説明

吐出装置

【課題】簡単に組立てられ、物質の吐出量を正確に配量可能な吐出装置を得る。
【解決手段】物質を保有する受容器6のための吐出装置であって、受容器のための収容部12と、収容部側の端部22に押圧力伝達手段23を有する少なくとも1個のピストンロッド21と、駆動装置41および送り機構51を有し、少なくとも1個のピストンロッドを収容部12の方向に動かすための送りユニット31と、を備える該吐出装置において、送り機構は、少なくとも1個の引張手段52を有し、駆動装置41は、引張手段52のための回転体を設けたドラムユニット61を有し、引張手段は、一方では、少なくとも1個のピストンロッドの収容部側とは反対側の端部24の領域に固定し、他方では、ドラムユニット61の回転体に巻き取り可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質を貯留する受容器のための吐出装置であって、受容器のための収容部と、この収容部側の端部に押圧力伝達手段を有する少なくとも1個のピストンロッドと、駆動装置および送り機構を有し、少なくとも1個のピストンロッドを収容部の方向に移動させるための送りユニットと、を備える吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプの吐出装置は、例えばフォイルパックやカートリッジなどの受容器内に詰めたモルタルやシール剤などの物質を、塗布箇所に吐出するために用いる。送りユニットを作動させることで、少なくとも1個のピストンロッドが一定距離動かされ、ピストンロッドに取付けた押圧力伝達手段が受容器に作用し、この受容器内の物質のうち相応量がヘッド部分のノズル口から吐出される。吐出作業の終了後、または受容器の交換時には、少なくとも1個のピストンロッドを、再び後方に引き戻した位置(初期位置)に復帰させなければならない。ピストンロッドがこの初期位置にあるとき、先の受容器を収容部から取り出すことができ、新たな受容器を収容部に装填することができる。
【0003】
特許文献1(英国特許第2224782号)に記載の、物質を貯留する受容器のための吐出装置は、受容器のための収容部と、受容器から吐出させるためのピストンロッドとを備え、このピストンロッドはその収容部側の端部に押圧力伝達手段としてピストンを備える。さらに、ピストンロッドを収容部方向に動かすための送りユニットを設け、この送りユニットは、駆動装置として旋回可能な操作レバーを有するグリップを備える。この操作レバーは操作毎に、ピストンロッドから突出する、ピストンロッドのための送り機構としての挟持ブロックを旋回させる。挟持ブロックの旋回運動は摩擦係合的にピストンロッドに伝達され、ピストンロッドは一定距離動かされる。ピストンロッドを引張り戻す際には、ピストンロッドと係合している挟持ブロックが解放機構によってその係合から離脱し、ピストンロッドは手動で引張り戻される。
【0004】
このタイプの吐出装置は一般的である。この既存の吐出装置の欠点は、挟持ブロックとピストンロッドとの接触領域に強い磨耗が生じる点にある。
【0005】
特許文献2(独国実用新案第29812284号)に記載の、同じタイプの吐出装置は、駆動装置としてのモータにより駆動される、送り機構としての歯車を備える。この歯車は、ピストンロッドの歯と噛合う。ピストンロッドを初期位置に引き戻す際には、ピストンロッドは、例えば回転により歯車との係合から離脱して手動で引き戻すか、またはモータの逆回転により初期位置に移動する。
【0006】
この既存の吐出装置の欠点は、ピストンロッドを完璧(最適)に送るために、歯車およびピストンロッドの歯の製造公差を小さく抑える必要があり、このため、このタイプの吐出装置の製造に費用が嵩む点にある。さらに、モータによりピストンロッドを初期位置に移動するのは時間がかかる。
【0007】
特許文献3(独国公開特許第3704210号)に記載の、物質を貯留する受容器のための吐出装置は、受容器のための収容部と、押圧力伝達手段としてばねにより付勢したピストンとを備える。グリップの旋回可能な操作レバーを操作する際には、ブレーキ機構が解放され、受容器からの吐出に際してピストンを収容部の方向に移動する。吐出作業の終了後には、ピストンを、巻取り装置により、ばね力に抗して後方に引き戻す。この吐出装置は、送りユニットから突出するピストンロッドを有さず、その構造寸法の短さに特徴がある。
【0008】
この既存の吐出装置の欠点は、正確な分注量が得られないため、吐出される物質の量が、吐出作業を通じて激しく変化することにある。さらに、吐出装置の耐久性は、例えばピストンを付勢するばね素子の張力減退などから制限されたものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】英国特許第2224782号明細書
【特許文献2】独国実用新案第29812284号明細書
【特許文献3】独国公開特許第3704210号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の課題は、構成簡単かつ吐出する物質を正確に分注することのできる吐出装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、独立請求項に記載される特徴により解決することができる。さらに好適な実施形態については、従属請求項に記載する。
【0012】
本発明に係る吐出装置によれば、送り機構は少なくとも1個の引張手段を有し、駆動装置は、引張手段のための回転体を設けたドラムユニットを有する。この引張手段は、一方では、少なくとも1つのピストンロッドの収容部側とは反対側の端部領域に固定し、他方では、ドラムユニットの回転体に巻き取り可能にする。
【0013】
駆動装置を操作すると、駆動装置はドラムユニットの回転体に直接または間接的に作用してこれを回転させ、少なくとも1個のピストンロッドにおける引張手段の固定ポイントとドラムユニットとの間の距離が徐々に短くなる。このとき、少なくとも1個のピストンロッドと、これに取付けた押圧力伝達手段を収容部の方向に移動し、所定量の物質が収容部内の受容器から吐出される。引張手段は、このとき生ずる引張力を中継し、これを押圧力として、少なくとも1個のピストンロッドに伝達する。引張手段は、例えば、直接、または例えばヨークなどの保持素子を介して、少なくとも1個のピストンロッドに固定する。このピストンロッドへの力伝達は、摩擦係合的に行われ、吐出装置内でスリップが生じることなく、大きな力を送り時に伝えることができるので、これはとくに粘り気のある物質を吐出する際に好適である。
【0014】
少なくとも1個のピストンロッドには、送り運動に起因しての重大な磨耗は生ずることがなく、このため吐出装置全体の寿命が長くなる。さらに、吐出装置の構成部品点数は少ないので、一方では大量生産に適し、他方では必要に応じて個々の部品を簡単に交換することができる。駆動装置の種類に応じて、少なくとも1個のピストンロッドは、不連続的にも連続的にも送ることができる。
【0015】
例えば同時に受容器から多成分物質の異なる成分を吐出する複数部分構成のシステムにおいては、吐出装置は好適には少なくとも2個のピストンロッドを備え、これらピストンロッドは、さらに好適には、同時に1個の引張手段によって収容部の方向に移動可能とする。引張手段は、好適には、ピストンロッドに作用する力の重心に取付ける。こうすることで、吐出装置の素子間における摩擦による損失を最小限に抑えることができる。
【0016】
好適には、引張手段を曲がり易いバンドとする。こうすることで、引張手段は好適な固有剛性を備える。代案として、引張手段はロープで形成してもよい。このタイプの引張手段は、簡単にドラムユニットの回転体に巻き取ることができるので、ハウジング内にコンパクトに収納できる。引張手段は、ある程度の固有応力を備え、巻き取った状態においては緊張が解かれる。このようにして、引張手段は、ねじりばねのように作用し、このため、引張手段は独立して応力を有し、少なくとも1つのピストンロッドの固定点との間において撓むことがない。好適には、引張手段は耐蝕性の材料で形成する。
【0017】
好適には、送り機構は、駆動装置により生じた送り運動を伝達するため、回転体と係合可能な力伝達面を有する送りつめ部材を備える。このとき、送りつめ部材から回転体への送り力の伝達は、摩擦係合的および/または形状係合的に生ずることができる。送りつめ部材は、例えば、駆動装置と連結するレバー機構と連結してもよい。駆動装置が作動すると、ドラムユニットの回転体は一定量回転し、このとき、相応の長さの引張手段が、回転体に巻き取られる。結果として、少なくとも1個のピストンロッドは相応量動かされ、相応量の物質が受容器から吐出される。
【0018】
好適には、送り機構は、回転体をある位置に把持するための、回転体と係合可能な係合面を有する把持つめ部材を備える。このとき、把持つめ部材から回転体への把持力の伝達は、摩擦係合的および/または形状係合的に生ずることができる。把持つめ部材は、ドラムユニットの回転体を回転移動後の位置に把持し、とくに、断続的な駆動装置において、回転体が予期せず回転方向とは逆方向に移動するのを阻止する。ドラムユニットおよび駆動装置の形態に応じて、送りつめ部材は省略することができ、例えば把持つめ部材のみをドラムユニットに設けることができる。
【0019】
好適には、送りつめ部材の力伝達面および/または把持つめ部材の当接面に歯を設け、これら歯は、ドラムユニットの回転体の外面に設けた歯に噛合する構成とする。送りつめ部材および/または把持つめ部材の歯は、好適には、回転体の歯に対して相補的形状に構成する。この構成により、送りつめ部材および/または把持つめ部材からの好適な摩擦係合的な力伝達が可能となる。
【0020】
好適には、送りつめ部材の力伝達面の長手方向長さは、ドラムユニットの回転体の周方向に10°〜90°の角度領域にわたり延在する長さとする。この構成により、送り力を伝達するために好適な長さを得ることができる。送りつめ部材の歯には、10°からの角度領域に延在する長手方向長さにわたり、回転体に充分に力を伝えるのに充分な個数の歯を備える。好適には、送りつめ部材の力伝達面の長手方向長さは、ドラムユニットの回転体の周方向に40°〜75°の角度領域にわたり延在する長さとする。
【0021】
好適には、把持つめ部材の係合面の長手方向長さは、ドラムユニットの回転体の周方向に10°〜90°の角度領域にわたり延在する長さとする。この構成により、把持力を伝達するために好適な長さを得ることが出来る。把持つめ部材の歯には、10°からの角度領域に延在する長手方向長さにわたり、回転体に充分に力をつたえるのに充分な個数の歯を備える。好適には、把持つめ部材の係合面の長手方向長さは、ドラムユニットの回転体の周方向に40°〜75°の角度領域にわたり延在する長さとする。
【0022】
好適には、送りつめ部材および/または把持つめ部材は、ドラムユニットの方向にプリストレスを加える。この構成により、送りつめ部材および/または把持つめ部材のドラムユニットの回転体に対する係合は、建造部分に対して吐出装置をあらゆる向きに構えても、保証することができる。さらに、送りつめ部材および/または把持つめ部材から、もしくはドラムユニットの回転体からの力伝達が確実に行われる。
【0023】
好適には、ドラムユニットを解放するための解放機構を設ける。この解放機構は、ドラムユニットの緊張を解放し、少なくとも1個のピストンロッドをその初期位置に動かすことができる。この状態において、吐出後の受容器を収容部から取り出し、新しい受容器を収容部に装填することができる。少なくとも1個のピストンロッドは、解放機構の操作後は、好適には手動で、その初期位置に移動することができる。
【0024】
好適には、解放機構の解放位置において、送りつめ部材および/または把持つめ部材は、ドラムユニットの回転体との係合から離脱する構成とする。とくに、送りつめ部材および/または把持つめ部材が、歯を介して回転体に力を伝達するとき、解放機構を操作することで、つめ部材とドラムユニットとの間の噛合が解け、少なくとも1個のピストンロッドを初期位置に簡単に動かすことができる。
【0025】
好適には、送りつめ部材および/または把持つめ部材に、それぞれ、突出するピンを設け、これらピンは、解放機構を作動させるときに、送りつめ部材および/または把持つめ部材をガイドするための、それぞれ対応する構造を持つ、解放機構の制御カーブと係合可能とする。解放機構が作動すると、送りつめ部材および/または把持つめ部材は回転体との係合から離脱し、離脱したその瞬間に、この制御曲面に沿って摺動し、制御曲面の形態によって制御可能となる。この実施形態によれば、送りつめ部材および/または把持つめ部材とドラムユニットの回転体との係合の離脱および係合が簡単に達成される。
【0026】
好適には、解放機構には、送りつめ部材および/または把持つめ部材がドラムユニットの回転体と係合する位置に解放機構を移行させるためのリセット素子を設ける。このリセット素子は、好適にはばね素子、とくに好適には、トーションばねとする。リセット素子は、解放機構の作動時における、送りつめ部材および/または把持つめ部材とドラムユニットの回転体との簡単な係合を実現する。
【0027】
好適には、駆動装置は、ドラムユニットの回転体を回転させるための、手動操作可能な操作レバーを備える。この操作レバーは直接または間接的にレバー機構を介してドラムユニットの回転体に作用する構成とする。
【0028】
他の実施形態において、駆動装置は、ドラムユニットの回転体を回転させるためのモータを備える。この構造により、簡単に制御可能な回転体の駆動装置が実現される。好適には、例えば電力網から、および/または蓄電池により駆動可能なモータとの間に、モータから発生した回転運動をドラムユニットの回転体に伝達するためのギアを設ける。モータによって、回転体は不連続的にも連続的にも駆動することができる。モータがドラムユニットの回転体をある位置に把持するため、ドラムユニットの回転体を把持するための例えば把持つめ部材などの別個のロック手段は省略することができる。
【0029】
以下図面につき本発明の2つの実施形態について詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明吐出装置の第1実施形態における縦断面図である。
【図2】本発明吐出装置の第1実施形態における頂面図である。
【図3】送り位置におけるドラムユニットの詳細図である。
【図4】解放位置におけるドラムユニットの詳細図である。
【図5】ドラムユニットの解放機構の詳細図である。
【図6】本発明吐出装置の第2実施形態における縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1および2に示す、物質を貯留する受容器6のための吐出装置11は、受容器6のための収容部12を備える。この収容部12は、軸線方向を、ヘッドプレート13、および送りユニット31のハウジング33の一部である後方仕切り壁32によって画定し、側方を側壁14によって画定する。さらに、この吐出装置11は、2個の、互いに平行に配置したピストンロッド21を備える。これらピストンロッド21の収容部12に対向する端部22に、それぞれ押圧力伝達手段23としてのピストンを設け、これとは反対側の端部24は、ヨーク25によって互いに連結する。収容部12に隣接する送りユニット31は、ピストンロッド21を収容部12の方向に動かすため、駆動装置41および送り機構51を備える。この送り機構51は、引張手段52としての、曲がり易く、ある程度の可撓性を有するバンドと、駆動装置41として、引張手段52のための回転体62を有するドラムユニット61とを備える。引張手段52は、ピストンロッド21の収容部側とは反対側の端部24の領域で、双方のピストンロッド21を連結する横筋交い26に固定し、ドラムユニット61の回転体62に巻き取り可能とする。図示しない代替実施形態において、引張手段52は、ヨーク25に直接、または、ピストンロッド21の一方にのみ固定することもできる。
【0032】
駆動装置41は、その送りユニット21から突出するグリップ39に固定グリップ40を備え、軸受部46に旋回可能に固定した、手動操作可能な操作レバー43を有する。
【0033】
図3〜5に、それぞれ異なる状態におけるドラムユニット61の詳細を示す。ドラムユニット61における円筒形状の回転体62の外面には、周方向に延在する歯63を設ける。さらに、送り機構51には、駆動装置41から生じる送り運動を伝えるための、回転体62と係合可能な力伝達面を有する送りつめ部材64と、回転体62をある位置に把持するための、回転体62と係合可能な係合面を有する把持つめ部材71とを設ける。送りつめ部材64の力伝達面には歯65を設け、把持つめ部材71の係合面には歯72を設ける。これら歯65,72は、回転体62に設けた歯63に対して相補的形状に構成し、係合状態で、この歯63に噛合する。
【0034】
送りつめ部材64の力伝達面の長手方向長さL1は、ドラムユニット61の回転体62における周囲の30°〜90°、好適には45°〜75°の角度領域にわたり延在する。把持つめ部材71の係合面の長手方向長さL2は、ドラムユニット61の回転体62における周囲の10°〜90°、好適には45°〜75°の角度領域にわたり延在するものとする。例えば、送り機構51の素子の製造を簡単にするためには、送りつめ部材64および把持つめ部材71は、特にその力伝達面および係合面に関して、基本的に同じ形態にすると好ましいが、把持つめ部材71および送りつめ部材64を異なる長手方向長さにすることもできる。
【0035】
送りつめ部材64は、伝達レバー45の軸受ポイント66に旋回可能に固定する。この伝達レバー45は、駆動装置41の運動をドラムユニット61の回転体62に伝える作用を持つ。さらに、送りつめ部材64は、ばね68によって、回転体62の方向に付勢する。このばね68は、一方では、送りつめ部材64の軸受ポイント66とは反対側の端部領域に、他方では、送りユニット31のハウジング33の固定保持ポイント69に固定する。
【0036】
把持つめ部材71は、送りユニット31のハウジング33の軸受ポイント75に旋回可能に固定する。さらに、把持つめ部材71は、ばね73によって回転体62の方向に付勢する。このばね73は、一方では、把持つめ部材71の軸受ポイント75とは反対側の端部領域に、他方では、送りユニット31のハウジング33の固定保持ポイント74に固定する。
【0037】
ドラムユニット61を解放するための解放機構81を設け、この解放機構81は、解放ディスク82に設けた解放レバー83を有する。解放機構81が解放位置にあるとき、送りつめ部材64および把持つめ部材71は、ドラムユニット61の回転体62との係合から離脱する。送りつめ部材64には、引張手段52の長手方向に対して直交する方向に延在するピン70を設ける。このピン70は、ドラムユニット61を解放する際、送りつめ部材64をガイドするよう、解放ディスク82に形成した対応する制御曲面84と当接可能であり、この制御曲面84に沿って摺動する。把持つめ部材71には、引張手段52の長手方向に対して直交する方向に延在するピン76を設ける。このピン76は、ドラムユニット61を解放する際、把持つめ部材71をガイドするよう、解放ディスク82に形成した対応する制御曲面85と当接可能であり、この制御曲面85に沿って摺動する。
【0038】
固定グリップ40方向に操作レバー43を旋回させる際、レバー装置44と、ドラムユニット61の回転体62の軸受軸線67に旋回可能に取付けた伝達レバー45とによって、回転体62が回転する。伝達レバー45に連結した送りつめ部材64が、同じく反時計方向に回転運動するからである。送りつめ部材64はばね付勢されているため、歯65は、ドラムユニット61の回転体62における外面の歯63と噛合し、これにより、ドラムユニット61は、その軸受軸線67周りを反時計方向に回転する。
【0039】
ドラムユニット61の回転体62に固定した引張手段52は、断続的に、つまり操作レバー43を操作する度毎に、対応する長さだけ、ドラムユニット61の回転体62に巻き付けられる。回転体62が、ここでは反時計方向に回転することによって、ピストンロッド21の収容部12とは反対側の端部24と、送りユニット31との間の距離が短くなり、同時に、ピストンロッド21は、収容部12の方向に移動し、受容器6内の物質が吐出される。
【0040】
操作レバー43を操作する度毎に動く角度範囲は限られているため、新しく操作レバー43を操作する前には、操作レバー43を元の位置に復帰させる必要がある。この復帰動作中、引張力が加わっている引張手段52をその位置に保持しなければならない。この機能は、把持つめ部材71が果たす。把持つめ部材71は、ドラムユニット61の回転体62を引張手段52の巻き取り方向とは逆方向の回転を阻止する。把持つめ部材71は、回転体62を、反時計方向(図示の実施形態においては)に送る際にスリップし、送り回転運動の終了後に予期されぬ回転体62の時計方向への回転を阻止する。操作レバー43が復帰した後には、駆動装置41は次の吐出作業のために再び使用可能な状態となる。
【0041】
引張手段52を完全に巻き取る、または収容部12内に収容した受容器6を他の受容器6に交換するとき、ピストンロッド21を、後方に引き戻した位置に移動し、引張手段52を、再びドラムユニット61の回転体62から繰り出す。このとき、解放機構81の解放ディスク82は時計方向に10°〜30°旋回し、送りつめ部材64のピン70は制御曲面84に、把持つめ部材71のピン76は制御曲面85にそれぞれ係合し、このため、送りつめ部材64および把持つめ部材71が、ドラムユニット61の回転体62から離れ、これら歯65,72が、回転体62の外面の歯63との係合から離脱する。このようにして、ドラムユニット61は自由に運動可能になり、また、ピストンロッド21は初期位置に移動する。
【0042】
解放機構81の解放ディスク82は、リセット素子86として、例えばトーションばねなどのばね素子を備える。このリセット素子86により、解放機構81のリセットを簡単に行うことができ、送りつめ部材64の歯65と、把持つめ部材71の歯72とが、再び、ドラムユニット61の回転体62の歯63と形状規制ロック状に係合する。送りつめ部材64および把持つめ部材71は、それぞれ、これらに作用するばね68,73によって、ドラムユニット61における回転体62の外面の歯63に噛合する位置に移動する。ばね68,73の形態に応じて、送りつめ部材64および把持つめ部材71がドラムユニット61の回転体62に係合する初期位置に完全にリセットするのに、解放機構81の解放ディスク82には個別のリセット素子86は必要ない。なぜなら、解放ディスク82が、送りつめ部材64および把持つめ部材71に作用するばね力によって、ピン70,76を介してその初期位置に移動するからである。
【0043】
図6に示す吐出装置111は、上述の吐出装置11と異なり、駆動装置116としてモータ112を備える。押圧スイッチ114を操作する際、モータ112は、好適にはギア113によって、ドラムユニット121の回転体122を回転して、引張手段52を巻き取る。モータ112はギア113により直接回転体122に動力を伝え、静止状態においては回転体122の回転を阻止するため、上述の送り機構51とは違い、送りつめ部材64も把持つめ部材71も必要としない。
【0044】
さらに、モータ112の逆回転により、巻き取った引張手段52を、モータにより繰り出す、またはギア113もしくはモータ112がドラムユニット121との係合から離脱することで、ピストンロッド21の後方移送を可能にする。
【符号の説明】
【0045】
6 受容器
11 吐出装置
12 収容部
13 ヘッドプレート
14 側壁
21 ピストンロッド
22 端部
23 押圧力伝達手段
24 端部
25 ヨーク
26 横筋交い
31 送りユニット
32 仕切り壁
33 ハウジング
39 グリップ
40 固定グリップ
41 駆動装置
43 操作レバー
44 レバー装置
45 伝達レバー
46 軸受部
51 送り機構
52 引張手段
61 ドラムユニット
62 回転体
63 歯
64 送りつめ部材
65 歯
66 軸受ポイント
67 軸受軸線
68 ばね
69 把持ポイント
70 ピン
71 把持つめ部材
72 歯
73 ばね
74 把持ポイント
75 軸受ポイント
76 ピン
81 解放機構
82 解放ディスク
83 解放レバー
84 制御曲面
85 制御曲面
86 リセット素子
111 吐出装置
112 モータ
113 ギア
114 押圧スイッチ
116 駆動装置
122 回転体
L1 長手方向長さ
L2 長手方向長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質を貯留する受容器(6)のための吐出装置であって、
前記受容器(6)のための収容部(12)と、
この収容部(12)側の端部(22)に押圧力伝達手段(23)を有する少なくとも1個のピストンロッド(21)と、
駆動装置(41;116)および送り機構(51)を有し、前記少なくとも1個のピストンロッド(21)を前記収容部(12)の方向に移動させるための送りユニット(31)と、
を備える該吐出装置において、
前記送り機構(51)は少なくとも1個の引張手段(52)を有し、前記駆動装置(41;116)は、前記引張手段(52)のための回転体(62;122)を設けたドラムユニット(61;121)を有し、
前記引張手段(52)は、一方では、前記少なくとも1個のピストンロッド(21)の前記収容部(12)側とは反対側の端部(24)の領域に固定し、他方では、前記ドラムユニット(61;21)の前記回転体(62;122)に巻き取り可能にしたことを特徴とする吐出装置。
【請求項2】
請求項1記載の吐出装置において、前記引張手段(52)を、曲がり易いバンドとした吐出装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の吐出装置において、前記送り機構(51)は、前記駆動装置(41)により生ずる送り運動を伝達するため、前記回転体(62)に係合可能な力伝達面を有する送りつめ部材(64)を備える吐出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の吐出装置において、前記送り機構(51)は、前記回転体(62)をある位置に把持するための、前記回転体(62)に係合可能な係合面を有する把持つめ部材(71)を備える吐出装置。
【請求項5】
請求項3または4記載の吐出装置において、前記送りつめ部材(64)の前記力伝達面に歯(65)を設ける、および/または前記把持つめ部材(71)の係合面に歯(72)を設ける構成とし、これら歯(65,72)を、前記ドラムユニット(61)の前記回転体(62)の外面に設けた歯(63)に噛合する構成とした、吐出装置。
【請求項6】
請求項3〜5のうちいずれか一項に記載の吐出装置において、前記送りつめ部材(64)の前記力伝達面の長手方向長さ(L1)は、前記ドラムユニット(61)の前記回転体(62)の周方向に10°〜90°の角度領域にわたり延在するものとした、吐出装置。
【請求項7】
請求項3〜6のうちいずれか一項に記載の吐出装置において、前記把持つめ部材(71)の前記係合面の長手方向長さ(L2)は、前記ドラムユニット(61)の前記回転体(62)の周方向に10°〜90°の角度領域にわたり延在するものとした、吐出装置。
【請求項8】
請求項3〜7のうちいずれか一項に記載の吐出装置において、前記送りつめ部材(64)および/または前記把持つめ部材(71)には、前記ドラムユニット(61)の前記回転体(62)方向にプリストレスを加えた、吐出装置。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか一項に記載の吐出装置において、前記ドラムユニット(61)を解放するための解放機構(81)を設けた吐出装置。
【請求項10】
請求項8記載の吐出装置において、前記解放機構(81)の解放位置において、前記送りつめ部材(64)および/または前記把持つめ部材(71)は、前記ドラムユニット(61)の前記回転体(62)との係合から離脱する構成とした、吐出装置。
【請求項11】
請求項10記載の吐出装置において、前記送りつめ部材(64)および/または前記把持つめ部材(71)に、それぞれ、突出するピン(70または76)を設け、これらピン(70または76)は、前記解放機構(81)を作動させるときに、前記送りつめ部材(64)および/または前記把持つめ部材(71)をガイドするための、それぞれ対応する構造を持つ、前記解放機構(81)の制御曲面(84,85)に係合可能とした吐出装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載の吐出装置において、前記解放機構(81)には、前記送りつめ部材(64)および前記把持つめ部材(71)が前記ドラムユニット(61)の前記回転体(62)と係合する位置に前記解放機構(81)を移行させるためのリセット素子(86)を設けた吐出装置。
【請求項13】
請求項1〜12のうちいずれか一項に記載の吐出装置において、前記駆動装置(41)に、前記ドラムユニット(61)の前記回転体(62)を回転させるための、手動操作可能な操作レバー(43)を設けた吐出装置。
【請求項14】
請求項1〜13のうちいずれか一項に記載の吐出装置において、前記駆動装置(116)に、前記ドラムユニット(121)の前記回転体(122)を回転させるためのモータ(112)を設けた吐出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−502(P2010−502A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143652(P2009−143652)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【Fターム(参考)】