説明

含水切削液組成物およびその製造方法

【課題】 本発明は脆性材料の切削工程において、従来品より低粘度かつ表面張力を低く調整することで加工後の表面精度と洗浄性に優れた含水切削液組成物;並びにこのような特性を有する含水切削液の工業的に有益な製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
水100重量部に対して、エチレングリコール(a)が20〜80重量部、ジエチレングリコール(b)が50〜120重量部、トリエチレングリコール(c)が50〜100重量部、およびエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコール(d)が0〜80重量部の含有比率からなり、かつ粘度が25mPa・s以下、表面張力が54〜65mN/mであることを特徴とする含水切削液組成物(A)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン、セラミックスまたは水晶などの脆性材料を切断するときに使用する含水切削液組成物およびその製造方法に関する。
さらに詳しくは、水とエチレンオキサイド付加物からなる含水切削液組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリコンインゴットなどの脆性材料の切断は非水溶性の切削液を用いて遊離砥粒方式または固定砥粒方式で行われてきた。近年は、引火の危険を減らして作業性を改善した水溶性の切削液が開発されている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかし近年、ウエハの生産性向上(加工時間の短縮や加工1度あたりのウエハの取れ枚数の増加)のため、加工の際のウエハ間の空隙を狭くしたり、加工中のワイヤー速度を速くするなどのニーズから、加工中のウエハ細部まで切削液が届かないという現象が発生してしまい、加工後のウエハ表面の精度が満足できないため、安定したウエハが生産できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−275537公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は脆性材料の切削工程において、従来品より低粘度かつ表面張力を低く調整された含水切削液組成物;並びにこのような特性を有する含水切削液の工業的に有益な製造方法を提供することを目的とする。
このような特性を有する含水切削液組成物は、各構成組成物を配合することでも製造できるが、通常これらの各構成組成物は蒸留などによる精製が行われているのに対し、本発明の製造方法を実施することにより、工業的に工程の簡素化が図れ、環境面(二酸化炭素の排出量削減)やコスト面において有益といえる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、
(1)水100重量部に対して、エチレングリコール(a)が20〜80重量部、ジエチレングリコール(b)が50〜120重量部、トリエチレングリコール(c)が50〜100重量部、およびエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコール(d)が0〜80重量部の含有比率からなり、かつ粘度が25mPa・s以下、表面張力が54〜65mN/mであることを特徴とする含水切削液組成物(A)。
(2)水1モルに対して0.1〜3.0モルのエチレンオキサイドを開環付加重合反応させて製造されるエチレンオキサイド付加物(e)の混合物からなり、かつ粘度が25mPa・s以下、表面張力が54〜65mN/mであることを特徴とする含水切削液組成物(B)の混合物(C)の製造方法;およびこの方法で製造された含水切削液組成物
(3)水とエチレンオキサイドの開環付加重合反応で製造された水とエチレンオキサイド付加物(B)に、必要に応じて配合調整した含有比率からなり、かつ粘度が25mPa・s以下、表面張力が54〜65mN/mである水とエチレンオキサイド付加物(B)の配合物(C)の製造方法;およびこの方法で製造された含水切削液組成物
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の含水切削液はシリコンインゴットの切削工程において、特定の化合物をある含有比率で構成されていることより、表面張力低下能に優れるため、加工中のウエハ細部まで切削液が届くため、加工後のウエハ表面の精度が満足でき、安定したウエハが生産できる。かつ、粘度の低い含水切削液を提供することにより、切削加工後のシリコンウエハの洗浄工程において、洗浄性能を向上させることができるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願発明は、
(1)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコールが水100重量部に対して特定の範囲で含有され、かつ粘度と表面張力を特定の範囲に有する含水切削液(第1発明);
(2)水1モルに対して0.1〜3.0モルのエチレンオキサイドを開環付加重合反応させて製造されるエチレンオキサイド付加物(e)の混合物からなり、かつ粘度と表面張力を特定の範囲に有するエチレンオキサイド付加物(B)の混合物(C)の製造方法(第2発明);
(3)第2発明の製造法において、開環付加重合反応後に、特定の範囲の粘度と表面張力を有するようにするために必要に応じた量のエチレンオキサイド付加物をさらに追加配合する水とエチレンオキサイド付加物の配合物(D)の製造方法(第3発明)
の3つである。
【0009】
本願の第1発明の含水切削液は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコールが水100重量部に対して特定の範囲で含有され、かつ粘度と表面張力を特定の範囲に有する。
【0010】
含水切削液に含まれるエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して20〜80重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは30〜60重量部である。
エチレングリコールの含有比率が20重量部未満になると、含水切削液の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。含有比率が80重量部より多くなると、含水切削液の表面張力が高くなり、加工後のウエハ表面粗さが悪化する。
【0011】
含水切削液に含まれるジエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して50〜120重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは60〜100重量部である。
ジエチレングリコールの含有比率が50重量部未満になると、含水切削液の表面張力が高くなり、加工後のウエハ表面粗さが悪化する。含有比率が120重量部より多くなると、含水切削液の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。
【0012】
含水切削液に含まれるトリエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して50〜100重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは60〜90重量部である。
トリエチレングリコールの含有比率が50重量部未満になると、含水切削液の表面張力が高くなり、加工後のウエハ表面粗さが悪化する。含有比率が100重量部より多くなると、含水切削液の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。
【0013】
含水切削液に含まれるエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して0〜80重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは5〜70重量部である。
エチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコールの含有比率が80重量部より多くなると、含水切削液の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。
【0014】
上記範囲でエチレンオキサイド付加物を有する含水切削液の粘度は25mPa・s以下であり、加工中のウエハへの濡れ性と加工後ウエハの洗浄性の観点から好ましくは23mPa・s以下である。
【0015】
上記範囲でエチレンオキサイド付加物を有する含水切削液の表面張力は54〜65mN/mであり、加工中のウエハへの濡れ性の観点から好ましくは56〜62mN/mである。
【0016】
本発明のシリコンインゴットスライス用切削液は、ワイヤーによりシリコンインゴットをスライス加工する際に好適である。
シリコンインゴットを加工する方法として、遊離砥粒および固定砥粒ワイヤーを用いる方法があり、本発明の切削液はいずれにも適用できるが、固定砥粒ワイヤーを用いて切削液を連続的に供給させながら加工する固定砥粒方式に特に適している。
【0017】
本願の第2の発明の製造方法は、水1モルに対して特定のモル数のエチレンオキサイドを開環付加重合させて製造されるエチレンオキサイド付加物(B)の混合物(C)の製造方法であって、かつ粘度と表面張力を特定の範囲に有する。
【0018】
開環付加重合で製造される本発明の混合物(C)において、反応させる水1モルに対してEOモル数の範囲は0.1〜3.0である。
含水切削液として使用する混合物の性能と混合物の製造コストの観点から好ましくは0.3〜2.5、さらに好ましくは0.5〜2.0である。
EOモル数が0.1未満であると、含水切削液として使用する混合物(C)の表面張力が高く、加工後の表面粗さが悪化する。EOモル数が3.0より多くなると、製造時間が長くなり製造コストが増し、さらに含水切削液として使用する混合物(C)の粘度が高くなるので加工後のウエハ洗浄性が悪化する。
【0019】
上記範囲で製造される混合物(C)の粘度は25mPa・s以下であり、含水切削液として使用したときの加工中のウエハへの濡れ性と加工後ウエハの洗浄性の観点から好ましくは23mPa・s以下である。
【0020】
上記範囲で製造される混合物(C)の表面張力は54〜65mN/mであり、含水切削液として使用したときの加工中のウエハへの濡れ性の観点から好ましくは56〜62mN/mである。
【0021】
上記範囲で製造される混合物(C)に含まれるエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して20〜80重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは30〜60重量部である。
エチレングリコールの含有比率が20重量部未満になると、含水切削液として使用する混合物(C)の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。含有比率が80重量部より多くなると、含水切削液の表面張力が高くなり、加工後のウエハ表面粗さが悪化する。
【0022】
上記範囲で製造される混合物に含まれるジエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して50〜120重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは60〜100重量部である。
ジエチレングリコールの含有比率が50重量部未満になると、含水切削液として使用する混合物(C)の表面張力が高くなり、加工後のウエハ表面粗さが悪化する。含有比率が120重量部より多くなると、含水切削液の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。
【0023】
上記範囲で製造される混合物(C)に含まれるトリエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して50〜100重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは60〜90重量部である。
トリエチレングリコールの含有比率が50重量部未満になると、含水切削液として使用する混合物(C)の表面張力が高くなり、加工後のウエハ表面粗さが悪化する。含有比率が100重量部より多くなると、含水切削液として使用する混合物の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。
【0024】
上記範囲で製造される混合物(C)に含有されるエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して0〜80重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは5〜70重量部である。
エチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコールの含有比率が80重量部より多くなると、含水切削液として使用する混合物(C)の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。
【0025】
本発明の混合液(C)は、シリコンインゴットスライス用切削液として使用でき、ワイヤーによりシリコンインゴットをスライス加工する際に好適である。
シリコンインゴットを加工する方法として、遊離砥粒および固定砥粒ワイヤーを用いる方法があり、本発明の混合物はいずれにも適用できるが、固定砥粒ワイヤーを用いて切削液を連続的に供給させながら加工する固定砥粒方式に特に適している。
【0026】
本願の第3の発明の製造方法は、第2発明の製造法において、開環付加重合反応後に、特定の範囲の粘度と表面張力を有するようにするために必要に応じた量のエチレンオキサイド付加物をさらに追加配合する水とエチレンオキサイド付加物の配合物(D)の製造方法である。
そして、この製造方法で製造されたエチレンオキサイド付加物の配合物(D)は、第1発明と同じ特定の粘度範囲と表面張力範囲を有する。
【0027】
具体的には、前述の第2発明で製造された水とエチレンオキサイドの混合物(C)に、さらにエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールおよび4量体以上のポリエチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上を必要に応じた量を追加配合した混合物(D)であって、かつ粘度と表面張力を特定の範囲に有する。
そして、含有比率がそれぞれ、水100重量部に対して、エチレングリコール(a)が20〜80重量部、ジエチレングリコール(b)が50〜120重量部、トリエチレングリコール(c)が50〜100重量部、およびエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコール(d)が0〜80重量部である。
【0028】
追加配合した得られた混合物(D)の粘度は25mPa・s以下であり、含水切削液として使用したときの加工中のウエハへの濡れ性と加工後ウエハの洗浄性の観点から好ましくは23mPa・s以下である。
【0029】
追加配合した得られた混合物(D)の表面張力は54〜65mN/mであり、含水切削液として使用したときの加工中のウエハへの濡れ性の観点から好ましくは56〜62mN/mである。
【0030】
追加配合した得られた混合物(D)に含まれるエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して20〜80重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは30〜60重量部である。
エチレングリコールの含有比率が20重量部未満になると、混合物(D)の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。含有比率が80重量部より多くなると、混合物(D)の表面張力が高くなり、加工後のウエハ表面粗さが悪化する。
【0031】
追加配合した得られた混合物(D)に含まれるジエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して50〜120重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは60〜100重量部である。
ジエチレングリコールの含有比率が50重量部未満になると、混合物(D)の表面張力が高くなり、加工後のウエハ表面粗さが悪化する。含有比率が120重量部より多くなると、混合物(D)の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。
【0032】
追加配合した得られた混合物(D)に含まれるトリエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して50〜100重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは60〜90重量部である。
トリエチレングリコールの含有比率が50重量部未満になると、混合物(D)の表面張力が高くなり、加工後のウエハ表面粗さが悪化する。含有比率が100重量部より多くなると、混合物(D)の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。
【0033】
追加配合した得られた混合物(D)に含まれるエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコールの含有比率の範囲は水100重量部に対して0〜80重量部であり、粘度及び表面張力の観点から好ましくは5〜70重量部である。
エチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコールの含有比率が80重量部より多くなると、混合物(D)の粘度が高くなり洗浄性が不十分となる。
【0034】
本発明の混合液(D)は、シリコンインゴットスライス用切削液として使用でき、ワイヤーによりシリコンインゴットをスライス加工する際に好適である。
シリコンインゴットを加工する方法として、遊離砥粒および固定砥粒ワイヤーを用いる方法があり、本発明の混合物はいずれにも適用できるが、固定砥粒ワイヤーを用いて切削液を連続的に供給させながら加工する固定砥粒方式に特に適している。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0036】
実施例1〜2および比較例1
表1記載の配合比(重量部)で各成分を配合して切削液を調製した。
なお、表1中のEGはエチレングリコール、DEGはジエチレングリコール、TEGはトリエチレングリコール、PEG200は水酸基価換算で分子量200のポリエチレングリコールの略称記号を表す。
【0037】
【表1】

【0038】
<切削液の表面張力と粘度の測定>
切削液の表面張力は、自動動的表面張力計(BP−D3;協和界面化学(株)製)を用いて25℃で測定した。
切削液の粘度は、ブルックフィールド型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
その結果を表1に示す。
【0039】
切削液について、ウエハ表面粗さの測定と洗浄性の性能評価を行った。
その結果を表1に示す。
【0040】
<ウエハ表面粗さの測定>
被切断材として25mm角の単結晶シリコンインゴットを用い、固定砥粒ワイヤー、シングルワイヤーソー型切断機(SOUTH BAY TECHNOLOGY製)で切断試験を実施した。
切断条件:クーラント流量50ml/分、
切断後のウエハ表面粗さ(Ra)を原子間力顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、E−Sweep)を用いて測定した。
【0041】
下記の判定基準に従い、表面粗さを評価した。
○:Raが0.5μm未満
×:Raが0.5μm以上
【0042】
<洗浄性の性能評価方法>
(1)含水切削液100部に対してシリコンインゴッドの切り屑を想定したケイ素粉末(高純度化学研究所社製;粒子径1μm以下)10部を加え、ディスパーサー(T.K.ロボミックス;プライミクス(株)製)を用いて3000回転で1分間攪拌分散してケイ素粉末を含むスラリーを作成した。
(2)約2.5cm四方に切断した多結晶シリコンウエハ上に上記で調製したスラリーのスポイト一滴分(0.02g)を付着させ、20分間静置させて試験片とした。
(3)この試験片を垂直に立てた状態で25℃のイオン交換水中に静かに入れて全体を浸漬させ、水中で静置させる。
(4)水中でスラリーがシリコンウエハ上から剥がれ滑り落ちて除去されるのを観察して、浸漬直後から除去されるのに要した時間を記録した。
【0043】
洗浄性の評価は、
○:浸漬後5分未満でウエハ上のスラリーが除去される。
×:ウエハ上のスラリーが除去されるのに要する時間が5分以上であるか、または除去されない。
【0044】
実施例3〜5および比較例2〜3
下記記載の製造方法によりエチレンオキサイド付加物の混合物(B−1)〜(B−3)および(B’−1)、(B’−2)を製造し、含水切削液とした。水1モルに対するEOのモル数、および各成分の含有比率(重量部)を表2に示す。
なお、各成分比率はガスクロマトグラフィー(GC-2014;島津製作所製)で算出した。
【0045】
【表2】

【0046】
なお、表2中のEGはエチレングリコール、DEGはジエチレングリコール、TEGはトリエチレングリコールの略称記号を表し、「4量体以上のPEG」はガスクロマトグラフィーにおいてPEG200の保持時間以上のすべてのポリエチレングリコールの合計を表す。
【0047】
作成した含水切削液の表面張力、粘度及びウエハ表面粗さ、洗浄性は上記と同様の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0048】
<エチレンオキサイド付加物の混合物の製造方法>
実施例3
ステンレス製加圧反応装置に水290部と水酸化ナトリウム0.5部を仕込み、窒素置換後に、90〜140℃でエチレンオキサイド710部の約4時間で圧入した(水1モルに対してエチレンオキサイド1.0モル)。
同温度でさらに4時間反応させて、エチレングリコール(EG)とジエチレングリコール(DEG)とトリエチレングリコール(TEG)と4量体以上のポリエチレングリコール(PEG)と水の混合物(B−1)を得た。
【0049】
実施例4
実施例3において、水を254部、エチレンオキサイドを746部とした以外は、実施例3と同様な操作を行い、本発明の混合物(B−2)を得た(水1モルに対してエチレンオキサイド1.2モル)。
【0050】
実施例5
実施例3において、水を170部、エチレンオキサイドを830部とした以外は、実施例3と同様な操作を行い、本発明の混合物(B−3)を得た(水1モルに対してエチレンオキサイド2.0モル)。
【0051】
比較例2
実施例3において、水を854部、エチレンオキサイドを146部とした以外は、実施例3と同様な操作を行い、本発明の混合物(B’−1)を得た(水1モルに対してエチレンオキサイド0.07モル)。
【0052】
比較例3
実施例3において、水を93部、プロピレンオキサイドを907部とした以外は、実施例3と同様な操作を行い、本発明の混合物(B’−2)を得た(水1モルに対してエチレンオキサイド4.0モル)。
【0053】
実施例6
比較例2で得られた(B’−1)60部に対してDEGを20部、TEGを20部追加配合して含水切削液を調製した。
追加配合した切削液の配合後の各成分比率を表3に示す。
【0054】
実施例7
実施例6と同様にして、比較例3で得られた(B’−2)40部に対してEGを30部、DEGを30部追加配合して切削液を調製した。追加配合した切削液の配合後の各成分比率を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
作成した含水切削液の表面張力、粘度及びウエハ表面粗さ、洗浄性は上記と同様の操作で測定した。結果を表3に示す。
【0057】
本発明の実施例1及び実施例2、実施例3〜5、実施例6及び実施例7の含水切削液はいずれも、切削後のウエハ表面粗さが少なく、ウエハ洗浄性に優れている。なお、実施例1及び実施例2は配合のみで作成した切削液、実施例3〜5は水とエチレンオキサイドとの反応で得られた混合物を使用した切削液、実施例6及び実施例7は水とエチレンオキサイドとの反応で得られた混合物にエチレンオキサイド付加物を追加配合した切削液を用いている。
一方、ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコールの含有比率が低い比較例1 は、切削液の表面張力が高過ぎ、加工中のウエハ細部まで切削液が届かないため、加工後のウエハ表面の精度が不十分である。また、EOの仕込み比率が低く、ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコールの含有比率が低い比較例2も、切削液の表面張力が高過ぎる。
またEOの仕込み比率が高く、4量体以上のポリエチレングリコールの含有比率が高い比較例3は、切削液の粘度が高く、加工後のウエハ上に切削液が残りやすくなり、洗浄性が不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の含水切削液は、加工後の表面精度及び洗浄性能が優れているため、シリコン、セラミックスまたは水晶などの脆性材料だけでなく水晶、炭化ケイ素、サファイヤ等の硬質な材料切断するときに使用する切削液としても有用である。
また、本発明の含水切削液を用いてシリコンインゴットを切削加工して製造されたシリコンウエハは、例えばメモリー素子、発振素子、増幅素子、トランジスタ、ダイオード、太陽電池、LSIの電子材料として利用でき、これらの電子材料は、パソコン、携帯電話、ディスプレー、オーディオ等に使用することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水100重量部に対して、エチレングリコール(a)が20〜80重量部、ジエチレングリコール(b)が50〜120重量部、トリエチレングリコール(c)が50〜100重量部、およびエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコール(d)が0〜80重量部の含有比率からなり、かつ粘度が25mPa・s以下、表面張力が54〜65mN/mであることを特徴とする含水切削液組成物(A)。
【請求項2】
シリコンインゴット切削液用である請求項1記載の含水切削液組成物。
【請求項3】
水1モルに対して0.1〜3.0モルのエチレンオキサイドを開環付加重合反応させて製造されるエチレンオキサイド付加物(e)の混合物からなり、かつ粘度が25mPa・s以下、表面張力が54〜65mN/mであることを特徴とする含水切削液組成物(B)の混合物(C)の製造方法。
【請求項4】
水とエチレンオキサイド付加物(B)の含有比率が下記である請求項3記載の水とエチレンオキサイド付加物(B)の混合物(C)の製造方法。
含有比率がそれぞれ、水100重量部に対して、エチレングリコール(a)が20〜80重量部、ジエチレングリコール(b)が50〜120重量部、トリエチレングリコール(c)が50〜100重量部、およびエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコール(d)が0〜80重量部。
【請求項5】
請求項3または4記載の製造方法で製造されたことを特徴とする含水切削液組成物。
【請求項6】
シリコンインゴット切削用である請求項5記載の含水切削液組成物。
【請求項7】
水とエチレンオキサイドの開環付加重合反応で製造された水とエチレンオキサイド付加物(B)の混合物に、さらにエチレングリコール(a)、ジエチレングリコール(b)、トリエチレングリコール(c)および4量体以上のポリエチレングリコール(d)からなる群より選ばれる1種以上を必要に応じた量を追加配合して、下記含有比率からなり、かつ粘度が25mPa・s以下、表面張力が54〜65mN/mである水とエチレンオキサイド付加物の配合物(D)の製造方法。
含有比率がそれぞれ、水100重量部に対して、エチレングリコール(a)が20〜80重量部、ジエチレングリコール(b)が50〜120重量部、トリエチレングリコール(c)が50〜100重量部、およびエチレンオキサイドの4量体以上のポリエチレングリコール(d)が0〜80重量部。
【請求項8】
請求項7記載の製造方法で製造されたことを特徴とする含水切削液組成物。
【請求項9】
シリコンインゴット切削用である請求項8記載の含水切削液組成物。

【公開番号】特開2012−251025(P2012−251025A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122871(P2011−122871)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】