説明

吸収体及び吸収性物品

【課題】液の引き込み性及び保持性に優れ、高粘性の液に対しても優れた吸収性を発現し得る吸収体及び吸収性物品を提供すること。
【解決手段】本発明の吸収体は、パルプ繊維を主繊維として含有する湿式抄造体40を含んで構成され、湿式抄造体40の内部に吸収ポリマー粒子42が多数分散配置されている。湿式抄造体40の内部に、その構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の吸収ポリマー粒子42が収容されている、空隙部43の群40A,40Bが複数形成されており、複数の空隙部の群40A,40Bは、互いに空隙部43(43a,43b)の平均容積が異なっている。空隙部43は、空隙部43に収容されている1つ以上の吸収ポリマー粒子42が液を吸収して膨潤した場合のその膨潤状態の該吸収ポリマー粒子42を収容可能な大きさを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理用ナプキン、使い捨ておむつ等の吸収性物品に用いられる吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキンや使い捨ておむつ等の吸収性物品には、排泄液を保持する吸収体が組み込まれており、該吸収体として、パルプ繊維等の繊維及び吸収ポリマー粒子を含有するものが知られている。この種の吸収体には、実用上十分な液吸収性を有し、吸収ポリマー粒子が脱落しにくいことが求められており、斯かる要望に応えるべく、種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、繊維及び吸収ポリマー粒子を含む繊維マトリックスを備え、該吸収ポリマー粒子が、該繊維マトリックス中の空隙内に位置し且つ該空隙内で膨張可能になされている吸収性複合体が記載されている。この繊維マトリックス中には、吸収ポリマー粒子が収容された空隙が多数形成されている。
【0004】
また特許文献2には、第1の層と第2の層との間の連続領域に、吸収ポリマー粒子が実質的に均一分布されている吸収性構造体が記載されている。この連続領域には、第1の層と第2の層との熱結合により形成され且つ吸収ポリマー粒子を含有しない、区域が多数形成されており、該区域は、多数の吸収ポリマー粒子で包囲されている。
【0005】
また特許文献3には、繊維材料、第1の吸収ポリマー粒子、及び第1の吸収ポリマー粒子に比して粒子径が大きい第2の吸収ポリマー粒子を含んでなり、第1の吸収ポリマー粒子の少なくとも一部が、その周囲に、第2の吸収ポリマー粒子によって形成された空隙を有している、吸収性シートが記載されている。特許文献3に記載の吸収性シートは、2枚の繊維ウエブ間に第1及び第2の吸収ポリマー粒子が局部的に配されて構成されてり、第1及び第2の吸収ポリマー粒子を収容する多数の空隙は、特許文献1に記載されている多数の空隙のように互いに独立しておらず、互いに連なっていて、実質的に1つの吸収ポリマー粒子の収容空間を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−529168号公報
【特許文献2】特表平11−503954号公報
【特許文献3】特開2008−161301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の吸収性複合体は、吸収ポリマー粒子を収容する空隙の体積が、該吸収ポリマー粒子の膨潤可能倍率を超えている場合があり、その場合、空隙内の吸収ポリマー粒子に吸収されなかった液が、該空隙内に残留し、その結果、液漏れや液戻りが発生するおそれがある。また、空隙に関し、特許文献1には、互いに体積の異なる空隙の群を設けることは記載されておらず、特許文献1に記載の吸収性複合体は、体積が略一定の多数の空隙からなる群を1つ有しているだけである。そのため、特許文献1に記載の吸収性複合体は、例えば経血や軟便のような高粘性の液を、効率良く吸収できないおそれがある。
【0008】
また、特許文献2に記載の吸収性構造体は、吸収ポリマー粒子が実質的に均一分布されており、特許文献1に記載されているように、吸収ポリマー粒子が個々に空隙に収容されている形態をとっていないため、液吸収によって膨潤した吸収ポリマー粒子同士が密接し、液の通過や拡散を妨げるゲルブロッキング現象を引き起すおそれがあり、吸収性能の低下が懸念される。また、特許文献3に記載の吸収性シートは、特許文献2に記載の吸収性構造体ほどは吸収ポリマー粒子同士が密接していないものの、個々に独立した吸収ポリマー粒子の空隙を有していないため、吸収性能の点で改善の余地がある。
【0009】
従って、本発明の課題は、液の引き込み性及び保持性に優れ、高粘性の液に対しても優れた吸収性を発現し得る吸収体及び吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、パルプ繊維を主繊維として含有する湿式抄造体を含んで構成され、該湿式抄造体の内部に吸収ポリマー粒子が多数分散配置されている吸収体であって、前記湿式抄造体の内部に、該湿式抄造体の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の前記吸収ポリマー粒子が収容されている、空隙部の群が複数形成されており、該複数の空隙部の群は、互いに空隙部の平均容積が異なっている吸収体を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【0011】
また本発明は、肌当接面を形成する表面シート、非肌当接面を形成する裏面シート、及び両シート間に介在配置された実質的に縦長の前記吸収体を具備する吸収性物品であって、前記吸収体は、前記空隙部の平均容積が相対的に大きい第1の空隙部の群と、該平均容積が相対的に小さい第2の空隙部の群とを有し、前記第1の空隙部の群は、前記吸収体の幅方向中央部の肌当接面側に配されている吸収性物品を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
また本発明は、肌当接面を形成する表面シート、非肌当接面を形成する裏面シート、及び両シート間に介在配置された実質的に縦長の前記吸収体を具備し、着用時に着用者の腹側に配される腹側部と背側に配される背側部とを長手方向に有する吸収性物品であって、前記吸収体は、前記空隙部の平均容積が相対的に大きい第1の空隙部の群と、該平均容積が相対的に小さい第2の空隙部の群とを有し、前記第1の空隙部の群は、前記背側部側に偏倚して配されている吸収性物品を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液の引き込み性及び保持性に優れ、高粘性の液に対しても優れた吸収性を発現し得る吸収体及び吸収性物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の吸収性物品の第1実施形態である生理用ナプキンの肌当接面側(表面シート側)を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1のI−I線断面を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、図1に示すナプキンに用いられている吸収体の斜視図である。
【図4】図4は、図3のI−I線断面を模式的に示す断面図である。
【図5】図5(a)及び図5(b)は、それぞれ、本発明の吸収体の他の実施形態を模式的に示す図4相当図である。
【図6】図6(a)〜図6(d)は、それぞれ、本発明の吸収体の更に他の実施形態を模式的に示す平面図である。
【図7】図7は、本発明の吸収性物品の第2実施形態である使い捨ておむつの展開状態における肌当接面側(表面シート側)を一部破断して示す平面図である。
【図8】図8は、図7のI−I線断面を模式的に示す断面図である。
【図9】図9は、図7に示すおむつに用いられている吸収体の斜視図である。
【図10】図10は、図9のI−I線断面を模式的に示す断面図である。
【図11】図11は、図9のII−II線断面を模式的に示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の吸収体の更に他の実施形態を模式的に示す図9相当図である。
【図13】図13は、擬似軟便の透過性の評価に用いた器具を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の吸収体を、該吸収体を具備する本発明の吸収性物品と共に、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1〜図4には、本発明の吸収性物品の第1実施形態としての生理用ナプキンが示されている。第1実施形態のナプキン1は、肌当接面を形成する液透過性の表面シート2、非肌当接面を形成する液不透過性又は液難透過性の裏面シート3、及び両シート2,3間に介在配置された液保持性の吸収体4を具備している。吸収体4は、図3に示すように一方向に長い形状(略矩形形状)をしており、実質的に縦長である。吸収体4は、その長手方向をナプキン長手方向(図中X方向)に一致させて、ナプキン1の幅方向(図中Y方向)の中央部に配されている。
【0016】
尚、本明細書において、肌当接面は、吸収性物品又はその構成部材における、吸収性物品の着用時に着用者の肌側に向けられる面であり、非肌当接面は、吸収性物品又はその部材における、吸収性物品の着用時に肌側とは反対側(衣類側)に向けられる面である。また、長手方向は、吸収性物品又はその構成部材の長辺に沿う方向であり、幅方向は、該長手方向と直交する方向である。図中、符号Xで示す方向は、ナプキン1の長手方向(物品長手方向)であり、符号Yで示す方向は、ナプキン1の幅方向(物品幅方向)である。吸収体4の長手方向は、ナプキン1の長手方向と一致しており、吸収体4の幅方向は、ナプキン1の幅方向と一致している。
【0017】
図2に示すように、表面シート2は吸収体4の肌当接面側に配され、裏面シート3は吸収体4の非肌当接面側に配されている。表面シート2及び裏面シート3は、それぞれ従来公知のものと同様の材料から構成することができ、表面シート2としては、例えば親水性の不織布や開孔フィルム等が用いられ、裏面シート3としては、例えば液不透過性又は液難透過性のフィルムシート等が用いられ、この液不透過性のフィルムシートは水蒸気透過性を有していても良い。
【0018】
吸収体4(湿式抄造体40)は、上下2枚の液透過性のコアラップシート6によってその肌当接面及び非肌当接面が覆われている。このように、吸収体4をコアラップシート6で被覆することは、吸収体4の形状安定性の向上や、吸収体4に含有されている吸収ポリマー粒子の脱落防止などに有効である。コアラップシート6としては、例えば、ティッシュペーパー等の紙や各種不織布、開孔フィルム等を用いることができる。表面シート2及び裏面シート3それぞれとコアラップシート6との間は、ドット、スパイラル、ストライプ等のパターン塗工された接着剤(ホットメルト接着剤等)により互いに接合されている。
【0019】
表面シート2及び裏面シート3は、吸収体4よりも大きな寸法を有し、それぞれ、吸収体4の周縁から延出し、それらの延出部の端部において互いにヒートシール等により接合されてシール部7を形成している。また、表面シート2及び裏面シート3は、吸収体4の長手方向(図中X方向)に沿う両側縁から幅方向外方に延出して一対のフラップ部を形成している。これら一対のフラップ部は、それぞれ、ナプキン1の着用者の排泄部と対抗する部位(排泄部対向部)において幅方向(図中Y方向)の外方に更に延出し、一対のウイング部8,8を形成している。各ウイング部8は、ナプキン1の着用時にその非肌当接面がショーツ等の下着のクロッチ部の外表面側に折り返されて用いられ、各ウイング部8の非肌当接面には、ナプキン1を下着に固定する粘着部(図示せず)が設けられている。また、裏面シート3の非肌当接面上にも、ナプキン1を下着に固定する粘着部(図示せず)が設けられている。
【0020】
ナプキン1の肌当接面(表面シート2の肌当接面)には、その長手方向に沿う左右両側部に、ナプキン1の長手方向へ延びる一対の防漏溝9,9が形成されている。防漏溝9は、表面シート2及び吸収体4が、表面シート2側からエンボス等の圧搾手段によって圧密化及び一体化されて形成されている。防漏溝9は、ナプキン1の縦中心線に関して略対称な形状になっている。一対の防漏溝9,9は、それらの前後端が、ナプキン1の幅方向中央部にて互いに連結しており、これによって全体として閉じた形状をなしている。防漏溝9,9が形成されていることにより、ナプキン1の幅方向外方に流れる体液等が堰き止られ、ナプキン1の側部からの漏れ(横漏れ)が効果的に防止される。尚、後述するように、防漏溝9の形成位置を、吸収体4(湿式抄造体)40の内部に形成された複数の空隙群40A,40Bの配置位置との関係において適切に設定することにより、ナプキン1の着用者の身体に対するフィット性を向上させ、漏れや着用時の違和感を低減することが可能となる。
【0021】
吸収体4は、パルプ繊維を主繊維として含有する湿式抄造体40を含んで構成され、図4に示すように、湿式抄造体40の内部に吸収ポリマー粒子42が多数分散配置されている。湿式抄造体40は、後述するように、従来公知の湿式抄紙法を利用して製造される繊維集合体であり、パルプ繊維(図示せず)及び多数の吸収ポリマー粒子42を含有し且つ吸収ポリマー粒子42が液を吸収して膨潤している、湿潤状態の繊維ウエブ(湿潤繊維ウエブ)を乾燥して得られたものである。
【0022】
湿式抄造体40の内部には、湿式抄造体40の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の吸収ポリマー粒子42が収容されている空隙部43が多数形成されている。吸収ポリマー粒子42は、これを収容する空隙部43と共に、湿式抄造体40の全体に三次元状に分散して存在している。空隙部43は、後述するように、乾燥状態の吸収ポリマー粒子42の液吸収による膨潤及び膨潤状態の吸収ポリマー粒子42の乾燥による縮小を利用して形成されており、そのため、空隙部43の形状は、当該空隙部に収容されている1つ以上の吸収ポリマー粒子の膨潤状態の形状に近いものとなっている。従って、空隙部43は、吸収ポリマー粒子の膨潤・縮小を利用せずに形成された通常の繊維間空隙とは、形状や大きさ(容積)等が異なる。尚、図4では、1つの空隙部43に1つの吸収ポリマー粒子42が収容されているが、1つの空隙部に収容されている吸収ポリマー粒子の数は特に制限されず、2つ以上であっても良い。また、空隙部における吸収ポリマー粒子の収容数は、複数の空隙部において互いに異なっていても良い。
【0023】
多数の空隙部43は、その大きさ(容積)が巨視的に略同じというわけではなく(多数の空隙部43の容積が特定の狭い範囲に収まっているわけではなく)、容積が相対的に大きい第1の空隙部43aと、容積が相対的に小さい第2の空隙部43bとに分類される。湿式抄造体40の内部には、両空隙部43a,43bがそれぞれ多数形成されており、多数の第1の空隙部43aからなる第1の空隙群40Aと、多数の第2の空隙部43bからなる第2の空隙群40Bとが存している。第1の空隙群40Aと第2の空隙群40Bとは、各空隙群を構成する多数の空隙部43の平均容積が互いに異なっている。尚、ここで言う、「空隙群(空隙部の群)」は、多数の空隙部と、それら各空隙部の周辺に位置する繊維等の湿式抄造体の構成部材とを含む、湿式抄造体から物理的に取り出し可能な領域を意味する。空隙部43の容積は次の方法により測定することができる。
【0024】
<空隙部の容積の測定方法>
測定に先立ち、前処理として、測定対象の乾燥状態の湿式抄造体(吸収体)を平らな台の上に置き、その上方から24.5kPaの荷重を該湿式抄造体の全体に亘って12時間連続的に掛ける。この前処理により、湿式抄造体の厚みを回復させ、しわ等の影響を取り除いておくことができる。前処理済みの湿式抄造体の長手方向に沿う切断面(吸収体が組み込まれていた吸収性物品の長手方向に沿う切断面)を、マイクロスコープ(キーエンス社、VH−8000)を用いて、25倍の拡大像にして分割して撮像し画像データとして取り込む。こうして得られた複数の分割画像からなる画像データを、画像解析処理ソフト(Image−Pro plus,Media Cybernetics社)を用いて処理し、複数の分割画像毎に、湿式抄造体の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の吸収ポリマー粒子が収容されている空隙部の面積を算出する。次に、個々の空隙部を、算出された当該空隙部の面積と同じ面積を持つ仮想円に近似し、得られた仮想円の半径から、当該空隙部を球体とみなして、当該空隙部の容積を算出する。
【0025】
また、空隙群における空隙部の平均容積は、前記<空隙部の容積の測定方法>に従って算出された個々の空隙部の容積を用いて、次のようにして算出される。当該空隙群において、階級の幅として、最大となる空隙部の容積の値と最小となる空隙部の容積の値との差の絶対値を20段階に分断し、得られた個々の空隙部の容積をヒストグラムの形に整理する。そして、各ピークについて階級と度数を乗じ総和を取ることで、当該空隙群に存する全ての空隙部の容積の合計(総容積)を算出し、該総容積を各ピークを構成する空隙部の総数で除して、当該空隙郡における空隙部の平均容積を算出する。
【0026】
尚、湿式抄造体(吸収体)に、空隙部の平均容積の異なる空隙群が複数形成されているか否かは、例えば次の方法により評価することができる。湿式抄造体を複数の領域に区分し、各領域について前記手順により空隙部の平均容積を算出する。湿式抄造体を複数の領域に区分する方法としては、例えば、測定対象の湿式抄造体が組み込まれている吸収性物品を、その長手方向及び幅方向それぞれに3等分することで、湿式抄造体を合計9つの領域に分断する方法が挙げられる。物品長手方向又は物品幅方向に隣接する2つの領域について、それらの空隙部の平均容積の差が0.005mm3未満であれば、その2つの領域は空隙部の平均容積が同じであり、同一の空隙群に属すると判断し、また、差が0.005mm3以上であれば、その2つの領域は空隙部の平均容積が異なり、異なる空隙群に属すると判断する。または、2つの領域について、空隙部の平均容積を算出する際に用いた20段階の前記空隙部の階級において、該階級が5段階以上離れている場合、その2つの領域は空隙部の平均容積が異なり、異なる空隙群に属すると判断する。以上の作業を全ての領域について繰り返す。
【0027】
空隙部の平均容積が相対的に大きい第1の空隙群40Aの該平均容積V1と、空隙部の平均容積が相対的に小さい第2の空隙群40Bの該平均容積V2との比(V1/V2)は、好ましくは1.5〜100、更に好ましくは5〜50である。また、平均容積V1は、好ましくは0.01〜0.2mm3、更に好ましくは0.03〜0.15mm3である。
【0028】
第1の空隙群40Aは、図3及び図4に示すように、湿式抄造体40の幅方向(図中Y方向)の中央部の肌当接面側に配されている。より具体的には、第1の空隙群40Aは、平面視において湿式抄造体40よりも幅狭で且つ長手方向の長さが短い、矩形形状をしており、湿式抄造体40の幅方向及び長手方向の中央部の肌当接面側に偏倚して配されている。また、第1の空隙群40Aは、湿式抄造体40よりも厚みが小さく、そのため、湿式抄造体40の非肌当接面側には露出していない。湿式抄造体40における第1の空隙群40A以外の領域は、第2の空隙群40Bとなっている。第1の空隙群40Aは、その肌当接面を露出させた状態で第2の空隙群40B中に埋没されており、湿式抄造体40の肌当接面を形成する、空隙群40A及び空隙群40Bそれぞれの肌当接面は同一平面上にあり、湿式抄造体40の肌当接面は平坦となっている。湿式抄造体40における第1の空隙群40Aの配置箇所は、ナプキン1における前記排泄部対向部に略一致し、空隙群40Aは、ナプキン1において一対のウイング部8,8(図1参照)の間に配される。
【0029】
本発明に係る湿式抄造体の各部の寸法は、それが組み込まれている吸収性物品の種類、用途によって異なる。生理用ナプキンの場合、湿式抄造体40の幅方向の長さW1(図3参照)と、第1の空隙群40Aの幅方向の長さW2との比(W2/W1)は、好ましくは0.4〜0.8、更に好ましくは0.55〜0.7である。また、湿式抄造体40の厚みT1(図4参照)と、第1の空隙群40Aの厚みT2との比(T2/T1)は、好ましくは0.3〜1.0、更に好ましくは0.4〜0.8である。湿式抄造体40の幅方向の長さW1は、好ましくは50〜100mm、更に好ましくは60〜80mmであり、また、湿式抄造体40の厚みT1は、好ましくは0.3〜5mm、更に好ましくは1〜3mmである。
【0030】
このように、湿式抄造体40(吸収体4)には、互いに空隙部の平均容積の異なる2つの空隙群40A,40Bが形成されており、且つ2つの空隙群40A,40Bが特定の形態で配置されているため、湿式抄造体40は、液の引き込み性及び保持性に優れ、高粘性の液に対しても優れた吸収性を発現することができる。即ち、第1の空隙群40Aを構成する第1の空隙部43aは、容積が相対的に大きい空隙部であるため、空隙部43aに吸収ポリマー粒子42が収容されていてもなお、比較的大きな空間(繊維等の存在しない部分)を有している。この空間の存在により、第1の空隙部43aは、液を素早く吸収することができ、また、経血や軟便等の高粘性の排泄液を取り込んで固定することができる。高粘性の排泄液の湿式抄造体40内の移動は、主として重力によるものであるため、高粘性の排泄液は、比較的大きな空間を有する第1の空隙部43aに取り込まれやすい。
【0031】
一方、第2の空隙群40Bを構成する第2の空隙部43bは、容積が相対的に小さい空隙部であるため、空隙部43b内における、吸収ポリマー粒子42によって占められていない空間(繊維等の存在しない部分)は、第1の空隙部43aのそれに比して小さい。そのため、第2の空隙部43bは、低粘性の排泄液(尿、血漿、水分等)の取り込み性に優れており、また、高粘性の排泄液が内部に侵入しても、流動スペースが少ないため他の部位に拡散され難い。低粘性の排泄液の湿式抄造体40内の移動は、主として毛管力によるものであるため、低粘性の排泄液は、比較的小さな空間を有する第2の空隙部43bに取り込まれやすい。
【0032】
そして、第1実施形態においては、湿式抄造体40(吸収体4)において排泄液を最初に受ける部分である、湿式抄造体40の幅方向中央部(前記排泄部対向部)の肌当接面側に、第1の空隙群40Aを配することにより、排泄液を湿式抄造体40の内部に素早く吸収させると共に、高粘性の排泄液を第1の空隙群40A(第1の空隙部43a)に取り込んで固定し、高粘性の排泄液の他の部位への拡散を抑制している。また、第1の空隙群40Aを通過した低粘性の排泄液は、第1の空隙群40Aを取り囲むように配された、第2の空隙群40B(第2の空隙部43b)に取り込まれ、その内部に収容されている吸収ポリマー粒子42に固定される。また、高粘性の排泄液が第1の空隙群40Aに取り込まれずに第2の空隙群40Bに侵入したとしても、その高粘性の排泄液は、第2の空隙部43b内の前記空間に固定されるため、他に拡散しない。
【0033】
また、空隙群40A,40Bの分布と前述した防漏溝9の位置関係を適切に設定することにより、ナプキン1の着用者の身体に対するフィット性を向上させ、漏れや着用時の違和感を低減することが可能となる。具体的には、図示していないが、防漏溝9を、空隙部の平均容積が相対的に大きい第1の空隙群40Aが存する領域に形成することにより、あるいは特に、防漏溝9を、該平均容積が相対的に大きい第1の空隙群40Aと該平均容積が相対的に小さい第2の空隙群40Bとの境界及びその近傍に形成することにより、前述した、第1の空隙群40Aを構成する空隙部43aによる素早い液の取り込み性を維持しながら、第1の空隙群40Aの周辺への液の浸透による漏れを抑えることが可能となると共に、防漏溝9が可撓軸となってナプキン1を所望の形に屈曲させることが可能となる。
【0034】
空隙部43(43a,43b)は、空隙部43に収容されている1つ以上の吸収ポリマー粒子42が液を吸収して膨潤した場合のその膨潤状態の該吸収ポリマー粒子42を収容可能な大きさを有している。空隙部43は、後述するように、乾燥状態の吸収ポリマー粒子42の液吸収による膨潤及び膨潤状態の吸収ポリマー粒子42の乾燥による縮小を利用して形成されており、そのため、空隙部43の大きさ(容積)は、当該空隙部に収容されている1つ以上の吸収ポリマー粒子が液を吸収して膨潤したときの大きさに略等しい。
【0035】
このように、吸収体4が湿式抄造体40を含んで構成され且つ湿式抄造体40の内部に、吸収ポリマー粒子42の膨潤及びその後の縮小を利用して形成された空隙部43が多数形成されていることにより、吸収ポリマー粒子42の脱落が効果的に防止されると共に、吸収ポリマー粒子42として膨潤度の低いものを用いても、吸収体4(湿式抄造体40)の強度不足を招かず、実用上十分な強度が確保される。一般に、膨潤度の低い吸収ポリマー粒子は、表面の粘着性に乏しいため、このような吸収ポリマー粒子を含む吸収体は、強度が低下しやすい。
【0036】
多数の空隙部43のうちの少なくとも一部の内部には、1つ以上の吸収ポリマー粒子42が構成繊維(図示せず)に担持された状態で収容されている。ここで、吸収ポリマー粒子が構成繊維に担持されているとは、吸収ポリマー粒子42が、空隙部43内に入り込み、湿式抄造体40(吸収体4)に対して外部から応力が加わっても吸収ポリマー粒子42の極端な移動や脱落が起こりにくくなっている状態を言う。このとき、吸収ポリマー粒子42は自身の粘着性により構成繊維に付着し、あるいは構成繊維は吸収ポリマー粒子42に絡みつき又は引っ掛かりを生じている。第1実施形態においては、このような吸収ポリマー粒子42の担持状態が、繊維及び吸収ポリマー粒子42とは別個の結合剤〔例えば、融着繊維(バインダー繊維)、ホットメルト粘着剤、合成バインダー等〕を用いることなく実現されている。また前述したように、空隙部43は吸収ポリマー粒子42の膨潤及びその後の縮小を利用して形成されたものであるため、湿式抄造体40中に含まれている多数の吸収ポリマー粒子42の大部分(好ましくは、湿式抄造体40中に含まれている多数の吸収ポリマー粒子42の約70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上)は、それぞれ個別に空隙部43の内部に存しており、吸収ポリマー粒子42は、空隙部43内の空間に包まれた状態で前記のように繊維に担持されている。ここで、「個別」とは、1つの空隙部43に複数の吸収ポリマー粒子42が存在している場合をも含む。斯かる構成により、吸収ポリマー粒子42の吸収体4(湿式抄造体40)からの脱落がより一層起こりにくくなり、また、吸収ポリマー粒子42の液吸収による膨潤が阻害されにくいため、吸収体4の液吸収性が向上する。
【0037】
吸収ポリマー粒子42の形成材料としては、この種の吸収性物品において通常用いられている各種のものを適宜用いることができる。例えば、ポリアクリル酸ソーダ、(アクリル酸−ビニルアルコール)共重合体、ポリアクリル酸ソーダ架橋体、(デンプン−アクリル酸)グラフト重合体、(イソブチレン−無水マレイン酸)共重合体及びそのケン化物、ポリアクリル酸カリウム、並びにポリアクリル酸セシウム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
吸収ポリマー粒子42の粒子形状は特に制限されず、例えば不定形状、塊状、俵状、球状、あるいは球状等の粒子が凝集した形状等が挙げられる。また、吸収ポリマー粒子42の平均粒径は、吸収ポリマー粒子42の吸収体4(湿式抄造体40)からの脱落のしにくさや吸収性能の観点の他、吸収体4の厚みや空隙部43の大きさ等の観点から、50〜600μm、特に100〜500μmであることが好ましい。また、吸収ポリマー粒子42は、異なる平均粒径のものを2種類以上組み合わせて用いることもできる。吸収ポリマー粒子の平均粒径は例えば次のようにして測定される。
【0039】
<吸収ポリマー粒子の平均粒径の測定方法>
吸収体に含有されている吸収ポリマー粒子を取り出し、その吸収ポリマー粒子50gを、JIS Z 8801で規定された目開き850、600、500、355、300、250、150の標準篩(例えば東京スクリーン社製の標準篩)及び受け皿を用いて、振とう機(例えばレッチェ社製、AS200型)を用いて篩分けする。振とう条件50Hz、振幅0.5mm、振とう時間10分間とする。振とう後の各ふるい下の受け皿の重量を測定し、風袋重量を差し引いて各ふるい上の吸収ポリマー粒子の重量を算出した。測定は3回行い、平均値をふるい上重量とした。得られた各ふるい上重量を、測定した吸収ポリマー粒子の総重量である50で除して相対頻度を求め、粒度累積曲線を描いた。累積曲線の中央累積値(50%)に相当する粒子径を平均粒径とした。尚、測定は23±2℃、湿度50±5%で行い、測定の前に試料を同環境で24時間以上保存した上で測定する。
【0040】
吸収ポリマー粒子42としては、膨潤度の低いものを用いることもできる。膨潤度の低い吸収ポリマー粒子を用いることによる不都合、例えば、吸収ポリマー粒子自体の粘着性の低下に起因する吸収ポリマー粒子の脱落や吸収体の剥離強度、吸収性能の低下等は、前述した空隙部43を多数有する湿式抄造体40の採用により回避することができる。膨潤度の低い吸収ポリマー粒子としては、具体的には遠心保持量が5〜25g/g、特に8〜20g/gである吸収ポリマー粒子が好ましく用いられる。遠心保持量は次のようにして測定される。
【0041】
<遠心保持量の測定方法>
遠心保持量の測定は、ナイロン製の織布(メッシュ開き255、三力製作所販売、品名:ナイロン網、規格:250×メッシュ巾×30m)を幅11cm、長さ40cmの長方形に切断して長手方向中央で二つ折りにし、両端をヒートシールして幅11cm(内寸10cm)、長さ20cmのナイロン袋を作製する。測定試料である吸収ポリマー粒子0.5gを精秤し、作製したナイロン袋の底部に均一になるように入れる。試料の入ったナイロン袋を、生理食塩水(0.9重量%塩化ナトリウム水)に浸漬させる。浸漬開始から1時間後にナイロン袋を生理食塩水から取り出し、30分垂直状態に吊るして水切りした後、遠心脱水機(コクサン(株)製、型式H−130C特型)を用いて脱水する。脱水条件は、143G(800rpm)で10分間とする。脱水後、試料の重量を測定し、次式に従って目的とする遠心保持量を算出する。 遠心保持量(g/g)=(a’−b−c)/c ;式中、a’は遠心脱水後の試料及びナイロン袋の総重量(g)、bはナイロン袋の吸水前(乾燥時)の重量(g)、cは試料の吸水前(乾燥時)の重量(g)を表す。測定は3回行い(n=3)、3点の平均値を測定値とした。尚、測定は23±2℃、湿度50±5%で行う。
【0042】
湿式抄造体40における吸収ポリマー粒子42の含有量は、湿式抄造体40の全重量に対して、好ましくは5〜80重量%、更に好ましくは10〜70重量%である。特にナプキン1を、厚み(490Pa荷重下における厚み)が3mm以下の薄型ナプキンとする場合には、吸収ポリマー粒子42の前記含有量は、10〜70重量%、特に30〜60重量%とすることが、薄さと吸収性能とのバランスの面で好ましい。
【0043】
湿式抄造体40は、パルプ繊維を主繊維として含有している。主繊維であるパルプ繊維は、湿式抄造体40の構成繊維の50重量%以上、好ましくは80〜100重量%を占めている。前記パルプ繊維としては、例えば、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)等の木材パルプ、例えばウェアハウザー社製の「HBA」(商品名)やマーセル化パルプ等の嵩高性セルロース繊維;綿、藁、ケナフ等の非木材パルプ;キュプラ、レーヨン等の再生セルロース繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。コストの点からは、木材パルプを用いることが好ましく、特に針葉樹クラフトパルプや嵩高性セルロース繊維が好ましい。
【0044】
前記パルプ繊維としては、嵩高性セルロース繊維を含んでいることが好ましい。湿式抄造体40の主繊維として嵩高性セルロース繊維を用いることによって、吸収ポリマー粒子42の分散性及び固定化の程度が一層向上する。また、嵩高性セルロース繊維を用いることによって、吸収ポリマー粒子42のゲルブロッキングの発生も抑えることができる。この観点から、湿式抄造体40における主繊維であるパルプ繊維のうち嵩高性セルロース繊維の割合は10〜90重量%、特に30〜80重量%であることが好ましい。尚、嵩高性の繊維とは、繊維形状が、捻れ構造、クリンプ構造、屈曲及び/又は分岐構造等の立体構造をとるか、又は繊維断面が極太(例えば繊維粗度が0.3mg/m以上)である繊維をいう。
【0045】
湿式抄造体40の構成繊維に占める嵩高性セルロース繊維の割合が高いほど(併用されるNBKPの割合が低いほど)、湿式抄造体40は嵩高で高空隙(空隙部43の数が多い、及び/又は各空隙部43の容積が大きい)となる。一方、湿式抄造体40の構成繊維に占める嵩高性セルロース繊維の割合が低いほど(併用されるNBKPの割合が高いほど)、湿式抄造体40は嵩が小さくて低空隙(空隙部43の数が少ない、及び/又は各空隙部43の容積が小さい)となる。高空隙の湿式抄造体40は、液拡散性が高く且つ柔軟性に優れ、低空隙の湿式抄造体40は、厚みの薄型化に特に有効である。従って、嵩高性セルロース繊維とNBKPとの割合を調整することにより、所望の湿式抄造体40を得ることができる。
【0046】
嵩高性セルロース繊維の好ましいものの例として、繊維粗度が0.3mg/m以上のセルロース繊維が挙げられる。繊維粗度が0.3mg/m以上のセルロース繊維は、嵩高な状態でセルロース繊維が集積するので、吸収ポリマー粒子42を保持し得る嵩高なネットワーク構造が形成され易い。また、液体の移動抵抗が小さく、液体の通過速度が大きくなる。繊維粗度は、0.3〜2mg/m、特に0.32〜1mg/mであることが好ましい。
【0047】
繊維粗度とは、木材パルプのように、繊維の太さが不均一な繊維において、繊維の太さを表す尺度として用いられるものであり、例えば、繊維粗度計(FS−200、KAJANNIELECTRONICSLTD.社製)を用いて測定される。
【0048】
繊維粗度が0.3mg/m以上のセルロース繊維の例としては、針葉樹クラフトパルプ〔Federal Paper Board Co.製の「ALBACEL」(商品名)、及びPT Inti Indorayon Utama
製の「INDORAYON」(商品名)〕等が挙げられる。
【0049】
嵩高性セルロース繊維の好ましいものの他の例として、繊維断面の真円度が0.5〜1、特に好ましくは0.55〜1であるセルロース繊維が挙げられる。繊維断面の真円度が0.5〜1であるセルロース繊維は、液体の移動抵抗が小さく、液体の透過速度が大きくなる。真円度の測定方法は次の通りである。面積が変化しないように、繊維をその断面方向に垂直にスライスし、電子顕微鏡により断面写真をとる。断面写真を画像解析装置〔(株)ネクサス製New Qubever.4.22(商品名)〕により解析し、測定繊維の断面積及び周長を測定する。これらの値を用い、以下に示す式を用いて真円度を算出する。真円度は、任意の繊維断面を100点測定し、その平均値とする。
真円度=4π(測定繊維の断面積)/(測定繊維の断面の周長)2
【0050】
前述の通り、パルプ繊維として木材パルプを使用することが好ましいが、一般に木材パルプの断面は、脱リグニン化処理により偏平であり、その殆どの真円度は0.5未満である。このような木材パルプの真円度を0.5以上にするためには、例えば、かかる木材パルプをマーセル化処理して木材パルプの断面を膨潤させればよい。
【0051】
このように、嵩高性セルロース繊維としては、木材パルプをマーセル化処理して得られる真円度が0.5〜1であるマーセル化パルプも好ましい。本発明において用いることのできる市販のマーセル化パルプの例としては、ITT Rayonier Inc.製の「FILTRANIER」(商品名)や同社製の「POROSANIER」(商品名)等が挙げられる。
【0052】
また、繊維粗度が0.3mg/m以上で、且つ繊維断面の真円度が0.5〜1であるセルロース繊維を用いると、嵩高なネットワーク構造が一層形成され易くなり、液体の通過速度も一層大きくなるので好ましい。
【0053】
前記パルプ繊維等の、湿式抄造体40の構成繊維の繊維長は、吸収性能や作製のしやすさの観点から、好ましくは0.1mm〜15mm、更に好ましくは0.2mm〜5mmである。
【0054】
湿式抄造体40の構成繊維としては、前記パルプ繊維(嵩高性セルロース繊維)に加えて、非パルプ繊維を用いることができる。非パルプ繊維としては、親水性のものが好ましく、例えば、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維等の親水性合成繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維を界面活性剤により親水化処理したもの;ナイロン繊維、セルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。非パルプ繊維の割合は、湿式抄造体40の構成繊維の50重量%以下、特に1〜20重量%であることが好ましい。
【0055】
湿式抄造体40における繊維の含有量は、湿式抄造体40の全重量に対して、好ましくは20〜95重量%、更に好ましくは30〜90重量%である。特にナプキン1を、厚み(490Pa荷重下における厚み)が3mm以下の薄型ナプキンとする場合には、繊維の前記含有量は、30〜90重量%、特に40〜70重量%とすることが、薄さと吸収性能とのバランスの面で好ましい。
【0056】
湿式抄造体40には、繊維及び吸収ポリマー粒子42に加えて更に、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、ジアルデヒドデンプン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の湿潤紙力増強剤;分散剤等を配合することもできる。
【0057】
湿式抄造体40の坪量は、吸収速度、吸収容量、液の拡散、液の透過性等の観点から、好ましくは15〜250g/m2、更に好ましくは50〜120g/m2である。更に吸収容量を高めたい場合には、湿式抄造体40を重ねて多層構造として使用することができる。
【0058】
また、湿式抄造体40の49Pa(0.5g/cm2)荷重下における厚みは、湿式抄造体40をナプキンに適用した時の薄さ、ナプキン着用時の違和感の観点から、好ましくは0.3〜2.7mm、更に好ましくは0.5〜2.0mmである。厚みは次のようにして測定される。
【0059】
<厚みの測定方法>
厚み測定器(KES FB3-AUTO-A、カトーテック社製)を用いて測定する。測定対象物を測定台の上にシワや折れ曲がりがないように載置し、該測定対象物に、加圧面積2cm2の加圧板を50sec/mmの速度で押し込んでいき、所望の荷重(例えば測定対象物が湿式抄造体40の場合は49Pa)を掛けた状態での厚みを測定する。尚、測定は22±2℃、湿度65±5%で行う。
【0060】
また、湿式抄造体40の曲げ剛性は、好ましくは2〜13g、更に好ましくは2〜9gである。湿式抄造体40の曲げ剛性が大きいほど、該湿式抄造体40は曲げにくい。湿式抄造体40の曲げ剛性が斯かる範囲にあることは、その内部に空隙部43が多数形成されていることによるところが大きく、湿式抄造体40の曲げ剛性が斯かる範囲にあることにより、柔軟性に富み、変形しやすい抄造体を得ることができるという効果が奏される。曲げ剛性は、ハンドロメーター(F360A DIGITAL INDICATOR、ユニパルス社製)を用いて測定する。40mm×40mmの湿式抄造体40の試験片を準備し、スリット間隔を10mmに設定した試験台に載置し、測定を行う。測定は5回行い(n=5)、5点の平均値を測定値とした。尚、測定は23±2℃、湿度50±5%で行う。
【0061】
ナプキン1は、前述した構成の吸収体4を備えていることにより、薄型にすることが可能である。ナプキン1の厚みは、0.5〜5mm、特に1〜3mmであることが、着用中の漏れを防ぎながらも違和感がなく、携帯に便利であることから好ましい。ここでいうナプキンの厚みは、490Pa(5g/cm2)荷重下におけるナプキンの厚みを意味し、前記<厚みの測定方法>に従って測定される。尚、荷重490Pa(5g/cm2)は、ナプキン着用中に着用者の体重によって加わる荷重を想定したものである。
【0062】
第1実施形態のナプキン1は、通常のこの種の生理用ナプキンと同様に下着に装着して使用する。第1実施形態のナプキン1は、吸収体4(湿式抄造体40)が、互いに空隙部の平均容積が異なる2つの空隙群40A,40Bを有し且つそれらの空隙群が適切に配置されているため、液の引き込み性及び保持性に優れ、血漿や水分等の低粘性の排泄液は勿論のこと、経血等の高粘性の排泄液に対しても、優れた吸収性を発現することができる。また、吸収体4内の多数の吸収ポリマー粒子42は、それぞれ個別に空隙部43の内部に収容されているため、吸収ポリマー粒子42の脱落が起こり難く、また、吸収ポリマー粒子42が膨潤度の低いものであっても、吸収体4の強度低下を招き難い。また、本実施形態のナプキン1は、吸収体4が前述した構成を有していることにより、厚みを薄く設計することが可能であり、嵩張らず、携帯性及び装着感に優れる。
【0063】
以下、本発明の他の実施形態について図5〜図10を参照して説明する。後述する他の実施形態については、前述した第1実施形態のナプキン1と異なる構成部分を主として説明し、同様の構成部分は同一の符号を付して説明を省略する。特に説明しない構成部分は、第1実施形態のナプキン1についての説明が適宜適用される。
【0064】
図5には、前述した第1実施形態のナプキン1における湿式抄造体40(吸収体4)の変形例の図4相当図(幅方向に沿う模式的断面図)が示されている。第1実施形態における湿式抄造体40においては、第1の空隙群40Aは、湿式抄造体40の幅方向(図中Y方向)の中央部の肌当接面側に偏倚して配されていたが、図5(a)に示す湿式抄造体40aにおける第1の空隙群40Aは、湿式抄造体40aの幅方向中央部の厚み方向の全域に亘って配されており、該第1の空隙群40Aは、湿式抄造体40aの厚み方向(図5の上下方向)には偏在していない。湿式抄造体40aの厚みは、第1の空隙群40Aの厚み及び第2の空隙群40Bの厚みそれぞれと同じとなっている。
【0065】
また、第1実施形態における湿式抄造体40においては、第1の空隙群40Aは、第2の空隙群40B中に埋没されていたが、図5(b)に示す湿式抄造体40bにおける第1の空隙群40Aは、第2の空隙群40Bの肌当接面上に突出して配されている。即ち、湿式抄造体40bは、第2の空隙群40Bの実質平坦な肌当接面上に、該空隙群40Bよりも幅狭な第1の空隙群40Aが積層されて構成されており、該空隙群40Aは、肌当接面側に偏倚して配されている。湿式抄造体40bの非肌当接面は平坦となっているのに対し、それとは反対側の肌当接面は、突出形成された空隙群40Aに起因して凹凸面となっている。
【0066】
図6には、前述した第1実施形態のナプキン1における湿式抄造体40(吸収体4)の更に他の変形例の肌当接面側の平面図が示されている。第1実施形態における湿式抄造体40においては、第1の空隙群40Aは、湿式抄造体40の中央部(前記排泄部対向部に対応する部位)にのみ配されていたが、図6(a)に示す湿式抄造体40cにおける第1の空隙群40Aは、湿式抄造体40cの幅方向(図中Y方向)の中央部に、湿式抄造体40cの長手方向(図中X方向)の全長に亘って配されている。
【0067】
図6(b)に示す湿式抄造体40dにおいては、湿式抄造体40dの幅方向中央部に、複数の第1の空隙群40Aが互いに離間して配されている。湿式抄造体40dにおいては、平面視において矩形形状の第1の空隙群40Aが、湿式抄造体40dの幅方向中央部に2つ形成されており、これら2つの空隙群40A,40Aは、幅方向に所定間隔を置いて配され、両空隙群40A,40Aの間隙を含む、湿式抄造体40dのその他の部分が第2の空隙群40Bとなっている。
【0068】
図6(c)に示す湿式抄造体40eにおいては、湿式抄造体40eの幅方向両側部それぞれに、第1の空隙群40Aが湿式抄造体40の長手方向の全長に亘って配されており、該両側部に挟まれた湿式抄造体40eの幅方向中央部は、第2の空隙群40Bとなっている。斯かる構成の湿式抄造体40eは、ナプキン1の着用時における着用者の太ももからの圧縮を緩和し、ヨレを抑えることができ、安定した吸収性能を有すると共に、擦れによる皮膚トラブルを抑制する効果を発現できる。
【0069】
図6(d)に示す湿式抄造体40fにおいては、第1の空隙群40Aと第2の空隙群40Bとが湿式抄造体40fの長手方向に交互に配されている。湿式抄造体40fにおける複数の第1の空隙群40Aは、それぞれ、平面視において、湿式抄造体40fを幅方向(図中Y方向)に横断する矩形形状をしている。斯かる構成の湿式抄造体40fは、ナプキン1の着用時において着用者の身体の形状に沿って弓なりに変形することができ、フィット性の向上及び漏れの抑制効果を発現できる。
【0070】
図6(a)〜図6(d)に示す湿式抄造体40c〜40fにおいては、第1の空隙群40Aは、i)図4に示すように、第2の空隙群40B中に埋没し且つ湿式抄造体の肌当接面側に偏倚して配されていても良く、あるいはii)図5(a)に示すように、湿式抄造体の所定部分の厚み方向の全域に亘って配されていても良く、あるいはiii)図5(b)に示すように、第2の空隙群40Bの肌当接面上に突出して配されていても良い。
【0071】
図7〜図11には、本発明の吸収性物品の第2実施形態としての使い捨ておむつが示されている。第2実施形態のおむつ20は、肌当接面を形成する液透過性の表面シート2、非肌当接面を形成する液不透過性又は液難透過性の裏面シート3、及び両シート2,3間に介在配置された液保持性の吸収体4を具備している。吸収体4(湿式抄造体41)は、図9に示すように実質的に縦長であり、その長手方向をおむつ20の長手方向(図中X方向)に一致させて、おむつ20の幅方向(図中Y方向)の中央部に配されている。吸収体4は図示しないコアラップシートで被覆されており、表面シート2及び裏面シート3それぞれと該コアラップシートとの間は、ドット、スパイラル、ストライプ等のパターン塗工された接着剤(ホットメルト接着剤等)により互いに接合されている。
【0072】
おむつ20は、図7に示すように、実質的に縦長に形成されており、腹側部A、背側部B及びこれらA,Bの間に位置する股下部Cを長手方向に有している。腹側部Aは、おむつ20の着用時に着用者の腹側に配される部位、背側部Bは着用者の背側に配される部位、股下部Cは着用者の股下に配される部位である。腹側部A、背側部B及び股下部Cは、おむつ20を、その長手方向の全長を3等分するようにして3つの領域に区分したときの各領域に略相当する。
【0073】
おむつ20は、股下部Cの両側縁が円弧状に湾曲しており、全体として長手方向中央部が内方に括れた砂時計状の形状となっている。表面シート2及び裏面シート3はそれぞれ、吸収体4の左右両側縁及び前後両端部から外方に延出しており、それらの延出部において互いに接合されている。表面シート2は、その幅方向の寸法が、裏面シート3の幅方向の寸法より小さくなっている。おむつ20は、いわゆる展開型の使い捨ておむつであり、背側部Bにおける長手方向に沿う左右両側縁部には、一対のファスニングテープFTが取り付けられており、腹側部Aの非肌当接面(裏面シート3の非肌当接面)には、ファスニングテープFTを止着するランディングテープLTが取り付けられている。
【0074】
おむつ20の肌当接面における長手方向に沿う左右両側には、弾性部材10を有する立体ギャザー形成用のシート材11が配されて、立体ギャザーが形成されている。また、おむつ20の長手方向に沿う左右両側部には、レッグギャザー形成用の左右一対の1本又は複数本(第2実施形態においては2本)の弾性部材12,12が配されて、レッグギャザーが形成されている。レッグギャザー形成用の弾性部材12は、吸収体4の長手方向に沿う左右両側縁から幅方向外方に延出するレッグフラップにおいて、伸長状態で略直線状に配設されている。
【0075】
立体ギャザー形成用のシート材11は、その一側縁に、弾性部材10が1本又は複数本(第1実施形態では3本)、伸長状態で固定されている。シート材11は、吸収体4の長手方向に沿う左右両側縁よりも幅方向外方の位置において、おむつ20の長手方向に沿って表面シート2に接合されており、その接合部13が、立体ギャザーの立ち上がり基端部13となっている。シート材11は、立ち上がり基端部13からおむつ20の幅方向外方に延出し、その延出部において裏面シート3と接合されている。シート材11は、おむつ20の長手方向の前端部14及び後端部15において、表面シート2の肌当節面に接合されている。立体ギャザー形成用のシート材11としては、従来公知のものと同様の材料から構成することができ、例えば、液不透過性又は撥水性の多孔性樹脂フィルムや不織布等を用いることができる。
【0076】
吸収体4は、パルプ繊維を主繊維として含有する湿式抄造体41を含んで構成され、図10(図9のI−I線断面図)及び図11(図9のII−II線断面図)に示すように、湿式抄造体41の内部に吸収ポリマー粒子42が多数分散配置されている。湿式抄造体41の基本構成は、前述した湿式抄造体40と同じであり、両湿式抄造体40,41の違いは、2つの空隙群40A,40Bの配置形態である。
【0077】
湿式抄造体41においては、図9に示すように、第1の空隙群40Aは背側部B側に偏倚して配されている。より具体的には、第1の空隙群40Aは、湿式抄造体41における、背側部B(図7参照)に対応する領域の肌当接面側に偏倚して配されており、該領域の幅方向(図中Y方向)の全幅に亘っているが、少なくとも腹側部Aには配されていない。第1の空隙群40Aは、背側部Bから股下部Cに亘って連続していても良い。湿式抄造体41においては、第1の空隙群40Aは、その肌当接面を露出させた状態で第2の空隙群40B中に埋没されており、湿式抄造体41の肌当接面を形成する、空隙群40A及び空隙群40Bそれぞれの肌当接面は同一平面上にあり、湿式抄造体41の肌当接面は平坦となっている。
【0078】
第2実施形態のおむつ20は、通常の展開型のおむつと同様に使用できる。第2実施形態のおむつ20によっても、第1実施形態のナプキン1と同様の効果が奏され、尿や水分等の低粘性の排泄液は勿論のこと、軟便等の高粘性の排泄液に対しても、優れた吸収性を発現することができる。特に、第2実施形態のおむつ20においては、液の吸収速度が早く且つ軟便等の高粘性の排泄液の取り込み性に優れる、第1の空隙群40Aが、背側部B側に偏倚して配されているため、軟便の漏れを効果的に防止し得る。
【0079】
図12には、前述した第2実施形態のおむつ20における湿式抄造体41(吸収体4)の変形例の図9相当図(斜視図)が示されている。第2実施形態における湿式抄造体41においては、第1の空隙群40Aは、第2の空隙群40B中に埋没されていたが、図12に示す湿式抄造体41aにおける第1の空隙群40Aは、第2の空隙群40Bの肌当接面側に突出して形成されている。即ち、湿式抄造体41aは、第2の空隙群40Bの実質平坦な肌当接面上に、該空隙群40Bよりも長手方向Xの長さが短い第1の空隙群40Aが積層されて構成されており、該空隙群40Aは、長手方向Xにおいては背側部B側に偏倚して配され、湿式抄造体41aの厚み方向においては肌当接面側に偏倚して配されている。湿式抄造体41aの非肌当接面は平坦となっているのに対し、それとは反対側の肌当接面は、突出形成された空隙群40Aに起因して凹凸面となっている。
【0080】
次に、本発明の吸収体の製造方法について、その好ましい一実施態様に基づき説明する。以下では、先ず、空隙部を有する湿式抄造体の製造方法について説明し、次いで、該製造方法において、空隙部の容積の異なる空隙群を複数形成する方法(空隙部の容積の制御方法)について、前記実施形態における吸収体4(湿式抄造体40)の製造方法を例にとり説明する。
【0081】
本実施態様の吸収体の製造方法は、パルプ繊維を主繊維として含有する湿式抄造体を含んで構成され、該湿式抄造体の内部に吸収ポリマー粒子が多数分散配置されている吸収体の製造方法であって、パルプ繊維及び吸収ポリマー粒子を含む水系分散液を湿式抄紙して湿潤繊維ウエブを形成する工程と、該湿潤繊維ウエブを乾燥して該湿潤繊維ウエブ内の膨潤状態の該吸収ポリマー粒子を縮小させる工程とを有している。
【0082】
前記水系分散液は、湿式抄造体の構成成分を水に分散又は溶解させて調製される。各成分の水系分散液の調製槽への添加順序は、特に制限されないが、吸収ポリマー粒子の添加は、前記水系分散液を湿式抄紙する直前、即ち前記水性液を湿式抄紙機の網(ワイヤー)の上に流す直前(抄紙工程におけるワイヤーパートの直前)が好ましい。吸収ポリマー粒子を斯かるタイミングで調製槽に添加することにより、吸収ポリマー粒子の分散性が高まり、延いては空隙部の分散配置が促される。
【0083】
前記湿潤繊維ウエブは、例えば次のようにして形成することができる。即ち、前記パルプ繊維(嵩高性セルロース繊維)と水との混合物に、必要に応じ前記非パルプ繊維を添加して攪拌した後、更に必要に応じ湿潤紙力増強剤等の添加剤を添加して攪拌し、吸収ポリマー粒子無添加分散液を得る。該吸収ポリマー粒子無添加分散液を湿式抄紙機に導入し、抄紙直前に、該吸収ポリマー粒子無添加分散液に吸収ポリマー粒子を添加して攪拌した後(即ち前記水系分散液を調製した後)、これを、常法に従って湿式抄紙機の網の上に流して薄く平にすることで、前記湿潤繊維ウエブを形成する。この湿潤繊維ウエブは、湿潤状態の繊維集合体の内部に、吸収ポリマー粒子が膨潤状態で分散配置されて構成されている。膨潤状態の吸収ポリマー粒子は、湿潤状態の繊維によって包囲されている。
【0084】
次いで、前記湿潤繊維ウエブを乾燥する。湿潤繊維ウエブの乾燥は、通常の湿式抄紙法における抄紙工程のドライヤーパートを利用して行うことができる。湿潤繊維ウエブの乾燥前に、該湿潤繊維ウエブの脱水処理を行うことが好ましい。脱水処理は、通常の湿式抄紙法における抄紙工程のプレスパートを利用して行うことができる。具体的には、先ず、プレスパートにおいて、湿潤繊維ウエブに必要に応じフェルト(毛布)を当てて上下から圧縮することで、該ウエブ中の水分を搾り取り、次いで、ドライヤーパートにおいて、乾燥手段を用いて、脱水処理がなされた湿潤繊維ウエブを乾燥する。前記乾燥手段に特に制限は無く、ヤンキードライヤーやエアースルードライヤー等を用いることができる。また、前記湿式抄紙機は、例えば、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップ抄紙機、ハイブリッド抄紙機または丸網抄紙機等を用いることができる。
【0085】
このように前記湿潤繊維ウエブを乾燥することにより、該ウエブ中において液を吸収して膨潤状態にある吸収ポリマー粒子も乾燥される。その際、膨潤状態の吸収ポリマー粒子は、乾燥に伴ってその粒径が縮小し、乾燥の終わりには、膨潤前の状態(前記調製槽に添加する前の乾燥状態)に略戻るが、繊維どうしの絡み合いの状態やそれによって形作られる繊維構造体の形状等は、乾燥の前後で実質的に変化せず、その結果、縮小した吸収ポリマー粒子の周囲に空隙部が形成される。縮小した吸収ポリマー粒子の多くは、形成された空隙部内において、それ自身の粘着性あるいは繊維の絡みつき又は引っ掛かり等により、空隙部の界面近傍の繊維に付着する。こうして湿式抄造体が得られる。
【0086】
空隙部43の平均容積の異なる2つの空隙群40A,40Bを有する、湿式抄造体40は、前述した湿式抄造体の製造方法において、空隙部の容積を制御することによって得られる。本発明に係る湿式抄造体の空隙部は、前述したように、吸収ポリマー粒子の膨潤及びその後の縮小を利用して形成されるものであり、該空隙部の容積の制御は、湿式抄造体の製造時における、吸収ポリマー粒子の膨潤時の大きさ(膨潤体積)を調整することでなされる。前述した湿式抄造体の製造方法において、体積の異なる2種類の膨潤した吸収ポリマー粒子を発現させることで、2つの空隙群40A,40Bを有する湿式抄造体40が得られる。湿式抄造体の製造過程で、体積の異なる複数種の膨潤した吸収ポリマー粒子を発現させる方法としては、下記1)〜5)の方法が挙げられる。下記1)〜5)の方法は適宜組み合わせることもできる。
【0087】
1)遠心保持量の異なる複数種の吸収ポリマー粒子を用いる。
2)平均粒径(膨潤前の乾燥状態における平均粒径)の異なる複数種の吸収ポリマー粒子を用いる。
3)吸収ポリマー粒子を膨潤させる膨潤液(前述した湿式抄造体の製造方法で用いられる、水系分散液の溶媒)を複数種用いる。
4)液吸収速度の異なる複数種の吸収ポリマー粒子を用いる。
5)前述した湿式抄造体の製造方法において、水系分散液を調製する際の吸収ポリマー粒子の溶媒への添加を複数回に分ける。
【0088】
前記1)の方法の場合、吸収ポリマー粒子の遠心保持量が相対的に大きい吸収ポリマー粒子は、容積が相対的に大きい空隙部(第1の空隙部43a)に収容され、遠心保持量が相対的に小さい吸収ポリマー粒子は、容積が相体的に小さい空隙部(第2の空隙部43b)に収容される。
【0089】
湿式抄造体40を前記1)の方法で製造する場合、例えば、遠心保持量が5〜12g/gの範囲にある吸収ポリマー粒子と、遠心保持量が15〜25g/gの範囲にある吸収ポリマー粒子とを用いることができる。遠心保持量は、前述のようにして測定される。
【0090】
前記2)の方法の場合、複数種の吸収ポリマー粒子の遠心保持量が互いに略同じであれば、平均粒径が相対的に大きい吸収ポリマー粒子は、容積が相対的に大きい空隙部(第1の空隙部43a)に収容され、平均粒径が相対的に小さい吸収ポリマー粒子は、容積が相体的に小さい空隙部(第2の空隙部43b)に収容される。湿式抄造体40を前記2)の方法で製造する場合、例えば、平均粒径が350〜700μmの範囲にある吸収ポリマー粒子と、平均粒径が20〜300μmの範囲にある吸収ポリマー粒子とを用いることができる。
【0091】
前記3)の方法は、1種類の吸収ポリマー粒子を用いる代わりに、組成の異なる膨潤液を複数種用いるものであり、吸収ポリマー粒子の膨潤体積が、吸収する液の影響を受けることを利用したものである。湿式抄造体40を前記3)の方法で製造する場合、2つの空隙群40A,40Bそれぞれに対応する、2種類の前記水系分散液を用意し、各水系分散液を単独で用いて常法に従って2種類の湿式抄造体(空隙群40Aに相当する湿式抄造体と、空隙群40Bに相当する湿式抄造体)を得、こうして得られた2種類の湿式抄造体を湿潤状態のまま重ね合わせて乾燥させ一体化する、あるいはそれぞれ単独で乾燥させた後に、接着剤やヒートシール等の公知の接合手段により一体化することにより、湿式抄造体40が得られる。膨潤液としては、水の他、各種アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩の水溶液、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の水溶液、各種アルコール類、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エタノール等を用いることができる。特に好ましい膨潤液の組み合わせは、水と各種アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の塩の水溶液である。
【0092】
前記4)の方法は、特に、吸収ポリマー粒子による液吸収の初期段階において、その液吸収速度と吸収ポリマー粒子の膨潤体積とが比例関係にあることを利用したものである。前記4)の方法の場合、液吸収速度が相対的に速い吸収ポリマー粒子は、容積が相対的に大きい空隙部(第1の空隙部43a)に収容され、液吸収速度が相対的に遅い吸収ポリマー粒子は、容積が相体的に小さい空隙部(第2の空隙部43b)に収容される。湿式抄造体40を前記4)の方法で製造する場合、平均容積の異なる2つの空隙群40A,40Bを確実に形成する観点から、吸収性ポリマー粒子の膨潤倍率が最大となる前に、吸収性ポリマー粒子を含む水系分散液から常法に従って前記湿潤繊維ウエブを形成することが好ましい。
【0093】
前述した吸収ポリマー粒子の液吸収速度は、例えば、ボルテックス法による吸水速度を指標とすることができる。湿式抄造体40を前記4)の方法で製造する場合、例えば、ボルテックス法による吸水速度が10〜30秒の範囲にある吸収ポリマー粒子と、ボルテックス法による吸水速度が40〜120秒の範囲にある吸収ポリマー粒子とを用いることができる。ボルテックス法による吸水速度は、次のようにして測定される。
【0094】
<ボルテックス法による吸水速度の測定方法>
100mLのガラスビーカーに、生理食塩水(0.9質量%塩化ナトリウム水)50mLとマグネチックスターラーチップ(中央部直径8mm、両端部直径7mm、長さ30mmで、表面がフッ素樹脂コーティングされているもの)を入れ、ビーカーをマグネチックスターラー(アズワン製HPS−100)に載せる。マグネチックスターラーの回転数を600±60rpmに調整し、生理食塩水を攪拌させる。測定試料である吸水性ポリマー2.0gを、攪拌中の食塩水の渦の中心部で液中に投入し、JIS K 7224(1996)に準拠して該吸水性ポリマーの吸水速度(秒)を測定する。具体的には、吸水性ポリマーのビーカーへの投入が完了した時点でストップウォッチをスタートさせ、スターラーチップが試験液に覆われた時点(渦が消え、液表面が平らになった時点)でストップウォッチを止め、その時間(秒)をボルテックス法による吸水速度として記録する。測定はn=5測定し、上下各1点の値を削除し、残る3点の平均値を測定値とした。尚、これらの測定は23±2℃、湿度50±5%で行い、測定の前に試料を同環境で24時間以上保存した上で測定する。
【0095】
前記5)の方法は、1種類の吸収ポリマー粒子及び1種類の膨潤液を用いる代わりに、水系分散液を調製する際の吸収ポリマー粒子の溶媒への添加を複数回に分けるものである。即ち、前述した湿式抄造体の製造方法において、吸収ポリマー粒子無添加分散液を湿式抄紙機に導入し、抄紙直前に、該吸収ポリマー粒子無添加分散液に吸収ポリマー粒子を添加する際に、この添加を複数回に分けてずらして実行する。この方法では、最初に添加された吸収ポリマー粒子が最も膨潤体積が大きくなり、添加が遅れるほど膨潤体積は小さくなる。湿式抄造体40を前記5)の方法で製造する場合、例えば吸収ポリマー粒子を2回に分けて添加すれば良く、その場合、最初に添加された吸収ポリマー粒子は、容積が相対的に大きい空隙部(第1の空隙部43a)に収容され、次に添加された吸収ポリマー粒子は、容積が相対的に小さい空隙部(第2の空隙部43b)に収容される。このように、吸収ポリマー粒子を複数回に亘って添加する場合、吸収ポリマー粒子を添加してから次の添加に移るまでの時間は、吸収ポリマー粒子の種類、湿式抄造体の製造速度、湿式抄造体の吸収特性設計等を考慮して適宜設定される。
【0096】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、本発明の吸収体が適用可能な吸収性物品、あるいは本発明の吸収性物品は、生理用ナプキンや展開型の使い捨ておむつに制限されず、パンツ型の使い捨ておむつ、失禁パッド、尿取りパッド、ペット用おむつ、ペット用シーツ等にも適用できる。
【0097】
また、本発明の吸収体は、一般的におむつ、ナプキンなどの吸収性物品における排泄物の吸収を担うものに限定されず、吸収量の大小によらず、ある種液体を吸収する目的で使用されるものにも適用可能である。例えば、イ)おむつのウエスト周りに配することにより、着用者の汗を吸収させる目的で使用するもの、あるいはロ)混合積繊型の吸収体(繊維及び吸収ポリマー粒子を気中で混合して積繊した吸収体)を主吸収体として具備する吸収性物品において、該主吸収体の肌当接面側や側縁、あるいはギャザー部等に配することにより、主吸収体を補助し補助的な吸収性を担うもの、等にも使用できる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0099】
下記<吸収ポリマー粒子の合成方法>によって、2種類の吸収ポリマー粒子A,Bを製造した。吸収ポリマー粒子Aと吸収ポリマー粒子Bとは、表面架橋処理における架橋剤の使用量のみが異なっており、吸収ポリマー粒子Aの合成では架橋剤を1g、吸収ポリマー粒子Bの合成では架橋剤を15g用いた。吸収ポリマー粒子Aの遠心保持量は18g/g、吸収ポリマー粒子Bの遠心保持量は10g/gであった。
【0100】
<吸収ポリマー粒子の合成方法>
攪拌機、還流冷却管、モノマー滴下口、窒素ガス導入管、温度計を取り付けたSUS304製5L反応容器(アンカー翼使用)に分散剤としてポリオキシアルキレンエーテルリン酸エステル0.1%[対アクリル酸重量、有効成分として]を仕込み、ノルマルヘプタン1500mlを加えた。窒素ガスの雰囲気下に攪拌を行いながら90℃まで昇温し、重合開始剤として2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリドの存在下、別途準備したアクリル酸ナトリウム水溶液を反応容器内に滴下し重合を行った。その後、架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液を添加した。冷却後、ノルマルヘプタンおよび水を除去・乾燥させることにより吸収ポリマー粒子を得た。こうして得られた吸収ポリマー粒子を、前記5L反応容器(アンカー翼使用)に仕込み、更に分散剤としてショ糖脂肪酸エステルを仕込み、ノルマルヘプタン中で窒素雰囲気下、攪拌しながら75℃まで昇温した。その後、前記架橋剤及びエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液を添加し、前記吸収ポリマー粒子の表面架橋処理を行い、冷却後、ノルマルヘプタン及び水を除去・乾燥させることにより、目的とする表面架橋処理済みの吸収ポリマー粒子を得た。
【0101】
〔実施例1〕
ミキサーに、パルプ繊維100重量部と、ポリビニルアルコール繊維2重量部と、水16000重量部とを投入して分散混合した後、更に湿潤紙力補強剤を、前記パルプ繊維の乾燥重量100重量部に対し樹脂成分で0.44重量部となるように前記ミキサーに投入し、分散混合して水系分散液を得た。尚、前記パルプ繊維としては、ウェアハウザー社製の嵩高性セルロース繊維「HBA」(商品名)とNBKPとを重量比でHBA:NBKP=8:2の割合で用い、前記ポリビニルアルコール繊維としては、三昌社製の繊維「フィブリボンド」(商品名)を用い、前記湿潤紙力増強剤として、カイメンGX−3(理研グリーン社製)を用いた。前記水系分散液を水で満たされた湿式抄紙機に移し、湿式抄紙直前で、該水系分散液に前記吸収ポリマー粒子A(遠心保持量18g/g)を添加し、攪拌した後、常法に従って湿式抄紙法により湿潤繊維ウエブを形成した。次いで、この湿潤繊維ウエブに、ろ紙を押し付けて脱水して該ウエブ中の水分を適度に除去した後、ヤンキードライヤーを用い且つ該ドライヤーの表面温度を130℃として該ウエブを乾燥し、坪量240g/m2の湿式抄造体A(吸収体)を得た。
【0102】
また、前記吸収ポリマー粒子Aに代えて前記吸収ポリマー粒子B(遠心保持量10g/g)を用いた以外は前記と同様にして、坪量240g/m2の湿式抄造体B(吸収体)を得た。湿式抄造体A,B中における吸収ポリマー粒子の含有量は、何れも、湿式抄造体の全重量に対して37.5重量%であった。
【0103】
湿式抄造体Aを長さ90mm、幅45mmに切断し、湿式抄造体Bを長さ220mm、幅80mmに切断した。そして、切断された湿式抄造体Bの長手方向一端から長手方向内方に50mm離間した位置よりも長手方向他端寄りに位置する領域の幅方向中央部に、切断された湿式抄造体Aと同寸法の凹部を設け、該凹部に該湿式抄造体Aをはめ込み、湿式抄造体Aと湿式抄造体Bとの複合体からなる吸収体を得た。こうして得られた吸収体は、概ね図3及び図4に示した構造であり(前記i)の形態に相当)、該吸収体の厚みT1が4mm、湿式抄造体A(第1の空隙群)の厚みT2=2mmであった。得られた吸収体の全体をコアラップシートで被覆し、市販の生理用ナプキン(商品名「ロリエ肌きれい吸収」、花王株式会社製)から採集した表面シート、裏面シート等と組み合わせて、実施例1の生理用ナプキンを得た。実施例1の生理用ナプキンは、概ね図1及び図2に示す構造である。また、この吸収体の空隙部の平均容積を前述した方法に従って測定したところ、比較的大きな空隙を有する湿式抄造体Aの領域における空隙部の平均容積(V1)と比較的小さな空隙を有する湿式抄造体Bの領域における空隙部の平均容積(V2)との比(V1/V2)は、1.8であった。
【0104】
〔実施例2〕
実施例1で作製した湿式抄造体A及びBを用いて、以下のような吸収体を作製した。湿式抄造体Aを長さ220mm、幅15mmに切断したものを2つ用意し、湿式抄造体Bを長さ220mm、幅50mmに切断した。そして、2つの湿式抄造体Aで湿式抄造体Bをその幅方向から挟むようにこれらを隙間無く並べ、湿式抄造体Aと湿式抄造体Bとの複合体からなる合計幅80mmの収体を得た。こうして得られた吸収体は、概ね図6(c)示した構造で且つ前記ii)の形態であり、湿式抄造体Aは、該吸収体(複合体)の厚み方向には偏在していない。得られた吸収体の全体をコアラップシートで被覆し、実施例1と同様の表面シート、裏面シート等と組み合わせて、実施例2の生理用ナプキンを得た。
【0105】
〔実施例3〕
ミキサーに、パルプ繊維100重量部と水16000重量部とを投入して分散混合した後、更に湿潤紙力補強剤を、前記パルプ繊維の乾燥重量100重量部に対し樹脂成分で0.44重量部となるように前記ミキサーに投入し、分散混合して水系分散液を得た。なお、前記パルプ繊維としてはNBKPを用い、前記湿潤紙力増強剤として、カイメンGX−3(理研グリーン社製)を用いた。この水系分散液を水で満たされた湿式抄紙機に移し、湿式抄紙直前で、該水系分散液に前記吸収ポリマー粒子A(遠心保持量は18g/g)を添加し、攪拌した後、常法に従って湿式抄紙法により湿潤繊維ウエブを形成した。次いで、この湿潤繊維ウエブに、ろ紙を押し付けて脱水して該ウエブ中の水分を適度に除去した後、ヤンキードライヤーを用い且つ該ドライヤーの表面温度を130℃として該ウエブを乾燥し、坪量250g/m2の湿式抄造体C(吸収体)を得た。
【0106】
また、前記吸収ポリマー粒子Aに代えて前記吸収ポリマー粒子B(遠心保持量10g/g)を用いた以外は前記と同様にして、坪量150g/m2の湿式抄造体D(吸収体)を得た。湿式抄造体C,D中における吸収ポリマー粒子の含有量は、何れも、湿式抄造体の全重量に対して39.5重量%であった。
【0107】
湿式抄造体Cを長さ150mm、幅90mmに切断し、湿式抄造体Dを長さ300mm、幅90mmに切断した。そして、両抄造体C,Dが長手方向の後端が互いに一致するように、湿式抄造体Dの肌当接面上に湿式抄造体Cを積層し、湿式抄造体Cと湿式抄造体Dとの複合体からなる吸収体を得た。こうして得られた吸収体は、概ね図12に示した構造であった。得られた吸収体の全体をコアラップシートで被覆し、市販のベビー用おむつ(商品名「メリーズさらさらエアスルー新生児サイズ」、花王株式会社製)から採集した表面シート、裏面シート、弾性部材等と組み合わせて、実施例3の使い捨ておむつを得た。尚、表面シートの前端部より長手方向中央寄りに30mmの位置を、吸収体前端部の位置とした。実施例3の使い捨ておむつは、概ね図7及び図8に示す構造である。
【0108】
〔比較例1〕
パルプシート(ウェアハウザー社製NBKP)を目開き1mmの篩にかけてほぐし、該篩を通過したパルプ繊維と、前記吸収ポリマー粒子Aとを交互に積繊して混合積繊体を得、該混合積繊体を押圧して、坪量240g/m2のいわゆる混合積繊型の吸収体を得、これを用いて実施例1と同様にして生理用ナプキンを作製し、比較例1のサンプルとした。比較例1の吸収体中における吸収ポリマー粒子の含有量は、該吸収体の全重量に対して37.5重量%であった。比較例1の吸収体は、前述した、「湿式抄造体の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の吸収ポリマー粒子が収容されている空隙部」を有していない吸収体である。
【0109】
〔比較例2〕
坪量20g/m2の下層台紙(NBKPとLBKPとを重量比でNBKP:LBKP=9:1の割合で含む、ブレンドパルプの湿式抄造体)の一面上に、前記吸収ポリマー粒子Aを散布坪量が30g/m2となるように均一に散布した後、該吸収ポリマー粒子Aの上に、坪量30g/m2の上層台紙(NBKPとLBKPとを重量比でNBKP:LBKP=9:1の割合で含む、ブレンドパルプの湿式抄造体)を重ね合わせて積層体を得、該積層体を押圧して、坪量80g/m2のいわゆるサンドイッチ型の吸収体を得、これを用いて実施例1と同様に生理用ナプキンを作製し、比較例2のサンプルとした。比較例2の吸収体中における吸収ポリマー粒子の含有量は、該吸収体の全重量に対して37.5重量%であった。比較例2の吸収体は、前述した、「湿式抄造体の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の吸収ポリマー粒子が収容されている空隙部」を有していない吸収体である。
【0110】
〔比較例3〕
実施例1で作製した湿式抄造体Bの全体をコアラップシートで被覆し、実施例1と同様の表面シート、裏面シート等と組み合わせて、比較例3の生理用ナプキンを得た。
【0111】
〔比較例4〕
針葉樹パルプ(ウエハウザー社製、NB−416)をガーネットシリンダーにて開繊し、得られた解繊パルプ(フラッフパルプ)300重量部と市販の吸収ポリマー粒子200重量部(サンダイヤポリマー製のサンウェットIM930、遠心保持量32g/g)を空気気流中に混合し、メッシュ内面から吸引を行いながら積繊した。パルプと吸収ポリマー粒子との混合積繊体の合計坪量は400g/m2であった。得られた積繊体を、ホットメルト粘着剤をスプレー塗工した坪量16g/m2のティッシュペーパーで包み込んで吸収体を得、これを用いて実施例3と同様にベビー用使い捨ておむつを作製し、比較例4のサンプルとした。比較例4の吸収体中における吸収ポリマー粒子の含有量は、該吸収体の全重量に対して39.5重量%であった。比較例4の吸収体は、前述した、「湿式抄造体の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の吸収ポリマー粒子が収容されている空隙部」を有していない吸収体である。
【0112】
〔評価〕
実施例及び比較例のサンプルについて、下記項目についてそれぞれ下記方法により測定した。実施例1及び2並びに比較例1〜3のサンプル(生理用ナプキン)については、血液吸収時間、液戻り量、液残り量の測定を行った。実施例3及び比較例3のサンプル(使い捨ておむつ)については、擬似軟便(粘稠物)の透過性の測定を行った。また、実施例1〜3及び比較例3のサンプルにおける吸収体(湿式抄造体)、即ち、「湿式抄造体の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の吸収ポリマー粒子が収容されている空隙部」を有している吸収体について、前記方法に従って、空隙部の平均容積の異なる空隙群が複数形成されているか否かを評価した。その結果を下記表1に示す。
【0113】
<血液吸収時間の測定方法>
測定対象の生理用ナプキンを平面状に拡げ、表面シートを上に向けて水平面上に固定した状態で、吸収体の中心部における該表面シート上に、円筒状の注入部の付いたアクリル板をのせ、更にそのアクリル板上に錘をのせ、吸収体の中心部に対して、5g/m2の荷重を加える。アクリル板に設けられた注入部は、内径10mmの円筒状をなし、アクリル板には、長手方向及び幅方向の中心軸に、該円筒状注入部の中心軸線が一致し、該円筒状注入部の内部とアクリル板の表面シート対向面との間を連通する内径10mmの貫通孔が形成されている。次いで、円筒状注入部の中心軸が吸収体の平面視における中心部と一致するようにアクリル板を配置し、3gの血液を、円筒状注入部から注入し、生理用ナプキンに吸収させる。血液(脱繊維馬血、日本バイオテスト(株)製)がナプキンの表面に到達した時点から3gの全量がナプキンに吸収されるまでの時間(秒)を計測し、これを1回目の血液吸収時間とした。また、最初の血液注入時から3分後に、前記手順を繰り返して3gの血液を更に注入(血液の注入量は合計6g)し、この再注入された血液の全量がナプキンに吸収されるまでの時間(秒)を計測し、これを2回目の血液吸収時間とした。これらの血液吸収時間の値が小さいほど、吸収速度が速く、高評価となる。下記表1には2回目(血液6g注入時)の血液吸収時間を示した。尚、1回目において、注入した血液の全量(3g)が吸収されるまでに3分を超えた場合は、全量を吸収後速やかに次の3gを注入した。
【0114】
<液戻り量の測定方法>
前記<血液吸収時間の測定方法>において、3回目の血液注入時から3分後に、アクリル板と錘を取り除き、ナプキンの肌当接面上(表面シート上)に、7cm×15cmで坪量30g/m2の吸収紙(市販のティッシュペーパー)を10枚重ねて載置し、該吸収紙の上から68g/cm2の荷重を1分間かけた。荷重後、吸収紙10枚を取り除き、該吸収紙10枚の重さを測定した。この測定値と、予め求めておいた荷重前の吸収紙10枚の重さの測定値とから、吸収紙10枚に吸収された血液の重量(g)を求め、該重量を液戻り量とした。該液戻り量が少ないほど、ナプキンの吸収性能が高く、高評価となる。
【0115】
<液残り量の測定方法>
生理用ナプキンを水平に置き、直径1cmの注入口のついたアクリル板を重ねて、該注入口から脱繊維馬血(日本バイオテスト(株)製)3gを注入し、注入してから1分間その状態を保持した。次に、アクリル板を取り除き、表面シートをナプキンから取り出してその重量を測定し、該重量から、予め測定した血液注入前の表面シートの重量を差し引き、その差(表面シート中に残存した脱繊維馬血の重量)を液残り量とした。該液残り量が少ないほど、ドライ感に優れ、高評価となる。
【0116】
<擬似軟便(粘稠物)の透過性>
図13に示すように、内径35mmの上部円筒91と内径35mmの下部円筒92との間に、評価対象物(使い捨ておむつ)Pを挟み込み、上部円筒91の下端及び下部円筒92の上端に設けられた環状のフランジ部にクリップ93を嵌合させ、上下の円筒91,92を連結させた。符号94,94は、円筒91,92の内径と同径同形状の貫通孔を有するパッキンである。そして、擬似軟便として、グリセリンとイオン交換水とを、グリセリン:イオン交換水=94:6の比率で混合してなる粘稠液(粘度:290mPa・s)10gを、上部円筒91に注ぎ入れ(6秒以内に全量注入)、注入開始から評価対象物P上の液がなくなるまでの時間を測定した。その測定値を、下記表1に、通液時間として示した。
【0117】
【表1】

【0118】
実施例1〜3の吸収性物品は、何れも、「湿式抄造体の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の吸収ポリマー粒子が収容されている空隙部」を有している吸収体(湿式抄造体)を備えたものであり、該吸収体の内部には、表1に示すように、前述した、互いに該空隙部の平均容積の異なる複数(2つ)の空隙群が形成されていた。斯かる構成を有する実施例1及び2の生理用ナプキンは、表1に示す結果から明らかなように、比較例1〜3の生理用ナプキンに比して、血液吸収時間が短く、液戻り量及び液残り量が少ない。このことから、実施例1及び2の生理用ナプキンは、液の引き込み性及び保持性に優れ、高粘性の液に対しても優れた吸収性を発現していることがわかる。また、実施例3の使い捨ておむつは、比較例4の使い捨ておむつに比して、擬似軟便の通液時間が短く、粘稠物の通過性に優れていることがわかる。さらに、実施例1〜3の吸収性物品における吸収体は、何れも、薄型で、十分な吸収性能を有し、柔軟性も保たれていた。これに対し、比較例1、2及び4の吸収性物品は、何れも、その吸収体が、「湿式抄造体の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の吸収ポリマー粒子が収容されている空隙部」を有しておらず、特に高粘性の液に対する吸収性の点で改善の余地があることがわかる。また、比較例3の吸収性物品は、その吸収体が前記空隙部を有しているものの、該吸収体の内部に、該空隙部の平均容積の異なる複数の空隙群が形成されておらず、特に液残り量の点で改善の余地があることがわかる。
【符号の説明】
【0119】
1 生理用ナプキン(吸収性物品)
2 表面シート
3 裏面シート
4 吸収体
20 使い捨ておむつ(吸収性物品)
40,40a,40b,40c,40d,40e,40f,41,41a 湿式抄造体
42 吸収ポリマー粒子
43 空隙部
43a 第1の空隙部
43b 第2の空隙部
40A 第1の空隙群
40B 第2の空隙群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維を主繊維として含有する湿式抄造体を含んで構成され、該湿式抄造体の内部に吸収ポリマー粒子が多数分散配置されている吸収体であって、
前記湿式抄造体の内部に、該湿式抄造体の構成繊維に囲まれ且つ1つ以上の前記吸収ポリマー粒子が収容されている、空隙部の群が複数形成されており、該複数の空隙部の群は、互いに空隙部の平均容積が異なっている吸収体。
【請求項2】
前記空隙部は、該空隙部に収容されている1つ以上の前記吸収ポリマー粒子が液を吸収して膨潤した場合のその膨潤状態の該吸収ポリマー粒子を収容可能な大きさを有している請求項1記載の吸収体。
【請求項3】
前記空隙部の平均容積が相対的に大きい第1の空隙部の群と、該平均容積が相対的に小さい第2の空隙部の群とを有し、該第1の空隙部の群の平均容積V1と該第2の空隙部の群の平均容積V2との比(V1/V2)が、1.5〜100である請求項1又は2記載の吸収体。
【請求項4】
前記第1の空隙部の群の平均容積V1が0.01〜0.2mm3である請求項3記載の吸収体。
【請求項5】
肌当接面を形成する表面シート、非肌当接面を形成する裏面シート、及び両シート間に介在配置された実質的に縦長の吸収体を具備する吸収性物品であって、
前記吸収体は、請求項1〜4何れかに記載の吸収体であり、且つ前記空隙部の平均容積が相対的に大きい第1の空隙部の群と、該平均容積が相対的に小さい第2の空隙部の群とを有し、
前記第1の空隙部の群は、前記吸収体の幅方向中央部の肌当接面側に配されている吸収性物品。
【請求項6】
肌当接面を形成する表面シート、非肌当接面を形成する裏面シート、及び両シート間に介在配置された実質的に縦長の吸収体を具備し、着用時に着用者の腹側に配される腹側部と背側に配される背側部とを長手方向に有する吸収性物品であって、
前記吸収体は、請求項1〜4何れかに記載の吸収体であり、且つ前記空隙部の平均容積が相対的に大きい第1の空隙部の群と、該平均容積が相対的に小さい第2の空隙部の群とを有し、
前記第1の空隙部の群は、前記背側部側に偏倚して配されている吸収性物品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−135987(P2011−135987A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297016(P2009−297016)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】