説明

周波数可変フィルタ回路の制御方法及び受信装置

【課題】受信信号の周波数に対応するキャパシタバンク容量値を簡素な演算処理で算出できる周波数可変フィルタ回路の制御方法及び、受信装置を提供すること。
【解決手段】
インダクタとキャパシタバンクにより構成され、可変容量手段との共振回路で構成された周波数可変フィルタの中心周波数を、前記キャパシタバンクの容量値Yは、指定周波数に対し、下記式(A)を使用して表わされ、係数α、β、A、B、C、・・・を決定することによって、前記周波数可変フィルタ回路の中心周波数を調整する。
Y=A×(α−X)+B×(α−X)(n−1)×C(α−X)(n−2)+…+β 式(A)
X:指定周波数データ
Y:キャパシタバンク容量値
α:オフセット周波数係数
β:周波数カバー範囲の上限又は下限周波数に対する周波数ズレ分を補正する補正係数
A、B、C、…:指定周波数に対する中心周波数の周波数ズレ分を補正する補正係数
n:2以上の正の整数

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューナ等に用いられる周波数可変フィルタ回路の制御方法及び受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ受信機等に用いられるチューナでは、並列共振回路で構成されたフィルタ回路が用いられている。かかるフィルタ回路では、容量値を調整することにより、フィルタ中心周波数を所望の受信周波数帯域に対応したフィルタ中心周波数に調整することができる。従来、複数のキャパシタからキャパシタバンクを構成し、キャパシタバンクの容量値を切り替えることにより、フィルタ中心周波数を調整できる周波数可変フィルタ回路が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる周波数可変フィルタ回路は、所望の受信周波数に応じた信号を発振する第1の発振器と、フィルタ中心周波数の調整に用いる信号を発振する第2の発振器と、インダクタ及びキャパシタバンクを備える1次側及び2次側同調回路と、同調回路のインダクタ及びキャパシタバンクのオン/オフを制御するアップダウンカウンタと、同調回路から出力される信号を検波する検出回路と、検出回路から出力された検波信号を検出し、アップ/ダウンカウント信号を出力するコントローラとを備えて構成される。
【0004】
信号を受信する際には、第1の発振器から所望の受信周波数に応じた信号が発振されると共に第2の発振器から受信信号と同じ周波数の信号が発振される。受信信号は、第1及び第2の発振器からの発振信号によってIF信号に変換される。IF信号は検出回路によって検波信号に変換され、この検波信号がコントローラに入力される。コントローラは、検波信号に応じてアップカウント信号またはダウンカウント信号をアップダウンカウンタに出力する。アップダウンカウンタは、アップ/ダウンカウント信号に応じて1次側及び2次側同調回路のキャパシタバンクの容量値を切替えてフィルタ中心周波数を調整する。以上のようにして、所望の受信周波数に応じたフィルタ中心周波数が得られるようにキャパシタバンク容量値を調整できるように構成されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の周波数可変フィルタ回路は、フィルタ中心周波数調整用の発振回路及びPLL回路等が必要であり、回路の小型化が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−295483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、所望の受信周波数に応じたフィルタ中心周波数に調整できるキャパシタバンクの容量値を演算処理で算出できれば、フィルタ中心周波数調整用の発振回路及びPLL回路等を用いる必要がなく、回路を小型化できる。演算処理でキャパシタバンクの容量値を算出する場合、所望の受信周波数に同調できるフィルタ中心周波数(以下、指定周波数ともいう)として選択し、この指定周波数に対応するキャパシタバンクの容量値を算出し、算出されたキャパシタバンクの容量値に調整することにより、所望の受信周波数を受信できる。
【0008】
しかしながら、周波数可変フィルタ回路において、キャパシタバンクの容量値を演算によって算出し、指定周波数に応じたフィルタ中心周波数に制御しようとした場合、キャパシタバンク容量値とフィルタ中心周波数との関係が線形(直線)にならず、複雑な関数を用いた演算が必要となる。具体的には下記式(7)に示す指数関数の関係となり、指定周波数に対応するキャパシタバンクの容量値の算出には、高度な演算処理が必要であり、演算処理の負荷が大きい問題があった。また、式(7)中の補正係数a〜補正係数eは、小数を含む範囲の広い数値となるため、デジタルの演算が困難であることに加え、補正係数a〜補正係数eを保存するメモリの容量が大型化する問題があった。
【0009】
【数1】

Y:キャパシタバンク容量値
X:指定周波数
a−e:補正係数(数値幅:0.01〜1)
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、受信信号の周波数に対応するキャパシタバンク容量値を簡素な演算処理で算出できる周波数可変フィルタ回路の制御方法及び受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の周波数可変フィルタ回路の制御方法は、インダクタと可変容量手段との共振回路で構成された周波数可変フィルタ回路の中心周波数を決定するための制御方法であって、前記可変容量手段は、キャパシタバンクにより構成され、前記キャパシタバンクの容量値Yは、指定周波数に対し、下記式(A)を使用して表わされ、係数α、β、A、B、C…を決定することによって、前記周波数可変フィルタ回路の中心周波数が決定されることを特徴とする。
Y=A×(α−X)+B×(α−X)(n−1)×C(α−X)(n−2)+…+β 式(A)
X:指定周波数
Y:キャパシタバンクの容量値
α:オフセット周波数係数
β:カバー範囲の上限又は下限周波数に対する周波数ズレ分を補正する補正係数
A、B、C、…:指定周波数に対する中心周波数の周波数ズレ分を補正する補正係数
n:2以上の正の整数
【0012】
この方法によれば、所望の受信信号に対応するフィルタ中心周波数となるキャパシタバンク容量値を指数関数及び小数を用いずに算出できるので、簡素な演算処理で受信信号の周波数に対応するキャパシタバンクの容量値を算出できる。
【0013】
本発明は、上記周波数可変フィルタ回路の制御方法において、前記係数α、β、A、B及びC…のうち、少なくとも1つの係数は、調整工程により決定され、他の係数は所定の定数を有していることを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、所定の範囲を有する各係数α、β、A、B及びC…の中で、演算処理時に複数の係数を所定の定数として扱うことができるので、メモリ内に保存する係数のデータ量を削減できる。
【0015】
本発明の受信装置は、インダクタと可変容量手段との共振回路で構成された周波数可変フィルタ回路を備えた受信装置において、前記可変容量手段は、キャパシタバンクにより構成され、前記キャパシタバンクの容量値Yは、指定周波数に対し、下記式(B)を使用して表わされ、係数α、β、A、B、C、・・・を決定することによって、前記周波数可変フィルタ回路の中心周波数が決定されることを特徴とする。
Y=A×(α−X)+B×(α−X)(n−1)×C(α−X)(n−2)+…+β 式(B)
X:指定周波数
Y:キャパシタバンクの容量値
α:オフセット周波数係数
β:カバー範囲の上限又は下限周波数に対する周波数ズレ分を補正する補正係数
A、B、C、…:指定周波数に対する中心周波数の周波数ズレ分を補正する補正係数
n:2以上の正の整数
【0016】
この構成によれば、周波数調整用の発振回路及び位相同調回路等を用いずに周波数可変フィルタ回路を構成できるので、受信装置の回路規模を縮小することができる。
【0017】
本発明は、上記受信装置において、前記係数α、β、A、B、C、・・・のうち、少なくとも1つの係数は、調整工程により決定され、前記係数を記憶するメモリを備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、所定の範囲を有する各係数α、β、A、B及びC…の中で、演算処理時に少なくとも1つの係数を所定の定数とすることができるので、メモリに保存する係数のデータ量を削減できる。
【0019】
本発明は、上記受信装置において、複数の周波数バンドに対して前記周波数可変フィルタをそれぞれ備え、この周波数可変フィルタ回路のフィルタ中心周波数は、上記式(B)に従ってそれぞれ調整されることを特徴とする。この構成によれば、それぞれの周波数可変フィルタ回路を各周波数帯域に割り当てることができるので、各周波数可変フィルタ回路を切り替えることによって、異なる周波数帯域の信号を1つの受信装置で受信することができる。
【0020】
本発明は、上記受信装置において、前記周波数可変フィルタ回路を介してテレビジョン放送信号を受信することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、受信信号の周波数に対応するキャパシタバンク容量値を簡素な演算処理で算出できる周波数可変フィルタ回路の制御方法及び受信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る受信装置の概念図である。
【図2】本発明の実施の形態においてフィルタ中心周波数とキャパシタバンク容量値との相関を示す概念図である。
【図3】本発明の実施の形態において式(1)の導出の概念図である。
【図4(a)(b)】(a)本発明の実施の形態において式(1)の係数αを用いる概念を示す図、(b)式(1)の係数βを用いる概念を示す図である。
【図4(c)】本発明の実施の形態において式(1)の係数A、B及びC…を用いる概念を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係るテレビジョンチューナの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
尚、以下の説明において、キャパシタバンク容量値に対応するフィルタ中心周波数の表現として指定周波数とフィルタ中心周波数とを適時使い分けるが、以下のように定義する。指定周波数とは所望の受信周波数に応じて指定されるフィルタ中心周波数を意味し、フィルタ中心周波数とは実際の周波数可変フィルタ回路のフィルタ中心周波数を意味するものとして説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る受信装置の演算の概念図である。本実施の形態に係る受信装置は、並列に接続されたキャパシタバンク11及びインダクタL1を備えた周波数可変フィルタ回路12と、キャパシタバンク容量値を算出する演算回路13と、演算回路13での演算に使用されるデータを保存するメモリ14と、所望の受信周波数に対応する指定周波数をIC外から入力するICバス15とを備えて構成される。
【0025】
所望の受信周波数に対応する指定周波数は、図示されない外部のコントローラ等からシリアルバスとしてのICバス15を介して演算回路13に入力される。演算回路13では、指定周波数及びメモリ14内のデータを用いて指定周波数に対応するキャパシタバンク容量値が算出される。演算回路13で算出されたキャパシタバンク容量値は、周波数可変フィルタ回路12に出力され、算出されたキャパシタバンク容量値を基にキャパシタバンク11の容量値が調整される。尚、本実施の形態において、指定周波数としては、PLL回路で得られる周波数データを用いることもできる。
【0026】
次に、図2(a)、(b)を参照して演算回路13での演算処理の概念を説明する。図2(a)は、フィルタ中心周波数(指定周波数)とキャパシタバンク容量値との相関を示す図である。周波数可変フィルタ回路においては、同図に示すように、フィルタ中心周波数(指定周波数)とキャパシタバンク容量値との間の相関は指数関数的な曲線となる。このため、フィルタ中心周波数(指定周波数)に応じたキャパシタバンク容量値の算出には、指数関数を用いた演算処理が必要となる。
【0027】
一方、図2(b)は、本実施の形態における演算処理を介した指定周波数(フィルタ中心周波数)とキャパシタバンク容量値との相関を示す概念図である。本実施の形態においては、図2(a)に示す指定周波数(フィルタ中心周波数)とキャパシタバンク容量値との曲線関係の相関を下記の式(1)に示す多次方程式を用いて演算処理することにより、直線関係の相関へと変換して演算処理する。演算に際しては、指定周波数とメモリ内に保存された各種係数α、β、A、B及びC…とを用いることにより、指数関数及び小数等、複雑な演算をすることなく、四則演算のみで指定周波数に応じたキャパシタバンク容量値が算出できるように構成されている。
【0028】
Y=A×(α−X)+B×(α−X)(n−1)×C(α−X)(n−2)+…+β 式(1)
X:指定周波数
Y:キャパシタバンク容量値
α:オフセット周波数係数
β:周波数カバー範囲の上限又は下限周波数に対する周波数ズレ分の補正係数
A、B、C、…:指定周波数に対するフィルタ中心周波数の周波数ズレ分の補正係数
n:2以上の正の整数
【0029】
以下、図3(a)、(b)及び図4(a)(b)、図4(c)を参照して式(1)の導出の概念を説明する。尚、図3(a)、(b)は、式(1)の多次方程式を導出する概念を示す図であり、図4(a)、(b)は係数α、βを用いる概念を示す図であり、図4(c)は、係数A、B及びC…を用いる概念を示す図である。
【0030】
本実施の形態においては、指定周波数とキャパシタバンク容量値と間の相関を多項式補間等、数学的手法によって直線化する。図3(a)は、フィルタ中心周波数とキャパシタバンク容量値との間の曲線関係の相関を実線L1に変換した例である。この場合、曲線上の白丸301〜白丸304の4点を算出し、これらの関係を数学的に直線化することにより、多次方程式として実線L1を導出できる。この場合、実線L1は3次方程式となる。
【0031】
図3(b)は、変曲点F0を用いて曲線上の白丸305〜白丸312の8点を2本の直線に変換した例を示している。この場合、変曲点F0よりフィルタ中心周波数の大きい白丸305〜白丸308までの4点を実線L2として多次方程式に変換し、変曲点F0よりフィルタ中心周波数の小さい白丸309〜白丸312までの4点を実線L3として多次方程式に変換する。演算処理の際には、フィルタ中心周波数が変曲点F0より大きい領域では、実線L2の多次方程式を用いて演算処理を行い、変曲点Fより小さい領域では、実線L3の多次方程式を用いて演算処理を行う。この場合、実線L2及びL3は共に3次方程式となる。
【0032】
尚、図3(b)の場合、8点を1本の多次方程式(7次方程式)として点線L4に変換することもできるが、図3(b)のように曲線を2本以上の直線として変換することにより、演算に用いる多次方程式の次数を低減できるので、演算の負荷を低減できると共に1本の直線とした場合と比較し、誤差が小さくなる。特にフィルタ中心周波数とキャパシタバンク容量値との間の相関関係の曲線の曲率が大きい場合には、2本以上の多次方程式を用いて演算することにより、演算の負荷を軽減できると共に演算の精度を向上させることができる。
【0033】
以上のようにして、本実施の形態においては、フィルタ中心周波数に対応するキャパシタバンク容量値の相関を線形のn次の多次方程式として導出する。
【0034】
図4(a)の実線L1は、図3(a)に示す処理によりフィルタ中心周波数とキャパシタバンク容量値との相関を直線化した例を示している。この場合、フィルタ中心周波数が増大すると共にキャパシタバンク容量値が減少する多次方程式となる。一方、図中の一点鎖線L5は、実線L1の関数にオフセット補正係数αを導入して直線の傾きを反転させた例である。この場合、演算処理上はフィルタ中心周波数の増大と共に、キャパシタバンク容量値が増大する関係となるので、演算処理の負荷を軽減できる。以上のように、本実施の形態においては、オフセット周波数係数αを導入することにより、指定周波数とキャパシタバンク容量値との相関を反転できるので、演算処理上の負荷を軽減することができる。
【0035】
図4(b)は、周波数可変フィルタ回路の同調周波数範囲及び係数βを用いる概念を示す図である。本実施の形態においては、所定のフィルタ中心周波数に対して、同調できる周波数の上限値と下限値とが存在する。仮に、フィルタ中心周波数が図中の直線L6のように変化する際には、同調できる周波数帯域の上限値は点線L7となり、下限値は点線L8となる。したがって、矢印R1に示すような点線L7と点線L8との間の範囲が周波数可変フィルタ回路の同調周波数範囲内となる。
【0036】
この周波数可変フィルタの同調周波数範囲は、周波数可変フィルタ回路の内部容量のばらつきや、インダクタの性能のばらつきによって変化し、周波数可変フィルタ回路毎に誤差が生じる。このため、実際の周波数可変フィルタ回路においては、フィルタのカバー範囲は、矢印R1に示すように一定にはならず、周波数に応じて変化する。
【0037】
また、本実施の形態においては、演算処理によってフィルタ中心周波数とキャパシタバンク容量値との曲線関係の相関を直線化するため、演算に使用する指定周波数と演算で算出して調整される実際のフィルタ中心周波数との間には誤差が生じる。この誤差は、各周波数での演算処理前の曲線と演算処理後の直線との間の距離及び傾きの差に由来する。
【0038】
図中の実線L9、L10は、演算処理で調整されるフィルタ中心周波数とキャパシタバンク容量値を示している。この場合、指定周波数を用いた演算によって調整されるフィルタ中心周波数は、実線L9、L10上の数値となる。したがって、実線L9上の点P1及び実線L10上の点P2は、フィルタのカバー範囲R1外となる。この場合、実線L9の演算式及び実線L10の演算式に、演算式の切片に相当する係数βを加えてD1又はD2に移動させることにより、点P1及び点P2においても演算処理によって同調周波数範囲内に調整することができる。
【0039】
図4(c)は、係数A、B及びC…を用いる概念を示す図である。本実施の形態においては、上述したキャパシタ及びインダクタの性能のばらつきにより、フィルタのカバー範囲が変化する。図中の実線L10は、図4(b)の実線L10を示している。この場合フィルタのカバー範囲は、矢印R2の範囲となる。一方、多次方程式は、係数A、B及びC…の数値を調整することにより、演算式の傾きθ1を変化させることができる。この場合、実線L10の多次方程式の係数A、B及びC…を調整して一点鎖線L12のような傾きθ2にすることにより、フィルタのカバー範囲を矢印R3の範囲まで拡大することができる。以上のように本実施の形態においては、係数α、β、A、B及びC…を用いることにより、周波数可変フィルタ回路の同調周波数範囲及びフィルタのカバー範囲を拡大することができる。
【0040】
また、本実施の形態においては、係数α、β、A、B、及びC…の少なくとも1つの係数を調整工程により決定することにより、他の係数は所定の定数を用いて演算を行うことができる。この場合、特に演算の影響が大きい多次方程式の次数の大きいA、B等を調整工程で決定することにより、更に演算の負荷を軽減できる。尚、本実施の形態においては、これらの係数α、β、A、B及びC…は、メモリ内に係数のデータを保存して使用することができる。
【0041】
更に、本実施の形態においては、フィルタ中心周波数とキャパシタバンク容量値との相関を直線化することにより、フィルタ中心周波数の変化量とキャパシタバンク容量値の調整量とがフィルタ中心周波数の広範囲にわたってほぼ等間隔に変化する。このため、フィルタ中心周波数が高い領域で指定周波数が一定値変化した時の補正に用いる係数α、β、A、B、及びC…とフィルタ中心周波数が低い領域で指定周波数が一定値変化した時の補正に用いる係数α、β、A、B、及びC…との差が小さくなり、補正に用いる係数の数値幅を削減することができる。一方、フィルタ中心周波数とキャパシタバンク容量値との間の相関が曲線関係の場合、フィルタ中心周波数が高い領域で指定周波数が一定値変化した場合のキャパシタバンク容量値の調整量とフィルタ中心周波数が低い領域内で指定周波数が一定値変化した場合のキャパシタバンク容量値の調整量とが大きく異なるため、補正に用いる係数の数値幅を広くとる必要がある。したがって、本実施の形態に係る周波数可変フィルタ回路の制御方法によれば、メモリ内に保存する係数のデータ量を更に削減することができる。
【0042】
以上のように、本実施の形態においては、フィルタ中心周波数とキャパシタバンク容量値との相関を演算処理上、直線化することにより、簡素な演算処理によって周波数可変フィルタ回路を制御することができる。
【0043】
また、本実施の形態は、周波数調整用のPLL回路や、発振器が不要になる。また、指数関数及び小数を用いず、整数のみを用いた四則演算によって演算処理できるので、アナログ演算回路だけでなく、デジタル演算回路で計算可能なため、回路規模が小さくすることができる。
【0044】
以上説明した周波数可変フィルタ回路の制御方法は、テレビジョンチューナ等、各種受信装置の同調回路に用いることができる。以下、図5を参照して実施例に係るテレビジョンチューナについて説明する。
【0045】
図5は、本実施例に係るテレビジョンチューナの機能ブロック図である。アンテナ51にはRFアンプ52の入力端が接続され、RFアンプ52の出力端は、切替え回路53に接続されている。切替え回路53には、VHF−Low用周波数可変フィルタ回路54、VHF−High用周波数可変フィルタ回路55及びUHF用周波数可変フィルタ回路56が接続される(以下、周波数可変フィルタ回路54〜56とする)。周波数可変フィルタ回路54〜56の出力端は、周波数変換回路57に接続され、周波数変換回路57には局部発振回路58が接続されている。周波数変換回路57の出力端は、チューナの出力端子59に接続されている。各周波数可変フィルタ回路54〜56にはICバス60を介してコントローラ61が接続される。コントローラ61には、切替え回路53及び局部発振回路58が接続されている。
【0046】
次に本実施例に係るテレビジョンチューナにおいて、周波数帯域のテレビジョン放送信号を受信する際の動作について説明する。アンテナ51で受信したテレビジョン放送信号は、RFアンプ52で増幅された後、切替え回路53に入力される。切替え回路53は、コントローラ60によって所望の受信周波数帯域に応じた周波数可変フィルタ回路54〜56に接続が切替えられ、受信信号は、周波数可変フィルタ回路54〜56のいずれかに入力される。フィルタ回路54〜56内のIC62〜64には、所望の受信周波数に応じた指定周波数が、コントローラ60からIC61バスを介して入力され、指定周波数に応じたキャパシタバンク容量値が算出されると共に、フィルタ中心周波数の調整が行われる。周波数可変フィルタ回路54〜56のいずれかでフィルタ処理された受信信号は、周波数変換回路57に入力される。周波数変換回路57に入力された受信信号は、局部発振回路58からの発振信号と混合され、所望の受信周波数帯域が取り出されて出力端59より後段回路へ出力される。局部発振回路58の発振周波数はコントローラ60によって制御される。
【0047】
次に周波数可変フィルタ回路54〜56のIC62〜64内での演算処理に関して説明する。本実施の形態に係るテレビジョンチューナにおいては、下記式(2)〜式(6)の多次方程式を用いて指定周波数に応じたキャパシタバンク容量値を算出する。VHF−Low周波数帯域の信号の受信には、式(2)を用いて行い、VHF−High周波数帯域の信号の受信には、式(3)及び式(4)を用いて行い、UHF周波数帯域の信号の受信には、数式(5)及び数式(6)を用いて行う。式(3)から式(4)への切替えはVHF−High周波数帯域に変曲点F1を設定して行われる。また式(5)から式(6)への切替えは、UHF周波数帯域に変曲点F2を設定して行われる。尚、下記式(2)〜式(6)は、上記式(1)をテレビジョンチューナ用に変換したものである。
【0048】
Y1=INT[{A×(α−X)−B×(α−X)}/1000]+C×(α−X)−D 式(2)
Y2=INT[{A×(α−X)−(B×10)×(α−X)+(C×1000)×(α−X)}/10000000]−D×(α−X)+E 式(3)
Y3=INT[{A×(α−X)−(B×10)×(α−X)}/10000]−C×(α−X)+D 式(4)
Y4=INT[{A×(α−X)−B×(α−X)}/100000000]+INT[C×(α−X)/1000]−D 式(5)
Y5=INT[{A×(α−X)−(B×100)×(α−X)}/1000000]+C×(α−X)−D 式(6)
X:指定周波数
Y:キャパシタバンクの容量値
α:オフセット周波数係数
A、B、C、…:補正係数
【0049】
式(2)〜式(6)中では、次数の大きな項であるA、B及びCの項に対して10000000で除算することにより演算処理を軽減している。例えば、データ量が10ビットのデータ等の場合、そのまま除算すると数値が倍々に増え、データ保持のためのレジスタが増大する。このため、一定以上の数値で除算することにより、データの保持量を削減している。また、下位7ビットの計算結果は削除する。本実施例においては、1/10000000という大きな除算回路が入っており、下位ビットの演算結果はほとんど関与しないため、削除することによって演算処理を軽減している。
【0050】
これらの式(2)〜式(6)及び各係数α、β、A、B及びC…は、IC62〜64のメモリ内に保存され、演算処理に応じて演算回路で使用される。尚、各係数α、β、A、B及びC…のうち少なくとも1つの係数は、調整工程によって決定された係数をメモリ内に記憶し、演算処理の際にメモリ内に保存された係数を用いて周波数可変フィルタ回路の制御を行うことができる。
【0051】
また、本実施例においては、式(2)〜式(6)に用いられる係数A、B、C、D及びEはのうち、少なくとも2つ用いることで演算処理を行うことができる。用いる係数の数を増やすことにより演算処理を軽減することができる。
【0052】
本発明は上述した実施の形態及びその変形例に限定されるものではない。例えば、指数関数の線形化は多項式補間に制限されず、指数関数を線形化できる演算処理であれば特に制限されない。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、テレビジョンチューナ等、各種周波数可変フィルタ回路を備えた機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
11 キャパシタバンク
12 周波数可変フィルタ回路
13 演算回路
14 メモリ
15、61 ICバス
51 アンテナ
52 RFアンプ
53 切替え回路
54 VHF−Low用周波数可変フィルタ回路
55 VHF−High用周波数可変フィルタ回路
56 UHF用周波数可変フィルタ回路
57 周波数変換回路
58 局部発振回路
59 出力端
60 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタと可変容量手段との共振回路で構成された周波数可変フィルタ回路の中心周波数を決定するための制御方法であって、
前記可変容量手段は、キャパシタバンクにより構成され、前記キャパシタバンクの容量値Yは、指定周波数に対し、下記式(A)を使用して表わされ、係数α、β、A、B、C、・・・を決定することによって、前記周波数可変フィルタ回路の中心周波数が決定されることを特徴とする周波数可変フィルタ回路の制御方法。
Y=A×(α−X)+B×(α−X)(n−1)×C(α−X)(n−2)+…+β 式(A)
X:指定周波数
Y:キャパシタバンクの容量値
α:オフセット周波数係数
β:カバー範囲の上限又は下限周波数に対する周波数ズレ分を補正する補正係数
A、B、C、…:指定周波数に対する中心周波数の周波数ズレ分を補正する補正係数
n:2以上の正の整数
【請求項2】
前記係数α、β、A、B、C、・・・のうち、少なくとも1つの係数は、調整工程により決定され、他の係数は所定の定数を有していることを特徴とする請求項1記載の周波数可変フィルタ回路の制御方法。
【請求項3】
インダクタと可変容量手段との共振回路で構成された周波数可変フィルタ回路を備えた受信装置において、前記可変容量手段は、キャパシタバンクにより構成され、前記キャパシタバンクの容量値Yは、指定周波数に対し、下記式(B)を使用して表わされ、係数α、β、A、B、C、・・・を決定することによって、前記周波数可変フィルタ回路の中心周波数が決定されることを特徴とする受信装置。
Y=A×(α−X)+B×(α−X)(n−1)×C(α−X)(n−2)+…+β 式(B)
X:指定周波数
Y:キャパシタバンクの容量値
α:オフセット周波数係数
β:カバー範囲の上限又は下限周波数に対する周波数ズレ分を補正する補正係数
A、B、C、…:指定周波数に対する中心周波数の周波数ズレ分を補正する補正係数
n:2以上の正の整数
【請求項4】
前記係数α、β、A、B、C、・・・のうち、少なくとも1つの係数は、調整工程により決定され、前記係数を記憶するメモリを備えることを特徴とする請求項3記載の受信装置。
【請求項5】
複数の周波数バンドに対して前記周波数可変フィルタ回路をそれぞれ備え、この周波数可変フィルタ回路のフィルタ中心周波数は、上記式(B)に従ってそれぞれ調整されることを特徴とする請求項3または請求項4記載の受信装置。
【請求項6】
前記周波数可変フィルタ回路を介してテレビジョン放送信号を受信することを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載の受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)(b)】
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【図4(c)】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−178138(P2010−178138A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19606(P2009−19606)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】