説明

含フッ素化合物及びその製造方法

【課題】 主要なヘキサフルオロプロペン3量体のアルコール性ヒドロキシル基を介した新規な2置換体及び該2置換体の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】 下記の一般式(1)で表される含フッ素化合物:
【化1】


(式中、R及びRは、相互に独立して水素原子、炭素原子数が1〜100の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基又はアリール基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素界面活性剤や含フッ素モノマー等の合成中間体等として有用な含フッ素化合物であって、分枝度の高いフルオロカーボンに多様なアルコール残基を2個導入した含フッ素化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、被改質化合物に、撥水撥油性、付着防止性、耐薬品性、難燃性及び絶縁性等の緒特性を付与する有用な方法として、フルオロカーボン鎖を該化合物の分子中へ導入する方法が知られており、該方法は種々の分野、例えば、界面活性剤、電気電子部品、塗料、表面処理剤及び多機能性合成樹脂等の分野において幅広く利用されている。
【0003】
フルオロカーボン鎖導入剤としては、ペルフルオロカーボン、就中、分枝状フルオロカーボンは、高い改質効果をもたらすので特に有効であると考えられている。この場合、含フッ素化合物として比較的安価なだけでなく、分枝度の高いヘキサフルオロプロペン3量体は、実用上極めて有用なフルオロカーボン鎖導入剤又はその調製原料の一種である。
【0004】
当該分野においては、このようなペルフルオロプロペン3量体の一層広範囲の利用を可能にするために、該3量体のフルオロカーボン鎖中へ複数の別の官能基を導入して高機能性改質剤を開発する技術が要請されている。
【0005】
このような要請に関連する先行技術文献としては、非特許文献1が知られている。この非特許文献には、該3量体とフェノールをナトリウムフェノキシドの存在下で反応させることによって、アセタール型の2置換体が得られることが記載されている。しかしながら、この種の2置換体には、エーテル結合を構成するフェニル基の立体障害に起因して、その後の変性反応やペルフルオロカーボン鎖の導入反応において十分な反応性を示さないという難点がある。
【0006】
このような難点を解消策として、フェノール性ヒドロキシル基の代わりに、アルコール性ヒドロキシル基を有する化合物(アルコール)を該3量体と反応させる方法が考えられる。
しかしながら、一般に、アルコールは、反応点における立体障害が小さいために、フェノールに比べて、該3量体に対して高い反応性を示す。このため、3箇所の反応点を有するヘキサフルオロプロペン3量体に対して、アセタール型の2置換体が生成する条件下でアルコールを反応させる場合には、反応系が複雑になり、目的の2置換体の他に3置換体も生成し、2置換体を効率よく得ることができないという問題がある。
【非特許文献1】日本化学会誌、1978年、No.2、第253頁〜第258頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ヘキサフルオロプロペンの主要な3量体に対応するペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテンのアルコール性ヒドロキシル基を介した新規な2置換体及び該2置換体の効率的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、下記の一般式(1)で表される含フッ素化合物に関する:
【化1】

[式中、R及びRは、相互に独立して水素原子、炭素原子数が1〜100の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基(該脂肪族炭化水素基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール基を有していてもよい。)又はアリール基を示す。)]
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記の一般式(1)において、R及びRは、相互に独立して水素原子、炭素原子数が1〜100、好ましくは1〜50、特に1〜20の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基又はアリール基を示す。
【0010】
好ましい飽和脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基及びウンデシル基等が例示されるが、特にメチル基及びエチル基が好ましい。
【0011】
好ましい不飽和脂肪族炭化水素基としては、アリル基、メタリル基、クロチル基、プレニル基及びプロパリギル基等が例示される。
【0012】
好ましいアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基及びナフチル基等が例示される。
【0013】
なお、上記の脂肪族炭化水素基は、所望により、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)、エーテル結合(例えば、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基及びブチレンオキシド基等のアルキレンオキシド基のエーテル結合等)、エステル結合(例えば、アセテート基、プロピオネート基及びブチレート基等のカルボキシレートのエステル結合等)、アミド結合又はアリール基(例えば、フェニル基、トルイル基及びナフチル基等)を有していてもよい。
【0014】
本願発明は、前記の一般式(1)で表される含フッ素化合物の製造方法にも関する。
該製造方法は、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテン及び下記の一般式(2)で表される過剰量のアルコールを、プロトン性溶剤又は非プロトン性極性溶剤中において、アルカリ金属アルコキシド触媒又は炭酸アルカリ塩触媒の存在下で反応させることを特徴とする:
【化2】

(式中、R及びRの意義は、前記の一般式(1)の場合と同様である。)
【0015】
上記の含フッ素化合物の製造方法の特に好適な実施態様は、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテンに対して、2当量以上のアルコール(2)を非プロトン性極性溶剤中において、アルカリ金属アルコキシド塩基の存在下で反応させる方法、及び過剰量のアルコール(2)を反応溶剤として使用して、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテンと該アルコールをアルカリ金属アルコキシド触媒の存在下で反応させる方法である。
【0016】
上記の反応で使用するペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテンは、通常はヘキサフルオロプロペンのオリゴマー化によって3量体として調製するのが簡便である。
【0017】
なお、ヘキサフルオロプロペンの3量体としては、次式(3)で表されるペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテンの他に、次式(4)で表されるペルフルオロ−2,4−ジメチル−3−ヘプテン及び次式(5)で表されるペルフルオロ−3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテンが知られているが、ヘキサフルオロプロペンの通常のオリゴマー化においては、3量体としては主として化合物(3)及び(5)が生成し、化合物(4)は得られない。
【0018】
【化3】

【化4】

【化5】

【0019】
一般式(2)で表される好ましいアルコールとしては、次の化合物が例示される:
CH(CHOH(式中、nは0〜11の数を示す。)、CH(OCHCHOH(式中、nは1〜22の数を示す。)、XCH(CHOH(式中、nは1〜4の数を示し、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。)、XCH(CHCHO)OH(式中、nは1〜4の数を示し、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。)、CH=CHCHOH、CHCH=CHOH、(CHC=CHOH、CH=CH(CH)CHOH、CCHOH、CCHCHOH、CF(CFCHOH(式中、nは0〜10の数を示す。)、(CHCHOH、及びCH=CHCH(CH)OH。
【0020】
アルコール(2)の一般的な使用量は、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテン1モルに対して、3〜20モル、好ましくは4〜6モルであり、3モルよりも少ない場合には、3置換化合物が生成するために、2置換生成物の選択性が低下する。また、20モルよりも多くなると、反応に影響することはないが、実用的ではない。
【0021】
好ましいプロトン性溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール及びフェネチルアルコール等が例示されるが、特にメタノール及びエタノールが好ましい。
【0022】
好ましい非プロトン性極性溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド又はこれらの任意の混合物が例示されるが、特にテトラヒドロフランが好ましい。
【0023】
好ましいアルカリ金属アルコキシド触媒としては、カリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド等が例示され、また、好ましい炭酸アルカリ塩としては、炭酸カリウム、炭酸セシウム等が例示される。
なお、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテンに対して、過剰量のアルコール(2)を非プロトン性極性溶剤中において反応させる場合の特に好ましい触媒は、カリウムt−ブトキシドであり、また、被反応アルコール(2)を反応溶剤としても使用して反応を行う場合の特に好ましい触媒は、該アルコールに対応するナトリウムアルコキシド又はカリウムアルコキシドである。
【0024】
アルカリ金属アルコキシド触媒又は炭酸アルカリ塩の使用量は、使用する反応溶剤のタイプによって左右され、特に限定的ではないが、例えば、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテンに対して、過剰量のアルコール(2)を非プロトン性極性溶剤中で反応させる場合には、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテン1モルに対して、2.0〜2.6モル、好ましくは2.2〜2.4モルであり、また、過剰量の被反応アルコール(2)を反応溶剤として、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテンと該アルコールを反応させる場合には、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテン1モルに対して、2.0〜4.0モル、好ましくは2.2〜2.6モルである。
【0025】
一般的には、これらの触媒の使用量が、上記の範囲よりも少ない場合には、反応が十分に進行せず、1置換化合物も生成する。又、上記の範囲よりも多くなると、非プロトン性極性溶剤を用いて反応を行う場合に3置換化合物が生成する。
【0026】
上記反応の温度は、通常は−20℃〜+80℃、好ましくは0℃〜30℃であり、−20℃よりも低くなると、十分な反応速度が得られなくなる。また、+80℃よりも高くなると、反応系が複雑になり、収率が低下する。
【0027】
反応時間は、上記の反応成分や触媒の種類及び反応温度等によって左右されるが、通常は0.5時間〜24時間、好ましくは1時間〜4時間である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によって説明する。
実施例1
滴下漏斗を備えた四つ口フラスコ(200ml)内にメタノール100gを入れ、これに氷浴温度下(5℃)で攪拌しながら、カリウムt−ブトキシド13.4g(120m mol)を加えて溶解させた。ヘキサフルオロプロペントリマー[前記の化合物(3)を34%含有する該化合物と化合物(5)との混合物]22.5g(50m mol)を滴下漏斗内に入れ、これを前記の溶液内へ氷浴温度下(5℃)で攪拌しながら、約30分間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、氷浴温度下(5℃)で攪拌をさらに2時間続行した後、反応混合物に1N塩酸20mlを添加することによって反応を停止させた。
反応混合物を300mlのビーカー内に移した後、水100mlを用いる洗浄処理に3回付すことによって、粗精製物21.4gを得た(収率:90%)。この粗精製物を減圧蒸留に付すことによって、下記の式(6)で表される化合物を19.2g得た(収率:81%)。該化合物は、下記の式(7)で表される異性体を15%含有する。
【0029】
【化6】

【化7】

【0030】
上記の化合物(6)及び化合物(7)の物性を以下の表1に示す。
【表1】

【0031】
実施例2
滴下漏斗を備えた四つ口フラスコ(1000ml)内にエタノール500gを入れ、これに氷浴温度下(5℃)で攪拌しながら、カリウムt−ブトキシド123.2g(1.1mol)を加えて溶解させた。ヘキサフルオロプロペントリマー[前記の化合物(3)を34%含有する該化合物と化合物(5)との混合物]225g(0.5mol)を滴下漏斗内に入れ、これを該溶液中へ氷浴温度下(5℃)で攪拌しながら、約2時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、氷浴温度下(5℃)で攪拌をさらに2時間続行した後、反応混合物に1N塩酸100mlを添加することによって反応を停止させた。
反応混合物を3リットルのビーカー内へ移した後、水1000mlを用いる洗浄処理に3回付すことによって粗精製物を241g得た(収率:96%)。該粗精製物を減圧蒸留に付すことによって、下記の式(8)で表される精製化合物を196g得た(収率:78%)。この精製化合物は、下記の式(9)で表される化合物及び式(10)で表されると推定される化合物をそれぞれ3%及び7%含有する。
【0032】
【化8】

【化9】

【化10】

【0033】
上記の化合物(8)及び化合物(9)の物性を以下の表2に示す。
【表2】

【0034】
実施例3
滴下漏斗を備えた三つ口フラスコ(100ml)内に、ヘキサフルオロプロペントリマー[前記の化合物(3)を34%含有する該化合物と化合物(5)との混合物]9.00g(20m mol)、エトキシエタノール7.20g(80m mol)及びテトラヒドロフラン20gを入れた。一方、カリウムt−ブトキシド5.38g(48m mol)をテトラヒドロフラン20gに溶解させた溶液を滴下漏斗内に入れ、該溶液を、上記のフラスコ内容物中へ、氷浴温度下(5℃)で攪拌しながら約30分間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、氷浴温度下(5℃)で攪拌をさらに3時間続行し、反応混合物に1N塩酸8mlを添加することによって反応を停止させた。
この反応混合物を200mlのビーカー内へ移した後、水50mlを用いる洗浄処理に3回付すことによって下記の式(11)で表される粗精製物を9.02g得た(収率:76%)。この粗精製物は、下記の式(12)で表される化合物及び下記の式(13)で表されると推定される化合物をそれぞれ11%及び6%含有する。
【0035】
【化11】

【化12】

【化13】

【0036】
上記の化合物(11)及び化合物(12)の物性を以下の表3に示す。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明による新規な含フッ素化合物は、含フッ素界面活性剤や含フッ素モノマー等の合成中間体等として有用である。なお、分子中にアルキレンオキシド基を8〜50個有する含フッ素化合物はそれ自体で含フッ素界面活性剤として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される含フッ素化合物:
【化1】

[式中、R及びRは、相互に独立して水素原子、炭素原子数が1〜100の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基(該脂肪族炭化水素基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール基を有していてもよい。)又はアリール基を示す。)]
【請求項2】
ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテン及び下記の一般式(2)で表される過剰量のアルコールを、プロトン性溶剤又は非プロトン性極性溶剤中において、アルカリ金属アルコキシド触媒又は炭酸アルカリ塩触媒の存在下で反応させることを特徴とする請求項1記載の含フッ素化合物の製造方法:
CHOH (2)
[(式中、R及びRは、相互に独立して水素原子、炭素原子数が1〜100の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基(該脂肪族炭化水素基は所望によりハロゲン原子、エーテル結合、エステル結合、アミド結合又はアリール基を有していてもよい。)又はアリール基を示す。)]
【請求項3】
プロトン性溶剤が、メタノール、エタノール、プロパノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール及びフェネチルアルコールから選択される溶剤である請求項2記載の方法。
【請求項4】
非プロトン性極性溶剤が、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド又はこれらの任意の混合物から成る群から選択される溶剤である請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
アルカリ金属アルコキシド触媒が、カリウムt−ブトキシド又はナトリウムt−ブトキシドである請求項2から4いずれかに記載の方法。
【請求項6】
炭酸アルカリ塩が、炭酸カリウム又は炭酸セシウムである請求項2から5いずれかに記載の方法。
【請求項7】
アルカリ金属アルコキシド触媒又は炭酸アルカリ塩を、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテン1モルに対して、2.0〜2.6モル使用する請求項2から6いずれかに記載の方法。
【請求項8】
アルコールを、ペルフルオロ−3−(1−メチルエチル)−4−メチル−2−ペンテン1モルに対して、3〜20モル使用する請求項2から7いずれかに記載の方法。
【請求項9】
反応を−20℃〜+80℃の温度で行う請求項2から8いずれかに記載の方法。


【公開番号】特開2006−342086(P2006−342086A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168329(P2005−168329)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】