説明

吸着式ヒートポンプ及びこれを用いた情報処理システム

【課題】吸着式ヒートポンプ及びこれを用いた情報処理システムにおいて、吸着式ヒートポンプの性能低下を防ぐ。
【解決手段】冷媒を蒸発させる蒸発器と、その蒸発器と接続され、蒸発器で蒸発した冷媒の吸着と吸着した冷媒の脱着とを交互に切り替えて行う吸着器と、その吸着器に接続され、吸着器から脱着された冷媒を凝縮させる凝縮器と、を備えた吸着式ヒートポンプに設けられた冷媒の逆流を防止するためのバルブ21であって、そのバルブ21は、貫通孔41aが形成された台座部41と台座部41の上に設置されたシート状の弁体42とを含み、貫通孔41aの周囲の台座部41の表面に凹凸41bを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着式ヒートポンプ及びこれを用いた情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器類の進歩に加え、高度情報通信網の整備により、大量のデータを扱うブレードサーバやストレージサーバを多数設置したデータセンタの増加が著しく、これに伴い、これらの電子機器類からの廃熱エネルギも増加の一途をたどっている。
【0003】
特に、データセンタ等では、1ラックあたり複数のボードを装着してデータ処理能力を向上させるブレードサーバが一般的になっており、このブレードサーバでは1ラック当たりの消費電力が数kW以上と大電力化している。
【0004】
このような廃熱エネルギの増加に伴い、発熱源であるCPU(Central Processing Unit)等の冷却技術についても様々に検討されている。例えば、空冷式の冷却技術では、大型のデータセンタやビル内に設置されたサーバルームにおいて、専用の空調機を用いて室内に冷風を循環させ、この冷風をサーバーラック内にファンを用いて導入することでCPU等を冷却している。
【0005】
しかしながら、このような空冷式の冷却技術では、十分な冷風を作り出すために大量の電力を消費するので、低コスト化や環境問題の点で課題がある。
【0006】
そこで、サーバ等の電子機器から排熱を回収して、それを再利用する技術として、吸着式冷ヒートポンプが着目されている。
【0007】
吸着式ヒートポンプでは、吸着剤に冷媒を吸着させる吸着工程の後、脱着工程と呼ばれる工程において、廃熱を運んできた水等の加熱流体の熱により吸着剤から冷媒を脱離させる。そして、この脱着工程において吸着剤が吸熱することを利用して加熱流体を冷却し、その冷却後の加熱流体により電子機器などを冷却する。
【0008】
一方、上記の吸着工程では、蒸発器に入れられた冷媒を蒸発させて吸着剤に吸着させる。このとき、冷媒が蒸発する際の気化熱により冷熱を得ることができ、この冷熱でサーバルーム内やラック内に冷風を供給することにより廃熱を有効活用することができる。
【0009】
そして、このような吸着工程と脱着工程とを繰り返すことにより、廃熱の回収と冷熱の生成とを連続して行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−152221号公報
【特許文献2】特開2009−198163号公報
【特許文献3】国際公開第2006/135026号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】高性能ケミカルヒートポンプ応用事例集、サイエンスフォーラム社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
吸着式ヒートポンプ及びこれを用いた情報処理システムにおいて、吸着式ヒートポンプの性能低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下の開示の一観点によれば、冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器と接続され、前記蒸発器で蒸発した冷媒の吸着と吸着した冷媒の脱着とを交互に切り替えて行う吸着器と、前記吸着器に接続され、前記吸着器から脱着された冷媒を凝縮させる凝縮器と、を備え、前記蒸発器と吸着器との間及び前記吸着器と凝縮器との間の少なくとも一方にバルブが配設され、前記バルブは、貫通孔が形成された台座部と前記台座部上に設置されたシート状の弁体とを含み、前記貫通孔の周囲の前記台座部の表面には、凹凸が形成されている吸着式ヒートポンプが提供される。
【0014】
また、その他の観点によれば、冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器と接続され、前記蒸発器で蒸発した冷媒の吸着と吸着した冷媒の脱着とを交互に切り替えて行う吸着器と、前記吸着器に接続され、前記吸着器から脱着された冷媒を凝縮させる凝縮器と、を備え、記蒸発器と吸着器との間及び前記吸着器と凝縮器との間の少なくとも一方にバルブが配設され、前記バルブは、貫通孔が形成された台座部と前記台座部上に設置されたシート状の弁体とを含み、前記貫通孔の周囲の前記台座部の表面には、凹凸が形成された吸着式ヒートポンプと、前記吸着式ヒートポンプによって冷却される電子機器と、を有する情報処理システムが提供される。
【発明の効果】
【0015】
開示の吸着式ヒートポンプ及びこれを用いた情報処理システムでは、貫通孔の周囲の台座部の表面に凹凸が形成されている。これにより、弁体と台座部との接触面積が減少するとともに、弁体と台座部の間に結露した冷媒をこれらの接触部分から排除でき、結露した冷媒の表面張力で弁体が台座に張り付いて吸着式ヒートポンプが動作停止するといった不具合を防止できる。
【0016】
また、吸着剤の破片を凹凸内に収容することができるので、バルブが完全に閉じなくなって吸着式ヒートポンプの性能が低下するという不具合も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、吸着式ヒートポンプの断面図である。
【図2】図2は、図1の吸着式ヒートポンプのバルブの断面図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係る吸着式ヒートポンプの断面図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る吸着式ヒートポンプのバルブの図である。
【図5】図5は、図4のバルブの動作を説明する断面図である。
【図6】図6は、図4のバルブへの親水加工及び撥水加工の一例を示す断面図である。
【図7】図7は、第2実施形態に係るバルブの台座部を示す図である。
【図8】図8は、第2実施形態に係るバルブの動作を説明する断面図である。
【図9】図9は、第3実施形態に係る情報処理システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)予備的事項
実施の形態の説明に先立ち、基礎となる予備的事項について説明する。
【0019】
図1は、吸着式ヒートポンプの断面図である。
【0020】
この吸着式ヒートポンプ30は、何れも内部が減圧された第1の吸着器1、第2の吸着器2、蒸発器3、及び凝縮器4と、これらの間に設けられたバルブ11とを有する。
【0021】
このうち、第1及び第2の吸着器1、2には吸着剤17としてシリカゲルが収容され、蒸発器3には冷媒18として水が収容される。なお、シリカゲルに代えてゼオライトを吸着剤17として用いてもよい。
【0022】
一方、バルブ11は、第1及び第2の吸着器1、2、蒸発器3及び凝縮器4の間を仕切る隔壁に図示のように設けられている。
【0023】
図2は図1の吸着式ヒートポンプのバルブの断面図である。各バルブ11は、図2(a)に示すように、複数の貫通孔31aが設けられた台座部31と、その台座部31の上に設けられたフィルム状の弁体32とを備えている。この弁体32は、一端が台座部31上に接合されており、他端(自由端)側が台座部31の下側の領域と上側の領域との圧力差に応じて変形することで、バルブ11を開閉する。例えば、台座部31の下側の領域の圧力P1が上側の領域の圧力P2よりも高くなると(P1>P2)、弁体32の自由端側が図2(a)のように浮上してバルブ11が開いた状態となる。また、隔壁31の下側の領域の圧力P1が上側の領域の圧力P2よりも低くなると(P1<P2)、弁体32が図2(b)のように貫通孔31aを覆うようにして塞ぎ、バルブ11が閉じた状態となる。
【0024】
このバルブ11が、第1及び第2の吸着器1、2内の圧力(蒸気圧)の変化に応じて自発的に開閉することで、第1及び第2の吸着器1、2の吸着工程及び脱着工程が切り替わる。
【0025】
例えば、図1のようなバルブ11の開閉状態では、第1の吸着器1において吸着工程が行われ、第2の吸着器2において脱着工程が行われる。
【0026】
吸着工程が行われている第1の吸着器1では、吸着剤17に冷媒18の蒸気が吸着されて減少するため、第1の吸着器1内の蒸気圧が蒸発器3及び凝縮器4よりも低くなる。そのため、第1の吸着器1の下側のバルブ11が開き上側のバルブ11が閉じる。そして、蒸発器3において蒸発した冷媒18の蒸気が下側のバルブ11を介して第1の吸着器1に供給され、その蒸気が吸着剤17によって吸着される。吸着時に吸着剤17で発生する熱は、内部配管7を流れる冷却水等の冷却流体9によって冷却される。
【0027】
冷却流体9は、例えば冷却水であって、その温度は第1の吸着器1に入る直前で約25℃である。そして、第1の吸着器1を出た直後の冷却流体9は、冷媒18を吸着したことで発熱した吸着剤17によって30℃程度に温められる。
【0028】
一方、脱着工程が行われている第2の吸着器2では、サーバ等の電子機器から廃熱を運んできた加熱流体6が内部配管7に流され、その熱によって吸着剤17から冷媒18が脱着される。これにより第2の吸着器2内の蒸気圧が高くなるため、第2の吸着器2の上側のバルブ11が開き、下側のバルブ11が閉じる。このとき、吸着剤17が吸熱するので、加熱流体6が冷却されることになる。例えば、第2の吸着器2に入る直前の加熱流体の温度が75℃の場合、第2の吸着器2を出た直後では加熱流体6の温度は70℃程度に低下する。
【0029】
このように冷却された加熱流体6は、電子機器の冷却に使用された後、再び第2の吸着器2に戻って冷却される。
【0030】
蒸発器3には、冷媒18が溜められていると共に、水などの循環流体5が流される循環配管10が通されている。そして、第1の吸着器1で吸着工程が行われているとき、冷媒18の気化熱によって循環流体5が冷やされ、蒸発器3に入る前よりも5℃程度低い温度に循環流体5を冷やすことができる。
【0031】
一方、凝縮器4には、脱着工程が行われている第2の吸着器2から冷媒18の蒸気が供給される。その蒸気は、冷却配管8を流れる冷却水15により冷却されて液化した後、冷媒回収配管16を通って再び蒸発器18に戻される。冷却水15は、凝縮器4に入る直前ではその温度が25℃程度であるが、凝縮器4から出た直後ではその温度は30℃程度に上昇する。
【0032】
このような一連のプロセスでは、加熱流体6の熱によって吸着剤17から冷媒18を脱離させ、更に蒸発器3における冷媒18の気化熱によって循環流体5を冷却しており、加熱流体6の熱が循環流体5の冷熱の生成に再利用されていることになる。その冷熱は、例えばサーバルームやラック内に冷風を供給するのに使用される。
【0033】
ここで、上記のように第2の吸着器2において脱着工程を行っていると、第2の吸着器2における吸着剤17の乾燥が進み、吸着剤17の吸熱を利用した加熱流体6の冷却効率が次第に低下する。
【0034】
そのため、第2の吸着器2における吸着剤17から所定の量の冷媒18が脱離した時点で、各吸着器1、2における吸着工程と脱着工程とを切り替える。その切り替えは、加熱流体6を第1の吸着器1の内部配管7に流し、冷却流体9を第2の吸着器2の内部配管7に流すことで行われる。
【0035】
ところで、上記の吸着式ヒートポンプ30を長期間運転していると、作動停止や冷却効率が低下する不具合が生じることがある。
【0036】
本願発明者らが種々の調査を行った結果、吸着式ヒートポンプ30の動作停止は、バルブ11の周辺で結露した冷媒の表面張力により、弁体32(図2(b)参照)と台座部31とが強く密着してバルブ11が開かなくなることが原因と判明した。
【0037】
また、吸着式ヒートポンプ30の冷却効率の低下は、何らかの理由で吸着剤17の破片や粉末が弁体32と台座部31との間に付着し、この粉末によってバルブ11が完全に閉鎖しなくなることで発生することが明らかとなった。
【0038】
本願発明者は、このような知見に基づき、以下に説明するような実施形態を着想した。
【0039】
(2)第1実施形態
図3は、本実施形態に係る吸着式ヒートポンプの断面図であり、図4は図3の吸着式ヒートポンプのバルブの図である。
【0040】
図3に示すように、この吸着式ヒートポンプ40は、第1及び第2の吸着器1、2と、蒸発器3と、蒸発器4と、これらの隔壁23の間に設けられたバルブ21とを備える。なお、本実施形態の吸着式ヒートポンプ40は、バルブ21以外は図1を参照しつつ説明した吸着式ヒートポンプ30と同様であり、同一の要素には同一符号を付してその説明を省略する。
【0041】
バルブ21は、図4(a)に示すように、隔壁23の開口23aに取り付けられた台座部41と、その台座部41の上方を覆うように配置された弁体42とを備えている。
【0042】
弁体42は、例えばPET(Poly-Ethylene Terephthalate)樹脂などの柔軟な樹脂フィルムよりなり、その一端(固定端)が図4(a)に示すように隔壁23にねじ止め等の方法で固定されている。
【0043】
一方、台座部41は、図4(b)の平面図に示すように、矩形状の板状部材に、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔41aを設けたものであり、その台座部41の上面には、貫通孔41aの周囲を囲むように環状の凹部(溝)41bが設けられている。この凹部41bは、バルブ11で凝縮した冷媒や吸着剤17の粉末を収容するのに十分な幅及び深さに形成する。但し、バルブ11が閉じた際に、凹部41bから冷媒が漏れるのを防ぐために、凹部41bは台座部41の厚さ方向に貫通しない程度の深さとする。
【0044】
図5(a)、(b)は、バルブ21の動作を説明する断面図である。
【0045】
図5(a)のように、バルブ21の下側の領域の圧力P1が上側の領域の圧力P2よりも高い場合(P1>P2)には、その圧力差によってフィルム状の弁体42の自由端側が浮き上がり、バルブ21が開いた状態となる。この状態では、貫通孔41aを通じて冷媒の蒸気がバルブ21を通過する。
【0046】
一方、図5(b)のように、隔壁35の下側の領域の圧力P1が上側の領域の圧力P2よりも低い場合(P1<P2)には、その圧力差によって弁体42が台座部41の上面に押し付けられる。そして、弁体42が貫通孔41aと凹部41bとの間の台座部41の上面に密着することで、貫通孔41aが閉塞されてバルブ21が閉じた状態となる。
【0047】
このとき、台座部41の表面に凹部41bを設けているので、台座部41と弁体42との間で結露した冷媒は凹部41bに排除される。また、凹部41bによって弁体42と台座部41との接触面積が小さくなる。そのため、仮に結露した冷媒が弁体42と台座部41との間に残っていても、結露した冷媒の表面張力による弁体42と台座部41との密着力を弱めることができる。これにより、結露した冷媒の表面張力で弁体42が台座部41に張り付いて動かなくなる不具合を防止できる。
【0048】
また、凹部41bは、台座部41に落下した吸着剤17の粉末をある程度まで収容することができるため、吸着式ヒートポンプ40の動作効率の低下を防ぐことができる。
【0049】
なお、上記のバルブ21において、下記に説明するように台座部41の凹部41aの内部に選択的に親水性加工を施すとともに、台座部41の弁体42と接触する面に撥水性加工を施してもよい。
【0050】
図6は、台座部41の親水性加工及び撥水性加工の一例を説明する模式図である。
【0051】
まず、図6(a)のように、台座部41を用意する。この台座部41は、例えばアルミ板等の金属板に貫通孔41a及び凹部41bを機械加工で形成して作製される。
【0052】
次に、図6(b)のように、台座部41の凹部41bを除く上面に、マスク46を形成する。マスク46は、例えば所定形状に整形されたマスキングテープを貼り付ける方法や、油性塗料を刷毛等で凸部に塗布する方法で形成できる。
【0053】
次いで、図6(c)のように、台座部41の上側から、例えば市販のシリカ系コーティング液等の親水剤を塗布してマスク46、台座部41の凹部41b及び貫通孔41aの内壁を親水性材料47で覆う。
【0054】
その後、図6(d)のようにマスク46上の親水性材料47をマスク46とともに除去して、貫通孔41a及び凹部41bにのみ親水性材料を残す。
【0055】
次に、図6(e)のように、台座部41の上面の凹部41b以外の部分に、撥水剤を選択的に塗布して撥水材料48で覆う。ここでは、撥水材料48には、例えば市販されているテフロンコーティング液を用いることができ、これを適当な粘度に調整して刷毛等で塗布すれば、凹部41b以外の上面に選択的に撥水材料48を塗布できる。
【0056】
以上のようにして、台座部41の凹部41bを除く上面に撥水加工が行われ、凹部41bに親水加工が施された台座部41が得られる。このような親水加工及び撥水加工が施された台座部41によれば、台座部41と弁体42との接触部分から凹部41b側に結露した冷媒が流れやすくなる。そのため、弁体42が台座部41との接触部分に冷媒の液滴をより排除しやすくなり、弁体42の台座部41への張り付きがさらに起こり難くなる。
【0057】
なお、凹部41bだけでなく、弁体42の台座部41側の面に親水加工を施してもよい。
【0058】
(3)第1実施形態の実験例
以下、本願発明者らが行った実験例について説明する。
【0059】
第1及び第2の吸着器1、2(図3参照)内に、吸着剤17として200gのシリカゲル(富士シリシア化学社製RD2060)を充填した。また、蒸発器3には冷媒として水を充填した。
【0060】
第1の吸着器1、第2の吸着器2、蒸発器3及び凝縮器4の接続部には、図4に示すバルブ21を設置した。ここでは、バルブ21の台座部41には直径φが5mmの貫通孔41aを15mmのピッチで、60mm×50mmの領域の中に合計15個設けた。また、各貫通孔41aの周囲には、直径φが10mm、幅が2mm及び深さが2mmの円環状の溝からなる凹部41bを設け、その凹部41b内に親水加工を施した。
【0061】
また、弁体42は面積が約60mm×50mmのPET樹脂フィルムで形成し、台座部41と接触する面に親水加工を施した。
【0062】
このような吸着式ヒートポンプの一方の吸着器に65℃の温水(加熱流体)を2L/minで供給し、他方の吸着器には25℃の水(冷却流体)を2L/minで供給した。そして各吸着器への温水及び冷水の供給を10分ごとに切り替えて運転した。
【0063】
なお、蒸発器3には、冷水取り出し温度が15℃及び戻り温度が18℃となるように、循環流体を流量1L/minで循環させた。
【0064】
以上のような実験例において、バルブ21で結露した水(冷媒)を台座部41の凹部41bに除去でき、バルブ21の開閉の不具合を防止できることが確認できた。また、凹部41bに集められた水は、バルブ21の開閉動作の際に気化し、凹部41bに水が蓄積し続けることなく連続して動作することが確認できた。
【0065】
(4)第2実施形態
本実施形態では、バルブの台座部の形状が図4に示すバルブ21の台座部41の形状と異なる。
【0066】
図7は、本実施形態に係るバルブの台座部を示す図である。
【0067】
この台座部51には、図7(a)の斜視図に示すように、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔51aと、環状の凹部(溝)51bと、直線状の溝51cとが形成されている。貫通孔51aの上端側は面取りされて、すり鉢状の傾斜面51eが形成されている。この傾斜面51eにより、弁体42と台座部51との接触面積が減少するとともに、結露した冷媒を貫通孔41a側に流れやすくしている。さらに、貫通孔51aの内壁には台座部51の厚さ方向に延在する溝51dが複数設けられている。この溝51dによって、貫通孔51a内に流れ込んだ冷媒の液滴が貫通孔51a内に溜まることなく下方に流れる。
【0068】
台座部51の上面の直線状の溝51cは、台座部51の周縁部にまで延在するとともに、図7(b)の部分拡大図に示すように凹部51bと接続されている。これにより、凹部51bに集められた冷媒の液滴を溝51cを通じて台座部51の外部に排出できるようになっている。
【0069】
図8(a)、(b)は、本実施形態に係るバルブの動作を示す断面図である。
【0070】
図8(a)のように、バルブ50の下側の領域の圧力P1が上側の領域の圧力P2よりも高い場合(P1>P2)には、台座部51の上面側に配置された弁体42の自由端側が圧力差によって浮き上がる。そして、台座部51の貫通孔51aを通じてバルブ50を冷媒の蒸気が通過する。
【0071】
一方、図8(b)のように、バルブ50の下側の領域の圧力P1が上側の領域の圧力P2よりも低い場合(P1<P2)には、弁体42が圧力差によって台座部51の上面側に押し付けられ、貫通孔51aが閉塞されバルブ50が閉じる。
【0072】
このとき、バルブ50で結露した冷媒は、弁体42と台座部51との接触部分から凹部51b又は傾斜面51eに排除され、溝51c又は貫通孔の溝51dを通じて台座部51外に排出される。これにより、凹部51b内への冷媒の蓄積を防ぐことができる。また、凹部51bに加えて傾斜面51e及び溝51cが形成されているため、弁体42と台座部51との接触面積がさらに減少し、結露した冷媒の表面張力による弁体42と台座部51との密着力を抑制できる。
【0073】
また、台座部51の表面に落ちた吸着剤17の粉末を冷媒と共に溝51cを通じて台座部51の外部に流出させることができるため、バルブ50が閉じなくなる不具合を起こし難くなっている。
【0074】
このように、本実施形態に係るバルブ50によればバルブの開閉の不具合をより効果的に防止でき、吸着式ヒートポンプ40を長期間安定して運転できる。
【0075】
なお、本実施形態でも、台座部51の凹部51b、溝51c、傾斜面51eの表面に親水加工を施し、台座部51と弁体42との接触する部分に撥水加工を施してもよい。
【0076】
(5)第3実施形態
図9は、第3実施形態に係る情報処理システムのブロック図である。
【0077】
この情報処理システム80は、吸着式ヒートポンプ40と、電子機器70と、流体切替器61と、冷却タワー62と、空調機63とを備えている。なお、本実施形態の吸着式ヒートポンプ40は、図3に示す吸着式ヒートポンプ40(第1実施形態)と同じであり、同一の要素には同一符号を付してその説明を省略する。
【0078】
電子機器70は、例えばサーバ等であり、その内部にはCPU71、HDD(Hard Disc Drive)72、及び電源装置73等の比較的発熱量が多い電子部品が内蔵されている。また、電子機器70の内部には、これらの電子部品を冷却するための冷却配管74が設けられている。電子機器70内の電子部品は、冷却配管74内を流れる加熱流体6によって冷却される。電子機器70を冷却することで温度上昇した加熱流体6は、流体切替器61を介して吸着式ヒートポンプ40に送られる。
【0079】
一方、冷却タワー62は、外気との熱交換により吸着式ヒートポンプ40からの冷却流体9及び冷却水15を冷却する。
【0080】
流体切替器61は、内蔵した制御装置の制御の下で、第1の吸着器1及び第2の吸着器2に供給する加熱流体6及び冷却流体9を一定時間(例えば10分)毎に切り替える。第1の吸着器1及び第2の吸着器2では、吸着工程及び脱着工程が交互に行われる。
【0081】
凝縮器4には冷却タワー62から冷却水15が供給され、脱着工程で蒸発した冷媒の蒸気が凝縮される。凝縮器4で凝縮された冷媒は、冷媒回収配管16を通じて蒸発室3に戻される。
【0082】
蒸発器3では、連続的に冷媒が蒸発して冷熱が発生し、この冷熱が配管64を通る循環流体5を介して空調機63に供給される。空調機63は、この冷熱を利用して電子機器70が設置されたサーバルーム内の冷房を行う。
【0083】
上記のような情報処理システム80では、吸着式ヒートポンプ40を用いるので、電子機器70の冷却とその廃熱を利用した冷房を長時間にわたって安定して行うことができる。
【0084】
以上の諸実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0085】
(付記1)冷媒を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器と接続され、前記蒸発器で蒸発した冷媒の吸着と吸着した冷媒の脱着とを交互に切り替えて行う吸着器と、
前記吸着器に接続され、前記吸着器から脱着された冷媒を凝縮させる凝縮器と、を備え、
前記蒸発器と吸着器との間及び前記吸着器と凝縮器との間の少なくとも一方にバルブが配設され、
前記バルブは、貫通孔が形成された台座部と前記台座部上に設置されたシート状の弁体 とを含み、前記貫通孔の周囲の前記台座部の表面には、凹凸が形成されていること
を特徴とする吸着式ヒートポンプ。
【0086】
(付記2)前記貫通孔の側壁には、前記台座部の厚さ方向に延在する溝が形成されていることを特徴とする付記1に記載の吸着式ヒートポンプ。
【0087】
(付記3)前記貫通孔の前記弁体側の端部が面取りされていることを特徴とする付記1又は付記2に記載の吸着式ヒートポンプ。
【0088】
(付記4)前記凹凸は、前記貫通孔の周囲に形成された環状の凹部と、該凹部と接続されて前記台座部の周縁部にまで延在する溝とを備えることを特徴とする付記1乃至付記3の何れか1項に記載の吸着式ヒートポンプ。
【0089】
(付記5)前記冷媒は水であり、前記凹凸のうちの凹部が親水性の材料で覆われていることを特徴とする付記1乃至付記4の何れか1項に記載の吸着式ヒートポンプ。
【0090】
(付記6)前記台座部の前記弁体と接触する部分が撥水性の材料で覆われていることを特徴とする付記5に記載の吸着式ヒートポンプ。
【0091】
(付記7)前記台座部の貫通孔は円柱状に形成され、前記凹凸は前記貫通孔の周囲に同心円状に形成された凹部からなることを特徴とする付記1乃至6の何れか1項に記載の吸着式ヒートポンプ。
【0092】
(付記8)前記弁体の前記台座部側の面が親水性の材料で覆われていることを特徴とする付記5又は付記6に記載の吸着式ヒートポンプ。
【0093】
(付記9)冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器と接続され、前記蒸発器で蒸発した冷媒の吸着と吸着した冷媒の脱着とを交互に切り替えて行う吸着器と、前記吸着器に接続され、前記吸着器から脱着された冷媒を凝縮させる凝縮器と、を備え、前記蒸発器と吸着器との間及び前記吸着器と凝縮器との間の少なくとも一方にバルブが配設され、前記バルブは、貫通孔が形成された台座部と前記台座部上に設置されたシート状の弁体とを含み、前記貫通孔の周囲の前記台座部の表面には、凹凸が形成された吸着式ヒートポンプと、
前記吸着式ヒートポンプによって冷却される電子機器と、
を有することを特徴とする情報処理システム。
【0094】
(付記10)前記吸着器に供給する冷却流体を冷却する冷却タワーと、
前記電子機器により加熱された加熱流体と前記冷却タワーで冷却された冷却流体とを一定時間ごとに切り替えながら前記吸着器に供給する流体切替器と、
前記蒸発器で発生した冷熱で冷房を行う空調機と、
を備えたことを特徴とする付記9に記載の情報処理システム。
【符号の説明】
【0095】
1…第1の吸着器、2…第2の吸着器、3…蒸発器、4…凝縮器、5…循環流体、6…加熱流体、7…内部配管、8…冷却配管、9…冷却流体、10…循環配管、11、21、50…バルブ、15…冷却水、16…冷媒回収配管、17…吸着剤、18…冷媒、30、40…吸着式ヒートポンプ、31、41、51…台座部、31a、41a、51a…貫通孔、32、42…弁体、33…隔壁、41b、51b…凹部、46…マスク、47…親水性材料、48…撥水性材料、51c、51d…溝、51e…傾斜面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器と接続され、前記蒸発器で蒸発した冷媒の吸着と吸着した冷媒の脱着とを交互に切り替えて行う吸着器と、
前記吸着器に接続され、前記吸着器から脱着された冷媒を凝縮させる凝縮器と、を備え、
前記蒸発器と吸着器との間及び前記吸着器と凝縮器との間の少なくとも一方にバルブが配設され、
前記バルブは、貫通孔が形成された台座部と前記台座部上に設置されたシート状の弁体 とを含み、前記貫通孔の周囲の前記台座部の表面には、凹凸が形成されていること
を特徴とする吸着式ヒートポンプ。
【請求項2】
前記貫通孔の側壁には、前記台座部の厚さ方向に延在する溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吸着式ヒートポンプ。
【請求項3】
前記貫通孔の前記弁体側の端部が面取りされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸着式ヒートポンプ。
【請求項4】
前記凹凸は、前記貫通孔の周囲に形成された環状の凹部と、該凹部と接続されて前記台座部の周縁部にまで延在する溝とを備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の吸着式ヒートポンプ。
【請求項5】
冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器と接続され、前記蒸発器で蒸発した冷媒の吸着と吸着した冷媒の脱着とを交互に切り替えて行う吸着器と、前記吸着器に接続され、前記吸着器から脱着された冷媒を凝縮させる凝縮器と、を備え、前記蒸発器と吸着器との間及び前記吸着器と凝縮器との間の少なくとも一方にバルブが配設され、前記バルブは、貫通孔が形成された台座部と前記台座部上に設置されたシート状の弁体とを含み、前記貫通孔の周囲の前記台座部の表面には、凹凸が形成された吸着式ヒートポンプと、
前記吸着式ヒートポンプによって冷却される電子機器と、
を有することを特徴とする情報処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−11417(P2013−11417A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145254(P2011−145254)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】