説明

呼吸器疾患の治療

グリタゾン、例えばピオグリタゾンまたはロシグリタゾン、および1種以上の製薬上許容される担体および/または賦形剤を含む、吸入による肺投与用に適合させた医薬組成物であって、そのグリタゾン含量が少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5重量%未満の5Sエナンチオマーから成るものである前記医薬組成物を提供する。使用およびキットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性呼吸器疾患を治療するために肺に吸入投与する公知のグリタゾン薬物クラス、例えば、公知の医薬製品ピオグリタゾンおよびロシグリタゾンの実質的に純粋な5Rエナンチオマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器疾患および障害の広汎なスペクトルは認識されており、その多くは重複しかつ相互作用する病因を有する。これらの疾患のなかで最も広汎で流行性の二つの疾患は慢性閉塞性肺疾患(COPD)および喘息である。呼吸器疾患は有意な炎症構成要素を有する。例えば、COPDおよび重篤な喘息に対する現行療法は主に短時間および長時間作用型気管支拡張剤を用いる症候群の軽減に重点を置き、吸入コルチコステロイド(ICS)による単剤療法、または長時間作用型β2アゴニスト気管支拡張剤との組み合わせである。ICSの単剤またはβ2アゴニストとの組み合わせ療法の抗炎症データはいずれも失望的であり、COPDに対する有効な抗炎症薬物の探究に力が注がれている。COPDは明らかに、肺および潜在的には全身の両方における先天的および後天的免疫応答の複雑な細胞間相互作用に関わる慢性炎症性障害である。熱心な研究のもとでの一つの仮説は、新規の、実証しうる形の抗炎症薬はCOPDの特徴である機能低下を停止または鈍化しうるかどうかということである。悪化後の患者に対する予後判定は良くないので、悪化の頻度および重症度の軽減はCOPD療法に対するますます重要な標的となっている。COPDおよび喘息における抗炎症療法は悪化の頻度および重症度を軽減することが期待される。また、肺機能と生活の質の低下が治療により改善されることも所望される。
【0003】
従って、喘息、COPD、アレルギー性気道異常症候、気管支炎、嚢胞性線維症、気腫および肺線維症(特発性肺線維症を含む)を含む炎症性呼吸器疾患に対する新しい治療薬は絶えず求められている。
【0004】
ペルオキシソーム増殖受容体γ受容体(PPARγ)アゴニストは、糖尿病患者のグルコースに対する感受性を増加する薬物のクラスである。PPARγの生理学的活性化は、末梢組織のインスリンに対する感受性を増加し、従って、血液からのグルコースのクリアランスを促進しかつ所望の抗糖尿病効果を生じると考えられる。
【0005】
多数のPPARγアゴニストが特許および他の文献から公知であるが、現在は2種類(ロシグリタゾンおよびピオグリタゾン)だけが糖尿病における臨床使用に認可されている。Campbell IW, Curr Mol Med. 2005 May; 5(3):349-63を参照されたい。これらの化合物は両方ともチアゾリジンジオン(「TZD」または「グリタゾン」)であり、実際には全身送達用の経口経路により投与される。
【0006】
グルコース代謝におけるその効果だけでなく、ロシグリタゾンは抗炎症効果の作用もあることを実証する様々な報告が開示されている。例えば、(i)ロシグリタゾンは糖尿病患者において抗炎症効果と一致する効果を発揮すると報じられ(Haffner et al., Circulation. 2002 Aug 6;106(6):679-84、Marx et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2003 Feb 1;23(2):283-8);(ii)ロシグリタゾンは一連の炎症の動物モデルにおいて抗炎症効果と一致する効果を発揮すると報じられ、前記炎症にはカラギーナン誘発性足浮腫(Cuzzocrea et al., Eur. J. Pharmacol. 2004 Jan 1;483(1):79-93)、TNBS誘発性大腸炎(Desreumanux et al., J. Exp. Med. 2001 Apr 2;193(7):827-38、Sanchez-Hidalgo et al., Biochem. Pharmacol. 2005 Jun 15;69(12):1733-44)、実験による脳脊髄炎(Feinstein et al., Ann. Neurol. 2002 Jun;51(6):694-702)、コラーゲン誘発性(Cuzzocrea et al., Arthritis Rheum. 2003 Dec;48(12):3544-56)およびアジュバント誘発性関節炎(Shiojiri et al., Eur. J. Pharmacol. 2002 Jul 19;448(2-3):231-8)、カラギーナン誘発性胸膜炎(Cuzzocrea et al., Eur. J. Pharmacol. 2004 Jan 1;483(1):79-93)、オボアルブミン誘発性肺炎症(Lee et al., FASEB J. 2005 Jun;19(8):1033-5)およびLPS誘発性肺組織好中球増多(Birrell et al., Eur. Respir. J. 2004 Jul;24(1):18-23)が含まれ;そして(iii)ロシグリタゾンは単離細胞において抗炎症効果の作用があると報じられ、前記炎症には、マウスマクロファージにおけるiNOS発現(Reddy et al., Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol. 2004 Mar;286(3):L613-9)、ヒト気管支上皮細胞におけるTNFα誘発性MMP-9活性(Hetzel et al., Thorax. 2003 Sep;58(9):778-83)、ヒト気道平滑筋細胞増殖(Ward et al., Br. J. Pharmacol. 2004 Feb;141(3):517-25)および好中球により放出されるMMP-9(WO 0062766 - 2000?)が含まれる。PPARγアゴニストはまた、肺線維症のモデルでも有効であることが示されている(Milam et al., Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol, 2008, 294(5):L891-901)および肺動脈高血圧(Crossno et al., Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol, 2007, 292(4):L885-897)。
【0007】
肺に関係する細胞における抗炎症活性の観察に基づいて、喘息、COPD、嚢胞性線維症および肺線維症を含む炎症性呼吸器の障害の治療に対する、その他のPPARγアゴニストの効用も示唆されている。WO0053601、WO0213812およびWO0062766を参照されたい。これらの示唆は、全身経口および肺吸入の両方の経路による投与を含むものである。
【0008】
残念なことに、PPARγアゴニストはまた、心血管へ望ましくない影響(血液希釈、末梢および肺の浮腫およびうっ血性心不全(CHF)を含む)も与える。これらの影響はまた、PPARγの活性化から生じるとも考えられる。特に、PPARγアゴニストは腎臓のPPARγ受容体との結合を介して正常な体液バランスの維持を妨害するという仮説の研究に相当な努力がなされてきた。Guan et al, Nat. Med. 2005;11(8):861-6 および Zhang et. al., Pro.c Natl. Acad. Sci. USA. 2005 28;102(26):9406-11を参照されたい。全身送達用の経口経路によるPPARγアゴニストを用いる治療はまた、望ましくない体重の増加にも関係している。
【0009】
COPD患者は、他の臨床集団よりもうっ血性心不全(CHF)(Curkendall et al, Ann Epidemiol, 2006;16: 63-70、Padeletti M et al, Int J Cardiol. 2008;125(2): 209-15)によるリスクの高いことが知られており、従って、これらの患者におけるPPARγ受容体の全身活性化を最小限に留めてCHFの可能性の増加を避けることは重要である。呼吸器の薬物を吸入経路により投与する方法は、この薬物の全身曝露を低く保ち、従って、全身活性の可能性と副作用の発現を抑えながら、抗炎症薬により肺を標的化する一手法である。
【0010】
ピオグリタゾンは、構造式(I):
【化1】

【0011】
を有し、5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンと名付けることができる。上記式(I)の矢印で示したピオグリタゾンのチアゾリジン-ジオン環の5-位置における炭素原子は不斉であり、従って、ピオグリタゾンは2つのエナンチオマー、5Rと5Sエナンチオマーを有する。
【0012】
ロシグリタゾンは構造式(II)を有し、5-(4-{2-[メチル(ピリジン-2-イル)アミノ]エトキシ}ベンジル)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンと名付けることができる。下記式(II)の矢印で示したロシグリタゾンのチアゾリジン-ジオン環の5-位置における炭素原子も不斉であり、従って、ロシグリタゾンも2つのエナンチオマー、5Rと5Sエナンチオマーを有する。
【化2】

【0013】
ロシグリタゾンの5SエナンチオマーはPPARγ受容体に対して5Rエナンチオマーより高い結合アフィニティを有する(30nM vs 2μM, Parks et al., 1998, Bioorg. Med. Chem. Lett. 8(24):3657-8)。グリタゾンクラスの他のメンバー、リボグリタゾンについても、その5Sエナンチオマーは5Rエナンチオマーより高い受容体結合アフィニティを有する(WO2007100027の13頁を参照)。
【0014】
実際上、ピオグリタゾンおよびロシグリタゾンは、糖尿病の治療に際して、5Rおよび5Sエナンチオマーの混合物(1:1ラセミ混合物)として全身送達用の経口経路により投与される。これらの化合物およびグリタゾンファミリーのメンバーの個々のエナンチオマーは、概して、経口投与の後にin vivoで急速に平衡化することは公知であり(例えば、J.Clin. Pharmacol. 2007, 47, 323-33;Rapid Commun. Mass Spectrom. 2005, 19, 1125-9;J. Chromatography, 835 (2006), 40-46;Biopharmaceutics and Drug Disposition 1997, 18 (4), 305-24;Chem. Pharm. Bull 1984, 32, (11) 4460-65;T. J. Med. Chem. 1991, 34, 319-25を参照)、従って、実際上、実質的に純粋な異性体の経口投与とラセミ混合物の経口投与との間に差は無い。具体的にピオグリタゾンについて、米国食品薬品局(FDA)への提出文書は、げっ歯類糖尿病モデルにおいてラセミ体または個々のエナンチオマーの経口投与後に、活性の差は存在しないと次の通り記載している(www.fda.gov/medwatch/SAFETY/2007/Sep PI/Actoplus Met PI.pdf):「(ピオグリタゾン)は1個の不斉炭素を有し、この化合物を合成してラセミ混合物として使用した。ピオグリタゾンの2種のエナンチオマーはin vivoで相互変換する。2種のエナンチオマーの間には薬理学活性に差は見出されなかった」。
【0015】
ラセミ体または単一エナンチオマー型のどちらを選ぶべきかについてのロシグリタゾンまたはピオグリタゾン(または他のグリタゾン)の肺吸入の効果は研究されてないようである。肺組織と直接接触した場合の、両化合物または他のグリタゾンの5Rおよび5Sエナンチオマーの平衡化の可能性について何も報じられてないようである。
【0016】
グリタゾンクラスのPPARγアゴニストは全体として、分子内のチアゾリジン-2,4-ジオン基(A)[多くは(チアゾリジン-2,4,ジオン-5-イル)メチルフェニル基(B)の部分として]:
【化3】

【0017】
の存在により特徴付けられ、矢印により示した環炭素原子はチアゾリジノン環の5-位置にある。本明細書で使用する用語「グリタゾン」は、チアゾリジン-2,4-ジオン基(A)、または(チアゾリジン-2,4,ジオン-5-イル)メチルフェニル基(B)を含む構造のPPARγアゴニスト化合物を意味する。
【0018】
認可されて市販されるロシグリタゾンおよびピオグリタゾンの他に、特許および科学文献から公知の多数のグリタゾン類が存在する。公知の化合物の例には、次の化合物が含まれる:
【化4】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】WO 0062766
【特許文献2】WO0053601
【特許文献3】WO0213812
【特許文献4】WO0062766
【特許文献5】WO2007100027
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Campbell IW, Curr Mol Med. 2005 May; 5(3):349-63
【非特許文献2】Haffner et al., Circulation. 2002 Aug 6;106(6):679-84
【非特許文献3】Marx et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2003 Feb 1;23(2):283-8
【非特許文献4】Cuzzocrea et al., Eur. J. Pharmacol. 2004 Jan 1;483(1):79-93
【非特許文献5】Desreumanux et al., J. Exp. Med. 2001 Apr 2;193(7):827-38
【非特許文献6】Sanchez-Hidalgo et al., Biochem. Pharmacol. 2005 Jun 15;69(12):1733-44
【非特許文献7】Feinstein et al., Ann. Neurol. 2002 Jun;51(6):694-702
【非特許文献8】Cuzzocrea et al., Arthritis Rheum. 2003 Dec;48(12):3544-56
【非特許文献9】Shiojiri et al., Eur. J. Pharmacol. 2002 Jul 19;448(2-3):231-8
【非特許文献10】Cuzzocrea et al., Eur. J. Pharmacol. 2004 Jan 1;483(1):79-93
【非特許文献11】Lee et al., FASEB J. 2005 Jun;19(8):1033-5
【非特許文献12】Birrell et al., Eur. Respir. J. 2004 Jul;24(1):18-23
【非特許文献13】Reddy et al., Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol. 2004 Mar;286(3):L613-9
【非特許文献14】Hetzel et al., Thorax. 2003 Sep;58(9):778-83
【非特許文献15】Ward et al., Br. J. Pharmacol. 2004 Feb;141(3):517-25
【非特許文献16】Milam et al., Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol, 2008, 294(5):L891-901
【非特許文献17】Crossno et al., Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol, 2007, 292(4):L885-897
【非特許文献18】Guan et al, Nat. Med. 2005;11(8):861-6
【非特許文献19】Zhang et. al., Pro.c Natl. Acad. Sci. USA. 2005 28;102(26):9406-11
【非特許文献20】Curkendall et al, Ann Epidemiol, 2006;16: 63-70
【非特許文献21】Padeletti M et al, Int J Cardiol. 2008;125(2): 209-15
【非特許文献22】Parks et al., 1998, Bioorg. Med. Chem. Lett. 8(24):3657-8
【非特許文献23】J.Clin. Pharmacol. 2007, 47, 323-33
【非特許文献24】Rapid Commun. Mass Spectrom. 2005, 19, 1125-9
【非特許文献25】J. Chromatography, 835 (2006), 40-46
【非特許文献26】Biopharmaceutics and Drug Disposition 1997, 18 (4), 305-24
【非特許文献27】Chem. Pharm. Bull 1984, 32, (11) 4460-65
【非特許文献28】T. J. Med. Chem. 1991, 34, 319-25
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、吸入による炎症性呼吸器疾患の治療のために、グリタゾンの5Rエナンチオマーは5Sエナンチオマーより有効であるという発見に基づく。原理の証明は吸入による炎症性呼吸器疾患の治療の動物モデルから導いたものであり、ピオグリタゾンおよびロシグリタゾンの5Rエナンチオマーが有効であることは示されたが、5Sエナンチオマーは本質的に無効であった。この発見は、グリタゾンの5Rエナンチオマー、特にピオグリタゾンまたはロシグリタゾンの5Rエナンチオマーの吸入による肺投与は、ラセミ体の同様な投与より本化合物の抗炎症効果を有効に達成することを可能にし、そして経口投与より全身曝露が低いことによる、全ての付随する副作用が軽減される利点を有するという結論を導いた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ビヒクル(生理食塩水中の0.2% tween 80)、5S-ピオグリタゾン(1または3μg/kg)、5R-ピオグリタゾン(1または3μg/kg)、またはラセミ体ピオグリタゾン(3μg/kg)を用いた実験マウスへの鼻内投与の、タバコ煙への最終曝露後24時間を経たタバコ煙誘導性BAL細胞数に与える効果を図解する棒グラフである。
【図2】ビヒクル(生理食塩水中の0.2% tween 80)、5S-ピオグリタゾン(1または3μg/kg)、5R-ピオグリタゾン(1または3μg/kg)、またはラセミ体ピオグリタゾン(3μg/kg)を用いた実験マウスへの鼻内投与の、タバコ煙への最終曝露後24時間を経たタバコ煙誘導性BAL好中球数に与える効果を図解する棒グラフである。
【図3】ビヒクル(生理食塩水中の0.2% tween 80)、5S-ロシグリタゾン(3または10μg/kg)、5R-ロシグリタゾン(3または10μg/kg)、またはラセミ体ロシグリタゾン(10μg/kg)を用いた実験マウスへの鼻内投与の、タバコ煙への最終曝露後24時間を経たタバコ煙誘導性BAL細胞数に与える効果を図解する棒グラフである。
【図4】ビヒクル(生理食塩水中の0.2% tween 80)、5S-ロシグリタゾン(3または10μg/kg)、5R-ロシグリタゾン(3または10μg/kg)、またはラセミ体ロシグリタゾン(10μg/kg)を用いた実験マウスへの鼻内投与の、タバコ煙への最終曝露後24時間を経たタバコ煙誘導性BAL好中球数に与える効果を図解する棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書で使用する用語「グリタゾン」は前記の意味、すなわち、その構造がチアゾリジン-2,4-ジオン基(A)、または(チアゾリジン-2,4,ジオン-5-イル)メチルフェニル基(B)を含むPPARγアゴニスト化合物を有する。
【0024】
本明細書で使用する用語「ピオグリタゾン」または「ピオグリタゾン成分」は前記式(I)の化合物5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、またはその製薬上許容される塩を意味する。
【0025】
本明細書で使用する用語「ロシグリタゾン」または「ロシグリタゾン成分」は前記式(II)の化合物5-(4-{2-[メチル(ピリジン-2-イル)アミノ]エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、またはその製薬上許容される塩を意味する。
【0026】
本明細書で使用する用語「エナンチオマー過剰」またはその略語「e.e.」はパーセント:
((R-S)/(R+S))x100%
[式中、RおよびSはサンプル中のRおよびSエナンチオマーの各重量分率である]として定義される。従って、95重量%の5Rエナンチオマーと5%の5Sエナンチオマーを含有するグリタゾンサンプルについて、RエナンチオマーのSエナンチオマーを超えるエナンチオマー過剰は((95-5)/95+5))x100=90%である。
【0027】
一態様において、本発明は、吸入による肺投与に適合させた医薬組成物であって、グリタゾン、特にピオグリタゾンまたはロシグリタゾン、ならびに1種以上の製薬上許容される担体および/または賦形剤を含み、そしてグリタゾン含量は少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5%未満の5Sエナンチオマーから成る前記組成物を提供する。
【0028】
他の態様において、本発明は、吸入による肺投与によって炎症性呼吸器疾患を治療するために使用するグリタゾン、例えばピオグリタゾンまたはロシグリタゾンであって、吸入されるグリタゾンは少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5%未満の5Sエナンチオマーから成る前記グリタゾンを提供する。
【0029】
他の態様において、本発明は、グリタゾン、例えば、ピオグリタゾンまたはロシグリタゾンの使用であって、吸入による肺投与により炎症性呼吸器疾患を治療する医薬品の調製における使用であって、前記医薬品のグリタゾン含量は少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5%未満の5Sエナンチオマーから成る前記使用を提供する。
【0030】
他の態様において、本発明は炎症性呼吸器疾患を治療する方法であって、治療上有効な量のグリタゾン、例えばピオグリタゾンまたはロシグリタゾンをかかる疾患の患者へ吸入により肺投与するステップを含み、前記吸入されるグリタゾンは少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5%未満の5Sエナンチオマーから成る前記方法を提供する。
【0031】
本発明の全ての態様において、グリタゾン成分、例えばピオグリタゾンまたはロシグリタゾン成分を鼻または口を介して吸入してもよく、好ましくは口を介して吸入する。
【0032】
本発明の全ての態様において、グリタゾン成分、例えばピオグリタゾンまたはロシグリタゾンは、好ましくは、可能なだけ少ない5Sエナンチオマーを含有すべきである。例えば、5Rエナンチオマーはグリタゾン成分の少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99重量%を構成してもよい。
【0033】
本発明の全ての態様において、グリタゾン成分、例えばピオグリタゾンまたはロシグリタゾン成分は、PPARγアゴニスト以外の呼吸器障害を予防および治療するために有用な1種以上の他の治療薬を随伴しても、または逐次もしくは同時に投与してもよい。
【0034】
本発明の全ての態様において、現在最も好ましいグリタゾン成分はビオグリタゾンである。
【0035】
本発明の全ての態様において、炎症性呼吸器疾患は、例えば、軽度の喘息、中度の喘息、重度の喘息、ステロイド抵抗性喘息、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、肺浮腫、肺塞栓症、肺炎、肺サルコイドーシス、珪肺症、肺線維症、呼吸器不全、急性呼吸困難症候群、気腫、慢性気管支炎、結核、および肺癌から選択される。
【0036】
グリタゾン成分は製薬上許容される塩の形態であってもよい。用語「製薬上許容される塩」は製薬上許容される無機および有機の酸および塩基から調製された塩を意味する。
【0037】
製薬上許容される無機塩基には金属イオンが含まれる。より好ましい金属イオンには、限定されるものでないが、適当なアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および他の生理学的に許容される金属イオンが含まれる。無機塩基から誘導される塩には、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン酸塩(manganic salts)、亜マンガン酸塩(manganous)、カリウム、ナトリウム、亜鉛など、およびそれらの通常の原子価のものが含まれる。塩の例には、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムおよび亜鉛の塩が含まれる。特に好ましいのはアンモニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、およびナトリウムの塩である。
【0038】
製薬上許容される有機の無毒性塩基から誘導される塩には、一級、二級および三級アミン類の塩が含まれ、一部分を挙げれば、トリメチルアミン、ジエチルアミン,N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)およびプロカイン;置換されたアミン類(天然の置換されたアミン類を含む);環状アミン類;および四級アンモニウムカチオンが含まれる。かかる塩基の例には、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N-ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リシン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどが含まれる。
【0039】
本発明の化合物の製薬上許容される酸付加塩の例は、限定されるものでないが、次の酸:蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、硝酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、イソクエン酸、キシナホ酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸、パモ酸、プロピオン酸、アントラニル酸、メシル酸、ナプジシレート、オキサロ酢酸、オレイン酸、ステアリン酸、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、ニコチン酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、リン酸、ホスホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トルエンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、スルファニン酸、硫酸、サリチル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、アルギン酸、β-ヒドロキシ酪酸、ガラクタル酸およびガラクツロン酸から調製することができる。製薬上許容される塩の例には、塩酸および臭化水素酸の塩が含まれる。
【0040】
本発明の組成物は、炎症性呼吸器障害、例えば喘息(軽度、中度または重度の)、例えば、気管支、アレルギー性、内因性、外因性、運動誘発性、薬物誘発性(アスピリンおよびNSAID誘発性を含む)およびダスト誘発性喘息、ステロイド抵抗性喘息、気管支炎(感染性および好酸性気管支炎を含む)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、肺線維症(特発性線維症肺胞炎、特発性肺線維症を含む)、特発性間質肺炎、抗新生物療法複合性肺線維症および慢性感染(結核およびアスペルギルス症および他の真菌感染を含む);肺移植複合症;肺脈管構造の脈管および血栓障害、および肺高血圧(肺動脈高血圧を含む);鎮咳活性(気道炎症性および分泌性症状に関係する慢性咳の治療を含む)、および医原性咳;急性および慢性鼻炎(薬物性、および血管運動性の鼻炎を含む);長期性および季節性アレルギー性鼻炎(鼻炎神経症(花粉症)を含む);経鼻ポリープ症;急性ウイルス感染(普通の風邪、および呼吸器合胞体ウイルス、インフルエンザ、コロナウイルス(SARSを含む)およびアデノウイルスによる感染を含む)、肺浮腫、肺塞栓症、肺炎、肺サルコイドーシス、珪肺症、農夫肺および関係疾患;過敏性肺臓炎、呼吸器不全、急性呼吸困難症候、気腫、慢性気管支炎、結核、および肺癌の治療に有用である。特に、本発明の方法と組成物は呼吸器障害、COPDの予防および治療を包含する。
【0041】
本明細書で使用する用語「慢性閉塞性肺疾患」または「COPD」は一連の生理学的症候群を意味し、前記症候群には慢性気管支炎、慢性咳、痰、労作性呼吸困難および気流の有意な進行性低下(部分的に可逆性であってもなくてもよい)が含まれる。気腫はまた、肺に存在してもよい。COPDは、粒子の慢性吸入に対する異常な炎症反応により誘発される進行性気流制限を特徴とする疾患である。
【0042】
この障害をもつ被験者では肺におけるガス交換が乏しく、血液中の酸素レベルが低下し、二酸化炭素レベルの増加と息切れが起こる。COPDにおける慢性気流閉塞は、肺実質の酵素破壊からもたらされる肺弾性の喪失により複雑化する。COPDは単一の病理症状というよりむしろ、慢性閉塞性気管支炎および気腫を包含する包括的な用語である。
【0043】
経口または経鼻吸入による投与に好適な組成物は公知であり、かかる組成物における使用が公知の担体および/または希釈剤を含んでもよい。組成物は0.01〜99重量%のピオグリタゾンまたはロシグリタゾン成分を含有しうる。好ましくは、単位用量はピオグリタゾンまたはロシグリタゾン成分を1μg〜50mg含有する。
【0044】
最も好適な投与量レベルは当業者に公知の好適な方法により決定することができる。しかし、特定の患者に対する具体的な量は様々な因子に依存しうることは理解されており、前記因子には、使用する具体的な化合物の活性、患者の年齢、体重、食事、健康状態および性別、投与時間、投与経路、排泄速度、他の薬物の使用、ならびに治療を行う疾患の重症度が含まれる。最適な投与量は当技術分野で要求される臨床試験により決定しうる。
【0045】
本発明の組成物は、本化合物が有用である疾患または症状の治療/予防/抑制または改善に使用される他の治療薬と組み合わせて用いることができる。かかる他の治療薬をある経路によりかつ普通に用いられる量で、従って、同時にまたは逐次、グリタゾン成分、特にピオグリタゾンまたはロシグリタゾン成分と共に投与することができる。本発明の化合物を1種以上の他の治療薬と同時に用いる場合、ピオグリタゾン成分に加えてかかる他の治療薬を含有する医薬組成物が好ましい。従って、本発明の医薬組成物には、1種以上のグリタゾン成分、特にピオグリタゾンまたはロシグリタゾン成分に加えて1種以上の他の活性成分も含有する医薬組成物が含まれる。
【0046】
グリタゾン組成物、特にピオグリタゾンまたはロシグリタゾン組成物との組み合わせ療法に対する本発明の好適な治療薬には、抗炎症薬、気管支拡張剤、粘液溶解剤、鎮咳剤、ロイコトリエンインヒビター、および抗生物質から選択される1種以上の他の治療薬が含まれる。
【0047】
グリタゾン組成物、特にピオグリタゾンまたはロシグリタゾン組成物との組み合わせ療法に好適な本発明の治療薬には次のものが含まれる:(1)ステロイド薬物、例えば副腎皮質ステロイド、例えばベクロメタゾン、(例えば、モノまたはジプロピオン酸エステル)、フルニソリド、フルチカゾン(例えば、プロピオン酸エステルまたはフロ酸エステル)、シクレソニド、モメタゾン(例えば、フロ酸エステル)、モメタゾンデソニド、ロフレポニド、ヒドロコルチゾン、プレドニソン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ナフロコルト、デフラザコルト、ハロプレドン酢酸エステル、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、クロコルトロン、チプレダン、プレドニカルベート、アルクロメタゾンジプロピオン酸エステル、ハロメタゾン、リメキソロン、デプロドンプロピオン酸エステル、トリアムシノロン、ベタメタゾン、フルドロコルチゾン、デスオキシコルチコステロン、エチプレンドノルジクロロ酢酸エステルなど[ステロイド薬物にはさらに、臨床または前臨床開発中のステロイド、例えば、GW-685698、GW-799943、GSK870086、QAE397、NCX-1010、NCX-1020、NO-デキサメタゾン、PL-2146、NS-126(旧名ST-126)および国際特許出願WO0212265、WO0212266、WO02100879、WO03062259、WO03048181およびWO03042229で言及された化合物が含まれうる。ステロイド薬物にはさらに、副作用の少ないプロファイルをもつ開発中の次世代分子、例えば、選択的グルココルチコイド受容体アゴニスト(SEGRA)が含まれてもよく、それにはZK-216348および国際特許出願WO-00032585、WO-000210143、WO-2005034939、WO-2005003098、WO-2005035518およびWO-2005035502に言及された化合物およびその機能的等価物および機能的誘導体が含まれうる。];(2)β2-アドレナリン受容体アゴニスト、例えばアルブテロール、バンブテロール、テレブタリン、フェノテロール、ホルモテロール、ホルモテロールフマル酸エステル、サルメテロール、サルメテロールキシナホネート、アルホルモテロール、アルホモテロール酒石酸エステル、インダカテロール(QAB-149)、カルモテロール、ピクメテロール、BI 1744CL、GSK159797、GSK59790、GSK159802、GSK642444、GSK678007、GSK96108、クレンブテロール、プロカテロール、ビトルテロール、およびブロキサテロール、TA-2005 および また、EP1440966、JP05025045、WO93/18007、WO99/64035、US2002/0055651、US2005/0133417、US2005/5159448、WO00/075114、WO01/42193、WO01/83462、WO02/66422、WO02/70490、WO02/76933、WO03/24439、WO03/42160、WO03/42164、WO03/72539、WO03/91204、WO03/99764、WO04/16578、WO04/016601、WO04/22547、WO04/32921、WO04/33412、WO04/37768、WO04/37773、WO04/37807、WO0439762、WO04/39766、WO04/45618、WO04/46083、WO04/71388、WO04/80964、EP1460064、WO04/087142、WO04/89892、EP01477167、US2004/0242622、US2004/0229904、WO04/108675、WO04/108676、WO05/033121、WO05/040103、WO05/044787、WO04/071388、WO05/058299、WO05/058867、WO05/065650、WO05/066140、WO05/070908、WO05/092840、WO05/092841、WO05/092860、WO05/092887、WO05/092861、WO05/090288、WO05/092087、WO05/080324、WO05/080313、US20050182091、US20050171147、WO05/092870、WO05/077361、DE10258695、WO05/111002、WO05/111005、WO05/110990、US2005/0272769、WO05/110359、WO05/121065、US2006/0019991、WO06/016245、WO06/014704、WO06/031556、WO06/032627、US2006/0106075、US2006/0106213、WO06/051373、WO06/056471、WO08/096112、WO08/104790、WO08/096119、WO08/096112の化合物;(3)ロイコトリエンモジュレーター、例えば、モンテルカストまたはプランルカスト;(4)抗コリン作用剤、例えば、選択的ムスカリン-3(M3)受容体アンタゴニスト、例えばイプラトロピウムブロミド、チオトロピウム、チオトロピウムブロミド(Spiriva(登録商標))、グリコピロレート、NVA237、LAS34273、GSK656398、GSK233705、GSK573719、LAS35201、QAT370およびオキシトロピウムブロミド;(5)ホスホジエステラーゼ-IV(PDE-IV)インヒビター、例えば、ロフルミラストまたはシロミラスト;(6)鎮咳剤、例えばコデインまたはデキストラモルファン;(7)非ステロイド抗炎症剤(NSAID)、例えば、イブプロフェンまたはケトプロフェン;(8)粘液溶解薬、例えば、Nアセチルシステインまたはフドステイン;(9)エキスペクトラント/粘液運動性モジュレーター、例えば、アンブロキソール、高張液(例えば、生理食塩水またはマンニトール)または界面活性剤;(10)ペプチド粘液溶解薬、例えば、組換えヒトデオキシリボヌクレアーゼI(ドルナーゼ-アルファおよびrhDNase)またはヘリシジン(helicidin);(11)抗生物質、例えば、アジスロマイシン、トブラマイシンおよびアズトレオナム;ならびに(12)p38MAPキナーゼインヒビター、例えばGSK856553およびGSK681323。
【0048】
一態様において、本発明は、本発明のグリタゾン組成物、特にピオグリタゾンまたはロシグリタゾン組成物の他の抗炎症薬および気管支拡張薬組み合わせとの組み合わせ(すなわち三重の組み合わせ製品)の使用を提供し、前記薬の組み合わせには、限定されるものでないが、サルメテロールキシナホネート/フルチカゾンプロピオン酸エステル(Advair/Seretide(登録商標))、ホルモテロールフマル酸エステル/ブデソニド(Symbicort(登録商標))、ホルモテロールフマル酸エステル/モメタゾンフロ酸エステル、ホルモテロールフマル酸エステル/ベクロメタゾンジプロピオン酸エステル(Foster(登録商標))、ホルモテロールフマル酸エステル/フルチカゾンプロピオン酸エステル(FlutiForm(登録商標))、インダカテロール/モメタゾンフロ酸エステル、インダカテロール/QAE-397、GSK159797/GSK685698、GSK159802/GSK685698、GSK642444/GSK685698、ホルモテロールフマル酸エステル/シクレソニド、アルホルモテロール酒石酸エステル/シクレソニドが含まれる。
【0049】
他の態様において、本発明は、本発明のグリタゾン組成物、特にピオグリタゾンまたはロシグリタゾン組成物の他の気管支拡張薬組み合わせ、特にB2アゴニスト/M3アンタゴニスト組み合わせ(すなわち三重の組み合わせ製品)の使用を提供し、前記薬の組み合わせには、限定されるものでないが、サルメテロールキシナホネート/チオトロピウムブロミド、ホルモテロールフマル酸エステル/チオトロピウムブロミド、BI 1744 CL/チオトロピウムブロミド、インダカテロール/NVA237、インダカテロール/QAT-370、ホルモテロール/LAS34273、GSK159797/GSK573719、GSK159802/GSK573719、GSK642444/GSK573719、GSK159797/GSK233705、GSK159802/GSK233705、GSK642444/GSK233705、ならびに同じ分子中にβ2アゴニストとM3アンタゴニスト活性の両方(二重機能性)を持つ化合物、例えばGSK961081が含まれる。
【0050】
従って他の態様において、本発明は被験者の呼吸器障害を治療するための第一の投与剤形と第二の投与剤形を含むキットであって、第一の投与剤形は吸入による肺投与用に適合させた組成物を含み、組成物はグリタゾン、特にピオグリタゾンまたはロシグリタゾン、および1種以上の製薬上許容される担体および/または賦形剤を含み、組成物のグリタゾン含量は少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5%未満の5Sエナンチオマーであり、かつ第二の投与剤形は、例えば、先に考察した抗炎症薬、気管支拡張剤、粘液溶解剤、鎮咳剤、ロイコトリエンインヒビター、および抗生物質から選択される他の治療薬を含むものである、前記キットを提供する。
【0051】
吸入による送達のための活性化合物は好ましくは微小粒子である。これらは、スプレー乾燥、凍結乾燥および微粒化を含む様々な技法により調製することができる。サイズを小さくして微小粒子を作った後に、化合物の粒子径分布(PSD)を試験し、通常、当技術分野ではd10、d50およびd90値で記載される。平均粒子径、すなわち平均等価径は、粉末の(粒子の)50質量%がそれより大きい等価径を有しかつ他の50質量%がそれより小さい等価径を有する直径として定義される。従って、平均粒子径は等価径d50として表わされる。吸入用には10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満のd50が所望される。
【0052】
例を挙げると、本発明の組成物は、例えば、加圧定量吸入器(PMDI)で使用するための、噴霧器から送達する懸濁液、または液状噴霧剤中のエアロゾルとして調製することができる。PMDI用の好適な噴霧剤は当業者に公知であり、それにはCFC-12、HFA-134a、HFA-227、HCFC-22(CCl2F2)およびHFA-152(CH4F2およびイソブタン)が含まれる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の組成物は乾燥粉末吸入器(DPI)を使用して送達する乾燥粉末剤形である。多数のタイプのDPIが公知である。
【0054】
吸入による送達用の微小粒子は送達と放出を助ける賦形剤を用いて製剤化してもよい。例えば、乾燥粉末製剤において、微小粒子はDPIから肺中への流れを助ける大きな担体粒子を用いて製剤化することができる。好適な担体粒子は公知であり、ラクトース粒子を含む;これらは90μmより大きい質量メチジアン空気力学径を有しうる。
【0055】
エアロゾル作製は、例えば、圧力駆動ジェットアトマイザーまたは超音波アトマイザーを用いて、好ましくは、例えば、吸入カプセルまたは他の「乾燥粉末」送達系からの噴霧剤駆動定量エアロゾルまたは微細活性化合物の噴霧剤非含有投与を用いて行うことができる。
【0056】
組成物は使用する吸入器系に応じて記載の通り投与することができる。投与剤形は活性化合物だけでなく、さらに賦形剤、例えば、噴霧剤(例えば、定量エアロゾルの場合、フレオン)、表面活性物質物質、乳濁化剤、安定剤、保存剤、香料、充填剤(例えば、粉末吸入器の場合、ラクトース)または、適宜、さらなる活性化合物を含有してもよい。
【0057】
吸入のために、最適粒子径のエアロゾルを患者に適当な吸入技法を用いて作製しかつ投与することができる多数の系が利用可能である。特に粉末吸入器の場合、定量エアロゾルのためのアダプター(スペーサー、エキスパンダー)およびナシ型容器(例えばNebulator(登録商標)、Volumatic(登録商標))、およびパファー噴霧を放出する自動装置(Autohaler(登録商標))に加えて、いくつもの技術的ソリューション(例えばDiskhaler(登録商標)、Rotadisk(登録商標)、Turbohaler(登録商標)または例えばEP-A-0505321に記載の吸入器)が利用可能である。
【0058】
グリタゾンエナンチオマーを調製する方法
グリタゾンはキラルHPLC(例えば下記の方法1-3および5-7を参照)を用いて分離することができる。キラルカラムにはCHIRALPAK AD、AD-H、AS-V、50801、IA、IC、OD、OF、OG、OJ、OK、およびOZが含まれる。HPLC用に好ましいキラルカラムはCHIRALPAK AD-HおよびCHIRALPAK IAであり、エタノールと様々な割合のTFA、好ましくは0.05〜0.2%TFAによる溶出を用いる。
【0059】
代わりの、例えば、ピオグリタゾンを用いる分割方法をスキーム2に示す(実施例10も参照されたい)。
【0060】
スキーム2
【化5】

【0061】
光学分割法に関する最近の総括報告は次の通りである:E. Fogassy et. al., Tetrahedron: asymmetry, 2008, 19, 519-536;S. H. Wilen, Topics in Stereochemistry(立体化学のトピック), Wiley-Interscience: NY, 1972, 6, 107 Eds;E. L. Eliel, N.L. Allinger;P. Newman, Optical resolution Procedures of Chiral Compounds(キラル化合物の光学分割手順)1-3, Resolution Information Center, NY, 1978-1984;J. Jaques, S. H. Wilen, A. Collett, Enantiomers Racemates and Resolutions(エナンチオマーラセミ体と分割), Wiley-Interscience: NY, 1991;R. A. Scheldon, Chirotechnology, Marcel Dekker, NY, 1993;Optical Resolutions via diasteromeric salt formation(ジアステレオマー塩形成を介する光学分割), CRC Press, 2002, Ed. David Kozma。
【0062】
通常使用されるキラル酸分割剤には、限定されるものでないが、ジベンゾイル酒石酸、ジアニソイル酒石酸、ジトルイル酒石酸、酒石酸、フェンシホス、クロシホス、アニシホス、1,1'-ビナフチル-2,2'-ジイル水素リン酸塩、カンファースルホン酸、ブロモカンファースルホン酸、カンファー酸、フェニルエチルスルホン酸、リンゴ酸、マンデル酸、4-ブロモマンデル酸、4-メチルマンデル酸、乳酸およびカルコンスルホン酸が含まれる。
【0063】
より好ましいキラル酸分割剤のセットには、(-)-O,O'-ジベンゾイル-L-酒石酸(無水)、(-)-O,O'-ジベンゾイル-L-酒石酸一水和物、(-)-ジ-O-p-トルオイル-L-酒石酸、L-(+)-酒石酸および(-)-ジ-p-アニソリル-L-酒石酸が含まれる。
【0064】
最も好ましいキラル酸分割剤は(-)-O,O'-ジベンゾイル-L-酒石酸(無水)である。
【0065】
キラル酸分割剤を色々な化学量論で用いて分割を行うことができる。上記分割剤を、1部(I)対キラル酸10部(II)の比で、より好ましくは1部(I)対5部キラル酸(II)の比で、および最も好ましくは1部(I)対キラル酸2部(II)の比で用いることができる。さらにより好ましいのは、1部(I)対キラル酸1部(II)の比である。
【0066】
様々な溶媒がキラル酸(II)とジアステレオマー塩(III)を形成するのに有用である。好ましい溶媒には酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトン、アセトニトリル、MeOH、EtOH、IPA、1-プロパノール、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジクロロエタン、tert-ブチルメチルエーテル、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、2-ブタノン、トルエン、シクロヘキサン、ヘプタン、ヘキサン、H2O、DMF、石油エーテルおよびCHCl3が含まれうる。
【0067】
最も好ましい溶媒はアセトニトリルである。
【0068】
溶媒をお互いに組み合わせて使ってもよく、好ましい組み合わせには、H2O中の10%HCl、DMF中の10%H2O、EtOH中の10%H2O、IPA中の10%H2O、様々な割合のメタノールと水、様々な割合のメタノールと水とHCl、様々な割合のCHCl3と酢酸エチル、様々な割合のEtOHと水、様々な割合のIPAと水、様々な割合の1-プロパノールと水および様々な割合のCHCl3とジオキサンが含まれる。
【0069】
最も好ましい溶媒組み合わせには、様々な割合のCHCl3とジオキサン、様々な割合のCHCl3と酢酸エチル、様々な割合のメタノールと水とHClおよび様々な割合のメタノールと水が含まれる。
【0070】
通常使われるキラルアミン分割剤には、限定されるものでないが、1-フェニルエチルアミン、シンコニジン、シンコニン、キニジン、コデイン、モルヒネ、ストリキニン、ブルシン、キニン、エフェドリン、アミノブタノール、デヒドロアビエチルアミン、2-フェニルグリシノール、1,2-シクロヘキシルジアミン、1-ナフチルエチルアミン、2-アミノ-1-フェニルプロパン-1,3-ジオール、4-クロロ-1-フェニルアミン、N-(4-メトキシベンジル)-1-フェニルエチルアミン、フェンチルアミン、N-ベンジル-1-フェニルエチルアミン、N-(4-ジメチルアミノベンジル)-1-フェニルエチルアミン、3-アミノ-2,2-ジメチル-3-フェニルプロパン-1-オール、スパルテイン、プロリン、セリン、フェニルアラニン、リシン、トレオニン、バリン、ヒスチジン、アラニン、グルタミン酸およびグルタミン、アルギニン、ホモ-アルギニン、N-α-アセチルリシン、N-ε-アセチルリシンおよびオルニチンが含まれる。
【0071】
最も好ましいキラルアミン分割剤はL-リシンである。
【0072】
キラルアミン分割剤を色々な化学量論で用いて分割を実施することができる。
【0073】
上記キラルアミン分割剤を、1部(I)対キラルアミン10部(IV)の比で、より好ましくは1部(I)対5部キラルアミン(IV)の比で、そして最も好ましくは1部(I)対キラルアミン1部(IV)の比で用いることができる。
【0074】
様々な溶媒がキラルアミン(IV)とジアステレオマーの塩(V)を形成するのに有用である。好ましい溶媒には酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトン、アセトニトリル、MeOH、EtOH、IPA、1-プロパノール、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジクロロエタン、tert-ブチルメチルエーテル、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、2-ブタノン、トルエン、シクロヘキサン、ヘプタン、ヘキサン、H2O、DMF、石油エーテルおよびCHCl3が含まれうる。
【0075】
参考文献K. Akiba et. al. Bull. Chem. Soc. Jpn., 1974, 47(4), 935-937;R.A. Bartsch et. al., JACS, 2001, 123(31), 7479はヘテロ環式ニトロソイミンの分解を記載し、グリタゾンの合成および分割に応用可能である。それ故に、代わりの合成/分割の方法は、例としてピオグリタゾンを用いて、スキーム3に示した通りでありうる。
【0076】
スキーム3
【化6】

【0077】
勿論、最終生成物を再結晶してエナンチオマー純度を増加することができる。
【0078】
参考文献T. Sohda et al., Chem. Pharm. Bull., 1984, 32(11), 4460-5は関係化合物のキラル合成を記載し、これは他のグリタゾンの合成に応用可能である。従って、代わりのピオグリタゾンを用いる合成方法の例はスキーム4に示すものであってもよい。
【0079】
スキーム4
【化7】

【0080】
勿論、最終生成物を再結晶してエナンチオマー純度を増加することができる。
【0081】
参考文献J.R. Falck et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2008, 18, 1768-1771は関係化合物のキラル合成を記載し、これは他のグリタゾンの合成に応用可能である。従って、代わりのピオグリタゾンを用いる合成方法の例はスキーム5に示すものであってもよい(実施例13も参照されたい)。
【0082】
スキーム5
【化8】

【0083】
勿論、最終生成物は再結晶してエナンチオマー純度を増加することができる。
【0084】
ロシグリタゾンの場合、参考文献J. Chem. Soc. Perkin Trans. I, 1994, 3319-3324は、5-[1-{4-[3-(メチル-ピリジン-2-イル-アミノ)-プロポキシ]-フェニル}-メタ-(E)-イリデン]-チアゾリジン-2,4-ジオンを生体触媒を用いて還元できることを示している。生体触媒の目的に有用であることが示唆された酵母菌株はRhodotorula rubra(またはmucilaginosa)およびRhodotorula glutinisである。それ故に、代わりのグリタゾンの調製は、例としてピオグリタゾンを用いてスキーム6の通りである。
【0085】
スキーム6
【化9】

【0086】
あるいは、ロジウムおよびイリジウム触媒を用いるキラルリガンドの存在のもとでの、5-[1-{4-[2-(5-エチル-ピリジン-2-イル)-エトキシ]-フェニル}-メタ-(E)-イリデン]-チアゾリジン-2,4-ジオンの不斉水素化分解は当業者に公知の方法である(実施例12も参照されたい)。
【0087】
次の実施例はピオグリタゾンおよびロシグリタゾンエナンチオマーの調製ならびに本発明が基づく生物学的結果を説明する。
【0088】
化学実施例
全般の実験の詳細
実験の部で用いた略語:
c=濃度;h=時間;H2O=蒸留水;HPLC=高性能液体クロマトグラフィ;LCMS=液体クロマトグラフィ質量分析;MeOH=メタノール;TFA=トリフルオロ酢酸;DMSO=ジメチルスルホキシド;HCl=塩化水素;EtOH=エタノール;IPA=イソプロピルアルコール;EtOAc=酢酸エチル;THF=テトラヒドロフラン;NH4Cl=塩化アンモニウム;LDA=リチウムジイソプロピルアミド;min=分間;RT=室温;Rt=滞留時間;e.e.=エナンチオマー過剰;MP-炭酸塩=マクロ多孔質トリエチルアンモニウムメチルポリスチレン炭酸塩(0.5%無機帯電防止剤);d.e.=ジアステレオマー過剰;SL-W003-2=(S)-1-[(S)-2-(2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル)フェロセニル]エチルジシクロヘキシルホスフィン;Rh(COD)2BF4=ビス(1,5-シクロオクタジエン)ロジウムIテトラフルオロホウ酸塩;ピオグリタゾン=5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;L-DBTA=L-ジベンゾイル酒石酸。
【0089】
構造の命名法はACD Labs バージョン10を用いた。
【0090】
NMRスペクトルは、Varian Unity Inova 400分光計(5mmインバース検出トリプル共鳴プローブ、400MHzで操作)またはBruker Avance DRX 400分光計(5mmインバース検出トリプル共鳴TXIプローブ、400MHzで操作)またはBruker Avance DPX300分光計(標準5mm二重周波数プローブ、300MHzで操作)で得た。シフトはテトラメチルシランと比較してppmで得た。光学回転は5x25mmジャケット付サンプルセルを備えたAA-10R自動旋光計を用いて測定した。不斉水素化分解実験はBiotage Endeavor水素化設備を用いて実施した。
【0091】
全ての溶媒と市販試薬は入手したまま使用した。
【0092】
液体クロマトグラフィ質量分析計(LC/MS)および液体クロマトグラフィシステムは次の通り使用した:
方法1
CHIRALPAK AD-H(250 x 30mm、5μm)、EtOH+0.05%TFAで溶出−流量30ml/分。
【0093】
検出−インラインUV検出、250nM波長に設定。
【0094】
方法2
CHIRALPAK 1A(250 x 4.6mm、5μM)、EtOH+0.05%TFAで溶出−流量0.7ml/分。
【0095】
検出−インラインDAD、280nM波長に設定。
【0096】
方法3
CHIRALCEL OD-RH(150 X 4.6mm)、90%MeOH+10%H2Oで溶出−流量0.5ml/分。
【0097】
検出−インラインUV検出、254nM波長に設定。
【0098】
方法4
Waters Micromass ZQ2000(C18-逆相カラム(100 x 3.0mm Higgins Clipeus 5μm粒子径))、A:水+0.1%蟻酸;B:アセトニトリル+0.1%蟻酸で溶出。
【0099】

【0100】
検出−MS、ELS、UV(インラインUV検出器を備えたMSへ100μlを分流)。
【0101】
MSイオン化法−エレクトロスプレー(陽イオン)。
【0102】
方法5
CHIRALPAK IA(250 x 21mm、5μm)、エタノール+0.2%TFAで溶出−流量13ml/分 .
検出−インラインUV検出、220nM波長に設定。
【0103】
方法6
キラル−AGP(150 x 4.0mm、5μM)、A:86%10mMカリウム二水素リン酸塩バッファーpH7.0; B:14%アセトニトリル+0.1%蟻酸−流量0.8ml/分で溶出。
【0104】
検出−インラインDAD、254nM波長に設定。
【0105】
方法7
CHIRALPAK 1A(250 x 4.6mm、5μM)、A:EtOH中の0.05%TFA;B:ヘプタン;D:IPA(A:B:D=40:30:30)、−流量0.7ml/分 で溶出。
【0106】
検出−インラインDAD、225nM波長に設定。
【0107】
検出−MS、ELS、UV PDA。
【0108】
MSイオン化法−エレクトロスプレー(陽/陰イオン)
方法8
Waters Micromass ZQ2000(Acquity BEHまたはAcquity BEH Shield RP18 1.7uM 100 x 2.1mm C18−逆相カラム)、A:水+0.1%蟻酸;B:アセトニトリル+0.1%蟻酸で溶出。
【0109】
勾配:

【0110】
検出−MS、ELS、UV PDA。
【0111】
MSイオン化方法−エレクトロスプレー(陽/陰イオン)。
【0112】
方法9
Agilent 1100シリーズ、CHIRALPAK IA(150 x 4.6mm、5μm)、A:ヘプタン、B:エタノール+0.05%TFA−流量0.5ml/分 で溶出。
【0113】
検出−インライン旋光計およびUV検出、270nM波長に設定。
【0114】
勾配:

【0115】
方法10
Phenomenex Gemini C18−逆相カラム(250×21.20mm、5μm粒子径)、A:水+0.1%蟻酸;B:メタノール+0.1%蟻酸で溶出。
【0116】
勾配−50% A/50% B 〜 5% A/95% B、15minにわたって−流量18 mL/分 。
【0117】
検出−インラインUV検出器、254nM波長に設定。
【0118】
方法11
Phenomenex Luna 3μm C18(2) 30 x 4.6mm、A:水+0.1%蟻酸;B:アセトニトリル+0.1%蟻酸で溶出。
【0119】
勾配:

【0120】
検出−MS、ELS、UV(200μl/分、インラインHP1100 DAD検出を備えたMSへ分流)。
【0121】
MSイオン化方法−エレクトロスプレー(陽/陰イオン)。
【0122】
特に断らない限り、全ての反応は窒素雰囲気下で行った。ラセミ体ロシグリタゾンはフリー塩基として使用し、ラセミ体ピオグリタゾンは示した通りフリー塩基または塩酸塩として使用した。
【0123】
(実施例)
【実施例1】
【0124】
(5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオントリフルオロ酢酸塩
【化10】

【0125】
表題化合物(480mg)を方法1を用いて単離した。LCMS(方法4):Rt 6.00 min、m/z 357 [M-CF3CO2H+]。[α]D25 +104°(c 1.0, MeOH)。e.e.(方法2)≧98%。Rt 4.69 min。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6):δ 12.02-11.88 (1H, bs), 8.68-8.60 (1 H, d, J 1.7), 8.32-8.23 (1 H, d, J 7.7), 7.90-7.82 (1 H, d, J 8.4), 7.14-7.06 (2 H, d, J 8.7), 6.85-6.78 (2 H, d, J 8.7), 4.85-4.78 (1 H, dd, J 4.4, 8.9), 4.35-4.27 (2 H, t, J 6.2), 3.40-3.34 (2 H, t, J 6.1), 3.28-3.21 (1 H, dd, J 4.3, 14.3), 3.05-2.97 (1 H, dd, J 9.0, 14.3), 2.77-2.67 (2 H, q, J 7.6), 1.22-1.14 (3 H, q, J 7.5)。
【実施例2】
【0126】
(5S)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオントリフルオロ酢酸塩
【化11】

【0127】
表題化合物(674mg)を方法1を用いて単離した。LCMS(方法4):Rt 6.01 min、m/z 357 [M-CF3CO2H+]。[α]D25 -76°(c 1.0, MeOH)。e.e.(方法2)≧ 98%、Rt 7.00 min。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):δ 12.02-11.88(1H, bs), 8.68-8.60(1 H, d, J 1.7), 8.32-8.23(1 H, d, J 7.7), 7.90-7.82(1 H, d, J 8.4), 7.14-7.06(2 H, d, J 8.7), 6.85-6.78(2 H, d, J 8.7), 4.85-4.78(1 H, dd, J 4.4, 8.9), 4.35-4.27(2 H, t, J 6.2), 3.40-3.34(2 H, t, J 6.1), 3.28-3.21(1 H, dd, J 4.3, 14.3), 3.05-2.97(1 H, dd, J 9.0, 14.3), 2.77-2.67(2 H, q, J 7.6), 1.22-1.14(3 H, q, J 7.5)。
【実施例3】
【0128】
(5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン
【化12】

【0129】
MP-炭酸塩(389mg、1.06mmol)を(5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオントリフルオロ酢酸塩(100mg、0.21mmol)のMeOH(100mL)中の溶液に加え、室温にて2時間撹拌し、濾過し、そして樹脂をMeOH(3X10mL)で洗浄した。濾液を真空で濃縮して表題化合物(35 mg、47%)を得た。e.e.(方法2)92.90%。Rt 6.27 min。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):δ 12.44-11.11(1 H, bs), 8.34-8.29 (1 H, d, J 1.9), 7.55-7.49 (1 H, dd, J 2.2, 7.9), 7.24-7.20 (1 H, d, J 7.8), 7.12-7.05 (2 H, d, J 8.6), 6.84-6.77 (2 H, d, J 8.6), 4.78-4.71 (1 H, dd, J 4.3, 9.1), 4.30-4.19 (1 H, d, J 4.3), 3.24-3.18 (2 H, d), 3.11-3.03 (2 H, t, J 6.6), 3.00-2.92 (1 H, dd, J 9.2, 14.2), 2.59-2.50 (2 H, q, J 7.6), 1.17-1.09 (3 H, t, J 7.7)。
【実施例4】
【0130】
(5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン塩酸塩
【化13】

【0131】
ほぼ1.25M HClを含むMeOH(0.33mL、0.33mmol)を、(5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン(実施例3から得た)(30mg、0.084mmol)のMeOH(5mL)中の懸濁液に加え、室温にて1時間撹拌した。溶媒を真空中で除去して表題化合物(32.4mg、100%)を得た。LCMS(方法4):Rt 5.95 min, m/z 357 [M-HCl+]。e.e(方法3)93.2%, Rt 12.10 min。C-5における立体化学は単結晶X線回折により(R)立体配置と確認された。[α]D24 +108°(c 1.0, MeOH)。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):δ 12.03-11.88(1 H, bs), 8.68-8.62(1 H, d, J 1.7), 8.34-8.25(1 H, d, J 7.9), 7.91-7.83(1 H, d, J 8.3), 7.14-7.05(2 H, d, J 8.7), 6.86-6.77(2 H, d, J 8.7), 4.85-4.77(1 H, dd, J 4.3, 8.9), 4.38-4.28(2 H, t, J 6.0), 3.42-3.36(2 H, t, J 6.2), 3.28-3.20(1 H, dd, J 9.0, 14.2), 3.06-2.96(1 H, dd, J 9.0, 14.2), 2.77-2.67(2 H, q, J 7.7), 1.23-1.15(3 H, t, J 7.7)。引き続いてMeOH-EtOAcまたはMeOH-Et2Oを用いる再結晶により表題化合物(e.e.>97%)を得た。
【実施例5】
【0132】
(5S)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン
【化14】

【0133】
表題化合物(28mg、37%)を、実施例3に概説したのと類似した方法を用いて、(5S)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオントリフルオロ酢酸塩から出発して調製した。e.e.(方法2)90.9%, Rt 9.21 min。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):δ 12.44-11.11(1H, bs), 8.34-8.29(1 H, d, J 1.9), 7.55-7.49(1 H, dd, J 2.2, 7.9), 7.24-7.20(1 H, d, J 7.8), 7.12-7.05(2 H, d, J 8.6), 6.84-6.77(2 H, d, J 8.6), 4.78-4.71(1 H, dd, J 4.3, 9.1), 4.30-4.19(1 H, d, J 4.3), 3.24-3.18(2 H, d), 3.11-3.03(2 H, t, J 6.6), 3.00-2.92(1 H, dd, J 9.2, 14.2), 2.59-2.50(2H, q, J 7.6), 1.17-1.09(3 H, t, J 7.7)。
【実施例6】
【0134】
(5S)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン塩酸塩
【化15】

【0135】
表題化合物(25.7 mg、100%)を(5S)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン(実施例2から得た)から出発して、実施例4に概説したのと類似した方法を用いて調製した。LCMS(方法4):Rt 5.94 min, m/z 357 [M-HCl+]。e.e.(方法3)92.7%, Rt 13.25 min。C-5における立体化学は単結晶X線回折により(S)立体配置と確認された。[α]D23 -104°(c 1.0, MeOH)。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):δ 12.03-11.88(1 H, bs), 8.68-8.62(1 H, d, J 1.7), 8.34-8.25(1 H, d, J 7.9), 7.91-7.83(1 H, d, J 8.3), 7.14-7.05(2 H, d, J 8.7), 6.86-6.77(2 H, d, J 8.7), 4.85-4.77(1 H, dd, J 4.3, 8.9), 4.38-4.28(2 H, t, J 6.0), 3.42-3.36(2 H, t, J 6.2), 3.28-3.20(1 H, dd, J 9.0, 14.2), 3.06-2.96(1 H, dd, J 9.0, 14.2), 2.77-2.67(2 H, q, J 7.7), 1.23-1.15(3 H, t, J 7.7)。引き続いてのMeOH-EtOAcまたはMeOH-Et2Oを用いる再結晶により表題化合物(e.e.>97%)を得た。
【実施例7】
【0136】
(5R)-5-(4-{2-[メチル(ピリジン-2-イル)アミノ]エトキシ}ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン トリフルオロ酢酸塩
【化16】

【0137】
表題化合物(149mg)を方法5を用いて単離した。Rt 7.14 min。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):δ 12.04-11.86(1 H, s), 7.99-7.94(1 H, dd, J 1.1, 6.2), 7.92-7.83(1 H, t, J 6.6), 7.27-7.15(1 H, d, J 8.7), 7.13-7.05(2 H, d, J 8.6), 6.88-6.82(1 H, t, J 6.6), 6.81-6.76(2 H, d, J 8.7), 4.83-4.78(1 H, dd, J 4.4, 8.8), 4.18-4.12(2 H, t, J 5.3), 3.99-3.94(2 H, t, J 5.3), 3.27-3.20(1 H, dd, J 4.2, 14.4), 3.18(3 H, s), 3.05-2.97(1 H, dd, J 8.9, 14.6)。
【実施例8】
【0138】
(5R)-5-(4-{2-[メチル(ピリジン-2-イル)アミノ]エトキシ}ベンジル)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン塩酸塩
【化17】

【0139】
表題化合物(38mg、64%)を実施例3および4に概説したのと類似した方法を用いて、(5R)-5-{4-[2-(メチル-2-ピリジルアミノ)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオントリフルオロ酢酸塩から出発して調製した。[α]D26 +100°(c 1.0, MeOH)。LCMS(方法4):Rt 5.41 min, m/z 358 [M-HCl+]。e.e.(方法6)85.7%, Rt 8.03 min。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):δ 12.09-11.81(1 H, s), 7.98-7.94(1 H, dd, J 1.1, 6.3), 7.93-7.82(1 H, m), 7.31-7.14(1 H, bs), 7.13-7.05(2 H, d, J 8.5), 6.90-6.82(1 H, t, J 6.7), 6.80-6.76(2 H, d, J 8.5), 4.84-4.78(1 H, dd, J 4.4, 8.9), 4.19-4.12(2 H, t, J 5.2), 4.02-3.94(2 H, t, J 5.2), 3.27-3.21(1 H, dd, J 4.4, 10.1), 3.20(3 H, s), 3.05-2.97(1 H, dd, J 9.0, 14.2)。
【0140】
90%e.e.を超えるR-エナンチオマーを、文献(J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1. 1994, 3319-3324)の手順を用いて得ることができる。
【実施例9】
【0141】
(5S)-5-(4-{2-[メチル(ピリジン-2-イル)アミノ]エトキシ}ベンジル)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン塩酸塩一水和物
【化18】

【0142】
表題化合物(123mg)を文献(J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1. 1994, 3319-3324)の手順を用いて調製した。[α]D23 -100°(c 1.0, MeOH)。LCMS(方法4):Rt 5.44 min, m/z 358 [M-HCl+]。e.e.(方法6)92.7%, Rt 8.99 min。C-5における立体化学は単結晶X線回折により(S)立体配置と確認された。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):δ 12.01-11.88(1 H, s), 7.98-7.94(1 H, dd, J 1.4, 6.1), 7.93-7.86(1 H, t, J 7.7), 7.31-7.18(1 H, m), 7.12-7.05(2 H, d, J 8.7), 6.90-6.83(1 H, t, J 6.3), 6.81-6.75(2 H, d, J 8.7), 4.83-4.78(1 H, dd, J 4.5, 8.8), 4.19-4.13(2 H, t, J 5.1), 4.02-3.96(2 H, t, J 5.1), 3.26-3.22(1 H, m), 3.21(3 H, s), 3.05-2.97(1 H, dd, J 8.8, 14.0)。
【実施例10】
【0143】
(5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン(-)-O,O'-ジベンゾイル-L-酒石酸塩
【化19】

【0144】
10a. (5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン塩酸塩(50mg)(実施例4)と(-)-ジベンゾイル-L-酒石酸(50mg)の混合物へMeOH(1.5mL)を加えた。透明な溶液を急速に撹拌しながら、濁りが持続されるまでH2Oを滴状で加えた。反応液を周囲温度にて48時間以上静置し、固体を濾過により採集して表題化合物(43mg)を得た。(方法7)99.01% Rt 10.83 min、0.98% Rt 15.83 min;d.e. 98.03%。
【0145】
10b. (-)-ジベンゾイル-L-酒石酸(1.0g、2.79mmol)のH2O(20mL)中のスラリーを周囲温度にて撹拌し、5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン塩酸塩(1.01g、2.57mmol)のMeOH(20mL)中の溶液を5分間にわたって加えた。添加が終わると、実施例10aからの生成物(5mg)を加え、反応液を93時間撹拌した。反応液を濾過し、固体を乾燥して表題化合物(0.863g)を得た。(方法7)79.72%、Rt 10.82min.;20.27%、Rt 15.14min.;d.e. 59.45%。
【0146】
10c. 実施例10bからの生成物(0.863g)を、1M HCl(1.21mL)を含有するMeOH(8.5mL)に溶解し、H2O(5mL)を滴状で加えた。実施例10aからの生成物(1mg)を加え、次いでH2O(2.3mL)を滴状で加えた。反応液を22時間撹拌し、濾過し、固体をH2O-MeOH(2:1,3mL)で洗浄し、そして40℃にて高真空下で乾燥して表題化合物(0.582g)を得た。(方法7)93.2%、Rt 10.82 min.; 6.8%, Rt 15.14 min.; d.e. 86.4%。
【0147】
10d. 実施例10cからの生成物(0.582g)を、1M HCl(0.795mL)を含有するMeOH(5.5mL)に溶解し、H2O(2mL)を滴状で加えた。実施例10aからの生成物(1mg)を加え、次いでH2O(3.5mL)を滴状で加えた。反応液を22時間撹拌し、濾過し、固体をH2O-MeOH(2:1, 3 mL)で洗浄し、40℃にて高真空下で乾燥して表題化合物(0.453g)を得た。(方法7)97.3%, Rt 10.65 min.; 2.7%, Rt 14.83 min.; d.e. 94.6%。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):14.25-13.60(bs, 1H, D2O 交換可能), 12.05-12.00(bs, 1H, D2O 交換可能), 8.37(d, J = 2.0 Hz, 1H), 8.02(d, J = 7.6 Hz, 4H), 7.73(t, J = 7.6 Hz, 2H), 7.60(t, J = 7.6 Hz, 5H), 7.29(d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.13(d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.86(d, J = 8.8 Hz, 2H), 5.88(s, 2H), 4.86(q, J = 4.4 Hz, 1H), 4.30(t, J = 6.8 Hz, 2H), 3.30(dd, J = 4.0 & 10.0 Hz, 1H), 3.13(t, J = 6.8 Hz, 2H), 3.04(dd, J = 5.2 & 9.2 Hz, 1H), 2.60(q, J = 7.6 Hz, 2H), 1.17(t, J = 7.6 Hz, 3H)。
【実施例11】
【0148】
(5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン塩酸塩
【化20】

【0149】
11a. 実施例10dからの生成物を、37%HCl(0.134mL)を含有するMeOH(2.25mL)に35℃にて溶解した。溶液を濾過し、EtOAc(9mL)をその撹拌溶液中に注いで、その混合物を20分間撹拌した。白色の固体を濾過により採集し、EtOAcで洗浄し、30℃にて高真空下で乾燥して表題化合物(0.181g)を得た。(方法7)98.3%, Rt 10.65 min.; 1.7%, Rt 14.83 min e.e. 96.6%。LCMS(方法8):Rt 2.90 min 99.39%, m/z 357 [MH+-HCl]. LCMS(方法11)Rt 2.91 min, m/z 357 [MH+-HCl]。1H NMR(400 MHz, DMSO-d6):δ 12.0(1 H, s), 8.70(1 H, d, J 1.7 Hz), 8.36(1 H, bd, J 8.3 Hz), 7.93(1 H, d, J 8.2 Hz), 7.15, 6.87(4 H, A2B2q, J 8.7 Hz), 4.86(1 H, dd, J 4.4, 8.9 Hz), 4.38(2 H, t, J 6.3 Hz), 3.44(2 H, t, J 6.2 Hz), 3.29(1 H, dd, J 4.3, 14.2 Hz), 3.06(1 H, dd, J 9.0, 14.3 Hz), 2.78(2 H, q, J 7.6 Hz), 1.23(3 H, t, J 7.6 Hz)。
【0150】
11b. 実施例10c(1g)からの生成物をまた、実施例11aに記載の通り反応させて表題化合物(473mg)を得ることもできる。(方法7)95.6%, Rt 10.65 min.; 4.3%, Rt 14.83 min e.e. 91.3%。全ての他の特性データは実施例11aと同じであった。
【実施例12】
【0151】
(5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン
【化21】

【0152】
Rh(COD)2BF4(10.6mg、26.1μmol)のDCM(9.5mL)中のストック溶液をグローブボックス内で作った。リガンドSL-W003-2(8.4mg、12.5μmol)をバイアル中に秤量し、500μLのRh(COD)2BF4ストック溶液を加えた。5-[1-{4-[2-(5-エチル-ピリジン-2-イル)-エトキシ]-フェニル}-メタ-(E)-イリデン]-チアゾリジン-2,4-ジオン溶液(4.5mL、35mL MeOH中に78.2mgを含有するストック溶液)を触媒溶液を含有する反応液バイアルに加えた。バイアルをN2(5x)およびH2(5x)によってパージし、最後に25barのH2を供給した。18時間後、H2を放出し反応バイアルをN2(3x)を用いてパージした。反応液のサンプルを採取し、1%蟻酸を含有するEtOHの等しい体積で希釈した。e.e.(方法9)75%, Rt 36.11 min。
【実施例13】
【0153】
(5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン塩酸塩
【化22】

【0154】
13a. メタンスルホン酸2-(5-エチル-ピリジン-2-イル)-エチルエステル
【化23】

【0155】
2-(5-エチル-ピリジン-2-イル)-エタノール(25.34g)とトリエチルアミン(46.7mL)のDCM(130mL)中の溶液に、0℃にて窒素下でメタンスルホニルクロリド(15.56mL)を加え、次いで室温に加温して一晩撹拌した。さらなる部分のメタンスルホニルクロリド(3.88mL)を加え、反応液を30分間撹拌した。反応液をDCMで希釈し、H2Oおよびブラインで洗浄した。有機相を乾燥し(MgSO4)、その溶液を濃縮して表題化合物を赤色の油(38.24 g)として得た。 1H NMR(400 MHz, CDCl3 ):δ 8.39(d, J = 2.2 Hz, 1H), 7.47(dd, J = 7.7, 2.3Hz, 1H), 7.14(d, J = 7.7 Hz, 1H), 4.64(t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.19(t, J = 6.5 Hz, 2H), 2.90(s, 3H), 2.64(q, J = 7.6 Hz, 2 H), 1.25(t, J = 7.6 Hz, 3H)。
【0156】
13b. 3-{4-[2-(5-エチル-ピリジン-2-イル)-エトキシ]-フェニル}-プロピオン酸メチルエステル
【化24】

【0157】
トルエン(50mL)中の実施例13aからの生成物(12.72g)を、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル(10g)および炭酸カリウム(23.01g)のトルエン(180mL)中の撹拌混合物に滴状で加えた。反応を環流にて23時間加熱し、次いで室温にて90時間放置した。反応混合物をH2Oで処理し、3部のジエチルエーテルで抽出した。組み合わせた抽出物を2回H2Oで、1回ブラインで洗浄し、乾燥しそして蒸発させた。残留物をクロマトグラフィ(石油エーテル(bp=40〜60℃)中の20〜40% EtOAcで溶出)で精製して、表題化合物を黄色の固体(10.73g)として得た。 1H NMR(400 MHz, CDCl3 ):δ 8.39(d, J = 2.1 Hz, 1H), 7.44(dd, J = 7.8, 2.4Hz, 1H), 7.18(d, J=7.8 Hz, 1H), 7.08, 6.83(A2B2q, J = 8.6 Hz, 4H), 4.31(t, J = 6.7 Hz, 2H), 3.66(s, 3H), 3.22(t, J = 6.7 Hz, 2H), 2.87(t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.66-2.55(m, 4H), 1.24(t, J = 7.6 Hz, 3H)。
【0158】
13c. 3-{4-[2-(5-エチル-ピリジン-2-イル)-エトキシ]-フェニル}-プロピオン酸
【化25】

【0159】
実施例13bからの生成物(10.73g)を1,4-ジオキサン/水(350/100mL)に溶解し、水酸化リチウム一水和物(4.3g)を加え、その反応液を一晩撹拌した。ジオキサンを減圧下で蒸発させて除去した。その懸濁液をH2Oで希釈し、2.0M HClで処理してpHが6〜7とした。その固体を濾過し乾燥して表題化合物(9.57g)を得た。 1H NMR(400 MHz, CDCl3 ):δ 8.41(d, J = 2.3 Hz, 1H), 7.52(dd, J = 7.9, 2.3Hz, 1H), 7.25(d, J = 7.9 Hz, 1H), 7.11, 6.81(A2B2q, J = 8.6 Hz, 4H), 4.27(t, J = 6.6 Hz, 2H), 4.0(bs, 2H, COOH+水)3.24(t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.90(t, J = 7.6 Hz, 2H), 2.68-2.59(m, 4H), 1.24(t, J = 7.6 Hz, 3H)。
【0160】
13d. (R)-4-ベンジル-3-(3-{4-[2-(5-エチル-ピリジン-2-イル)-エトキシ]-フェニル}-プロピオニル)-オキサゾリジン-2-オン
【化26】

【0161】
実施例13cからの生成物(9.0g)および(R)-(+)-4-ベンジルオキサゾリジノン(2.67g)のトリエチルアミン(8.38mL)およびトルエン(90mL)中の懸濁液を80℃に加熱した。80〜85℃の温度を維持しながら、ピバロイルクロリド(3.71mL)を滴状で加えた。その反応液を次いで環流にて22.5時間加熱した。反応液を室温に冷却し、反応液をH2O-EtOAcと水層の間で分配し、EtOAcで2回抽出し、組み合わせた有機相を乾燥し(MgSO4)、濃縮した。粗生成物をシリカゲルのクロマトグラフィ(0〜40% EtOAc-シクロヘキサンで溶出)により精製して、表題生成物を白色の固体(2.06g)として得た。1H NMR(300 MHz, CDCl3 ):δ 8.39(d, J = 2.2 Hz, 1H), 7.45(dd, J = 7.9, 2.2Hz, 1H), 7.36-7.24(m, 3H), 7.21-7.12(m, 5H), 6.84(d, J = 8.6 Hz, 2H), 4.65(m, 1H), 4.32(t, J = 6.6 Hz, 2H), 4.16(m, 2H), 3.33-3.12(m, 5H), 3.04-2.87(m, 2H), 2.74(dd, J = 9.5, 13.4 Hz, 1H), 2.63(q, J = 7.6 Hz, 2H), 1.24(t, J = 7.6 Hz, 3H)。
【0162】
13e. (R)-4-ベンジル-3-((R)-3-{4-[2-(5-エチル-ピリジン-2-イル)-エトキシ]-フェニル}-2-チオシアナト-プロピオニル)-オキサゾリジン-2-オン
【化27】

【0163】
THF/ヘキサン(3/0.3mL)中のLDA(0.528mmol)に、THF(4mL)中の実施例13d(0.20g)からの生成物を、-78℃にてアルゴン下で滴状で加えた。30分後、THF(2mL)中のN-チオシアナトスクシンイミド(JACS, 2004, 126, 10216-7)(0.137g)を滴状で加えた。さらに110分後、-78℃にて反応液を飽和NH4Cl水溶液(5mL)によってクエンチし、室温まで加温させた。混合物を15mL部分 x 3のEtOAcで抽出し、組み合わせた有機相を乾燥し(Na2SO4)、減圧下で蒸発させて体積を減少させた。トルエン(20mL)を加え、減圧下で蒸発させた。残留物をDCM(3mL)に溶解し、-20℃にて16時間保存した。可溶物質をシリカゲルのクロマトグラフィ(シクロヘキサン中の20〜50%EtOAcで溶出)により精製し、不純な画分を同じ方法により再精製して、1:2.4のモル比の表題生成物とスクシンイミドを無色の半固体(0.121g)として得た。1H NMR(300 MHz, CDCl3):δ 8.60(bs, 1H スクシンイミド)8.40(d, J = 2.3 Hz, 1H), 7.47(dd, J = 7.8, 2.3Hz, 1H), 7.39-7.12(m, 8H), 6.85(d, J = 8.7 Hz, 2H), 5.07(dd, J = 8.1, 7.2 Hz, 1H), 4.63(m, 1H), 4.32(t, J = 6.7 Hz, 2H), 4.24-4.11(m, 2H), 3.47(dd, J = 14.0, 8.0 Hz, 1H), 3.33(dd, J = 13.4, 3.2 Hz, 1H), 3.28-3.16(m, 3H), 2.84(dd, J = 9.3, 13.4 Hz, 1H), 2.76(s, 4H スクシンイミド)2.63(q, J = 7.6 Hz, 2H), 1.24(t, J = 7.6 Hz, 3H)。
【0164】
13f. チオカルバミン酸S-((R)-2-((R)-4-ベンジル-2-オキソ-オキサゾリジン-3-イル)-1-{4-[2-(5-エチル-ピリジン-2-イル)-エトキシ]-ベンジル}-2-オキソ-エチル)エステル
【化28】

【0165】
実施例13e(51mg)からの生成物をTHF/水(2/1ml)にアルゴン下で溶解し、白金トリス(ジメチルホスフィンオキシド)(Tet. Lett., 2002, 43, 8121)(4mg)で処理した。その反応液を40℃に2時間加温し、次いで室温に冷却させた。EtOAc(10mL)を加え、有機相を乾燥し(Na2SO4)、濃縮し、シリカゲル(2g)のクロマトグラフィ(シクロヘキサン中の40〜70% EtOAcで溶出)で精製して、1:3.3モル比の表題化合物とスクシンイミドを無色の半固体(0.029g)として得た。1H NMR(400 MHz, CDCl3 ):δ 8.66(bs, 1H スクシンイミド)8.39(d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.47(dd, J = 7.9, 2.2 Hz, 1H), 7.37-7.17(m, 6H), 7.17, 6.81(A2B2q J = 8.5 Hz, 4H), 5.74(t, J = 7.9 Hz, 1H), 5.63(bs, 2H), 4.53(m, 1H), 4.30(t, J = 6.7 Hz, 2H), 4.08(dd, J = 8.9, 2.5 Hz, 1H), 3.95(dd, J = 8.9, 7.8 Hz, 1H), 3.31(dd, J = 13.5, 3.1 Hz, 1H), 3.26-3.18(m, 3H), 2.96(dd, J = 13.5, 8.1 Hz, 1H), 2.74(s, 4H スクシンイミド), 2.72(dd, J = 13.5, 9.8 Hz, 1H), 2.63(q, J = 7.6 Hz, 2H), 1.24(t, J = 7.6 Hz, 3H)。
【0166】
13g. (5R)-5-{4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル}-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン塩酸塩
【化29】

【0167】
実施例13fからの生成物をMeOH(10mL)に溶解し、H2O(10ml)を加えて濁った溶液を得た。これを室温にて2.5時間放置し、次いで1M HCl(0.15 mL)を加えた。溶液を蒸発乾固し、その残留物を濃HCl(0.0015mL)を含有するMeOH(0.1mL)中に移し取った。EtOAc(5mL)を加え、その溶液を弱い減圧下で濃縮して白色の固体を沈降させた。溶液を除去して固体(7mg)をEtOAcで洗浄した。この物質を調製用HPLCにより精製し(方法10)、第1溶出成分を含有する画分を組み合わせ、1M HCl(1mL)で処理し、蒸発乾固して1:0:0.19モル比の表題生成物とスクシンイミドを無色のガム(0.002g)として得た。(方法7)99.175%, Rt 10.65 min.;0.825%, Rt 14.83 min.;e.e. 98.35%。LCMS(方法11)Rt 2.9 min, m/z 357 [MH+]。1H NMR(300 MHz, d4-MeOH ):8.62(bd, 1H), 8.42(dd, J = 8.2, 2.0 Hz, 1H), 7.98(d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.16, 6.85(A2B2q, J = 8.7 Hz, 4H), 4.68 dd, J = 8.7, 4.2 Hz, 1H), 4.38(t, J = 5.8 Hz, 2H), 3.34(m 不明瞭, 1H), 3.11(dd, J = 14.3, 8.8 Hz, 1H), 2.87(q, J = 7.6 Hz, 2H), 2.68(s, 4H スクシンイミド),1.33(t, J = 7.6 Hz, 3H)。
【0168】
生物学的試験結果
【実施例14】
【0169】
COPD炎症の前臨床マウスモデルとタバコ煙誘発性肺炎症
事前の研究において、気管支肺胞洗浄(BAL)で回収される炎症細胞の数は4または11連続日にわたるTS曝露の最終タバコ煙(TS)曝露後の24時間に有意に上昇することが確認されているので、本明細書に報じた研究ではこの時点を利用した。
【0170】
マウスのTSへの曝露、気管支肺胞洗浄液(BAL)の実施、示差的細胞数に対するサイトスピンスライドの調製のプロトコルを以下に概説する。
【0171】
4または11連続日にわたる、マウスのTSへの毎日の曝露
この曝露プロトコルでは、5匹のグループのマウスを個別の透明ポリカーボネートチャンバー(27cm×16cm×12cm)内で曝露した。紙巻煙草からのTSを100ml/分の流量で曝露チャンバーに進入させた。高レベルのTS(6本の紙巻煙草)までの繰返し曝露により生じる潜在的な問題を最小限にするために、マウスのTSへの曝露は曝露期間にわたり最大6本の紙巻煙草まで徐々に増やした。この試験で使用した曝露スケジュールは、次のとおりであった:
4日間の場合の曝露スケジュールは次の通りである:
第1日:4本の紙巻煙草(およそ32分間の曝露)
第2日:4本の紙巻煙草(およそ32分間の曝露)
第3日:6本の紙巻煙草(およそ48分間の曝露)
第4日:6本の紙巻煙草(およそ48分間の曝露)。
【0172】
11日間の場合の曝露スケジュールは次の通りである:
第1日:2本の紙巻煙草(およそ16分間の曝露)
第2日:3本の紙巻煙草(およそ24分間の曝露)
第3日:4本の紙巻煙草(およそ32分間の曝露)
第4日:5本の紙巻煙草(およそ40分間の曝露)
第5〜11日:6本の紙巻煙草(およそ48分間の曝露)。
【0173】
対照(TS曝露無し)として、さらなるマウスのグループを毎日、同等の時間、大気に曝露した。
【0174】
気管支肺胞洗浄(BAL)分析
気管支肺胞洗浄を次の通り行った:
約8mmの長さまで短くしたPortexナイロン静脈内カニューレ(ピンク色ルアーフィッティング)を用いて、気管にカニューレを挿入した。リン酸緩衝食塩水(PBS)を洗浄液として使用した。1ml注射器を用いて3回、0.4mlの体積を徐々に注入しかつ吸引し、次いでエッペンドルフチューブ内に入れて氷上で保持し、その後に測定に供した。
【0175】
細胞数:
洗浄液を遠心分離により細胞と分離し、上清はデカントして凍結させ、後続の分析に供した。細胞ペレットを既知体積のPBS中に再懸濁させ、染色(Turks染色)したアリコートを顕微鏡下で血球計数器を用いて計数することにより全細胞数を求めた。
【0176】
示差的細胞数は以下のように求めた:残留細胞ペレットを希釈して1ml当たりほぼ105個の細胞にした。500μlの体積をサイトスピンスライドのファネル中に置き、800rpmで8分間遠心分離した。スライドを空気乾燥させ、専用取扱説明書に従って「Kwik−Diff」溶液(Shandon)を用いて染色した。乾燥させてカバースリップを載せてから、光学顕微鏡法を用いて示差的細胞を計数した。光学顕微鏡法を用いて400個までの細胞を中立的なオペレーターにより計数した。標準の形態計測法を用いて細胞を区別した。
【0177】
薬物治療:
マウスおよびラットなどのげっ歯類は偏性経鼻呼吸動物であるので、吸入用試験物質(例えば、治療薬)を経口送達しても良い肺曝露が得られない。従って、げっ歯類の肺への治療薬送達は一般に鼻内、気管内、または全身エアロゾル曝露による吸入によって実施される。
【0178】
チャンバー法は大量の試験物質を使うので、一般に、薬理効力研究よりもむしろ吸入毒性研究用に留保される。気管内投与法は、試験材料のほとんど全てが肺へ送達されるので非常に効率的な送達法であるが、これはまことに侵襲性の技法である。特にマウスでの研究では気管の直径がまことに小さいので、技術的にもなかなか難しい。鼻内経路は気管内経路ほど侵襲性でなく、従って、下記の4〜11日マウスモデルのような反復投薬研究には特に好適である。鼻内投与に従えば、投与した用量のほぼ50%が肺に送達される(Eyles JE, Williamson ED and Alpar HO. 1999, Int J Pharm, 189(1):75-9)。
【0179】
経口吸入に対する代理経路としてマウスに鼻内投与を行うこととし、ビヒクル(生理食塩水中の0.2% tween 80)、5S-ピオグリタゾン(実施例6で調製した)(3μg/kg)、5S-ピオグリタゾン(実施例6で調製した)(1μg/kg)、5R-ピオグリタゾン(実施例4で調製した)(3μg/kg)、5R-ピオグリタゾン(実施例4で調製した)(1μg/kg)、またはラセミ体ピオグリタゾン(3μg/kg)を投与した。対照グループのマウスはビヒクルを受けて1時間後に、空気に毎日、1日当たり最高50分間曝露した。BALは最後のTS曝露後24時間に実施した。全ての化合物は、塩基として補正した用量で、塩酸塩として投与した。
【0180】
第2の実験では、マウスに、ビヒクル(生理食塩水中の0.2%tween 80)、5S-ロシグリタゾン(実施例9で調製した)(3μg/kg)、5S-ロシグリタゾン(実施例9で調製した)(10μg/kg)、5R-ロシグリタゾン(実施例8で調製した)(3μg/kg)、5R-ロシグリタゾン(実施例8で調製した)(10μg/kg)、またはラセミ体ロシグリタゾン(10μg/kg)を鼻内投与した。対照グループのマウスはビヒクルを受けて1時間後に、空気に毎日、1日当たり最高50分間曝露した。BALは最後のTS曝露後24時間に実施した。全ての化合物は、塩基として補正した用量で、塩酸塩として投与した。
【0181】
データ管理と統計解析
全ての結果を各動物に対する個々のデータ点として表示し、各グループに対する平均値を計算した。正規性の検定に合格したので、データを一元配置分散分析検定(ANOVA)に付し、続いて、治療群間の有意性の検定を行うべく多重比較のBonferroni補正を行った。<0.05の「p」値を統計学的に有意であるとみなした。
【0182】
以下の式:
抑制%=1-[(治療グループの結果−シャムグループの結果)/(TS媒体グループの結果−シャムグループの結果)]×100
を用いて細胞データに対してExcelスプレッドシート内で抑制パーセントを自動計算した。
【0183】
以上の式を用いて、他のパラメーターに対する抑制データを手計算した。
【0184】
図1に示した通り、TSへの曝露後の全細胞BAL数に与えるピオグリタゾンの2種のエナンチオマーの間の活性には明確な差が存在した。ピオグリタゾンの5Rエナンチオマー(e.e. 97.8%)は、鼻内経路により投与した場合、1および3μg/kgの両方でTSにより誘発されるBAL細胞流入を有意に抑制した。対照的に、5Sエナンチオマー(e.e. 97.5%)は試験したどちらの用量でもBAL細胞炎症を抑制することができなかった。
【0185】
BAL細胞サイトスピンの試験に続いて、BAL好中球数を測定した。全BAL細胞に対する活性と同様に、ピオグリタゾンの5Rエナンチオマーは両方の用量でのTS曝露により誘発されるBAL好中球数を有意に抑制したが、ピオグリタゾンの5Sエナンチオマーは無効であった(図2)。
【0186】
ラセミ体ピオグリタゾン(5Rエナンチオマーのピオグリタゾンを50%含有する)も3μg/kg用量でTS曝露により誘発されるBAL好中球数を有意に抑制した。
【0187】
図3に示した通り、TSへの曝露後の全細胞BAL数に与えるロシグリタゾンの2種のエナンチオマーの間の活性には明確な差が存在した。ロシグリタゾンの5Rエナンチオマー(e.e. 85.7%)は、鼻内経路により投与した場合、3および10μg/kgの両方でTSにより誘発されるBAL細胞流入を有意に抑制した。対照的に、5Sエナンチオマー(e.e. 92.7%)は試験したどちらの用量でもBAL細胞炎症を抑制することができなかった。
【0188】
BAL細胞サイトスピンの試験に続いて、BAL好中球数を決定した。全BAL細胞に対する活性と同様に、ロシグリタゾンの5Rエナンチオマーは両方の用量でのTS曝露により誘発されるBAL好中球数を有意に抑制したが、ロシグリタゾンの5Sエナンチオマーは無効であった(図4)。
【0189】
ラセミ体ロシグリタゾン(50% 5Rエナンチオマーのロシグリタゾンを含有する)も10μg/kg用量でTSにより誘発される全および好中球BAL細胞を有意に抑制した。
【0190】
併せ考えると、2つの研究結果は、ピオグリタゾンおよびロシグリタゾン両方の5RエナンチオマーがBAL細胞流入の抑制に必要な抗炎症活性を有する一方、それらの5Sエナンチオマーは前記活性を有しないことを確認する。
【0191】
ロシグリタゾンの5Rエナンチオマーの調製物のe.e.は最適値より低かった(すなわち、>90%よりもむしろ85.7%)が、なお2種のエナンチオマーの示差的活性は観察された。これはロシグリタゾンの5Rエナンチオマーの最適調製物は、本明細書に提示したデータと比較して類似のまたはさらに改善された活性を示しうることを示唆する。それ故に、本明細書に提示したデータは、少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーのロシグリタゾンを含有する調製物で達成しうることを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入による肺投与により炎症性呼吸器疾患を治療するために使用するグリタゾンであって、吸入されるグリタゾンが少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5重量%未満の5Sエナンチオマーから成る、前記グリタゾン。
【請求項2】
吸入による肺投与による炎症性呼吸器疾患を治療するための医薬品の調製におけるグリタゾンの使用であって、医薬品のグリタゾン内容物が少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5重量%未満の5Sエナンチオマーから成る、前記使用。
【請求項3】
治療上有効な量のグリタゾンの患者への吸入による肺投与を含む炎症性呼吸器疾患を治療する方法であって、吸入されるグリタゾンが少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5重量%未満の5Sエナンチオマーから成る前記方法。
【請求項4】
被験者にさらにある量の気管支拡張薬および/または他の抗炎症薬を投与し、ここでグリタゾンの5Rエナンチオマーの量と通常の呼吸器治療薬の量が一緒に治療上有効な量を含むものである、請求項3に記載の治療方法。
【請求項5】
前記炎症性呼吸器疾患が軽度の喘息、中度の喘息、重度の喘息、ステロイド抵抗性喘息、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、肺浮腫、肺塞栓症、肺炎、肺サルコイドーシス、珪肺症、肺線維症、呼吸器不全、急性呼吸困難症候、気腫、慢性気管支炎、結核、および肺癌から選択される、請求項1に記載の使用のためのグリタゾン、請求項2に記載の使用、または請求項3もしくは請求項4に記載の治療方法。
【請求項6】
前記炎症性呼吸器疾患が慢性閉塞性肺疾患である、請求項1に記載の使用のためのグリタゾン、請求項2に記載の使用、または請求項3もしくは請求項4に記載の治療方法。
【請求項7】
グリタゾンおよび1種以上の製薬上許容される担体および/または賦形剤を含む、吸入による肺投与用に適合させた医薬組成物であって、医薬組成物のグリタゾン内容物が少なくとも95重量%の5Rエナンチオマーおよび5重量%未満の5Sエナンチオマーから成る前記医薬組成物。
【請求項8】
さらに抗炎症薬、気管支拡張剤、粘液溶解剤、鎮咳剤、ロイコトリエンインヒビター、および抗生物質から選択される1種以上の他の治療薬を含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記グリタゾンがピオグリタゾンもしくはロシグリタゾンである、請求項1、請求項5もしくは請求項6に記載の使用のためのグリタゾン、請求項2、請求項5もしくは請求項6に記載の使用、請求項3、請求項4、請求項5もしくは請求項6に記載の治療方法、または請求項7もしくは請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項7に記載の組成物を含む第一の投与剤形、ならびに、抗炎症薬、気管支拡張剤、粘液溶解剤、鎮咳剤、ロイコトリエンインヒビターおよび抗生物質から選択される他の治療薬を含む第二の投与剤形を含むものである、被験者の呼吸器障害を治療するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−529953(P2011−529953A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521630(P2011−521630)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001920
【国際公開番号】WO2010/015818
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(511030404)プルマゲン セラピューティクス(インフラメーション)リミテッド (2)
【Fターム(参考)】