厚は、例えば、0.1〜10μmとすることができ、0.01〜3μmとすることが好ましく、0.1〜2μmとすることがより好ましい。
【0051】
また、第2のレジスト層17の膜厚は、例えば、1.5〜3000μmとすることができ、6〜250μmとすることが好ましく、6〜150μmとすることがより好ましい。
【0052】
次に、図6(C)に示すように、基板11の露出面に、電鋳法にて第1のメッキ層18を形成する。その際、第1のメッキ層は、その上面高さが第2のレジスト層17の上面以下となるようにする。また、その上面が第1のレジスト層16の上面以上となるように形成することが好ましく、第2のレジスト層17の1/3以上の高さとなるように形成することがより好ましい。
【0053】
また、第1のメッキ層の膜厚は、例えば、1〜1000μmとすることができ、5〜750μmとすることが好ましく、5〜400μmとすることがより好ましい。
【0054】
次に、第2のレジスト層17と第3のレジスト層20とを除去し、さらに、図6(D)に示すように、基板11の露出面と第1のメッキ層18の周りに、電鋳法を用いて第2のメッキ層19を形成し、吐出口部材5を形成する。第2のメッキ層は、第1のレジスト層16の上にオーバーハングし、第1のレジスト層16の上に開口を有するように形成される。
【0055】
また、第2のメッキ層の膜厚は、例えば、1〜200μmとすることができ、2〜200μmとすることが好ましく、2〜50μmとすることがより好ましい。
【0056】
次に、図6(E)に示すように、吐出口部材5を基板11から外し、吐出口部材5を得る。
【0057】
本実施形態により製造される吐出口部材5は、液体流路から吐出口にかけてエッジを有さず、またその断面が直線部分を有する吐出口を形成することができる。吐出口が直線部分を有するため、吐出するインクの直進性を向上することができる。また、本実施形態は、吐出口を高密度に形成する場合も、必要な吐出口部材の厚さを確保しつつ、良好な吐出性能を有する吐出口部材を電鋳法を用いて容易に製造することができる。
【0058】
本実施形態において作製する吐出口部材5を流路壁3に貼り合わせて出来た液体吐出ヘッドは、連続吐出させてもインクのリフィル不足による不吐などの印字不良がない、良好な印字性能を有し、インク滴の良好な直進性を有する。
【0059】
(実施形態4)
実施形態3では、図6(B)に示す工程において、面方向において第1のレジスト層16の形状よりも第3のレジスト層20の形状の方が大きく、レジスト層が第1のレジスト層16を覆うような構造としている。
【0060】
この第1のレジスト層16と第3のレジスト層20の構造において、他にも、たとえば、面が一致して重なり合う積層構造とすることもできる。つまり、第1のレジスト層16と第3のレジスト層20が面方向において同一形状となるように積層構造を形成することができる。
【0061】
また、面方向において第3のレジスト層20の形状よりも第1のレジスト層16の形状の方が大きく、第3のレジスト層20は第1のレジスト層16の内側に形成されている積層構造とすることもできる。第1のレジスト層16と第3のレジスト層20とからなる構造をどのようなものとするかは、目的とする吐出口の形状を考慮して適宜選択することができる。
【0062】
(実施例1)
以下、本発明の実施例を説明する。本実施例では、図1及び図2に示した液体吐出ヘッドを電鋳法を用いて製造する。なお、本実施例は、吐出口間ピッチが1200dpiであり、吐出口4が千鳥配列に並んだ場合について例を示している。また、本実施例では、穴径dが10μmの吐出口、及び幅5μm、長さ60μm、深さ8μmの凹部を有する吐出口部材を用意した。
【0063】
以下、図3は、図1(B)のCC’断面図における製造工程を示す図である。
【0064】
まず、図3(A)に示すように、ステンレス板などからなる基板11上に絶縁層の材料となるネガ型レジストを厚さ1μmでコーティングした。そして、このレジストの吐出口に相当する部分(吐出口を設けようとする部分)に、直径30μmのネガ型レジスト部分が残るようにパターニングされたマスクを置き、フォトリソ工程を用いて第1のレジスト(絶縁層に相当)16を形成した。ネガ型レジストとしては、化薬マイクロケム製SU−8 2000を使用した。
【0065】
次に、基板11及び第1のレジスト16の上に、レジスト層の材料となるポジ型レジストを厚さ20μmでコーティングした。そして、図3(B)に示すように、幅11μm、長さが66μmのレジスト部分が凹部を形成しようとする部分に残るようにパターニング形成されたマスクをポジ型レジストの上に置き、フォトリソ工程を用いて第2のレジスト(レジスト層に相当)17を形成した。本実施例では、ポジ型レジストとして東京応化工業(株)製PMER P−LA900PMを使用した。
【0066】
次に、図3(C)に示すように、第1のレジスト16および第2のレジスト17を形成した基板11に、電鋳法を用いて、ニッケル(Ni)を厚さ8μmとなるようにメッキし、第1のメッキ層18を形成した。その際、吐出口に相当する部分には、直径16μmの穴が形成された。
【0067】
次に、図3(D)に示すように、メッキ成長面側から全面に露光し現像することで、第2のレジスト17を除去した。さらに、図3(E)に示すように、導電性基板の露出面と第1のメッキ層の周りに、電鋳法を用いてニッケルを厚さ3μmとなるようにメッキし、第2のメッキ層19を形成した。
【0068】
これらの工程により、直径10μmの吐出口と、幅5μm、長さ60μm、深さ8μmの凹部を有する吐出口部材5を作製した。
【0069】
次に、図3(F)に示すように、吐出口部材5を基板11から遊離させて、第1のレジストを剥離除去することにより、吐出口部材5を得た。
【0070】
従来の2層電鋳の手法では、1層目のメッキ上に第2のレジストをパターニングしている。その際、第2のレジストのパターン先端や形状の細い部分におけるレジストの浮きを防止するため、第2のレジストの形状を大きくして共通の流路と連通させたり、ダミーのパターンを形成したりする必要があった。本発明では、従来例の第2のレジストに相当する凹部を形成するためのレジスト層を導電性基板上にパターニングしている。導電性基板は、レジストとの密着性を考慮して選択することが可能であるため、密着性はメッキ上とレジストとの間よりも良く、ダミーパターンやレジスト形状を大きくする必要もない。
【0071】
(実施例2)
以下、本発明の実施例を説明する。本実施例では、図7(A)及び(B)に示した液体吐出ヘッドを電鋳法を用いて製造する。なお、本実施例は、吐出口4が吐出口間ピッチ1200dpiの一列で並んだ吐出口部材を形成する。また、穴径dが5μmの吐出口、流路に幅5μm、長さ60μm、深さ8μmの凹部を有する吐出口部材を形成した。本実施例においては、吐出量を少なくするため、吐出口の穴径を小さく形成する場合を示している。
【0072】
以下、図4は、図7(B)のDD’断面図における製造工程を示す図である。
【0073】
まず、図4(A)に示すように、ステンレス板などからなる基板11に絶縁材料からなる第1のレジスト層16を形成した。本実施例では、窒化ケイ素(SiN)を用い、厚さ0.1μmでコーティングし、吐出口に相当する部分に直径17μmの窒化ケイ素膜が残るようにパターニングし、第1のレジスト層16を形成した。
【0074】
次に、図4(B)に示すように、第1のレジスト層16を形成した上に、レジスト層の材料としてネガ型レジストを厚さ20μmでコーティングした。さらに、幅11μm、長さが66μmのネガ型レジストが凹部を形成したい部分に残るようにパターニングされたマスクを置き、フォトリソ工程を用いて第2のレジスト層17を形成した。さらに、この第2のレジスト層17を逆テーパ形状となるようにパターニングを行った。
【0075】
なお、逆テーパを形成する手法としては、複数のレジストを積層してパターニングにより形成したり、ネガ型レジストの露光の際にグラデーションのついたマスクを使用してパターニングしたりする手法など、一般的な手法を用いて構わない。グラデーションマスクを用いてレジスト層を逆テーパ形状とする場合、逆テーパの傾斜を形成したい部分にグラデーションが形成されているマスクを用いる。このグラデーションは、逆テーパの傾斜が始まる部分からレジスト層の端部に進むに従って露光量が少なくなるように形成されている。露光量が少なくなると、レジスト層の上方部分は硬化するが、レジスト層内で露光光が減衰するため、露光光があまり到達しない基板11に近い部分は硬化しなくなる。そのため、レジスト層を逆テーパ状に形成することができる。
【0076】
その後の工程は、実施例1と同様の工程で吐出口部材5を形成した。
【0077】
このように作製した吐出口部材5の凹部は、テーパ形状となった。そのため、凹部の側壁がほぼ垂直な場合に比べ、インクの流抵抗が小さくなり、さらに気泡などもたまりにくい構造となっている。本実施例で得られた吐出口部材5を流路壁3に貼り合わせて得られた液体吐出ヘッドは、連続吐出させても、インクのリフィル不足による不吐などの印字不良は確認されず、非常に良好な印字性能を示した。
【0078】
(実施例3)
以下、本発明の実施例を説明する。本実施例では、図7(A)及び(C)に示した液体吐出ヘッドを電鋳法を用いて製造する。なお、本実施例は、吐出口4が吐出口間ピッチ1200dpiの一列で並んだ吐出口部材を作製する。また、穴径dが10μmの吐出口、幅5μm、長さ60μm、深さ8μmの凹部を有する吐出口部材を形成した。
【0079】
以下、図6は、図7(C)のEE’断面図における製造工程を示す図である。
【0080】
まず、図6(A)に示すように、ステンレス板などからなる基板11に絶縁材料からなる第1のレジスト層16を形成した。本実施例では、チッ化ケイ素(SiN)を用い、厚さ0.1μmでコーティングし、吐出口に相当する部分に直径16μmの部分が残るようにパターニングした。
【0081】
次に、図6(B)に示すように、第1のレジスト層16及び基板11の上に、レジスト層の材料としてポジ型レジストを厚さ20μmでコーティングした。さらに、フォトリソ工程により、凹部を形成したい部分に第2のレジスト層17を、第1のレジスト層16の上に第3のレジスト層20を形成した。より具体的には、凹部を形成したい部分に幅11μm、長さが66μmのパターン、また、第1のレジスト層16を覆う部分にφ16μmのパターンが残るようにフォトリソ工程を用いて第2のレジスト層17および第3のレジスト層20を形成した。
【0082】
次に、図6(C)に示すように、第1のレジスト層16、第2のレジスト層17および第3のレジスト層20を形成した基板11に、電鋳法にてニッケル(Ni)を厚さ8μmとなるようにメッキし、第1のメッキ層18を形成した。その際、第1のメッキ層の吐出口に相当する部分は、直径16μmの穴が形成された。
【0083】
次に、全面に露光して現像処理することで、第2のレジスト層17と第3のレジスト層20とを除去した。さらに、図6(D)に示すように、電鋳法にてニッケルを厚さ3μmとなるように導電性基板の露出面と第1のメッキ層をメッキし、第2のメッキ層19を形成した。
【0084】
以上の工程により、直径10μmの吐出口と、幅5μm、長さ60μm、深さ8μmの凹部を有する吐出口部材5を形成した。
【0085】
次に、図6(E)に示すように、吐出口部材を基板11および第1のレジスト層16を剥離除去することにより、吐出口部材5を得た。
【0086】
本実施形態により製造される吐出口部材5は、高密度な吐出口密度であっても必要な吐出口部材の厚さを確保できる。吐出口4が、流路側から吐出口4先端に向けた角度が垂直に近く形成されていた。このように本実施例において作成した吐出口部材5を流路壁3に貼り合わせて出来た液体吐出ヘッドは、連続吐出させても、インクのリフィル不足による不吐などの印字不良は確認されず、非常に良好な印字であった。また、吐出状態の観察において、吐出口から吐出したインク滴は、ヨレなどはみられず、直進性がよいことも確認できた。
【0087】
(実施例4)
液体吐出ヘッドでインク滴の吐出特性を良好にするために、インク滴が形成される吐出口の外周部に位置する表面に撥水層を形成し、インクとの撥水性が高めることが行われている。そこで、本実施例では、吐出口部材のインク吐出側の表面に撥水層を形成した。
【0088】
まず、図5(A)に示すように、厚さ70μmのネガ型ドライフィルムレジスト22を吐出口部材5の下側(図中では上側)から熱圧着ローラ(温度60℃)によりラミネートして、ネガ型ドライフィルムレジスト22を吐出口4内へ潜り込ませた。以下、ネガ型ドライフィルムレジストをネガ型DFRと称す。さらに、厚さ20μmのネガ型DFR22を吐出口部材5の上側(図中では下側)から熱圧着ローラ(温度60℃)によりラミネートして、吐出口部材5をネガ型DFR22でサンドイッチした。その後、吐出口部材5の下側(図中では上側)からUV等を照射して全面露光を行った。本実施例では、ネガ型DFRとしてデュポン製リストンFRA063を使用した。
【0089】
次に、図5(B)に示すように、現像・リンスを行い、未露光部分を除去した。露光された吐出口部材5の上側のネガ型DFR22と吐出口4から突出した円柱状のネガ型DFR22が残存した。
【0090】
次に、図5(C)に示すように、フッ素系樹脂からなる撥水層を吐出口部材の表面に形成した。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子を含有したニッケル(Ni)の電鋳液中にて、電解共析メッキ法により、ネガ型DFRの残存していない吐出口部材5の吐出口4以外の上面(吐出面)にのみPTFE−Ni層を2μmの厚さで形成した。
【0091】
次に、ネガ型DFRを剥離した後、洗浄工程を経て熱処理(350℃1時間)を行い、図5(D)に示すように、吐出口部材5の吐出口4以外の吐出面にのみ、良好な撥水性を示すPTFE−Ni層である撥水層23を形成した。
【0092】
本実施例において作製した吐出口部材5を流路壁3に貼り合わせて得られた液体吐出ヘッドは、周波数を変更させたり連続吐出させたりしても、インクのリフィル不足による不吐などの印字不良は確認されず、非常に良好な印字であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出ヘッドに使用され、液体を吐出する吐出口と、凹部を有し、前記吐出口と連通する液体の流路の壁の一部と、を有する吐出口部材の製造方法であって、
(1)前記吐出口を形成するための絶縁性の第1のレジストと、前記流路の壁の前記凹部を形成するための絶縁性の第2のレジストと、を表面に備えた、少なくとも前記表面が導電性の基体を用意する工程と、
(2)前記第1のレジストと前記第2のレジストとをマスクとして利用してめっきを行うことにより、前記吐出口部材の一部分となるめっき層を前記表面に形成する第1のめっき工程と、
(3)前記第2のレジストを除去する工程と、
(4)前記第1のレジストをマスクとしてめっきを行うことにより、前記基体の前記第2のレジストが除去されたことで露出した部分に前記壁の凹部となるめっき層を形成する第2のめっき工程と、
(5)前記第1のレジストを除去して前記吐出口を形成することと、前記基体を除去することと、を行うことにより前記吐出口部材を形成する工程と、
をこの順に有する吐出口部材の製造方法。
【請求項2】
前記第1のめっき工程において形成されるめっき層は、ニッケル、パラジウム、銅、金およびロジウムから選ばれる少なくとも一つを含む請求項1に記載の吐出口部材の製造方法。
【請求項3】
前記第2のめっき工程において形成されるめっき層は、前記第1のめっき工程で形成されるめっき層と同じ材料を使用して形成される請求項2に記載の吐出口部材の製造方法。
【請求項4】
前記基体を用意する工程において、前記第1のレジストを被覆するように第3のレジストが設けられている前記基体を用意し、
前記第1のめっき工程において、前記第1のレジストと前記第2のレジストと前記第3のレジストとをマスクとして利用してめっき層の形成を行う請求項1乃至3のいずれかに記載の吐出口部材の製造方法。
【請求項5】
前記基体を用意する工程において、前記第1のレジストが設けられた基体上に、前記第1のレジストを被覆するようにレジスト材料層を形成し、前記レジスト材料層の一部を除去して前記第3のレジストと前記第2のレジストとを形成する請求項4に記載の吐出口部材の製造方法。
【請求項6】
前記第2のレジストを除去する工程において、前記2のレジストと前記第3のレジストとを一括して除去する請求項5に記載の吐出口部材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の吐出口部材の製造方法により製造された吐出口部材を用意する工程と、
前記吐出口部材の前記凹部を内側にして、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた基板と、前記吐出口部材と、を接合する工程と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−143716(P2011−143716A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276948(P2010−276948)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】