説明

呼吸判定装置

【課題】被験者の呼吸が胸式呼吸であるか腹式呼吸であるかを判定する。
【解決手段】生体測定装置1は、身体の特定部位の生体電気インピーダンスを測定する生体電気インピーダンス測定部200を備え、CPU170は、これを制御して体幹中部および腹部の生体電気インピーダンスを測定し、それらの差分ΔZを腹部の生体電気インピーダンスとして取得する。そして、CPU170は、差分ΔZを所定の閾値と比較することによって、被験者の呼吸の種別を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の呼吸の種別及びその程度について判定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より生体電気インピーダンスを測定し、測定結果に基づいて、生体の状態を推定する各種の装置が知られている。そのような装置の一つとして、特許文献1には、体幹生体電気インピーダンスに基づいて、肺活量を推定する技術が開示されている。
呼吸は、生体データ(血圧,体温,皮膚温,脳波,脈波など)の中で、唯一自己コントロール可能なものであることから、例えば、呼吸をコントロールすることによって、ヨガ、気功、カイロプラクティック、あるいは座禅などの健康法として世の中に広がっている。また、呼吸法は胸式と腹式に分けられる。腹式呼吸は、ダイエットやボイストレーニングなどにも応用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−50127号公報(段落0020参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、呼吸の健康法への有用な活用には、被験者の呼吸が胸式である腹式であるかを知る必要がある。
しかしながら、従来の技術では、生体電気インピーダンスから呼吸が胸式であるか腹式であるかを知ることができなかった。
そこで、本発明は、被験者の呼吸が胸式呼吸であるか腹式呼吸であるかを判定可能な装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明に係る呼吸判定装置は、呼吸に寄与する1つ以上の部位について生体電気インピーダンスを測定する生体電気インピーダンス測定手段と、測定された1つ以上の部位の生体電気インピーダンスの時間変化に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定する判定手段とを備える。
吸気と呼気とからなる呼吸を行うと、呼吸に寄与する部位の筋肉や臓器の生体電気インピーダンスが変化する。したがって、呼吸に寄与する部位の生体電気インピーダンスの時間変化に基づいて、腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することができる。特に、呼吸に寄与する部位が複数ある場合、注目する生体の構成部が異なり、胸式呼吸と腹式呼吸とでそれらの動きが相違する。したがって、測定手段で測定された複数の部位の生体電気インピーダンスの各々は、胸式呼吸と腹式呼吸とで時間変化の態様が相違する。さらに、詳しく言えば、呼気と吸気の中で呼気の態様が相違する。このため、測定された複数の部位の生体電気インピーダンスの時間変化を解析することによって、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することが可能となる。
【0006】
上述した呼吸判定装置において、測定された前記1つ以上の部位の生体電気インピーダンスの時間変化は、呼気と吸気とからなる1呼吸ごとの周期性変化を有し、前記判定手段は、前記1つ以上の部位の生体電気インピーダンスの時間変化と呼気における1つ以上の部位の生体電気インピーダンスの時間変化の違いに基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することが好ましい。胸式呼吸と腹式呼吸とでは、特に、呼気における腹部の生体電気インピーダンスの変化が相違する。したがって、呼気時における生体電気インピーダンスの時間変化と吸気時における生体電気インピーダンスの時間変化の違いを解析することによって腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することができる。
【0007】
上述した呼吸判定装置において、前記生体電気インピーダンス測定手段は、肺を含む第1の部位の第1生体電気インピーダンスと、腹式呼吸において前記第1生体電気インピーダンスの時間変化を打ち消すような変化を含む第2の部位の第2生体電気インピーダンスとを測定し、前記判定手段は、前記第1生体電気インピーダンスの時間変化と前記第2生体電気インピーダンスの時間変化の相違に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することが好ましい。
【0008】
胸式呼吸と腹式呼吸とで肺は同じように伸縮変化する。また、呼吸に寄与する部位において最も大きく生体電気インピーダンスが変化するのは肺である。なお、胸部呼吸筋の生体電気インピーダンス変化は肺の生体電気インピーダンス変化と同じように変化するため、肺に含めて考える。したがって、第1生体電気インピーダンスの時間変化は、胸式呼吸と腹式呼吸とで大きな差はないが、吸気や呼気といった呼吸の動作を反映したものとなる。一方、第2の部位は腹式呼吸において第1生体電気インピーダンスの変化を打ち消すようなインピーダンス変化を含む部位である。したがって、腹式呼吸において第1生体電気インピーダンスと第2生体電気インピーダンスの時間変化が相違する。このため、第1生体電気インピーダンスの時間変化と第2生体電気インピーダンスの時間変化との相違を解析することにより、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することが可能となる。相違の解析は、例えば、両者の相違の程度に応じて、被験者の呼吸について腹式呼吸の依存度と胸式呼吸の依存度を判定してもよい。
【0009】
より具体的には、前記第1の部位は、肺を含み腹部を含まず、前記第2の部位は腹部を含むことが好ましい。腹部には、横隔膜及び内臓組織と腹部骨格筋とが形成されている。腹式呼吸では呼気時に腹部骨格筋の働きによって内臓組織が横隔膜を押し上げる方向に上昇するが、胸式呼吸ではそのようなことはない。胸式呼吸と腹式呼吸のいずれであっても、呼気時には肺から空気が排出されるため、第1生体電気インピーダンスが低下する。その一方、腹式呼吸の呼気時には、腹部の内臓組織が横隔膜に押し上げて上昇(伸長)するので、第2生体電気インピーダンスは高くなる。したがって、第1生体電気インピーダンスの時間変化と第2生体電気インピーダンスの時間変化との相違を解析することにより、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することが可能となる。
【0010】
ここで、第1の部位は体幹上部であり、第2の部位は体幹中部であってもよい。腹部の生体電気インピーダンスを直接測定するために、いわゆるみぞ落ちと臍下に電極を配置することも考えられるが、被験者に電極を取り付ける手間が掛かるうえ、被験者を不快にさせてしまう。四肢誘導八電極法を用いれば、両掌と両足裏に電極を配置することにより、体幹上部を含む部位と体幹中部の生体電気インピーダンスを測定することができ、電極を体幹に貼る必要がなくなるといった利点がある。なお、両掌間の計測では、肺の他に左右上肢の生体電気インピーダダンスが測定されるが、左右上肢を動かさなければ、その部分の生体電気インピーダンスは変化しないので、胸式呼吸と腹式呼吸の判定に影響を及ぼさない。左右上肢を部位ごとに計測する場合も同様である。
【0011】
また、上述した呼吸判定装置において、前記判定手段は、前記第1生体電気インピーダンスと前記第2生体電気インピーダンスの差分を差分生体電気インピーダンスとして算出する算出手段を備え、前記差分生体電気インピーダンスの時間変化に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することが好ましい。ここで、「差分生体電気インピーダンスの時間変化に基づいて」とは、例えば、パターンマッチング手法を用いた解析であってもよい。すなわち、差分生体電気インピーダンスの時間変化が予め用意された腹式呼吸の差分生体電気インピーダンスの変化とどの程度一致するか、差分生体電気インピーダンスの時間変化が予め用意された胸式呼吸の差分生体電気インピーダンスの変化とどの程度一致するかを算出し、算出結果によって、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定してもよい。
【0012】
また、上述した呼吸判定装置において、前記算出手段は、前記第1生体電気インピーダンスと前記第2生体電気インピーダンスとのうち少なくとも一方について補正する補正手段を備え、補正された前記第1生体電気インピーダンス及び前記第2生体電気インピーダンス、又は前記第1生体電気インピーダンスと前記第2生体電気インピーダンスのうち補正された一方と補正されていない他方の差分を前記差分生体電気インピーダンスとして算出することが好ましい。補正は、差分生体電気インピーダンスに胸式呼吸と腹式呼吸の相違が、補正前よりも大きく反映されるように行われる。
この補正には、例えば、生体電気インピーダンスの平均値で正規化する処理が含まれる。さらに、被験者の年齢、身長、体重、あるいは体脂肪率といった身体的特徴を示す指標を変数として、生体電気インピーダンスを補正してもよい。この場合には、個々人の内臓組織や腹部骨格筋、あるいは内臓脂肪や皮下脂肪の量などのバラツキの影響を受けにくくでき、より正確な判定が可能となる。
また、補正手段は、吸気での相違を統計上のバランスに一致させるように補正し、判定手段は呼気での相違を判定に用いるようにしてもよい。より具体的には、補正手段は、測定された生体電気インピーダンスに補正係数を乗算して補正済の生体電気インピーダンスを生成する。この補正係数は、吸気における生体電気インピーダンスの変化が吸気における統計上の生体電気インピーダンスの変化と一致するように設定してもよい。
【0013】
また、上述した呼吸判定装置において、前記判定手段は、前記差分生体電気インピーダンスを閾値と比較する比較手段を備え、前記比較手段の比較結果に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することが好ましい。
さらに、前記判定手段は、前記差分生体電気インピーダンスを積分する積分手段を備え、積分結果に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定してもよい。
より具体的には、前記判定手段は、前記測定手段によって測定された前記第1生体電気インピーダンスの変化の周期から、吸気と呼気とからなる1呼吸のストローク期間を検知する検知手段と、前記ストローク期間ごとに、前記第2生体電気インピーダンスが閾値以上となる第1の面積と前記差分が閾値以下となる第2の面積とを算出する面積算出手段と、前記ストローク期間ごとに、前記第1の面積と前記第2の面積の差分を算出する差分面積算出手段とを備え、前記差分面積算出手段によって算出された差分面積に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することが好ましい。この発明によれば、呼吸の1ストロークを肺の動きを直接反映させた第1生体電気インピーダンスの変化に基づいて判別するので、1呼吸のストローク期間を正確に検知することができる。くわえて、呼吸パターンリズム誘導手段によって音声や表示によって目標とする呼吸のパターンや呼吸リズムを報知する場合には、被験者の呼吸が誘導されることになるから、呼気及び吸気の1ストローク期間をより正確に検知することができる。さらに、腹式呼吸では、呼気時において腹部の生体電気インピーダンスが肺・呼吸筋の生体電気インピーダンス変化を打ち消す方向に変化する一方、胸式呼吸では、呼気時において腹部の生体電気インピーダンスがさほど変化しないので、差分面積によって、腹式呼吸の程度と胸式呼吸の程度を判定することが可能となる。
【0014】
また、上述した態様において、前記判定手段は、被験者の呼吸について、腹式呼吸の程度と胸式呼吸の程度とを判定し、前記判定手段の判定結果を報知する第1報知手段を備えることが好ましい。これにより、バイオフィードバックにより呼吸トレーニングが可能となる。
【0015】
また、上述した態様において、目標とする呼気のイミング及び深さ、並びに目標とする吸気のタイミング及び深さを被験者に報知する第2報知手段とを備えることが好ましい。これにより呼吸周期及び吸気と呼気のパターンマッチングを円滑に行うことが可能となり、目標とする呼吸パターンに被験者を誘導することができる。さらに、前記生体電気インピーダンス測定手段によって測定された前記1つ以上の部位の生体電気インピーダンスに基づいて、呼気及び吸気の深さの時間変化を表示する表示部を備えることが好ましい。この場合には、呼吸パターンをバイオフィードバックすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係わる実施形態の生体測定装置の電気的構成について示すブロック図である。
【図2】生体測定装置の外観例を示す斜視図である。
【図3】生体測定装置の電極配置を示す説明図である。
【図4】電流電極の選択と電圧電極の選択とを説明するための説明図である。
【図5】生体測定装置の動作内容を示すフローチャートである。
【図6】体幹を構成する組織の概略を示す模式図である。
【図7】体幹の生体電気インピーダンスの等価回路を示す回路図である。
【図8】呼吸と生体電気インピーダンスの変化の関係を説明する説明図である。
【図9】呼吸解析処理の処理内容の一例を示すフローチャートである。
【図10】体幹中部および体幹上部の生体電気インピーダンスの時間変化を示すグラフである。
【図11】差分ΔZの時間変化を示すグラフである。
【図12】第1検出信号の波形を示す波形図である。
【図13】判定処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図14】呼吸解析処理の処理内容の他の例を示すフローチャートである。
【図15】表示部の表示例を示す説明図である。
【図16】表示部の表示例を示す説明図である。
【図17】表示部の表示例を示す説明図である。
【図18】表示部の表示例を示す説明図である。
【図19】表示部の表示例を示す説明図である。
【図20】表示部の表示例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.実施形態>
<1−1:生体測定装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係る生体測定装置1の構成を示すブロック図である。この生体測定装置1は、生体の状態を測定するものであるが、その機能の一部は、呼吸の種別や胸式呼吸の程度及び腹式呼吸の程度を判定する呼吸判定装置としての役割を担う。
生体測定装置1は、体重を測定すると共に装置全体の動作を管理する管理部100と、被験者の各部位の生体電気インピーダンスを測定する生体電気インピーダンス測定部200とを備える。管理部100は、体重計110、第1記憶部120、第2記憶部130、音声処理部140、スピーカ145、入力部150、並びに表示部160を備える。これらの構成要素は、バスを介してCPU(Central Processing Unit)170と接続されている。CPU170は、装置全体を制御する制御中枢として機能する。なお、CPU170は図示せぬクロック信号発生回路からクロック信号の供給を受けて動作する。また、各構成要素には図示せぬ電源スイッチがオン状態になると、電源回路から電源が供給される。
【0018】
体重計110は、被験者の体重を測定して体重データをバスを介してCPU170に出力する。第1記憶部120は、不揮発性のメモリであって、例えばROM(Read Only Memory)で構成される。第1記憶部120には、装置全体を制御する制御プログラムが記憶されている。CPU170は、制御プログラムに従って後述する所定の演算を実行することにより、被験者の呼吸について胸式呼吸と腹式呼吸とを判定する。
【0019】
第2記憶部130は、揮発性のメモリであり、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等によって構成される。第2記憶部130はCPU170の作業領域として機能し、CPU170が所定の演算を実行する際にデータを記憶する。また、音声処理部140は、CPU170の制御の下、音声データをDA変換して得た音声信号を増幅してスピーカ145に出力する。スピーカ145は増幅された音声信号を振動に変換して放音する。これによって、呼吸のリズムの指導などのアドバイス情報を音によって被験者に報知することができる。
【0020】
入力部150は、各種のスイッチから構成され、被験者がスイッチを操作すると、身長、年齢、及び性別といった情報が入力される。表示部160は、体重や呼吸の種別といった測定結果や、腹式呼吸に導くための呼気と吸気の区別などのアドバイス情報を知らせる機能、あるいは被験者に各種の情報の入力を促すメッセージを表示する機能を有する。表示部160は、例えば、液晶表示装置などで構成される。
【0021】
次に、生体電気インピーダンス測定部200は、生体電気インピーダンスを測定する。生体電気インピーダンス測定部200は、交流電流出力回路210、基準電流検出回路220、電位差検出回路230、A/D変換器240、電極切換回路251及び252を備える。
交流電流出力回路210は、制御プログラムで定められた周波数の交流信号を、制御プログラムで定められた実効値となるように基準電流Irefを生成する。基準電流検出回路220は、被測定対象に流れる基準電流Irefの大きさを検出して電流データDiとしてCPU170に出力するとともに、被験者(人体)に基準電流Irefを通電する。この場合、電極切換回路252は、電流電極X1〜X4の中から2つを選択して電流を供給する。
さらに、電位差検出回路230は、電圧電極Y1〜Y4の中から選択された2つの電圧電極の間の電位差を検出して電位差信号ΔVを生成する。A/D変換器240は電位差信号ΔVをアナログ信号からデジタル信号に変換し電圧データDvとしてCPU170に出力する。CPU170は電圧データDvと電流データDiとに基づいて生体電気インピーダンスZ(=Dv/Di)を計算する。
【0022】
第1記憶部120は、各種データを予め記憶することができる。たとえば、各部位の生体電気インピーダンスを変数として体脂脂肪率や筋肉量を算出するための相関式又は相関テーブルが記憶されている。
CPU170は、体重、各種の部位生体電気インピーダンス(例えば、上肢生体電気インピーダンス、下肢生体電気インピーダンス、体幹生体電気インピーダンス)、を演算し、かつ、各種の入出力、測定、演算等について制御する。なお、生体電気インピーダンスなどに基づいて、内臓脂肪/皮下脂肪、内臓脂肪量、皮下脂肪率、皮下脂肪量、全身の脂肪率、身体の各部位の脂肪率(上肢脂肪率、下肢脂肪率、体幹脂肪率など)を演算することもできる。
【0023】
図2に、生体測定装置1の外観例を示す。生体測定装置1は、L字型の形状をしており、台座部20の上に柱状の筐体部30を備える。台座部20には、左足用の電流電極X1及び電圧電極Y1と、右足用の電流電極X2及び電圧電極Y2が設けられている。また、筐体部30の上部には、表示部160が設けられている。この表示部160は、タッチパネルで構成されており、入力部150としても機能する。さらに、筐体部30の左右の側面には、左手用の電極部30Lと右手用の電極部30Rが設けられている。
【0024】
図3は筐体部30の上部を拡大した拡大図である。この図に示すように、左手用の電極部30Lは電流電極X3及び電圧電極Y3を備え、右手用の電極部30Rは電流電極X4及び電圧電極Y4を備える。被験者は、台座30の上に立ち、左右の手を下げた状態で電極部30L及び電極部30Rを握ることによって、測定を行う。
【0025】
電極切換回路251及び252は、CPU170の制御の下、両手及び両足に装着される8個の電極を選択する。この8個の電極を適宜選択することによって、人体の所定の部位における生体電気インピーダンスZを計測することが可能となる。例えば、図4(A)に示すように基準電流Irefを左足用の電流電極X1と左手用の電流電極X3との間に供給し、左足用の電圧電極Y1と左手用の電圧電極Y3との間で電位差を計測すれば、全身の生体電気インピーダンスを計測することができる。なお、基準電流Irefを電流電極X2及びX4の間に流し、電圧電極Y2及びY4の間の電位差を計測しても全身の生体電気インピーダンスを計測することができる。さらに、図4(K)に示すように両掌を短絡させ、両足を短絡させ、両掌から両足までの生体電気インピーダンスを全身の生体電気インピーダンスとして測定してもよい。
【0026】
また、図4(B)に示すように基準電流Irefを右足用の電流電極X2と右手用の電流電極X4との間に供給し、右足用の電圧電極Y2と左足用の電圧電極Y1との間で電位差を計測すれば、右下肢の生体電気インピーダンスZを計測することができる。また、図4(C)に示すように基準電流Irefを左足用の電流電極X1と左手用の電流電極X3との間に供給し、左足用の電圧電極Y1と右足用の電圧電極Y2との間で電位差を計測すれば、左下肢の生体電気インピーダンスZを計測することができる。
【0027】
また、図4(D)に示すように基準電流Irefを右手用の電流電極X4と右足用の電流電極X2との間に供給し、右手用の電圧電極Y4と左手用の電圧電極Y3との間で電位差を計測すれば、右上肢の生体電気インピーダンスZを計測することができる。また、図4(E)に示すように基準電流Irefを左手用の電流電極X3と左足用の電流電極X1との間に供給し、右手用の電圧電極Y4と左手用の電圧電極Y3との間で電位差を計測すれば、左上肢の生体電気インピーダンスZを計測することができる。また、図4(F)に示すように基準電流Irefを右手用の電流電極X4と左手用の電流電極X3との間に供給し、右手用の電圧電極Y4と左手用の電圧電極Y3との間で電位差を計測すれば、両掌間の生体電気インピーダンスZを計測することができる。ここで、体幹を体幹上部と体幹中部に分けた場合、左上肢、右上肢、及び掌間の生体電気インピーダンスは、いずれも体幹上部が含まれる。このため、左上肢、右上肢、及び掌間の生体電気インピーダンスを体幹上部の生体電気インピーダンスとして取り扱うことも可能である。
【0028】
さらに、図4(G)に示すように基準電流Irefを左手用の電流電極X3と左足用の電流電極X1との間に供給し、右手用の電圧電極X4と右足用の電圧電極Y2との間で電位差を計測すれば、体幹中部の生体電気インピーダンスを計測することができる。また、図4(H)に示すように基準電流Irefを右手用の電流電極X4と右足用の電流電極X2との間に供給し、左手用の電圧電極Y3と左足用の電圧電極Y1との間で電位差を計測すれば、体幹中部の生体電気インピーダンスを計測することができる。また、図4(I)に示すように基準電流Irefを右手用の電流電極X4と左足用の電流電極X1との間に供給し、左手用の電圧電極Y3と右足用の電圧電極Y2との間で電位差を計測すれば、体幹中部を斜めに横切る生体電気インピーダンスを計測することができる。図4(J)に示すように基準電流Irefを右足用の電流電極X2と左手用の電流電極X3との間に供給し、右手用の電圧電極Y4と左足用の電圧電極Y1との間で電位差を計測すれば、体幹中部を斜めに横切る生体電気インピーダンスを計測することができる。
【0029】
なお、体幹部の生体電気インピーダンスZxの測定方法は、上述した方法に限定されるものではなく、両手両足の電極のうち、基準電流Irefを供給する電極と電位差を検出する電極とを適宜選択することによって、手、足、あるいは全身といった人体の各部位の生体電気インピーダンスZを各々測定し、測定結果を加減算して体幹中部の生体電気インピーダンスZを算出すればよい。さらに、四肢以外に頭部の耳たぶなどに四肢のいずれかの代用として使用しても、体幹部の生体電気インピーダンスZxの測定は可能である。くわえて、体幹に接触電極を設ける場合には言うに及ばない。
【0030】
<1−2:生体測定装置の動作>
図5は、生体測定装置1の動作を示すフローチャートである。まず、入力部150における電源スイッチ(図示省略)がオンされると、図示せぬ電力供給部から電気系統各部に電力を供給し、表示部160により身長を含む身体特定情報(身長、性別、年齢など)を入力するための画面を表示する(ステップS1)。
続いて、入力部150から身長、性別、年齢等が入力されると、体重計110により体重が測定され、CPU170は体重を取得する(ステップS2)。
【0031】
この後、生体電気インピーダンス測定部200により、各種の部位生体電気インピーダンス(上肢生体電気インピーダンス、下肢生体電気インピーダンス、体幹生体電気インピーダンス)に基因する電圧データDvと電流データDiを測定し、CPU170は、これらに基づいて部位生体電気インピーダンスを各々演算する(ステップS3)。続いて、CPU170は、呼吸解析処理を実行する(ステップS4)。呼吸解析処理の詳細は後述するが、この処理では、被験者の呼吸について、呼吸の種別や胸式呼吸と腹式呼吸の割合などを解析する。そして、呼吸解析処理の結果及びアドバイス情報を表示する(ステップS5)。
【0032】
<1−3:呼吸解析の原理>
次に、呼吸解析の原理について説明する。図6は、体幹部の組織の概略を示す模式図である。この図に示すように体幹部の組織は、横隔膜によって上下に分けられている。上部には肺と内外肋間筋などの胸部骨格筋とが形成されている。一方、下部には内臓組織と内外腹斜筋・腹横筋や腹直筋などからなる腹部骨格筋が形成されている。
腹式呼吸及び胸式呼吸のいずれにしても、呼気時に横隔膜は上昇して肺が圧縮され、吸気時に横隔膜は下降して肺は伸長拡大する。胸式呼吸に無い腹式呼吸の特徴は、腹直筋や内外腹斜筋・腹横筋などの腹部呼吸筋の伸縮により内臓組織と伴に横隔膜を上下させる点にある。
筋肉や組織が動くと、対応する部位の生体電気インピーダンスが変化する。したがって、胸式呼吸や腹式呼吸の特徴を反映させた生体電気インピーダンスを測定することによって、被験者の呼吸の種別を特定することが可能となる。なお、一般の人の呼吸は、胸式呼吸と腹式呼吸が混在している。
【0033】
ここで、体幹中部の生体電気インピーダンスZaと体幹上部の生体電気インピーダンスZbとは、図7に示す等価回路で表すことができる。胸部骨格筋、肺、腹部骨格筋、内臓組織、及び上肢骨格筋の生体電気インピーダンスをZ1、Z2、Z3、Z4、及びZ5とする。この場合、体幹中部の生体電気インピーダンスZaは、Z1とZ2の並列インピーダンス及びZ3とZ4の並列インピーダンスを直列に接続したものとなる。一方、体幹上部の生体電気インピーダンスZbは、Z1とZ2の並列インピーダンスとZ5を直列に接続したものとなる。なお、横隔膜の生体電気インピーダンスは、内臓組織に代表される生体電気インピーダンスZ4に含ませて考えることができる。
【0034】
次に、図8を参照して、呼吸と生体電気インピーダンスの変化の関係を説明する。体幹上部でのインピーダンスの変化は、肺に絶縁性の高い空気が出入りすることによる電気的特質(電気電導性or 1/体積抵抗率)の変化が主な原因であると考えられる。つまり、呼気(呼息)では肺組織中に含まれる空気量が減るため肺の生体電気インピーダンスZ2(ΔZ<0)は減少方向に変化する。一方、吸気(吸息)では空気量が増加するため、肺の生体電気インピーダンスZ2(ΔZ>0)は増加方向に変化する。
【0035】
胸式で胸郭を広げる呼吸法では、内外肋間筋などの呼吸骨格筋の伸縮変化と肺の伸縮変化が同じ方向に作用するので、肺の生体電気インピーダンスZ2が増加すれば胸部骨格筋の生体電気インピーダンスZ1が増加し、肺の生体電気インピーダンスZ2が減少すれば胸部骨格筋の生体電気インピーダンスZ1も減少する。一方、腹式呼吸は胸郭の変化がほとんど見られない呼吸法なので、胸部骨格筋の生体電気インピーダンスZ1は殆ど変化せず、肺の生体電気インピーダンスZ2が呼吸に伴って大きく変化する。
【0036】
体幹中部の生体電気インピーダンスの変化は、横隔膜の動きと連動している。上述したように腹式呼吸及び胸式呼吸のいずれの場合も、横隔膜は呼気時上昇し、吸気時下降する。そして、腹式呼吸の特徴は、腹部呼吸筋の伸縮により内臓組織と伴に横隔膜を上下させる点にある。より具体的には、腹式呼吸の呼気時のみ、腹筋を緊張させて内臓組織と伴に横隔膜を押し上げ上昇させることで、内臓組織と腹部骨格筋との並列部の生体電気インピーダンスが上昇する。このとき、肺組織の生体電気インピーダンスは減少する。このため、横隔膜から上部の生体電気インピーダンスの減少を横隔膜から下部の生体電気インピーダンスの増加が打ち消すように作用する。但し、内臓組織や腹部骨格筋の生体電気インピーダンスの増加分が肺及び胸部骨格筋の生体電気インピーダンスの減少分より大きい場合には、体幹中部の生体電気インピーダンスが増加するが、これは内臓脂肪蓄積の少ない人か腹式呼吸法に秀でた場合の例である。例えば、内臓組織に内臓脂肪が過大に蓄積している場合は、腹筋の低下や内臓組織の大きな上下変位が期待できない。このため、腹式特有の呼吸パターン変化が出にくくなるものと推測される。つまり、内臓脂肪が過大に蓄積している人では、胸式呼吸が優位となり腹式呼吸がし難いことが容易に推察される。
【0037】
このように、胸式呼吸と腹式呼吸とでは、横隔膜から下部にある腹部骨格筋と内臓組織の動きが異なる。したがって、腹部の生体電気インピーダンスを分離できれば、呼吸の種別を判別することが可能となる。そこで、本実施形態では、体幹中部の生体電気インピーダンスと体幹上部の生体電気インピーダンスの差分を、腹部の生体電気インピーダンスとして算出し、算出結果に基づいて、被験者の呼吸を解析する。
なお、体幹上部の生体電気インピーダンスZbには、上肢骨格筋の生体電気インピーダンスZ5が含まれている。上肢骨格筋は、呼吸に直接的に寄与する筋肉ではない。したがって、計測中に上肢骨格筋が動くのは、計測精度の観点から望ましくない。本実施形態において被験者は、図2に示す測定装置の台座部20の上に立ち、左右の腕を下げた状態で30L及び30Rを握り計測を行う。このため、計測中に上肢骨格筋が動くことがないので、体幹上部の生体電気インピーダンスZbの変化分に着目すれば、呼吸に関係する生体電気インピーダンスの変化を精度良く検出することが可能となる。
【0038】
<1−4:呼吸解析処理>
次に、呼吸解析処理について2つの態様を説明する。
図9に、呼吸解析処理の第1態様の処理内容を示す。まず、CPU170は、ステップS3のインピーダンス測定処理で計測された体幹中部の生体電気インピーダンスZaと体幹上部の生体電気インピーダンスZbとを取得する(ステップS11)。例えば、体幹中部の生体電気インピーダンスZaと体幹上部の生体電気インピーダンスZbとは、図10に示すように変化する。
【0039】
次に、CPU170は、体幹中部の生体電気インピーダンスZaと体幹上部の生体電気インピーダンスZbとの差分ΔZを算出する(ステップS12)。差分ΔZは、腹部の生体電気インピーダンスに相当する。差分ΔZは、図11に示すように変化する。
次に、CPU170は、差分ΔZを所定の閾値と比較し(ステップS13)、その比較結果に基づいて腹式呼吸及び胸式呼吸を判定する(ステップS14)。例えば、図11に示すように閾値REFを設定すると、腹式呼吸の呼気を検出することができる。図12に比較結果の比較結果信号DETをを示す。同図において、ローレベルの期間は腹式呼吸の呼気の期間である。したがって、短い周期で第1検出信号DET1のハイレベルとローレベルとが切り替わっている期間は腹式呼吸の期間であるといえる。一方、ハイレベルが長く続く期間は胸式呼吸の期間であるといえる。したがって、図12における期間Tfは腹式呼吸の期間であり、期間Tkは胸式呼吸の期間である。
【0040】
ここで、腹式呼吸は第1検出信号DET1が短い周期となり、胸式呼吸の第1検出信号DET1は長い期間ハイレベルとなる。「短い」、「長い」をいかに区別するかが問題となるが、これは、吸気と呼気の組で呼吸の1周期としたとき、被験者の呼吸周期を超える場合に「長い」のであり、被験者の呼吸周期以下である場合に「短い」のである。呼気と吸気は交互に繰り返されるので、呼吸周期を基準に「長い」「短い」を判定すればよい。
【0041】
図13に判定処理の具体的な内容を示す。CPU170は第1検出信号DET1の立ち上がりがあったか否かを判定し(ステップS21)、検知するまで判定を繰り返す。第1検出信号DET1の立ち上がりは差分ΔZから検出される吸気の開始である。次に、CPU170は、カウンタにおけるカウントを開始する(ステップS22)。すなわち、吸気の開始から計時が開始される。
【0042】
そして、CPU170は、第1検出信号DET1の立ち下がりがあったか否かを判定する(ステップS23)。第1検出信号DET1の立ち上がりは、差分ΔZから検出される吸気の開始である。第1検出信号DET1の立ち下がりがなかった場合には、CPU170は処理をステップS24に進め、カウンタのカウント値を参照して、吸気の開始から1呼吸周期が経過したか否かを判定する。判定条件が肯定される場合は、吸気の開始から1呼吸周期が経過しても呼気が無かった場合である。この場合、CPU170は、胸式呼吸であると判定し、処理をステップS21に戻す。
【0043】
一方、判定条件が否定された場合、CPU170は処理をステップS23に戻す。第1検出信号DET1が立ち下がって吸気が開始されてから、1呼吸周期が経過するまでに第1検出信号DET1が立ち下がり、呼気が開始された場合には、ステップS23の判定結果はYESとなる。この場合、CPU170は、腹式呼吸と判定してステップS21に処理を戻す。
【0044】
ここで、ステップS24の判定で用い呼吸周期は、人の安静状態における一般的な呼気と吸気の組の時間とすればよい。また、体幹上部の生体電気インピーダンスZbの変化から検出してもよい。胸式呼吸と腹式呼吸のいずれの場合にも、呼吸に伴って肺及び胸部骨格筋の生体電気インピーダンスが変化するからである。
【0045】
ところで、実際の呼吸では、図10に示すように、腹式呼吸が主体となる期間と、胸式呼吸が主体となる期間の他に、腹式呼吸と胸式呼吸の両方を意識した完全呼吸(腹式+胸式呼吸)の期間とがある。上述した呼吸解析処理では、腹式呼吸が主体となる期間及び完全呼吸の期間を合わせて腹式呼吸の期間として判別する一方、胸式呼吸が主体となる期間を胸式呼吸の期間として判別した。
【0046】
次に、呼吸解析処理の第2態様について説明する。図14に呼吸解析処理の第2態様の処理内容を示す。まず、CPU170は、体幹中部の生体電気インピーダンスZaと体幹上部の生体電気インピーダンスZbとを取得し(ステップS31)、続いて、体幹中部の生体電気インピーダンスZaと体幹上部の生体電気インピーダンスZbとの差分ΔZを算出する(ステップS32)。差分ΔZは、腹部の生体電気インピーダンスに相当し、差分ΔZは、図11に示すように変化することは上述した通りである。
【0047】
次に、CPU170は体幹上部のインピーダンスZbの変化から吸気と呼気からなる1呼吸のストローク期間を検知する(ステップS33)。体幹上部のインピーダンスZbを所定の閾値と比較することによってストローク期間を検知すればよい。
【0048】
次に、CPU170は、ストローク期間ごとに差分ΔZが閾値以上となる面積S1と閾値以下となる面積S2とを算出する(ステップS34)。例えば、図11において閾値を「0」とすれば、面積S1と面積S2は、図示するようになる。
【0049】
次に、CPU170は、ストローク期間ごとに面積S1と面積S2の差分ΔSを算出し(ステップS35)、差分ΔSに基づいて呼吸の種別を判定する(ステップS36)。ΔS=S1−S2とし、腹式呼吸のΔSをΔS1、胸式呼吸のΔSをΔS2、完全呼吸のΔSをΔS12とすれば、ΔS1<ΔS12<ΔS2の関係がある。
したがって、差分ΔSは、被験者の呼吸に占める腹式呼吸、胸式呼吸の程度を示す指標である。よって、差分ΔSから、呼吸の種別や、その依存度などを判定することが可能となる。
ここで、表示部160には、図15に示すようにリアルタイムで、現状の呼吸が胸式呼吸か腹式呼吸のどちらの依存性が強いか(方向)とその大きさをバーグラフ表示してもよい。また、バーグラフ表示において、呼吸の深さをバーグラフで表示してもよい。また、例えば、図19に示すように、バーグラフ表示を時間変化させてもよい。この例では、差分ΔZ=0を基準として正方向を胸式呼吸、負方向を腹式呼吸とし、1呼吸ごとにバーグラフ表示を変化させている。これにより、被験者はリアルタイムで腹式呼吸と胸式呼吸との依存度の変化を知ることができる。
この例では、1つのバーがΔZ=0.5に相当している。ここで、胸式呼吸及び腹式呼吸の程度は5段階で表示される。胸式呼吸か腹式呼吸かの判定基準は、1段階では、判定不能(胸式呼吸とも腹式呼吸ともいえない)、2段階以上で、胸式呼吸又は腹式呼吸と判定するようにしてもよい。例えば、胸式呼吸及び腹式呼吸の段階がいずれも1以下であれば、判定不能となる。また、胸式呼吸の段階が2以上で腹式呼吸の段階が1以下の場合には、胸式呼吸と判定する。また、腹式呼吸の段階が2以上で胸式呼吸の段階が1以下の場合には、腹式呼吸と判定する。そして、胸式呼吸及び腹式呼吸の段階がいずれも2以上の場合には、完全呼吸と判定する。
【0050】
このように本実施形態では、腹部の生体電気インピーダンスを、体幹中部及び体幹上部の生体電気インピーダンスの差分として取得し、呼吸の種別を判定した。このため、体幹に電極やストレインゲージを配置しないで、普及している体組成計と同じ計測法で体幹の呼吸挙動をモニタリングが可能となり、呼吸の種別や呼吸法の依存度を判定することが可能となった。
【0051】
<2.変形例>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下の変形が可能である。
(1)上述した実施形態では、バーグラフ表示を報知の一例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図20に示すように呼吸の深さを肺の模式図によって表示してもよい。この場合には、吸気の時間が長くなるにつれ肺の色つきの面積が拡大し、呼気の時間が長くなるにつれ肺の色つきの面積が減少する。これは、測定結果に基づいて表示してもよいし、あるいは、呼吸の指導情報として表示してもよい。
また、図16に示すように胸式と腹式の依存度を時間変化のグラフで表示部160に表示してもよい。図17に示すように呼吸の深さを胸式呼吸と腹式呼吸の依存度と共に表示してもよい。このように、時系列に腹式呼吸と胸式呼吸の割合変化を表示すると、呼吸法トレーニングのためのバイオフィードバック情報としての活用することができる。
さらに、腹式呼吸・胸式呼吸の割合変化に合わせて呼吸指導情報を表示することによって、指導情報と実測情報のずれを被験者に報知することができ、バイオフィードバックの効果をより一層高めることができる。例えば、呼気と吸気の大きさを図18に示すように表示してもよい。この例では、指導情報を点線で示し、実測情報を実線で示してある。
また、リアルタイムによる表示以外に、何周期かの計測区間のデータを解析して、腹式と胸式の(依存性)判定結果を表示してもよい。
くわえて、音声による呼吸法指導メッセージ(呼吸リズム等をの指導)やリラックス環境づくりのためのバックグラウンド音刺激(音声やミュージックや滝の音や鳥などの鳴き声とか)の組み合わせてもよい。
【0052】
(2)上述した実施形態において、電流電極および電圧電極の一例として、両手両足を電極の接点とする四肢誘導八電極法を一例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、耳電極との四肢誘導法とを組み合わせて、体幹上部の生体電気インピーダンスを測定してもよい。
この場合には、耳電極を用いることによって、体幹上部の生体電気インピーダンスの測定について両腕計測ではなく片腕計測が可能となる。なお、耳電極を用いる場合には、イヤホンやヘッドホンに耳電極を組み込むことによって、音声等の音報知・音刺激との組み合わせが効果的である。
また、上述した実施形態では、立位での計測であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、便座での生体電気インピーダンスを計測するようにしてもよい。この場合には、便座や手摺に電極確保することができる。さらに、ポケッタブルやウェアラブルでのリラクゼーション姿勢(椅子座位等)で生体電気インピーダンスを計測するようにしてもよい。この場合には、マッサージチェアー等の手摺と足置き等に電極確保することができる。
さらに、入浴中の呼吸計測も可能である。この場合には、浴槽手摺部と浴槽底の御尻や足裏接触側面部に電極を設ける。浴槽内のお湯よりも、体幹の方が、生理食塩水でできているので電流通電が支配的になる。よって、入浴中にリラックスした状態で呼吸法のトレーニングを行うことができる。
くわえて、上述した実施形態の生体測定装置1に、血圧計の腕帯と手で握る等で接触させる血圧計を付加し、血圧計に電極配置して呼吸変化や腕の筋の緊張具合を血圧測定時の補正情報として活用してもよい。
【0053】
(3)上述した実施形態及び変形例において、体幹中部および体幹上部の生体電気インピーダンスについて、ストローク周期毎に最大値と最小値を検出し、生体電気インピーダンスの変化幅や差分を算出し、これらを用いて呼吸解析を実行してもよい。
また、上述した実施形態及び変形例において、計測される生体電気インピーダンスの変化は、計測区間の生体電気インピーダンスの平均値または、呼吸の中央値等を用いて正規化して用いてもよい。また、生体電気オンピーダンスの差分ΔZに腹式呼吸と胸式呼吸の相違が、補正前よりも大きく反映されるように、計測される生体電気インピーダンスを補正してもよい。この意味において正規化も補正の一態様である。被験者の年齢、身長、体重、あるいは体脂肪率といった身体的特徴を示す指標を変数として、生体電気インピーダンスを補正してもよい。これにより、体幹や上肢に分布する骨格筋分布等の体組成との関連情報を反映することができ、より、呼吸判別と呼吸の深さ(大きさ)の信頼性を上げることが可能となる。
【0054】
(4)上述した実施形態においては、体幹中部と体幹下部といった2つの部位の生体電気インピーダンスを測定し、それらの時間変化の違いに基づいて、被験者の呼吸について胸式呼吸と腹式呼吸とを判定した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、肺を含む第1の部位と、腹式呼吸において第1の部位の生体電気インピーダンスの時間変化を打ち消すような変化を含む第2の部位を生体電気インピーダンスの測定対象としてよい。この場合には、第1の部位の生体電気インピーダンスは、胸式呼吸と腹式呼吸とで同じように変化するが、第2の部位の生体電気インピーダンスは腹式呼吸と胸式呼吸とで相違する。したがって、両者の生体電気インピーダンスの時間変化の違いに基づいて、被験者の呼吸について胸式呼吸と腹式呼吸とを判定することができる。
【0055】
(5)また、体幹中部、即ち、肺と腹部とを含む部位の生体電気インピーダンスの時間変化に基づいて被験者の呼吸について胸式呼吸と腹式呼吸とを判定してもよい。例えば、図10において、Z=0を基準として体幹中部の生体電気インピーダンスを1呼吸の周期で積分すれば、その積分結果は、腹式呼吸の方が、胸式呼吸と比較して小さくなる。したがって、両者が判別できる閾値と積分結果を比較することによって、腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することができる。すなわち、胸式呼吸と腹式呼吸とで同じように生体電気インピーダンスが増加減少する部位と、胸式呼吸と腹式呼吸とで生体電気インピーダンスの増加減少が反対となる部位とを含む部分を測定対象とすることで、1つの測定対象であっても腹式呼吸と胸式呼吸の判定が可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 生体測定装置
120 第1記憶部
150 入力部
170 CPU
200 生体電気インピーダンス測定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸に寄与する1つ以上の部位について生体電気インピーダンスを測定する生体電気インピーダンス測定手段と、
測定された1つ以上の部位の生体電気インピーダンスの時間変化に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定する判定手段と
を備える呼吸判定装置。
【請求項2】
測定された前記1つ以上の部位の生体電気インピーダンスの時間変化は、呼気と吸気とからなる1呼吸ごとの周期性変化を有し、
前記判定手段は、前記1つ以上の部位の生体電気インピーダンスの時間変化と呼気における1つ以上の部位の生体電気インピーダンスの時間変化の違いに基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の呼吸判定装置。
【請求項3】
前記生体電気インピーダンス測定手段は、肺を含む第1の部位の第1生体電気インピーダンスと、腹式呼吸において前記第1生体電気インピーダンスの時間変化を打ち消すような変化を含む第2の部位の第2生体電気インピーダンスとを測定し、
前記判定手段は、前記第1生体電気インピーダンスの時間変化と前記第2生体電気インピーダンスの時間変化の相違に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の呼吸判定装置。
【請求項4】
前記第1の部位は、肺を含み腹部を含まず、前記第2の部位は腹部を含むことを特徴とする請求項3に記載の呼吸判定装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記第1生体電気インピーダンスと前記第2生体電気インピーダンスの差分を差分生体電気インピーダンスとして算出する算出手段を備え、前記差分生体電気インピーダンスの時間変化に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定することを特徴とする請求項3又は4に記載の呼吸判定装置。
【請求項6】
前記算出手段は、
前記第1生体電気インピーダンスと前記第2生体電気インピーダンスとのうち少なくとも一方について補正する補正手段を備え、
補正された前記第1生体電気インピーダンス及び前記第2生体電気インピーダンス、又は前記第1生体電気インピーダンスと前記第2生体電気インピーダンスのうち補正された一方と補正されていない他方の差分を前記差分生体電気インピーダンスとして算出する、
ことを特徴とする請求項5に記載の呼吸判定装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記差分生体電気インピーダンスを閾値と比較する比較手段を備え、前記比較手段の比較結果に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定する、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の呼吸判定装置。
【請求項8】
前記判定手段は、前記差分生体電気インピーダンスを積分する積分手段を備え、積分結果に基づいて、被験者の呼吸について腹式呼吸と胸式呼吸とを判定する、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の呼吸判定装置。
【請求項9】
前記判定手段は、被験者の呼吸について、腹式呼吸の程度と胸式呼吸の程度とを判定し、前記判定手段の判定結果を報知する第1報知手段を備えることを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の呼吸判定装置。
【請求項10】
目標とする呼気のイミング及び深さ、並びに目標とする吸気のタイミング及び深さを被験者に報知する第2報知手段とを
備える請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の呼吸判定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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