説明

回路遮断器の可動接触装置

【課題】 シャントレス通電機構でありながら、通電能力が大きく、小形で、しかも接触抵抗が低い回路遮断器の可動接触装置を得る。
【解決手段】 開閉機構102により開閉できるようになされた可動接触装置において、可動接触子8の1極分の構成は、それぞれ一端に可動接点7を有する2枚の可動接触子体81,82を平行に配設して構成され、かつ、他端の軸支部分において2枚の可動接触子体81,82の間に弾性部材16を挟装すると共に、可動接点7と軸支部分との中間部分に吸引抑止部材17を挟装したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配線用遮断器や漏電遮断器などの回路遮断器の可動接触装置に関し、詳しくは摺動接触方式における装置の小型化と電気的接続状態の安定化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路遮断器には、この回路遮断器に具備された操作ハンドルを操作することにより電路を開閉する機能、即ち、スイッチ機能だけではなく、過電流に起因する電線や負荷機器の焼損を未然に防止するために電路を遮断するという大きな役目を担っている。回路遮断器のこれらの機能を満足するための重要な部品の一つとして、閉状態では、固定接触子と接触し、開状態では、この固定接触子と開離する可動接触子が挙げられる。この文字通り「可動する」接触子と接続される通電部材には、銅の平編線や積層した薄板で可撓性を持たせたシャントが、特にスペースの制約を受ける小型回路遮断器、例えば、定格電流30〜100A(アンペア)のものを中心に採用されている。
【0003】
しかしながら、このシャントは、前述した開閉機能において疲労断線という問題に直面してしまうため、どうしても開閉寿命を制限せざるを得なかった。そこで、この開閉寿命を改善する手段の一つとして、可動接触子と接続導体を摺動接触させ、この接続導体の外部に配設した接触ばねによって、可動接触子と接続導体の接触圧力を高める通電機構が知られている。この可動接触子と接続導体の電気的接触は、シャントを用いないことから、一般には「シャントレス通電機構」と呼ばれている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−6681号公報(第3頁右欄第23行〜第28行、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この特許文献1の図1によると、可動接触子を1極あたり2枚平行配置していることから、通電容量の大きい、例えば、定格電流400A程度の回路遮断器であることが推察される。また、大電流が流れた際に可動接触子間に働く電磁力により、可動接触子が互いに吸引しあって接触することを防ぐために、この可動接触子間に小形に形成された間隔こまを挟装させていることがわかる。
【0006】
ところが、前述した可動接触子間に働く吸引力により間隔こまと可動接触子が点接触になって可動接触子が傾斜することがある。この傾斜により可動接触子と接続導体との接触が不安定になる恐れがあった。また、接触ばねを接続導体の外側面に配置して接続導体を可動接触子に押圧して電気的接続が得られるようになされている。従って、この押圧により可動接触子との電気的接続の安定を保とうとするため、可動接触子の厚さ、及び、接続導体の可動接触子を挟み込む内寸法を厳しく管理しなければならない。
【0007】
さらに、接続導体を押圧する構成であることから、接続導体は撓み易いように板厚が薄い材料で形成することになる。板厚が薄い場合、前述した寸法管理に加え、変形など製造工程中の部品管理にも細心の注意を払う必要があった。また、板厚が薄いために通電能力を大きくすることに制約を受ける。さらに、前述した接触ばねを外部に配置することによるシャントレス通電機構そのものの外形寸法アップと相俟って、より大きな定格電流を持つ回路遮断器への適用が困難であった。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、可動接触子と可動子受け(特許文献1の接続導体に相当)との接触が安定し、しかも小型化できる回路遮断器の可動接触装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る回路遮断器の可動接触装置においては、一端に可動接点を有し他端が平板状に形成された可動接触子の上記他端が、一対の接続導体部を有する通電用可動子受けの上記接続導体部により電気的接続状態に挟持されると共に回動自在に軸支され、かつ、開閉機構により固定接触子に対して開閉できるようになされた回路遮断器の可動接触装置において、上記可動接触子の1極分の構成は、それぞれ一端に可動接点を有する2枚の可動接触子体を平行に配設して構成され、かつ、他端の軸支部分において上記2枚の可動接触子体の間に弾性部材を挟装すると共に、上記可動接点と軸支部分との中間部分に吸引抑止部材を挟装したものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明は以上説明したように、小型で通電能力が大きいシャントレス通電機構が得られるので、中型ないし大型回路遮断器の開閉寿命が改善されるとともに、可動接触子と可動子受けの電気的接続状態が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における回路遮断器の閉状態を示す側断面図、図2は図1における線A−Aに沿う部分断面図である。
【0012】
図1において、カバー1、及びベース2は回路遮断器101の筐体を構成するものであり、それぞれ合成樹脂材で形成されている。ベース2には開閉機構部102が収納されており、この開閉機構部102に連動するハンドル3がカバー1のハンドル用窓孔1aからカバー1の表面に突出している。このハンドル3は外部から手動操作できるようになされていることは周知の通りである。なお、閉状態にある回路遮断器101のハンドル3の位置により、紙面上、右側が例えば電源側電線を接続する接続端子部(付番せず)、左側が例えば負荷側電線を接続する接続端子部(付番せず)であることも周知の通りである。
【0013】
上記回路遮断器において、電源側電線との接続端子部を構成する固定接触子4が取付ねじ5によりベース2に固定され、この固定接触子4の一端に固着された固定接点6が、可動接触子8の一端に固着された可動接点7と接離することにより、回路遮断器101の開閉、即ち電路の入り切りが行われる。
この開閉は、可動接触子8が軸9(図2参照)により可動子受け11を介して支承されると共に、可動接触子8を抱持するクロスバー10が、開閉機構部102と連結されているので、開閉はこの開閉機構部102の作動に応じて行われる。この開閉作動は本発明の要部をなすものではないためその詳しい説明は省略する。
【0014】
上記の説明において、可動接触子8は可動子受け11に挟持され、この可動子受け11は、取付ねじ12によってベース2に固定されるとともに、取付ねじ13によって中継導体14に接続されている。この中継導体14は図示しない過電流引き外し装置を構成するヒーターを介して、負荷側電線との接続端子部を構成する負荷導体15に接続されている。従って、この閉状態における電流経路は、固定接触子4→固定接点6→可動接点7→可動接触子8→可動子受け11→中継導体14→ヒーター→負荷導体15となり、シャントを用いないシャントレス通電機構を構成していることがわかる。以下、可動接触子8及び可動子受け11を中心に説明する。
【0015】
図2において、可動子受け11は、前述した取付ねじ12を螺着するねじ孔(図示せず)、及び取付ねじ13が貫通する第一の貫通孔11cを備える基部11aと、この基部11aから直角に立ち上げられ、先端が相対向し、軸9が貫通するための第二の貫通孔11dを備える一対の接続導体部11bとにより一体に形成されている。なお、この可動子受け11を形成する材料としては導電性が良い銅板を用いると共に、容易に変形しない板厚及び形状について考慮されたものである。
一方、可動接触子8は、前述したように一端に可動接点7が固着されるとともに、他端に貫通孔8aを備えており、この貫通孔8aに軸9を貫通させて、可動子受け11の第二の貫通孔11dにより回動自在に支承されている。なお、クロスバー10は軸10の両端を保持し、かつ、可動接触子8を抱持して可動接触子8が開閉機構部102の作動に応じるようになされている。
【0016】
この図2からも明らかなように、可動接触子8は、2枚の可動接触子体81,82を並設することにより、中型ないし大型回路遮断器への適用を意図している。
この並設された可動接触子体81,82の相対向する面、即ち可動子受け11と接触する面とは反対の両内側面において、貫通孔8aの部分に座ぐり8bが設けられている。この座ぐり8bに軸9に遊嵌された弾性部材16の両端が嵌装されている。なお、弾性部材16としては各種のばね材が考えられるが、図示の弾性部材16はつる巻きばねを用いた実施例を示している。この並設された可動接触子体81,82の間に挟装された弾性部材16によって、可動接触子8の接触部8cが接続導体部11bに対して押圧され、面接触を保つことができる。この面接触により可動接触子8と可動子受け11の間の電気的接触状態が安定する。また、接続導体部11bを撓ませる必要がないので、この接続導体部11bの厚肉化が可能となり、中・大型回路遮断器に応じた通電容量に対応することができる。
なお、弾性部材16はつる巻きばねの実施例を示したが、一対の可動接触子8の並設間隔を狭く構成する場合には、板ばね、あるいは、細く巻いたつる巻きばねの両端を接続してリング状に形成したばねが適当である。
【0017】
前述した通り、可動接触子8は2枚の可動接触子体81,82を並設して構成されているので、特許文献1にも示されているように、大電流が流れた際に可動接触子体81,82の間に電磁力による吸引力が生じる。可動接触子8としてはこの吸引力による可動接触子体81,82の接触を抑止する必要がある。そこで、本発明においては、図2に示すように、可動接触子体81,82の間のいずれか一方にリベットあるいは接着などの手段で吸引抑止部材17を固着させた。この吸引抑止部材17は、ナイロンのような合成樹脂材が適当であるが、金属材での形成も可能である。このように吸引抑止部材17は、可動接触子8と面接触させていることと相俟って、大電流通過時の可動接触子8と可動子受け11間の接触状態を安定に保つことができ、両部品間の発弧による溶着を未然に防ぐことができる。
【0018】
以上要するに、本発明の可動接触装置においては、並設する可動接触子体81,82の間において、軸支部分に弾性部材16を挟装すると共に、可動接点と軸支部分との中間部分に吸引抑止部材を挟装させたので、発弧による溶着のない、しかも小形のシャントレス通電機構が提供できる。また、この構成によれば、中型ないし大型回路遮断器の開閉寿命を改善することができる。
【0019】
実施の形態2.
図3はこの発明の実施の形態2における図2相当図である。この図3においては、可動接点7と軸9間の中間位置に対し、軸9の側に吸引抑止部材17を挟装・固着させた。即ち、接点7から吸引抑止部材17の位置までの寸法aを、吸引抑止部材17の位置から軸9までの寸法bよりも大きくした。このように構成した場合、大電流通過時の吸引力は軸9の側よりも接点側において強く働く。従って、その吸引力は、吸引抑止部材17を支点にして軸9側の可動接触子体81,82の間隔を開くように作用する。この作用は、可動接触子8を可動子受け11に圧接するように働くので、可動接触子8と可動子受け11間の接触状態がさらに安定する。
【0020】
実施の形態3.
図4はこの発明の実施の形態3における図2相当図、図5は図4における線B−Bに沿う断面図である。
図において、可動接触子8の両外側面、即ち、接続導体部11bと接触する面のうち、吸引抑止部材17が挟装されている両外側面に、振動抑止部18aを当接させると共に、図5に示すように、可動接点7側において両外側面の振動抑止部18aを接続部18bにより接続して振動抑止部材18が形成されている。さらに、この振動抑止部材18と吸引抑止部材17は図示のように一体的に結合されている。この場合、振動抑止部材18と吸引抑止部材17は別個の部品としてもよいが、合成樹脂材で形成するならば、振動抑止部材18と吸引抑止部材17は一体的に成型加工することも可能である。
回路遮断器が振動・衝撃を受けた場合、可動接触子8が外側に開くような動きを生じることがあるが、上記のように吸引抑止部材17と共に振動抑止部材18を設けることで、振動・衝撃による動きを抑止できる。従って、可動接触子8と可動子受け11の間の接触状態がさらに安定する。
【0021】
実施の形態4.
図6および図7は、この発明の実施の形態4における図1および図5相当図である。図6において、可動接触子8の両側面のうち可動接点7近傍に、過電流遮断時における、クロスバー10側へのアーク飛び防止や、アークを電源側へ誘導するガスを放出する、アーク絶縁部材(後述の振動抑止部材18)が固着されている以外は、図1と同様である。
【0022】
図7に示すように、上記のアーク絶縁部材は、可動接触子8の両側面を抱え込むように可動接触子8に固着されている。即ち、実施の形態3(図5)で説明した、振動抑止部材18にアーク絶縁機能を持たせたことが、この実施の形態4の特徴である。このアーク絶縁機能をもたせるために、振動抑止部材18の材料は、例えば、特許第3359422号において消弧用絶縁材料組成物・消弧用絶縁材料成形体の材料として示されたように、ポリエチレンテレフタレート,ナイロン66,ナイロン46などが適当である。なお、振動抑止部材18と吸引抑止部材17を一体化する場合、抑止部材18と吸引抑止部材17をこれらの材料を用いて一体成形してもよい。
この実施の形態によれば、可動接触子8と可動子受け11間の接触状態が安定することに加え、アークがアーク絶縁部材18に触れることで発生する消弧性のガスにより遮断性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施の形態1における回路遮断器の側断面図である。
【図2】図1における線A−Aに沿う部分断面図である。
【図3】この発明の実施の形態2における図2相当の部分断面図である。
【図4】この発明の実施の形態3における図2相当の部分断面図である。
【図5】図4における線B−Bに沿う部分断面図である。
【図6】この発明の実施の形態4における図1相当の側断面図である。
【図7】この発明の実施の形態4における図5相当の部分図である。
【符号の説明】
【0024】
1 カバー、1a ハンドル用窓孔、2 ベース、3 ハンドル、4 固定接触子、 6 固定接点、7 可動接点、8 可動接触子、8a 貫通孔、8b 座ぐり、8c 接触部、9 軸、10 クロスバー、11 可動子受け、11a 基部、11b 接続導体部、14 中継導体、15 負荷導体、16 弾性部材、17 吸引抑止部材、18 振動抑止部材、81 可動接触子体、82 可動接触子体、101 回路遮断器、102 開閉機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に可動接点を有し他端が平板状に形成された可動接触子の上記他端が、一対の接続導体部を有する通電用可動子受けの上記接続導体部により電気的接続状態に挟持されると共に回動自在に軸支され、かつ、開閉機構により固定接触子に対して開閉できるようになされた回路遮断器の可動接触装置において、上記可動接触子の1極分の構成は、それぞれ一端に可動接点を有する2枚の可動接触子体を平行に配設して構成され、かつ、他端の軸支部分において上記2枚の可動接触子体の間に弾性部材を挟装すると共に、上記可動接点と軸支部分との中間部分に吸引抑止部材を挟装したことを特徴とする回路遮断器の可動接触装置。
【請求項2】
吸引抑止部材は、可動接点と軸支部分との中間よりも軸支部分側に寄った位置で挟装したことを特徴とする請求項1に記載の回路遮断器の可動接触装置。
【請求項3】
吸引抑止部材は、可動接触子の両外側面にそれぞれ当接する振動抑止部と上記両振動抑止部を可動接点側で接続する接続部とにより形成された振動抑止部材を一体的に備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回路遮断器の可動接触装置。
【請求項4】
振動抑止部材は、回路遮断器の遮断時に発生するアークに触れると消弧性のガスを発生する材料で形成したことを特徴とする請求項3に記載の回路遮断器の可動接触装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−41250(P2008−41250A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337118(P2005−337118)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】