説明

吸音体

【課題】多孔質型吸音機構における低周波性能の改善を図る。
【解決手段】本発明の吸音体は、多孔質体層2と、多孔質体層2の表面(音源側)に積層された通気性を有する膜状吸音層3とを備えている。
多孔質体層2は、厚さが25mmで面密度が32kg/mのグラスウールなどで形成されている。
膜状吸音層3は、厚さが3mmで面密度が342g/mの無機フェルト若しくは厚さが5mmで面密度が570g/mの無機フェルトなどで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音体に係り、特に省スペースが求められる鉄道車両、自動車、電気機器などから発生する騒音を効果的に吸収する場合に有用な吸音体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に吸音機構としては、共鳴器型、板(膜)振動型および多孔質型の3種類が知られている(例えば、非特許文献1参照)。これらの吸音機構のうち、共鳴器型と板(膜)振動型は吸音機構内部の構造が音波と共鳴することに基づいて音エネルギーを減衰させる機構であり、限られた周波数範囲でのみ極めて高い吸音性能を示すという特長がある。また、多孔質型吸音構造は多孔質体内を通過する空気の粘性抵抗に基づき音エネルギを減衰する機構であることから、特定の共鳴点を持たず、幅広い周波数範囲で比較的に高い吸音率を示すという特長がある。
【0003】
一方、鉄道車両用、自動車用、電気機器用などの騒音対策においては、発生騒音の周波数が一定値ということは稀であることから、多孔質型吸音機構に見られるような幅広い吸音性能が望まれている。
【0004】
しかしながら、多孔質型吸音機構においては、多孔質体の内部に空気の振動が生じない場合は、音エネルギーの減衰が生じないことから吸音が行われないという難点がある。特にこのような現象は低周波の吸音性能に顕著に現れることから、一般的に多孔質型吸音機構は低周波性能が悪いことで知られている。
【0005】
このような多孔質型吸音機構の低周波性能を改善する方法としては、(イ)多孔質体の厚さを厚くする方法や(ロ)多孔質体の密度を高めるという方法が知られている。
【0006】
しかしながら、車両や電気機器などにおいてはスペース効率を重視する傾向があるため、前述の(イ)の方法は現実に採用されることは稀であり、また、前述の(ロ)方法は、(イ)の方法と比較すると、吸音効果が小さいという難点がある。なお、これらの多孔質型吸音機構の構造パラメータが吸音性能に与える影響としてはJISA6301:2000の付属書J.4.2項に一般的な説明が示されている。
【0007】
【非特許文献1】「建築・環境音響学」 共立出版 1990年 第4章
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような点に着目してなされたもので、多孔質型吸音機構における低周波性能を改善し、省スペース性に優れた吸音体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様である吸音体は、多孔質体層と、多孔質体層の表面に積層された通気性を有する膜状吸音層とを備えるものである。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様である吸音体において、膜状吸音層は、不織布、フェルトおよび織物の何れか又はこれらの混合物から成るものである。
【0011】
本発明の第3の態様は、第2の態様である吸音体において、不織布、フェルトおよび織物の素材を構成する繊維は、有機系材料、無機系材料および金属系材料の何れか又はこれらの混合物から成るものである。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1の態様である吸音体において、膜状吸音層は、散点状の穴が設けられたフィルムで形成されているものである。
【0013】
本発明の第5の態様は、第4の態様である吸音体において、フィルムのベースは、有機系材料、無機系材料および金属系材料の何れか又はこれらの積層物から成るものである。
【0014】
本発明の第6の態様は、第1の態様乃至第5の態様の何れかの態様である吸音体において、膜状吸音層の面密度は、多孔質体層の低周波カットオフ周波数をf、多孔質体層の厚さをdとしたときに、m≧f×(4π×d)/(1.4×10)の条件を満足するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の態様乃至第7の態様の吸音体によれば、多孔質体層の表面(音源側)に、適度に通気性を有する膜状吸音層を設けることにより、厚みを殆ど変えることなく多孔質型吸音機構における低周波性能を改善することができる。従って、本発明の吸音体によれば、従来の多孔質体層と同等の厚さを有し、低周波領域から高周波領域に至る広帯域の周波数の騒音を効果的に吸収することができるから、省スペース化を図る鉄道車両、自動車若しくは電気機器等の騒音対策用として好適な吸音体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の吸音体の好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明における吸音体の断面図を示している。同図において、本発明の吸音体1は、多孔質材料から成る多孔質体層2と、多孔質体層2の表面(音源側)に積層された通気性を有する膜状吸音層3とを備えている。ここで、膜状吸音層3の背面側に多孔質体層2を積層するのは、膜状吸音層3の部分が付加質量、すなわち錘の役割として作用し、多孔質体層2がバネ、すなわち空気バネの役割として作用し、膜振動による吸音を行わせるためである。
【0018】
多孔質体層2は、難燃性を有する材料で形成されている。具体的には、面密度が32kg/m(32K)のグラスウール、ロックウールの何れかまたはこれらの混合物から成るもので形成されている。多孔質体層2は、厚さが1〜50mmのもので形成することが好ましい。ここで、厚さを1〜50mmとしたのは、厚さが1mm未満では多孔質体層2の骨格部分の振動による吸音効果が低下し、厚さが50mmを超えると板材としての振動が減少し、吸音効果が低下するからである。なお、吸音体としての強度とスペースファクターとを考慮すると、厚さが10〜25mmのものが好適する。
【0019】
このような構成の多孔質体層2においては、低周波数領域から高周波数領域までの広範囲に亘って吸音特性が優れており、また固体伝搬音や振動の低減にも効果的な制振性を発揮する。
【0020】
膜状吸音層3は、適度に通気性を有するもので形成されている。また、膜状吸音層3は、厚さが3〜10mmのもので形成することが好ましい。
【0021】
膜状吸音層3は、第1に、不織布、フェルトおよび織物の何れか又はこれらの混合物から成るもので形成することができ、不織布、フェルトおよび織物の素材を構成する繊維は、有機系材料、無機系材料および金属系材料の何れか又はこれらの混合物から成るもので形成することができる。この場合、繊維の平均的な間隔は、20〜120μmの範囲内にあることが好ましい。
【0022】
ここで、膜状吸音層の厚さ(3〜10mm)と繊維の平均間隔(20〜120μm)との関係について説明すると、吸音効果は空気の通気量に依存するため、繊維間隔が一定であれば膜状吸音層の厚さが厚い程吸音効果が大きくなり、膜状吸音層の厚さが一定であれば繊維間隔が小さい程吸音効果が大きくなるという関係にある。
【0023】
第2に、膜状吸音層3は、散点状の穴が設けられたフィルム(穴あきフィルム)で形成することができ、当該フィルムのベースは、有機系材料、無機系材料および金属系材料の何れか又はこれらの積層物から成るもので形成することができる。
【0024】
なお、膜状吸音層3は、製品形態の自由度を向上させ、現場における施工を簡単にするため、接着剤の塗布等により、多孔質体層2と一体化することが好ましい。
【0025】
ここで、通気性を有する膜状吸音層3に必要な要件について説明する。
【0026】
先ず、多孔質体層2の表面に通気性が全く無い膜が設けられた場合は、その吸音性能は一般的な膜状吸音機構におけるものと同様となり、高周波性能が大きく損なわれる。しかし、多孔質体層2の表面に通気性が高い膜、すなわち粘性抵抗が低い膜が設けられた場合は、吸音性能は多孔質体層単体と殆ど変わらなくなる。従って、「適度に通気性を有する膜状吸音層に必要な要件としては、「面密度」と「通気量」の2つが考えられる。
【0027】
しかして、膜状吸音層3の面密度は、背面(音源側と反対の面)に配置される多孔質体層2単体の吸音性能から推定することができる。具体的には、厚さがdの多孔質体層2が単体で示す吸音性能の低周波端カットオフ周波数をfとしたとき、膜状吸音層3の面密度mは、式1を満足する必要がある。
【0028】
m≧f×(4π×d)/(1.4×10)・・・(1)
なお、(1)式は、膜状吸音機構の共鳴周波数の式から導出することができる。
【0029】
ここで、膜状吸音層3の通気量の実測は困難であることから、通気量と相関の高い値として、膜状吸音層3の開口部径をパラメータとして用いている。なお、膜状吸音層3としては、平均的な繊維間隔が20〜120μmの範囲内にある不織布を使用することが好ましい。
【0030】
図2は、本発明の実施例における吸音体の吸音特性を比較例と共に示した説明図である。同図において、横軸は周波数[Hz]、縦軸は残響室法吸音率[―]、L1は、厚さが25mmで面密度が32kg/mのグラスウールから成る従来の吸音体(以下「比較例1という。)、L2は、厚さが25mmで面密度が64kg/mのグラスウールから成る従来の吸音体(以下「比較例2」という。)、L3は、厚さが25mmで面密度が32kg/mのグラスウール(比較例1のグラスウール「多孔質体層2」)の音源側に厚さが3mmで面密度が342g/mの無機フェルト(膜状吸音層3)を積層して成る本発明の吸音体(以下「実施例1」という。)、L4は、厚さが25mmで面密度が32kg/mのグラスウール(比較例1のグラスウール「多孔質体層2」)の音源側に厚さが5mmで面密度が570g/mの無機フェルト(膜状吸音層3)を積層して成る本発明の吸音体(以下「実施例2」という。)におけるそれぞれの吸音特性を示している。
【0031】
同図より、膜状吸音層3の背後に配置される多孔質体層2単体(比較例1)でのカットオフ周波数fは、L1で示すように、およそ1000Hzであることから、前述の式1から、膜状吸音層3の面密度としては282g/m以上の重量があるものを使用することが好ましい。この結果、実施例1、2においては、L3、L4で示すように、共に全ての周波数帯域において比較例1、2(L1、L2)よりも吸音性能が改善しており、特に500Hzにおける比較例1(L1)と実施例2(L4)とを対比すると、0.3程度の吸音率が改善していることが判る。
【0032】
図3は、グラスウールの厚さを図2に示すものより厚くした場合における吸音体の吸音特性を比較例と共に示した説明図である。同図において、横軸は周波数[Hz]、縦軸は残響室法吸音率[―]、L5は、厚さが50mmで面密度が32kg/mのグラスウールから成る従来の吸音体(以下「比較例3」という。)、L6は、厚さが50mmで面密度が32kg/mのグラスウール(比較例3のグラスウール「多孔質体層2」)の音源側に厚さが3mmで面密度が342g/mの無機フェルト(膜状吸音層3)を積層して成る本発明の吸音体(以下「実施例3」という。)、L7は、厚さが50mmで面密度が32kg/mのグラスウール(比較例3のグラスウール「多孔質体層2」)の音源側に厚さが5mmで面密度が570g/mの無機フェルト(膜状吸音層3)を積層して成る本発明の吸音体(以下「実施例4」という。)におけるそれぞれの吸音特性を示している。
【0033】
同図より、膜状吸音層3の背後に配置される多孔質体層2単体(比較例3)でのカットオフ周波数fは、L5で示すように、およそ630Hzであることから、前述の式1から、膜状吸音層3の面密度としては178g/m以上の重量があるものを使用することが好ましい。この結果、実施例3、4においては、L6、L7で示すように、共に全ての周波数帯域において比較例3(L5)よりも吸音性能が改善しており、特に315Hzにおける比較例3(L5)と実施例4(L7)とを対比すると、0.2程度の吸音率が改善していることが判る。
【0034】
なお、実施例1〜4で用いた膜状吸音層3としての無機フェルトの平均繊維間隔は、フェルト密度と繊維直径の測定結果から換算したところ、20〜120μmの範囲内にあった。
【0035】
以上のように、本発明の吸音体によれば、多孔質体層の表面(音源側)に、適度に通気性を有する膜状吸音層を設けることにより、厚みを殆ど変えることなく多孔質型吸音機構における低周波性能を改善することができ、ひいては、省スペース化を図る鉄道車両、自動車若しくは電気機器等の騒音対策用として好適な吸音体を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
前述の実施例においては、図面に示した特定の実施の形態をもって本発明を説明しているが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、次のように構成してもよい。
【0037】
第1に、前述の実施例においては、膜状吸音層として無機フェルトを使用した場合について述べているが、これに代えて、粗毛フェルト、植物繊維系フェルト、動物繊維系フェルト、合成繊維系フェルトの何れかまたはこれらの混合物から成るものを使用してもよい。
【0038】
第2に、前述の実施例においては、多孔質体層としてグラスウールを使用した場合について述べているが、これに代えてロックウールなどの無機系繊維凝集体、セルロースファイバ、粗毛フェルト、獣毛フェルト、PET繊維フェルト、ポリエチレンフェルトなどの有機系繊維凝集体、金属系繊維凝集体の何れか、またはこれらの混合物から成るものを使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例における吸音体の断面図。
【図2】本発明の実施例における吸音体の吸音特性を示す説明図。
【図3】本発明の実施例における吸音体の吸音特性を示す説明図。
【符号の説明】
【0040】
1・・・吸音体
2・・・多孔質体層
3・・・膜状吸音層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体層と、前記多孔質体層の表面に積層された通気性を有する膜状吸音層とを備えることを特徴とする吸音体。
【請求項2】
前記膜状吸音層は、不織布、フェルトおよび織物の何れか又はこれらの混合物から成ることを特徴とする請求項1記載の吸音体。
【請求項3】
前記不織布、前記フェルトおよび前記織物の素材を構成する繊維は、有機系材料、無機系材料および金属系材料の何れか又はこれらの混合物から成ることを特徴とする請求項2記載の吸音体。
【請求項4】
前記膜状吸音層は、散点状の穴が設けられたフィルムで形成されていることを特徴とする請求項1記載の吸音体。
【請求項5】
前記フィルムのベースは、有機系材料、無機系材料および金属系材料の何れか又はこれらの積層物から成ることを特徴とする請求項4記載の吸音体。
【請求項6】
前記膜状吸音層の面密度は、前記多孔質体層の低周波カットオフ周波数をf、前記多孔質体層の厚さをdとしたときに、
m≧f×(4π×d)/(1.4×10
の条件を満足することを特徴とする請求項1乃至請求項5何れか1項記載の吸音体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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