説明

吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物及びそれを用いてなる吹付け工法

【課題】吹付け直後の吹付けセメントモルタルの剥落やダレを防止でき、吹き厚を厚くすることができ、リバウンド量を大幅に低減し、付着性が増し、かつ、耐硫酸性に優れる吹付け用耐硫酸セメント組成物及び吹付け工法を提供すること。
【解決手段】A材とB剤から構成され、A材がカルシウムアルミネートを含有し、B剤がアクリル酸エステル共重合体エマルジョンを含有してなる吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物であり、さらに、A材が高炉水砕スラグ及び/またはシリカフュームを含有する前記吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物であり、カルシウムアルミネートがアルミナセメントである前記吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物である。さらに、A材がポリマーを含有することが好ましい。前記吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物を用いた吹付け工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、下水道や温泉地帯などにおける、硫酸によるコンクリート構造物の劣化箇所の修復をするための耐硫酸性に優れたセメント組成物およびそれを用いた吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や温泉地帯などでは、微生物や火山ガスの影響で硫化水素が発生し、これに水が介在すると硫酸となる。このような箇所では、硫酸や硫酸塩によるコンクリート構造物の腐食が問題となっている。コンクリートなどのセメント硬化体は、硫酸のような酸に接触すると、硬化体中に存在する水酸化カルシウムとの反応によってニ水石膏が生じ、さらにはエトリンガイトが生成し劣化が起きる。
このような劣化箇所の補修方法としては、劣化部をウォータージェットにより除去し断面修復してから樹脂ライニングを行う方法が多く実施されている。これに用いる断面修復材としては、高炉水砕スラグにポリマーを配合した材料(特許文献1)、アルミナセメントからなる材料(特許文献2、3)、フライアッシュ、高炉水砕スラグやシリカフュームなどの微粉末を多量に混和したセメントモルタルが使用されている(特許文献4)。また、アルミナセメントと高炉スラグ微粉末を用いた材料で、5μm以下のアルミナセメント粒子を25重量%以下とし、リチウム塩を含有する材料(特許文献5)、置換基としてスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物を含有する材料(特許文献6)などが提案されている。
【0003】
その施工法としては、コテで塗付けて仕上げを行うことが多いが、この仕上げ方法は熟練が必要なうえ、厚塗りが困難で、多大な労力がかかるという課題があった。
【0004】
そのため、モルタルをポンプで圧送して吹付ける方法が提案されている(特許文献7、8、9)。
【0005】
剥落やダレを防止するために、何層にも分けて吹付けする必要があり、何層にも分けて吹付ける場合、1層目の吹付け後、2層目の吹付けを行うには、一層目のモルタルが凝結した後(通常モルタルが締まると言う)に行うため、施工に時間がかかり、作業性が非常に悪いという課題もあった。
【0006】
近年、コンクリートの早期劣化が問題となっており、補修用の吹付けモルタルに対して、既設コンクリートとの付着性や凍結融解抵抗性といった耐久性の向上が要求されている。
大断面の吹付けモルタルを行う場合は、吹付けモルタルの性状・性能を一定にすることは難しく、一部既設コンクリート構造物との付着性、強度発現性、及び凍結融解抵抗性が劣るという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03−290348号公報
【特許文献2】特開2003−89565号公報
【特許文献3】特開2004−292245号公報
【特許文献4】特開2000−128618号公報
【特許文献5】特開2002−293603号公報
【特許文献6】特開2003−292362号公報
【特許文献7】特開平09−012379号公報
【特許文献8】特開平09−296453号公報
【特許文献9】特開平10−216628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の吹付け用セメント組成物を使用することにより、上記課題が解決できるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、(1)A材とB剤から構成され、A材がカルシウムアルミネートを含有し、B剤がアクリル酸エステル共重合体エマルジョンを含有してなる吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物、(2)さらに、A材が高炉水砕スラグ及び/またはシリカフュームを含有する(1)の吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物、(3)カルシウムアルミネートがアルミナセメントである(1)又は(2)の吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物、(4)さらに、A材がポリマーを含有してなる(1)〜(3)のいずれかの吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物、(5)(1)〜(4)の吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物と、細骨材とを含有する吹付け工法用のセメントモルタル組成物において、細骨材がA材に混合されている吹付け工法用のモルタル組成物、(6)(1)〜(4)のA材と骨材と水を混錬して調製したセメントモルタルをポンプで圧送し、圧搾空気とを混合して吹付けるにあたり、吹付けノズルの先端から10m以内でB剤を添加混合する吹付け工法、(7)(1)〜(4)のA材と骨材と水を混錬して調製したセメントモルタルの静置フロー値が150mm以上である(6)の吹付け工法、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吹付け用耐硫酸セメント組成物や吹付け工法により、吹付け直後の吹付けセメントモルタルの剥落やダレを防止でき、吹き厚を厚くすることができ、リバウンド量を大幅に低減し、付着性が増し、かつ、耐硫酸性に優れるという顕著な効果を奏するものである。また、一次吹付け後の二次吹付けの間隔を短くすることが可能となるだけでなく、ポンプ圧送性に優れるため圧送距離を長く、圧送量を多くすることも可能である。さらに、作業性の良好なコンクリートの表面仕上げや断面修復吹付け施工ができ、強度発現性が良好なため、作業時間が短縮し、作業者の負担も減るという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用する部や%は、特に規定のない限り質量基準である。
また、本発明で云うセメントモルタルとは、モルタルやコンクリートを総称するもので、カルシウムアルミネートと骨材と水を含有するものである。
【0012】
本発明で云うA材は、カルシウムアルミネートを含有するものである。
本発明のカルシウムアルミネートは、CaOとAlを主成分とする化合物を総称するものであり、特に限定されるものではない。その具体例としては、CaO・2Al、CaO・Al、12CaO・7Al、11CaO・7Al・CaF、3CaO・Al、3CaO・3Al・CaSOなどと表される結晶性のカルシウムアルミネート類や、CaOとAl成分を主成分とする非晶質の化合物が挙げられる。これらの中で、CaO/Alモル比が1〜2にあるものを選定することが、可使時間や耐酸性の観点から好ましい。中でもアルミナセメントであることが好ましい。なお、普通ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント類は本願発明のカルシウムアルミネートに含まれない。
【0013】
カルシウムアルミネートを得る方法としては、CaO原料とAl原料をロータリーキルンや電気炉などによって熱処理して得る方法が挙げられる。
カルシウムアルミネートを製造する際のCaO原料としては、例えば、石灰石や貝殻などの炭酸カルシウム、消石灰などの水酸化カルシウム、あるいは生石灰などの酸化カルシウムを挙げることができる。また、Al原料としては、例えば、ボーキサイトやアルミ残灰と呼ばれる産業副産物のほか、アルミ粉などが挙げられる。
【0014】
カルシウムアルミネートを工業的に得る場合、不純物が含まれることがある。その具体例としては、例えば、SiO、Fe、MgO、TiO、MnO、NaO、KO、LiO、S、P、及びFなどが挙げられる。
これらの不純物の存在は本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。具体的には、これらの不純物の合計が10%以下の範囲では特に問題とはならない。
【0015】
また、不純物化合物としては、4CaO・Al・Fe、6CaO・2Al・Fe、6CaO・Al・2Feなどのカルシウムアルミノフェライト、2CaO・FeやCaO・Feなどのカルシウムフェライト、ゲーレナイト2CaO・Al・SiO、アノーサイトCaO・Al・2SiOなどのカルシウムアルミノシリケート、メルビナイト3CaO・MgO・2SiO、アケルマナイト2CaO・MgO・2SiO、モンチセライトCaO・MgO・SiOなどのカルシウムマグネシウムシリケート、トライカルシウムシリケート3CaO・SiO、ダイカルシウムシリケート2CaO・SiO、ランキナイト3CaO・2SiO、ワラストナイトCaO・SiOなどのカルシウムシリケート、カルシウムチタネートCaO・TiO、遊離石灰、リューサイト(KO、NaO)・Al・SiOなどを含む場合がある。本発明ではこれらの結晶質または非晶質が混在していても良い。
【0016】
本発明のカルシウムアルミネートの粒度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で3000〜9000cm/gの範囲にあり、4000〜8000cm/g程度のものがより好ましい。3000cm/g未満では強度発現性が充分でない場合があり、9000cm/gを超えるようなものは取り扱いが困難な場合がある。
【0017】
本発明で使用する骨材としては、通常の粗骨材や細骨材を使用できるが、既設コンクリートの補修用に使用でき、かつ、既設コンクリートへ吹付けた際にリバウンドしにくい面で、細骨材率が70〜100%の骨材が好ましく、細骨材率が100%の骨材がより好ましい。密度が2.5g/cm以上の骨材が安定性が高く好ましい。
細骨材としては、川砂、山砂、石灰砂、及び珪砂などが使用可能であり、粗骨材としては、川砂利、山砂利、及び石灰砂利などが使用可能である。特に耐硫酸性の面から珪砂を使用するのが好ましい。骨材の最大骨材寸法は10mm下が好ましい。
【0018】
本発明で使用するセメントモルタルの配合割合としては、C(セメント)/S(骨材)=1/1〜1/4が好ましく、1/1.5〜1/3がより好ましい。1/1未満では吹付けたセメントモルタルにクラックが入りやすくなる場合があり、1/4を超えると単位セメント量が少なくなり、W/C(水セメント比)が上がり、短期強度や長期強度が低下するばかりか、ポンプ圧送性が悪くなり、吹付けにくくなる場合がある。骨材は、本発明のカルシウムアルミネートを含有するA材に混合されていることが好ましい。
【0019】
本発明で使用するアクリル酸エステル共重合体エマルジョンとは、セメントモルタルとの混合により、瞬時に凝結を起こし、吹付け時のセメントモルタルの剥落やダレを防止するため使用するものである。本発明の云うB剤は、アクリル酸エステル共重合体エマルジョンを含有するものである。
【0020】
アクリル酸エステル共重合体エマルジョン(以下エマルジョンと言う)は、不飽和カルボン酸と、不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和化合物とを、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、又は塊状重合などの方法を用いて共重合することにより得られるポリマーエマルジョンである。
【0021】
不飽和カルボン酸類としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸や無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物、並びに、マレイン酸モノエチルなどの不飽和カルボン酸半エステルなどが挙げられる。これらの中では、凝結性状が大きい面で、不飽和カルボン酸が好ましく、アクリル酸及び/又はメタクリル酸がより好ましい。
【0022】
不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和化合物としては、エチレン、アクリルニトリルなどのシアノビニルモノマー、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートなどのアクリル酸エステルモノマー、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルモノマーや脂肪族カルボン酸ビニルエステル、ビニルエーテルモノマー、などの多官能性ビニルモノマーなどが挙げられる。これらの中では、より優れた効果を示す点で、アクリル酸エステルモノマー及び/又はメタクリル酸エステルモノマーが好ましい。
【0023】
エマルジョン中、不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合比(質量比)は、不飽和カルボン酸類:エチレン性不飽和化合物が20:1〜1:20が好ましく、5:1〜1:5がより好ましい。この範囲外では凝結効果が悪くなる場合がある。
【0024】
エマルジョンの使用量は、通常、セメント(カルシウムアルミネート)100部に対して、固形分概算で0.01〜2部が好ましく、0.1〜1部がより好ましい。0.01部未満では吹付けセメントモルタルの吹付け時の凝結が弱く、付着力が低下したり、リバウンド低減、吹付け後のセメントモルタルの凝結促進の効果が期待できない場合があり、2部を超えるとその効果の向上が期待できないばかりか、短・長期強度が悪くなる場合がある。
【0025】
エマルジョンの混合方法は、吹付けのための圧送空気にエマルジョンを圧入混合し、Y字管又はシャワーリングへ圧送、ポンプにより送られたセメントモルタルと混合する方法が好ましい。
【0026】
本発明の高炉水砕スラグは、カルシウムアルミネートのコンバージョンによる強度低下を防止する効果や耐酸性を担う。高炉水砕スラグの粉末度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で3000〜9000cm/g程度の範囲にある。
【0027】
本発明では、高炉水砕スラグなどの潜在水硬性物質のほかに、シリカフュームなどのポゾランを使用できる。
ポゾランは、カルシウムアルミネートのコンバージョンによる強度低下を防止する効果や耐酸性を向上させる効果を助長する役割を担う。ポゾランは、特に限定されるものではなく、フライアッシュ、シリカフューム、パルプスラッジ焼却灰、下水汚泥焼却灰、廃ガラス粉末などが挙げられる。中でも、フライアッシュやシリカフュームの使用が好ましい。
これらの粉末度は、特に限定されるものではないが、通常、シリカフュームは、BET比表面積で2〜20万m/g程度の範囲にあり、フライアッシュは、ブレーン比表面積で3000〜9000cm/g程度の範囲にある。
【0028】
本発明で使用するポリマーとは、既設コンクリートと、吹付けセメントモルタルとの吹付け時の付着性の向上、リバウンド量の低減、及び吹付けセメントモルタルの耐久性の向上を目的として使用され、ポリマーとしては、水性ポリマーディスバージョン、再乳化形粉末樹脂、水溶性ポリマー、及び液状ポリマーなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。
水性ポリマーディスバージョンとしては、天然ゴムラテックスや、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びクロロプレンゴム(CR)などの合成ゴムラテックス、並びに、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、及びポリアクリル酸エステル(PAE)などの樹脂エマルジョンなどが挙げられる。
【0029】
ポリマーの形態としては、再乳化型粉末タイプや液体タイプなどがあり、吹付けセメントモルタルのリバウンド量の低減、既設コンクリートとの付着性の向上、及び耐久性向上のため使用される。
ポリマーの使用量は、セメント(カルシウムアルミネート)100部に対して、固形分換算で15部以下が好ましく、3〜10部がより好ましい。15部を超えると、既設コンクリートと、吹付けセメントモルタルとの吹付け時の付着性の向上、リバウンド量の低減、及び吹付けセメントモルタルの耐久性の向上などの効果の向上が期待できないばかりか経済的でなくなる場合がある。
【0030】
ポリマーの混合方法は、特に限定されるものではないが、粉体の場合、あらかじめA材と混合して、若しくは混練り時に他の材料と同時に投入するか、水に懸濁して、若しくは溶解して投入することなどが挙げられ、液体の場合は、混練り時に他の材料と同時投入するか、あらかじめ水と混合して投入する方法などがある。A材と混合して使用するのが好ましい。
【0031】
本発明では、吹付けセメントモルタルの凍結融解性等の耐久性の向上、曲げ靭性の向上、及び亀裂防止等の性状を改善する目的で、セメント減水剤やAE剤等の各種混和剤や繊維を併用することが可能である。
【0032】
本発明で使用する水の量は、水と、セメントとの割合である水セメント比(W/C)で30〜60%が好ましい。30%未満ではセメントモルタルの粘性が高くなり、流動性が悪く、ポンプ圧送性に支障をきたす場合があり、60%を超えると強度発現性が低下する場合がある。
【0033】
本発明では、練り混ぜたモルタルの静置フローは150〜300mmが好ましく、200〜250mmがより好ましい。150mm以下ではモルタルの圧送性が悪く、300mm以上では材料分離する場合がある。
【0034】
本発明において、A材と骨材を含むセメントモルタルとエマルジョン(B剤)の混合方法としては、特に限定されるものではないが、B剤のエマルジョンをセメントモルタルと強制的に混合させる添加機、例えば、ダイヤフラムポンプ、スクイズポンプ、ピストンポンプ、及びスネークポンプなどの、エマルジョンを圧送するポンプにより、10Mpa以下の圧力で圧送し、吹付ノズル先端から手前の位置、好ましくは吹付ノズル先端から10m以内、より好ましくは5m手前の位置で、セメントモルタルと混合して吹付けセメントモルタルを調製し、この吹付けセメントモルタルを補修吹付け材料として、補修個所に吹付ける方法が挙げられる。セメントモルタルとエマルジョンを混合する位置が、吹付ノズル先端から10mを超えると圧送管内での圧送性が低下する場合がある。
【0035】
なお、エマルジョンは、ポンプにより送り、途中で圧搾空気と混合し、ホースを経由してY字管又はシャワーリングへ圧送し、Y字管又はシャワーリングから吐出してセメントモルタルと混合し、吹付けセメントモルタルとしてコンクリートの表面仕上げや断面修復に吹付けられるものが最も好ましい方法である。
【0036】
なお、圧搾空気は、1Mpa以下、好ましくは0.4〜0.7Mpaの圧力、エアー量としては0.2〜1m/minで、ホースを経由してY字管又はシャワーリングへ圧送され、Y字管又はシャワーリングから吐出してセメントモルタルと混合し、吹付けセメントモルタルとしてコンクリートの表面仕上げや断面修復に吹付けられるものである。
【0037】
本発明の吹付け用耐硫酸セメント組成物は、下水道や温泉地帯などにおける、硫酸によるコンクリート構造物の劣化箇所の断面修復材として好ましく使用でき、これを使用した吹付け工法では、一回での吹付け厚さは、天井部で約10〜30mm程度、側壁部で10〜50mm程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実験例に基づき詳細に説明する。
【0039】
「実験例1」
アルミナセメント50部、細骨材200部、高炉水砕スラグ50部、ポリマー(A)4部(固形分換算)(アルミナセメント100部に対して8部とする)、減水剤0.03部、W/C=50%からなるセメントモルタル(A材)を、容量50リットルの岡三機工製商品名「ダマカットミキサ」で混練りして調製した。調製したセメントモルタルをスクイズポンプで圧送し、先端10mmφの吹付けノズルの先端から15cm手前で吹付けノズルシャワーリングからアルミナセメント100部に対して表1に示す量のエマルジョン(B剤)を強制的に圧搾空気中に投入した。圧搾空気の圧力は0.7Mpaとし、エアー量としては0.4m/minとした。この吹付け工法用のセメントモルタルを1.0m/hの吐出量でコンクリート壁に吹付けた。比較として、エマルジョンの代わりに硫酸アルミニウムや珪酸リチウムを使用した実験を行った。
なお、セメントモルタルを搬送する圧送ホースは1.5インチφの耐圧ホースを使用し、圧搾空気を送るエアーホースは0.5インチφのホースを使用した。
吹付けたセメントモルタルの圧縮強度、吹付けセメントモルタルのリバウンド率、付着性、耐硫酸性を測定した。また、比較例として、アルミナセメントの代わりに普通ポルトランドセメントを使用して行った。結果を表1に併記する。
【0040】
<使用材料>
セメント(1):アルミナセメント、ブレーン比表面積4000cm/g、市販品
セメント(2):普通ポルトランドセメント、ブレーン比表面積3200cm/g、市販品
細骨材:新潟県糸魚川市青海産石灰砂、最大骨材寸法2.5mm以下
高炉水砕スラグ:ブレーン比表面積4000cm/g、市販品
ポリマー(A):スチレンブタジエンゴム(SBR)、市販品
エマルジョン:エチルアクリレート/メタクリル酸を共重合したポリマーエマルジョン(質量比1/1)、固形分30%
硫酸アルミニウム:市販品、固形分27%
珪酸リチウム:市販品、SiO/LiO(モル比4.5/1)、固形分20%
減水剤:ポリカルボン酸、市販品
【0041】
<測定方法>
圧縮強度:モルタルを型枠に詰めて4cm×4cm×16cmの成形体を作製し、材齢3日・28日の圧縮強度をJIS R 5201に準じて測定した。
リバウンド率:上面コンクリートに吹付けた吹付けセメントモルタルの質量と、リバウンドして落下した吹付けセメントモルタルの質量とを測定し、落下した吹付けセメントモルタル量(kg)/吹付けた吹付けセメントモルタル量(kg)×100(%)とした。
付着性:上面コンクリートにおおよそ10cmの円形状に吹付けセメントモルタルを吹付け、剥落するまでの吹付け厚さを測定。
耐硫酸性:モルタルを型枠に詰めてφ7.5cm×15cmの成形体を作製し、材齢1日から材齢28日まで水中養生した後、5%濃度の硫酸溶液に28日間浸漬する。浸漬後の質量(g)/浸漬前の質量(g)×100(%)とした。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より、本発明により、吹付けた吹付けセメントモルタルの圧縮強度は高く、リバウンド率は低く、付着性が高いことが判る。さらに、耐硫酸性に優れていることが分かる。
【0044】
「実験例2」
アルミナセメント50部と高炉水砕スラグ50部を配合した結合材に対してエマルジョンを0.5部とし、ポリマーの種類と添加率を表2に示すように変化させたこと以外は実験例1と同様に吹付けし、圧縮強度、リバウンド率、付着性、付着強を測定した。結果を表2に併記する。
【0045】
<使用材料>
ポリマー(B):エチレン酢酸ビニル共重合体、市販品
ポリマー(C):ポリアクリル酸エステル、市販品
【0046】
<測定方法>
付着強度:JIS A 1171に準じて測定した。
【0047】
【表2】

【0048】
表2より、本発明により、吹付けたセメントモルタルの圧縮強度は高く、リバウンド率は低く、付着性が高く、付着強度も高いことが判る。
【0049】
「実験例3」
水セメント比を表3に示すように変化させたこと以外は実験例1の実験No.1-6と同様に吹付けし、静置モルタルフローと圧送性を測定した。
【0050】
<測定方法>
静置モルタルフロー:フローコーンに練り混ぜたモルタルを詰め、フローコーンを抜いた30秒後に広がったモルタルの直径を測定する。
圧送性:練り混ぜたモルタルをスクイズポンプで100m圧送し、スクイズポンプの出口の圧力を圧力計にて測定した。
【0051】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の吹付け工法用セメント組成物及び吹付け工法を使用することにより、吹付け直後の吹付けモルタルの剥落やダレを防止することが可能となり、吹付けセメントモルタルの吹き厚を厚くすることが可能となるばかりか、吹付けエアーを抑えることによりでリバウンド量を大幅に低減でき、強度発現性が良好で、かつ、耐硫酸性に優れるため、橋の下面や橋脚、道路、鉄道、及び導水路等のトンネル、建築物、並びに、海洋・港湾構造物の補修や予防保全等のコンクリート構造物の補修に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A材とB剤から構成され、A材がカルシウムアルミネートを含有し、B剤がアクリル酸エステル共重合体エマルジョンを含有してなる吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物。
【請求項2】
さらに、A材が高炉水砕スラグ及び/またはシリカフュームを含有することを特徴とする請求項1記載の吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物。
【請求項3】
カルシウムアルミネートがアルミナセメントである請求項1又は2記載の吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物。
【請求項4】
さらに、A材がポリマーを含有してなる請求項1〜3のいずれか1項記載の吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の吹付け工法用の耐硫酸セメント組成物と、細骨材とを含有する吹付け工法用のセメントモルタル組成物において、細骨材がA材に混合されていることを特徴とする吹付け工法用のモルタル組成物。
【請求項6】
請求項1〜4に記載のA材と骨材と水を混錬して調製したセメントモルタルをポンプで圧送し、圧搾空気とを混合して吹付けるにあたり、吹付けノズルの先端から10m以内でB剤を添加混合することを特徴とする吹付け工法。
【請求項7】
請求項1〜4に記載のA材と骨材と水を混錬して調製したセメントモルタルの静置フロー値が150mm以上であることを特徴とする請求項6に記載の吹付け工法。

【公開番号】特開2011−1243(P2011−1243A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147342(P2009−147342)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】