説明

含窒素化合物の製造方法

【課題】脂肪族アルコールから、脂肪族1級アミンを高活性で高選択に製造する方法を提供する。
【解決手段】多孔性酸化物にルテニウム化合物の加水分解によって生成したルテニウム成分が担持された触媒の存在下、直鎖状又は分岐若しくは環を有する炭素数6〜22の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールを、アンモニア及び水素と接触させる脂肪族アミンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含窒素化合物、特に脂肪族アミンの製造方法に関し、さらに詳しくは、ルテニウム触媒を用いることにより、脂肪族アミンを高活性で高選択に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族1級アミンは、家庭用、工業用分野において重要な化合物であり、界面活性剤、繊維処理剤等の製造原料などとして用いられている。
脂肪族1級アミンの製造方法としては、様々な方法があるが、その中の1つとして、触媒の存在下に、脂肪族1級アルコールを、アンモニア及び水素と接触させる方法が知られている。この接触反応においては、触媒として、ニッケル、銅系触媒や貴金属系触媒が用いられる。
貴金属系触媒の中で、特にルテニウム系触媒を用いる方法としては、例えばアルミナ、シリカ、アルミノケイ酸塩などの多孔性酸化物上に、ルテニウムを0.001〜25重量%程度担持させると共に、ロジウム、パラジウム、白金、銅、銀又はこれらの混合物などの助触媒を0〜5重量%程度担持させてなる触媒を用いてアルコール等からアミンを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
この技術においては、触媒の調製に含浸法が採用され、乾燥後に400℃で4時間焼成し、更に300℃で20時間の水素還元処理が行われており、また、触媒の反応性、選択性は不十分であった。
【0003】
【特許文献1】特開平8−243392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、脂肪族アルコールから、脂肪族1級アミンを高活性で高選択に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、多孔性酸化物にルテニウム化合物の加水分解によって生成したルテニウム成分が担持された触媒の存在下、直鎖状又は分岐若しくは環を有する炭素数6〜22の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールを、アンモニア及び水素と接触させる脂肪族アミンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、脂肪族アルコールから、脂肪族1級アミンを高活性で高選択に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の脂肪族アミンの製造方法においては、原料として、直鎖状又は分岐若しくは環を有する炭素数6〜22の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが用いられる。
【0008】
このような脂肪族アルコールの具体例としては、ヘキシルアルコール、イソヘキシルアルコール、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、3,5,5−トリメチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、3,7−ジメチルオクチルアルコール、2−プロピルへプチルアルコール、ラウリルアルコールなどのドデシルアルコール類、ミリスチルアルコールなどのテトラデシルアルコール類、ヘキサデシルアルコール類、オレイルアルコール、ステアリルアルコールなどのオクタデシルアルコール類、ベヘニルアルコール、イコシルアルコール類、ゲラニオール、シクロペンチルメタノール、シクロペンテニルメタノール、シクロヘキシルメタノール、シクロヘキセニルメタノールなどを挙げることができる。
本発明において、前記脂肪族アルコールとしては、炭素数6〜22の直鎖状脂肪族アルコールが好ましい。
【0009】
本発明においては、触媒として、ルテニウム成分を担持した多孔性酸化物が用いられる。上記多孔性酸化物としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、活性炭、アルミノケイ酸塩、珪藻土、ハイドロタルサイト型化合物(例えば、マグネシウム−アルミニウム系複水酸化物)、アルカリ土類金属酸化物等を用いることができるが、これらの中で高活性、高選択性の観点から、アルミナ、ジルコニア、チタニア及びアルミノケイ酸塩が好ましく、さらにアルミナ、ジルコニアが好ましい。特に、ジルコニアやチタニアを用いた場合、得られる触媒はより高活性を有し、一方アルミナやアルミノケイ酸塩を用いた場合、得られる触媒は、1級アミンに対しより高選択性を有している。
本発明においては、前記多孔性酸化物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
本発明で用いる触媒は、前記多孔性酸化物にルテニウム成分を加水分解により担持させる。次に当該触媒の調製方法の一例について説明する。
まず、イオン交換水などの媒体に、前記の多孔性酸化物を加えて懸濁させたのち、この懸濁液に、ルテニウム化合物をイオン交換水などの水性溶媒に溶解させた溶液を加え、攪拌しながら必要に応じて加熱し、20〜95℃程度、好ましくは40〜80℃の温度に調節する。
前記ルテニウム化合物としては、例えばルテニウムの塩化物、硝酸塩、蟻酸塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0011】
次いで、ルテニウム化合物を含む懸濁液にアルカリを加えてpHを4〜12、好ましくは6〜11程度に調整して加水分解させ、熟成することによって、ルテニウム成分を多孔性酸化物に担持させる。前記アルカリについては、その種類は特に制限はないが、アンモニア水、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、水酸化物等が使用できる。pHを調整して熟成する時間については、ルテニウム化合物が加水分解する時間を確保出来れば、特に制限されない。
【0012】
次に、例えばホルムアルデヒド、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を加え、必要に応じて加熱し、20〜95℃程度、好ましくは60〜95℃の温度で還元処理した後、ろ過などにより固液分離し、得られた固形物を、充分に水洗後、好ましくは140℃以下の温度で、常圧又は減圧下で乾燥処理する。前記還元剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この還元剤は、担持されたルテニウム成分を効果的に還元するために、ルテニウムに対して、通常1〜50倍モル程度、好ましくは15〜40倍モルの割合で用いられる。
上記還元処理の時間は、還元反応が所望する程度に進行する時間が確保出来れば、特に、制限されない。
なお、前記還元処理の操作は、必ずしも必要ではなく、ルテニウム成分を加水分解で担持させた後、固液分離し、得られた固形物を充分に水洗して乾燥処理しても良い。
【0013】
本発明においては、多孔性酸化物へのルテニウム成分の担持を、前記のように加水分解にて行うことから、通常含浸法等において行われる高温での焼成処理、不活性ガス雰囲気下での高温還元処理等の操作を必ずしも必要とせず、触媒の調製が簡易である。
このようにして得られたルテニウム触媒は、十分な触媒活性や選択性及び経済性などの観点から、ルテニウム成分を、多孔性酸化物を含めた触媒全量に基づき、ルテニウム金属として好ましくは0.1〜25質量%程度、更に好ましくは1〜15質量%の割合で含有している。
触媒中のルテニウム含有量は、該触媒を硫酸水素アンモニウムで融解処理後、ICP発光分析で測定する。
【0014】
本発明の脂肪族アミンの製造方法においては、前記のようにして調製されたルテニウム触媒の存在下、原料の前記脂肪族アルコールを、アンモニア及び水素と接触させることにより、脂肪族アミン、好ましくは脂肪族1級アミンを製造する。
この接触反応は、バッチタイプの密閉式或いは流通式で行ってもよく、又は固定床流通式で行ってもよい。触媒の使用量は、反応方式にもよるが、バッチタイプの場合、良好な反応性及び選択性を得る観点から、原料の脂肪族アルコールに対して、0.1〜20質量%
が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。また、良好な転化率や選択性及び触媒劣化の抑制などの観点から、反応温度は120〜280℃、好ましくは180〜250℃であり、反応圧力は、常圧〜40MPaG、好ましくは0.5〜30MPaGである。
【0015】
また、原料成分としてのアンモニア/脂肪族アルコールのモル比は、転化率及び1級アミンの選択性などの観点から、通常0.5〜10程度、好ましくは2〜7である。アンモニアは、水素と別々に添加することもできるが、これらの混合ガスとして導入することもできる。
水素/脂肪族アルコールのモル比については、バッチタイプの密閉式の場合は、初期の仕込み時のモル比で0.01〜3.0、特に0.02〜2.0が好ましい。また、バッチタイプの流通式や固定床流通式の場合は、初期に流通させる水素は脂肪族アルコールに対してモル比で0.01〜1.0、特に0.02〜0.8が好ましい。但し、いずれの反応方式においても、反応進行中は必ずしも当該範囲内に限定されない。
【実施例】
【0016】
調製例1
セパラブルフラスコにアルミナ粉末[住友化学(株)製「A−11」]10.0gをイオン交換水170gに懸濁し、そこに分子量252.68の塩化ルテニウム水和物0.59gをイオン交換水40gに溶解させた溶液を加えて攪拌しながら60℃まで加熱した。その懸濁液(60℃)を3時間攪拌した後、沈殿剤としてアンモニア水を滴下して懸濁液のpHを11にして加水分解させ、2時間熟成した。その懸濁液に37質量%ホルマリン溶液4.8gを加えて90℃まで加熱し、1時間還元した後、得られた粉末を濾過、水洗し、60℃、13kPaで乾燥して2質量%ルテニウム−アルミナ触媒Aを約10g得た。
【0017】
調製例2
塩化ルテニウム水和物を1.47g用いた以外は調製例1と同様にして、5質量%ルテニウム−アルミナ触媒Bを約10g得た。
調製例3
アルミナ粉末の代わりに、ジルコニア粉末[第一稀元素化学工業(株)製「RC−100」]を用いた以外は調製例1と同様にして、2質量%ルテニウム−ジルコニア触媒Cを約10g得た。
【0018】
調製例4
アルミナ粉末の代わりに、チタニア粉末[堺化学工業(株)製「SSP−25」]を用いた以外は調製例1と同様にして、2質量%ルテニウム−チタニア触媒Dを約10g得た。
【0019】
調製例5
アルミナ粉末の代わりに、合成ゼオライト粉末[Zeolyst製「CP814E」]を用いた以外は調製例2と同様にして5質量%ルテニウム−ゼオライト触媒Eを約10g得た。
【0020】
調製比較例1
磁製皿に三塩化ルテニウム0.26gをイオン交換水5.8gに溶解させ、そこにアルミナ粉末[住友化学(株)製「A−11」]6gを浸漬し、室温で2時間静置した。次に、その懸濁液を65℃まで加熱して混合しながら脱水した後、120℃、常圧で一昼夜乾燥した。該乾燥粉末は、毎時3Nm3の空気流通下で毎分5℃の昇温速度で400℃まで加熱し、同温度で4時間焼成を行い、2質量%ルテニウム−アルミナ触媒Fを約6g得た。
尚、上記調製例及び比較調製例において、各触媒中のルテニウムの含有量はIPC発光分析で定量した
【0021】
実施例1
内容積500mlの電磁誘導回転攪拌式オートクレーブに、ステアリルアルコール150g(0.55mol)及び調製例1で得た触媒A3g(2.0質量%対原料アルコール)を仕込み、アンモニア47g(2.76mol)と、全圧が2.8MPaG(室温)になるように水素(0.17mol)を圧入した。次いで攪拌(1000r/min)を行って反応温度220℃まで昇温した。同温度での初期最高圧力は16MPaGであった。全圧力を16MPaGで一定になるように水素を連続追加して反応を行った。得られた反応生成物は触媒を濾別した後、ガスクロマトグラフィーで組成分析を行った。結果を第1表に示す。
【0022】
実施例2〜5
実施例1において、触媒Aの代わりに、調製例2、3、4及び5でそれぞれ得た触媒B、C、D及びEを用いて、第1表に示す反応温度220℃での初期最高圧力で一定になるように水素を追加した以外は、実施例1と同様に反応を行い、得られた反応生成物について実施例1と同様に分析を行った。結果を第1表に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
比較例1
実施例1において、触媒A)の代わりに、比較調製例1で得られた触媒Fを用いる以外は実施例1と同様の反応操作を行った。即ち、温度220℃で初期の最高圧力が16MPaG、6時間の反応を行った。得られた反応生成物を実施例1と同様の分析を行い、アルコール転化率は54.9%であった。
【0025】
実施例6
実施例3において、ステアリルアルコールの代わりに、ラウリルアルコールを150g(0.81mol)仕込み、アンモニア69g(4.06mol)を用いた以外は実施例3と同様の反応操作を行い、反応を11時間行った。反応温度220℃のとき、初期最高圧力は21MPaGであった。得られた反応生成物は実施例1と同様の分析を行った。アルコール転化率は96.3%、ラウリルアミン選択率は74.9%であり、ジラウリルアミン生成量は12.3%、その他副生成物は10.9%であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の脂肪族アミンの製造方法は、脂肪族アルコールから、脂肪族1級アミンを高活性で高選択に製造することができる方法であり、得られる脂肪族1級アミンは、家庭用、工業用分野において重要な化合物であり、例えば、界面活性剤、繊維処理剤等の製造原料などとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性酸化物にルテニウム化合物の加水分解によって生成したルテニウム成分が担持された触媒の存在下、直鎖状又は分岐若しくは環を有する炭素数6〜22の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールを、アンモニア及び水素と接触させる脂肪族アミンの製造方法。
【請求項2】
触媒中におけるルテニウム成分の含有量が、ルテニウム金属として、触媒全量に基づき0.1〜25質量%である請求項1記載の脂肪族アミンの製造方法。
【請求項3】
多孔性酸化物が、アルミナ、ジルコニア、チタニア及びアルミノケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の脂肪族アミンの製造方法。
【請求項4】
140℃以下の温度で乾燥処理した触媒を使用する請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪族アミンの製造方法。
【請求項5】
調製した触媒を、ホルムアルデヒド、ヒドラジン及び水素化ホウ素ナトリウムの中から選ばれる少なくとも1種の還元剤の存在下で還元処理する請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪族アミンの製造方法。
【請求項6】
脂肪族アルコールとアンモニア及び水素との接触反応を、120〜280℃の温度で行う請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪族アミンの製造方法。
【請求項7】
脂肪族アルコールとアンモニア及び水素との接触反応を、アンモニア/脂肪族アルコールモル比で0.5〜10の条件で行う請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪族アミンの製造方法。

【公開番号】特開2007−176891(P2007−176891A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379652(P2005−379652)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】