説明

回転機の制御装置

【課題】d軸電流フィードバック制御部32,q軸電流フィードバック制御部34とdn軸電流フィードバック制御部44,qn軸電流フィードバック制御部46とで干渉を生じ、ひいては制御が収束しないおそれがあること。
【解決手段】dn軸電流フィードバック制御部44,qn軸電流フィードバック制御部46では、実電流id,iqの高調波成分を高調波指令電流Σidkr,iqkrにフィードバック制御する。d軸電流指令値補正部24,q軸電流指令値補正部26では、基本波指令電流idr,iqrに高調波指令電流Σidkr,iqkrが加算される。d軸電流フィードバック制御部32,q軸電流フィードバック制御部34では、基本波指令電流idr,iqrおよび高調波指令電流Σidkr,iqkrの和と実電流id,iqとの差をゼロにフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機の各端子に交流電圧を印加する交流電圧印加装置を操作することで、前記回転機を流れる電流を指令値にフィードバック制御する回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機(同期機)を流れる電流を制御する制御手法としては、dq座標系を流れる電流をその指令値にフィードバック制御するものが周知である。これにより、制御量を直流量として扱うことができるため、フィードバック制御器を容易に設計することができる。
【0003】
ところで、電動機のトルクを一定値とする際にdq座標系において電流が直流量となるためには、電動機のインダクタンスや鎖交磁束等が正確な正弦関数で表現されることが必要となる。このため、実際の電動機におけるインダクタンス等が正弦関数で表現されるものからずれる場合(いわゆる空間高調波を含む場合)、dq座標系の電流を直流の指令値に制御したのでは、電動機のトルクリップルが大きくなる。
【0004】
そこで従来、たとえば下記特許文献1に見られるように、dq座標系の電流を直流の指令値に高調波指令値を重畳したものに制御するものも提案されている。詳しくは、電動機を流れる電流のdq座標系における値を直流の指令値にフィードバック制御すべくdq軸上の指令電圧を操作するdq電流フィードバック制御に加えて、電動機を流れる電流の高調波成分が直流成分となるように座標変換し、高調波指令値にフィードバック制御すべくdq軸上の指令電圧を操作する高調波dq軸フィードバック制御を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3852289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、上記の場合、dq軸電流フィードバック制御として、電動機を流れる電流を直流の指令値にフィードバック制御するため、電動機を流れる電流の基本波成分と高調波成分とが基本波の指令値(dq座標系の直流の指令値)にフィードバック制御されることとなる。このため、dq軸電流フィードバック制御と高調波dq軸電流フィードバック制御とで干渉を生じ、ひいては制御が収束しないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、前記回転機を流れる電流の高調波成分を指令値により高精度にフィードバック制御することのできる回転機の制御装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明は、回転機(10)の出力トルクを決定する基本波電流の周波数に同期して回転する基本波回転座標系の成分を算出する基本波回転座標成分算出手段(27)と、前記基本波回転座標成分算出手段により得られる基本波回転座標系の成分を用いて、基本波電流周波数の整数倍の周波数を有する高調波電流の指令値である高調波指令値を前記基本波電流の指令値である基本波指令値に加算した値に、前記回転機を流れる電流をフィードバック制御する第1制御手段(32,34)と、前記高調波電流の周波数に同期して回転する高調波回転座標系の成分を算出する高調波回転座標成分算出手段(42)と、前記高調波回転座標成分算出手段により得られる高調波回転座標系の成分を用いて、前記高調波電流をフィードバック制御する第2制御手段(44,46,50)と、前記第1制御手段により算出される第1指令電圧と前記第2制御手段により算出される第2指令電圧を加算する手段(52,54)と、加算された指令電圧に基づき回転機に交流電圧を印加する交流電圧印加装置(60)とを備えることを特徴とする。
【0010】
回転機を流れる電流には、高調波成分が含まれ、これには、高調波指令値に追従する成分も含まれる。このため、高調波指令値と基本波指令値との和と回転機を流れる電流との差は、高調波指令値と同一の次数の高調波成分が好適に低減されたものとなる。上記発明では、この点に鑑み、上記設定とした。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記高調波指令値は、前記高調波回転座標系において直流成分となる次数の高調波電流に加えて、該次数と相違する高調波の指令値を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記第2制御手段は、前記高調波指令値、前記基本波指令値および前記回転機を流れる電流を、前記高調波回転座標成分算出手段によって前記高調波回転座標系における成分に変換して、フィードバック制御することを特徴とする。
【0013】
回転機を流れる電流のうち高調波以外の部分は、第1制御手段によって基本波指令値に制御される。このため、基本波指令値と回転機を流れる電流との差は、基本波成分が十分に低減されたものとなっていると考えられる。上記発明では、この点に鑑み、基本波指令値を回転座標成分算出手段の入力パラメータとすることで、回転機を流れる電流から高調波成分を抽出するためのハイパスフィルタ等の利用の必要が生じない。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記第2制御手段は、前記高調波指令値が前記基本波指令値に加算された値と前記回転機を流れる電流との差を、前記高調波回転座標成分算出手段によって前記高調波回転座標系における成分に変換して、フィードバック制御を行うことを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記第2制御手段は、前記回転機を流れる電流の高調波成分を抽出する高調波成分抽出手段を備え、前記高調波成分抽出手段の出力と前記高調波指令値を、前記高調波回転座標成分算出手段によって前記高調波回転座標系における成分に変換して、フィードバック制御することを特徴とする。
【0016】
上記発明では、高調波成分抽出手段を備えることで、回転座標成分算出手段の入力パラメータとして、基本波成分の除去された電流を適切に取得することができる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記第2制御手段は、前記高調波指令値と前記回転機を流れる電流の高調波成分を抽出した値との差を、前記高調波回転座標成分算出手段によって前記高調波回転座標系における成分に変換して、フィードバック制御を行うことを特徴とする。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記高調波回転座標系は、前記回転機の1電気角周期当たりのスロット数に等しい次数の周期を有する回転座標系であることを特徴とする。
【0019】
一般に、固定子巻線の収納されるスロットと固定子巻線がまかれる鉄心(ティース)とではパーミアンスが相違するため、回転子の回転に伴ってスロットと鉄心との出現する周期に応じた空間高調波がトルクリップルに与える影響が大きくなる傾向にある。上記発明では、この点に鑑み、空間高調波のうち特にトルクリップルに与える影響が大きくなると想定される成分を直流成分に変換することができ、ひいては第2制御手段によるこの成分の制御性を向上させる。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記第2制御手段によって用いられる前記高調波回転座標系は、互いに相違する次数の高調波のそれぞれに対応する周期を有する複数の回転座標系であることを特徴とする。
【0021】
高調波成分はこれを直流成分に変換して指令値に制御することでその制御性を向上させることが容易となる。上記発明では、この点に鑑み、複数の高調波回転座標系を利用することで、互いに相違する次数を有する複数の高調波成分の制御性を向上させることが容易となる。
【0022】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記基本波回転座標系は、前記基本波電流の周波数に同期して回転するdq座標系であり、前記高調波回転座標系は、前記基本波回転座標系に対し、高調波電流成分の次数倍で回転する高調波dq座標系であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる電動機の一部断面構成を示す断面図。
【図3】同実施形態にかかる高調波指令電流の生成手法を説明するためのタイムチャ ート。
【図4】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図5】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図6】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図7】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【図8】上記各実施形態の変形例にかかる基本波回転座標系を示す図。
【図9】上記第1の実施形態の変形例にかかるシステム構成図。
【図10】上記第2の実施形態の変形例にかかるシステム構成図。
【図11】上記第2の実施形態の変形例にかかるシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる回転機の制御装置を適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0026】
図示される電動機10は、3相の同期機である。図2に、電動機10の一部断面構造を示す。なお、図中、「U」は、各スロットに収容されるU相の固定子巻線を示し、「V」は、各スロットに収容されるV相の固定子巻線を示し、「W」は、各スロットに収容されるW相の固定子巻線を示している。図示されるように、本実施形態にかかる電動機10は、その回転子12が、「360°/4」において一対の磁極を有し、固定子14が、「360°/4」において12個のスロットを有する。
【0027】
先の図1に示すように、電流センサ16によって電動機10を流れる電流のうちU相およびV相の実電流iu,iwが検出され、回転角度センサ18によって電動機10の回転角度(電気角θ)が検出される。
【0028】
基本波指令値設定部20では、たとえば要求トルク等に基づき、dq座標系における基本波の指令値(基本波指令電流idr,iqr)を設定する。ここで、本実施形態では、d軸を界磁の磁束方向とし、q軸をd軸方向に直交する方向とする。一方、高調波MAP22では、回転角度センサ18によって検出される電動機10の電気角θと指令電流idr,iqrとを入力とし、高調波の指令値(高調波指令電流Σidkr,Σiqkr)を算出する。ここで、高調波指令電流Σidkr,Σiqkrの変数kは、dq座標系における高調波の次数を示す。本実施形態では、「k=6j:j=1,2,3,…」とする。高調波指令電流Σidkr,Σiqkrは、電動機10の空間高調波に起因して、電動機10を流れる電流が基本波指令電流idr,iqrとなる場合に生じるトルクリップルを低減するための電流に設定される。
【0029】
d軸電流指令値補正部24では、d軸上の基本波指令電流idrに高調波指令電流Σidkrを加算する。q軸電流指令値補正部26では、q軸上の基本波指令電流iqrに高調波指令電流Σiqkrを加算する。一方、uvw/dq変換部27では、回転角度センサ18によって検出される電動機10の電気角θに基づき、実電流iu,ivをdq座標系の実電流id,iqに変換する。そして、d軸電流偏差算出部28では、実電流idに対するd軸電流指令値補正部24の出力値の差を算出し、q軸電流偏差算出部30では、実電流iqに対するq軸電流指令値補正部26の出力値の差を算出する。
【0030】
d軸電流フィードバック制御部32では、d軸電流偏差算出部28の出力値をゼロにフィードバック制御するための操作量としての第1のd軸指令電圧vdrを算出し、q軸電流フィードバック制御部34では、q軸電流偏差算出部30の出力値をゼロにフィードバック制御するための操作量としての第1のq軸指令電圧vqrを算出する。これらd軸電流フィードバック制御部32やq軸電流フィードバック制御部34を、本実施形態では、比例要素および積分要素の出力同士の和を算出して出力する手段とする。
【0031】
一方、ハイパスフィルタ36は、実電流id,iqから高調波成分を抽出する。ハイパスフィルタ36は、実電流id,iqについての複数のサンプリング値からそれらの変化を把握することで、高調波成分を抽出するものである。そして、d軸高調波電流偏差算出部38では、実電流idからハイパスフィルタ36によって抽出された高調波成分と高調波指令電流Σidkrとの差が算出され、q軸高調波電流偏差算出部40では、実電流iqからハイパスフィルタ36によって抽出された高調波成分と高調波指令電流Σiqkrとの差が算出される。dq/dqn変換部42では、回転角度センサ18によって検出される電動機10の電気角θに基づき、d軸高調波電流偏差算出部38およびq軸高調波電流偏差算出部40の出力値を、電気角速度のn倍の速度で回転する回転座標系であるdqn座標系に変換する。
【0032】
ここで、dq/dqn変換部42による変換は、高調波MAPによる高調波指令電流Σidkr,Σiqkrに対応付けて定められる。これは、図3に6次の場合について例示するように、dq座標系における6j次の高調波電流が、uvw座標系における「6j−1」次の高調波電流と「6j+1」次の高調波電流とのいずれによっても生成可能であることに鑑みた設定である。図3では、U,V,W相の高調波間の互いの位相差を均等とするに際し、U、W,Vの順にピークがくる場合には5次の場合に、また、U,V,Wの順にピークがくる場合には7次の場合に、それぞれdq座標系における電流が6次の高調波となることを示している。このため、高調波指令電流Σidkr,Σiqkrが、UVW相におけるいかなる高調波電流を生成するためのものであるかに応じて、dq/dqn変換も2種類存在することとなるため、高調波指令電流Σidkr,Σiqkrに対応付けてdq/dqn変換を設定する必要がある。
【0033】
すなわち、U相とV相とのなす鋭角だけU相からV相へと回転する方向を正とする場合、uvw座標系における「6j−1」次の高調波電流を生成するなら、dq/dqn変換は、以下の式(c1)に示される回転行列によって表現される。
【0034】
【数1】

これに対し、U相とV相とのなす鋭角だけU相からV相へと回転する方向を正とする場合、uvw座標系における「6j+1」次の高調波電流を生成するなら、dq/dqn変換は、以下の式(c2)に示される回転行列によって表現される。
【0035】
【数2】

先の図1に示すdn軸電流フィードバック制御部44では、dq/dqn変換部42の出力するdn軸成分をゼロにフィードバック制御するための操作量を算出し、qn軸電流フィードバック制御部46では、dq/dqn変換部42の出力するqn軸成分をゼロにフィードバック制御するための操作量を算出する。これらdn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46を、本実施形態では、比例要素および積分要素の出力同士の和を算出して出力する手段とする。dqn/dq変換部50では、回転角度センサ18によって検出される電動機10の電気角θに基づき、dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46の出力値についてdq/dqn変換部42の逆変換を行なうことで、第2のd軸指令電圧vdnrおよび第2のq軸指令電圧vqnrを算出する。
【0036】
d軸指令電圧加算部52では、第1のd軸指令電圧vdrに第2のd軸指令電圧vdnrを加算し、q軸指令電圧加算部54では、第1のq軸指令電圧vqrに第2のq軸指令電圧vqnrを加算する。dq/uvw変換部56では、回転角度センサ18によって検出される電動機10の電気角θに基づき、uvw/dq変換部27の逆変換を行なうことで、u,v,w相のそれぞれの指令電圧vur,vvr,vwrを算出する。操作信号生成部58では、インバータ60の出力電圧をu,v,w相の指令電圧vur,vvr,vwrとするためのインバータ60の操作信号を生成する。これは、たとえば三角波比較PWM処理によって行なうことができる。この操作信号により、電動機10の各端子を直流電圧源の正極および負極のそれぞれに選択的に接続すべくスイッチング素子が操作されることで、インバータ60によって電動機10に交流電圧が印加される。
【0037】
ここで、本実施形態では、第2のd軸指令電圧vdnrおよび第2のq軸指令電圧vqnrがハイパスフィルタ36の出力する高調波電流を高調波指令電流Σidkr,Σiqkrにフィードバック制御するための操作量であり、第1のd軸指令電圧vdrや第1のq軸指令電圧vqrが主に実電流id,iqの基本波成分を基本波指令電流idr,iqrにフィードバック制御するための操作量となる。これは、d軸電流偏差算出部28やq軸電流偏差算出部30の出力値が、実電流id,iqから高調波成分が十分に低減されたものとなっているからである。なぜなら、d軸電流偏差算出部28やq軸電流偏差算出部30では、実電流id,iqから高調波指令電流Σidkr,Σiqkrが減算される一方、実電流id,iqの高調波成分は、dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46によって、高調波指令電流Σidkr,Σiqkrにフィードバック制御されているからである。このため、d軸電流フィードバック制御部32やq軸電流フィードバック制御部34では、実電流id,iqの基本波成分を基本波指令電流idr,iqrに制御することができる。
【0038】
また、本実施形態では、dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46がdq/dqn変換部42の出力値をゼロにフィードバック制御するため、n次の高調波については直流成分として扱うことができる。このため、n次の高調波成分の制御性を特に高めることができる。特に、本実施形態では、この次数「n」を、電動機10の1電気角周期当たりのスロット数に設定する。具体的には、先の図2に示した構成に鑑み、「n=12」とする。これは、固定子巻線がまかれる鉄心(ティース)とスロットとのパーミアンスの相違に起因して、電動機10が1電気角周期回転する間に、1電気角周期辺りのスロット数回、パーミアンスが周期的に変動することに鑑みたものである。この変動に起因した空間高調波がトルクリップルの要因として特に顕著となることから、この空間高調波の影響を十分に低減すべくdqn座標系の成分でフィードバック制御を行なう。
【0039】
なお、本実施形態では、高調波指令電流Σidkr,Σiqkrを、6の倍数の複数の次数の指令電流を含んで設定したが、これはトルクリップルに影響する空間高調波が6の倍数の高調波であることに鑑みた設定である。
【0040】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0041】
(1)基本波指令電流idr,iqrに高調波指令電流Σidkr,Σiqkrを加算した値に対する実電流id,iqの差を第1制御手段(d軸電流フィードバック制御部32,q軸電流フィードバック制御部34)の入力とすることで、高調波指令電流Σidkr,Σiqkrの制御との干渉を回避しつつ基本波指令電流idr、iqrへの制御を行なうことができる。
【0042】
(2)高調波指令電流Σidkr,Σiqkrにフィードバック制御する第2制御手段(dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46)の入力を、dqn座標系の成分とした。これにより、n次の高調波を直流成分として制御することができ、ひいてはn次の高調波の制御性を向上させることができる。
【0043】
(3)ハイパスフィルタ36の出力値をdn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46の制御量とした。これにより、dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46の制御量を適切に設定することができる。
【0044】
(4)直流成分に変換する高調波成分の次数nを、1電気角周期当たりのスロット数に等しい次数に設定した。これにより、空間高調波のうち特にトルクリップルに与える影響が大きくなると想定される成分を直流成分に変換することができ、ひいてはこの成分の制御性を向上させることができる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0045】
図4に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図4において、先の図1に示した処理に対応するものについては、便宜上、同一の符号を付している。
【0046】
図示されるように、本実施形態では、ハイパスフィルタ36を削除し、d軸電流偏差算出部28,q軸電流偏差算出部30の出力値をdn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46の制御量とする。これは、d軸電流フィードバック制御部32,q電流フィードバック制御部34によって実電流id,iqの基本波成分が基本波指令電流idr,iqrに制御されるために、d軸電流偏差算出部28,q軸電流偏差算出部30の出力値のうち基本波成分は十分に低減されていることに鑑みた設定である。
【0047】
こうした設定によれば、電動機10の回転速度が変化した場合であっても応答性を好適に維持することができる。すなわち、先の第1の実施形態の処理では、回転速度が変化する過渡時において、ハイパスフィルタ36から基本波成分の過渡成分が出力されてしまうため、過渡時の応答性が悪化するおそれがある。これに対し、d軸電流偏差算出部28やq軸電流偏差算出部30の出力値のうち基本波成分は過渡時であってもd軸電流フィードバック制御部32やq軸電流フィードバック制御部34によってすばやく且つ十分に低減されると考えられるため、dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46の入力パラメータに基本波成分が混入する事態を好適に回避することができる。なお、先の第1の実施形態の処理では、回転速度が様々な値をとる場合に、各回転速度に応じてハイパスフィルタ36のカットオフ周波数を可変とする必要があるため、制御が煩雑ともなる。
【0048】
図5に、本実施形態の効果を示す。図5(a)に示すように、本実施形態にかかる電動機10は、基本波指令電流idr,iqrを流すことで大きなトルクリップルが生じる。これに対し、本実施形態では、このトルクリップルを低減するように高調波指令電流Σidkr,Σiqkrへの制御を行なうことで、図5(c)に示すように、トルクリップルを好適に低減できる。なお、図5(b)は、dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46を持たず、d軸電流フィードバック制御部32,q軸電流フィードバック制御部34によって、基本波指令電流idr,iqrと高調波指令電流Σidkr,Σiqkrとの和に実電流id,iqを制御する場合を示している。この場合、指令電流への追従性が低下し、トルクリップルを十分に低減できない。ちなみに、図5(b)、図5(c)の上段には、dq軸電流波形を拡大して示している。この結果からも、dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46を持たない場合と比較してこれらを有する本実施形態では、指令電流への追従性が向上していることがわかる。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0049】
図6に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図6において、先の図1に示した処理に対応するものについては、便宜上、同一の符号を付している。
【0050】
図示されるように、本実施形態では、dq/dqn変換部42に加えて、dq/dqm変換部70を備える。dq/dqm変換部70は、m次の高調波を直流成分に変換するためのものである。dq/dqm変換部70は、回転角度センサ18によって検出される電動機10の電気角θに基づき、d軸高調波電流偏差算出部38やq軸高調波電流偏差算出部40の出力値をdqm座標系の成分に変換する。そして、dm軸電流フィードバック制御部72では、dq/dqm変換部70の出力するdm軸成分をゼロにフィードバック制御するための操作量としての第3のd軸指令電圧vdmrを算出し、qm軸電流フィードバック制御部74では、dq/dqm変換部70の出力するqm軸成分をゼロにフィードバック制御するための操作量としての第3のq軸指令電圧vqmrを算出する。dqm/dq変換部76は、回転角度センサ18によって検出される電動機10の電気角θに基づき、dm軸電流フィードバック制御部72やqm軸電流フィードバック制御部74の出力値について、dq/dqm変換部70の逆変換をする。
【0051】
第2のd軸指令電圧加算部78では、dqn/dq変換部50の出力(第2のd軸指令電圧vdnr)およびdqm/dq変換部76の出力(第3のd軸指令電圧vdmr)同士を加算して第4のd軸指令電圧vdnmrとし、第2のq軸指令電圧加算部80は、dqn/dq変換部50の出力(第2のq軸指令電圧vqnr)およびdqm/76の出力(第3のq軸指令電圧vqmr)のq軸成分同士を加算して第4のq軸指令電圧vqnmrとする。そして、第1のd軸指令電圧加算部52によって、第1のd軸指令電圧vdrと第4のd軸指令電圧vdnmrとを加算し、第1のq軸指令電圧加算部54によって、第1のq軸指令電圧vqrと第4のq軸指令電圧vqnmrとを加算する。
【0052】
こうした設定によれば、n次の高調波のみならず、m(≠n)次の高調波についても直流成分として制御することができるため、その制御性を向上させることができる。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第3の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0053】
図7に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図7において、先の図6に示した処理に対応するものについては、便宜上、同一の符号を付している。
【0054】
図示されるように、本実施形態では、ハイパスフィルタ36を削除し、d軸電流偏差算出部28やq軸電流偏差算出部30の出力値をdn軸電流フィードバック制御部44およびqn軸電流フィードバック制御部46やdm軸電流フィードバック制御部72およびqm軸電流フィードバック制御部74の制御量とする。すなわち、第2の実施形態(図4)の要領で、d軸電流偏差算出部28やq軸電流偏差算出部30の出力値をdqn変換やdqm変換したものをフィードバック制御の入力パラメータとすることで、入力パラメータに基本波成分が含まれることを好適に回避することができ、ひいてはハイパスフィルタ36を削除することができる。これにより、第2の実施形態と同様、簡素な構成によってトルクリップルの低減効果を高めることができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0055】
「第1制御手段について」
基本波指令電流idr,iqrおよび高調波指令電流Σidkr,Σiqkrの和と実電流id,iqとの差を入力とする比例要素および積分要素の出力同士の和によってフィードバック操作量を算出するものに限らない。たとえば、比例要素、積分要素および微分要素の各出力同士の和によってフィードバック操作量を算出するものであってもよい。
【0056】
「第2制御手段について」
高調波実電流と高調波指令電流Σidkr,Σiqkrとの差を入力とする比例要素および積分要素の出力同士の和によってフィードバック操作量を算出するものに限らない。たとえば、比例要素、積分要素および微分要素の各出力同士の和によってフィードバック操作量を算出するものであってもよい。
【0057】
高調波指令電流idkn,iqknを電気角θ毎に可変とする手段を備えるものに限らず、ハイパスフィルタ36の出力をdqn変換したものに対する指令値とすることで、電気角θに依存しないものとしてもよい。
【0058】
高調波指令電流Σidkr,Σiqkrのうち、直流成分に変換されるもののみを入力としてもよい。これは、たとえば上記第1の実施形態において、d軸高調波電流偏差算出部38やq軸高調波電流偏差算出部40の入力を、n次の高調波指令電流idnr,iqnrに限ることで実現することができる。
【0059】
「高調波成分抽出手段について」
電流の変化に基づき高調波成分を抽出するものとしては、ハイパスフィルタ36に限らず、たとえば、バンドパスフィルタであってもよい。またたとえば、実電流id,iqをローパスフィルタ処理したものとしていないものとの差を出力する手段であってもよい。
【0060】
「高調波指令値について」
基本波指令電流idr,iqrを入力として設定されるものに限らない。たとえば基本波指令値の設定に際しての入力パラメータ(要求トルク)を入力として設定されるものであってもよい。
【0061】
直流成分に変換される高調波のみからなるものとしてもよい。
【0062】
「基本波回転座標系について」
dq座標系としては、界磁の磁束方向をd軸方向とするものに限らず、たとえば図8に示すように、界磁の磁束方向に対して「X:0<X<2π」ラジアンずれた角度を有する軸とこれに直交する軸とからなる直交座標系であってもよい(図中、d´q´座標系として表記)。
【0063】
「高調波回転座標成分算出手段について」
上記第1の実施形態において、先の図8に基本波回転座標系について例示したのと同様の考え方で、dqn座標系を用いる代わりに、これに対してたとえば「X:0<X<2π/n」ラジアンずれた直交座標系を用いてもよい。
【0064】
上記第1の実施形態において、図9に示すように、高調波指令電流Σidkr,iqkrをdq/dqn変換部42aによって変換したものと、ハイパスフィルタ36の出力値をdq/dqn変換部42bによって変換したものとの差を、d軸高調波電流偏差算出部38やq軸高調波電流偏差算出部40において算出し、これらの出力をそれぞれdn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46に出力するようにしてもよい。
【0065】
上記第2の実施形態において、図10に示すように、d軸電流指令値補正部24、q軸電流指令値補正部26の出力値をdq/dqn変換部42aによってdqn座標系の成分に変換し、uvw/dq変換部27の出力値をdq/dqn変換部42bによってdqn座標系の成分に変換してもよい。この場合、dn軸偏差算出部90、qn軸偏差算出部92では、それらの差が算出され、dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46に入力される。
【0066】
また、図11に示すように、指令電流idr,iqr、高調波指令電流Σidkr,iqkr、実電流id,iqのそれぞれをdq/dqn変換部42c,42d,42eのそれぞれによってdqn座標系の成分に変換してもよい。この場合、dn軸指令値補正部94やqn軸指令値補正部96においてdn軸、qn軸の指令値同士を加算し、dn軸偏差算出部98、qn軸偏差算出部100のそれぞれにおいて、dn軸指令値補正部94、qn軸指令値補正部96の出力値とdq/dqn変換部42eの出力値との差を算出して、dn軸電流フィードバック制御部44やqn軸電流フィードバック制御部46に出力する
もっとも、図10、図11に例示するものに限らず、たとえば高調波MAP22が高調波指令電流Σidkr,iqkrを、dqn軸の成分として与えるものであってもよい。
【0067】
さらに、1つまたは互いに相違する2つの次数の高調波成分を直流成分として扱うものに限らず、3つ以上の互いに相違する次数の高調波成分を直流成分として扱うものであってもよい。
【0068】
「回転機について」
8極48スロットのものに限らない。
【0069】
上記各実施形態では、固定子巻線同士がスター結線されたものを想定したが、これに限らず、デルタ結線されたものであってもよい。また、回転機の相数は3に限らず、5相回転機等、4以上であってもよい。
【0070】
「交流電圧印加装置について」
交流電圧印加装置としては、直流電圧源の正極および負極のそれぞれに回転機の端子を接続するスイッチング素子を備える直流交流変換回路(インバータ60)に限らない。たとえば特願2008−30825号に記載されているように、回転機の各端子に接続されるコンバータであってもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…電動機、22…高調波MAP、32…d軸電流フィードバック制御部(第1制御手段の一実施形態)、34…q軸電流フィードバック制御部(第1の制御手段の一実施形態)、42…dq/dqn変換部、44…dn軸電流フィードバック制御部(第2制御手段の一実施形態)、46…qn軸電流フィードバック制御部(第2の制御手段の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機(10)の出力トルクを決定する基本波電流の周波数に同期して回転する基本波回転座標系の成分を算出する基本波回転座標成分算出手段(27)と、
前記基本波回転座標成分算出手段により得られる基本波回転座標系の成分を用いて、基本波電流周波数の整数倍の周波数を有する高調波電流の指令値である高調波指令値を前記基本波電流の指令値である基本波指令値に加算した値に、前記回転機を流れる電流をフィードバック制御する第1制御手段(32,34)と、
前記高調波電流の周波数に同期して回転する高調波回転座標系の成分を算出する高調波回転座標成分算出手段(42)と、
前記高調波回転座標成分算出手段により得られる高調波回転座標系の成分を用いて、前記高調波電流をフィードバック制御する第2制御手段(44,46,50)と、
前記第1制御手段により算出される第1指令電圧と前記第2制御手段により算出される第2指令電圧を加算する手段(52,54)と、
加算された指令電圧に基づき回転機に交流電圧を印加する交流電圧印加装置(60)とを備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の回転機の制御装置において、
前記高調波指令値は、前記高調波回転座標系において直流成分となる次数の高調波電流に加えて、該次数と相違する高調波の指令値を含むことを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の回転機の制御装置において、
前記第2制御手段は、前記高調波指令値、前記基本波指令値および前記回転機を流れる電流を、前記高調波回転座標成分算出手段によって前記高調波回転座標系における成分に変換して、フィードバック制御することを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項4】
請求項3記載の回転機の制御装置において、
前記第2制御手段は、前記高調波指令値が前記基本波指令値に加算された値と前記回転機を流れる電流との差を、前記高調波回転座標成分算出手段によって前記高調波回転座標系における成分に変換して、フィードバック制御を行うことを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項5】
請求項1または2記載の回転機の制御装置において、
前記第2制御手段は、前記回転機を流れる電流の高調波成分を抽出する高調波成分抽出手段を備え、前記高調波成分抽出手段の出力と前記高調波指令値を、前記高調波回転座標成分算出手段によって前記高調波回転座標系における成分に変換して、フィードバック制御することを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項6】
請求項5記載の回転機の制御装置において、
前記第2制御手段は、前記高調波指令値と前記回転機を流れる電流の高調波成分を抽出した値との差を、前記高調波回転座標成分算出手段によって前記高調波回転座標系における成分に変換して、フィードバック制御を行うことを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転機の制御装置において、
前記高調波回転座標系は、前記回転機の1電気角周期当たりのスロット数に等しい次数の周期を有する回転座標系であることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の回転機の制御装置において、
前記第2制御手段によって用いられる前記高調波回転座標系は、互いに相違する次数の高調波のそれぞれに対応する周期を有する複数の回転座標系であることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の回転機の制御装置において、
前記基本波回転座標系は、前記基本波電流の周波数に同期して回転するdq座標系であり、
前記高調波回転座標系は、前記基本波回転座標系に対し、高調波電流成分の次数倍で回転する高調波dq座標系であることを特徴とする回転機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−66367(P2013−66367A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−114288(P2012−114288)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】