説明

周期構造の作成方法

【課題】レーザ照射部を走査させて広範囲に周期構造を作成しても走査境界部を目立つことのない周期構造の作成方法および淡い中間色を発色させることが可能な周期構造の作成方法を提供する。
【解決手段】被加工物2に対して、予め、レーザ走査経路の境界領域(レーザ走査境界部3)における結晶粒径を局所的に微細化し、この被加工物2に対して、レーザ走査境界部3が境界となるようにフェムト秒レーザ1を加工閾値近傍のフルエンスで走査させながら加工する。これにより、レーザ走査境界部3での周期および高さが前記境界部以外の領域に対して小さくなる一定範囲内に分布した周期構造5(5A、5B)を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な反射および回折を利用して発色する周期構造の作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、固体の表面に微細構造を形成することで、光学機能や濡れ性の制御など様々な機能を発生させる研究が進められている。その中で、固体からなる被加工物の表面に周期的な微細構造を形成することにより、光の反射および回折光の干渉を利用して被加工物の表面を特定の色で発色させることができる発色構造技術がある。本技術の適用例としては、外装部品の装飾用として、外装部品の表面に微細構造を形成して発色させることなどがある。
【0003】
本技術は、例えばV溝のような構造を波長程度の周期間隔で、被加工物の表面を加工することにより実現される。微細形状の加工方法としては、機械加工、電子線描画加工、レーザ加工等がある。機械加工は、加工形状の自由度が高いという特徴を有する一方で、加工形状の微細化には限界があり、また、各形状を単一の工具により順次加工していくために加工時間が膨大になるという問題がある。また、電子線描画加工は、μmオーダー以下の微細な形状を加工することができるが、加工速度が小さいために加工できる範囲が限定されるという問題がある。
【0004】
一方で、加工閾値近傍のフルエンス(エネルギー密度)で直線偏光のレーザを被加工物の表面に照射すると、微細周期構造を形成できることが知られている(非特許文献1、2参照)。この方法では金属、半導体、ポリマー等の材料からなる被加工物に対して、レーザの波長オーダーの周期構造を自己組織的に形成させることができる。周期構造が形成される範囲は照射範囲内に限定されるが、図6に示すように、加工ステージ上に設置された被加工物2に対して、フェムト秒レーザのレーザ照射部1をレーザ走査境界部3上でオーバーラップさせながら走査することにより、被加工物2の表面に周期構造5を広範囲に形成できることが知られている(特許文献1参照)。この加工方法(周期構造の作成方法)は、一定の照射範囲に拡大したレーザを被加工物2上で走査させて加工できるために、大面積の加工が可能であり、加工速度も他の工法と比較して大きいという利点がある。なお、図6では、このような形成状況を理解し易くするために、周期構造5の山(或いは谷)の部分を実線で示している。
【非特許文献1】A.E. Siegman, P.M. Fauchet: Stimulated Wood's anomalies on laser-illuminated surfaces, IEEE J.Quantum Electron., QE-20、8(1986)P.1384
【非特許文献2】南志昌,豊田浩一:レーザー誘起表面電磁波による金属・半導体のリップル形成入射角依存性,レーザー研究,28,12(2000) P.824.
【特許文献1】国際公開 WO 2004/035255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の周期構造の作成方法を用いて、レーザ照射部を重ね合わせながら広範囲に周期構造を形成する際に、それぞれのレーザ走査において形成させる周期構造の基点が異なるため、図6に示すように、レーザ走査境界部3において周期構造5が不連続となるという問題が発生していた。この周期構造5の不連続部分(レーザ走査境界部3)では、周囲と比較して回折波長が異なるので、レーザ走査の連続部(レーザ走査境界部3以外の部分)と比較して発色が変化してレーザ走査境界部3が目立ってしまい、外装部品等の加飾用途としては問題があった。
【0006】
また、フェムト秒レーザを用いて周期構造5を作成する際、形成される周期構造5の周期は、レーザの波長および入射角により決定される。したがって、レーザの波長および入射角が一定であると、形成される周期構造5の周期は、同じ被加工物2の加工面内においては同一となってしまう。よって、従来の加工方法により作成される周期構造5を構造発色用途に用いた場合に、発色する波長が単一であるために、色具合を変化させることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、被加工物の表面にレーザ照射部を走査させて広範囲に周期構造を作成してもレーザ走査境界部が目立つことのない周期構造の作成方法と、淡い中間色を発色させることが可能な周期構造の作成方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の周期構造の作成方法は、レーザを照射するレーザ照射部を、被加工物の表面に、レーザ走査境界部で重ね合わせながら走査させることにより、前記被加工物の表面を加工して周期構造を作成する周期構造の作成方法であって、レーザ走査境界部の結晶粒径を、レーザ走査境界部以外の箇所の結晶粒径よりも微細化し、前記レーザ走査境界部の微細化を行った被加工物に対して、前記レーザ走査境界部がレーザ走査経路の境界となるようにフェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させる第1のレーザ加工を行い、この第1のレーザ加工後、前記被加工物に、前記レーザ走査境界部で重なり合うように、フェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させる第2のレーザ加工を行って、前記レーザ走査境界部に形成される周期構造の周期および高さが、前記レーザ走査境界部以外に形成される周期構造の周期および高さよりも、小さくなった状態で分布した周期構造を形成することを特徴とする。つまり、予め、被加工物のレーザ走査境界部における結晶粒径を局所的に微細化し、このレーザ走査境界部が境界となるようにフェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させながら加工することを特徴とするものである。
【0009】
ここで、直線偏光のフェムト秒レーザを被加工物に照射すると、p偏光成分の入射光と表面散乱光との干渉により波長間隔で周期構造が自己組織的に形成されていく。この時、被加工物の表面に結晶粒界が存在する場合、粒界部分での表面段差により入射光と散乱光との干渉する間隔が変化するために、結晶粒界においては周期構造の周期および高さが不連続となる。
【0010】
したがって、本方法によれば、レーザ走査境界部における結晶粒径を微細化して結晶粒界を数多く形成することで、レーザ照射時に形成させる周期構造の周期および高さの不連続部を多く形成することができる。結晶粒界はあらゆる方位で存在するため、その結果、レーザ走査境界部における周期構造の周期および高さが、マクロ的には結晶粒界部以外に形成される周期構造と比較して、小さい範囲となるように変動しながら分布することになり、これにより、レーザ走査境界部においては明確な周期構造の境界が形成されることがない。このように、周期構造に明確な境界がなくなることにより、目視上境界線を認識することができないような表面状態となって、従来発生していたような外観品質上の問題を解消することができる。
【0011】
本発明の請求項2に記載の周期構造の作成方法は、レーザ走査境界部に対して、予めレーザを照射することでレーザ走査境界部の結晶粒径を微細化させることを特徴とする。本方法によれば、レーザ照射により被加工物のレーザ走査境界部の表面を局所的に再結晶温度まで加熱して照射部分を再結晶化させることにより、結晶粒径を微細化させることができる。なお、レーザはCOレーザ、YAGレーザ等を、被加工物の波長に対する吸収率に応じて適宜選択すればよい。また、照射スポット径についても、結晶粒径を微細化する領域およびレーザ出力に応じて適宜選択すればよい。
【0012】
本発明の請求項3に記載の周期構造の作成方法は、レーザを照射するレーザ照射部を、被加工物の表面に対して走査させることにより前記被加工物の表面を加工して周期構造を作成する周期構造の作成方法であって、被加工物の表面に、レーザ照射領域内部に結晶粒径の平均値が大きい粗大結晶粒領域と、結晶粒径の平均値が小さい微細結晶粒領域とを設け、これらの粗大結晶粒領域と微細結晶粒領域とを設けた被加工物の表面に対して、フェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させながら加工することで、前記微細結晶粒領域に形成される周期構造の周期および高さが、前記粗大結晶粒領域に形成される周期構造の周期および高さよりも、小さくなった状態で分布した周期構造を形成することを特徴とする。本方法によれば、被加工物表面上の一部に結晶粒径が周囲と異なる部分を形成することで、フェムト秒レーザを照射した時に加工面内で結晶粒界の影響が小さくて比較的規則的な周期構造を有する粗大結晶粒領域の部分と、結晶粒径の影響が大きくて周期および高さが、第1の領域の周期構造よりも小さくなった状態で分布した周期構造を有する微細結晶粒領域の部分とを同時に形成することができる。
【0013】
本発明の請求項4に記載の周期構造の作成方法は、被加工物の表面の所定の位置に対して、局所的にレーザを照射することによりレーザ照射部の結晶粒径を変化させることを特徴とする。このようにレーザを用いることで、レーザ照射範囲の特定の領域を局所的に加熱することが可能となるため、領域のパターニングも容易に実施することができる。また、照射エネルギを調整することで加工表面における温度制御することも可能となるので、各領域に応じて結晶粒径を制御することが可能となる。なお、レーザはCOレーザ、YAGレーザ等被加工物の波長に対する吸収率に応じて適宜選択すればよい。また、照射スポット径についても結晶粒径を微細化する領域およびレーザ出力により選択することができる。
【0014】
本発明の請求項5に記載の周期構造の作成方法は、レーザを照射するレーザ照射部を、被加工物の表面に対して走査させることにより前記被加工物の表面を加工して周期構造を作成する周期構造の作成方法であって、所定の範囲内の結晶粒径を有する材料の被加工物に対してフェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させながら加工することにより、形成される周期構造の周期および高さが、単結晶材料に対して形成される周期および高さよりも小さい周期構造を作成することを特徴とする。本方法によれば、被加工物に一定の結晶粒径分布を有する材料を用いることにより、フェムト秒レーザ照射時に形成される周期構造は各結晶粒界において不連続となるものの、加工面全体としては一定範囲に分布した周期および高さを有する周期構造(形成される周期構造の周期および高さが、単結晶材料に対して形成される周期および高さよりも一定範囲で小さくなる周期構造)を容易に形成することができる。
【0015】
本発明の請求項6に記載の外装部品は、請求項1〜5の何れか1項に記載の周期構造の作成方法にて作成した外装部品であって、所定値を中心値として分布した周期および深さを有した周期構造を有することにより、所定値の波長を中心として一定の範囲内の波長の光を回折するように構成したことを特徴とする。このように、外装部品の表面に形成する周期構造の周期および高さを一定範囲で小さくなるように分布させることにより、発色する色合いを、中心範囲で既定される特定の色ではなくて、淡い中間色を発色させることが可能となる。
【0016】
また、本発明の請求項7のように、電子機器の表面を、発色する外装部品で構成することにより、塗装工程が不要となり、製造コストの低減および環境負荷の低減が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の周期構造の作成方法によれば、被加工材料表面における結晶粒径を制御することにより、レーザ照射部を走査させて広範囲に周期構造を作成しても、走査境界部が目立たず外観品質上問題のない周期構造を広範囲に形成することができる。また、淡い中間色を発色させることが可能な周期構造を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る周期構造の作成方法は、レーザを照射するレーザ照射部を、被加工物の表面に、レーザ走査境界部で重ね合わせながら走査させることにより前記被加工物の表面を広範囲に加工して周期構造を作成する周期構造の作成方法であって、予め、レーザ走査境界部の結晶粒径を、レーザ走査境界部以外の箇所の結晶粒径よりも微細化し、前記レーザ走査境界部の微細化を行った被加工物に対して、前記レーザ走査境界部の一部がレーザ走査経路の境界部となるようにフェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させる第1のレーザ加工を行い、この第1のレーザ加工後、前記レーザ走査境界部の未加工部分を含む被加工物に、前記レーザ走査境界部で重なり合うように、フェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させる第2のレーザ加工を行って、前記レーザ走査境界部に形成される周期構造の周期および高さが、前記レーザ走査境界部以外に形成される周期構造の周期および高さよりも、小さくなった状態で分布した周期構造を形成することを特徴とする。つまり、予め、被加工物におけるレーザ走査境界部における結晶粒径を局所的に微細化し、このレーザ走査境界部が境界となるようにフェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させながら加工することを特徴とするものである。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態1に係る周期構造の作成方法により周期構造を形成した被加工物の要部を示したものである。
図1に示すように、楕円形状に成形された直線偏光のフェムト秒レーザ照射部1を被加工物2の表面上を走査させると、入射光のp偏光成分と表面散乱光のp偏光成分との干渉が起こり、レーザの波長間隔の周期構造5が形成される。本発明の実施の形態では、レーザ照射を行う前に、予め、後述するレーザ走査境界部3の結晶粒径を、レーザ走査境界部以外の箇所の結晶粒径よりも微細化している。被加工物2の材料が単結晶あるいはアモルファス、または結晶粒の大きさが波長に対して十分大きい場合には、形成される周期構造5Aは一定間隔の周期および高さで形成されるが、被加工物2の表面に結晶粒を微細化した結晶粒微細化領域4が存在する場合、結晶粒界における段差のために入射光と散乱光との干渉が起こる間隔が変化して、結晶粒毎に周期構造5Bが形成される起点が異なることとなる。このため、前記結晶粒微細化領域4においては起点の異なる周期構造5Bが多数形成され、この結晶粒微細化領域4においては、マクロ的には周期構造5Bの周期および高さは、所定値(結晶粒微細化領域4ではない箇所の周期構造5Aの周期および高さ以下となる所定値)を中心とした一定の範囲に分布することになる。レーザ照射部1を被加工物2の表面上で予め決められた走査経路により重ね合わせながら走査させることにより被加工物上2を広範囲に加工する場合に、レーザ走査境界部3の周辺に結晶粒微細化領域4を形成することにより、レーザ走査境界部3において明確な周期構造のずれのない周期構造5を形成することができる。本周期構造5を発色および装飾等への外観が重視される用途への適用を考えると、走査経路のレーザ走査境界部3における周期構造のずれは目視上問題となるが、本実施の形態のようにレーザ走査境界部3周辺の周期構造5Bの周期および高さを一定の範囲で分布させることにより、境界部が目視上認識できなくなるため外観上の問題を解消することができる。
【0020】
なお、図1においては、理解し易いように、周期構造5(5A、5B)の山(或いは谷)の部分を実線で示しており、また、結晶粒界を点線で示している。図1に示すように、結晶粒微細化領域4における、すなわちレーザ走査境界部3およびその周辺における、被加工物2の表面の各結晶粒に対応する箇所の面積は、結晶粒微細化領域4以外の領域での各結晶粒に対応する箇所の面積よりも小さくなっており、各結晶粒に対応する領域毎に周期構造5が形成されている。
【0021】
次に、本周期構造5の作成方法の具体的な加工例について、詳細に述べる。図2は周期構造を作成する周期構造作成装置を模式的に示した図である。周期構造作成装置は、フェムト秒レーザ発生装置6(波長800nm、繰り返し周波数1kHz、エネルギー284mW、パルス幅200fs)6と、複数の折り返しミラー7と、集光レンズ8と、被加工物2を支持する加工ステージとしてのXYステージ9とを備えている。そして、フェムト秒レーザ発生装置6は、折り返しミラー7と集光レンズ8とを通して、XYステージ9上に設置された被加工物2上へレーザを照射することができるよう構成されている。
【0022】
ここで、被加工物2の材料としては、平均粒径40μmで、レーザ走査経路の重ねあわせ部(レーザ走査境界部3)上で幅1mm程度の領域を平均粒径5μmに熱処理を施したSUS304を用いた。なお、本実施の形態における被加工物2は、最終的にレーザ走査境界部3に対応する箇所に対して、予め微細化の処理を施したものを用いてもよいし、XYステージ9上において照射エネルギーを調整したレーザを照射することにより急速加熱することで微細化処理をしたものを用いてもよい。また、結晶粒径の微細化はレーザ走査境界部3で急激に変化させるのではなく、レーザ走査境界部3の周辺で徐々に微細化させることが重要である。
【0023】
より具体的な例としては、集光レンズ8により幅4mmの楕円形状に集光したレーザを、被加工物2上でレーザ同士がオーバーラップするように、XYステージ9を用いて走査速度3.0mm/sec、走査経路ライン間ピッチ3.8mmとして加工した。作成された周期構造5の形状を4μm角の領域で測定した結果、重ね合わせ部(レーザ走査境界部3に対応する)外の領域では周期580nm、高さ220nmの均一な周期構造5Aとなったのに対して、重ね合わせ部においては、周期495〜580nm、高さ130〜217nmに分布した周期構造5Bが形成されていた。また、本加工方法により形成した加工範囲において、重ね合わせ部分の境界線は外観上確認することができなかった。
【0024】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る周期構造の作成方法は、レーザを照射するレーザ照射部を、被加工物の表面に対して走査させることにより前記被加工物の表面を加工して周期構造を作成する周期構造の作成方法であって、被加工物の表面に、レーザ照射領域内部に結晶粒径の平均値が大きい粗大結晶粒領域と、結晶粒径の平均値が小さい微細結晶粒領域とを設け、これらの粗大結晶粒領域と微細結晶粒領域とを設けた被加工物の表面に対して、フェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させながら加工することで、前記微細結晶粒領域に形成される周期構造の周期および高さが、前記粗大結晶粒領域に形成される周期構造の周期および高さよりも、小さくなった状態で分布した周期構造を形成することを特徴とする。
【0025】
図3は、本発明の実施の形態2に係る周期構造の作成方法により周期構造を形成した被加工物の要部を示したものである。図3において、図1、図2と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0026】
図3において、フェムト秒レーザ照射部1を被加工物2上に、予め熱処理を加えることにより、被加工物2の表面上に、粗大な結晶粒を有する領域(粗大結晶粒領域)10と微細な結晶粒を有する領域(微細結晶粒領域:図3において、P字形状に示す部分)11とを形成しておき、これらの領域全体を照射するようにフェムト秒レーザを照射する。これにより、粗大結晶粒領域10では、ほぼ波長程度の規則的な周期構造5Cが形成されるのに対して、微細結晶粒領域11においては、結晶粒界における段差の影響および加工閾値の変化により起点の異なる周期構造5Dが多数形成される。したがって、微細結晶粒領域11においては、マクロ的には、周期構造5Dの周期および高さは、所定値(粗大結晶粒領域10の周期構造5Cの周期および高さ以下となる所定値)を中心とした一定の範囲に分布することになる。本周期構造の作成方法において、粗大な結晶粒の大きさと微細な結晶粒の大きさとの比を十分大きくすることにより、規則的な周期構造5Cの領域(粗大結晶粒領域10に対応する領域)と不規則な周期構造5Dの領域(微細結晶粒領域11に対応する領域)との境界が、人間の目視上で認識できるほどに明確になり、また規則的な周期構造5Cの領域(粗大結晶粒領域10に対応する領域)と不規則な周期構造5Dの領域(微細結晶粒領域11に対応する領域)とでは、入射光に対して回折する光の波長の帯域が異なるため、不規則な周期構造5Dの領域(微細結晶粒領域11に対応する領域)の色合いを変化させることができる。
【0027】
なお、本実施の形態における被加工物2は、微細結晶粒領域11に対応する箇所に対して、予め微細化の処理を施したものを用いてもよいし、XYステージ9上において照射エネルギーを調整したレーザを照射することにより急速加熱することで微細化処理をしたものを用いてもよい。
【0028】
本周期構造5の作成方法の具体的な加工例を以下に説明する。なお、周期構造を作成する周期構造作成装置の構成については、実施の形態1と同様である。結晶粒径が110μmである粗大結晶粒領域10の中に、結晶粒径5μmの微細結晶粒領域11を3mm角で形成した被加工材料がSUS304からなる被加工物2に対して、フェムト秒レーザ照射部1を、微細結晶粒領域11を含む粗大結晶粒領域10全体を照射するように走査した。この結果、粗大結晶粒領域10では、周期600nm、高さ200nm程度の周期構造5Cが形成され、外観上青色の回折光を発した。これに対して、微細結晶粒領域11では周期495〜600nm、高さ100〜200nmに分布した周期構造5Dが形成され、回折光は淡い青色となり、目視上3mmの領域を認識することができた。
【0029】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係る周期構造の作成方法は、レーザを照射するレーザ照射部を、被加工物の表面に対して走査させることにより前記被加工物の表面を加工して周期構造を作成する周期構造の作成方法であって、所定の範囲内の結晶粒径を有する材料の被加工物に対してフェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させながら加工することにより、形成される周期構造の周期および高さが、単結晶材料に対して形成される周期および高さよりも小さい周期構造を作成することを特徴とする。
【0030】
図4は、本発明の実施の形態3に係る周期構造の作成方法により周期構造を形成した被加工物の要部を示したものである。図3において、図1、図2と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。また、図5は、前記周期構造の作成方法により形成される周期構造の模式図である。レーザを照射する被加工物2の表面全面に対して、結晶粒を微細化する処理を施して微細な結晶粒を有する領域(微細結晶粒領域)11を設けた後、全面にフェムト秒レーザ1を照射することにより、被加工物2の表面部全面に渡って図5に示すような周期pおよび高さhが、所定値を中心とした一定の範囲に分布された周期構造5(単結晶材料に対して形成される周期および高さよりも小さい周期構造)を形成することができる。
【0031】
本加工方法により形成される周期構造5の周期pおよび高さhは、微細結晶粒領域11内における結晶粒界の数と相関があるが、例えば、結晶粒径として5〜10μmの被加工物に対して、実施の形態1と同じ条件でフェムト秒レーザを照射した場合、周期495〜600nm、高さ100〜200nmに分布した周期構造が形成された。一般に周期構造の反射および回折を利用して発色させる場合、均一な周期の周期構造では単一の波長のみが回折するため、発色する色も限定されるが、本実施の形態のように、周期構造5の周期pおよび高さhを一定範囲(単結晶材料に対して形成される周期および高さよりも小さい範囲)に分布させることにより、回折光の波長および強度が一定範囲に分布するため発色する色が淡くなるため、外装部品としてはより好ましい周期構造が得られた。
【0032】
一例として、テレビ、パーソナルコンピュータ等の電子機器の外装部品へ用いると青色系の中間色を発色する外装部品となり、複雑な塗装工程を省略することが可能となる。
このように、本発明の周期構造の作成方法によれば、レーザ照射部を走査させて広範囲に周期構造を作成してもレーザ走査境界部が目立つことのない周期構造および淡い色で発色する周期構造を作成することが可能となる。
【0033】
さらに、本発明の周期構造の作成方法によって、金属製の金型の表面に周期構造を加工することが可能である。このように表面に周期構造を有する金型を用いて樹脂を射出成形することにより、表面が構造発色する樹脂製の部品(外装を装飾した外装部品等)を製作することができる。また、この外装部品で表面を構成した電子機器を作成することも可能であり、これによれば、外装部品や電子機器の塗装工程が不要となり、製造コストの低減および環境負荷の低減が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の周期構造の作成方法は、構造発色するいろいろな種類の外装装飾部品等の加工に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1に係る周期構造の作成方法により周期構造を形成した被加工物の要部を示す図
【図2】周期構造を作成する周期構造作成装置を模式的に示した図
【図3】本発明の実施の形態2に係る周期構造の作成方法により周期構造を形成した被加工物の要部を示す図
【図4】本発明の実施の形態3に係る周期構造の作成方法により周期構造を形成した被加工物の要部を示す図
【図5】本発明の実施の形態3に係る周期構造の作成方法により形成される周期構造の模式図
【図6】従来方法において形成される周期構造の模式図
【符号の説明】
【0036】
1 レーザ照射部(フェムト秒レーザ照射部)
2 被加工物
3 レーザ走査境界部
4 結晶粒微細化領域
5、5A〜5D 周期構造
6 フェムト秒レーザ発生装置
7 ミラー
8 集光レンズ
9 XYステージ(加工ステージ)
10 粗大結晶粒領域
11 微細結晶粒領域
p 形成される周期構造のピッチ
h 形成される周期構造の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザを照射するレーザ照射部を、被加工物の表面に、レーザ走査境界部で重ね合わせながら走査させることにより、前記被加工物の表面を加工して周期構造を作成する周期構造の作成方法であって、
レーザ走査境界部の結晶粒径を、レーザ走査境界部以外の箇所の結晶粒径よりも微細化し、
前記レーザ走査境界部の微細化を行った被加工物に対して、前記レーザ走査境界部がレーザ走査経路の境界となるようにフェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させる第1のレーザ加工を行い、
この第1のレーザ加工後、前記被加工物に、前記レーザ走査境界部で重なり合うように、フェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させる第2のレーザ加工を行って、前記レーザ走査境界部に形成される周期構造の周期および高さが、前記レーザ走査境界部以外に形成される周期構造の周期および高さよりも、小さくなった状態で分布した周期構造を形成する
ことを特徴とする周期構造の作成方法。
【請求項2】
レーザ走査境界部に対して、予めレーザを照射することでレーザ走査境界部の結晶粒径を微細化させることを特徴とする請求項1に記載の周期構造の作成方法。
【請求項3】
レーザを照射するレーザ照射部を、被加工物の表面に対して走査させることにより前記被加工物の表面を加工して周期構造を作成する周期構造の作成方法であって、
被加工物の表面に、レーザ照射領域内部に結晶粒径の平均値が大きい粗大結晶粒領域と、結晶粒径の平均値が小さい微細結晶粒領域とを設け、
これらの粗大結晶粒領域と微細結晶粒領域とを設けた被加工物の表面に対して、フェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させながら加工することで、前記微細結晶粒領域に形成される周期構造の周期および高さが、前記粗大結晶粒領域に形成される周期構造の周期および高さよりも、小さくなった状態で分布した周期構造を形成する
ことを特徴とする周期構造の作成方法。
【請求項4】
被加工物の表面の所定の位置に対して、局所的にレーザを照射することによりレーザ照射部の結晶粒径を変化させることを特徴とする請求項3に記載の周期構造の作成方法。
【請求項5】
レーザを照射するレーザ照射部を、被加工物の表面に対して走査させることにより前記被加工物の表面を加工して周期構造を作成する周期構造の作成方法であって、
所定の範囲内の結晶粒径を有する材料の被加工物に対してフェムト秒レーザを加工閾値近傍のフルエンスで走査させながら加工することにより、形成される周期構造の周期および高さが、単結晶材料に対して形成される周期および高さよりも小さい周期構造を作成することを特徴とする周期構造の作成方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の周期構造の作成方法にて作成した外装部品であって、所定値を中心値として分布した周期および深さを有した周期構造を有することにより、所定値の波長を中心として一定の範囲内の波長の光を回折するように構成したことを特徴とする外装部品。
【請求項7】
請求項6に記載の外装部品で表面を構成したことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−162545(P2010−162545A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4170(P2009−4170)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】