説明

含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物、及びこれを用いた、多孔質物、絶縁電線とその製造方法、及び絶縁被覆電線、同軸ケーブル

【課題】環境にやさしく、均質な微細空孔の形成を容易にし、電線・ケーブルの細径、薄肉化に容易に対応できる含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物、及びこれを用いた、多孔質物、絶縁電線とその製造方法、及び絶縁被覆電線、同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】予め吸水膨潤させた含水吸水性ポリマー、分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に(メタ)アクリロイル基を有する分子量5000以下のウレタンオリゴマ、脂環系モノマ、親水性モノマ、光開始剤とからなる紫外線硬化型樹脂組成物であって、予め吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散する際に、該樹脂組成物に非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤が0.01mass%以上0.5mass%以下添加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物、及びこれを用いた、多孔質物、絶縁電線とその製造方法、及び絶縁被覆電線、同軸ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野をはじめとする精密電子機器類や通信機器類の小型化や高密度実装化が進むなかで、これらに使用される電線・ケーブルもますます細径化が図られている。さらに信号線等では、伝送信号の一層の高速化を求める傾向が顕著であり、これに使用される電線の絶縁層を薄くかつ可能な限り低誘電率化することにより伝送信号の高速化を図ることが望まれている。
【0003】
従来この絶縁層には、ポリエチレンやふっ素樹脂などの誘電率の低い絶縁材料を発泡させたものが使われている。発泡絶縁層の形成には、予め発泡させたフィルムを導体上に巻き付ける方法や押出方式が知られており、特に押出方式が広く用いられている。
【0004】
発泡を形成する方法としては、大きく物理的な発泡方法と化学的な発泡方法に分けられる。
【0005】
物理的な発泡方法としては、液体フロンのような揮発性発泡用液体を溶融樹脂中に注入し、その気化圧により発泡させる方法や窒素ガス、炭酸ガスなど押出機中の溶融樹脂に直接気泡形成用ガスを圧入させることにより一様に分布した細胞状の微細な独立気泡体を樹脂中に発生させる方法などがある(特許文献1)。
【0006】
化学的な発泡方法としては、樹脂中に発泡剤を分散混合した状態で成形し、その後熱を加えることにより発泡剤の分解反応を発生させ、分解により発生するガスを利用して発泡させることがよく知られている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−26846号公報
【特許文献2】特開平11−176262号公報
【特許文献3】特開昭62−236837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、溶融樹脂中に揮発性発泡用液体を注入する方法では、気化圧が強く、気泡の微細形成や均質形成が難しく薄肉成形に限界がある。また、揮発性発泡用液体の注入速度が遅いために、高速製造化が難しく、生産性に劣るという問題もある。さらに、押出機中で直接気泡形成用ガスを圧入する方法は、細径薄肉押出形成に限界があること、安全面で特別な設備や技術を必要とするため、生産性に劣ることや製造コストの上昇を招いてしまうという問題がある。
【0009】
一方、化学発泡方法は、予め樹脂中に発泡剤を混練し、分散混合し、成形加工後に熱により発泡剤を反応分解させて発生したガスにより発泡をさせるため、樹脂の成形加工温度は、発泡剤の分解温度より低く保持しなければならない問題がある。さらに、素線の径が細くなると、押出被覆では樹脂圧により断線が起こりやすく、高速化が難しくなるという別の問題もある。
【0010】
また、フロン、ブタン、炭酸ガス等を用いる物理発泡は環境負荷が大きい問題や、化学発泡に用いる発泡剤は価格が高いといった問題がある。
【0011】
一方、薄肉被覆に有効な熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂などの液状の材料によるコーティング方式では、例えば熱硬化樹脂の場合、被膜を樹脂材料の大部分を占める溶剤を揮散させるとともに焼付により形成するものであるが、1回のコーティングで得られる膜厚は数μm以下であり多層塗りが必要であるため、発泡層(多孔質物層)を形成するのは困難であるという問題がある。また、撚導体では導体の隙間に溶剤が入り込み、この部分で溶剤の揮散ができずに残ってしまい、その後の加熱によってこの残存した溶剤から発生するガス等の影響により、被覆の膨れが発生するという問題がある。さらに、溶剤を使用するため、環境の負荷が大きいという問題がある。
【0012】
また、紫外線硬化樹脂の場合、無溶剤化が容易で薄膜高速コーティングに有用であるが、電線・ケーブルの被覆層に要求される可撓性、熱衝撃性で劣り、自己径巻き付けなどの曲げに対して、割れやクラックが生じ易いという問題がある。
【0013】
これらに代わる方法として、出願人は液状架橋硬化型樹脂に含水性吸水ポリマーを分散させ、樹脂を硬化させた後に脱水することで多孔質物を形成する方法を種々検討している。この方法によれば、高速化が容易で、且つ環境負荷を小さくすることができる。しかし、空孔径を微細化しようとすると吸水性ポリマーの粒径が影響するため、微粒化した吸水性ポリマーを用いることになるが、微粒化した含水吸水性ポリマーはゲル状であり凝集しやすくなる。このような含水吸水性ポリマーを添加したとしても、樹脂中に微分させることは困難であり、逆に空孔径が大きくなってしまうという問題があった。
【0014】
そこで本発明の目的は、環境にやさしく、均質な微細空孔の形成を容易にし、電線・ケーブルの細径、薄肉化に容易に対応できる含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物、及びこれを用いた、多孔質物、絶縁電線とその製造方法、及び絶縁被覆電線、同軸ケーブルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記目的を達成するために検討した結果得られたものであり、請求項1の発明は、予め吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散してなる含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物において、前記紫外線硬化型樹脂組成物は、分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとしてアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する下式からなる分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤とからなる紫外線硬化型樹脂組成物であって、予め吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散する際に、該樹脂組成物に非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤が0.01mass%以上0.5mass%以下添加されていることを特徴とする含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物である。
【化1】

【0016】
請求項2の発明は、前記ふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基含有ポリオキシエチレンエーテル、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサンのいずれかのうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物である。
【0017】
請求項3の発明は、予め吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーが分散された分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとしてアクリロイル基又はメタク
リロイル基を有する下式からなる分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤、及び非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を0.01mass%以上0.5mass%以下含む紫外線硬化型樹脂組成物が硬化、加熱され、脱水された吸水性ポリマーからなる空孔が形成されていることを特徴とする多孔質物である。
【0018】
請求項4の発明は、数本束ねた導線の外周に絶縁層が形成された電線であり、前記絶縁層が請求項3に記載の多孔質物からなることを特徴とする絶縁電線である。
【0019】
請求項5の発明は、請求項4に記載の絶縁電線の外周に被覆層を設けたことを特徴とする絶縁被覆電線である。
【0020】
請求項6の発明は、請求項4に記載の絶縁電線の外周にシールド線を設けたことを特徴とする同軸ケーブルである。
【0021】
請求項7の発明は、分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとしてアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤とを含む紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマーに予め水を吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散する際に、該樹脂組成物に非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を0.01mass%以上0.5mass%以下添加し、含水吸水性ポリマーを分散させた含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物を紫外線で硬化させた後、加熱により前記含水吸水性ポリマーの水を除去し空孔を形成する多孔質物の製造方法である。
【0022】
請求項8の発明は、前記加熱にマイクロ波加熱を用いる請求項7に記載の多孔質物の製造方法である。
【0023】
請求項9の発明は、分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとしてアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤とを含む紫外線硬化型樹脂組成物に、予め水を吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散する際に、該樹脂組成物に非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を0.01mass%以上0.5mass%以下添加し、含水吸水性ポリマーを分散させた含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物を、導体の外周に被覆し、前記含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物を紫外線で硬化させて絶縁層を形成した後、加熱により前記絶縁層中の含水吸水性ポリマーの水を除去して前記絶縁層の中に空孔を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法である。
【0024】
請求項10の発明は、前記加熱にマイクロ波加熱を用いる請求項9に記載の絶縁電線の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、フロン、ブタン、炭酸ガス等を用いた物理発泡を要しないので、環境にやさしく、容易に均質な微細空孔を有する多孔質物を形成することができる。
【0026】
また、本発明の含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物は、紫外線硬化型樹脂組成物中に界面活性剤を所定量添加することによって、含水吸水性ポリマーが微分散するため、個々の空孔径を小さく、かつ均質な空孔を形成することが可能であり、加えて、薄肉でのフィルム成形性(製膜性)に優れている。
【0027】
本発明の含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物からなる多孔質物を絶縁層として設けた絶縁電線、絶縁被覆電線、同軸ケーブルは、優れた電気特性を有し、且つ、可撓性、熱衝撃性に優れ、曲げに対しても、割れやクラックを生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の多孔質物で絶縁層を形成した絶縁電線の一実施の形態を示す横断面図である。
【図2】本発明の多孔質物で絶縁層を形成した絶縁電線の外周に被覆層を設けた絶縁被覆電線の一実施の形態を示す横断面図である。
【図3】本発明の多孔質物で絶縁層を形成した絶縁電線の外周にシールド線を設け、さらに被覆層で被覆されている同軸ケーブルの一実施の形態を示す横断面図である。
【図4】本発明の実施例1で得た200μm厚のフィルムを200倍に拡大した断面図である。
【図5】本発明の比較例1で得た200μm厚のフィルムを200倍に拡大した断面図である。
【図6】本発明の実施例1で得た100μm厚の電線ケーブルを200倍に拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0030】
先ず、図1〜図3により、本発明の含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物が適用される絶縁電線、絶縁被覆電線、同軸ケーブルを説明する。
【0031】
図1は、絶縁電線の横断面図であり、複数本の導体3の外周に微細な空孔2を有する含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物からなる絶縁層1を被覆した絶縁電線10を示したものである。
【0032】
図2は、図1に示した絶縁電線10の外周に被覆層4を形成した絶縁被覆電線11を示したものである。
【0033】
図3は、図1に示した絶縁電線10を用いた同軸ケーブルの横断面図であり、絶縁電線10の導体3を内側導体とし、絶縁電線10の絶縁層1の外周にシールド線5を形成し、さらにその外周に被覆層6を形成した同軸ケーブル12を示したものである。
【0034】
さて、本発明に係る含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物は、分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとしてアクリロイル
基又はメタクリロイル基を有する下式からなる分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤とからなる紫外線硬化型樹脂組成物に、非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を0.01mass%以上0.5mass%以下添加し、予め吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散してなる。
【化1】

【0035】
一般的に用いられる紫外線硬化型樹脂組成物には、エチレン系、ウレタン系、シリコーン系、ふっ素系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリカーボネート系などがあるが、本発明に用いる紫外線硬化型樹脂組成物としては、誘電率が4以下、より好ましくは3以下のものが良く、分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとして
アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する下式からなる分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤とからなる紫外線硬化型樹脂組成物であって、且つ、該樹脂組成物に含水吸水性ポリマーを分散する際には、非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を0.01mass%以上0.5mass%以下添加すると良い。
【化1】

【0036】
本発明において、ウレタンオリゴマを上記構造(化1)とすることにより、靭性と可撓性に優れ、多孔質物を形成する際の空孔の潰れを抑えることができ、曲げによるクラックを生じ難くすることができる。
【0037】
また、ウレタンオリゴマ分子量を5000以下とするのは、分子量が5000よりも大きいと、紫外線硬化型樹脂組成物の粘度が高く取扱い性が低下することや、含水吸水性ポリマーの分散性が悪くなるためである。
【0038】
また、脂環系モノマや親水性モノマを用いることで、粘度の調整が可能となる。加えて、脂環系モノマは、紫外線硬化時の体積収縮を抑え、歪を緩和することで、曲げや熱衝撃などによるクラックを生じ難くする作用を有している。
【0039】
また、親水性モノマは、含水吸水性ポリマーの独立分散を助け、均質な多孔質物の形成を容易にする。
【0040】
脂環系モノマとして、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレートなどの公知の材料を用いればよい。好ましくは、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートが良い。
【0041】
親水性モノマとして、ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、テトラヒドロフルフリールアクリレート、テトラヒドロフルフリールメタクリレート、ビニルアセテート、N−ビニルカプロラクタム等の公知の材料を用いればよい。このうち、ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートのうち1以上の親水性モノマを用いるのが良く、含水率を高める際の製膜性を確保する上で非常に有効である。この添加量は、10mass%以上、50mass%以下が良い。10mass%より少ないと含水吸水性ポリマーの分散による多孔質物の形成が著しく低下するためであり、50mass%より多くすると、製膜性に影響を及ぼす他、可撓性や機械特性面におけるバランスを得難くなる。
【0042】
上記の紫外線硬化型樹脂組成物に界面活性剤を添加するのは、微細化した含水吸水性ポリマーを紫外線硬化型樹脂組成物に分散させる際に、ゲル状の含水吸水性ポリマーが凝集せず、均質に分散するようにするためである。また、非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系活性剤を用いるのは、イオン性の界面活性剤では電気絶縁性の低下を招く虞があるためである。
【0043】
界面活性剤の添加量は、0.01mass%以上0.5mass%以下が好ましい。これは、0.01mass%よりも少ないと、含水吸水性ポリマーの微分散効果が得難くなるためであり、また、0.5mass%を超えると、添加量に対する含水吸水性ポリマーの微分散効果が得られず、製膜性や機械的特性の低下のなどの問題が生じることがある。
【0044】
非イオン性のふっ素系界面活性剤としては、F−443、F−444、F−445(何れもDIC製)等のパーフルオロアルキル含有ポリオキシエチレンエーテルや、F−470、F−471、F−475、F−477、F−478、F−479(何れもDIC製)等のパーフルオロアルキル基・親水性基・親油性基含有オリゴマーや、F−480FS、F−484(何れもDIC製)等のパーフルオロアルキル基・親水性基含有オリゴマーや、F−487、F−172D(何れもDIC製)等のパーフルオロアルキル基・親油基含有オリゴマーなどがある。特に、パーフルオロアルキル基含有ポリオキシエチレンエーテルが好ましい。
【0045】
非イオン性のシリコーン系界面活性剤としては、非反応性シリコーンオイルが好ましく、特に側鎖変性タイプが良い。例えば、ポリエーテル変性、アラルキル変性、フロロアルキル変性、長鎖アルキル変性、フェニル変性などがある。特に、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサンが好ましい。
【0046】
また、吸水性ポリマーとは、非常に良く水を吸い込み、保水力が強いため多少の圧力を加えても吸水した水を放出しない高分子物質で、例えばデンプン−アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体の加水分解物、ポリアクリル酸塩架橋体、カルボキシメチル化セルロース、ポリアルキレンオキサイド系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂等がある。
【0047】
特に吸水性ポリマーとしては、ナトリウムを含まず、吸水量が20g/g以上のものが好ましい。代表的なものとしては、ポリアルキレンオキサイド系樹脂があげられる。ナトリウムを含まないのは、電気絶縁性を低下させる要因になり易いためである。
【0048】
含水吸水性ポリマーとは、吸水性ポリマーに水を吸水膨潤させたものである。吸水させた吸水性ポリマーを分散させるのは、空孔のサイズや形状が、吸水性ポリマーの粒径と吸水量で制御できることや吸水膨潤によりゲル状となった吸水性ポリマーは水を多く含み、水と液状の紫外線硬化型樹脂組成物とは非相溶のため、撹拌分散の際に、独立分散しやすく且つ球状となって分散しやすくなる。このため硬化後の脱水によって得られる空孔形状が球に近い形状とすることができ、つぶれに対して強いものが得られやすくなるためである。
【0049】
吸水量は吸水性ポリマー1gあたりに吸水される水の量(g)で、吸水量が20g/gより小さくなると、空孔形成効率が低くなることや吸水性ポリマーを多く使用する必要があるためである。
【0050】
含水吸水性ポリマーを分散させた含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物の含水率は、30mass%以上70mass%以下が好ましい。それは、30mass%より少ないと、熱可塑性樹脂のPFAやETFE等のふっ素系樹脂やポリエチレンなどの低誘電率の樹脂と比較して、形成された多孔質物を絶縁層として用いた電線・ケーブルをより低い誘電率とすることが難しいためである。また、70mass%より多くなると、多孔質物の耐つぶれ性、成形性が低下し、安定した多孔質物の形成が著しく困難になるためである。
【0051】
本発明の含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物には、必要に応じて分散剤、レベリング剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、電気絶縁性向上剤、充填剤などを公知のものを加えて用いることができる。
【0052】
含水吸水性ポリマーを分散させた含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物を紫外線による硬化後、加熱により脱水させるのは、脱水による体積収縮による空孔率の低下が防止できるほか、膜厚や外径の変化を防止し、安定したものを得ることができるためである。さらに、予め空孔となる部分をもって被覆を形成できるため、発泡させる必要が無く、従来のガス注入や発泡剤によるガス発泡に生じやすい導体と発泡層間の膨れや剥離による密着力低下がまったくなく安定したものが得られる。
【0053】
吸水させた吸水性ポリマーの水を加熱脱水するのにマイクロ波加熱を利用するのは、水はマイクロ波により急速に加熱されるため、吸水性ポリマーや周囲の樹脂などに影響を与えることなく、短時間で加熱脱水ができ効率よく空孔形成ができるためである。また、導波管型マイクロ波加熱炉を用いることで、連続的に加熱脱水ができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例1〜6と比較例1〜6について説明する。
【0055】
表1に実施例1〜6及び比較例1〜6に用いた紫外線硬化型樹脂組成物を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
含水吸水性ポリマーとして、ポリアルキレンオキサイド系樹脂からなる平均粒径50μmの吸水性ポリマー(「アクアコークTWB‐PF」住友精化(株)製)に予め蒸留水を吸水させもので、その吸水比は、吸水性ポリマー1質量部に対して蒸留水31質量部とし、24時間静置した後、これをホモジナイザーPA−2K(ニロ・ソアビ社製)を用いて、圧力130MPaで1回解砕処理を施したものを用意した。
【0058】
次にこれを表1に示した各組成からなる紫外線硬化型樹脂組成物に対して、界面活性剤と、含水率が58%となるように含水吸水性ポリマーを150質量部加え、50℃に加温しながら、撹拌機(スリーワンモータ)で回転数600rpm、30分撹拌分散した。
【0059】
そして、この含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物を用いてフィルム及び電線を作製した。電線は、撚導体48AWG(7/0.013、S−MF−AG合金線、日立電線製)に各樹脂組成物を加圧塗布槽にて速度50m/minで被覆し、これを紫外線照射炉(6kw、2灯、アイグラフィックス製)に通し、その後加熱脱水処理して被覆厚約100μmの電線の作製を行った。
【0060】
実施例及び比較例の評価方法を次に示す。
【0061】
<フィルム成形性>
50℃に加温した含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物を5MIL、7MIL、15MILのブレードを用いて、ガラス板上に幅100mm、長さ200mmの塗膜を形成し、紫外線照射コンベア(メタルハライドランプ、出力80W/cm)にて、窒素雰囲気下で照射量500mJ/cm2を照射し、被覆膜厚50、100、200μmのフィルムとして製膜できるかどうか確認した。完全なフィルムとして得られるものを○、不完全なものを△、まったくフィルムにならないものを×とした。
【0062】
<空孔率>
得られたフィルムについて、マイクロ波加熱装置(発振周波数2.45GHz)を用いて10分加熱し脱水処理した後、23±2℃、55%RHで24時間状態調整後、体積重量を測定し、次式より空孔率を求めた。
空孔率(%)={1−(脱水後の試料重量/脱水後の試料体積)/(含水させない樹脂試料重量/含水させない樹脂試料体積)}×100
【0063】
実施例1〜6では、フィルムの製膜性は、いずれも良好(○)であり、また加熱脱水後のフィルムの空孔率は、何れの膜厚においても50%以上60%以下の範囲にあることが確かめられた。
【0064】
<360°折り曲げ試験>
フィルム試料(50μm厚・100μm厚・200μm厚、100℃×1時間で加熱脱水処理したもの)を2つ折りにした後、開いて、反対側に2つ折りにし、曲げ部のクラックの発生の有無を調べた。クラック発生の無いものを○、発生したものを×とした。
【0065】
実施例1〜6は、クラックの発生がないことを確認したが、比較例1〜6はクラックが発生した。
【0066】
<巻付け試験>
電線試料を同径サイズのマンドレルに5ターン×3実施し、被覆層の巻付け部のクラックの発生の有無を調べた。クラック発生の無いものを○、発生したものを×とした。
【0067】
<巻付け加熱>
電線試料を径の倍数サイズの径のマンドレルに5ターン×3実施し、これを100℃で1時間加熱した後、被覆層の巻付け部のクラックの発生の有無を調べ、クラックの発生しない径を調べた。同径の場合は1d、2倍径の場合は2d、3倍径の場合は3d…と表記した。
【0068】
実施例1〜6および比較例1〜6から明らかなように、本発明の界面活性剤を所定量添加してなる実施例1〜6の含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物では、含水吸水性ポリマーが微分散するために空孔径が小さく、特に200μm以下のような薄肉でのフィルム成形性(製膜性)に優れた多孔質物及び電線を得ることができる。[図4]と[図5]は実施例1で作製したフィルム、比較例1で作製したフィルムを拡大した断面写真である。これらの図面から、本発明の実施例1は、比較例1と比べて微細な径の空孔2を有するフィルムが得られることがわかる。また、[図6]は実施例1で作製した電線の断面写真を示したものであるが、空孔2が分散して存在していることを確認した。
【0069】
また、実施例2、3及び比較例1、2の結果から、界面活性剤が少ないと分散効果を得ることができず、多いとフィルム製膜性が劣ることを確認することができる。
【0070】
そして、本発明の構成を有するウレタンオリゴマを用いた実施例3、4及び本発明の構成とは異なる芳香族イソシアネートを用いたウレタンオリゴマを用いた比較例4、5、6の結果から、本発明の構成を有するウレタンオリゴマを用いることで、曲げや熱衝撃に強い多孔質物を得ることができることが明らかになった。
【0071】
さらに、比較例5から、イオン性界面活性剤を用いると、電気絶縁性が低くなることがわかった。
【符号の説明】
【0072】
1 絶縁層
2 空孔
3 導体
4 被覆層
5 シールド線
6 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散してなる含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物において、前記紫外線硬化型樹脂組成物は、分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとしてアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する下式からなる分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤とからなる紫外線硬化型樹脂組成物であって、予め吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散する際に、該樹脂組成物に非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤が0.01mass%以上0.5mass%以下添加されていることを特徴とする含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
前記ふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基含有ポリオキシエチレンエーテル、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサンのいずれかうち、少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
予め吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーが分散された分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとしてアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する
下式からなる分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤、及び非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を0.01mass%以上0.5mass%以下含む紫外線硬化型樹脂組成物が硬化、加熱され、脱水された吸水性ポリマーからなる空孔が形成されていることを特徴とする多孔質物。
【請求項4】
数本束ねた導線の外周に絶縁層が形成された電線であり、前記絶縁層が請求項3に記載の多孔質物からなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項5】
請求項4に記載の絶縁電線の外周に被覆層を設けたことを特徴とする絶縁被覆電線。
【請求項6】
請求項4に記載の絶縁電線の外周にシールド線を設けたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項7】
分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとしてアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤とを含む紫外線硬化型樹脂組成物に、吸水性ポリマーに予め水を吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散する際に、該樹脂組成物に非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を0.01mass%以上0.5mass%以下添加し、含水吸水性ポリマーを分散させた含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物を紫外線で硬化させた後、加熱により前記含水吸水性ポリマーの水を除去し空孔を形成する多孔質物の製造方法。
【請求項8】
前記加熱にマイクロ波加熱を用いる請求項7に記載の多孔質物の製造方法。
【請求項9】
分子量500以上3000以下のポリエチレングリコールアジペートジオールの両末端に脂環式イソシアネートを介してウレタン結合により両末端に官能基Xとしてアクリロイル基又はメタクリロイル基を有する分子量5000以下のウレタンオリゴマと、少なくとも1種以上の脂環系モノマと、親水性モノマと、光開始剤とを含む紫外線硬化型樹脂組成物に、予め水を吸水膨潤させた含水吸水性ポリマーを分散する際に、該樹脂組成物に非イオン性のふっ素系界面活性剤又はシリコーン系界面活性剤を0.01mass%以上0.5mass%以下添加し、含水吸水性ポリマーを分散させた含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物を、導体の外周に被覆し、前記含水吸水性ポリマー分散紫外線硬化型樹脂組成物を紫外線で硬化させて絶縁層を形成した後、加熱により前記絶縁層中の含水吸水性ポリマーの水を除去して前記絶縁層の中に空孔を形成することを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項10】
前記加熱にマイクロ波加熱を用いる請求項9に記載の絶縁電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−174040(P2011−174040A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260780(P2010−260780)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】