説明

哺乳動物において中枢神経系(CNS)の障害を治療するための、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)阻害剤を使用した組成物および方法

本発明の方法および組成物は、中枢神経系(CNS)の病気およびその他の障害(例えばアルツハイマー病など)を予防および治療するために、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)阻害剤を用いる。ACE阻害剤は、CNSを標的とした送達によって、例えば鼻腔内送達によって投与される。本発明の方法および組成物は、経口または注射送達に付随する不利益、危険および副作用を起こすことなく、CNS組織または区画においてACE阻害剤の治療濃度を達成する。本発明の範囲内で使用するための典型的なACE阻害剤としては、ガランタミン、ならびに、ガランタミンの様々な塩および誘導体が挙げられる。本明細書で説明されているガランタミンのカルボン酸塩(例えば、ガランタミンのグルコン酸塩、ガランタミンの乳酸塩、ガランタミンのクエン酸塩、および、ガランタミンのグルカル酸塩)は、臭化水素酸ガランタミンのようなガランタミンのその他の形態と比較して、溶解性の顕著な増加を示す。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アセチルコリンエステラーゼ(ACE)阻害剤は、中枢神経系(CNS)の病気および障害を予防および治療するための薬物の重要なクラスを構成する。ACE阻害剤を用いる治療で治療可能な病気としては、特に、慢性、急性および再発性の形態の、哺乳動物における記憶障害、認知機能障害および痴呆に関連する神経学的状態、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン型痴呆、ハンチントン型痴呆、ピック型痴呆、CJ型痴呆、AIDS関連の痴呆、レヴィー小体痴呆、レット症候群、てんかん、脳の悪性病変または脳腫瘍、多発性硬化症に関連する認知障害、ダウン症候群、進行性核上麻痺、統合失調症、うつ、躁病の特定の形態、および、関連する精神医学的状態、トゥーレット症候群、注意欠陥障害、自閉症、失読症、脳血管発作の後遺症としての譫妄または痴呆の形態、または、頭蓋の出血、および、脳損傷が挙げられる。
【0002】
アルツハイマー病における病理学的変化は、皮質下の領域におけるコリン作動性ニューロンの変性、および、前脳基底部、特にマイネルト細胞核の基底から大脳皮質および海馬に伸びるニューロン経路の変性を伴う(RobertPH等.1999.“Cholinergic Hypothesis and Alzheimer’s Disease:The Place of Donepezil(Aricept)”,Encephale 5:23〜5、および、28〜9)。これらの経路は、記憶、注意力、学習およびその他の認知過程に複雑に関与していると考えられている。
【0003】
痴呆の初発徴候は、軽度の認知および記憶障害として現れる。これは、次第に、潜在的な状態(例えばアルツハイマー病)や突然の血管の塞栓または動脈瘤の出血に関する痴呆を引き起こす。進行型の痴呆は、攻撃的な行動、不合理な観念および妄想様観念、記憶喪失、嗅覚の喪失、および、多くの場合白内障に関連する。非脳血管性の痴呆は、常に、神経本体および神経鞘における特定のタンパク質の異常な沈着が関与する。アルツハイマー病において、異常なアミロイドタンパク質の沈着は、プラークと呼ばれる。その他の特有のタンパク質を含むプラークは、認知機能障害を伴うパーキンソン病、ハンチントン病、ピック病およびプリオン病に現れる。これらのプラークは、病理解剖で組織学的に同定することができる。また、痴呆において、細胞内にtauタンパク質の密なもつれも観察される。数種の遺伝子座における所定の対立遺伝子、最も顕著にはApoEe4対立遺伝子が、より高い遅発性の痴呆の発生に関与することが指摘されている。これらの病気の後期発症および早期発症の形態は、発病年齢で差がある;年齢65歳が、「早期」発症の境界と後期発病の病気との境界線とすることができる。
【0004】
脳血管性痴呆は、一般的に、いくつかある関連の状態のなかでも、多発性脳梗塞、脳内出血、卒中、または、ライム病の感染性の血管炎、および、紅斑性狼瘡の自己免疫による血管炎に起因する特有の症状(例えば歩行異常および失禁症)を伴って存在する可能性がある。
【0005】
痴呆および譫妄の全ての試験方法のなかでも、最も客観的な初期の指標は、認知力の試験である。ヒトで標準化された試験は、なかでもReyeの聴覚言語学習試験(Reye Auditory Verbal Learning Test)、ミニメンタルステート試験(MMSE)、Weschlerの論理的記憶試験(Weschler Logical Memory Test)、または、選択的思い出し試験)を用いて行ってもよい。また、認知の下位尺度も、アルツハイマー病評価の尺度(ADAS−cog)における主要な指標であり、それと同時に、短期記憶、場所と時間の見当識、注意持続時間、言語能力および習慣を評価する。ADAS−cog試験は、診断上用いられるが(スコアが高いと認知機能障害を示す)、治療の成功を評価するためにも用いてもよい。タクリン、ドネペジル、および、長時間作用型のリバスチグミンでの治療後にスコアが減少することがわかっている。
【0006】
ACE阻害剤は、CNSにおいて、コリン作動性機能を強化することによって、すなわち、コリンエステラーゼによるその酵素加水分解の可逆的な阻害によってアセチルコリン濃度を高めることによってそれらの治療効果を働かせると考えられている。この薬物治療学的なアプローチもまた、ニコチン離脱および睡眠時無呼吸、同様に、上述の痴呆および譫妄状態の治療において多少の価値がある。
【0007】
目下、市販の3種のACE阻害剤である薬物が、錠剤およびカプセルの形態で経口送達されている。経口送達の際に、薬物は消化管を下方に進み、十二指腸および回腸の毛細血管に吸収され、門脈に入り、続いて、標的の臓器である脳に達する前に肝臓に輸送される。遺憾ながら、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の経口送達は、数種の不利益を伴うに関連し、この不利益とは、特に、以下のようなものである:
(1)肝臓での初回通過代謝および排除、
(2)消化酵素と消化管の酸性pH状態による薬物の胃腸の破壊;
(3)劣った、かつ予測不可能な摂取および生物学的利用率(特に食品摂取の影響による);および、
(4)重篤な逆効果、例えば吐き気、嘔吐、軟便、下痢、食欲低下、さらに、重度の場合、回復不能な食道裂傷。
【0008】
PCT/US01/07027では、コリンエステラーゼの注射または局所的な適用の可能性が報告されており、さらに、ドネペジルの注射可能な投薬形態が説明されている。しかしながら、注射剤は、多くの筋肉量が低い患者には不適切であり、完全に機能的な免疫系が欠如している患者には本質的に危険であり、余分な費用、時間および訓練を必要とする。患者においてこれらの薬物の用量が1日4回までを要するとみなされた場合、注射による観血的な投与経路は、患者が入院しており中心静脈ラインが常に開いた状態でない限り望ましくない。
【0009】
ACE阻害剤送達のためのその他の選択肢としては、肺の粘膜を経由する吸入および吸収法が挙げられる。それに関連する送達方法が、PCT/US01/07027(「コリンエステラーゼ阻害剤を用いる新規の方法(Novel Methods Using Cholinesterase Inhibitors)」)に報告されている。この報告は、を開示している鼻または口を介した加圧スプレーまたは補助換気によって投与される場合、エアロゾルスプレーおよび微粉末にした固形投薬形態が肺に到達可能である。これらの吸入法の投薬形態は、注入器またはネブライザーに使用するための噴射剤を用いて製剤化される。しかしながら、肺胞の大きい表面領域に到達させるために、特殊な器具を必要とすることが多い。このような製剤は、粒度が直径10μm未満の極めて微細なミストまたは粉末が形成されるような噴射剤またはその他の手段を必要とする。次に、このようなミストまたは粉末は、挿管法を用いて、口または鼻を介して肺に投与される。可能性であれば、患者は、投与中に積極的に吸入するできるように訓練を受けなければならないか、または、喘息、慢性閉塞性肺疾患、肺気腫、または、加齢による肉体的な衰弱に苦しむ患者の場合、加圧された呼吸補助を必要とする場合がある。一般的に、これらの患者において、有効な投与を達成するには訓練を受けた専門家の補助が必要である。遺憾ながら、ミストまたは粉末を用いた投与の一貫性は解決が難しく、薬物の液状溶液(特に水溶液)は、吸入療法に適した密で沈降が遅いミクロエアロゾルを形成するのに必要な低い表面張力を有さないため、ほとんどの調査は高密度の粉末に向けられている。用いられた方法は、高齢の患者の自宅での投与に役立たせることは容易ではなく、さらに、特化した送達装置や投与経路に関するコストのために本質的に費用がかかる。定量吸入法は、最も複雑な市販の薬物送達システムの1つである。エアロゾル吸入による薬物送達に用いられる加圧装置に関するより多くの情報は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,第19版.第95章の「Aerosols」に示されており、薬物送達のための吸入経路の説明的な定義は、第41章の、Absorption of Drugs:Inhalation Routeの項目の下の「Drug Absorption,Action and Disposition」に示されている。
【0010】
脳障害の治療において、薬物を鼻腔内に送達する試み、すなわち吸入法のための製剤または装置を必要としない送達の様々な試みがなされてきた。例えば、US−B−6,180,603は、神経細胞体および膜におけるニューロン間の輸送を介した内因性タンパク質、ペプチドおよび複合脂質(これらは全て脳で生産される)の自己のカウンターパートである治療剤を能動的に軸索内送達する方法を開示している。この報告は、インスリン、インスリン様成長因子、神経成長因子、ガングリオシド、ホスファチジルセリン、脳由来神経栄養因子、線維芽細胞増殖因子、グリア細胞由来のネキシン、毛様体神経栄養因子、および、嗅神経の軸索を介したコリン作動性の増強因子の輸送を開示している。しかしながら、このような天然に存在しない外因性の薬物(例えば、合成複素環式アミン、置換ピペリジンおよび置換フェノールなどが挙げられ、さらに、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤を包含し、具体的には外因性の非天然型のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤である)のメカニズムによる有用な鼻腔内送達の開示または教示はまったくない。ACE阻害剤などの薬物の傍細胞および細胞間の摂取を高めるのに有用な賦形剤の開示は、なされていない。
【発明の開示】
【0011】
上記を考慮して、当業界において、より有効にACE阻害剤を送達して、CNS疾患および障害を予防および治療する改善されたツールおよび方法の重要な必要性がある。このようなツールおよび方法は、経口送達に付随する毒性と低い生物学的利用率、および、注射や吸入療法による投与の費用、訓練および困難さを回避できると予想される。
【0012】
発明の要約
本発明は、哺乳動物において、中枢神経系(CNS)の病気または状態を治療および/または予防するための、1種またはそれ以上のアセチルコリンエステラーゼ(ACE)阻害剤を用いる新規の医薬組成物および治療方法を提供することによって、これら新規の要求を満たし、追加の目的と利点を満たす。これらの目的のための典型的な本発明の医薬組成物は、少なくとも1種のACE阻害剤、および、経粘膜の薬物取り込みを容易にするための少なくとも1種の透過促進剤を含む、経鼻投与のための液体またはゲル溶液または粉末製剤を含んでいてもよい。
【0013】
本発明の方法および組成物を用いた治療で治療可能な病気、としては、例えば、アルツハイマー病、および、哺乳動物の被検体における認知機能障害に関連するその他の神経学的状態が挙げられる。
【0014】
本発明の典型的な製剤および方法の範囲内において、有効なACE阻害剤は、既知のACE阻害剤、または、新規のACE阻害剤候補から選択され、例えば、これらに限定されないが、典型的なACE阻害剤のドネペジル、タクリン、リバスチグミン、ガランタミン、および、それらの製薬上許容できる塩および誘導体が挙げられる。典型的には、ACE阻害剤は、天然型の神経生物学的な分子を実質的に含まない。
【0015】
その他の実施形態において、治療が必要な哺乳動物にACE阻害剤を治療的に投与することによって、CNS疾患または状態を治療または予防する方法が提供され、本方法は、一般的に、経鼻投与のための少なくとも1種のACE阻害剤を含む液体またはゲル溶液または粉末製剤を含む医薬組成物を投与すること、および、経粘膜の薬物取り込みを促進する少なくとも1種の透過促進剤を協調的に投与すること、を含む。これらの方法において、ACE阻害剤と透過促進剤とは、同時に(例えば単一製剤中で)、連続的に、または、別々に投与してもよい。より詳細な実施形態において、ACE阻害剤と透過促進剤とは、鼻腔内投与される。
【0016】
その他の詳細な実施形態において、透過促進剤は、低分子のACE阻害剤などの低分子の薬物の粘膜の上皮バリアを通過する送達を容易にする透過促進ペプチド剤である。
その他の実施形態において、本発明は、新規のACE阻害剤の塩の形態(例えば新規のガランタミンの塩の形態など)を含む方法および組成物を提供する。典型的な観点において、新規のガランタミンのカルボン酸塩が提供され、このガランタミンのカルボン酸塩は、ガランタミンのその他の形態に比べて改善された溶解性の特徴を有しており、哺乳動物におけるCNS障害を治療するための、ガランタミンの鼻腔内送達に有用な製剤および方法を提供する。
【0017】
その他の実施形態において、本発明は、前記組成物と共に使用するための装置、好ましくは鼻用ディスペンザーまたはポンプ(場合により、複数回投与用の装置でもよい)を投与することに向けられる。さらなる実施形態において、本発明は、子供が操作できない、販売および分配に適したパッケージ中の、本発明の医薬組成物を含む製造物品に向けられる。
【0018】
本発明の典型的な実施形態の説明
本発明は、アセチルコリンエステラーゼ(ACE)阻害剤の中枢神経系(CNS)への改善された送達のための方法および組成物を提供する。典型的な実施形態において、本発明は、傍細胞の鼻腔内送達によって、哺乳動物の被検体におけるCNS疾患および状態を予防および治療するためのACE阻害剤送達を目的とする。哺乳動物の鼻腔の密な血管網は、ACE阻害剤のための血流への直接の経路を提供する。血流へ直接吸収されるため、胃腸の破壊や肝臓の初回通過代謝の問題は、回避され、それによって、経口送達に比べてACE阻害剤薬物の生物学的利用率が改善される。従って、本発明の方法および組成物は、その他の送達様式と比べて、それらと同じ付随する不利益や副作用を起こすことなく、高い生物学的利用率、および、CNSにおける最大濃度を提供する。
【0019】
ACE阻害剤、および、少なくとも1種の透過促進剤を含む本発明の医薬組成物は、本明細書で開示された鼻腔内投与方法を介して、有効量で送達することができる。これらの陽イオン性の薬物は体内では非天然型であり、さらに、脳またはあらゆる臓器(代謝および排出に関する肝臓以外に)への選択的なACE阻害剤送達の先の開示がないにも関わらず、本発明の組成物および方法は、CNSへの有効なACE阻害剤の鼻腔内送達を起こす。典型的な実施形態において、ACE阻害剤は、鼻腔内送達され、それらの摂取は、実質的に傍細胞でなされる。本方法および組成物による送達の促進は、少なくとも部分的に傍細胞でなさるため、これら薬物は、脳全体に分配されるように迅速に髄液(CSF)および血液に入る。
【0020】
本発明の医薬組成物は、鼻から肺への経路でのACE阻害剤の輸送を最小化する。当業界周知の通り、ACE阻害剤は、ブチルコリンエステラーゼ阻害剤と多少の交叉反応性を有する。ブチルコリンエステラーゼは構造的に関連する酵素ファミリーであるが、極めて異なる生物学的機能を有する。アセチルコリンエステラーゼの阻害は、シナプスにおいてアセチルコリンの有益な蓄積を起こすことができるのに対して、ブチルコリンエステラーゼの阻害は、特に阻害剤が肺に入った場合に、呼吸不全を起こす可能性がある。この毒性が、広く知られているブチルコリンエステラーゼ阻害剤を毒物や防虫剤として使用する根拠となっている。
【0021】
本発明のより詳細な実施形態において、CNS疾患を治療するためのACE阻害剤の経鼻投与を用いる方法および組成物は、上記製剤の鼻甲介と中咽頭への接触が制限されるように特別に設計される。鼻腔内の溶液について、スプレーの液体粒子サイズは、スプレーの液滴が即座に鼻粘膜に落ちて、エアロゾルとして肺に入らないように、約20μより大きく、100μm以下である。場合によっては多少の液滴が逃れて中咽頭に入る可能性があるが、薬物がエアロゾルの形態で肺に入ることはわずかか、または皆無と予想される。場合により、1種またはそれ以上のACE阻害剤を含むゲル製剤が、例えばポンプまたは絞り出し装置を用いて鼻粘膜に塗布され、これらの方法もまた、実質的な量のACE阻害剤が肺に入らないようにする。また、鼻粘膜に標的化した送達は、用量の体積を、例えば鼻孔あたり約1.0ml未満に制限することを含んでもよく、さらに、具体的な実施形態において、鼻孔あたり約0.2ml未満もしくはそれに等しく、または、鼻孔あたり約0.1ml未満もしくはそれに等しく制限することを含んでもよい。本発明の経鼻製剤は、経口または肺へのACE阻害剤送達に関連する可能性がある毒物中毒またはその他の副作用を起こさない。
【0022】
具体的な実施形態において、ACE阻害剤は、哺乳動物に、約0.1mg〜約100mg/用量で、6回用量/日まで、より選択的には約1〜50mg/用量、最も選択的には1.5〜12mg/用量の有効量で投与される。用量は、好ましくは1回/日で与えられるが、4回/日またはそれ以上も容認できる。投与は、耐性を獲得するために、次第に増加させなければならない場合もある。用量の計画は、症状の程度と重症度、体重、腎不全または硬変症があるかないか、および、担当医または獣医師によって評価することができるその他のファクターに依存すべきであり、広く様々であってよい。
【0023】
その他の詳細な実施形態において、本発明の医薬組成物および送達方法は、標的化したCNS送達を提供する。例えば、様々な実施形態において、投与後の被検体のCNS組織または流体におけるACE阻害剤のピーク濃度は、同じ被検体の、薬物が投与された後の同じタイムポイントの血漿におけるACE阻害剤の血漿濃度より、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、または、40%大きい。
【0024】
本明細書で用いられる以下の定義を、ここで請求項および明細書を解釈するための補助として示す。著書が参照により引用されており、そこに含まれる定義が、本明細書で示される定義と一致する場合、そこで用いられる定義は、引用された著書のみに適用されるものとし、この開示に適用はされないものとする。
【0025】
「哺乳動物」は、乳腺で分泌された乳を子供に与え、通常、程度の差はあるが毛髪で覆われた皮膚を有する、温血のより高次の脊椎動物のいずれかのクラスを含むものとし、例えば、これらに限定されないが、ヒトおよびヒト以外の霊長類、それらの子供、例えば雄雌の両方の新生児および若年者、家畜、例えばウマ、ウシ、ヒツジ、および、ヤギ、および、研究用および家庭用種、例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモットおよびウサギが挙げられる。本明細書において、「患者」または「被検体」は、「哺乳動物」と同義的に用いられる。
【0026】
「痴呆」は、自覚している意識における明確さが損なわれた、または、自覚している意識がない状態の、知性の機能の広範囲の荒廃を意味するものとし、損なわれた短期記憶、損なわれた判断、損なわれた合理的な知性、および/または、場所または時間に関する見当識障害のうち、1またはそれ以上の症状を特徴とする。痴呆は、典型的には器質性脳疾患を伴うような場合、「回復不能」とみなされている。痴呆は常に、独立した生活様式を送る上での能力障害が付随する。痴呆の症状は、認知機能障害の症状を包含するが、それよりも悪い。
【0027】
「認知機能障害」は、独立した生活様式を維持する個人の能力を弱める、記憶、問題解決、理論的な推理力および見当識の障害である。軽度認知機能障害は、アルツハイマー病のレベルに達することはなく、加齢において珍しいことではない。顕著な特徴は、記憶障害であり、日常的な作業の遂行において錯乱が生じる。
【0028】
「鼻腔内送達」は、主として鼻腔粘膜を介する薬物送達を意味するものとする。これには、上鼻甲介、中鼻甲介および下鼻甲介ならびに咽頭鼻部が含まれる。ここで留意すべきは、嗅部は、鼻甲介の上部(上の1/3)に集中していることである。鼻前庭に堆積した材料が喉に入る前に鼻粘膜に接触するように、毛様体の作用により材料が中咽頭に押し戻される。
【0029】
「アセチルコリンエステラーゼ阻害剤」は、アセチルコリンエステラーゼによってアセチルコリンの加水分解が可逆的に阻害されてアセチルコリン濃度を増加させる、外因性の、または、天然に存在する化合物を意味するものとする。
【0030】
「天然型の神経生物学的な分子」は、哺乳動物によって遺伝学的にコードされるか、または、哺乳動物の正常な代謝で形成されるあらゆる細胞性または体液性のシグナル分子を意味し、これらは、正常な哺乳動物の脳またはCSFで見出される。一例として、天然型の神経生物学的な分子としては、ガングリオシド、ホスファチジルセリン、脳由来の神経向性因子、線維芽細胞増殖因子、インスリン、インスリン様成長因子、毛様体神経向性因子、グリア細胞由来のネキシン、コリン作動性の増強因子、ホスホエタノールアミン、および、甲状腺ホルモンT3が挙げられる。ホスファチジルセリンのような脂質が、これらの分子に特異的な小胞輸送メカニズムの成分であると考えられている。それに対して、本発明の範囲内で使用するためのACE阻害剤は、典型的には、合成の天然に存在しない化学物質(本明細書においては「外因性分子」または「外因性ACE阻害剤」と称される)から選択される。
【0031】
本明細書において「外因性の」は、哺乳動物の生合成経路の天然産物として天然に存在しない、人類の化学分野および技術によるあらゆる合成生成物を意味する。
「天然に存在する」は、植物または動物源(油性の鉱床や石油鉱床を含む)から抽出または誘導体化された生体分子を意味する。
【0032】
「吸入経路」:Remingtonで説明されているように、吸入法は、例えばほとんどの全身麻酔剤と共に、ガス状物質または揮発性物質を体循環に送達するのに用いることができる。肺胞および血管上皮の膜は高い透過性を有しており、血流が豊富であり、さらに吸収のための極めて大きい表面領域を有しているため、吸収は、薬物を肺の肺胞に送達される速度と実質的に同様に迅速である。また不揮発性物質のエアロゾルも吸入法で投与が可能であるが、これらの経路は、一貫性がなく達成し難い血液レベルの一因となる様々な因子のために、体循環へ送達するためにはまれにしか用いられない。エアロゾルが到達し、肺の肺胞で保持されるかどうか否かは、決定的には粒度に依存する。直径が1μmより大きい粒子は、細気管支および気管支に留まる傾向があるが、それに対して、0.5μmの粒子は留まることができず、大部分が吐き出される。Remingtonにおける、MR Franklinの“Drug Absorption,Action and Disposition”:The Science and Practice of Pharmacy.第19版.711〜12頁。
【0033】
「鼻の経路」:薬物は、鼻甲介の内側にある鼻粘膜に直接塗布して鼻腔内投与してもよい。この粘膜は、血管が十分に発達していて、かつ弱体化されており、さらに、鼻孔から、中咽頭の上方境界と洞の通路の下方境界に伸びている。鼻粘膜に塗布された薬物は、傍細胞の拡散(受動的)、または、細胞間の拡散(受動拡散もしくは促進拡散、または、能動輸送)のいずれかによって経粘膜で透過する。受動拡散は、最も都合のよい形態として、サイズが1キロダルトン未満の分子で用いられるが、場合によっては、あらゆる実質的な摂取の最大値として5キロダルトン以下でもよい。しかしながら、経鼻投与経路による摂取は、それほど限定的ではない。ここ数年、数百キロダルトン以下のペプチドおよびタンパク質の鼻の摂取が実証されてきた。粘膜バリアを超えた薬物は、初回通過で肝臓を迂回して、鼻の毛細血管、さらに全身循環に入る。また、薬物は、嗅神経または三叉神経束に入り、CNSにも軸索内輸送される可能性があると考えられている。さらに、薬物はまた、クモ膜下叢によって髄液(CSF)に放散する可能性があり、さらに、CSFの流れで脳および脊髄のその他の部分に輸送される、と推測される。従って、経鼻投与経路は、複数の経路とCNSを標的とする薬物への特殊な関連性を有する。
【0034】
「製薬上許容できる」は、ヒトまたは哺乳動物に指定された投与経路で投与した場合、本化合物の投与によって得られた利益に対して容認し難い程不相応な副作用を起こさない組成物を意味する。このような治療剤が副作用の原因になる可能性があるが、必要に応じて、その他の賦形剤で置き換えることによって、この毒性が調節されることもある。
【0035】
「送達システム」は、選択された投与経路によって計られた用量または十分な量の薬物を送達するために用いられる製薬上許容できる製剤(装置と共に、または、装置を伴わず)を作製するために用いられる賦形剤の組み合わせを意味する。
【0036】
「透過促進剤」は、総体的な送達、用量の一貫性および/または製薬的な承認を促進する、薬物の鼻腔内投与のための組成物中の賦形剤を意味する。促進を評価する方法は、定量的であり、本明細書に記載の実施例で定義される。薬物分子そのもの作用と、賦形剤と共に製剤化され、投与された同じ質量の薬物分子の作用とを比較するために、機能的なインビトロでの細胞ベースの試験および方法が用いられる。「促進」は、総合的な生物学的利用率、正味の摂取、摂取と投与の一貫性、薬物代謝、投与の際の分解、薬剤の活性部位への標的化、粘膜の刺激性、および、総体的な安全性と毒性の1またはそれ以上の値または状態を網羅する複数の異なる値の提案(proposition)であり得る。
【0037】
「約」は、言及されている額面上の値のプラスまたはマイナス10%または20%の近似値を意味する相対的な用語である。この開示の対象である薬理学および臨床医学ならびに類似の技術の分野に関して、この近似値のレベルは、その値が臨界的であるか、または、より狭い範囲を必要とすることが具体的に述べられていない限り、適切である。
【0038】
「実質的に含まない」は、本発明の組成物中の特定の活性成分のレベルが、組成物中の活性成分の総重量に基づき、20重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、および、最も好ましくは1重量%未満で構成されていることを意味する。
【0039】
「分解生成物」は、貯蔵、溶解中に、または、安定性試験の際に、熱、光、共溶質および溶媒からのストレスのもとで、インビトロで生じる化学反応の生成物を意味し、一般的には医薬物質を意味し、代謝産物と対照的である。
【0040】
「代謝産物」は、インビボで生じる化学反応または酵素反応の生成物を意味し、一般的には医薬物質を意味し、分解生成物と対照的である。
「鼻粘膜」は、血管が発達しており、中咽頭と洞の境界に向かって内面に広がっている、鼻腔の裏の層を意味する。これは、上鼻甲介、中鼻甲介および下鼻甲介を含む。ヒトにおいて非嗅覚上皮の多くが存在するのは、後者の2つである。
【0041】
「液体」は、溶液または液状製剤を意味する。ここで留意すべきは、全ての液体が必ずしも水性というわけではないことであり、液体の挙動は、往々にして温度依存性である。
「水性」は、水中で形成された溶液を意味するが、であり得るは、少量のその他の共溶媒を含んでいてもよい。ここで留意すべきは、全ての水溶液が必ずしも液体というわけではないということである。
【0042】
「ゲル」は、薬物送達の媒体として用いられる水性またはそれ以外の増粘した溶液を意味し、鼻腔内に与えられる際にはスプレーまたは軟膏として投与することができる。
「短鎖」は、C12またはそれ未満の炭素の長さを意味し、ここで、この鎖は、脂肪族でもよいし、または分岐状でもよい。
【0043】
「安定性」または「貯蔵中の安定性」は、濃度、分解、粘度、pHまたは粒度のような商業的に適切な貯蔵の時間間隔および条件の関数としてのパラメーターで測定されたあらゆる組成変化を意味し、これらが、商業的な貯蔵寿命に関して時間間隔にわたり10%より大きいと、不安定であることを意味する。10%未満またはそれに等しい変化であれば、安定であることを意味する。安定性が測定される期間は、本組成物の目的とする商業的な分配および貯蔵条件に応じて相対的である。より高い温度での「促進安定性試験」が、より長い期間にわたる安定性を推定するより迅速な方法として採用されることもある。例えば、制御された室温で1年にわたり安定性を予測するには、40℃で4ヶ月の研究が用いられる。
【0044】
ここでは、薬物取り込みおよび輸送の3種の一般的な様式を検討する:
「傍細胞(paracellular)」は、その伝統的な意味で、例えば鼻粘膜における上皮の細胞間の分子の輸送を示すのに用いられる。マンニトールが参照透過物質として用いられ、輸送は受動的であり、細胞間結合における分子サイズと水路のサイズに依存する。この直径は、密着結合を弱めるか、または、水路を拡張する促進剤での膜処理に依存する。
【0045】
「細胞間(transcellular)」は、上皮でのその他の摂取形態を示すのに用いられ、これは、受動的、促進拡散または能動的のいずれでもよい。その種類としては、上皮細胞膜における脂質の薬物の頂端面から側底面への拡散、それに続くサイトゾルへの交換またはブレビング(blebbing)による薬物の逸散が挙げられる。その種類は、非特異的なエンドサイトーシス、および、小胞輸送も含み得る。
【0046】
「軸索内(transaxonal)」は、神経軸索内のチューブリン介在能動輸送に関する、天然型のシグナル伝達分子(本明細書では神経生物学的な分子と定義される)の特異的な摂取を意味する。この輸送は、典型的には小胞によるものであり、受容体介在エンドサイトーシスに依存すると考えられている。最初にMaitaniによってウサギ鼻粘膜で実証された現象は、サイトカイン、ホルモン、および、この経路を介して輸送のために形成された小胞を構成する特殊な脂質成分に特化している。
【0047】
本発明の方法は、哺乳動物のCNSに少なくとも1種のACE阻害剤を提供し、典型的には、鼻腔内送達を介してACE阻害剤を哺乳動物の鼻腔に塗布することである。本明細書における典型的な治療製剤は:
a.少なくとも1種のACE阻害剤を含む液体またはゲル溶液(好ましくは水溶液)、または、粉末製剤;および、
b.少なくとも1種の透過促進剤、
を含むと予想される。
【0048】
鼻腔内送達を含む本発明の方法は、送達経路が消化管、肝臓および肺を迂回するため、CNSに対するACE阻害剤の生物学的利用率を改善する。
CNS疾患および障害を予防および/または治療するのに有用な、本発明の典型的な医薬組成物は:
a.少なくとも1種のACE阻害剤の液体またはゲル溶液、好ましくは水溶液;および、
b.少なくとも1種の透過促進剤;
を含み、ここにおいて、本医薬組成物は、鼻腔内送達に適している。
【0049】
本発明の方法および組成物は、CNS疾患および障害を予防および/または治療するのに適しており、このようなCNS疾患および障害としては、例えば、いくつかあるACE阻害剤で治療可能なCNS疾患および状態のなかでも、慢性、急性および再発性の形態の、哺乳動物における記憶障害および認知機能障害に関連する神経学的状態、例えばパーキンソン型痴呆、ハンチントン型痴呆、ピック型痴呆、CJ型痴呆、AIDS関連の痴呆、レヴィー小体痴呆、レット症候群、てんかん、脳の悪性病変または脳腫瘍、多発性硬化症に関連する認知障害、ダウン症候群、進行性核上麻痺、統合失調症、うつ、躁病の所定の形態、および、関連する精神医学的状態、トゥーレット症候群、重症筋無力症、注意欠陥障害、自閉症、失読症、脳血管発作の後遺症としての譫妄または痴呆の形態、または、頭蓋の出血、および、脳損傷、ならびに、ニコチン離脱が挙げられる。
【0050】
本発明の組成物および方法で使用するための典型的なACE阻害剤としては、外因性化合物、例えばドネペジル、6−O−デスメチルドネペジル、タクリン、リバスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、フィソスチグミン、イピダクリン、スタコフィリン、ガランタミン、ガランタミン類似体、リコラミン(lycoramine)、リコラミン類似体、フィソスチグミン、アンベノニウム、デメカリウム、エプロフォニウム(eprophonium)、メトリホネート、セレジン(selegine)、メトリホネート、3−[1−(フェニルメチル)ピペリジン−4−イル]−1−(2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1−ベンズアゼピン−8−イル)−1−プロパン、5,7−ジヒドロ−3−[2−(1−(フェニルメチル)−4−ピペリジニル)エチル]−6H−ピロロ−[4,5−f]−1,2−ベンゾイソオキサゾール−6−オン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ピロロインドール誘導体のテトラヒドロイソキノリニルカルバメートが挙げられる。
【0051】
加えて、全ての前述の典型的なACE阻害剤の製薬上許容できる塩および誘導体が、本明細書で示された方法および製剤において有用であると考慮される。製薬上許容できる塩としては、無機酸塩、有機アミン塩、有機酸塩、アルカリ土類金属塩、および、それらの混合物が挙げられる。製薬上許容できる塩の適切な例としては、これらに限定されないが、ハロゲン化物、グルコサミン、アルキルグルコサミン、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、臭化水素酸塩、N,N’−ジベンジルエチレン−ジアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、ジシクロヘキシルアミン、リン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、安息香酸塩、酢酸塩、サリチル酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メシル酸塩、グルコン酸塩、トシル酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ステアリン酸塩、および、それらの混合物が挙げられる。
【0052】
所定の好ましい実施形態において、本発明の組成物および方法は、COX−2阻害剤、ヒューペルジン(セレジン)、または、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンをさらに含んでもよい。
【0053】
ACE阻害剤と組み合わせて、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの賦形剤を含むことが多いと予想される。経鼻製剤に関する製薬技術の信頼すべき総論は、BehlおよびChienによって示されている(Behl,CR等.1998.“Effects of physicochemical properties and other factors on systemic nasal drug delivery”,Adv Drug Del Rev 29:89〜116;BehlCR等.1998.”Optimization of systemic nasal drug delivery with pharmaceutical excipients”,Adv Drug Del Rev 29:117〜133、および、Chien,YW.1992.第2版.Novel Drug Delivery Systems,マルセル・デッカー(Marcel Dekker),NY)。
【0054】
また、本発明の医薬組成物は、典型的には、少なくとも1種の透過促進剤も含むと予想される。本明細書で用いられる「透過促進剤」としては、放出または溶解性(例えば、製剤を送達する媒体からの)、拡散速度、生物学的利用率、浸透能力および/またはタイミング、摂取、滞留時間、安定性、実効半減期、ピーク、または、持続的な濃度レベル、排除、刺激性の減少、快適性、生物学的な耐性、および、その他の望ましいACE阻害剤の鼻腔内への送達の特徴(例えば、送達の部位、または、CNSにおいて選択された活性の標的部位で測定された)を促進する物質が挙げられる。従って、鼻腔内送達の促進は、多種多様なメカニズムのいずれかによって起こすことができ、例えば、ACE阻害剤の拡散、輸送、持久性または安定性を高めること、上皮における膜流動性を高めること、粘液分泌の流動性を高めること、細胞内または傍細胞での透過を調節するカルシウムおよびその他のイオンの利用可能性または作用を調節すること、粘膜の膜成分(例えば脂質)を可溶化すること、鼻粘膜層における非タンパク質およびタンパク質スルフヒドリルレベルを変化させること、鼻粘膜表面をわたる水分流動を高めること、上皮細胞間結合の生理学を調節すること、鼻の粘膜毛様体の排除速度を減少させること、および、その他のメカニズムによって起こすことができる。
【0055】
本発明の範囲内での方法および組成物で使用するための適切な透過促進剤は、一般的に、1またはそれ以上の以下のものから選択されると予想される:
a.凝集阻害剤;
b.電荷を改変する物質;
c.pH制御またはpH緩衝系;
d.酸化還元制御または酸化還元「緩衝」系;
e.分解酵素阻害剤;
f.粘液溶解剤または粘液除去剤;
g.線毛制止剤(ciliostatic agent);
h.以下からなる群より選択される吸収促進剤または系:
(i)界面活性剤;
(ii)胆汁酸塩;
(iii)リン脂質添加剤、混合ミセル、リポソーム、または、キャリアー系;
(iv)アルコール;
(v)エナミン;
(vi)酸化窒素供与化合物;
(vii)長鎖両親媒性分子;
(viii)低分子量の疎水性摂取促進剤;
(ix)ナトリウムまたはサリチル酸誘導体;
(x)アセト酢酸のグリセロールエステル;
(xi)シクロデキストリンまたはβ−シクロデキストリン誘導体;
(xii)中鎖または短鎖脂肪酸;
(xiii)キレート剤;
(xiv)アミノ酸またはそれらの塩;
(xv)N−アセチルアミノ酸またはそれらの塩;
(xvi)選択された膜成分への酵素分解物質;
(xvii)脂肪酸合成の阻害剤;および、
(xvii)コレステロール合成の阻害剤;
(i)上皮細胞間結合の生理学の調節剤;
(j)血管拡張薬;
(k)安定化させる送達媒体、キャリアー、支持体、または、複合体を形成する種(これらを用いて、アセチルACE阻害剤が有効に混合、連結、包含、カプセル封入または結合され、鼻腔内送達が促進されるように前記ACE阻害剤が複合体化または安定化される);
(l)潤滑剤またはその他の抗刺激物;および、
(m)透過性ペプチド剤。
【0056】
凝集阻害剤としては、なかでも、界面活性剤、塩、例えばNaCl、KCl、および、糖類、特に、粒子の接近を制限する、または、その他の方法で凝集する可能性がある電荷を有する成分間のゼータ電位を減少させるポロキサマーが挙げられる。
【0057】
pH調節は、典型的には、TACグレードの試薬のNaOHまたはHClを用いて達成される。緩衝能力が要求される場合、望ましいpH付近のpKを有する緩衝系が選択される。局所薬に十分に容認された緩衝系としては、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩(4および7で)、イミダゾール、ヒスチジン、グリシン、酒石酸塩、および、TEAが挙げられる。pH調節および塩形成のための酸としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸酸、硫酸、炭酸、硝酸、ホウ酸、リン酸、酢酸、アクリル酸、アジピン酸、アルギン酸、アルカンスルホン酸、アミノ酸、アスコルビン酸、安息香酸、ホウ酸、酪酸、炭酸、クエン酸、脂肪酸、ギ酸、フマル酸、グルコン酸、ヒドロキノスルホン酸、イソアスコルビン酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、パラ−ブロモフェニルスルホン酸、プロピオン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、タンニン酸、酒石酸、チオグリコール酸、トルエンスルホン酸、尿酸、および、それらの混合物が挙げられる。pH調節および塩形成のための塩基としては、塩基性アミノ酸、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、マグネシウム水酸化物、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ハイドロタルサイト、水酸化マグネシウムアルミニウム、ジイソプロピルエチルアミン、エタノールアミン、エチレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、および、トリイソプロパノールアミンが挙げられる。
【0058】
酸化還元制御および酸化還元「緩衝」物質としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート、トコフェロール、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタおよび混合トコフェロールのいずれか、および、それに対応するトコトリエノールが挙げられる。
【0059】
分解酵素阻害剤としては、PMSF、アマスタチン、ベスタチン、トリプシン阻害剤、メシル酸カモスタット、および、ボロロイシン(boroleucine)が挙げられる。また、P−アミノベンズアミジン、FK−448、メシル酸カモスタット、グリココール酸ナトリウム、アミノ酸、修飾されたアミノ酸、ペプチド、修飾されたペプチド、ポリペプチドプロテアーゼ阻害剤、錯化剤、粘膜付着性ポリマー、ポリマー−阻害剤結合体、または、それらの混合物、アミノボロン酸誘導体、n−アセチルシステイン、バシトラシン、ホスフィン酸ジペプチド誘導体、ペプスタチン、アンチパイン、ロイペプチン、キモスタチン、エラスタチン(elastatin)、ベスタチン、ホスホラミドン(hosphoramindon)、ピューロマイシン、サイトカラシンポテトカルボキシ(potatocarboxy)ペプチダーゼ阻害剤、アマスタチン、プロチニン(protinin)、ボウマン−ブリック(Bowman−Birk)阻害剤、ダイズトリプシンインヒビター、ニワトリ卵白トリプシン阻害剤、ニワトリオボインヒビター、ヒト膵臓のトリプシン阻害剤、EDTA、EGTA、1,10−フェナントロリン、ヒドロキシキノリン、ポリアクリレート誘導体、キトサン、セルロース誘導体、キトサン−EDTA、キトサン−EDTA−アンチパイン、ポリアクリル酸−バシトラシン、カルボキシメチルセルロース−ペプスタチン、ポリアクリル酸−ボウマン−ブリック(Bowman−Birk)阻害剤、および、それらの混合物も、酵素阻害剤として考慮される。(Bernkop−Schnurch,“The use of inhibitory agents to overcome the enzymatic barrier to perorally administered therapeutic peptides and proteins”,Journal of Controlled Release,52:1〜16を参照)。
【0060】
線毛制止剤としては、保存剤、例えば塩化ベンザルコニウム、EDTA、および、界面活性剤、例えば胆汁酸塩、ベタイン、および、第四アンモニウム塩が挙げられる。
粘液溶解剤としては、ジチオスレイトール、システイン、メチオニン、スレオニン、s−アデノシル−メチオニンが挙げられる。
【0061】
吸収促進剤は、胆汁酸、胆汁酸塩、イオン性、非イオン性、両性イオン性、陰イオン性、陽イオン性、双性(gemini pair)界面活性剤、リン脂質、アルコール、グリチルレチン酸、および、その誘導体、エナミン、サリチル酸、および、サリチル酸ナトリウム、アセト酢酸グリセロールエステル、ジメチルスルホキシド、n−メチルピロリニジノン(methylpyrrolinidinone)、シクロデキストリン、中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸、短鎖および中鎖ジグリセリド、短鎖および中鎖モノグリセリド、短鎖トリグリセリド、カルシウムキレート化剤、アミノ酸、陽イオン性アミノ酸、ホモポリマーペプチド、陽イオン性ペプチド、n−アセチルアミノ酸、および、それらの塩、分解酵素、脂肪酸合成阻害剤、コレステロール合成阻害剤からなる群より選択される。
【0062】
吸収促進剤は、最適な候補が決定されるようにケースバイケースの原則に基づきスクリーニングされる。様々なモデルが研究されており、例えばLeCluyseおよびSuttonのモデルである(1997. “In vitro models for selection of development candidates.Permeability studies to define mechanisms of absorption enhancement”Advanced Drug Delivery Reviews,23:163〜183)。EpiAirwayモデルを用いたインビトロでの方法が、有用であることが証明されている。
【0063】
吸収促進剤としては、有用な界面活性剤特性を有するPEG−脂肪酸エステルが挙げられる。PEG−脂肪酸モノエステル類のなかでも、ラウリン酸、オレイン酸およびステアリン酸のエステルが特に有用である。界面活性剤としては、PEG−8ラウリン酸塩、PEG−8オレイン酸塩、PEG−8ステアリン酸塩、PEG−9オレイン酸塩、PEG−10ラウリン酸塩、PEG−10オレイン酸塩、PEG−12ラウリン酸塩、PEG−12オレイン酸塩、PEG−15オレイン酸塩、PEG−20ラウリン酸塩、および、PEG−20オレイン酸塩が挙げられる。また、ポリエチレングリコール(PEG)脂肪酸ジエステル類も、鼻用製剤における界面活性剤としての使用に適している。親水性界面活性剤としては、PEG−20ジラウラート、PEG−20ジオレイン酸塩、PEG−20ジステアリン酸塩、PEG−32ジラウラート、および、PEG−32ジオレイン酸塩が挙げられる。一般的に、界面活性剤の混合物もまた、本発明において有用であり、例えば、2種またはそれ以上の市販の界面活性剤製品の混合物が挙げられる。数種のPEG−脂肪酸エステルは、混合物、または、モノ−およびジエステルとして市販されている。適切なPEGグリセロール脂肪酸エステルは、PEG−20ラウリン酸グリセリル、PEG−30ラウリン酸グリセリル、PEG−40ラウリン酸グリセリル、PEG−20オレイン酸グリセリル、および、PEG−30オレイン酸グリセリルである。
【0064】
アルコールまたは多価アルコールと多種多様な天然油および/または硬化油との反応により、疎水性または親水性の程度が異なる多数の界面活性剤が生成する。一般的に、用いられる油は、ヒマシ油もしくは硬化ヒマシ油、または、食用植物油、例えばトウモロコシ油、オリーブ油、落花生油、パーム核油、杏仁油、または、アーモンド油である。アルコールとしては、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、マルトール、ソルビトール、および、ペンタエリスリトールが挙げられる。これらのアルコール−油のエステル交換された界面活性剤のなかでも、親水性界面活性剤は、PEG−35ヒマシ油(Incrocas−35)、PEG−40硬化ヒマシ油(Cremophor(登録商標)RH40)、PEG−25トリオレイン酸塩(TAGAT(登録商標)TO)、PEG−60トウモロコシグリセリド(Crovol(登録商標)M70)、PEG−60アーモンド油(CrovolA70)、PEG−40パーム核油(CrovolPK70)、PEG−50ヒマシ油(EmalexC−50)、PEG−50硬化ヒマシ油(Emalex(登録商標)HC−50)、PEG−8カプリル酸/カプリン酸グリセリド(Labrasol(登録商標))、および、PEG−6カプリル酸/カプリン酸グリセリド(Softigen(登録商標)767)である。このクラスにおける疎水性界面活性剤としては、PEG−5硬化ヒマシ油、PEG−7硬化ヒマシ油、PEG−9硬化ヒマシ油、PEG−6トウモロコシ油(Labrafil2125CS)、PEG−6アーモンド油(Labrafil(登録商標)M1966CS)、PEG−6杏仁油(Labrafil1944CS)、PEG−6オリーブ油(Labrafil(登録商標)M1980CS)、PEG−6落花生油(Labrafil1969CS)、PEG−6水素化パーム核油(Labrafil2130BS)、PEG−6パーム核油(Labrafil.2130CS)、PEG−6トリオレイン(Labrafil2735CS)、PEG−8トウモロコシ油(LabrafilWL2609BS)、PEG−20トウモロコシグリセリド(CrovolM40)、および、PEG−20アーモンドグリセリド(CrovolA40)が挙げられる。後者の2種の界面活性剤は、約10のHLB値を有することが報告されており、これは、親水性界面活性剤と疎水性界面活性剤とのほぼ境界線(8〜12HLB)である。ビタミンA、D、E、Kの誘導体、例えばトコフェリルPEG−1000スクシナート(TPGS,イーストマン(Eastman)より入手可能)もまた、適切な界面活性剤である。
【0065】
脂肪酸のポリグリセロールエステルもまた、本発明に適した界面活性剤である。ポリグリセリル脂肪酸エステルのなかでも、疎水性界面活性剤としては、ポリオレイン酸グリセリル(Plurol Oleique(登録商標))、ポリグリセリル−2ジオレアート(Nikkol DGDO)、および、ポリグリセリル−10トリオレアートが挙げられる。好ましい親水性界面活性剤としては、ポリグリセリル−10ラウラート(NikkolDecaglyn(登録商標)1−L)、ポリグリセリル−10オレアート(NikkolDecaglyn1−O)、および、ポリグリセリル−10モノ、ジオレアート(Caprol(登録商標)PEG860)が挙げられる。ポリグリセリルポリリシノレエート(Polymuls)もまた、好ましい親水性、および、疎水性界面活性剤である。疎水性界面活性剤としては、プロピレングリコールモノラウラート(Lauroglycol(登録商標)FCC)、プロピレングリコールリシノレエート(Propymuls(登録商標))、プロピレングリコールモノオレアート(Myverol(登録商標)P−O6)、プロピレングリコールジカプラート/ジカプラート(Captex(登録商標)200)、および、プロピレングリコールジオクタノアート(Captex(登録商標)800)が挙げられる。プロピレングリコールのモノ−およびジエステルの両方も挙げられる。プロピレングリコール脂肪酸エステル、および、グリセロール脂肪酸エステルの混合物が市販されている。このような混合物の一つは、プロピレングリコールとグリセロールのオレイン酸エステルで構成される(Arlacel(登録商標)186)。界面活性剤のその他のクラスは、モノ−およびジグリセリドのクラスである。これらの界面活性剤は、脂肪鎖の長さによって、必ずしも疎水性ではない。この化合物クラスにおける界面活性剤としては、グリセリルモノオレアート(Peceol(登録商標))、リシノール酸グリセリル、ラウリン酸グリセリル、グリセリルジラウラート(Capmul(登録商標)GDL)、グリセリルジオレアート(Capmul(登録商標)GDO)、グリセリルモノ/ジオレアート(Capmul(登録商標)GMO−K)、グリセリルカプリラート/カプラート(Capmul(登録商標)MCM)、カプリル酸モノ/ジグリセリド(Imwitor(登録商標)988)、および、モノ−およびジアセチル化モノグリセリド(Myvacet(登録商標)9−45)が挙げられ、これらは、吸収促進剤としてよく機能する。ステロールおよびステロール誘導体は、本発明においていくつかの用途がある。このクラスにおける疎水性界面活性剤は、PEG−24コレステロールエーテル(Solulan(登録商標)C−24)である。
【0066】
多種多様なPEG−ソルビタン脂肪酸エステルが利用可能である。一般的に、これらの界面活性剤は親水性であるが、このクラスの数種の疎水性界面活性剤を用いることもできる。PEG−ソルビタン脂肪酸エステルのなかでも、親水性界面活性剤としては、PEG−20モノラウリン酸ソルビタン(トゥイーン(Tween)−20)、PEG−20モノパルミチン酸ソルビタン(トゥイーン−40)、PEG−20モノステアリン酸ソルビタン(トゥイーン−60)、および、PEG−20モノオレイン酸ソルビタン(トゥイーン−80)が挙げられる。
【0067】
ポリエチレングリコールとアルキルアルコールのエーテルもまた、界面活性剤として有用である。疎水性エーテルとしては、PEG−3オレイルエーテル(Volpo3)、および、PEG−4ラウリルエーテル(Brij30)が挙げられる。数種の親水性PEG−アルキルフェノール界面活性剤が、利用可能であり、薬物送達のための鼻用組成物に使用するのに適している。
【0068】
POE−POPブロックコポリマーは、高分子界面活性剤の独特なクラスである。明確な比率と位置の親水性POE成分と疎水性POP成分とを有する界面活性剤の独特な構造は、本発明に使用するのに適した多種多様の界面活性剤を提供する。これらの界面活性剤は、様々な商標名のものが利用可能であり、例えば、SynperonicPEシリーズ(ICI);プルロニック(Pluronic)(登録商標)シリーズ(BASF)、Emkalyx、Lutrol(BASF)、Supronic、Monolan、Pluracare、および、Plurodac(登録商標)が挙げられる。これらの有名なポリマーに関する一般名称は、「ポロキサマー(poloxamer)」である。このクラスの親水性界面活性剤としては、ポロキサマー108、188、217、238、288、338、および、407が挙げられる。このクラスにおける疎水性界面活性剤としては、ポロキサマー124、182、183、212、331、および、335が挙げられる。このクラスの界面活性剤は、一般的に、ポロキサマーおよびテトロニックとして知られている。
【0069】
脂肪酸のソルビタンエステルは、本発明に使用するのに適した界面活性剤である。これらのエステルのなかでも、好ましい疎水性界面活性剤としては、モノラウリン酸ソルビタン(Arlacel20)、モノパルミチン酸ソルビタン(Span−40)、モノオレイン酸ソルビタン(Span−80)、モノステアリン酸ソルビタン、および、トリステアリン酸ソルビタンが挙げられる。低級アルコール(C〜C)と脂肪酸(C〜C18)とのエステルは、本発明に使用するのに適した界面活性剤である。これらのエステルのなかでも、疎水性界面活性剤としては、オレイン酸エチル(Crodamol(登録商標)EO)、ミリスチン酸イソプロピル(Crodamol IPM)、および、パルミチン酸イソプロピル(Crodamol IPP)が挙げられる。
【0070】
陽イオン性、陰イオン性および両性イオン性界面活性剤などのイオン性界面活性剤は、本発明に使用するのに適した親水性界面活性剤である。陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、および、胆汁酸塩が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、カルニチン、例えばカルニチルパルミチン酸塩が挙げられる。具体的には、好ましいイオン性界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、サルコシン酸ラウリルナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、コール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム;ラウロイルカルニチン;パルミトイルカルニチン;および、ミリストイルカルニチンが挙げられる。熟練した製剤者には理解できると予想されるが、あらゆる製薬上許容できる対イオンが使用可能である。典型的な非イオン界面活性剤とは異なり、これらのイオン性界面活性剤は、登録商標を有する混合物ではなく、一般的には、純粋な化合物として入手可能である。これらの化合物は、アルドリッチ(Aldrich)、シグマ(Sigma)などのような多種多様な供給元より容易に入手可能である。
【0071】
pH依存性の界面活性剤の具体例としては、遊離脂肪酸、特にC〜C22脂肪酸、および、胆汁酸が挙げられる。イオン性界面活性剤としては、脂肪酸、および、それらの塩、例えばカプリル酸/カプリル酸ナトリウム、オレイン酸/オレイン酸ナトリウム、カプリン酸/カプリン酸ナトリウム;リシノール酸/リシノール酸ナトリウム、リノール酸/リシノール酸ナトリウム、および、ラウリン酸/ラウリン酸ナトリウム;トリヒドロキシ胆汁酸、および、それらの塩、例えばコール酸(天然)、グリココール酸、および、タウロコール酸;ジヒドロキシ胆汁酸、および、それらの塩、例えばデオキシコール酸(天然)、グリコデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸(天然)、グリコケノデオキシコール酸、タウロケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、タウロウルソデオキシコール酸、および、グリコウルソデオキシコール酸;モノヒドロキシ胆汁酸、および、それらの塩、例えばリトコール酸(天然);硫酸抱合型胆汁酸塩誘導体;サルココール酸塩;フシジン酸、および、その誘導体;リン脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、リゾレシチン、および、パルミトイルリゾホスファチジルコリン;カルニチン、例えばパルミトイルカルニチン、ラウロイルカルニチン、および、ミリストイルカルニチン;シクロデキストリン、例えばアルファ、ベータおよびガンマシクロデキストリン、および、それらの化学的に置換された誘導体、例えばヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、および、ヘプタキス(2,6−ジ−O−メチル−β−シクロデキストリン、および、スルホブチルエーテルがここでは挙げられる。
【0072】
イオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム塩のイオン化型;胆汁酸、ならびに塩、それらの類似体および誘導体;フシジン酸、および、それらの誘導体;アミノ酸、オリゴペプチド、および、ポリペプチドの脂肪酸誘導体;アミノ酸、オリゴペプチド、および、ポリペプチドのグリセリド誘導体;アシル乳酸塩;モノ−,ジグリセリドのモノ−,ジアセチル化酒石酸エステル;サクシニル化モノグリセリド;モノ−,ジグリセリドのクエン酸エステル;アルギン酸塩;アルギン酸プロピレングリコール;レシチン、および、水素化レシチン;リゾレシチン、および、水素化リゾレシチン;リゾリン脂質、および、それらの誘導体;リン脂質、および、それらの誘導体;アルキル硫酸塩;脂肪酸塩;ナトリウムドクセート;カルニチン;および、それらの混合物が挙げられる。
【0073】
さらに、胆汁酸のイオン化型、ならびに塩、それらの類似体および誘導体;レシチン、リゾレシチン、リン脂質、リゾリン脂質、および、それらの誘導体;アルキル硫酸塩;脂肪酸塩;ナトリウムドクセート;アシル乳酸塩;モノ−,ジグリセリドの、モノおよびジアセチル化酒石酸エステル、サクシニル化モノグリセリド;モノ−およびジグリセリドのクエン酸エステル;カルニチン;および、それらの混合物も挙げられる。さらなる実施形態としては、PEG−ホスファチジルエタノールアミン、PVP−ホスファチジルエタノールアミン、脂肪酸の乳酸(lactylic)エステル、ステアロイル−2−ラクチラート、乳酸ステアロイル、サクシニル化モノグリセリド、モノ/ジグリセリドのモノ/ジアセチル化酒石酸エステル、モノ/ジグリセリドのクエン酸エステル、コール酸塩、タウロコール酸塩、グリココール酸塩、デオキシコレート、タウロデオキシコール酸塩、ケノデオキシコール酸塩、グリコデオキシコール酸塩、グリコケノデオキシコール酸塩、タウロケノデオキシコール酸塩、ウルソデオキシコール酸塩、タウロウルソデオキシコール酸塩、グリコウルソデオキシコール酸塩、コリルサルコシン、N−メチルタウロコール酸塩、カプロン酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、オレイン酸塩、リシノール酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリル硫酸塩、テラセシル硫酸塩、ドクセート、ラウロイルカルニチン、パルミトイルカルニチン、ミリストイルカルニチン、および、それらの塩、ならびに、混合物が挙げられる。有用な界面活性剤は、レシチン、リゾレシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルコリン、PEG−ホスファチジルエタノールアミン、脂肪酸の乳酸(lactylie)エステル、ステアロイル−2−ラクチラート、乳酸ステアロイル、サクシニル化モノグリセリド、モノ/ジグリセリドのモノ/ジアセチル化酒石酸エステル、モノ/ジグリセリドのクエン酸エステル、コール酸塩、タウロコール酸塩、グリココール酸塩、デオキシコレート、タウロデオキシコール酸塩、グリコデオキシコール酸塩、コリルサルコシン、カプロン酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、オレイン酸塩、硫酸ラウリル、ドクセートのイオン化型、および、それらの塩、ならびに、混合物であり、もっとも好ましいイオン性界面活性剤は、レシチン、脂肪酸の乳酸エステル(lactylic ester)、ステアロイル−2−ラクチラート、乳酸ステアロイル、サクシニル化モノグリセリド、モノ/ジグリセリドのモノ/ジアセチル化酒石酸エステル、モノ/ジグリセリドのクエン酸エステル、タウロコール酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、オレイン酸塩、硫酸ラウリル、ドクセート、および、それらの塩、ならびに、混合物である。
【0074】
界面活性剤は、アルコールからも形成することができる;例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル;脂肪酸;グリセロール脂肪酸エステル;アセチル化グリセロール脂肪酸エステル;低級アルコール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル;ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリド;モノ/ジグリセリドの乳酸誘導体;プロピレングリコールジグリセリド;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー;エステル交換された植物油;ステロール;ステロール誘導体;糖エステル;糖エーテル;スクログリセリド;ポリオキシエチレン植物油;ポリオキシエチレン硬化植物油;および、イオン性界面活性剤のイオン化されていない(中性)形態である。疎水性界面活性剤は、ポリオールと、脂肪酸、グリセリド、植物油、硬化植物油およびステロールとの反応混合物であってもよい。このような疎水性界面活性剤は、脂肪酸;低級アルコール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールグリセロール脂肪酸エステル;ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリド;グリセロール脂肪酸エステル;アセチル化グリセロール脂肪酸エステル;モノ/ジグリセリドの乳酸誘導体;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー;ポリオキシエチレン植物油;ポリオキシエチレン硬化植物油;および、ポリオールと、脂肪酸、グリセリド、植物油、硬化植物油およびステロールとの反応混合物からなる群より選択することができる。低級アルコール脂肪酸エステル;ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル;プロピレングリコール脂肪酸エステル;グリセロール脂肪酸エステル;アセチル化グリセロール脂肪酸エステル;モノ/ジグリセリドの乳酸誘導体;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン植物油;および、それらのグリセロール脂肪酸エステル、および、アセチル化グリセロール脂肪酸エステルとの混合物が考慮される。このようなグリセロール脂肪酸エステルのなかでも、上記エステルは、モノ−またはジグリセリド、または、モノ−およびジグリセリドの混合物(脂肪酸成分は、C〜C22脂肪酸である)を含む。
【0075】
また、ポリオールと、脂肪酸、グリセリド、植物油、硬化植物油およびステロールとの反応混合物である疎水性界面活性剤も挙げられる。ポリオールは、ポリエチレングリコール、ソルビトール、プロピレングリコール、および、ペンタエリスリトールである。
【0076】
密着結合透過性のモジュレーターとしては、なかでも、EDTA、カルシウム錯化剤、クエン酸、サリチル酸塩、コラーゲンのn−アシル誘導体、エナミン、および、本明細書で説明されているような透過性ペプチドが挙げられる。
【0077】
生体接着性物質としては、キトサン、カルボキシメチルセルロース、カルボポール、ポリカルボフィル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トラガカントゴムなどが挙げられる。
【0078】
鼻の毛細血管床における血流を増加させる血管拡張剤としては、例えば、亜酸化窒素(NO)、ニトログリセリンおよびアルギニンが挙げられる。これらの例としては、S−ニトロソ−N−アセチル−DL−ペニシラミン、NOR1、NOR4[これは、好ましくは、NOスカベンジャー、例えばカルボキシ−PITO、または、ドクロフェナク(doclofenac)ナトリウムと共に投与される];サリチル酸ナトリウム;アセト酢酸のグリセロールエステル(例えば、グリセリル−1,3−ジアセトアセタート、または、1,2−イソプロピリデングリセリン−3−アセトアセタートが挙げられる。
【0079】
安定化させる送達媒体、キャリアー、支持体または複合体を形成する種としては、シクロデキストリン、EDTA、マイクロカプセル化システム、および、リポソーム製剤、例えばバイスフェア(bisphere)およびバイオソームテクノロジー(US−A−5,665,379)が挙げられる。
【0080】
潤滑剤またはその他の抗刺激物は、グリセロール、1,3ブタンジオール、トコフェロール、石油、ミネラルオイル、微結晶性ワックス、ポリアルケン、パラフィン、ケラシン、オゾケライト、ポリエチレン、ペルヒドロスクアレン、ジメチコン、シクロメチコン、アルキルシロキサン、ポリメチルシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ヒドロキシル化した乳グリセリド、ヒマシ油、大豆油、マレイン酸変性大豆油、ベニバナ油、綿実油、トウモロコシ油、クルミ油、落花生油、オリーブ油、タラ肝油、アーモンド油、アボカド油、パーム油、ゴマ油、液体スクロースオクタエステル、液体スクロースオクタエステルと固体ポリオールポリエステルとのブレンド、ラノリン油、ラノリンワックス、ラノリンアルコール、ラノリン脂肪酸、イソプロピルラノレート(lanolate)、アセチル化ラノリン、アセチル化ラノリンアルコール、ラノリンアルコールリノレアート、ラノリンアルコールリコノレアート(riconoleate)、蜜蝋、蜜蝋誘導体、鯨蝋、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル、カルナバ蝋およびカンデリラ蝋、コレステロール、コレステロール脂肪酸エステル、および、それらの同族体、レシチンおよび誘導体、スフィンゴ脂質、セラミド、グリコスフィンゴ脂質、および、それらの同族体のような化合物から選択される。ピログルタミン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、キトサン誘導体(カルボキシメチルキチン)、β−グリセロリン酸塩、ラクトアミド(lctamide)、アセトアミド、エチル、ナトリウム、および、トリエタノールアミンラクタート、金属ピロリドンカルボン酸塩(特にMg、Zn、FeまたはCaの)、チオモルホリノン、オロチン酸、C〜C20アルファ−ヒドロキシル化したカルボン酸、特にα−ヒドロキシプロピオン酸、ポリオール、特にイノシトール、グリセロール、ジグリセロール、ソルビトール、糖類ポリオール、特にアルギン酸塩、および、グアール、タンパク質、特に可溶性コラーゲンおよびゼラチン、酸残基RCOがC13〜C19炭化水素鎖を含むアミノ酸またはポリペプチドのモノ−またはポリアシル化された誘導体から選択されるリポタンパク質(lipoprotide)、特にパルミトイルカゼイン酸、パルミトイルコラーゲン酸、ヒドロキシプロリンのO,N−ジパルミトイル誘導体、ステアロイルグルタミン酸ナトリウム、コラーゲンのステアロイルトリペプチド、コラーゲンのオレイルテトラ−およびペンタペプチド、ヒドロキシプロリン、リノール酸塩、尿素(uea)およびその誘導体、特にキサンチル尿素、皮膚組織の抽出物、特に、ラボラトリーズ・セロバイオロジクエス・デ・ナンシー(Laboratoires Serobiologiques de Nancy;LSN)より「OSMODYN(登録商標)」という名称で市販されており、ペプチド、アミノ酸およびサッカリド、ならびに、17%のマンニトールを含むもの、である。グリセロール、尿素、および、パルミトイルカゼイン酸の組み合わせが有用である。
【0081】
増粘剤としては、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシセルロース、キチン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、マルメロの種の抽出物、トラガカントゴム、スターチなど、半合成高分子材料、例えばセルロースエーテル(例えばヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、グアールガム、ヒドロキシプロピルグアールガム、可溶性スターチ、陽イオン性セルロース、陽イオン性グアール(guard)など、および、合成高分子材料、例えばカルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ポリマー、ポリメタクリル酸ポリマー、ポリ酢酸ビニルポリマー、ポリ塩化ビニルポリマー、ポリ塩化ビニリデンポリマーポリアクリラート;ヒュームドシリカ天然および合成ワックス、アルキルシリコーンワックス、例えばベヘニルシリコーンワックス;ケイ酸アルミニウム;ラノリン誘導体、例えばラノステロール(lanesterol);高級脂肪族アルコール;ポリエチレンコポリマー;ナノゲル(narogel);ポリステアリン酸アンモニウム;スクロースエステル;疎水性クレイ;石油;および、ハイドロタルサイトが挙げられる。
【0082】
一実施形態において、透過促進剤は、クエン酸、クエン酸ナトリウム、プロピレングリコール、グリセリン、L−アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、EDTA二ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、および、水酸化ナトリウムから選択される。
【0083】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、天然型の神経生物学的な分子、例えば、ガングリオシド、ホスファチジルセリン、脳由来の神経向性因子、線維芽細胞増殖因子、インスリン、インスリン様成長因子、毛様体神経向性因子、グリア細胞由来のネキシン、コリン作動性の増強因子、ホスホエタノールアミン、および、甲状腺ホルモンT3を実質的に含まない。
【0084】
本発明の所定の形態において、ACE阻害剤との協調的な投与または組み合わせ製剤のための吸収促進剤は、低分子量の親水性分子、例えば、これらに限定されないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、エタノール、プロピレングリコール、1,3ブタンジオール、および、2−ピロリドンから選択される。あるいは、長鎖の両親媒性分子、例えば、デアシルメチルスルホキシド、アゾン、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸、および、胆汁酸塩を、ACE阻害剤の粘膜の浸透を促進するために用いてもよい。さらなる観点において、界面活性剤(例えばポリソルベート)が、ACE阻害剤の鼻腔内送達を促進するための補助化合物、加工助剤または製剤補助剤として用いられる。これらの浸透促進物質は、典型的には、鼻粘膜の上にある上皮細胞の脂質二重層を含む分子の極性頭部基または親水性尾部領域のいずれかで相互作用する(Barry,Pharmacology of the Skin,第1巻,121〜137頁,Shroot等編,Karger,Basel,1987;および、Barry,J.Controlled Release 6:85〜97,1987、これらはそれぞれ、この参照により開示に含まれる)。これらの部位での相互作用は、脂質分子の充填を崩壊させ、二分子層の流動性を高め、粘膜バリアを超えた薬物の輸送を容易にする作用を有する可能性がある。また、これらの浸透促進剤と、極性頭部基との相互作用は、隣接する二重層の親水性領域において、より多くの水を吸収させ、それを移動させてることによって、ACE阻害剤の輸送への傍細胞経路を開かせる、または、それを許容する可能性もある。これらの作用に加えて、所定の促進剤は、鼻粘膜の水性領域の全体の特性に直接の作用を有する可能性がある。DMSO、ポリエチレングリコールおよびエタノールのような物質は、送達環境において十分に高濃度で存在する場合(例えば、予備投与または治療製剤中への取り込みによって)、粘膜の水相に入り、その可溶化特性を改変させ、それによって、ACE阻害剤の媒体から粘膜への分配を促進することができる。
【0085】
本発明の協調的な投与および加工方法、および、組み合わせ製剤において有用なさらなる透過促進剤としては、これらに限定されないが、混合ミセル;エナミン;酸化窒素供与体(例えば、S−ニトロソ−N−アセチル−DL−ペニシラミン、NOR1、NOR4であり、好ましくは、カルボキシ−PITOまたはドクロフェナク(doclofenac)ナトリウムのようなNOスカベンジャーと共に投与される);サリチル酸ナトリウム;アセト酢酸のグリセロールエステル(例えば、グリセリル−1,3−ジアセトアセタート、または、1,2−イソプロピリデングリセリン−3−アセトアセタート);および、粘膜送達に生理学的に適合する、その他の放出−拡散、傍細胞または表皮内もしくは経表皮吸収促進剤が挙げられる。
【0086】
その他の透過促進剤は、ACE阻害剤の鼻腔内送達、安定性、活性、または、傍細胞もしくは経表皮摂取を促進する多種多様なキャリアー、基材および賦形剤から選択される。これらの例としては、特に、シクロデキストリン、および、β−シクロデキストリン誘導体(例えば、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、および、ヘプタキス(2,6−ジ−O−メチル−β−シクロデキストリン))が挙げられる。これらの化合物は、場合により、1またはそれ以上の活性成分を包含しており、さらに場合により、油性基材で製剤化され、本発明の医薬組成物における生物学的利用率を強化する。粘膜送達に適したさらに追加の透過促進剤としては、中鎖脂肪酸、例えばモノ−およびジグリセリド(例えば、カプリン酸ナトリウム、ヤシ油の抽出物、Capmul)、および、トリグリセリド(例えば、アミロデキストリン、Estaram299、Miglyol810)が挙げられる。
【0087】
本発明の組成物は、鼻粘膜バリアを超えたACE阻害剤の吸収、拡散または浸透を容易にするあらゆる適切な透過促進剤が追加されてもよい。透過の促進は、製薬上許容できるあらゆる物質またはシステムであり得る。従って、より詳細な本発明の形態において、サリチル酸ナトリウム、および、サリチル酸誘導体(アセチルサリチル酸塩、コリンサリチル酸塩、サリチルアミドなど);アミノ酸、および、それらの塩(例えばモノアミノカルボン酸、例えばグリシン、アラニン、フェニルアラニン、プロリン、ヒドロキシプロリンなど;ヒドロキシアミノ酸、例えばセリン;酸性アミノ酸、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸など;および、塩基性アミノ酸、例えばリシン、アルギニンなどであり、それらのアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩を含む);および、N−アセチルアミノ酸(N−アセチルアラニン、N−アセチルフェニルアラニン、N−アセチルセリン、N−アセチルグリシン、N−アセチルリシン、N−アセチルグルタミン酸、N−アセチルプロリン、N−アセチルヒドロキシプロリンなど)、および、それらの塩(アルカリ金属塩、および、アルカリ土類金属塩)、ポリアミノ酸、および、ポリ陽イオン性ポリマーから選択される1種またはそれ以上の浸透促進剤を包含する組成物が提供される。また、本発明の範囲内での方法および組成物において摂取促進剤として、一般的に乳化剤として用いられる物質(例えばオレイルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステルなど)、カプロン酸、乳酸、リンゴ酸およびクエン酸ならびにそれらのアルカリ金属塩、ピロリドンカルボン酸、アルキルピロリドンカルボン酸エステル、N−アルキルピロリドン、プロリンアシルエステルなども提供される。
【0088】
本発明の範囲内で使用するための透過性ペプチドとしては、あらゆる薬物の経粘膜送達を高めるペプチドが挙げられ、例えば核酸、ペプチド、タンパク質および/または低分子物質薬である。本発明の範囲内で使用するための透過性ペプチドはしばしば、可逆的に粘膜上皮の薬物の傍細胞輸送を促進すること、例えば、上皮細胞間結合の構造および/または生理学を調節することによって機能し、薬物の傍細胞輸送に対して上皮層をより透過性にすることができる。透過性ペプチドの活性はしばしば、経上皮電気抵抗(TEER)の可逆的な減少をさらに含む。
【0089】
本発明の組成物および方法でACE阻害剤送達を促進するための透過性ペプチドとしては、例えば、以下のペプチド、または、それらの活性フラグメント、結合体もしくは複合体のいずれか1種またはそれらの組み合わせが挙げられる:
RKKRRQRRRPPQCAAVALLPAVLLALLAP(配列番号1);
RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号2);
GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号3);
KLALKLALKALKAALKLA(配列番号4);
KLWSAWPSLWSSLWKP(配列番号7);
AAVALLPAVLLALLAPRKKRRQRRRPPQ(配列番号8);
LLETLLKPFQCRICMRNFSTRQARRNHRRRHRR(配列番号9);
RRRQRRKRGGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG(配列番号10);
KETWWETWWTEWSQPGRKKRRQRRRPPQ(配列番号11);
GLGSLLKKAGKKLKQPKSKRKV(配列番号12);および、
KGSKKAVTKAQKKDGKKRKRSRKESYSVYVYKVLKQ(配列番号13)。
【0090】
本発明の範囲内で有用な透過を促進するペプチドの例は、ペプチドKLALKLALKALKAALKLA(配列番号4)であり、これは、本明細書においては「PN159」と称する。PN159は、副甲状線ホルモン(PTH)、および、ペプチドYYなどのペプチド治療薬の粘膜の透過を促進する。このPN159に関して示された透過促進活性は、1種または複数種の低分子物質の透過促進剤を使用して達成される上皮の透過促進と同等か、または、それより大きい可能性がある。従って、PN159およびその他の透過性ペプチドは、ACE阻害剤の粘膜送達を容易にする低分子物質の透過促進剤の役割に取って代わることができる。
【0091】
PN159は、改変されていないN末端を特徴とする。その他の有用な透過性ペプチドとしては、PN159に関する修飾されたペプチド、例えば「PN0068」と称されるPN159のブロモアセタート誘導体が挙げられる。本発明の範囲内の所定のその他の透過性ペプチドと同様に、PN159およびPN0068は、多数の陽イオン性成分、例えばリシンまたはアルギニンを有する。
【0092】
本発明の範囲内で使用するための本発明の透過性ペプチドは、天然または合成ペプチド(2またはそれ以上の共有結合で結合したアミノ酸で構成される)、タンパク質、ペプチドまたはタンパク質フラグメント、ペプチドまたはタンパク質類似体、ペプチドまたはタンパク質模倣剤、および、活性ペプチドまたはタンパク質の化学修飾された誘導体または塩を含んでいてもよい。本明細書で用いられる用語「透過性ペプチド」は、これら全ての活性種、すなわちペプチドおよびタンパク質、ペプチドおよびタンパク質フラグメント、ペプチドおよびタンパク質類似体、ペプチドおよびタンパク質模倣剤、ならびに、活性ペプチドまたはタンパク質の化学修飾された誘導体、結合体および塩を包含することとする。多くの場合、このような透過性ペプチドまたはタンパク質は、突然変異タンパク質であり、これらは、天然に存在する、または、天然型の(例えば、野生型の、天然に存在する突然変異体または対立遺伝子変異体)ペプチドまたはタンパク質配列中に、アミノ酸を部分置換、付加または欠失させることによって容易に入手できる。加えて、天然型のペプチドまたはタンパク質の活性フラグメントも含まれる。このような突然変異体の誘導体およびフラグメントは、実質的に、望ましい天然型のペプチドまたはタンパク質の透過活性を維持する。炭水化物鎖を有するペプチドまたはタンパク質の場合、これらの炭水化物種における変異を特徴とする生物学的に活性な変異体もまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0093】
本発明の範囲内で使用するための本発明の透過性ペプチドは、典型的にはCNS中の標的細胞、組織または区画へのACE阻害剤の送達が改善されるのに十分な、透過性ペプチド、タンパク質、類似体または模倣剤を、透過させるのに有効な量で含む医薬組成物に製剤される。透過性ペプチドおよびそれに関連する組成物、ならびに、本発明の方法は、通常、被検体において、粘膜上皮の傍細胞輸送を可逆的に促進することによって、典型的には、粘膜上皮表面において上皮細胞間結合の構造および/または生理学を調節することによって機能する。
【0094】
本発明において有用な透過性ペプチドに関する追加の説明は、例えば、Cui等により2004年9月21日付けで出願された米国特許仮出願第60/612,121号、および、それに関連する、Cui等により2005年4月1日付けで出願された、名称「PERMEABILIZING PEPTIDES FOR ENHANCED MUCOSAL DELIVERY OF MACROMOLECULAR AND SMALL MOLECULE THERAPEUTIC COMPOUNDS」の米国特許仮出願(代理人整理番号04−15P2で識別される)に示されており、これらの開示はそれぞれ、この参照により開示に含まれる。
【0095】
鼻粘膜上皮を超えたACE阻害剤の送達は、より親油性の化合物の細胞間輸送が多少起こる可能性があるとしても、優勢な「傍細胞」経路によって起こり得る。傍細胞または細胞間のいずれの摂取が薬物分子の総体的な流れと生物学的利用率で優位であるかの程度は、薬物分子のサイズ、その物理化学特性、製剤中の賦形剤、および、その物理的な状態(固体、エマルジョン、ゲル、液体)に依存するだけでなく、鼻粘膜上皮の細胞応答にもに依存する。傍細胞輸送は受動拡散のみを含み、1キロダルトン(kDa)よりより小さい親水性分子にとって特に重要であるが、それに対して、細胞間輸送は、受動的、促進的または能動的プロセス、それに続くエンドサイトーシスまたは膜融合によって起こり得る。一般的に、親水性、受動的に輸送された極性溶質、特に低分子量の外因性の化学物質(すなわちMWが1kDa未満のもの)は、傍細胞経路で放散するが、天然型のタンパク質、ペプチドおよび親油性溶質(例えば疎水性ACE阻害剤など)は、部分的に、または、独占的に経粘膜摂取の細胞間経路を使用できる。
【0096】
鼻粘膜は、2種の組織のサブドメイン、すなわち嗅膜ドメインと嗅覚ではないドメインからなる。嗅覚上皮は、特化した嗅覚受容体細胞と支持細胞型を含む独特の層状の柱状構造を有する。嗅膜ではない部分は、高度に血管が発達しており、その表面は線毛のある層状の柱状上皮で覆われている。鼻腔の静脈は、上眼静脈および顔面静脈に流れており、これらは心臓に戻るために頚静脈に集められる。特異的な受容体天然型の神経生物学的な分子は、嗅覚粘膜を超えて直接的に頭蓋神経に近づくことが可能であり、さらに、Frey(US6,180,603)が提唱しているようなCNSへの軸索内輸送を経るが、この方法は、鼻甲介の上部3分の1と、輸送で認識される天然型の神経生物学的な分子に限定される。あるいは、血液およびCSFへの傍細胞輸送は、嗅膜以外の部分における密着結合を経由する可能性があり、非特異的なエンドサイトーシス、脂質膜の乱れ、および、細胞が介在するトランスサイトーシスによって細胞間輸送が可能である。ここで我々は、傍細胞メカニズムおよび細胞間輸送メカニズムと、FreyおよびMaitani等(1986.“Intranasal administration of β−interferon in rabbits”,Drug Design Delivery 1:65〜70)によって説明されているような、特化した軸索内輸送メカニズムとを区別する。嗅覚上皮は、上鼻甲介に集中している。血管が豊富に発達した嗅膜以外の部分は、中および下鼻甲介で優勢である。
【0097】
受動的および能動的に吸収された溶質の吸収および生物学的利用率は、本発明の範囲内で選択された全てのACE阻害剤について、傍細胞および細胞間送達成分の合計に関して評価することができる。経路の寄与率は、インビトロでの上皮細胞培養物の透過性分析のような周知の方法に従って区別することができる(例えば、Hilgers等,Pharm.Res.7:902〜910,1990;Wilson等,J.Controlled Release 11:25〜40,1990;Artursson.I.,Pharm.Sci.79:476〜482,1990;Cogburn等,Pharm.Res.8:210216,1991;Pade等,Pharmaceutical Research 14:1210〜1215,1997を参照、これらはそれぞれ、そこに記載されている方法論に関して、この参照により開示に含まれる)。しかしながら、臨床的な状態の治療のための薬物取り込みを推定する前に、ヒトにおける臨床研究が必要であることに注意すべきである。
【0098】
受動的に吸収された薬物について、傍細胞および細胞間経路の薬物輸送への相対的な寄与率は、薬物に関する分配係数、分子半径およびイオン電荷(分子量は、いくつかの予測値を有する)によって未精製で測定したpKa、親油性、薬物が送達される内腔環境のpH、製剤の緩衝能力、ならびに、吸収表面の領域に依存する。傍細胞経路において、鼻粘膜上皮の接近しやすい表面領域は、比較的わずかであることが示される。一般的にいえば、細胞膜は、傍細胞の空間が占める領域より千倍大きい粘膜表面領域を占めていることが報告されている。従って、大きい(すなわち5kDaより大きい)分子の透過に対して、より小さい近しやすい領域、ならびに、サイズおよび電荷に基づく識別は、一般的に、傍細胞経路は、薬物輸送のための細胞間送達よりも好都合ではない経路の可能性があることを示唆していると予想される。しかしながら、驚くべきことに、本発明の方法および組成物は、傍細胞経路を介した非嗅覚の鼻粘膜上皮への、さらにそれを超えた著しく促進されたACE阻害剤の輸送を提供し、ここにおいて、生物学的利用率は経口投与に比べて驚くほど増加し、CNSへの標的化が強化されている。
【0099】
本発明の医薬組成物は、鼻の送達のために特別に製剤化される。鼻呼吸によって、約10〜20μmまたはそれより大きいサイズを有するほぼ全ての粒子が鼻粘膜に堆積し、それに対して、2μm未満の粒子は鼻腔を通過し、肺に堆積させることができる。製剤は、それらの物理的な状態および化学組成に応じて、鼻腔内送達に最も適するように最適化される。鼻用製剤は、なかでも、以下が挙げられる:粉末ゲル、軟膏、点鼻剤、タンポン、スポンジおよびスプレー。粉末は、特殊な鼻用アプリケーターで投与される。鼻用スプレーは、簡単なスクイーズボトルから比較的複雑なピストンまたはポンプに至る範囲の多数の装置で投与される。水性製剤については、鼻腔内送達にあらゆる特定の製剤と用いることができる装置のタイプは、ほとんど粘度と界面張力によって決定される。ここで考慮される非水性の液体製剤については、表面張力が要因であることはめったになく、排出された液体粒子サイズの決定において粘度が優位である。本発明の医薬組成物は、鼻粘膜表面の片方に塗布してもよいし、両方に塗布してもよい。
【0100】
その他の実施形態において、液体粒子サイズを増加させ、本発明の医薬組成物が鼻内に確実に留まるようにするため、粘度調節剤(viscosifier)または増粘剤、例えばゲルポリマーが製剤に包含されていてもよい。薬物のボーラスを鼻内に留まらせるその他のアプローチとしては、より高濃度の薬物の使用、および、迅速な浸透剤として低分子量のポリオキシエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、1,3−ブタンジオールまたは低MWのモノ−およびジグリセリドの、組み合わせまたは単独での使用、実質的に瞬間的に鼻粘膜に潤いを与え、それによって粘膜層に製剤を固定させることが挙げられる。適切な水性スプレーは、液滴が鼻よりも奥に行かないように、約10〜1000μmの直径の目の粗い微粒子または液体粒子の形態で送達されてもよい。アプリケーターを鼻前庭に挿入して、通常0.5〜0.9mL以下(多くの場合は0.2mL未満、場合によって、約0.1mL)の用量の製剤を絞り出し、それを鼻の内壁に噴霧して堆積させ、そこに非水性溶媒で即座に固定させる。気道の内壁と接触する前に極めて少量の材料を中咽頭に入れることもできるが、材料は、肺にほとんど入らないか、または、実質的に入らない。
【0101】
より詳細な観点において、ACE阻害剤は、約0.1mg〜100mgの有効量で哺乳動物に投与してもよい。
その他の詳細な観点において、本発明の医薬組成物は、およそ、約pH3.0〜6.0、pH3.0〜5.0、または、pH3.0〜4.0の範囲のpHを有するように製剤化されてもよい。
【0102】
ACE阻害剤および透過促進剤に加えて、本発明の医薬組成物は、製薬上許容できるキャリアー、または、媒体を含んでいてもよい。本明細書で用いられる「キャリアー」は、製薬上許容できる固体または液体充填剤、希釈剤またはカプセル封入材を意味する。水を含む液体キャリアーは、製薬上許容できる添加剤、例えば酸性化物質、アルカリ化剤、抗菌性の保存剤、抗酸化剤、緩衝剤、キレート剤、錯化剤、可溶化剤、潤滑剤、溶媒、沈殿防止剤および/または粘度を高める物質、等張化剤、湿潤剤またはその他の生相容性の材料を含んでいてもよい。上記のカテゴリーで列挙した成分の目録は、U.S.Pharmacopeia National Formulary,1857〜1859頁,1990(これは、この参照により開示に含まれる)で見ることもできる。製薬上許容できるキャリアーとして役立つ可能性がある材料のいくつかの例は、糖類、例えばラクトース、グルコース、および、スクロース;スターチ、例えばコーンスターチ、および、ジャガイモスターチ;セルロース、および、その誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および、酢酸セルロース;粉末化したトラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えばカカオバター、および、坐剤ワックス;油、例えば落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、および、ダイズ油;グリコール、例えばプロピレングリコール;ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトール、および、ポリエチレングリコール;エステル、例えばオレイン酸エチル、および、エチルラウリン酸塩;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム、および、水酸化アルミニウム;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張塩類溶液;リンゲル液、エチルアルコール、および、リン酸緩衝液、同様に、その他の医薬製剤で用いられる非毒性の相溶性物質である。また、製剤者の要望に応じて、湿潤剤、乳化剤、および、潤滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム、および、ステアリン酸マグネシウム、同様に、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、矯味矯臭薬剤および香料、保存剤、ならびに、抗酸化剤が本組成物に存在していてもよい。製薬上許容できる抗酸化剤の例としては、水溶性抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、塩酸システイン、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;油溶性の抗酸化剤、例えばアスコルビン酸パルミテート、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ−トコフェロールなど;および、金属−キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などが挙げられる。単回投薬形態を製造するためのキャリアー材料と併用することができる活性成分の量は、具体的な鼻腔内投与様式に応じて様々であると予想される。
【0103】
本発明の医薬組成物は、一般的に滅菌されており、さらに、製薬用途において安定である。本明細書で用いられる「安定な」は、適切な政府の規制機関によって規定された医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準の原則に従って確立されている一体性、強度、品質および純度に関する化学的および物理的な規格を全て満たしている製剤を意味する。
【0104】
本明細書で用いられる「ACE阻害剤の粘膜に有効な量」は、被検体における薬物活性に関する標的部位への、有効な粘膜のACE阻害剤送達を考慮する。
本発明の様々な実施形態において、ACE阻害剤は、上記(a)〜(m)で列挙された1種、2種、3種、4種またはそれ以上の透過促進剤と併用される。これらの透過促進剤は、単独で、または、ACE阻害剤と一緒に混合してもよいし、またはそれ以外の方法で、製薬上許容できる製剤または送達媒体中でそれらと混合してもよい。本明細書の教示による1種またはそれ以上の透過促進剤を含むACE阻害剤の製剤(場合により、上記(a)〜(m)から選択される2種またはそれ以上の送達促進物質のあらゆる組み合わせを含む)は、それらを哺乳動物の鼻粘膜の表面へ送達した後の、ACE阻害剤の生物学的利用率の増加を提供する。
【0105】
本発明の関連する形態において、ACE阻害剤の鼻腔内送達を促進するための多種多様な協調的な投与方法が提供される。これらの方法は、哺乳動物に、協調的な投与プロトコールで有効量の少なくとも1種のACE阻害剤を、ACE阻害剤が有効に混合、連結、包含、カプセル封入または結合され、鼻腔内送達を促進するために活性物質を安定化する1種またはそれ以上の鼻腔内送達促進物質と共に投与する工程を含む。
【0106】
本発明に係る協調的な投与方法を実施するために、上記の(a)〜(m)で列挙された1種、2種またはそれ以上の鼻腔内送達促進物質のあらゆる組み合わせが、同時に鼻腔内投与されるように混合されてもよいし、または、その他の方法で結合していてもよい。あるいは、(a)〜(m)で列挙された粘膜送達促進物質の1種、2種またはそれ以上のあらゆる組み合わせは、集合的に投与してもよいし、または、個々に粘膜に投与してもよく、これは、ACE阻害剤の粘膜の投与から離れた予め決められた時系列で(例えば、1またはそれ以上の送達促進剤を前もって投与することによって)、さらに、ACE阻害剤と同一または異なる送達経路を介して(例えば、ACE阻害剤と同一または異なる粘膜表面に)なされ、または、粘膜以外の経路(例えば、筋肉内、皮下または静脈内経路)を介してでもなされる。本明細書の教示による、ACE阻害剤とあらゆる1種、2種またはそれ以上の送達促進物質との協調的な投与は、それらを哺乳動物の粘膜表面に送達した後、ACE阻害剤の生物学的利用率の増加を提供する。
【0107】
本発明のさらなる関連する形態において、粘膜送達を促進するためのACE阻害剤の製剤を製造するために、様々な「マルチプロセシング」または「コプロセシング」方法が提供される。これらの方法は、1種またはそれ以上のACE阻害剤が、連続的に、または同時に、1種、2種またはそれ以上の透過促進剤(それらのあらゆる組み合わせも含む)と接触、反応または製剤化される1またはそれ以上の加工または製剤化工程を含む。
【0108】
本発明に係るマルチプロセシング法またはコプロセシング法を実施するために、1またはそれ以上の構造的または機能的な観点でACE阻害剤(またはその他の製剤成分)を改変する、またはその他の方法で、それぞれ少なくとも部分的に、上記の(a)〜(m)で列挙された具体的な鼻腔内送達促進剤との接触、それらの作用の改変、または、組み合わせ製剤における存在に起因する1またはそれ以上の(例えば、複数の、独立した)観点で活性物質の鼻腔内送達を促進する一連の加工もしくは製剤化工程、または、同時の製剤化手順のいずれかで、ACE阻害剤は、上記の(a)〜(m)で列挙された透過促進剤の1種、2種またはそれ以上のあらゆる組み合わせと接触させて、反応させて、または、組み合わせで製剤化される。
【0109】
また、粘膜吸収を促進することが報告されている多くの既知の試薬も、粘膜組織への刺激またはダメージを引き起こす(例えば、SwensonおよびCuratolo,Adv.Drug Delivery Rev.8:39〜92,1992を参照、これはこの参照により開示に含まれる)。これに関して、本発明の組み合わせ製剤との協調的な投与方法は、本発明の範囲内で有用なACE阻害剤の鼻腔内送達を促進するための、有効な、毒性が最低限の送達促進物質を包含する。
【0110】
吸収促進のメカニズムは、本発明の様々な透過促進剤に応じて多様であるが、この状況における有用な試薬は、実質的に、粘膜組織に逆の影響を与えないと予想され、さらに、特定のACE阻害剤またはその他の活性もしくは送達促進剤の物理化学的な特徴に従って選択されると予想される。この状況において、粘膜組織の浸透または透過性を高める透過促進剤は、しばしば鼻粘膜の保護的な透過バリアにいくつかの変化が生じると予想される。このような本発明の範囲内で価値があると予想される透過促進剤にとって、一般的に、薬物送達の望ましい持続時間に適した期間内で鼻粘膜における透過性のあらゆる顕著な変化が可逆的であることが望ましい。その上、長期の使用で鼻粘膜のバリア特性に誘導された累積的な毒性も、あらゆる永続的な有害な変化も実質的に有さないと予想される。
【0111】
様々な本発明の形態において、改善された粘膜送達製剤および方法が提供され、それにより、本発明の範囲内のACE阻害剤送達およびその他の治療剤が、投与部位と選択された標的部位との間の粘膜バリアを超えることを可能にする。典型的には、ACE阻害剤は、キャリアーまたはその他の送達媒体中に、有効な濃度レベルで効率的に保持され、さらに、薬物を作用させる遠隔の標的部位(例えば血流またはCNS)に促進拡散または受動拡散によって送達されるまで、安定化された形態で例えば鼻粘膜および膜に送達および維持される。ACE阻害剤は、送達媒体中に提供されてもよいし、または、その他の方法で改変されていてもよく(例えばプロドラッグの形態で)、この場合、ACE阻害剤の放出または活性化は、生理学的な刺激(例えばpH変化、リソソームの酵素など)によって起こる。
【0112】
CSFにおいて上昇したレベルは、このクラスの薬物に関する治療有効性の優れた指標として扱われる。好ましくは、本発明の医薬組成物は、哺乳動物への鼻腔内投与の後、哺乳動物のCSFの流体中で、患者血漿中のACE阻害剤の基準の治療濃度より大きいACE阻害剤のピーク濃度を達成する。現在のところ容認されている、リバスチグミンおよびその主要な活性代謝産物のヒトにおける最小治療濃度(MTC)値は、アセチルコリンエステラーゼ活性のI50%(最大限値の半分)阻害について、CSF中約5μg/L薬物である。ラットにおけるドネゼピル(donazepil)では、MTCは、0.42nmol/gmと報告されている。ラットにおけるタクリンでは、MTCは、3.5nmol/gmと報告されている。ラットにおけるTAK−147(3−[1−(フェニルメチル)−4−ピペリジニル]−1−(2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1−ベンズアゼピン−8−イル)−1−プロパノン)では、MTCは、1.1nmol/gmCSFと報告されている(Kosasa T等.2000.“Inhibitory effect of orally administered donepezil hydrochloride (E2020), a novel treatment for Alzheimer’s disease, on cholinesterase activity in rats”,Eur J Pharm 389:173〜9; Bobburu JV等.2001.“Pharmacokinetic−pharmacodynamic modelling of rivastigmine, a cholinesterase inhibitor, in patients with Alzheimer’s disease”,J Clin Pharm 41:1082〜90; Cutler NR等.1998.“Dose−dependent CSF acetylcholinesterase inhibition by SDZ ENA 713in Alzheimer’s disease”,Acta Neurol Scand 97:244〜50; Polinsky RJ.1998.“Clinical pharmacology of rivastigmine”,Clin Ther 20:634〜47)。
【0113】
本発明の方法および組成物を説明するために、以下の実施例を示して本発明の典型的な実施形態を説明する。当業者であれば、本発明を実施するためのその他の組成物および方法もこの開示の範囲内であることは理解できるものと予想され、それらが以下の実施例によって限定されることは目的としない。
【実施例】
【0114】
実施例1
ドネペジルの鼻用製剤
【0115】
【表1】

【0116】
実施例2
ドネペジルの鼻用製剤
【0117】
【表2】

【0118】
実施例3
ドネペジルの鼻用製剤
【0119】
【表3】

【0120】
実施例4
ドネペジルの鼻用製剤
【0121】
【表4】

【0122】
実施例5
ドネペジルの鼻用製剤
【0123】
【表5】

【0124】
実施例6
ドネペジルの鼻用製剤
【0125】
【表6】

【0126】
実施例7
ドネペジルの鼻用製剤
【0127】
【表7】

【0128】
実施例8
ドネペジルの鼻用製剤
【0129】
【表8】

【0130】
実施例9
ラットにおける鼻腔内に送達されたドネペジルの生物学的利用率
体重約180gの雄ラット(Rattus norvegicus Sprague−Dawley)を、留置頸静脈カニューレを用いて外科的に調製し、手順中は軽く麻酔した。この動物の右の鼻孔に、ドネペジルを含む鼻腔内用製剤を鼻腔内に投与した。投与後、動物の頭部を持ち上げて、液体が逆戻りして鼻腔から流れないようにした。
【0131】
投与の5、10、15、30および60分後に、対の血液とCSFサンプルを回収し、氷上に置いた。EDTAを凝固防止剤として用い、冷却された遠心分離機で遠心分離した後に血漿を分離した。次に、全てのサンプルを、抽出しないで、ドネペジルに関してHPLCで解析した。
【0132】
結果をプロットし、図1に示す。ドネペジルは、体内で、不活性代謝産物の形成により迅速に除去された。しかしながら、CSFにおける血漿の比率に対する鋭い変化(ピークCSF濃度が、30分間で28.4ナノグラム/mL)により、区画プールは独立して反応を示し、CSFは、血漿の充填から独立した、それを補足する経路で(場合によってはクモ膜下叢への直接の透過も含む)選択的に充填され得ることが示される。これらのデータは、本発明の組成物および方法による経鼻投与での直接のCSF充填を示すものである。達成されたCSF濃度は、この薬物に必要な基準の血漿治療レベルより高い。
【0133】
実施例10
ラットにおけるドネペジル用量の許容量
【0134】
【表9】

【0135】
α−シクロデキストリン12%中のドネペジル50mg/mLの製剤を、動物の作業ごとに新しく製造した。承認されたプロトコールに従って、それぞれ150〜190gmの3匹の雄の動物(Rattus norvegicus Lewis)からなる2グループで、それらの右の鼻孔に、50μL/kgの試験品または塩類溶液コントロールを挿入ことによって鼻腔内に投与した。送達の際に鼻粘膜にダメージを与えないよう注意した。投与後、動物の頭部を持ち上げて、液体が逆戻りして鼻甲介から流れないようにした。用量は、通常のヒト用量の5mg/日であることから、さらに、ヒトに対するラットにおける鼻腔の表面領域(ラット7cm、それに対してヒト80cm)に基づき推測された。
【0136】
投与後に、各動物を60分間連続して、その後1時間おきに観察した。スタッフの獣医師が、投与前に、および、投与の4時間後に、鼻腔の耳鏡検査を行った。
観察:ドネペジルが投与された動物において、鼻の刺激、例えば鼻の引掻き、鼻をなめたり噛んだりすること、異常な姿勢、発声、運動性の欠如の兆候、または、あらゆる痛みまたは苦痛の兆候はみられなかった。耳鏡検査では、塩類溶液処理された動物と、ドネペジル処理された動物との差はまったく示さなかったが、1匹の処理された動物は、投与後すぐに両方の鼻孔からわずかに鼻からの吐出がみられたが、これは2〜3分間のうちに自発的に解決した。
【0137】
前述の証拠に基づき、生相容性で、かつ臨床試験において十分な耐性を有する製剤を決定した。
実施例11:粘膜送達
透過速度論および膜貫通耐性
本明細書で説明したEpiAirwayシステムは、マットテック社(MatTekCorp,アッシュランド,マサチューセッツ州)により、気道の内側にある多列上皮のモデルとして開発された。その上皮細胞は、多孔質膜が底にある細胞培養物の挿入物上の気液界面で成長させ、それにより、細胞が高度に分極化した形態に分化する。これらは、気道の上皮組織に極めて類似した擬似的な層を成す高度に分化した組織モデルを形成するための登録商標を有する培地で培養した正常なヒト由来の気管/気管支上皮細胞である。頂端面は、微絨毛の微細構造を有する線毛のある状態で、上皮は、粘液を生産する(免疫ブロッティングによりムチンの存在が確認されている)。顕微鏡で密着結合が確認され、その組織は、分極した不透過性の膜に特徴的な高い電気抵抗を有する。
【0138】
コントロール組織に関する経上皮抵抗は、典型的には、550±125ohm/cmを超える。上記挿入物は、0.875cmの直径を有し、0.6cmの表面領域を提供する。配送の前に、工場で、細胞をこの挿入物上で約3週間平板培養する。1つの「キット」は、24のユニットからなる。ことが示されているこれらの分化した一次細胞は、複数の医薬物質の傍細胞輸送において、さらにカルシトニンの能動輸送においても機能的であり、インビボでの鼻用製剤の挙動で予想される有用な情報を提供する。この試験は、製剤のスクリーニングツールとして、さらに、傍細胞輸送を最適化する手段としてルーチンで用いられる。
【0139】
a.試験の前に、6および24ウェルの細胞培養プレート用に設計された、特別に設計されたカップ中で、ヒト呼吸肺胞細胞を密集するまで成長させた。試験の前の細胞成長および分化の際に、細胞の頂端面を空気に接触させ、側底面を培地に接触させた。「カップ」のベースを形成する半透過性の膜は、細胞支持体として用いた。細胞成長には、サイトカイン非含有の無血清である登録商標を有する培地が用いられた。到着してすぐ、このユニットを、6ウェルのマイクロプレート中の滅菌支持体に置いた。各ウェルに、5mLの登録商標を有する培地を与えた。5mLの体積は、スタンドを用いて上皮の頂端面を空気と直接接触させたままでユニットの底部への接触を達成するのにちょうど十分であった。それらのプレート中のユニットは、インキュベーター中で、空気中5%COの雰囲気で、37℃で24時間維持した。この期間の最後に、培地を新しい培地と交換し、さらに24時間ユニットをインキュベーターに戻した。
【0140】
b.全ての実験において、研究される粘膜送達製剤は、体積100μLのヒト気道上皮の密集した単分子層を含む各「カップ」の頂端面に塗布された。この体積は、頂端面全体を覆うのに十分であった。頂端面に塗布された濃度での試験製剤の適切な体積(一般的に、100μL以下が必要である)を、それに続くHPLCによる薬物濃度の測定のために分取した。
【0141】
c.このユニットを、実験のために6ウェルプレートにスタンドを用いないで置いた:各ウェルは、予め温めた培地を、ユニットの多孔質膜底部と接触するのに十分な、ただしユニットにおけるあらゆる顕著な上方への静水圧が生じない0.9mLの量で含んでいた。操作の間、全ての細胞は、ルーチンで、加湿したCOインキュベーター中、37℃に維持された。
【0142】
d.可能性のあるエラー源を最小化し、あらゆる濃度勾配の形成を回避するために、研究中のタイムポイントごとに1つの0.9mLを含むウェルからその他のウェルにユニットを移した。これらの移動は、ゼロ時間(試験材料100μL体積を頂端面に塗布した時間)に基づき、以下のタイムポイントでなされた:15分間、30分間、60分間、および、120分間。
【0143】
e.タイムポイント間に、インキュベーター中で、それらのプレート中のユニットを37℃に維持した。プレートを取り出し、滅菌鉗子を用いてユニットを1ウェルからその他のウェルに移動させる際の短い期間中の温度変化が最小になるように、1ウェルあたり0.9mL培地を含むプレートもインキュベーター中で維持した。
【0144】
f.各タイムポイントの完了時、ウェルから培地を除去し、そこから各ユニットを移動させ、透過した試験材料の濃度を測定するために2つのチューブに分配した(1つのチューブには、700μLを入れて、他方には200μLを入れた)。
【0145】
g.120分のタイムポイントの最後に、0.9mLを含むウェルの最後から、1ウェルあたり培地0.3mLを含む24ウェルのマイクロプレートにユニットを移動させた。この体積も、ユニットにおける上方への静水圧を加えないでユニットの底部と接触させるのに十分であった。経上皮抵抗の測定の前に、ユニットをインキュベーターに戻した。
【0146】
h.エラーを最小化するために、実験開始前に、全てのチューブ、プレートおよびウェルを予め標識した。この手順に関するさらなる詳細は、製造元のウェブサイト(www.Mattek.com)に見出すことができる。
【0147】
経上皮電気抵抗(TEER)を測定するプロトコール
i.呼吸気道上皮細胞は、インビトロで、同様にインビボでも密着結合を形成し、組織を超えた溶質の流れを制限した。これらのジャンクションは、切り出された気道組織に数百オーム/cmの経上皮抵抗を付与した。透過研究における工程の経過の際に擬似的に接触させたコントロールEpiAirwayユニットのTEERは、約700〜800オーム/cmであった。低分子物質の透過はTEERに逆比例するため、この値は、透過への主要なバリアを提供するのに十分に高い。逆に言えば、多孔質膜が底部にあるユニット(細胞なし)は、最低限の膜貫通耐性しか示さなかった(5〜20オーム/cm)。
【0148】
ii.到着時に、ユニットを6ウェルのマイクロプレート中の滅菌支持体に置いた。各ウェルに、5mLの登録商標を有する培地を与えた。このDMEMベースの培地は血清非含有であるが、上皮成長因子およびその他の因子が追加されていた。この培地を、鼻腔内送達について評価される候補化合物の内因性レベルに関して試験すれば、このような化合物はまったく含まれていないことが予想される。5mLの体積は、スタンドを用いて上皮の頂端面を空気と直接接触させたままでユニットの底部への接触を達成するのにちょうど十分であった。この工程、および、それに続くユニットの液体を含むウェルへの移動を含む全ての工程に、ユニットの底部と培地との間に空気がトラップされないように滅菌ピンセットを用いた。
【0149】
iii.それらのプレート中のユニットを、インキュベーター中で、空気中5%COの雰囲気で、37℃で24時間維持した。この期間の最後に、培地を新しい培地と交換し、さらに24時間ユニットをインキュベーターに戻した。
【0150】
iv.正確なTEER測定には、オーム計の電極が、膜の上下の重要な表面領域の上に位置しており、さらに、膜からの電極の距離が再現可能に制御されていることが必要である。マットテック(MatTek)により推奨されており、ここでの全ての実験で用いられたTEER測定方法は、ワールド・プレジション・インスツルメンツ社(World Precision Instruments,Inc,サラソータ,フロリダ州;wpiinc.com)製の内部Ag/AgCl参照電極を用いたSTX2電極対を備えた「EVOM」TM上皮電圧抵抗計を使用した。
【0151】
v.ユニットは、以下の順序で読み取られた:全ての擬似的に処理したコントロール、続いて全ての製剤処理したサンプル、続いて、擬似的に処理したコントロールそれぞれの第二のTEER読み取り。
【0152】
透過速度論に関する実験プロトコール
i.24のEpiAirwayユニットの「キット」は、ルーチンで用て、5種の異なる製剤をそれぞれを4連のウェルに塗布して評価した。各ウェルは、透過速度論(4タイムポイント)と経上皮抵抗の決定のために用いられた。追加のウェル群をコントロールとして用い、これらは、透過速度論の決定の際に擬似的に処理されたが、その他の点では経上皮抵抗の決定のための試験サンプルを含むユニットと同様に操作された。コントロールにおける決定も、ルーチンで4連のユニットでなされた。
【0153】
ii.全ての実験において、研究される粘膜送達用の製剤は、各ユニットの頂端面に、頂端面全体を覆うのに十分な体積(100μL)で塗布した。頂端面に塗布された濃度での試験製剤を、適切な体積で(一般的に、100μL以下が必要である)、それに続くHPLC、ELISAまたはその他の指示された分析による活性物質の測定のために分取した。
【0154】
iii.このユニットを、実験のために6ウェルプレートにスタンドを用いないで置いた:各ウェルは、予め温めた培地を、ユニットの多孔質膜底部と接触するのに十分な、ただしユニットにおけるあらゆる顕著な上方への静水圧が生じない0.9mLの量で含んでいた。
【0155】
iv.可能性のあるエラー源を最小化し、あらゆる濃度勾配の形成を回避するために、研究中のタイムポイントごとに1つの0.9mLを含むウェルからその他のウェルにユニットを移した。これらの移動は、ゼロ時間(試験材料100μL体積を頂端面に塗布した時間)に基づき、以下のタイムポイントでなされた:15分間、30分間、60分間、および、120分間。
【0156】
v.タイムポイント間に、インキュベーター中で、それらのプレート中のユニットを37℃に維持した。プレートを取り出し、滅菌鉗子を用いてユニットを1ウェルからその他のウェルに移動させる際の短い期間中の温度変化が最小になるように、1ウェルあたり0.9mL培地を含むプレートもインキュベーター中で維持した。
【0157】
vi.各タイムポイントの完了時、ウェルから培地を除去し、そこから各ユニットを移動させた。これらの培地透過サンプルは、分析が24時間以内に行われる予定であれば冷蔵庫で保存し、または、サンプルをさらに分配して、分析のために1回融解させるまで−80℃で凍結保存した。繰り返しの凍結融解サイクルは、回避するようにした。
【0158】
vii.120分のタイムポイントの最後に、0.9mLを含むウェルの最後から、1ウェルあたり培地0.3mLを含む24ウェルのマイクロプレートにユニットを移動させた。この体積も、ユニットにおける上方への静水圧を加えないでユニットの底部と接触させるのに十分である。経上皮抵抗の測定の前に、ユニットをインキュベーターに戻した。
【0159】
透過性に関する結果
上記のプロトコールで説明されているようにして、ドネペジルの透過性に関するインビトロでのデータを回収した。以下の表1に、Epi−Airwayヒト呼吸器系の内皮細胞モデルの組織層を超えたドネペジルの透過性を、質量流量としてμg/min/cmで報告する。これからわかるように、この分析において、ドネペジルは極めてよく移動する。
【0160】
【表10】

【0161】
周知の促進剤のタウロコール酸ナトリウムを用いて増加した流れは、密着結合および上皮の膜を貫通させ、崩壊させることによって傍細胞輸送を高めるようにして作用することを特記する。
【0162】
TEERの結果
インビトロでの、上記のプロトコールで説明されているような呼吸器系の内皮の組織層における密着結合の電気抵抗に関するデータを回収し、以下の表2に報告する。
【0163】
【表11】

【0164】
擬似的に処理した組織の電気抵抗(典型的には約500〜800オーム/cm)を100%とした。各賦形剤に接触した細胞の生存率を慎重に確認した。経上皮抵抗の減少は、賦形剤の傍細胞輸送を高める効力の指標である。
【0165】
実施例12
鼻腔内の粘膜送達を促進するためのリバスチグミンの製剤
リバスチグミンは、近年発見されたACE阻害剤である。粘膜送達を促進するためのリバスチグミンの典型的な製剤を以下のように製造した:
【0166】
【表12】

【0167】
上記製剤は、鼻腔内投与されるか、または、市販の製剤を含むカプセルを胃に挿入することによって、留置頸静脈カニューレとヘパリンロックで調製されたラット6匹からなる群の12群に投与された。承認されたプロトコールに従って、実験群中のそれぞれの被検体は、鼻腔内用のリバスチグミンを単回投与された。その後、各被検体に局部麻酔で(皮下にキシロカイン)腰椎穿刺を行い、50μLの脳脊髄液(CSF)で回復させた。各動物からの対の血液サンプルを回収した。群を異なるタイムポイントに割り当てて、全体のPK曲線を構築した。投与後5分で第一のCSFサンプルを回収し、続いて、20、50、75、100および400分でサンプルを回収した。コントロール群では、この手順を経口リバスチグミンを用いて繰り返した。
【0168】
CSFサンプルを解析まで凍結させた。このデータから、血漿中のリバスチグミンは、CSF中の速度論から独立したPKに従うことが示された。その上、鼻腔内投与された場合、CSFにおけるリバスチグミン濃度は、ヒトに経口投与した後に血漿に関して報告された治療レベルより高いレベルでピークを形成した。鼻腔内のリバスチグミンに関する血漿曲線(AUC)は、経口投与されたリバスチグミンの血漿AUCと比較すると極めて優れていることを示した。我々は、これは、経口投与された薬物に関して初回通過の排除がAUCの減少に作用するためと結論づけた。
【0169】
場合により、処理された動物は、水迷路学習モデルまたはその他の認知機能モデルにおける記憶の強化について試験することもできる。
実施例13
鼻腔内の粘膜送達を促進するためのヒューペルジンA(セレジン)の製剤
ヒューペルジンAは、植物由来の天然に存在するACE阻害剤であり、シグマ・ケミカルズ(Sigma chemicals,セントルイス,ミズーリ州)より入手可能である。ヒューペルジンの粘膜送達を促進するためのヒューペルジンAの典型的な製剤は、以下の通りである:
【0170】
【表13】

【0171】
場合により、処理された動物は、水迷路学習モデルまたはその他の認知機能モデルにおける記憶の強化について試験することもできる。
実施例14
哺乳動物においてCNS障害を治療および予防するための粘膜送達用ACE阻害剤としてのガランタミンのカルボン酸塩の製造および使用
本発明の範囲内のCNS疾患および障害を予防および治療するための重要なACE阻害剤は、ガランタミンである。現在のところ、ガランタミンは、臭化水素酸塩として錠剤の形態または経口用溶液で経口で送達される。しかしながら、経口投与された薬物として、投与の1時間後に、ガランタミンのアセチルコリンエステラーゼ阻害が最大に到達する。鼻腔内用製剤は、経口投与されたガランタミンよりも短い時間でアセチルコリンエステラーゼ阻害を最大にすることが可能である。しかしながら、治療的に適切な用量のガランタミンを鼻腔内に送達するには、薬物濃度は、例えば40mg/mL過量に、好ましくは80mg/mLで含まれると予想される。これは、鼻内噴霧投与の体積の限界(鼻孔あたりスプレー1回で〜100μL)によって決定される。しかしながら、現在のところ利用可能な形態(すなわち臭化水素酸ガランタミン)の溶解性は、この目標に達していない。従って、溶解性を高めたガランタミン製剤を生産する必要がある。
【0172】
本発明は、新規のガランタミンのカルボン酸塩、例えばガランタミンのグルコン酸塩、ガランタミンの乳酸塩、ガランタミンのグルカル酸塩、および、ガランタミンのクエン酸塩を提供することによってこの必要性を満たす。意外なことに、本発明の新規のガランタミンのカルボン酸塩が、実質的に、臭化水素酸ガランタミンより可溶性であることが発見された。
【0173】
本発明の典型的な実施形態において、ガランタミンのカルボン酸塩は、臭化水素酸ガランタミンの臭化物を、カルボン酸塩の陰イオンで置換することによって生産され、これは、(1)臭化物と比較してより高い溶解性を提供し、(2)臭化物より弱い陰イオンである(以下で説明されているイオン交換における挙動によって説明した通り)。適切な対陰イオンの例は、式: R−(COO で示されるカルボン酸塩であり、式中、x≧1であり、Rは、アルキル基である。一実施形態において、Rは、炭素主鎖上に1またはそれ以上のヒドロキシル基を含む。このような具体的な実施形態の例としては、これらに限定されないが、グルコン酸塩、乳酸塩、グルカラート、安息香酸塩、酢酸塩、サリチル酸塩、酒石酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ステアリン酸塩、および、クエン酸塩が挙げられる。
【0174】
関連する実施形態において、本発明は、ガランタミンのカルボン酸塩を生産する方法を提供し、本方法において、形成されたカルボン酸塩の溶液は、溶液中でカルボン酸塩の陰イオンを生産する。このカルボン酸塩の陰イオンを含む溶液は、カルボン酸塩の陰イオンが陰イオン交換樹脂に結合する条件下で陰イオン交換樹脂に適用される。臭化水素酸ガランタミンは、溶液中で臭化物イオンが形成される条件下で、適切な溶媒(例えば水)に溶解する。次に、この臭化水素酸ガランタミンの溶液を、カルボン酸塩の陰イオンが置換され、臭化物陰イオンが陰イオン交換樹脂に結合し、ガランタミンのカルボン酸塩または複合体の形成が起こる条件下でイオン交換樹脂に添加する。一般的なタイプの陰イオン交換樹脂は、樹脂のマトリックス上のヒドロキシル基に直接的に付着したジエチルアミノエチル(DEAE−)、および、第四アミノエチル−(TEAE−、QAE)置換基である。適切なイオン交換プロセスとしては、これらに限定されないが、樹脂スラリーを用いたバッチプロセスが挙げられ、さらに、カラムに充填された樹脂を用いたプロセスも挙げられる。
【0175】
本発明は、臭化水素酸ガランタミンと比較して溶解性が増加したガランタミンの塩の形態、および、それらの製造方法を包含する。前記製造は、例えば、一般的にタンパク質およびペプチドの精製に用いられるイオン交換樹脂での塩の変換によって達成することができる。その強い陰イオン結合能力を利用して、まず、第四アンモニウム陰イオン交換樹脂は、R−(COOで飽和される。この弱い陰イオンが樹脂に結合した後、臭化水素酸ガランタミンが樹脂に充填される。この臭化物は、より強い陰イオンであるため、樹脂上のR−(COOを置換し、ガランタミンが新しいより可溶性の塩の形態で溶出する。元素分析によれば、樹脂から溶出された分画において900倍の臭化物が消費されたことが確認された。次に、水を除去して、この新しいガランタミン塩を濃縮してもよい。
【0176】
本発明は、これまで存在していた濃度の限界という障壁を取り除くことによって鼻用製剤の開発を容易にする。溶解性を、新しい塩が形態され、臭化水素酸ガランタミンの濃度より少なくとも10倍高めることができる。臭化水素酸ガランタミンの水中の最大濃度は、約35mg/mL(121mM)である。一般的に報告されている臭化水素酸ガランタミンの水溶解性は、50mMである。驚くべきことに、新規のガランタミンのカルボン酸塩のガランタミンのグルコン酸塩、および、ガランタミンの乳酸塩はいずれも、約400mg/mL(1.39M)の水溶解性を有する。現在のイオン交換バッチプロセスの実験スケールでの典型的な収率は、89〜97%である。以下の実施例で、追加の方法論の詳細と実験データを示す。
【0177】
バッチプロセスとは、プロセスの開始時にフィードが系に入れられ、数時間後に生成物を一度に取り出すプロセスである。フィードが入れられた時間と、生成物を取り出す時間との系の境界を物質が行き来することはない。
【0178】
連続プロセスにおいて、インプットとアウトプットは、プロセスの持続時間中ずっと連続的に流れる。
濃度の障壁が除去されたため、鼻への送達のためのガランタミン製剤は、溶解性の問題を解決するための賦形剤(例えば、溶解促進剤)を添加しなくても達成することができる。鼻の送達に要求される小さい体積は、もはやガランタミン鼻腔内用製剤の開発のための要因を制限するものではない。一般的に経口的に送達される最大用量の24mgガランタミンでも、1回の鼻内噴霧用量100μLでうまく送達できる。
【0179】
これらのガランタミンの塩の溶解性は、臭化水素酸ガランタミンと比較して、典型的には少なくとも2倍の増加、しばしば少なくとも5〜6倍の増加、および、10倍までの増加、15倍の増加、または、20倍またはそれ以上もの増加を示す。これらのガランタミン塩を個体に投与することによって、アルツハイマー病、腸管および膀胱の平滑筋の緊張減退、緑内障、重症筋無力症のような病気において、ならびに、競合的な神経筋遮断薬の作用の終了の治療においてアセチルコリンエステラーゼを阻害することができる。これらのガランタミンのカルボン酸塩の典型的な用量は、約16〜32mg(1日2回投与)である。また、ここで考慮されるその他のそれより低い用量またはそれより高い用量および投与計画も、患者や上述したような治療基準に応じて有用であると予想される。
【0180】
実施例15
バッチイオン交換プロセスでのQAEセファデックス(QAESEPHADEX)(登録商標)スラリーを用いたガランタミン塩の臭化物からグルコン酸塩への変換
ガランタミンのグルコン酸塩を以下の手順に従って生産した。
【0181】
【表14】

【0182】
【表15】

【0183】
QAEセファデックス(登録商標)の製造
QAEセファデックス(登録商標)は、3.0±0.4meq/gを有する。陰イオン交換部位がガランタミンの100倍過量になるように、250mLビーカー中で、8.88gの乾燥粉末QAEセファデックスを、室温で2日間、水で予め膨潤させた。(以下の、必要なQAEセファデックス(登録商標)の量を決定する計算のためのチャートを参照)。
【0184】
【表16】

【0185】
QAEセファデックス(登録商標)を某潤させた後、1Mグルコン酸ナトリウム、pH5.0で3回リンスして、全ての陰イオン結合部位にグルコン酸塩を十分に結合させた。次に、このスラリーを純水で3回洗浄し、溶液中で過量の塩を除去した。
【0186】
ガランタミンサンプルの製造
25mg/mLガランタミンHBr溶液を、100mgガランタミンを4mLの純水に加えることによって製造した。この溶液をボルテックスで混合して、ガランタミンを溶解させた。
【0187】
イオン交換
QAEセファデックス樹脂を製造した後に、ガランタミンHBr溶液をバッチに添加し、スラリー中で臭化物イオンをQAEセファデックス(登録商標)に結合させ、グルコン酸塩を樹脂から溶出させ、ガランタミンと複合体化させた。この溶液を、穏やかに撹拌しながらスラリー中に30分間放置した。ろ過によって樹脂からガランタミンのグルコン酸塩を回収した。サンプルを遠心分離して、溶液中の樹脂から全ての粒子を除去した。
【0188】
水の除去
Virtis(ガードナー,ニューヨーク州)製のベンチトップ2K(BenchTop 2K)凍結乾燥器を用いてサンプルを凍結乾燥した。50mL遠沈管中でサンプルを乾燥させ、表面領域の場を最大化した。
【0189】
溶解性試験
50mL中の乾燥させたガランタミンの重さを計った。溶液中のガランタミンの濃度を最大化するために、最小限の体積の純水を各サンプルにゆっくり添加した。ガランタミンを水に溶解させた後、この溶液を50mL遠沈管から除去し、遠沈管の重さを再度計って、重さの減少によって遠沈管中のガランタミンの量を決定した。最終濃度をHPLCによって決定した。
【0190】
HPLC方法
全てのサンプル(および、対応する「プラセボ」)を50mM蟻酸アンモニウムで1:150に希釈した。UV検出を用いた均一濃度のLC(ウォーターズ(Waters)のアライアンス(Alliance))方法を用いてサンプルを分析した。
カラム: ウォーターズのシンメトリー・シールド(Symmetry Shield),C18,5μm,25×0.46cm
移動相: 50mM蟻酸アンモニウム中の1.5%ACN(pH3.0)
流速: 1.3mL/分
カラム温度: 30℃
検量線: 0〜400μg/mLのガランタミンHBr(トクリス)
検出: 285nmのUV。
【0191】
結果
上述の手順を用いて、ガランタミンのグルコン酸塩の98.23%の回収が得られた。図2は、得られたガランタミン分画のUV吸光度を説明する。本発明に従って生産されたガランタミンのグルコン酸塩の溶解性は、少なくとも238mg/mLであり、これは、臭化水素酸ガランタミンの溶解性に対して溶解性がほぼ5.75倍増加したことを示す。元素分析により、ガランタミンに対する臭化物の比率が263倍減少していることが確認され、臭化物塩がうまく交換されたことが確認された。
【0192】
実施例16
バッチのイオン交換プロセスでのQAEセファデックス(登録商標)スラリーを用いたガランタミン塩の臭化物から乳酸塩への変換
【0193】
【表17】

【0194】
【表18】

【0195】
ガランタミンのグルコン酸塩を生産したのと同じ手順に従って(ただし、カルボン酸塩は、グルコン酸ナトリウムではなく乳酸ナトリウムであったことを除く)ガランタミンの乳酸塩を生産した。
【0196】
結果
上述のプロセスにより、収率89.74%のガランタミンの乳酸塩が生成した。このガランタミンの乳酸塩の溶解性は約314mg/mLであり、これは、臭化水素酸ガランタミンに対する溶解性の約9倍の増加より大きい。元素分析により、ガランタミンに対する臭化物の比率における227倍の減少が確認され、臭化物塩がうまく交換されたことが確認された。
【0197】
実施例17
ガランタミンの塩の形態の変換:臭化物の場合の、グルコン酸塩および乳酸塩への変換
【0198】
【表19】

【0199】
【表20】

【0200】
QAEセファデックス(登録商標)の製造
QAEセファデックス(登録商標)は、3.0±0.4meq/gを有する。陰イオン交換部位がガランタミンの100倍過量になるように、17.6gの乾燥粉末QAEセファデックス(登録商標)の2つの別々のアリコートを、室温で2日間、水で予め膨潤させた。(以下の必要なQAEセファデックス(登録商標)の量を決定する計算のためのチャートを参照)。
【0201】
【表21】

【0202】
QAEセファデックス(登録商標)を某潤させた後、1Mグルコン酸ナトリウムで3回、または、1M乳酸ナトリウムで4回のいずれかでリンスし、グルコン酸塩または乳酸塩を全ての陰イオン結合部位に十分に結合させた。次に、このスラリーを純水で3回洗浄し、溶液中で過量の塩を除去した。
【0203】
ガランタミンサンプルの製造
2つの25mg/mLのガランタミンHBr溶液を、200mgのガランタミンを8mLの純水に加えることによって製造した。この溶液をボルテックスで混合し、ガランタミンを溶解させた。
【0204】
イオン交換
QAEセファデックス(登録商標)樹脂を製造した後、このガランタミンHBr溶液をバッチに添加した。QAEセファデックス(登録商標)に結合した臭化物イオン、および、グルコン酸塩または乳酸塩を、ガランタミンと共に複合体化した。この溶液をビーズ上で60分間放置し、室温で穏やかに撹拌した。ガランタミンのグルコン酸塩またはガランタミンの乳酸塩をろ過によって樹脂から回収した。最初のサンプルを回収した後に、樹脂に水を加えることによって複数の分画を樹脂から回収した。これにより、ガランタミンの回収を最大化することができる。サンプルを遠心分離して、回収された分画中の樹脂から全ての粒子を除去した。濃度をHPLCによって決定した。
【0205】
水の除去
Virtis(ガードナー,ニューヨーク州,モデル#393775)製のベンチトップ2K凍結乾燥器を用いてサンプルを凍結乾燥した。50mL遠沈管中でサンプルを乾燥させ、表面領域の場を最大化した。
【0206】
溶解性試験
50mL遠沈管中の乾燥させたガランタミンの重さを量った。溶液中のガランタミンの濃度を最大化するために、最小限の体積の純水を各サンプルにゆっくり添加した。ガランタミンが水に溶解した後、この溶液を50mL遠沈管から除去し、遠沈管の重さを再度量り、重さの減少によって遠沈管中のガランタミンの量を決定した。
【0207】
HPLC方法
全てのサンプル(および、対応する「プラセボ」)を50mM蟻酸アンモニウム(pH3.0)で1:150に希釈した(すなわち10μLサンプルを1490μLの希釈液と混合した)。
【0208】
UV検出を用いた均一濃度のLC(ウォーターズ,アライアンス)方法を用いてサンプルを分析した。
カラム: ウォーターズのシンメトリー・シールド,C18,5μm,25×0.46cm
移動相: 50mM蟻酸アンモニウム中の1.5%ACN(pH3.0)
流速: 1.3ml/分
カラム温度: 30℃
検量線: 0〜400μg/mLのガランタミンHBr(トクリス)
検出: 285nmのUV。
【0209】
結果
上述のプロセスにより、収率83%のガランタミンの乳酸塩が生成した。このガランタミンの乳酸塩の溶解性は、少なくとも395mg/mLであり、これは、臭化水素酸ガランタミンに対する溶解性の11倍の増加より大きい。その上、上述のプロセスにより、収率87%のガランタミンのグルコン酸塩が生成した。ガランタミンのグルコン酸塩の溶解性は、少なくとも395mg/mLであり、これは、臭化水素酸ガランタミンに対する溶解性の11倍の増加より大きい。
【0210】
実施例18
1mLのQセファロース(Sepharose)(登録商標)カラムを用いた、臭化物から乳酸塩へのガランタミン塩の変換
【0211】
【表22】

【0212】
【表23】

【0213】
HiTrapQセファロース(登録商標)FFカラムの製造
HiTrapQセファロース(登録商標)FFカラムを説明書のマニュアルに従って平衡化した。まず、1mLのカラムをカラム体積の5倍量の水で洗浄し、保存剤と貯蔵緩衝液を除去した。その後カラムをカラム体積の5倍量の1M乳酸ナトリウムで洗浄してカラムの下準備をした。最終的に、カラムをカラム体積の5〜10倍量の水で洗浄し、過量の塩を除去した。溶出液を導電率計でモニターして、全ての過量の塩がカラムから溶出しなくなることを調べた。
【0214】
ガランタミンサンプルの製造
1mLの30mg/mLのガランタミンHBr溶液を製造した。この溶液をボルテックスで混合し、ガランタミンを溶解させた。
【0215】
ガランタミンHBrがガランタミンの乳酸塩にうまく変換するのに必要な過量の樹脂の最小量を決定するために、1mLカラムに様々な量のガランタミンを充填して、存在するガランタミンのモル数に対する50倍、20倍および10倍過量のQセファロース(登録商標)のイオン容量を試験した。樹脂のイオン容量は、0.18〜0.25mmole/mLゲルであった。(以下の、1mLカラムに充填するガランタミンの量を決定する計算のためのチャートを参照)。
【0216】
【表24】

【0217】
イオン交換
HiTrapQセファロース(登録商標)カラムを製造した後に、ガランタミンHBr溶液を注射器で約1mL/分で充填した。Qセファロース(登録商標)に結合した臭化物イオン、および、ガランタミンの乳酸塩と共に複合体化した。カラム体積の5〜10倍量の水でカラムを洗浄することによって、ガランタミンの乳酸塩をカラムから溶出させた。カラムから複数の1mLの分画を回収し、ガランタミンの回収を最大化した。A285を測定することによって、サンプルを、伝導率、浸透圧モル濃度、pHおよびガランタミン含量に関して試験した。濃度をHPLCによって決定した。
【0218】
水の除去
Virtis(ガードナー,ニューヨーク州)製のベンチトップ2K凍結乾燥器を用いてサンプルを凍結乾燥した。15mLの遠沈管中で6個のサンプル(総体積2〜4mL)を乾燥させ、表面領域の場を最大化した。
【0219】
溶解性試験
溶液中のガランタミンの濃度を最大化するために、最小限の体積の純水を各サンプルにゆっくり添加し。ガランタミンを水に溶解させた後、この溶液を、マイクロ遠沈管に移した。
【0220】
浸透圧モル濃度の測定
アドバンスト・インスツルメンツ社(Advanced Instruments Inc.)(ノーウッド,マサチューセッツ州)製のアドバンスト・マイクロオズモメーター(Advanced Micro Osmometer)モデル3300,S/N9812146Hを20マイクロリットルサンプラー、および、使い捨てのサンプルチップと共に用いてサンプルを測定した。
【0221】
伝導率の測定
トレーサブル(Traceable)(登録商標)ポータブル伝導率計をVWRインターナショナル(VWR International)製のプローブと共に用いて伝導率を測定した。
【0222】
臭化物イオン濃度の決定
オリオン520Aプラス(Orion520Aplus)pHメーター(サーモ・エレクトロン社(Thermo ElectronCorp),米国)を備えたイオンプラス・シュアー・フロー(Ionplus Sure Flow)臭化物プローブ、オリオンモデル9635BNを用いて臭化物イオンを測定した。
【0223】
UV分光光度計の測定
バイオテック・インスツルメンツ(Biotek Instruments,ウィヌースキ,バーモント州)製のμQuant光学密度プレートリーダーで、KCJrソフトウェアを用いて、285nmでUV吸光度を読み取った。各ウェルに100μLのサンプルを充填した。水をブランクとして用いた。ガランタミン濃度の推定値を得るために、3つのコントロールを充填した:水中、0.333mg/mL、0.111mg/mL、および、0.055mg/mLのガランタミンHBr。これらから、ラインをプロットし、カラムからの分画の濃度を決定した。
【0224】
HPLC方法
UV検出を用いた濃度勾配LC(ウォーターズ,アライアンス)方法を用いてサンプルを分析した。
カラム: ウォーターズのシンメトリー・シールド,C18,5μm,25×0.46cm
移動相:
A:50mM蟻酸アンモニウム中の1.5%ACN(pH3.0)
B:ACN
流速: 1.3mL/分
カラム温度: 30℃
検量線: 0〜400μg/mLのガランタミンHBr(トクリス)
検出: 285nmのUV
サンプル希釈剤: 緩衝液A。
【0225】
結果
上述のプロセスにより、収率91%のガランタミンの乳酸塩が生産された。このガランタミンの乳酸塩の溶解性は、少なくとも217mg/mLであり、これは、臭化水素酸ガランタミンに対する溶解性の6倍の増加より大きい。臭化物イオン特異的プローブを用いた臭化物イオンの検出より、ガランタミンに対する臭化物の比率における約240倍の減少が実証され、臭化物塩がうまく交換されたことが確認された。
【0226】
実施例19
1mlのQセファロース(登録商標)カラムを用いた、臭化物からグルコン酸塩へのガランタミン塩の変換
【0227】
【表25】

【0228】
【表26】

【0229】
ガランタミンのグルコン酸塩を、上記の手法に従って生産した(ただし、カルボン酸塩が、乳酸ナトリウムの代わりにグルコン酸ナトリウムであったことを除く)。
結果
上述のプロセスにより、収率99%のガランタミンのグルコン酸塩が生産された。
ガランタミンのグルコン酸塩の溶解性は、少なくとも215mg/mLであり、これは、臭化水素酸ガランタミンに対する溶解性の6倍の増加より大きい。臭化物イオン特異的プローブを用いた臭化物イオンの検出より、ガランタミンに対する臭化物の比率における約228倍の減少が実証され、臭化物塩がうまく交換されたことが確認された。
【0230】
実施例20
1LのQセファロース(登録商標)カラムでの臭化物から乳酸塩へのガランタミン塩の変換
【0231】
【表27】

【0232】
【表28】

【0233】
Qセファロース(登録商標)FFカラムのパッキング
まず、アマシャムの説明書に従って、アマシャム・バイオサイエンス製のXK50/60カラム本体に、Qセファロース(登録商標)ファスト・フロー(Fast Flow)樹脂をカラムをパッキングした。簡単に言えば、20%エタノール溶液をQセファロース(登録商標)樹脂からデカントし、およそ75%の樹脂と25%の水を含むスラリーを製造した。次に、この樹脂を真空下で脱気した。底部を水で洗浄してカラムを製造し、空気系をパージした。カラムをアマシャム製のRK50リザーバ(RK50reservoir)を添加してパッキングした。脱気した樹脂を、側壁にそってカラムの丈を1回でゆっくりと流して注入した。カラムを、バイオ・ラッド(BioRad)のエコノ・ポンプ(Econo Pump)蠕動ポンプ(s/n700BR09961)に連結した。説明書に記載された樹脂に関する直線的な流速の上限は、400〜700cm/時間である。このポンプの最大流速は、20mL/分である。
【0234】
カラムの予備洗浄
カラムベッドをパッキングし、一定のベッド高さになったら、アダプターを取り付け、カラムをカラム体積の3〜5倍量の水で洗浄した。溶出液を伝導率によってモニターし、カラムが平衡に達したことを確認した。
【0235】
最初の水での洗浄の後に、カラムを、カラム体積5倍量の1M乳酸ナトリウムで洗浄するか、または、溶出液の伝導率の変化が止まり、カラムに充填される溶液の伝導率に一致するまで洗浄した。使用前に、1M乳酸ナトリウムを脱気した。流速は、12mL/分であった。
【0236】
1Mの塩の洗浄の後、カラムを第二の水の洗浄で処理し、カラムから過量の塩を除去した。使用前に、水を脱気した。溶出液を伝導率によってモニターし、この工程を、カラム体積の10倍量の水を用いるか、または、伝導率が30μS/cmより下に落ちるまで続けた。流速は、12mL/分であった。
【0237】
ガランタミンサンプルの製造
30mg/mLのガランタミンHBr溶液(33.3mL)を製造した。この溶液をボルテックスで混合し、ガランタミンを溶解させた。
【0238】
イオン交換
Qセファロース(登録商標)カラムを製造した後、ガランタミンHBr溶液を充填した。Qセファロース(登録商標)に結合した臭化物イオンおよび乳酸塩を、ガランタミンと複合体化した。カラムをカラム体積の2〜5倍量の水で洗浄することによって、カラムからガランタミンの乳酸塩を溶出させた。カラムから7.5mLの分画を回収し、ガランタミンの回収を最大化し、過量の塩から分離した。A285を測定することによって、サンプルを、伝導率、浸透圧モル濃度およびガランタミン含量に関して試験した。濃度をHPLCによって決定した。
【0239】
水の除去
Virtis(ガードナー,ニューヨーク州,モデル#393775)製のベンチトップ2K凍結乾燥器を用いてサンプルを凍結乾燥した。サンプル(総体積15〜20mL)を40mLガラス製バイアル中で乾燥させ、表面領域の場を最大化した。
【0240】
溶解性試験
溶液中のガランタミンの濃度を最大化するために、最小限の体積の純水を、各サンプルにゆっくり添加した。ガランタミンを水に溶解させた後、この溶液を、マイクロ遠沈管に移した。
【0241】
浸透圧モル濃度の測定
アドバンスト・インスツルメンツ社(ノーウッド,マサチューセッツ州)製のアドバンスト・マイクロオズモメーター,モデル3300を20マイクロリットルサンプラー、および、使い捨てのサンプルチップと共に用いてサンプルを測定した。
【0242】
伝導率の測定
トレーサブル(登録商標)ポータブル伝導率計をVWRインターナショナル製のプローブと共に用いて伝導率を測定した。
【0243】
臭化物イオン濃度の決定
オリオン520AプラスpHメーター(サーモ・エレクトロン社,米国)を備えたイオンプラス・シュアー・フロー臭化物プローブ、オリオンモデル9635BNを用いて臭化物イオンを測定した。
【0244】
UV分光光度計の測定
バイオテック・インスツルメンツ(ウィヌースキ,バーモント州)製のμQuant光学密度プレートリーダーで、KCJrソフトウェアを用いて、285nmでUV吸光度を読み取った。各ウェルに100μLのサンプルを充填した。水をブランクとして用いた。ガランタミン濃度の推定値を得るために、3つのコントロールを充填した:水中、0.333mg/mL、0.111mg/mL、および、0.0370mg/mLのガランタミンHBr。これらから、ラインをプロットし、カラムからの分画の濃度を決定した。
【0245】
HPLC方法
UV検出を用いた濃度勾配LC(ウォーターズ,アライアンス)法を用いてサンプルを分析した。
カラム: ウォーターズのシンメトリー・シールド,C18,5μm,25×0.46cm
移動相:
A:50mM蟻酸アンモニウム中の1.5%ACN(pH3.0)
B:ACN
流速: 1.3ml/分
カラム温度: 30℃
検量線: 0〜400μg/mLのガランタミンHBr(トクリス)
検出: 285nmのUV
サンプル希釈剤:緩衝液A。
【0246】
カラムからのガランタミンの回収
毎5番目の分画を、伝導率と285nmでのUV吸光度によってモニターした。以下の表3に結果を示す(766.8mgのガランタミン(1.000mgのガランタミンHBr)をカラムに充填した)。
【0247】
【表29】

【0248】
実施例21
PN159によるガランタミンに関する透過の促進
本発明の実施例は、本発明の典型的なペプチドであるPN159の、低分子量のACE阻害剤であるガランタミンに関する上皮の透過を促進する有効性を実証する。この実施例において、1またはそれ以上の透過性ペプチドとガランタミンとの組み合わせが説明される。この状況において有用な製剤は、としては、低分子のACE阻害剤(例えばガランタミン)と、透過性ペプチド(単独で、または、1またはそれ以上の追加の送達または透過促進剤と共に)との組み合わせが挙げられる。これらの製剤はまた、緩衝液、等張剤(tonicifying agent)、pH調節剤、安定剤、および/または、保存剤を含んでいてもよい。
【0249】
上述したように、ガランタミンは、ACE阻害剤であり、ニコチン性アセチルコリン受容体のアロステリックアゴニストである。これらの活性に基づいて、ガランタミンは本発明の範囲内でCNS疾患および障害を予防および治療するのに有用である。ガランタミンをACE阻害剤として用いる本発明の方法および組成物に係る治療で治療可能な病気としては、特に、哺乳動物における記憶障害、認知機能障害および痴呆に関連する神経学的状態、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン型痴呆、統合失調症の所定の形態、譫妄および痴呆の形態が挙げられる。適切なプラセボで処理した、またはその他のコントロール被検体と比較して、本明細書で説明されているようなガランタミン製剤で処理した試験被検体における、CNS障害の1またはそれ以上の症状の発生率、重症度または再発が減少していることを示すことによって、この状況における治療方法および組成物の治療有効性を実証することができる。典型的には、本発明の製剤または方法は、標的とされるCNS疾患に関連する1またはそれ以上の症状の発生率、重症度または再発において、少なくとも10%の減少が生じると予想される。多くの場合において、本発明の製剤および方法は、標的とされるCNS疾患に関連する1またはそれ以上の症状の発生率、重症度または再発において、少なくとも15〜25%、30〜50%、50〜75%、または、75〜90%の減少を示す。具体的な実施形態において、本発明の製剤および方法は、標的とされるCNS疾患に関連する1またはそれ以上の症状の発生率、重症度または再発において、90〜95%またはそれを超えた減少を示すと予想され、場合によっては、1またはそれ以上の、場合によっては全ての病気の症状の総合的な予防、除去または緩和を達成する可能性もある。例えば、アルツハイマー病患者において緩和または予防される病理学的な症状は、皮質下の領域におけるコリン作動性ニューロンの変性、および、前脳基底部から伸びるニューロン経路の変性、ならびに、関連する認知機能障害(これらは、記憶、注意力、学習およびその他の認知過程を評価するための様々な既知の認知性能評価ツールによって測定することができる)も含んでいてもよい。
【0250】
本発明の範囲内のACE阻害剤(例えばガランタミン)の鼻腔内送達に関する追加の説明は、例えばQuayによって2003年5月15日付けで出願された米国特許出願第10/439,108号に示されている。加えて、ここでの、本発明の範囲内で使用するための薬物の溶解性を著しく高めるカルボン酸塩の形態を得るためのガランタミンの塩の変換に関する補足の説明は、例えば、Quay等によって2004年4月23日付けで出願された米国特許出願第10/831,031号に示されている。
【0251】
本発明の実施例は、ガランタミンと透過性ペプチド(例えばPN159)とを併用した組み合わせ製剤および協調的な投与方法により、鼻粘膜を超えたガランタミンの透過が促進されることを実証する。このような薬物透過の増加は、ガランタミンは、独立して鼻の上皮膜を透過できる低分子物質であるため、予想外であった。それゆえに、より大きい分子(例えば治療用PTH、および、ペプチドYYペプチド)の透過を促進する透過性ペプチドの添加を介在させた、上皮を超えたガランタミン透過の顕著な促進は、驚くべきことである。特に、このような透過性ペプチドは通常、上皮組織層を超えた低分子の薬物(例えばガランタミン)の透過を著しく高めることは予想されない。それゆえに、本発明は、それらの生物学的利用率を高めることによって、ガランタミンおよびその他の低分子物質薬の鼻の送達を容易にすると予想される。
【0252】
本発明の研究において、溶液(pH5.0、および、浸透圧モル濃度〜270mOsm)中で、40mg/mlの乳酸塩の形態のガランタミンを、25、50および100μMのPN159と混合した。この組み合わせをインビトロでの上皮組織モデルを用いて試験し、上述のようなLDHおよびMTT分析によってガランタミン透過、経上皮電気抵抗(TER)および製剤の細胞毒性をモニターした。ガランタミンに関する透過測定を以下のような標準的なHPLC解析によって行った。
【0253】
HPLC解析
UV検出を用いた均一濃度のLC(ウォーターズ,アライアンス)方法を用いて、製剤および側底面の培地(透過サンプル)中のガランタミン濃度を決定した。
カラム:ウォーターズのシンメトリー・シールド,C18,5μm,25×0.46cm
移動相:50mM蟻酸アンモニウム中の5%ACN(pH3.0)
流速:1ml/分
カラム温度:30℃
検量線:0〜400μg/mlのガランタミンHBr
検出:285nmのUV。
【0254】
前述の研究に基づき、低分子物質の経粘膜送達を改善するための本発明の透過性ペプチド(例えばPN159)の有用性を実証した。モデルの低分子量の薬物として、ガランタミンを選択し、この分子に関する結果を、その他の低分子物質薬に関する透過性ペプチド活性の予測値とする。この状況において透過活性を評価するために、溶液(pH5.0、および、浸透圧モル濃度〜270mOsm)中で、40mg/mlの乳酸塩の形態のガランタミンを、25、50および100μMのPN159と混合した。この組み合わせを、インビトロでの上皮組織モデルを用いて試験し、LDHおよびMTT分析によってガランタミンの透過、経上皮電気抵抗(TER)および製剤の細胞毒性をモニターした。
【0255】
インビトロでの組織モデルにおいて、PN159の添加により、細胞バリアを超えた薬物透過が劇的に増加した。具体的には、40mg/mlのガランタミンのPappにおいて、2.5〜3.5倍の増加がみられた(図3)。
【0256】
図4で示されるように、PN159は、ガランタミンの存在下で試験された全ての3種の濃度で、TERをうまく減少させた。頂端面に塗布された培地はTERを減少させなかったが、トリトンX(Triton X)は予想通りにTERを減少させた。
【0257】
細胞生存率は、ガランタミンの乳酸塩とPN159の存在下では、試験された全ての濃度で高いまま(>80%)であった(図5)。培地およびトリトンXコントロールは、予想通りの挙動を示した。逆に言えば、LDHで測定したところ、PN159とガランタミンの乳酸塩の存在下で、細胞毒性は低かった。ここでも、培地およびトリトンXコントロールは、予想通りの挙動を示した(図6)。これらの分析はいずれも、PN159は、上皮膜にとって容認し難い程の毒性は有さないことを示す。
【0258】
前述の結果をまとめると、ここで、PN159は、驚くべきことに、モデルの低分子量の薬物としてガランタミンの上皮透過を増加させることが実証された。溶液中でPN159をガランタミンへ添加すると、上皮単層を超えたガランタミン透過を著しく促進する。証拠によれば、PN159は、高い細胞生存率と低い細胞毒性が測定されたことから、膜中の細胞にダメージを与えることなく上皮膜を超えたTERを一時的に減少させることが示される。それゆえに、PN159は、インビボでガランタミンおよびその他の低分子物質薬物の生物学的利用率を増強させるための典型的なペプチドである。さらに、PN159は、ガランタミンおよびその他の低分子物質薬の透過を、より高い濃度でも同様に促進すると予想される。
【0259】
実施例22
イヌ被検体において、ガランタミンの経口投与と比較して、ガランタミンの鼻腔内投与ではTmaxの減少が生じる
本発明の実施例は、ヒトにおけるACE阻害剤活性に関する予測モデル被検体として当業界で容認されているイヌ被検体における、鼻腔内送達経路によるガランタミンの投与を経口送達経路と比較して説明する。ここで示されたデータは、本発明の経鼻製剤により、経口投与と比較して、開始の速度の増加および/またはより高いCmax、および/または、催吐反応の減少が生じることを実証する。
【0260】
研究の設計
■イヌ1匹のクロスオーバー(cross over)(2日間の洗浄期間)
■3回の投薬:
◆鼻腔内に0.8mg/kgガランタミンの乳酸塩(80mg/mlのガランタミン(gal)、30mg/mlのMe−b−CD、レミニール(Reminyl)1.7mg/mlのDDPC、2mg/mlのEDTA)
◆0.8mg/kgレミニール(登録商標)経口用錠剤
◆0.8mg/kgレミニール(登録商標)経口用溶液(0.8mg/mlのガランタミン(gal))
■CSFおよび血液の採取:
◆0、2.5、5、10、15、30分間、1、2、4時間。
【0261】
図7は、イヌ被検体における、経口用錠剤、経口液体および鼻腔内送達により生じたガランタミンの血漿レベルを説明する。このデータから、明らかに、経口経路では約2〜3時間であったのに対し、Tmaxの減少(約30分間)が示される。CSFでも同じ傾向が観察された(図8)。開始の速度が重要な治療用途(例えば神経障害性の痛み)では、より速い開始の速度が極めて望ましい。
【0262】
実施例23
フェレットにおいて、ガランタミンの経口投与と比較して、ガランタミンの鼻腔内投与ではTmaxの減少、Cmaxの増加および胃腸の(GI)副作用の減少が生じる
この研究の目的は、当業界でヒトにおけるACE阻害剤活性の予測として容認されているクロアシイタチ被検体で、経口投与と鼻腔内投与とのガランタミンのPKを比較すること、さらに、吐き気の発生率を試験することであった。
【0263】
研究の設計
○8匹のナイーブフェレット/投与群;経鼻対経口
○催吐反応分析
○この分析は、承認された方法に基づく。フェレットを、吐き気および/または嘔吐の発症について4時間モニターし、観察した。
○2種類の製剤を投与した:
○催吐反応分析
○この分析は、承認された方法に基づく。フェレットを、吐き気および/または嘔吐の発症について4時間モニターし、観察した。
○試験された製剤:
◆鼻腔内:200mg/mlのガランタミン(gal)、30mg/mlのMe−b−CD、1.7mg/mlのDDPC、2mg/mlのEDTA
◆経口:レミニール(登録商標)経口用溶液中の20mg/mlのガランタミン。
【0264】
図9は、鼻腔内、経口送達の後のフェレットにおけるPK(血漿)の結果を説明する。これらのデータから、経口送達と比較して、鼻腔内送達では、Tmaxの減少、および、より高いCmax(約4倍)が証明される。経口と比較した鼻腔内投与の総体的な生物学的利用率は、約70%であった。
【0265】
図10は、様々な経路でのガランタミン投与後のフェレットにおける吐き気反応の発生率を示す。このデータから、経口投与に比べて鼻腔内経口投与に比べてでの嘔吐が劇的に減少したことが証明される。
【0266】
上述した発明を、理解を明確にする目的で例を挙げて詳細に説明したが、当業者には当然ながら、所定の変化および改変が添付の請求項の範囲内で実施可能であり、これらは例証として示され、限定するものではない。本明細書において、説明を省略するために様々な出版物およびその他の参考文献が前述の開示内に引用されている。これらの参考文献はそれぞれ、全ての目的において、その全体をこの参照により開示に含まれる。しかしながら、本明細書で述べられた様々な出版物は、本願の出願日より前のそれらの開示に関してのみ包含され、本発明者等は、先行発明に基づいて、このような開示に先行する権利を留保することに留意する。
【図面の簡単な説明】
【0267】
【図1】ラットにおける、1回の経鼻投与(0時間)、それに続くCSFと血漿の二重の測定(5、10、30および60分)の、ドネペジルの脳脊髄液(CSF)/血漿の比率のプロットを示す。
【図2】実施例15に記載のガランタミン分画の、紫外光(UV)の吸光度を示す。
【図3】インビトロでの上皮単層透過に対する40mg/mlのガランタミンの乳酸塩を併用した25〜100μMのPN159の作用を示す。
【図4】インビトロでのTERに対する40mg/mlのガランタミンの乳酸塩を併用した25〜100μMのPN159の作用を説明する。
【図5】MTTで測定した場合の、インビトロでの細胞生存率に対する40mg/mlのガランタミンの乳酸塩を併用した25〜100μMのPN159の作用を示す。
【図6】LDHで測定した場合の、インビトロでの細胞毒性に対する40mg/mlのガランタミンの乳酸塩を併用した25〜100μMのPN159の作用を説明する。
【図7】イヌ被検体における、様々な経路で投与した後の血漿のガランタミンレベルを示す。鼻腔内(ひし形);経口用溶液(三角形):経口用錠剤(四角形)。
【図8】イヌ被検体における、様々な経路で投与した後のCSF中のガランタミンレベルを示す。経口経路(四角形):鼻の経路(丸)。
【図9】フェレットにおける、様々な経路で投与した後の血漿のガランタミンレベル(Pは0.0001未満)を示す。
【図10】フェレットにおける、様々な経路でのガランタミン投与後の吐き気の発生率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.ガランタミンのカルボン酸塩を含む経鼻投与のための液体、ゲルまたは粉末製剤;および、
b.ガランタミンの経粘膜の薬物取り込みを促進するのに有効な少なくとも1種の透過促進剤、
を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記ガランタミンのカルボン酸塩は、ガランタミンの乳酸塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ガランタミンのカルボン酸塩は、ガランタミンのグルコン酸塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ガランタミンのカルボン酸塩は、ガランタミンの酢酸塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ガランタミンのカルボン酸塩は、ガランタミンのクエン酸塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ガランタミンのカルボン酸塩は、ガランタミンのグルカル酸塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ガランタミンのカルボン酸塩。
【請求項8】
溶液中で、カルボン酸塩の陰イオンがガランタミンの陽イオンと結合している、請求項7に記載のガランタミンのカルボン酸塩。
【請求項9】
前記カルボン酸塩の陰イオンは、1またはそれ以上のヒドロキシル基を含む、請求項7に記載のガランタミンのカルボン酸塩。
【請求項10】
ガランタミンのグルコン酸塩、ガランタミンの乳酸塩、ガランタミンのクエン酸塩、および、ガランタミンのグルカル酸塩、ガランタミンの安息香酸塩、ガランタミンの酢酸塩、ガランタミンのサリチル酸塩、ガランタミンの酒石酸塩、ガランタミンのメシル酸塩、ガランタミンのトシル酸塩、ガランタミンのマレイン酸塩、ガランタミンのフマル酸塩、および、ガランタミンのステアリン酸塩からなる群より選択される、ガランタミンのカルボン酸塩。
【請求項11】
ガランタミンのカルボン酸塩の製造方法であって:
溶液中でカルボン酸塩の陰イオンを形成するカルボン酸塩の溶液を形成すること;
該カルボン酸塩の陰イオンが陰イオン交換樹脂に結合する条件下で、該溶液を、陰イオン交換樹脂にアプライすること;
溶液中で臭化物イオンが形成される条件下で、臭化水素酸ガランタミンの溶液を形成すること;および、
カルボン酸塩の陰イオンが置換され、臭化物の陰イオンが陰イオン交換樹脂に結合し、ガランタミンのカルボン酸塩または複合体の形成が起こる条件下で、該臭化水素酸ガランタミンの溶液を陰イオン交換樹脂にアプライすること、
を含む、上記方法。
【請求項12】
ガランタミンのカルボン酸塩を哺乳動物に投与することによって、前記哺乳動物においてアセチルコリンエステラーゼを阻害する、薬品の製造におけるガランタミンのカルボン酸塩の使用。
【請求項13】
前記哺乳動物はヒトである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記ガランタミンのカルボン酸塩は、ガランタミンのグルコン酸塩、ガランタミンの乳酸塩、ガランタミンのクエン酸塩、および、ガランタミンのグルカル酸塩、ガランタミンの安息香酸塩、ガランタミンの酢酸塩、ガランタミンのサリチル酸塩、ガランタミンの酒石酸塩、ガランタミンのメシル酸塩、ガランタミンのトシル酸塩、ガランタミンのマレイン酸塩、ガランタミンのフマル酸塩、および、ガランタミンのステアリン酸塩からなる群より選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記哺乳動物はヒトである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記ガランタミンのカルボン酸塩は、溶液中で、カルボン酸塩の陰イオンがガランタミンの陽イオンと結合している、請求項12に記載の使用。
【請求項17】
前記哺乳動物はヒトである、請求項16に記載の使用、。
【請求項18】
前記カルボン酸塩の陰イオンは、1またはそれ以上のヒドロキシル基を含む、請求項16に記載の使用。
【請求項19】
前記哺乳動物はヒトである、請求項18に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−534686(P2007−534686A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509671(P2007−509671)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/013776
【国際公開番号】WO2005/102275
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(506352407)ナステック・ファーマシューティカル・カンパニー・インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】