説明

周辺地図作成方法および融合地図作成方法ならびに移動体の走行支援方法

【課題】効率的に周辺地図や融合地図を作成することにより、移動体の走行支援に係る処理量の軽減を図ること。
【解決手段】移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定過程と、セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成過程と、周辺地図の方角が周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図の方角と一致するように、周辺地図を回転させる地図回転過程と、広域地図と回転後の周辺地図とを重ね合わせ、広域地図に周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合過程と、融合地図を用いて移動体を目的地まで誘導する誘導過程とを有し、領域設定過程では、移動体の速度に応じて周辺地図領域の面積または/およびグリッドの間隔を異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の前方に存在する障害物の位置が書き込まれた周辺地図を作成するための周辺地図作成方法および該周辺地図を用いた融合地図を作成する融合地図作成方法ならびに上記融合地図を用いて移動体の走行を支援するための移動体の走行支援方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、移動体に設けられた複数のセンサによって取得された検出データに基づいて、移動体の周囲の地図(以下「周辺地図」という。)を作成し、この周辺地図に基づいて障害物を回避する移動経路を選択しながら自律走行を行う移動体の技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、現在位置から目的地までの経路を作成するための広域地図と、自己の周辺に存在する障害物などの情報が反映された局所的な地図である周辺地図とを用いて、自己の周辺環境を把握し、進行方向にある障害物を回避しながら目的地までの走行を行う技術が開示されている。具体的には、移動体を中心として所定半径の円を描き、その円内に、移動体に搭載されたセンサによって検出された障害物を書き込むことによって、周辺地図を作成し、この周辺地図と広域地図とを重ね合わせることにより融合地図を作成し、この融合地図を用いて障害物回避経路を含めた目的地までの経路検索を行っている。
【特許文献1】特開2005−310043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている発明では、移動体の走行状態にかかわらずに均一な周辺地図の作成処理や融合地図の作成処理を行っているため、処理に無駄が生じており、移動体の走行支援を効率的に行うことができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、効率的に周辺地図や融合地図を作成することにより、移動体の走行支援に係る処理量の軽減を図ることのできる周辺地図作成方法および移動体の走行支援方法ならびに移動体の走行支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、移動体に搭載されたセンサによって検知された障害物の情報に基づいて移動体の周辺地図を作成する周辺地図作成方法であって、前記移動体の周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定過程と、前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成過程とを有し、前記領域設定過程では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積を異ならせる周辺地図作成方法を提供する。
【0007】
このように、移動体の速度に応じて周辺地図領域の面積を異ならせるので、各速度において安全性を確保するのに足りる最小範囲に周辺地図領域を設定することで、処理の無駄を省き、効率的に周辺地図を作成することが可能となる。これにより、周辺地図作成に係る処理量の軽減を図ることができる。
【0008】
本発明は、移動体に搭載されたセンサによって検知された障害物の情報に基づいて移動体の周辺地図を作成する周辺地図作成方法であって、前記移動体の周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定過程と、前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成過程とを有し、前記領域設定過程では、前記移動体の速度に応じて前記グリッドの間隔を異ならせる周辺地図作成方法を提供する。
【0009】
このように、移動体の速度に応じて周辺地図領域に形成するグリッドの間隔を異ならせるので、各速度における移動体の応答速度に応じた大きさにグリッドの間隔を設定することで、処理の無駄を省き、効率的に周辺地図を作成することが可能となる。これにより、周辺地図作成に係る処理量の軽減を図ることができる。
また、移動体が高速で走行している場合には、周辺地図領域をある程度、広範囲に設定することが必要となるが、この場合でも、グリッドの間隔を大きくすることで、処理を粗くすることができ、周辺地図作成に係る処理量の低減を図ることが可能となる。
【0010】
上記周辺地図作成方法において、前記領域設定過程では、前記移動体の速度を複数の段階に分類した速度分類と前記周辺地図領域とを対応付けて記憶する記憶手段から、前記移動体の速度に対応する周辺地図領域を読み出して設定することとしても良い。
【0011】
このように、予め移動体の速度を数段階に分類しておき、この速度分類と周辺地図領域とを対応付けて記憶手段に記憶させておくことで、周辺領域設定に係る処理量の軽減を図ることができる。これにより、周辺地図領域を速やかに設定することが可能となる。
【0012】
上記周辺地図作成方法において、前記領域設定過程では、前記移動体の速度に基づいて前記周辺地図領域の大きさを決定するための関係式を用いて前記周辺地図領域を設定することとしても良い。
【0013】
このように、移動体の速度に応じて周辺地図領域の大きさを決定するための関係式を用いて周辺地図領域を設定することで、速度に応じて周辺地図領域の面積を連続的に変化させることが可能となる。これにより、周辺地図領域の面積が大幅に変動することを回避でき、移動体の走行の安定性を確保することができる。
【0014】
上記周辺地図作成方法において、前記周辺地図領域の奥行方向の距離を、前記移動体のシステム反応時間と前記移動体の旋回半径とに基づいて設定することとしても良い。
【0015】
このように、移動体のシステム反応時間と移動体の旋回半径とに基づいて周辺地図領域の奥行方向の距離を設定するので、障害物が発見された場合には、その障害物を確実に回避させることが可能となる。
上記システム反応時間とは、移動体に搭載されたセンサによって障害物が検知されてから、現実的に移動体の動作が開始されるまでの期間をいう。
【0016】
上記周辺地図作成方法において、前記周辺地図領域の横方向の距離を、前記移動体に搭載されているセンサの横方向視野角度と前記周辺地図領域の奥行方向の距離とに基づいて設定することとしても良い。
【0017】
このように、前記移動体に搭載されているセンサの横方向視野角度と前記周辺地図領域の奥行方向の距離とに基づいて周辺地図領域の横方向の距離を設定するので、安全性を確保するのに足りる最小限の範囲を周辺地図領域として設定することが可能となる。これにより、障害物検知の処理を軽減し、効率的に周辺地図を作成することができる。
【0018】
上記周辺地図作成方法において、前記グリッドの間隔を、移動体が乗り越えられる高さに基づいて設定することとしても良い。
【0019】
このように、移動体が乗り越えられる高さに基づいてグリッドの間隔を設定するので、速度に応じた最適なグリッド間隔を採用することができる。
【0020】
上記周辺地図作成方法において、前記領域設定過程では、前記移動体の進行方向前方に前記周辺地図領域を設定することとしても良い。
【0021】
このように、移動体の進行方向前方に周辺地図領域を設定するので、移動体を囲うように周辺地図領域を設定する場合に比べて、周辺地図領域の面積を小さくすることが可能となる。これにより、周辺地図領域の範囲を、安全性を確保するのに必要となる最小限の領域にとどめることができ、効率的に周辺地図を作成することができる。
【0022】
本発明は、移動体の前方周辺に設定され、グリッドで分割されたセル単位で障害物が書き込まれている周辺地図と、前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図とを用いて、融合地図を作成する融合地図作成方法であって、広域地図の方角と前記周辺地図の方角とが一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転過程と、前記広域地図と回転後の前記周辺地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合過程とを有する融合地図作成方法を提供する。
【0023】
上記融合地図作成方法によれば、周辺地図の方角が広域地図の方角と一致するように、周辺地図を回転させ、回転後の周辺地図と広域地図とを重ね合わせることで融合地図を作成する。このように、周辺地図に特殊な加工や処理を施すことなく、そのまま使用することができるので、融合地図を簡便な処理によって作成することが可能となる。
【0024】
本発明は、移動体の前方周辺に設定され、グリッドで分割されたセル単位で障害物が書き込まれている周辺地図と、前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図とを融合させて、融合地図を作成する融合地図作成方法であって、前記広域地図の方角と前記周辺地図の方角とが一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転過程と、前記広域地図上に回転後の前記周辺地図を包含する新周辺領域を作成し、新周辺領域内に前記広域地図にひかれているグリッドと平行なグリッドを作成するフォーマット作成過程と、新周辺領域内に新たにグリッドで分割されるセル単位で、障害物を書き込むことにより、新周辺地図を作成する新地図作成過程と、前記新周辺地図と前記広域地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記新周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合過程とを具備する融合地図作成方法を提供する。
【0025】
上記融合地図作成方法によれば、周辺地図の方角が広域地図の方角と一致するように、周辺地図を回転させ、回転後の周辺地図を包含する新周辺領域を作成し、この新周辺領域内に広域地図に引かれているグリッドと平行なグリッドを作成する。更に、このグリッドで分割されるセル単位で障害物を書き込むことにより新周辺地図を作成し、この新周辺地図と広域地図とを重ね合わせることにより、融合地図を作成するので、周辺地図と広域地図とを融合させる際に必要となる煩雑な量子化処理を不要にできる。これにより、融合地図作成に係る処理量を低減させることができる。
【0026】
本発明は、移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定過程と、前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成過程と、前記周辺地図の方角が前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図の方角と一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転過程と、前記広域地図と回転後の前記周辺地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合過程と、前記融合地図を用いて前記移動体を目的地まで誘導する誘導過程とを有し、前記領域設定過程では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積または/および前記グリッドの間隔を異ならせる移動体の走行支援方法を提供する。
【0027】
本発明は、移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定過程と、前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成過程と、前記周辺地図の方角が前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図の方角と一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転過程と、前記広域地図上に回転後の前記周辺地図を包含する新周辺領域を作成し、新周辺領域内に前記広域地図にひかれているグリッドと平行なグリッドを作成するフォーマット作成過程と、新周辺領域内に新たにグリッドで分割されるセル単位で、障害物を書き込むことにより、新周辺地図を作成する新地図作成過程と、前記新周辺地図と前記広域地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記新周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合過程と、前記融合地図を用いて前記移動体を目的地まで誘導する誘導過程とを有し、前記領域設定過程では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積または/および前記グリッドの間隔を異ならせる移動体の走行支援方法を提供する。
【0028】
本発明は、移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定処理と、前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成処理とをコンピュータに実行させるための周辺地図作成プログラムであって、前記領域設定処理では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積を異ならせる周辺地図作成プログラムを提供する。
【0029】
本発明は、移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定処理と、前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成処理とをコンピュータに実行させるための周辺地図作成プログラムであって、前記領域設定処理では、前記移動体の速度に応じて前記グリッドの間隔を異ならせる周辺地図作成プログラムを提供する。
【0030】
本発明は、移動体の前方周辺に設定され、グリッドで分割されたセル単位で障害物が書き込まれている周辺地図と、前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図とを用いて、融合地図を作成するための融合地図作成プログラムであって、広域地図の方角と前記周辺地図の方角とが一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転処理と、前記広域地図と回転後の前記周辺地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合処理とをコンピュータに実行させるための融合地図作成プログラムを提供する。
【0031】
本発明は、移動体の前方周辺に設定され、グリッドで分割されたセル単位で障害物が書き込まれている周辺地図と、前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図とを融合させて、融合地図を作成するための融合地図作成プログラムであって、前記広域地図の方角と前記周辺地図の方角とが一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転処理と、前記広域地図上に回転後の前記周辺地図を包含する新周辺領域を作成し、新周辺領域内に前記広域地図にひかれているグリッドと平行なグリッドを作成するフォーマット作成処理と、新周辺領域内に新たにグリッドで分割されるセル単位で、障害物を書き込むことにより、新周辺地図を作成する新地図作成処理と、前記新周辺地図と前記広域地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記新周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合処理とをコンピュータに実行させるための融合地図作成プログラムを提供する。
【0032】
本発明は、移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定処理と、前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成処理と、前記周辺地図の方角が前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図の方角と一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転処理と、前記広域地図と回転後の前記周辺地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合処理と、前記融合地図を用いて前記移動体を目的地まで誘導する誘導処理とをコンピュータに実行させるための移動体の走行支援プログラムであって、前記領域設定処理では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積または/および前記グリッドの間隔を異ならせる移動体の走行支援プログラムを提供する。
【0033】
本発明は、移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定処理と、前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成処理と、前記周辺地図の方角が前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図の方角と一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転処理と、前記広域地図上に回転後の前記周辺地図を包含する新周辺領域を作成し、新周辺領域内に前記広域地図にひかれているグリッドと平行なグリッドを作成するフォーマット作成処理と、新周辺領域内に新たにグリッドで分割されるセル単位で、障害物を書き込むことにより、新周辺地図を作成する新地図作成処理と、前記新周辺地図と前記広域地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記新周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合処理と、前記融合地図を用いて前記移動体を目的地まで誘導する誘導処理とをコンピュータに実行させるための移動体の走行支援プログラムであって、前記領域設定処理では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積または/および前記グリッドの間隔を異ならせる移動体の走行支援プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、移動体の走行支援に係る処理量の軽減を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に、本発明に係る移動体の走行支援方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0036】
〔第一実施形態〕
1.移動体の走行支援方法の概略構成
本発明の第一実施形態に係る移動体の走行支援方法は、移動体に内蔵されるいわゆるコンピュータ装置によって実現されるものであり、コンピュータ装置がこの走行支援方法を実現させることにより、移動体の自律走行を可能とする。
上記コンピュータ装置は、例えば、CPU(中央演算処理装置)、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置、ROM(Read
Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などの補助記憶装置、外部の装置と通信を行う通信部などを備えて構成されている。これらの各種構成要素は、バスを介して互いに接続されており、情報の授受が可能とされている。上記補助記憶装置には、全国の地図情報などのほか、後述する移動体の走行支援に必要となる種々のデータ、例えば、周辺地図作成プログラム、融合地図作成プログラム、移動体の走行支援プログラム、各種テーブル等が記憶されている。
【0037】
2.移動体の走行支援処理の処理手順
図1は、本実施形態に係る移動体の走行支援方法の処理手順を示したフローチャートである。この処理は、例えば、上記CPUが補助記憶装置に記憶されている走行支援プログラムをRAMに読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、実現されるものである。
【0038】
まず、移動体の目的地が入力されると(ステップSA1)、現在地点から目標地点までを含む地図情報(以下「広域地図」という。)を補助記憶装置から読み出し、この広域地図上に走行経路を決定する(ステップSA2)。このとき、広域地図には、所定の距離間隔で目標点(Way Point)が設定されており、これらの目標点を現在地点から目標地点までつなぎ合わせることにより走行経路を決定する。この過程は、公知の技術を用いて実現することができ、例えば、GPSを用いたカーナビゲーションシステムの技術を用いることにより、容易に実現することが可能できる。
【0039】
続いて、後述する周辺地図作成処理によって作成された周辺地図を取得し、この周辺地図を上記広域地図に重ね合わせて融合地図を作成する融合地図作成処理を実行する(ステップSA3)。
次に、融合地図に基づいて誘導処理を実行する(ステップSA4からステップSA7)。この誘導処理は、まず、融合地図に基づいて進行方向に障害物があるか否かを判断し(ステップSA4)、障害物がない場合には(ステップSA4において「NO」)、現在の走行経路を通って目標点まで走行するように移動体の各操舵機構に制御指令を出力する(ステップSA6)。一方、障害物がある場合には(ステップSA4において「YES」)、障害物を回避する回避経路を決定し(ステップSA5)、この回避経路を通って目標点まで走行するように、移動体の各操舵機構に制御指令を出力する(ステップSA6)。
続いて、目標地点に到達したか否かを判断し(ステップSA7)、目標地点に到達していなかった場合には、ステップSA3に戻り、最新の周辺地図を用いた融合地図作成処理が行われ、ステップSA4からステップSA6において上述と同様に、融合地図に基づく操舵制御が行われる。
このようにして、ステップSA3からステップSA6までの処理が繰り返し行われることにより、移動体が障害物を避けながら目標地点に到達すると、ステップSA7においてYESと判断し、当該処理を終了する。
【0040】
3.周辺地図作成処理
次に、上述した周辺地図作成処理について説明する。
この処理は、例えば、上記CPUが補助記憶装置に記憶されている周辺地図作成プログラムをRAMに読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、実現されるものである。
【0041】
図2は、本発明の第一実施形態に係る周辺地図作成処理の手順を示した図である。
まず、ステップSB1において移動体の速度情報を取得し、続くステップSB2において、速度情報に基づいて速度分類を決定する。なお、速度分類については後述する。
続いて、ステップSB3において、速度分類に対応する周辺地図領域を補助記憶装置から取得して、設定する。ステップSB4において、設定した周辺地図領域内に、移動体に搭載されたセンサ群によって検出された障害物の情報を書き込むことにより周辺地図を作成する。このようにして作成された周辺地図は、上記走行支援処理のステップSA3における融合地図作成処理にて用いられることとなる。
続く、ステップSB5において、目標地点に到達したか否かを判断し、到達していなければ、ステップSB1に戻り、上述した処理を繰り返し行い、一方、到達していれば、当該処理を終了する。
【0042】
次に、上記補助記憶装置に登録されている周辺地図領域についてそれぞれ説明する。
本実施形態では、移動体の速度を複数の段階に分類し、速度分類毎に周辺地図領域を設定している。本実施形態では、移動体の速度を「小」、「中」、「大」の3つの段階に分類し、この速度分類「小」、「中」、「大」と、これに対応する周辺地図領域とを補助記憶装置の所定メモリエリアに登録している。
【0043】
これら速度分類「小」、「中」、「大」は、任意に定めることが可能であるが、例えば、速度の「中」を以下のような領域に設定し、「中」よりも速度が大きい領域を速度分類「大」、速度が小さい領域を速度分類「小」と定めることが好ましい。
速度分類「中」は、移動体の力学的旋回半径ρが機構的旋回半径ρK以上となる速度付近に設定することが好ましい。ここで、図3に速度Vと旋回半径ρとの関係を示す。図3において、横軸は速度Vを示し、縦軸は旋回半径ρを示している。この図からわかるように、機構的旋回半径ρKは、速度に依存せずに一定であるのに対し、力学的最小旋回半径ρは、速度に依存し、速度が増加するほど大きくなる。この図では、速度Vρ(例えば、22km/h)で機構的旋回半径ρKが力学的旋回半径ρ以上となる。したがって、例えば、速度分類「中」の範囲を速度Vρの近傍範囲、例えば、20km/hから30km/hに設定すると良い。
【0044】
3−1.周辺地図領域について
次に、各速度の段階に対応する周辺地図領域について説明する。
まず、本実施形態において、周辺地図領域は、図4に示すように、移動体の前方周辺に設定されるものであり、グリッドGにより複数のセルに区分されており、セル単位で上述した障害物の書き込みが行われる。ここで、周辺地図領域の面積(具体的には、奥行Lx、幅Ly)ならびにグリッドの間隔dは、上述した速度分類に応じて異なる。
【0045】
具体的には、図5および図6に示すように、移動体の速度が速いほど、つまり、速度分類が「小」から「大」へ移行するのに伴い、周辺地図領域の面積、具体的には、奥行Lxおよび幅Lyを大きく設定する。また、グリッドの間隔dについても、移動体の速度が速い程、大きく設定する。
【0046】
以下、周辺地図領域の奥行Lx、幅Ly、およびグリッドの間隔についてそれぞれ説明する。
3−2.周辺地図領域の奥行Lx
速度分類「小」における周辺地図領域の奥行Lxは、例えば、図7に示すように、システム反応時間に移動体が進む距離Lsと力学的旋回半径ρとを加算した値に、所定の安全係数α(≧1)を乗算した値に設定する。これを式で表すと以下の(1)式となる。
Lx(小)=(Ls+ρ)×α=(Treact・V(小)+ρ)×α (1)
ここで、システム反応時間に移動体が進む距離Lsは、システム反応時間Treactに速度「小」の代表速度V(小)を乗算した値である。ここで、システム反応時間Treactとは、移動体に搭載されているセンサによって障害物が検知されてから、現実的に移動体の動作が開始されるまでの期間をいう。
速度分類「中」、速度分類「大」における奥行Lxについても、上記(1)式にそれぞれの段階における代表速度、力学的旋回半径ρおよび安全係数αを用いて、同様に決定する。なお、上記(1)式において、力学的旋回半径ρよりも機械的旋回半径ρKの方が、大きい値をとる場合には、力学的旋回半径ρに代えて、機械的旋回半径ρKを採用する。
【0047】
3−3.周辺地図領域の幅Ly
速度分類「小」における周辺地図領域の幅Lyは、例えば、上記奥行Lxに対し、移動体の水平方向視野角分の幅を持たせた距離に設定する。ここで、水平視野角度(deg)は、図8に示すような特性を有する。図8は、速度と水平視野角度との関係を示した図であり、横軸は速度(km/h)、縦軸は水平視野角度(deg)を示している。このように、水平視野角度は、約22km/h付近まで上昇し、約22km/hでピーク値を取り、この22km/hを境に、徐々に減少する傾向を示している。
【0048】
本実施形態においては、周辺地図領域の幅Lyは、以下の(2)式で与えられる。
Ly(小)=2Lx(小)×sin(HFOV/2) (2)
上記(2)式において、Lx(小)は、上記(1)式で得た速度分類「小」の場合の周辺地図領域の奥行であり、また、HFOVは、以下の(3)式で与えられる。
HFOV=(Treact・V(小)+V(小)2/2μg)/ρ (3)
上記(3)式において、Treactはシステム反応時間、V(小)は速度分類「小」の代表速度、μは摩擦係数、gは重力加速度、ρKは機械的旋回半径である。なお、V(小)において、ρmin=ρである。
速度分類「中」、速度分類「大」における幅Lyについても、上記(3)式にそれぞれの段階におけるシステム反応時間、代表速度、力学的または機械的旋回半径を用いて、HFOVを算出し、このHFOVを(2)式に用い、Lxに各速度段階の奥行Lxを代入することで、同様に、幅Lyを決定する。
【0049】
3−4.グリッドの間隔d
速度分類「小」におけるグリッドの間隔dは、例えば、検出対象とする障害物の大きさに応じて設定する。具体的には、各速度段階の移動体が乗り越えられる高さを設定する。
例えば、速度分類「小」の場合には、20cmに設定する。また、速度分類「中」では、速度分類「小」の2倍の距離、つまり、40cmに設定する。また、速度分類「大」では、速度分類「中」の2倍の距離、つまり、80cmに設定する。
また、このようにグリッドの間隔dを設定すると、周辺地図領域内のグリッド本数Gは、以下の(4)式で与えられる。
G=(Lx×Ly)/d2 (4)
【0050】
上述のように、各速度分類に応じて、それぞれ奥行Lx、幅Ly、グリッドの間隔dが決められた周辺地図領域は、各速度分類と対応付けられて補助記憶装置に格納されている。これにより、速度に応じた適切な周辺地図領域を簡便な処理により設定することが可能となる。
例えば、各速度段階における周辺地図領域の奥行Lx、幅Ly、グリッドGの本数の一例は、以下の通りである。
速度分類「小」:Lx(m)=10.4、Ly(m)=9.2、G(本)=2392
速度分類「中」:Lx(m)=13.2、Ly(m)=18.8、G(本)=1551
速度分類「大」:Lx(m)=23.2、Ly(m)=27.2、G(本)=986
【0051】
これに対し、周辺地図領域の大きさ等を一律にした場合、速度分類「小」でも速度分類「大」でも対応できるような周辺地図領域を設定する必要があるので、奥行Lx、幅Lyについては速度「大」の値を採用し、グリッドの間隔dについては速度「小」の値を採用することとなる。この場合、速度分類「小」のときのグリッドの間隔dを0.2とすると、グリッドGの本数は、以下の値となる。
G=(23.2×27.2)/0.2=15776(本)
このように、本実施形態に係る周辺地図作成処理によれば、従来は15776本必要としたグリッド数を2392本以下に低減することが可能となるので、周辺地図作成に係る処理量を約1/5以下に減らすことが可能となる。
【0052】
このように、上述した周辺地図作成処理によれば、移動体の進行方向に対して周辺地図領域を設定するので、処理量を低減させることが可能となる。
また、移動体の速度に応じて周辺地図領域の面積を異ならせるので、移動体の走行状況に応じて安全性を確保するのに最小限必要な範囲に周辺地図領域をとどめることが可能となる。これにより、周辺地図作成に係る処理量の低減を図ることができ、処理効率を高めることができる。例えば、本実施形態では、移動体の走行速度が遅ければ、制動距離や旋回半径が短いため、周辺地図領域を小さく設定し、また、移動体の走行速度が速ければ、制動距離が長く、旋回半径も大きくなるため、周辺地図を大きく設定することとしている。
【0053】
また、上述の周辺地図作成処理によれば、移動体が乗り越えられる高さに応じてグリッドの間隔dを設定しているので、走行速度が大きい程、グリッドの間隔dを大きく設定することが可能となる。したがって、走行速度が大きいために、周辺地図領域を小さくすることができない場合であっても、グリッドの間隔dを大きくすることにより、地図作成に係る処理量を低減させることが可能となる。
【0054】
4.融合地図作成処理
次に、図1に示したステップSA3で行われる融合地図作成処理について図を用いて説明する。
図9は、本実施形態に係る融合地図作成処理の処理手順を示したフローチャートである。
図9に示すように、まず、ステップSC1において、上述の周辺地図作成処理にて作成された周辺地図を取得すると、ステップSC2において、GPSなどから移動体の進行方向の方角を取得し、ステップSC3において、この方角に基づいて周辺地図を回転させる地図回転処理を実行する。
例えば、広域地図は、図10に示すように、東西南北を基準軸として地図が作成されている。これに対し、周辺地図は、移動体の進行方向を基準軸として地図が作成されている。したがって、広域地図に周辺地図を重ね合わせて融合地図を作成する際には、両者の地図の軸を一致させる必要がある。本実施形態では、広域地図の方角と周辺地図の方角とを一致させるように、周辺地図を回転させる。
【0055】
続いて、ステップSC4において、回転後の周辺地図を広域地図に重ね合わせて、融合地図を作成する融合処理を実行する。この融合処理では、まず、周辺地図の各グリッドの量子化処理が行われる。この融合処理は、広域地図に形成されているグリッドに平行なグリッドを周辺地図に形成するグリッド再形成処理、および、形成した新たなグリッドによって区分されるセル単位で障害物を書き込む再書き込み処理などを備えている。
このようにして、広域地図にあわせた周辺地図が再形成されると、再形成後の周辺地図の情報を広域地図に書き込むことにより、融合地図を作成する。そして、このようにして作成された融合地図は、図1に示した誘導処理(ステップSA4乃至SA7参照)において用いられることとなる。
【0056】
このように、上述の融合地図作成処理では、周辺地図の方角が広域地図の方角と一致するように、周辺地図を回転させ、回転後の周辺地図と広域地図とを重ね合わせることで融合地図を作成するので、特殊な加工や処理を施すことなく、そのままの周辺地図を用いて融合地図を作成することが可能となる。この結果、融合地図の作成に係る処理量を低減させることができる。
【0057】
以上説明してきたように、本実施形態に係る移動体の走行支援方法によれば、効率的に周辺地図を作成することができるとともに、融合地図の作成に係る処理量を軽減させることができるので、移動体の走行支援に関するトータルの処理量を大幅に低減することができ、移動体の走行支援を円滑に行うことが可能となる。
【0058】
〔第二実施形態〕
次に、本発明の第二実施形態について、図を用いて説明する。
本実施形態に係る移動体の走行支援方法においては、周辺地図作成処理が上述した第一実施形態の周辺地図作成処理と異なる。
具体的には、上述した周辺地図作成処理では、移動体の速度を3つの段階に分け、速度段階ごとに設定された周辺地図領域を用いていたが、本実施形態では、速度に応じて周辺地図領域を動的に、換言すると、連続的に変更する。
以下、本実施形態に係る周辺地図作成処理について、第一実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0059】
本実施形態に係る周辺地図作成処理は、移動体の速度に基づいて周辺地図領域の大きさ、即ち、奥行Lx、幅Lyを決定するための関係式、および、移動体の速度に基づいてグリッドの間隔dを決定するための関係式を保有しており、移動体の速度を各関係式に代入することで、周辺地図領域を連続的に変化させる。なお、上記関係式は、例えば、補助記憶装置の所定のメモリエリアに書き込まれている。
【0060】
本実施形態では、奥行Lx、幅Ly、グリッドの間隔dを決定するための関係式として、以下の(5)から(7)に示す関係式、つまり、上述した第一実施形態と同じ式を用いる。
【0061】
Lx=(Ls+ρ)×α=(Treact・V+ρ)×α (5)
Ly=2Lx×sin(HFOV/2) (6)
G=(Lx×Ly)/d2 (7)
【0062】
上記(5)式において、Vは移動体の速度である。また(5)式のρおよび(7)式のHFOVは、速度に応じて決定される値である。これらの値については、各速度とこれらの値とを対応付ける特性テーブルをそれぞれ有しており、これらを特性テーブルを参照することにより、取得することとしても良い。なお、上記(5)式および(6)式において、力学的旋回半径ρよりも機械的旋回半径ρKの方が大きい値をとる場合には、力学的旋回半径ρに代えて、機械的旋回半径ρKを採用する。
【0063】
なお、上記(5)から(7)式において、Vがゼロに近い状態にあるときには、図11に点線で示すように、Lx,Lyの値が非常に小さい値となってしまい現実的ではない。したがって、速度が所定の閾値Vth以下の領域においては、奥行Lxおよび幅Lyを一定に保つこととしている。
【0064】
以上説明するように、本実施形態に係る移動体の走行支援方法によれば、図11に示すように、周辺地図領域の奥行Lx、幅Lyを移動体の速度に応じて動的に変更するので、各速度における必要最小の周辺地図を作成することが可能となる。この結果、周辺地図作成に係る処理量を更に低減させることができる。
【0065】
また、例えば、上述した第一実施形態において、速度分類が「中」と「大」との境界付近にあり、速度がほんのわずか増加して速度分類が「中」から「大」に切り替わった場合、図12に示すように、周辺地図領域は「中」から「大」に非連続的に変化することとなるので、場合に応じて大きな障害物が突如として検出されることとなる。このため、移動体は、急峻にステアリングを操作し、障害物回避を行う可能性がある。
【0066】
これに対し、上述した移動体の走行支援方法によれば、速度に応じて周辺地図領域を連続的に変化させることが可能となるので、障害物が突如として検出されるような事態を回避できる。この結果、障害物回避のための急旋回動作を減らすことができ、移動体の走行における安定性を高めることが可能となる。
【0067】
なお、速度V=10km/h、速度V=11km/hの場合に、本実施形態に係る周辺地図領域作成部によって作成される周辺地図領域の奥行Lx、幅Ly、グリッドGの本数の一例は、以下の通りである。
速度V=10km/hのとき
:Lx(m)=10.4、Ly(m)=9.2、G(本)=2392
速度V=11km/hのとき
:Lx(m)=10.8、Ly(m)=10.0、G(本)=675
【0068】
〔第三実施形態〕
次に、本発明の第三実施形態について、図を用いて説明する。
本実施形態の移動体の走行支援装置が第二実施形態と異なる点は、周辺地図作成処理が移動体の前方に対して周辺地図領域を設定するのではなく、移動体を中心とする周辺に周辺地図領域を設定する点である。
以下、本実施形態に係る走行支援装置の周辺地図作成処理について説明する。
【0069】
まず、上記第二実施形態と同様の手法により、移動体の速度を用いて、周辺地図領域の奥行Lxと幅Lyおよびグリッドの間隔dを求めると、奥行Lxと幅Lyとのうち、値の大きい方を移動体の最大移動距離Lとして選択する。続いて、移動体を中心とし、一辺の長さが最大移動距離Lである正方形を設定し、これを周辺地図領域とする。続いて、この周辺地図領域に上記間隔dでグリッドを形成し、グリッドで区分されるセル単位で障害物の書き込みを行うことにより周辺地図を作成する。図13にこのようにして設定された周辺地図領域の一例を示す。
【0070】
ここで、速度V=10km/h、速度V=20km/hの場合、速度V=30km/hの場合に、本実施形態に係る周辺地図領域作成部によって作成される周辺地図領域の一辺の長さL、グリッドGの本数の一例は、以下の通りである。
速度V=10km/hのとき
:L(m)=20.8、G(本)=10816
速度V=20km/hのとき
:L(m)=26.4、G(本)=4356
速度V=30km/hのとき
:L(m)=46.4、G(本)=3364
【0071】
〔第四実施形態〕
次に、本発明の第四実施形態について説明する。
本実施形態では、上述した第三実施形態に係る周辺地図作成処理によって作成された周辺地図を更に4分割し、分割した2つの領域を最終的な周辺地図領域として設定することにより、周辺地図領域の面積を上記第三実施形態に係る周辺地図領域の面積の2分の1とする。
【0072】
具体的には、まず、上述の第三実施形態と同様の手順にしたがって、移動体を中心とし、所定の間隔のグリッドが形成された正方形の周辺地図領域を設定すると、図14に示すように、この周辺地図領域の中心を通るとともに各辺に垂直に交わる2本の直線を引き、この直線により周辺地図領域を4つの領域に分割する。ここでは、例えば、移動体の位置を原点とする2次元のxy軸上に周辺地図領域を展開した場合に、xの値およびyの値がともにプラスになる領域を1象限I、xの値がマイナス、yの値がプラスになる領域を2象限II、xの値およびyの値がともにマイナスになる領域を3象限III、xの値がプラス、yの値がマイナスになる領域を4象限IVとする。
【0073】
続いて、移動体の進行方向を取得し、この進行方向を原点を通る直線Wとして座標軸上に設定する。続いて、この直線Wとプラス側のx軸とがなす角度θを検出し、この角度θが−45°から+45°の場合には、1象限と2象限とを抽出し、+45°から+135°の場合には、2象限と3象限とを抽出し、+135°から−135°の場合には3象限と4象限とを抽出し、−135°から−45°の場合には、4象限と1象限とを抽出する。
【0074】
このようにして、4象限のうちの2象限を抽出すると、この2象限の周辺地図領域を最終的な周辺地図領域として設定し、この領域内における障害物の位置をセル単位で書き込むことにより、周辺地図を作成する。
【0075】
ここで、速度V=10km/h、速度V=20km/hの場合、速度V=30km/hの場合に、本実施形態に係る周辺地図領域作成部によって作成される周辺地図領域の一辺の長さL、グリッドGの本数の一例は、以下の通りである。
速度V=10km/hのとき
:L(m)=20.8、G(本)=5408
速度V=20km/hのとき
:L(m)=26.4、G(本)=2178
速度V=30km/hのとき
:L(m)=46.4、G(本)=1682
【0076】
このように、本実施形態に係る周辺地図作成処理によれば、周辺地図領域を第三実施形態に係る周辺地図領域の2分の1とするので、障害物検知に係る処理量の低減を図ることができる。
【0077】
なお、上述した第二から第四実施形態においては、周辺地図領域の大きさが連続的に変化することから、その周辺地図領域の境界線部において障害物を検出するためには煩雑な量子化処理が必要となる。しかしながら、以下の処理を行うことにより、より簡便に境界における量子化処理を実現させることが可能である。
【0078】
例えば、図2のステップSB4において、周辺地図を作成する際に、図15に示すように、周辺地図領域を包含する仮周辺地図領域を形成し、この仮周辺地図領域内において、セル単位で障害物検知を行う。そして、この結果に基づいて周辺地図領域に障害物の書き込みを行う。このとき、周辺地図領域と仮周辺地図領域との重なり部分ではない箇所、つまり、仮周辺地図領域において周辺地図領域に追加したセルについては、障害物がないこととして取り扱う。これにより、境界部における量子化処理を簡便な処理により実現することが可能となる。
【0079】
なお、上記仮周辺地図領域の設定においては、移動体の前方周辺に周辺地図領域の外側に1本ずつグリッドGを追加し、このグリッドによって囲われる領域を仮周辺地図領域として取り扱うことが好ましい。これにより、障害物検知に係る処理量を最小限にとどめることができる。
【0080】
〔第五実施形態〕
次に、本発明の第五実施形態について、図を用いて説明する。
本実施形態に係る移動体の走行支援方法は、融合地図作成処理が上述した第一実施形態の融合地図作成処理と異なる。
以下、本実施形態に係る融合地図作成処理について、第一実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0081】
図16は、本実施形態に係る融合地図作成処理の処理手順を示したフローチャートである。
図16に示すように、まず、ステップSD1において、上述の周辺地図作成処理にて作成された周辺地図を取得すると、ステップSD2においてGPSなどから移動体の進行方向の方角を取得し、ステップSD3において、この方角に基づいて周辺地図を回転させる地図回転処理を実行する。この地図回転処理については、上述した図9に示すステップSC3と同様である。
【0082】
ステップSD3により周辺地図が回転されることにより、広域地図の方角と周辺地図の方角とが一致すると、続くステップSD4において、フォーマット作成処理を行う。このフォーマット作成処理では、回転後の周辺地図を広域地図に重ね合わせ、この状態で、周辺地図の領域を拡張することにより、新たな周辺地図領域を作成する。
具体的には、図17に示すように、広域地図上に展開された周辺地図(以下、「前の周辺地図」という。)を包含し、かつ、その外縁が広域地図のグリッドに沿って形成された新たな周辺地図領域を作成し、更に、この新たな周辺地図領域に広域地図のグリッドに平行な新たなグリッド(図示略)を作成する。
【0083】
続いて、ステップSD5において、上記新たな周辺地図領域に前の周辺地図の障害物情報を書き込むことにより、新たな周辺地図(以下「新周辺地図」という。)を作成する。このとき、前の周辺地図と新周辺地図とが重ならない部分は、障害物なしとして扱う。
このようにして、新周辺地図を作成すると、ステップSD6において、融合処理を実行する。これにより、新周辺地図の情報が広域地図に書き込まれ、融合地図が作成される。この融合地図は、図1に示した誘導処理にて用いられることとなる。
【0084】
このような融合地図作成処理によれば、周辺地図の方角が広域地図の方角と一致するように、周辺地図を回転させ、回転後の周辺地図を包含する新たな周辺領域を作成し、この新たな周辺領域内に広域地図に引かれているグリッドと平行なグリッドを作成する。更に、このグリッドで分割されるセル単位で障害物を書き込むことにより新周辺地図を作成し、この新周辺地図と広域地図とを重ね合わせることにより、融合地図を作成するので、周辺地図と広域地図とを融合させる際に必要となる量子化処理を不要にできる。これにより、処理負担を軽減することができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第一実施形態に係る移動体の走行支援方法の処理手順を示したフローチャートである。
【図2】本発明の第一実施形態に係る周辺地図作成処理の処理手順を示した図である。
【図3】速度と旋回半径との関係を示した図である。
【図4】周辺地図領域について説明するための図である。
【図5】速度と周辺地図領域の奥行との関係を説明するための図である。
【図6】速度と周辺地図領域との関係を説明するための図である。
【図7】周辺地図領域の奥行について説明するための図である。
【図8】速度と水平視野角度との関係を示した図である。
【図9】本発明の第一実施形態に係る融合地図作成処理の処理手順を示したフローチャートである。
【図10】本発明の第一実施形態に係る融合地図作成処理について説明するための図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係る周辺地図領域について説明するための図である。
【図12】周辺地図領域と比較するための周辺地図領域を示した図である。
【図13】本発明の第三実施形態に係る周辺地図領域について説明するための図である。
【図14】本発明の第四実施形態に係る周辺地図領域について説明するための図である。
【図15】周辺地図作成の際の量子化について説明するための図である。
【図16】本発明の第五実施形態に係る融合地図作成処理の処理手順について示したフローチャートである。
【図17】図16に示したフォーマット作成処理および新地図作成処理について説明するための図である。
【符号の説明】
【0087】
Lx 周辺地図領域の奥行
Ly 周辺地図領域の幅
d グリッドの間隔
G グリッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載されたセンサによって検知された障害物の情報に基づいて移動体の周辺地図を作成する周辺地図作成方法であって、
前記移動体の周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定過程と、
前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成過程と
を有し、
前記領域設定過程では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積を異ならせる周辺地図作成方法。
【請求項2】
移動体に搭載されたセンサによって検知された障害物の情報に基づいて移動体の周辺地図を作成する周辺地図作成方法であって、
前記移動体の周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定過程と、
前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成過程と
を有し、
前記領域設定過程では、前記移動体の速度に応じて前記グリッドの間隔を異ならせる周辺地図作成方法。
【請求項3】
前記領域設定過程では、前記移動体の速度を複数の段階に分類した速度分類と前記周辺地図領域とを対応付けて記憶する記憶手段から、前記移動体の速度に対応する周辺地図領域を読み出して設定する請求項1または請求項2に記載の周辺地図作成方法。
【請求項4】
前記領域設定過程では、前記移動体の速度に基づいて前記周辺地図領域の大きさを決定するための関係式を用いて前記周辺地図領域を設定する請求項1に記載の周辺地図作成方法。
【請求項5】
前記周辺地図領域の奥行方向の距離を、前記移動体のシステム反応時間と前記移動体の旋回半径とに基づいて設定する請求項1から請求項4のいずれかに記載の周辺地図作成方法。
【請求項6】
前記周辺地図領域の横方向の距離を、前記移動体に搭載されているセンサの横方向視野角度と前記周辺地図領域の奥行方向の距離とに基づいて設定する請求項1から請求項5のいずれかに記載の周辺地図作成方法。
【請求項7】
前記グリッドの間隔を、移動体が乗り越えられる高さに基づいて設定する請求項1から請求項6のいずれかに記載の周辺地図作成方法。
【請求項8】
前記領域設定過程では、前記移動体の進行方向前方に前記周辺地図領域を設定する請求項1から請求項7のいずれかに記載の周辺地図作成方法。
【請求項9】
移動体の前方周辺に設定され、グリッドで分割されたセル単位で障害物が書き込まれている周辺地図と、前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図とを用いて、融合地図を作成する融合地図作成方法であって、
広域地図の方角と前記周辺地図の方角とが一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転過程と、
前記広域地図と回転後の前記周辺地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合過程と
を有する融合地図作成方法。
【請求項10】
移動体の前方周辺に設定され、グリッドで分割されたセル単位で障害物が書き込まれている周辺地図と、前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図とを融合させて、融合地図を作成する融合地図作成方法であって、
前記広域地図の方角と前記周辺地図の方角とが一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転過程と、
前記広域地図上に回転後の前記周辺地図を包含する新周辺領域を作成し、新周辺領域内に前記広域地図にひかれているグリッドと平行なグリッドを作成するフォーマット作成過程と、
新周辺領域内に新たにグリッドで分割されるセル単位で、障害物を書き込むことにより、新周辺地図を作成する新地図作成過程と、
前記新周辺地図と前記広域地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記新周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合過程と
を具備する融合地図作成方法。
【請求項11】
移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定過程と、
前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成過程と、
前記周辺地図の方角が前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図の方角と一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転過程と、
前記広域地図と回転後の前記周辺地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合過程と、
前記融合地図を用いて前記移動体を目的地まで誘導する誘導過程と
を有し、
前記領域設定過程では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積または/および前記グリッドの間隔を異ならせる移動体の走行支援方法。
【請求項12】
移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定過程と、
前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成過程と、
前記周辺地図の方角が前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図の方角と一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転過程と、
前記広域地図上に回転後の前記周辺地図を包含する新周辺領域を作成し、新周辺領域内に前記広域地図にひかれているグリッドと平行なグリッドを作成するフォーマット作成過程と、
新周辺領域内に新たにグリッドで分割されるセル単位で、障害物を書き込むことにより、新周辺地図を作成する新地図作成過程と、
前記新周辺地図と前記広域地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記新周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合過程と、
前記融合地図を用いて前記移動体を目的地まで誘導する誘導過程と
を有し、
前記領域設定過程では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積または/および前記グリッドの間隔を異ならせる移動体の走行支援方法。
【請求項13】
移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定処理と、
前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成処理と
をコンピュータに実行させるための周辺地図作成プログラムであって、
前記領域設定処理では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積を異ならせる周辺地図作成プログラム。
【請求項14】
移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定処理と、
前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成処理と
をコンピュータに実行させるための周辺地図作成プログラムであって、
前記領域設定処理では、前記移動体の速度に応じて前記グリッドの間隔を異ならせる周辺地図作成プログラム。
【請求項15】
移動体の前方周辺に設定され、グリッドで分割されたセル単位で障害物が書き込まれている周辺地図と、前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図とを用いて、融合地図を作成するための融合地図作成プログラムであって、
広域地図の方角と前記周辺地図の方角とが一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転処理と、
前記広域地図と回転後の前記周辺地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合処理と
をコンピュータに実行させるための融合地図作成プログラム。
【請求項16】
移動体の前方周辺に設定され、グリッドで分割されたセル単位で障害物が書き込まれている周辺地図と、前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図とを融合させて、融合地図を作成するための融合地図作成プログラムであって、
前記広域地図の方角と前記周辺地図の方角とが一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転処理と、
前記広域地図上に回転後の前記周辺地図を包含する新周辺領域を作成し、新周辺領域内に前記広域地図にひかれているグリッドと平行なグリッドを作成するフォーマット作成処理と、
新周辺領域内に新たにグリッドで分割されるセル単位で、障害物を書き込むことにより、新周辺地図を作成する新地図作成処理と、
前記新周辺地図と前記広域地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記新周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合処理と
をコンピュータに実行させるための融合地図作成プログラム。
【請求項17】
移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定処理と、
前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成処理と、
前記周辺地図の方角が前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図の方角と一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転処理と、
前記広域地図と回転後の前記周辺地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合処理と、
前記融合地図を用いて前記移動体を目的地まで誘導する誘導処理と
をコンピュータに実行させるための移動体の走行支援プログラムであって、
前記領域設定処理では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積または/および前記グリッドの間隔を異ならせる移動体の走行支援プログラム。
【請求項18】
移動体の前方周辺に、グリッドによって複数のセルに区分される周辺地図領域を設定する領域設定処理と、
前記セル単位で障害物の有無を書き込むことにより、周辺地図を作成する地図作成処理と、
前記周辺地図の方角が前記周辺地図よりも広い範囲を対象とする広域地図の方角と一致するように、前記周辺地図を回転させる地図回転処理と、
前記広域地図上に回転後の前記周辺地図を包含する新周辺領域を作成し、新周辺領域内に前記広域地図にひかれているグリッドと平行なグリッドを作成するフォーマット作成処理と、
新周辺領域内に新たにグリッドで分割されるセル単位で、障害物を書き込むことにより、新周辺地図を作成する新地図作成処理と、
前記新周辺地図と前記広域地図とを重ね合わせ、前記広域地図に前記新周辺地図の情報を書き込むことにより、融合地図を作成する融合処理と、
前記融合地図を用いて前記移動体を目的地まで誘導する誘導処理と
をコンピュータに実行させるための移動体の走行支援プログラムであって、
前記領域設定処理では、前記移動体の速度に応じて前記周辺地図領域の面積または/および前記グリッドの間隔を異ならせる移動体の走行支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−304944(P2007−304944A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133699(P2006−133699)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】