説明

回転式工具

【課題】 相手部材が硬質、軟質いずれであっても簡単な構成で着座を検出でき、ねじの締めすぎや早止めを防止できる回転式工具を提供する。
【解決手段】 回転式工具1に測距手段2を設ける。測距手段2により相手部材3の座面4と回転式工具1の先端が所定の距離になったことを検知して着座と判断し回転式工具1の回転を停止するための制御部6を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトやナットのねじ締め作業及び緩め作業に使用するドリルドライバーやインパクトドライバーのような回転式工具の着座検知に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来回転式工具の着座検知はモータの出力軸の締付けトルクを検出し、所定トルクを越えると回転を停止するように制御していた。例えば、特開平8−1536号公報に示される従来例においては、リングギアトルクセンサを用いて電磁クラッチ機構を動作させて回転を停止するようにしている。
【0003】
ところが、ナットとボルトのように締め付ける相手部材が硬質なものであれば、接触時より(ねじが座面に着座した時より)トルクが急上昇するが、相手部材が木や石膏ボード等の軟質の場合、どこが着座ポイントか判断できず、締めすぎや早止めが発生する。また、回転式工具は一定の場所に固定して使用されることは殆どなく、様々な場所並びに状況に応じて使用されることから着座を確実に検出してねじの締めすぎや早止めを防止できるようにすることが求められている。
【特許文献1】特開平8−1536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、相手部材が硬質、軟質いずれであっても簡単な構成で着座を検出でき、ねじの締めすぎや早止めを防止でき、また、ねじを傾きなく確実にねじ締め出来て着座検出がより正確にできる回転式工具を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明に係る回転式工具は、回転式工具1において、測距手段2を構成する測距センサ7を複数個設け、該測距センサ7により相手部材3の座面4と回転式工具1の先端が所定の距離になったことを検知して着座と判断し回転式工具1の回転を停止するとともに、複数個の測距センサ7で検知した相手部材3の座面4と回転式工具1の先端との間の距離の差により回転式工具1の座面4に対する傾きを検出し、座面4に対して垂直に位置していない場合には回転式工具1の回転を停止させるための制御部6を設けて成ることを特徴とするものである。このような構成とすることで、回転式工具1によりねじ9を相手部材3にねじ込む際に、測距手段2により相手部材3の座面4と回転式工具1の先端が所定の距離になったことを検知することでねじ9が相手部材3の座面4に着座したと判断してモータ5を停止し、これによりねじ9の締めすぎや早止めを防止できることになる。
【0006】
加えて、回転式工具1によりねじ締めを行っている際に回転式工具1の傾きを検出してねじ9が傾いてねじ込まれているような場合には回転式工具1の回転が停止してこれを知ることができ、ねじ9が傾いてねじ込まれることがない。また、回転式工具1が傾いて使用されることなく座面4に対して直角又は略直角姿勢でねじ込みできるので、回転式工具1に設けた測距センサ7による座面4と回転式工具1との間の距離の測定が正確にできて、座面4へのねじ9の着座を確実に検知できることになる。
【0007】
また、回転式工具1の傾き方向を示す報知手段8を設けることが好ましい。このような構成とすることで、回転式工具1が傾いて使用されている場合に、どの方向に傾いているかが報知手段8により報知され、これに基づいて簡単に正しい姿勢に補正することが可能となる。
【0008】
また、モータ5逆転時には測距手段2の判定をオフにすることが好ましい。このような構成とすることで、ねじ打ちが間違ったり、やり直したりするためにいったんねじ込んだねじ9を逆回転で緩めたり、外したりすることが可能となる。
【0009】
また、測距手段2での検知を手動でオフにすることができるスイッチ10を設けることが好ましい。このような構成とすることで、連続して逆回転したり、特別なビットを使用したりする際に、測距手段2の検知をオフにして使用できることになる。
【0010】
また、測距手段2による検知距離を可変するために回転式工具1に対して測距手段2を移動自在に取付けることが好ましい。このような構成とすることで、少し深めにねじ込みたい場合など測距手段2を移動させることで対応できるものである。
【0011】
また、先端にねじを回転するためのビット11を有する胴部12から胴部12に対して交差する方向にグリップ13を突出して回転式工具1を構成し、該回転式工具1の胴部2のグリップ13を突出した側の面に測距手段2を配設することが好ましい。このような構成とすることで、コーナや壁の隅部分で作業する際に測距手段2が壁その他の物に当たったりせず、また、目線の位置とビット11の先端の間に測距手段2が位置することがなく、目線の位置とビット11の先端の間に測距手段2を設けることによる測距手段2が邪魔になってねじ締め作業の効率が落ちたり、ねじ込みの目標点を見間違うといったことを防ぐことができるものである。
【0012】
また、上記制御部6は、測距手段2により相手部材3の座面4と回転式工具1の先端が所定の距離になったことを検知して着座又は着座直前と判断し、この着座又は着座直前を測距手段2で検出後、モータの出力軸の締付けトルクが所定締め付け力になると回転式工具の回転を停止するものであることも好ましい。このような構成とすることで、測距手段2によりねじ9の着座直前を検知し、着座又は着座直前から所定の締め付け力となるまで更に締め付けて所定の締め付け力となって回転を停止するものであり、これにより着座し且つ所定の締め付け力とすることができる。
【0013】
また、上記制御部6は、所定トルクとなった時点でモータ5を停止し、該モータ5停止後所定時間後に一定時間の増し締めのためにモータ5を回転させるものであることが好ましい。このような構成とすることで、着座し且つ所定の締め付け力となった後に、更に、一定の増し締めができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1記載の発明にあっては、回転式工具において、測距手段を構成する測距センサを複数個設け、該測距センサにより相手部材の座面と回転式工具の先端が所定の距離になったことを検知して着座と判断し回転式工具の回転を停止するとともに、複数個の測距センサで検知した相手部材の座面と回転式工具の先端との間の距離の差により回転式工具の座面に対する傾きを検出し、座面に対して垂直に位置していない場合には回転式工具の回転を停止させるための制御部を設けてあるので、回転式工具によりねじを相手部材にねじ込む際に、測距手段により相手部材の座面と回転式工具の先端が所定の距離になったことを検知してねじが相手部材の座面に着座したと判断してモータを停止し、これにより相手部材が硬質、軟質いずれであっても簡単な構成で着座を検出でき、ねじの締めすぎや早止めを防止できるものである。
【0015】
加えて、請求項1記載の発明にあっては、ねじが傾いてねじ込まれているような場合には回転式工具の回転が停止してこれを知ることが出来て、ねじ込み作業を中止したり、ねじの傾きを修正して作業を継続したりできて、ねじを傾いてねじ込むおそれがないものである。また、回転式工具が傾いて使用されることなく座面に対して直角又は略直角姿勢でねじ込みできるので、回転式工具に設けた測距センサによる座面と回転式工具との間の距離の測定が正確にできて、座面へのねじの着座が確実に検知できるものである。
【0016】
また、請求項2記載の発明にあっては、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、回転式工具の傾き方向を示す報知手段を設けてあるので、回転式工具が傾いて使用されている場合に、どの方向に傾いているかを知ることが出来て、これに基づいて簡単に正しい姿勢に補正することが可能となり、傾きなく正確にねじ込むことができるものである。
【0017】
また、請求項3記載の発明にあっては、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、モータ逆転時には測距手段の判定をオフにするので、ねじ打ちが間違ったり、やり直したりするためにいったんねじ込んだねじを逆回転で緩めたり、外したりすることが可能となって、測距手段により着座を検知した際にモータのシャットオフするようにしたにもかかわらず回転式工具としての使用に支障がないものである。
【0018】
また、請求項4記載の発明にあっては、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、測距手段での検知を手動でオフにすることができるスイッチを設けてあるので、連続して逆回転したり、特別なビットを使用したりする際に、測距手段の検知をオフにして使用でき、測距手段により着座を検知した際にモータのシャットオフするようにしたにもかかわらず回転式工具の多様な使用形態を選択することが可能となるものである。
【0019】
また、請求項5記載の発明にあっては、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、測距手段による検知距離を可変するために回転式工具に対して測距手段を移動自在に取付けてあるので、少し深めにねじ込みたい場合など測距手段を移動させることで簡単に対応できるものである。
【0020】
また、請求項6記載の発明にあっては、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、先端にねじを回転するためのビットを有する胴部から胴部に対して交差する方向にグリップを突出して回転式工具を構成し、該回転式工具の胴部のグリップを突出した側の面に測距手段を配設してあるので、コーナや壁の隅部分で作業する際に測距手段が壁その他の物に当たったりせず、また、目線の位置とビットの先端の間に測距手段が位置することがなく、目線の位置とビットの先端の間に測距手段を設けることによる測距手段が邪魔になってねじ締め作業の効率が落ちたり、ねじ込みの目標点を見間違うといったことを防ぐことができ、測距手段により着座を検知した際にモータのシャットオフするようにしたにもかかわらず回転式工具の操作性が低下しないものである。
【0021】
また、請求項7記載の発明にあっては、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、上記制御部が、測距手段により相手部材の座面と回転式工具の先端が所定の距離になったことを検知して着座又は着座直前と判断し、この着座又は着座直前を測距手段で検出後、モータの出力軸の締付けトルクが所定締め付け力となる回転式工具の回転を停止するものであるから、測距手段によりねじの着座直前を検知し、着座又は着座直前から所定の締め付け力となるまで更に締め付けて所定の締め付け力となって回転を停止するものであり、これにより確実に着座し且つ所定の締め付け力とすることができるものである。
【0022】
また、請求項8記載の発明にあっては、上記請求項7記載の発明の効果に加えて、上記制御部が、所定トルクとなった時点でモータを停止し、該モータ停止後所定時間後に一定時間の増し締めのためにモータを回転させるものであるから、着座し且つ所定の締め付け力となった後に、更に、一定の増し締めができて確実なねじ込みができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0024】
図1には本発明の回転式工具の概略構成図が示してある。回転式工具1は胴部12の後部から胴部12に対して交差する方向にグリップ13を突出して構成してある。胴部12内にはモータ5、モータ5の回転を所定の減速比で減速する減速機17と、モータ5の回転を減速機17を介して伝達されるハンマ20と、ハンマ20により打撃されるアンビル21を備えており、胴部12の先端部にアンビル21に接続したチャック22を位置させ、該チャック22にアンビル21の打撃によって発生する衝撃力をねじ9やボルト等に伝達する出力軸であるビット11が取付けてあり、アンビル21による打撃はハンマ20とアンビル21間に所定値以上の力が加わり、アンビル21に対してハンマ20が一定以上回動した時に発生するようになっている。
【0025】
グリップ13のビット11の突出方向と同方向の面にはトリガスイッチ24が設けてあり、更に、グリップ13内に電池32、モータ駆動用スイッチング素子であるモータ駆動FETブロック25が内装してある。
【0026】
上記のような構成の回転式工具1には測距手段2が設けてあり、測距手段2により被ねじ込み部材である相手部材3の座面4と回転式工具1の先端が所定の距離になったことを検知してねじ9が相手部材3の座面4に着座したと判断して回転式工具1の回転を停止するためのマイコンよりなる制御部6が設けてある。制御部6は図2に示すように、電源回路33、LED点灯回路34、PWMドライブ回路35、ブレーキ回路36、締め付け力検知回路27等とともに制御回路ブロック40を構成している。
【0027】
図1に示す実施形態においては測距手段2が測距センサ7により構成してある。測距センサ7は発光部7aと受光部7bとを有している。
【0028】
しかして、回転式工具1のビット11によりねじ9を被ねじ込み部材である相手部材3にねじ込むのであるが、ねじ込みに当たってはトリガスイッチ24を操作して電源回路33をオンにするとPWMドライブ回路35、モータ駆動FETブロック25を経由して電池電圧がモータ5と制御部6と測距センサ7に供給され、ビット11によりねじ9を相手部材3にねじ込んで行く。この場合、同時に測距センサ7の発光部7aから発光された光が相手部材3の座面4に当たり反射した光を受光素子7bで受光することにより相手部材3の座面4と回転式工具1の先端との間の距離を検出する。相手部材3の座面4と回転式工具1の先端との間の距離が所定距離(例えば50mm)となったことを上記測距センサ7により検知すると、制御部6に信号が送られ、モータ5を瞬時に停止させるための信号をブレーキ回路36を経由してモータ駆動FETブロック25に送り、モータ駆動FETブロック25をオフにし、モータ5への供給電流を遮断し、ブレーキ状態とすることで、シャットオフ(モータ停止)状態となる。この時、トリガスイッチ24が引かれた状態の場合はモータ5停止を保持する。そして、トリガスイッチ24を離すと(戻す)と制御回路用電池電圧の経路が遮断され、制御回路はリセット状態となり、時期トリガスイッチ24の操作待ちの状態となる。上記のように測距センサ7により相手部材3の座面4と回転式工具1の先端との間の距離を測定してねじ9が相手部材3にねじ込まれてねじ9の頭部が座面4に着座した状態を検出してシャットオフするので、相手部材3の材料が硬い、軟らかいに関係なく確実に着座状態でシャットオフすることができるものである。
【0029】
回転式工具1に測距センサ7を設ける場合、図3に示すように複数個の測距センサ7を設けるようにしてもよい。図3には胴部12の周方向の異なる位置に複数個(実施形態では2個)の測距センサ7を設けてある。ここで、作業前に、測距センサ7Aにより測定した相手部材3の座面4と回転式工具1の先端との間の距離L1と、測距センサ7Bにより測定した相手部材3の座面4と回転式工具1の先端との間の距離L2との距離に差が発生している場合には回転式工具1が相手部材3の座面4に対して直角ではなくて傾斜している(つまり、ねじ9が傾斜している)ことになるので、この場合にはシャットオフ(モータ5停止)するように制御部6により制御するものである。したがって、作業に当たって、回転式工具1のビット11を相手部材3の座面4に対して垂直に位置させないとねじ9の打ち込み作業ができないようになっており、これによりねじ9の斜め打ち込みを防止することができるものである。また、作業中に測距センサ7Aにより測定した相手部材3の座面4と回転式工具1の先端との間の距離L1と、測距センサ7Bにより測定した相手部材3の座面4と回転式工具1の先端との間の距離L2との距離に差が発生した場合には直ちにシャットオフさせる等の制御を行う。また、作業中の場合は途中停止させるのではなくLED等の報知手段8(LED点灯回路34により点灯する)により傾きを知らせるようにしてもよく、この場合には作業者は一旦停止をしたり、傾き補正をしながら作業を継続したりする等の選択ができる。
【0030】
ここで、図4に示すように傾き方向を報知手段8であるモニターにより報知するようにしてもよい。このモニターは回転式工具1に設ける。モニターにはX軸とこれと直交するY軸の2つの座標軸が表示してあって、現状の傾きポイントPがモニターに表示されるので、該傾きポイントPがX軸とY軸の交点に位置するように回転式工具1の姿勢を調整することで回転式工具1の傾き補正ができるようにしてもよい。
【0031】
上記のように、回転式工具1によりねじ9締めを行っている際に回転式工具1の傾きを検出してねじ9が傾いてねじ込まれているような場合には報知手段8により報知してこれを知ることができるので、ねじ9が傾いてねじ込まれることを防止できる。このように回転式工具1が傾いて使用されることなく座面4に対して直角又は略直角姿勢でねじ込みできるので、回転式工具1に設けた測距センサ7による座面4と回転式工具1との間の距離の測定が正確にできて、座面4へのねじ9の着座を確実に検知できるのである。
【0032】
ところで、上記のような測距センサ7を用いた回転式工具1において、ねじ打ちが間違ったり、やり直したりするためにいったんねじ込んだねじ9を逆回転で緩めたり、外したりする場合、モータ5の逆回転時に測距センサ7にて所定距離を検出した場合にモータがシャットオフするとねじ9を逆回転して緩めたり、外したりできないので、モータ5逆転時には測距手段2の判定をオフにするように制御部6により制御する。この場合、モータ5の片方の端子電圧をモニターすることで逆回転動作時には測距センサ7で所定距離を検出しても測距手段2の判定をオフにするように制御部6により制御する。また、トリガスイッチ24の操作直後にはモータ5の片方端子電圧が不安定なため、数秒msec(約50msec)程度は動作させないようにする。つまり、作業者がトリガスイッチ24操作後モータ5の起動が遅いと思わないレベルの官能時間とする。これにより、ねじ打ちが間違ったり、やり直したりするためにいったんねじ込んだねじ9を逆回転で緩めたり、外したりすることが可能となるものである。
【0033】
また、作業者が作業によって上記したような測距手段2により着座を検知した際にモータ5のシャットオフを行うようにした回転式工具1において、着座検知によるシャットオフ制御するモードとは別に、着座検知を使用しないモードが選択できるような機能を有するようにしてもよい。すなわち、図1に示すように回転式工具1に測距手段2での検知を手動でオフにすることができるスイッチ10を設け、測距手段2での検知をオンにしたり、オフにしたりするのを手動で選択できるようにする。この場合、スイッチ10操作により測距センサ7そのものをオフにしたり、あるいは測距センサ7からの信号を受信しないように制御回路を切り替えたりする。このように、測距手段2での検知を手動でオフにすることができるスイッチ10を設けることで、連続して逆回転したり、特別なビットを使用したりする際に、測距手段2の検知をオフにして使用できることになる。
【0034】
また、図1に示す実施形態においては、回転式工具1に対して測距手段2を移動自在に取付けてあって、測距手段2による検知距離を可変自在としてある。図1において回転式工具1の胴部12に取付け部材26を介して測距センサ7が取付けてあるが、図1においては取付け部材26を胴部12に取付ける基部26aと測距センサ7を取付ける移動部材26bとで構成し、基部26aに対して移動部材26bをビット11の軸方向と同方向に移動自在に取付けてあって、任意の移動位置において固定手段(図示せず)により固定自在となっている。なお、図1においては測距センサ7を胴部12に対して取付ける移動部材26bを移動自在とすることで測距センサ7を胴部12に対して移動する例を示したが、測距センサ7を直接移動自在としてもよいものである。このように、回転式工具1に対して測距手段2を移動自在とすることで、測距センサ7の部品のばらつき調整等を実施できるだけでなく、少し深めにねじ込みたい場合など測距手段2を移動させることで対応できるものである。
【0035】
また、回転式工具1の胴部12に測距センサ7を設ける場合、図1に示すように胴部12のグリップ13を突出した側の面に測距手段2を配設することが好ましい。つまり、胴部12のグリップ13を突出した側の面に測距手段2を配設することで、コーナや壁の隅部分で作業する際に測距手段2が壁その他の物に当たったりしないものである。また、回転式工具1においてねじ込みの目標点を狙うには拳銃の焦点合わせと同様に胴部12の上面(胴部12のグリップ13の突出面と反対側の面)に目線を持ってくることが多く、胴部12のグリップ13の突出面と反対側の面に測距手段2である測距センサ7があると測距センサ7が邪魔になってねじ込みの目標点を狙い難くてねじ締め作業の効率が落ちたり、目地込みの目標点を見間違ったりするが、上記のように胴部12のグリップ13を突出した側の面に測距手段2を配設することで、目線の位置とビット11の先端の間に測距手段2が位置することがなく、ねじ締め作業の効率が落ちたり、ねじ込みの目標点を見間違うといったことを防ぐことができるものである。
【0036】
ところで、上記のように着座直前を測距手段2により検知を行うに当たり、着座又は着座直前を測距手段2で検出後、モータ5の出力軸であるビット11の締付けトルクを検出することにより所定トルクとなるまで制御部6により締め付ける制御を行うようにしてもよいものである。
【0037】
すなわち、測距手段2で着座状態を検出しただけでは、相手部材3の材料の硬さ等により目的とする所定の締め付け力でねじ9が相手部材3にねじ込んであるかどうかが判らない。一方、締め付けトルクだけでモータ5のシャットオフ制御を行った場合、例えば、相手部材3に節などがあってねじ込み途中で所定の締め付けトルクに達してしまってモータ5がシャットオフされ、着座していない場合がある。そこで、上記のように、着座又は着座直前を測距手段2で検出後、モータ5の出力軸であるビット11の締付けトルクを検出することにより所定トルクとなるまで制御部6により締め付ける制御を行うことで、着座し且つ目的とする所定の締め付け力でねじ9をねじ込んだ状態で自動的にモータ5をシャットオフすることができるものである。
【0038】
所定の締め付け力となったことを検知するには従来から公知の種々の検知方法が採用できるが、例えば以下のようにして検知する。
【0039】
ここで、締付け力の推定は一般的に次のようにして求めることができる。
【0040】
W=F・L=F・(r・θ)
F=W/(r・θ)=(W/r)・(1/θ)
ここで、W=仕事量(打撃エネルギー)、F=締め付け力、L=移動距離、r=アンビルの半径、θ=打撃毎のアンビルの回転角度である。
【0041】
上記式により、仕事量:W、アンビル半径:rを一定としたとき、打撃毎のアンビルの回転角:θを求めることで締め付け力Fを求めることができる。
【0042】
そして、推定締め付け力は電池電圧、スピードコントローラを考慮するためモータ回転速度、打撃間FGパルスエッジ出力より実験的に推定する。
【0043】
これにより、推定締め付け力=K・(モータ回転速度2/打撃間FGパルス数−ハンマ回転分のパルス数)
で求めることができる。なお、モータ回転速度は10ms間のFGパルス数、ハンマ回転分のパルス数=65、K=31である。
【0044】
そこで、図1、図2、図5に示すように回転式工具1にモータ3の回転数に比例した周波数信号を発生する出力軸であるビット11の回転速度検出手段としての周波数ジェネレータ23(FG)を設け、周波数ジェネレータ23が発生した周波数信号を波形整形し、ビット11の回転速度に応じたパルス幅のパルス信号を波形整形回路で整形して出力し、そのパルス信号を基に演算処理を行うことで、どのくらいの締め付けトルクが発生したのかを締め付け力検知回路27に設けた締め付け力推定部28で推定するようになっている。締め付け力推定部28で推定された推定締め付け力(推定締め付けトルク)に基づき、後述する所定の演算を行って自動的に締め付けの完了をシャットオフ判定部30で判定してモータ5の回転をシャットオフするようになっている。
【0045】
シャットオフの判定は例えば、まずねじ9の一定回転(例えば5回転)までの推定トルクピーク値を検知し、一定回転(5回転)以降はこの推定ピーク値にある値(例えば+6)を加算した値を下限しきい値とする。
【0046】
そして、トルクの変化率(2回微分数)を求め、このトルクの変化率が0未満に到達したとき、上記推定トルクの下限しきい値が所定値(例えば26)を越えているか否かを判定し、推定トルクの下限しきい値の方が所定値よりも大きい場合には相手部材3が硬い材料であると推定して上記推定トルク値の下限値に到達するとシャットオフ判定部30により自動的に締め付けの完了を推定してモータ5の回転をシャットオフするものである。一方、トルクの変化率(2回微分数)を求め、このトルクの変化率が0未満に到達したとき、上記推定トルクの下限しきい値が所定値(例えば26)を越えているか否かを判定し、推定トルクの下限しきい値の方が所定値を越えていない場合には相手部材3が柔らかい材料であると推定し、これ以上締め付けても締め付け効果がないので直ちにシャットオフ判定部30により自動的に締め付けの完了を推定してモータ5の回転をシャットオフするものである。
【0047】
上記のように着座又は着座直前を測距手段2により検知を行い、着座又は着座直前を測距手段で検出後、モータ5の出力軸の締付けトルクを検出することにより所定トルクとなるまで締め付ける制御を行うことで、着座し且つ所定の締め付け力となってモータ5をシャットオフするものであり、これにより着座し且つ所定の締め付け力とすることができるものである。
【0048】
また、上記のように所定トルクとなった時点でモータ5を停止し、該モータ5停止後所定時間後に更に一定時間の増し締めのためにモータ5を回転させるように制御部6により制御するようにしてもよい。このようにすると、着座し且つ所定の締め付け力となった後に、更に、一定の増し締めができることになってより確実な締め付けができる。
【0049】
図6には測距手段2の他の実施形態が示してある。すなわち、図6に示す実施形態では測距手段2をCCDカメラ14と照明用のライト15で構成してある。すなわち、回転式工具1の胴部12にCCDカメラ14と照明用のライト15とを設け、照明用のライト15で対象物を照らし、回転式工具1先端のねじ9及びビット11の影50をライトアップさせてCCDカメラ14で撮像し、その影50の大きさや長さをモニターして所定のサイズ以下(又は以上)となると座面4にねじ9が着座したと判断して制御部6によりモータ5のシャットオフ制御を行うものである。なお、使用するねじ9のサイズや形状はあらかじめ制御部6のCPU等に登録しておくものである。
【0050】
図7、図8には測距手段2の他の実施形態が示してある。本実施形態においては、回転式工具1の胴部12の先端部に設けるビット11の先端に座面4との接触検知手段16を設け、この接触検知手段16を測距手段2とした例が示してある。例えばビット11の先端部の側面から前方に向けて軟質ゴムのような変形可能な軟質の接触検知手段16を突設し、着座すると変形可能な軟質の接触検知手段16が座面4に当たって図7の矢印方向に折れ曲がるようになっており、これにより着座を検知するようになっている。この場合、接触検知手段16を軟質ゴムのような材料で形成することで接触検知手段16により相手部材3を傷付けることがないものである。図8(a)はビット11に設けた接触検知手段16の着座前の上から見た状態を示し、図8(b)は着座後の上から見た状態を示している。
【0051】
図9には測距手段2の更に他の実施形態が示してある。モータ5の回転を減速してビット11に回転を伝達する減速機17の後方に圧力センサ18を設けてあり、この圧力センサ18を測距手段2としてある。本実施形態においては、回転式工具1の先端部のビット11によりねじ9を保持しつつねじ9を相手部材3に押し付けながらねじ込み作業を行う時に出力軸であるビット11の押し付け力を圧力センサ18で検出し、検出信号を電気信号に変換し、検出値が所定値となると着座したと判断して制御部6によりモータ5のシャットオフ制御を行うのである。このようにして、減速機7の後方に設けた圧力センサ18により回転式工具1の相手部材3側への押し付け力を検出して着座を確実に検知することができるものである。但し、図9(b)のように初期始動時に回転式工具1を相手部材3側に強く押さえ付けることが考えられるので、その期間(約1〜2秒)は検知しない領域を設ける必要がある。
【0052】
図10には測距手段2の更に他の実施形態が示してある。本実施形態においては、回転式工具1のグリップ13のビット11の突出方向と反対側の面(つまりグリップ13の後面)に押し付け力検知手段19を設け、この押し付け力検知手段19を測距手段2としてある。そして、グリップ13を手で掴んで回転式工具1の相手部材3側へ押し付けながらねじ込む作業を行う際に、グリップ13を掴んで回転式工具1を押し付けている押し付け力を押し付け力検知手段19により検出し、検出信号を電気信号に変換し、検出値が所定値となると着座したと判断して制御部6によりモータ5のシャットオフ制御を行うのである。本実施形態においても、図10(b)のように初期始動時に回転式工具1を相手部材3側に強く押さえ付けることが考えられるので、その期間(約1〜2秒)は検知しない領域を設ける必要がある。
【0053】
また、上記した各種の測距手段2を組み合わせて着座検知を行うようにしてもよいものであり、この場合、作業者が作業により任意の測距手段2を選択できるように、回転式工具1にダイヤル等のスイッチ手段を設けてモード選択ができるようにしてもよいものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の回転式工具の概略構成図である。
【図2】同上の全体のブロック図である。
【図3】同上の測距センサを複数個設けた実施形態の作用説明図である。
【図4】同上のモニターにより回転式工具の傾きを報知している例を示す説明図である。
【図5】同上の着座検知判定を示すブロック図である。
【図6】同上の測距手段の他の実施形態を示す説明図である。
【図7】同上の測距手段の更に他の実施形態を示す説明図である。
【図8】(a)は図7の実施形態において着座前のビット部分の平面図であり、(b)は着座後のビット部分の平面図である。
【図9】(a)は同上の測距手段の更に他の実施形態を示す説明図であり、(b)は着座検知を示すグラフである。
【図10】(a)は同上の測距手段の更に他の実施形態を示す説明図であり、(b)は着座検知を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1 回転式工具
2 測距手段
3 相手部材
4 座面
5 モータ
6 制御部
7 測距センサ
8 報知手段
9 ねじ
10 スイッチ
11 ビット
12 胴部
13 グリップ
14 CCDカメラ
15 ライト
16 接触検知手段
17 減速機
18 圧力センサ
19 押し付け力検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式工具において、測距手段を構成する測距センサを複数個設け、該測距センサにより相手部材の座面と回転式工具の先端が所定の距離になったことを検知して着座と判断し回転式工具の回転を停止するとともに、複数個の測距センサで検知した相手部材の座面と回転式工具の先端との間の距離の差により回転式工具の座面に対する傾きを検出し、座面に対して垂直に位置していない場合には回転式工具の回転を停止させるための制御部を設けて成ることを特徴とする回転式工具。
【請求項2】
回転式工具の傾き方向を示す報知手段を設けて成ることを特徴とする請求項1記載の回転式工具。
【請求項3】
モータ逆転時には測距手段の判定をオフにすることを特徴とする請求項1記載の回転式工具。
【請求項4】
測距手段での検知を手動でオフにすることができるスイッチを設けて成ることを特徴とする請求項1記載の回転式工具。
【請求項5】
測距手段による検知距離を可変するために回転式工具に対して測距手段を移動自在に取付けて成ることを特徴とする請求項1記載の回転式工具。
【請求項6】
先端にねじを回転するためのビットを有する胴部から胴部に対して交差する方向にグリップを突出して回転式工具を構成し、該回転式工具の胴部のグリップを突出した側の面に測距手段を配設して成ることを特徴とする請求項1記載の回転式工具。
【請求項7】
上記制御部は、測距手段により相手部材の座面と回転式工具の先端が所定の距離になったことを検知して着座又は着座直前と判断し、この着座又は着座直前を測距手段で検出後、モータの出力軸の締付けトルクが所定締め付け力になると回転式工具の回転を停止するものであることを特徴とする請求項1記載の回転式工具。
【請求項8】
上記制御部は、所定トルクとなった時点でモータを停止し、該モータ停止後所定時間後に一定時間の増し締めのためにモータを回転させるものであることを特徴とする請求項7記載の回転式工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−62012(P2007−62012A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306924(P2006−306924)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【分割の表示】特願2001−329896(P2001−329896)の分割
【原出願日】平成13年10月26日(2001.10.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】