説明

回折格子パターンとその検証方法、情報印刷物

【課題】偽造防止効果が高く、容易に真偽判定し得る回折格子パターンを提供する。
【解決手段】回折格子パターン5は、基材表面に、入射光Liを特定方向に回折するブレーズド格子11が形成された第1セル10と、第1セル10のブレーズド格子11とは、格子線方向が略180度異なるブレーズド格子21が形成された第2セル20とを備えている。また、第1セル10と第2セル20とは基材表面に交互に隣接配置されて、複数の第1セル10から成る第1セル群と複数の第2セル20から成る第2セル群とを形成する。また、第1セル群のブレーズド格子11からの第1回折光L1により隠蔽画像の一部分が表示され、第2セル群のブレーズド格子21からの第2回折光L2により隠蔽画像の他の部分が表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果が高く、容易に真偽判定し得る回折格子パターンとその検証方法、情報印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商品券や小切手等の有価証券類やクレジットカードやキャッシュカード・IDカード等のカード類、パスポートや免許証等の証明書類の偽造防止を目的として、証券類やカード・証明書類等の表面に回折格子パターンが貼付されている。
【0003】
回折格子パターンは、通常の印刷技術では表現することのできない指向性のある光沢を有するものである。また、回折格子パターンは、光を回折させる方向や角度・明るさ等を制御することで、観察する方向に応じて、表示画像を変化させることができる。また、立体像を表示することも可能である。そこで、このような性質を有する回折格子パターンが情報印刷物に貼付されることで、当該情報印刷物の偽造防止策が施される。
【0004】
回折格子の性質を決定するものとしては、
(1)回折格子の空間周波数(格子線のピッチ)、
(2)回折格子の方向(格子線の方向)、
(3)回折格子の描画領域(回折格子セルの配置)、
の3つのパラメータが挙げられる。
【0005】
詳しくは、(1)の空間周波数の値に応じて、回折格子パターンを定点から見た場合に、その回折格子パターンの色が変化する。また、(2)の回折格子の方向に応じて、回折格子が光って見える方向が変化する。また、(3)の回折格子の描画領域により、表示画像(絵柄や文字、記号等)が決定される。
【0006】
(回折格子の種類)
回折格子としては、図12に示すような矩形状回折格子90や、図13に示すような正弦波状回折格子91が広く用いられている。このような矩形状もしくは正弦波状の断面形状を有する回折格子は、「バイナリー格子」と呼ばれる。典型的なバイナリー格子は、格子線ピッチが0.5〜2μm程度であり、格子深さが0.1〜1μm程度である。これらのバイナリー格子に、垂直上方から入射光Liが入射されると、複数の方向へ回折光Ldが射出される。
【0007】
バイナリー格子以外の回折格子として、図14に断面図を示すように、その断面形状が鋸歯状である「ブレーズド格子」と呼ばれるものも知られている。
【0008】
ブレーズド格子92では、垂直方向からの入射光Liに対する回折角度と傾斜面による光の反射角とが一致している場合、その一致方向に、回折効率が理論上100%である回折光Ldを生じる。また、それ以外の方向には、光を射出しない。すなわち、ブレーズド格子は、バイナリー格子と比較して非常に高い回折効率を得ることができるものである。また、光の進行方向も厳密に制御できる。それゆえ、ブレーズド格子では視認性が高く、セキュリティ用途に用いるのに一層好適なものである(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
なお、ブレーズド格子としては、図14のような鋸歯状の断面形状を有するものだけでなく、図15に示すような階段状の断面形状を有するブレーズド格子93もある。階段状の断面形状を有するブレーズド格子は、段数が多くなるにしたがって回折光量が大きくなる特性を有する。
【0010】
(回折格子により画像を構成する方法)
回折格子によって画像を構成する方法としては、基材表面を複数の領域に分割し、その領域の内部に配置された数μm〜数百μm程度の複数個の微小領域(セル)毎に、上述した回折格子に関する3つのパラメータを様々に変化させた回折格子を形成する方法が一般的である。これにより、指向性のある光沢を有する画像が得られる。
【0011】
セルの形状としては、矩形や円形のものが用いられることが多い。矩形のセルは、複数のものを整然と配置すると、回折格子を形成できる面積を大きくでき、明るい表示画像が得られるという利点がある。円形のセルは、レーザーの2光束干渉によって感材表面をスポット露光して回折格子パターンとする際に形成される。なお、セキュリティ性の向上を目的として、矩形や円形以外の形状のセルによって構成される回折格子パターンもある。
【0012】
(回折格子パターンの原版の作製方法)
回折格子パターンの原版を作製する方法としては、例えば、特許文献2や特許文献3に開示されているような方法がある。これらの方法では、感光性レジストを塗布した平面状の基板が載置されたX−Yステージをコンピュータ制御により移動させて、電子ビーム露光装置を用いて回折格子パターンを基板表面に形成する。
【0013】
ブレーズド格子の原版の作製においては、電子ビームの照射位置に応じて電子ビームの照射時間や照射強度を調整し、加工される溝の深さを変化させることにより、ブレーズド格子の形状を得る方法が示されている(例えば、特許文献4参照)。また、ブレーズド格子は、バイナリー格子と比較して作製の難易度が高く、作製技術の面においてもセキュリティ用途に用いるのに適している。
【0014】
なお、回折格子パターンの原版を作製する別の方法としては、レーザーの2光束干渉により感材に干渉縞(回折格子と同義)を露光する方法が公知である(例えば、非特許文献1参照)。
【0015】
(回折格子パターンの複製方法)
回折格子パターンの原版が作成されると、次のようにして、回折格子パターンが複製される。まず、凹凸形状からなる回折格子パターンの原版から、電鋳等の方法により金属製のスタンパーが作製される。次に、PET等のフィルム上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂を塗布し、金属製スタンパーを密着させる。それから、熱や光を与えることにより樹脂を硬化させる。これにより、回折格子パターンが複製される。
【0016】
複製された回折格子パターンは、アルミニウム等の金属や誘電体の薄膜層を蒸着する等の方法により光反射層を設けた後、紙やプラスチック板等の基材上に接着層を介して貼付される。
【0017】
なお、回折格子パターンが有価証券類やカード類に貼付される場合には、必要に応じて、印刷層や回折格子パターン層の汚れや傷を防止するための保護層がさらに設けられる。
【特許文献1】特開2006−11513号公報
【特許文献2】特開平2−72315号公報
【特許文献3】米国特許第5,058,992号明細書
【特許文献4】特開2000−39508号公報
【非特許文献1】辻内順平著,「ホログラフィー」,第1版,丸善株式会社,1993年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように、回折格子パターンは、セキュリティ性が求められる多くの情報印刷物に用いられている。
【0019】
しかしながら、回折格子パターンの技術が広く認知されるのにつれて、偽造品の発生が増加する傾向にある。それゆえ、上記構成の回折格子パターンを有価証券等の表面に貼付しただけでは、十分な偽造防止効果を発揮できない事態が生じている。
【0020】
また、偽造防止効果を発揮するような回折格子パターンであっても、真偽判定が容易に行なえない場合、偽造品を発見するまでに時間がかかる。この場合、偽造品の流出が拡大するおそれが生じることになる。
【0021】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、偽造防止効果が高く、容易に真偽判定し得る回折格子パターンとその検証方法、情報印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は上記課題を解決するために以下の手段を講じる。
【0023】
請求項1に対応する発明は、基材表面に、入射光を特定方向に回折するブレーズド格子が形成された第1セルと、前記第1セルのブレーズド格子とは、格子線方向が略180度異なるブレーズド格子が形成された第2セルとを備えた回折格子パターンであって、前記第1セルと前記第2セルとは前記基材表面に交互に隣接配置されて、複数の第1セルから成る第1セル群と複数の第2セルから成る第2セル群とを形成し、前記第1セル群のブレーズド格子からの回折光により隠蔽画像の一部分が表示され、前記第2セル群のブレーズド格子からの回折光により前記隠蔽画像の他の部分が表示される回折格子パターンである。
【0024】
請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する回折格子パターンにおいて、前記第1セルおよび前記第2セルは、一辺の長さが300μm以下の矩形領域内に形成される回折格子パターンである。
【0025】
請求項3に対応する発明は、請求項1または請求項2に対応する回折格子パターンにおいて、前記第1セル群と前記第2セル群は、それぞれストライプ状の構成要素が交互に隣接配置される回折格子パターンである。
【0026】
請求項4に対応する発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に対応する回折格子パターンにおいて、前記第1セルに形成されたブレーズド格子と前記第2セルに形成されたブレーズド格子とは、格子深さが略同一である回折格子パターンである。
【0027】
請求項5に対応する発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に対応する回折格子パターンを備えた情報印刷物であって、シート状もしくは平板状の印刷物基材と、前記印刷物基材上に接着層を介して貼付された回折格子パターンとを備えた情報印刷物である。
【0028】
請求項6に対応する発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に対応する回折格子パターンの検証方法であって、前記回折格子パターンの表面上の予め定められた位置に光反射性物品を設置するステップと、前記第1セル群からの回折光が前記光反射性物品により反射されて表示される画像と、前記第2セル群からの回折光により表示される画像とが連結された画像に基づいて、該回折格子パターンを検証するステップとを備えた回折格子パターンの検証方法である。
【0029】
<用語>
本発明において、「格子線方向」とは、基材表面における回折格子の方位角をいう。すなわち、平面図で見た場合の格子線の角度をいう。
【0030】
<作用>
従って、本発明は以上のような手段を講じたことにより、以下の作用を有する。
【0031】
請求項1に対応する発明は、基材表面に、入射光を特定方向に回折するブレーズド格子が形成された第1セルと、第1セルのブレーズド格子とは、格子線方向が略180度異なるブレーズド格子が形成された第2セルとを備えた回折格子パターンであって、第1セルと第2セルとは基材表面に交互に隣接配置されて、複数の第1セルから成る第1セル群と複数の第2セルから成る第2セル群とを形成し、第1セル群のブレーズド格子からの回折光により隠蔽画像の一部分が表示され、第2セル群のブレーズド格子からの回折光により隠蔽画像の他の部分が表示されるので、第1セル群により表示される画像と第2セル群により表示される画像とを組み合わせた場合にのみ、所定の画像(隠蔽画像)を観察し得る回折格子パターンを提供することができる。
【0032】
これにより、例えば、回折格子パターン上の所定の位置に鏡を設置した場合にのみ、鏡に表示される画像と、鏡に表示されない画像とを連結した隠蔽画像を表示することができる。このように、鏡を用いることでのみ所定の画像(隠蔽画像)が表示されるので、偽造防止効果が高く、容易に真偽判定し得る回折格子パターンを提供することができる。
【0033】
請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する回折格子パターンにおいて、第1セルおよび第2セルは、一辺の長さが300μm以下の矩形領域内に形成されるので、回折格子パターンが表示する画像のジャギーを目立たなくすることができる。
【0034】
請求項3に対応する発明は、請求項1または請求項2に対応する回折格子パターンにおいて、第1セル群と第2セル群は、それぞれストライプ状の構成要素が交互に隣接配置されるので、鏡を用いて隠蔽画像を表示した場合、鮮明で品質の高い表示画像を得ることができる。
【0035】
請求項4に対応する発明は、請求項1〜3のいずれか1項に対応する回折格子パターンにおいて、第1セルに形成されたブレーズド格子と第2セルに形成されたブレーズド格子とは、格子深さが略同一であるので、回折光の光量をほぼ同一にできる。すなわち、第1セル群による画像の輝度分布と第2セル群による画像の輝度分布とが同一であるので、第1セル群により表示される画像と、第2セル群により表示される画像とが連結された場合、その連結された画像の輝度分布を均一にすることができる。
【0036】
請求項5に対応する発明は、請求項1〜4のいずれか1項に対応する回折格子パターンを備えた情報印刷物であって、シート状もしくは平板状の印刷物基材と、印刷物基材上に接着層を介して貼付された回折格子パターンとを備えているので、複写機等による模造を回避し得る情報印刷物を提供できる。具体的には、模造が極めて困難な商品券や手形等の有価証券類・カード類・各種証明書等の情報印刷物を提供することができる。
【0037】
請求項6に対応する発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回折格子パターンの検証方法であって、回折格子パターンの表面上の予め定められた位置に光反射性物品を設置するステップと、第1セル群からの回折光が光反射性物品により反射されて表示される画像と、第2セル群からの回折光により表示される画像とが連結された画像に基づいて、回折格子パターンを検証するステップとを備えており、回折格子パターンを容易に真偽判定することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、偽造防止効果が高く、容易に真偽判定し得る回折格子パターンとその検証方法、情報印刷物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0040】
<第1の実施形態>
(1−1.構成)
図1は本発明の第1の実施形態に係る回折格子パターン5の構成を示す模式図である。
【0041】
回折格子パターン5は、基材6の表面が複数の領域(以下、「セル」ともいう)に分割され、各セル内にブレーズド格子が形成されている。
【0042】
ここで、各セルに形成されるブレーズド格子の格子線方向がすべて同一の場合には、特定の方向に回折光を射出する。例えば、図2の回折格子パターンでは、ブレーズド格子が形成されたセルの面積が変えられており、回折光の光量を制御することにより、文字「T」が表示される。図2のように格子線方向が同一の場合、回折光が射出される方向が限られるため、観察可能な位置は制限されるが、非常に輝度の高い表示画像が観察できる。また、図3に示すように、格子線方向が同一のブレーズド格子が形成されたセルであり、観察点で観察した際に、R(赤)・G(緑)・B(青)の三色に対応するように空間周波数が設定された三種類のセルを隣接配置することにより、CRTディスプレイや液晶ディスプレイと同様の原理でフルカラーの画像を表現することも可能である。
【0043】
このように、回折格子パターン5に形成されるブレーズド格子により、観察点において観察される回折光の色が空間周波数に応じて変化し、回折光の射出方向が格子線方向に応じて変化する。そこで、このような回折格子の性質を利用して、絵柄や文字・記号等の画像を表示することが可能になる。さらに、観察点や照明条件の変化により、虹色に輝く効果を表現することができる。
【0044】
本実施形態に係る回折格子パターン5は、基材6の表面の一部または全部に、第1セル10と第2セル20とが形成されており、異なる方向に回折光を射出する。
【0045】
第1セル10は、基材6の表面に、入射光を特定方向に回折するブレーズド格子11が形成されたものである。また、複数の第1セル10から第1セル群が形成される。そして、この第1セル群のブレーズド格子11からの「第1回折光L1」により、隠蔽画像の一部分が表示される。なお、第1セル群により表示される画像を便宜上、「第1画像P1」と呼ぶ。
【0046】
第2セル20は、第1セル10のブレーズド格子11の格子線方向に対し、略180度異なる格子線方向を有するブレーズド格子21が、第1セル10とは異なる基材6の表面に形成されたものである。また、複数の第2セル20から第2セル群が形成される。そして、この第2セル群のブレーズド格子21からの「第2回折光L2」により、隠蔽画像の他の部分が表示される。なお、第2セル群により表示される画像を便宜上、「第2画像P2」と呼ぶ。
【0047】
これらの第1セル10と第2セル20とは、ストライプ状に交互に隣接配置されて、複数の第1セルから成る第1セル群と複数の第2セルから成る第2セル群とを基材表面に形成する。それゆえ、回折格子パターン5の断面図は、例えば図4のように示される。なお、図4は図1における線分X−X’における断面図である。
【0048】
図4において、回折格子パターン5の垂直上方から入射光Liが入射されると、第1セル10に形成されたブレーズド格子11からは第1回折光L1(紙面左側)が射出される。それゆえ、第1観察点E1において、第1セル群により表示される第1画像P1を見ることができる。また、第2セル20に形成されたブレーズド格子21からは第2回折光L2(紙面右側)が射出される。そのため、第2観察点E2において、第2画像P2を見ることができる。ここでは、第2回折光L2は、基材表面の法線方向を軸として、第1回折光L1を鏡像反転した方向に回折される。
【0049】
このように、第1セル10からの第1回折光L1と、第2セル20からの第2回折光L2とは、異なる方向に回折される。
【0050】
そこで、本実施形態に係る回折格子パターン5では、異なる方向から見たときに表示される画像を組み合わせなければ、所定の画像(隠蔽画像)が得られないように、第1セル10のブレーズド格子と第2セル20のブレーズド格子とを形成する。例えば、後述するように、文字「SECURITY」の上部画像を第1セル群により表示し、下部画像を第2セル群により表示するような回折格子パターン5を形成する。
【0051】
(1−2.作用)
次に本実施形態に係る回折格子パターン5の作用を説明する。
【0052】
図4に示したように、回折格子パターン5の法線方向からの入射光Liが入射されると、第1観察点E1では、第1セル10からの第1回折光L1により、第1セル群による第1画像P1のみが観察される。この際、第2セル群による第2画像P2は観察されない。一方、第2観察点E2では、第2セル群による第2画像P2のみが観察され、第1セル群による第1画像P1は観察されない。
【0053】
すなわち、格子線方向が異なっているブレーズド格子11・21から成るセルを隣接配置することで、回折格子パターン5を観察する位置や照明条件等によって表示画像を変化することができる。
【0054】
このような性質を利用して、本実施形態に係る回折格子パターン5では、隠蔽画像が表示されるようにする。これについて、図5及び図6を用いて説明する。
【0055】
図5(A)は回折格子パターン5が表示する隠蔽画像の一例を示している。ここでは、文字「SECURITY」が隠蔽画像として表示されるようにする。
【0056】
具体的には、文字「SECURITY」の上部を第1画像P1として第1セル群により表示されるようにし(図5(B))、文字「SECURITY」の下部を第2画像P2として第2セル群により表示されるようにする(図5(C))。この際、第1画像P1は、鏡で表示した場合に画像が上下反転するように、予め上下反転させた画像にする。
【0057】
詳しくは、図6に示すように、2種類のブレーズド格子11・21を交互に隣接配置させながら、第1画像P1の画素と第2画像P2の画素とに対応するように、第1セル群及び第2セル群を形成する。これにより、文字「SECURITEY」の上部画像と下部画像とを表示する回折格子パターン5が同一領域内に形成されることになる(図7)。
【0058】
このような回折格子パターン5の所定の部分に鏡Mを設置すれば、図8に示すように、「SECURITY」の文字が観察できるようになる。
【0059】
なお、鏡Mを用いない場合は、「SECURITY」の文字の上部画像もしくは下部画像が別々の観察点で認識され、隠蔽画像が観察されることはない。なお、隠蔽画像としては、「SECURITY」のような文字だけではなく、絵柄や記号等であってもよいことは言うまでもない。
【0060】
(1−3.効果)
以上説明したように、本実施形態に係る回折格子パターン5は、基材1の表面に、入射光Liを特定方向に回折するブレーズド格子11が形成された第1セル10と、第1セル10のブレーズド格子11とは、格子線方向が略180度異なるブレーズド格子21が形成された第2セル20とを備えており、第1セル10と第2セル20とが基材表面に交互に隣接配置され、複数の第1セル10から成る第1セル群と複数の第2セル20から成る第2セル群とを形成し、第1セル群のブレーズド格子11からの第1回折光L1により隠蔽画像の一部分が表示され、第2セル群のブレーズド格子21からの第2回折光L2により隠蔽画像の他の部分が表示されるので、第1セル群により表示される第1画像P1と第2セル群により表示される第2画像P2とを組み合わせた場合にのみ、所定の画像(隠蔽画像)を観察し得る回折格子パターンを提供することができる。
【0061】
これにより、例えば、回折格子パターン5上の所定の位置に鏡Mを設置した場合にのみ、鏡Mに表示される画像と、鏡Mに表示されない画像とを連結した隠蔽画像を表示することができる。このように、鏡Mを用いることでのみ所定の画像(隠蔽画像)が表示されるので、偽造防止効果が高く、容易に真偽判定し得る回折格子パターンを提供することができる。
【0062】
また、本実施形態に係る回折格子パターン5は、ブレーズド格子により隠蔽画像が表示されるものである。ブレーズド格子では、バイナリー格子と比較して輝度が高く、作製も困難であるので、高いセキュリティ性が実現できる。なお、第1セル10及び第2セル20に形成される回折格子としてバイナリー格子を用いると、複数の回折光が様々な方向に射出される。それゆえ、バイナリー格子を用いたものでは、隠蔽画像の表示を行なうことはできない。
【0063】
また、隠蔽画像を表示させるためには、特殊な装置等は必要ではなく、一般に入手可能な鏡や表面に光反射層を有する平面状の物品があればよく、回折格子パターン5の真贋判定を簡便に行なうことができる。
【0064】
なお、第1セル10および第2セル20としては、一辺の長さが300μm以下の矩形のものが望ましい。300μm以下とすることで、人間の眼の分解能より小さくできるので、セルの構造による画像のジャギー(解像度不足により発生する段状のギザギザ)を目立たなくすることができる。なお、矩形のセル以外にも、円形や楕円形・三角形等の他の形状であっても良いことはいうまでもない。矩形以外の形状である場合、一辺の長さが300μmの矩形領域の内部に収まるような大きさにすることで、ジャギーを目立たなくすることができる。
【0065】
また、第1セル10と第2セル20とは、ストライプ状に交互に隣接配置することが望ましい。なぜならば、ストライプ状に交互に配置することが、鏡Mを用いて隠蔽画像を表示する際の最も簡便な構成だからである。さらに、第1画像P1と第2画像P2とを規則的に交互に配置していくだけであるので製造が容易だからである。また、同一の格子線方向のブレーズド格子が形成されたセルがまとまって並ぶことにより、回折光以外のノイズ光が発生しにくくなるといった効果も見込める。この結果、鏡Mを用いて隠蔽画像を表示した際に、鮮明で品質の高い画像を得ることができる。
【0066】
また、第1セル10に形成されたブレーズド格子11と第2セル20に形成されたブレーズド格子21とは、格子深さが略同一であることが望ましい。回折格子は、格子深さに応じて射出する回折光の光量が変化するため、空間周波数と格子線方向とが同一の回折格子であっても格子深さが異なると明るさが異なる。そこで、格子深さを同一にして、回折光の光量をほぼ同一にすることで、表示画像の明るさの変動を回避できる。例えば、第1セル群による第1画像P1の明るさと、第2セル群による第2画像P2の明るさとが異なることによる画質の低下を防止できる。また、部分的に輝度にムラが生じたりすることによる画質の低下を防止できる。すなわち、第1セル群による画像の輝度分布と第2セル群による画像の輝度分布とが同一であるので、第1セル群により表示される画像と、第2セル群により表示される画像とが連結された場合、その連結された画像の輝度分布を均一にすることができる。
【0067】
なお、本実施形態に係る回折格子パターン5は、例えば、紙もしくはプラスチック板、プラスチックフィルム等のシート状や平板状の情報印刷物の表面の任意の領域に貼付して使用することができる。図9は回折格子パターン5が貼付された情報印刷物50の概念を示す模式図である。また、回折格子パターン5が貼付された情報印刷物50の断面構成は、図10(図9の線分Y−Y’における断面図に相当)に示すように、印刷物基材51の上に印刷層52が施され、その上に接着層53を介して光反射層54が設けられてから回折格子パターン5が配置される構成が一般的である。さらに、回折格子パターン5の層を保護するために必要に応じて保護層55が設けられることもある。また、情報印刷物50がクレジットカードやIDカード等の場合、印刷物基材51の反りを防止するための層や、印刷のインクの密着性を高めるための層が設けられることもある。さらに、印刷物基材51上に磁気フィルム層等が別途設けられることもある。印刷物基材51が紙である場合にも、必要に応じて様々な機能を有する層が設けられる。
【0068】
このように、シート状もしくは平板状の印刷物基材51上に接着層53を介して回折格子パターン5を貼付することにより、その情報印刷物50を複写機等により模造できないようにすることができる。これにより、模造が極めて困難な商品券や手形等の有価証券類・カード類・各種証明書等の情報印刷物50を提供することができる。
【0069】
なお、回折格子パターン5が貼付された情報印刷物50は、一般的には平面状であり、表面に保護層が設けられるなどして傷や摩耗に耐え得る構造であることが多い。そのため、鏡Mを検証器とした隠蔽画像の表示を容易且つ確実に行なうことができる。
【0070】
また、回折格子パターン5は、図9に示したような矩形のものだけではなく、円形や楕円形のものや、情報印刷物50上を横断/縦断するような帯状のもの、情報印刷物50の全面を覆い尽くすようなものなど様々な形状であってもよいことは言うまでもない。
【0071】
<第2の実施形態>
本実施形態では、第1の実施形態に係る回折格子パターン5の検証方法を説明する。
【0072】
始めに、回折格子パターン5の表面上の予め定められた位置に光反射性物品である鏡Mを設置する。すなわち、図11に示すように、回折格子パターン5に光が入射されると、第1セル10と第2セル20とは、互いに反転した方向に回折光を射出する。そこで、図11に示すように第1セル10による第1回折光L1の射出方向に、回折格子パターン5に対して垂直に鏡Mを設置することにより、第1回折光L1を鏡Mの表面で鏡面反射させる。
【0073】
続いて、第1セル群からの第1回折光L1が鏡Mにより反射されて表示される第1画像P1と、第2セル群からの第2回折光L2により表示される第2画像P2とが連結された画像に基づいて、回折格子パターン5を検証する。
【0074】
すなわち、前述した第1回折光L1は、鏡Mの表面で鏡面反射されて観察点E2側に到達するので、観察者は第1セル群により表示される第1画像P1を見ることができる。また、回折格子パターン5に対して鏡Mを垂直に設置しているので、第1回折光L1と第2回折光L2との射出方向が一致する。
【0075】
そこで、第1セル群による第1画像P1と第2セル群による第2画像P2とを組み合わせた画像が、予め連続性のある所定の画像の一部または全部となるようにしておく。そうすると、観察点E2において、第1セル群により表示される第1画像P1が所定の画像の上部を表示する画像として鏡Mの表面に知覚され、第2セル群により表示される第2画像P2が所定の画像の下部を表示する画像として回折格子パターン5上で知覚されることになる。
【0076】
このようにして、鏡に映る第1画像P1と第2画像P2とを連結させたときに、所定の画像(隠蔽画像)が完成すれば、この回折格子パターン5は本物であると判定する。一方、所定の画像が完成しなければ、回折格子パターン5は偽物であると判定する。
【0077】
以上説明した方法によりに、予め定められた位置に鏡Mを設置することにより、第1画像P1と第2画像P2とが連結された画像に基づいて、回折格子パターン5の真偽判定を検証することができる。
【0078】
また、回折格子パターン5を情報印刷物50に貼付し、予め定められた検証方法でのみ、隠蔽画像が表示されるようにしておけば、情報印刷物50の真偽判定を容易に行なうことができる。
【0079】
なお、本実施形態では、回折格子パターン5に対して鏡Mを垂直に設置しているが、垂直に限るものではない。すなわち、ブレーズド格子のブレーズ角を調整することにより、鏡Mの設置角度を変えることもできる。
【0080】
<その他>
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る回折格子パターンの構成を示す模式図である。
【図2】同実施形態に係るセルの構成を説明するための模式図である。
【図3】同実施形態に係るセルの構成を説明するための模式図である。
【図4】同実施形態に係る回折格子パターンの断面を示す模式図である。
【図5】同実施形態に係る隠蔽画像の例を示す図である。
【図6】同実施形態に係る回折格子パターンの例を示す模式図である。
【図7】同実施形態に係る回折格子パターンの例を示す模式図である。
【図8】同実施形態に係る隠蔽画像の鏡への表示を示す模式図である。
【図9】同実施形態に係る回折格子パターンが貼付された情報印刷物の概念を示す模式図である。
【図10】同実施形態に係る回折格子パターンが貼付された情報印刷物の断面構成を示す模式図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る回折格子パターンの検証方法を説明するための模式図である。
【図12】一般的な矩形状回折格子の概念を示す模式図である。
【図13】一般的な正弦波状回折格子の概念を示す模式図である。
【図14】一般的なブレーズド格子の概念を示す模式図である。
【図15】一般的な階段状のブレーズド格子の概念を示す模式図である。
【符号の説明】
【0082】
5・・・回折格子パターン、6・・・基材、10・・・第1セル、11・・・ブレーズド格子、20・・・第2セル、21・・・ブレーズド格子、51・・・印刷物基材、52・・・印刷層、53・・・接着層、54・・・光反射層、55・・・保護層、90・・・矩形状回折格子、91・・・正弦波状回折格子、92・93・・・ブレーズド格子、Li・・・入射光、Ld・・・回折光、L1・・・第1回折光、L2・・・第2回折光、P1・・・第1画像、P2・・・第2画像、E1・・・第1観察点、E2・・・第2観察点、M・・・鏡。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、入射光を特定方向に回折するブレーズド格子が形成された第1セルと、
前記第1セルのブレーズド格子とは、格子線方向が略180度異なるブレーズド格子が形成された第2セルと
を備えた回折格子パターンであって、
前記第1セルと前記第2セルとは前記基材表面に交互に隣接配置されて、複数の第1セルから成る第1セル群と複数の第2セルから成る第2セル群とを形成し、
前記第1セル群のブレーズド格子からの回折光により隠蔽画像の一部分が表示され、
前記第2セル群のブレーズド格子からの回折光により前記隠蔽画像の他の部分が表示される
ことを特徴とする回折格子パターン。
【請求項2】
請求項1に記載の回折格子パターンにおいて、
前記第1セルおよび前記第2セルは、一辺の長さが300μm以下の矩形領域内に形成される
ことを特徴とする回折格子パターン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の回折格子パターンにおいて、
前記第1セル群と前記第2セル群は、それぞれストライプ状の構成要素が交互に隣接配置される
ことを特徴とする回折格子パターン。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の回折格子パターンにおいて、
前記第1セルに形成されたブレーズド格子と前記第2セルに形成されたブレーズド格子とは、格子深さが略同一である
ことを特徴とする回折格子パターン。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の回折格子パターンを備えた情報印刷物であって、
シート状もしくは平板状の印刷物基材と、
前記印刷物基材上に接着層を介して貼付された回折格子パターンと
を備えたことを特徴とする情報印刷物。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の回折格子パターンの検証方法であって、
前記回折格子パターンの表面上の予め定められた位置に光反射性物品を設置するステップと、
前記第1セル群からの回折光が前記光反射性物品により反射されて表示される画像と、前記第2セル群からの回折光により表示される画像とが連結された画像に基づいて、該回折格子パターンを検証するステップと
を備えたことを特徴とする回折格子パターンの検証方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−107473(P2008−107473A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288846(P2006−288846)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】