説明

呼吸監視方法及び装置

【課題】 室内における複数の被検者の呼吸運動を同時に、非接触かつ無拘束で検出する方法及び装置を提供すること。
【解決手段】 超広帯域無線波(UWB波)を被検者に向けて発信し、受信信号から前置増幅/検波器によって遅延プロファイルを得、該遅延ファイルをA/D変換した後、信号処理部で反射波毎に信号強度の時間変動として観測し、被検者の呼吸数又は異常呼吸を検出する。また、超広帯域無線波発振器と、超広帯域無線波発受信アンテナと、受信信号を増幅、検波し遅延プロファイルを得る前置増幅/検波器と、遅延プロファイル信号をデジタル化するA/D変換器と、A/D変換された遅延プロファイルから反射波毎に信号強度の時間変動を出力する信号処理部とを有する呼吸監視装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超広帯域無線波(UWB波:Ultra Wide Band )を用いて、集中治療室などにおける複数の患者といった被検者の呼吸を同時に、非接触かつ無拘束で監視する呼吸監視方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
UWB波たとえばUWB−IR(Ultra Wide Band-Impulse Radio)は、10dB比帯域幅が中心周波数の20%以上又は500MHz以上の広い周波数帯域を使用する処から非常に短いパルス幅となり、パルス分解能が高くマルチパス耐性に優れている。また、広帯域である処から電力スペクトル密度が10nW/MHzときわめて低く、他の通信システムとの共存が可能である。
【0003】
一方、病室や集中治療室における患者の呼吸監視のために、患者の胸部に直接電極を貼付したり口や鼻にサーミスタを取り付けるといった方法が採られている。このような接触式或いは配線が必要なセンサは、患者に不快感を与えたり体位の変動などによるセンサの離脱事故を起こしたりするほか介護/看護の妨げになったりする問題がある。
【0004】
また、無呼吸症候群などへの社会的関心の高まりから、ベッドのマット下に圧力センサを取り付けて無拘束で呼吸運動を監視する方法(たとえば、特許文献1参照)や、患者の枕元に取り付けた画像取得・処理装置やレーザセンサにより呼吸を監視する方法も提案されている。しかし、特許文献1に開示の方法による場合、体動などによる低周波変動も含まれ微妙な呼吸運動を検出するのは困難であり、また、患者の枕元に画像取得・処理装置やレーザセンサを臨ませる方法は、体動による患者の位置変化に対して自動的に対応できない。
【0005】
さらに、マイクロ波センサを用いてドップラ効果の観測や測距を行い被検者の動きを検出する方法(たとえば、特許文献2乃至特許文献6参照)や、ビーム幅が狭い微弱無線で体動を検出する方法も提案されている(たとえば、特許文献7参照)。しかし、室内のように厳しいマルチパス環境下で、人間の微妙な呼吸を検出することは難しい。また、これら従来の方法は、患者毎にセンサと付属装置が必要である。
【0006】
【特許文献1】特開平07−031592号公報
【特許文献2】特開2000−083927号公報
【特許文献3】特開2002−065677号公報
【特許文献4】特開2002−071825号公報
【特許文献5】特表2001−525925号公報
【特許文献6】特開平07−059757号公報
【特許文献7】特開2002−058659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、室内における複数のたとえば患者といった被検者の呼吸運動を同時に、非接触かつ無拘束で検出し、呼吸数や異常呼吸を、必要に応じて監視モニタに表示しまた、自動警報装置を介して医師や看護師に知らせる方法及びそのための装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、超広帯域無線波(UWB波)を被検者に向けて発信し、反射波の受信信号から前置増幅/検波器によって遅延プロファイルを得、該遅延ファイルをA/D変換した後、信号処理部で反射波毎に信号強度の時間変動として観測し、そのうち変動幅が顕著かつ周期性をもつパスを被検者の呼吸に起因する体動によるものと特定し、被検者の呼吸数又は異常呼吸を検出するようにした呼吸監視方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、超広帯域無線波発振器と、超広帯域無線波送受信アンテナと、受信信号を増幅、検波し遅延プロファイルを得る前置増幅/検波器と、遅延プロファイル信号をデジタル化するA/D変換器と、A/D変換された遅延プロファイルから反射波毎に信号強度の時間変動を出力する信号処理部とを有する呼吸監視装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同時に複数の被検者の呼吸運動を非接触かつ無拘束で検出し、呼吸数又は異常呼吸を知ることができる。また、検出結果は遠方の監視モニタへ無線で伝送し、呼吸異常を検出した場合は自動警報装置を作動させ、緊急事態を医師や看護師に迅速に知らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、超広帯域無線波(UWB波)を用いて室内における複数の被検者の呼吸運動を非接触かつ無拘束で同時に検出する呼吸監視システムである。図1に、本発明の呼吸監視システムの概要を示す。図1に示すように、たとえば室内の天井に配設された発信アンテナ3からUWB波が被検者(患者等)Pに向けて発信され、反射波が受信アンテナ3によって受けられる。
【0012】
図2に、本発明の呼吸監視装置の構成を示す。図2に示すように、本発明の呼吸監視装置は、超広帯域無線波発振器2および発受信アンテナ3からなる発信部1、発受信切換器(ハイブリッド)4、ならびに発受信アンテナ3からの受信信号から遅延プロファイルを検出するための前置増幅器/検波器6、A/D変換器7、および信号処理部8からなる受信部5、受信部5で得られた呼吸波形データを遠方の監視モニタへ伝送する転送アンテナ9から構成されている。
【0013】
発信部1は、インパルス状モノサイクル波、ステップドFM波、またはFM−CW波、またはスペクトル拡散波を発振する超広帯域無線波発振器2と発受信アンテナ3から構成されている。一方、受信部5は、受信アンテナ3、前置増幅器/検波器6、A/D変換器7、およびデジタル信号処理部8から構成されている。
【0014】
UWB波が送信アンテナ3から被検者(患者等)Pに向けて発信され、受信した信号から検波した遅延プロファイルはA/D変換された後、信号処理部8において反射波(遅延時間)毎に信号強度の時間変動として観測され、被検者(患者等)Pの呼吸数または呼吸異常が検出される。
【0015】
遅延プロファイルは、被検者や障害物からの遅延反射波の合成波である。遅延プロファイルはA/D変換され、帯域幅に応じてマルチパスが時間または距離軸上で分離、識別され、各パスの信号強度が信号処理部8に入力される。図3に、遅延プロファイルの一実施例を示す。この遅延プロファイルの距離分解能は、発信帯域幅に比例する。たとえば5GHzでは距離分解能が6cmの遅延プロファイルが得られ、経路長差が6cm以上の反射波を時間軸上で分離・識別ができる。即ち、アンテナから各被検者までの経路長差が6cm以上離れていれば、同時に複数の被検者の呼吸運動を検出できる。
【0016】
次に、A/D変換された遅延プロファイルの各標本値は発信毎に観測され、その時間的変化から周期性を検出する。たとえば、床面や固定物からの反射波は殆ど周期性が見られないが、呼吸活動によって発受信アンテナと被検者からの反射波の発受信アンテナ間の距離が変動するためその信号強度も変化する(シンチレーション)。本発明においては、急な呼吸変動に対応すべく、前記呼吸波形はウェーブレット変換によって波形解析を行う。
【0017】
上記のように本発明においては、距離情報からではなくて、受信した遅延プロファイル上の、被検者Pの呼吸による微小な動きに伴う受信信号強度変動(シンチレーション)から呼吸数を推定する。従って、遅延プロファイルの各距離に相当する位置の電力の変動を監視することによって、被検者Pの呼吸数や異常呼吸などを検出することができる。
【0018】
各遅延反射波(到達時間が異なる反射波)の信号強度は信号処理部8に入力され(ステップドFM波、FM−CW波の超広帯域無線波については、検波後、それぞれ逆FFT(fast Fourier transform)、FFTにより時間領域、周波数領域に変換される)、その時間変動から呼吸運動を推定する。図4に、遅延プロファイルの、各反射波毎の信号強度の(送信波の繰り返し周期Tの)時間変動を示す。図4において、Sは床面からの反射波であるため殆ど周期性が見られず(雑音による変動のみ)、固定反射面からの反射波であることが分かる。S乃至Sは呼吸運動によって周期的に変動しており、人体からの反射波であると判断され、その信号強度の時間的変化を測定する。
【0019】
本発明においては、従来のマイクロ波センサのようにドップラ効果の観測や測距によって人間の動きを検出するのではなくて、検波した遅延プロファイルの各遅延反射波の信号強度変動(シンチレーション)のみを用いている。従って、信号処理部8やA/D変換器7への負荷は小さく低コストの呼吸監視装置を提供できる。図5に、測定した呼吸波形を示す。図5に示す呼吸波形は、被検者Pが故意に呼吸を止めた区間が表示されている。図5には、従来の物理センサ(ワイヤセンサ)を体に取り付けて測定した実際の呼吸波形も併せて示した。
【0020】
信号処理部8では、呼吸波形の急な時間的変化に対応するために、ウェーブレット変換によって、周波数解析を行う。図6−1、図6−2に、ウェーブレット変換によって処理した周波数/呼吸数の時間変化(スカログラム)を示す。図6−1に、連続的な信号強度波形とその周波数/呼吸数の時間変化を、図6−2に、途中で呼吸を止めたときの信号強度波形とその周波数/呼吸数の時間変化を示す。ここで、呼吸を止めたときにも僅かな変動が見られるが、これは呼吸を止めても体が微妙に変動しているためである。
【0021】
本発明によれば、複数の被検者Pの呼吸運動を同時に監視することができる。図7に、同時に測定した二人の被検者Pの呼吸波形を示す。図8に、急な体位変化(仰向けからうつ伏せへ)に伴う信号強度波形を示す。図8から明らかなように、急な体位変化に対しても呼吸運動を正確に測定することができる。
また、必要に応じて複数の被検者Pの呼吸波形データや呼吸数を遠方の監視モニタへ無線で伝送し、呼吸異常の場合には自動警報装置を作動させることもできる。
【実施例1】
【0022】
図1に示す室内の天井付近(高さ:2.8m)の発受信アンテナ(Schwarzbeck:9120D)を設置し、ベクトルネットワークアナライザ(Agilent:8722ET)のタイムドメイン機能を利用して無線伝送路の遅延プロファイルを測定し、その結果をPCに転送し信号処理した。ここで、被検者Pのベッドとして金属フレームの折り畳みベッドを使用した。床面はフローリングである。
【0023】
検出に用いるUWBの周波数帯域幅(BW(band width))は7GHz(3GHz〜10GHz)で、レンジサイドローブ抑圧の観点から信号スペクトルに窓関数をかけており(サイドローブ比=−43dB)、その6dBパルス幅Δdは次式で与えられる。
【0024】
【数1】

【0025】
ここで、cは光速でありc=3×1010[cm/s]である。従って、BW=7GHzにおける分解能Δdは約8.4cmとなる。
【0026】
図5に、ベッド上で仰向けになっている被検者Pからの反射波信号強度変動(周期T=0.74msec)と、胸部に帯状のワイヤセンサを巻き付けて測定した被検者Pの呼吸に伴う物理的変動を示す。ここで、被検者Pは一定の時間呼吸を止めている。図5から明らかなように、被検者Pの着衣を透過して11回/分〜16回/分の信号強度変動(呼吸数)が見られる。また、比較的低周波の小さな変動が見られるが、これは体が微妙に動いたためである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例に係る呼吸監視システムを示す概略図
【図2】本発明の一実施例に係る呼吸監視装置の構成を示すブロック図
【図3】本発明の一実施例に係る呼吸監視システムによって得られた遅延プロファイルを示すグラフ
【図4】本発明の一実施例に係る呼吸監視システムによって得られた遅延プロファイルの、各反射波毎の信号強度の時間変動を示すグラフ
【図5】本発明の一実施例に係る呼吸監視システムによって得られた被検者Pの呼吸波形を示すグラフ
【図6−1】本発明の一実施例に係る呼吸監視システムにおける連続的な信号強度波形とその周波数/呼吸数の時間変化を示すグラフ
【図6−2】本発明の一実施例に係る呼吸監視システムにおいて、被検者Pが途中で呼吸を止めたときの信号強度波形とその周波数/呼吸数の時間変化を示すグラフ
【図7】本発明の一実施例に係る呼吸監視システムにおいて、同時に測定した二人の被検者P呼吸波形を示すグラフ
【図8】本発明の一実施例に係る呼吸監視システムにおいて、被検者Pの急な体位変化に伴う信号強度波形を示すグラフ
【符号の説明】
【0028】
1 発信部
2 長広帯域無線波発振器
3 発受信アンテナ
4 発受信切換器(ハイブリッド)
5 受信部
6 前置増幅器/検波器
7 A/D変換器
8 信号処理部
9 転送アンテナ
P 被検者
〜S 受信信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超広帯域無線波(UWB波)を被検者に向けて発信し、反射波の受信信号から前置増幅/検波器によって遅延プロファイルを得、該遅延プロファイルをA/D変換した後、信号処理部で反射波毎に信号強度の時間変動として観測し、被検者の呼吸数又は異常呼吸を検出するようにしたことを特徴とする呼吸監視方法。
【請求項2】
超広帯域無線波発振器と、超広帯域無線波送受信アンテナと、反射波の受信信号を増幅、検波し遅延プロファイルを得る前置増幅/検波器と、遅延プロファイル信号をデジタル化するA/D変換器と、A/D変換された遅延プロファイルから反射波毎に信号強度の時間変動を出力する信号処理部とを有することを特徴とする呼吸監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−60989(P2009−60989A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229600(P2007−229600)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】