説明

吸湿シート

【課題】狭い空間に嵩張らずに設置できる、高い吸湿性を有する吸湿シートを提供することである。
【解決手段】本発明の吸湿シート10は、ベースシート11、及びベースシート11の表面に形成した乾燥剤層12から構成される。乾燥剤層12は、乾燥剤、及びこの乾燥剤を固定するバインダー樹脂から構成される。乾燥剤として、酸化カルシウムからなる粒子が使用される。バインダー樹脂として、破断伸度200%以上、より好ましくは300%以上の樹脂が使用される。バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂が使用される。また、バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが使用され、バインダー樹脂の全量を100重量%として、ポリウレタン系樹脂の量が、70重量%以上の範囲にあり、ポリオレフィン系樹脂の量が、30重量%以下の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機器やその部品(有機EL素子、半導体デバイスなど)、楽器(ピアノなど)、医薬品(錠剤など)、食料品(乾麺、塩など)、衣類、靴など、湿気によりその機能や効能、風味や風合いなどが劣化する物品の吸湿や防湿に適した吸湿材、特にシート状の吸湿材(これを“吸湿シート”という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密機器やその部品、医薬品、食料品、楽器などの物品の吸湿や防湿に、シリカゲルやゼオライトなどの乾燥剤を通気性シートからなる袋に入れた吸湿材が使用されている(特許文献1、2を参照)。例えば、合成繊維からなる二枚の通気性シートを重ねて形成した袋に乾燥剤を封入したものがある。このような吸湿材では、乾燥剤が袋内に投入されているだけなので、投入した乾燥剤のほぼ全量が防湿や吸湿に寄与し得るが、吸湿材の姿勢を変えると、乾燥剤が移動して片寄り、吸湿材の形状、特に厚さを一定にできず、嵩張るだけでなく、このような吸湿材を狭い空間内に配置して、この空間の防湿や吸湿をすることが困難である。
【0003】
また、物品を吸湿(又は防湿)するために、物品を収容するための容器の内面に乾燥剤を配置した吸湿材がある(特許文献3、4、5を参照)。例えば、有機ELディスプレイでは、有機分子が酸素や水分(湿気)と反応して劣化し、ディスプレイの寿命が短くなるため、ガラス基板上にITO等の透明電極層と有機EL発光層と対向電極層とを順次積層した有機EL積層体を封止する封止キャップの低部内面に乾燥剤を配置している。この乾燥剤として、20μm〜200μmの無水硫酸カルシウムなどの粒子が使用され、乾燥剤は、深さ約0.4mmの封止キャップの低部内面に形成した粘着剤層に粘着保持され、厚さ20μm〜200μmの合成繊維製の通気性シートで被覆される。しかし、粒子状の乾燥剤を粘着させる際、余分な乾燥剤は単に振り落とされるだけなので、この振り落とされた乾燥剤が封止キャップの内面に付着したままの状態で、この封止キャップで有機EL積層体を封止すると、封止キャップに付着している乾燥剤が脱落して浮遊し、有機EL積層体に付着して、有機EL積層体が汚染される。
【0004】
さらに、物品を収容するための袋や包装紙に乾燥剤を練り込んだ吸湿材がある(特許文献6を参照)。例えば、乾燥剤を練り込んだ熱可塑性樹脂からなるシート材がある。このようなシート材では、その厚さを60μm〜200μmにできるが、熱可塑性樹脂に練り込まれる乾燥剤の量を多くすると、袋が脆くなるので、多量の乾燥剤を練り込むことができず、高い吸湿性が得られない。また、シート材の表面部分に位置する乾燥剤のみが防湿や吸湿に寄与するだけなので、高い吸湿性が得られない。
【特許文献1】特開2000−188367号公報
【特許文献2】特開2000−202011号公報
【特許文献3】特開2001−185349号公報
【特許文献4】特開2001−23507号公報
【特許文献5】特開平10−34791号公報
【特許文献6】特開平10−272168号公報
【非特許文献1】有機ELディスプレイ、ナノエレクトロニクス、今後の課題と展望、http//www.nanoelectronics.jp/kaitai/oel/7.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、狭い空間に嵩張らずに設置でき、乾燥剤を脱落させることのない、高い吸湿性を有する吸湿シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の吸湿シートは、ベースフィルム、及びこのベースフィルムの表面に形成した乾燥剤層から構成される。
【0007】
乾燥剤層は、乾燥剤、及び乾燥剤を固定するためのバインダー樹脂から構成される。
【0008】
乾燥剤として、高い吸湿性を有する酸化カルシウムからなる粒子が使用される。
【0009】
バインダー樹脂として、破断伸度が200%以上、より好ましくは300%以上の樹脂が使用される。乾燥剤として使用される酸化カルシウムの粒子は、水分を吸収すると、その体積が膨張する。このため、バインダー樹脂の破断伸度が200%未満であると、吸湿シートの使用中に、乾燥剤(酸化カルシウムの粒子)の体積膨張により、乾燥剤層が破壊され、乾燥剤層の一部や乾燥剤が吸湿シートから脱落する。(ここで、破断伸度(%)は、試験片を引き伸ばし、この試験片が破断したときの試験片の伸びを試験片の元の長さで割ったものである(測定基準ASTM D882)。)
【0010】
バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂が使用される。
【0011】
また、バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが使用され、バインダー樹脂の全量を100重量%として、ポリウレタン系樹脂の量が、70重量%以上の範囲にあり、ポリオレフィン系樹脂の量が、30重量%以下の範囲にある。このように、性質の異なる樹脂を使用することで、吸湿シートの使用中、乾燥剤層中のバインダー樹脂に微細な亀裂が生じ、乾燥剤層の内部に固定されている乾燥剤が外部に晒され、その結果、吸湿シートの吸湿力が高くなる。
【0012】
本発明の吸湿シートは、その粘着剤層を物品や物品の包装物に粘着させることによって物品を防湿するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明が以上のように構成されるので、吸湿材を狭い空間に嵩張らずに設置でき、乾燥剤を脱落させることがない。また、薄いシート状のものでありながら、高い吸湿力を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に示すように、本発明の吸湿シート10は、ベースシート11、及びこのベースシート11の表面に形成した乾燥剤層12から構成される。
【0015】
乾燥剤層12は、乾燥剤、及びこの乾燥剤を固定するバインダー樹脂から構成される。
【0016】
ベースシート11として、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック材料からなる厚さ10μm〜100μmの範囲にあるシートが使用される。
【0017】
乾燥剤層12は、乾燥剤をバインダー樹脂の溶液中に分散させた塗料をベースシート11の表面にコーティングし、これを乾燥させることによってベースシート11の表面に形成されるものである。バインダー樹脂の溶液は、バインダー樹脂にメチエチルケトンなどの溶剤を加えたものであり、溶剤は塗料の乾燥時に蒸発し、乾燥剤がバインダー樹脂により固定される。乾燥剤とバインダー樹脂の重量比(乾燥剤:バインダー樹脂)は、40重量%:60重量%〜90重量%:10重量%の範囲にある。乾燥剤層12の厚さは、10μm〜100μmの範囲にある。
【0018】
乾燥剤として、水分と不可逆的な化学反応を起こし、またバインダー樹脂の溶液中で安定し、しかも安価に入手できる、高い吸湿性を有する酸化カルシウムからなる粒子が使用される。この酸化カルシウム粒子の平均粒径は、0.1μm〜50μmの範囲にある。
【0019】
バインダー樹脂として、破断伸度が200%以上、より好ましくは300%以上の樹脂が使用される。乾燥剤として使用される酸化カルシウムの粒子は、水分を吸収すると、その体積が膨張する(酸化カルシウムの粒子の全量が水分を吸収して水酸化カルシウムとなった場合、その体積は約2倍となる)。このため、バインダー樹脂の破断伸度が200%未満であると、吸湿シートの使用中に、乾燥剤(酸化カルシウムの粒子)の体積膨張により、乾燥剤層が破壊され、乾燥剤層の一部や乾燥剤が吸湿シートから脱落する。
【0020】
バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂が使用される。
【0021】
また、バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが使用され、バインダー樹脂の全量を100重量%として、ポリウレタン系樹脂の量が、70重量%以上の範囲にあり、ポリオレフィン系樹脂の量が、30重量%以下の範囲にある。ここで、ポリオレフィン系樹脂の量が30重量%を超えると、ポリウレタン系樹脂の破断伸度を低下させることになる。
【0022】
このように、性質の異なる樹脂を使用することで、吸湿シートの使用中、乾燥剤層中のバインダー樹脂に微細な亀裂が生じ、乾燥剤層の内部に固定されている乾燥剤が外部に晒され、その結果、吸湿シートの吸湿力が高くなる。
【0023】
<実施例1> 実施例1の吸湿シートを製造した。酸化カルシウム(90重量部)と、破断伸度500%のポリウレタン系樹脂の30wt%濃度の溶液(200重量部)と、メチルエチルケトン(9重量部)と、アノン(1重量部)とをポットミルに投入し、分散(48時間)して塗料を製造した。この塗料をポリエステルシート(厚さ24μm)の表面にコンマコーターを使用して塗布し、乾燥させて、ポリエステルシートの表面に乾燥剤層(厚さ80μm)を形成した。実施例1の吸湿シートの全厚は104μmであった。
【0024】
<実施例2> 実施例2の吸湿シートを製造した。酸化カルシウム(90重量部)と、破断伸度500%のポリウレタン系樹脂の30wt%濃度の溶液(150重量部)と、ポリオレフィン系樹脂(常温で軟化するので破断伸度の測定はできない)の40wt%濃度の溶液(37.5重量部)と、メチルエチルケトン(9重量部)と、アノン(1重量部)とをポットミルに投入し、分散(48時間)して塗料を製造した。この塗料をポリエステルシート(厚さ24μm)の表面にコンマコーターを使用して塗布し、乾燥させて、ポリエステルシートの表面に乾燥剤層(厚さ80μm)を形成した。実施例2の吸湿シートの全厚は104μmであった。
【0025】
<実施例3> 実施例3の吸湿シートを製造した。酸化カルシウム(90重量部)と、破断伸度750%のポリウレタン系樹脂の30wt%濃度の溶液(200重量部)と、メチルエチルケトン(9重量部)と、アノン(1重量部)とをポットミルに投入し、分散(48時間)して塗料を製造した。この塗料をポリエステルシート(厚さ24μm)の表面にコンマコーターを使用して塗布し、乾燥させて、ポリエステルシートの表面に乾燥剤層(厚さ80μm)を形成した。実施例3の吸湿シートの全厚は104μmであった。
【0026】
<比較例1> 比較例1の吸湿シートを製造した。酸化カルシウム(90重量部)と、破断伸度5%のポリウレタン系樹脂の30wt%濃度の溶液(200重量部)と、メチルエチルケトン(9重量部)と、アノン(1重量部)とをポットミルに投入し、分散(48時間)して塗料を製造した。この塗料をポリエステルシート(厚さ24μm)の表面にコンマコーターを使用して塗布し、乾燥させて、ポリエステルシートの表面に乾燥剤層(厚さ80μm)を形成した。比較例1の吸湿シートの全厚は104μmであった。
【0027】
<比較例2> 比較例2の吸湿シートを製造した。酸化カルシウム(90重量部)と、破断伸度3%のポリウレタン系樹脂の30wt%濃度の溶液(200重量部)と、メチルエチルケトン(9重量部)と、アノン(1重量部)とをポットミルに投入し、分散(48時間)して塗料を製造した。この塗料をポリエステルシート(厚さ24μm)の表面にコンマコーターを使用して塗布し、乾燥させて、ポリエステルシートの表面に乾燥剤層(厚さ80μm)を形成した。比較例1の吸湿シートの全厚は104μmであった。
【0028】
<比較試験> 実施例1〜3と比較例1、2のそれぞれの吸湿シートを6cm×6cmの大きさの試験片にカットし、それぞれの試験片を両面粘着テープでシャーレの底に貼り付け、25℃、80%相対湿度の恒温恒湿槽内に放置して、これら試験片の吸湿率を比較した。
【0029】
<試験結果> 実施例1〜3と比較例1、2の試験片のそれぞれの時系列的な重量変化と吸湿率を下記の表1及び表2に示す。ここで、吸湿率は、下記の式1を用いて計算した。
【0030】
【数1】

【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
72時間の吸湿試験後における実施例1〜3と比較例1、2の吸湿シートのそれぞれの状態について、実施例1、2の吸湿シートでは、シートのエッジ部分に波形の変形がみられたが、乾燥剤層からの乾燥剤の脱落はみられなかった。実施例3の吸湿シートでは、乾燥剤層の表面全体がやや盛上ったような小さな変形がみられたが、乾燥剤層からの乾燥剤の脱落はみられなかった。一方、比較例1の吸湿シートでは、乾燥剤層の一部がベースシートから剥がれ、乾燥剤が脱落していた。比較例3の吸湿シートでは、48次間の吸湿試験後に、乾燥剤層の一部がベースシートから剥がれ、乾燥剤が脱落していた。
【0034】
吸湿力について、上記の表1及び表2に示すように、実施例1〜3の吸湿シートは、比較例1、2の吸湿シートと比較して、高い吸湿力(吸湿率)を有している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明の吸湿シートの断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10・・・吸湿シート
11・・・ベースシート
12・・・乾燥剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿シートであって、
ベースフィルム、及び
前記ベースフィルムの表面に形成した乾燥剤層、
から成り、
前記乾燥剤層が、
乾燥剤、及び
前記乾燥剤を固定するバインダー樹脂、
から成り、
乾燥剤として、酸化カルシウムからなる粒子が使用され、
前記バインダー樹脂として、破断伸度が200%以上の樹脂が使用される、
ところの吸湿シート。
【請求項2】
請求項1の吸湿シートであって、
前記バインダー樹脂として、破断伸度が300%以上の樹脂が使用される、
ところの吸湿シート。
【請求項3】
請求項1の吸湿シートであって、
前記バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂が使用される、
ところの吸湿シート。
【請求項4】
請求項1の吸湿シートであって、
前記バインダー樹脂として、ポリウレタン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とが使用され、
前記バインダー樹脂の全量を100重量%として、
前記ポリウレタン系樹脂の量が、70重量%以上の範囲にあり、
前記ポリオレフィン系樹脂の量が、30重量%以下の範囲にある、
ところの吸湿シート。

【図1】
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【公開番号】特開2007−817(P2007−817A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185843(P2005−185843)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】