説明

含フッ素オレフィンの製造方法

本発明は、周期律表3族の元素を含む酸化物、4族の元素を含む酸化物、5族の元素を含む酸化物、6族の元素を含む酸化物、11族の元素を含む酸化物、12族の元素を含む酸化物、13族の元素を含む酸化物、14族の元素を含む酸化物、及び15族の元素を含む酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属酸化物の存在下に、一般式(1):R1CF2CH(R2)OH(式中、R1は、F、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)であり、R2は、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)である)で表される含フッ素アルコールと、還元性ガスとを反応させることを特徴とする、一般式(2):R1CF=CH(R2)(式中、R1及びR2は上記に同じ)で表される含フッ素オレフィンの製造方法を提供するものである。本発明によれば、含フッ素アルコールを原料として、一段階の反応によって、目的とする含フッ素オレフィンを高い選択率で得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素オレフィン化合物は、高分子材料のモノマー成分として有用であり、更に、冷媒、洗浄剤、発泡剤等に利用されているハイドロフルオロカーボン(HFC)等の製造原料としても工業的に幅広く用いられている。特に、化学式:CFCF=CHで表される含フッ素プロピレン化合物は、毒性が少なく、地球温暖化係数が小さい化合物であり、代替溶媒として有望視されている。このため、安価な原料を用いて工業的に有利な条件で、一段階の反応で、しかも高い選択性で、CFCF=CHを製造できる方法が求められている。
【0003】
従来、含フッ素オレフィンの製造方法としては、含フッ素アルコールのヒドロキシ基をハロゲン基に置換した後に、得られたハロゲン化物を亜鉛などの金属種の存在下に脱ハロゲン化反応する方法が知られている。
【0004】
ハロゲン化物の製造方法は、例えば、下記非特許文献1に記載されている。この方法では、RCFCHOH(Rは含フッ素炭化水素基である)で示されるフッ素アルコールをp−トルエンスルホン酸エステルに変換した後、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化物と反応させて、RCFCHIで表されるヨウ化物を製造している。この方法は、実験室的方法としては有用であるが、1段目の反応において、p−トルエンスルホン酸クロリドのような高価な試薬を用いる必要がある。更に、2段目の反応でも、ヨウ化ナトリウムのような高価な試薬を使用し、ジエチレングリコールのような高沸点溶媒を用いて高温で反応させるために、高沸点の反応廃液を多量に処理する必要がある。これらの点から、非特許文献1に記載の方法は、工業的な実施に適した方法とはいえない。
【0005】
また、ハロゲン化物のその他の製造方法として、下記特許文献1には、アミド化合物の存在下、RCFCHOHで示されるフッ素アルコールとハロゲン化チオニルとを反応させて、RCFCHX(XはClまたはBr)で表されるハロゲン化物を合成する方法が記載されている。この反応は、前記の方法と比較すると簡便な方法であるが、塩化チオニルのような毒性化合物を使用することや、多量の酸性ガスを発生する等の欠点があり、やはり工業的な実施に適した方法ではない。
【0006】
また、上記した方法で得られるハロゲン化物については、亜鉛の存在下に脱ハロゲン化反応を行うことによって、RCF=CHで表されるオレフィン化合物とすることができる。しかしながら、RCFCHXで示されるハロゲン化物が、塩化物である場合には、反応速度が極めて遅く、含フッ素オレフィンの収率が低くなる傾向がある。また、脱ハロゲン化反応には、メタノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤を用いるのが一般的であり、廃溶剤の処理が必要となり、更に、未反応亜鉛を含んだハロゲン化亜鉛の廃棄処理も必要となる。また、ハロゲン化物を経る方法では、二段階以上で、フッ素アルコールを反応させることが必要であり、効率的な方法とはいえない。
【0007】
一方、下記特許文献2には、H(CFCHOH、CFCFCHOHなどのフッ素アルコールを水素と反応させて、H(CFCF=CH、CFCF=CHなどの含フッ素オレフィンとする方法が開示されている。しかしながら、この方法では、CFCFCHOHを原料に使用した場合には、転化率25%で、選択率が70%であり、副生成物が多い。
【0008】
また、下記特許文献3には、特許文献2の方法で用いる水素をメタンに代えることで、転化率60%、HFO−1234yfの選択率58%でCFCF=CHが得られることが記載されている。しかしながら、この方法では、水素を用いた場合と比べて選択率が低く、C1やC副生成物が多く生成する傾向にある。
【0009】
従って、従来知られている含フッ素オレフィンの製造方法は、工業的に実施する際には多くの欠点を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3038947号
【特許文献2】特開平1−207250号
【特許文献3】米国特許第7026520号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,1953,75,5978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、従来方法における以上のような欠点を解決して、工業的に容易な方法で実施できる比較的簡単な含フッ素オレフィンの製造方法を提供することであり、特に高い選択率で目的とする含フッ素オレフィンを得ることができ、廃棄物が少なく、しかも簡易な反応操作によって実施可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の金属酸化物の存在下に、含フッ素アルコールと還元性ガスとを反応させる方法によれば、一段階の反応によって高い選択率で目的とする含フッ素オレフィンを得ることができ、安価に効率良く、廃棄物も少なく含フッ素オレフィンを製造できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
即ち、本発明は、下記の含フッ素オレフィンの製造方法を提供するものである。
項1. 周期律表3族の元素を含む酸化物、4族の元素を含む酸化物、5族の元素を含む酸化物、6族の元素を含む酸化物、11族の元素を含む酸化物、12族の元素を含む酸化物、13族の元素を含む酸化物、14族の元素を含む酸化物、及び15族の元素を含む酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属酸化物の存在下に、
一般式(1):R1CF2CH(R2)OH(式中、R1は、F、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)であり、R2は、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)である)で表される含フッ素アルコールと、還元性ガスとを反応させることを特徴とする、一般式(2):R1CF=CH(R2)(式中、R1及びR2は上記に同じ)で表される含フッ素オレフィンの製造方法。
項2. 還元性ガスが、水素である上記項1に記載の方法。
項3. 金属酸化物が、周期律表3族の元素を含む酸化物、4族の元素を含む酸化物、11族の元素を含む酸化物及び13族の元素を含む酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物である上記項1又は2に記載の方法。
項4. 金属酸化物が、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Hf、Cu、Ag、Au、Ga及びInからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む酸化物である上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5. 一般式(1)で表される含フッ素アルコールが、一般式(1’):R1CF2CH2OH(式中、 R1は、F、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)である。)で表される含フッ素アルコールである上記項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6. 一般式(1)で表される含フッ素アルコールが、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノールである上記項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7. 常圧又は加圧下の気相中において、200℃〜800℃の温度範囲で反応を行う上記項1〜6のいずれかに記載の方法。
【0015】
本発明の含フッ素オレフィンの製造方法は、特定の金属酸化物の存在下に、含フッ素アルコールと還元性ガスとを反応させることを特徴とする方法である。以下、本発明の含フッ素オレフィンの製造方法について更に具体的に説明する。
【0016】
含フッ素アルコール
本発明では、原料としては、一般式(1):R1CF2CH(R2)OHで表される含フッ素アルコールを用いる。上記一般式(1)において、R1は、F、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)であり、R2は、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)である。
【0017】
この様な含フッ素アルコールの具体例としては、式:F(CFCHOH(nは1〜10の整数)で表される化合物、式:H(CFCHOH(nは1〜10の整数)で表される化合物、式:F(CFCH(CF)OH(nは1〜4の整数)で表される化合物等を挙げることができる。
【0018】
が電子吸引性基である場合には、原料の転化率が低くなる傾向になるため、一般式(1)で表される含フッ素アルコールとしては、一般式(1’):R1CF2CH2OH(式中、 R1は、F、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)である。)で表される含フッ素アルコールが好ましい。
【0019】
この様な含フッ素アルコールの具体例としては、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、トリフルオロエタノール、ジフルオロエタノール、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノール、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブタノール、1H,1H−パーフルオロ−1−ペンタノール、1H,1H,5H−パーフルオロ−1−ペンタノール、1H,1H−パーフルオロ−1−ヘキサノール、1H,1H−パーフルオロ−1−ヘプタノール、1H,1H,7H−パーフルオロ−1−ヘプタノール、1H,1H−パーフルオロ−1−オクタノール、1H,1H−パーフルオロ−1−ノナノール、1H,1H,5H−パーフルオロ−1−ノナノール等を挙げることができる。
【0020】
上記一般式(1)で表される含フッ素アルコールは、いずれも容易に入手できる公知化合物である。
【0021】
金属酸化物
本発明の製造方法では、触媒として、周期律表3族の元素を含む酸化物、4族の元素を含む酸化物、5族の元素を含む酸化物、6族の元素を含む酸化物、11族の元素を含む酸化物、12族の元素を含む酸化物、13族の元素を含む酸化物、14族の元素を含む酸化物、及び15族の元素を含む酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属酸化物を用いる。
【0022】
上記した金属酸化物の少なくとも一種の存在下に、後述する条件に従って一般式(1)で表される含フッ素アルコールと還元性ガスを反応させることによって、一段階の反応で高い選択率で目的とする含フッ素オレフィンを得ることができる。
【0023】
この方法の原理については必ずしも明確ではないが、上記した金属酸化物は、還元性ガスの存在下で加熱処理することで酸素欠損を生じやすく、酸素欠損が生じた場合には酸素との親和性が高くなると考えられる。この様な酸素欠損を有する酸素との親和性が高い金属酸化物は、含フッ素アルコールのような電子供与性の高くない酸素原子を有する化合物と反応できるために、該含フッ素アルコール中の酸素を引き抜いて、含フッ素オレフィンの生成反応が進行するものと考えられる。
【0024】
例えば、金属酸化物として酸化セリウムを用い、還元性ガスとして水素を用いる場合には、水素による還元作用によって、結晶格子中から酸素が引き抜かれて、下記反応式に従って酸素欠陥を有する酸化セリウム(CeO:但し、xは2未満の正数である。)が形成される。
CeO2 + (2-X)H2 → CeOX + (2-X) H2O
次いで、水素ガス雰囲気中の含フッ素アルコールと下記反応式に示すように反応して、触媒としての効果が発揮されるものと考えられる。
CeOX+ (2-X) CF3CF2CH2OH → CeO2 + (2-X) CF3CF=CH2+ (2-X) HF
その後、再生したCeO2は、系内の水素によって、再び低原子価状態へと還元されて触媒サイクルが完成されるものと推測される。
【0025】
これに対して、Pd,Rh,Pt,Ni等の金属は、酸素欠損を生じさせることができるが、酸素親和性が高くないため、C−F結合をC−H結合に還元するような副反応を起こすので、好ましくない。
【0026】
上記した金属酸化物の内で、周期律表3族の元素を含む酸化物、4族の元素を含む酸化物、12族の元素を含む酸化物、及び13族の元素を含む酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属酸化物が、酸素との親和性が高い点で好ましい。
【0027】
本発明では、特に、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Hf、Cu、Ag、Au、Ga及びInからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む酸化物が好ましい。この様な酸化物の具体例としては、Sc、Y、La、CeO、Pr11、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、TiO、Ti、TiO、ZrO、HfO、CuO、CuO、AgO、Au、Ga、Inなどを例示できる。
【0028】
これらの内で、特に好ましい金属酸化物としては、Sc、Y、La、CeO、Nd、Sm、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、ZrO、HfO、CuO、CuO、AgO、Ga、In等を例示できる。
【0029】
これらの金属酸化物の内で、特に、CuO、CuO、CeO、In、AgO、HfO、Sc、Gd等が、高い選択率で含フッ素オレフィンを得ることができる点で好ましい酸化物である。
【0030】
上記した金属酸化物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0031】
還元性ガス
本発明では、還元性ガスとしては、反応温度において、気体状であって、上記した各金属酸化物に対して酸素欠損を生じさせることができるものであれば特に限定なく使用できる。この様な還元性ガスの具体例として、水素、一酸化窒素、二酸化硫黄、硫化水素、アンモニア、ジボラン、フォスフィン、シラン、アルシン等を例示できる。還元性ガスは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0032】
含フッ素オレフィンの製造方法
本発明の含フッ素オレフィンの製造方法では、上記した特定の金属酸化物の少なくとも一種の存在下に、含フッ素アルコールと還元性ガスとを反応させる。
【0033】
具体的な反応方法については特に限定的ではないが、例えば、上記した金属酸化物の少なくとも一種を充填した反応器に、気相状態の原料、即ち、一般式(1)で表される金属酸化物と還元性ガスを供給すればよい。これにより、一段階の反応操作によって、高い選択率で一般式(2):R1CF=CH(R2)(式中、R1及びR2は上記に同じ)で表される含フッ素オレフィンを得ることができる。
【0034】
本発明方法で用いる反応器の形態は特に限定されるものではなく、例えば、金属酸化物を充填した断熱反応器、熱媒体を用いて除熱した多管型反応器等を用いることができる。尚、反応器としては、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0035】
本発明において、原料の比率、即ち、一般式(1)で表される含フッ素アルコールに対する還元性ガスの比率については、特に限定的ではないが、還元性ガスの割合が少なすぎると、含フッ素アルコールの分解生成物が増加して一般式(2)の含フッ素オレフィンの選択率が低下し、還元性ガスの割合が増加すると含フッ素オレフィンの選択率が高くなる傾向にある。通常、含フッ素アルコール1当量に対して、還元性ガスを、好ましくは0.5当量程度以上、より好ましくは1〜20当量程度となる割合で供給することが好ましい。
【0036】
上記した原料は、反応器にそのまま供給してもよく、あるいは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈して供給しても良い。
【0037】
反応器の中の反応温度は、通常、200〜800℃程度に設定することが好ましく、350〜650℃程度に設定することがより好ましい。反応温度が低すぎる場合には、反応速度が遅く転化率が低下する傾向がある。一方、反応温度が高くなり過ぎると、分解反応などが生じて選択率が低下する傾向がある。
【0038】
反応時の圧力については、特に限定されるものではなく、常圧又は加圧下に反応を行うことができる。即ち、本発明における反応は、大気圧(0.1MPa)下で実施することが可能であるが、1.0MPa程度までの加圧下で行ってもよい。
【0039】
反応時間については特に限定的ではないが、通常、反応系に流す原料ガス(即ち含フッ素アルコールと水素)の全流量F0(0℃、1atmでの流量:cc/sec)に対する金属酸化物触媒の充填量W(g)の比率:W/F0で表される接触時間を0.1〜90g・sec/cc程度とすることが好ましく、1〜30g・sec/cc程度とすることがより好ましい。
【0040】
本発明方法では、必要に応じて、反応の前処理として、予め、触媒として用いる金属酸化物を還元性ガスに接触させてもよい。例えば、該金属酸化物を 100℃〜800℃の温度範囲において、還元性ガス気流に1時間〜24時間程度接触させればよい。このように該金属酸化物を高温下で還元性ガスと接触させることによって、該金属酸化物の酸素の一部が還元ガスと結合して除去され、その結果、金属酸化物の一部が酸素欠損状態となり酸素欠損を導入することができる。この様にして前処理を行うことによって、反応の初期においても、十分な選択率で目的とする含フッ素オレフィンを得ることが可能となる。
【0041】
上記した本発明の含フッ素オレフィンの製造方法によれば、一般式(1):R1CF2CH(R2)OH(式中、R1及びR2は上記に同じ)で表される含フッ素アルコールと還元性ガスを原料として、一段階の反応によって、一般式(2):R1CF=CH(R2)(式中、R1及びR2は上記に同じ)で表される含フッ素オレフィンを高い選択率で得ることができる。例えば、化学式:CFCFCHOHで表される2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノールを原料とする場合には、化学式:CFCF=CHで表される2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを高い選択率で得ることができる。
【0042】
該含フッ素オレフィンの選択率、含フッ素アルコールの転化率については、使用する金属酸化物の種類、反応温度、接触時間などを選択することによって調整可能であり、反応条件を選択することによって選択率75%以上とすることができ、最適な反応条件で反応を行えば、90%以上の高い選択率で目的とする含フッ素オレフィンを得ることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の含フッ素オレフィンの製造方法によれば、含フッ素アルコールを原料として、一段階の反応によって、高い選択率で目的とする含フッ素オレフィンを得ることができる。
【0044】
このため、本発明の方法は、工業廃棄物の発生量が少なく、しかも一段階の比較的簡単な操作で含フッ素オレフィンを製造可能であることから、含フッ素オレフィンの工業的製造方法として非常に有用性が高い方法である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0046】
実施例1
電気炉を備えた円筒形反応管からなる気相反応装置(SUS316製,直径1.0cm,長さ30cm)に触媒としてペレット状(円柱型,直径3mm,高さ4mm)にしたCuOを18g充填した。この反応装置に、CFCFCHOH(5FP)(60mg/min)、H(40mL/min)、及びN(15mL/min)(いずれも標準状態での流量)を供給しながら、反応管の温度を469℃にした。
【0047】
反応管から流出する生成物を氷浴で冷却したコールドトラップにより捕集し、捕集した液成分をNMRにより分析したところ、転化率は21%であった。また、生成物をNMRとガスクロマトグラフィーで分析したところ、生成物の組成は、CFCF=CH(96モル%)、CO(3モル%)、CF=CF(1モル%)であり、CFCF=CH(HFO−1234yf)の選択率は96%であった。結果を下記表1に示す。
【0048】
実施例2〜9
実施例1と同じ気相反応装置を用いて、下記表1に示す触媒(金属酸化物)、反応温度、H/5FPモル比、接触時間(W/F0)の条件で反応させた。結果を下記表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
比較例1
電気炉を備えた円筒形反応管からなる気相反応装置(SUS316製,直径1.0cm,長さ30cm)に触媒として活性炭を10g充填した。この反応装置に、CFCFCHOH(5FP)(201mg/min)、H(120mL/min)、及びN(50mL/min)(いずれも標準状態での流量)を供給しながら、反応管の温度を493℃にした。
【0051】
反応管から流出する生成物を氷浴で冷却したコールドトラップにより捕集し、捕集した液成分をNMRにより分析したところ、転化率は21%であった。また、生成物をNMRとガスクロマトグラフィーで分析したところ、生成物の組成は、CFCF=CH(49モル%)、CO(22モル%)、CFCFH(23モル%)であり、CFCF=CH(HFO−1234yf)の選択率は49%であった。結果を下記表2に示す。
【0052】
比較例2〜3
実施例1と同じ気相反応装置を用いて、下記表2に示す触媒、反応温度、H/5FPモル比、接触時間(W/F0)の条件で反応させた。結果を下記表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例10
電気炉を備えた円筒形反応管からなる気相反応装置(SUS316製,直径1.0cm,長さ30cm)に触媒としてペレット状(円柱型,直径3mm,高さ4mm)にしたCuO(12g)を充填した。この反応装置に、H(CFCHOH(160mg/min)とH(90mL/min)(標準状態での流量)を供給しながら、反応管の温度を470℃にした。
【0055】
反応管から流出する生成物を氷浴で冷却したコールドトラップにより捕集し、捕集した液成分をNMRにより分析したところ、転化率は37%であった。また、生成物をNMRとガスクロマトグラフィーで分析したところ、H(CFCF=CHの選択率は96%であった。結果を下記表3に示す。
【0056】
実施例11〜15
実施例10と同じ気相反応装置を用いて、下記表3に示す触媒(金属酸化物)、反応温度、H/H(CFCHOHモル比、接触時間(W/F0)の条件で反応させた。結果を下記表3に示す。
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表3族の元素を含む酸化物、4族の元素を含む酸化物、5族の元素を含む酸化物、6族の元素を含む酸化物、11族の元素を含む酸化物、12族の元素を含む酸化物、13族の元素を含む酸化物、14族の元素を含む酸化物、及び15族の元素を含む酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属酸化物の存在下に、
一般式(1):R1CF2CH(R2)OH(式中、R1は、F、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)であり、R2は、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)である)で表される含フッ素アルコールと、還元性ガスとを反応させることを特徴とする、一般式(2):R1CF=CH(R2)(式中、R1及びR2は上記に同じ)で表される含フッ素オレフィンの製造方法。
【請求項2】
還元性ガスが、水素である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属酸化物が、周期律表3族の元素を含む酸化物、4族の元素を含む酸化物、11族の元素を含む酸化物及び13族の元素を含む酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
金属酸化物が、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Hf、Cu、Ag、Au、Ga及びInからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含む酸化物である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
一般式(1)で表される含フッ素アルコールが、一般式(1’):R1CF2CH2OH(式中、 R1は、F、H、F(CF2)n-(nは1〜10の整数)、又はH(CF2)m-(mは1〜10の整数)である。)で表される含フッ素アルコールである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
一般式(1)で表される含フッ素アルコールが、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノールである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
常圧又は加圧下の気相中において、200℃〜800℃の温度範囲で反応を行う請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2012−516283(P2012−516283A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531290(P2011−531290)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【国際出願番号】PCT/JP2010/051300
【国際公開番号】WO2010/087465
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】