説明

味感向上剤としての透明トマト濃縮物

【課題】透明トマト濃縮物を含む味感向上剤の提供。
【解決手段】トマトジュースから漿液を分離し、それを濃縮することにより得られる透明トマト濃縮物であり、前記漿液は熱および前記濃縮物中または前記漿液中に存在する天然の酸を用いて、あるいは蛋白分解酵素により加水分解され、その後濃縮され、食品の風味を向上させるのに充分な量の透明トマト濃縮物を該食品に加えることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な味感向上剤に関する。本発明はさらに特に、食品産業による用途において、一般的な味感向上剤に伴う問題を有せずに、市販の味感向上剤よりもたとえ良いものでなくても、それと同様の良好な味感向上特性を有する天然の味感向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品産業では、多種の風味のよい製品では風味向上剤を使用する。これら向上剤は、グルタミン酸モノナトリウム(以後MSGという)、加水分解植物タンパク質、5’−ヌクレオチドイノシンモノフォスフェートの2ナトリウム塩(IMP)、グアノシンモノフォスフェート(GMP)およびアデノシンモノフォスフェート(AMP)、ならびに自己消化酵母からなるものである。すべてのものに欠点があるが、主な向上剤であるMSGは、中華料理店症候群(Chisese Restrant Syndrome)として知られる問題を引き起こす。
【0003】
味感向上剤に関する文献は、大変多い。公知の種々の味感向上剤を記載している引用される資料文献は、Trends in Food Science & Tecnology、風味知覚に関する特集(Special Issue on Flavor Perception)、12月号、1996(Vol.7)、Elsevier Sciences Ltd.中の、S.FukeおよびY.Uedaの「うまみと他の風味特性間の相互作用(Interaction between umami and other flavor characteristics)」である。
【0004】
IL107,999に記載されるトマトの加工では、2つの画分:漿液および果肉を得て、該漿液をさらに濃縮する:
トマト 漿液 → 濃縮物
果肉
該トマトジュースから該果肉を取り除いたのち、圧搾トマトでは通常値である4.5°Bxより高い値である80BxのBx値まで、該漿液を濃縮達せしめる。その後、それを加水分解する(または加水分解し、ついで濃縮する)ことができる。この生成物は、一般に透明トマト濃縮物(CTC)と言われており、それは4.5°Bx領域内の場合にのみ透明であるが、より高いBx値では、それは不透明になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】IL107,999
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Trends in Food Science & Tecnology、風味知覚に関する特集(Special Issue on Flavor Perception)、12月号、1996(Vol.7)、Elsevier Sciences Ltd.中の、S.FukeおよびY.Uedaの「うまみと他の風味特性間の相互作用(Interaction between umami and other flavor characteristics)」
【発明の概要】
【0007】
透明トマト濃縮物を含む味感向上剤、および透明トマト濃縮物を風味を向上させるのに充分な量で食品に添加すること含む食品の風味を向上させる方法。
【0008】
発明の目的
本発明の目的は、新規な味感向上剤である透明トマト濃縮物を提供するものであり、主たるトマト風味がない該濃縮物は、種々の風味のよい食品および飲料製品に、さらにトマトベースの製品以外にも使用することができる。本発明のもう一つの目的は、中華料理店症候群を引き起こす可能性がほとんどまたは全くない味感向上剤を提供することである。
【0009】
発明の詳細な説明
トマト漿液濃縮物は、8〜10%の可溶性タンパク質および遊離アミノ酸を含んでいる。該タンパク質を加水分解することにより、遊離アミノ酸の濃度を増大させ、それにより該濃縮物の風味向上特性の強さを増大させることができ、この場合、該加水分解は、天然のトマトの酸の存在によりおきる。加水分解の速度は、熱により増大し、時間と温度に依存する。トマト漿液濃縮物の酸加水分解の結果を表1に示す。
【0010】
(該濃縮物中または濃縮前の漿液中の)トマトのタンパク質はまた、比較的低温度で酵素により加水分解することができる。
【0011】
このために、我々は、ノボノルディスク(Novo Nordisk)により開発され、「フレイバーザイム」(“flavourzyme”)の名前で市販されているかびのプロテアーゼ/ペプチターゼ酵素配合物を使用してきた。50℃、1時間の酵素処理後で、ほとんど完全にタンパク質の加水分解が行われた。続いて該酵素を80℃に加熱することにより失活させた。該トマト漿液濃縮物の酵素加水分解の結果を表2に示す。
【0012】
該トマト漿液を、濃縮の前または後で加水分解前することにより、本質的に同じ結果−すなわち優れた食品風味向上剤が生れる。
【0013】
本発明のさらなる実施形態は、風味向上剤を粉末状形態で使用することである。したがって、加水分解および濃縮化の工程の後に、該透明トマト濃縮物を、噴霧乾燥させるかまたは食品産業で使用される任意の他の通常の脱水技術を用い乾燥させる。該透明トマト濃縮物は、乾燥を促進させる坦体として使用されるマルトデキストリン、デンプン、糖、炭水化物、それらの誘導体もしくは塩のような種々の物質上に乾燥することができる。
【0014】
実施例1:粉末状形態の透明トマト濃縮物
透明トマト濃縮物およびマルトデキストリン19DE(デキストロース等価値(dextrose equivalent))を、水で稀釈して適度な粘度にし、噴霧乾燥し、水分3〜5%を含む自由に流動する粉末にした。
【0015】
実施例2:透明トマト濃縮物の風味向上特性
該加水分解および濃縮化した(いずれの順序でもよい)透明トマト濃縮物の食品および風味向上特性を、味感試験において実証した、その際、3種の異なるタイプの製品(すなわち、ハンバーガー、パオラライス(Paolla rice)および野菜スープ)をそれぞれ3種類のバージョンで調製した:
1.対照品(風味向上剤無し)
2.純粋なMSG(最終製品中で0.3%)を加えた製品
3.透明トマト濃縮物60°Bx(最終製品で0.5%)を加えた製品。
【0016】
15人の味感試験者に、それぞれの製品について2つの質問に答える様依頼した。
【0017】
1.該3つの試験製品のどれが実質的に異なりますか?
2.残った製品の内、どれが好きですか?
初めの質問の結果は、以下のとおりであった。
【0018】
ハンバーガー:15人すべての被験者は、対照品を違ったもので劣っていると認識した。
【0019】
パオラライス:15人すべての被験者は、対照品を違ったもので劣っていると認識した。
【0020】
野菜スープ :15人すべての被験者は、対照品を違ったもので劣っていると認識した。
【0021】
第2の質問の結果は、以下のとおりであった。
【0022】
ハンバーガー:3人の被験者はMSGを加えたハンバーガーを好み;9人は該透明トマト濃縮物を加えたハンバーガーを好み;そして3人はどれも好まなかった。
【0023】
パオラライス:1人の被験者はMSGを加えた試験品を好み;12人は該透明トマト濃縮物を加えた試験品を好み;そして2人はどれも好まなかった。
【0024】
野菜スープ:6人の被験者はMSGを加えたスープを好み;5人は該透明トマト濃縮物を加えた試験品を好み;そして4人はどれも好まなかった。
【0025】
この味感パネルより、われわれは、総量で4〜5%のグルタミン酸およびグルタミンを含んだ該透明トマト濃縮物は、中華料理店症候群の問題なしに、純粋なMSGと同等または、より優れていると判断する。この優れた向上特性は、一方では該グルタミン酸およびグルタミンと、また他方では該透明トマト濃縮物中に存在する種々の他のアミノ酸との間の相乗効果によるものと考えられる。
【0026】
表1
酸加水分解後のトマト漿液(60°Bx)中の遊離アミノ酸の濃度
化合物 濃度(mg/kg)
アスパラギン酸 11904.12
スレオニン 1117.25
セリン 1279.80
アスパラギン 5684.74
グルタミン酸 25501.90
グルタミン 12942.68
プロリン 276.54
グリシン 280.20
アラニン 4574.41
バリン 440.16
メチオニン 152.93
イソロイシン 531.46
ロイシン 623.99
チロシン 419.01
フェニルアラニン 1567.32
γ−アミノ酪酸 9908.32
エタノールアミン 148.30
トリプトファン 16.56
リシン 1010.62
ヒスチジン 1035.93
アルギニン 905.63
総計 80321.87
【0027】
表2
酵素加水分解後のトマト漿液(60°Bx)中の遊離アミノ酸の濃度
化合物 濃度(mg/kg)
アスパラギン酸 12393.07
スレオニン 1186.59
セリン 1370.29
アスパラギン 4565.77
グルタミン酸 25547.74
グルタミン 11454.92
プロリン 280.31
グリシン 332.54
アラニン 4570.03
バリン 488.21
メチオニン 156.60
イソロイシン 522.86
ロイシン 612.15
チロシン 435.35
フェニルアラニン 1598.48
γ−アミノ酪酸 10271.85
エタノールアミン 167.84
トリプトファン 26.97
リシン 1058.58
ヒスチジン 1051.20
アルギニン 925.63
総計 79016.99

【特許請求の範囲】
【請求項1】
味感向上剤としての透明トマト濃縮物(CTC)の使用。
【請求項2】
前記透明濃縮物が、トマトジュースから漿液を分離し、それを濃縮することにより得られる請求項1記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項3】
前記漿液をBx値8から80に濃縮する請求項2に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項4】
前記漿液をBx値8から60に濃縮する請求項2に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項5】
前記CTCが0.5%から20%の遊離アミノ酸を含む請求項1から4のいずれか一項に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項6】
前記CTCが4%から15%の遊離アミノ酸を含む請求項5に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項7】
前記CTCが8%から10%の遊離アミノ酸を含む請求項5に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項8】
透明トマト濃縮物が加水分解される請求項1から7のいずれか一項に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項9】
前記漿液が加水分解され、その後濃縮される請求項8に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項10】
前記漿液が濃縮され、その後加水分解される請求項8に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項11】
前記加水分解が、熱および前記濃縮物中または前記漿液中に存在する天然の酸を用いて行われる請求項8に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項12】
前記加水分解が、蛋白分解酵素により行われる請求項8に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項13】
前記透明トマト濃縮物が、粉末の形態である請求項1から12のいずれか一項に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項14】
前記透明トマト濃縮物が、適切な坦体上に噴霧乾燥される請求項1から13のいずれか一項に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項15】
前記坦体が、マルトデキストリン、デンプン、デンプン誘導体、糖、コーンシロップ固形物、ガム、塩およびそれら混合物からなる群から選ばれる請求項13または14に記載の透明トマト濃縮物の使用。
【請求項16】
食品の風味を向上させるのに充分な量の透明トマト濃縮物を該食品に加えることを含む食品の風味を向上させる方法。
【請求項17】
透明トマト濃縮物を、他の適切な風味向上剤またはそれらの混合物と組み合わせて、前記食品の風味を向上させるのに充分な量を食品に添加することを含む食品の風味を向上させる方法。
【請求項18】
前記の追加の風味向上剤が、グルタミン酸モノナトリウム(MSG)、加水分解植物タンパク質、5’−ヌクレオチドイノシンモノフォスフェートの2ナトリウム塩(IMP)、グアノシンモノフォスフェート(GMP)およびアデノシンモノフォスフェート(AMP)ならびに自己消化酵母から選ばれる請求項17に記載の食品の風味を向上させる方法。
【請求項19】
前記味感向上剤が、0.5%から20%の遊離アミノ酸を含む請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記味感向上剤が、4%から15%の遊離アミノ酸を含む請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記味感向上剤が、8%から10%の遊離アミノ酸を含む請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記透明トマト濃縮物が、加水分解される請求項16から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記漿液が、加水分解されて、その後濃縮される請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記漿液が、濃縮されて、その後加水分解される請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記加水分解が、前記濃縮漿液中に存在する天然の酸および熱を用いて行われる請求項16から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記加水分解が、蛋白分解酵素により行われる請求項16から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記透明トマト濃縮物が、粉末の形態である請求項16から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記透明トマト濃縮物が、適切な坦体上に噴霧乾燥される請求項16から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記坦体が、マルトデキストリン、デンプン、デンプン誘導体、糖、コーンシロップ固形物、ガム、塩およびそれら混合物からなる群から選ばれる請求項16から27のいずれか一項に記載の方法。

【公開番号】特開2009−232851(P2009−232851A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123750(P2009−123750)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【分割の表示】特願2000−550343(P2000−550343)の分割
【原出願日】平成11年5月24日(1999.5.24)
【出願人】(500350427)ライコード・ナチユラル・プロダクツ・インダストリーズ・リミテツド (5)
【Fターム(参考)】