説明

四重極型質量分析装置および四重極型質量分析装置の質量校正方法

【課題】本発明は、精度の高い直線性を備えない高周波電源でも高精度の質量分析ができる四重極型質量分析装置および四重極型質量分析装置の質量校正方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、直流バイアスと高周波が印加される四重極電極を備える質量分離部と、測定試料をイオン化してイオンを作るイオン源と、前記質量分離部で分離されたイオンを検出する検出部とを有する四重極型質量分析装置の質量校正方法において、検出するイオンの測定質量範囲を複数の区間に分割し、前記区間のそれぞれについて検出すべき質量数の指示質量値と実際に検出された質量数との誤差を算出し、前記区間毎に算出した前記誤差に基づき前記質量数の指示質量値を校正することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四重極型質量分析装置および四重極型質量分析装置の質量校正方法に関し、質量分離部に印加する高周波電位を変化させ質量走査可能な質量分析装置の質量校正方法に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
印加する高周波電圧を変化させることにより、質量走査可能な質量分析装置としては、質量分離部に四重極電場を生成し、この電場内でイオンを振動運動させることによりイオンを検出する四重極型と呼ばれるものが一般的である。
【0003】
この四重極型質量分析装置は、例えば、(特許文献1)特開平7−296766号公報に記載されている。
【0004】
質量分析装置で測定されるイオンは以下の関係式(1)で与えることができる。
【0005】
M=0.14×V/fr0・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
M:観測されるイオンの質量数
V:電極に与える高周波電圧(V)
f:電極に与える高周波周波数(MHz)
r0:電場半径(cm)
通常の装置では上記式(1)におけるfおよびr0は固定値とし、Vを変化させ目的とする質量を測定する。つまり観測されるイオンの質量数Mと電極に与える高周波電圧(V)は比例の関係があり、より四重極電場に印加する電圧を直線的に変化させることにより観測する質量数の大きさを帰ることができる。
【0006】
しかし、出力電圧の誤差、四重極電場を構成する電極の工作誤差などにより誤差が発生する。故に実際の測定時には、測定目的の質量数近くに観測することがわかっている標準試料を事前に測定し、電圧Vと観測される質量Mの関係を直線で補正し測定を行っている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−296766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように高精度の質量分析を行なうのには、質量分離部に印加する高周波電源に精度の高い直線性が要求される。
【0009】
本発明は、上記の課題に対処し、精度の高い直線性を備えない高周波電源でも高精度の質量分析ができる四重極型質量分析装置および四重極型質量分析装置の質量校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、直流バイアスと高周波が印加される四重極電極を備える質量分離部と、測定試料をイオン化してイオンを作るイオン源と、前記質量分離部で分離されたイオンを検出する検出部とを有する四重極型質量分析装置の質量校正方法において、検出するイオンの測定質量範囲を複数の区間に分割し、前記区間のそれぞれについて検出すべき質量数の指示質量値と実際に検出された質量数との誤差を算出し、前記区間毎に算出した前記誤差に基づき前記質量数の指示質量値を校正することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、直流バイアスと高周波が印加される四重極電極を備える質量分離部と、測定試料をイオン化してイオンを作るイオン源と、前記質量分離部で分離されたイオンを検出する検出部とを有する四重極型質量分析装置において、検出するイオンの測定質量範囲を複数の区間に分割する機能と、前記区間のそれぞれについて検出すべき質量数の指示質量値と実際に検出された質量数との誤差を示す誤差関数を算出する機能と、前記区間毎に算出した前記誤差関数に基づき前記質量数の指示質量値を前記複数の区間に亘り校正する機能とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高周波電源が精度の高い直線性を備えなくても高精度の質量分析ができる四重極型質量分析装置および四重極型質量分析装置の質量校正方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施例を説明する。
【0014】
本発明は、四重極型質量分析装置および四重極型質量分析装置の質量校正方法に関するものである。
【0015】
四重極型質量分析装置は、Qフィルタ型、イオントラップ型等を含む。ここでは、主にQフィルタ型をついて述べる。
【0016】
まず、図1に沿い、質量分離部について述べる。
【0017】
質量分離部12は、4つの電極1により構成される。
【0018】
電極1は、対向面が双曲面を有する。4つの電極1は双曲面が向き合うように置かれ、直流バイアスと高周波が印加される。対向する電極1には、同極の直流バイアスが印加される。
【0019】
4つの電極1には、極めて高い精度の双曲面が要求され、かつ対向間のギャップも高い均一精度が要求される。双曲面の精度や対向間のギャップ精度が良くないと、測定誤差が生じる。
【0020】
測定試料のイオンのガスは、質量分離部12の対向空間の一方より流入し、質量分離部1を長手方向に沿って流れ、他方から特定の質量のイオンが流れ出る。流れ出たイオンは検出部に検出される。
【0021】
四重極型質量分析装置の概要について、図2に沿って説明する。
【0022】
イオン源11は測定試料をイオン化してイオンを作る。作られたイオンは真空排気部15により真空排気された質量分離部12に導入される。
【0023】
質量分離部12の電極1には、制御部14より設定された電圧(直流バイアスと高周波)が高周波電源部16から印加され、供給されたイオンのガスより質量分離が行なわれる。
【0024】
さらに、質量分離されたイオンは、検出部13でイオン量として検出されマススペクトルを得る。検出されたマススペクトルはデータ処理部17において記憶される。
【0025】
本構成の質量分析計を実際に使用開始するためには、前記従来の技術で述べた通り測定目的の質量数近くに観測することがわかっている標準試料を事前に測定し、電圧Vと観測される質量Mの関係補正する質量数校正が必要となる。
【0026】
以下図3を参照して本実施例における質量数校正の手順を説明する。
【0027】
図3のステップ21において、まず測定する標準試料を決定し、混合試料を準備する(例)成分A:M/Z200(M1),成分B:M/Z500(M2),成分C:M/Z1000(M3),成分D:M/Z1500(M4))。
【0028】
続いてステップ22において、前記M/z(補正用質量数)をデータ処理部17に登録する。この処理については以下に示すステップ24の質量分析計の走査後に実施する機能を有してもよい。
【0029】
ステップ23でステップ21で準備した試料をイオン源11に導入し試料をイオン化し、質量分離部12に導入します。
【0030】
ステップ24で質量分離部12に所定の高周波電圧を走査し、イオンを質量分離します。
【0031】
ステップ25において、測定されたイオンの質量数(Mc)(マススペクトルの最大値)とステップ22において登録された質量数(Mi)との誤差(Merr)を算出します。
【0032】
質量誤差(Merr)=(Mi)−(Mc)・・・・・・(2)
ステップ22において登録された成分すべてについて上記質量誤差を求めます。
【0033】
このとき求めた誤差を質量数の小さいものからそれぞれMerr(1),Merr(2),Merr(3),Merr(4),・・・・・・・・・Merr(n)としてデータ処理部に登録します。
【0034】
ただし、質量数0(もしくは質量分析計の走査範囲の最小質量数)からMerr(1)に相当する範囲;Merr(0)およびMerr(n)を越える範囲;Merr(n+1)では質量誤差を計測できないため、便宜的にMerr(0)=Merr(1)、Merr(n+1)=Merr(n)として登録する。
【0035】
次に得られた配列Merr(i)(I=1,2・・・・・・・n)から任意の質量範囲における質量誤差関数を求める。この際、誤差関数には領域間での前後の関係を加味して誤差を推定可能な3次のスプライン関数を用いて行う。
【0036】
ステップ26において、データ処理部17は、ステップ25で求められた誤差配列に基づき、質量範囲を(M0−M1),(M1−M2),・・・・・(Mn−Mn+1)の区間に分割する。
【0037】
上記において、M0,Mn+1は下記の通りとする。
【0038】
M0:質量数0(もしくは質量分析計の走査範囲の最小質量数)
Mn+1:質量分析計の走査範囲の最大質量数
次にステップ28において、区間(M0−M1),(M1−M2),・・・・・(Mn−Mn+1)の各区間毎に以下の3次多項式(3)が次式(4−1)〜(4−6)を満足するよう各係数Ai,Bi,Ci,Diを算出する。
【0039】
なお、Sdi(M)、Sddi(M)は、それぞれSi(M)の1次及び2次の導関数である。
【0040】
Si(M)=Ai+BiM+CiM2+DiM3 ・・・・・・・・(3)
Si(Mi)=Merr(i)・・・・・・・・・・・・・・・・・(4−1)
Si(Mi+1)=Merr (i+1)・・・・・・・・・・・・(4−2)
Sdi(Mi)=Sd(i−1)(Mi)・・・・・・・・・・・・(4−3)
Sdi(Mi+1)=Sd(i+1)(Mi+1)・・・・・・・・(4−4)
Sddi(Mi)=Sdd(i−1)(Mi)・・・・・・・・・・(4−5)
Sddi(Mi+1)=Sdd(i+1)(Mi+1)・・・・・・(4−6)
ただし、i=0及びi=Nのとき(片側しかデータがない場合)、区間[Mi、Mi+1]においては、Si(M)を次の1次多項式(5)とし、次式(6−1)及び(6−2)を満足するように、係数Ai及びBiを算出する。
【0041】
Si(M)=Ai+BiM・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
Si(Mi)=Merr(i)・・・・・・・・・・・・・・・・・(6−1)
Si(Mi+1)=Merr(i+1)・・・・・・・・・・・・・(6−2)
以上の算式を用いると区間[Mi、Mi+1](i=0、1、・・・N)ごとに別々の誤差関数Si(M)が算出される。
【0042】
次にステップ28でデータ処理部17にてステップ27で求めた誤差関数を記憶します。
【0043】
これで質量校正のフローは終了となり、次回以降の測定では、このようにして得られた誤差関数Si(M)(i=0,・・・N)を用いることにより、使用質量範囲の任意の質量における誤差を推定することができる。
【0044】
図4は、前述の質量校正法を用いて測定する際のフローである。
【0045】
まず、ステップ31で走査する質量範囲の下限値(Mmin)上限値(Mmax)を設定します。
【0046】
続いてステップ32でこのMmin,Mmaxの該当区間(Mn−Mn+1)が特定され、それぞれ該当する誤差関数よりMmin,Mmaxに対応する質量軸Mmin(C)およびMmax(C)が算出され、式(1)により走査する電圧範囲最小値(Vmin)最大値(Vmax)が決定されます。
【0047】
ステップ33でステップ32で決定された質量範囲を走査し、測定を行います。
【0048】
ステップ34では、得られたマススペクトルを前述の誤差関数を用いて補正した上でデータ処理部で記憶します。以上が測定時のフローである。
【0049】
以上の実施例による質量分析装置および質量分析装置の質量校正方法によれば、使用する測定質量範囲を複数の区間に分割し、各区間毎に、最適な誤差関数が算出され、記憶される。そして、検出すべき質量Mに対して、記憶された誤差関数のうち最適な誤差関数に基づいて、指示質量値Mdが算出され測定される。
【0050】
上記の校正方法や校正に関する機能を用いることにより、質量分離部12の走査用に用いる高周波電源部16は出力電圧の直線性が必ずしも高くなくても高精度の質量分析ができる。
【0051】
また、質量分離部12を構成する4つの電極1では、双曲面の精度および対向間のギャップの精度には極めて高い精度が要求される。上記の校正方法や校正に関する機能を用いることにより、双曲面の精度や対向間のギャップの精度が必ずしも高くなくても高精度の質量分析ができる。このため、高い加工精度や高い組立精度が要求されないので、製作が容易である。
【0052】
また、質量校正時の作業性の向上のため校正本校正を再実施する際、データ処理部17に今までの質量誤差を基点として質量校正をするか、質量軸を初期化して実施するなどの選択機能を有してもよい。
【0053】
本実施例では質量分離部がQフィルタ型のもので説明したが、本発明はイオントラップ型等にも適用可能である。
【0054】
また、前述のイオントラップ型の場合、測定対象試料と標準物質のイオンを共に前記イオントラップ内に導きトラップするステップと、前記測定対象試料のイオンの中から前駆イオンを選択し、前記イオントラップ内に前記前駆イオンと標準物質のイオンを残し、他のイオンを排除するステップと、前記前駆イオンを励起、開裂させて生成物イオンを生成するステップと、前記イオントラップ内にトラップされた前記前駆イオン及びその生成物イオンと標準物質のイオンとをイオントラップから排出し、検出部に導くステップそれぞれについて独立に質量校正関数を設定することが可能であるが、そのそれぞれの校正においても本発明は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例に係わるもので、四重極型質量分析装置の質量分離部を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係わるもので、四重極型質量分析装置の概略を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係わるもので、質量数校正方法の動作フローチャート図である。
【図4】本発明の実施例に係わるもので、測定方法を示す動作フローチャート図である。
【符号の説明】
【0056】
1…電極、11…イオン源部、12…質量分離部、13…検出部、14…制御部、15…真空排気装置、16…高周波電源部、17…データ処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流バイアスと高周波が印加される四重極電極を備える質量分離部と、
測定試料をイオン化してイオンを作るイオン源と、
前記質量分離部で分離されたイオンを検出する検出部とを有する四重極型質量分析装置の質量校正方法において、
検出するイオンの測定質量範囲を複数の区間に分割し、前記区間のそれぞれについて検出すべき質量数の指示質量値と実際に検出された質量数との誤差を算出し、前記区間毎に算出した前記誤差に基づき前記質量数の指示質量値を校正することを特徴とする四重極型質量分析装置の質量校正方法。
【請求項2】
直流バイアスと高周波が印加される四重極電極を備える質量分離部と、
測定試料をイオン化してイオンを作るイオン源と、
前記質量分離部で分離されたイオンを検出する検出部とを有する四重極型質量分析装置の質量校正方法において、
検出するイオンの測定質量範囲を複数の区間に分割し、前記区間のそれぞれについて検出すべき質量数の指示質量値と実際に検出された質量数との誤差を示す誤差関数を算出し、前記区間毎に算出した前記誤差関数に基づき前記質量数の指示質量値を校正することを特徴とする四重極型質量分析装置の質量校正方法。
【請求項3】
請求項2記載の四重極型質量分析装置の質量校正方法において、
前記測定質量範囲は、3以上の複数の基準質量分割域数によって分割され、互いに隣接する基準質量分割域数に対応する誤差に基づいて、スプライン関数を算出し、算出したスプライン関数を前記誤差関数とすることを特徴とする四重極型質量分析装置の質量校正方法。
【請求項4】
直流バイアスと高周波が印加される四重極電極を備える質量分離部と、
測定試料をイオン化してイオンを作るイオン源と、
前記質量分離部で分離されたイオンを検出する検出部とを有する四重極型質量分析装置において、
検出するイオンの測定質量範囲を複数の区間に分割する機能と、前記区間のそれぞれについて検出すべき質量数の指示質量値と実際に検出された質量数との誤差を示す誤差関数を算出する機能と、前記区間毎に算出した前記誤差関数に基づき前記質量数の指示質量値を前記複数の区間に亘り校正する機能とを有することを特徴とする四重極型質量分析装置。
【請求項5】
請求項4記載の四重極型質量分析装置において、
前記誤差関数を記憶する機能を有することを特徴とする四重極型質量分析装置。
【請求項6】
請求項5記載の四重極型質量分析装置において、
質量の再校正を行う際、校正された値もしくは校正される前の値どちらを基準値にするか選択可能な機能を有することを特徴とする四重極型質量分析装置。
【請求項7】
前請求項4記載の四重極型質量分析装置において、
前記質量分離部にイオントラップ型の質量分離部を有することを特徴とする四重極型質量分析装置。
【請求項8】
前請求項4〜7のいずれか一つに記載された四重極型質量分析装置において、
複数の区間に分割して複数の区間に亘り校正する分割設定入力部を設けたことを特徴とする四重極型質量分析装置。
【請求項9】
請求項1記載の四重極型質量分析装置の質量校正方法において、
前記質量分離部はイオントラップ型の質量分離部を有し、
測定試料と標準物質のイオンを共に前記イオントラップ内に導きトラップするステップと、
前記測定試料のイオンの中から前駆イオンを選択し、前記イオントラップ内に前記前駆イオンと標準物質のイオンを残し、他のイオンを排除するステップと、
前記前駆イオンを励起、開裂させて生成物イオンを生成するステップと、
前記イオントラップ内にトラップされた前記前駆イオン及びその生成物イオンと標準物質のイオンとを前記イオントラップから排出し、前記検出部に導くステップそれぞれについて独立に質量校正が可能な四重極型質量分析装置の質量校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−190898(P2008−190898A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22932(P2007−22932)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】