説明

含ケイ素ポリマーおよびその製造方法並びに光学材料

【課題】屈折率が低く、優れた耐熱性を有する新規な含ケイ素ポリマーおよびその製造方法並びに光学材料を提供する。
【解決手段】含ケイ素ポリマーは、下記で表されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルセストオキサン骨格を有する含ケイ素ポリマーおよびその製造方法、並びにこの含ケイ素ポリマーよりなる光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズ、光学フィルム、光ファイバー、光導波路などの光学製品に用いられる光学材料としては、軽量、成形加工性などの観点から、ガラスなどの無機材料に代わり有機高分子材料が使用されている。かかる有機高分子材料としては、目的とする光学製品に要求される、屈折率や、透明性、低複屈折性、低光伝送損失性、高耐熱性などの光学特性に応じて種々のものが用いられており、低屈折率が要求される光学材料としては、主に含フッ素ポリマーが用いられている。
然るに、フッ素などのハロゲンを含有する化合物は、焼却時にダイオキシンなどの有害物質が発生するものであるため、環境負荷低減化の観点から、非フッ素系のポリマーの開発が望まれている。
そして、最近においては、優れた耐熱性、透明性を有する有機−無機ハイブリッド材料として、シルセスキオキサン誘導体から得られる、分枝骨格を有する含ケイ素ポリマーが提案されている(特許文献1乃至特許文献4等参照。)
【0003】
【特許文献1】特開2006−70049号公報
【特許文献2】特開2007−182528号公報
【特許文献3】特開2007−298841号公報
【特許文献4】特開2007−308527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、屈折率が低く、優れた耐熱性を有する新規な含ケイ素ポリマーおよびその製造方法、並びにこの含ケイ素ポリマーよりなる光学材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の含ケイ素ポリマーは、下記式(1)で表されるものである。
【0006】
【化1】

【0007】
〔式(1)において、Rは、フェニル基、シクロアルキル基またはアルキル基を示し、Xは3価の基を示す。〕
【0008】
本発明の含ケイ素ポリマーにおいては、上記式(1)におけるXが、下記式(a)、下記式(b)または下記式(c)で表される3価の基であることが好ましい。
【0009】
【化2】

【0010】
〔式(c)において、R1 は、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基を示す。〕
【0011】
本発明の含ケイ素ポリマーの製造方法は、下記式(2)で表されるシルセスキオキサン誘導体と、下記式(3)で表されるトリビニル化合物とをヒドロシリル化反応させることを特徴とする。
【0012】
【化3】

【0013】
〔式(2)において、Rは、フェニル基、シクロアルキル基またはアルキル基を示し、式(3)において、Xは3価の基を示す。〕
【0014】
本発明の含ケイ素ポリマーの製造方法においては、上記式(3)におけるXが、上記式(a)、上記式(b)または上記式(c)で表される3価の基であることが好ましい。
【0015】
本発明の光学材料は、上記の含ケイ素ポリマーよりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の含ケイ素ポリマーは、屈折率が低く、優れた耐熱性を有するものであり、光学レンズ、光学フィルム、光ファイバー、光導波路などの光学製品に用いられる光学材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の含ケイ素ポリマーは、上記式(1)で表されるものである。上記式(1)において、Rは、フェニル基、シクロアルキル基またはアルキル基であり、好ましくはフェニル基である。また、Xは3価の基であり、好ましくは上記式(a)、上記式(b)または上記式(c)で表される3価の基である。これらの中では、化学構造中に空隙を有することから、式(c)で表される基を有するものが、より低い屈折率が得られる。
本発明の含ケイ素ポリマーにおいては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算の数平均分子量Mnが5×103 〜5×105 、分子量分布Mw/Mnが1.5〜10であることが好ましい。
【0018】
本発明の含ケイ素ポリマーは、上記式(2)で表されるシルセスキオキサン誘導体(以下、「特定のシルセスキオキサン誘導体」という。)と、上記式(3)で表されるトリビニル化合物(以下、「特定のトリビニル化合物」という。)とを、ヒドロシリル化反応により重合させることによって得られる。ここで、特定のシルセスキオキサン誘導体は、例えば国際公開WO03/024870号パンプレットに記載された方法によって得られる。
【0019】
特定のトリビニル化合物の具体例としては、トリビニルメチルシラン、1,3,5−トリビニル−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン、endo−3,7,14−トリス(ジメチルシリロキシ)−1,3,5,7,9,11,14−ヘプタシクロペンチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、トリビニルメトキシシラン、トリビニルエトキシシラン、1,3,5−トリビニル−1,1,3,5,5−ペンタメチルトリシロキサン、トリス(ビニルジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ビニルジメチルシロキシ)フェニルシラン、1,3,5−トリビニル−1,3,5−トリメチルシクロトリシラザンなどを挙げることができ、これらの中では、上記式(3)におけるXが、上記式(a)、上記式(b)または上記式(c)で表されるもの、具体的には、トリビニルメチルシラン、1,3,5−トリビニル−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン、endo−3,7,14−トリス(ジメチルシリロキシ)−1,3,5,7,9,11,14−ヘプタシクロペンチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサンが好ましい。
【0020】
特定のシルセスキオキサン誘導体と特定のトリビニル化合物との使用割合は、特定のシルセスキオキサン誘導体におけるSiH基:特定のトリビニル化合物におけるビニル基が、モル比で3:2〜1:1となる割合が好ましい。
【0021】
特定のシルセスキオキサン誘導体と特定のトリビニル化合物とのヒドロシリル化反応においては、必要に応じて溶媒を用いることができる。かかる溶媒としては、ヒドロシリル化反応の進行を阻害しないものであれば特に限定されず、種々のものを用いることができ、その具体例としては、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒などが挙げられる。これらの中では、芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、特にトルエンが好ましい。
溶媒の使用量は、特定のシルセスキオキサン誘導体の濃度が0.01〜1mol/Lとなる量が好ましい。
【0022】
ヒドロシリル化反応触媒としては、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができるが、白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(カルステッド触媒:Karstedt’s catalyst)、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(スパイエル触媒:Speier’s catalyst)などの白金錯体化合物を好適に用いることができる。
このような触媒の使用割合は、特定のシルセスキオキサン誘導体中のSiH基1molに対し、例えば1×10-5〜1×10-3molである。
また、ヒドロシリル化反応の反応条件としては、例えば反応温度が25〜120℃、反応時間が0.5〜24時間である。
【0023】
本発明の含ケイ素ポリマーは、汎用の有機溶媒に可溶なものである。かかる有機溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドン等のケトン類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩化脂肪族炭化水素類などが挙げられる。
【0024】
本発明の含ケイ素ポリマーは、屈折率が低く、優れた耐熱性を有するものであり、光学レンズ、光学フィルム、光ファイバー、光導波路などの光学製品に用いられる光学材料として有用である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例において、特定のシルセスキオキサン誘導体としては、式(2)において、Rがフェニル基のものを使用した。
また、数平均分子量Mnおよび分子量分布Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定された標準ポリスチレン換算のものを示す。
【0026】
〈実施例1〉
特定のシルセスキオキサン誘導体0.15g(130μmol)およびトリビニルメチルシラン0.011g(86.7μmol)を(SiH基:ビニル基がモル比で1:1)、乾燥トルエン0.5mLに溶解し(特定のシルセスキオキサン誘導体の濃度が0.26mol/L)、この溶液に白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体0.1Mキシレン溶液2.6μL(0.26μmol,SiH基1molに対して1×10-4molとなる量)を室温で添加した。その後、反応溶液は淡黄色に変色し、当該反応溶液を50℃で1時間反応させた。そして、反応溶液をメタノールを用いて再沈殿処理することにより精製し、減圧乾燥することにより、白色粉末0.15gを得た。収率は93%であった。
得られた生成物を 1H−NMR分析した結果、式(1)においてRがフェニル基、Xが式(a)で表される基である含ケイ素ポリマーであることが確認された。生成物の 1H−NMRスペクトル図を図1に示す。
得られたポリマーの数平均分子量Mnは98100、分子量分布Mw/Mnは5.30であった。
また、このポリマーは、トルエン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、クロロベンゼンなどの汎用有機溶媒に可溶なものであった。
【0027】
〈実施例2〉
特定のシルセスキオキサン誘導体0.15g(130μmol)および1,3,5−トリビニル−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン0.022g(86.7μmol)を(SiH基:ビニル基がモル比で1:1)、乾燥トルエン0.5mLに溶解し(特定のシルセスキオキサン誘導体の濃度が0.26mol/L)、この溶液に白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体0.1Mキシレン溶液2.6μL(0.26μmol,SiH基1molに対して1×10-4molとなる量)を室温で添加した。その後、反応溶液は淡黄色に変色し、当該反応溶液を50℃で1.5時間反応させた。そして、反応溶液をメタノールを用いて再沈殿処理することにより精製し、減圧乾燥することにより、白色粉末0.12gを得た。収率は68%であった。
得られた生成物を 1H−NMR分析した結果、式(1)においてRがフェニル基、Xが式(b)で表される基である含ケイ素ポリマーであることが確認された。生成物の 1H−NMRスペクトル図を図2に示す。
得られたポリマーの数平均分子量Mnは51600、分子量分布Mw/Mnは2.80であった。
また、このポリマーは、トルエン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、クロロベンゼンなどの汎用有機溶媒に可溶なものであった。
【0028】
〈実施例3〉
特定のシルセスキオキサン誘導体76.7mg(66.5μmol)およびendo−3,7,14−トリス(ジメチルシリロキシ)−1,3,5,7,9,11,14−ヘプタシクロペンチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン50.0mg(44.3μmol)を(SiH基:ビニル基がモル比で1:1)、乾燥トルエン0.5mLに溶解し(特定のシルセスキオキサン誘導体の濃度が0.13mol/L)、この溶液に白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体0.1Mキシレン溶液1.3μL(0.26μmol,SiH基1molに対して1×10-4molとなる量)を室温で添加した。その後、反応溶液は淡黄色に変色し、当該反応溶液を50℃で1時間反応させた。そして、反応溶液をメタノールを用いて再沈殿処理することにより精製し、減圧乾燥することにより、白色粉末95.8mgを得た。収率は76%であった。
得られた生成物を 1H−NMR分析した結果、式(1)においてRがフェニル基、Xが式(c)で表される基(但し、R1 がいずれもシクロペンチル基)である含ケイ素ポリマーであることが確認された。生成物の 1H−NMRスペクトル図を図3に示す。
得られたポリマーの数平均分子量Mnは12700、分子量分布Mw/Mnは3.32であった。
また、このポリマーは、トルエン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、クロロベンゼンなどの汎用有機溶媒に可溶なものであった。
【0029】
[ポリマーの特性]
実施例1〜実施例3で得られた含ケイ素ポリマー、および参考例として、1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼンとトリビニルメチルシランとをヒドロシリル化反応により重合して得られた含ケイ素ポリマー(数平均分子量Mn=14500,分子量分布Mw/Mn=10.3)について、下記(1)および下記(2)の特性を調べた。
(1)5%重量減少温度:
窒素雰囲気下、昇温温度10℃/minの条件で、熱重量−示唆熱分析を行うことにより、5%重量減少温度を測定した。
(2)屈折率:
ポリマーをトルエンに溶解し、得られた溶液をスピンコート法によりシリコン基板上に塗布して乾燥させることにより、厚みが0.1μmの薄膜を製造し、この薄膜について、エリプソメーターにより、波長632.8nmの光の屈折率を測定した。
結果を表1に示す。
【0030】

【表1】

【0031】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜実施例3に係る含ケイ素ポリマーは、屈折率が低く、高い耐熱性を有するものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1で得られたポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図2】実施例2で得られたポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。
【図3】実施例3で得られたポリマーの 1H−NMRスペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される含ケイ素ポリマー。
【化1】

〔式(1)において、Rは、フェニル基、シクロアルキル基またはアルキル基を示し、Xは3価の基を示す。〕
【請求項2】
式(1)におけるXが、下記式(a)、下記式(b)または下記式(c)で表される3価の基であることを特徴とする請求項1に記載の含ケイ素ポリマー。
【化2】

〔式(c)において、R1 は、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基を示す。〕
【請求項3】
下記式(2)で表されるシルセスキオキサン誘導体と、下記式(3)で表されるトリビニル化合物とをヒドロシリル化反応させることを特徴とする含ケイ素ポリマーの製造方法。

【化3】

〔式(2)において、Rは、フェニル基、シクロアルキル基、アルキル基を示し、式(3)において、Xは3価の基を示す。〕
【請求項4】
式(3)におけるXが、請求項2に記載の式(a)、式(b)または式(c)で表される3価の基であることを特徴とする請求項3に記載の含ケイ素ポリマーの製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の含ケイ素ポリマーよりなることを特徴とする光学材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−269989(P2009−269989A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121152(P2008−121152)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】