四元以上のI−III−VI族アロイ半導体膜
本発明は四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイに関する。さらに具体的には、本発明は半導体膜として使用するのに適した四元または五元のIB−IIIA−VIA族アロイに関する。さらに特定的には、本発明は実質的に均質であり、かつ、40kVのCu線について26°〜28°の2θ角において主(112)ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ、0.2°〜10°の視射角に対するすれすれ入射X線回折パターン(GIXRD)が0.06°未満の前記2θ[112]角の絶対的なずれを表わす四元または五元のアロイに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は四元以上のI−III−VI族アロイ半導体膜に関する。さらに具体的には、本発明は、限定するものではないが、実質的に均質である四元以上のI−III−VI族アロイに関する。
【0002】
本発明はさらに、光起電力セル/ソーラ・セルにおいて半導体膜として使用するのに適した実質的に均質である四元以上のI−III−VI族アロイ半導体膜に関する。
【背景技術】
【0003】
定義
本願明細書の目的のために、「五元アロイ」という用語は異なる5つの元素を有するアロイを意味する。例えば、Cu(In、Ga)(S、Se)2は異なる5つの元素が銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)および硫黄(S)である五元のIB−IIIA−VIA族アロイである。同様に、「四元アロイ」という用語は異なる4つの元素を有するアロイを意味する。例えば、Cu(In、Ga)Se2は四元のIB−IIIA−VIA族アロイである。同じく、三元アロイは異なる3つの元素を有し、二元アロイは異なる2つの元素を有する。
【0004】
「均質な」という用語は、アロイが全体にわたって実質的に一定の格子定数、格子面間隔(以下、d間隔と呼ぶ)およびバンド・ギャップ値を有するように、アロイを構成する異なる元素が均質に分布されているということを意味する。すなわち、0.5°〜10°の視射角に対するすれすれ入射X線回折によって特徴付けられるアロイの回折主ピーク[2θ(112)]の絶対的なずれは無視できるものである。
【0005】
さらに本願明細書の目的のために、「不均質な」アロイとは、アロイが傾斜バンド・ギャップ構造を含み、アロイの構成元素の1つまたは複数の原子濃度がアロイ全体にわたって変わるような組成傾斜を有することを意味する。不均質なアロイはさらに、結晶構造の点で格子不整合を含むかもしれず、したがって、アロイ全体にわたって結晶構造の格子定数の変動を有することになりうる。
【0006】
便宜上、元素は銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)、硫黄(S)、アルゴン(Ar)、モリブデン(Mo)およびアルミニウム(Al)を含むそれらの一般に受け入れられた化学記号により言及する。また、(例えば、Cu−In−GaまたはCu−Inにおいて)ハイフンを使用することは必ずしも化合物を示すものではないが、ハイフンによって連結された元素が共存する混合物であることを示す。
【0007】
わかり易いように、IB族に言及することは、Cu、AgおよびAuの元素を含む周期表内の族を指す。IIIA族に言及することは、B、Al、Ga、InおよびおTiの元素を含む周期表内の族を指す。さらに、VIA族に言及することはO、S、Se、TeおよびPoの元素を含む周期表内の族を指す。
【0008】
2つの元素の間でコンマを使用すること、例えば、(Se、S)、(In、Ga)は便宜上使用されているに過ぎず、例えば、(Se、S)は(Se1−ySy)の省略形である。
【0009】
半導体膜材料
今日まで結晶シリコンおよび多結晶シリコンはソーラ・モジュール/光起電力セルの製造に使用される主要材料である。この材料に関連する主な問題は製造コストが高いことである。製造コストを低減し、材料の利用性を向上させようとする試みにおいては、半導体薄膜アロイは徹底的な調査の対象となってきた。この点で、CuInSe2、CuGaSe2およびCuInS2などのIB−IIIA−VIA族アロイは、薄膜光起電力セルまたはデバイスにおける吸収層として有望な候補である。
【0010】
アロイが別のIII族元素と組み合わせてGaを含んだIB−IIIA−VIA族アロイを含んだ半導体膜は特に関心がある。これはそのような膜にGaが存在することによって、より高いバンド・ギャップ値を有する半導体膜が得られ、次いで、ソーラ・セル/光起電力セル・デバイスにおいては、より高い開回路電圧を有し短絡電流が低減された半導体膜が得られるためである。五元アロイ(五元アロイ半導体膜)を含む半導体膜はさらにいっそう関心がある。
【0011】
一般式としてCu(In1−xGax)(Se1−ySy)2を有する五元アロイを含んだ半導体膜については、太陽スペクトルとの最適な適合性を達成するために、バンド・ギャップは1.0〜2.4eV間で体系的にずらされ得る。この材料系の最適化によって研究室規模では変換効率が18%を超えるソーラ・セルデバイスが既に得られている。
【0012】
先行技術のプロセス
IB−IIIA−VIA族半導体膜を製造する方法は多数あり、そのうち最も一般的な2つの方法は従来の2段階プロセスおよび共蒸着プロセスである。
【0013】
従来の2段階プロセス
上記プロセスは典型的には、(i)多くの場合モリブデンで被覆された基板の上にCu、InおよびGaなどの金属前駆体をDCマグネトロン・スパッタリングによって成膜し、次いで(ii)Seおよび/またはSの蒸気またはH2Se/Arおよび/またはH2Se/Arガスを含んだ雰囲気下で前駆体を反応性アニーリングすることを伴う。このような技術は、V.Alberts、J.H.Schon、およびE.BucherのJournal of Appl.Phys.84(12)、1998年、6881およびA.GuptaおよびS.IsomuraのSol.Energy Mater.Sol.Cells 53、1998年、385による論文に開示されている。
【0014】
理論に拘束されず、J.Palm、V.Probst、W.Stetterらによる論文Thin Solid Films、451〜452(2004)544〜551を参照すると、Cu−In−Ga金属前駆体をセレン化すればCuSeおよびIn4Se3、Cu2−xSeおよびInSeなどの二元アロイが製造されると考えられる。次に、370℃を超える温度でこの二元の前駆体相間で反応させることによって、CuInSe2(CIS)の三元アロイが形成される。セレン化中、GaがCISの形成中にモリブデン基板の方に追いやられるように、後者のアロイのみが形成され、Gaのセレン化は動力学的に妨げられると考えられる。また、さらにアニーリングすることにより、結果として二重層構造が裏電極と接するGaリッチな細粒CIGS層の上部に十分に結晶化されたCIS層を含むように、Cu(In、Ga)Se2(CIGS)の別個の層が形成されると考えられる。商業上好ましくないが、さらにアニーリングすればGaは裏電極から構造の表面まで拡散することになる。
【0015】
ガリウムの大半が膜の裏側に存在する分離膜構造または傾斜膜構造の効果は、吸収膜が光起電力セルの活性領域において低いバンド・ギャップ値を呈することであり、これは最終的にデバイスのVocを制限する。(ソーラ・モジュール/光起電力セルの開回路電圧(Voc)および短絡電流(Jsc)は、半導体材料のバンド・ギャップに直接関連する。1eVという低いバンド・ギャップ値のCuInSe2では、Voc値は典型的には500mVに制限されるが、1.65eVという高いバンド・ギャップ値のCuGaSe2吸収層を用いれば、1000mVに近い値を達成することができる。)
【0016】
また、極端な傾斜の場合、傾斜になった吸収膜内の格子不整合は電気的活性構造欠陥を引き起こし、これはデバイス性能に悪影響を及ぼす。
従来の2段階プロセスによって形成された低バンド・ギャップの不均質なCu(In、Ga)Se2アロイの不利を克服するために、一般的に膜をH2Sと反応させる。
【0017】
現行の工業プロセスには膜の最上面領域のある割合のセレン種が硫黄と置換される硫化後工程を含む(K.Kushiya、M.Tachiyuki、T.Kase、I.Sugiyama、Y.Nagoya、D.Okumura、M.Satoh、O.Yamase、およびH.TaleshitaのSol.Energy Mater.Sol.Cells 49.1997年、277;R.Gay、M.Dietrich、C.Fredric、C.Jensen、K.Knapp、D.Tarrant、およびD.Willett、Proceedings of the International Conference on E.C.Photovoltaic Solar Energy、Vol.12(1)、1994年、935;およびT.Nakada、H.Ohbo、T.Watanabe、H.Nakazawa、M.MatsuiおよびA.Kunioka、Solar Energy Materials and Solar Cells 49、1997年、285)。
【0018】
このアプローチにより、薄いCu(In、Ga)(Se、S)2表面層が、得られた傾斜状のCu(In1−xGax)Se2構造の上に最終的には形成される。この表面層は傾斜が急峻になっており、Cu(In、Ga)Se2構造への深さは約50nmである。
【0019】
既に工業規模で適用されている上記硫化後工程の不利は次のようなものである:
(i)そのような膜におけるセレン種と硫黄種との間の交換速度が遅い;
(ii)ソーラ・セル素子の開回路電圧はほんの僅かしか増大されない;
(iii)十分な程度に硫黄を取り込むには、高温で90〜120分という長い反応時間が必要となるので、最終的に製造プロセスのコストが上昇する;
(iv)得られるアロイは不均質になるので、格子定数およびバンド・ギャップ値の効果的な制御が妨げられる。
【0020】
M.Marudachalam、H.Hichri、R.Klenk、R.W.Birkmire、W.N.SchfarmanおよびJ.M.Schultz、Appl.Phys.Lett.67(26)、1995年、3978による論文では、均質性が改善されたCu(In、Ga)Se2薄膜は、CuInSe2およびCuGaSe2の相が分離した混合物をアルゴン中で500℃〜600℃で60〜120分間、in situでアニーリングすることによって製造できることも実証されている。しかし、このような特定のアロイのオージェ深さ分布は依然として深さに対してInおよびGa濃度に実質的なばらつきがあり、不均質なアロイを示すことがわかっている。
【0021】
また、不活性雰囲気下でアニーリング後工程を行えば膜からSeがかなり失われることになり、H2Se/Ar中で第2のアニーリング工程が必要となった。不活性雰囲気に加えH2Se/Ar下でのこの付加的なアニーリング後工程は、プロセスの再現性を弱めるだけでなく、商業上引き合わないものにする。
【0022】
シングル・ステージ技術
均質な五元アロイを製造する別の試みでは、複雑なシングル・ステージ技術が開発された。この技術では、すべての元素(Cu、In、Ga、Se、およびS)は個々の源からの高真空下で一定の流束で共蒸着されることが、I.M.Kotschau、H.Kerber、H.Wiesner、G.HannaおよびH.W.Schockよる論文、Proceedings of the 16th European Photovoltaic Solar Energy Conference、2000年5月1〜5日、英国グラスゴー、724〜727頁に開示されている。
【0023】
この技術によってガリウムおよび硫黄の膜への取り込みの制御が可能となるので、アロイの格子定数が低減される。次に、五元アロイのバンド・ギャップ値が増大するので、最終的には完成されソーラ・セルデバイスの開回路電圧が大きくなる。しかし、0.4°〜5°の入射角におけるすれすれ入射角X線回折(GIXRD)は、材料の表面とバルクとの間で格子定数が著しくずれることを示した。著者らはこの現象は層の表面では銅が少ないことが原因であると考え、これがアロイを均質なものでなく組成的に傾斜状にしていることを裏付けた。
【0024】
現在驚くべきことに、セレン化反応が最後まで進んで、二元アロイが存在しない完全に反応した三元アロイが形成されることがないように、セレン化工程における三元アロイの形成を制御することによって上記の重大な問題は少なくとも部分的に克服または低減することができることが発明者によって認められた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は新規な四元アロイおよび五元アロイを提供することにある。
本発明のさらなる目的は半導体膜として使用するのに適した新規な実質的に均質な四元アロイおよび五元アロイを提供することにあり、そのようなアロイを使用すれば、不均質なアロイを含んだ半導体膜に関する関連する不利の少なくとも一部が最小化される。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によれば、以下の一般式(I)を有する四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイが提供される:
A(B1−xCx)(D1−yEy)2・・・・(I)
上式中:
AはIB族元素;
BはIIIA族元素;
CはBとは異なるIIIA族元素;
Dは第1のVIA族元素(以下、VI1と呼ぶ);
Eは第2のVIA族元素(以下、VI2と呼ぶ);
xおよびyが同時にゼロではないと仮定すれば、xおよびyの各々は独立して0から1まで変動し得る;
このアロイは、40kVのCu線について、26°〜28°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ、0.2°〜10°の視射角に対するすれすれ入射X線回折パターン(GIXRD)が0.06°未満の前記2θ[112]角の絶対的なずれを表わす。
【0027】
このアロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有することが好ましく、結晶面はすべて0.01未満のd間隔の変動を示す。
本発明の好適な実施形態では、XPS深さ分布によって特徴付けられるようなアロイの元素A、B、C、DおよびEの元素濃度は、アロイ全体にわたって実質的に均質である。
【0028】
五元アロイ
本発明の一実施形態では、AはCu、BはInまたはAl、好適にはIn、CはGa、DはSe、EはSである。xおよびyはともに0より大きい。
【0029】
五元アロイは式(II)を有することが好ましい:
Cu(In1−xGax)(Se1−ySy)2(II)
【0030】
本発明の好適な実施形態では、xは0.25から0.3まで変動し得、yは0.05から0.8まで変動し得る。
【0031】
式(II)のアロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有することが好ましく、結晶面はすべて0.001未満のd間隔の変動を示す。
2θ[112]角の絶対的なずれは0.01°未満であることが好ましい。
【0032】
Cu、In、Ga、SeおよびSの濃度は、XPS深さ分布によって特徴付けられるようなアロイの深さにわたって一定であることが好ましい。
【0033】
好適な実施形態では、式(II)のアロイは、3.3117〜3.1840のd間隔で計測したときに、40kVのCu線について、26.9°〜28°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ得る。
【0034】
2θ[112]ピークは実質的に対称であることが好ましい。好適な実施形態では、2θ[112]ピークは27.0°から27.5°であり得る。
【0035】
式(II)のアロイは、そのバンド・ギャップが1eVから2.4eVまで、好適には1.1eVから1.5eVまで連続的にずれ得るという点でさらに特徴付けられ得る。
本発明の好適な実施形態では、S対Se+Sの原子比、すなわち、S/(S+Se) によって表される硫黄含有量は0.05〜0.7にある。
本発明の好適な実施形態では、式(II)のアロイは均質である。
【0036】
四元アロイ
Cu(In、Ga)Se2
本発明の別の実施形態では、AはCu、BはIn、CはGa、DはSeであり、y=0である。
【0037】
四元アロイは式(III)を有することが好ましい:
Cu(In1−xGax)(Se)2 (III)
本発明の好適な実施形態では、xは0.25〜0.3まで変動し得る。
【0038】
式(III)のアロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有することが好ましく、この場合すべての結晶面は0.006未満のd間隔の変動を示す。2θ[112]角の絶対的なずれは0.05°未満であることが好ましい。
【0039】
Cu、In、GaおよびSeの濃度はXPS深さ分布によって特徴付けられるようなアロイの深さにわたって一定であることが好ましい。
【0040】
本発明の好適な実施形態では、式(III)のアロイは、3.3236〜3.2990のd間隔で計測したときに、40kVのCu線について、26.8°〜27°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ得る。
【0041】
この2θ[112]ピークは実質的に対称であることが好ましい。本発明の好適な実施形態では、この2θ[112]ピークは26.85°〜26.9°になり得る。
【0042】
式(III)のアロイは、そのバンド・ギャップが1.1eV〜1.2eV、好適には1.15eV〜1.18eVまで変動し得るという点でさらに特徴付けられ得る。
【0043】
本発明の好適な実施形態では、Ga対Ga+Inの原子比、すなわち、Ga/(Ga+In) によって表されるガリウム含有量は0.25〜0.3にある。
【0044】
本発明の好適な実施形態では、式(III)のアロイは実質的には均質である。
CuIn(Se、S)2
本発明のまた別の実施形態によれば、AはCu、BはIn、DはSe、EはSであり、x=0である。
【0045】
四元アロイは式(IV):
CuIn(Se1−ySy)2 (IV)
を有することが好ましい。
本発明の好適な実施形態では、yは0.1〜0.5まで変動し得る。
【0046】
式(IV)のアロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有することが好ましく、この場合すべての結晶面は0.007未満のd間隔の変動を示す。2θ[112]角の絶対的なずれは0.06°未満であることが好ましい。
【0047】
Cu、In、SeおよびSの濃度はXPS深さ分布によって特徴付けられるようなアロイの深さにわたって一定であることが好ましい。
【0048】
本発明の好適な実施形態では、式(IV)のアロイは、3.3236〜3.2640のd間隔で計測したとき、40kVのCu線について、26.80°〜27.3°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ得る。
【0049】
この2θ[112]ピークは実質的に対称であることが好ましい。本発明の好適な実施形態では、この2θ[112]ピークは27.0°〜27.2°であり得る。
式(IV)のアロイは、そのバンド・ギャップが1.05eV〜1.23eV、好適には1.15eV〜1.20eVまで変動し得るという点でさらに特徴付けられ得る。
【0050】
本発明の好適な実施形態では、S対S+Seの原子比、すなわち、S/(S+Se) によって表されるS含有量は0.1〜0.5にある。
本発明の好適な実施形態では、式(IV)のアロイは実質的には均質である。
【0051】
本発明の別の態様によれば、式(I)のアロイを含む半導体膜が提供される。この半導体膜は式(I)のアロイのための支持体、好適には基板を含むことが好ましい。
本発明の好適な実施形態では、基板はその上に金属層を含み得る。この金属層は、好ましくはMo層であり得る。
式(I)のアロイを含む半導体膜は1.5〜2.0μmの厚さを有し得る。
【0052】
本発明のさらに別の態様によれば、式(I)のアロイを含んだ半導体膜を含む光起電力セル/ソーラ・セルが提供される。本発明の好適な実施形態では、この光起電力セル/ソーラ・セルの変換効率は8〜15%である。
【0053】
本発明のさらなる態様によれば、四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を製造する方法が提供され、この方法は次の工程を含む:
i.IB族金属およびIIIA族金属の混合物を含む金属膜を与える工程;
ii.第1のVIA族元素(以下、前記第1のVIA族元素をVIA1と呼ぶ)の源の存在下で、IB−VIA1族アロイおよびIIIA−VIA1族アロイからなる群から選択された少なくとも1つの二元アロイおよび少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA1族アロイを含む第1の膜を形成するような条件下で、金属膜を熱処理する工程;
iii.第2のVIA族元素(以下、前記第2のVI族元素をVIA2と呼ぶ)の源の存在下で、IB−VIA1−VIA2族アロイおよびIIIA−VIA1−VIA2族アロイからなる群から選択された少なくとも1つのアロイ、および工程(ii)の少なくとも1つの三元のIB−III−VIA1族アロイを含む第2の膜に第1の膜を転換するような条件下で、第1の膜を任意的に熱処理する工程;
iv.第1の膜または第2の膜のいずれかを熱処理して、VIAがVIA1および/またはVIA2であり得る四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を形成する工程。
【0054】
第1の膜の混合物は、IB−VIA1族アロイおよび/またはIIIA−VIA1族アロイすべてと少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA1族アロイとのモル比が実質的に一定のままである安定した混合物であることが好ましい。
【0055】
工程(i)
工程(i)の金属膜は基板上に設けることができる。この基板は上記方法の反応条件および熱処理工程下で不活性であることが好ましい。適した基板にはガラス、可撓性の金属箔またはポリマー箔等がある。基板は0.05mm〜3.0mmの厚さであることが好ましい。
【0056】
この基板は任意的に金属層、好適には厚さが0.5〜1.0 mのMo層で被覆されてよい。金属膜はこの金属層上に設けられることが好ましい。金属層は光起電力セルにおいて電気的コンタクト層として機能することもできる。
【0057】
工程(i)の金属膜は複数の金属の混合物を含み、一実施形態では、少なくとも2つの異なるIIIA族金属を含むことが好ましい。
【0058】
好適な実施形態では、工程(i)の金属膜は、Cu、InおよびGa、好適にはCu、InおよびGaの組み合わせからなる群から選択された金属の混合物を含む。この金属は元素形態またはアロイ形態であり得る。CuおよびGaの源はアロイ、好適にはCu0.75Ga0.25のアロイであることが好ましい。金属膜はCu−In−Gaアロイであることが好ましい。Gaに加えて重要なIII族元素はAlおよびThである。
【0059】
本発明の別の実施形態では、工程(i)の金属膜はGaが存在しない場合に限りCuおよびInの混合物を含む。この金属膜はCu−Inアロイであることが好ましい。
【0060】
本発明の好適な実施形態では、基板上に成膜されるIIIA族元素の総量はIB族元素とIIIA族元素とのモル比が、例えば、Cu/(In+Ga)が0.7〜1.0、好適には0.8〜1.0、さらに好適には0.90〜0.95になるように十分なものになろう。
【0061】
当該分野では周知の直流(DC)マグネトロン・スパッタリングなどの技術によって基板上にこの金属を堆積させて、厚さ0.6〜1 m、好適には厚さ0.6 mになり得る金属膜を形成することができる。IB族金属およびIIIA族金属、またはそれらのアロイを基板上に堆積させることのできる、例えば電着または電子ビーム蒸着などによる他の手段があることが理解されよう。
【0062】
工程(ii)
工程(i)の金属膜をVIA1の源の存在下で熱処理する。VIA1はSeであることが好ましい。この源はH2Seと好適には少なくとも1つの他のガス、好適にはArなどの不活性ガスとの気体混合物を含むことがさらに好ましい。蒸気形態の元素のSeを用いてよいことも想起される。
【0063】
少なくとも1つの他のガス、好適にはArに対するSeのモル濃度は、0.01〜15モル%、好適には0.1〜1.0モル%であってよく、少なくとも1つの他のガスに対するSeの濃度は0.12%であることが最も好適である。
【0064】
本発明の一実施形態では、工程(ii)は反応温度が300℃〜500℃、好適には350℃〜450℃である反応条件下で実行される。
【0065】
本発明の好適な実施形態では、工程(i)の金属膜を上で定めた反応温度まで5〜30分以内、好適には10〜20分以内に加熱する。
【0066】
工程(i)の金属膜を10〜120分間、好適には15〜90分間、さらに好適には30〜60分間、VIA1元素の源に暴露することが好ましい。工程(ii)中の圧力を104Pa〜105Pa、好適には5×104Pa〜9×104Paに維持する。
【0067】
本発明の一実施形態では、Seの源の存在下で工程(i)の金属膜を熱処理して、CuSe、InSeおよびGa2Se3を含む二元アロイと少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA族アロイとの安定した混合物を含む第1の膜を形成する。
【0068】
工程(ii)の第1の膜は50原子%未満のVIA1元素を有することが好ましい。第1の膜は第1の膜が50原子%未満のSeを有するという点でSeが欠損していることがさらに好ましい。第1の膜は化学量論的に完全に反応した膜に必要な50原子%に対して43から47原子%のSe濃度を有することが好ましい。Se/(Cu+Ga+In)比は1未満であることが好ましい。
【0069】
上に定めた方法の好適な実施形態では、本発明の工程(ii)を実行後、二元アロイと少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA族アロイとの混合物が安定したままになるように確実にする条件下である処理工程に第1の膜を晒すことができる。
【0070】
この条件には、VIA1元素の源を除去することにより混合物の安定性を維持することが含まれることが好ましい。好適な実施形態では、この条件には第1の膜を不活性雰囲気、好適にはアルゴンに5〜20分間、好適には10〜15分間暴露することが含まれることもできる。第1の膜を好適には200℃以下の温度まで冷却することもできる。
【0071】
五元のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜の形成方法
工程(i)および(ii)
工程(i)および(ii)は上記のように定められる。さらに具体的に言えば、工程(i)は少なくとも1つのIB族元素と、第1のIIIA族元素(以下、この第1のIIIA族元素をIIIA1と呼ぶ)と、第2のIIIA族元素(以下、この第2のIIIA族元素をIIIA2と呼ぶ)との混合物を含む金属膜を設ける工程を含む。工程(ii)は、IB−VIA1族アロイ、IIIA1−VIA1族アロイ、およびIIIA2−VIA1族アロイからなる群から選択された二元アロイと2つの三元アロイ、すなわちIB−IIIA1−VIA1族アロイおよびIB−IIIA2−VIA1族アロイとの混合物を含んだ第1の膜を形成するような条件下で、VIA1の源の存在下で工程(i)の金属膜を熱処理する工程を含む。
【0072】
工程(iii)
本発明の一実施形態では、好適には、IB−VIA1−VIA2族アロイおよびIIIA−VIA1−VIA2族アロイ、好適にはIIIA1−VIA1−VIA2族アロイおよびIIIA2−VIA1−VIA2族アロイからなる群から選択される少なくとも1つのアロイと、工程(ii)の少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA1族アロイとを含んだ第2の膜に第1の膜を転換するように、工程(ii)の第1の膜を第2のVIA2族元素の存在下で熱処理する。
【0073】
VIA2はSの源であることが好ましい。本発明の好適な実施形態では、Sの源はH2Sと少なくとも1つの不活性ガス、好適にはArなどの不活性ガスとのガス状混合物を含む。
【0074】
本発明の好適な実施形態では、少なくとも1つの不活性ガス、好適にはArに対するSのモル濃度は0.1から10モル%まで、好適には0.3から0.5モル%の間で変動し得、最も好適には少なくとも1つの他のガスに対するSの濃度は0.35%である。
【0075】
工程(iii)の熱処理は、5〜10分間、好適には5分間、100℃〜500°、好適には400℃〜500°、さらに好適には450℃であり得る。
本発明の好適な実施形態では、IB族元素はCu、IIIA1族元素はIn、IIIA2族元素はGa、VIA1はSe、VIA2はSである。
【0076】
第2の膜はCu(Se、S)、In(Se、S)およびGa(Se、S)からなる群から選択されたアロイの混合物、好適にはこれら3つ全部と、三元アロイ、すなわちCuGaSe2およびCuInSe2、好適にはこの両方とを含むことが好ましい。
【0077】
工程(iv)
本発明の好適な実施形態では、IB−VIA1−VIA2族アロイ、IIIA1−VIA1−VIA2族アロイおよびIIIA2−VI1−VI2族アロイからなる群から選択されたアロイの少なくとも1つが、工程(ii)の少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA1族アロイと反応して、2つのIIIA族金属または2つのVIA族元素、すなわちVIA1およびVIA2のいずれかを含んだ四元のIB−IIIA−VIA族アロイの混合物を含む第3の膜を形成するように、450℃〜600℃で、好適には500℃〜550℃で、さらに好適には500℃で、5〜10分間、好適には5分間、Sの源の存在下で工程(iii)の第2の膜がアニーリングされ得る。
【0078】
第3の膜はIB−IIIA1−VI1−VIA2族アロイおよびIB−IIIA2−VIA1−VIA2族アロイからなる群から選択された四元アロイの混合物を含むことがさらに好ましい。第3の膜はCuIn(Se、S)2およびCuGa(Se、S)2の混合物を含むことがさらに好ましい。CuIn(Se、S)2およびCuGa(Se、S)2の四元アロイは実質的に均質であることが好ましい。
【0079】
500°から600°で、好適には520℃から580℃で、さらに好適には550°で15〜90分、さらに好適には30分間、第3の膜をアニーリングして、一般式IIを有する五元アロイを形成することが好ましい:
Cu(In1−xGax)(Se1−ySy)2 ・・・・ (II)
上式中、xは0.1〜0.5、好適には0.25〜0.3で変動し得、yは好適には0〜1、さらに好適には0.05〜0.7で変動し得る。
【0080】
この五元アロイは均質であることが好ましく、さらなる時間間隔、好適には15分間アニーリングしてアロイの構造特性を最適化し得ることも好ましい。均質な膜は厚さ1.5 m〜2.0 mになり得る。
【0081】
四元のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜の形成方法
四元のCu(In、Ga)Se2アロイ半導体膜
工程Iおよび工程II
工程iおよび工程iiは上に定めたようなものである。さらに具体的には、工程(i)は少なくとも1つのIB族元素、IIIA1元素およびIIIA2元素の混合物を含んだ金属膜を与える工程を含む。工程(ii)はIB−VIA1族アロイ、IIIA1−VIA1族アロイ、およびIIIA2−VIA1族アロイからなる群から選択された二元アロイとIB−IIIA1−VIA1族アロイである三元アロイとの混合物を含む第1の膜を形成するような条件下で、VIA1の源の存在下で工程(i)の金属膜を熱処理する工程を含む。
【0082】
本発明の好適な実施形態では、第1の膜が、IBはCu、IIIA1はIn、IIIA2はGa、およびVIA1はSeであるCuSe、InSeおよびGa2Se3からなる群から選択された二元アロイと、単一の三元アロイ、すなわちCuInSe2との安定した混合物を含むように、工程(ii)を350℃〜450℃、好適には、400℃で実行する。CuGaSe2の形成が妨げられることが好ましい。
【0083】
工程(iv)
本発明の一実施形態では、工程(ii)の第1の膜を第1の熱処理工程に晒し、次いでIB−IIIA1−IIIA2−VIA1族元素を形成するように、第2の熱処理工程に晒す。
【0084】
本発明の好適な実施形態では、工程(iv)の第1の熱処理工程は、不活性ガス、好適にはArを含んだ雰囲気下で工程(ii)の第1の膜を100℃〜600℃の反応温度まで加熱する工程を含む。工程(ii)の第1の膜を5分以内に反応温度まで加熱することが好ましい。
【0085】
工程(iv)の第2の熱処理工程は、まず不活性雰囲気、好適にはArの存在下で第1の膜をアニーリングする工程を含む。工程(ii)の第1の膜をまずArを含んだ雰囲気下で、好適には100℃〜600℃、好適には200℃〜550℃、さらに好適には500℃〜550℃で10〜60分間、好適には15〜30分間アニーリングし、次にVIA1元素の源の存在下で第2のアニーリングをすることが好ましい。
【0086】
VIA1は工程iiのようなSeであることが好ましい。工程(ii)の第1の膜をSeの源の存在下で好適には10〜60分間、さらに好適には30分間、100℃〜600℃、好適には200℃〜550℃、さらに好適には500℃でアニーリングして、IBはCu、IIIA1はIn、IIIA2はGa、およびVIA1はSeである式(III)の四元アロイを形成する:
Cu(In1−xGax)Se2・・・・(III)
上式中、xは0.25〜0.30の間で変動し得る。
【0087】
Seの源はH2Seおよび少なくとも1つの他のガス、好適にはArなどの不活性ガスの雰囲気であることが好ましい。少なくとも1つの他のガスに対するSeのモル濃度は0.12%であることが好ましい。
【0088】
本発明の好適な実施形態では、第1の膜(ii)を以下の連続工程に晒す;
(a)第1の膜をArの不活性雰囲気の反応管で反応温度500℃まで5分間加熱する;
(b)第1の膜をArを含んだ雰囲気の反応管で500℃で少なくとも15分間アニーリングする;
(c)第1の膜をAr中H2Se0.12モル%存在下で500℃で30分間アニーリングする。
式(III)の四元アロイは均質であることが好ましい。
【0089】
四元のCuIn(Se、S)2アロイ半導体膜
工程(i)および(ii)
工程(i)および(ii)は上記と同じものである。さらに具体的には、工程(i)は少なくとも1つのIB族元素およびIIIA族元素の混合物を含む金属膜を与える工程を含む。工程(ii)は、IB−VIA1族アロイおよびIIIA−VIA1族アロイからなる群から選択された二元アロイとIB−IIIA−VIA1族アロイである三元アロイとの混合物を含む第1の膜を形成するような条件下で、VIA1の源の存在下で工程(i)の金属膜を熱処理する工程を含む。
【0090】
本発明の好適な実施形態では、IBはCu、IIIAはIn、およびVIA1はSeである。工程(i)の金属膜はCu−Inアロイであることが好ましい。
【0091】
本発明の好適な実施形態では、二元アロイおよび工程(ii)の三元アロイの混合物が確実に安定したままであるように、工程(ii)の第1の膜をある処理工程に晒す。VIA1元素の源を除去することが好ましい。また、工程(ii)の第1の膜を200℃以下まで冷却してよい。
【0092】
工程(iii)
この工程は実行されない。
【0093】
工程(iv)
本発明の一実施形態では、工程(ii)の第1の膜を第1の熱処理工程に晒し、次いで、IB−IIIA1−VIA1−VIA2族元素を形成するように工程(ii)の第1の膜がVIA2の源の存在下でアニーリングされる第2の熱処理工程に晒す。
【0094】
工程(iv)の第1の熱処理工程は100〜600℃、好適には200〜550℃、およびさらに好適には500〜550℃の反応温度まで10〜60分間、好適には15〜30分間、工程(ii)の第1の膜を加熱する工程を含む。
【0095】
次に、工程(ii)の第1の膜をVIA2の源の存在下でアニーリングする。
VIA2はSであることが好ましい。工程(ii)の第1の膜を、Sの源の存在下で好適には10〜60分間、さらに好適には30分間、200℃〜600℃、好適には200℃〜550℃、さらに好適には500℃でアニーリングして、IBはCu、IIIA1はIn、VIA1はSe、VIA2はSである式(III)の四元アロイを形成する:
CuIn(Se1−ySy)2・・・・(IV)
上式中yは0.1〜0.5の間で変動し得る。
【0096】
Sの源はH2Sおよび少なくとも1つの他のガス、好適にはArなどの不活性ガスの雰囲気であることが好ましい。少なくとも1つの他のガスに対するSのモル濃度は0.35%であることが好ましい。
【0097】
本発明の好適な実施形態では、第1の膜(ii)を以下の連続工程に晒す;
(a)第1の膜を反応管で反応温度500℃〜550℃まで15〜30分間加熱する;および
(b)式(III)の四元アロイを形成するように、Ar(g)に対するSのモル濃度が0.35であるH2SおよびAr(g)の気体混合物の存在下で第1の膜をアニーリングする。
(IV)の四元アロイは均質であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0098】
ここで以下の実施例を用いて本発明の実施形態を記載するが、それにより本発明の範囲を制限するものではなく、単に例示として用いたものである。実施例では添付図面を参照する。
【0099】
本発明のIB−IIIA−VIA族アロイを特徴付ける際に、以下の方法および個々の条件を用いた:
1.XPS:AlのKα線を20Wのビーム・エネルギーでPhysics Electronics(PHI)Quantum 2000 Scanning XPSシステムを利用したX線光電子分光法(XPS)によりサンプルの濃度分布を決定した。スポット・サイズを100μmとし、アルゴン・イオン銃を2kVで動作させる。
2.XRD:CuのKα線(0.154056Å)を40kVおよび40mAにてPhillips X’pert回折システムを用いてX線回折(XRD)走査を記録した。
3.SEM:垂直入射ビームが20kVであるNoran EDSを備えたJeol JSM 5600走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて膜のモルフォロジおよび組成をそれぞれ試験した。
4.GIXRD:CuのKα線(0.154056Å)を40kVおよび40mAでPhillips X’pert PW3040−MPDシステムを用いて、すれすれ入射角XRD(GIXRD)によってサンプルの深さの関数である格子パラメータを決定した。
5.A.M.1.5(100mWcm−2)の標準条件下で25℃でソーラ・セルデバイスを測定した。量子効率測定値から個々のデバイスのスペクトル応答を決定した。スペクトル応答測定値の長波長カットオフ値から、対応する吸収膜のバンド・ギャップ値を導いた。
【0100】
一般的な実験手順
光起電力セルが半導体膜、この場合はIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を支持する基板を含むことは当業者には周知である。典型的には、半導体膜と反応せず、半導体の性質を変質させるものではない任意の適した基板を用いてよい。適した基板にはガラス、可撓性の金属箔またはポリマー箔等がある。
【0101】
基板は0.05〜3.0mmの厚さを有してよく、得られる半導体膜の基板への接着性を増強するためおよび完成された光起電力デバイスにおいてコンタクトとして機能するために、多くの場合モリブデンの金属層で被覆される。
【0102】
Moコーティングの厚さは一般に0.5〜1.0 mであり、0.1〜0.8Paの作業圧でDCマグネトロン・スパッタリングによって基板上に成膜される。金属層の使用および蒸着に関連する当該分野で知られた多数の他の技術が存在し、例えば、2つ以上の層が存在してよく、またはモリブデンの代わりにクロムが用いられてよいことが理解されよう。
【0103】
工程(i)
実験のために、2mm厚のソーダ石灰ガラス基板を用いた。ホルダに設置した基板を超音波撹拌した石鹸水中で10分間、やさしく動かすことによって基板を洗浄する。次に、冷たい脱イオン水の蛇口の下で数分間基板を保持して基板上の過剰な石鹸を確実に除去した。この後、超音波撹拌した脱イオン化した温水槽中で基板ホルダをやさしく動かすことによって基板を洗浄した。最後に、120℃に維持した炉内で乾燥窒素を用いて10分間基板を乾燥させた。
【0104】
乾燥したら、Mo層を基板上に蒸着させた。続いて、Cu(In1−xGax)Se2アロイ半導体膜およびCu(In1−xGax)(Se1−ySy)2アロイ半導体膜を作成するために、Cu、GaおよびInの金属膜をMo層上に共スパッタリングした。CuIn(Se1−ySy)2アロイ半導体膜を作成する場合、CuおよびInを基板上に共スパッタリングさせた。Moの蒸着、および共スパッタリングは、Moの3つの22.86cm(9インチ)の円形カソード(ターゲット)、純粋なInおよびCu0.75Ga0.25アロイのターゲットを収容する蒸着チャンバからなるDCマグネトロン・スパッタリング・ユニットを用いて実行した。また、CuIn(Se1−ySy)2アロイ半導体膜を作成する場合は、ターゲットはMo、CuおよびInとした。
【0105】
少なくとも3時間、蒸着チャンバを5×10−5Paのベース・プレッシャーまで真空排気する。Arをプラズマ・ガスとして用いて、0.5Pa〜0.7Paの作業圧で基板を意図的に加熱することなくMo層を蒸着させる。Mo層の総厚は1μmとした。
【実施例1】
【0106】
五元のIB−IIIA−VIA族アロイを製造するための実験手順
図1は五元のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を製造するための本発明の方法の略図である。
【0107】
工程i
一般的な実験手順に定めたように工程(i)を行った。さらに具体的には、Mo層の成膜後、減圧を中断せずに、0.3Paの作業圧でCu0.75Ga0.25およびInを共スパッタリングした。意図的に基板を加熱することなく、金属Cu、InおよびGaの共スパッタリングも実行し、Cu−Ga−Inアロイの混合を強化するために共スパッタリング中に基板を回転させた。Cu−In−Gaアロイの総厚は0.6μmとし、Cu/(In+Ga)およびGa/(Ga+In)の原子比をそれぞれ0.9および0.25に維持した。
【0108】
工程ii
工程iの共スパッタリングした金属膜を有する基板を水平の石英管反応炉(以下、反応管と呼ぶ)に設置した。基板を黒鉛の基板ホルダ上に置いて、反応管内に設置した。確実に基板を均一に加熱するために黒鉛の基板ホルダを用いた。
【0109】
工程iiを実行する前に少なくとも2時間、2.67×10−4Paまで反応管を真空排気した。次に、反応管を加圧し、毎分1300標準立法センチメートル(以下、sccmと呼ぶ)の一定のArの流れを確立し、反応プロセスの間維持した。
【0110】
不活性ガスの流れが一定になると、金属膜を有する基板の温度を以下の表1に記載の反応温度まで5分間で徐々に上げた。
【0111】
二元アロイ、すなわちCuSe、InSeおよびGa2Se3と以下の三元アロイ、すなわち、CuInSe2およびCuGaSe2との安定した混合物を含む第1の膜を形成するように、表1に記載の反応期間、表1に記載の反応温度まで基板を加熱しながら、反応ガス混合物(Ar中0.12モル%のH2Se)を反応管に通した。三元アロイの一方または両方が存在するかどうかは、工程iiの反応温度に左右され、以下に示すように、400℃ではCuGaSe2は形成されない。
【0112】
サンプル200250−aに関する表1に記載の反応条件下で作成した工程iiの第1の膜のXRDパターンである図2.1を参照すると、3つの二元アロイおよびCuInSe2の混合物が存在することは明らかである。サンプル200250−aの反応条件下では、400℃ではCuGaSe2が形成されたことの証拠はない。
【0113】
サンプル200251−aに関する以下の表1に記載の反応条件下で作成した工程iiの第1の膜のXRDパターンである図2.2を参照すると、反射[112]、[220/204]および[312/116]は、(a)CuInSe2に対応する比較的鋭く形成されたピーク位置および(b)CuGaSe2および残りの二元アロイのCuSeおよびGa2Se3の存在から生じる肩部分を含んでいる。
【0114】
表1に定めた反応期間が完了すると、得られた安定した混合物の安定性をさらに維持するために、サンプルを処理工程に晒した。これは反応管内のH2Seの流れを止め、サンプルを200℃以下の温度まで急激に冷却することにより行った。サンプルを15分間上記条件に保ち、反応管から確実にH2Se種を完全に除去した。
【0115】
図2.1および2.2はともに、先行技術の場合のように、以下の表1に記載の反応条件が反応が完了するのを妨げ、これによりCuSe、InSeおよびGa2Se3の不存在下でCuInSe2およびCuGaSe2の完全に反応した三元アロイが形成する安定した混合物を示している。
【0116】
セレン化反応の完了を妨げて完全に反応した三元アロイを形成するように、極端に低濃度のSeを用い、かつ低い温度を用いることによってSeの系を不足させれば、図2.1または2.2に示したような安定した混合物を得ることができると本発明者は考えた。
【0117】
【表1】
【0118】
工程(iii)
次に、二元アロイがSと反応して工程iiの第1の膜を、スルホセレニド、すなわちCu(Se、S)、In(Se、S)およびGa(Se、S)と工程(ii)の三元アロイとの混合物を含む第2の膜に転換するように、上記表1の反応条件下で形成した工程(ii)の第1の膜を、反応管でH2SおよびAr(気体混合物中のSのモル百分率はArに対して0.35%付近に維持する)の気体混合物中で450℃の反応温度で5分間加熱した。
【0119】
サンプル20051−aのXRDパターン、特に工程(iii)のXRDである図3を参照すると、In(Se、S)が存在することがわかるが、Cu(Se、S)およびGa(Se、S)の残りのスルホセレニドは選択された2θ範囲には示されていない。
【0120】
本発明者は約450℃の温度では、工程(iii)のXRDに示したように、気体雰囲気中の既存のS種と工程(ii)の三元アロイとの反応(図3において26.71°のピーク1および27.75°のピーク2で示される)は実質的に重要ではないと考える。つまり、Sと三元アロイとの反応はこの特定の温度では重要ではない。
【0121】
工程(iv)
次に、工程(iii)の第2の膜を反応管で次の熱処理工程に晒す:
(a)スルホセレニドが三元アロイと反応してCuIn(Se1−ySy)2およびCuGa(Se1−ySy)2(工程(iv)(a)のXRDにおいて27.01°のピーク3および28.05°のピーク4で示した)の四元アロイを含んだ第3の膜を生成するように、工程(iii)の第2の膜を約500℃で5分間熱処理する。
【0122】
本発明者は工程iiを400℃で行い、かつCuGaSe2が存在しない場合、この工程ではスルホセレニドが直接反応してCuGa(Se1−ySy)2を形成するかもしれないと考える。しかし、そのような状況では、得られる四元アロイはより高いS濃度を含み、その結果、ピーク4は図3に示したものより高い2θ値にずれるであろう。
【0123】
Sの工程(ii)の三元アロイとの反応は、スルホセレニドが無いこと、例えば、CuInSe2と反応してCuIn(Se1−ySy)2を形成するということを示している図3の工程(iv)(a)のXRDパターンにIn(Se、S)ピークが無いことによって示されている。
【0124】
図3の工程(iii)のXRDを図3の工程(iv)(a)のXRDと比較すれば、三元アロイ([112]ピーク1および2で示される)がスルホセレニドと反応して四元アロイCuIn(Se1−ySy)2およびCuGa(Se1−ySy)2([112]ピーク3および4で示される)を含む第3の膜を形成したことが、次の2θのずれから明らかである。
【0125】
位置1から3へ、および2から4への[112]ピークのずれの程度を三元アロイと反応するのに利用可能なスルホセレニドの体積分率によって決定した。また、スルホセレニドの体積分率は、工程(ii)の反応条件によって制御される、工程iiの第1の膜に存在する二元アロイの体積分率に依存する。
【0126】
安定した完全に反応した四元アロイが約500℃で形成されると、反応プロセスは拡散制限になり、H2S/Arを500℃で時間を延長してさらに反応させても、複合アロイの結晶状態およびS含有量に大きな影響を及ぼすことはない。
【0127】
(b)CuIn(Se1−ySy)2およびCuGa(Se1−ySy)2の四元アロイが反応して五元のCu(In1−xGax)(Se1−ySy)2アロイ半導体膜(xは0.1〜0.5、好適には0.25〜0.3の間で変動し得、yは0〜1、好適には0.05〜0.5の間での間であり得る)を形成するように、工程(iv)(a)の第3の膜を反応管で550℃の温度で15分間アニーリングする。四元アロイ状態から五元アロイ状態への転移(図3の工程(iv)(b)のXRDにおいて27.2°のピーク5で示される)は、H2Sとの反応の10〜15分以内に生じるが、典型的には、さらに15分間アニーリングすることが五元アロイの構造特性を最適化するのに必要である。
【0128】
Cu(In1−xGax)(Se1−ySy)2の五元アロイ中の硫黄含有量は四元アロイCuIn(Se1−ySy)2およびCuGa(Se1−ySy)2の硫黄含有量に左右されること、およびxおよびyの値はスルホセレニドの体積分率に左右されることに注意することが重要である。実際、この関係は図1に示すように数学的に表すことができるので、最終的な五元アロイ中の硫黄含有量(すなわち、図1のzの値)は個々の四元アロイ中の硫黄の濃度(すなわち、図1のxおよびyの値)によって決定される。数学的には、この依存性をz=x+y/2で表すことができる。最終的にはzの値は五元アロイの[112]回折ピークの2θ値を、したがってアロイの格子定数およびバンド・ギャップを決定する。
【0129】
この実験のために、両工程(iii)および(iv)をH2S反応性ガス混合物中で連続的に行った。温度は450℃から550℃まで徐々に上昇させた。
【0130】
両工程(iii)および(iv)が完了すると、反応管から有毒ガスを確実に完全に除去するために、反応管を2.67×10−4Paまで少なくとも2時間真空排気した。次に、反応管を加圧し、サンプルを取り出した。
【0131】
本発明者は上に定めた方法を実行することによって、先行技術によって形成される半導体膜に比して特性が改善された実質的に均質な五元アロイ半導体膜が形成されると考える。
【0132】
本発明の方法に従って作成したCu(In1−xGax)(Se1−ySy)2アロイ半導体膜の特性の考察
上の表1に記載のサンプルを工程(iii)および(iv)に晒して実質的に均質な半導体五元アロイを形成し、Cu/(In+Ga)、Ga/(Ga+In)、およびS/(Se+S)原子比を参照してエネルギー分散X線分光法(EDS)によって決定されるそれらの対応する化学組成を以下の表2に示す。以下の表2にはサンプル各々のバンド・ギャップ値のほか[112]回折ピークの位置も示す。
【0133】
【表2】
【0134】
†これらの試験はArで希釈した0.12%H2SeおよびArで希釈した0.35%H2Sの一定流れの下で行った。五元アロイの[112]ピークの2θ位置をCu管を用い40kVでGIXRDによって測定した。これに対応するバンド・ギャップ値を量子効率測定値から算出した。‡工程vi(b)の時間間隔を90分まで引き伸ばした。
【0135】
表2の最初の4つのサンプルを比較すると、本発明の工程iiの条件が表のS/(S+Se)列に例示した硫黄取り込みの程度に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、工程iiの条件を変えれば、本発明の工程(iii)中の次の反応速度が変更され、その結果、最終のCu(In0.75Ga0.25)(Se1−ySy)2半導体膜中の硫黄取り込みが変化することになる。
【0136】
サンプル200250−aおよび200251−aを比較すれば、工程iiの反応温度が400℃〜450℃まで上昇することで、如何に硫黄取り込みが大幅に減少し、故に[112]回折ピークがより小さい角度へずれるかがわかる。
【0137】
最後の2つのサンプル(すなわち、200251−aおよび200252−a)の場合、工程iiの反応条件を一定に維持したが、上記工程(iv)(b)で得られた複合アロイをアニーリングする反応期間は30分から90分まで延長した。
【0138】
これらのサンプルを比較すれば、H2S/Ar雰囲気下で30分を超えてさらなる期間アニーリングしても硫黄取り込みの程度にはごく小さな影響しか及んでいないことは明白である。
【0139】
したがって、これは実質的に均質な五元アロイがH2S/Ar中で550℃でアニーリングして僅か30分後に形成されたことを示している。完全に反応した均質な五元アロイが生成されると、反応プロセスは拡散が制限になり、さらなる硫黄の取り込みはセレン種の置換を介して生じることが必要になることもさらに示唆している。
【0140】
図4.1および4.2は上の表2に記載のサンプル200251aおよび200250aの[112]反射のすれすれ入射X線回折(GIXRD)パターンである。この特徴付け方法では、入射角の量が小さくなれば、X線ビームの進入深さが小さくなる。0.2°〜10°の散乱角がサンプルの表面とバルクとの間に格子定数のずれが実質的にないことを示していることに注意することが重要であり、これは五元アロイが均質であることを裏付けるものである。工程ii条件が変われば、[112]回折ピークの2θ位置は大幅にずれることも同じく重要である。複合アロイすべてにおいてガリウム含有量は実質的に一定であるので、この相対的なずれの原因は硫黄取り込みの程度の変動である。以下の表3は2 角の種々のずれを示し、表4は対応する表2のいくつかの五元アロイのd間隔のずれを示している。
【0141】
【表3】
【0142】
【表4】
【0143】
d間隔の全体的なずれは、本発明の方法に従って作成したサンプルのアロイ半導体膜が単位セルの格子を含む結晶構造によって特徴付けられることを示しており、全結晶面は0.001未満のd間隔の変動を示している。
【0144】
図5は、サンプル2003078−aに関する表2の工程(iv)の条件下で、(i)まずセレン化を行い、次に(ii)硫化したCuIn0.75Ga0.3前駆体の[112]回折ピークの位置を示している。S含有量(すなわち、S/Se+S=0.7)が高い五元アロイ(サンプル2003078−a)を生成するために、セレン化/硫化中の実験条件を操作した。26.60°のピーク(i)はセレン化後のCuInSe2の予測された[112]ピーク位置である。プロセスのこの段階でピークが非対称的な挙動になっているのはGaが傾斜になっていることによる。
【0145】
しかし、[112]ピーク位置が硫化後に27.8°の角度までずれていることに注意することが重要である。ベガード則を用い、Ga濃度が約25%であると仮定すれば、これはS含有量が約70%であること、故に均質なCu(In0.7Ga0.3)(Se0.3S0.7)2アロイに相当する。これらの組成をEDS測定値によって確認した。ピーク(ii)は対称になっており、組成の幅の広がりは認められないことに注意することが特に重要である。QE測定値から決定されたサンプル2003078−aのバンド・ギャップは1.4eV(図7を参照)である。このバンド・ギャップは最適な変換効率のためには高過ぎるかもしれないが、高濃度のSを含む膜であっても均質な材料を生成することができることは上記から明白である。
【0146】
図8は上記方法で作成した種々の均質なCu(In、Ga)(Se、S)2の[112]ピーク位置、さらに具体的には、サンプル2003076−c、サンプル200251−aおよびサンプル200250−aの[112]ピーク位置を示している。前駆体のGa濃度は一定であると再度仮定し、表2に示すようにセレン化/硫化反応条件を操作してS取り込みの程度を、すなわち格子パラメータを制御する。
【0147】
図8からは[112]ピークの位置は26.9°〜27.4°の間で変動しており、これはサンプル2003076−c、サンプル200251−aおよびサンプル200250−aについて表2に示したように0.05〜0.4のS/Se+S原子比に相当することがわかる。後者の値をベガード則から再度推定し、均質な五元アロイおよび0.25のGa/Ga+In比を仮定する。これに対応するバンド・ギャップ値のずれは、これらの特定のアロイについては1.1eV〜1.3eVである。図9は、例えば、均質なCu(In0.75Ga0.25)(Se0.75S0.25)2アロイ、すなわちサンプル200251−aに関する典型的なQE曲線を示しており、[112]ピーク位置は27.2°近傍にある。図10はバンド・ギャップ値をS/Se+S比の関数としてグラフで示している。
【0148】
図11、12および13は実施例1で作成したCu(In、Ga)(Se、S)2アロイ半導体薄膜の典型的な表面モルフォロジを示しており、S含有量、故にバンド・ギャップが変動する。図11(サンプル200251−a)の場合、[112]ピークの位置は27.2°にあり、これに対応するバンド・ギャップは1.20eVである(図9を参照)。図12のアロイ(サンプル200250−a)の[112]ピーク位置は27.4°にある。図13はアロイの構造的特徴を示しており、[112]ピーク位置は27.8°近傍にあり(サンプル2003078−a)、図7に示すように対応するバンド・ギャップ値は1.4eVである。
【0149】
図11、12および13からは、得られたアロイは典型的な約1mの粒径の比較的均一な表面モルフォロジを有することがわかる。
【0150】
図14はサンプル200251−aの元素Cu、In、Ga、Se、およびSの濃度の深さ分布である。サンプルの性質が実質的に均質であることがその分布に示されており、アロイ中の元素の濃度はMo金属層まで実質的に一定である。
【0151】
本発明の方法で作成した実質的に均質な五元アロイ半導体膜を含んだ種々のソーラ・セルデバイスの開回路電圧の決定
標準的なセル作製手順に従って、50nmのCdSバッファ層および50nmの真性のZnO/150nmのインジウムスズ酸化物(ITO)窓層を含んだソーラ・セルデバイスを作製した。ガラス/Mo/Cu(In、Ga)(Se、S)2/CdS/ZnOセル構造体を、シミュレーションした25℃のA.M.1.5条件で評価した。表2に示すように工程iiの反応条件を変えることによって、実質的に均質な五元アロイのバンド・ギャップ値を変えた。対応するセル・パラメータを以下の表5に記載する。
【0152】
【表5】
【0153】
変換効率はサンプル・アロイのバンド・ギャップに非常に関連し、8%〜15%の間で変動するが、最良のデバイスはバンド・ギャップが最低のものである(サンプル200375−b)。すべてのデバイスの開回路電圧(Voc)は600mVを超えた。また、サンプル200251−aの上記反応条件下で作成した五元アロイ半導体膜を含んだ24個の光起電力セルを作製した。これらセルのVoc値は600〜640mV(図6を参照)の範囲の値に制限され、これは本発明の方法に再現性がある証拠であると本発明者は考える。
【実施例2】
【0154】
四元のIB−IIIA−VIA族アロイを製造するための実験手順
工程(i)
工程iは一般的な実験手順に記載のものと同じである。さらに具体的には、減圧を中断せずに、Mo層を蒸着させた後、Cu0.75Ga0.25およびInを作業圧0.3Paで共スパッタリングした。また、意図的に基板を加熱することなく共スパッタリングを行い、Cu−Ga−Inアロイの混合を強化するために共スパッタリング中は基板を回転させた。Cu−In−Gaアロイの総厚を0.6μmとし、Cu/(In+Ga)およびGa/(Ga+In)の原子比をそれぞれ0.9および0.25に維持した。
【0155】
工程ii
この場合、上記実験1の工程iiに記載のものと同じ方法に従ったが、二元アロイおよびCuInSe2のみの安定した混合物を含んだ第1の膜を形成するように、反応温度は400℃に維持した。
【0156】
本発明者は四元アロイ半導体膜を製造する場合、均質な四元アロイを得るように、第2の三元アロイ、すなわちCuGaSe2の形成を阻止することが重要であると考える。これは反応温度を400℃に維持することによって達成された。
【0157】
上記のように、H2Seの流れを終了させ、第1の膜を100℃以下まで冷却する処理に工程iiの第1の膜を晒し、混合物の安定性を維持する。この場合のArの流れは、再び確実にH2Se種を完全に除去するために少なくとも15分間維持した。
【0158】
工程(iii)
四元アロイ半導体膜を製造する場合は、この工程は実行されない。
【0159】
工程(iv)
第1の膜を以下の連続工程に晒す:
(a)工程(ii)の第1の膜をArの不活性雰囲気の反応管で反応温度500℃まで5分間加熱する;
(b)工程(ii)の第1の膜をArを含んだ雰囲気の反応管で500℃で少なくとも15分間アニーリングする;
(c)第1の膜をAr中で0.12モル%のH2Se存在下で550℃で30分間アニーリングして、xが0.25〜0.3である均質な四元のCu(In1−xGax)Se2アロイ半導体膜を形成する。
【0160】
五元アロイを形成する場合のように、反応管から有毒ガスを確実に完全に除去するために、反応管を2.67×10−4Paまで少なくとも2時間真空排気した。次に、反応管を加圧し、サンプルを取り出した。
【0161】
再び、本発明者は実施例2に記載の反応条件および方法に従うことによって、実質的に均質なCu(In1−xGax)Se2半導体膜を形成することができると考える。
3種のサンプルを実験2に記載の条件下で作成した。反応条件およびCu/(In+Ga)およびGa/(Ga+In)原子比を参照してエネルギー分散X線分光法(EDS)により決定されたそれらの化学組成を、以下の表6に記載する。
【0162】
【表6】
†これらの試験は工程(ii)のArで希釈した0.12%H2Seおよび工程(iv)(c)のArで希釈した0.12%H2Seの一定の流れの下で行った。五元アロイの[112]ピークの2θ位置をCu管を用いて40kVでGIXRDによって測定した。これに対応するバンド・ギャップ値を量子効率測定値から算出した。
【0163】
以下表7には、上記サンプルの全体的な2θのずれを示し、表8には、対応するd間隔の全体的ずれも示す。
【0164】
【表7】
【0165】
【表8】
【0166】
d間隔の全体的なずれは、本発明の方法に従って作成したサンプルのアロイ半導体膜が単位セルの格子を含む結晶構造によって特徴付けられることを示しており、全結晶面は0.06未満のd間隔の変動を示す。
【0167】
本発明の方法により作成した四元アロイの均質な特性をさらに例示するために、先行技術のサンプルを作成し、その特徴を実施例2に記載の方法で作成したサンプルと比較した。
【0168】
図15.1および15.2はXRDパターンであり、典型的な傾斜になった四元アロイ(先行技術のサンプル)および均質な四元アロイ(すなわち、サンプル200259−a)の結晶の特徴をそれぞれ示し、アロイは以下に記載の方法で作成したものである。いずれの場合も、40kVのCuのKα線で測定した。
【0169】
傾斜になった四元アロイ(先行技術のサンプル)(図15.1のXRDパターンを参照)の場合、アロイをH2Se存在下で5分未満で急速に500℃まで加熱し、次に、Ar中5モル%のH2Se中で500℃で60分間アニーリングした。この手順によってInリッチ相とGaリッチ相と間には相当な程度の相互拡散が生じ、XRD分析は傾斜になったCu(InxGa1−x)Se構造体が存在することを示した。この現象は[112]、[220/204]および[312/116]回折ピークの非対称的な幅の広がりにより示される。この点で、26.65°における[112]回折ピークの位置は依然として純粋なCuInSe2相の格子パラメータを表すが、肩部はCuGaSe2のピーク位置までずっと延びるGaの量の増大によるものであることに注意することが重要である。したがって、吸収膜の表面は純粋なCuInSe2を含んでおり、ガリウムはMoのバック・コンタクトに向かって徐々に増大すると仮定することが合理的である。
【0170】
この第2のサンプル、すなわち、サンプル200259−aは表6の実施例2の工程i、iiおよび(iv)に記載の実験条件に基づいて作成した。二元アロイの反応速度を制御するために、Ar中のH2Seが0.12モル%という極度に低いガス濃度を用いて工程iiを400℃で実行した。反応期間は30分に固定した。反応ゾーンからSe種を完全に除去した後、第1の膜をAr存在下で500℃の温度で15分間アニーリングし、その後直ちにAr中0.12モル%のH2Seで30分間アニーリング工程を行った。
【0171】
図15.2に示したサンプル200259−aのXRD試験から、得られた膜は均質で、材料が全く分離していないことがわかった。[112]、[220/204]および[312/116]ピークが急峻ではっきりとしていることは、高い結晶品質であることを示す。[112]ピーク位置が(図15.1に示したような)純粋なCuInSe2に典型的である約26.65°から2θ値の26.85°まで増大していることに注意することも重要である。より大きな2θ値に向かう[112]ピークの後者のずれは、四元系のGa含有量の増大による格子定数の低減に一致する。より高い2θ値に向かう回折ピークのこのずれの程度はベガード則にまさに一致し、均質な材料およびGa/(Ga+In)原子比は0.25近傍になる。
【0172】
図16は0.5°〜10°の入射角におけるサンプル200259−aの[112]ピークのGIXRDパターンを示す。入射角が小さくなればX線ビームの進入深さが減少することが再度理解されよう。図16からは0.5°〜10°の散乱角は表面材料とバルク材料との間で格子定数のずれが実質的になく、これは膜は組成的に傾斜になっているのではなく均一であることを裏付けていることに注意することが重要である。
【0173】
四元アロイの深さ方向の組成的特徴をX線蛍光法(XRF)によって求めた。この特徴付け方法では、サンプルを臭素−メタノールで繰り返しエッチングし、各エッチング工程の後に残っている材料のXRFのKα1、2線強度を測定した。これらの分析から、先行技術のサンプルおよびサンプル200259−aの化学組成を膜厚のほぼ全体を通して評価することができる。
【0174】
図17.1は図15.1の組成的に傾斜になった先行技術のCu(In0.75Ga0.25)Se2アロイ膜の深さ方向の組成の均一性を示している。図17.1からCuおよびSeの元素濃度は膜の厚さ全体にわたって実質的に一定なままであったことに注意することが重要である。さらにいっそう重要なことは、連続的なエッチング工程後の残りの材料は徐々にガリウムリッチになるが、インジウムについては反対の傾向が観察されたことがわかる。得られたGa/(Ga+In)の原子比はエッチング前のサンプルの0.28から最後のエッチング工程後の0.75まで値が増大している。サンプル深さに対してGa/(Ga+In)原子比がこのように連続的に増大していることは、図15.1のXRD試験において観察されたCu(InxGa1−x)Se2相が傾斜になっていることと一致する。
【0175】
図17.2はサンプル200259−aの深さ方向の組成的特性を示している。Cu、In、GaおよびSe濃度はこれらの特定の四元アロイの層厚全体にわたって実質的に一定のままであったことがわかる。したがって、このような結果は図15.2に示したXRDデータと一致しており、この成長プロセスがCu(InxGa1−x)Se2相のガリウムおよびインジウムの傾斜化を排除し、均質な四元アロイが得られたことを裏付けている。
【0176】
サンプル200259−aの均質性は図18の濃度分布に示されており、元素Cu、In、GaおよびSeの濃度はサンプル・アロイを通して実質的に一定である。
【実施例3】
【0177】
四元のIB−IIIA−VIA族アロイの製造−CuIn(Se1−ySy)2の製造のための実験手順
工程i
この場合、Gaも含んだ先の場合とは異なり、CuおよびInのみを含む金属膜を作成した。さらに具体的には、Leybold Z650 DC Magnetron Sputtering Systemを用いてCuおよびInの金属前駆体を基板上に共スパッタリングした。このシステムは3つの別個のターゲット(すなわち、Mo、Cu、およびIn)を収容し、CuおよびInの相互混合を促進するために蒸着中に基板を連続して回転させた。5Nの純粋なMoターゲットから作業圧0.3Pa〜0.7PaでMoバック・コンタクト(厚さ約1μm)をスパッタリングした。このMo膜を真空で室温まで冷却し、次に5Nの純粋なCuおよびInターゲットからCuおよびIn層を共スパッタリングした。銅−インジウム・アロイの総厚を0.6μmとし、個々の蒸着プロセス中、In出力を1.0〜1.4W.cm−2の間で変えながらCu出力を0.72W.cm−2の一定に保つことによって、0.85〜0.9の所望のCu/Inの原子比が得られた。Cu−In層すべてを作業圧0.5Paで蒸着させた。
【0178】
工程ii
この場合、実施例2に記載のものと同様の方法を用いた。CuおよびIn前駆体を含んだ金属膜を反応管に入れ、大気残存物の痕跡をすべて除去するために1×10−4Paまで真空排気した。反応ガス混合物(Ar中のH2Se約0.12%)を反応管に流しながら、基板を350℃〜450℃で10〜60分間加熱してInSe、CuSeおよびCuInSe2の安定した混合物を含んだ膜を形成した。
【0179】
金属膜をセレン化した直後に、第1の膜を急速冷却し、安定した混合物を維持するようにガス混合物の流れを遮断した。
【0180】
工程(iii)
四元アロイ半導体膜を製造する場合、この工程は実行されない。
【0181】
工程(iv)
工程(iv)の熱処理には、まず工程(ii)の第1の膜を500〜550℃の所望の反応温度まで少なくとも30分以内に熱処理する工程を含む。
【0182】
次に、工程(ii)の第1の膜を引き続きAr中のH2Sの気体混合物(Ar中H2Sは0.35モル%)の存在下で約550℃の温度で30分間アニーリングした。
【0183】
上記工程中、CuSeおよびInSeの既存の二元アロイはSと反応してCu(Se、S)およびIn(Se、S)のスルホセレニドを形成し、次にこのスルホセレニドはCuInSe2の三元アロイと反応してCuIn(Se1−ySy)2アロイ半導体膜を形成する。
【0184】
五元アロイを形成する場合のように、反応管から有毒ガスを確実に完全に除去するために、反応管を圧力2.67×10−4Paまで少なくとも2時間真空排気した。次に、反応管を加圧し、サンプルを取り出した。
【0185】
再度、本発明者は実施例3に記載の反応条件および方法に従うことによって、実質的に均質なCuIn(Se1−ySy)2半導体膜を形成することができると考える。
3種のサンプルを実験3に記載の条件下で作成した。反応条件およびCu/InおよびS/(Se+S)原子比を参照してエネルギー分散X線分光法(EDS)により決定されたそれらの化学組成を、以下の表9に記載する。
【0186】
【表9】
以下の表10には、上記サンプルの全体的な2θのずれを示し、表11には、対応するd間隔の全体的ずれも示す。
【0187】
【表10】
†これらの試験は工程(ii)のArで希釈した0.12%H2Seおよび工程(iv)のArで希釈した0.35%H2Sの一定の流れの下で行った。五元アロイの[112]ピークの2θ位置をCu管を用いて40kVでGIXRDによって測定した。これに対応するバンド・ギャップ値を量子効率測定値から算出した。
【0188】
【表11】
【0189】
d間隔が全体的にずれていることは、本発明の方法に従って作成したサンプルのアロイ半導体膜が単位セルの格子を含む結晶構造によって特徴付けられることを示しており、全結晶面は0.007未満のd間隔の変動を示す。
【0190】
本発明の方法により作成した四元アロイの均質な特性をさらに例示するために、先行技術のサンプルを作成し、その特徴を実施例3に記載の方法で作成したサンプル、すなわちより具体的には200259−cと比較した。
【0191】
第1のサンプルを先行技術の条件下で作成した。この条件では、CuおよびInを含んだ金属膜を450℃で60分間セレン化して完全に反応したCuInSe2膜を生成した。次に、サンプルを引き続き550℃で30分間硫化した。
【0192】
図19はサンプル200259−cのXRDパターンを示す。先行技術の反応プロセスでは2つの別個の三元の相、すなわちCuInSe2およびCuInS2が形成されたことに注意することが重要である。26.68°における[112]回折ピークの位置はCuInSe2の格子定数を表し、27.84°におけるピーク位置はCuInS2の格子定数を表す。27°近傍で弱い反射が存在していることは、四元のCuIn(Se、S)2の相が形成されたことを表す。この変則的な成長挙動は硫化中のサンプルからSeが制御されずに外部へ拡散した結果、Sが急速に取り込まれたことに関連する。これによって最終的には、大半が分離したCuInSe2およびCuInS2の相を含んだアロイが形成された。60分以上硫化を行う極端な場合、サンプルからは完全にSeがなくなり、CuInS2アロイが形成された。SEM試験(図20)は予測された不均質なアロイの不均一な構造的性質を明らかにした。典型的には、これらの膜は細粒材料に埋め込まれた大きな滑らかな面のクリスタライトからなる。
【0193】
図21はCuIn(Se0.7S0.3)2アロイ(サンプル200259−c)のSEM顕微鏡写真である。このアロイ膜は約1μmの典型的な粒径を有する緻密で比較的均一な構造によって特徴付けられる。図22はサンプル200259−cの(112)反射を示している。比較のために、単相のCuInSe2およびCuInS2の(112)反射の理論的に予測される2θ位置を図22に点線で示す。CuIn(Se、S)2膜の(112)反射が純粋なCuInSe2の約26.63°からS取り込み後の27.1°まで増大したことに注意することが重要である。この現象はSeがS種と均質に置換されるためにアロイのd間隔が低減することと直接関連する。この回折ピークは、図19の場合のような組成の幅の広がり、すなわちピークの分割のない、程度の高い対称性があることも示している。
【0194】
図23はサンプル200258−bの濃度分布であり、元素Cu、In、SeおよびSの濃度がアロイの深さにわたってMo層まで実質的に一定であるという点でサンプル・アロイが実質的に均質であることを表している。
【0195】
図24はサンプル200263−bのGIXRDパターンであり、サンプルが実質的に均質で、0.5°〜10°の視射角に対して4.6%の絶対的な2θのずれを有することを示している。
【0196】
上記は本発明の実施形態に過ぎず、主張されるような本発明の範囲および精神から逸脱せずに詳細における多くの変更が可能であることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】本発明の五元のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を製造する方法を示す略図である。
【図2.1】実施例1の工程iiに従って形成された第1の膜のX線回折スペクトルを示すグラフであり、より具体的にはサンプル200250−aの第1の膜のXRDパターンである。
【図2.2】実施例1の工程iiに従って形成された第1の膜のX線回折スペクトルを示すグラフであり、より具体的にはサンプル200251−aの第1の膜のXRDパターンである。
【図3】サンプル200251−aに関する実施例1の工程(iii)ならびに工程(iv)(a)および(iv)(b)に対応するX線回折スペクトルを示すグラフであり、サンプルの三元アロイ状態から四元および五元アロイ状態への転移を示す。
【図4.1】実施例1のサンプル200251−aの五元アロイ半導体膜の[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【図4.2】実施例1のサンプル200250−aの五元アロイ半導体膜の[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【図5】実施例1のサンプル2003078−aのXRDパターンを示すグラフである。
【図6】サンプル200251−aの半導体膜を有するいくつかの光起電力セルの開回路電圧(Voc)を示すグラフである。
【図7】実施例1のサンプル200290−aの量子効率(QE)を示すグラフである。
【図8】実施例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.95S0.05)2アロイ半導体膜(サンプル200376−c)、Cu(In0.75Ga0.25)(Se0.75S0.25)アロイ半導体膜(サンプル200251−a)、およびCu(In0.75Ga0.25)(Se0.6S0.4)2アロイ半導体膜(サンプル200250−a)のXRDパターンを示すグラフである。
【図9】実施例1の均質なCu(In0.75Ga0.25)(Se0.75S0.25)2アロイ半導体膜(サンプル200251−a)の量子効率(QE)を示すグラフである。
【図10】実施例1に記載の工程に従って作成した一連の均質な五元アロイのS/Se+S比の関数としてバンド・ギャップ値を示すグラフである。
【図11】実施例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.75S0.25)2アロイ半導体膜(サンプル200251−a)の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図12】実施例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.6S0.4)2アロイ半導体膜(サンプル200250−a)の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図13】実施例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.3S0.7)2アロイ半導体膜(サンプル200378−a)の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図14】実施例1の五元アロイのXPS濃度深さ分布、より具体的にはサンプル200251−aの濃度分布を示すグラフである。
【図15.1】実施例2で特定した先行技術の条件下で作成した四元アロイのXRDパターンを示すグラフである。
【図15.2】実施例2の、具体的にはサンプル200259−aの四元アロイのXRDパターンを示すグラフである。
【図16】実施例2のサンプル200259−aの[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【図17.1】実施例2で特定した先行技術の条件下で作成した四元アロイの深さ方向の組成特性を示すX線蛍光分布である。
【図17.2】実施例2のサンプル200259−aの条件下で作成した四元アロイの深さ方向の組成特性を示すX線蛍光分布である。
【図18】実施例2の四元アロイのXPS濃度深さ分布、より具体的にはサンプル200259−aの濃度分布を示すグラフである。
【図19】実施例3に記載の先行技術の条件下で作成した四元アロイのXRDパターンを示すグラフである。
【図20】実施例3に記載の先行技術の条件下で作成した四元アロイの表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図21】実施例3のサンプル200259−cの表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図22】実施例3のサンプル200259−cのXRDパターンを示すグラフである。
【図23】実施例3の四元アロイのXPS濃度深さ分布、より具体的にはサンプル200258−bの濃度深さ分布を示すグラフである。
【図24】実施例3のサンプル200263−bの[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は四元以上のI−III−VI族アロイ半導体膜に関する。さらに具体的には、本発明は、限定するものではないが、実質的に均質である四元以上のI−III−VI族アロイに関する。
【0002】
本発明はさらに、光起電力セル/ソーラ・セルにおいて半導体膜として使用するのに適した実質的に均質である四元以上のI−III−VI族アロイ半導体膜に関する。
【背景技術】
【0003】
定義
本願明細書の目的のために、「五元アロイ」という用語は異なる5つの元素を有するアロイを意味する。例えば、Cu(In、Ga)(S、Se)2は異なる5つの元素が銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)および硫黄(S)である五元のIB−IIIA−VIA族アロイである。同様に、「四元アロイ」という用語は異なる4つの元素を有するアロイを意味する。例えば、Cu(In、Ga)Se2は四元のIB−IIIA−VIA族アロイである。同じく、三元アロイは異なる3つの元素を有し、二元アロイは異なる2つの元素を有する。
【0004】
「均質な」という用語は、アロイが全体にわたって実質的に一定の格子定数、格子面間隔(以下、d間隔と呼ぶ)およびバンド・ギャップ値を有するように、アロイを構成する異なる元素が均質に分布されているということを意味する。すなわち、0.5°〜10°の視射角に対するすれすれ入射X線回折によって特徴付けられるアロイの回折主ピーク[2θ(112)]の絶対的なずれは無視できるものである。
【0005】
さらに本願明細書の目的のために、「不均質な」アロイとは、アロイが傾斜バンド・ギャップ構造を含み、アロイの構成元素の1つまたは複数の原子濃度がアロイ全体にわたって変わるような組成傾斜を有することを意味する。不均質なアロイはさらに、結晶構造の点で格子不整合を含むかもしれず、したがって、アロイ全体にわたって結晶構造の格子定数の変動を有することになりうる。
【0006】
便宜上、元素は銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)、硫黄(S)、アルゴン(Ar)、モリブデン(Mo)およびアルミニウム(Al)を含むそれらの一般に受け入れられた化学記号により言及する。また、(例えば、Cu−In−GaまたはCu−Inにおいて)ハイフンを使用することは必ずしも化合物を示すものではないが、ハイフンによって連結された元素が共存する混合物であることを示す。
【0007】
わかり易いように、IB族に言及することは、Cu、AgおよびAuの元素を含む周期表内の族を指す。IIIA族に言及することは、B、Al、Ga、InおよびおTiの元素を含む周期表内の族を指す。さらに、VIA族に言及することはO、S、Se、TeおよびPoの元素を含む周期表内の族を指す。
【0008】
2つの元素の間でコンマを使用すること、例えば、(Se、S)、(In、Ga)は便宜上使用されているに過ぎず、例えば、(Se、S)は(Se1−ySy)の省略形である。
【0009】
半導体膜材料
今日まで結晶シリコンおよび多結晶シリコンはソーラ・モジュール/光起電力セルの製造に使用される主要材料である。この材料に関連する主な問題は製造コストが高いことである。製造コストを低減し、材料の利用性を向上させようとする試みにおいては、半導体薄膜アロイは徹底的な調査の対象となってきた。この点で、CuInSe2、CuGaSe2およびCuInS2などのIB−IIIA−VIA族アロイは、薄膜光起電力セルまたはデバイスにおける吸収層として有望な候補である。
【0010】
アロイが別のIII族元素と組み合わせてGaを含んだIB−IIIA−VIA族アロイを含んだ半導体膜は特に関心がある。これはそのような膜にGaが存在することによって、より高いバンド・ギャップ値を有する半導体膜が得られ、次いで、ソーラ・セル/光起電力セル・デバイスにおいては、より高い開回路電圧を有し短絡電流が低減された半導体膜が得られるためである。五元アロイ(五元アロイ半導体膜)を含む半導体膜はさらにいっそう関心がある。
【0011】
一般式としてCu(In1−xGax)(Se1−ySy)2を有する五元アロイを含んだ半導体膜については、太陽スペクトルとの最適な適合性を達成するために、バンド・ギャップは1.0〜2.4eV間で体系的にずらされ得る。この材料系の最適化によって研究室規模では変換効率が18%を超えるソーラ・セルデバイスが既に得られている。
【0012】
先行技術のプロセス
IB−IIIA−VIA族半導体膜を製造する方法は多数あり、そのうち最も一般的な2つの方法は従来の2段階プロセスおよび共蒸着プロセスである。
【0013】
従来の2段階プロセス
上記プロセスは典型的には、(i)多くの場合モリブデンで被覆された基板の上にCu、InおよびGaなどの金属前駆体をDCマグネトロン・スパッタリングによって成膜し、次いで(ii)Seおよび/またはSの蒸気またはH2Se/Arおよび/またはH2Se/Arガスを含んだ雰囲気下で前駆体を反応性アニーリングすることを伴う。このような技術は、V.Alberts、J.H.Schon、およびE.BucherのJournal of Appl.Phys.84(12)、1998年、6881およびA.GuptaおよびS.IsomuraのSol.Energy Mater.Sol.Cells 53、1998年、385による論文に開示されている。
【0014】
理論に拘束されず、J.Palm、V.Probst、W.Stetterらによる論文Thin Solid Films、451〜452(2004)544〜551を参照すると、Cu−In−Ga金属前駆体をセレン化すればCuSeおよびIn4Se3、Cu2−xSeおよびInSeなどの二元アロイが製造されると考えられる。次に、370℃を超える温度でこの二元の前駆体相間で反応させることによって、CuInSe2(CIS)の三元アロイが形成される。セレン化中、GaがCISの形成中にモリブデン基板の方に追いやられるように、後者のアロイのみが形成され、Gaのセレン化は動力学的に妨げられると考えられる。また、さらにアニーリングすることにより、結果として二重層構造が裏電極と接するGaリッチな細粒CIGS層の上部に十分に結晶化されたCIS層を含むように、Cu(In、Ga)Se2(CIGS)の別個の層が形成されると考えられる。商業上好ましくないが、さらにアニーリングすればGaは裏電極から構造の表面まで拡散することになる。
【0015】
ガリウムの大半が膜の裏側に存在する分離膜構造または傾斜膜構造の効果は、吸収膜が光起電力セルの活性領域において低いバンド・ギャップ値を呈することであり、これは最終的にデバイスのVocを制限する。(ソーラ・モジュール/光起電力セルの開回路電圧(Voc)および短絡電流(Jsc)は、半導体材料のバンド・ギャップに直接関連する。1eVという低いバンド・ギャップ値のCuInSe2では、Voc値は典型的には500mVに制限されるが、1.65eVという高いバンド・ギャップ値のCuGaSe2吸収層を用いれば、1000mVに近い値を達成することができる。)
【0016】
また、極端な傾斜の場合、傾斜になった吸収膜内の格子不整合は電気的活性構造欠陥を引き起こし、これはデバイス性能に悪影響を及ぼす。
従来の2段階プロセスによって形成された低バンド・ギャップの不均質なCu(In、Ga)Se2アロイの不利を克服するために、一般的に膜をH2Sと反応させる。
【0017】
現行の工業プロセスには膜の最上面領域のある割合のセレン種が硫黄と置換される硫化後工程を含む(K.Kushiya、M.Tachiyuki、T.Kase、I.Sugiyama、Y.Nagoya、D.Okumura、M.Satoh、O.Yamase、およびH.TaleshitaのSol.Energy Mater.Sol.Cells 49.1997年、277;R.Gay、M.Dietrich、C.Fredric、C.Jensen、K.Knapp、D.Tarrant、およびD.Willett、Proceedings of the International Conference on E.C.Photovoltaic Solar Energy、Vol.12(1)、1994年、935;およびT.Nakada、H.Ohbo、T.Watanabe、H.Nakazawa、M.MatsuiおよびA.Kunioka、Solar Energy Materials and Solar Cells 49、1997年、285)。
【0018】
このアプローチにより、薄いCu(In、Ga)(Se、S)2表面層が、得られた傾斜状のCu(In1−xGax)Se2構造の上に最終的には形成される。この表面層は傾斜が急峻になっており、Cu(In、Ga)Se2構造への深さは約50nmである。
【0019】
既に工業規模で適用されている上記硫化後工程の不利は次のようなものである:
(i)そのような膜におけるセレン種と硫黄種との間の交換速度が遅い;
(ii)ソーラ・セル素子の開回路電圧はほんの僅かしか増大されない;
(iii)十分な程度に硫黄を取り込むには、高温で90〜120分という長い反応時間が必要となるので、最終的に製造プロセスのコストが上昇する;
(iv)得られるアロイは不均質になるので、格子定数およびバンド・ギャップ値の効果的な制御が妨げられる。
【0020】
M.Marudachalam、H.Hichri、R.Klenk、R.W.Birkmire、W.N.SchfarmanおよびJ.M.Schultz、Appl.Phys.Lett.67(26)、1995年、3978による論文では、均質性が改善されたCu(In、Ga)Se2薄膜は、CuInSe2およびCuGaSe2の相が分離した混合物をアルゴン中で500℃〜600℃で60〜120分間、in situでアニーリングすることによって製造できることも実証されている。しかし、このような特定のアロイのオージェ深さ分布は依然として深さに対してInおよびGa濃度に実質的なばらつきがあり、不均質なアロイを示すことがわかっている。
【0021】
また、不活性雰囲気下でアニーリング後工程を行えば膜からSeがかなり失われることになり、H2Se/Ar中で第2のアニーリング工程が必要となった。不活性雰囲気に加えH2Se/Ar下でのこの付加的なアニーリング後工程は、プロセスの再現性を弱めるだけでなく、商業上引き合わないものにする。
【0022】
シングル・ステージ技術
均質な五元アロイを製造する別の試みでは、複雑なシングル・ステージ技術が開発された。この技術では、すべての元素(Cu、In、Ga、Se、およびS)は個々の源からの高真空下で一定の流束で共蒸着されることが、I.M.Kotschau、H.Kerber、H.Wiesner、G.HannaおよびH.W.Schockよる論文、Proceedings of the 16th European Photovoltaic Solar Energy Conference、2000年5月1〜5日、英国グラスゴー、724〜727頁に開示されている。
【0023】
この技術によってガリウムおよび硫黄の膜への取り込みの制御が可能となるので、アロイの格子定数が低減される。次に、五元アロイのバンド・ギャップ値が増大するので、最終的には完成されソーラ・セルデバイスの開回路電圧が大きくなる。しかし、0.4°〜5°の入射角におけるすれすれ入射角X線回折(GIXRD)は、材料の表面とバルクとの間で格子定数が著しくずれることを示した。著者らはこの現象は層の表面では銅が少ないことが原因であると考え、これがアロイを均質なものでなく組成的に傾斜状にしていることを裏付けた。
【0024】
現在驚くべきことに、セレン化反応が最後まで進んで、二元アロイが存在しない完全に反応した三元アロイが形成されることがないように、セレン化工程における三元アロイの形成を制御することによって上記の重大な問題は少なくとも部分的に克服または低減することができることが発明者によって認められた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は新規な四元アロイおよび五元アロイを提供することにある。
本発明のさらなる目的は半導体膜として使用するのに適した新規な実質的に均質な四元アロイおよび五元アロイを提供することにあり、そのようなアロイを使用すれば、不均質なアロイを含んだ半導体膜に関する関連する不利の少なくとも一部が最小化される。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によれば、以下の一般式(I)を有する四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイが提供される:
A(B1−xCx)(D1−yEy)2・・・・(I)
上式中:
AはIB族元素;
BはIIIA族元素;
CはBとは異なるIIIA族元素;
Dは第1のVIA族元素(以下、VI1と呼ぶ);
Eは第2のVIA族元素(以下、VI2と呼ぶ);
xおよびyが同時にゼロではないと仮定すれば、xおよびyの各々は独立して0から1まで変動し得る;
このアロイは、40kVのCu線について、26°〜28°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ、0.2°〜10°の視射角に対するすれすれ入射X線回折パターン(GIXRD)が0.06°未満の前記2θ[112]角の絶対的なずれを表わす。
【0027】
このアロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有することが好ましく、結晶面はすべて0.01未満のd間隔の変動を示す。
本発明の好適な実施形態では、XPS深さ分布によって特徴付けられるようなアロイの元素A、B、C、DおよびEの元素濃度は、アロイ全体にわたって実質的に均質である。
【0028】
五元アロイ
本発明の一実施形態では、AはCu、BはInまたはAl、好適にはIn、CはGa、DはSe、EはSである。xおよびyはともに0より大きい。
【0029】
五元アロイは式(II)を有することが好ましい:
Cu(In1−xGax)(Se1−ySy)2(II)
【0030】
本発明の好適な実施形態では、xは0.25から0.3まで変動し得、yは0.05から0.8まで変動し得る。
【0031】
式(II)のアロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有することが好ましく、結晶面はすべて0.001未満のd間隔の変動を示す。
2θ[112]角の絶対的なずれは0.01°未満であることが好ましい。
【0032】
Cu、In、Ga、SeおよびSの濃度は、XPS深さ分布によって特徴付けられるようなアロイの深さにわたって一定であることが好ましい。
【0033】
好適な実施形態では、式(II)のアロイは、3.3117〜3.1840のd間隔で計測したときに、40kVのCu線について、26.9°〜28°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ得る。
【0034】
2θ[112]ピークは実質的に対称であることが好ましい。好適な実施形態では、2θ[112]ピークは27.0°から27.5°であり得る。
【0035】
式(II)のアロイは、そのバンド・ギャップが1eVから2.4eVまで、好適には1.1eVから1.5eVまで連続的にずれ得るという点でさらに特徴付けられ得る。
本発明の好適な実施形態では、S対Se+Sの原子比、すなわち、S/(S+Se) によって表される硫黄含有量は0.05〜0.7にある。
本発明の好適な実施形態では、式(II)のアロイは均質である。
【0036】
四元アロイ
Cu(In、Ga)Se2
本発明の別の実施形態では、AはCu、BはIn、CはGa、DはSeであり、y=0である。
【0037】
四元アロイは式(III)を有することが好ましい:
Cu(In1−xGax)(Se)2 (III)
本発明の好適な実施形態では、xは0.25〜0.3まで変動し得る。
【0038】
式(III)のアロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有することが好ましく、この場合すべての結晶面は0.006未満のd間隔の変動を示す。2θ[112]角の絶対的なずれは0.05°未満であることが好ましい。
【0039】
Cu、In、GaおよびSeの濃度はXPS深さ分布によって特徴付けられるようなアロイの深さにわたって一定であることが好ましい。
【0040】
本発明の好適な実施形態では、式(III)のアロイは、3.3236〜3.2990のd間隔で計測したときに、40kVのCu線について、26.8°〜27°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ得る。
【0041】
この2θ[112]ピークは実質的に対称であることが好ましい。本発明の好適な実施形態では、この2θ[112]ピークは26.85°〜26.9°になり得る。
【0042】
式(III)のアロイは、そのバンド・ギャップが1.1eV〜1.2eV、好適には1.15eV〜1.18eVまで変動し得るという点でさらに特徴付けられ得る。
【0043】
本発明の好適な実施形態では、Ga対Ga+Inの原子比、すなわち、Ga/(Ga+In) によって表されるガリウム含有量は0.25〜0.3にある。
【0044】
本発明の好適な実施形態では、式(III)のアロイは実質的には均質である。
CuIn(Se、S)2
本発明のまた別の実施形態によれば、AはCu、BはIn、DはSe、EはSであり、x=0である。
【0045】
四元アロイは式(IV):
CuIn(Se1−ySy)2 (IV)
を有することが好ましい。
本発明の好適な実施形態では、yは0.1〜0.5まで変動し得る。
【0046】
式(IV)のアロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有することが好ましく、この場合すべての結晶面は0.007未満のd間隔の変動を示す。2θ[112]角の絶対的なずれは0.06°未満であることが好ましい。
【0047】
Cu、In、SeおよびSの濃度はXPS深さ分布によって特徴付けられるようなアロイの深さにわたって一定であることが好ましい。
【0048】
本発明の好適な実施形態では、式(IV)のアロイは、3.3236〜3.2640のd間隔で計測したとき、40kVのCu線について、26.80°〜27.3°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ得る。
【0049】
この2θ[112]ピークは実質的に対称であることが好ましい。本発明の好適な実施形態では、この2θ[112]ピークは27.0°〜27.2°であり得る。
式(IV)のアロイは、そのバンド・ギャップが1.05eV〜1.23eV、好適には1.15eV〜1.20eVまで変動し得るという点でさらに特徴付けられ得る。
【0050】
本発明の好適な実施形態では、S対S+Seの原子比、すなわち、S/(S+Se) によって表されるS含有量は0.1〜0.5にある。
本発明の好適な実施形態では、式(IV)のアロイは実質的には均質である。
【0051】
本発明の別の態様によれば、式(I)のアロイを含む半導体膜が提供される。この半導体膜は式(I)のアロイのための支持体、好適には基板を含むことが好ましい。
本発明の好適な実施形態では、基板はその上に金属層を含み得る。この金属層は、好ましくはMo層であり得る。
式(I)のアロイを含む半導体膜は1.5〜2.0μmの厚さを有し得る。
【0052】
本発明のさらに別の態様によれば、式(I)のアロイを含んだ半導体膜を含む光起電力セル/ソーラ・セルが提供される。本発明の好適な実施形態では、この光起電力セル/ソーラ・セルの変換効率は8〜15%である。
【0053】
本発明のさらなる態様によれば、四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を製造する方法が提供され、この方法は次の工程を含む:
i.IB族金属およびIIIA族金属の混合物を含む金属膜を与える工程;
ii.第1のVIA族元素(以下、前記第1のVIA族元素をVIA1と呼ぶ)の源の存在下で、IB−VIA1族アロイおよびIIIA−VIA1族アロイからなる群から選択された少なくとも1つの二元アロイおよび少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA1族アロイを含む第1の膜を形成するような条件下で、金属膜を熱処理する工程;
iii.第2のVIA族元素(以下、前記第2のVI族元素をVIA2と呼ぶ)の源の存在下で、IB−VIA1−VIA2族アロイおよびIIIA−VIA1−VIA2族アロイからなる群から選択された少なくとも1つのアロイ、および工程(ii)の少なくとも1つの三元のIB−III−VIA1族アロイを含む第2の膜に第1の膜を転換するような条件下で、第1の膜を任意的に熱処理する工程;
iv.第1の膜または第2の膜のいずれかを熱処理して、VIAがVIA1および/またはVIA2であり得る四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を形成する工程。
【0054】
第1の膜の混合物は、IB−VIA1族アロイおよび/またはIIIA−VIA1族アロイすべてと少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA1族アロイとのモル比が実質的に一定のままである安定した混合物であることが好ましい。
【0055】
工程(i)
工程(i)の金属膜は基板上に設けることができる。この基板は上記方法の反応条件および熱処理工程下で不活性であることが好ましい。適した基板にはガラス、可撓性の金属箔またはポリマー箔等がある。基板は0.05mm〜3.0mmの厚さであることが好ましい。
【0056】
この基板は任意的に金属層、好適には厚さが0.5〜1.0 mのMo層で被覆されてよい。金属膜はこの金属層上に設けられることが好ましい。金属層は光起電力セルにおいて電気的コンタクト層として機能することもできる。
【0057】
工程(i)の金属膜は複数の金属の混合物を含み、一実施形態では、少なくとも2つの異なるIIIA族金属を含むことが好ましい。
【0058】
好適な実施形態では、工程(i)の金属膜は、Cu、InおよびGa、好適にはCu、InおよびGaの組み合わせからなる群から選択された金属の混合物を含む。この金属は元素形態またはアロイ形態であり得る。CuおよびGaの源はアロイ、好適にはCu0.75Ga0.25のアロイであることが好ましい。金属膜はCu−In−Gaアロイであることが好ましい。Gaに加えて重要なIII族元素はAlおよびThである。
【0059】
本発明の別の実施形態では、工程(i)の金属膜はGaが存在しない場合に限りCuおよびInの混合物を含む。この金属膜はCu−Inアロイであることが好ましい。
【0060】
本発明の好適な実施形態では、基板上に成膜されるIIIA族元素の総量はIB族元素とIIIA族元素とのモル比が、例えば、Cu/(In+Ga)が0.7〜1.0、好適には0.8〜1.0、さらに好適には0.90〜0.95になるように十分なものになろう。
【0061】
当該分野では周知の直流(DC)マグネトロン・スパッタリングなどの技術によって基板上にこの金属を堆積させて、厚さ0.6〜1 m、好適には厚さ0.6 mになり得る金属膜を形成することができる。IB族金属およびIIIA族金属、またはそれらのアロイを基板上に堆積させることのできる、例えば電着または電子ビーム蒸着などによる他の手段があることが理解されよう。
【0062】
工程(ii)
工程(i)の金属膜をVIA1の源の存在下で熱処理する。VIA1はSeであることが好ましい。この源はH2Seと好適には少なくとも1つの他のガス、好適にはArなどの不活性ガスとの気体混合物を含むことがさらに好ましい。蒸気形態の元素のSeを用いてよいことも想起される。
【0063】
少なくとも1つの他のガス、好適にはArに対するSeのモル濃度は、0.01〜15モル%、好適には0.1〜1.0モル%であってよく、少なくとも1つの他のガスに対するSeの濃度は0.12%であることが最も好適である。
【0064】
本発明の一実施形態では、工程(ii)は反応温度が300℃〜500℃、好適には350℃〜450℃である反応条件下で実行される。
【0065】
本発明の好適な実施形態では、工程(i)の金属膜を上で定めた反応温度まで5〜30分以内、好適には10〜20分以内に加熱する。
【0066】
工程(i)の金属膜を10〜120分間、好適には15〜90分間、さらに好適には30〜60分間、VIA1元素の源に暴露することが好ましい。工程(ii)中の圧力を104Pa〜105Pa、好適には5×104Pa〜9×104Paに維持する。
【0067】
本発明の一実施形態では、Seの源の存在下で工程(i)の金属膜を熱処理して、CuSe、InSeおよびGa2Se3を含む二元アロイと少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA族アロイとの安定した混合物を含む第1の膜を形成する。
【0068】
工程(ii)の第1の膜は50原子%未満のVIA1元素を有することが好ましい。第1の膜は第1の膜が50原子%未満のSeを有するという点でSeが欠損していることがさらに好ましい。第1の膜は化学量論的に完全に反応した膜に必要な50原子%に対して43から47原子%のSe濃度を有することが好ましい。Se/(Cu+Ga+In)比は1未満であることが好ましい。
【0069】
上に定めた方法の好適な実施形態では、本発明の工程(ii)を実行後、二元アロイと少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA族アロイとの混合物が安定したままになるように確実にする条件下である処理工程に第1の膜を晒すことができる。
【0070】
この条件には、VIA1元素の源を除去することにより混合物の安定性を維持することが含まれることが好ましい。好適な実施形態では、この条件には第1の膜を不活性雰囲気、好適にはアルゴンに5〜20分間、好適には10〜15分間暴露することが含まれることもできる。第1の膜を好適には200℃以下の温度まで冷却することもできる。
【0071】
五元のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜の形成方法
工程(i)および(ii)
工程(i)および(ii)は上記のように定められる。さらに具体的に言えば、工程(i)は少なくとも1つのIB族元素と、第1のIIIA族元素(以下、この第1のIIIA族元素をIIIA1と呼ぶ)と、第2のIIIA族元素(以下、この第2のIIIA族元素をIIIA2と呼ぶ)との混合物を含む金属膜を設ける工程を含む。工程(ii)は、IB−VIA1族アロイ、IIIA1−VIA1族アロイ、およびIIIA2−VIA1族アロイからなる群から選択された二元アロイと2つの三元アロイ、すなわちIB−IIIA1−VIA1族アロイおよびIB−IIIA2−VIA1族アロイとの混合物を含んだ第1の膜を形成するような条件下で、VIA1の源の存在下で工程(i)の金属膜を熱処理する工程を含む。
【0072】
工程(iii)
本発明の一実施形態では、好適には、IB−VIA1−VIA2族アロイおよびIIIA−VIA1−VIA2族アロイ、好適にはIIIA1−VIA1−VIA2族アロイおよびIIIA2−VIA1−VIA2族アロイからなる群から選択される少なくとも1つのアロイと、工程(ii)の少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA1族アロイとを含んだ第2の膜に第1の膜を転換するように、工程(ii)の第1の膜を第2のVIA2族元素の存在下で熱処理する。
【0073】
VIA2はSの源であることが好ましい。本発明の好適な実施形態では、Sの源はH2Sと少なくとも1つの不活性ガス、好適にはArなどの不活性ガスとのガス状混合物を含む。
【0074】
本発明の好適な実施形態では、少なくとも1つの不活性ガス、好適にはArに対するSのモル濃度は0.1から10モル%まで、好適には0.3から0.5モル%の間で変動し得、最も好適には少なくとも1つの他のガスに対するSの濃度は0.35%である。
【0075】
工程(iii)の熱処理は、5〜10分間、好適には5分間、100℃〜500°、好適には400℃〜500°、さらに好適には450℃であり得る。
本発明の好適な実施形態では、IB族元素はCu、IIIA1族元素はIn、IIIA2族元素はGa、VIA1はSe、VIA2はSである。
【0076】
第2の膜はCu(Se、S)、In(Se、S)およびGa(Se、S)からなる群から選択されたアロイの混合物、好適にはこれら3つ全部と、三元アロイ、すなわちCuGaSe2およびCuInSe2、好適にはこの両方とを含むことが好ましい。
【0077】
工程(iv)
本発明の好適な実施形態では、IB−VIA1−VIA2族アロイ、IIIA1−VIA1−VIA2族アロイおよびIIIA2−VI1−VI2族アロイからなる群から選択されたアロイの少なくとも1つが、工程(ii)の少なくとも1つの三元のIB−IIIA−VIA1族アロイと反応して、2つのIIIA族金属または2つのVIA族元素、すなわちVIA1およびVIA2のいずれかを含んだ四元のIB−IIIA−VIA族アロイの混合物を含む第3の膜を形成するように、450℃〜600℃で、好適には500℃〜550℃で、さらに好適には500℃で、5〜10分間、好適には5分間、Sの源の存在下で工程(iii)の第2の膜がアニーリングされ得る。
【0078】
第3の膜はIB−IIIA1−VI1−VIA2族アロイおよびIB−IIIA2−VIA1−VIA2族アロイからなる群から選択された四元アロイの混合物を含むことがさらに好ましい。第3の膜はCuIn(Se、S)2およびCuGa(Se、S)2の混合物を含むことがさらに好ましい。CuIn(Se、S)2およびCuGa(Se、S)2の四元アロイは実質的に均質であることが好ましい。
【0079】
500°から600°で、好適には520℃から580℃で、さらに好適には550°で15〜90分、さらに好適には30分間、第3の膜をアニーリングして、一般式IIを有する五元アロイを形成することが好ましい:
Cu(In1−xGax)(Se1−ySy)2 ・・・・ (II)
上式中、xは0.1〜0.5、好適には0.25〜0.3で変動し得、yは好適には0〜1、さらに好適には0.05〜0.7で変動し得る。
【0080】
この五元アロイは均質であることが好ましく、さらなる時間間隔、好適には15分間アニーリングしてアロイの構造特性を最適化し得ることも好ましい。均質な膜は厚さ1.5 m〜2.0 mになり得る。
【0081】
四元のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜の形成方法
四元のCu(In、Ga)Se2アロイ半導体膜
工程Iおよび工程II
工程iおよび工程iiは上に定めたようなものである。さらに具体的には、工程(i)は少なくとも1つのIB族元素、IIIA1元素およびIIIA2元素の混合物を含んだ金属膜を与える工程を含む。工程(ii)はIB−VIA1族アロイ、IIIA1−VIA1族アロイ、およびIIIA2−VIA1族アロイからなる群から選択された二元アロイとIB−IIIA1−VIA1族アロイである三元アロイとの混合物を含む第1の膜を形成するような条件下で、VIA1の源の存在下で工程(i)の金属膜を熱処理する工程を含む。
【0082】
本発明の好適な実施形態では、第1の膜が、IBはCu、IIIA1はIn、IIIA2はGa、およびVIA1はSeであるCuSe、InSeおよびGa2Se3からなる群から選択された二元アロイと、単一の三元アロイ、すなわちCuInSe2との安定した混合物を含むように、工程(ii)を350℃〜450℃、好適には、400℃で実行する。CuGaSe2の形成が妨げられることが好ましい。
【0083】
工程(iv)
本発明の一実施形態では、工程(ii)の第1の膜を第1の熱処理工程に晒し、次いでIB−IIIA1−IIIA2−VIA1族元素を形成するように、第2の熱処理工程に晒す。
【0084】
本発明の好適な実施形態では、工程(iv)の第1の熱処理工程は、不活性ガス、好適にはArを含んだ雰囲気下で工程(ii)の第1の膜を100℃〜600℃の反応温度まで加熱する工程を含む。工程(ii)の第1の膜を5分以内に反応温度まで加熱することが好ましい。
【0085】
工程(iv)の第2の熱処理工程は、まず不活性雰囲気、好適にはArの存在下で第1の膜をアニーリングする工程を含む。工程(ii)の第1の膜をまずArを含んだ雰囲気下で、好適には100℃〜600℃、好適には200℃〜550℃、さらに好適には500℃〜550℃で10〜60分間、好適には15〜30分間アニーリングし、次にVIA1元素の源の存在下で第2のアニーリングをすることが好ましい。
【0086】
VIA1は工程iiのようなSeであることが好ましい。工程(ii)の第1の膜をSeの源の存在下で好適には10〜60分間、さらに好適には30分間、100℃〜600℃、好適には200℃〜550℃、さらに好適には500℃でアニーリングして、IBはCu、IIIA1はIn、IIIA2はGa、およびVIA1はSeである式(III)の四元アロイを形成する:
Cu(In1−xGax)Se2・・・・(III)
上式中、xは0.25〜0.30の間で変動し得る。
【0087】
Seの源はH2Seおよび少なくとも1つの他のガス、好適にはArなどの不活性ガスの雰囲気であることが好ましい。少なくとも1つの他のガスに対するSeのモル濃度は0.12%であることが好ましい。
【0088】
本発明の好適な実施形態では、第1の膜(ii)を以下の連続工程に晒す;
(a)第1の膜をArの不活性雰囲気の反応管で反応温度500℃まで5分間加熱する;
(b)第1の膜をArを含んだ雰囲気の反応管で500℃で少なくとも15分間アニーリングする;
(c)第1の膜をAr中H2Se0.12モル%存在下で500℃で30分間アニーリングする。
式(III)の四元アロイは均質であることが好ましい。
【0089】
四元のCuIn(Se、S)2アロイ半導体膜
工程(i)および(ii)
工程(i)および(ii)は上記と同じものである。さらに具体的には、工程(i)は少なくとも1つのIB族元素およびIIIA族元素の混合物を含む金属膜を与える工程を含む。工程(ii)は、IB−VIA1族アロイおよびIIIA−VIA1族アロイからなる群から選択された二元アロイとIB−IIIA−VIA1族アロイである三元アロイとの混合物を含む第1の膜を形成するような条件下で、VIA1の源の存在下で工程(i)の金属膜を熱処理する工程を含む。
【0090】
本発明の好適な実施形態では、IBはCu、IIIAはIn、およびVIA1はSeである。工程(i)の金属膜はCu−Inアロイであることが好ましい。
【0091】
本発明の好適な実施形態では、二元アロイおよび工程(ii)の三元アロイの混合物が確実に安定したままであるように、工程(ii)の第1の膜をある処理工程に晒す。VIA1元素の源を除去することが好ましい。また、工程(ii)の第1の膜を200℃以下まで冷却してよい。
【0092】
工程(iii)
この工程は実行されない。
【0093】
工程(iv)
本発明の一実施形態では、工程(ii)の第1の膜を第1の熱処理工程に晒し、次いで、IB−IIIA1−VIA1−VIA2族元素を形成するように工程(ii)の第1の膜がVIA2の源の存在下でアニーリングされる第2の熱処理工程に晒す。
【0094】
工程(iv)の第1の熱処理工程は100〜600℃、好適には200〜550℃、およびさらに好適には500〜550℃の反応温度まで10〜60分間、好適には15〜30分間、工程(ii)の第1の膜を加熱する工程を含む。
【0095】
次に、工程(ii)の第1の膜をVIA2の源の存在下でアニーリングする。
VIA2はSであることが好ましい。工程(ii)の第1の膜を、Sの源の存在下で好適には10〜60分間、さらに好適には30分間、200℃〜600℃、好適には200℃〜550℃、さらに好適には500℃でアニーリングして、IBはCu、IIIA1はIn、VIA1はSe、VIA2はSである式(III)の四元アロイを形成する:
CuIn(Se1−ySy)2・・・・(IV)
上式中yは0.1〜0.5の間で変動し得る。
【0096】
Sの源はH2Sおよび少なくとも1つの他のガス、好適にはArなどの不活性ガスの雰囲気であることが好ましい。少なくとも1つの他のガスに対するSのモル濃度は0.35%であることが好ましい。
【0097】
本発明の好適な実施形態では、第1の膜(ii)を以下の連続工程に晒す;
(a)第1の膜を反応管で反応温度500℃〜550℃まで15〜30分間加熱する;および
(b)式(III)の四元アロイを形成するように、Ar(g)に対するSのモル濃度が0.35であるH2SおよびAr(g)の気体混合物の存在下で第1の膜をアニーリングする。
(IV)の四元アロイは均質であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0098】
ここで以下の実施例を用いて本発明の実施形態を記載するが、それにより本発明の範囲を制限するものではなく、単に例示として用いたものである。実施例では添付図面を参照する。
【0099】
本発明のIB−IIIA−VIA族アロイを特徴付ける際に、以下の方法および個々の条件を用いた:
1.XPS:AlのKα線を20Wのビーム・エネルギーでPhysics Electronics(PHI)Quantum 2000 Scanning XPSシステムを利用したX線光電子分光法(XPS)によりサンプルの濃度分布を決定した。スポット・サイズを100μmとし、アルゴン・イオン銃を2kVで動作させる。
2.XRD:CuのKα線(0.154056Å)を40kVおよび40mAにてPhillips X’pert回折システムを用いてX線回折(XRD)走査を記録した。
3.SEM:垂直入射ビームが20kVであるNoran EDSを備えたJeol JSM 5600走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて膜のモルフォロジおよび組成をそれぞれ試験した。
4.GIXRD:CuのKα線(0.154056Å)を40kVおよび40mAでPhillips X’pert PW3040−MPDシステムを用いて、すれすれ入射角XRD(GIXRD)によってサンプルの深さの関数である格子パラメータを決定した。
5.A.M.1.5(100mWcm−2)の標準条件下で25℃でソーラ・セルデバイスを測定した。量子効率測定値から個々のデバイスのスペクトル応答を決定した。スペクトル応答測定値の長波長カットオフ値から、対応する吸収膜のバンド・ギャップ値を導いた。
【0100】
一般的な実験手順
光起電力セルが半導体膜、この場合はIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を支持する基板を含むことは当業者には周知である。典型的には、半導体膜と反応せず、半導体の性質を変質させるものではない任意の適した基板を用いてよい。適した基板にはガラス、可撓性の金属箔またはポリマー箔等がある。
【0101】
基板は0.05〜3.0mmの厚さを有してよく、得られる半導体膜の基板への接着性を増強するためおよび完成された光起電力デバイスにおいてコンタクトとして機能するために、多くの場合モリブデンの金属層で被覆される。
【0102】
Moコーティングの厚さは一般に0.5〜1.0 mであり、0.1〜0.8Paの作業圧でDCマグネトロン・スパッタリングによって基板上に成膜される。金属層の使用および蒸着に関連する当該分野で知られた多数の他の技術が存在し、例えば、2つ以上の層が存在してよく、またはモリブデンの代わりにクロムが用いられてよいことが理解されよう。
【0103】
工程(i)
実験のために、2mm厚のソーダ石灰ガラス基板を用いた。ホルダに設置した基板を超音波撹拌した石鹸水中で10分間、やさしく動かすことによって基板を洗浄する。次に、冷たい脱イオン水の蛇口の下で数分間基板を保持して基板上の過剰な石鹸を確実に除去した。この後、超音波撹拌した脱イオン化した温水槽中で基板ホルダをやさしく動かすことによって基板を洗浄した。最後に、120℃に維持した炉内で乾燥窒素を用いて10分間基板を乾燥させた。
【0104】
乾燥したら、Mo層を基板上に蒸着させた。続いて、Cu(In1−xGax)Se2アロイ半導体膜およびCu(In1−xGax)(Se1−ySy)2アロイ半導体膜を作成するために、Cu、GaおよびInの金属膜をMo層上に共スパッタリングした。CuIn(Se1−ySy)2アロイ半導体膜を作成する場合、CuおよびInを基板上に共スパッタリングさせた。Moの蒸着、および共スパッタリングは、Moの3つの22.86cm(9インチ)の円形カソード(ターゲット)、純粋なInおよびCu0.75Ga0.25アロイのターゲットを収容する蒸着チャンバからなるDCマグネトロン・スパッタリング・ユニットを用いて実行した。また、CuIn(Se1−ySy)2アロイ半導体膜を作成する場合は、ターゲットはMo、CuおよびInとした。
【0105】
少なくとも3時間、蒸着チャンバを5×10−5Paのベース・プレッシャーまで真空排気する。Arをプラズマ・ガスとして用いて、0.5Pa〜0.7Paの作業圧で基板を意図的に加熱することなくMo層を蒸着させる。Mo層の総厚は1μmとした。
【実施例1】
【0106】
五元のIB−IIIA−VIA族アロイを製造するための実験手順
図1は五元のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を製造するための本発明の方法の略図である。
【0107】
工程i
一般的な実験手順に定めたように工程(i)を行った。さらに具体的には、Mo層の成膜後、減圧を中断せずに、0.3Paの作業圧でCu0.75Ga0.25およびInを共スパッタリングした。意図的に基板を加熱することなく、金属Cu、InおよびGaの共スパッタリングも実行し、Cu−Ga−Inアロイの混合を強化するために共スパッタリング中に基板を回転させた。Cu−In−Gaアロイの総厚は0.6μmとし、Cu/(In+Ga)およびGa/(Ga+In)の原子比をそれぞれ0.9および0.25に維持した。
【0108】
工程ii
工程iの共スパッタリングした金属膜を有する基板を水平の石英管反応炉(以下、反応管と呼ぶ)に設置した。基板を黒鉛の基板ホルダ上に置いて、反応管内に設置した。確実に基板を均一に加熱するために黒鉛の基板ホルダを用いた。
【0109】
工程iiを実行する前に少なくとも2時間、2.67×10−4Paまで反応管を真空排気した。次に、反応管を加圧し、毎分1300標準立法センチメートル(以下、sccmと呼ぶ)の一定のArの流れを確立し、反応プロセスの間維持した。
【0110】
不活性ガスの流れが一定になると、金属膜を有する基板の温度を以下の表1に記載の反応温度まで5分間で徐々に上げた。
【0111】
二元アロイ、すなわちCuSe、InSeおよびGa2Se3と以下の三元アロイ、すなわち、CuInSe2およびCuGaSe2との安定した混合物を含む第1の膜を形成するように、表1に記載の反応期間、表1に記載の反応温度まで基板を加熱しながら、反応ガス混合物(Ar中0.12モル%のH2Se)を反応管に通した。三元アロイの一方または両方が存在するかどうかは、工程iiの反応温度に左右され、以下に示すように、400℃ではCuGaSe2は形成されない。
【0112】
サンプル200250−aに関する表1に記載の反応条件下で作成した工程iiの第1の膜のXRDパターンである図2.1を参照すると、3つの二元アロイおよびCuInSe2の混合物が存在することは明らかである。サンプル200250−aの反応条件下では、400℃ではCuGaSe2が形成されたことの証拠はない。
【0113】
サンプル200251−aに関する以下の表1に記載の反応条件下で作成した工程iiの第1の膜のXRDパターンである図2.2を参照すると、反射[112]、[220/204]および[312/116]は、(a)CuInSe2に対応する比較的鋭く形成されたピーク位置および(b)CuGaSe2および残りの二元アロイのCuSeおよびGa2Se3の存在から生じる肩部分を含んでいる。
【0114】
表1に定めた反応期間が完了すると、得られた安定した混合物の安定性をさらに維持するために、サンプルを処理工程に晒した。これは反応管内のH2Seの流れを止め、サンプルを200℃以下の温度まで急激に冷却することにより行った。サンプルを15分間上記条件に保ち、反応管から確実にH2Se種を完全に除去した。
【0115】
図2.1および2.2はともに、先行技術の場合のように、以下の表1に記載の反応条件が反応が完了するのを妨げ、これによりCuSe、InSeおよびGa2Se3の不存在下でCuInSe2およびCuGaSe2の完全に反応した三元アロイが形成する安定した混合物を示している。
【0116】
セレン化反応の完了を妨げて完全に反応した三元アロイを形成するように、極端に低濃度のSeを用い、かつ低い温度を用いることによってSeの系を不足させれば、図2.1または2.2に示したような安定した混合物を得ることができると本発明者は考えた。
【0117】
【表1】
【0118】
工程(iii)
次に、二元アロイがSと反応して工程iiの第1の膜を、スルホセレニド、すなわちCu(Se、S)、In(Se、S)およびGa(Se、S)と工程(ii)の三元アロイとの混合物を含む第2の膜に転換するように、上記表1の反応条件下で形成した工程(ii)の第1の膜を、反応管でH2SおよびAr(気体混合物中のSのモル百分率はArに対して0.35%付近に維持する)の気体混合物中で450℃の反応温度で5分間加熱した。
【0119】
サンプル20051−aのXRDパターン、特に工程(iii)のXRDである図3を参照すると、In(Se、S)が存在することがわかるが、Cu(Se、S)およびGa(Se、S)の残りのスルホセレニドは選択された2θ範囲には示されていない。
【0120】
本発明者は約450℃の温度では、工程(iii)のXRDに示したように、気体雰囲気中の既存のS種と工程(ii)の三元アロイとの反応(図3において26.71°のピーク1および27.75°のピーク2で示される)は実質的に重要ではないと考える。つまり、Sと三元アロイとの反応はこの特定の温度では重要ではない。
【0121】
工程(iv)
次に、工程(iii)の第2の膜を反応管で次の熱処理工程に晒す:
(a)スルホセレニドが三元アロイと反応してCuIn(Se1−ySy)2およびCuGa(Se1−ySy)2(工程(iv)(a)のXRDにおいて27.01°のピーク3および28.05°のピーク4で示した)の四元アロイを含んだ第3の膜を生成するように、工程(iii)の第2の膜を約500℃で5分間熱処理する。
【0122】
本発明者は工程iiを400℃で行い、かつCuGaSe2が存在しない場合、この工程ではスルホセレニドが直接反応してCuGa(Se1−ySy)2を形成するかもしれないと考える。しかし、そのような状況では、得られる四元アロイはより高いS濃度を含み、その結果、ピーク4は図3に示したものより高い2θ値にずれるであろう。
【0123】
Sの工程(ii)の三元アロイとの反応は、スルホセレニドが無いこと、例えば、CuInSe2と反応してCuIn(Se1−ySy)2を形成するということを示している図3の工程(iv)(a)のXRDパターンにIn(Se、S)ピークが無いことによって示されている。
【0124】
図3の工程(iii)のXRDを図3の工程(iv)(a)のXRDと比較すれば、三元アロイ([112]ピーク1および2で示される)がスルホセレニドと反応して四元アロイCuIn(Se1−ySy)2およびCuGa(Se1−ySy)2([112]ピーク3および4で示される)を含む第3の膜を形成したことが、次の2θのずれから明らかである。
【0125】
位置1から3へ、および2から4への[112]ピークのずれの程度を三元アロイと反応するのに利用可能なスルホセレニドの体積分率によって決定した。また、スルホセレニドの体積分率は、工程(ii)の反応条件によって制御される、工程iiの第1の膜に存在する二元アロイの体積分率に依存する。
【0126】
安定した完全に反応した四元アロイが約500℃で形成されると、反応プロセスは拡散制限になり、H2S/Arを500℃で時間を延長してさらに反応させても、複合アロイの結晶状態およびS含有量に大きな影響を及ぼすことはない。
【0127】
(b)CuIn(Se1−ySy)2およびCuGa(Se1−ySy)2の四元アロイが反応して五元のCu(In1−xGax)(Se1−ySy)2アロイ半導体膜(xは0.1〜0.5、好適には0.25〜0.3の間で変動し得、yは0〜1、好適には0.05〜0.5の間での間であり得る)を形成するように、工程(iv)(a)の第3の膜を反応管で550℃の温度で15分間アニーリングする。四元アロイ状態から五元アロイ状態への転移(図3の工程(iv)(b)のXRDにおいて27.2°のピーク5で示される)は、H2Sとの反応の10〜15分以内に生じるが、典型的には、さらに15分間アニーリングすることが五元アロイの構造特性を最適化するのに必要である。
【0128】
Cu(In1−xGax)(Se1−ySy)2の五元アロイ中の硫黄含有量は四元アロイCuIn(Se1−ySy)2およびCuGa(Se1−ySy)2の硫黄含有量に左右されること、およびxおよびyの値はスルホセレニドの体積分率に左右されることに注意することが重要である。実際、この関係は図1に示すように数学的に表すことができるので、最終的な五元アロイ中の硫黄含有量(すなわち、図1のzの値)は個々の四元アロイ中の硫黄の濃度(すなわち、図1のxおよびyの値)によって決定される。数学的には、この依存性をz=x+y/2で表すことができる。最終的にはzの値は五元アロイの[112]回折ピークの2θ値を、したがってアロイの格子定数およびバンド・ギャップを決定する。
【0129】
この実験のために、両工程(iii)および(iv)をH2S反応性ガス混合物中で連続的に行った。温度は450℃から550℃まで徐々に上昇させた。
【0130】
両工程(iii)および(iv)が完了すると、反応管から有毒ガスを確実に完全に除去するために、反応管を2.67×10−4Paまで少なくとも2時間真空排気した。次に、反応管を加圧し、サンプルを取り出した。
【0131】
本発明者は上に定めた方法を実行することによって、先行技術によって形成される半導体膜に比して特性が改善された実質的に均質な五元アロイ半導体膜が形成されると考える。
【0132】
本発明の方法に従って作成したCu(In1−xGax)(Se1−ySy)2アロイ半導体膜の特性の考察
上の表1に記載のサンプルを工程(iii)および(iv)に晒して実質的に均質な半導体五元アロイを形成し、Cu/(In+Ga)、Ga/(Ga+In)、およびS/(Se+S)原子比を参照してエネルギー分散X線分光法(EDS)によって決定されるそれらの対応する化学組成を以下の表2に示す。以下の表2にはサンプル各々のバンド・ギャップ値のほか[112]回折ピークの位置も示す。
【0133】
【表2】
【0134】
†これらの試験はArで希釈した0.12%H2SeおよびArで希釈した0.35%H2Sの一定流れの下で行った。五元アロイの[112]ピークの2θ位置をCu管を用い40kVでGIXRDによって測定した。これに対応するバンド・ギャップ値を量子効率測定値から算出した。‡工程vi(b)の時間間隔を90分まで引き伸ばした。
【0135】
表2の最初の4つのサンプルを比較すると、本発明の工程iiの条件が表のS/(S+Se)列に例示した硫黄取り込みの程度に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、工程iiの条件を変えれば、本発明の工程(iii)中の次の反応速度が変更され、その結果、最終のCu(In0.75Ga0.25)(Se1−ySy)2半導体膜中の硫黄取り込みが変化することになる。
【0136】
サンプル200250−aおよび200251−aを比較すれば、工程iiの反応温度が400℃〜450℃まで上昇することで、如何に硫黄取り込みが大幅に減少し、故に[112]回折ピークがより小さい角度へずれるかがわかる。
【0137】
最後の2つのサンプル(すなわち、200251−aおよび200252−a)の場合、工程iiの反応条件を一定に維持したが、上記工程(iv)(b)で得られた複合アロイをアニーリングする反応期間は30分から90分まで延長した。
【0138】
これらのサンプルを比較すれば、H2S/Ar雰囲気下で30分を超えてさらなる期間アニーリングしても硫黄取り込みの程度にはごく小さな影響しか及んでいないことは明白である。
【0139】
したがって、これは実質的に均質な五元アロイがH2S/Ar中で550℃でアニーリングして僅か30分後に形成されたことを示している。完全に反応した均質な五元アロイが生成されると、反応プロセスは拡散が制限になり、さらなる硫黄の取り込みはセレン種の置換を介して生じることが必要になることもさらに示唆している。
【0140】
図4.1および4.2は上の表2に記載のサンプル200251aおよび200250aの[112]反射のすれすれ入射X線回折(GIXRD)パターンである。この特徴付け方法では、入射角の量が小さくなれば、X線ビームの進入深さが小さくなる。0.2°〜10°の散乱角がサンプルの表面とバルクとの間に格子定数のずれが実質的にないことを示していることに注意することが重要であり、これは五元アロイが均質であることを裏付けるものである。工程ii条件が変われば、[112]回折ピークの2θ位置は大幅にずれることも同じく重要である。複合アロイすべてにおいてガリウム含有量は実質的に一定であるので、この相対的なずれの原因は硫黄取り込みの程度の変動である。以下の表3は2 角の種々のずれを示し、表4は対応する表2のいくつかの五元アロイのd間隔のずれを示している。
【0141】
【表3】
【0142】
【表4】
【0143】
d間隔の全体的なずれは、本発明の方法に従って作成したサンプルのアロイ半導体膜が単位セルの格子を含む結晶構造によって特徴付けられることを示しており、全結晶面は0.001未満のd間隔の変動を示している。
【0144】
図5は、サンプル2003078−aに関する表2の工程(iv)の条件下で、(i)まずセレン化を行い、次に(ii)硫化したCuIn0.75Ga0.3前駆体の[112]回折ピークの位置を示している。S含有量(すなわち、S/Se+S=0.7)が高い五元アロイ(サンプル2003078−a)を生成するために、セレン化/硫化中の実験条件を操作した。26.60°のピーク(i)はセレン化後のCuInSe2の予測された[112]ピーク位置である。プロセスのこの段階でピークが非対称的な挙動になっているのはGaが傾斜になっていることによる。
【0145】
しかし、[112]ピーク位置が硫化後に27.8°の角度までずれていることに注意することが重要である。ベガード則を用い、Ga濃度が約25%であると仮定すれば、これはS含有量が約70%であること、故に均質なCu(In0.7Ga0.3)(Se0.3S0.7)2アロイに相当する。これらの組成をEDS測定値によって確認した。ピーク(ii)は対称になっており、組成の幅の広がりは認められないことに注意することが特に重要である。QE測定値から決定されたサンプル2003078−aのバンド・ギャップは1.4eV(図7を参照)である。このバンド・ギャップは最適な変換効率のためには高過ぎるかもしれないが、高濃度のSを含む膜であっても均質な材料を生成することができることは上記から明白である。
【0146】
図8は上記方法で作成した種々の均質なCu(In、Ga)(Se、S)2の[112]ピーク位置、さらに具体的には、サンプル2003076−c、サンプル200251−aおよびサンプル200250−aの[112]ピーク位置を示している。前駆体のGa濃度は一定であると再度仮定し、表2に示すようにセレン化/硫化反応条件を操作してS取り込みの程度を、すなわち格子パラメータを制御する。
【0147】
図8からは[112]ピークの位置は26.9°〜27.4°の間で変動しており、これはサンプル2003076−c、サンプル200251−aおよびサンプル200250−aについて表2に示したように0.05〜0.4のS/Se+S原子比に相当することがわかる。後者の値をベガード則から再度推定し、均質な五元アロイおよび0.25のGa/Ga+In比を仮定する。これに対応するバンド・ギャップ値のずれは、これらの特定のアロイについては1.1eV〜1.3eVである。図9は、例えば、均質なCu(In0.75Ga0.25)(Se0.75S0.25)2アロイ、すなわちサンプル200251−aに関する典型的なQE曲線を示しており、[112]ピーク位置は27.2°近傍にある。図10はバンド・ギャップ値をS/Se+S比の関数としてグラフで示している。
【0148】
図11、12および13は実施例1で作成したCu(In、Ga)(Se、S)2アロイ半導体薄膜の典型的な表面モルフォロジを示しており、S含有量、故にバンド・ギャップが変動する。図11(サンプル200251−a)の場合、[112]ピークの位置は27.2°にあり、これに対応するバンド・ギャップは1.20eVである(図9を参照)。図12のアロイ(サンプル200250−a)の[112]ピーク位置は27.4°にある。図13はアロイの構造的特徴を示しており、[112]ピーク位置は27.8°近傍にあり(サンプル2003078−a)、図7に示すように対応するバンド・ギャップ値は1.4eVである。
【0149】
図11、12および13からは、得られたアロイは典型的な約1mの粒径の比較的均一な表面モルフォロジを有することがわかる。
【0150】
図14はサンプル200251−aの元素Cu、In、Ga、Se、およびSの濃度の深さ分布である。サンプルの性質が実質的に均質であることがその分布に示されており、アロイ中の元素の濃度はMo金属層まで実質的に一定である。
【0151】
本発明の方法で作成した実質的に均質な五元アロイ半導体膜を含んだ種々のソーラ・セルデバイスの開回路電圧の決定
標準的なセル作製手順に従って、50nmのCdSバッファ層および50nmの真性のZnO/150nmのインジウムスズ酸化物(ITO)窓層を含んだソーラ・セルデバイスを作製した。ガラス/Mo/Cu(In、Ga)(Se、S)2/CdS/ZnOセル構造体を、シミュレーションした25℃のA.M.1.5条件で評価した。表2に示すように工程iiの反応条件を変えることによって、実質的に均質な五元アロイのバンド・ギャップ値を変えた。対応するセル・パラメータを以下の表5に記載する。
【0152】
【表5】
【0153】
変換効率はサンプル・アロイのバンド・ギャップに非常に関連し、8%〜15%の間で変動するが、最良のデバイスはバンド・ギャップが最低のものである(サンプル200375−b)。すべてのデバイスの開回路電圧(Voc)は600mVを超えた。また、サンプル200251−aの上記反応条件下で作成した五元アロイ半導体膜を含んだ24個の光起電力セルを作製した。これらセルのVoc値は600〜640mV(図6を参照)の範囲の値に制限され、これは本発明の方法に再現性がある証拠であると本発明者は考える。
【実施例2】
【0154】
四元のIB−IIIA−VIA族アロイを製造するための実験手順
工程(i)
工程iは一般的な実験手順に記載のものと同じである。さらに具体的には、減圧を中断せずに、Mo層を蒸着させた後、Cu0.75Ga0.25およびInを作業圧0.3Paで共スパッタリングした。また、意図的に基板を加熱することなく共スパッタリングを行い、Cu−Ga−Inアロイの混合を強化するために共スパッタリング中は基板を回転させた。Cu−In−Gaアロイの総厚を0.6μmとし、Cu/(In+Ga)およびGa/(Ga+In)の原子比をそれぞれ0.9および0.25に維持した。
【0155】
工程ii
この場合、上記実験1の工程iiに記載のものと同じ方法に従ったが、二元アロイおよびCuInSe2のみの安定した混合物を含んだ第1の膜を形成するように、反応温度は400℃に維持した。
【0156】
本発明者は四元アロイ半導体膜を製造する場合、均質な四元アロイを得るように、第2の三元アロイ、すなわちCuGaSe2の形成を阻止することが重要であると考える。これは反応温度を400℃に維持することによって達成された。
【0157】
上記のように、H2Seの流れを終了させ、第1の膜を100℃以下まで冷却する処理に工程iiの第1の膜を晒し、混合物の安定性を維持する。この場合のArの流れは、再び確実にH2Se種を完全に除去するために少なくとも15分間維持した。
【0158】
工程(iii)
四元アロイ半導体膜を製造する場合は、この工程は実行されない。
【0159】
工程(iv)
第1の膜を以下の連続工程に晒す:
(a)工程(ii)の第1の膜をArの不活性雰囲気の反応管で反応温度500℃まで5分間加熱する;
(b)工程(ii)の第1の膜をArを含んだ雰囲気の反応管で500℃で少なくとも15分間アニーリングする;
(c)第1の膜をAr中で0.12モル%のH2Se存在下で550℃で30分間アニーリングして、xが0.25〜0.3である均質な四元のCu(In1−xGax)Se2アロイ半導体膜を形成する。
【0160】
五元アロイを形成する場合のように、反応管から有毒ガスを確実に完全に除去するために、反応管を2.67×10−4Paまで少なくとも2時間真空排気した。次に、反応管を加圧し、サンプルを取り出した。
【0161】
再び、本発明者は実施例2に記載の反応条件および方法に従うことによって、実質的に均質なCu(In1−xGax)Se2半導体膜を形成することができると考える。
3種のサンプルを実験2に記載の条件下で作成した。反応条件およびCu/(In+Ga)およびGa/(Ga+In)原子比を参照してエネルギー分散X線分光法(EDS)により決定されたそれらの化学組成を、以下の表6に記載する。
【0162】
【表6】
†これらの試験は工程(ii)のArで希釈した0.12%H2Seおよび工程(iv)(c)のArで希釈した0.12%H2Seの一定の流れの下で行った。五元アロイの[112]ピークの2θ位置をCu管を用いて40kVでGIXRDによって測定した。これに対応するバンド・ギャップ値を量子効率測定値から算出した。
【0163】
以下表7には、上記サンプルの全体的な2θのずれを示し、表8には、対応するd間隔の全体的ずれも示す。
【0164】
【表7】
【0165】
【表8】
【0166】
d間隔の全体的なずれは、本発明の方法に従って作成したサンプルのアロイ半導体膜が単位セルの格子を含む結晶構造によって特徴付けられることを示しており、全結晶面は0.06未満のd間隔の変動を示す。
【0167】
本発明の方法により作成した四元アロイの均質な特性をさらに例示するために、先行技術のサンプルを作成し、その特徴を実施例2に記載の方法で作成したサンプルと比較した。
【0168】
図15.1および15.2はXRDパターンであり、典型的な傾斜になった四元アロイ(先行技術のサンプル)および均質な四元アロイ(すなわち、サンプル200259−a)の結晶の特徴をそれぞれ示し、アロイは以下に記載の方法で作成したものである。いずれの場合も、40kVのCuのKα線で測定した。
【0169】
傾斜になった四元アロイ(先行技術のサンプル)(図15.1のXRDパターンを参照)の場合、アロイをH2Se存在下で5分未満で急速に500℃まで加熱し、次に、Ar中5モル%のH2Se中で500℃で60分間アニーリングした。この手順によってInリッチ相とGaリッチ相と間には相当な程度の相互拡散が生じ、XRD分析は傾斜になったCu(InxGa1−x)Se構造体が存在することを示した。この現象は[112]、[220/204]および[312/116]回折ピークの非対称的な幅の広がりにより示される。この点で、26.65°における[112]回折ピークの位置は依然として純粋なCuInSe2相の格子パラメータを表すが、肩部はCuGaSe2のピーク位置までずっと延びるGaの量の増大によるものであることに注意することが重要である。したがって、吸収膜の表面は純粋なCuInSe2を含んでおり、ガリウムはMoのバック・コンタクトに向かって徐々に増大すると仮定することが合理的である。
【0170】
この第2のサンプル、すなわち、サンプル200259−aは表6の実施例2の工程i、iiおよび(iv)に記載の実験条件に基づいて作成した。二元アロイの反応速度を制御するために、Ar中のH2Seが0.12モル%という極度に低いガス濃度を用いて工程iiを400℃で実行した。反応期間は30分に固定した。反応ゾーンからSe種を完全に除去した後、第1の膜をAr存在下で500℃の温度で15分間アニーリングし、その後直ちにAr中0.12モル%のH2Seで30分間アニーリング工程を行った。
【0171】
図15.2に示したサンプル200259−aのXRD試験から、得られた膜は均質で、材料が全く分離していないことがわかった。[112]、[220/204]および[312/116]ピークが急峻ではっきりとしていることは、高い結晶品質であることを示す。[112]ピーク位置が(図15.1に示したような)純粋なCuInSe2に典型的である約26.65°から2θ値の26.85°まで増大していることに注意することも重要である。より大きな2θ値に向かう[112]ピークの後者のずれは、四元系のGa含有量の増大による格子定数の低減に一致する。より高い2θ値に向かう回折ピークのこのずれの程度はベガード則にまさに一致し、均質な材料およびGa/(Ga+In)原子比は0.25近傍になる。
【0172】
図16は0.5°〜10°の入射角におけるサンプル200259−aの[112]ピークのGIXRDパターンを示す。入射角が小さくなればX線ビームの進入深さが減少することが再度理解されよう。図16からは0.5°〜10°の散乱角は表面材料とバルク材料との間で格子定数のずれが実質的になく、これは膜は組成的に傾斜になっているのではなく均一であることを裏付けていることに注意することが重要である。
【0173】
四元アロイの深さ方向の組成的特徴をX線蛍光法(XRF)によって求めた。この特徴付け方法では、サンプルを臭素−メタノールで繰り返しエッチングし、各エッチング工程の後に残っている材料のXRFのKα1、2線強度を測定した。これらの分析から、先行技術のサンプルおよびサンプル200259−aの化学組成を膜厚のほぼ全体を通して評価することができる。
【0174】
図17.1は図15.1の組成的に傾斜になった先行技術のCu(In0.75Ga0.25)Se2アロイ膜の深さ方向の組成の均一性を示している。図17.1からCuおよびSeの元素濃度は膜の厚さ全体にわたって実質的に一定なままであったことに注意することが重要である。さらにいっそう重要なことは、連続的なエッチング工程後の残りの材料は徐々にガリウムリッチになるが、インジウムについては反対の傾向が観察されたことがわかる。得られたGa/(Ga+In)の原子比はエッチング前のサンプルの0.28から最後のエッチング工程後の0.75まで値が増大している。サンプル深さに対してGa/(Ga+In)原子比がこのように連続的に増大していることは、図15.1のXRD試験において観察されたCu(InxGa1−x)Se2相が傾斜になっていることと一致する。
【0175】
図17.2はサンプル200259−aの深さ方向の組成的特性を示している。Cu、In、GaおよびSe濃度はこれらの特定の四元アロイの層厚全体にわたって実質的に一定のままであったことがわかる。したがって、このような結果は図15.2に示したXRDデータと一致しており、この成長プロセスがCu(InxGa1−x)Se2相のガリウムおよびインジウムの傾斜化を排除し、均質な四元アロイが得られたことを裏付けている。
【0176】
サンプル200259−aの均質性は図18の濃度分布に示されており、元素Cu、In、GaおよびSeの濃度はサンプル・アロイを通して実質的に一定である。
【実施例3】
【0177】
四元のIB−IIIA−VIA族アロイの製造−CuIn(Se1−ySy)2の製造のための実験手順
工程i
この場合、Gaも含んだ先の場合とは異なり、CuおよびInのみを含む金属膜を作成した。さらに具体的には、Leybold Z650 DC Magnetron Sputtering Systemを用いてCuおよびInの金属前駆体を基板上に共スパッタリングした。このシステムは3つの別個のターゲット(すなわち、Mo、Cu、およびIn)を収容し、CuおよびInの相互混合を促進するために蒸着中に基板を連続して回転させた。5Nの純粋なMoターゲットから作業圧0.3Pa〜0.7PaでMoバック・コンタクト(厚さ約1μm)をスパッタリングした。このMo膜を真空で室温まで冷却し、次に5Nの純粋なCuおよびInターゲットからCuおよびIn層を共スパッタリングした。銅−インジウム・アロイの総厚を0.6μmとし、個々の蒸着プロセス中、In出力を1.0〜1.4W.cm−2の間で変えながらCu出力を0.72W.cm−2の一定に保つことによって、0.85〜0.9の所望のCu/Inの原子比が得られた。Cu−In層すべてを作業圧0.5Paで蒸着させた。
【0178】
工程ii
この場合、実施例2に記載のものと同様の方法を用いた。CuおよびIn前駆体を含んだ金属膜を反応管に入れ、大気残存物の痕跡をすべて除去するために1×10−4Paまで真空排気した。反応ガス混合物(Ar中のH2Se約0.12%)を反応管に流しながら、基板を350℃〜450℃で10〜60分間加熱してInSe、CuSeおよびCuInSe2の安定した混合物を含んだ膜を形成した。
【0179】
金属膜をセレン化した直後に、第1の膜を急速冷却し、安定した混合物を維持するようにガス混合物の流れを遮断した。
【0180】
工程(iii)
四元アロイ半導体膜を製造する場合、この工程は実行されない。
【0181】
工程(iv)
工程(iv)の熱処理には、まず工程(ii)の第1の膜を500〜550℃の所望の反応温度まで少なくとも30分以内に熱処理する工程を含む。
【0182】
次に、工程(ii)の第1の膜を引き続きAr中のH2Sの気体混合物(Ar中H2Sは0.35モル%)の存在下で約550℃の温度で30分間アニーリングした。
【0183】
上記工程中、CuSeおよびInSeの既存の二元アロイはSと反応してCu(Se、S)およびIn(Se、S)のスルホセレニドを形成し、次にこのスルホセレニドはCuInSe2の三元アロイと反応してCuIn(Se1−ySy)2アロイ半導体膜を形成する。
【0184】
五元アロイを形成する場合のように、反応管から有毒ガスを確実に完全に除去するために、反応管を圧力2.67×10−4Paまで少なくとも2時間真空排気した。次に、反応管を加圧し、サンプルを取り出した。
【0185】
再度、本発明者は実施例3に記載の反応条件および方法に従うことによって、実質的に均質なCuIn(Se1−ySy)2半導体膜を形成することができると考える。
3種のサンプルを実験3に記載の条件下で作成した。反応条件およびCu/InおよびS/(Se+S)原子比を参照してエネルギー分散X線分光法(EDS)により決定されたそれらの化学組成を、以下の表9に記載する。
【0186】
【表9】
以下の表10には、上記サンプルの全体的な2θのずれを示し、表11には、対応するd間隔の全体的ずれも示す。
【0187】
【表10】
†これらの試験は工程(ii)のArで希釈した0.12%H2Seおよび工程(iv)のArで希釈した0.35%H2Sの一定の流れの下で行った。五元アロイの[112]ピークの2θ位置をCu管を用いて40kVでGIXRDによって測定した。これに対応するバンド・ギャップ値を量子効率測定値から算出した。
【0188】
【表11】
【0189】
d間隔が全体的にずれていることは、本発明の方法に従って作成したサンプルのアロイ半導体膜が単位セルの格子を含む結晶構造によって特徴付けられることを示しており、全結晶面は0.007未満のd間隔の変動を示す。
【0190】
本発明の方法により作成した四元アロイの均質な特性をさらに例示するために、先行技術のサンプルを作成し、その特徴を実施例3に記載の方法で作成したサンプル、すなわちより具体的には200259−cと比較した。
【0191】
第1のサンプルを先行技術の条件下で作成した。この条件では、CuおよびInを含んだ金属膜を450℃で60分間セレン化して完全に反応したCuInSe2膜を生成した。次に、サンプルを引き続き550℃で30分間硫化した。
【0192】
図19はサンプル200259−cのXRDパターンを示す。先行技術の反応プロセスでは2つの別個の三元の相、すなわちCuInSe2およびCuInS2が形成されたことに注意することが重要である。26.68°における[112]回折ピークの位置はCuInSe2の格子定数を表し、27.84°におけるピーク位置はCuInS2の格子定数を表す。27°近傍で弱い反射が存在していることは、四元のCuIn(Se、S)2の相が形成されたことを表す。この変則的な成長挙動は硫化中のサンプルからSeが制御されずに外部へ拡散した結果、Sが急速に取り込まれたことに関連する。これによって最終的には、大半が分離したCuInSe2およびCuInS2の相を含んだアロイが形成された。60分以上硫化を行う極端な場合、サンプルからは完全にSeがなくなり、CuInS2アロイが形成された。SEM試験(図20)は予測された不均質なアロイの不均一な構造的性質を明らかにした。典型的には、これらの膜は細粒材料に埋め込まれた大きな滑らかな面のクリスタライトからなる。
【0193】
図21はCuIn(Se0.7S0.3)2アロイ(サンプル200259−c)のSEM顕微鏡写真である。このアロイ膜は約1μmの典型的な粒径を有する緻密で比較的均一な構造によって特徴付けられる。図22はサンプル200259−cの(112)反射を示している。比較のために、単相のCuInSe2およびCuInS2の(112)反射の理論的に予測される2θ位置を図22に点線で示す。CuIn(Se、S)2膜の(112)反射が純粋なCuInSe2の約26.63°からS取り込み後の27.1°まで増大したことに注意することが重要である。この現象はSeがS種と均質に置換されるためにアロイのd間隔が低減することと直接関連する。この回折ピークは、図19の場合のような組成の幅の広がり、すなわちピークの分割のない、程度の高い対称性があることも示している。
【0194】
図23はサンプル200258−bの濃度分布であり、元素Cu、In、SeおよびSの濃度がアロイの深さにわたってMo層まで実質的に一定であるという点でサンプル・アロイが実質的に均質であることを表している。
【0195】
図24はサンプル200263−bのGIXRDパターンであり、サンプルが実質的に均質で、0.5°〜10°の視射角に対して4.6%の絶対的な2θのずれを有することを示している。
【0196】
上記は本発明の実施形態に過ぎず、主張されるような本発明の範囲および精神から逸脱せずに詳細における多くの変更が可能であることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】本発明の五元のIB−IIIA−VIA族アロイ半導体膜を製造する方法を示す略図である。
【図2.1】実施例1の工程iiに従って形成された第1の膜のX線回折スペクトルを示すグラフであり、より具体的にはサンプル200250−aの第1の膜のXRDパターンである。
【図2.2】実施例1の工程iiに従って形成された第1の膜のX線回折スペクトルを示すグラフであり、より具体的にはサンプル200251−aの第1の膜のXRDパターンである。
【図3】サンプル200251−aに関する実施例1の工程(iii)ならびに工程(iv)(a)および(iv)(b)に対応するX線回折スペクトルを示すグラフであり、サンプルの三元アロイ状態から四元および五元アロイ状態への転移を示す。
【図4.1】実施例1のサンプル200251−aの五元アロイ半導体膜の[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【図4.2】実施例1のサンプル200250−aの五元アロイ半導体膜の[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【図5】実施例1のサンプル2003078−aのXRDパターンを示すグラフである。
【図6】サンプル200251−aの半導体膜を有するいくつかの光起電力セルの開回路電圧(Voc)を示すグラフである。
【図7】実施例1のサンプル200290−aの量子効率(QE)を示すグラフである。
【図8】実施例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.95S0.05)2アロイ半導体膜(サンプル200376−c)、Cu(In0.75Ga0.25)(Se0.75S0.25)アロイ半導体膜(サンプル200251−a)、およびCu(In0.75Ga0.25)(Se0.6S0.4)2アロイ半導体膜(サンプル200250−a)のXRDパターンを示すグラフである。
【図9】実施例1の均質なCu(In0.75Ga0.25)(Se0.75S0.25)2アロイ半導体膜(サンプル200251−a)の量子効率(QE)を示すグラフである。
【図10】実施例1に記載の工程に従って作成した一連の均質な五元アロイのS/Se+S比の関数としてバンド・ギャップ値を示すグラフである。
【図11】実施例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.75S0.25)2アロイ半導体膜(サンプル200251−a)の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図12】実施例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.6S0.4)2アロイ半導体膜(サンプル200250−a)の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図13】実施例1のCu(In0.75Ga0.25)(Se0.3S0.7)2アロイ半導体膜(サンプル200378−a)の表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図14】実施例1の五元アロイのXPS濃度深さ分布、より具体的にはサンプル200251−aの濃度分布を示すグラフである。
【図15.1】実施例2で特定した先行技術の条件下で作成した四元アロイのXRDパターンを示すグラフである。
【図15.2】実施例2の、具体的にはサンプル200259−aの四元アロイのXRDパターンを示すグラフである。
【図16】実施例2のサンプル200259−aの[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【図17.1】実施例2で特定した先行技術の条件下で作成した四元アロイの深さ方向の組成特性を示すX線蛍光分布である。
【図17.2】実施例2のサンプル200259−aの条件下で作成した四元アロイの深さ方向の組成特性を示すX線蛍光分布である。
【図18】実施例2の四元アロイのXPS濃度深さ分布、より具体的にはサンプル200259−aの濃度分布を示すグラフである。
【図19】実施例3に記載の先行技術の条件下で作成した四元アロイのXRDパターンを示すグラフである。
【図20】実施例3に記載の先行技術の条件下で作成した四元アロイの表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図21】実施例3のサンプル200259−cの表面モルフォロジを示すSEM顕微鏡写真である。
【図22】実施例3のサンプル200259−cのXRDパターンを示すグラフである。
【図23】実施例3の四元アロイのXPS濃度深さ分布、より具体的にはサンプル200258−bの濃度深さ分布を示すグラフである。
【図24】実施例3のサンプル200263−bの[112]ピーク位置のGIXRDパターンを示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)を有する四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイであって、
A(B1−xCx)(D1−yEy)2・・・・(I)
(上式中、
AはIB族元素であり、
BはIIIA族元素であり、
CはBとは異なるIIIA族元素であり、
Dは第1のVIA族元素(以下、VIA1と呼ぶ)であり、
Eは第2のVIA族元素(以下、VIA2と呼ぶ)であり、そして
xおよびyが同時にゼロではないと仮定すれば、xおよびyの各々は独立して0から1まで変動する)
該アロイが40kVのCu線について26°〜28°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ、0.2°〜10°の視射角に対するすれすれ入射X線回折パターン(GIXRD)が0.06°未満の前記2θ[112]角の絶対的なずれを表わすことを特徴とする四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイ。
【請求項2】
前記アロイが単位セルの格子を含んだ結晶構造を有し、前記単位セルの結晶面がすべて0.01Å未満のd間隔の変動を示す請求項1に記載のアロイ。
【請求項3】
XPS深さ分布によって特徴付けられる元素A、B、C、DおよびEの元素濃度が、前記アロイの全体にわたって実質的に均一である請求項1に記載のアロイ。
【請求項4】
AがCu、BがIn、CがGa、DがSe、EがSであり、前記アロイが式(II)
Cu(In1−xGax)(Se1−ySy)2・・・・(II)
を有する請求項1に記載のアロイ。
【請求項5】
xが0.25〜0.3であり、yが0.05〜0.8である請求項4に記載のアロイ。
【請求項6】
前記X線回折パターン(XRD)が、3.3117Å〜3.1840Åのd間隔で計測したときに、40kVのCu線について26.9°〜28°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有する請求項4に記載のアロイ。
【請求項7】
0.2°〜10°の視射角に対するGIXRDが0.01°未満の前記2θ[112]角の絶対的ずれを表わす請求項4に記載のアロイ。
【請求項8】
前記アロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有し、前記単位セルの結晶面がすべて0.001Å未満のd間隔の変動を示す請求項4に記載のアロイ。
【請求項9】
前記(112)主ピークが27.0°から27.5°の2θ角である請求項6に記載のアロイ。
【請求項10】
前記(112)主ピークが実質的に対称である請求項6に記載のアロイ。
【請求項11】
前記アロイが、1eVから2.4eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項4に記載のアロイ。
【請求項12】
前記アロイが、1.1eVから1.5eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項11に記載のアロイ。
【請求項13】
S/(S+Se) のモル比によって表されるS含有量が0.05〜0.7である請求項4に記載のアロイ。
【請求項14】
AがCu、BがIn、CがGa、DがSeであり、y=0であり、前記アロイが一般式(III)
Cu(In1−xGax)Se2 ・・・・ (III)
を有する請求項1に記載のアロイ。
【請求項15】
xが0.25〜0.3である請求項14に記載のアロイ。
【請求項16】
前記アロイが単位セルの格子を含んだ結晶構造を有し、前記単位セルの結晶面がすべて0.006Å未満のd間隔の変動を示す請求項14に記載のアロイ。
【請求項17】
前記X線回折パターン(XRD)が、3.3236Å〜3.2990Åのd間隔で計測したときに40kVのCu線について26.80°〜27.0°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有する請求項14に記載のアロイ。
【請求項18】
0.2°〜10°の視射角に対するGIXRDが0.05°未満の前記2θ[112]角の絶対的ずれを表わす請求項14に記載のアロイ。
【請求項19】
前記主(112)ピークが26.85°〜26.9°の2θ角に存在する請求項17に記載のアロイ。
【請求項20】
前記主(112)ピークが実質的に対称である請求項17に記載のアロイ。
【請求項21】
前記アロイが、1.1eV〜1.2eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項14に記載のアロイ。
【請求項22】
前記アロイが、1.15eV〜1.18eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項21に記載のアロイ。
【請求項23】
Ga/(Ga+In)のモル比によって表されるGa含有量が0.25〜0.3である請求項14に記載のアロイ。
【請求項24】
AがCu、BがIn、DがSe、EがSであり、x=0であり、一般式(IV)
CuIn(Se1−ySy)2 ・・・・ (IV)
を有する請求項1に記載のアロイ。
【請求項25】
yが0.1〜0.5である請求項24に記載のアロイ。
【請求項26】
前記アロイが単位セルの格子を含んだ結晶構造を有し、前記単位セルの結晶面がすべて0.007Å未満のd間隔の変動を示す請求項24に記載のアロイ。
【請求項27】
前記X線回折パターン(XRD)が、3.3236Å〜3.2640Åのd間隔で計測したときに40kVのCu線について26.80°〜27.3°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有する請求項24に記載のアロイ。
【請求項28】
0.2°〜10°の視射角に対するGIXRDが0.06°未満の前記2θ[112]角の絶対的ずれを表わす請求項24に記載のアロイ。
【請求項29】
前記(112)主ピークが27.0°〜27.2°の2θ角に存在する請求項27に記載のアロイ。
【請求項30】
前記アロイが、1.05eV〜1.23eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項24に記載のアロイ。
【請求項31】
前記アロイが、1.15eV〜1.20eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項30に記載のアロイ。
【請求項32】
S/(S+Se)の比によって表されるS含有量が0.1〜0.5にある請求項24に記載のアロイ。
【請求項33】
請求項1のアロイの膜を含む半導体膜。
【請求項34】
請求項1のアロイが該アロイの支持体として働く基板の上に蒸着される請求項33に記載の半導体膜。
【請求項35】
前記アロイが、1.5〜2.0μmの厚さを有する膜の形態である請求項33に記載の半導体膜。
【請求項36】
請求項1に記載のアロイの半導体膜を含む光起電力セル。
【請求項37】
前記光起電力セルが8〜15%の変換効率を有する請求項36に記載の光起電力セル。
【請求項1】
一般式(I)を有する四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイであって、
A(B1−xCx)(D1−yEy)2・・・・(I)
(上式中、
AはIB族元素であり、
BはIIIA族元素であり、
CはBとは異なるIIIA族元素であり、
Dは第1のVIA族元素(以下、VIA1と呼ぶ)であり、
Eは第2のVIA族元素(以下、VIA2と呼ぶ)であり、そして
xおよびyが同時にゼロではないと仮定すれば、xおよびyの各々は独立して0から1まで変動する)
該アロイが40kVのCu線について26°〜28°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有するX線回折パターン(XRD)によって特徴付けられ、0.2°〜10°の視射角に対するすれすれ入射X線回折パターン(GIXRD)が0.06°未満の前記2θ[112]角の絶対的なずれを表わすことを特徴とする四元以上のIB−IIIA−VIA族アロイ。
【請求項2】
前記アロイが単位セルの格子を含んだ結晶構造を有し、前記単位セルの結晶面がすべて0.01Å未満のd間隔の変動を示す請求項1に記載のアロイ。
【請求項3】
XPS深さ分布によって特徴付けられる元素A、B、C、DおよびEの元素濃度が、前記アロイの全体にわたって実質的に均一である請求項1に記載のアロイ。
【請求項4】
AがCu、BがIn、CがGa、DがSe、EがSであり、前記アロイが式(II)
Cu(In1−xGax)(Se1−ySy)2・・・・(II)
を有する請求項1に記載のアロイ。
【請求項5】
xが0.25〜0.3であり、yが0.05〜0.8である請求項4に記載のアロイ。
【請求項6】
前記X線回折パターン(XRD)が、3.3117Å〜3.1840Åのd間隔で計測したときに、40kVのCu線について26.9°〜28°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有する請求項4に記載のアロイ。
【請求項7】
0.2°〜10°の視射角に対するGIXRDが0.01°未満の前記2θ[112]角の絶対的ずれを表わす請求項4に記載のアロイ。
【請求項8】
前記アロイは単位セルの格子を含んだ結晶構造を有し、前記単位セルの結晶面がすべて0.001Å未満のd間隔の変動を示す請求項4に記載のアロイ。
【請求項9】
前記(112)主ピークが27.0°から27.5°の2θ角である請求項6に記載のアロイ。
【請求項10】
前記(112)主ピークが実質的に対称である請求項6に記載のアロイ。
【請求項11】
前記アロイが、1eVから2.4eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項4に記載のアロイ。
【請求項12】
前記アロイが、1.1eVから1.5eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項11に記載のアロイ。
【請求項13】
S/(S+Se) のモル比によって表されるS含有量が0.05〜0.7である請求項4に記載のアロイ。
【請求項14】
AがCu、BがIn、CがGa、DがSeであり、y=0であり、前記アロイが一般式(III)
Cu(In1−xGax)Se2 ・・・・ (III)
を有する請求項1に記載のアロイ。
【請求項15】
xが0.25〜0.3である請求項14に記載のアロイ。
【請求項16】
前記アロイが単位セルの格子を含んだ結晶構造を有し、前記単位セルの結晶面がすべて0.006Å未満のd間隔の変動を示す請求項14に記載のアロイ。
【請求項17】
前記X線回折パターン(XRD)が、3.3236Å〜3.2990Åのd間隔で計測したときに40kVのCu線について26.80°〜27.0°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有する請求項14に記載のアロイ。
【請求項18】
0.2°〜10°の視射角に対するGIXRDが0.05°未満の前記2θ[112]角の絶対的ずれを表わす請求項14に記載のアロイ。
【請求項19】
前記主(112)ピークが26.85°〜26.9°の2θ角に存在する請求項17に記載のアロイ。
【請求項20】
前記主(112)ピークが実質的に対称である請求項17に記載のアロイ。
【請求項21】
前記アロイが、1.1eV〜1.2eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項14に記載のアロイ。
【請求項22】
前記アロイが、1.15eV〜1.18eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項21に記載のアロイ。
【請求項23】
Ga/(Ga+In)のモル比によって表されるGa含有量が0.25〜0.3である請求項14に記載のアロイ。
【請求項24】
AがCu、BがIn、DがSe、EがSであり、x=0であり、一般式(IV)
CuIn(Se1−ySy)2 ・・・・ (IV)
を有する請求項1に記載のアロイ。
【請求項25】
yが0.1〜0.5である請求項24に記載のアロイ。
【請求項26】
前記アロイが単位セルの格子を含んだ結晶構造を有し、前記単位セルの結晶面がすべて0.007Å未満のd間隔の変動を示す請求項24に記載のアロイ。
【請求項27】
前記X線回折パターン(XRD)が、3.3236Å〜3.2640Åのd間隔で計測したときに40kVのCu線について26.80°〜27.3°の2θ角において(112)主ピーク(2θ[112])を有する請求項24に記載のアロイ。
【請求項28】
0.2°〜10°の視射角に対するGIXRDが0.06°未満の前記2θ[112]角の絶対的ずれを表わす請求項24に記載のアロイ。
【請求項29】
前記(112)主ピークが27.0°〜27.2°の2θ角に存在する請求項27に記載のアロイ。
【請求項30】
前記アロイが、1.05eV〜1.23eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項24に記載のアロイ。
【請求項31】
前記アロイが、1.15eV〜1.20eVまでずれ得るバンド・ギャップを有する請求項30に記載のアロイ。
【請求項32】
S/(S+Se)の比によって表されるS含有量が0.1〜0.5にある請求項24に記載のアロイ。
【請求項33】
請求項1のアロイの膜を含む半導体膜。
【請求項34】
請求項1のアロイが該アロイの支持体として働く基板の上に蒸着される請求項33に記載の半導体膜。
【請求項35】
前記アロイが、1.5〜2.0μmの厚さを有する膜の形態である請求項33に記載の半導体膜。
【請求項36】
請求項1に記載のアロイの半導体膜を含む光起電力セル。
【請求項37】
前記光起電力セルが8〜15%の変換効率を有する請求項36に記載の光起電力セル。
【図1】
【図2】
【図2】
【図3】
【図4】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図15】
【図16】
【図17】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図2】
【図3】
【図4】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図15】
【図16】
【図17】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2007−502247(P2007−502247A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523110(P2006−523110)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国際出願番号】PCT/IB2004/051459
【国際公開番号】WO2005/017979
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(506051625)ユニヴァーシティ オブ ヨハネスバーグ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国際出願番号】PCT/IB2004/051459
【国際公開番号】WO2005/017979
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(506051625)ユニヴァーシティ オブ ヨハネスバーグ (2)
【Fターム(参考)】
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