説明

周波数偏差検出方法

【課題】 演算量が少なくて済む周波数偏差検出方法を提供すること。
【解決手段】 全周波数成分の電力和pを全電力算出回路124で時間領域信号の電力和から演算し、FFT演算は行わず、その代りにDFT演算回路126、127により、プリアンブルの2つの周波数成分のみについてDFT演算を行い、これら2成分の電力p1、p2 を求め、電力比(p1+p2)/pを算出してプリアンブルパターン識別に用いるようにする。このため、自己相関演算回路121と位相検出回路122、減算器129、それに乗算器123で周波数偏差Δfを演算し、それを周波数偏差補正回路128に入力して、周波数偏差を補正している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル無線通信システムの受信装置に係り、特に受信した信号に既知の信号パタ-ンが含まれているか否かを識別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル情報を無線伝送する際、その情報(2値信号のビット列)を一定のビット数毎に分割し、分割されたビット列を含んで所定の構成がなされたフレームとし、そのフレーム毎に、例えばπ/4シフトQPSK方式などによるデジタル変調を施し、デジタル変調された信号として送信する方式のデジタル無線通信システムが知られている。
【0003】
このとき、このシステムでは、それまで送信をしていなかった状態から、初めて送信機が送信を開始したときの最初のフレームを第1フレームとする。そして以下、これから順に第2フレーム、第3フレーム、……と続いて信号が送信されてゆくようになっている。
【0004】
一方、このようにフレーム構成された情報を受信するためには、当該信号のフレームに対して同期をとる必要があるが、このとき、上記のシステムでは、受信した信号からフレーム同期をとるようになっており、このため、送信されるフレームには、プリアンブルと呼ばれる規定の形式からなる固定ビットパターンが、予め定められた位置に予め定められた長さで付加されている。
【0005】
そして、受信機では、第1フレームの信号が受信された際、この第1フレームに含まれているプリアンブルを用い、これに基づき、以後、送信されてくる信号に対して高速同期を行う。ここで、この高速同期とは、非同期の状態から同期を行い、同期した情報を現フレームの復調(検波)動作に反映させる処理のことをいう。
【0006】
一方、1フレーム期間前のフレームで既に同期が確立されていて、この後、現フレームと1フレーム期間前のフレームの間での変動分に対する同期を行い、同期した情報を次のフレームの復調動作に反映する処理のことを、上記の高速同期に対比させて、通常同期という。
【0007】
よって、第1フレームは同期バーストとも呼ばれ、このフレームにプリアンブルが含まれている。そこで、受信機は、この第1フレームの同期バーストを用いて高速同期を行い、第2フレーム以降では通常同期を行うことになる。
【0008】
そうすると、受信機では、高速同期のため、プリアンブルから周波数偏差とシンボルタイミングを検出する必要があり、このためには、まずプリアンブルが含まれている同期バーストを受信しているか否かを判断し、プリアンブルのパターンを識別しなければならない。
【0009】
このとき、同期バーストのフレームは、通常、1フレーム〜数フレームが連続して送信される。例えば、後述の図4では、第1フレームと第2フレームの2フレームが同期バーストのフレームになっている。
【0010】
ここで、図2は、SCPC(Single Channel Per Carrier)方式の標準規格であるARIB STD−T61による同期バーストフレームのフレーム構造を示したものであるが、この場合、図示のように、リニアライザプリアンブル・ランプアップ部LP+Rとプリアンブル部Pb、通信情報チャネル部RI、同期ワ−ドパターン部SW、パラメ−タ情報チャネル部PI、それにガ−ドタイム部Gで構成されている。
【0011】
次に、図3は、通信チャネルフレームのフレーム構造で、同じくリニアライザプリアンブル・ランプアップ部LP+Rとプリアンブル部Pb、通信情報チャネル部RI、同期ワ−ドパターン部SW、それにパラメ−タ情報チャネル部PIを含むが、ここでは、プリアンブル部Pb と通信情報チャネル部RIの間に通信チャネル部Tch が挿入され、更に同期ワ−ドパターン部SWの後には未定義部UDと通信チャネル部Tch が付加されているが、他方、ガ−ドタイム部Gは省かれている。
【0012】
ここで、これら図2と図3において、各々の記号の下に記してある数値は、夫々の領域を構成しているビット(bit)の数を表わし、このとき、プリアンブル部Pb は、“1,0,0,1”を繰り返す固定パターンで構成されている。
【0013】
一方、図4は、移動無線通信システムで送信を行う場合の送信パターンの一例で、これはARIB STD−T61規格に基づいた送信パターンであり、ここで、SB0 とSB1 は同期バーストフレーム、TCH0、TCH1、TCH2、……、TCHM は主デ−タを載せた通信チャネルフレームであり、数値Mは自然数である。
【0014】
そして、このARIB STD−T61規格では、送信を開始するときには、通信チャネルフレームの送信に先立ち、同期バーストフレームをm回(mは2以上の正の整数)送信することになっている。
【0015】
例えば、図4では、まず同期バーストフレームを2フレーム送信し、次から送信チャネルフレームの送信を開始し、送信終了となるまで送信することになり、従って、この場合、通話は2フレームの同期バーストとMフレームの通信チャネルで構成される。そして、このときの通信チャネルのフレーム数Mは、通話の長さにより変化する。
【0016】
ところで、受信機では、上記した高速同期のため、受信信号からプリアンブルを識別し、更にプリアンブルから周波数偏差とシンボルタイミングを検出する必要がある。
【0017】
ここで、このときのプリアンブルの識別方法と、周波数偏差及びシンボルタイミングの検出方法については、受信信号の周波数スペクトルの算出にFFT(高速フーリエ変換:Fast Fourier Transform)を用い、FFTにより全周波数成分の演算を行ってプリアンブルを識別する方法が従来技術として知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0018】
そして、この従来技術では、プリアンブルパターンの識別と、周波数偏差の検出及びシンボルタイミングの検出に必要なFFTによる全周波数成分の演算を一定時間毎(例えば4シンボル毎)に実行するようようになっている。
【特許文献1】特開2002−232503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記従来技術は、プリアンブルの識別と周波数偏差及びシンボルタイミングの検出に膨大な演算量を要する点に配慮がされておらす、システムの実現性にいささか問題があった。
【0020】
上記したように、従来技術では、プリアンブルパターンの識別と、周波数偏差の検出及びシンボルタイミングの検出を、受信機が非同期の状態のままで行なっているので、FFTによる全周波数成分の演算を一定時間毎(例えば4シンボル毎)に行わなくてはならない。
【0021】
また、このとき、周波数偏差検出の精度を上げるためには、FFTのポイント数(窓長)を増やしたり、補間処理を追加したりする必要があり、従って、上記したように、処理量が膨大になってしまい、システムの実現性に多少の問題が生じてしまうのである。
【0022】
本発明は、上記した状況に鑑みてなされたもので、その目的は、演算量が少なくて済む周波数偏差検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の目的は、伝送すべき情報にプリアンブルが付加され、デジタル変調された信号を受信し、受信したベースバンド信号から周波数偏差を検出する方法において、前記ベースバンド信号を1シンボル当たりNov回(Nov は2以上の正の整数)オーバーサンプリングし、任意の連続したNwinサンプル(Nwinは、2以上の正の整数)のベースバンド信号を抽出し、該抽出したNwin サンプルの信号x(n)(ここで、n=0,1,……,Nwin-1)の自己相関r(m)=Σx(n)x*(n-m)(Σ:n=m,m+1,……,Nwin-1での和、m:負でない整数、*:複素共役を表す)の内、r(Nptnov)(Nptnは、プリアンブルパターンによって決まる正の整数)を演算し、該r(Nptnov)の位相θを算出し、該位相θより周波数偏差を算出するようにして達成される。
【0024】
ここで、この発明は、以下の形態で実施することができる。
【0025】
<実施形態1>
伝送すべき情報にプリアンブルが付加され、デジタル変調された信号を受信し、受信したベースバンド信号から周波数偏差を検出する方法において、受信しているプリアンブル信号がNptn シンボル毎の繰り返しパターンであり、前記r(Nptnov)の位相θを算出し、該位相θを用い、シンボルレートをfb とし、周波数偏差ΔfをΔf=θfb/2Nptnπとして演算することを特徴とする周波数偏差検出方法。
【0026】
<実施形態2>
実施形態1に記載の周波数偏差検出方法において、受信するベースバンド信号の変調方式がπ/4シフトQPSKで、プリアンブル信号が1001(2進数)の繰り返しパターンであり、前記自己相関r(m)の内、r(2kNov)(ここで、kは定数で任意の正の整数)を演算し、該r(2kNov)の位相θを算出し、該位相θを用いて周波数偏差ΔfをΔf=(θ−kπ/2)fb/4kπとして演算することを特徴とする周波数偏差検出方法。
【0027】
<実施形態3>
実施形態1に記載の周波数偏差検出方法において、受信するベースバンド信号の変調方式がπ/4シフトQPSKで、プリアンブル信号が0110(2進数)の繰り返しパターンであり、前記自己相関r(m)の内、r(2kNov)(ここで、kは定数で任意の正の整数)を演算し、該r(2kNov)の位相θを算出し、該位相θを用いて周波数偏差ΔfをΔf=(θ−kπ/2)fb/4kπとして演算することを特徴とする周波数偏差検出方法。
【0028】
<実施形態4>
実施形態1に記載の周波数偏差検出方法において、受信するベースバンド信号の変調方式がQPSK又はまたはQAMで、プリアンブル信号が対角する2つの最外角点を1シンボル置きに繰り返すパターンであり、前記自己相関r(m)の内、r(2kNov)(ここで、kは定数で任意の正の整数)を演算し、該r(2kNov)の位相θを算出し、該位相θを用いて周波数偏差ΔfをΔf=θfb/4kπとして演算することを特徴とする周波数偏差検出方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、受信ベースバンド信号の自己相関には、シンボルタイミングの同期状態に関わらず、入力ベースバンド信号の周期性を示すピーク値が存在するため、シンボルタイミングの同期状態に関わらず周波数偏差を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
ここで、本発明による周波数偏差検出方法の実施形態について説明する前に、プリアンブルパターンについて説明する。
【0031】
なお、以下の説明では、特に断らない限り、プリアンブルパターンについて、それは変調方式がπ/4シフトQPSK方式で、1001(2進数)の4ビットを繰り返すものとする。
【0032】
そうすると、このプリアンブルパターンの周波数成分は、上記した特許文献1にも示されているように(特許文献1の図8)、ロ-ルオフ率αが0.5以下の場合、X1=−(3/8)ωb とX2=(1/8)ωb の2成分が全電力の大部分を占めている。ここで、ωb=2πfb であり、fb はシンボルレート(シンボル/秒)である。
【0033】
そこで、上述の従来技術では、この点に着目し、X1 成分の電力p1=|X1|2とX2 成分の電力p2=|X2|2 の和p1+p2 に対する全周波数成分の電力和pの比(p1+p2)/pを所定の閾値(しきい値)と比較してプリアンブルパターンを識別していた。
【0034】
しかし、ここで観点を変えてみると、上記した全周波数成分の電力和pの演算は、後述するように、時間領域信号の電力和に置き換えることができる。
【0035】
そこで、本発明では、FFT演算は行わず、時間領域信号の電力和により全周波数成分の電力和pを演算し、X1 成分とX2 成分の2成分についてだけDFT(離散フーリエ変換:Discrete Fourier Transform)演算を行い、これらから電力p1、p2 を求め、比(p1+p2)/pを算出するようにしたものであり、これにより演算量の削減が図れることになるのである。
【0036】
但し、このようにX1 成分とX2 成分のみのDFT演算をするためには、入力信号の周波数偏差が補償されている必要がある。このため、本発明では、別途、自己相関により周波数偏差を検出し、これにより周波数偏差を補償した上でDFT演算するようにしている。
【0037】
そこで、まず、上述の時間領域信号の電力和により周波数領域の電力和が算出できる点について説明し、次に、プリアンブル信号の自己相関により周波数偏差が検出できる点について説明し、その後、本発明の実施形態について説明する。
【0038】
いま、DFTのためのポイント数をNとすると、N個の信号x(0)、x(1)、……x(N-1)のDFTは式(1)となる。
【数1】

【0039】

そして、上記X(k)(k=0、1、……、N-1)の電力和pは式(2)で表わせる。
【数2】

【0040】

この式(2)の|X(k)|2 は、X(k)とその複素共役X*(k)の積になるので、次の式(3)が成立する。なお、ここで、X*(k)に付されている符号*は複素共役を表わす。ここで、この複素共役とは虚数部の符号が反転されていることをいう。
【数3】

【0041】

そこで、式(2)の|X(k)|2 に式(3)を代入すると、電力和pは、次の式(4)となる。
【数4】

【0042】

ここで、この式(4)のSn,m は、初項a1=WN(n-m)0=1、公比r=WN(n-m)の初項から第N項までの等比級数の和であり、これは、次の式(5)公式で求められる。
【数5】

【0043】

ここで、公比rが1となるのは、n−mがNの整数倍(n−m=0、±N、±2N、……)の場合であり、式(4)ではn=0、1、……、N−1、m=0、1、……、N−1であるから、|n−m|≦N−1であり、r=1となるのは、n−m=0、すなわちn=mの場合だけであり、このn=mの場合は、r=WN0=1であるから、式(5)より次の式(6)が成立する。
【数6】

【0044】

一方、n≠mの場合は、r=WN0≠1であるから、同じく式(5)より、こんどは次の式(7)が成立する。
【数7】

【0045】

この式(7)において、n、mは整数(n≠m)であるから、2π(n−m)は2πの整数倍であり、従って、次の式(8)が成立する。
【数8】

【0046】

また、このとき、n−m=±1、±2、……、±(N−1)であるから、−2π<2π(n−m)/N<2πとなり、且つ、2π(n−m)/N≠0なので、次の式(9)が成立する。
【数9】

【0047】

従って、この場合、式(7)の分子=0、分母≠0となるから、n≠mのとき、式(10)が成立する。
【数10】

【0048】

そこで、式(6)と式(10)を纏めて表わすと式(11)となる。
【数11】

【0049】

そして、式(4)は、式(12)となる。
【数12】

【0050】

以上の結果、時間領域の信号x(n)(n=0、1、2、……、N-1)の電力和|x(0)|2+|x(1)|2+……+|x(N-1)|2 に、DFTのポイント数Nを乗算してやれば、全周波数成分X(k)(k=0、1、2、……、N-1)の電力和p=|X(0)|2+|X(1)|2+……+|X(N-1)|2 の演算が得られることが判り、従って、時間領域信号の電力和により周波数領域の電力和が算出できるのである。
【0051】
次に、プリアンブル信号の自己相関により周波数偏差が検出できる点について説明する。
【0052】
いま、入力ベースバンド信号の任意のNサンプルを連続して取り出し、それらをs(0)、s(1)、……、s(N-1)とすると、その自己相関は次の式(13)で表わせる。
【数13】

【0053】

ここで、mは負でない整数、s*(n)の*は複素共役を表わし、複素共役とは虚数部の符号を反転することをいう。
【0054】
このとき、プリアンブルのベースバンド信号は、上述した従来技術にも示されるように(特許文献1の図5)、8シンボル周期の信号で、2シンボル毎に点対称であるため、r(m)の振幅2乗値|r(m)|2 は、m=0、2Nov、4Nov、……と2シンボル毎に値がピ-クとなる。
【0055】
ここで、Nov はオーバーサンプル比で、1シンボル当りのオーバーサンプル 数である。そして、この信号は、周波数偏差が無い場合、2シンボル前の瞬時値に対する位相差が常にπ/2で、かつs(n)=s(n−2Nov)ejπ/2 であり、従って、式(14)が成立する。
【数14】

【0056】

そうすると、式(13)の自己相関の2シンボル毎のピーク値は式(15)で表わすことができ、r(0)の位相は0、r(2Nov)の位相はπ/2、r(4Nov)の位相は πというように、ピーク値は2シンボル毎にπ/2ずつ位相が回転する。
【数15】

【0057】

ここで、受信信号にΔf(Hz)の周波数偏差がある場合、1シンボルで2πΔf/fb(ラジアン)の位相回転が受信信号に加わるため、2kシンボルでは4kπ Δf/fbの位相回転が加わり、式(16)で示すようになる。
【数16】

【0058】

そこで、自己相関の2シンボル毎のピーク値は、式(17)に示すようになる。
【数17】

【0059】

また、r(2kNov)の位相は、式(18)に示すようになる。
(数18)
θ=arg{r(2kNov)}=kπ/2+4kπΔf/fb ……式(18)

ここで、arg{r(2kNov)}はr(2kNov)の位相を表わす。
【0060】
よって、周波数偏差Δfは、自己相関のピーク値r(2kNov)の位相θを用いて、式(19)により算出でき、従って、プリアンブル信号の自己相関により周波数偏差が検出できるのである。
【数19】

【0061】

次に、本発明による周波数偏差検出方法の一実施の形態が適用される受信機の本体について、一例として図5により説明する。
【0062】
この図5に示した受信機は、上述の従来技術にも示されているもので、図示してないアンテナで受信された信号は入力端子1101に供給され、高周波回路1102に入力される。
【0063】
そして、この高周波回路1102で周波数変換され、無線周波数から中間周波数に変換されてA/D変換器1103に供給され、ここでサンプリングされ、量子化されてデジタル信号に変換さた上で乗算器1104−1、1104−2に並列に入力される。
【0064】
このとき、正弦波発生回路1106は、角周波数ωの正弦波信号cosωt を発生し、これを乗算器1104−1にはそのまま供給し、乗算器1105には、移相器1105を介して位相をπ/2(ラジアン)進め、正弦波信号−cosωt としてから供給する。
【0065】
そこで、乗算器1104−1は、A/D変換器1103の出力と正弦波発生回路1106の出力の積を演算し、乗算器1104−2では、A/D変換器1103の出力と移相器1105の出力の積を演算する。
【0066】
このとき、これら乗算器1104−1、1104−2の出力には不要な高周波成分が含まれている。そこで、各々の出力をローパスフィルタ1107−1、1107−2に入力し、不要成分を除去してから夫々ロールオフフィルタ1108−1、1108−2に供給する。
【0067】
これらロールオフフィルタ1108−1、1108−2では、入力された信号の帯域を制限してベースバンド信号を得、夫々をベースバンド信号出力端子1109−1、1109−2に供給する。
【0068】
このとき、一方のベースバンド信号出力端子1109−1から出力される信号はベースバンド信号の同相成分を表わし、他方のベースバンド信号出力端子1109−1から出力される信号はベースバンド信号の直交成分を表わしており、従って、ベースバンド信号は、同相成分を実数部とし、直交成分を虚数部とする複素数信号である。
【0069】
そこで、これらベースバンド信号出力端子1109−1、1109−2に現われたベースバンド信号が図示してない受信機の復調部を含む信号処理系に供給され、伝送されてきた情報が再生されることになるのであるが、このとき、これらベースバンド信号出力端子1109−1、1109−2に現われたベースバンド信号から、上記したプリアンブルパターンの識別と周波数偏差が検出されることになる。
【0070】
ここで、図1が本発明の一実施形態で、上記したベースバンド信号出力端子1109−1、1109−2に現われたベースバンド信号は、この図における入力端子101に入力される。
【0071】
このとき、ベースバンド信号は、上記したように、同相成分と直交成分からなる複素数信号であるが、ここでは、説明を簡単にするため、1個の入力端子101だけ示してある。
【0072】
ここで、この信号は、上記したように、1シンボル当たりNov 回、サンプリングされたベースバンド信号で、このとき、Nov は2以上の正整数である。
【0073】
なお、この図1において、入力端子101とシフトレジスタ114、スイッチ113、窓掛け回路102、プリアンブルパターン識別回路107、それにシンボルタイミング検出回路109は、上記した従来技術(特許文献1の図1)と同じなので、詳しい説明は省略する。
【0074】
図1において、まず、スイッチ113は、一定の時間間隔Nstep のサンプル周期に1回閉じ、これにより、シフトレジスタ114からNwin サンプルのデータs(0)、s(1)、……、s(Nwin−1)が取り出され、自己相関演算回路121と周波数偏差補正回路128に入力される。
【0075】
このとき、例えばオーバーサンプル比Nov=2、Nstep=8、Nwin=64である。ここで、Nwin はシフトレジスタ114の段数であり、従って正の整数である。
【0076】
そして、まず、自己相関演算回路121は、スイッチ113により取り出されてくるs(0)、s(1)、……、s(Nwin-1)のNwin 個のサンプルについて、自己相関r(m)の内のr(2Nov)を、上記した式(13)により演算し、その演算値(複素数)を位相検出回路122に入力する。
【0077】
そこで、位相検出回路122は、入力された自己相関r(2Nov)の位相θを、上記した式(18)により、−π≦θ<πの範囲で検出し、減算器129の(+)側入力端子に入力し、ここで、入力された位相θから定数値π/2を減算し、−π≦θ−π/2<πの範囲で位相θ−π/2を演算し、乗算器123の一方の入力端子に供給する。
【0078】
つまり、この減算器129では、位相θからπ/2を減算した結果がθ−π/2<−πとなったとき、この減算結果に2πを加算して乗算器123の一方の入力端子に入力することになる。
【0079】
乗算器123では、入力された位相θ−π/2に定数値fb/4πを乗算して周波数偏差Δfを演算し、それを周波数偏差補正回路128に入力する。このときの処理は式(19)で説明した通りであり、演算した周波数偏差Δfは周波数偏差出力端子111にも供給され、必要に応じて外部に出力される。
【0080】
そこで、周波数偏差補正回路128は、乗算器123から入力された周波数偏差Δfを用い、スイッチ113から入力されるNwin サンプルのベースバンド信号s(0)、s(1)、……、s(Nwin-1)について、式(20)に示すように、位相を1サンプルにつき−2πΔf/Novb ラジアンずつ回転させ、周波数偏差を補正する。
【数20】

【0081】

こうして、周波数偏差補正回路128から入力されたNwin サンプル補正信号s'(n)(n=0、1、2、……、Nwin-1)は、窓掛け回路102に入力され、ここで窓(例えばハミング窓:Hamming Window)を掛け、窓掛けされたベースバンド信号x(n)(n=0、1、2、……、Nwin-1)が全電力算出回路124とDFT演算回路126、127に入力される。
【0082】
そして、まず、全電力算出回路124では、式(12)で説明したように、入力されたNwin サンプルのベースバンド信号x(n)(n=0、1、2、……、Nwin-1)の全サンプルの振幅2乗値の和|x(0)|2+|x(1)|2+……+|x(Nwin-1)|2 を演算し、乗算器125の一方の入力端子に入力し、ここで定数値Nwin を乗じて乗算結果p=Nwin{|x(0)|2+|x(1)|2+……+|x(Nwin-1)|2 }をプリアンブルパターン識別回路107に入力する。
【0083】
一方、DFT演算回路126は、窓掛け回路102から入力されるNwin サンプルのベースバンド信号x(n)(n=0、1、2、……、Nwin-1)についてのDFT X(0)、X(1)、……、X(Nwin-1)の中で、−(3/8)fb の周波数成分であるX1=X(Nwin−3Nwin/8Nov)についてだけ演算し、その電力p1=|X1|2 をプリアンブルパターン識別回路107に入力し、このときの周波数成分X1 の位相φ1 はシンボルタイミング検出回路109に入力する。
【0084】
また、DFT演算回路127は、窓掛け経路102から入力されるNwin サンプルのベースバンド信号x(n)(n=0、1、2、……、Nwin-1)についてのDFT X(0)、X(1)、……、X(Nwin-1)の中で、(1/8)fb の周波数成分であるX2=X(Nwin/8Nov)についてだけ演算し、その電力p2=|X2|2 をプリアンブルパターン識別回路107に入力し、このときの周波数成分X2 の位相φ2 はシンボルタイミング検出回路109に入力する。
【0085】
そこで、まず、プリアンブルパターン識別回路107は、乗算器125から入力される乗算結果pと、DFT演算回路126、127から各々入力される電力p1、p2 から、従来技術(特許文献1の図1)と同様にしてプリアンブルパターンの識別を行い、その結果をプリアンブルパターン識別出力端子110に供給する。
【0086】
また、シンボルタイミング検出回路109は、DFT演算回路126、127から入力される位相φ1、φ2 から、これも従来技術(特許文献1の図1)と同様にしてシンボルタイミングを検出し、その結果をシンボルタイミング出力端子112に供給する。
【0087】
従って、この実施形態によれば、プリアンブルパターン識別出力端子110の出力により、プリアンブルのパターンが識別されたことが確認でき、シンボルタイミング出力端子112の出力により、シンボルタイミングが確認できるので、受信機は、容易に高速同期をとることができる。
【0088】
ところで、以上の説明では、自己相関演算回路121による自己相関の演算がr(2Nov)の演算によるものになっているが、r(2Nov)の代りにr(4Nov)、r(6Nov)、r(8Nov)の演算を用いても良い。
【0089】
このとき、減算回路129で減算すべき値は、式(19)から、r(4Nov)の場合はπになり、r(6Nov)の場合は(3/2)π、r(8Nov)の場合は、0(2πなので0でも良い)となり、また、乗算器123で乗ずべき値は、r(4Nov)の場合、fb/8π、r(6Nov)の場合でfb/12π、r(8Nov)の場合でfb/16πとなる。
【0090】
また、以上の説明は、プリアンブルが1001(2進数)の繰り返しパターンのときの実施形態についてのものであるが、プリアンブルが0110(2進数)の繰り返しパターンのときは次の通りになる。
【0091】
すなわち、この場合、自己相関r(m)は変り無く、r(0)、r(2Nov)、r(4Nov)、……の2シンボル毎に振幅2乗値がピークとなるが、この場合は位相が逆になるため、周波数偏差が無い場合、2シンボル前の瞬時値に対する位相差が常に−π/2となる。
【0092】
従って、r(0)の位相は0、r(2Nov)の位相は−π/2、r(4Nov)の位相は−πというように、ピーク値の位相が2シンボル毎に−π/2ずつ回転するため、減算回路129で減算すべき値は、r(2Nov)の場合−π/2、r(4Nov)の場合で−π、r(6Nov)の場合で−(3/2)π、r(8Nov)の場合で0(ここでも、−2πなので0で良い)となる。そして、乗算器123で乗ずべき値は、r(2Nov)の場合はfb/4π、r(4Nov)の場合はfb/8π、r(6Nov)の場合はfb/12π、r(8Nov)の場合ではfb/16πとなる。
【0093】
また、この場合は、プリアンブルパターンの周波数成分が、−(1/8)fb と(3/8)fb になる。そこで、DFT演算回路126では−(1/8)fb の周波数成分であるX(Nwin−Nwin/8Nov)を演算し、DFT演算回路127では、(3/8)fb の周波数成分であるX(3Nwin/8Nov)を演算することになる。
【0094】
更に、以上の説明は、変調方式がπ/4シフトQPSK方式で、プリアンブルが1001(2進数)の繰り返しパターンのときの実施形態であるが、本発明の実施形態としては、変調方式がQPSK方式又はQAM方式で、上記した従来技術(特許文献1の図4)に示すように、対角する2つの最外角点を1シンボル置きに繰り返すパターンに対応したものも考えられる。
【0095】
この場合、プリアンブル信号は2シンボル周期の信号で、自己相関r(m)は、r(0)、r(2Nov)、r(4Nov)、……の2シンボル毎に振幅2乗値がピークとなり、従って、周波数偏差が無い場合、2シンボル前の瞬時値に対して常に同位相になるため、r(2Nov)、r(4Nov)、……の位相は0である。
【0096】
そこで、この場合、減算回路129は不要で、省略することができる。また、この場合、プリアンブルの周波数成分は±(1/2)fb になる。そこで、このとき、DFT演算回路126は−(1/2)fb の周波数成分であるX1=X(Nwin−Nwin/2Nov)を演算し、DFT演算回路127は(1/2)fb の周波数成分であるX2=X(Nwin/2Nov)を演算することになる。
【0097】
ところで、上述の実施形態では、自己相関演算回路121、位相検出回路122、減算器129、乗算器123による周波数偏差検出と、周波数偏差補正回路128による周波数偏差補正が、入力端子101に入力される信号がプリアンブル以外の信号のときも行なわれ、この補正結果を用いてプリアンブル識別を行っている。
【0098】
そうすると、この場合の周波数偏差補正は正しい結果にならず、プリアンブルパターン識別回路107によるプリアンブルパターン識別に影響を及ぼすように考えられるかも知れない。
【0099】
しかし、全電力算出回路124の演算結果に関しては、周波数偏差補正回路128は入力信号の位相を回転させるだけであり、従って、影響を及ぼす虞れは無い(pの値には影響しない)。
【0100】
また、DFT演算回路126、127の演算に関しては、周波数偏差補正回路128により周波数成分がシフトされるので、結果として別の周波数成分の電力が算出されてしまう。
【0101】
しかし、プリアンブル以外の信号の場合、帯域内では、ガードタイムを除いた期間で全周波数成分がほぼ均等になり、ガードタイムのとき1種の周波数成分になる(オール0がマッピングされているので)かの何れかである。
【0102】
従って、これら2種の周波数成分が算出されても、それらの電力和が全電力の大部分を占めることはなく、従って、誤検出をもたらすような影響が発生する虞れはない。
【0103】
ところで、上述した実施形態では、FFT出力の全電力算出に代えて窓掛け出力の全電力算出に置き換え、FFT演算に代えて2種の周波数成分だけのDFT演算に置き換えているので、演算量の削減が図られている。
【0104】
そこで、以下、この点について説明すると、まず、FFT演算の場合、ポイント数をNwin とすると、2Nwin log2win 回の積和演算を行う必要があり、従って、従来技術では、窓長Nwin=64の場合、2×64log264=768回、窓長Nwin=128の場合は、2×128log2128=1792回の積和演算を必要とした。
【0105】
一方、上記実施形態では、FFT演算を2種の周波数成分によるDFT演算に置き換えた結果、自己相関演算と位相検出処理が追加されている。しかし、このDFTによる1成分の演算はNwin 回の積和演算で済むので、自己相関演算は約Nwin 回の積和演算(正確にはNwin−2Nov 回)になり、位相検出処理は約300回程度の積和演算に相当する演算量(DSPによるソフトウェア処理の場合)になる。
【0106】
そうすると、上記実施形態の場合、Nwin=64のとき、DFT演算が2×64=128回で自己相関演算がNwin=64回、位相検出処理に300回、合計64+128+300=492回の積和演算に相当する演算量になり、従来技術の768回の演算量に比較して大幅に演算量が低減される。
【0107】
また、同じくNwin=128の場合、DFT演算が2×128=256回、自己相関演算がNwin=128回、位相検出処理に300回、合計256+128+300=684回の積和演算に相当する演算量になるので、従来技術の1792回の演算量に比較して、更に大幅に演算量が低減されることになり、このことから、上記実施形態の場合、DFT(FFT)のポイント数Nwin が多くなる程、演算量削減の効果は大きくなることが判る。
【0108】
ところで、上述した実施形態における入力ベースバンド信号の自己相関には、シンボルタイミングの同期状態に関わらず、入力ベースバンド信号の周期性を示すピーク値が存在する。
【0109】
従って、上記実施形態においては、自己相関演算回路121と位相検出回路122、減算器129、それに乗算器123による周波数偏差の検出を、シンボルタイミングの同期状態に関わらず行うことができる。
【0110】
更に、上述の実施形態の場合、周波数偏差の検出精度は位相検出回路122の処理方法に依存し、DFTのポイント数(窓長)Nwin には依存しない。
【0111】
このため、従来技術では、周波数偏差の検出精度を上げるために、FFT(或いはDFT)のポイント数を上げるか、FFT(或いはDFT)出力の補間処理を必要としたが、上述の実施形態ではその必要がなく、この結果、演算量が更に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明による周波数偏差検出方法の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】同期バーストフレームのフレーム構造の一例を示す説明図である。
【図3】通信チャネルフレームのフレーム構造の一例を示す説明図である。
【図4】送信パターンの一例を示す説明図である。
【図5】本発明が対象とする受信機の一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0113】
101:入力端子
102:窓掛け回路
107:プリアンブルパターン識別回路
109:シンボルタイミング検出回路
110:プリアンブルパターン識別出力端子
111:周波数偏差出力端子
112:シンボルタイミング出力端子
113:スイッチ
114:シフトレジスタ
121:自己相関演算回路
122:位相検出回路
123:乗算器
125:乗算器
124:全電力算出回路
126:DFT演算回路(−(3/8)fb 成分用)
127:DFT演算回路((1/8)fb 成分用)
128:周波数偏差補正回路
129:減算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送すべき情報にプリアンブルが付加され、デジタル変調された信号を受信し、受信したベースバンド信号から周波数偏差を検出する方法において、
前記ベースバンド信号を1シンボル当たりNov回(Nov は2以上の正の整数)オーバーサンプリングし、
任意の連続したNwinサンプル(Nwinは、2以上の正の整数)のベースバンド信号を抽出し、
該抽出したNwin サンプルの信号x(n)(ここで、n=0,1,……,Nwin-1)の自己相関r(m)=Σx(n)x*(n-m)(Σ:n=m,m+1,……,Nwin-1での和、m:負でない整数、*:複素共役を表す)の内、r(Nptnov)(Nptnは、プリアンブルパターンによって決まる正の整数)を演算し、
該r(Nptnov)の位相θを算出し、該位相θより周波数偏差を算出することを特徴とする周波数偏差検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−14380(P2006−14380A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274161(P2005−274161)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【分割の表示】特願2003−167966(P2003−167966)の分割
【原出願日】平成15年6月12日(2003.6.12)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】