説明

回線品質測定装置

【目的】
本発明の目的は、ディジタル変調方式や符号方式にかかわらず、またデータ伝送効率を低下させることなく、簡素な装置構成で回線品質を測定する手段を提供することである。
【構成】
本発明の回線品質測定装置は、ディジタル通信システムの受信機において、検波器によって受信信号を検波して得られる信号Aに関して、信号Aから処理時間Nで符号のひずみを除去して信号Bを得る符号ひずみ除去部と、前記信号Aを時間N遅延させて信号Cを得る遅延部と、前記信号Bの位相と信号Cの位相を比較して差異の有無を出力する誤差検出部と、からなり、前記誤差検出部によって回線品質を測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、復元したディジタル信号の状態からの回線品質を測定することを可能にするディジタル通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディジタル通信システムの最大の目的は、送信側のビットデータを受信側で忠実に再生することである。そのため、送信側と受信側を接続する回線は高い品質を確保しなければならない。ここで回線品質とは、回線に入力する信号に対し回線から出力する信号の再現性を表す指標であり、信号の劣化が少ない回線が良い品質を有することになる。しかし実際の回線は、ノイズが重畳したり、伝送する周波数帯域によって信号の減衰量が異なる周波数特性を有していたり、送信端から受信端までを複数の経路を経て信号が伝達することによる多重波が発生したりするため、回線通過した信号の劣化は避けられない。この信号の劣化は受信側データの忠実な再生を妨げる要因となることから、ディジタル通信システムを運用する際は回線品質を測定し常に状態を把握しておく必要がある。
【0003】
回線品質の監視は、一般にビットエラー率(BER:Bit Error Rate)の測定によって行われる。回線品質はBERが高いほど悪く、BERが低いほど良い。BER測定は送信側からあらかじめ定められたビットパターンを送信し、受信側のビットパターンの誤りビット数をカウントするとともに、伝送したビット数に対する誤りビット数の比率をBERとして算出する。
【0004】
図2に従来のBER測定装置のブロック図を示す。BER測定時はスイッチ210、211が実線で示される接続に設定される。送信装置内のビットパターン発生回路201にて予測可能なビットパターン(たとえばM系列の疑似ランダム符号など)を生成し、そのビットパターンを変調回路202にて変調した被変調信号を回線に送信する。受信装置では受信した被変調信号から復調回路203を使ってビットパターンを復元しビット誤り検出回路204に入力する。ビット誤り検出回路204は入力した過去のビットパターンから現在のビット値を予測し、入力されたビット値と予測されたビット値が異なる場合はHレベル(論理1)、合致している場合はLレベル(論理0)を出力する。ビット誤り検出回路204の出力はビット数カウンタ205に入力され、論理1のビット数と受信したトータルのビット数をカウントする。論理1のビット数と受信したトータルのビット数の比率を計算することでBERを得る。
【0005】
図2において通常の運用時はスイッチ210、211が破線で示される接続に設定され、回線には本来の通信の目的に沿ったディジタルデータが伝送される。本来の通信の目的に沿ったディジタルデータとは、通信システムが主眼を置く伝送の対象となるデータである。BER測定時はスイッチ210、211が実線で示される接続に設定されるため、本来の通信の目的に沿ったディジタルデータは伝送できない。
【0006】
従来のBER測定による回線品質の測定は次の2つの欠点がある。(1)BER測定は送信側から特定のビットパターンを送信しなければならないため、測定の間は本来の通信の目的に沿ったディジタルデータを送信することができない。このため、本来の通信の目的に沿ったディジタルデータを伝送する時間が削減されることになり、ディジタル通信システムのデータ伝送効率を低下させる。
【0007】
(2)BER測定のため、送信側にはビットパターン発生モジュール、受信側にはビットパターンの復元および不一致検出を行うモジュールを実装しなければならず、通信システムが複雑となる。
【0008】
そこで、従来のBER測定の欠点を克服するため以下の特許文献が開示されている。まず特許文献1に示される方法は、受信側の復調信号レベルを領域に区分けし、サンプリングした復調信号が属する検出領域ごとにその検出個数をカウントすることで、回線の状態を推定する方法である。この方法は、ディジタル変調方式や符号方式にかかわらず適用可能であり、システムの運用中においても回線状態を推定できる技術である。
【0009】
つづいて特許文献2に示される方法は、誤り訂正機能を有する組織符号を使用した通信システムにおいて、組織符号の情報ビット部分の誤りにのみ着目することで、運用中におけるBERの推定を可能とするとともに、システムのハードウェア規模を縮小化することができる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】公開特許公報 平5−130084
【特許文献2】公開特許公報 2001−333050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に示される技術は、装置構成や処理内容が複雑であり、更には、あらかじめ検出領域の区分を調整しておく必要があるといった問題がある。
【0012】
また、特許文献2に示される技術は、符号方式として組織符号を使用しない通信システムには適用できないため汎用性に欠けるという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、ディジタル変調方式や符号方式にかかわらず、またデータ伝送効率を低下させることなく、簡素な装置構成で回線品質を測定する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために以下の手段を用いて問題を解決した。本発明は、ディジタル通信システムの受信機において、検波器によって受信信号を検波して得られる信号Aに関して、信号Aから処理時間Nで符号のひずみを除去して信号Bを得る符号ひずみ除去部と、前記信号Aを時間N遅延させて信号Cを得る遅延部と、前記信号Bの位相と信号Cの位相を比較して差異の有無を出力する誤差検出部と、からなり、前記誤差検出部によって回線品質を測定することを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、回線品質が復調信号の符号のひずみに影響を与えることに着目して回線品質を測定する。
【0016】
また、前記誤差検出部は、誤差を検出した場合と誤差を検出しなかった場合で異なる出力をするものとし、当該誤差検出部の出力を積分する誤差検出積分部が出力する積分値によって、回線品質を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、回線品質の悪さを、瞬時にかつ変調方式および符号方式に依存せずに、またデータ伝送効率を低下させることなく測定できる。
【0018】
また本発明は簡素な装置構成で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明をFSK復調装置に適用した実施形態を示すブロック図
【図2】従来の回線品質測定装置を示す図
【図3】図1のブロック図の各部における動作波形
【図4】図1のブロック図の各部における異なる符号歪みに対する動作波形
【図5】本発明を直交検波器に適用した実施形態を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0020】
次に本発明を2値FSK変調方式(Frequency Shift Keying、周波数変調方式)の復調装置に適用した場合の例を説明する。図1は本発明を使用した2値FSK復調装置のブロック図である。図1に示した復調装置はFSK変調信号を入力し、復調信号の符号ひずみに応じてレベルが変化する信号を出力する。符号ひずみとは、ビットパターンの立ち上がり、立下りエッジが本来のタイミングからずれている度合いを表す量で、一般に回線品質が悪いと復調信号の符号ひずみが増加する。よって、出力された信号のレベルは回線品質が悪いほど大きく、回線品質が良好であれば小さくなる。
【0021】
この実施例は、検波器102とサンプリング回路103と、シンボルクロック再生回路104と、遅延回路105と、位相誤差検出回路106と、積分器107から構成される。
【0022】
次に図1の各ブロックの機能を説明する。検波器102は入力された被変調信号101から元の情報信号を復元し出力する。ここで検波器102は復調結果として1ビットのバイナリデータを出力することとする。検波器102が出力する信号は符号ひずみを含んでいるため、サンプリング回路103により波形を整形し符号ひずみを除去する。サンプリング回路103はシンボルクロック再生回路104にて生成したサンプリングクロックのタイミングで検波器102が出力する信号をサンプリングする。サンプリング回路103の出力が復調装置の信号出力108となる。シンボルクロック再生回路104は検波器102が出力する波形のエッジタイミングをもとにPLL(Phase Locked Loop)などを利用してシンボルクロックを再生し出力する。
【0023】
検波器102が出力する信号は遅延回路105にも入力される。遅延回路105はサンプリング回路103を信号が通過するときの遅延時間とおなじ遅延時間だけ信号を遅らせる。位相誤差検出回路106はサンプリング回路103と遅延回路105の出力を入力し、サンプリング回路103と遅延回路105の出力が一致しない場合Hレベル(論理1)、一致した場合Lレベル(論理0)を、すなわち排他的論理和の演算結果を出力する。積分器107は位相誤差検出回路106の出力を入力し、一定時間内において入力がHレベルとなった時間の割合に応じたレベルを出力する。積分器107の出力として回線品質の悪さによって増加するレベル出力109を得る。
【0024】
次に図1のブロック図に示した実施例の動作を説明する。図3は図1に示したブロック図の各部における動作波形を示した図である。(1)の波形は検波器102の出力波形を表しており、符号ひずみを含んでいる。(2)はシンボルクロック再生回路104の出力を表しており、検波器102の出力から復元したシンボルクロック波形となっている。(3)は遅延回路105の出力を表しており、検波器102の出力を一定時間遅延させた波形となっている。(4)はサンプリング回路103の出力を表しており、(1)の検波器出力を(2)のシンボルクロックの立ち上がりでサンプリングした波形となっている。(5)は位相誤差検出回路106の出力を表しており、(3)と(4)の排他的論理和演算を施した波形となっている。(6)は積分器107の出力を表しており、(5)の波形を平滑化した波形となっている。
【0025】
次に符号ひずみの大きさが異なる場合の動作の違いについて説明する。図4は検波器102の出力の符号ひずみが異なる信号波形を比較した図である。実線は符号ひずみが大きい場合、点線は符号ひずみが小さい場合の波形を表す。(1)は検波器102の出力波形、(2)はシンボルクロック再生回路104の出力波形、(3)は遅延回路105の出力波形、(4)はサンプリング回路103の出力波形、(5)は位相誤差検出回路106の出力波形、(6)は積分器107の出力波形を表している。
【0026】
(1)の検波器102の出力に大きな符号歪みが含まれると、(5)の位相誤差検出回路106の出力がHレベルになる時間が長くなり、その結果(6)の積分器107出力レベルが大きくなる。したがって積分器107の出力は復調信号の符号ひずみの大きさを表す信号となり、回線品質を判断する量として使用できる。
【0027】
以上の実施例はFSK変調方式の復調装置の場合について説明したが、本発明は復調出力の符号ひずみに着目しているため、検波器に入力する信号の変調方式には依存しない。たとえば、ASK(Amplitude Shift Keying)変調方式、PSK(Phase Shift Keying)変調方式などの復調装置にも適用が可能である。
【0028】
また、ディジタル通信システムにおいては符号方式にかかわらず復調出力のディジタル信号に必ず符号ひずみが存在することから、本発明はすべての符号方式に適用可能である。また、伝送するデータ内容にも依存しないため、本来の通信の目的に沿ったデータを通信している間でも回線品質を測定することが可能である。
【0029】
すなわち、以上の実施例は回線品質に依存する復調信号の符号ひずみを瞬時にかつ変調方式および符号方式に依存せずに、またデータ伝送効率を低下させることなく測定できる。
【0030】
また、一般的な復調回路は図1において検波器102、サンプリング回路103、シンボルクロック再生回路104で構成されるが、本発明の機能を実装するためには遅延回路105、位相誤差検出回路106、積分器107を追加することになる。遅延回路105は例えばシフトレジスタ回路で構成可能であり、位相誤差検出回路は例えば排他的論理和ゲート素子で構成可能であり、積分器107は例えば低域周波数濾波回路で構成可能であるため、本発明に示す機能を簡素な回路の追加で実現することができる。
【0031】
また積分器107は、過去一定期間におけて入力がHレベルの時間が占める割合を、入力レベルがHレベルのときのみにカウントアップするカウンタによって計数し、その計数結果に応じて出力レベルを可変することでも実現できる。
【0032】
また上記実施例はDSP(Digital Signal Processor)などを利用したソフトウェアモデムにも簡単に適用可能である。たとえば遅延回路105はメモリへの蓄積処理によって構成可能であり、位相誤差検出回路106は排他的論理和演算によって構成可能であり、積分器107はディジタルフィルタ演算によって構成可能である。
【0033】
また本発明は信号の変復調をしないで通信するベースバンド伝送方式のディジタル通信システムにも適応が可能である。ベースバンド伝送方式は、送信側で送信するデータの論理値を直接、電気信号レベルの大きさに変換して回線に出力し、受信側では受信した電気信号レベルを論理値に変換して送信されたデータを復元する。ベースバンド伝送においても回線品質が受信信号の符号ひずみに影響するため、本発明を適用することで回線品質を簡単に測定することができる。本発明をベースバンド伝送システムに適用する場合は、図1において検波器102を回線上の電気信号レベルを装置内で処理可能な電気信号レベルに変換する信号レベル変換器に置き換える。また、本発明をベースバンド伝送システムに適用する場合においても符号化方式の違いに依存ぜず適応可能であり、またデータ伝送効率を低下させることはない。
【0034】
図1ではFSK変調方式の一般的な復調装置に本発明を適用した例を示したが、図5にQPSK(Quadrature Phase Shift Keying、4位相偏移変調)に対応した直交復調回路に本発明を適用した例を示す。
【0035】
図5の各ブロックの機能を説明する。直交検波器501は入力された被変調信号から情報信号を復元し、I信号(In−Phase)とQ信号(Quadrature)の2つの信号を出力する。ここで出力されるI信号、Q信号はデマッピング後の1ビットのバイナリデータとする。直交検波器501が出力する2つの信号をサンプリング回路502A、502Bにより波形を整形し符号ひずみを除去する。サンプリング回路502A、502Bはシンボルクロック再生回路503にて生成したサンプリングクロックのタイミングで直交検波器501が出力する信号をサンプリングする。サンプリング回路502A、502Bの出力が復調出力となる。シンボルクロック再生回路503は直交検波器501が出力する2つの信号の波形のエッジタイミングをもとにシンボルクロックを再生し出力する。直交検波器501が出力する2信号は遅延回路504A、504Bにも入力される。遅延回路504A、504Bはサンプリング回路502A、502Bを信号が通過するときの遅延時間とおなじ遅延時間だけ信号を遅らせる。位相誤差検出回路505A、505Bはサンプリング回路502A、502Bと遅延回路504A、504Bの出力を入力し、サンプリング回路502A、502Bと遅延回路504A、504Bの出力が一致しない場合Hレベル(論理1)、一致した場合Lレベル(論理0)を、すなわち排他的論理和の演算結果を出力する。積分器506A、506Bは位相誤差検出回路505A、505Bの出力を入力し、Hレベルとなった時間の割合に応じたレベルを出力する。積分器506A、506Bの出力を加算器507で加算し、その結果として回線品質の悪さに示す指標を得る。
【0036】
また、QPSK変調方式以外の多値QAM(Quadrature Amplitunde Moduration、直角位相振幅変調)に対しても、上記実施例を若干変更することで適用可能である。多値QAMの場合は直交検波器の出力であるI信号、Q信号は1ビットのバイナリデータではなく多ビットのバイナリデータとなるため、各回路要素は複数ビットの入出力に対応するように変更する。たとえば、位相誤差検出回路505A、505Bはサンプリングされた復調データと遅延回路を通過した復調データの差分を求める回路に変更することで対応可能である。また、たとえば、積分器506A、506Bはディジタルフィルタによって実現可能である。
【0037】
以上の実施例で説明したとおり、本発明は、瞬時にかつ変調方式および符号方式に依存せずに、またデータ伝送効率を低下させることなくディジタル通信システムの回線品質を測定することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
101 被変調信号
102 検波器
103 サンプリング回路
104 シンボルクロック再生回路
105 遅延回路
106 位相誤差検出回路
107 積分器
108 復調信号
109 回線品質をレベルで表す信号
201 ビットパターン発生回路
202 変調回路
203 復調回路
204 ビット誤り検出回路
205 ビット数カウンタ
210、211 BER測定切り替えスイッチ
501 直交検波器
502 サンプリング回路
503 シンボルクロック再生回路
504 遅延回路
505 位相誤差検出回路
506 積分器
507 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタル通信システムの受信機において、検波器によって受信信号を検波して得られる信号Aに関して、
信号Aから処理時間Nで符号のひずみを除去して信号Bを得る符号ひずみ除去部と、
前記信号Aを時間N遅延させて信号Cを得る遅延部と、
前記信号Bの位相と信号Cの位相を比較して差異の有無を出力する誤差検出部と、
からなり、前記誤差検出部によって回線品質を測定することを特徴とする回線品質測定装置。
【請求項2】
前記誤差検出部は、
誤差を検出した場合と誤差を検出しなかった場合で異なる出力をするものとし、
当該誤差検出部の出力を積分する誤差検出積分部が出力する積分値によって、
回線品質を測定することを特徴とする請求項1に記載の回線品質測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−54764(P2012−54764A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195740(P2010−195740)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】