説明

呈味の改良された飲食品およびその製造法

【課題】効果的で官能上も好ましい食品由来の食塩代替物質や塩味増強物質を提供する。
【解決手段】炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含む呈味の改良された飲食品およびその製造法、呈味改良方法、呈味改良剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含む呈味の改良された飲食品およびその製造法、呈味改良方法、呈味改良剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩は、食品を調味する基本調味料として広く用いられているが、一方で食塩の過剰摂取が高血圧、及び心疾患などの循環器疾患に対して悪影響を与えることが知られている。これらの背景から、食塩以外の物質で塩味を補完または増強しおいしさを維持する方法が望まれている。
一般に食塩以外の物質を用いて塩味を補完または増強する方法としては、食塩代替物質と塩味増強物質を使用する方法がある。食塩代替物質は、それ自身が塩味もしくは塩味に類似した味質を有している物質である。塩味増強物質は、それ自身は塩味を呈しないが食塩と共存させることによりその塩味を増強させる物質である。
食塩代替機能を有する調味料としては塩化カリウムを主要成分としてリン酸塩類やアミノ酸、有機酸、核酸などを配合したものが存在し、その代替効果について報告されているが好ましくない苦味を伴うことなどが課題として指摘されている(非特許文献1)。
一方、塩味増強手段として醤油等の醸造発酵物の香気成分であるHEMF(4−ヒドロキシ−2(5)−エチル−5(2)−メチル−3(2H)−フラノン)とフルフリルアルコールの相互作用を利用した報告がなされている(特許文献1)。醤油等の醸造食品はその製法上大量の食塩を用いるため製品そのものが強い塩味を有しており、ヒトの摂食時にその香りが塩味と強く連携して応答されている可能性が示唆されている(非特許文献2)。食品中に含まれる香気成分を利用した塩味増強の利点は食経験のある物質をごく微量用いているという安全面での優位性と苦味などの好ましくない呈味の発生を伴わない官能面での優位性があげられる。
一方、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナールなどの短鎖から中鎖の直鎖アルデヒド類は不飽和脂肪酸等の脂質類の酸化反応生成物としてよく知られており、もっぱら食品のオフフレーバーとして認知され(非特許文献3)、フルーツ様の香付けやコーヒーの香料として利用されている。イソブチルアルデヒドやイソバレルアルデヒド、2-メチルブタナールは上述の直鎖アルデヒド類と構造が類似している分岐鎖アルデヒド類であり清酒や味噌・醤油などの醸造食品のフレーバー成分として報告されている(非特許文献4)。ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドも食品のオフフレーバーとして認知され、またタマネギに含まれるフレーバー成分として報告されている(非特許文献5)。しかし上述のフレーバー類について、塩味増強効果や食塩代替物質を用いた際に生じる苦味などの好ましくない呈味を軽減する効果に関する検討例は存在しない。また、塩化カリウムなどの塩味代替物質を用いる際には当該物質が有する好ましくない苦味が添加対象食品の食味を損なうことや食塩に比較して先味が弱くなることが課題となっているが(非特許文献6)、上述のフレーバー成分を用いて塩味代替物質の呈味を改善する検討例は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−272662号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】調理科学, 1983, Vol.16, No.3, 177-181
【非特許文献2】日本味と匂い学会誌, 2007, Vol.14, No.1, 3-8
【非特許文献3】Journal of Dairy Science, 1971, Vol.54, No.1, 1-4
【非特許文献4】Advances in Food Research, 1960. Vol.10, 75-125
【非特許文献5】Journal of Agriculture and Food Chemistry, 1971, Vol.19, No.5, 984-991
【非特許文献6】食品と開発、2009年、第44巻、11号、68〜70ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術の中で食塩代替効果や塩味増強効果が報告されている物質を飲食品に添加した場合には当該飲食品に対して好ましくない酸味や苦味などが付与されることがしばしば生じることや共存するその他の呈味成分および/または香気成分により塩味代替効果や塩味増強効果が減弱されるという問題がある。このため既に報告されている食塩代替物質や塩味増強物質に加えて、更に効果的で官能上も好ましい食品由来の食塩代替物質や塩味増強物質の拡充が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドに、塩味増強効果、塩化カリウム等の食塩代替物を用いた際に生じる好ましくない苦味を軽減できること、を見出し、本発明を完成した。本発明は以下の各発明を包含する。
(1)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品。
(2)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品。
(3)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品の呈味改良方法。
(4)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品の呈味改良方法。
(5)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品の塩味増強方法。
(6)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品の塩味増強方法。
(7)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする塩味増強剤。
(8)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする塩味増強剤。
(9)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする食塩代替物質由来の苦味の低減方法。
(10)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする食塩代替物質由来の苦味の低減方法。
(11)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする食塩代替物質由来の苦味低減用調味料。
(12)食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする食塩代替物質由来の苦味低減用調味料。
【0007】
尚、本発明はこれらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で置き換えたものを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、添加効果が高く、酸味や苦味などの余分な味を付与しない塩味増強剤およびその利用法、ならびに塩化カリウム等の食塩代替物質を用いた際に生じる好ましくない苦味の抑制をすることができる呈味改良剤とその利用法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ビジュアルアナログスケールの図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒドとは、イソブチルアルデヒド(CAS番号78−84−2)、1−メチルプロピオンアルデヒド(CAS番号78−93−3)、ブタナール(CAS番号123−72−8)、ペンタナール(CAS番号110−62−3)、イソバレルアルデヒド(CAS番号590−86−3)、2−メチルブタナール(CAS番号96−17−3)、ヘキサナール(CAS番号66−25−1)、2−エチルブタナール(CAS番号97−96−1)、2−メチルペンタナール(CAS番号123−15−9)、3,3−ジメチルブタナール(CAS番号2987−16−8)、2,3−ジメチルブタナール(CAS番号2109−98−0)、2,2−ジメチルブタナール(CAS番号2094−75−9)、ヘプタナール(CAS番号111−71−7)、2,2−ジメチルペンタナール(CAS番号14250−88−5)などの化合物をさし、ジメチルジスルフィドはCAS番号624−92−0、ジメチルトリスルフィドはCAS番号3658−80−8の化合物をいう。
【0011】
本発明において用いられる炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、例えばブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、2-メチルブタナール、およびジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドは飲食品に使用できるものであれば特に限定は無く、合成品、抽出品、発酵品やその処理品、各種素材の加熱反応等様々な履歴のものを用いることができる。
【0012】
本発明において、塩味が増強される飲食品の炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒドの濃度は0.1ppbから3.0ppm未満が好ましく、より好ましくは0.1ppb以上2.5ppm以下)である。具体的には、ブタナール濃度は0.1ppb以上700ppb以下、より好ましくは0.3ppb以上200ppb未満、ペンタナール濃度は0.1ppb以上200ppb未満、より好ましくは0.5ppb以上100ppb以下、ヘキサナール濃度は0.1ppb以上200ppb未満、より好ましくは0.3ppb以上70ppb以下、ヘプタナール濃度は0.1ppb以上200ppb未満、より好ましくは0.3ppb以上70ppb以下、イソブチルアルデヒド濃度は0.1ppb以上700ppb以下、より好ましくは0.3ppb以上200ppb未満、イソバレルアルデヒド濃度は0.1ppb以上3.0ppm未満、より好ましくは0.1ppb以上2.5ppm以下、2−メチルブタナール濃度は0.1ppb以上200ppb未満、より好ましくは0.5ppb以上100ppb以下、であり、ジメチルジスルフィド濃度は0.1ppb以上200ppb未満、より好ましくは0.8ppb以上180ppb以下、ジメチルトリスルフィド濃度は0.1ppb以上200ppb未満、より好ましくは0.8ppb以上180ppb以下が好ましい。直鎖および分岐鎖アルデヒドの濃度が、例えばブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、2−メチルブタナール、またはジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドが上記濃度範囲の最低濃度以下では効果が弱く、上記濃度範囲の最高濃度以上では各物質が有する香りが強くなり、飲食品の味、風味の官能上の好ましさを低下させるため好ましくない。
また塩味が増強される飲食品の食塩量は、0.2〜20重量%が好ましい。食塩の閾値は0.2重量%であり、0.2重量%未満では効果を感じにくいため、0.2重量%以上が好ましく、また通常の食品として食塩濃度は20%以下が好ましいためである。
さらに食塩代替物質として塩化カリウムなどを用いる場合の最終的に喫食する際の飲食品中の食塩代替物質量は30重量%以下が好ましい。これ以上の濃度では食塩代替物質の有する好ましくない呈味を抑制することは困難となる。特に食塩代替物質の中でも塩化カリウムは食塩代替物質として効果が高く安価であるが独特の苦味があるため、本発明の効果が顕著に現れるため好ましい。
【0013】
本発明が適用される飲食品に特に限定はないが、ナトリウム量を低減した飲食品に用いると減塩の点から好ましい。また飲食品は半製品でも良いが、最終的な喫食時の飲食品の食塩濃度と直鎖および分岐鎖アルデヒド、例えばブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、2−メチルブタナールの濃度、またジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドの濃度、また食塩代替物質を併用する場合には食塩代替物質の濃度が重要となる。
【0014】
本発明の呈味改良剤を使用する際は、調味料形態としての飲食品への添加や、粉末調味料、固形調味料、液体調味料の原料としての混合、加工食品への原料としての混合等、利用形態に特に制限はない。具体例としては、例えば、白飯、おにぎり、野菜、漬け物、天ぷら、ゆで卵、スナック、シリアル、炒め物や、調味料類(調味塩、風味調味料、味噌、醤油、つゆ、たれ、ソース、ドレッシング、マヨネーズ等)、スープ類(カップスープ、即席めんのスープ等)、ルー等の加工食品、蒲鉾、ちくわ、さつま揚げ、ハム、ソーセージ等の水産・畜肉加工製品が挙げられる。
呈味改良剤として使用する際、当該呈味改良剤として含まれる炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、例えばブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、2−メチルブタナール、またはジメチルジスルフィドとジメチルトリスルフィドの濃度に特に限定はないが、効果の点から、炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒドは、0.1ppb以上、例えばブタナールは0.3ppb以上、ペンタナールは0.5ppb以上、ヘキサナールは0.3ppb以上、ヘプタナールは0.3ppb以上、イソブチルアルデヒドは0.3ppb以上、イソバレルアルデヒドは0.1ppb以上、2−メチルブタナールは0.5ppb以上であり、ジメチルジスルフィドは0.8ppb、ジメチルジスルフィドは0.8ppb以上が好ましく、上限値は賦形剤を使用することを考え99重量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明において用いられる呈味増強剤の飲食品への混合時期に関して特に限定はなく、食品の製造前の原料としてだけでなく、製造中、完成後、喫食直前、喫食中など、いつ混合しても、飲食品に塩味増強効果を付与したり、食塩代替物質を使用した際に感じられる苦味を抑制することができる。
【0016】
以下、本発明について実施例で更に説明するが、本発明の技術範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。また本実施例において官能評価は全て、食品業務に従事し、充分に訓練された専門パネルを用いて実施した。
【実施例】
【0017】
(実施例1 減塩風味調味料における本発明の塩味増強効果)
丸鶏から抽出されたエキスの乾燥粉末を主成分とするチキンエキス粉末9.1g、グルタミン酸ナトリウム(味の素株式会社製)0.9g、食塩5.5gを1Lのお湯に溶解し、チキンスープ(食塩濃度0.55%)を作成し、各種濃度の化合物を添加、混合し、専門パネラー3名にて塩味の強度について官能評価をいった。ここで作成したチキンスープは、通常の同チキンスープより食塩濃度を30%低下させており、JAS法の栄養表示基準の基準値として示されている、通常の同食品より食品100gあたり120mg以上のナトリウムを減少していることを満たすことから、減塩チキンスープに該当する(以下、減塩チキンスープと記載することがある)。
官能評価は、化合物未添加の減塩チキンスープサンプルの塩味強度を50点(ネガティブコントロール、N.C.と記載することがある)、食塩をさらに加え、食塩濃度をネガティブコントロールの1.25倍の0.69%(ポジティブコントロール、P.C.と記載することがある)に調整したチキンスープサンプルの塩味強度を100点として、2点間の距離を5cmはなした図1のようなビジュアルアナログスケールを紙面上に作成し、等価と思われる機能位置を記入し、記入位置のN.C.からの距離を算出することにより、評価サンプルに加点評価を行った。例えばN.C.から2cm右のサンプルであれば70点とした。評価は得られた評価点の平均値を用い、以下のような式で塩味増強率を算出した。
塩味増強率=(評価点−50)×0.5
ここで評価点が100点の時に、塩味増強率が25%となるようにするため、25=(100−50)×A の式を用いて、A=0.5を算出し、塩味増強率の式を導いた。
各化合物の添加濃度とその時の官能評価結果を表1に示す。評価の結果、塩味増強率が10%以上の評価サンプルには塩味増強効果があると判断した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1の結果から、炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒドであるブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、2−メチルブタナールとジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドの添加により塩味が10%から20%強く感じられることが判明した。一方で、炭素数3のプロパナール、炭素数7のオクタナールには、塩味増強効果は認められなかった。
また塩味増強機能が認められた濃度範囲は、イソブチルアルデヒドが0.3ppb以上120ppb以下、イソバレルアルデヒドが0.1ppb以上50ppb以下、ブタナールが0.3ppb以上120ppb以下、ペンタナールが0.5ppb以上50ppb以下、2-メチルブタナールが0.5ppb以上50ppb以下、ヘキサナールが0.3ppb以上50ppb以下、ヘプタナールが0.3以上50ppb以下、ジメチルジスルフィドが0.8ppb以上100ppb以下、ジメチルトリスルフィドが0.8ppb以上100ppb以下であった。全ての化合物において200ppbを超える添加濃度では各化合物の有する香りが感じられ、異風味として認識された。
なお、食塩を添加せずブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、2−メチルブタナールとジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドを上記の塩味増強機能を示す濃度範囲で添加しても、水溶液は塩味を呈さなかった。そのため、上記化合物は塩味代替機能ではなく、塩味増強機能を有することが判明した。
【0020】
(実施例2 減塩チーズソースにおける塩味増強効果)
チーズパスタソース(製品名「Cheesy RAGU double chedder」、ユニリーバ社製)と純水を7:3の割合で混合することで食塩濃度を30%低下させた減塩チーズソース(食塩濃度1.0%)を作成した。この減塩チーズソースに各種濃度の化合物を添加、混合し、専門パネラー3名にて塩味の強度について官能評価を行った。
官能評価は、化合物未添加の減塩チーズソースサンプルの塩味強度を50点(ネガティブコントロール、N.C.)、食塩をさらに加え食塩濃度をネガティブコントロールの1.25倍の0.69%(ポジティブコントロール、P.C.)に調整したチーズソースサンプルの塩味強度を100点として、実施例1と同様に2点間の距離を5cmはなした図1のビジュアルアナログスケールを紙面上に作成し、等価と思われる機能位置を記入し、記入位置のN.C.からの距離を算出することにより、評価サンプルに加点評価を行った。また塩味増強率も実施例1と同様の式で算出した。
各化合物の添加濃度とその時の官能評価結果を表2に示す。塩味増強率が10%以上の評価サンプルには塩味増強効果があると判断した。
【0021】
【表2】

【0022】
評価の結果、炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒドであるイソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、2-メチルブタナール、ヘキサナール、ヘプタナールとジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドの添加により塩味が10%から20%強く感じられることが判明した。一方で、炭素数3のプロパナール、炭素数7のオクタナールには、塩味増強効果は認められなかった。
また塩味増強機能が認められたのは、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、2-メチルブタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドの評価した全ての濃度で認められ、イソブチルアルデヒドが7ppb以上700ppb以下、イソバレルアルデヒドが25ppb以上2500ppb以下、ブタナールが7ppb以上700ppb以下、ペンタナールが1ppb以上100ppb以下、2-メチルブタナールが1ppb以上100ppb以下、ヘキサナールが0.7ppb以上70ppb以下、ヘプタナールが0.7以上70ppb、ジメチルジスルフィドが1.8ppb以上176ppb以下、ジメチルトリスルフィドが1.80ppb以上176ppb以下であった。
【0023】
(実施例3 食塩代替物利用系における呈味改良効果)
塩化カリウムが50%、食塩が50%からなる食塩代替物を、1%になるように水に溶解し、イソブチルアルデヒドを10ppb、イソバレルアルデヒドを10ppb、ブタナールを10ppb、ペンタナールを10ppb、2-メチルブタナールを10ppb、ヘキサナールを10ppb、ヘプタナールを10ppb、ジメチルジスルフィド10ppb、ジメチルトリスルフィドを10ppbになるように添加した。各化合物を添加したものをそれぞれ、呈味改良食塩代替物溶液(本発明品イソバレルアルデヒド)、呈味改良食塩代替物溶液(本発明品ブタナール)、呈味改良食塩代替物溶液(本発明品ペンタナール)、呈味改良食塩代替物溶液(本発明品2-メチルブタナール)、呈味改良食塩代替物溶液(本発明品ヘキサナール)、呈味改良食塩代替物溶液(本発明品ヘプタナール)、呈味改良食塩代替物溶液(本発明品ジメチルジスルフィド)、呈味改良食塩代替物溶液(本発明品ジメチルトリスルフィド)とした。
塩化カリウムが50%、食塩が50%からなる食塩代替物を、1%になるように水に溶解し、各化合物不添加の食塩代替物溶液(比較例品1)とした。
官能評価において、食塩代替物溶液(比較例品1)で感じられる、塩化カリウムに起因する苦味の強度を50点として、苦味を全く感じない場合の強度を0点として各化合物添加時の苦味の強度を得点化した。官能評価には、専門パネラー3名にて行った。各化合物の添加濃度とその時の官能評価結果を表3に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
評価の結果、炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒドであるイソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、2-メチルブタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、およびジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドの添加により苦味が軽減されることが判明した。
【0026】
本発明品は、味風味が強い飲食品にはより多く配合することができ、味風味が弱い飲食品では低濃度で効果が発現する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含む呈味の改良された飲食品およびその製造法、呈味改良方法、呈味改良剤等に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品。
【請求項2】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品。
【請求項3】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品の呈味改良方法。
【請求項4】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品の呈味改良方法。
【請求項5】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品の塩味増強方法。
【請求項6】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする飲食品の塩味増強方法。
【請求項7】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする塩味増強剤。
【請求項8】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする塩味増強剤。
【請求項9】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする食塩代替物質由来の苦味の低減方法。
【請求項10】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする食塩代替物質由来の苦味の低減方法。
【請求項11】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、0.1ppb以上3.0ppm未満である炭素数4から7を有する直鎖および分岐鎖アルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする食塩代替物質由来の苦味低減用調味料。
【請求項12】
食塩濃度が0.2重量%〜20重量%であり、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるペンタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘキサナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるヘプタナール、濃度が0.1ppb以上700ppb以下であるイソブチルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上3.0ppm未満であるイソバレルアルデヒド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満である2-メチルブタナール、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルジスルフィド、濃度が0.1ppb以上200ppb未満であるジメチルトリスルフィドの少なくとも1種以上を含有せしめることを特徴とする食塩代替物質由来の苦味低減用調味料。

【図1】
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【公開番号】特開2011−172508(P2011−172508A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38667(P2010−38667)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】