説明

含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン及びその製法

【課題】一分子当たりのフッ素含有量と平均SiH結合数の双方が、従来のものよりも多い、含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン及びその製造方法の提供。
【解決手段】環状含フッ素ハイドロジェンシロキサンを、該環状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対して、0.001〜1.0モルの酸触媒の存在下で、20〜120℃の温度で開環反応させる工程を含む、含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素原子に結合した水素原子(以下「SiH結合」という)とフッ素含有基を有し、特にフッ素系ポリマーの架橋剤として有用である含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン、それを含む組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンをベースポリマーとし、これにSiH結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを架橋剤として配合したシリコーンゴム組成物は種々の用途に使用されている。該シリコーンゴム組成物は、架橋剤のSiH結合とベースポリマーのアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化反応)することにより硬化する。
【0003】
しかしながら、ベースポリマーとして、フッ素含有率の高いフロロシリコーンやフッ素系ポリマーを用いる場合には、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを架橋剤として用いても、ベースポリマーとの相溶性が悪いため、良好な硬化物を得ることが難しい。
【0004】
フロロシリコーンやフッ素系ポリマーとの相溶性を高めて上記問題を解決すべく、さまざまな含フッ素ハイドロジェンポリシロキサンの検討がなされている。たとえば、下記式(a)及び(b)で表される両末端にフルオロアルキル基、フルオロエーテル基を導入した側鎖多官能型SiH化合物(特許文献1);

下記式(c)で表される、環状ハイドロジェンシロキサン化合物に、フルオロアルキル基を部分付加で導入した化合物(特許文献2);


式(d)及び(e)で表される環状ハイドロジェンシロキサン化合物に、パーフルオロ基を部分付加で導入した化合物(特許文献3、4);




(e)
が知られている。
【0005】
式(a)または(b)で表される化合物は、通常、下記式に示すように


(nは1以上の整数)
含フッ素ジシロキサンと環状ハイドロジェンシロキサンの酸触媒下での平衡化反応で合成される。該方法は、一分子中に含まれるSiH結合の平均数を多くすることが容易である。しかし、生成物中には、未反応の含フッ素ジシロキサンやSiH結合を一つしか含まない(n=1)化合物も含まれる。これを除去するために、原料である含フッ素ジシロキサンが蒸留可能である必要があり、両末端に導入できるフッ素化構造の分子量は余り大きく出来ず、フッ素含有量の増加による相溶性の向上が難しい。
【0006】
一方、(c)、(d)、(e)のような化合物は下記のような環状ハイドロジェンシロキサンへの含フッ素化合物の部分付加反応で合成される。


該反応においては、通常、環状ハイドロジェンシロキサンを過剰に用いて未反応分を除去する為、含フッ素化合物が蒸留可能である必要は無い。また、フッ素含有基の分子量を調整することでフロロシリコーンとの相溶性を向上することができるが、環状ハイドロジェンシロキサンの構造上、一分子中に含まれるSiH結合の数は2〜4程度に留まる。
【特許文献1】特開平6−306086号公報
【特許文献2】特開平9−221489号公報
【特許文献3】特開平8−3178号公報
【特許文献4】特開2006−22319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、一分子当たりのフッ素含有量と平均SiH結合数の双方が、従来のものよりも多い、含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は下記式(1)で表される鎖状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサンである。


[mは2以上の整数、nは2以上の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよく、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rfは以下の式(3)で表されるパーフルオロオキシアルキル基であり、

(a、b、c、dは、Rfの分子量が400〜30,000となるような数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい)
Xは互いに独立に、水素原子もしくは下記式(4)で表されるトリアルキルシリル基である


(Rは互いに独立に、水素原子もしくは炭素数1〜20のアルキル基である)]
【0009】
また、本発明は、下記式(2)で示される環状含フッ素ハイドロジェンシロキサンを、該環状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対して、0.001〜1.0モルの酸触媒の存在下で、20〜120℃の温度で開環反応させる工程を含む、上記式(1)の含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサンの製造方法である。

[eは1又は2、fは1以上の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよく、R及びRfは上記の通りである]
【発明の効果】
【0010】
上記、本発明の鎖状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサンは、分子当たりのSiH結合の平均数が従来のものよりも多く、ヒドロシリル化反応において架橋剤として使用した場合に分子当たりの架橋点が多い。また、分子当たりのフッ素含有量が多く、フッ素系溶媒、特にフロロシリコーンとの相溶性に優れる。また、上記本発明の方法によれば、アミド結合を分解等することなくフッ素含有基を導入することができ、且つ、平衡化反応による、フッ素含有基を有しない環状ハイドロジェンシロキサンの発生も殆ど無しに開環オリゴメリゼーションが進行し、フッ素含有量及びSiH結合の数が多い組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記式(1)において、m及びnは、夫々2以上の整数である。これらの数の上限については特に制限はないが、Rfの分子量に依存して、取り扱い性等の観点から実際上m=2〜4、n=6〜12程度であり、異なるm、nの混合であってもよい。各カッコ内の繰り返し単位の配列は、ブロック状である必要はなく、ランダムであってよい。
【0012】
上記式(1)及び(2)において、Rは、それぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などを挙げることができ、好ましくは、脂肪族不飽和結合を含まない炭素原子数が1〜10のものであり、さらに好ましくは、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、及び炭素数7〜10のアラルキル基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0013】
Rfは式(3)で表される。

ここで、a、b、c、dは、Rfの分子量が400〜30,000、好ましくは400〜5,000、より好ましくは900〜5,000となるような数であり、例えば、aが5〜30、bが0〜30、cが0〜20、dが0〜20である。また、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい。
【0014】
Xは互いに独立に、水素原子もしくは下記式(4)で表されるトリアルキルシリル基である。


式(4)において、Rは、互いに独立に、水素原子もしくは炭素数1〜20のアルキル基であり、例えば前述のRについて例示したアルキル基が包含される。好ましくは、R1は水素原子又はメチル基である。
【0015】
式(1)で表される鎖状シロキサン(以下「鎖状シロキサン(1)」という)は、式(2)で表される環状シロキサン(以下「環状シロキサン(2)」という)を、酸触媒の存在下で、開環重合させて得ることができる。
【0016】
式(2)において、eは1又は2であり、fは1以上、好ましくは2以上の整数であり、異なる複数の種類のものの混合物であってよい。式(1)と同様に、繰返し単位の配列はランダムであってよい。好ましくは、e+fは3以上であり、より好ましくはe+fが3〜5である。
【0017】
環状シロキサン(2)は、例えば、大過剰の環状ハイドロジェンシロキサン、好ましくは1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7、9−ペンタメチルシクロペンタシロキサンの何れかもしくはそれらの混合物に、Rf基と不飽和基を有する化合物、例えば下記式で表される化合物を、

定法に従い、ヒドロシリル化反応で部分付加させた後に、未反応の上記環状ハイドロジェンシロキサンを留去することで得ることが出来る。
【0018】
酸触媒としては、例えば環状シロキサン化合物の開環反応に用いられる公知の酸触媒を使用することが出来るが、なかでも、トリフルオロメタスルホン酸、無水硫酸が好ましい。酸触媒の量は、通常、環状シロキサン(2)に対してモル比で0.001〜1.0倍、特に好ましくは0.01〜0.5倍である。また触媒の配合方法としては例えば環状シロキサン(2)と当モルの酸触媒を混合し、反応を開始した後に環状シロキサン(2)を追加添加してもよい。
【0019】
開環反応は通常、窒素雰囲気下、乾燥空気中など、外部からの水分を遮断した状態で行うことが好ましい。また、反応に際し、適当なフッ素化もしくは非フッ素化不活性溶剤、例えばヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリフフルオロメチルベンゼン、ヘキサフルオロメタキシレンなどを、反応を阻害しない量で用いることは差し支えない。反応温度は、通常20〜120℃であり、特に80〜100℃が好適である。反応時間は、オリゴメリゼーション反応の進行とともに、副反応として平衡化反応による非フッ素化環状ハイドロジェンシロキサン化合物の脱離が発生する場合があるため、通常1〜48時間程度が望ましい。なお、反応の追跡は例えば図1に示すように、GPCにより高分子量のピークが現れ、その強度を監視することによって行なうことができる。
【0020】
反応停止は、定法に従い、中和処理により行うことが出来る。例えば炭酸水素ナトリウムで処理すれば末端はシラノールとなるが、クロロシラン類、シリルアミン類、シリルアミド類等のシリル化剤で中和処理をすることで、鎖状シロキサン(1)の末端をトリアルキルシリル末端とすることが出来る。なかでもN,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミドなどシリルアミド類による処理が特に好ましい。
【0021】
上記本発明の方法は、フッ素含有量の調整が容易であり、且つ、一分子中に含まれる平均SiH結合数を多くすることが可能である。得られる反応生成物は、鎖状シロキサン(1)と環状シロキサン(2)の双方を含む組成物である。従って、本発明は、鎖状シロキサン(1)を10〜90重量%及び環状シロキサン(2)を90〜10重量%で含む組成物にも関する。
【0022】
該組成物中の未反応の環状シロキサン(2)は、蒸留、分取クロマトグラフィー等の精製手法により除去することが可能である。但し、時間及びコストの点から、工業用には、環状シロキサン(2)を含んでいても、架橋剤として使用することができる。該環状シロキサン(2)の含有量(重量%)は、組成物のGPC分析から概算することができる。実用的な反応時間によって得られる組成としては、例えば鎖状シロキサン(1)が50〜70重量%及び環状シロキサン(2)が50〜30重量%程度である。
【0023】
実施例
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
実施例1
乾燥空気雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた2つ口フラスコに、下記式(5)の含フッ素環状ハイドロジェンシロキサン(式(5)において、xは1と2の混合であって、平均値が1.04であり、1H−NMRにより測定されたSiH価が6.29×10−4mol/gである)300gと、

ヘキサフルオロメタキシレン150gを仕込み、攪拌しながら90℃まで昇温した。90℃になった時点で、トリフルオロメタスルホン酸1.05gを添加し24時間攪拌した。攪拌終了後、室温まで自然冷却し、炭酸水素ナトリウム5.9gと無水硫酸ナトリウム32.6gを添加し、1時間攪拌した後に加圧ろ過を行った。回収したろ液にヘキサフルオロメタキシレン150gを添加し、活性炭6gを混合し1時間攪拌した。次いで、加圧ろ過を行い、回収したろ液から、100℃、1Torrでヘキサフルオロメタキシレンの減圧留去を行い無色透明な液体286gを得た。
【0024】
反応原料と、生成物液体の19F−NMRから−123.5ppmのアミド基に隣接したCF基の積分強度比が変化していないことから、アミド基の構造が分解等されずに維持されていることを確認した。また生成物のH−NMRの4.7ppmのSiH結合によるピークが分裂していることから、鎖状成分の生成が確認された。H−NMRによる反応生成物のSiH価は6.19×10−4mol/gであり、原料の97mol%のSiH結合が残存していることが分かった。さらにGPCクロマトグラムの高分子量成分の発生から下記式(6)でn=2以上の成分が、生成物中約56重量%存在することを確認した。



NMR測定は日本電子製JNM―LA300WB型核磁気共鳴装置を用い、溶媒としてフレオン−113(CFCl13)を、基準物質として19F−NMR測定ではフレオン−11(CFCl3)を、H−NMR測定ではテトラメチルシランを夫々使用して行なった。
GPCは、液体クロマトグラフL−7000(日立製)及び蒸発光散乱検出器DDL−31(Eurosep Instruments 社製)を用い、カラムはTSK−GEL MulutiporeHxL(東ソー製)を、溶出液は含フッ素溶媒AK22(旭硝子社製)を、夫々使用し、カラム温度35℃、送液速度1ml/minで行なった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の鎖状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン及びそれを含む組成物は、ヒドロシリル化硬化型の含フッ素ポリマーの架橋剤として有用である。また、本発明の方法は、フッ素含有量及びSiH結合が多いシリコーンを調製するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1における反応前後のGPCクロマトグラムである。
【図2】実施例1における反応前後の1H-NMRスペクトルである。
【図3】実施例1における反応前後の19F-NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される鎖状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン

[mは2以上の整数、nは2以上の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよく、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rfは以下の式(3)で表されるパーフルオロオキシアルキル基であり、

(a、b、c、dは、Rfの分子量が400〜30,000となるような数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい)
Xは互いに独立に、水素原子もしくは下記式(4)で表されるトリアルキルシリル基である


(Rは互いに独立に、水素原子もしくは炭素数1〜20のアルキル基である)]。
【請求項2】
Rがメチル基であり、Rfの分子量が400〜5,000である請求項1記載の鎖状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン。
【請求項3】
下記式(1)で表される鎖状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン10〜90重量%、

[mは2以上の整数、nは2以上の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよく、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜20の炭化水素基であり、Rfは以下の式(3)で表されるパーフルオロオキシアルキル基であり、

(a、b、c、dは、Rfの分子量が400〜30,000となるような数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい)
Xは、互いに独立に、水素原子もしくは下記式(4)で表されるトリアルキルシリル基である

(Rは互いに独立に、水素原子もしくは炭素数1〜20のアルキル基である)]
及び
下記式(2)で表される環状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン90〜10重量%を含む、組成物。

[eは1又は2、fは1以上の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよく、R及びRfは上記の通りである]
【請求項4】
Rがメチル基であり、Rfの分子量が400〜5,000である請求項3記載の組成物。
【請求項5】
上記式(2)で表される環状含フッ素ハイドロジェンシロキサンを、該環状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサン1モルに対して、0.001〜1.0モルの酸触媒の存在下で、20〜120℃の温度で開環反応させる工程を含む、請求項1または2記載の鎖状含フッ素オルガノハイドロジェンシロキサンの製造方法。
【請求項6】
酸触媒が、トリフルオロメタスルホン酸又は無水硫酸である、請求項5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−215358(P2009−215358A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57773(P2008−57773)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】