説明

噴霧スプレーを用いた金属皮膜の堆積方法

【課題】噴霧スプレーを用いた金属皮膜の堆積方法を提供すること。
【解決手段】高温動作環境下で金属基材(17)の耐酸化性及び耐食性を高めるため、ガスタービンエンジンの第2段及び第3段における部品などの金属基材(17)のコーティング方法であって、本方法は、高融点超合金又はMCrAlY(式中、MはFe、Ni及び/又はCoを含む)成分(14)と、約2〜5重量%のケイ素、ホウ素又はハフニウムを含有する低融点成分(15)とからなる粉体混合物を形成する段階と、噴霧スプレーを用いて室温で金属基材(17)の表面に粉体混合物を施工し、均一な表面皮膜を形成する段階と、真空条件下の被覆した基材表面を約1900°F〜2275°Fの範囲の温度まで加熱して、下層の基材に耐酸化性をもたらす均一な皮膜組成物(19)を得る段階と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に施工される金属、セラミック又は複合材料皮膜に関し、より詳細には、長期間にわたり過酷な環境で動作する金属ガスタービンエンジン部品に施工される保護皮膜のような、侵食性環境に曝される金属基材に使用するための、耐酸化性、耐食性、耐熱性及び耐摩耗性皮膜に関する。本発明はまた、風力タービン部品の耐摩耗性皮膜並びに非金属基材に施工される皮膜など、低侵食性及び低温環境において金属基材に施工される保護皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
超合金のような特殊材料から形成される部品は、広範な産業用途において限界動作条件下で使用される。発電分野において、作動部品は常に、長期間にわたる酸化、腐食、浸食及び摩耗などの表面劣化に対する耐性を高めるために皮膜を設けなければならない。例えば、シュラウド及び翼形部など、1500°Fを上回る温度に曝されるガスタービン部品は通常、最初の製造中に及び/又は停止時の補修中に被覆され、高温で長期間にわたる酸化雰囲気に曝されたときの酸化、腐食及び粒子浸食からの保護を向上させるようにされてきた。
【0003】
従前、従来の保護皮膜は、皮膜のミクロ組織及び機械的特性を最適化するように設計された技術を用いて金属基材に施工されていた。しかしながら、皮膜は、高価であり、複雑なプロセス制御を伴い、物品の被覆に相当な停止時間が要する傾向がある。このようなプロセスの実施例には、減圧プラズマ溶射(LPPS)、真空プラズマ溶射(VPS)、高速フレーム(HVOF)、大気プラズマ溶射(APS)及び電子ビーム物理蒸着(EBPVD)が含まれる。タービン部品はまた、蒸気、パック又はスラリープロセスで施工された拡散アルミナイドを用いて補修されていた。残念なことに、多くの公知の従来技術の皮膜は、時間の経過と共に脆弱になり、或いは、タービンエンジンが運転の始動及び停止を繰り返すときに生じる温度サイクル及び金属疲労に起因した亀裂を生じる傾向がある。経時的な脆弱さを軽減するために皮膜を変性すると、酸化に対する耐性が低下することが多い。
【0004】
ガスタービン部品の耐摩耗及び耐酸化に関する懸念は、高温(例えば、1000℃以上)で作動する多段エンジンで使用されるような、超合金から形成された金属構造体においては特に深刻である。露出金属部品上に保護皮膜が無い場合、高温のガス作動流体の酸化雰囲気は、化学的性質、従って、金属構造体の特性を急激に変化させる可能性がある。ある領域における材料特性の重大な欠点は、機械的完全性及びシステム全体の信頼性に極めて好ましくない影響をもたらす場合がある。従って、部品の寿命を延ばす種々の方法は、保護皮膜で重要な部品表面を覆うようにして開発されてきた。保護皮膜中のアルミニウムの存在は耐酸化性を改善するが、過剰なアルミニウムはまた、皮膜の延性を低下させ、結果として長期間にわたる運転中の亀裂及び皮膜の初期の利点が最終的に損なわれることになる。
【0005】
超合金と共に利用されるほとんどの耐酸化性皮膜は、一般式MCrAlY(式中、Mは鉄、ニッケル及び/又はコバルトを含む)を有する合金を含む。好ましくは、皮膜は、最大の寿命及び空力効率を達成するために、円滑で均一な制御された厚みを有する最終層として施工される。このような皮膜を施工するのに利用された従来の溶射技術は、動作環境、部品のサイズ及び作動流体の性質に応じて、プラスとマイナスの属性を有する。VPS施工は、例えば、最終保護皮膜に金属酸化物が存在してはいけない場合に有用である。
【0006】
他方、VPS及びHVOF技術は、適度な堆積速度及び許容可能なミクロ組織を得るために見通しガン角度を有する小区域で使用するには大きすぎるか又は扱いにくい場合がある溶射装置の物理的制限に起因して、アクセスし難い基材領域に皮膜を施工する際にはあまり有効ではない。また、ほとんどの溶射プロセスには、局所的補修を実施する際に、高コストで時間がかかる可能性がある1段階以上のマスクキングステップが含まれる。同様に、他の公知の皮膜系は、高価で、複雑なプロセス制御を必要とし、目的の部品を効果的且つ確実に被覆するために相当なダウンタイムを必要とする傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6432487号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明は、過酷な動作環境に曝されるガスタービンエンジン部品などの基材の高温での耐酸化性を高めるため、該基材の新規なコーティング法を提供する。本発明による例示的な方法は、高融点超合金成分及び低融点ろう付けバインダー成分の粉体混合物を形成する段階と、噴霧スプレー(atomized spray)を用いて室温で基材の表面に粉体混合物を施工し、基材表面上に実質的に均一な厚みの皮膜を形成する段階と、皮膜に強度及び耐酸化性/耐食性を与えるのに十分な温度まで基材を加熱する段階と、を含む。
【0009】
一実施形態では、本方法は、高融点超合金成分又はMCrAlY(式中、MはFe、Ni及び/又はCoを含む)と、ケイ素、ホウ素、ハフニウム又は金を含む低融点成分とからなる粉体混合物を利用する。加熱段階は、約1900°F〜2275°Fの範囲の温度で真空条件下で行って液相を生じさせ、高融点粉体を懸濁せしめ、液相焼結によって金属結合を成長させる。本発明は、ガスタービンエンジン部品の金属基材の補修に使用すると特に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を利用できる従来のろう付け皮膜応用における基本プロセスステップのブロックフロー図。
【図2】本発明による噴霧スプレー技術及びその後の処理ステップを用いて、金属皮膜を形成し堆積するのに使用される基本ステップを示す簡易プロセスフロー図。
【図3】本明細書で記載される低融点成分及び高融点成分の変化に基づいた、本発明によるろう付けプロセスで使用する異なるレベルのケイ素の種々の皮膜組成物を示す図。
【図4】様々な低融点成分及び高融点成分についての一定真空条件及び一定加熱率の下で実施された、本発明による例示的なろう付けサイクルの時間対温度のグラフ。
【図5】様々な低融点成分及び高融点成分のケイ素の量が変化した、本発明による例示的な皮膜の一連の顕微鏡写真。
【図6】本発明による皮膜形成法の代替の実施形態において生じた観測された物理的変化を反映した一連の顕微鏡写真と、同じ一連の顕微鏡写真に対応する図4に示すのと同様の時間/温度のグラフ。
【図7】従来技術の基準皮膜組成物と比較した、室温(「RT」)で求められた歪み値を有するそれぞれの脆性レベル(歪みのパーセントとして表される)を示す、本発明による方法で使用される4つの異なる代替の皮膜組成物についての歪み/耐性グラフ。
【図8】従来技術の皮膜を表す基準値と比べて炉サイクル数を増加させたときの皮膜の重量変化をプロットした、本発明による種々の皮膜組成物について1700°Fで実施したFCT試験結果のグラフ。
【図9】本発明に従って施工され図8のように試験された例示的な皮膜組成物の断面を示す一連の顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ガスタービンエンジンで遭遇するような極限状態に曝される基材上に皮膜を堆積させる新規のコスト効果のある迅速な方法を提供する。本発明による例示的なプロセスは、噴霧スプレー技術を用いて、所定量の低い溶融化合物を含有する耐性皮膜の制御量をタービンノズル、ブレード又は他の部品などの金属基材上に堆積させることによって室温で金属皮膜を施工する。次に、被覆された要素は、以下で説明する制御プロセス条件の下で真空熱処理に曝される。
【0012】
著しいことに、本発明による方法は、従来のコーティング技術では典型的な火炎又は金属粉体懸濁液の使用を伴わず、代わりに、金属基材表面上に均一な金属結合を形成できるように注意深く制御された時間/温度条件下で真空炉ないでの熱処理を利用する。その結果、本方法は、コスト効果があり適宜の様態でタービン部品のガス経路表面全てを被覆するのに特に有用である。この技術はまた、物品全体の被覆又は予め被覆された部品に追加の皮膜(「ビルドアップ」)を提供するのに用いることができる。
【0013】
本発明による例示的な金属基材のコーティング方法は、以下の基本ステップを含む。最初に、高融点超合金成分又はMCrAlY(式中、MはFe、Ni又はCoを含む)粉体を含有する粉体混合物を形成する。例示的なMCrAlY組成物としては、限定ではないが、本願出願人に譲渡された米国特許第6730413号(Schaeffer他、「Thermal Barrier Coating(遮熱コーティング)」)及び同第6610420号(Thompson他、「Thermal Barrier Coating system of a turbine Engine Component(タービンエンジン部品の遮熱コーティング系)」)に記載されるものがある。結果として得られる粉体混合物は、噴霧スプレーを用いて室温で金属基材の表面に施工され、正確な厚みを有する滑らかで均一な皮膜を基材表面上に形成する。
【0014】
皮膜はまた、「塩胡椒(salt and pepper)」技術を用いて又はペースト組成として施工することができる。塩胡椒技術では、粉体は、該粉体を固定するために表面に接着剤を塗った部品表面に乾式施工される。次に、粉体は、炉サイクルの間焼成される。被覆基材表面は通常、真空条件(約5×104torr)下で液体状態の低融点化合物よりも約25〜150°F高い、通常は約1900°F〜2300°Fの範囲にある持続温度まで加熱される。このプロセス段では、低融点化合物は液体状態にあり、高融点成分は、液相で懸濁されたままである。低融点成分は、好ましくは、約2〜12重量%の量のケイ素を含む。ケイ素は、低融点成分中の融点降下材として機能し、また、最終皮膜の耐酸化性を向上させる。代替の低融点成分は金(Au)である。
【0015】
従って、基材に施工される皮膜粉体は、高融点成分と低融点成分とのブレンドを含む。皮膜が室温で施工されるので、基材表面に皮膜粉体が接着するのを助けるためにバインダーが使用される。バインダーは、真空処理中に燃え尽きる。高融点成分と低融点成分との比率は、高融点成分の量が10〜60重量%の範囲、残部が低融点成分であるように調整可能である。皮膜は、「未処理」の状態で施工され、次いで、完全ろう付けに通常必要な温度(例えば、1900〜2275°F)で真空処理される。結果として得られる層は、高温動作環境においてニッケル及びコバルト合金に対して優れた酸化及び腐食保護の利点が追加された新規のミクロ組織を形成する。
【0016】
空気噴霧スプレープロセスを用いて、本発明による皮膜組成物をタービンバケット又はノズル(或いは、その選択部分)に数時間ではなくおよそ数分以内で施工することができる。例示的な皮膜は、以下の様態で実施する。超合金又はMCrAlY皮膜は、低融点の別の化合物と混合される。低融点成分は、超合金ろう付けに従来から使用されている化学物質とすることができる。ろう付け合金における融点降下材は通常、B、Si、P、その他からなる。本発明におけるSiの役割は2つある。第1に、低融点成分における融点降下材として機能する。第2に、皮膜の耐酸化性を改善する。本発明による皮膜は、室温で施工されるので、真空熱処理中に金属結合が形成されるまで粉体が基材表面上に留まるように、バインダーが実質的に「接着剤」として使用される。次いで、バインダーは、真空熱処理中に燃え尽きる。
【0017】
本発明によるプロセスにおいて、高融点粉体が低融点粉体と混合され、従って、施工される最終粉体は、異なる融点を有する2つの化合物のブレンドとされる。一例として、(Ni−8Cr−10Al)50%と(Ni−12Cr−2Al−4Si)50%の混合は、2つの異なる融点を有するブレンド組成物を形成する。特に、同じ基本化学組成物を有するが、2つの別個の化合物の配合に基づいていない基材皮膜(例えば、Ni−10Cr−6Al−2Si)は、許容可能な代替物として機能することができず、施工皮膜の最終化学組成物が本質的に同じであっても、本発明の利益をもたらすことはない。
【0018】
一実施形態では、本発明によるシステムは、液体の低融点構成物質を上回る温度まで加熱され、所定持続時間の間当該温度に維持される。この時点では、低融点成分だけが液体状態にある。低融点成分は、高融点粉体粒子を囲み、液相焼結による結合を形成する。次いで、温度が約150〜200°Fに低下され、所定時間の間低温に維持され、最終皮膜組成物を均質にするよう拡散を可能にする。
【0019】
以下で詳細に述べる保護皮膜は、TBC系のオーバーレイとして又は金属ボンドコート自体として機能を果たすことができる。本プロセスはまた、より小さな部品部分への局所補修に用いることができ、これにより部品を完全に剥離して再被覆する必要性、或いは、被覆される区域に応じて手作業でもしくはロボットを使用することによって重要なタービン部品部分への「ビルドアップ」皮膜を実施する必要性が排除される。これによりプロセスは、補修サイクル時間及び被覆サイクルコストを飛躍的に低減して、複雑なアルミメッキ及びクロムメッキ法に置き替わることができる。本発明はまた、全寿命に対してHVOF及びVPS品質を必要としないタービン部品に使用する場合に有利である。耐酸化性皮膜材料を生成するための本発明の例示的な実施形態は、ニッケル、コバルト、鉄からなる群から選択された少なくとも1つの金属を含む高融点超合金又はMCrAlY型成分を、ケイ素又は金などの融点降下材を含有する低融点成分と混合することから始まる。低融点組成物は通常、ニッケルとケイ素などの融点降下材とを少なくとも約40重量%含む。次いで、結果として得られる粉体をバインダー成分と共に室温で溶射プロセスを用いて金属基材に施工する。
【0020】
新規の皮膜組成物は、「未処理」状態で施工され、次いで、金属結合に必要な温度(1900〜2275°F)で熱処理される。スプレー工程で施工された結果として得られた層は、ニッケル、コバルト及び鉄基合金に酸化及び腐食に対する保護を向上させる。上述のように、ケイ素を所定量使用することで、予期しない多大な利点が得られる。但し、ケイ素は、融点降下材としての役割に加え、耐酸化性及び耐食性をもたらす。他の融点降下材は、同じ耐酸化性及び耐食性を提供できない。ケイ素含有量は、脆弱な皮膜生成を避けるため、所定の重量パーセント範囲(好ましくは2〜5重量%)内に維持される。初期皮膜が施工された後、熱処理は、最初の施工時に基材表面の「湿潤化」を助けるのに用いたバインダーを「焼き尽くす」ステップを含む。従って、本発明による例示的なろう付け組成物は、高融点及び低融点の出発材料の組み合わせを様々な重量パーセント(すなわち、高融点成分の10%〜60%の範囲)で使用する。
【0021】
各図面のうちの図1を参照すると、噴霧スプレー技術を用いたケイ素含有の金属皮膜を堆積させる基本ステップを示す簡易プロセスフロー図が、全体を符号10で示されている。最初の噴霧スプレー段階11は、空気中の室温で行われ、次に、以下で説明する加熱サイクルによる真空ろう付け段階12が続く。室温での噴霧器タイプのスプレーの使用は、上述の優れた環境上の利益をもたらす統合保護皮膜とろう付け作業(通常、基材亀裂の補修に使用される)を組み合わせることを含め、本発明の関連において特定の利点がある。皮膜は、何らかの拡散アルミナイドなどの他の皮膜と比べて、ろう付け補修部品とより適合性がある。皮膜施工及び熱サイクルが完了した後、最初に被覆された製品は、13において任意選択の機械的表面仕上げを受けて、使用できる状態の最終製品にされる。
【0022】
同様に図2は、本発明の簡易プロセスフロー図を示す。高融点成分14(通常、超合金又はMCrAlY)と低融点粉体15(好ましくは、約2〜5重量%のケイ素を含有する)の混合物は、この場合も同様に溶射技術を用いて室温で基材17に施工されるときに粉体を「未処理」状態で保持するため、バインダー材料16と組み合わされる。次に、被覆した基材は、図4及び図6に関して説明されるように熱処理され、ここでは、基材表面に接着された皮膜19を残して、元の混合物中のバインダー材料18が燃焼し尽くされる(図5参照)。
【0023】
図3は、高融点成分が10重量%〜60重量%の範囲及び対応する低融点粉体成分が90重量%〜約40重量%の範囲で、異なる量の低融点及び高融点成分を有する、本発明によるろう付けプロセスで使用するための種々の皮膜組成物を示している。図3の組み合わせの全てが、約1000時間にわたり通常動作温度で試験したときに耐酸化性が有意に改善されたことを示している点に留意されたい。
【0024】
図4は、低融点成分及び高融点成分の異なる混合物について一定真空条件(圧力が5×10-4torr未満に維持される)及び一定加熱率(15〜25°F/分)の下で実施された、本発明による例示的なろう付けサイクルの時間対温度のグラフである。図4は、様々な指定温度レベルでの加熱サイクル及び対応する加熱期間中に達成される最高閾値温度を示している。例示的な実施形態では、段階的に被覆基材表面を加熱するステップは、約4〜6時間にわたって均一に行われる。従来の炉処理、並びに被覆される部品が皮膜堆積物を焼結するのに必要な高温にまで加熱できない場合には、電子ビーム、レーザ又はプラズマ加熱を含む、様々な加熱法を用いて本発明によるプロセスを実施することができる。
【0025】
図5は、顕微鏡写真31、32、33及び34で識別される、異なる量のケイ素並びに様々な低融点成分及び高融点成分を有する、本発明による例示的な皮膜を表す一連の顕微鏡写真30を示している。記号表示「HM」(高融点)及び「LM」(低融点)は、種々の高融点及び低融点組成物を特定し、すなわち、「HM1」はNiCrAlY粉体(高融点)、「HM2」はNi−Al−Cr−Ta−W−Co−ReのNi基合金(高融点)、「LM」はNi−Co−Cr−Siろう付け粉体(低融点)である。試験中に観測されたミクロ組織特性は、高融点成分40重量%及び低融点成分60重量%の混合物が最小気孔率を有する均一な皮膜をもたらすことを示している。
【0026】
図6は、この場合も同様に基材に施工された皮膜組成物の熱処理後に観測された物理的変化を反映した、高融点成分40重量%及び低融点成分60重量%を含有する皮膜組成物の一連の顕微鏡写真40〜41を示している。詳細には、顕微鏡写真の電子顕微分析では、ケイ素リッチな第二相の形成が明らかになっている。従って、この更なる実施形態では、ケイ素リッチ相は、追加の時間期間にわたる高温での追加の加熱サイクルにより軽減され、最終皮膜のどのような脆弱性の増加も認められることなく、第2相中のケイ素のサイズ及び均質分布の完全をもたらす。改善された組織は、図6で42及び43として示す顕微鏡写真に反映されている。
【0027】
図6はまた、本発明による代替方法に関する、図4に示したものと同様の時間/温度のグラフを含む。図6の顕微鏡写真42及び43が示すように、2050°Fの持続温度で2時間の追加の加熱サイクルにより、ケイ素成分の粒径及び粒度分布が改善され、従って、最終製品の全体の耐酸化性が改善された。2時間拡散後の同じ皮膜と比べて、顕微鏡写真42の粒子において可視拡散に差異が見られた(追加の2時間拡散期間前の高融点成分40重量%及び低融点成分60重量%)。
【0028】
図7は、従来技術の皮膜組成物と比較した、4つの異なる代替の皮膜組成物についての歪み耐性グラフ表現(パーセント歪みレベルとして表される)であり、室温(「RT」)で求められた歪み値を有するそれぞれの脆性レベル(歪みパーセントとして表される)を示している。同じ組成物の表記が、高融点及び低融点成分の様々な試験組み合わせに適用されている。従って、図7は、本発明による例示的な皮膜組成物に対して行われた歪み亀裂試験では、溶射技術で施工したろう付け可能MCrAlY皮膜粉体が基準拡散アルミナイドと比べて室温歪み耐性の改善を示したことが確認される。
【0029】
図8は、従来技術を表す基準値と比べて炉サイクル数を増加させたときの皮膜の重量変化をプロットした、本発明による種々の皮膜組成物について1700°Fで実施したFCT試験の結果のグラフ表現である。図8は、拡張サイクル数にわたる種々の皮膜組成物のグラム単位の重量変化をグラフ形式で表している。種々の組成物は、共通命名法で他の図において上記で識別されるものである。図8はまた、新しい組成物の重量変化率(酸化の変化を反映している)が、高サイクル数では基準組成物よりも優っていることを示す。
【0030】
図9は、図8のような経時的な酸化試験結果で施工及び試験した例示的な皮膜組成物の断面を示す一連の顕微鏡写真を含む。種々の画像は、被覆試験ボタンを1700°Fで2500時間加熱処理した後の断面を示している。
【0031】
上述のように、本発明による新規の方法は、タービン翼形部その他のタービン部品の被覆に使用された場合に補修停止時間、コスト及び効率の点で多大な利点を提供する。例示的なコーティング方法は、従来のコーティング技術よりも完成するまでが遙かに迅速且つ容易であり、通常はHVOF又はVPS品質コーティングが施されない2段及び3段など、酸化及び腐食環境に曝される重要度の低い部品の保護にも用いることができる。本発明はまた、ノズル及びシュラウドなどの静止ハードウェア部品を効率的に被覆又は、追加の酸化保護をもたらすように外部燃焼部品に対する皮膜を提供するのに用いることができる。
【0032】
現時点で最も実用的且つ好ましい実施形態であると考えられるものに関して本発明を説明してきたが、本発明は、開示した実施形態に限定されるものではなく、逆に添付の請求項の技術的思想及び範囲内に含まれる様々な修正形態及び均等な構成を保護するものであることを理解されたい。
【符号の説明】
【0033】
14 高融点成分
15 低融点成分
16 バインダー材料
17 金属基材
18 バインダー材料
19 皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(17)のコーティング方法であって、
高融点超合金成分(14)及び低融点ろう付けバインダー成分(15)の粉体混合物を形成する段階と、
噴霧スプレーを用いて室温で前記基材(17)の表面に前記粉体混合物を施工し、前記基材表面上に実質的に均一な厚みの皮膜(19)を形成する段階と、
前記皮膜に強度及び耐酸化性/耐食性を与えるのに十分な温度まで前記基材(17)を加熱する段階と
を含む方法。
【請求項2】
前記基材が金属を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
金属基材(17)を被覆して高温での前記基材(17)の耐酸化性を向上させる方法であって、
高融点超合金成分(14)又はMCrAlY(式中、MはFe、Ni及び/又はCoを含む)と、ケイ素、ホウ素、ハフニウム又は金を含む低融点成分(15)とからなる粉体混合物を形成する段階と、
噴霧スプレーを用いて室温で前記金属基材(17)の表面に前記粉体混合物を施工し、前記基材表面上に実質的に均一な厚みの皮膜(19)を形成する段階と、
真空条件下の前記被覆した基材表面を1900°F〜2275°Fの範囲の温度まで加熱して液相を生じさせ、高融点粉体を懸濁せしめ、液相焼結によって金属結合を成長させる段階と、
を含む方法。
【請求項4】
前記被覆した基材表面を加熱する段階が、約840°Fの温度から約2225°Fまで上昇した後、約1975°Fまで低下するように段階的に行われる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記低融点成分(15)が2〜12重量%の量のケイ素を含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記被覆した基材表面を段階的に加熱する段階が4〜6時間にわたって行われる、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記被覆した基材表面を段階的に加熱する段階が5×10-4torrの真空条件下で行われる、請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記高融点成分(14)の量が前記皮膜の10重量%〜60重量%の範囲である、請求項3記載の方法。
【請求項9】
前記低融点成分(15)の量が90重量%〜40重量%の範囲である、請求項3記載の方法。
【請求項10】
前記加熱段階の次に、前記金属基材(17)上の前記皮膜(19)を機械的に仕上げる段階を更に含む、請求項3記載の方法。
【請求項11】
前記皮膜(19)の表面温度を1975°F〜2050°Fまで高める段階を更に含む、請求項3記載の方法。
【請求項12】
真空条件下で前記被覆した基材表面を加熱する段階が、最終の熱処理され且つコーティングされた表面の気孔率のレベルが20%未満を達成する、請求項4記載の方法。
【請求項13】
前記粉体混合物を施工する段階が前記金属基材(17)の一部だけを覆う、請求項3記載の方法。
【請求項14】
ガスタービンエンジン部品の金属表面を補修する方法であって、
高融点超合金成分(14)又はMCrAlY(式中、MはFe、Ni及び/又はCoを含む群から選択される)と、ケイ素を含有する低融点成分(15)とからなる粉体混合物を形成する段階と、
バインダー(16)を用いて室温で前記タービンエンジン部品の表面に前記粉体混合物を施工し、実質的に均一な厚みの皮膜(19)を形成する段階と、
真空条件下の前記皮膜を1900°F〜2275°Fの範囲の温度まで加熱して、低融点成分を液化し、液相焼結による前記高融点成分の結合を開始する段階と
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−80148(P2011−80148A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223336(P2010−223336)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】