説明

含水素ハロゲン化シクロペンタン、及びヘプタフルオロシクロペンテンの製造方法

【課題】クロロヘプタフルオロシクロペンテンの貴金属触媒下での気相水素化反応などによる、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを製造する際に副生する1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンからモノハロゲノヘプタフルオロシクロペンタン、及び1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの製造方法を提供する。
【解決手段】ラジカル発生源存在下、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンをハロゲン化剤に接触させて、ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンを製造する。これをさらに、アルカリ性化合物と接触させることにより、脱ハロゲノ水素化反応が起こり、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンへ変換することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造分野において有用なエッチング、CVD等のプラズマ反応用ガス、含フッ素ポリマーの原料であるモノマー、あるいは、含フッ素医薬中間体、ハイドロフルオロカーボン系溶剤の原料として有用な1H−ヘプタフルオロシクロペンテン、及びその前駆体物質の製造方法に関する。高純度化された1H−ヘプタフルオロシクロペンテンは、特に、プラズマ反応を用いた半導体装置の製造分野において、プラズマエッチングガス、化学気相成長法(CVD)用ガス等に好適である。
【背景技術】
【0002】
1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの製造方法としては幾つかの製造方法が開示されている。
特許文献1においては、1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを相間移動触媒の存在下にアルカリ化合物等を用いて脱フッ化水素化することにより、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを主生成物として得る製造方法が開示されている。実施例によると、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンと同時に異性体である、3H−ヘプタフルオロシクロペンテンが副生することが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−292807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既に発明者らは、クロロヘプタフルオロシクロペンテンを貴金属触媒存在下に水素還元を行うことで、目的物である1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを得ている(PCT/JP2009/062686号)が、同時に、望ましくない飽和体である、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンが副生することを確認した。特に、この方法において、1−クロロヘプタフルオロシクロペンテンを水素化して副生する1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンは、過水素化されているため目的物である1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを製造するという工業的観点からは廃棄物でしかない。そのため、発明者らはその利用を追及すること、さらには、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンへ変換する方法の開発を余儀なくされた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、一番望ましい形態として、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンをなんらかの方法により、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンに変換することができれば、1−クロロヘプタフルオロシクロペンテンから1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを製造するというプロセスにおいて、副生する1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンの生成量を削減すると同時に、目的物である1H−ヘプタフルオロシクロペンテンとして回収できると考えた。
【0006】
すなわち、本発明者は、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンをハロゲン化剤と接触させて、一旦、ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンに導き、それをアルカリ処理することにより、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンに変換できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
但し、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンを直接、塩素、あるいは臭素等のハロゲン化剤によりハロゲン化した例は報告されていない。
【0007】
かくして本発明によれば、次の第一の方法及び第二の方法が提供される。
第一の方法は、ラジカル発生源存在下、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンをハロゲン化剤に接触させて、ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンを製造する方法である。
第二の方法は、第一の方法によりハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンを得た後に、単離することなく続けてアルカリ性化合物と接触させて1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを製造する方法である。
第一の方法において、ハロゲン化剤は、臭素、三臭化リン、塩素、塩化スルフリル、三塩化リン、オキシ塩化リンから選択されるものを用いるのが好ましい。
第二の方法において、ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンをアルカリ性化合物と接触させる際に、相間移動触媒を添加することが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に用いられる1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンは、例えば、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを貴金属触媒存在下に水素化する(WO98/51650号公報)、1−クロロヘプタフルオロシクロペンテンをやはり貴金属触媒存在下に気相反応で水素化する(特開2000−247912号公報)などの方法により製造することができる。
【0009】
本発明に用いられるハロゲン化剤としては、臭素、三臭化リン、塩素、塩化スルフリル、三塩化リン、オキシ塩化リンなどの一般的なハロゲン化剤を用いることができる。本発明においては反応効率の良さから、反応温度で液体又は気体のハロゲン化剤が好適である。反応時にハロゲン化剤が固体であると、ハロゲン化反応の進行が極めて遅くなる。もちろん常圧室温(25℃)では固体であっても、反応時圧反応温度で液体又は気体であれば、ハロゲン化反応は進行するが、操作性の良さの観点から、常圧室温(25℃)で液体又は気体であり、かつ反応温度で液体又は気体のハロゲン化剤が特に好ましい。臭素、三臭化リン、塩化スルフリル、三塩化リン、オキシ塩化リンなど、常圧室温(25℃)で液体のハロゲン化剤は直接、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンと混合することにより、塩素など、常圧室温(25℃)で気体のハロゲン化剤は、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタン中に塩素ガスをバルブリングさせながら接触させる。本反応はハロゲン化を受けにくい溶媒、例えば、四塩化炭素、クロロベンゼン、テトラクロロエチレン等の溶媒下に行うことも可能ではあるが、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタン自体が沸点82℃の液体であるため、反応温度によっては溶媒の役割を兼ねられるのと、ハロゲン化剤から発生する塩素、あるいは臭素ラジカルとの接触効率を高める意味で無溶媒下に反応を行うのが、生産性の観点から好ましい。
【0010】
これらハロゲン化剤の使用量は原料となる、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンに対して、通常1〜10当量、好ましくは1.3〜5当量、より好ましくは1.5〜2.5当量である。本反応は通常の炭化水素系化合物と比較して反応が遅いので、添加量が少な過ぎると反応速度が遅くなる。また、添加量が多過ぎるとハロゲン化反応自体は十分に起こるが、望ましくない2塩素体、あるいは3塩素体の生成や、その量が増加してくるため好ましくない。
【0011】
ハロゲン化反応はラジカル存在下で進行するため、本発明の方法においては、ラジカル発生源を必要とする。ラジカル発生源は、反応系に配合するラジカル開始剤であっても良いし、紫外線のような反応系に照射する用いる活性光線であってもよい。ラジカル開始剤に格別な制限はなく、ラジカル発生剤として知られる有機化合物でも無機化合物でも良い。有機化合物としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾビス化合物;等を挙げることができる。好ましくはアゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾビス化合物である。また、活性光線としては紫外線が挙げられる。紫外線は高圧あるいは低圧の水銀ランプ、キセノンランプ等を適宜選択して発生させればよい。
【0012】
ラジカル発生剤の使用量は、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンに対し、通常0.001mol%〜30mol%の範囲で用いられ、好ましくは0.05mol%から10mol%の範囲である。
活性光線は、反応の間、連続して照射しても、間欠して照射してもよいが、照射量は、紫外線の場合、通常3.5×10〜9.0×10mJ/cm,好ましくは5.0×10〜7.0×10mJ/cmである。
【0013】
ハロゲン化させる際の反応温度は通常、ラジカル開始剤からラジカル種を発生させる必要があるため、加熱下に行われる。その温度は、通常50℃〜250℃であり、より好ましくは70℃〜150℃である。
活性光線照射を行う場合も反応を円滑に行うために、やはり加温するのが好ましく、その温度は通常50℃〜250℃、より好ましくは70℃〜150℃である。
【0014】
ハロゲン化反応時の圧力に格別な制限はなく、ハロゲン化剤が反応条件下で液体又は気体となるように圧力を任意に設定することができるが、生産性の観点からは常圧が好ましい。
ハロゲン化反応の時間は反応温度によって適宜設定すればよいが、通常5〜200時間、好ましくは8〜40時間である。
【0015】
ハロゲン化反応を行う際の反応器は、腐食性のあるハロゲン化剤由来の副生成物(例えば、ハロゲン化水素や二酸化硫黄など)が副生するので、ガラス製反応器や耐食性を施したステンレス製反応器を用いることが望ましい。また、反応器には内容物が加熱還流できるように、コンデンサーが設置される。活性光線を照射して反応を行う場合は光源から発生する活性光線を遮断しないように、材質として石英、あるいはガラスが用いられる。
【0016】
本発明の第二の方法は、ハロゲノヘプタシクロペンタンを脱ハロゲン化水素する方法である。
ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンを脱ハロゲン化水素反応させるために使用されるアルカリ性化合物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属の水酸化物(金属水酸化物)、アルカリ土類金属酸化物(金属酸化物)、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属の炭酸塩(炭酸金属塩)、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属の炭酸水素塩(炭酸水素金属塩)、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属の脂肪酸塩(脂肪酸金属塩)などが挙げられる。
【0017】
金属水酸化物の例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウムなど;金属酸化物の例としては、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウムなど;炭酸金属塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなど;炭酸水素金属塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど;脂肪酸金属塩としては、酢酸リチウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウムなどが挙げられる。これらの中でも、炭酸金属塩、炭酸金属水素塩が好ましい。
【0018】
本発明において第二の方法では、ハロゲン化剤と接触させて、ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンを得る第一の方法の後に、単離することなく連続してアルカリ性化合物と接触させて脱ハロゲン化水素を行う。即ち脱ハロゲン化水素反応の対象物は、得られたハロゲノヘプタフルオロシクロペンタン以外に原料や反応副生物を含む粗ハロゲノヘプタシクロペンタンである。したがって、アルカリ性化合物の使用量は脱ハロゲン化水素反応に必要な量以外に、ハロゲン化反応で生成する副生物である、ハロゲン化水素(塩化水素、あるいは臭素水素)、二酸化硫黄、未反応ハロゲン化剤等を中和するに必要な量の合計量が最低限必要になる。よって、その使用量は、ハロゲン化反応を行う前の原料となる、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンを基準にすると、通常3〜20当量、より好ましくは、5〜10当量である。
【0019】
本発明の第二の方法においてハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンから脱ハロゲン化水素するに当たって、粗ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンに直接アルカリ性化合物を添加しても良いし、粗ハロゲノヘプタシクロペンタンを有機溶媒に溶解させて脱ハロゲン化水素反応を行っても良い。ハロゲン化反応で生成する、ハロゲン化水素(塩化水素、あるいは臭素水素)、二酸化硫黄、未反応ハロゲン化剤等を含有するため、有機溶媒がハロゲン化を受ける可能性があるため、本反応においては溶媒を用いない、前者を採用するのが好ましい。
【0020】
一方、上述した通り、ハロゲン化反応により得られた粗ハロゲノヘプタシクロペンタン中には、ハロゲン化水素(塩化水素、あるいは臭素水素)、二酸化硫黄、及び未反応ハロゲン化剤等が残存するので、アルカリ性化合物は水に溶解させて使用することが好ましい。水を用いずに反応を行うと、アルカリ性化合がハロゲン化水素(塩化水素、あるいは臭素水素)、二酸化硫黄、及び残存する未反応ハロゲン化剤等と直接反応し、急激な発熱をもたらすため、好ましくない副反応を併発する。この際、アルカリ性化合物の濃度が、通常1〜70重量%、好ましくは5〜50重量%になるよう水を添加する。
【0021】
また、アルカリ性化合物との接触による脱ハロゲン化水素反応は、相間移動触媒の存在下に行われるのが望ましい。相間移動触媒を添加することにより、脱ハロゲン化水素の反応速度が向上し、短時間で反応を終了させることができる。反応が短時間で終了することは生産性の向上に繋がるばかりでなく、残存する1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンの分解を最低限に抑えることができる点でも好ましい。
【0022】
相間移動触媒としては、合成反応で一般に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、第4級アンモニムハライド類、第4級ホスホニウムハライド類などのような第4級塩類、クラウンエーテル類、ポリオキシアルキレングリコール類などのようなポリエーテル類、アミノアルコール類が挙げられ、特に、第4級塩類が好ましい。第4級塩類は、窒素原子やリン原子などのヘテロ原子に4個の炭素含有置換基が結合して生じるカチオンと対アニオンからなる。
【0023】
第4級塩類の具体例としては、第4級アンモニウムハライド類、第4級ホスホニウムハライド類、第4級アンモニウムヒドロキシド類、第4級ホスホニウムヒドロキシド類、第4級アンモニウムハイドロサルフェート類などが挙げられ、第4級アンモニウムハライド類、第4級ホスホニウムハライド類が好ましい。相間移動触媒の例としては、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウムハライド類;テトラブチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミドなどの第4級ホスホニウムハライド類;15−クラウン−5、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6などのクラウンエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール類;トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アミン、クリプテートなどのアミノアルコール類が挙げられる。これらの中でも、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウムハライド類;テトラブチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミドなどの第4級ホスホニウムハライド類がより好ましい。
【0024】
これら相間移動触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。相間移動触媒の使用量は反応条件により適宜選択され、ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンに対し、通常0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%である。
【0025】
反応温度は通常0〜150℃の範囲から選択され、好ましくは室温〜100℃である。反応温度が低過ぎると反応速度が遅くなり、反応温度が高過ぎると、原料である1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンが残存する場合には、その分解を引き起こす。
【0026】
反応は還流冷却器を設けた反応器を用い、二相系で行う。反応終了後は、目的物である、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンが含まれる有機層(下層)を分離し、必要に応じて水洗浄や乾燥等の操作を行い、次いで蒸留等により精製すれば良い。ハロゲン化反応時に原料となる1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンが残存する場合には、蒸留で回収することができ、再度、ハロゲン化反応を行うことができる。
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0028】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:GC−2010(島津製作所社製)
カラム:ジーエルサイエンス社製 TC−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.0μm
カラム温度:50℃(10分間)→ 20℃/分で昇温→ 250℃(10分間)
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素ガス
スプリット比:100/1
検出器:FID
・ガスクロマトグラフィー質量分析
GC部分
装置:ヒューレットパッカード HP−6890
カラム:ジーエルサイエンス社製 Inert Cap−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm
カラム温度:40℃(10分間)加温した後、20℃/分で昇温し、次いで240℃(10分間)維持。
MS部分
装置:ヒューレットパッカード 5973 NETWORK
検出器:EI型(加速電圧:70eV)
【0029】
[実施例1]
1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタン(日本ゼオン社製:ゼオローラ(登録商標)−H)196部、塩化スルフリル(融点−54.1℃、沸点69.1℃)54部、及びアゾビスイソブチロニトリル1部を、ジムロート型コンデンサーを付したガラス製反応器に仕込んだ。コンデンサーには10℃の冷媒を循環させ、系内は窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながら反応器を90℃に加温し、そのまま20時間攪拌を継続した。その後、反応器を室温まで冷却した。内容物の極少量をサンプル瓶に取り、水酸化ナトリウム溶液で中和後、有機層をガスクロマトグラフィー分析したところ、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタン51.2面積%、ヘキサフルオロシクロペンタン6.4面積%、モノクロロヘプタフルオロシクロペンタン35.3面積%、及び幾つかの高沸点成分が合計7.1面積%であった。

モノクロロヘプタフルオロシクロペンタンのマススペクトル(CClF
GC−MS(EI−MS):m/z 230、131、113、95
【0030】
[実施例2]
1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタン196部、臭素(融点−7.3℃、沸点58.8℃)32部、及びアゾビスイソブチロニトリル1部を、ジムロート型コンデンサーを付したガラス製反応器に仕込んだ。コンデンサーには0℃の冷媒を循環させ、系内は窒素雰囲気下においた。内容物を攪拌しながら反応器を80℃に加温し、そのまま15時間攪拌を継続した。その後、反応器を室温まで冷却した。内容物の極少量をサンプル瓶に取り、水酸化ナトリウム溶液で中和後、有機層をガスクロマトグラフィー分析したところ、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタン61.1面積%、ヘキサフルオロシクロペンタン4.3面積%、モノブロモヘプタフルオロシクロペンタン30.5面積%及び幾つかの高沸点成分が合計4.1面積%であった。であった。

モノブロモヘプタフルオロシクロペンタンのマススペクトル(CBrF
GC−MS(EI−MS):m/z 275、131、113、95
【0031】
[実施例3]
コンデンサー、及びガス導入管を付したガラス製の光反応装置に1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタン(日本ゼオン社製:ゼオローラ(登録商標)−H)400部、塩化スルフリル100部を仕込んだ。コンデンサーには10℃の冷媒を循環させ、ガス導入管から窒素を導入し、反応器内の内容物を30分間バブリングした。内容物を攪拌しながら反応器を70℃に加温し、高圧水銀ランプ(ウシオ電機製、UM−102)により紫外線を10時間照射した(紫外線照射量は約8.6×10mJ/cm)。その後、反応器を室温まで冷却した。内容物の極少量をサンプル瓶に取り、水酸化ナトリウム溶液で中和後、有機層をガスクロマトグラフィー分析したところ、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタン40.2面積%、ヘキサフルオロシクロペンタン5.4面積%、モノクロロヘプタフルオロシクロペンタン44.2面積%、及び幾つかの高沸点成分が合計10.2面積%であった。
【0032】
[実施例4]
実施例1で得られた粗クロロヘプタフルオロシクロペンタン240部が入った反応器を氷水で冷却し、そこに、50重量%の炭酸カリウム水溶液550部を滴下ロートから30分かけて滴下した。滴下終了後、相間移動触媒として、テトラブチルアンモニウムブロミド3部を添加し、反応器を50℃に加温し、強攪拌下、5時間反応させた。反応器を室温まで冷却し、静置後、下層をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、モノクロロヘプタフルオロシクロペンタンは消失し、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンが生成していた。また、残存する1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンは0.3%が分解しているに過ぎなかった。1H−ヘプタフルオロシクロペンテンのピークをガスクロマトグラフィー質量分析計で分析した結果、標品とスペクトルが一致した。下層を分離後、飽和食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、粗1H−ヘプタフルオロシクロペンタンを得た。ガスクロマトグラフィー分析による収率は、実施例1の1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンを基準にして、30%であった。

GC−MS(EI−MS):m/z 194,173,144
【0033】
このようにして、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンをハロゲン化剤と接触させることにより、ハロゲンノヘプタフルオロシクロペンタンを製造することができ、さらには、ハロゲンノヘプタフルオロシクロペンタンを精製することなく、相間移動触媒の存在下にアルカリ性化合物と接触させることにより、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを製造することが可能になるので、製造工程の簡略化を図ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル発生源存在下、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンをハロゲン化剤に接触させて、ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンを製造する方法。
【請求項2】
ラジカル発生源存在下、1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンをハロゲン化剤に接触させて、ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンを得た後に、単離することなく続けてアルカリ性化合物と接触させて1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを製造する方法。
【請求項3】
臭素、三臭化リン、塩素、塩化スルフリル、三塩化リン、オキシ塩化リンから選択されるハロゲン化剤を用いることを特徴とする請求項1、2に記載の製造方法。
【請求項4】
ハロゲノヘプタフルオロシクロペンタンをアルカリ性化合物と接触させる際に、相間移動触媒を添加することを特徴とする請求項2記載の方法。

【公開番号】特開2011−144148(P2011−144148A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7758(P2010−7758)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】