説明

回転力伝達機構

【課題】 部品点数が少なく、高精度を必要とせず低コストであって、異物が侵入しても容易に固着することがない回転力伝達機構を提供する。
【解決手段】 本発明に係る回転力伝達機構1は、円筒状の外周面11を有する第一部材10と、外周面11に当接する円筒状の内周面21を有する第二部材20とを備え、外周面11には、周方向の方向Aに傾斜して立毛する傾斜パイル12が設けられており、内周面21には噛合部22が設けられており、内周面21に対し相対的に外周面11が方向Aに回転する場合には、傾斜パイル12が噛合部22に噛み合い、回転方向の正逆及び回転トルクの大きさに応じて伝達されるトルクが異なるよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転力伝達機構に関し、特に回転方向の正逆及び回転トルクの大きさに応じて伝達されるトルクが異なるような、回転力伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ワンウェイクラッチや、トルクリミッター等の、回転方向の正逆及び回転トルクの大きさに応じて伝達されるトルクが異なるような回転力伝達機構は、自転車、自動車、OA機械等、様々な機械に使用されている。
【0003】
このような回転力伝達機構として、ラチェットを使用したワンウェイクラッチが知られている(特許文献1)。ラチェットを使用したワンウェイクラッチは、部品点数が多く、部品単品および組み立てに高い精度が求められるため、高コストとなり、また振動にも弱いという問題があった。また、異物が侵入した場合に外輪と内輪とが固着して、正常に作動しなくなるという問題があった。
【0004】
一方、トルクリミッターとしてはコイルバネを用いたもの(特許文献2)、磁力を用いたもの(特許文献3)が知られている。コイルバネを用いたものは、部品単品および組み立て、特に軸心同士の位置関係に高い精度が求められるため高コストとなり、さらに、異物が侵入した場合にに外輪と内輪とが固着して、正常に作動しなくなるという問題があった。また、磁力を用いたものは、部品点数が多く、部品単品および組み立てに高い精度が求められるため、高コストとなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−241044号公報
【特許文献2】特開2010−032022号公報
【特許文献3】特開2005−282794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、部品点数が少なく、高精度を必要とせず低コストであって、異物が侵入しても容易に固着することがない回転力伝達機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、円筒状の外周面を有する第一部材と、前記外周面に当接する円筒状の内周面を有する第二部材とを備え、前記外周面および前記内周面のうち、いずれか一方の周面には、周方向のいずれか一方向に傾斜して立毛する傾斜パイルが設けられており、他方の周面には噛合部が設けられており、前記他方の周面に対し相対的に前記一方の周面が前記一方向に回転する場合には、前記傾斜パイルが前記噛合部に噛み合うことを特徴とする回転力伝達機構である。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、傾斜パイルの噛み合いを利用するため部品点数が少なく、高精度を必要としないため低コストであり、また異物が侵入しても容易に固着することのない回転力伝達機構を提供することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記噛合部が、前記他方の周面に形成された凹凸から成ることを特徴とする請求項1に記載の回転力伝達機構である。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、凹凸を形成することで噛合部を設けることができるので、簡易な構成で請求項1に係る回転力伝達機構を提供することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記噛合部が、前記他方の周面に設けられ軸方向に延びる突条又は凹溝から成ることを特徴とする請求項1に記載の回転力伝達機構である。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、周面に軸方向に延びる突条又は凹溝を形成することで噛合部を設けることができるので、簡易な構成で請求項1に係る回転力伝達機構を提供することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記噛合部が、前記他方の周面に立設され前記一方向と反対向きに傾斜する鋸歯から成ることを特徴とする請求項1に記載の回転力伝達機構である。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、緊密な噛み合いを実現すると共に、伝達される限界のトルクが大きい、請求項1に係る回転力伝達機構を提供することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記噛合部が、前記他方の周面から立毛し前記一方向と反対向きに傾斜する傾斜パイルから成ることを特徴とする請求項1に記載の回転力伝達機構である。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、簡易な構成で緊密な噛み合いを実現すると共に、伝達される限界のトルクが大きい、請求項1に係る回転力伝達機構を提供することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の回転力伝達機構を用いたことを特徴とするワンウェイクラッチである。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、傾斜パイルの噛み合いを利用するため部品点数が少なく、高精度を必要としないため低コストであり、また異物が侵入しても容易に固着することのないワンウェイクラッチを提供することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の回転力伝達機構を用いたことを特徴とするトルクリミッターである。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、傾斜パイルの噛み合いを利用するため部品点数が少なく、高精度を必要としないため低コストであり、また異物が侵入しても容易に固着することのないトルクリミッターを提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、傾斜パイルの噛み合いを利用するため部品点数が少なく、高精度を必要としないため低コストであり、また異物が侵入しても容易に固着することのない、回転力伝達機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る回転力伝達機構を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る回転力伝達機構を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る回転力伝達機構の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明の第二の実施形態に係る回転力伝達機構を示す断面図である。
【図5】本発明の第三の実施形態に係る回転力伝達機構を示す断面図である。
【図6】本発明の第四の実施形態に係る回転力伝達機構を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施形態であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0024】
本発明の第一の実施形態に係る回転力伝達機構について、図1〜3に基づき説明する。図1は第一の実施形態に係る回転力伝達機構を示す斜視図であり、図2は分解斜視図である。また図3は第一の実施形態に係る回転力伝達機構の実施例を示す断面図である。
【0025】
符号1で示す回転力伝達機構1は、円柱状に構成された第一部材10と、環状に構成された第二部材20とを主たる構成要素とする。第一部材10は第二部材20の内部に収容されており、第一部材10の円筒状の外周面11が、第二部材20の円筒状の内周面21に当接している。
【0026】
第一部材10の外周面11には、周方向のうち、符号Aで図示する方向Aに向けて傾斜して立毛する傾斜パイル12が設けられている。第二部材20の内周面21には、傾斜パイル12に噛み合う噛合部22の一つの実施例として、図1,2,3(a)では軸方向に延びる凹溝22a,・・・,22aが周方向に離間して複数設けられている。なお、図1,2,3(a)に図示されている凹溝22aはV字型で形成されているが、断面形状は特に問わず、U字型溝等も適用可能である。また、図3(b)に示すように、軸方向に延びる突条22b,・・・,22bを周方向に離間して複数設け、傾斜パイル12に噛み合う噛合部22として構成することも可能である。また、図3(c)に示すような、連続的に設けられた三角歯22cや、図3(d)に示すような鋸歯22dも、適用可能である。
【0027】
なお、図示の第一部材10は外周面11に傾斜パイル12が直接設けられているよう構成されているが、基布から立毛する傾斜パイルを円筒面に貼着することにより、外周面11に傾斜パイル12を間接的に設けるよう構成することも勿論可能である。
【0028】
次に、本実施形態に係る回転力伝達機構1の動作について、図3(a),(e)を用いて説明する。第一部材10が第二部材20に対して相対的に方向Aと逆方向に回転する場合、傾斜パイル12は凹溝22aに何ら進行を妨げられることなく、スムーズに回転する。すなわちこの回転方向では、第一部材10と第二部材20との間で回転力が伝達されることはない。
【0029】
第一部材10が第二部材20に対して相対的に方向Aに回転する場合、一部の傾斜パイル12の毛先が凹溝22aに噛み合うため、傾斜パイル12の毛を長さ方向に圧縮するような力が作用する。これにより、第一部材10の回転力が第二部材20に伝達される。
【0030】
ここで、加えられた回転力が所定のトルクを超過した場合、傾斜パイル12に作用する圧縮力のため毛が座屈することにより傾斜パイル12が逆方向に反り返り、凹溝22aとの噛み合いが解除される(図3(e)参照)。すなわち、所定のトルクを超過すると第一部材10の回転力が第二部材20に伝達されなくなり、この所定のトルクは、伝達される限界のトルクであることを意味する。
【0031】
伝達される限界のトルクは、傾斜パイル12の毛が座屈する荷重により決定される。したがって、傾斜パイル12の毛の密度、毛の長さ、毛の剛さ等を適宜変えることにより、伝達される限界のトルクを設定することができる。
【0032】
また伝達される限界のトルクは、噛合部22の形状によっても変化する。例えば凹溝22aにより噛合部22を構成する場合、凹溝22aの数が多いほど噛合する箇所が多いため、伝達される限界のトルクは大きくなる。さらに、図3(c)に示すような、連続的に設けられた三角歯22cを噛合部22とすると、傾斜パイルの多数の毛が噛合するため、伝達される限界のトルクが大きくなる。またさらに、図3(d)に示すように、方向Aとは逆方向に傾斜する鋸歯22dを噛合部22とした場合、噛合が解除される為には、傾斜パイル12の毛がより大きく反り返らなければならないため、伝達される限界のトルクはさらに大きくなる。
【0033】
なお、上に挙げた噛合部22の形状は、いずれも一定の断面で軸方向に連続的に延びる形状であるが、軸方向に連続してない凹凸、例えば内周面に離散的に凹設された窪み、ローレット、布地表面の凹凸等も、傾斜パイル12と噛み合うため、噛合部として好適に使用することができる。
【0034】
回転力伝達機構1は、少ない部品点数で、精密な組み立てを要することなく構成することができる。すなわち、回転力の伝達が傾斜パイルを介して行われるため、第一部材10と第二部材20との間に異物が侵入しても、容易に固着することなく、所定の方向に回転するときのみトルクを伝達するという機能が、容易に損なわれることはない。また更に、回転力の伝達が傾斜パイルを介して行わるため、第一部材10の軸心と第二部材20の軸心とがぶれたり、第一部材10の軸心と第二部材20の軸心とが傾いている場合でも、傾斜パイル12と噛合部22とが噛み合う限り、回転力が伝達される。すなわち組立時に高精度な同軸度や傾斜度が要求されることはなく、また使用時にもぶれや傾き、および振動が許容される。
【0035】
なお、一方向に回転する場合にトルクが伝達され、逆方向に回転する場合にトルクが伝達されず空転するという回転力伝達機構1の性質を利用して、ワンウェイクラッチを好適に構成することができる。また、一方向に向けて所定のトルク迄は伝達するが、所定のトルクを超過するとトルクが伝達されなくなるという回転力伝達機構1の性質を利用すると、トルクリミッターを好適に構成することができる。また、ワンウェイクラッチ兼用トルクリミッターとして構成することも勿論可能である。
【0036】
(第二の実施形態)
次に、本発明の第二の実施形態に係る回転力伝達機構2について、図4に基づき説明する。第二の実施形態も、傾斜パイルと噛合部とが噛み合うことで回転力が伝達される機構であるが、第一の実施形態と異なる点は、第二部材20の噛合部22が、傾斜パイル23から構成されている点である。
【0037】
第二の実施形態に係る回転力伝達機構2も、第一の実施形態と同様に傾斜パイル12と噛合部22とが噛み合うことにより回転力が伝達される。しかし第二の実施形態に係る回転力伝達機構2は、噛合部22が傾斜パイル23から構成されているため、異物の侵入に対して強く、また軸心のずれや傾きに対する許容度も高い。また、傾斜パイル12と、噛合部22を構成する傾斜パイル23とで、同種の傾斜パイルを使用することができるため、少ない種類の部品で回転力伝達機構を構成することができる。
【0038】
(第三の実施形態)
次に、本発明の第三の実施形態に係る回転力伝達機構3について、図5に基づき説明する。第三の実施形態も、傾斜パイルと噛合部とが噛み合うことで回転力が伝達される機構であるが、第一の実施形態と異なる点は、第二部材20の内周面21に傾斜パイル23が設けられており、第一部材10の外周面11に噛合部13が形成されている点である。図5(a)は、軸方向に延び周方向に離間して複数設けられたV字型の凹溝13a,・・・,13aから構成された噛合部13を有する構成であり、図5(b)は、軸方向に延び周方向に離間して複数設けられた突条13b,・・・13bから構成された噛合部13を有する構成である。なお、第一の実施形態と同様に、軸方向に連続してない凹凸、例えば内周面に離散的に凹設された窪みや、ローレット、布地表面の凹凸等も、噛合部13として使用することができる。
【0039】
第三の実施形態に係る回転力伝達機構3も、第一の実施形態と同様に傾斜パイル23と噛合部13とが噛み合うことにより回転力が伝達されるため少ない部品点数で構成でき、異物の侵入に対して強く、また軸心のずれや傾きに対する許容度も高い。
【0040】
(第四の実施形態)
次に、本発明の第四の実施形態に係る回転力伝達機構について、図6に基づき説明する。図6は回転力伝達機構を示す断面図である。
【0041】
符号4で示す回転力伝達機構4は、円柱状に構成された第一部材30と、無端ベルト状に構成され柔軟性を有する第二部材40とを主たる構成要素とする。第二部材40は、第一部材30の外周に巻かれており、第二部材40の内面40aうち、第一部材30の円筒状の外周面31に当接する部分が、湾曲して円筒状の内周面41を形成している。
【0042】
第二部材40の内面40aには、符号Aで図示する方向Aに向けて傾斜して立毛する傾斜パイル42が設けられている。第一部材30の外周面31には、傾斜パイル42と噛み合う噛合部32として、軸方向に延びる凹溝32a,・・・,32aが周方向に離間して複数設けられている。なお、噛合部32としてV字型の凹溝に限らず、U字型の溝等も勿論適用可能であり、さらには凹溝に限らず第一から三の実施形態と同様に、突条、三角歯、鋸歯等とすることも可能である。
【0043】
なお、図示の第二部材40はその内面40aから傾斜パイル42が直接設けられているよう構成されているが、第二部材40の内面40aに植設することも可能であるし、また基布から立毛して成る傾斜パイルをそのままベルトとして構成することも勿論可能である。
【0044】
次に、本実施形態に係る回転力伝達機構4の動作について説明する。図6に示す回転力伝達機構4は、ベルトが軸体を回転駆動する形態と考えた場合、方向Aに向けて第二部材40が回転する場合は第一部材30に回転力が伝達され、方向Aと逆方向に向けて第二部材40が回転する場合は第一部材30に回転力が伝達されないよう構成された機構である。一方、軸体がベルトを駆動する形態と考えた場合、方向Aと逆方向に向けて第一部材30が回転する場合は第二部材40に回転力が伝達され、方向Aに向けて第一部材30が回転する場合は第二部材40に回転力が伝達されないよう構成された機構である。
【0045】
本実施形態に係る回転力伝達機構1は、ベルトを介する駆動系統におけるワンウェイクラッチ及びトルクリミッターに好適に適用することができる。また、軸体にトルクを付与するベルトレンチにも好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 回転力伝達機構
2 回転力伝達機構
3 回転力伝達機構
4 回転力伝達機構
10 第一部材
11 外周面
12 傾斜パイル
13 噛合部
20 第二部材
21 内周面
22 噛合部
22a 凹溝
22b 突条
22d 鋸歯
23 傾斜パイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の外周面を有する第一部材と、
前記外周面に当接する円筒状の内周面を有する第二部材とを備え、
前記外周面および前記内周面のうち、いずれか一方の周面には、周方向のいずれか一方向に傾斜して立毛する傾斜パイルが設けられており、他方の周面には噛合部が設けられており、
前記他方の周面に対し相対的に前記一方の周面が前記一方向に回転する場合には、前記傾斜パイルが前記噛合部に噛み合う
ことを特徴とする回転力伝達機構。
【請求項2】
前記噛合部が、前記他方の周面に形成された凹凸から成る
ことを特徴とする請求項1に記載の回転力伝達機構。
【請求項3】
前記噛合部が、前記他方の周面に設けられ軸方向に延びる突条又は凹溝から成る
ことを特徴とする請求項1に記載の回転力伝達機構。
【請求項4】
前記噛合部が、前記他方の周面に立設され前記一方向と反対向きに傾斜する鋸歯から成る
ことを特徴とする請求項1に記載の回転力伝達機構。
【請求項5】
前記噛合部が、前記他方の周面から立毛し前記一方向と反対向きに傾斜する傾斜パイルから成る
ことを特徴とする請求項1に記載の回転力伝達機構。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の回転力伝達機構を用いた
ことを特徴とするワンウェイクラッチ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の回転力伝達機構を用いた
ことを特徴とするトルクリミッター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82899(P2012−82899A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229798(P2010−229798)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000228822)日本シール株式会社 (12)
【Fターム(参考)】