説明

噴霧塗布膜形成用のマスク

【課題】噴霧塗布膜形成用のマスクにおいて、マスクの洗浄を行う頻度を減少させる。
【解決手段】マスク1は、マスク開口部2を通して基板に塗布液を噴霧することによって膜を形成するものである。マスク表面に表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が設けられ、これら各領域に関して、マスク開口端の領域3の表面エネルギーが該領域に隣接する他の領域4の表面エネルギーよりも低くなっている。これにより、マスク開口端の領域3に溜まった塗布液が、表面エネルギー差によって隣接する領域4に移動することにより、マスク開口端の領域3から除去されるので、マスクの洗浄を行う頻度が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧塗布法による塗布膜形成に用いられるマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マスクを用いた噴霧塗布法による塗布膜形成方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。噴霧塗布法は、所望の成膜パターンに対応した形状のマスク開口部を有するマスクを基板上に配置し、有機若しくは無機材料を分散又は溶解させた溶液を塗布液とし、塗布液を窒素等の気体媒体中に分散させる等によって噴霧する方法である。噴霧塗布法では、マスクを用いることにより所望のパターン形状の塗布膜が基板上に成膜される。マスクを用いた噴霧塗布法は現在、レジスト塗布や有機EL製造装置、有機太陽電池製造装置等に用いられている。
【0003】
しかしながら、上述したような噴霧塗布膜形成用のマスクにおいては、塗布液を複数回連続で噴霧すると、マスク開口端近傍に塗布液が溜まりやすく、この溜まった塗布液が基板に接触し、成膜されるパターン形状が所望のパターン形状から著しく変化したり、基板上の塗布膜に著しい膜厚分布が形成されることがある。従って、塗布液を1回乃至数回噴霧すると、マスクを交換し、洗浄したマスクを使用する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−273851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するものであり、噴霧塗布膜形成用のマスクにおいて、マスクの洗浄を行う頻度を減少させ、マスクの洗浄に伴うコストを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、マスク開口部を通して基板に塗布液を噴霧することによって膜を形成する噴霧塗布膜形成用のマスクであって、マスク表面に表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が設けられ、これら各領域に関して、マスク開口端の領域の表面エネルギーが該領域に隣接する他の領域の表面エネルギーよりも低くなっているものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の噴霧塗布膜形成用のマスクにおいて、表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が設けられるように、前記マスクを構成する主部材上に、該主部材とは異なる物質から成る膜が形成されているものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の噴霧塗布膜形成用のマスクにおいて、前記主部材は、ステンレスであり、前記マスク開口端の領域に、表面エネルギーが前記主部材よりも低いフッ素樹脂から成る膜が形成されているものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1に記載の噴霧塗布膜形成用のマスクにおいて、マスク表面に表面粗さが互いに異なる2種以上の領域が設けられているものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1に記載の噴霧塗布膜形成用のマスクにおいて、表面処理によって表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が形成されたものである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の噴霧塗布膜形成用のマスクにおいて、マスク開口端の領域以外の部分に吸溶剤質の部材が設けられているものである。
【0012】
請求項7の発明は、請求項6に記載の噴霧塗布膜形成用のマスクにおいて、前記吸溶剤質の部材が着脱可能に設けられているものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、マスク開口端の領域に溜まった塗布液が、表面エネルギー差によってマスク開口端の領域に隣接する領域に移動することにより、マスク開口端の領域から除去されるので、マスクの洗浄を行う頻度が減少し、マスクの洗浄に伴うコストが低減される。
【0014】
請求項2の発明によれば、マスクの主部材上に膜を形成するので、主部材に耐久性低下等の影響を及ぼすことなく、表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域を設けることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、ステンレス及びフッ素樹脂は耐薬品性が高いので、マスクの耐薬品性を高くすることができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、マスクを単一のマスク材料により構成できるので、マスクが低コストとなる。
【0017】
請求項5の発明によれば、マスクを単一のマスク材料により構成できるので、マスクが低コストとなる。
【0018】
請求項6の発明によれば、マスク開口端以外の領域に移動した塗布液が吸溶剤質の部材に吸着されるので、塗布液がマスク開口端以外の領域に移動しやすくなる。また、吸溶剤質の部材が設けられた部分は、単位面積当たりに保持できる塗布液の液量が増加するので、マスクの洗浄を行う頻度がさらに減少する。
【0019】
請求項7の発明によれば、塗布液を吸着した吸溶剤質の部材を取り外した後にマスクを洗浄することができ、洗浄に要する溶剤の使用量が減り、マスクの洗浄に伴うコストがさらに低減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る噴霧塗布膜形成用のマスクの平面図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る噴霧塗布膜形成用のマスクの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る噴霧塗布膜形成用のマスクを図1を参照して説明する。本実施形態のマスク1は、平板状の部材に成膜パターンに対応したマスク開口部2が形成されたものであり、その表面に表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が設けられ、これら各領域に関して、マスク開口端の領域3の表面エネルギーがマスク開口端の領域3に隣接する他の領域4の表面エネルギーよりも低くなっている。
【0022】
ここで、マスク開口端の領域3とは、マスク開口部2においてマスク1の表裏面を接続する開口部側壁及び、マスク1の表面と裏面における開口部側壁の近傍、例えば0乃至5mmの領域である。
【0023】
マスク1は、表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が設けられるように、マスク1を構成する主部材上に、その主部材とは異なる物質から成る膜を形成してもよい。その膜については、ポリスチレン、ポリプロピレン、アセタール、ポリエチレン、ポリフッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレンクロロフルオロエチレン共重合体などの低表面エネルギー材質から成る膜をマスク開口端の領域3に形成することが望ましい。これらの低表面エネルギー材質のうち、耐薬品性の観点から、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレンクロロフルオロエチレン共重合体などのフッ素樹脂若しくはフッ素樹脂共重合体から成る膜を形成することが特に望ましい。
【0024】
このように、マスク1の主部材上に膜を形成するので、主部材に耐久性低下等の影響を及ぼすことなく、表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域を設けることができる。
【0025】
マスク開口端以外の領域4を金属とする場合は、その領域4は、表面粗さをRa(算術平均粗さ)25(μm)以上とし、表面エネルギーを増加させる金属表面であることが望ましい。従って、マスク1は、このような表面を有する金属を主部材とし、耐薬品性の観点からこの主部材は、ステンレスが望ましく、SUS316Lが特に望ましい。
【0026】
また、表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が設けられるように、マスク開口端の領域3の表面粗さをそれ以外の領域4の表面粗さよりも小さくしてもよく、マスク1の表面に紫外線オゾン処理、プラズマ処理等の表面処理を行ってもよい。これにより、マスク1を単一のマスク材料により構成して、その表面に表面エネルギーが異なる2種以上の領域を設けることができ、マスク1が低コストとなる。
【0027】
また、多孔質性の材料層をマスク開口端以外の領域4に形成することにより、マスク1の表面に表面エネルギーが異なる2種以上の領域を設けてもよい。これにより、2種以上の領域間の表面エネルギーの差を、表面粗さを変える場合よりも大きくすることができ、塗布液がマスク開口端以外の領域4に移動しやすくなる。
【0028】
上記のように構成されたマスク1は、塗布液の噴霧による基板の塗布膜形成に用いられる。先ず、基板上にマスク1が固定される。例えば、基板の上にマスク1を載せ、マスク1の自重で基板上に固定してもよいし、マスク1をフェリ磁性物質又は強磁性物質を含むものとし、基板を挟んでマスク1と反対側に磁石を配置し、磁力によってマスク1を固定してもよい。磁力によってマスク1を固定する場合、マスク1と基板を10mm程度離間した状態で位置合わせを行い、その後、基板上にマスク1を固定する。
【0029】
ここで、マスク1と基板間には、スペーサ等によって50μm〜1mm程度の間隙を設けることが望ましい。この間隙が小さ過ぎると、基板に塗布された塗布液が、毛管現象によってマスク開口部2の周囲の基板対向面と基板表面との間隙に入り、所望の塗布膜のパターン形状が得られないことから、間隙の下限値が決定される。逆に、この間隙が大き過ぎると、噴霧された塗布液がマスク開口部2の周囲の基板対向面と基板表面との間隙に到達し、所望の塗布膜のパターン形状が得られないことから、間隙の上限値が決定される。
【0030】
次に、マスク1が固定された基板に、スプレーガン等によって塗布液が噴霧され、マスク開口部2に対応したパターン形状の塗布膜が基板上に形成される。
【0031】
このとき、マスク開口端の領域3に溜まった塗布液、すなわちマスク開口端近傍に着滴した液滴若しくは着滴した液体の集合体が、表面エネルギー差によってマスク開口端の領域3に隣接する表面エネルギーが高い領域4に移動することにより、マスク開口端の領域3から除去されるので、マスク1の洗浄を行う頻度が減少し、マスク1の洗浄に伴うコストが低減される。
【0032】
本発明のマスク1は、有機物を溶解若しくは分散させた溶液の塗布、ITO、Ag、Au、ZnO、CdSe、GaN等に代表される無機金属粒子、半導体粒子の溶液の塗布、及び無機・有機ハイブリッド分散溶液の薄膜の形成に用いることができ、有機EL素子、有機・無機ハイブリッドEL型EL素子、有機太陽電池、有機・無機ハイブリッド型太陽電池、有機メモリ素子などの薄膜のパターンニング塗布が必要とされるあらゆる薄膜デバイスの製造に適用可能である。
【0033】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る噴霧塗布膜形成用のマスクを図2を参照して説明する。本実施形態のマスク10は、第1の実施形態と同様の構成に加え、マスク開口端の領域3以外の部分に吸溶剤質の部材5が設けられている。
【0034】
吸溶剤質の部材5は、塗布液を吸着して内部に保持する部材であり、有機高分子多孔質体、多孔質金属、多孔質セラミックス等の多孔質性の材料から成り、主部材の表面に設けられる。例えば、有機高分子多孔質体から成る吸溶剤質の部材5を、ポリマーコーティング法等によりマスク10の主部材の表面に成膜してもよい。吸溶剤質の部材5の膜厚は、塗布液を内部に保持するのに十分な厚みとされる。この吸溶剤質の部材5は、マスク開口端以外の領域4の全部に設けてもよいし、一部に設けてもよい。
【0035】
これにより、マスク開口端以外の領域4に移動した塗布液が吸溶剤質の部材5に吸着されるので、塗布液がマスク開口端以外の領域4に移動しやすくなる。また、吸溶剤質の部材5が設けられた部分は、単位面積当たりに保持できる塗布液の液量が増加するので、マスク10の洗浄を行う頻度がさらに減少する。
【0036】
また、予め成形した吸溶剤質の部材5を、粘着剤等によりマスク10の主部材に着脱可能に設けてもよい。これにより、塗布液を吸着した吸溶剤質の部材5を取り外した後にマスク10を洗浄することができ、洗浄に要する溶剤の使用量が減り、マスク10の洗浄に伴うコストがさらに低減される。なお、取り外された吸溶剤質の部材5は、廃棄される。
【0037】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、多孔質性の材料層をマスク開口端以外の領域4の全部に形成することにより、表面エネルギーを高くすると共に、吸溶剤質の部材5として兼用してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1、10 マスク
2 マスク開口部
3 マスク開口端の領域
5 吸溶剤質の部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク開口部を通して基板に塗布液を噴霧することによって膜を形成する噴霧塗布膜形成用のマスクであって、
マスク表面に表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が設けられ、
これら各領域に関して、マスク開口端の領域の表面エネルギーが該領域に隣接する他の領域の表面エネルギーよりも低くなっていることを特徴とする噴霧塗布膜形成用のマスク。
【請求項2】
表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が設けられるように、前記マスクを構成する主部材上に、該主部材とは異なる物質から成る膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の噴霧塗布膜形成用のマスク。
【請求項3】
前記主部材は、ステンレスであり、
前記マスク開口端の領域に、表面エネルギーが前記主部材よりも低いフッ素樹脂から成る膜が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の噴霧塗布膜形成用のマスク。
【請求項4】
マスク表面に表面粗さが互いに異なる2種以上の領域が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の噴霧塗布膜形成用のマスク。
【請求項5】
表面処理によって表面エネルギーが互いに異なる2種以上の領域が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の噴霧塗布膜形成用のマスク。
【請求項6】
前記マスク開口端の領域以外の部分に吸溶剤質の部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の噴霧塗布膜形成用のマスク。
【請求項7】
前記吸溶剤質の部材が着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の噴霧塗布膜形成用のマスク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−227734(P2010−227734A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74993(P2009−74993)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】