説明

回転検出装置および回転検出方法

【課題】電磁ピックアップから出力される電圧信号に基づいて信号線の異常の予兆をとらえ、信号線の異常が実際に生じる前に修理等が可能な回転検出装置および回転検出方法を提供する。
【解決手段】回転歯車と、回転歯車の周面に近接して配置され回転歯車の歯の通過に伴い電圧信号を出力する電磁ピックアップと、電磁ピックアップからの電圧信号を受けて回転歯車の回転状態を検出する回転検出手段と、を備えた回転検出装置等において、回転歯車の回転数の安定状態を検出する安定状態検出手段と、回転数の安定状態において検出される電圧信号の振幅の変動幅Vcが基準値Vc0以上であるか否かを判別することにより電圧信号を伝送するための信号線の異常を予知する異常検出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転検出装置および回転検出方法に関するものであり、特に、信号線の劣化に起因した断線又は接点の異常(以下、単に、信号線の異常と称する場合がある。)を予知可能な回転検出装置および回転検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転体の回転状態を検出する装置として、回転体の回転に連動して回転する回転歯車の周面に配置され、回転歯車の歯の通過に伴って電圧信号を出力する機構の電磁ピックアップを備えた回転検出装置が用いられている。
かかる電磁ピックアップは、永久磁石の周りにコイルを巻き付けて構成されており、回転歯車の歯が、電磁ピックアップの近傍を通過するたびに、磁束の変化によって電磁ピックアップに交流電圧が誘起され、所定の電圧信号が生成される。
しかしながら、かかる電磁ピックアップを構成するコイル等の信号線は、その径が比較的細い(例えば40μm〜100μm)ものであり、その強度は弱く、したがって、実使用において過度の振動や熱収縮等のストレスを受けた場合に、断線に至るおそれがある。
【0003】
そこで、電磁ピックアップを備えた回転検出装置において、断線を検出できるようにした回転検出装置が提案されている。
より具体的には、図8に示すように、電磁ピックアップおよび信号受信回路の間に、検査信号を加える検査信号発生回路と、電磁ピックアップから電圧信号が出力されていないと判断されたときに、信号受信回路に検査信号を加えて、電磁ピックアップが断線しているか否かを判断する制御判断回路と、を備えた回転検出装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−21383号公報(全文、全図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、あくまでも断線しているか否かを判断するものであり、断線の予兆を検知することは、事実上困難であるという問題が見られた。
電磁ピックアップは様々な用途で利用されているが、回転数や回転角度を検知するセンサとしてシステム構成上重要なセンサとなっており、この電磁ピックアップが断線した場合には、センサは機能しなくなり、そのシステムが停止してしまうというような不具合に至る場合もあった。したがって、このようなシステムにおいては、特許文献1のような断線した後にのみ断線を検知可能な装置では、その要求を十分満足させることができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の発明者はこのような課題に鑑みて検討した結果、電磁ピックアップの信号線が劣化し、その断線前に、電圧信号の振幅が安定しにくくなる現象が発現することを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
すなわち、本発明は、電磁ピックアップから出力される電圧信号に基づいて、信号線の異常の予兆を捉え、かかる信号線の断線が実際に生じる前に、未然に修理等の対応を促すことができる回転検出装置および回転検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、回転歯車と、回転歯車の周面に近接して配置され前記回転歯車の歯の通過に伴い電圧信号を出力する電磁ピックアップと、電磁ピックアップからの電圧信号を受けて前記回転歯車の回転状態を検出する回転検出手段と、を備えた回転検出装置において、回転歯車の回転数の安定状態を検出する安定状態検出手段と、回転数の安定状態において検出される電圧信号の振幅の変動幅Vcが基準値Vc0以上であるか否かを判別することにより電圧信号を伝送するための信号線の異常を予知する異常検出手段と、を備えることを特徴とする回転検出装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、信号線の異常が実際に生じる前に、それらの予兆を捉えることができ、回転検出装置の検出情報を用いた制御を中断することなく、未然に修理等の対応を取ることができる。
【0008】
また、本発明の回転検出装置を構成するにあたり、異常検出手段は、電圧信号をローパスフィルタに入力し、そのローパスフィルタを通過した信号である包絡線近似波形信号の全振幅Vaが基準値V0以上であるか否かを判別することにより電圧信号を伝送するための信号線の異常を予知することが好ましい。
【0009】
また、本発明の回転検出装置を構成するにあたり、回転検出装置が内燃機関の回転状態を検出するための装置であり、安定状態検出手段が内燃機関のアイドリング状態を検出するように構成されることが好ましい。
【0010】
また、本発明の回転検出装置を構成するにあたり、信号線の異常を予知した場合、内燃機関の運転者に通知するように構成されることが好ましい。
【0011】
また、本発明の回転検出装置を構成するにあたり、信号線の異常を所定回数以上予知した場合、内燃機関の運転者に通知するように構成されることが好ましい。
【0012】
また、本発明の別の態様は、回転歯車と、回転歯車の周面に近接して配置され回転歯車の歯の通過に伴い電圧信号を出力する電磁ピックアップと、電磁ピックアップからの電圧信号を受けて回転歯車の回転状態を検出する回転検出手段と、を用いてなる、電圧信号を伝送するための信号線の異常を検出する回転検出方法において、安定状態検出手段によって、回転歯車の回転数の安定状態を検出する工程と、異常検出手段によって、回転数の安定状態において検出される電圧信号の振幅の変動幅Vcが、基準値Vc0以上であるか否かを判別することにより、電圧信号を伝送するための信号線の異常を予知する工程と、
を有することを特徴とする回転数検出方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の回転検出装置および回転検出方法によれば、回転歯車の回転数が安定している状態における電圧信号の振幅の変動幅Vcを監視し、この振幅の変動幅が基準値Vc0以上であるか否かを判別することにより、電圧信号を伝送する信号線の異常の予兆が捉えられる。
したがって、信号線の異常が実際に生じて回転検出装置の検出情報を用いた制御を中断する前に、未然に修理等の対応をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態にかかる回路検出装置の構成例を示す回路図である。
【図2】制御回路の振幅監視部の構成例を示す回路図である。
【図3】制御回路の振幅監視部の各位置における電圧信号の波形を示す図である。
【図4】演算処理装置の構成例を示すブロック図である。
【図5】異常予知部による演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】正常時、異常予知時、の電圧信号の波形の違いを説明するための図である。
【図7】従来の回路検出装置の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明にかかる回転検出装置の実施の形態について、回転検出装置の基本的構成、振幅監視部、演算処理装置および演算処理方法に大別して、具体的に説明する。
但し、以下の実施の形態は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することができる。
なお、各図中、同じ符号が付されているものは同一の部材ないし部分を示しており、適宜説明が省略されている。
【0016】
1.回転検出装置の基本的構成
図1は、本発明の実施の形態にかかる回転検出装置10の回路図を示している。本実施形態の回転検出装置10は、車両に搭載された内燃機関の回転数やクランクシャフトの回転位相等、内燃機関の回転状態を検出するための装置として構成されたものである。
【0017】
ここで、回転検出装置10は、例えば、内燃機関のクランクシャフトの回転に連動して回転する回転歯車11を備えている。
また、回転歯車11の周面の近傍には電磁ピックアップ13が配置されている。電磁ピックアップ13は永久磁石13aの周りにコイル13bを巻き付けて構成されたものであり、コイル13bの両端はコネクタ15a、15bを介して制御回路20に接続されている。
【0018】
この回転検出装置10は、回転歯車11が回転して、それぞれの歯が電磁ピックアップ13の近傍を通過することによって交流電圧が誘起され、パルス状の電圧信号が制御回路20に出力されるように構成されている。そして、かかる制御回路20では、内燃機関の回転数やクランクシャフトの回転位相等が算出される。
【0019】
また、回転歯車11には、歯の一部が欠落した図示しない欠歯部が設けられている。そのため、電磁ピックアップ13から出力されるパルス状の電圧信号には、欠歯部に対応する幅広のパルス信号が現れる。
この欠歯部はクランクシャフトの回転位相の基準位置となるもので、幅広のパルス信号が認識されてからいくつめのパルス信号が検出されるかによって、クランクシャフトの回転位相を検出できるように構成されている。
回転検出装置に備えられる回転歯車が、このようなクランクシャフトの回転位相の基準位置となる欠歯部を有しないものであっても、本発明を適用することは可能である。
【0020】
また、制御回路20は、波形整形部21と、振幅監視部30と、演算処理装置40と、ROM25と、RAM27とによって構成されている。
このうち、波形整形部21は、電磁ピックアップ13から出力されるパルス状の電圧信号を、演算処理装置40で認識可能な信号に変換し、演算処理装置40の入出力ポート23に供給する。波形整形部21から入出力ポート23に供給される電圧信号は、内燃機関におけるクランクシャフトの回転数や回転位相等の検出に用いられる。波形整形部21は、従来公知の回転検出装置を構成する波形整形部の構成と同様の内容とすることができる。
【0021】
また、演算処理装置40は、公知のマイクロコンピュータを中心に構成されたものであり、内燃機関の回転状態を検出したり、電磁ピックアップ13の異常を検出したりするための演算処理を実行可能に構成されている。
また、ROM25は、制御プログラムや各種データ類を記憶し、RAM27は、演算処理装置40による演算データ等を一時的に記憶するように構成されている。
【0022】
2.振幅監視部
次いで、図2は、振幅監視部30の構成の一例を示している。この振幅監視部30は、波形整流用ダイオード31と、ローパスフィルタ33と、ハイパスフィルタ35と、A/D変換器37とにより構成されている。
すなわち、振幅監視部30は、電磁ピックアップ13で検出される電圧信号の振幅の変動幅に関する信号と、を入出力ポート23に供給可能に構成されている。
【0023】
波形整流用ダイオード31は、電磁ピックアップ13から出力されるパルス状の電圧信号の正部分だけを抽出して半波整流する。
【0024】
また、ローパスフィルタ33は、半波整流された電圧信号の低周波成分だけを抽出して、電圧信号の振幅の包絡線に近似した波形の信号(以下 包絡線近似波形信号と呼ぶ)を出力するよう構成されている。
したがって、電圧信号の振幅の変動幅Vc(振幅の最大値と最小値の差)は包絡線近似波形信号の全振幅Vaに近い値となる。(図6を参照)
ここで、ローパスフィルタ33は、入力信号に並列するコンデンサ33aと、入力信号と直列する抵抗器33bと、を備えた構成である。このようなローパスフィルタ33において、入力電圧Vinに対する出力電圧Voutの比及び、カットオフ周波数fcはそれぞれ(1)式、(2)式に示す通りである。
【0025】
(式1)
|Vout|/|Vin|=1/√(1+(wRC)2) (1)
(式2)
fc=1/(2πRC) (2)
w:角周波数[rad]
R:抵抗[Ω]
C:静電容量[F]
【0026】
上記(1)式から、高周波数であるwの大きい入力信号よりも、低周波数であるwの小さい入力信号が、ローパスフィルタ33を通過し易いことが分かる。
また、コンデンサ33aと抵抗器33bの値を選ぶことにより、カットオフ周波数fcを適当な値に設定することができる。すなわち、電磁ピックアップ13の個々の電圧信号より低い周波数で、当該電圧信号の振幅の変位の周期よりも高い周波数をカットオフ周波数fcとしれ選ぶことにより、ローパスフィルタ33の出力として包絡線近似波形信号が得られる。
電磁ピックアップ13の劣化を原因とする振幅の変位は、振動等の外乱により現れるので、電磁ピックアップ13が内燃機関に取り付けられるのであれば、内燃機関が発生する振動の周波数を電圧信号の振幅の変位の周波数としてカットオフ周波数fcを決めることもできる。
【0027】
さらに、ハイパスフィルタ35は、包絡線近似波形信号のうちの交流成分のみを通過させるとともに、演算処理装置40での処理が可能な電圧の最適範囲(例えば0〜5V)の電圧信号が出力されるよう構成されている。
【0028】
ここで、ハイパスフィルタ35は、入力信号に直列するコンデンサ35aと、入力信号と並列する抵抗器35bと、を備えた構成である。このようなハイパスフィルタ35において、入力電圧Vinに対する出力電圧Voutの比は、(3)式の通りである。
【0029】
(式3)
|Vout|/|Vin|=√((wRC)2/(1+(wRC)2) (3)
【0030】
w:角周波数[rad]
R:抵抗[Ω]
C:静電容量[F]
【0031】
上記(3)式から、低周波数であるwの小さい入力信号よりも、高周波数であるwの大きい入力信号が、ハイパスフィルタ35を通過し易いことが分かる。
【0032】
そして、ハイパスフィルタを通過した包絡線近似波形信号は、A/D変換器37において、アナログ信号が、デジタル信号に変換されて、演算処理装置40の入出力ポート23に供給される。
図2中のA,B,C.Dの各点において観測される電圧の例をそれぞれ図3の(a)、(b)、(c)、(d)に示す。
【0033】
本実施例においては、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタをコンデンサと抵抗器で構成しているが、これに限るものではなく様々な公知のローパスフィルタおよびハイパスフィルタを使うことができる。また、ローパスフィルタおよびハイパスフィルタは、コンデンサと抵抗器のようなハードウエアではなくソフトウエアで構成することもできるし、これらを適宜組み合わせて使うこともできる。
【0034】
3.演算処理装置
図4を参照して、演算処理装置40を、回転検出手段41と、安定状態検出手段43と、異常検出手段45と、に大別して、具体的に説明する。
すなわち、図4は、演算処理装置40の構成例を示すブロック図であり、電磁ピックアップ13の異常検出に関連する部分を機能的に表したものである。
そして、この演算処理装置40は、回転検出手段41と、安定状態検出手段43と、異常検出手段45とを備えており、これらの各手段は、具体的にはマイクロコンピュータによるプログラムの実行によって実現されるものである。
【0035】
(1)回転検出手段
回転検出手段41は、波形整形部21によって変換されたパルス状の電圧信号の周波数に基づいて内燃機関の回転数を算出するとともに、回転歯車11の欠歯部に対応する幅広のパルス信号からのパルス波の数に基づいてクランクシャフトの回転位相を検出するように構成されている。
なお、回転検出手段41における具体的な演算方法については、従来公知の回転検出手段の内容と同等であるため、ここでの説明は省略する。
【0036】
(2)安定状態検出手段
また、安定状態検出手段43は、回転歯車11の回転数が安定した状態であるか否かを検出するように構成されている。
回転歯車11の回転数が高いほど、一般的に、電磁ピックアップ13の出力電圧は大きくなる。回転数が安定しない状態では、電磁ピックアップ13の出力電圧が、回転数の変動にしたがって変動してしまい、その変動が回転数によるものなのか、経時劣化によるものなのかが判別が難しい。したがって、回転数が安定した状態であるか否かを判断し、安定状態にあると検知された場合にのみ、異常の有無の判断を行うのが好ましい。
そして、本実施形態において、安定状態検出手段43は、一例ではあるが、内燃機関のアクセル操作量を検出するアクセルセンサ61のセンサ信号と、車両の車速を検出する車速センサ63のセンサ信号とに基づいて、内燃機関のアイドリング状態を検出するように構成することができる。
【0037】
すなわち、アクセル操作量がゼロであり、かつ、車速が所定の閾値未満であれば、内燃機関はアイドリング状態にあり、クランクシャフト、すなわち、回転歯車11の回転数が安定していると判別することができる。
【0038】
(3)異常検出手段
異常検出手段45は、回転歯車11の回転数が安定した状態において振幅監視部30から供給される包絡線近似波形信号の全振幅Vaが基準値Va0以上であるか否かを判別することによって、コイル13b等の信号線の断線の予兆やコネクタ15a、15b部分の接点異常の予兆の有無を判定できるように構成されている。
【0039】
ここで包絡線近似波形信号の全振幅Vaから異常の予兆を検知できる理由を述べる。
コイルやコネクタの接点部分の劣化が進んでいる場合には、振動等の外乱に起因して、電磁ピックアップ13の電圧信号の振幅に変動が現れる。例えば、コイルが延性破壊寸前の場合には、当該箇所は細くなり抵抗値は高くなっている。ここに振動が加わることにより、当該箇所がさらに変形し、結果抵抗値が変動することになる。この抵抗値の変化が電磁ピックアップ13の出力電圧の変動となって現れる。この電圧信号の振幅の変動幅Vcが包絡線近似波形信号の全振幅に近い値となるので、包絡線近似波形信号の全振幅Vaから異常の予兆を検知できると言えるのである。
【0040】
基本的には電磁ピックアップ13からの電圧信号の振幅の変動幅Vcが基準値Vc0以上であるか否かを判別することによって、コイル13b等の断線の予兆の有無を判定することができる。振幅の変動幅Vcで直接判断する場合には、振幅監視部30を通さず、直接電磁ピックアップ13の信号を読み込みその振幅の変動幅Vcを求めることになる。
この場合には、電磁ピックアップ13の個々の出力電圧のピーク値を読み込み、その最大値と最小値の差から振幅の変動幅Vcを求めることになるが、電磁ピックアップ13の出力電圧は高周波数なので、演算処理も高速の処理が必要となる。
一方、包絡線近似波形信号は電磁ピックアップ13の出力信号に比べ低周波数であるので、電磁ピックアップ13の出力電圧を直接読み込む場合に比べ遅い演算速度での処理が可能となる。
VcとVaの関係を図6に示す。
【0041】
4.演算処理方法
次に、包絡線近似波形信号を用いて異常検出のために実行される演算処理方法を図5に示すフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS1において、所定時間T0以上、回転歯車11の回転数が安定状態にあるか否かが判別される。所定時間T0以上の回転歯車11の回転数の安定状態が検出されると、ステップS2に進み、振幅監視部30のA/D変換器37から供給された包絡線近似波形信号が読み込まれる。
【0042】
次いで、ステップS3では、読込まれた包絡線近似波形信号の最大値Vmaxから最小値Vminを減算することにより包絡線近似波形信号の全振幅Vaが求められる。
さらに、全振幅Vaが求められると、ステップS4では、全振幅Vaが所定の基準値Va0以上であるか否かが判別される。基準値Va0は、電磁ピックアップ13の検出誤差や制御回路20の許容誤差、回転歯車11の回転数の安定状態における回転数の変動幅等を考慮して、誤判定されないように適宜設定することができる。また、基準値Va0は、回転歯車11の回転数の安定状態における回転数の変動に基づく、可変値とすることもできる。
【0043】
そして、包絡線近似波形信号の全振幅Vaが基準値Va0未満であれば、電磁ピックアップ13から出力される電圧信号の振幅も安定している状態と見ることができる。
そのため、コイル13b等の信号線の断線やコネクタ15a、15b部分の接点異常の予兆は見られないものとして、そのまま本ルーチンを終了してスタートに戻る。
【0044】
一方、包絡線近似波形信号の全振幅Vaが基準値Va0以上であれば、電磁ピックアップ13から出力される電圧信号の振幅が大きく変動している状態と見ることができる。
そのため、コイル13b等の信号線の断線の予兆や、コネクタ15a、15b部分の接点異常の予兆が見られているものとして、ステップS5で信号線の異常のおそれありと判定した上でスタートに戻る。
このとき、警報ランプ等の報知手段を作動させて、運転者等に注意を促す。
尚、電磁ピックアップ13からの電圧信号の振幅の変動幅Vcを求め、基準値Vc0と比較し判断する場合についても、基本的には同様のフローチャートとなる。
【0045】
次に、図6を参照して、信号線の異常の有無による、電磁ピックアップ13の電圧信号の波形と、振幅監視部30から出力される包絡線近似波形信号の違いを説明する。
【0046】
かかる図6(a)(b)は、それぞれ電磁ピックアップ13から出力されるパルス状の電圧信号の波形と、ローパスフィルタ33によって低周波成分を抽出して得られる包絡線近似波形信号を示している。
このうち、図6(a)は信号線の劣化や接点異常が進行していない場合の波形を示し、図6(b)は信号線の劣化や接点異常が進行している場合の波形を示している。
【0047】
まず、内燃機関がアイドリング状態にあり回転歯車11の回転数が安定している状態において、信号線の劣化や接点異常が進行していない場合には、図6(a)に示すように、電磁ピックアップ13から出力されるパルス状の電圧信号の振幅はほぼ一定に保たれる。したがって、包絡線近似波形信号の全振幅は小さく安定した状態である。
【0048】
一方、内燃機関がアイドリング状態にあり回転歯車11の回転数が安定している状態において、信号線の劣化や接点異常が進行している場合には、図6(b)に示すように、電磁ピックアップ13から出力されるパルス状の電圧信号の振幅は周期的に変動する。したがって、包絡線近似波形信号の全振幅が大きい状態である。
この振幅は、経時劣化や物理的ストレスによる信号線の劣化又はコネクタ15a、15bの接点異常によって抵抗値が不安定な状態になり、車両の振動や内燃機関の振動等に同期して抵抗値が周期的に変動することによって生じるものと考えられる。
【0049】
さらに、制御装置に、電圧信号の変動が基準値以上であることが判断された場合にカウント数を加算する所定のカウンタを備えることができる。カウンタ数が所定値に達したことをきっかけとして、信号線の異常の予兆が有るとの判定結果を出力するようにすれば、信号線の異常の予兆の誤判定を防止することができるようになる。
これらのいずれの態様も本発明に含まれるものである。
【0050】
(4)作用効果
以上説明した本実施形態の回転検出装置10によれば、コイル13b等の信号線の断線又はコネクタ15a、15b部分の接点異常が実際に生じる前に、異常の予兆を捉えることができるようになる。
したがって、実際に断線等が生じる前に、未然に修理等の対応を促すことができるようになる。
【符号の説明】
【0051】
10:回転検出装置、11:回転歯車、13:電磁ピックアップ、13a:永久磁石、13b:コイル、15a・15b:コネクタ、20:制御回路、21:波形整形部、23:入出力ポート、25:ROM、27:RAM、30:振幅監視部、31:波形整流用ダイオード、33:ローパスフィルタ、33a:コンデンサ、33b:抵抗、35:ハイパスフィルタ、35a:コンデンサ、35b:抵抗、37:A/D変換器、40:演算処理装置、41:回転状態演算手段、43:安定状態検出手段、45:異常検出手段、47:異常予知部、49:内部抵抗診断部、61:アクセルセンサ、63:車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転歯車と、前記回転歯車の周面に近接して配置され前記回転歯車の歯の通過に伴い電圧信号を出力する電磁ピックアップと、前記電磁ピックアップからの電圧信号を受けて前記回転歯車の回転状態を検出する回転検出手段と、を備えた回転検出装置において、
前記回転歯車の回転数の安定状態を検出する安定状態検出手段と、
前記回転数の安定状態において検出される前記電圧信号の振幅の変動幅Vcが基準値Vc0以上であるか否かを判別することにより前記電圧信号を伝送するための信号線の異常を予知する異常検出手段と、
を備えることを特徴とする回転検出装置。
【請求項2】
前記異常検出手段は、前記電圧信号をローパスフィルタに入力し、そのローパスフィルタを通過した信号である包絡線近似波形信号の全振幅Vaが基準値Va0以上であるか否かを判別することにより前記電圧信号を伝送するための信号線の異常を予知することを特徴とする請求項1に記載の回転検出装置。
【請求項3】
前記回転検出装置が内燃機関の回転状態を検出するための装置であり、前記安定状態検出手段が前記内燃機関のアイドリング状態を検出するように構成されることを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【請求項4】
前記信号線の異常を予知した場合、前記内燃機関の運転者に通知することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【請求項5】
前記信号線の異常を所定回数以上予知した場合、前記内燃機関の運転者に通知することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転検出装置。
【請求項6】
回転歯車と、前記回転歯車の周面に近接して配置され前記回転歯車の歯の通過に伴い電圧信号を出力する電磁ピックアップと、前記電磁ピックアップからの電圧信号を受けて前記回転歯車の回転状態を検出する回転検出手段と、を用いてなる、前記電圧信号を伝送するための信号線の異常を検出する回転検出方法において、
前記安定状態検出手段によって、前記回転歯車の回転数の安定状態を検出する工程と、
前記異常検出手段によって、回転数の安定状態において検出される前記電圧信号の振幅の変動幅Vcが、基準値Vc0以上であるか否かを判別することにより、前記電圧信号を伝送するための信号線の異常を予知する工程と、
を有することを特徴とする回転数検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−137369(P2012−137369A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289517(P2010−289517)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】