説明

吸音体設計支援方法、吸音体設計支援装置、吸音体及びプログラム

【課題】様々な空間で高い吸音効果を発揮する吸音体の設計を支援することができる。
【解決手段】吸音体設計支援装置は、複数の空間から求めた、固有振動の縮退する度合いを示した縮退度分布に基づいて、固有振動が縮退しやすい固有周波数を特定し、その吸音体が吸音する周波数帯域に、その固有周波数を含み、且つ縮退の度合いが最大となるよう共鳴周波数を算出する。また、吸音体設計支援装置は、共鳴周波数を設定した吸音体が吸音する周波数帯域を除く周波数帯における縮退の度合いの総和が閾値以下になるまで、吸音体の共鳴周波数を設定する処理を繰り返して、算出した吸音体の共鳴周波数に基づいて求めた吸音体の設計値を表示部に表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
居室や小会議室、音楽室等の空間の静粛性を高めるために、その空間の特性に応じた共鳴周波数を持った吸音体を、その壁面や天井面に取り付けることが行われている。特許文献1には、新規な吸音体等の音響部品の設計、開発を容易にするために、フェルトやグラスウール等の繊維集合体について、その音響特性を容易に予測する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2007−199270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
建造物の種類や部屋の用途等に応じて、空間の寸法や形状、壁面や天井面を構成する材料は様々であり、それらの条件に応じて空間の音響特性は異なるものである。あらゆる空間で高い吸音効果を発揮する吸音体を設計することができるとよいが、そのために、空間毎の音響特性を測定して、最適な共鳴周波数や吸音体の数を求めるといった過程を経ていては、吸音体の設計に膨大な時間やコストを要してしまう。
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、様々な空間で高い吸音効果を発揮する吸音体の設計を支援することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した課題を解決するために、本発明に係る第1の構成の吸音体設置支援装置は、複数の空間のそれぞれにおける固有周波数と、各々の当該固有周波数が複数の前記空間において重複する度合いを表す重複度とを対応付けて記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている内容に基づいて前記重複度が高い固有周波数を特定する固有周波数特定手段と、前記固有周波数特定手段によって特定された固有周波数を含む所定幅の周波数帯域であって、当該周波数帯域に含まれる前記固有周波数に対応する前記重複度の総和が最大となる周波数帯域を、前記記憶手段に記憶されている内容に基づいて特定する周波数帯域特定手段とを備えることを特徴とする。
【0005】
本発明に係る第2の構成の吸音体設置支援装置は、第1の構成において、前記周波数帯域特定手段により特定された周波数帯域に含まれる周波数の音を吸音する吸音体の設計値を求めて出力する出力手段を備えることを特徴とする。
本発明に係る第3の構成の吸音体設置支援装置は、第1又は第2の構成において、前記固有周波数特定手段は、前記重複度が高い固有周波数を複数特定する場合には、前記重複度が最大である固有周波数を特定し、前記周波数帯域特定手段により当該固有周波数を含む周波数帯域が算出されると、その周波数帯域の重複度をゼロとすることを繰り返して、前記重複度が高い固有周波数を複数特定することを特徴とする。
【0006】
本発明に係る第4の構成の吸音体設置支援装置は、第1〜第3のいずれか1の構成において、前記吸音体の数の入力を受け付ける受付手段を備え、前記固有周波数特定手段は、前記受付手段が入力を受け付けた数だけ前記重複度が高い固有周波数を特定することを特徴とする。
本発明に係る第5の構成の吸音体設置支援装置は、第1〜第3のいずれか1の構成において、前記固有周波数特定手段は、前記周波数帯域特定手段によって特定される前記周波数帯域を除く周波数帯の重複度の総和が閾値以下となるような、1又は複数の前記固有周波数を特定することを特徴とする。
本発明に係る第6の構成の吸音体設置支援装置は、第1〜第5のいずれか1の構成において、吸音対象となる固有周波数を指定する指定手段を備え、前記周波数帯域特定手段は、前記固有周波数特定手段によって特定された固有周波数に加えて、前記指定手段によって指定された固有周波数を含む所定幅の周波数帯域であって、当該周波数帯域に含まれる前記固有周波数に対応する前記重複度の総和が最大となる周波数帯域を特定することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る吸音体は、第2の構成の吸音体設計支援装置の出力手段によって出力された設計値に基づいて設計たものである。
本発明に係る吸音体設計支援方法は、複数の空間のそれぞれにおける固有周波数と、各々の当該固有周波数が複数の前記空間において重複する度合いを表す重複度とを対応付けて記憶する記憶手段から読みだした内容に基づいて、前記重複度が高い固有周波数を特定する固有周波数特定過程と、前記固有周波数特定過程において特定した固有周波数を含む所定幅の周波数帯域であって、当該周波数帯域に含まれる前記固有周波数に対応する前記重複度の総和が最大となる周波数帯域を、前記記憶手段から読み出した内容に基づいて特定する周波数帯域特定過程とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るプログラムは、コンピュータをこれらの吸音体設計装置として機能させることを特徴とするものである。また、本発明に係るプログラムは、インターネット等のネットワークを介して、コンピュータにダウンロードさせ、これをインストールして利用可能にするなどの形態でも提供され得るし、プログラムを記憶させた光ディスク等の記録媒体としても特定され得る。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、様々な空間で高い吸音効果を発揮する吸音体の設計を支援することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[実施形態]
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[吸音体設計支援装置の構成]
まず、本発明の実施形態の吸音体設計支援装置について説明する。本実施形態の吸音体設計支援装置10は、一般的なパーソナルピュータと同等のハードウェア構成を有する情報処理装置である。
【0012】
図1は、吸音体設計支援装置10の構成を示すブロック図である。同図に示すように、吸音体設計支援装置10は、制御部11と、記憶部12と、操作部13と、表示部14とを備えている。
制御部11は、装置全体を制御するCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を備え、各種プログラムに従った演算処理を行う。このとき、CPUは、ROM又は記憶部12に格納されているプログラムをRAM上に読み出し、そのRAMをワークエリアとして演算処理を行う。すなわち、RAMは一種の記憶手段として機能する。記憶部12は、例えばハードディスク装置やフラッシュメモリなどの大容量の記憶手段であり、制御部11によって使用される設計支援プログラム121を記憶している。設計支援プログラム121には、建造物の空間に設置する吸音体の設計を支援するために、その設計値を演算により求めるためのアルゴリズムが記述されている。このアルゴリズム構造について詳しくは後述する。操作部13は、キーボード等の入力装置またはボタン等の操作子を備え、ユーザによる操作を受け付けてその操作内容を表す操作信号を生成し、制御部11に供給する。表示部14は、液晶パネルなどを備え、制御部11の制御の下で、吸音体設計支援装置10を操作するための各種画面を表示する。
【0013】
本実施形態の吸音体設計支援装置10は、吸音体としてヘルムホルツ吸音体20の設計値を求める演算を行う。図2は、ヘルムホルツ吸音体20の構成を説明する図であり、同図(a)は外観を表した図であり、同図(b)は(a)の切断線x−xで切断したときの断面を表した図である。
ヘルムホルツ吸音体20は、筐体21と管状部材22とによって構成されている。
筐体21は、内部に気体層が形成され、例えばFRP(繊維強化プラスチック)によって円筒状に形成されている。管状部材22は、例えば塩化ビニール製のパイプ等の両端開口の管状部材であり、筐体21の孔部に挿入されて両者は連結されている。管状部材22の開口部23は、吸音する空間に面している。ヘルムホルツ吸音体20は、管状部材22の内部にある気体を質量成分とし、筐体21の気体層をバネ成分としたバネマス系を形成し、所定の周波数帯において、管状部材22の内壁と空気との摩擦によって、音のエネルギーが熱エネルギーに変換されて、吸音効果を発揮する。
【0014】
このような構成のヘルムホルツ吸音体20の共鳴周波数fは、式(1)の関係を満たす。ただし、式(1)において、cは音速を表し、Lは管状部材22の有効長を表す。図2に示すように、有効長Lは、管状部材22の空洞の一端から他端までの長さを、開口端補正値で補正した長さである。また、Vは筐体21内に形成された気体層の体積(すなわち容積)であり、Sは開口部23の面積である。
f=c/2π・(S/L・V)1/2 ・・・(1)
【0015】
式(1)に示すように、開口部23の面積S、管状部材22の有効長L、及び筐体21の気体層の体積Vの各パラメータにより、ヘルムホルツ吸音体20の共鳴周波数fは決定付けられ、ヘルムホルツ吸音体20は、その共鳴周波数fに基づいた周波数帯域で吸音する効果を発揮する。吸音体設計支援装置10は、これらの各パラメータをヘルムホルツ吸音体20の設計値として求める。
【0016】
[設計支援プログラム121のアルゴリズム構造]
続いて、記憶部12に記憶されている設計支援プログラム121のアルゴリズム構造について説明する。この設計支援プログラム121は、複数の空間から求められた固有周波数の統計的特徴に基づいて、吸音体の設計値を求めるアルゴリズムを含んでいる。
【0017】
図3は、直方体状の空間Sを模式的に表した図である。設計支援プログラム121には、直方体状の空間の寸法に基づいて固有周波数の周波数分布に係る統計的特徴が記述されている。ここで直方体状の空間であることを前提にしているのは、家屋やオフィスビル等の様々な建造物において、部屋ある空間を構成する各部屋は直方体状であることが多いからである。
図3に示すように、空間Sの1つの頂点を原点Oとして、そこを起点として延びる各辺がx軸、y軸及びz軸のそれぞれに重なるように、xyz直交座標系を定める。空間Sのx軸方向の長さをLとし、y軸方向の長さをLとし、z軸方向の長さをLとする。空間Sの壁面を剛壁とみなした場合の固有周波数をfとすると、その固有周波数fは、式(2)の関係を満たす。式(2)において、cは音速を表し、n,n,nは固有振動モードの次数を表す値である。なお、n,n,nは、それぞれ0,1,2,・・・である。
【数1】

【0018】
式(2)に示すように、空間Sにおいて、固有振動モードの次数n,n,nの値の任意の組み合わせに対して固有周波数が存在する。ここで、n,n,n=0,1・・・,N(整数)とすると、N次以下の固有周波数として(N+1)個の固有周波数が存在する。ただし、この演算を行うと、固有振動モードの次数の異なる組み合わせによって固有周波数が重複することがある。このことを固有振動が「縮退」しているという。以下の説明においても、「縮退」という用語をこの意味で用いる。
なお、n,n,nのうちの2つが“0”である場合には(一次元モード)、1の軸に平行な「軸平行波動」として振る舞い、n,n,nのうちの1つが“0”である場合には(二次元モード)、1対の平行壁面に平行で、他の2対の壁面に斜めに入射する「面平行波動」として振る舞い、n,n,nのうちのいずれも“0”でない場合には(三次元モード)、すべての壁面に斜めに入射する「斜波動」として振る舞う。
【0019】
壁面を剛壁とみなした場合の直方体状の空間の固有周波数は、その寸法を定義すれば、式(2)を用いて算出することができる。ここで、日本国内にある建造物の規格化されたサイズの空間を想定し、それらの固有周波数の分布(度数分布)を求める。本実施形態では、4畳半〜18畳までの標準的サイズ(床面積)の空間から、いくつかの寸法を抽出して固有周波数を求める。この場合において、空間の床面の寸法を決定付けるx軸方向及びy軸方向の長さは、2.7m〜5.4mの範囲内の長さを採りうるし、天井高を示すz方向の長さは、2.1m〜3.0mの範囲内の長さを採りうるが、ここでは以下の寸法を抽出する。L,L=2.7m,3.6m,4.5m、5.4mという、x軸及びy軸方向の長さを0.9mの整数倍の長さとし、L=2.1m,2.4m,2.7m,3.0mという、z軸方向の長さを0.3mの整数倍の長さとする。さらに、これらの規準寸法に加えて、L,L,Lに対して、−0.1m,±0m(偏差なし)、+0.1mという偏差を同時に変動させた寸法を加える。なお、L,L,Lを上記寸法としたのは、日本の家屋が一般に3の倍数の寸法を基準としているという合理的な理由による。
【0020】
このようにして、4×4×4(各辺の寸法)×3(偏差)=192個の空間における固有周波数を算出すると、固有周波数の分布は、図4(a)〜(c)に示すようになる。図4(a)は、一次元モードに対応する軸平行波動の分布を表し、同図(b)は、二次元モードに対応する面平行波動の分布を表し、同図(c)は、三次元モードに対応する斜波動の分布を表す。同図(a)〜(c)において、横軸は周波数を示し、縦軸は平均縮退度Dave(f)を表す。「平均縮退度」は、複数の空間において固有周波数が重複する度合いを表す重複度を表す値であり、固有周波数が一致した個数を所定数で除して基準化した値で与えられる。すなわち、平均縮退度の高い周波数の固有振動は、空間を問わず縮退しやすいということである。図4(a)に示すように、軸平行波動では平均縮退度が著しく高くなっている周波数(図中f、f等)がところどころに現れており、直方体状の空間においては、著しく固有振動が縮退しやすい周波数がいくつか存在することが分かる。
なお、L,L,Lに対する偏差を、それぞれ独立して変動させた場合には、4×4×4(各辺の寸法)×3×3×3(偏差)=1728個の固有周波数が算出されるが、計算時間の短縮等を理由としてこれらを同時に変動させても、固有周波数の分布の傾向にほとんど変化が現れないことを、発明者らは確認した。よって、図4に示すように、各辺に対して同時に偏差に基づき空間の寸法を変動させ、192個の固有周波数を算出した。このことからも、複数の空間から或る数の空間について固有周波数を抽出すれば、様々な空間における固有周波数の分布の特徴を求めることができる、ということができる。
【0021】
ここで、「平均縮退度」の定義について説明する。
K個(ここでは、192個)の空間をサンプルとして、式(1)に基づいて固有周波数を算出して、或る空間S(ただし、i;変数、i=1,・・・,K)が持つN次モード以下の固有周波数の集合Fを、式(3)に示すように定義する。この場合、K個の異なる空間からなる集合Fが持つすべての固有周波数は、下記式(4)の関係を満たす。式(4)の“m”は固有振動数の数を表す整数である。
【数2】

【数3】

【0022】
ここで、空間Sが固有周波数を持つか否かを表す関数式を、式(5)によって定義する。式(5)において、D(f)は空間Sが持つ周波数fの縮退度nの周波数分布を表す関数である。縮退度nは、その空間Sにおいて重複する固有周波数の重複の度合いを表す値であり、ここでは重複した数そのものを表す。
【数4】

【0023】
式(5)に基づき、集合Fに含まれるすべての固有周波数の平均縮退度Dave(f)は、式(6)の関係を満たす。
【数5】

【0024】
式(6)に示すように、平均縮退度Dave(f)は、周波数fに対して、K個の異なる空間の集合を1つの仮想的な空間とみなしたときの固有振動の縮退のしやすさを表している。すなわち、平均縮退度Dave(f)が高い周波数は、固有振動する確率が高いと言うことができる。なお、式(6)によって求められ、図4(a)〜(c)に示す平均縮退度Dave(f)の周波数特性を、以下では「縮退度分布」という)と称する。
以上のようにして定義される縮退度分布は、設計支援プログラム121に含まれるアルゴリズムに記述されることにより、記憶部12に記憶されている。また、吸音体設計支援装置10は、この縮退度分布を用いて各種制御を行うから、記憶手段であるRAMにも記憶されうる。
【0025】
ところで、空間の固有周波数を決定付ける要因として、室内に置かれる家具や内装品の配置等の経時変化しやすい要因に対して、内壁面や天井面の構造や材料、部屋の形状等の要因は経時変化しにくい要因がある。このような経時変化しにくい要因から得た統計的特徴は経時変化しにくい安定した結果をもたらすと考えられるので、後者の経時変化しにくい要因を用いれば、種々の空間において高い効果を発揮する吸音体の設計アルゴリズムを一般化できると、発明者らは考えた。種々の空間の形状に関する集合的な傾向として、上述したように“空間が直方体で規格化された寸法を持つ”と言うことができるので、空間の各面を剛体であると仮定した場合の固有周波数は縮退が進んで、固有周波数の分布に偏りが現れる。この偏りに適合させて設計された吸音体は、種々の空間における吸音に対して効果的であると観点に基づき、以下で説明する吸音体の設計アルゴリズムを得た。
吸音体設計支援装置10は、以上説明したような縮退度分布の内容に基づき、複数の空間において重複(縮退)しやすい固有周波数を特定し、それに基づいて吸音体の設計を求めることにより、設計者による吸音体の設計を支援する。
【0026】
次に、吸音体設計支援装置10の制御部11が行う、吸音体の設置支援に係る制御の手順について、図5に示すフローチャートに従って説明する。ここでは、図4(a)に示す軸平行波動に対する縮退度分布に基づいて、制御部11は、以下の制御を行う。ここで軸平行波動に着目するのは、図4(a)に示すように、平均縮退度が著しく高い周波数が現れているからであり、このように縮退した軸平行波動に関しては、特に低音の残響音がこもることとなり、自然な音響特性が得られないためである。従って、軸平行波動の縮退の度合いを複数の空間から求め、その統計的特徴に基づいて吸音体の設計することは空間の音響特性の改善において効果的であるからである。
【0027】
まず、制御部11は、ユーザによって操作部13が操作されて、吸音体の設置支援に係る制御の開始を指示する旨の操作信号を受け取ると、記憶部12に記憶された設計支援プログラム121をRAM上に読み出し、縮退度分布を読み出す処理を実行する(ステップS1)。以降、制御部11は、この設計支援プログラム121に記述されたアルゴリズムに従った演算を行う。
【0028】
続いて、制御部11は、図4(a)に示す縮退度分布により定義される対応関係に基づき、平均縮退度Dave(f)が最大である固有周波数を特定する(ステップS2)。図4(a)に示すように、周波数f(=63.70Hz)において平均縮退度Dave(f)が最大となっており、ここでは、制御部11は固有周波数fを特定する。制御部11は、ステップS2で特定した固有周波数fの音を吸音する吸音体の設計値を求めるべく、周波数応答特性W(f)と平均縮退度Dave(f)とを用いて、以下に説明する演算を行う。
【0029】
図6は、周波数応答特性W(f)と縮退度分布における或る周波数帯域の平均縮退度Dave(f)との関係を示したグラフである。同図のグラフにおいて、横軸は周波数を表し、縦軸は平均縮退度Dave(f)を表している。また、周波数応答特性W(f)は、式(7)の関係を満たす。ただし、jは変数である。
(f)=1(f−f/2≦f≦f+f/2)
(f)=0(f<f−f/2,f+f/2<f) ・・・(7)
ただし、f=f/Q
【0030】
式(7)に示すように、周波数応答特性W(f)は、W(f)=1となる周波数幅がfで、それ以外の周波数帯域ではW(f)=0となる関数である。また、W(f)=1となる周波数帯の中心周波数をfとする。「Q」値は、周波数応答特性W(f)を、中心周波数がfで、半値幅がfのバンドパスフィルタの特性関数とみなしたときの共振の鋭さに相当する値である。このQ値は、W(f)=1となる所定幅の周波数幅を決定するものであり、設計値の算出対象となるヘルムホルツ吸音体20が吸音効果を発揮する周波数幅に応じて定められる。
【0031】
ここで、W(f)=1となる周波数幅と、ヘルムホルツ吸音体20が吸音効果を発揮する周波数幅との対抗関係について説明する。
ヘツルホルツ吸音体の他にも共鳴管等の種々の共鳴体があり、これらは共鳴周波数付近の周波数帯域で吸音効果を発揮する。その周波数帯域の幅は共鳴体の種類によって異なるし、また、共鳴体の外部空間と面する開口部(例えば、ヘルムホルツ吸音体20の開口部23)に、音の伝搬に寄与する媒質粒子の振動を阻害する抵抗材を設けることで、吸音効果を発揮する周波数幅を変化させることもできる。ここで吸音体設計支援装置10が用いるQ値は、設計値の算出対象となる吸音体が吸音効果を発揮する周波数幅と、W(f)=1となる周波数幅とがほぼ一致するようにしている。このようにするのは、W(f)=1となる周波数幅を、ヘルムホルツ吸音体20が吸音する周波数帯とみなして演算を行うためである。
このように、W(f)=1となる周波数帯域は、吸音体が吸音する周波数帯域に対応するから、以下ではその周波数帯域を「吸音帯域」と称する。
【0032】
図5に戻って説明する。
ステップS2の処理を行うと、制御部11は、設計者に対してQ値の入力を要求する表示画面を表示部14に表示させ、設計者は、操作部13を操作してQ値を入力する(ステップS3)。なお、ここにおいて、設計者にQ値を直接入力させてもよいし、吸音体設計支援装置10が、吸音体の種類とQ値とを対応付けて予め記憶部12に記憶しておき、ユーザによって入力された吸音体の種類に対応するQ値を用いるようにしてもよい。ここでの吸音体の種類は、例えば、ヘルムホルツ吸音体20の開口部23に抵抗材を設けるか否や、その抵抗材の種類等によって分類される。
【0033】
そして、制御部11は、式(8)の演算を行うことにより、ステップS2で特定した固有周波数を含む吸音帯域において、平均縮退度Dave(f)の総和Dtotalを算出する。具体的には、制御部11は、周波数応答特性W(f)の中心周波数をf=fとしたときに吸音帯域に含まれる固有周波数のそれぞれを、中心周波数fに一致させてDtotalを算出する(ステップS4)。
【数6】

【0034】
ここでは、図6に示すように、周波数応答特性W(f)の中心周波数f=fとすると、吸音帯域B1に固有周波数f11,f12,f1,f13,f14が含まれるから、制御部11は、これらすべての固有周波数f11,f12,f1,f13,f14に中心周波数fを一致させて、それぞれDtotalを算出する。例えば、制御部11は、f=f11としたときには、吸音帯域B2に含まれるf15,f16,f17,f11,f12,f1の平均縮退度Dave(f)の総和Dtotalを算出し、f=f14としたときには、吸音帯域B3に含まれるf1,f13,f18,f19の平均縮退度Dave(f)の総和Dtotalを算出する。
【0035】
そして、制御部11は、ステップS4でDtotalを算出すると、Dtotalが最大となる中心周波数f(ここでは、吸音帯域B1の中心周波数である固有周波数f1とする)を、設計対象となる吸音体に設定されるべき共鳴周波数f01として算出する(ステップS5)。そして、制御部11は、この共鳴周波数f01をRAM上或いは記憶部12に記憶させる。
ここで、制御部11が平均縮退度Dave(f)の総和が最大となる共鳴周波数を選択することにより、その平均縮退度が最大となる固有周波数fがヘルムホルツ吸音体20が吸音効果を発揮する周波数帯に含まれるとともに、その固有周波数fの近傍の平均縮退度が高い固有周波数についても、その帯域に含めることができる。これにより、1つの吸音体が吸音可能な周波数帯域に、固有振動が縮退しやすい周波数を最大限含ませることができ、効率のよい吸音が可能となる。
【0036】
続いて、制御部11は、共鳴周波数f01(=f)を中心周波数fとしたときに、W(f)=1となる周波数帯域の平均縮退度Dave(f)をゼロとし、RAMに記憶させる(ステップS6)。ここでは、制御部11は、固有周波数f11,f12,f1,f13,f14の平均縮退度Dave(f)をゼロとする。上述したように、制御部11は、吸音帯域に固有振動が縮退しやすい周波数を最大限に含ませることで、効率のよい吸音効果を得られるようにしている。よって、複数の吸音体の吸音帯域が重なり合ってしまうと、その周波数幅分だけ吸音効果に無駄が生じてしまうことになる。したがって、このステップS6を実行することにより、この後で行う別の吸音体が吸音する周波数帯域が、この帯域に無駄に重なってしまうことを回避することができる。
【0037】
続いて、制御部11は、すでに算出した共鳴周波数を中心とした吸音帯域を除く帯域の、平均縮退度Dave(f)総和Σが閾値(例えば、「1.8」)以下であるか否かを判断する(ステップS7)。ここでは、まだ共鳴周波数f01を求めただけであるから、制御部11は、共鳴周波数f01を中心周波数とした吸音帯域B1を除く周波数帯の平均縮退度Dave(f)の総和Σを求める。この閾値は、得たい吸音効果の程度に応じて予め決められる値であり、吸音効果を高める場合ほどその値は小さく設定される。
【0038】
ここで、制御部11は、吸音帯域を除く帯域の平均縮退度Dave(f)の総和Σが閾値以下でないと判断したとすると(ステップS7;NO)、ステップS2に戻る。そして、制御部11は、上記と同様にして、その時点で平均縮退度Dave(f)が最大の固有周波数を特定し(ここでは、図4(a)に示すf)、上記処理ステップS2〜S6を行い、固有周波数fが吸音帯域に含まれ、且つDtotalが最大となるような共鳴周波数f02を算出する。そして、ステップS7において、制御部11は、共鳴周波数f01を中心周波数とした吸音帯域B1、及び共鳴周波数f02を中心周波数とした吸音帯域を除く周波数帯の平均縮退度Dave(f)の総和Σを求めて、それが閾値以下であるか否かを判断する。以降においても、制御部11は、同様の手順で処理を実行し、ステップS7では、それまでに算出した共鳴周波数を中心周波数とした、すべての吸音帯域を除く周波数帯について、それらの平均縮退度Dave(f)の総和Σを求め、Σが閾値以下であるか否かの判断を行う。
吸音帯域を除く帯域における平均縮退度の総和が大きいということは、吸音体が吸音効果を発揮する周波数帯域以外で固有振動が縮退する度合いが大きく、その空間ではまだ十分な吸音効果を得られていないということができる。よって、この条件を満たすまで、制御部11は吸音特性を決定するための上記演算を繰り返して行う。
【0039】
そして、制御部11は、すでに共鳴周波数を算出した吸音体の吸音帯域を除く帯域の、平均縮退度Dave(f)の総和Σが閾値以下であると判断すると(ステップS7;YES)、ステップS8に進む。
【0040】
続いて、制御部11は、算出した共鳴周波数に応じて、式(1)等に基づき、共鳴周波数を特定した数だけヘルムホルツ吸音体20の設計値を求めて、その設計値を表示部14に表示出力する(ステップS8)。ステップS8において、制御部11は、表示部14に「吸音体1:面積S=○○cm,V=××cm,・・・、吸音体2:面積S=・・・」等という具合に設計値を表示させる。この設計値を見た設計者は、表示部14の表示内容に従って吸音体を設計する。このようにして、吸音体設計支援装置10はユーザの吸音体の設計作業を支援する。
【0041】
図7は、Q=10、吸音体の数N=10とした場合の、各順位の吸音体の共鳴周波数における平均縮退度Dave(f)を示した表である。同図において、「順位」(k=1〜10)は、ステップS2で、制御部11が固有周波数を特定する順番を表しており、ここでは、順位が高いほど平均縮退度Dave(f)の値が大きくなっている。ここで「k」は、吸音体の識別番号とも対応する。
【0042】
図8は、各順位の吸音体の共鳴周波数と、その共鳴周波数での縮退度nとの関係を示した表である。同図(a)は、Q=10とした場合の関係を示しており、同図(b)は、Q=5とした場合の関係を示している。同図(a),(b)に示すように、例えば(a)では、30Hz付近の周波数帯の吸音をk=4,5の吸音体が行うのに対し、(b)ではk=7,8の吸音体で行っており、制御部11が、その周波数帯に対応する吸音体の順位が異なっている。これは、上述したように、吸音帯域での平均縮退度Dave(f)が最大となるように、制御部11が共鳴周波数を求めているからであり、Q値に応じて、吸音体が吸音効果を最大限に発揮するようにするための演算を、制御部11が行っていることによるものである。このようにして、制御部11は、吸音体が吸音効果を発揮する所定幅の帯域に応じて最適な設計値を求めるから、単に縮退しやすい固有周波数を選択するような場合と比べて、設計対象となる吸音体の特性に応じた最適な設計値を求めることができる。
【0043】
以上述べた実施形態によれば、吸音体設計支援装置10は、固有振動の縮退する度合いを示した縮退度分布に基づいて、平均縮退度Dave(f)が高い固有周波数を特定し、吸音帯域に固有周波数を含み、且つその吸音帯域における平均縮退度Dave(f)の総和Dtotalが最大となるよう、その共鳴周波数を算出する。また、吸音体設計支援装置10は、共鳴周波数を設定した吸音帯域を除く帯域の、平均縮退度Dave(f)の総和Σが閾値以下になるまで、吸音体の共鳴周波数を設定する処理を繰り返す。そして、その総和が閾値以下になれば、吸音体設計支援装置10は、算出した吸音体の共鳴周波数に基づいて求めたヘルムホルツ吸音体20の設計値を求めて、表示部14に表示させて設計者に提示する。
このようにして、吸音体設計支援装置10は、縮退しやすい固有振動の統計的特徴に基づき吸音体の設計値を算出することにより、設計者による様々な空間において高い吸音効果を発揮する吸音体の設計作業を支援する。さらに、吸音体設計支援装置10により求められた設計値を用いれば、効率のよい吸音特性を各吸音体に設定することができるから、所望する吸音効果を得るために必要最低限の数でそれを実現することができ、コスト面や設置に係る手間の軽減という観点からも好適である。
【0044】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態と異なる形態で実施することが可能である。本発明は、例えば、以下のような形態で実施することも可能である。また、以下に示す変形例は、各々を適宜に組み合わせてもよい。
[変形例1]
上述した実施形態では、吸音体設計支援装置10は、縮退度分布に基づき特定した共鳴周波数を用いて、吸音帯域を除く帯域における平均縮退度Dave(f)の総和Σが閾値以下になるまで共鳴周波数を算出していた。つまり、吸音効果が或る程度以上得られるようになるまで、吸音体の数は次々と増えていく。これに対し、例えばコスト面や設置スペース等の問題から吸音体の数を限定せざるを得ない場合もある。そこで、吸音体設計支援装置10を以下のような構成としてもよい。
まず、ステップS1の前において、制御部11は、表示部14に「設置する吸音体の数を入力してください。」等というメッセージ画面を表示して、設計者に吸音体の数の入力を促す。設計者により操作部13が操作されて吸音体の数の入力を受け付けると、制御部11は、入力を受け付けた数だけ、平均縮退度Dave(f)が高い固有周波数を特定し、その範囲内で、吸音帯域における平均縮退度Dave(f)の総和が最大となるように、それぞれの吸音体に対する共鳴周波数を算出する。例えば、設計者により吸音体の数を「3」とすることが入力されると、制御部11は、図7に示す第3行までの演算を行うと、それらに基づいて設計値を求めて表示部14に表示させる。
このような構成の吸音体設計支援装置10によれば、決められた範囲内の数で最大限の吸音効果を発揮できるような吸音体の設計を容易にすることができる。
【0045】
また、吸音体設計支援装置10が或る1種類の吸音体の設計値を求めるような場合(例えば動作モード)には、ステップS3のQ値の入力を省き、予め記憶部12に記憶しておいたものを用いるとよい。また、ステップS7で用いる閾値を設計者に指定させてもよく、この場合、制御部11はユーザにより操作部13を介して入力された、得たい吸音効果の程度に基づいた閾値を用いるとよい。
また、上述した実施形態のステップS7において、制御部11は、その直前のステップS2で特定した固有周波数の平均縮退度Dave(f)が閾値以下であるか否かを判断し、閾値以下の場合にのみ、ステップS8に進むようにしても良い。ステップS2では、制御部11は、そのときに平均縮退度Dave(f)が最大の固有周波数を特定しているから、これが或る程度(閾値以下)まで小さくなっていれば、その他に固有振動が縮退しやすい周波数がないことを意味する。よって、ここまでに制御部11が算出した共鳴周波数に基づいて設計される吸音体によって、必要十分な吸音効果が得られているということができるからである。
【0046】
[変形例2]
上述した実施形態では、吸音体設計支援装置10は、周波数応答特性をW(f)=1となる周波数帯域でのDtotalが最大となるよう、各吸音体の共鳴周波数を定めていた。すなわち、吸音体が所定幅の周波数帯で一様の吸音効果を発揮すると仮定した演算を行っている。仮に、実現可能な最大のQをQとした場合に、Q<Qである共鳴器を用いた場合は、最大振幅をQ/Qとするとともに、吸音体の吸音する帯域幅fw=f/Qとして扱っていることとなる。ここで、fは吸音体の中心周波数である。つまり、Q×fw=Q×fw=一定として計算していることとなる。このようにすることにより、吸音体設計支援装置10が行う演算を簡素化させている。
【0047】
ところが、実際の吸音体が吸音効果を発揮する周波数帯域では、その中心周波数(共鳴周波数)付近では高い吸音効果を発揮するのに対し、中心周波数から遠ざかるほどその吸音効果が徐々に低下していくことが多い。そこで、吸音体設計支援装置10は、Dtotalを算出するに際して、W(f)=1となる周波数帯における各周波数に応じて、平均縮退度Dave(f)に重み付けを行うようにしてもよい。例えば、周波数応答特性をW(f)=1となる周波数帯域において、中心周波数から±1Hzの周波数帯域の平均縮退度に「×1.0」という重み付けをし、中心周波数から±1Hz〜±2Hzの周波数帯域の平均縮退度に「×0.8」、・・・という重み付けをする等という具合である。このようにすれば、制御部11は、さらに正確な吸音体の吸音特性に応じた演算を行うことができ、設計により得られる吸音体の吸音効果をより一層高めることができる。この場合において、吸音体設計支援装置10は、周波数応答特性W(f)に重み付けを反映した関数を用いるとよい。
【0048】
[変形例3]
上述した実施形態では、吸音体設計支援装置10は、ステップS2で平均縮退度Dave(f)が最大となる固有周波数を特定していた。これに対し、人間の聴覚等の事情から、特に吸音することが好ましい特定の周波数帯域がある場合には、制御部11は、その周波数帯域において高い平均縮退度Dave(f)の固有周波数を優先的に特定するようにしてもよい。
【0049】
また、設計者に吸音対象となる固有周波数を指定させる構成を備えるようにし、その固有周波数を優先して吸音するように、吸音体設計支援装置10は設計値を求めてもよい。
ここで、設計者により或る固有周波数fが指定されたとする。この場合、制御部11は、ステップS2で固有周波数fを特定し、ステップS4,S5において、この固有周波数fを含む吸音帯域のうち、その周波数帯域における平均縮退度Dave(f)の総和Dtotalが最大となる周波数帯域を特定する。このようにすれば、設計者や空間の事情により、優先的に吸音したい周波数帯域がある場合にも、吸音体設計支援装置10はその設計値を求めることができる。
【0050】
[変形例4]
上述した実施形態では、制御部11は、ステップS8において、設計値を文字によって表示出力していたが、例えば空間に吸音体を設置した様子を模した画像によって、設計値を表示してもよい。また、制御部11は、共鳴周波数や、吸音するべき周波数帯域(W(f)=1となる周波数帯域)を表示部14に表示してもよく、吸音体の設計値を表すものであればよい。また、制御部11は、算出した設計値を記憶部12に記憶させてもよく、設計値の出力の形態はどのようなものであってもよい。
【0051】
[変形例5]
上述した実施形態では、複数の直方体状の空間から式(2)〜(6)を用いて求められる縮退度分布を用いて、吸音体設計支援装置10は演算を行っていた。これに対し、縮退度分布の生成方法はこれに限定されない。例えば、複数の空間の固有周波数を実測し、固有振動が縮退しやすい周波数を実験的に求めて、縮退度分布を生成してもよい。また、家屋やスタジオ等で空間を構成する材料や形状、寸法は様々なものがある。例えば同じ寸法の空間でも材料の違いにより固有振動の縮退の度合いは異なる。そこで、空間の材料や形状、寸法により分類して縮退度分布を求めておき、吸音体設計支援装置はそれらを使い分けてもよい。この場合、吸音体設計支援装置は、ユーザによって入力された空間の種類に対応する縮退度分布を用いるとよい。あるいは、有限要素法(FEM;Finite Element Method)等を用いた音場シミュレーションの計算結果のデータを利用してもよい。
縮退度分布は、平均縮退度に代えて、固有振動が縮退する数そのものを表す縮退度nを重複度として用いてもよく、周波数毎の固有振動が縮退する度合いを表す情報であればよい。
【0052】
[変形例6]
また、設計支援装置が設計値を演算する吸音体の種類は、ヘルムホルツ吸音体に限定されず、吸音する効果を発揮するものであればよい。例えば、グラスウールやフェルト、布等を用いた多孔質吸音材、多孔質吸音材をプラスティックフィルムやベニヤ板等で覆った復号材吸音材、板状吸音体等であってもよい。
また、上述した吸音体設計支援装置10の制御部11が実現する各機能は、複数のプログラムの組み合わせによって実現され、又は、複数のハードウェア資源の協働によって実現され得る。また、設計支援プログラム121は、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスクなど)、光記録媒体(光ディスク(CD、DVD)など)、光磁気記録媒体、半導体メモリなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記録した状態で提供し得る。また、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】吸音体設計支援装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ヘルムホルツ吸音体の構成を示した図である。
【図3】直方体状の空間Sを模式的に表した図である。
【図4】縮退度分布を示したグラフである。
【図5】制御部が実行する動作の手順を示したフローチャートである。
【図6】周波数応答特性と平均縮退度との関係を示したグラフである。
【図7】Q=10、N=10とした場合のそれぞれの吸音体の吸音帯域における平均縮退度の総和を示した図である。
【図8】Q=10,Q=5とした場合の共鳴周波数と縮退度との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0054】
10…吸音体設計支援装置、11…制御部、12…記憶部、121…設計支援プログラム、13…操作部、14…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空間のそれぞれにおける固有周波数と、各々の当該固有周波数が複数の前記空間において重複する度合いを表す重複度とを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている内容に基づいて前記重複度が高い固有周波数を特定する固有周波数特定手段と、
前記固有周波数特定手段によって特定された固有周波数を含む所定幅の周波数帯域であって、当該周波数帯域に含まれる前記固有周波数に対応する前記重複度の総和が最大となる周波数帯域を、前記記憶手段に記憶されている内容に基づいて特定する周波数帯域特定手段と、
を備えることを特徴とする吸音体設計支援装置。
【請求項2】
前記周波数帯域特定手段により特定された周波数帯域に含まれる周波数の音を吸音する吸音体の設計値を求めて出力する出力手段
を備えることを特徴とする請求項1に記載の吸音体設計支援装置。
【請求項3】
前記固有周波数特定手段は、前記重複度が高い固有周波数を複数特定する場合には、
前記重複度が最大である固有周波数を特定し、前記周波数帯域特定手段により当該固有周波数を含む周波数帯域が算出されると、その周波数帯域の重複度をゼロとすることを繰り返して、前記重複度が高い固有周波数を複数特定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の吸音体設計支援装置。
【請求項4】
前記吸音体の数の入力を受け付ける受付手段を備え、
前記固有周波数特定手段は、前記受付手段が入力を受け付けた数だけ前記重複度が高い固有周波数を特定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸音体設計支援装置。
【請求項5】
前記固有周波数特定手段は、前記周波数帯域特定手段によって特定される前記周波数帯域を除く周波数帯の前記重複度の総和が閾値以下となるような、1又は複数の前記固有周波数を特定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸音体設計支援装置。
【請求項6】
吸音対象となる固有周波数を指定する指定手段を備え、
前記周波数帯域特定手段は、前記固有周波数特定手段によって特定された固有周波数に加えて、前記指定手段によって指定された固有周波数を含む所定幅の周波数帯域であって、当該周波数帯域に含まれる前記固有周波数に対応する前記重複度の総和が最大となる周波数帯域を特定する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸音体設計支援装置。
【請求項7】
請求項2に記載された吸音体設計支援装置の出力手段によって出力された設計値に基づいて設計された吸音体。
【請求項8】
複数の空間のそれぞれにおける固有周波数と、各々の当該固有周波数が複数の前記空間において重複する度合いを表す重複度とを対応付けて記憶する記憶手段から読みだした内容に基づいて、前記重複度が高い固有周波数を特定する固有周波数特定過程と、
前記固有周波数特定過程において特定した固有周波数を含む所定幅の周波数帯域であって、当該周波数帯域に含まれる前記固有周波数に対応する前記重複度の総和が最大となる周波数帯域を、前記記憶手段から読み出した内容に基づいて特定する周波数帯域特定過程と
を備えることを特徴とする吸音体設計支援方法。
【請求項9】
コンピュータを、
複数の空間のそれぞれにおける固有周波数と、各々の当該固有周波数が複数の前記空間において重複する度合いを表す重複度とを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている内容に基づいて前記重複度が高い固有周波数を特定する固有周波数特定手段と、
前記固有周波数特定手段によって特定された固有周波数を含む所定幅の周波数帯域であって、当該周波数帯域に含まれる前記固有周波数に対応する前記重複度の総和が最大となる周波数帯域を、前記記憶手段に記憶されている内容に基づいて特定する周波数帯域特定手段と
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−60747(P2010−60747A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225319(P2008−225319)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】